(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151486
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20241018BHJP
C25B 1/16 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C22B26/12
C25B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064857
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
【テーマコード(参考)】
4K001
4K021
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K021AA03
4K021AB01
4K021BA02
4K021BA17
4K021BC03
4K021BC09
4K021CA05
4K021DB05
(57)【要約】
【課題】多大なエネルギーを費やさず、大量の廃棄物も生成させない、低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法を提供する。
【解決手段】低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法が、低品位炭酸リチウムを鉱酸に溶解する酸溶解工程、この酸溶解工程で得られた粗リチウム塩水溶液から不純物を除去する不純物除去工程、及び、この不純物除去工程で得られた第1のリチウム塩水溶液を膜電解し、第2のリチウム塩水溶液と高純度水酸化リチウム水溶液を生成する膜電解工程を含み、この膜電解工程で生成する鉱酸をこの酸溶解工程で使用し、この第2のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度は、この第1のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度より小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法であって、
低品位炭酸リチウムを鉱酸に溶解する酸溶解工程、
当該酸溶解工程で得られた粗リチウム塩水溶液から不純物を除去する不純物除去工程、及び
当該不純物除去工程で得られた第1のリチウム塩水溶液を膜電解し、第2のリチウム塩水溶液と高純度水酸化リチウム水溶液を生成する膜電解工程を含み、
当該膜電解工程で生成する鉱酸を当該酸溶解工程で使用し、
当該第2のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度は、当該第1のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度より小さいことを特徴とする低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法。
【請求項2】
請求項1に記載された低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法において、前記酸溶解工程で発生する二酸化炭素と前記膜電解工程で生成する高純度水酸化リチウムを反応させて、高純度炭酸リチウムを得る炭酸化工程を更に含むことを特徴とする低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法。
【請求項3】
請求項1に記載された低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法において、前記第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、濃縮されたリチウム塩水溶液を前記第1のリチウム塩水溶液と混合する濃縮混合工程を更に含むことを特徴とする低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法であって、
膜電解に用いる電力が再生可能エネルギーによって得られた電力を含むこと特徴とする炭酸リチウムからリチウムを回収する方法。
【請求項5】
請求項4に記載された低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法であって、
前記再生可能エネルギーによって得られた電力が、太陽光発電によって得られた電力、及び風力発電によって得られた電力からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むこと特徴とする低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩湖鹹水、鉱石、廃リチウムイオン電池等から回収される低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩が製造されている。特許文献1は、電気透析装置を使用し、塩室に炭酸リチウム溶液を供給して酸室から繰り返して炭酸リチウム水溶液取り出す水酸化リチウムの製造方法を開示し、更には高純度化する精製工程を付与した製造方法も開示する。
【0003】
特許文献2は、炭酸リチウムを水酸化カルシウムと液中で反応させ、水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程、当該水酸化工程における水酸化カルシウムの添加に起因して水酸化リチウム溶液中に存在するカルシウムイオンを、陽イオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂に吸着して除去するカルシウム除去工程、及び晶析工程を行い、カルシウム含有量の低い高純度水酸化リチウムの製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-032151号公報
【特許文献2】特開2021-172537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された水酸化リチウムの製造方法において、炭酸リチウム溶液と炭酸水を混合して生成する炭酸水素リチウムの水に対する溶解度は数g/Lであり、電解液量が膨大になる。さらに電気透析で得られる水酸化リチウム水溶液の濃度は高くないので、当該水溶液から水酸化リチウムの結晶を回収するためには、多大なエネルギーを費やして大量の水を蒸発させる必要がある。また、引用文献2に開示された水酸化リチウムの製造方法において、大量の炭酸カルシウムが廃棄物として発生してしまう。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、多大なエネルギーを費やさず、大量の廃棄物を発生させない、低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、低品位炭酸リチウムを鉱酸に溶解し、不純物を除去して得られるリチウム塩水溶液を膜電解すると、多大なエネルギーを費やさず、大量の廃棄物も生成させないで高純度リチウム塩を得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、低品位炭酸リチウムを鉱酸に溶解する酸溶解工程、当該酸溶解工程で得られた粗リチウム塩水溶液から不純物を除去する不純物除去工程、及び、当該不純物除去工程で得られた第1のリチウム塩水溶液を膜電解し、第2のリチウム塩水溶液と高純度水酸化リチウム水溶液を生成する膜電解工程を含み、当該膜電解工程で生成する鉱酸を当該酸溶解工程で使用し、当該第2のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度は、当該第1のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度より小さいことを特徴とする、低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を回収する方法に関する。
本発明は、好ましくは、前記酸溶解工程で発生する二酸化炭素と前記膜電解工程で生成する高純度水酸化リチウムを反応させて、高純度炭酸リチウムを得る炭酸化工程を更に含む。これにより前記酸溶解工程で生成する二酸化炭素の一部を廃棄することなく有効利用できる。
本発明は、好ましくは、前記第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、濃縮されたリチウム塩水溶液を前記第1のリチウム塩水溶液と混合する濃縮混合工程を更に含む。
膜電解に用いる電力は、好ましくは再生可能エネルギーによって得られた電力を含む。
前記再生可能エネルギーによって得られた電力は、好ましくは、太陽光発電によって得られた電力、及び風力発電によって得られた電力からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、多大なエネルギーを費やさず、大量の廃棄物も発生させない、低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法の1実施態様を示す説明図。
【
図2】本発明の低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法に用いるイオン交換膜電解槽の構造の1実施態様を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
さらに図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
本発明について、図面を参照しながら更に詳細に説明する。
<低品位炭酸リチウム>
前記低品位炭酸リチウムの供給源として、例えば、廃リチウムイオン電池からリサイクルされる低品位炭酸リチウム、鉱物、天然の塩湖から得られる塩水、海水等が挙げられる。
本発明の低品位炭酸リチウムから高純度リチウム塩を得る方法(以下、「本発明の方法」と称する)は、
図1に示すように、低品位炭酸リチウム1を出発物質とする。
【0013】
<酸溶解工程>
本発明の方法は、前記低品位炭酸リチウム1を鉱酸に溶解する酸溶解工程(STEP1)を含む。前記鉱酸は、例えば、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含み、好ましくは塩酸を含み、より好ましくは塩酸である。前記酸溶解工程において、粗リチウム塩水溶液2及び二酸化炭素3が発生する。前記鉱酸が塩酸である場合、前記粗リチウム塩水溶液2は粗塩化リチウム水溶液である。前記酸溶解工程において発生する二酸化炭素3は、好ましくは後述する膜電解工程で生成する高純度水酸化リチウム4と反応させることにより高純度炭酸リチウム7を生成できる。したがって、本発明の方法では、大量の二酸化炭素の一部を廃棄することなく有効活用できる。
【0014】
<不純物除去工程>
本発明の方法は、前記粗リチウム塩水溶液から不純物を除去する不純物除去工程を含む。前記粗塩化リチウム水溶液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の不純物を含有している。前記不純物は、前記不純物除去工程において、例えば強酸性陽イオン交換樹脂、キレート樹脂等のイオン交換樹脂により除去され、第1のリチウム塩水溶液が得られる。強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えばSK110(三菱ケミカル株式会社製)、キレート樹脂としては、例えばCR-11(三菱ケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0015】
<膜電解工程>
本発明の方法は、前記第1のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を使用して膜電解し、第2のリチウム塩水溶液と高純度の水酸化リチウムを生成する膜電解工程(STEP3)を含む。前記膜電解は、例えば、
図2に示す膜電解槽11を用いて行うことができる。
【0016】
膜電解槽11は、一方の内側面に陽極板12を備え、陽極板12と対向する内側面に陰極板13を備え、陽極板12は電源の陽極14に接続され、陰極板13は電源の陰極15に接続されている。また、膜電解槽11は、イオン交換膜16により、陽極板12を備える陽極室17と、陰極板13を備える陰極室18とに区画されている。
【0017】
膜電解槽11では、陽極室17に前記第1のリチウム塩水溶液として、例えば塩化リチウムを供給して膜電解を行うと、塩化物イオンが陽極板12上で塩素ガス(Cl2)を生成する一方、リチウムイオンはイオン交換膜16を介して陰極室18に移動する。
【0018】
陰極室18では水(H2O)が水酸化物イオン(OH-)と水素イオン(H+)とに電離し、水素イオンが陰極板13上で水素ガス(H2)を生成する一方、水酸化物イオンがリチウムと化合して高純度水酸化リチウム水溶液4を生成する。
【0019】
前記膜電解工程に付されるリチウム塩水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室17で硫酸を得ることができる。前記膜電解工程に付されるリチウム塩水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室17で硝酸を得ることができる。すなわち、前記膜電解工程で鉱酸5を得ることができ、当該鉱酸5をSTEP1の前記酸溶解工程で使用してよい。
【0020】
前記膜電解工程で得られた高純度水酸化リチウム水溶液4は、STEP4で晶析により高純度水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)6として回収することもでき、STEP5で炭酸化することにより、高純度炭酸リチウム(Li2CO3)7として回収することもできる。前記炭酸化は、好ましくは、高純度水酸化リチウム水溶液4を前記酸溶解工程(STEP1)で発生する二酸化炭素3と反応させることにより実施される。
【0021】
前記膜電解工程では、前記第1のリチウム塩水溶液が膜電解される結果、前記第1のリチウム塩水溶液中のリチウム塩濃度より小さいリチウム塩濃度を有する第2のリチウム塩水溶液と、高純度水酸化リチウム水溶液4が生成する。前記高純度水酸化リチウム水溶液4を晶析して得られる高純度水酸化リチウムの1水塩の純度は、例えば99.5質量%以上である。
本発明の方法は、好ましくは、前記第2のリチウム塩水溶液を濃縮し(STEP6)、濃縮されたリチウム塩水溶液を前記第1のリチウム塩水溶液と混合する濃縮混合工程を更に含む。前記濃縮の方法として、例えば逆浸透膜法が挙げられる。
【0022】
前記膜電解工程に用いる電力は、例えば、太陽光発電により得られた電力、及び風力発電により得られた電力からなる群から選ばれる少なくとも1つの再生可能エネルギーを含んでいてよい。
【符号の説明】
【0023】
1…低品位炭酸リチウム、 2…租リチウム塩水溶液、 3…二酸化炭素、
4…高純度水酸化リチウム水溶液、 5…鉱酸、 6…高純度水酸化リチウム一水和物、7…高純度炭酸リチウム、11…膜電解槽、 16…イオン交換膜、 17…陽極室、
18…陰極室。