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特開2024-151437無線装置間の同期方法、無線装置、無線装置間の同期システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151437
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】無線装置間の同期方法、無線装置、無線装置間の同期システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20241018BHJP
   H04W 56/00 20090101ALI20241018BHJP
【FI】
H04L7/00 930
H04W56/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064752
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】中村 道春
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
(72)【発明者】
【氏名】沢田 浩和
(72)【発明者】
【氏名】表 昌佑
(72)【発明者】
【氏名】森山 雅文
【テーマコード(参考)】
5K047
5K067
【Fターム(参考)】
5K047AA18
5K047GG56
5K067AA21
5K067DD11
5K067EE10
5K067HH21
5K067KK02
(57)【要約】
【課題】IEEE1588標準に対応する機器によってネットワークを構築することなく、無線基地局間を同期させる。
【解決手段】自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を無線装置2aから送信すると共に、受信した第1信号に応答する第2信号を無線装置2bから送信し、第2信号を受信した無線装置2aにおいて無線装置2bとの間における電波の伝搬時間を算出し、無線装置2bにおいて自ら保有する第2の同期タイミングと、第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出し、無線装置2aから自身の精度ランクに関する情報と算出した伝搬時間に関する情報とを無線装置2bに送信すると共に、無線装置2bから自身の精度ランクに関する情報と算出した時間差に関する情報とを無線装置2aに送信し、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより算出したクロックずれを低減させることで同期する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに無線通信可能な第1無線装置及び第2無線装置との間で同期するための無線装置間の同期方法において、
自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を第1無線装置から送信すると共に、受信した上記第1信号に応答する第2信号を第2無線装置から送信し、上記第2信号を受信した上記第1無線装置において上記第2無線装置との間における電波の伝搬時間を算出し、
上記第2無線装置において自ら保有する第2の同期タイミングと、上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出し、
上記第1無線装置から自身の精度ランクに関する情報と算出した上記伝搬時間に関する情報とを上記第2無線装置に送信すると共に、上記第2無線装置から自身の精度ランクに関する情報と算出した上記時間差に関する情報とを上記第1無線装置に送信し、
上記第1無線装置及び/又は上記第2無線装置において、互いに共有した上記伝搬時間と上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に上記精度ランクに関する情報を比較し、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期すること
を特徴とする無線装置間の同期方法。
【請求項2】
上記第1無線装置から、想定される上記伝搬時間よりも短い時間長からなる第1信号を送信すること
を特徴とする請求項1記載の無線装置間の同期方法。
【請求項3】
上記第1無線装置において、指向性を有するアンテナを介して第1信号を送信すると共に、当該アンテナ又は同一の上記指向性を有するアンテナを介して第2信号を受信すること
を特徴とする請求項1又は2記載の無線装置間の同期方法。
【請求項4】
自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を送信すると共に、上記第1信号を受信した他の無線装置から送信された第2信号に基づいて、当該他の無線装置との間における電波の伝搬時間を算出する伝搬時間算出手段と、
自身の精度ランクに関する情報と上記伝搬時間算出手段により算出された上記伝搬時間に関する情報とを上記他の無線装置に送信すると共に、上記他の無線装置の精度ランクに関する情報と、上記他の無線装置が保有する第2の同期タイミングと上記他の無線装置が上記第1信号かを受信したタイミングとの相対的な時間差に関する情報とを受信する情報交換手段と、
上記伝搬時間算出手段により算出された伝搬時間と、上記情報交換手段により受信した上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に、共有した自らの上記精度ランクに関する情報と上記他の無線装置の精度ランクに関する情報を比較し、上記他の無線装置との間で、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期する同期手段とを備えること
を特徴とする無線装置。
【請求項5】
他の無線装置が自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて生成された第1信号を受信した場合には、これに応答する第2信号を送信する送信手段と、
自ら保有する第2の同期タイミングと上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出する時間差算出手段と、
上記他の無線装置の精度ランクに関する情報と、上記送信手段により送信した第2信号に基づいて算出された当該他の無線装置との間における電波の伝搬時間に関する情報とを受信すると共に、自身の精度ランクに関する情報と上記時間差算出手段において算出された上記時間差に関する情報とを上記他の無線装置に送信する情報交換手段と、
上記情報交換手段により受信した上記伝搬時間と、上記時間差算出手段により算出された上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に、共有した自らの上記精度ランクに関する情報と上記他の無線装置の精度ランクに関する情報を比較し、上記他の無線装置との間で、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期する同期手段とを備えること
を特徴とする無線装置。
【請求項6】
互いに無線通信可能な第1無線装置及び第2無線装置との間で同期するための無線装置間の同期システムにおいて、
自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を第1無線装置から送信すると共に、受信した上記第1信号に応答する第2信号を第2無線装置から送信し、上記第2信号を受信した上記第1無線装置において上記第2無線装置との間における電波の伝搬時間を算出する伝搬時間算出手段と、
上記第2無線装置において自ら保有する第2の同期タイミングと上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出する時間差算出手段と、
上記第1無線装置から自身の精度ランクに関する情報と上記伝搬時間算出手段により算出された上記伝搬時間に関する情報とを上記第2無線装置に送信すると共に、上記第2無線装置から自身の精度ランクに関する情報と上記時間差算出手段により算出された上記時間差に関する情報とを上記第1無線装置に送信する情報交換手段とを備え、
上記第1無線装置及び/又は上記第2無線装置は、互いに共有した上記伝搬時間と上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に上記精度ランクに関する情報を比較し、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期すること
を特徴とする無線装置間の同期システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに無線通信可能な第1無線装置及び第2無線装置との間で同期するための無線装置間の同期方法及び同期システム、無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機が電話線で接続されている場所にとらわれず、移動しながらでも音声通話を行うことのできるシステムとして開発されたセルラ無線通信システムは、現在、音声通話のためだけでなく、情報通信を活用した多種多様なサービスを利用するために用いられている。更には、人間が手元の端末によりサービスを利用するだけでなく、各種センサーや産業機械の遠隔操作など産業分野での利用も広がっている。
【0003】
一方、オフィスや家庭でパーソナルコンピュータを手軽にコンピュータ間ネットワークに接続するために開発された無線LAN(Local area network)も、情報通信を活用した多種多様なサービスを利用する際に用いられている。このため、セルラ無線通信システム及び無線LANは、通信が行われる地理的場所の広がりや通信を利用可能にする契約形態に差異があるものの、情報通信を活用したサービス利用の観点では垣根のないものとなっている。
【0004】
情報通信を活用したサービスについては、当初は短い文字情報の送受信で実現するものであったが、画像や音楽データ、動画データを送受信するもの、特に近年においてより高詳細、高画質な動画データ、仮想現実環境を伝達するものへと広がってきており、通信すべきデータ量は増大し続けている。また、一度に多量の機器を接続することへの要求も高まっている。
【0005】
セルラ無線通信システム及び無線LANは、これまで、高次の変調方式を利用し、多数のアンテナ素子を使用するMIMO(Multi-Input Multi-Output)通信路等のような電波の単位周波数幅当たりに伝達できるデータ量を増大する技術の導入と、システムが利用する周波数帯域幅の増大により、通信データ量の増大に応えてきた。
【0006】
ここで、電波の単位周波数幅当たりに伝達できるデータ量は、信号の電力に応じた上限があり、安全上の理由および通信システム全体のグリーン化の要求により、電波として放射が許容されるエネルギーの絶対量に制限がかけられる場合があった。また通信を行うために消費が許容される電力に制限がかけられる中では、電波の単位周波数幅当たりに伝達できるデータ量を現状以上に増大させることは難しい。
【0007】
従って、システムが利用する周波数帯域幅の増大が必要になるが、放送、衛星による測位やセンシング、気象レーダー、警察や消防の無線、航空機や船舶用の無線、アマチュア無線等、既存の電波利用システムが集中する概ね6GHz以下の周波数でセルラ無線通信システムや無線LANが利用できる周波数帯を新たに確保するのは難しい。
【0008】
そこで、概ね10GHz~100GHzの周波数の電波を示すミリ波や、100GHzを超えるサブテラ波、1~10THzに及ぶテラヘルツ波をセルラ無線通信システムや無線LANで利用することが検討されている。3GPP(登録商標)は主に28GHz帯のミリ波を使用するセルラ無線通信標準を作成し、一部で実用化されている。IEEEでは、60GHz帯を利用する無線LAN規格802.11adや802.11ayを、300GHz帯を使用してPoint to Pointで通信を行う802.15.3d等の技術標準を作成した。これらミリ波、サブテラ波、テラヘルツ波では、一度にまとまった帯域幅が使用可能になる。例えば、IEEE802.11ay標準では、2.16GHz幅を基本として、それを4個束ねた8.7GHzの帯域幅を利用可能としており、802.15.3d標準では最大で32個束ねた69GHz幅の使用を可能にしている。この様な広い帯域幅を10GHz以下の周波数で確保することはできない。
【0009】
Friisの伝送公式によれば、電波が自由空間を伝搬する際の受信端における受信電力Prは、Pr=(λ/4πd)2・Gr・Gt・Ptで与えられる。λ、d、Gr、Gt、Ptは、それぞれ電波の波長、送受信点間の距離、受信アンテナの指向性利得、送信アンテナの指向性利得、送信電力である。波長は周波数に反比例して短くなるので、受信電力は、周波数の2乗に反比例して弱くなる。室内や路上等、自由空間でない伝搬路については、統計的に2乗から外れることがあることも知られているが、周波数の2乗に近い値で受信電力が弱くなることには変わりない。したがって、高い周波数を使用する通信では、互いに送受信する一方あるいは双方で指向性利得の高いアンテナを使用して、受信電力の低下を補わなければならない。指向性利得の高いアンテナは、電波を特定の方向に集中して放射し、或いは特定の方向から到来する電波に対して電波を強く受信する一方、その他の方向に対して放射或いは受信する電波の強度が弱くなるアンテナである。
【0010】
セルラ無線通信システムの多くは、使用する電波の周波数帯について免許制を前提としており、許可を受けた事業者が与えられた周波数帯を排他的に使用して無線通信システムを構築、運用する。セルラ無線通信システムは、使用が許可された周波数帯をさらに細かく分割した個々の周波数リソースとその周波数リソースを使用する時間帯の両方を指定して無線リソースとし、一定のエリアごとに設置された無線基地局がそのエリアにおける無線リソースの使用を管理、制御する。一方、無線LANの多くは、免許を必要としない周波数帯(アンライセンスドバンド)で使用され、CSMA-CA(Carrier Sense Multiple Access - Collision Avoidance)方式を採用している。端末およびアクセスポイントは通信を行おうとする無線リソースの直前でその周波数帯の電波の使用状況をモニタし、他者によって電波が使用されていないと判断したときに通信を行う。
【0011】
セルラ無線通信システムの無線基地局が行う無線リソースの使用の制御は、無線基地局から配下の端末への通信を行う下りリンクと、配下の端末から無線基地局への通信を行う上りリンクが異なる周波数帯を使用する周波数分割多重(Frequency Division Multiple Access:FDMA)方式と、同じ周波数帯内で時間を区切って時間ごとに下りリンクと上りリンクを使い分ける時分割多重(Time Division Multiple Access:TDMA)方式がある。いずれの場合にも、無線基地局が、無線基地局自身および配下の端末に排他的な無線リソースの割り当てを行うので、一つの無線基地局が無線リソースを管理する範囲内では無線リソースの競合が避けられる。
【0012】
一方、隣接する無線基地局がそれぞれ無線リソースの管理を行う場合、一方が使用する無線リソースでの通信が同じ無線リソースを使う他方の通信に干渉を与える。これは、図9に示すように、下りリンクと上りリンクが同じ周波数帯を使用するTDD方式を採用する場合に影響が深刻化する可能性がある。無線基地局71は、通常、屋外であればビル屋上や電柱等の構造物上、屋内であっても天井付近の壁面等、お互いに離れた場所に設置され動くものではない。端末72が人や物とともに移動しても、無線基地局と端末の間にはある程度の物理的距離が保たれる。一方、端末72同士は移動に伴い近接してしまうケースが生じる。このような場合、一方の端末72aがある無線基地局71aのもとで管理された無線リソースにより受信を行う際に、近接した他方の端末72bが別の無線基地局71bが管理した同じ無線リソースで送信を行うと強い干渉となり、端末72aの受信を妨害する。この問題は、無線リソースを上りリンクに使う時間帯と下りリンクに使う時間帯について無線基地局71a、71b間で同期をとり、同じタイミングで受信を行う端末72と送信を行う端末72が混在しない様にすることで避けられる。IEEE802.11ay標準でも衛星測位システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)等を用いてアクセスポイントが同期状態を確保する仕組みが提供され、異なるアクセスポイント配下の無線通信間の干渉の低減を図っている。
【0013】
ある端末がある無線基地局あるいはアクセスポイントの同期信号を発見したとき、それが最適な接続先かが不明であれば別の無線基地局やアクセスポイントの同期信号を探索する必要がある。しかしながら、無線基地局やアクセスポイント間に時間的な同期がなく、それぞれが自らのタイミングで通信を行っている場合、最初に発見した無線基地局やアクセスポイントから別の無線基地局やアクセスポイントを効率的に発見する仕組みを構築することは難しい。また、多数の無線基地局やアクセスポイントからそれぞれの同期信号が受信されると、それだけ空きの無線リソースが減ることにもなる。無線基地局やアクセスポイント間に時間的な同期があり、例えば、全ての無線基地局やアクセスポイントが同時に同期信号を発するように定めておけば、端末は、短い時間差でいくつか受信される同期信号のうち、最も早く受信した同期信号を最も近い無線基地局あるいはアクセスポイントのものとして認識できるようになる。特にテラヘルツ波など高い周波数の電波を使用する際は、同期信号の継続時間を短くすることが容易であるので、異なる距離関係にある複数の無線基地局あるいはアクセスポイントからの同期信号が時間軸上で分離されやすくなる。
【0014】
また、端末が複数の無線基地局あるいはアクセスポイントの電波を受信できるとき、それらの無線基地局やアクセスポイントの送信する信号に時間的な同期が確保されていれば、端末の位置を特定することができ、構築される無線通信システム上で位置の確認に結び付いたアプリケーションの発展を支えることができると考えられる。特に、テラヘルツ波など高い周波数の電波を使用する際は10GHzを超えるような帯域幅が確保できるので、1cm或いははそれ以下の精度での位置の特定も可能になると考えられる。無線基地局あるいはアクセスポイントの時間的な同期は、標準時刻や衛星測位システム(GNSS)を用いた絶対時刻への同期が望ましいが、少なくとも局所的に相対的な同期が保たれていればその局所の範囲内での相対的な位置の特定ができるので、それで十分なアプリケーションも多いと考えられる。グローバルな場所の特定が必要であれば、IPアドレスから得られる情報など別の従来手段と組み合わせれば良いとも考えられる。
【0015】
以上に述べたいくつかの理由から、無線通信システムを構築する際、無線基地局あるいはアクセスポイント間で時間同期を確保されたものとするのが望ましいと言える。これはテラヘルツ波など高い周波数の電波を用いる際により顕著に言えるようになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】中西、他、"高精度時刻同期アクセスシステムの開発導入"NTT技術ジャーナル、2017年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
基地局(アクセスポイント)間の時刻同期を図るいくつかの技術の一つとして、図10に示すようにIEEE1588標準に定められたPTP(Precision Time Protocol)を用いることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。これに従えば、ネットワーク上に原子時計あるいはGNSS同期機能を備えたグランドマスター(GM)81と呼ばれる高精度クロック源を配置し、各無線基地局71a、71bはスレーブとしてネットワークを介してGM81或いはGM81と時刻同期を確保したマスターとPTPによる通信を行うことによって時刻同期を確保する。
【0018】
PTPによる時刻同期の方法は、GM81或いはマスターがタイムスタンプ(t1)付きのSync信号をスレーブである無線基地局71に送る。無線基地局71はこれを受信した自身の時刻(t1´)を記録する。また無線基地局71は、自身のタイムスタンプ(t2)を付けたDelay_Req信号をGM81或いはマスターに送信する。GM81或いはマスターはそれを受信した時刻(t2´)を無線基地局71に送信する。無線基地局71は、通知されたタイムスタンプおよび自身の時刻の差から自身とGM81或いはマスター間の信号の伝搬時間が{(t1´-t1)+(t2´-t2)}/2であり、時刻の差が{(t1´-t1)-(t2´-t2)}/2であることを算出することができ、時刻の差を補正することができる。
【0019】
また、セルラ無線通信システムでは、無線基地局の同期信号を受信した端末が所定のタイミングでランダムアクセス信号を送信し、それを受信した無線基地局は自身の発した同期信号の送信時刻と受信したランダムアクセス信号の受信時刻の差より無線基地局と端末との間の電波の伝搬時間を測定することができる。それを端末に通知することで端末は伝搬時間を知ることができ、無線基地局が受信するタイミングに合わせた送信が可能になる。これは、無線基地局をマスター、端末をスレーブとして、PTPによる時刻同期におけるt2-t1´を所定の既知の固定値にすることにより無線基地局がt2´-t1の値により伝搬時間を算出していることに相当する。また、端末はタイムスタンプの値を必要としないので、同期信号やランダムアクセス信号にタイムスタンプは用いられていない。
【0020】
IEEE1588標準に定められたPTPを使用して同期した無線基地局による無線システムを構成するには、GMをはじめPTPに対応した機器を用いてバックボーンのネットワークを構築する必要があり、システム全体が高価になるという問題がある。
【0021】
一方、マスターとした無線基地局に別の無線基地局をスレーブとして同期させる方式では、特別なマスター無線基地局をあらかじめ設定することや、そのマスター無線基地局の故障時に代替マスター無線基地局が立ち上がる仕組みなど、種々の追加的な取り決めや設定が必要となり、システムの構築や運用メンテナンスが複雑になる、という欠点を有する。
【0022】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、IEEE1588標準に対応する機器によってネットワークを構築することなく、無線基地局間を同期させることができ、無線システム全体を安価に構築することが可能な無線装置間の同期方法及び同期システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した課題を解決するために、本発明に係る無線装置間の同期方法は、互いに無線通信可能な第1無線装置及び第2無線装置との間で同期するための無線装置間の同期方法において、自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を第1無線装置から送信すると共に、受信した上記第1信号に応答する第2信号を第2無線装置から送信し、上記第2信号を受信した上記第1無線装置において上記第2無線装置との間における電波の伝搬時間を算出し、上記第2無線装置において自ら保有する第2の同期タイミングと、上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出し、上記第1無線装置から自身の精度ランクに関する情報と算出した上記伝搬時間に関する情報とを上記第2無線装置に送信すると共に、上記第2無線装置から自身の精度ランクに関する情報と算出した上記時間差に関する情報とを上記第1無線装置に送信し、上記第1無線装置及び/又は上記第2無線装置において、互いに共有した上記伝搬時間と上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に上記精度ランクに関する情報を比較し、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る無線装置は、自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を送信すると共に、上記第1信号を受信した他の無線装置から送信された第2信号に基づいて、当該他の無線装置との間における電波の伝搬時間を算出する伝搬時間算出手段と、自身の精度ランクに関する情報と上記伝搬時間算出手段により算出された上記伝搬時間に関する情報とを上記他の無線装置に送信すると共に、上記他の無線装置の精度ランクに関する情報と、上記他の無線装置が保有する第2の同期タイミングと上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差に関する情報とを受信する情報交換手段と、上記伝搬時間算出手段により算出された伝搬時間と、上記情報交換手段により受信した上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に、共有した自らの上記精度ランクに関する情報と上記他の無線装置の精度ランクに関する情報を比較し、上記他の無線装置との間で、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期する同期手段とを備えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る無線装置は、他の無線装置が自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて生成された第1信号を受信した場合には、これに応答する第2信号を送信する送信手段と、自ら保有する第2の同期タイミングと上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出する時間差算出手段と、上記他の無線装置の精度ランクに関する情報と、上記送信手段により送信した第2信号に基づいて算出された当該他の無線装置との間における電波の伝搬時間に関する情報とを受信すると共に、自身の精度ランクに関する情報と上記時間差算出手段において算出された上記時間差とを上記他の無線装置に送信する情報交換手段と、上記情報交換手段により受信した上記伝搬時間と、上記時間差算出手段により算出された上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に、共有した自らの上記精度ランクに関する情報と上記他の無線装置の精度ランクに関する情報を比較し、上記他の無線装置との間で、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期する同期手段とを備えることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る無線装置間の同期システムは、互いに無線通信可能な第1無線装置及び第2無線装置との間で同期するための無線装置間の同期システムにおいて、自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて第1信号を第1無線装置から送信すると共に、受信した上記第1信号に応答する第2信号を第2無線装置から送信し、上記第2信号を受信した上記第1無線装置において上記第2無線装置との間における電波の伝搬時間を算出する伝搬時間算出手段と、上記第2無線装置において自ら保有する第2の同期タイミングと上記第1信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出する時間差算出手段と、上記第1無線装置から自身の精度ランクに関する情報と上記伝搬時間算出手段により算出された上記伝搬時間に関する情報とを上記第2無線装置に送信すると共に、上記第2無線装置から自身の精度ランクに関する情報と上記時間差算出手段により算出された上記時間差に関する情報とを上記第1無線装置に送信する情報交換手段とを備え、上記第1無線装置及び/又は上記第2無線装置は、互いに共有した上記伝搬時間と上記時間差に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出すると共に上記精度ランクに関する情報を比較し、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
上述した構成からなる本発明によれば、IEEE1588標準に対応する機器によってネットワークを構築することなく、無線基地局間を同期させることができ、無線システム全体を安価に構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明を適用した無線装置間の同期システムの全体構成を示す図である。
図2図2は、無線装置のブロック構成図である。
図3図3は、第1実施形態に係る無線装置間の同期システムの動作を実行する上でのタイムチャートである。
図4図4は、第1実施形態に係る無線装置間の同期システムの他の動作を実行する上でのタイムチャートである。
図5図5は、無線装置間で伝搬時間を通知するメッセージの形式について説明するための図である。
図6図6は、精度ランクを6段階に分類して通知するフィールドの例について示す図である。
図7図7は、第2実施形態に係る無線装置間の同期システムの動作を実行する上でのタイムチャートである。
図8図8は、第3実施形態に係る無線装置間の同期システムの動作を実行する上でのタイムチャートである。
図9図9は、従来技術の問題点について説明するための図である。
図10図10は、基地局間の時刻同期を図る技術の一つとして、IEEE1588標準に定められたPTPを用いる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を適用した無線装置間の同期システムについて図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0030】
第1実施形態
図1は、本発明を適用した無線装置間の同期システム1の全体構成を示す図である。この同期システム1において、複数の無線装置2と、各無線装置2との間で無線通信する端末3とを備えている。以下の例において無線装置2は、2つの無線装置2a、2bの2つにより構成される場合を例にとり説明をするが、これに限定されるものではなく、無線装置2は3以上により構成する場合も含まれる。
【0031】
無線装置2は、セルラ無線通信システムの無線基地局あるいは無線LANにおけるアクセスポイントであり、自身がマスターとなり、端末3との間で無線通信を行う。また無線装置2は、他の無線装置2との間でも互いに無線通信することができる。但し、この無線装置2は、このような無線基地局やアクセスポイントで構成される場合に限定されるものではなく、無線装置2自身がスマートフォンや携帯端末、PC(パーソナルコンピュータ)、ウェアラブル端末、タブレット型端末で構成されるものであってもよい。
【0032】
端末3は、無線装置2との間で無線通信可能なあらゆる電子機器であり、スマートフォンや携帯端末、モバイル型PC、ウェアラブル端末、タブレット型端末等、これらを携帯する携帯者の移動によって通信位置が変化する。
【0033】
図2は、無線装置2のブロック構成図である。なお、この図2に示すブロック構成図は、本発明所期の効果を発現させる上で最低限必要な構成要素を示しており、無線基地局やアクセスポイントとして動作するためのその他の構成要素は図示していない。
【0034】
無線装置2は、無線部21と、この無線部21に接続された送受信制御部31と、送受信制御部31に接続された受信時刻測定部28とを備え、更に、これら無線部21、送受信制御部31、受信時刻測定部28とにそれぞれ接続された同期信号生成部22、伝搬時間測定信号生成部23、通知信号生成部24、同期信号検出部25、伝搬時間測定信号検出部26、通知信号検出部27とを備えている。また無線装置2は、受信時刻測定部28、同期信号生成部22に接続されたタイミング保持部30と、受信時刻測定部28及びタイミング保持部30に接続されたタイミング補正部32とを備えている。
【0035】
無線部21は、端末3又は他の無線装置2との間で無線通信をする上で必要なアンテナや、周波数変換回路、変調回路、符号化又は復号化を実行するための部位で構成される。無線部21は、同期信号生成部22、伝搬時間測定信号生成部23、通知信号生成部24が生成した信号を送受信制御部31から指定される無線周波数および出力レベルの無線信号に変換してアンテナを介して発信する。無線部21は、アンテナを介して受信する信号のうち、送受信制御部31から指定される無線周波数の信号を同期信号検出部25、伝搬時間測定信号検出部26、通知信号検出部27が動作可能な信号に変換する受信動作を行う。
【0036】
同期信号生成部22は、同期信号を生成し、これを無線部21に送る。また伝搬時間測定信号生成部23は、伝搬時間測定信号を生成し、これを無線部21に送る。通知信号生成部24は、通知信号を生成し、これを無線部21に送る。
【0037】
同期信号検出部25は、無線部21が受信した信号から、同期信号の検出を行う。伝搬時間測定信号検出部26は、無線部21が受信した信号から、伝搬時間測定信号の検出を行う。通知信号検出部27は、無線部21が受信した信号から、通知信号の検出を行う。
【0038】
送受信制御部31は、無線部21に対して送受信動作の切り替え、所定の無線周波数や出力レベルの指定を行う。また送受信制御部31は、いかなる時点においていかなる信号を送信し、又は無線部21において受信した信号の中からいかなる信号を検出するかを決定する。送受信制御部31はその決定した内容について、同期信号生成部22、伝搬時間測定信号生成部23、通知信号生成部24、同期信号検出部25、伝搬時間測定信号検出部26、通知信号検出部27に通知し、各種指示を行う。
【0039】
受信時刻測定部28は、同期信号や伝搬時間測定信号を受信した時刻の測定を行う。
【0040】
タイミング保持部30は、同期信号生成部22において生成された同期信号を送信するタイミングの通知及び受信時刻測定部28が測定する時刻の基準を通知する。
【0041】
タイミング補正部32は、受信時刻測定部28が測定した時刻及び通知信号検出部27で検出した通知の内容に従い、タイミング保持部30が保持するタイミングの補正を行う。
【0042】
なお、タイミング保持部30及びタイミング補正部32の機能は、送受信制御部31が担うことも可能である。但し、本発明においては、特別に正確なタイミングの制御が望まれる場合があり、きわめて重要な機能であるので、これらタイミング保持部30及びタイミング補正部32を独立した構成要素としている。
【0043】
次に、本発明を適用した同期システム1の動作について説明をする。同期システム1では、上述した図2に示す構成要素をそれぞれ備える無線装置2a、2b間において互いに同期を取る。
【0044】
かかる場合において、図3に示すように、無線装置2aは、自ら保有する第1の同期タイミングに基づいて同期信号を送信する。かかる場合において無線装置2aは、送受信制御部31による制御の下、自らの同期信号生成部22において同期信号を生成し、無線部21を介してこれを発信する。無線装置2aから発信された同期信号は、無線装置2bにより受信される。このとき無線装置2bは、自らの無線部21を介してこれを受信し、更に送受信制御部31による制御の下で、同期信号検出部25を介してこれを検出する。
【0045】
次に無線装置2bは、この同期信号を受けて、これに応答するための伝搬時間測定信号を無線装置2aに対して送信する。かかる場合には、送受信制御部31による制御の下で、伝搬時間測定信号生成部23により。伝搬時間測定信号を生成し、無線部21を介してこれを発信する。このとき、無線装置2bは、生成した伝搬時間測定信号に更に同期信号の受信時刻、伝搬時間測定信号の発信時刻に関する情報を含めるようにしてもよい。無線装置2bから発信された伝搬時間測定信号は、無線装置2aにより受信される。このとき無線装置2aは、自らの無線部21を介してこれを受信し、更に送受信制御部31による制御の下で、伝搬時間測定信号検出部26を介してこれを検出する。
【0046】
また無線装置2aは、伝搬時間測定信号検出部26を介して検出した伝搬時間測定信号の受信時刻を検出した上で、伝搬時間を算出する。このとき、無線装置2aは、自ら発信した同期信号の発信時刻、伝搬時間測定信号を検出した伝搬時間測定信号の受信時刻に基づいて、伝搬時間を算出する。この伝搬時間の算出方法の詳細は後段において詳述する。
【0047】
無線装置2bは、自ら保有する第2の同期タイミングと、無線装置2aが送信した同期信号を受信したタイミングとの相対的な時間差を算出する。この時間差の算出方法の詳細は後段において詳述する。
【0048】
次に、無線装置2aから自身の精度ランクに関する情報と算出した伝搬時間に関する情報とを第2無線装置2bに送信する。また無線装置2bから自身の精度ランクに関する情報と算出した時間差に関する情報とを無線装置2aに送信する。これにより、無線装置2aの精度ランクに関する情報と算出した伝搬時間、並びに無線装置2bの精度ランクに関する情報と算出した時間差とが、無線装置2a及び無線装置2b間において互いに情報交換され、共有されている状態となっている。なお、この送信する伝搬時間に関する情報、時間差に関する情報は、それぞれエンコードする等して送信する場合もある。
【0049】
次に、無線装置2a及び/又は無線装置2bにおいて、互いに共有した伝搬時間と時間差の各情報に基づいて同期タイミングのクロックずれを算出する。また、互いに共有した無線装置2a側の精度ランクに関する情報、並びに無線装置2b側の精度ランクに関する情報とを比較する。そして、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより算出したクロックずれを低減させることで同期する。
【0050】
なお、本実施形態においては、同期信号を送信してそれに応答した伝搬時間測定信号の受信時刻から電波の伝搬時間を計算して相手の無線装置2bに通知する無線装置2aと、同期信号を受信してそれに応答する伝搬時間測定信号を送信するとともに同期信号の受信時刻に関する情報を相手の無線装置2aに通知する無線装置2bからなるが、これに限定されるものではない。即ち、無線装置2aと無線装置2bとの役割を互いに入れ替えてもよく、無線装置2b側において、同期信号を送信してそれに応答した伝搬時間測定信号の受信時刻から電波の伝搬時間を計算して相手の無線装置2aに通知するようにしてもよい。同期信号は、1、0のシーケンスで変調した信号であってもよい。変調方式には例えば2値位相変調(Binary Phase-Shift Keying:BPSK)や、4値位相変調(Quadrature Phase Shift Keying:QPSK)を用いるようにしてもよい。
【0051】
無線装置2bは、無線装置2aが送信する同期信号が受信可能と想定される時間帯に同期信号の検出を試みる。同期信号が受信できるとされる時間帯は、無線装置2bが自ら保有する第2の同期タイミングに基づくことができる。例えば、無線装置2bが自ら保有する第2の同期タイミングが、同期信号を送信する無線装置2aの第1の同期タイミングとほぼ近いと想定した場合、無線装置2bは、自らの第2の同期タイミングの前後の一定時間の間に同期信号の検出を試みることができる。同期信号として決めたものと同じパターンの1、0のシーケンスが復調できれば、同期信号を検出できたものとする。
【0052】
図4(a)に示すように複数の無線装置2a-1、2a-2が存在する場合、無線装置2bは複数の同期信号を受信する場合がある。複数の無線装置2a-1、2a-2のそれぞれの第1の同期タイミングが既にほぼ一致していると仮定するならば、無線装置2bから最も近い無線装置2a-2の同期信号を最も早く受信することになり、無線装置2bは当該無線装置2a―2が送信した同期信号に応答して伝搬時間測定信号を送信することとなる。かかる場合には、この伝搬時間測定信号は、無線装置2a-2によって受信され、上述した伝搬時間がこの無線装置2a-2により算出されることとなる。
【0053】
また、無線装置2bは、最も早く受信した同期信号に対して応答する場合に限定されるものではなく、例えば最も信号強度の大きい同期信号に応答して伝搬時間測定信号を送信するようにしてもよい。かかる場合には、同期信号の受信時点に関わらず、最も大きい同期信号を発信した無線装置2aに対して伝搬時間測定信号を送信する。或いは、同期信号の信号強度にある閾値を定めておき、最初のその閾値を超えた同期信号に対して応答して無線装置2bから伝搬時間測定信号を送信するようにしてもよい。図4(b)に示すように、同期信号を検出した無線装置2bは、同期信号の受信後定められた処理時間(Ts)経過後に伝搬時間測定信号を送信する。処理時間(Ts)は0であることが望ましいが、実際には同期信号を受信してから伝搬時間測定信号を送信するまでの信号処理に時間が必要になる場合が多い。この処理時間(Ts)としては、予め決められた時間で設定するようにしてもよい。
【0054】
無線装置2aが送信した同期信号が、伝搬時間(TP)経過後に無線装置2bによって受信された場合、伝搬時間測定信号は、無線装置2bによる発信時刻から同じ伝搬時間(TP)経過後に無線装置2aにより受信されることとなる。このため、無線装置2aは、図4(b)に示すように、同期信号を送信時刻から2×TP+Ts経過後に伝搬時間測定信号を受信することになる。
【0055】
従って、無線装置2aは、同期信号を送信してから伝搬時間測定信号を受信するまでの時間を計測し、そこからあらかじめ決められた処理時間(Ts)を差し引き2で割ることにより、伝搬時間TPを求めることができる。
【0056】
無線装置2aと無線装置2bの間で、伝搬時間TPを通知するメッセージの形式を定めておき、それにより無線装置2aは無線装置2bに伝搬時間TPを通知する。例えば、図5に示すように、6ビット幅のフィールドを割り当てた通知メッセージを定めれば、0~63の数値を、1nsから64nsまでの伝搬時間を1nsの分解能を以って、或いは10~41.5nsの伝搬時間を0.5nsの分解能を以って使用することができる。
【0057】
前者の1nsの分解能の場合、情報の数値nとそれが表す伝搬時間の関係はTP=n+1(ns)で表すことができる。後者の0.5nsの分解能の場合はTP=0.5×n+10(ns)である。
【0058】
各無線装置2は、自身の精度ランクに関する情報を生成する上で、その精度はクロック源に応じたものとしてもよい。即ち、無線装置2は、自身の装置に実装されているクロック源が、例えばセシウム原子時計などの高精度な原子時計をクロック源とする場合や、それをグランドマスターとしてその精度が確保可能な同期ネットワークによって同期を確保しているなら、高い精度ランクを有していることになる。一方、特にネットワーク同期を持たず、自身の装置に実装された晶発振器によるクロック源で動作している場合には、精度ランクは低いものとなる。仮に水晶発振器をクロック源とする場合であっても、温度を一定に保つ恒温槽を有した水晶発振器を源振とする場合、温度変化を補償する水晶発振器を源振とする場合、温度変化による対策を特に有しない水晶発振器を源振とする場合等に応じて精度ランクを異ならせるようにしてもよい。
【0059】
無線装置2間において互いに送受信する精度ランクに関する情報は、例えばフィールド幅3ビットのメッセージを用いれば最大8段階に分けた精度ランクを通知することができる。図6は、精度ランクを6段階に分類して通知するフィールドの例である。同期信号を検出した無線装置2bは、無線装置2aへ伝搬時間測定信号を送信すると共に、自身のタイミングを基準として同期信号を検出した時刻を計測する。この時刻は、無線装置2aと無線装置2bがそれぞれ保有する同期タイミングが完全に一致している場合、電波の伝搬時間TPに等しくなる。
【0060】
一方、無線装置2aと無線装置2bとの間において、同期タイミングにつきTDのずれがある場合、無線装置2bの同期タイミングを基準とした同期信号の受信時刻は、TD+TPとなる。この同期タイミングのずれは、自身の同期タイミングが相手の同期タイミングに比べて早い場合、又は遅い場合の何れかを+と定義しても構わないが、以下では、自身の同期タイミングが早い方を+としている。
【0061】
無線装置2bは、このようにして得られた、自身の同期タイミングを基準とした同期信号の受信時刻に関する情報を無線装置2aに通知する。自身の同期タイミングを基準とした同期信号の受信時刻は、相対値であり、この通知に使用するメッセージは、図5に示したフィールドを持つ無線装置2aが無線装置2bに電波の伝搬時間を通知するためのメッセージと同種のメッセージが使用できる。但し、ビットフィールド幅や通知する数値が意味する時刻の換算式がこれと異なるものであってもよい。通知すべき時刻の最大値、最小値の差が大きい場合には、通知するメッセージのフィールドで使用する数値のうちの1又は2つを、他の数値が対応しているタイミング差の最小値以下、又は最大値以上と定義するようにしてもよい。
【0062】
無線装置2bは、自身の保有するタイミングの精度ランクに関する情報も無線装置2bに通知する。かかる場合には、無線装置2aが無線装置2bに精度ランクに関する情報を通知するときに使用する図5に示すフィールドを持つメッセージと同じ形式のメッセージを使用することができる。
【0063】
無線装置2aは、上述したように伝搬時間TPを算出すると共に、無線装置2bから、無線装置2bの同期タイミングを基準とした同期信号の受信時刻(TD+TP)に関する通知を受け取る。そして、無線装置2aは、伝搬時間(TP)-受信時刻(TD+TP)の式により、無線装置2aと無線装置2bのタイミング差、いわゆるクロックずれを得る。上述した式の場合、タイミング差は-TDとなる。自身のタイミングが相手より早い方を+と定義したので無線装置2bのタイミングが無線装置2aのタイミングより早い場合、無線装置2aにとっては無線装置2bのタイミングより遅いことになり、タイミング差は負となる。
【0064】
無線装置2bは、自身の同期タイミングを基準とした同期信号の受信時刻(TD+TP)を計測し、無線装置2aから伝搬時間TPに関する通知を受け取ることによりこれを取得することになる。無線装置2bは、伝搬時間TPを取得した上で、自ら計測した受信時刻(TD+TP)-伝搬時間(TP)の式により、無線装置2aと無線装置2bとのタイミング差、いわゆるクロックずれTDの値を得ることができる。
【0065】
以上により、無線装置2a及び無線装置2bの双方は、自身の同期タイミングが相手の同期タイミングよりどれだけ早いかを示すクロックずれの値(遅い場合は負値)であるTDをそれぞれ取得しており、また、無線装置2a及び無線装置2bの双方の精度ランクに関する情報を得ている。
【0066】
無線装置2a及び/又は無線装置2bは、その自他の精度ランクを比較する。そして、無線装置2a及び/又は無線装置2bは、比較した精度ランクのより優れる方の同期タイミングに向けて補正することにより上記算出したクロックずれを低減させることで同期する。
【0067】
具体的には、無線装置2a及び/又は無線装置2bは、自身の精度ランクが相手よりも低位である場合、自身の同期タイミングを相手の同期タイミングに合わせるように自身の同期タイミングを制御する。仮に無線装置2aの精度ランクが、無線装置2bの精度ランクよりも低位である場合、無線装置2aは、TDだけ自身の保有する同期タイミングを遅らせ、又は早くする。これにより、無線装置2a、無線装置2b間においてクロックずれTDが解消されることとなり、互いの同期タイミングを同一にすることができる。つまり、TDが負値の場合、自身の保有する同期タイミングを進めればよい。
【0068】
仮に無線装置2aと無線装置2bとの間で精度ランクが同位である場合、タイミング差TDの1/2だけ自身の保有する同期タイミングを遅らせる。TDが負値の場合、TDの1/2だけ自身の保有する同期タイミングを進める。一方TDが正値であればTDの1/2だけ自身の保有する同期タイミングを遅らせる。即ち、無線装置2aと無線装置2bとの間で同期タイミングが遅れている側につきTDの1/2を進め、同期タイミングが進んでいる側につきTDの1/2を遅らせる。これにより、無線装置2aと無線装置2bとの間で同期タイミングを同一にすることができる。
【0069】
但し、本発明は、精度ランクが同位である場合に、必ずしも同期タイミングが遅れている側につきTDの1/2を進め、同期タイミングが進んでいる側につきTDの1/2を遅らせる場合に限定されるものではない。進ませるタイミング量TD×μ、及び遅らせるタイミング量TD×(1-μ)は、μ=1/2に限定されるものではなく、μは0~1のいかなる値で設定されるものであってもよい。
【0070】
第2実施形態
なお、上述した第1実施形態においては、無線装置2aと無線装置2bとが互いに異なる機能を担う場合を例に挙げて説明をしたが、これに限定されるものではない。例えば一つの無線装置2cが、上述した第1実施形態における無線装置2aの機能と、無線装置2bの機能の双方を兼ね備えることができる。かかる場合における無線装置2cは、図7に示すように、無線装置2aと同様に、自身の保有する同期タイミングにおいて同期信号を送信する。そして、無線装置2cは、送信を行っていない時間帯に他の無線装置2dが送信する同期信号の受信を試みる。無線装置2cによる他の無線装置dが送信する同期信号の受信を試みる時間帯は、図7(a)に示すように同期信号の送信を一時的に休止した時間帯でもよく、又は図7(b)に示すように自身が同期信号を送信した直後でもよい。
【0071】
他の無線装置2dがほぼ同時刻に同期信号を送信している場合は、同期信号の継続時間が両者間の電波の伝搬時間より短ければ、同期信号を送信した直後に他の無線装置2dが送信する同期信号を受信することができる。例えば、無線装置2cと無線装置2dとが3m以上離間している場合、電波が3mの距離を伝搬するのにかかる時間が10nsであるので、同期信号の継続時間を10nsと設計しておけば、同期信号の送信後に他の無線装置が送信する同期信号を受信することができる。
【0072】
ここで、無線装置2cが、他の無線装置2dが送信する同期信号を受信した場合、上述した第1実施形態における無線装置2bとしての動作を行えば、保有する同期タイミングの補正を行うことができる。或いは同期信号を送信した後はそのまま第1実施形態における無線装置2aとして動作し、保有する同期タイミングの補正を行うこともできる。無線装置2aとして動作するか無線装置2bとして動作するかは、送受信制御部31において任意に選択するようにしてもよい。例えば、同期信号を送信した直後は無線装置2aとして動作し、その後所定の期間内に伝搬時間測定信号を検出しなかった場合に無線装置2bとしての動作に切り替え、他の無線装置2dが送信する同期信号の検出を行うようにしてもよい。また、保有する精度ランクが上位である場合には無線装置2aとして動作する割合を多くし、逆に低位である場合は無線装置2bとして動作する割合を多くするような制御も可能である。
【0073】
第3実施形態
第1実施形態における無線装置2a及び無線装置2b、又は第2実施形態における双方の機能を兼ね備えた無線装置2cは、それぞれ無線部21において指向性アンテナを使用することもできる。
【0074】
かかる場合において、図8に示すように、無線装置2a又は無線装置2cにおける送受信制御部31は、同期信号の送信の機会毎に、種々の送信指向性P1、P2を選択し、無線部21に対して指示を送るようにしてもよい。無線装置2a又は無線装置2cからある指向性P1を持つアンテナにより同期信号を送信した場合、その方向にいる他の無線装置2bから伝搬時間測定信号を受信する可能性が高いと考えられるため、その同期信号を送信したときに使用したアンテナと同一のアンテナ、又はその使用したアンテナと同一の指向性P1をもつアンテナによって、伝搬時間測定信号の受信を試みるようにしてもよい。同様に無線装置2a又は無線装置2cからある指向性P2を持つアンテナにより同期信号を送信した場合、その同期信号を送信したときに使用したアンテナと同一のアンテナ、又はその使用したアンテナと同一の指向性P2をもつアンテナによって、伝搬時間測定信号の受信を試みるようにしてもよい。
【0075】
更に、伝搬時間に関する情報の通知、精度ランクに関する情報の通知、同期信号の受信時刻に関する情報の通知等に必要な無線通信も、同一のアンテナ、或いはその使用したアンテナと同一の指向性を持つアンテナを用いるようにしてもよい。同様に、無線装置2b、或いは無線装置2bの動作を行う第2実施形態における無線装置2cが、ある指向性を持つアンテナにより同期信号を受信した場合、その指向性の方向に相手の無線装置がいる可能性が高いと考えられるので、それに応答した伝搬時間測定信号の送信、同期信号の受信時刻に関する情報の通知の送信、タイミングの精度ランクに関する情報の通知等に必要な無線通信に、同一のアンテナ、或いは同一の指向性を持つアンテナを用いて行うようにしてもよい。
【0076】
第4実施形態
無線装置2aは、精度ランクに関する情報の通知を、同期信号を送信するよりも事前に送るようにしてもよい。同様に、無線装置2bは、同期信号を受信するよりも事前に精度ランクに関する情報を通知するようにしてもよい。或いは、パターンが既知の1、0のシーケンスをN通り定義しておき、そのそれぞれに番号nを対応付け、更に各nに精度ランクを対応付けておく。一つの精度ランクに複数のnが対応付けられていてもよい。
【0077】
いずれの場合においても、このような処理動作を行うことにより、同期信号を受信し、シーケンスのパターンを特定した無線装置2bは、暗黙的に無線装置2aの精度ランクに関する通知を受けたことになる。同様に、伝搬時間測定信号に用いる信号にも番号が対応づけられる複数のシーケンスのパターンを定めておけば、伝搬時間測定信号を受信した無線装置2aは、そのシーケンスのパターンにより暗黙的に無線装置2bの精度ランクに関する通知を受けたことになる。
【0078】
第5実施形態
タイミング差TDと自他の精度ランクに関する情報を得た無線装置2aと無線装置2bが、自身の保持する同期タイミングを補正する際、補正値に上限を設定することができる。つまり、Max_TDを定めておき、補正すべきタイミング差がMax_TDを超える場合、補正すべきタイミング差が負値の場合は-Max_TDより小さい場合、Max_TD(又は-Max_TD)を補正値としてタイミング差の補正を行う。これにより、一度の補正でタイミング差、クロックずれを解消することができなくなるが、保持する同期タイミングが急に変化することによって起こりうる通信プロトコル上の不定な動作を回避することができる。Max_TDを適用する代わりに、あるいはMax_TDの適用と併用して、ある係数μを定めてタイミング差TDに対しμ×TDを補正値としてタイミング差の補正をすることも可能である。第1実施形態は、精度ランクが上位の場合μ=0であり、下位の場合はμ=1であり、同位の場合にはμ=1/2に相当する。補正を行う無線装置2a、無線装置2bでのそれぞれのμの和が1であれば、一回のタイミング補正でタイミング差を解消することができるが、1以下に選ぶこともできる。例えば、一度の補正でタイミング差の1/5を解消するとしてμの和を0.2とし、精度ランクが上位の場合μ=0.01、下位の場合μ=0.19、同位の場合にはμ=0.1のように選択することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 同期システム
2 無線装置
3 端末
21 無線部
22 同期信号生成部
23 伝搬時間測定信号生成部
24 通知信号生成部
25 同期信号検出部
26 伝搬時間測定信号検出部
27 通知信号検出部
28 受信時刻測定部
30 タイミング保持部
31 送受信制御部
32 タイミング補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10