(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151445
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】帽子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A42C 1/00 20060101AFI20241018BHJP
A42C 1/04 20060101ALI20241018BHJP
A42B 1/019 20210101ALI20241018BHJP
【FI】
A42C1/00 H
A42C1/04
A42B1/019 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064763
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】301015967
【氏名又は名称】株式会社コカジ
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】古鍛治 豊道
(57)【要約】
【課題】ヒサシを丸めてポケットに収納した際に、ポケットが大きく膨らんでしまうことを効果的に防止することができる帽子の製造方法を提供する。
【解決手段】ヒサシを有する帽子の製造方法であって、ヒサシ用の芯材を布体で包囲したヒサシ中間体を形成するヒサシ中間体形成ステップと、前記ヒサシ中間体をクラウンと一体化して帽子中間体を形成する帽子中間体形成ステップと、前記帽子中間体の前記ヒサシ中間体をプレスして該ヒサシ中間体に湾曲面を形成するプレスステップとを備えており、前記芯材は、発砲倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板であり、前記プレスステップは、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施されることを特徴とする帽子の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒサシを有する帽子の製造方法であって、
ヒサシ用の芯材を布体で包囲したヒサシ中間体を形成するヒサシ中間体形成ステップと、
前記ヒサシ中間体をクラウンと一体化して帽子中間体を形成する帽子中間体形成ステップと、
前記帽子中間体の前記ヒサシ中間体をプレスして該ヒサシ中間体に湾曲面を形成するプレスステップとを備えており、
前記芯材は、発砲倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板であり、
前記プレスステップは、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施されることを特徴とする帽子の製造方法。
【請求項2】
ヒサシを有する帽子の製造方法であって、
ヒサシ用の芯材を布体で包囲したヒサシ中間体を形成するヒサシ中間体形成ステップと、
前記ヒサシ中間体をクラウンと一体化して帽子中間体を形成する帽子中間体形成ステップと、
前記帽子中間体の前記ヒサシ中間体をプレスして該ヒサシ中間体に湾曲面を形成するプレスステップとを備えており、
前記芯材は、発砲倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板であり、
前記プレスステップは、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施する第1プレス工程と、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が3秒以上6秒未満の範囲で実施する第2プレス工程とを選択可能に構成されることを特徴とする帽子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帽子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ランニングや登山等のアウトドア活動の際に、着用者の頭部を覆うクラウンとヒサシ(前鍔)とを備えるキャップ(帽子)が使用されることが多い。このような帽子は、例えば、特許文献1に開示されているような方法で製造される。具体的には、低発泡の平板状のPE板(ポリエチレン板)を芯材として布体で包囲したヒサシ中間体を形成した後、この該ヒサシ中間体をキャップ本体(クラウン)と一体化して、帽子中間品を作り、その後、蒸気によって帽子中間品を加熱し、次に、プレス工程にてヒサシに湾曲を形成するようにして製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記方法によれば、ヒサシの芯材としてPE板が使用されるため、ヒサシを比較的柔らかく形成することができ、不使用時にヒサシを丸めるようにコンパクト化してポケットに収納できる帽子を製造することが可能となる。
【0005】
しかしながら、帽子のヒサシを丸めてポケットに収納した際に、ヒサシが元の形状に戻ろう(開こう)とする反発力によって、ポケットが大きく膨らんでしまい、帽子をポケットに収納した状態で使用者が快適に活動を行うことが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、ヒサシを丸めてポケットに収納した際に、ポケットが大きく膨らんでしまうことを効果的に防止することができる帽子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、ヒサシを有する帽子の製造方法であって、ヒサシ用の芯材を布体で包囲したヒサシ中間体を形成するヒサシ中間体形成ステップと、前記ヒサシ中間体をクラウンと一体化して帽子中間体を形成する帽子中間体形成ステップと、前記帽子中間体の前記ヒサシ中間体をプレスして該ヒサシ中間体に湾曲面を形成するプレスステップとを備えており、前記芯材は、発砲倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板であり、前記プレスステップは、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施されることを特徴とする帽子の製造方法により達成される。
【0008】
また、本発明の上記目的は、ヒサシを有する帽子の製造方法であって、ヒサシ用の芯材を布体で包囲したヒサシ中間体を形成するヒサシ中間体形成ステップと、前記ヒサシ中間体をクラウンと一体化して帽子中間体を形成する帽子中間体形成ステップと、前記帽子中間体の前記ヒサシ中間体をプレスして該ヒサシ中間体に湾曲面を形成するプレスステップとを備えており、前記芯材は、発砲倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板であり、前記プレスステップは、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施する第1プレス工程と、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が3秒以上6秒未満の範囲で実施する第2プレス工程とを選択可能に構成されることを特徴とする帽子の製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒサシを丸めてポケットに収納した際に、ポケットが大きく膨らんでしまうことを効果的に防止することができる帽子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る製造方法で製造される帽子の斜視図である。
【
図2】本発明に係る帽子の製造方法を説明するためのブロック図である。
【
図3】本発明に係る帽子の製造方法が備えるヒサシ中間体形成ステップを説明するための説明図である。
【
図4】本発明に係る帽子の製造方法が備える帽子中間体形成ステップを説明するための説明図である。
【
図5】本発明に係る帽子の製造方法が備えるプレスステップにおいて使用可能なプレス装置の一例を示す説明図である。
【
図6】本発明に係る帽子の製造方法の変形例を説明するためのブロック図である。
【
図7】発明者が行った試験内容を説明する画像である。
【
図8】発明者が行った試験の結果を示すグラフである。
【
図10】曲げ応力試験において使用した試料を説明するための画像である。
【
図11】発明者が行った試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る帽子の製造方法について、添付図面を参照して説明する。まず、本発明に係る製造方法により製造される帽子は、
図1の斜視図に示されるようにいわゆるキャップタイプの帽子であり、ランニングやフィッシング、登山、トレッキング等のアウトドア活動に良く使用されるものである。
【0012】
このような帽子1は、クラウン2と、ヒサシ3(前鍔)とを備えている。クラウン2は、帽子1の着用者の頭部を覆う部分であり、一般的には、半球状に形成される。また、クラウン2は、通常、複数枚の生地21を繋ぎ合わせることによって構成される。本実施形態の帽子1では、クラウン2を、6枚の三角状の生地21(クラウン形成生地)によって構成している。これらのクラウン形成生地21は、その形態から「れんげ」と呼ばれることもある。これらのクラウン形成生地21のうち、クラウン形成生地21aは、着用者の頭部の左前部を覆うための部分となっており、クラウン形成生地21bは、同頭部の右前部を覆うための部分となっている。また、クラウン形成生地21cは、帽子1の着用者の頭部の左横部を覆うための部分となっており、クラウン形成生地21dは、同頭部の右横部を覆うための部分となっている。さらに、クラウン形成生地21eは、帽子1の着用者の頭部の左後部を覆うための部分となっており、クラウン形成生地21fは、同頭部の右後部を覆うための部分となっている。
【0013】
クラウン形成生地21a~21fを繋ぎ合わせる方法は、特に限定されず、種々の方法によって繋ぎ合わせることができる。本実施形態の帽子1においては、クラウン形成生地21a~21fを縫着(縫合)によって半球状に繋ぎ合わせている。なお、クラウン形成生地21a~21fの縫合部分における裏側には、バイアステープを縫着し、クラウン形成生地21a~21fの縫合部分に解れが生じにくく構成してもよい。また、縫合ではなく、シームレス加工(例えば、超音波による振動で生地21同士を摩擦することで熱を発生させ、生地21を溶融させて互いに溶着させる加工等)によって繋ぎ合わせることもできる。
【0014】
ヒサシ3は、着用者の目に日光が直接入らないようにする機能を有している。このヒサシ3の形態は、特に限定されないが、本実施形態の帽子1においては、平面視三日月状となっている。ヒサシ3の後端縁は、クラウン2の下縁における前側部分に対して縫着されている。
【0015】
以下、上記構成の帽子1の製造方法について具体的に説明する。この製造方法は、
図2のブロック図に示すように、ヒサシ中間体形成ステップS1と、帽子中間体形成ステップS2と、プレスステップS3とを備えて構成されている。
【0016】
ヒサシ中間体形成ステップS1は、ヒサシ用の芯材を布体で包囲する工程であり、例えば、まず、
図3に示すように、平面視三日月状に形成した上布31と下布32を重ね、外周の一部分を相互に縫着して縫着部を形成して両者を連結し、袋状体34を形成する。その後、上布31と下布32との間に、芯材35を差込み、芯材35の差込口である開口部36を相互に縫着することによりヒサシ中間体を形成することができる。なお、袋状体34内の芯材35が移動しないように、芯材35を袋状体34に差し込んだのち、上布31、芯材35、及び、下布32を相互に縫着するようにしてもよい。ここで、ヒサシ用の芯材35は、発泡倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板が用いられる。
【0017】
帽子中間体形成ステップS2は、
図4に示すように、半球状に形成されるクラウン2にヒサシ中間体37を接続固定して一体化して帽子中間体を形成する工程である。クラウン2とヒサシ中間体37との接続は、通常縫製によって行われるが、その方法は特に限定されない。なお、この状態においては、ヒサシ中間体37は、平坦状(平面状)の形態を有している。
【0018】
なお、帽子中間体形成ステップS2においてヒサシ中間体37と接続されるクラウン2に対しては、成形のため、ヒサシ中間体37と接続される前段階で、頭型にかぶせた後、アイロン等でスチーム加熱してもよく、また、帽子中間体を形成した後に、スチーム加熱等を行い成形してもよい。
【0019】
プレスステップS3は、上記帽子中間体が有するヒサシ中間体37に対してプレスを施して該ヒサシ中間体37に湾曲面を形成する工程である。この工程においては、例えば、
図5に示すように、下型51及び上型52を備えるプレス装置5を用いて行われ、下型51の半球状の凹部の開口部にヒサシ中間体37を載置し、上型52を降下させて、下型51と上型52にて、ヒサシ中間体37を押圧して湾曲面を形成する。この湾曲面は略円弧状として形成される。なお、プレス装置5における下型51及び上型52は、ヒーター等の加熱装置によって所定温度となるように構成されている。
【0020】
ここで、プレスステップS3におけるプレスは、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、かつ、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施される。
【0021】
プレスステップS3完了後は、プレス装置5から帽子1を取り出し、自然冷却、或いは、エアーを吹き付けることによる冷却を行い、帽子1が完成する。なお、ヒサシ3における湾曲面の形状保持の観点からはエアーを吹き付けるなどして冷却することが好ましい。
【0022】
本発明に係る製造方法によれば、ヒサシ3を丸めるようにコンパクト化してポケットに収納する際の収納性が向上する帽子1を製造することができる。より具体的には、帽子1のヒサシ3を丸めてポケットに収納した際に、ヒサシ3が元の形状に戻ろうとする反発力を低減化させて、ポケットの開口部が大きく広がることを極力抑制できる帽子1を製造することができ、ランニングキャップやアウトドアキャップのように収納・携帯性が要求される帽子の製造に適している。
【0023】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、
図6に示すブロック図に示すように、プレスステップS3が、第1プレス工程S31と第2プレス工程S32とを備え、該第1プレス工程S31及び第2プレス工程S32を選択可能に構成することができる。第1プレス工程S31は、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が6秒以上10秒以下の範囲で実施する工程であり、第2プレス工程S32は、温度条件が105℃以上110℃以下の範囲で、プレス時間条件が3秒以上6秒未満の範囲で実施する工程である。
【0024】
このような構成を備えることにより、例えば、ヒサシ3を丸めてポケットに収納して携帯できることが求められるランニングキャップやアウトドアキャップを製造する場合には、プレスステップS3において第1プレス工程S31を実施するようにし、また、帽子1のヒサシ3を丸めてポケットに収納することが要求されない或いは要求されにくいと想定される帽子1を製造する場合には、第2プレス工程S32を実施するというようにプレスの工程を使い分け、効率よく帽子1を製造することができる。
【0025】
また、ヒサシ3を丸めてポケットに収納して携帯できることが求められるランニングキャップやアウトドアキャップを製造する場合であっても、男性用の帽子1を製造する場合には、プレスステップS3において第1プレス工程S31を実施するようにし、また、女性用の帽子1を製造する場合には、第2プレス工程S32を実施するというようにプレスの工程を使い分けることで、男性用・女性用の帽子1共に、ヒサシ3を丸めてポケットに収納した際に、ヒサシ3が元の形状に戻ろうとする反発力を低減化させてポケットの開口部が大きく広がることを極力抑制できるように構成することができる。
【0026】
本発明の発明者は、上記効果を得られることを確認する試験を行ったので、以下説明する。まず、
図7の画像に示すように、ポケットを模した袋状体7を準備し、その中にヒサシの試料8をカーブ内側方向に丸めるようにして曲げて袋状体の中に挿入する。挿入後、反発力によって広がろうとする状態で袋状体7内に保持されるヒサシ試料8の広がり寸法H(袋状体7内に保持されるヒサシ試料8の対向する部分間の最大寸法)を採寸する。
【0027】
このような採寸を複数のヒサシ試料8について行い、ポケットを模した袋状体7内でのヒサシ試料8の収納性を評価する。ここで、袋状体7は、平面視矩形状の二枚の布を重ね合わせ、4辺のうち3辺に対してコ字状に縫製を行うことにより1辺が開口部を形成するように構成している。また、開口部の長さ寸法は、開口部を閉じた状態、つまり、一対の布が互いに密着して積層されるような状態において、150mmとなるように構成している。なお、男性用ズボンのポケットの開口部長さが約150mmであることから、上記のように、袋状体7の開口部長さを150mmとした。
【0028】
また、ヒサシ試料としては、下記表1に示す9種類を準備した。試料A-1~A-3は、プレスステップにおける温度条件を105℃とし、それぞれ、プレス時間条件を3秒、6秒、10秒に変更して作成した。試料B-1~B-3は、プレスステップにおける温度条件を110℃とし、それぞれ、プレス時間条件を3秒、6秒、10秒に変更して作成した。試料C-1~C-3は、プレスステップにおける温度条件を120℃とし、それぞれ、プレス時間条件を3秒、6秒、10秒に変更して作成した。なお、各ヒサシ試料は、ヒサシ用の芯体である発砲倍率が4倍以上5倍以下の低発泡のポリエチレン板(通称EVHシート)を平面視矩形状に切り出し、その後、下記表1に示す条件にてプレスステップを施して作成した。なお、このプレスステップは、実際の帽子においてヒサシを被包する布(上布31と下布32)間で試料を挟んだ状態で実施している。また、切り出される各試料の大きさは、短尺方向長さが95mm、長尺方向長さが195mmとなるように構成される。また、各試料の厚みは、通常の帽子のヒサシ用芯体の厚みである3mmである。
【0029】
【0030】
上記試験における採寸結果を表2に示す。また、横軸をプレス時間、縦軸を採寸寸法Hとしたグラフを
図8に示す。
【0031】
【0032】
この表2や
図8から、プレス時間6秒を境として、寸法Hの数値挙動に大きな変化が生じていることがわかる。具体的には、加熱温度が105℃と110℃の試料に関して、プレス時間が3秒の結果と6秒の結果とを比較すると、寸法Hは、プレス時間が6秒の方が大きい(プレス時間110℃)か、同等(プレス時間105℃)の値になっているが、プレス時間が6秒の結果と10秒の結果とを比較すると、10秒の結果の方が、寸法Hが小さな値となっている(なお、10秒の結果が最も小さい寸法Hとなっている)。換言すると、加熱温度が105℃と110℃の試料に関して、プレス時間を6秒から10秒の間に設定することにより、ポケットを模した袋状体7内でのヒサシ試料8の広がり具合を小さくできることがわかる。このことから、プレスステップにおいて、加熱温度を105℃以上110℃以下とし、プレス時間を6秒以上10秒以下に設定することにより、帽子1のヒサシ3を丸めてポケットに収納した際に、ヒサシ3が元の形状に戻ろうとする反発力を低減化させてポケットの開口部が大きく広がることを極力抑制することができる帽子を製造できることがわかる。なお、加熱温度が120℃の試料については、プレス時間6秒を境として、寸法Hの数値挙動に大きな変化が生じていることは同様であるが、プレス時間が3秒及び10秒の結果間で寸法Hに差が無い結果となった。
【0033】
また、上記結果より、製造する帽子1が、ヒサシ3を丸めてポケットに収納することが要求されない或いは要求されにくいと想定される帽子の場合には、プレス時間を3秒以上6秒未満に設定すればよいことがわかる。これにより、帽子製造時間を短縮することができ、また、プレスステップにおける加熱時間を短縮できることから加熱に要するエネルギーコストを低減化できる。
【0034】
また、発明者は、プレスステップにおける温度条件を高く設定することにより、ヒサシ用芯材の曲げ応力が向上することを確認している。具体的には、プレス時間を6秒とし、温度条件を90℃、100℃、110℃と変化させて作成した3つのサンプルに対してJIS7171に準拠した曲げ応力試験を行った結果、下記表3及び
図9に示すような結果を得た。なお、
図9においては、縦軸を曲げ強力の値、横軸を温度としている。また、曲げ応力試験に用いた各サンプルは、上記所定のプレス時間及び温度条件によって上述のヒサシ試料を作成し、
図10の画像で示される部分から長さ95mm×幅10mmの短冊状体として切り出したものを使用して行った。
【0035】
【0036】
この曲げ応力試験結果から、加熱温度が高くなるに従い曲げ強力が上昇し、曲げ強力は、加熱温度が90℃の場合よりも110℃の場合の方が、約7%向上することが確認された。つまり、本願発明のように、加熱温度を105℃以上110℃以下とすることにより、ヒサシの曲げ強力を効果的に向上させて、風等の影響を受けても変形しにくいヒサシを有する帽子1を製造することが可能になることがわかる。
【0037】
また、発明者は、上述のポケットを模した袋状体7内でのヒサシ試料8の収納性を評価する実験に関連し、異なる大きさの袋状体7内にカーブ内側方向に丸めるようにしてヒサシ試料8を曲げて挿入し、袋状体7内に保持されるヒサシ試料8の広がり寸法Hを採寸する試験を行っているので、この試験結果について説明する。ここで、袋状体7の構成としては、開口部の長さ寸法を130mmとなるように構成している。なお、女性用ズボンのポケットの開口部長さが約130mmであることから、上記のように、袋状体7の開口部長さを130mmとしている。また、試験に供されるヒサシ試料は、上述の試料A-1~A-3、B-1~B-3、C-1~C-3を用いて行った。
【0038】
この袋状体7の開口部長さを130mmとした場合の採寸結果を表4に示す。また、採寸寸法Hに関して、横軸をプレス時間、縦軸を採寸寸法Hとしたグラフを
図11に示す。
【0039】
【0040】
この表4や
図11から、加熱温度が105℃及び110℃の試料については、上述の開口部長さが150mmの袋状体を用いた場合と同様に、プレス時間6秒を境として、寸法Hの数値挙動に大きな変化が生じていることがわかる。しかしながら、上述の開口部長さが150mmの袋状体を用いた場合の結果と異なり、加熱温度が105℃の試料については、10秒加熱した場合よりも、3秒加熱した場合の方が採寸寸法Hが低い値となり、加熱温度が110℃の試料については、3秒加熱した場合と、10秒加熱した場合とでは略同等の採寸寸法Hとなっている。また、加熱温度が120℃の試料については、プレス時間6秒を境として、寸法Hの数値挙動に大きな変化が生じず、加熱温度の違いによる採寸寸法Hに差がない結果となった。
【0041】
このことから、例えば、女性用の帽子を製造するような場合、ヒサシ3が元の形状に戻ろうとする反発力を低減化させてポケットの開口部が大きく広がることを極力抑制する帽子を製造するという観点からは、6秒以上加熱する意義はあまりなく、プレスステップにおける加熱温度を105℃以上110℃以下とし、プレス時間を3秒以上6秒未満に設定することが良いことがわかる。また、プレス時間を6秒未満に設定することにより、帽子製造時間を短縮することができ、更に、プレスステップにおける加熱時間を短縮できることから加熱に要するエネルギーコストを低減化することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 帽子
2 クラウン
3 ヒサシ
37 ヒサシ中間体
S1 ヒサシ中間体形成ステップ
S2 帽子中間体形成ステップ
S3 プレスステップ
S31 第1プレス工程
S32 第2プレス工程