(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151431
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】クラッチ装置およびブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/69 20060101AFI20241018BHJP
F16D 55/40 20060101ALI20241018BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20241018BHJP
F16D 13/38 20060101ALI20241018BHJP
F16D 127/02 20120101ALN20241018BHJP
F16D 129/04 20120101ALN20241018BHJP
【FI】
F16D13/69 B
F16D55/40 F
F16D65/18
F16D13/38
F16D127:02
F16D129:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064746
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】591232657
【氏名又は名称】新日本ホイール工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】寺田 光芳
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 佳之
【テーマコード(参考)】
3J056
3J058
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056AA62
3J056BB12
3J056BE30
3J056GA02
3J056GA12
3J056GA22
3J058AA44
3J058AA48
3J058AA59
3J058AA70
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA84
3J058AA87
3J058BA16
3J058CB22
3J058CC03
3J058CC06
3J058CC76
3J058DD05
3J058EA15
3J058FA28
(57)【要約】
【課題】引き摺りトルクの低減が可能なクラッチ装置およびブレーキ装置を提供する。
【解決手段】クラッチ装置100は、互いに密着または離隔する平板環状の駆動側プレート120と対向プレート130とを備えている。駆動側プレート120は、第1プレート121と第2プレート126とで構成されている。第1プレート121は、径方向外側に張り出して径方向張出部123を備えている。径方向張出部123は、環状嵌合体124が嵌め込まれている。環状嵌合体124は、環状に形成されているとともに外表面に突出部125を備えている。突出部125は、対向プレート130の厚さ方向に突出する弾性体で構成されている。対向プレート130は、突出部125が突き当たる張出部対向部128を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板環状に形成されて原動機によって回転駆動する駆動側プレートと、
平板環状に形成されて前記駆動側プレートに対して間隔および潤滑油を介して対向配置された対向プレートとを有して前記駆動側プレートと前記対向プレートとを互いに密着させることで両者間で回転駆動力の伝達または制動を行うクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記駆動側プレートは、
径方向外側および内側のうちの少なくとも一方に張り出す径方向張出部を有する第1プレートと、
前記対向プレートを介して前記第1プレートに対向配置されて前記径方向張出部に対向する張出部対向部を有する第2プレートとを有し、
前記径方向張出部は、
前記第1プレートと前記第2プレートとの間に配置された前記対向プレートに対して同対向プレートの厚さ方向に突出する弾性体で構成された突出部を有することを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項2】
平板環状に形成されて原動機によって回転駆動する駆動側プレートと、
平板環状に形成されて前記駆動側プレートに対して間隔および潤滑油を介して対向配置された対向プレートとを有して前記駆動側プレートと前記対向プレートとを互いに密着させることで両者間で回転駆動力の伝達または制動を行うクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記対向プレートは、
径方向外側および内側のうちの少なくとも一方に張り出す径方向張出部を有する第1プレートと、
前記駆動側プレートを介して前記第1プレートに対向配置されて前記径方向張出部に対向する張出部対向部を有する第2プレートとを有し、
前記径方向張出部は、
前記第1プレートと前記第2プレートとの間に配置された前記駆動側プレートに対して同駆動側プレートの厚さ方向に突出する弾性体で構成された突出部を有することを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したクラッチ装置またはブレーキ装置において、さらに、
前記第1プレートを保持するプレートホルダを有しており、
前記第1プレートは、
前記径方向張出部と同じ径方向外側または内側の周縁部分に張り出した状態で形成されて前記プレートホルダに形成された歯部嵌合部に嵌合する駆動力伝達歯部を有しており、
前記径方向張出部は、
前記第1プレートの周方向の長さが前記駆動力伝達歯部の径方向先端部の周方向の長さ未満の長さに形成されて前記歯部嵌合部内に配置されていることを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載したクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記突出部は、
前記径方向張出部の周囲に嵌合する環状の環状嵌合体に形成されていることを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載したクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記径方向張出部は、
前記環状嵌合体が嵌合する切欠き部を有することを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5に記載したクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記環状嵌合体は、
前記第1プレートの周方向の長さが前記径方向張出部の径方向先端部の周方向の長さ以下の長さに形成されていることを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載したクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記径方向張出部は、
前記第1プレートとの付け根部分である根元部における前記第1プレートの周方向の長さが前記径方向張出部の径方向先端部の周方向の長さよりも長く形成されていることを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1に記載したクラッチ装置またはブレーキ装置において、
前記第2プレートは、
径方向外側および内側のうちの少なくとも一方に張り出す径方向張出部を有し、
前記第1プレートは、
前記対向プレートを介して前記第2プレートに対向配置されて同第2プレートが有する前記径方向張出部に対向する張出部対向部を有することを特徴とするクラッチ装置またはブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機によって回転駆動する駆動側プレートに隙間および潤滑油を介して対向プレートを対向配置した状態から両者を互いに密着させることで両者間で回転駆動力の伝達または制動を行うクラッチ装置またはブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農業用トラクタ、自走式芝刈り機、建機またはポンプ車などの自走式作業車両においては、エンジンなどの原動機の回転駆動力を駆動輪または自走式作業車両が搭載する作業機に対して伝達または遮断する動力伝達装置としてのクラッチ装置が用いられている。例えば、下記特許文献1には、回転駆動する1つの入力軸に対して2つの出力軸側にそれぞれ駆動力を伝達および遮断するための2つのクラッチ機構が入力軸上で互いに背中合わせで一体化されて構成された所謂ダブルクラッチ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
この場合、各クラッチ機構は、入力軸とともに回転駆動する第1のクラッチプレート(または第2のクラッチプレート)と第1の出力ギア(または第2の出力ギア)とともに回転駆動する第1のフリクションプレート(または第2のフリクションプレート)とが潤滑油中にて互いに対向配置されて互いに密着または離隔することで回転駆動力の伝達または遮断を行う。
【0005】
しかしながら、このような湿式のクラッチ機構を備えたクラッチ装置においては、クラッチ装置が搭載される車両の燃費向上を目的として所謂引き摺りトルクの低減が常に求められる。ここで、引き摺りトルクは、クラッチプレートとフリクションプレートとが互いに離隔した状態において、クラッチプレートとフリクションプレートとの回転数の差に起因してこれら2つのプレート間に存在する潤滑油の粘性抵抗によってクラッチプレートとフリクションプレートとの間で伝達されるトルクであり、車両の燃費悪化の一因となるものである。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、引き摺りトルクの低減が可能なクラッチ装置およびブレーキ装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、平板環状に形成されて原動機によって回転駆動する駆動側プレートと、平板環状に形成されて駆動側プレートに対して間隔および潤滑油を介して対向配置された対向プレートとを有して駆動側プレートと対向プレートとを互いに密着させることで両者間で回転駆動力の伝達または制動を行うクラッチ装置またはブレーキ装置において、駆動側プレートは、径方向外側および内側のうちの少なくとも一方に張り出す径方向張出部を有する第1プレートと、対向プレートを介して第1プレートに対向配置されて径方向張出部に対向する張出部対向部を有する第2プレートとを有し、径方向張出部は、第1プレートと第2プレートとの間に配置された対向プレートに対して同対向プレートの厚さ方向に突出する弾性体で構成された突出部を有することにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、対向プレートの両側のうちの一方側に設けられた第1プレートの径方向張出部に対向プレートの厚さ方向に弾性的に突出する突出部が設けられているとともに他方側に設けられた第2プレートに突出部が突き当たる張出部対向部を有しているため、対向プレートに対して第1プレートと第2プレートとが突出部の弾性力によって早期かつ確実に離隔する。これにより、クラッチ装置またはブレーキ装置は、引き摺りトルクを低減することができる。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、平板環状に形成されて原動機によって回転駆動する駆動側プレートと、平板環状に形成されて駆動側プレートに対して間隔および潤滑油を介して対向配置された対向プレートとを有して駆動側プレートと対向プレートとを互いに密着させることで両者間で回転駆動力の伝達または制動を行うクラッチ装置またはブレーキ装置において、対向プレートは、径方向外側および内側のうちの少なくとも一方に張り出す径方向張出部を有する第1プレートと、駆動側プレートを介して第1プレートに対向配置されて径方向張出部に対向する張出部対向部を有する第2プレートとを有し、径方向張出部は、第1プレートと第2プレートとの間に配置された駆動側プレートに対して同駆動側プレートの厚さ方向に突出する弾性体で構成された突出部を有することにある。
【0010】
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、駆動側プレートの両側のうちの一方側に設けられた第1プレートの径方向張出部に駆動側プレートの厚さ方向に弾性的に突出する突出部が設けられているとともに他方側に設けられた第2プレートに突出部が突き当たる張出部対向部を有しているため、駆動側プレートに対して第1プレートと第2プレートとが突出部の弾性力によって早期かつ確実に離隔する。これにより、クラッチ装置またはブレーキ装置は、引き摺りトルクを低減することができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置またはブレーキ装置において、さらに、第1プレートを保持するプレートホルダを有しており、第1プレートは、径方向張出部と同じ径方向外側または内側の周縁部分に張り出した状態で形成されてプレートホルダに形成された歯部嵌合部に嵌合する駆動力伝達歯部を有しており、径方向張出部は、第1プレートの周方向の長さが駆動力伝達歯部の径方向先端部の周方向の長さ未満の長さに形成されて歯部嵌合部内に配置されていることにある。
【0012】
これによれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、径方向張出部における第1プレートの周方向の長さが駆動力伝達歯部の径方向先端部の周方向の長さ未満の長さに形成されているため、プレートホルダにおける駆動力伝達歯部が嵌合する歯部嵌合部内において径方向張出部が物理的に干渉することを防止することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置またはブレーキ装置において、突出部は、径方向張出部の周囲に嵌合する環状の環状嵌合体に形成されていることにある。
【0014】
これによれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、突出部が径方向張出部の周囲に嵌合する環状の環状嵌合体に形成されているため、突出部を容易に径方向張出部に取り付けまたは取り外すことができ、製造負担またはメンテナンス負担を軽減することができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置またはブレーキ装置において、径方向張出部は、環状嵌合体が嵌合する切欠き部を有することにある。
【0016】
これによれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、径方向張出部は環状嵌合体が嵌合する切欠き部を有しているため、環状嵌合体を安定的に取り付けることができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置またはブレーキ装置において、環状嵌合体は、第1プレートの周方向の長さが径方向張出部の径方向先端部の周方向の長さ以下の長さに形成されていることにある。
【0018】
これによれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、環状嵌合体における第1プレートの周方向の長さが径方向張出部の径方向先端部の周方向の長さ以下の長さに形成されているため、径方向張出部の周囲を流れる潤滑油の流通性を阻害することを防止することができるとともに、径方向張出部が周囲の部材と物理的に接触した場合においても環状嵌合体が挟み込まれることを防止でき環状嵌合体の損傷を防止することができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置またはブレーキ装置において、径方向張出部は、第1プレートとの付け根部分である根元部における第1プレートの周方向の長さが径方向張出部の径方向先端部の周方向の長さよりも長く形成されていることにある。
【0020】
これによれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、径方向張出部が第1プレートの付け根部分である根元部における第1プレートの周方向の長さが径方向張出部の径方向先端部の周方向の長さよりも長く形成されているため、環状嵌合体を切欠き部に嵌合させる際に切欠き部を超えて位置することを防止でき切欠き部に嵌合させ易くすることができる。
【0021】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置またはブレーキ装置において、第2プレートは、径方向外側および内側のうちの少なくとも一方に張り出す径方向張出部を有し、第1プレートは、対向プレートを介して第2プレートに対向配置されて同第2プレートが有する径方向張出部に対向する張出部対向部を有することにある。
【0022】
これによれば、クラッチ装置またはブレーキ装置は、第1プレートおよび第2プレートごとにそれぞれ径方向張出部および張出部対向部が設けられているため、第1プレートおよび第2プレートの枚数を減らしてクラッチ装置またはブレーキ装置を小型化または軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る湿式のクラッチ装置の全体構成を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示すクラッチ装置に組み込まれる駆動側プレートの第1プレートの全体構成を概略的に示す平面図である。
【
図3】
図2に示す破線円3の構成の詳細を示す駆動側プレートの部分拡大図である。
【
図4】(A)~(C)は
図1に示すクラッチ装置に組み込まれる環状嵌合体および突出部の全体構成を示しており、(A)は環状嵌合体および突出部の平面図であり、(B)環状嵌合体および突出部の側面図であり、(C)は環状嵌合体および突出部の平面図であり、正面図である。
【
図5】
図3に示す駆動側プレートの径方向張出部に環状嵌合体を取り付けた状態を示す駆動側プレートの部分拡大図である。
【
図6】
図1に示すクラッチ装置においてプレートピストンを作動させていない場合における
図1に示す破線円6の状態を示す駆動側プレートの部分拡大図である。
【
図7】
図1に示すクラッチ装置においてプレートピストンを作動させた場合における
図1に示す破線円6の状態を示す駆動側プレートの部分拡大図である。
【
図8】
図1に示すクラッチ装置に組み込まれる駆動側プレートの第2プレートの全体構成を概略的に示す平面図である。
【
図9】本発明の変形例に係るクラッチ装置に組み込まれる駆動側プレートの第2プレートの全体構成を概略的に示す平面図である。
【
図10】本発明の変形例に係るクラッチ装置に組み込まれる駆動側プレートの第1プレートの全体構成を概略的に示す平面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る密閉式のブレーキ装置の全体構成を概略的に示す断面図である。
【
図12】
図11に示す破線円12の構成の詳細を示すブレーキ装置の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成の概略を模式的に示す断面図である。このクラッチ装置100は、農業用トラクタなどの車両(図示せず)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を従動体である駆動輪(図示せず)に伝達および遮断するための機械装置であり、同エンジンと車輪との間に配置される図示しないトランスミッションケース内に設けられるものである。
【0025】
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、原動機としてのエンジンに対して図示しないフライホイールを介して接続される入力軸101上に設けられている。入力軸101は、エンジンの作動によって回転駆動する鋼製の軸体である。この入力軸101には、外周部の一部に外歯状の外歯スプライン102が形成されており、この外歯スプライン102に噛み合った状態でクラッチ装置100におけるプレートホルダ110が連結されている。この入力軸101には、作動油路103a,103bおよび潤滑油供給路104がそれぞれ形成されている。
【0026】
作動油路103a,103bは、後述するプレートピストン140,141をそれぞれ作動させるための作動油(図示せず)をプレートホルダ110の内部に導くとともに同内部から排出するための流路であり、入力軸101の軸方向に延びる管状にそれぞれ形成されている。この場合、作動油路103aは、一方の端部が油圧装置に繋がっているとともに、他方の端部がプレートピストン140の背面側(図示右側)の空間に連通している。また、作動油路103bは、一方の端部が前記油圧装置とは別の油圧装置に繋がっているとともに、他方の端部がプレートピストン141の背面側(図示左側)の空間に連通している。
【0027】
潤滑油供給路104は、後述する駆動側プレート120および対向プレート130にそれぞれ潤滑油を導くための部分であり、入力軸101の軸方向に延びる管状にそれぞれ形成されている。この場合、潤滑油供給路104は、一方の端部が潤滑油用の油圧装置に繋がっているとともに、他方の端部がプレートピストン140と受け板144との間、およびプレートピストン140と受け板145との間にそれぞれ開口している。
【0028】
プレートホルダ110は、複数の駆動側プレート120を内包した状態で保持する円筒状の部材である。このプレートホルダ110は、主として、嵌合筒部110a、隔壁部110bおよびプレート保持部110cが同一材料により一体的に成形されることにより構成されている。本第1実施形態においては、プレートホルダ110は、アルミニウム合金をダイカストによる鋳造加工することによって一体的に成形されている。
【0029】
嵌合筒部110aは、入力軸101の外周部に固定的に連結される円筒状の部分であり、一方(図示右側)の端部側の内周面に前記外歯スプライン102に噛み合う内歯状の内歯スプライン111が形成されているとともに、この内歯スプライン111より図示左側の内周部が入力軸101の外周部に嵌合する内径に形成されている。この嵌合筒部110aには、前記作動油路103a,103bおよび潤滑油供給路104にそれぞれ連通する貫通孔がそれぞれ形成されている。
【0030】
隔壁部110bは、プレート保持部110cを支持するとともにプレートピストン140、141をそれぞれ受け止める部分であり、嵌合筒部110aの軸方向中央部から入力軸101の径方向に沿ってフランジ状に張り出す円板状に形成されている。
【0031】
プレート保持部110cは、隔壁部110bに対して軸方向の両側方で駆動側プレート120をそれぞれ保持する部分であり、隔壁部110bの先端部から嵌合筒部110aの軸線方向に沿って図示左右両側に延びる円筒状に形成されている。このプレート保持部110cには、軸方向の両端部の内周部に歯部嵌合部112a,112bがそれぞれ形成されている。
【0032】
歯部嵌合部112a,112bは、駆動側プレート120における駆動力伝達歯部122がスプラインのように嵌合する部分であり、駆動力伝達歯部122が嵌合する凹部が放射状に形成された内歯状に形成されている。
【0033】
この歯部嵌合部112a,112bは、駆動力伝達歯部122が嵌合する凹部が周方向に等間隔で形成されており、一部(本第1実施形態においては3つ)の歯部嵌合部112a,112b内に後述する径方向張出部123が配置される。また、歯部嵌合部112a,112bの各先端部には、受け板113およびサークリップ114がそれぞれ取り付けられている。
【0034】
受け板113は、プレートピストン140,141によってそれぞれ押圧された駆動側プレート120および対向プレート130をそれぞれ受け止める部品であり、鋼材を環状に形成して構成されている。また、サークリップ114は、受け板113の歯部嵌合部112a,112bからの抜けをそれぞれ防止するための平板環状の部品である。そして、これらの嵌合筒部110a,各隔壁部110bおよびプレート保持部110cによって構成されるプレートホルダ110は、嵌合筒部110aが入力軸101に嵌合した状態で抜止めワッシャ115によって固定されている。
【0035】
駆動側プレート120は、プレートホルダ110の回転駆動するとともに対向プレート130に対して密着または離隔することによってプレートホルダ110からの回転駆動力を対向プレート130に伝達または遮断するための部品であり、鋼板材を平板環状に形成して構成されている。この駆動側プレート120は、それぞれ平板環状に形成されて対向プレート130を介して互いに対向配置される第1プレート121と第2プレート126とで構成されている。
【0036】
第1プレート121は、
図2および
図3にそれぞれ示すように、外周部に駆動力伝達歯部122および径方向張出部123をそれぞれ備えている。駆動力伝達歯部122は、プレートホルダ110の歯部嵌合部112a,112bにスプラインのように嵌合してプレートホルダ110に対して回転駆動力の伝達を行う部分であり、平板環状に形成された第1プレート121の外周部に放射状に延びる外歯状に形成されている。この場合、駆動力伝達歯部122は、第1プレート121の外周部上における120°ごとの3つの位置には形成されておらず、これら3つの位置に駆動力伝達歯部122に代えて径方向張出部123がそれぞれ形成されている。
【0037】
径方向張出部123は、後述する突出部125を備える部分であり、第1プレート121の外周部に径方向外側に張り出して形成されている。本第1実施形態においては、径方向張出部123は、前記したように、第1プレート121の外周部上において均等な間隔を介して3つ形成されている。これらの径方向張出部123は、先端部123a、切欠き部123bおよび根元部123cをそれぞれ備えて構成されている。
【0038】
先端部123aは、第1プレート121の径方向において最も外側に位置して後述する環状嵌合体124の径方向外側の位置を規定する部分であり、第1プレート121の周方向に沿って円弧状に延びて形成されている。この場合、先端部123aは、前記駆動力伝達歯部122の歯先円上に位置している。すなわち、先端部123aは、駆動力伝達歯部122と同じ張出量で形成されている。また、先端部123aは、駆動力伝達歯部122の先端部の周方向の長さよりも短い長さに形成されている。
【0039】
切欠き部123bは、環状嵌合体124が嵌合する部分であり、先端部123aに対して径方向内側に隣接する位置に先端部123aの周方向の長さよりも短い周方向の長さで形成されている。この場合、切欠き部123bは、先端部123aの周方向の両端部に対してそれぞれ切り欠かれた形状に形成されている。なお、切欠き部123bは、先端部123aの周方向の両端部のうちの一方に対して切り欠かれた形状であってもよい。
【0040】
根元部123cは、第1プレート121の径方向において最も内側に位置して環状嵌合体124の径方向内側の位置を規定する部分であり、切欠き部123bに対して径方向内側に隣接する位置に先端部123aの周方向の長さよりも長い長さで形成されている。この場合、根元部123cは、歯部嵌合部112a,112bの径方向内側の開口部の周方向の長さよりも短い長さに形成されている。すなわち、径方向張出部123は、歯部嵌合部112a,112b内に駆動力伝達歯部122よりも大きな隙間を介して配置される。
【0041】
環状嵌合体124は、
図4および
図5にそれぞれ示すように、突出部125を備える部品であり、エラストマ(本第1実施形態においては、ゴム)などの弾性体を環状に形成して構成されている。より具体的には、環状嵌合体124は、径方向張出部123の長手方向(周方向)に延びる平面視で長方形状に近い環状に形成されており、中心部に径方向張出部123における切欠き部123bの中心部の中実部分の外形が嵌合する平面視で長方形状の貫通孔124aを備えて形成されている。この場合、環状嵌合体124の長手方向の長さは、先端部123aの周方向両端部と面一となる長さに形成されている。すなわち、環状嵌合体124は、先端部123aの周方向両端部からはみ出さないように形成されている。
【0042】
また、環状嵌合体124は、環状嵌合体124の長手方向に延びる2つの側面の両端部が環状嵌合体124の長手方向に直交する短手方向に延びる側面に向かって斜めに延びる側面で構成された角斜面124bが形成されている。すなわち、環状嵌合体124は、平面視で四隅の角部が面取りされて同角部が切り欠かれた形状に形成されている。また、環状嵌合体124の長手方向に延びる2つの側面にはそれぞれ突出部125が形成されている。
【0043】
突出部125は、第1プレート121と第2プレート126とを離隔させるための部品であり、エラストマ(本第1実施形態においては、ゴム)などの弾性体を円柱状に形成して構成されている。これらの突出部125は、環状嵌合体124の長手方向に直交する短手方向に突出して形成されている。この場合、突出部125の突出量は、
図6および
図7にそれぞれ示すように、対向プレート130の厚さより長い長さに形成されている。本第1実施形態においては、突出部125は、環状嵌合体124の長手方向の側面の肉厚を含めて対向プレート130の厚さに対して0.2mmだけ長い突出量となるように形成されている。
【0044】
この突出部125は、環状嵌合体124と一体的に形成されている。また、この突出部125が形成された環状嵌合体124は、貫通孔124aが広げられた状態で径方向張出部123における先端部123aが通されて切欠き部123bを包囲する状態で取り付けられる。
【0045】
第2プレート126は、
図8に示すように、外周部に駆動力伝達歯部127および張出部対向部128をそれぞれ備えている。駆動力伝達歯部127は、前記駆動力伝達歯部122と同様に、プレートホルダ110の歯部嵌合部112a,112bに嵌合してプレートホルダ110に対して回転駆動力の伝達を行う部分であり、平板環状に形成された第2プレート126の外周部に放射状に延びる外歯状に形成されている。この場合、駆動力伝達歯部127は、第2プレート126の外周部上における120°ごとの3つの位置には形成されておらず、これら3つの位置に駆動力伝達歯部127に代えて張出部対向部128がそれぞれ形成されている。
【0046】
張出部対向部128は、第1プレート121の突出部125が突き当てられる部分であり、第2プレート126の外周部に径方向外側に張り出して形成されている。本第1実施形態においては、張出部対向部128は、前記したように、第2プレート126の外周部上において均等な間隔を介して3つ形成されている。これらの張出部対向部128を備えた第2プレート126は、張出部対向部128が突出部125に対向する周方向の位置で歯部嵌合部112a,112bに嵌合してプレートホルダ110に取り付けられている。
【0047】
対向プレート130は、駆動側プレート120に対してそれぞれ密着または離隔することによって駆動側プレート120からの回転駆動力を出力ギア132,133にそれぞれ伝達または遮断するための部品であり、鋼板材を平板環状に形成して構成されている。この対向プレート130における各両側面(表裏面)には、駆動側プレート120に対する摩擦力をそれぞれ向上させるための摩擦材(図示せず)が周方向に沿って貼り付けられている。
【0048】
また、対向プレート130は、外径が駆動側プレート120の平板環状部分(駆動力伝達歯部122および径方向張出部123を除いた部分)の外径以下の外径に形成されている。また、対向プレート130は、内周部に駆動力伝達歯部131が形成されている。駆動力伝達歯部131は、出力ギア132,133における内側プレート保持部132a,133aにそれぞれスプライン状のように嵌合して出力ギア132,133に対して回転駆動力の伝達を行う部分であり、平板環状に形成された対向プレート130の内周部に放射状に延びる内歯状に形成されている。
【0049】
そして、この対向プレート130は、駆動側プレート120に対して互いに隣接するように交互に配置された状態で歯部嵌合部112a,112bにそれぞれ保持されている。この場合、駆動側プレート120は、対向プレート130に対して第1プレート121と第2プレート126とが交互に配置されている。すなわち、駆動側プレート120は、第1プレート121と第2プレート126とは対向プレート130を介して対向配置されている。
【0050】
出力ギア132,133は、このクラッチ装置100が搭載される車両の駆動輪を回転駆動する図示しない従動軸に選択的に連結されて回転駆動させるための歯車であり、ニードルベアリングを介して入力軸101上にそれぞれ回転自在に支持されている。出力ギア132,133には、それぞれプレート保持部110cの内側に向かって延びた状態で筒状の内側プレート保持部132a,133aがそれぞれ形成されている。
【0051】
内側プレート保持部132a,133aは、対向プレート130を保持する部分であり、対向プレート130の内周部に形成されたスプライン状の駆動力伝達歯部131に嵌合するスプライン状の外歯が形成されている。また、内側プレート保持部132a,133aには、この内側プレート保持部132a,133aの内側と外側との間で図示しない潤滑油を流通させるための貫通孔からなる複数の流路孔132b,133bが形成されている。
【0052】
プレートピストン140,141は、プレート保持部110c内において駆動側プレート120に密着またはこれらから離隔することにより駆動側プレート120と対向プレート130とを互いに密着または離隔させるための部品であり、鋼材を円筒状に形成して構成されている。より具体的には、プレートピストン140,141は、主として、摺動筒部140a,141a、フランジ部140b,141bおよび押圧部140c,141cをそれぞれ有している。
【0053】
摺動筒部140a,141aは、プレートホルダ110の嵌合筒部110aの外周部にシールリングをそれぞれ介して嵌合して同外周部上をスライド変位する部分であり、嵌合筒部110aに沿って延びる筒状にそれぞれ形成されている。これらの摺動筒部140a,141a上にはリターンスプリング142,143がそれぞれ設けられている。
【0054】
リターンスプリング142,143は、プレートピストン140,141を駆動側プレート120側から離隔する方向(隔壁部110b側)に押すためのコイルスプリングである。これらのリターンスプリング142,143は、嵌合筒部110aの外周面上に設けられた状態で一方の端部がプレートピストン140,141をそれぞれ押圧するとともに、他方の端部が嵌合筒部110aの外周面に設けられた受け板144,145をそれぞれ押圧している。
【0055】
フランジ部140b,141bは、摺動筒部140a,141aの径方向外側で押圧部140c,141cを支持する部分であり、摺動筒部140a,141aにおける一方(隔壁部110b側)の端部から径方向外側に張り出すフランジ状に形成されている。この場合、フランジ部140b,141bは、プレートピストン140,141が隔壁部110b側に変位した際に隔壁部110bに密着しないように押圧部140c,141cの背面部分に対して円環状に窪んで形成されている。
【0056】
押圧部140c,141cは、駆動側プレート120を押圧する部分であり、駆動側プレート120側に向けて環状に突出して形成されている。これらの押圧部140c,141cの各外周部は、シールリングをそれぞれ介してプレート保持部110cの内周面にそれぞれ嵌合している。
【0057】
(クラッチ装置100の作動)
次に、上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように車両におけるトランスミッションケース内に組み付けられて用いられる。そして、このクラッチ装置100は、車両の操作者によるクラッチ操作子(図示せず)の操作によってエンジンの駆動力の駆動輪への伝達および遮断を行なう。この場合、クラッチ装置100は、入力軸101の回転駆動力を出力ギア132,133に同時にまたは選択的に伝達または遮断することができる。
【0058】
まず、出力ギア132,133に対して入力軸101からの回転駆動力を伝達しないクラッチの遮断状態(
図6参照)においては、プレートピストン140,141は、リターンスプリング142,143の弾性力によって駆動側プレート120からそれぞれ離隔してプレートホルダ110の隔壁部110b側に位置する。
【0059】
これにより、クラッチ装置100は、駆動側プレート120(第1プレート121および第2プレート126)と対向プレート130とが互いに離隔するため、入力軸101の回転駆動力が出力ギア132,133にそれぞれ伝達されない遮断状態となる。この場合、駆動側プレート120における第1プレート121は、径方向張出部123に突出部125を備えているとともに、この突出部125が対向プレート130の厚さよりも厚い長さの突出量で突出している。
【0060】
これにより、駆動側プレート120における第1プレート121と第2プレート126とは、突出部125の突出量よりも互いに接近することができず、対向プレート130に対して離隔した状態が保たれる。この結果、クラッチ装置100は、回転駆動する駆動側プレート120に引き摺られて対向プレート130が回転駆動することが防止されクラッチの遮断状態が維持される。
【0061】
次に、
図7に示すように、入力軸101の回転駆動力を出力ギア132および出力ギア133に伝達するクラッチの接続状態とする場合には、車両の操縦者は、クラッチ操作子を操作することによってプレートピストン140,141を駆動側プレート120側にそれぞれ変位させる。具体的には、クラッチ装置100は、図示しない油圧装置によって作動油路103a,103bを介してプレートホルダ110の隔壁部110bとプレートピストン140,141との間の空間内に作動油を供給する。
【0062】
これにより、クラッチ装置100は、プレートピストン140,141がリターンスプリング142,143の弾性力に抗しながら駆動側プレート120側に変位することで駆動側プレート120と対向プレート130とが互いに強く密着する。この場合、駆動側プレート120は、第1プレート121における突出部125と第2プレート126における張出部対向部128とが強く密着することで突出部125が圧縮変形した状態で対向プレート130に密着して回転駆動力を伝達する。これにより、クラッチ装置100は、入力軸101の回転駆動力が出力ギア132,133に伝達される。
【0063】
なお、クラッチ装置100は、車両の操縦者によるクラッチ操作子の操作によってプレートピストン140およびプレートピストン141のうちの一方のみを駆動側プレート120側に変位させることもできる。これによれは、クラッチ装置100は、入力軸101の回転駆動力を出力ギア132および出力ギア133のうちの一方にのみ伝達させることになる。
【0064】
次いで、再び、クラッチの遮断状態に戻る場合には、車両の操縦者は、クラッチ操作子を操作することによってプレートピストン140,141を隔壁部110b側に変位させる。具体的には、クラッチ装置100は、図示しない油圧装置によって作動油路103a,103bを介してプレートホルダ110の隔壁部110bとプレートピストン140,141との間の空間内の作動油を吸引して圧力を低下させる。
【0065】
これにより、クラッチ装置100は、プレートピストン140,141がリターンスプリング142,143の弾性力によって隔壁部110b側に変位することで駆動側プレート120と対向プレート130と離隔する。この場合、駆動側プレート120は、前記したように、第1プレート121が突出部125を備えているため、対向プレート130に対して離隔した状態が保たれる。これにより、クラッチ装置100は、回転駆動する駆動側プレート120に引き摺られて対向プレート130が回転駆動することが防止されクラッチの遮断状態が維持される。
【0066】
上記作動説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、クラッチ装置100は、対向プレート130の両側のうちの一方側に設けられた第1プレート121の径方向張出部123に対向プレート130の厚さ方向に弾性的に突出する突出部125が設けられているとともに他方側に設けられた第2プレート126に突出部125が突き当たる張出部対向部128を有しているため、対向プレート130に対して第1プレート121と第2プレート126とが突出部125の弾性力によって早期かつ確実に離隔する。これにより、クラッチ装置100は、引き摺りトルクを低減することができる。
【0067】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0068】
例えば、上記第1実施形態においては、クラッチ装置100は、突出部125を駆動側プレート120に設けて構成した。しかし、クラッチ装置100は、突出部125を対向プレート130に設けて構成することもできる。
【0069】
具体的には、クラッチ装置100は、対向プレート130における内周部上における120°ごとの3つの位置に駆動力伝達歯部131に代えて径方向内側に張り出す径方向張出部123に相当する径方向張出部を形成した第1プレートを用意する。この径方向張出部は、突出部125を備える環状嵌合体124が取り付けられた状態で駆動力伝達歯部131とともに出力ギア132,133の内側プレート保持部132a,133aにそれぞれ嵌合している。
【0070】
また、クラッチ装置100は、対向プレート130における内周部上における120°ごとの3つの位置に駆動力伝達歯部131に代えて径方向内側に張り出す張出部対向部128に相当する張出部対向部を形成した第2プレートを用意する。この張出部対向部は、駆動力伝達歯部131とともに出力ギア132,133の内側プレート保持部132a,133aにそれぞれ嵌合している。すなわち、出力ギア132,133が本発明に係るプレートホルダに相当するとともに、内側プレート保持部132a,133aが本発明に係る歯部嵌合部に相当する。
【0071】
一方、クラッチ装置100は、径方向張出部123および張出部対向部128に代えて駆動力伝達歯部122のみを形成した駆動側プレート120を用意する。このように、突出部125を対向プレート130に備えたクラッチ装置100においても上記第1実施形態に係るクラッチ装置100と同様の作用効果を期待できる。すなわち、突出部125は、第1プレートの径方向外側および/または径方向内側に設けることができる。
【0072】
また、上記第1実施形態においては、突出部125は、第1プレート121の周方向に3つ設けた。しかし、突出部125は、第1プレート121の周方向に少なくとも1つ設けることができ、好適には2つ以上設けるとよい。
【0073】
また、上記第1実施形態においては、突出部125は、第1プレート121にのみ設けた。しかし、突出部125は、
図9に示すように、第2プレート126に設けることもできる。すなわち、第2プレート126は、一部の駆動力伝達歯部127に代えて径方向張出部123を形成して構成することができる。この場合、径方向張出部123は、第1プレート121に設けられている突出部125に対向しないように周方向に位相をずらして形成するとよい。
【0074】
一方、第1プレート121においては、
図10に示すように、第2プレート126に形成した径方向張出部123に対向する駆動力伝達歯部122に代えて張出部対向部128を形成する。これによれば、クラッチ装置100は、第1プレート121および第2プレート126の枚数を減らしてクラッチ装置100を小型化または軽量化することができる。また、クラッチ装置100は、対向プレート130が奇数枚の場合、すなわち、駆動側プレート120が偶数枚の場合において互いに隣接する第1プレート121および第2プレート126ごとにそれぞれ径方向張出部123および張出部対向部128を設けることで突出部125が押し付けられる部分を確保することができる。
【0075】
また、上記第1実施形態においては、突出部125は、環状嵌合体124の一部に形成した。しかし、突出部125は、柱状または板状の突出部125を第1プレート121における径方向張出部123の板面に直接貼り付けて構成することもできる。すなわち、クラッチ装置100は、環状嵌合体124を省略して構成することもできる。
【0076】
また、上記第1実施形態においては、突出部125は、円柱状に形成した。しかし、突出部125は、先端部側に向かって断面積が小さくなる錐状のほか、正面視で方形、多角形状または異形形状に形成することもできる。
【0077】
また、上記第1実施形態においては、環状嵌合体124は、弾性体を環状に形成して構成した。しかし、環状嵌合体124は、金属などの剛体で構成して径方向張出部123に接着または溶接するように構成することができる。また、環状嵌合体124は、環状のほかに、板状に形成して径方向張出部123に接着または溶接するように構成することができる。また、環状嵌合体124は、平面でC字状に形成して切欠き部123bに嵌め込んでもよい。
【0078】
また、環状嵌合体124は、また、環状嵌合体124は、鈍角状の角斜面124bを備えて構成した。これにより、環状嵌合体124は、クラッチの接続状態において、第1プレート121と対向プレート130との間の潤滑油の流通性を確保することができる。しかし、環状嵌合体124は、角部を鋭角、直角または曲面で構成することもできる。
【0079】
また、上記第1実施形態においては、径方向張出部123は、切欠き部123bを備えて構成した。しかし、径方向張出部123は、切欠き部123bを省略して構成することもできる。この場合、径方向張出部123は、切欠き部123bに代えて環状嵌合体124が嵌まり込む径方向の両側に突起を設けて環状嵌合体124の抜け止めとすることができる。
【0080】
また、上記第1実施形態においては、環状嵌合体124は、長手方向の長さが径方向張出部123の先端部123aの周方向両端部と面一となる長さに形成されている。これにより、環状嵌合体124は、径方向張出部123の周囲を流れる潤滑油の流通性を確保することができるとともに、径方向張出部123が歯部嵌合部112a,112bなどの周囲の部材と物理的に接近した場合においても環状嵌合体124が挟み込まれることを防止でき環状嵌合体124の損傷を防止することができる。しかし、環状嵌合体124は、長手方向の長さが径方向張出部123の先端部123aの周方向両端部より内側または外側に張り出す長さに形成することもできる。
【0081】
また、上記第1実施形態においては、径方向張出部123は、先端部123aの周方向の長さが駆動力伝達歯部122の周方向の長さよりも短い長さで形成した。これにより、径方向張出部123は、歯部嵌合部112a,112b内において歯部嵌合部112a,112bの周方向の内壁に衝突することを防止できるため、径方向張出部123の剛性を必要以上に高める必要がないとともに異音の発生も抑えることができる。しかし、径方向張出部123は、先端部123aの周方向の長さが駆動力伝達歯部122の周方向の長さと同一、または同長さよりも長い長さで形成することもできる。
【0082】
また、上記第1実施形態においては、径方向張出部123は、根元部123cの周方向の長さを先端部123aの周方向の長さよりも長い長さで形成した。これにより、径方向張出部123は、環状嵌合体124を切欠き部123bに嵌め込む際に位置決めさせ易くすることができる。しかし、根元部123cは、周方向の長さを先端部123aの周方向の長さと同一、または同長さよりも短い長さで形成することもできる。また、径方向張出部123は、根元部123cを省略して構成することもできる。
【0083】
また、上記第1実施形態においては、クラッチ装置100は、入力軸101が原動機からの回転駆動力を受けるとともに、出力ギア132,133が車輪側に繋がる従動軸に回転駆動力を出力するように構成した。しかし、クラッチ装置100は、出力ギア132,133が原動機からの回転駆動力を受ける入力ギアとして機能するとともに、入力軸101が車輪側に繋がる従動軸に回転駆動力を出力する出力軸として機能するように構成することもできる。
【0084】
また、上記第1実施形態においては、クラッチ装置100は、回転駆動する1つの入力軸101に対して2つの出力ギア132,133にそれぞれ駆動力を伝達および遮断するダブルクラッチ装置で構成した。しかし、クラッチ装置100は、回転駆動する1つの入力軸101に対して1つの出力ギアに駆動力を伝達および遮断するクラッチ装置で構成することもできる。
【0085】
なお、本発明に係る駆動側プレート120は、既存の湿式クラッチ装置に組み込まれているクラッチプレートと入れ替えて使用することもできる。すなわち、本発明に係る駆動側プレート120は、湿式クラッチ装置(湿式ブレーキ装置)に用いられるクラッチプレート(ブレーキプレート)としても実施できるものである。
【0086】
<第2実施形態>
以下、本発明に係るブレーキ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図11は、ゴルフ場内を走行するゴルフカートなどからなる車両における後輪の一方に取り付けられた本発明に係るブレーキ装置200の概略断面図である。このブレーキ装置200は、前記車両が備える4つの車輪のうち後側の2つの車輪(すなわち、後輪)にそれぞれ設けられる制動装置であり、ブレーキケースとしてのプレートホルダ208内に所定量だけ貯留した冷却油のみで駆動側プレート204および対向プレート211を冷却する所謂密閉型の湿式ディスクブレーキである。なお、本第2実施形態においては、上記第1実施形態と実質的に同様の部分については適宜説明を省略する。
【0087】
(ブレーキ装置200の構成)
このブレーキ装置200は、図示しない車両の後輪の車軸を構成するリアアクスル201の端部に取り付けられている。リアアクスル201は、車両の駆動源となるエンジン(図示せず)に連結され、同エンジンの回転駆動により回転する駆動軸である。なお、リアアクスル201は、エンジンから延びる出力軸、クラッチ、変速機、減速装置、デフ(デファレンシャルギア)などを介してエンジンと連結されるが、これらの部品については本発明と直接関連しないため、その説明は省略する。
【0088】
ブレーキ装置200は、ブレーキハブ202を備えている。ブレーキハブ202は、円筒状に形成されるとともに、同円筒状の形成された部分の一端部が鍔状に張り出したフランジ状に形成されており、リアアクスル201の端部に固定されている。ブレーキハブ202の鍔状に張り出した部分には、バルーンタイヤ203(二点鎖線で示す)が固定されている。バルーンタイヤ203は、幅広の低圧型のタイヤであり車両の車輪を構成する。すなわち、ブレーキハブ202およびバルーンタイヤ203は、リアアクスル201に一体的に組み付けられており、リアアクスル201の回転駆動により同リアアクスル201と一体的に回転する。
【0089】
ブレーキハブ202の円筒状に形成された部分の外周面には、4つの駆動側プレート204が設けられている。これらの駆動側プレート204は、ブレーキハブ202と一体的に回転駆動する部品であり、鋼板を平板環状に形成して構成されている。この場合、これらの駆動側プレート204の両面における径方向外側の部分には、方形薄板状の複数の小片からなる摩擦材としてのブレーキライニング(図示せず)が所定の間隔を介して駆動側プレート204上に円周方向に並んで固着されている。
【0090】
そして、これらの各駆動側プレート204は、内周部に内歯状の駆動力伝達歯部204aが形成されており、この駆動力伝達歯部204aを介してブレーキハブ202に対してスプライン嵌合によりブレーキハブ202(リアアクスル201)の軸線方向に変位可能、かつブレーキハブ202と一体的に回転可能な状態でそれぞれ取り付けられている。すなわち、4つの駆動側プレート204は、リアアクスル201の回転とともに一体的に回転する。なお、駆動力伝達歯部204aは、上記第1実施形態における駆動力伝達歯部131に相当する。
【0091】
これらのブレーキハブ202およびリアアクスル201の各外周面上には、オイルシール205およびベアリング206をそれぞれ介してホルダ固定軸207が設けられている。ホルダ固定軸207は、リアアクスル201を覆いつつプレートホルダ208およびプレートピストン221それぞれを支持する部品であり、金属材を筒状に形成して構成されている。この場合、ホルダ固定軸207は、プレートホルダ208を一体的に支持するとともに、プレートピストン221をOリングを介して軸方向および周方向に対してそれぞれ摺動可能な状態で支持している。
【0092】
駆動側プレート204の外側には、同駆動側プレート204およびホルダ固定軸207の端部を覆う状態でプレートホルダ208が設けられている。プレートホルダ208は、複数の駆動側プレート204を収容するとともに後述する複数の対向プレート211をそれぞれ保持する円筒状に形成されており、一方(図示右側)の端部がホルダ固定軸207の外周面上に嵌合して固定的に取り付けられているとともに、他方(図示左側)の端部が蓋体224によって閉塞されている。このプレートホルダ208は、底部209、プレート保持部210をそれぞれ備えて構成されている。
【0093】
底部209は、後述するプレートピストン221をそれぞれ受け止めるとともにプレートホルダ208をホルダ固定軸207に連結する部分である。この底部209は、ホルダ固定軸207上に取り付けられて径方向外側に向かってフランジ状に張り出す平板環状に形成されている。
【0094】
プレート保持部210は、駆動側プレート204を収容するとともに対向プレート211を保持する部分であり、円筒状に形成されている。このプレート保持部210は、内周面に内歯状のスプラインがそれぞれ形成されており、5つの対向プレート211がそれぞれ軸方向に変位可能な状態でスプライン嵌合している。
【0095】
対向プレート211は、駆動側プレート204に対して密着または離隔することによって駆動側プレート204の回転駆動を制動または制動の解除をする部品であり、鋼板を平板環状に形成して構成されている。この場合、各対向プレート211は、前記ブレーキライニング(図示せず)の径方向の幅に対応する幅のリング状に形成されている。この対向プレート211は、
図12に示すように、第1プレート212と第2プレート217とで構成されている。
【0096】
第1プレート212は、上記実施形態における第1プレート121に相当する部品であり、プレート保持部210の内周面にスプライン状に嵌合する外歯状の駆動力伝達歯部213および径方向張出部214をそれぞれ備えている。また、径方向張出部214には、突出部216を備えた環状嵌合体215が嵌め込まれている。これらの駆動力伝達歯部213、径方向張出部214、環状嵌合体215および突出部216は、上記実施形態における駆動力伝達歯部122、径方向張出部123、環状嵌合体124および突出部125と同様に形成されているため、その説明は省略する。
【0097】
第2プレート217は、上記実施形態における第2プレート126に相当する部品であり、プレート保持部210の内周面にスプライン状に嵌合する外歯状の駆動力伝達歯部218および張出部対向部219をそれぞれ備えている。この場合、駆動力伝達歯部218は、張出部対向部219の外径よりも径方向外側に張り出して形成されている。このほかの部分についての駆動力伝達歯部218および張出部対向部219の構成については、上記実施形態における駆動力伝達歯部127および張出部対向部128と同様に形成されているため、その説明は省略する。そして、これらの第1プレート212と第2プレート217とは、前記4つの対向プレート211をそれぞれ挟むように同対向プレート211の各両側に所定の隙間を介して配置されている。
【0098】
この場合、5つの対向プレート211には、外側に配置された2つ対向プレート211(第2プレート217)間にピン220aが架設されるとともにこのピン220aの外側にスプリング220bが設けられている。これにより、5つの対向プレート211のうちの外側に配置された2つの対向プレート211は互いに外側に押圧された状態となっている。また、5つの対向プレート211のうちの底部209側の対向プレート211には、プレートピストン221が配向配置されている。
【0099】
プレートピストン221は、上記第1実施形態におけるプレートピストン140,141と同様に、プレート保持部210の内側において対向プレート211に密着またはこれらから離隔することにより駆動側プレート204と対向プレート211とを互いに密着または離隔させるための部品であり、鋼材を円筒状に形成して構成されている。このプレートピストン221は、ピストンシリンダ222の内周部およびホルダ固定軸207の外周部にそれぞれ嵌合して同外周部上に沿ってスライド変位する。
【0100】
ピストンシリンダ222は、プレートピストン221の摺動性を確保しつつプレートピストン221と底部209との間の空間の液密性を確保するための金属製の部品であり、平板円環体の外周部にプレートピストン221の外周部が摺動する筒状部が軸方向に延びて形成されている。このピストンシリンダ222の内周部の径方向内側の空間における底部209には、作動油供給管223が連通している。
【0101】
作動油供給管223は、上記第1実施形態における作動油路103a,103bと同様に、図示しない油圧装置(マスタシリンダ)からプレートピストン221の背面側の空間に作動油を導く管状の部品であり、一方の端部が前記油圧装置に連通しているとともに、他方の端部が底部209に連通している。
【0102】
蓋体224は、ブレーキハブ202に嵌合した状態でプレートホルダ208における前記他方(図示左側)の端部に取り付けられており、プレートホルダ208内を液密的に塞いでいる。すなわち、プレートホルダ208の内部は、プレートピストン221およびピストンシリンダ222の外側の領域に潤滑油(
図9において破線参照)が封入されている。
【0103】
(ブレーキ装置200の作動)
次に、このように構成されたブレーキ装置200の作動について説明する。まず、車両に操作者が搭乗して図示しないエンジンを始動させた後、同車両を停車させている状態においては、リアアクスル201は回転駆動しないため、プレートホルダ208内の駆動側プレート204も回転せず静止している。
【0104】
この状態において操作者がブレーキ操作子(図示せず)を介して制動操作を行った場合には、図示しない油圧装置(マスタシリンダ)によって作動油供給管223を介してプレートピストン221と底部209との間に作動油が供給される。これにより、ブレーキ装置200は、プレートピストン221が対向プレート211に変位するため、駆動側プレート204と対向プレート211とが密着してバルーンタイヤ203の回転駆動をロックする。
【0105】
この場合、ブレーキ装置200は、上記実施形態におけるクラッチの接続状態と同様に、第1プレート212における突出部216と第2プレート217における張出部対向部219とが強く密着することで突出部216が圧縮変形した状態で駆動側プレート204に密着する。これにより、クラッチ装置100は、駆動側プレート204の回転駆動力を制動する。
【0106】
次に、操作者の操作により車両を走行させる場合には、車両の操作者はブレーキ操作子の操作によってプレートピストン221と底部209との間の空間の油圧を低下させる。これにより、プレートピストン221は、対向プレート211から離隔してプレートホルダ208の底部209側に変位してピストンシリンダ222に密着する。この結果、ブレーキ装置200は、駆動側プレート204と対向プレート211とが互いに離隔するため、ブレーキハブ202の回転数が上昇して車両の走行速度を上昇させることができる。
【0107】
この場合、ブレーキ装置200は、上記実施形態におけるクラッチの遮断状態と同様に、
対向プレート211の第1プレート212が突出部216を備えているため、対向プレート211に対して離隔した状態が保たれる。これにより、ブレーキ装置200は、回転駆動する駆動側プレート204が静止している対向プレート211に引き摺られて回転駆動力が低下することが防止される。
【0108】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ブレーキ装置200は、駆動側プレート204の両側のうちの一方に設けられた第1プレート212の径方向張出部214に駆動側プレート204の厚さ方向に弾性的に突出する突出部216が設けられているとともに他方側に設けられた第2プレート217に突出部216が突き当たる張出部対向部219を有しているため、駆動側プレート204に対して第1プレート212と第2プレート217とが突出部216の弾性力によって早期かつ確実に離隔する。これにより、ブレーキ装置200は、引き摺りトルクを低減することができる。
【0109】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。この場合、第2実施形態においても上記第1実施形態における各変形例と同様の変形例を採用することができる。
【符号の説明】
【0110】
100…クラッチ装置、101…入力軸、102…外歯スプライン、103a,103b…作動油路、104…潤滑油供給路、
110…プレートホルダ、110a…嵌合筒部、110b…隔壁部、110c…プレート保持部、111…内歯スプライン、112a,112b…歯部嵌合部、113…受け板、114…サークリップ、115…抜止めワッシャ、
120…駆動側プレート、121…第1プレート、122…駆動力伝達歯部、123…径方向張出部、123a…先端部、123b…切欠き部、123c…根元部、124…環状嵌合体、124a…貫通孔、124b…角斜面、125…突出部、126…第2プレート、127…駆動力伝達歯部、128…張出部対向部、
130…対向プレート、131…駆動力伝達歯部、132,133…出力ギア、132a,133a…内側プレート保持部、132b,133b…流路孔、
140,141…プレートピストン、140a,141a…摺動筒部、140b,141b…フランジ部、140c,141c…押圧部、142,143…リターンスプリング、144,145…受け板。