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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151455
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】高帯電防止塗り床材および塗り床
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/12 20060101AFI20241018BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241018BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E04F15/12 A
C09D7/61
C09D163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064785
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】佐野 紀文
【テーマコード(参考)】
2E220
4J038
【Fターム(参考)】
2E220AA49
2E220AA51
2E220AA53
2E220AB01
2E220AC05
2E220AC11
2E220CA07
2E220DB10
2E220EA03
2E220FA11
2E220GA35X
2E220GB11X
2E220GB28X
2E220GB32X
2E220GB37X
4J038DB001
4J038HA026
4J038KA12
4J038NA20
4J038PB05
4J038PC06
(57)【要約】
【課題】単層カーボンナノチューブを添加した塗り床材であって、低温環境下においても仕上がり性に優れる塗り床材を提供する。
【解決手段】常温硬化型のエポキシ樹脂と、単層カーボンナノチューブと、沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する、塗り床材であって、前記単層カーボンナノチューブの含有量が、0.010質量%以上0.040質量%以下であり、10℃での混合粘度が1800mPa・s以上3500mPa・s以下である、塗り床材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温硬化型のエポキシ樹脂と、単層カーボンナノチューブと、沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する、塗り床材であって、
前記単層カーボンナノチューブの含有量が、0.010質量%以上0.040質量%以下であり、
10℃での混合粘度が1800mPa・s以上3500mPa・s以下である、
塗り床材。
【請求項2】
前記溶剤の含有量が、8.0質量%以上12.0質量%以下である、請求項1に記載の塗り床材。
【請求項3】
前記溶剤が、フェニルアルキルアルコール系非反応性希釈剤である、請求項1に記載の塗り床材。
【請求項4】
前記溶剤が、ベンジルアルコールである、請求項3に記載の塗り床材。
【請求項5】
請求項1に記載の塗り床材の硬化塗膜を備える、塗り床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、帯電防止性能が高められた塗り床材に関する。本開示はまた、当該塗り床材の硬化塗膜を含む塗り床に関する。
【背景技術】
【0002】
工場を始めとする生産施設等の床には、エポキシ樹脂等の硬化型樹脂を用いた塗り床が多く採用されている。しかし、塗り床に用いる硬化型樹脂は電気的には絶縁性であるため、施工された塗り床上での作業で静電気による障害が発生するという問題が生じる。そこで、塗り床に帯電防止性能を付与するために、硬化型樹脂に導電性フィラーを添加することが行われている。
【0003】
導電性付与能が高い導電性フィラーとして、カーボンブラックが知られている。しかしながら、カーボンブラックは、塗膜を黒色に着色するため、塗り床の美装性の観点より、塗り床の使用範囲が制限されるという問題がある。一方で、導電性付与能が高い導電性フィラーとしてカーボンナノチューブもまた知られており、近年、単層カーボンナノチューブを用いた塗り床が開発されている(例えば、特許文献1~4参照)。特許文献1~3には、単層カーボンナノチューブを使用した塗り床が、25Vの印加電圧で10Ω~10Ωの電気抵抗を示すような優れた帯電防止性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-35461号公報
【特許文献2】特開2022-35462号公報
【特許文献3】特開2022-35463号公報
【特許文献4】特開2022-53519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、冬場の低温環境下においては、塗り床材の粘度が夏場よりも高くなるため、施工性が極端に悪くなる。そのため、冬場の施工の一般的な方法では、施工が容易になるように、塗り床材に高揮発性の溶剤を添加して低粘度化し、塗り床の特性が低下しないように、塗り床材が硬化する前に、添加した溶剤を揮発させている。しかしながら、高揮発性の溶剤は、臭気の発生や人体への悪影響が懸念されている。また、溶剤の使用が規制される施工現場においては、高揮発性の溶剤は使用できない。
【0006】
このようなことから、塗り床材には、低温環境下でも、高揮発性の溶剤を添加せずに施工が可能であることが望まれている。これに対し、本発明者が鋭意検討した結果、単層カーボンナノチューブを添加した塗り床材は、一般的な塗り床材に比べて、冬場の低温環境下での粘度上昇が大きくなる傾向があることを見出した。そのため、高揮発性の溶剤を添加せずに低温環境下で施工を行った場合には、硬化後の塗り床に気泡が残りやすくなること、および硬化後の塗り床に色分かれが生じやすくなることを見出した。よって、低温環境下において、単層カーボンナノチューブを添加した塗り床材の仕上がり性に、改善の余地があることを見出した。
【0007】
かかる事情に鑑み、本開示は、単層カーボンナノチューブを添加した塗り床材であって、低温環境下においても仕上がり性に優れる塗り床材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、常温硬化型のエポキシ樹脂と、単層カーボンナノチューブと、沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する、塗り床材であって、前記単層カーボンナノチューブの含有量が、0.010質量%以上0.040質量%以下であり、10℃での混合粘度が1800mPa・s以上3500mPa・s以下である、塗り床材である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、単層カーボンナノチューブを添加した塗り床材であって、低温環境下においても仕上がり性に優れる塗り床材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の塗り床材は、常温硬化型のエポキシ樹脂と、単層カーボンナノチューブと、沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する。本開示の塗り床材中における、当該単層カーボンナノチューブの含有量は、0.010質量%以上0.040質量%以下である。本開示の塗り床材の10℃での混合粘度は、1800mPa・s以上3500mPa・s以下である。なお、本明細書において、各種添加剤の分類は、塗料分野(特に塗り床用塗料分野)の通常の分類に従っている。
【0011】
〔常温硬化型のエポキシ樹脂〕
常温硬化型のエポキシ樹脂は、施工環境温度である常温(例えば0℃~40℃、特に5℃~35℃)において硬化させることができるエポキシ樹脂である。当該エポキシ樹脂としては、塗り床材用途において公知のものを使用することができ、常温で液状を示し、エポキシ樹脂成分と硬化剤成分との反応によって硬化する2液硬化型タイプのものが好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂成分の例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノールとエピハロヒドリン類とから誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ビフェニルノボラック樹脂等のノボラック樹脂のエポキシ化物;水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体等の二価アルコールとエピハロヒドリン類とから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ハイドロキノン、カテコール等の多価フェノールとエピハロヒドリン類とから誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ビスフェノール型エポキシ樹脂(特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)が好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
硬化剤成分としては、塗り床材用途において公知のものを使用することができる。その具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等の脂肪族アミン類またはその変成品;m-フェニレンジアミン、m-キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミン類またはその変成品;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン等の脂環式アミン類またはその変性品;無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸無水物等の酸無水物類;ポリサルファイド;酸アミド;チオコール等が挙げられる。なかでも、脂環式アミン類、芳香族アミン類、およびこれらの変性品が好ましい。変性品としては、マンニッヒ変性品、アダクト変性品等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
エポキシ樹脂成分と硬化剤成分との混合量は、従来と同様に、エポキシ樹脂成分に含まれるエポキシ基のモル量と硬化剤成分に含まれる活性水素のモル量とが、略等しくなるように設定すればよい。なお、後述の反応性希釈剤を使用する場合には、エポキシ樹脂成分に含まれるエポキシ基および反応性希釈剤に含まれるエポキシ基の合計モル量と硬化剤成分成分に含まれる活性水素のモル量とが、略等しくなるように設定すればよい。
【0015】
〔単層カーボンナノチューブ〕
本開示においては、導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブ(SWNT)が用いられる。SWNTは、1枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた構造を有する。単層カーボンナノチューブは、アームチェア型、ジグザグ型、およびカイラル型のいずれであってもよい。塗り床材中に容易に分散させることができることから、単層カーボンナノチューブとして、予備分散されたものを用いることが好ましく、特に、常温硬化型のエポキシ樹脂と反応性を有する希釈剤中に予備分散されたものを用いることが好ましい。単層カーボンナノチューブは、公知方法に従い合成することができ、市販品としても入手可能である。予備分散された単層カーボンナノチューブとして好適には、OCSiAL社製「TUBALL MATRIX201」が挙げられる。この「TUBALL MATRIX201」は、反応性希釈剤として、脂肪酸グリシジルエステルを含む。したがって、この脂肪酸グリシジルエステルが、常温硬化型のエポキシ樹脂成分と共に硬化剤成分と反応することができる。
【0016】
塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると導電性が不十分となる。そのため、塗り床材中の(すなわち、塗り床材の全質量に対して;常温硬化型のエポキシ樹脂が2液型の場合には硬化剤成分の質量も含む塗り床材の全質量に対して)単層カーボンナノチューブの含有量は、0.010質量%以上であり、好ましくは0.015質量%以上であり、より好ましくは0.020質量%以上である。一方、塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量が多過ぎると、塗り床材の増粘を招き仕上がり性を損なう。そのため、塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量は、0.040質量%以下であり、好ましくは0.035質量%以下であり、より好ましくは0.030質量%以下である。
【0017】
〔沸点が200℃以上の溶剤〕
本発明者が鋭意検討した結果、冬場のような低温環境下において高揮発性の溶剤を添加することなく、仕上がり性良く施工可能な塗り床材を提供するために、沸点の高い溶剤を塗り床材に添加して、塗り床材の粘度を調整することに想到した。そこで、本開示の塗り床材は、沸点が200℃以上の溶剤(以下、「高沸点溶剤」とも呼ぶ)を含有する。本開示の塗り床材は、塗り床材の10℃での混合粘度が1800mPa・s~3500mPa・sに調整する作用を有する。
【0018】
高沸点溶剤の沸点が200℃以上であることにより、塗工された塗り床材の硬化中に溶剤が揮発することによる仕上がり性の低下を抑制することができ、また有機溶剤臭の発生も抑制することができる。
【0019】
高沸点溶剤の種類と量は、塗り床材の10℃での混合粘度が1800mPa・s~3500mPa・sに調整可能な限り、特に限定されない。高沸点溶剤は、好ましくはエポキシを有さず、よって非反応性希釈剤して機能する。粘度調整能が高いことから、高沸点溶剤としては、好ましくはフェニルアルキルアルコール系非反応性希釈剤(例、ベンジルアルコール(沸点:205℃)、2-フェネチルアルコール(沸点:220℃)など);フェニルキシリルエタン(沸点:210℃)であり、より好ましくはベンジルアルコールである。
【0020】
高沸点溶剤の25℃における粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s未満が好ましく、3.0mPa・s以上8.0mPa・s以下がより好ましい。当該粘度は、公知方法に従い、回転粘度計を用いて測定することができる。
【0021】
塗り床材中の高沸点溶剤の含有量が少な過ぎると、塗り床材の粘度が高くなり過ぎて、塗り床材の硬化後に、塗り床表面に泡が多く残るようになり、仕上がり性が悪くなって美装性が損なわれるおそれがある。一方、塗り床材中の高沸点溶剤の含有量が多過ぎると、塗り床材の粘度が低くなり過ぎて、塗り床材の硬化後に、塗り床に色分かれが発生し、仕上がり性が悪くなって美装性が損なわれるおそれがある。そのため、塗り床材中の高沸点溶剤の含有量は、好ましくは8.0質量%~12.0質量%であり、より好ましくは8.2質量%~11.5質量%である。
【0022】
〔顔料〕
本開示の塗り床材は、通常、色調の調整等を目的として、顔料を含有する。しかしながら、塗り床材は、製品が顔料を含有しておらず、使用時に当該製品に顔料を後添加するような、形態もあり得る。よって、本開示の塗り床材は、顔料を含有していてよく、含有していなくてもよい。
【0023】
顔料としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。顔料は、トナーの形態で用いてもよい。顔料の含有量は、顔料の種類と所望の色調等に応じて適宜設定すればよい。
【0024】
〔湿潤分散剤〕
本開示の塗り床材は、カーボンナノチューブの分散状態をより良くし、仕上がり性をより向上させる等を目的として、湿潤分散剤を含有していてもよい。湿潤分散剤は、塗料分野において、界面活性剤として働き、塗膜の濡れ性を向上させる湿潤剤としての機能と、電気的反発や立体障害などの作用機構により粒子の凝集を防ぐ分散剤としての機能の両方を併せ持つ添加剤である。
【0025】
湿潤分散剤としては、酸性基およびアミノ基を含むポリマー塩である湿潤分散剤が好ましい。このような湿潤分散剤を用いることによって、塗り床材中での単層カーボンナノチューブの凝集をより防止することができ、増粘による仕上がり性の低下をより抑制することができる。
【0026】
酸性基としては、酸性リン酸エステル基が好ましい。ポリマー塩のポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。ポリマーは、主鎖(例えばポリウレタン鎖)に、1つまたは複数の側鎖(例えばポリエステル鎖)が導入されたグラフトコポリマーであることが好ましい。このとき、ポリマー鎖の立体障害によって、単層カーボンナノチューブの分散性がより高くなる。ポリマー塩としては、アルキルアンモニウム塩およびリン酸エステル塩が好ましく、アルキルアンモニウム塩がより好ましい。
【0027】
湿潤分散剤は、その酸価およびアミン価がそれぞれ、10mgKOH/g以上であることが好ましい。貯蔵安定性の観点から、湿潤分散剤の酸価およびアミン価がそれぞれ、30mgKOH/g以上であることがより好ましく、35mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。なお、酸価とは、高分子分散剤固形分1gあたりの酸価を表し、例えば、JIS K0070に準じ、電位差滴定法によって求めることができる。アミン価とは、高分子分散剤固形分1gあたりのアミン価を表し、例えば、0.1Nの塩酸水溶液を用い、電位差滴定法によって求めた値を、水酸化カリウムの当量に換算することにより求めることができる。
【0028】
酸性基およびアミノ基を含むポリマー塩である湿潤分散剤の例としては、ビックケミージャパン社製「BYK-9076」、「DISPERBYK-142」;楠本化成社製「ディスパロン DA-325」などが挙げられ、BYK-9076」、および「DISPERBYK-142」が好ましい。湿潤分散剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
塗り床材中の湿潤分散剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると、十分な導電性が得られないおそれがある。また、湿潤分散剤の含有量が多い方が貯蔵安定性が高い傾向にある。そのため、塗り床材中の湿潤分散剤の含有量は、好ましくは0.04質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上である。一方、塗り床材中の湿潤分散剤の含有量が多過ぎると、導電性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中の湿潤分散剤の含有量は、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.32質量%以下、さらに好ましくは0.25質量%以下である。
【0030】
〔レベリング剤〕
本開示の塗り床材は、仕上がり性をより向上させる等を目的として、レベリング剤を含有していてもよい。レベリング剤は、典型的には、塗料中では相溶していても油滴状でも良いが、塗膜形成過程では油滴状になり塗膜表面に配向して、塗膜表面からの溶剤の蒸発を均一化し、ベナールセル(Benard Cell)の生成を防止し、表面張力変化を小さくして表面を平滑にする作用を有する添加剤である。
【0031】
レベリング剤としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。レベリング剤の例としては、アクリル系ポリマー等が挙げられる。レベリング剤として、共栄社化学社製の「ポリフロー」シリーズを用いてよい。レベリング剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
塗り床材中のレベリング剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると仕上がり性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.04質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上、さらに好ましくは0.07質量%以上である。一方、塗り床材中のレベリング剤の含有量が多過ぎると、導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.21質量%以下、より好ましくは0.18質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下である。
【0033】
〔消泡剤〕
本開示の塗り床材は、仕上がり性をより向上させる等を目的として、消泡剤を含有していてもよい。消泡剤としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。消泡剤の例としては、アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、およびこれらの混合物等が挙げられる。消泡剤として、共栄社化学社製の「フローレン」シリーズを用いてよい。消泡剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
塗り床材中の消泡剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると仕上がり性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.12質量%以上、より好ましくは0.18質量%以上、さらに好ましくは0.24質量%以上である。一方、塗り床材中の消泡剤の含有量が多過ぎると、導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.38質量%以下、さらに好ましくは0.36質量%以下である。
【0035】
〔その他の任意成分〕
本開示の塗り床材は、強度向上、着色性向上等を目的として、絶縁性充填材を含有していてもよい。絶縁性充填材としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。その例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、カオリン、タルク、マイカ、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、ガラス繊維等が挙げられ、なかでも炭酸カルシウム(特に、重質炭酸カルシウム)が好ましい。絶縁性充填材の含有量は、所望の強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
本開示の塗り床材は、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤を含有していてもよい。特に、硬化塗膜の表面自由エネルギーを上昇させるタイプのアクリル系表面調整剤を塗り床材に、例えば0.1質量%~3.0質量%添加した場合には、顔料の凝集を抑制して、色分かれの発生をさらに抑制することができる。当該アクリル系の表面調整剤としては、例えば、高極性の側鎖が、低極性のアクリル主鎖にグラフトされたアクリル系の表面調整剤が挙げられる。その具体例としては、楠本化学社製のディスパロンSEI-W01、ディスパロンSEI-W02が挙げられ、なかでも、ディスパロンSEI-W01が好ましい。
【0037】
あるいは、被塗物との濡れ性を向上させるタイプのシリコーンフリー非イオン性のアクリル系表面調整剤を塗り床材に、例えば0.1質量%~3.0質量%添加した場合には、顔料の凝集を抑制して、色分かれの発生をさらに低減することができる。当該アクリル系の表面調整剤としては、例えば、楠本化学社製の「L-1980N」シリーズ(例、L-1980N、L-1982N、L-1983N、L-1984N)が挙げられ、なかでも、L-1982N、およびL-1983Nが好ましい。
【0038】
本開示の塗り床材は、反応性希釈剤等を含有していてもよい。反応性希釈剤としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物を用いることができる。
【0039】
本開示の塗り床材は、本開示の効果を顕著に阻害しない範囲内で、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0040】
〔混合粘度〕
本開示の塗り床材の10℃での混合粘度は、1800mPa・s~3500mPa・sである。当該混合粘度が1800mPa・s未満だと、塗り床材の硬化後に、塗り床に色分かれが発生し、仕上がり性が悪くなって美装性が損なわれる。当該粘度は、好ましくは1900mPa・s以上であり、より好ましくは2000mPa・s以上である。一方、当該混合粘度が3500mPa・sを超えると、塗り床材の硬化後に、塗り床表面に泡が多く残るようになり、仕上がり性が悪くなって美装性が損なわれる。当該粘度は、好ましくは3200mPa・s以下であり、より好ましくは3000mPa・s以下である。
【0041】
なお、混合粘度は、本開示の塗り床材が混合されたときの粘度であり、公知方法に従って、B型粘度計を用いて測定することができる。具体的に例えば、10℃での塗り床材の混合粘度は、温度が10℃、回転速度が2rmの条件下において、東機産業社製BH粘度計を用いて測定することができる。この測定は、塗り床材の、硬化剤を含めた全成分の混合を完了後、2分以内に開始される。
【0042】
本開示の塗り床材の調製方法には特に制限はなく、公知方法に従い調製することができる。例えば、本開示の塗り床材の各成分を、施工現場等において一度に配合して調製するようにしてもよい。例えば、本開示の塗り床材は、硬化剤以外の成分を含有する主剤と、硬化剤とに分けた2液タイプであって、施工現場等で主剤と硬化剤とを混ぜて使用するタイプとして調製してもよい。例えば、2液タイプとして準備し、主剤成分として、絶縁性充填材を配合しないもの、または少な目に配合したものを用意しておき、例えば施工現場等において、下地の状況や塗り床に求められる特性等を考慮して求めた配合量となるように、主剤に絶縁性充填材を追加するようにしてもよい。例えば、2液タイプとして準備し、主剤成分として、着色剤を配合しないものを用意しておき、例えば施工現場等において、塗り床に求められる色調に応じて主剤に着色剤を追加するようにしてもよい。
【0043】
本開示の塗り床材は、公知方法に従い施工して用いることができる。例えば、施工される床に流し延べ工法によって、本開示の塗り床材を塗工し、その後、所定時間静置して、乾燥およびエポキシ樹脂の硬化を行うことにより塗り床を形成することができる。施工される塗り床は、本開示の塗り床材によって形成される層(すなわち、本開示の塗り床材の硬化塗膜の層)の単層であってもよいし、本開示の塗り床材によって形成される層と、プライマ層とを組み合わせた複層構造であってもよい。
【0044】
なお、本開示の塗り床材では、冬場のような低温(例えば10℃程度)環境下の施工であっても、高揮発性の溶剤を添加する必要がなく、高揮発性の溶剤の添加を行わなくてよい。よって、高揮発性の溶剤による臭気の発生や人体への悪影響の懸念が生じない。加えて、本開示の塗り床材によれば、低温環境下で施工を行った場合でも、硬化後の塗り床に気泡が残り難く、また色分かれも生じ難い。本開示の塗り床材は、低温環境下においても仕上がり性に優れる。さらに、本開示の塗り床材の硬化塗膜は、25Vにおいても高い導電性を示す。特に、25Vにおける抵抗が10Ωオーダーの導電性を達成することもできる。よって、本開示の塗り床材は、帯電防止性能に優れる(よって「高帯電防止塗り床材」と呼ぶことができる)。したがって、本開示の塗り床材によれば、通常の帯電防止のみならず、低電圧での電子部品(例えば、半導体素子)の破壊のような静電気障害も防止することができる。
【0045】
そこで本開示は、別の観点から、上記の塗り床材の硬化塗膜を備える塗り床である。上記の塗り床材の硬化塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1.0mm以上3.0mm以下、好ましくは1.0mm以上2.0mm以下である。当該塗り床は、プライマ層等のその他の層を有していてもよい。
【0046】
例えば、本開示の塗り床が帯電防止床である場合、当該塗り床は、プライマ層、導電プライマ層、およびベースコート層の三層を含んでいてよい。プライマ層は、コンクリート等の下地の表面との接着性を確保するための層であり、公知のプライマ層と同様の構成であってよい。プライマ層は、例えば、公知のプライマ用エポキシ樹脂塗り床塗料(例、住友ゴム工業社製「C355」(主剤)および「H355」(硬化剤))を用いて形成することができる。
【0047】
導電プライマ層は、公知の導電プライマ層と同様の構成であってよく、典型的には、例えば、10Ω程度の導電性を有するように構成される。導電プライマ層は、例えば、エポキシ樹脂にカーボンブラックを配合して導電性を付与した公知の導電性プライマ用塗り床塗料(例、住友ゴム工業社製「SL333A」(主剤)および「SL333B」(硬化剤))を用いて形成することができる。
【0048】
そしてベースコート層は、上記の塗り床材の硬化塗膜によって構成される。
【0049】
本開示の塗り床は、低温環境下でも仕上がり状態が良好であるとともに、25Vにおいても高い導電性を示す。よって、低電圧での電子部品の破壊のような静電気障害が防止されている。本開示の塗り床は、各種建物において用いることができ、特に電子部品(例えば、半導体素子)の研究施設および生産施設に好適である。
【実施例0050】
以下、本開示に関する実施例を説明するが、本開示をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0051】
〔実施例および比較例〕
温度10±1℃、相対湿度55±1%の環境下において、表1に記載の各成分を、撹拌機を用いて1300rpmの回転数で10分間混合して、主剤を調製した(なお、表中の数値は質量部を示す)。調製した主剤100質量部に対して表1に記載の硬化剤20質量部を配合し、撹拌機を用いて1300rpmの回転数で1分間混合して、各実施例および各比較例の塗り床材を調製した。
【0052】
〔混合粘度〕
10℃の温度環境下で、主剤と硬化剤の混合を完了してから2分以内に、各実施例および各比較例の塗り床材を、BH粘度計(東機産業製)にセットし、回転速度2rpmで1分間ローターを回転させて粘度(mPa・s)を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
〔仕上がり状態評価〕
温度10±1℃、相対湿度55±1%の環境下で、30cm角の平板上に、上記作製した各実施例および各比較例の塗り床材を塗工した。これを、当該環境下に7日間静置して硬化を行い、試験サンプルを作製した。試験サンプルの表面に蛍光灯の光を当て、泡残りの状況および色分かれの発生状況を確認した。消泡性について、以下の基準で評価して、〇を合格とした。また、色分かれの発生状況について、以下の基準で評価して、〇を合格とした。評価結果を表1に示す。
(消泡性)
×:泡残りが多い
〇:泡残りがほとんどない
(色分かれ)
×:色分かれが多い
〇:色分かれがほとんどない
【0054】
〔導電性評価〕
基板上に、23℃の温度環境下でエポキシプライマ(住友ゴム工業社製のC355(主剤)/H355(硬化剤))を用いてプライマ層を形成した。さらにこのプライマ層の上に、導電性プライマ(住友ゴム工業社製のSL333A(主剤)/SL333B(硬化剤))を用いて、導電性プライマ層を形成した。10℃の温度環境下で、この導電性プライマ層の上に、上記作製した各実施例および各比較例の塗り床材を塗工し、硬化させてベースコート層を形成した。このようにして、試験サンプルを作製した。この試験サンプルに対し、NFPA法およびJIS A1454:2016に準じて、絶縁抵抗計を用いて印加電圧を25Vとした場合の抵抗を測定した。なお、電極として2.25kgの鉄製円柱を用い、電極間距離は3フィート(約91cm)とした。測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
ポリフローNo.85:共栄社化学社製のレベリング剤「ポリフローNo.85」
フローレンAC324:共栄社化学社製の消泡剤「フローレンAC324」
MATRIX201:OCSiAL社製「TUBALL MATRIX201」(単層カーボンナノチューブ:脂肪酸グリシジルエステル(反応性希釈剤)=1:9の質量比で含有)
BYK-9076:ビックケミージャパン社製の湿潤分散剤「BYK-9076」(ポリウレタン主鎖にポリエステル鎖がグラフトされたポリマーのアルキルアンモニウム塩;酸価=38mgKOH/g、アミン価=44mgKOH/g)
H506WA:住友ゴム工業社の変性ポリアミン系硬化剤「H506WA」
【0057】
沸点が200℃以上の溶剤であるベンジルアルコールによって、10℃での混合粘度を1800mPa・s~3500mPa・sの範囲内に調整した実施例1~3の塗り床材においては、消泡性評価および色分かれ評価で共に良好な結果が得られた。また、実施例1~3の塗り床材においては、25Vにおいて105Ωオーダーの高い導電性が得られた。
【0058】
一方、混合粘度が3500mPa・sを超えた比較例1および比較例2では、泡残りが多く見られ、仕上がり性が悪かった。また、混合粘度が1800mPa・s未満の比較例3では、色分かれが多く見られ、仕上がり性が悪かった。
【0059】
以上の結果より、本開示の塗り床材によれば、単層カーボンナノチューブを添加した塗り床材であって、低温環境下においても仕上がり性に優れる塗り床材を提供できることがわかる。
【0060】
以上のように、本開示(1)は、常温硬化型のエポキシ樹脂と、単層カーボンナノチューブと、沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する、塗り床材であって、前記単層カーボンナノチューブの含有量が、0.010質量%以上0.040質量%以下であり、10℃での混合粘度が1800mPa・s以上3500mPa・s以下である、塗り床材である。
【0061】
本開示(2)は、前記溶剤の含有量が、8.0質量%以上12.0質量%以下である、本開示(1)に記載の塗り床材である。
【0062】
本開示(3)は、前記溶剤が、フェニルアルキルアルコール系非反応性希釈剤である、本開示(1)または(2)に記載の塗り床材である。
【0063】
本開示(4)は、前記溶剤が、ベンジルアルコールである、本開示(3)に記載の塗り床材である。
【0064】
本開示(5)は、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の塗り床材の硬化塗膜を備える、塗り床である。