(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151494
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】溝切機及び溝切機本体に適用される溝連通部
(51)【国際特許分類】
A01B 13/16 20060101AFI20241018BHJP
A01B 13/08 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A01B13/16
A01B13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064871
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000149413
【氏名又は名称】株式会社大竹製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大竹 敬一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 俊一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 俊治
【テーマコード(参考)】
2B032
【Fターム(参考)】
2B032AA05
2B032BA01
2B032CA02
2B032CB02
2B032CB12
(57)【要約】
【課題】溝切機で先に切った溝と、後に切った溝の水の流通を容易に確保する。
【解決手段】溝切機1は、荷重を掛けることでその形状により溝を形成するとともに前記溝同士の交差部では前記溝の側方に畝部を形成する溝切板40を備えている。溝連通部5は左連通板52と右連通板53とを備え、左連通板52と右連通板53は溝切板40により形成された畝部から離間する非作動位置と、溝切板40により形成された畝部に侵入する作動位置とに操作部54の操作により変更可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルと、溝切部材を有する溝切部と、を備えた溝切機本体と、
溝連通部材を有する溝連通部を、備え、
前記溝切部材は、荷重を掛けることでその形状により溝を形成するとともに前記溝同士の交差部では前記溝の側方に畝部を形成し、
前記溝連通部は、前記溝連通部材が、前記溝切部材により形成された前記畝部から離間する非作動位置と、前記溝連通部材が、前記溝切部材により形成された前記畝部に侵入する作動位置とに、操作部の操作により変更可能に構成されていることを特徴とする溝切機。
【請求項2】
前記溝連通部材は一対の連通板からなり、前記一対の連通板がそれぞれ回動して前記作動位置と前記非作動位置とに変更するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溝切機。
【請求項3】
前記作動位置において、前記溝連通部材の下端は前記溝切部材の後部下端よりも上方に位置することを特徴とする請求項1に記載の溝切機。
【請求項4】
前記溝連通部は、前記操作部の操作により、前記作動位置又は前記非作動位置から、前記一対の連通板のうちいずれか一方を前記作動位置とし他方を前記非作動位置とした半作動位置に変更可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の溝切機。
【請求項5】
前記一対の連通板は付勢手段により一定の方向を向くように付勢されており、
前記作動位置において、前記一対の連通板の下端は前記付勢手段の付勢力に抗して、前後方向に回動可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の溝切機。
【請求項6】
ハンドルと、溝切部材を有する溝切部と、を備え、前記溝切部材は、荷重を掛けることでその形状により溝を形成するとともに前記溝同士の交差部では前記溝の側方に畝部を形成する溝切機本体に適用される溝連通部であって、
前記溝連通部は、溝連通部材を有し、
前記溝連通部材は、前記溝切部材により形成された前記畝部から離間する非作動位置と、前記溝切部材により形成された前記畝部に侵入する作動位置とに、操作部の操作により変更可能に構成されていることを特徴とする溝切機本体に適用される溝連通部。
【請求項7】
前記溝連通部は、前記溝切機本体に着脱可能に構成されていることを特徴とする請求項6に記載の溝切機本体に適用される溝連通部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝の交差部の溝同士をつなぐ溝切機及び溝切機本体に適用される溝連通部に関する。
【背景技術】
【0002】
稲作では、田植え後一定期間後に、無効分けつの抑制や根張の促進を目的として中干しが行われるが、排水を促進するため溝切作業が行われる。この場合、近年では溝切機で溝を形成することが多い。
【0003】
例えば本出願人は、容易かつ適正に溝を形成する溝切機を提案している。特許文献1に示す溝切機では、前輪が駆動し、作業者が跨って圃場内を自転車のように操作すると、後部の溝切板により両側に法面が形成された底面を備えた溝を簡単に切ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の溝切機では、
図14(a)に示すように一定高さの水Wを張った圃場の水底WBに、
図14(b)に示すように溝切機1の溝切板40を押し付けて溝を切る。
図14(c)に示すように、溝Dは、溝切板40により土が両側に掻き分けられて深い底面Bを形成するが、ここから排出された土は両サイドの斜面部である法面Sを形成する。この法面Sの頂部は水平な平面である天端Tが形成されて高さがほぼ水底WBと等しく均らされる。また、各天端Tの外方には溝Dの形成時に両外方に押し分けられた残土SSが盛り上がる。この残土SSの高さは一般に水面WLより低いが水底WBより高くなる。また、水面WLが
図14に示す位置より低い場合には残土SSが水面WLから露出する場合もある。このため、残土SSに挟まれた部分には、溝Dの側面からの水の導入が制限される。
【0006】
図15に溝切機による溝切作業を上方から見た平面図を示す。同図に示すように、溝切作業は、まず、図示しない稲の条間に沿って圃場にジクザク状の溝D1を形成していく。この溝は
図14(c)に示す断面となる。圃場内に一通り溝D1を形成すると、
図16に示すように圃場の端部で溝切機1を転回して、これまで形成した溝D1の方向(図中左右方向)と交差する方向に溝D2を形成していく。
図14(d)は、溝D2を切る前の
図15のS0-S0部分の断面を示す。S0-S0部分に対して
図14(e)に示すように溝D1に直交した溝D2を形成すると、
図14(f)に示すように溝同士が交差する交差部Cでは、溝切板40は既に形成した溝D1を遮断するように法面S及び天端Tが形成される。また、各天端Tの外方には溝Dの形成時に両外方に押し分けられた残土SSが形成される。交差部Cではこれらにより新たな溝D2の両側に山状に盛り上がった畝部Hが形成される。ここで、畝部Hとは溝切作業により交差部Cにて溝D2の側方に形成される底面Bよりも高い盛り上がり部分をいう。交差部Cでは先に溝D1に形成された残土SSがあり、溝D2の形成時にはこれを左右に押しのけるため、交差部Cに形成される畝部Hの高さは残土SSより高くなることもある。このような畝部Hにより交差部Cでは溝D1と溝D2の水の流通が遮られてしまう。
【0007】
そこで、従来は、
図16に示すような溝D2を形成したあと、交差部Cの畝部Hを手作業で破壊して、
図17に示すような状態として水Wの導通を図っていた。しかしこの作業は、一旦溝切機から降りて交差部Cの畝部Hを崩したり、乗車したまま長い道具で交差部Cの畝部Hを崩したりして導水を図ったため、作業者には極めて作業負担の大きな作業であった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、溝切機で先に切った溝と、後に切った溝の水の流通を容易に確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための溝切機は、ハンドルと、溝切部材を有する溝切部と、を備えた溝切機本体と、溝連通部材を有する溝連通部を、備え、前記溝切部材は、荷重を掛けることでその形状により溝を形成するとともに前記溝同士の交差部では前記溝の側方に畝部を形成し、前記溝連通部は、前記溝連通部材が、前記溝切部材により形成された前記畝部から離間する非作動位置と、前記溝連通部材が、前記溝切部材により形成された前記畝部に侵入する作動位置とに、操作部の操作により変更可能に構成されている。
【0010】
また、前記溝連通部材は一対の連通板からなり、前記一対の連通板がそれぞれ回動して前記作動位置と前記非作動位置とに変更するように構成されている。
前記作動位置において、前記溝連通部材の下端は前記溝切部材の後部下端よりも上方に位置する。
【0011】
前記溝連通部は、前記操作部の操作により、前記作動位置又は前記非作動位置から、前記一対の連通板のうちいずれか一方を前記作動位置とし他方を前記非作動位置とした半作動位置に変更可能に構成されている。
【0012】
前記一対の連通板は付勢手段により一定の方向を向くように付勢されており、
前記作動位置において、前記一対の連通板の下端は前記付勢手段の付勢力に抗して、前後方向に回動可能に構成されていることを特徴とする。
【0013】
ハンドルと、溝切部材を有する溝切部と、を備え、前記溝切部材は、荷重を掛けることでその形状により溝を形成するとともに前記溝同士の交差部では前記溝の側方に畝部を形成する溝切機本体に適用される溝連通部であって、前記溝連通部は、溝連通部材を有し、前記溝連通部材は、前記溝切部材により形成された前記畝部から離間する非作動位置と、前記溝切部材により形成された前記畝部に侵入する作動位置とに、操作部の操作により変更可能に構成されている。
【0014】
前記溝連通部は、前記溝切機本体に着脱可能に構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溝切機及び溝切機本体に適用される溝連通部によれば、先に切った溝と、後に切った溝の水の流通を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の溝切機の全体を示す左後方上部からの斜視図である。
【
図5】
図5(a)は本実施形態の溝切板の平面図、
図5(b)は同背面図、
図5(c)は同側面図である。
【
図6】
図1の溝切機から溝連通部を抽出した斜視図である。
【
図8】
図8は溝連通部が作動位置から非作動位置に移動途中の溝切機の側面図である。
【
図9】
図9は溝連通部が作動位置から非作動位置に移動途中の溝切機の背面図である。
【
図10】本実施形態の溝連通部が非作動位置にある溝切機の側面図である。
【
図11】本実施形態の溝連通部が非作動位置にある溝切機の平面図である。
【
図12】本実施形態の溝連通部が非作動位置にある溝切機の背面図である。
【
図14】
図14(a)~
図14(f)は、本実施形態の溝切機による溝切作業の手順を示す図である。
【
図15】圃場における溝切作業を示す模式図である。
【
図16】従来の溝切機で交差した溝を切った状態の模式図である。
【
図17】本実施形態の溝切機で交差した溝を切った状態の模式図である。
【
図18】
図18(a)、
図18(b)は、本実施形態の溝切機における溝の溝連通部の動作説明図である。
【
図19】
図19(a)、
図19(b)は、本実施形態の溝切機における溝の溝連通部の動作説明図である。
【
図21】ブラケットのない溝切機本体の溝切板付近の斜視図である。
【
図23】変更例に係る溝連通部を取り付けた溝切機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の溝切機1の一実施形態を、
図1~
図19を参照して説明する。
(全体構成)
以下、
図1、
図2、
図3、
図4を参照して溝切機1の全体構成を説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の溝切機1の全体を示す左後方上部からの斜視図である。
図2は、本実施形態の溝切機1の側面図である。なお、
図2に示す状態で、図中左を溝切機1の前、図中右を後という。また、図中上を溝切機1の上、図中下を下という。
図3は溝切機1の平面図であり、
図3に示す状態で、図中上を溝切機1の右、図中下を左という。
図4は溝切機1の背面図であり、
図4に示す状態で、図中右を溝切機1の右、図中左を左といい、この左右方向を幅方向ともいう。また、溝切機1及びその構成において水平とは
図2、
図4に示す状態、すなわち溝切機1を水平な面に設置した状態をいうが、この水平とは一応の方向を指すものであり、厳密な意味での水平(水面と平行)に限られない。
【0019】
本実施形態の溝切機1は、作業者がサドル36に跨って地面に足を着けて乗車するもので、全体として自転車のような形状であるが、チェーンによる足漕ぎの駆動ではなく前輪のエンジン22で駆動輪21を駆動する。また、自転車の後輪に替えて溝切部材としての溝切板40を備える。さらに、溝連通部5を有する。
【0020】
(駆動装置2)
車体前部には、駆動装置2が配置される。駆動装置2は駆動輪21を備える。この駆動輪21には、駆動源であるエンジン22の出力が動力伝達軸23からギヤボックス24に伝達され、ギヤボックス24で回転速度が減速され、ギヤボックス24の内側のハブ21cを介して駆動力が伝達される駆動輪21が回転駆動される。
【0021】
このように、駆動輪21は、滑り止め21aが一定間隔で設けられた外輪21bと、外輪21bとハブ21cとを連結するスポーク21dとからなる。駆動輪21、エンジン22、動力伝達軸23、ギヤボックス24が駆動装置2を構成する。
【0022】
(フレーム前部3F)
この駆動輪21のハブ21cは、逆U字状のフロントフォーク31に固定されたギヤボックス24を介して片側から回転可能に支持されている。フロントフォーク31の上部にはハンドルステム32が設けられ、その上端には、ハンドル30が設けられている。
【0023】
このようにフレーム前部3Fは、フロントフォーク31(駆動輪支持部)、ハンドルステム32(ハンドル軸)、操舵用のハンドル30とから構成されている。
このフレーム前部3Fのハンドルステム32は、フレーム後部3Rの円筒状のヘッドチューブ33を貫通して回動自在に支持されている。フレーム前部3Fとフレーム後部3Rでフレーム3を構成する。
【0024】
図3は、本実施形態の溝切機1の平面図であり、ハンドル30は直進時の位置にある。この位置から、ハンドル30を作業者が右方向に付勢すると、平面視でハンドルステム32を中心とした右回りのモーメント力が生じ、ハンドル30は、ハンドルステム32を中心に右向きに回動する。このとき、フロントフォーク31とともに、ここに支持された駆動装置2も右に回動する。そうすると駆動輪21もフレーム後部3Rに対して、右に偏角が生じ、溝切機1の進路は、直進方向に対して右向きになる。
【0025】
(フレーム後部3R)
ハンドルステム32は、フレーム後部3Rの円筒形のヘッドチューブ33に嵌入され、回動自由に支持されている。
【0026】
概ね垂直に設けられたヘッドチューブ33には、断面が縦長の長方形の直線状の角パイプからなるトップチューブ34が後方に延びるように接続され、後方斜め下向きに延びるように設けられている。トップチューブ34の後端には、概ね垂直に設けられたシートチューブ35が設けられている。このシートチューブ35は、上方が開口した円筒形の金属パイプであり、この中にその内径より若干小さい外形の円筒状のシートポスト(図示しない)が摺動可能に挿入されている。シートポストの上端には、サドル36が配設されている。サドル36は、シートポストに溶接固定された水平な金属板と、その上部に内部にスポンジやばねなどの弾性体と、これらを包むビニルレザーの外皮とから構成され、作業者が安定して快適に跨ることができるようになっている。
【0027】
シートチューブ35の上端には、シート高さ調節部材が設けられ、挿入されたシートポストを締付若しくは解放することでサドル36を任意の高さに調節することができる。
シートチューブ35の後方には、トップチューブ34の延長線上に丸パイプ状の上ステー37が真っ直ぐ後方に延びている。この上ステー37は、途中で地面方向に屈曲して延びている。シートチューブ35の下端近傍からトップチューブ34と同じような角パイプからなる下ステー38が上ステー37と平行に真っ直ぐ延びて、上ステー37と合流する。上ステー37の下端は開口して、溝切部取付部39となっている。上ステー37のうち下ステー38との合流箇所より下方には溝連通部5を取り付ける板状のブラケット39aが固定されている。ブラケット39aは水平な取付面を有しており、取付面には図示しない取付孔が形成されている。
【0028】
このようにフレーム後部3Rは、ヘッドチューブ(ハンドル軸支持部)33、トップチューブ34、シートチューブ35、サドル36、上ステー37、下ステー38、溝切部取付部39、ブラケット39aとから構成される。
【0029】
(溝切部4)
車体後部には、溝切部4が配設される。フレーム後部3Rの溝切部取付部39には、上ステー37の内径よりやや小さい外形の丸パイプからなる溝切板ステー41が挿入されている。溝切板ステー41の下端には溝切板40が固定されている。溝切板40は、溝切板ステー41により若干角度が変更できるように溝切部取付部39に取付けられ、溝切部取付部39と溝切板ステー41を直径方向に貫通する貫通孔に挿入されるピンで固定されている。貫通孔は上下3段の位置に配設され、垂直方向の取付位置を調節できる。
【0030】
図5は、
図2の溝切機1から溝切板40だけを取り出した図であり、
図5(a)は平面図、
図5(b)は背面図、
図5(c)は側面図である。
図5(a)に示すように、溝切板40は、平面視で、前部が概ね前後に長い二等辺三角形であり、後部は前後に短い二等辺三角形で、全体に盾形をしている。
【0031】
また、
図5(b)に示すように、溝切板40は、背面視で、概ね縦に長い六角形となっており、左右に天端部42cが延びている。さらに、
図5(c)に示すように、溝切板40は、側面視で、下部に底面部42bが形成され、底面部42bの前部は前上がりとなり後部は水平となっている。底面部42bの左右両側から上に向かうほど拡幅する法面部42aが形成されており、法面部42aの上端は前方ほど高くなっている。法面部42aの上端に沿って、前方に向けて斜め上に形成された、左右に水平な天端部42cが形成されている。天端部42cは、溝切板40が前方(
図5(c)において左方向)に進行すると、溝Dの左右に排出された土を上方から圧縮して、水平な天端Tを形成することができる。また、天端Tのさらに左右外方には土が盛り上がり形成された残土SSが形成される。
【0032】
(溝連通部5)
図6は、
図1の溝切機1から溝連通部5のみを抽出した後方斜視図であり、
図7は、
図6に示した溝連通部5の分解斜視図である。なお、
図1ないし
図7に示す溝連通部5は作動位置を示している。また、本実施形態では溝切機1から溝連通部5を除いた構成を溝切機本体1aといい、溝切機本体1aに溝連通部5を取り付けた構成を溝切機1という。
【0033】
以下、溝連通部5について、詳細に説明する。溝連通部5は、固定フレーム51と、溝連通部材としての左連通板52及び右連通板53と操作部54とを有する。以下に説明する溝連通部5の各構成の形態等は左連通板52及び右連通板53が溝切板40の後方にて溝切板40の法面部42aの後端から左右方向である側方に突出する作動位置であり、これ以外については別途説明する。また、溝連通部5は溝切機本体1aに取り付けられた状態(
図1ないし
図4の状態)として説明する。
【0034】
(固定フレーム51)
固定フレーム51は前端に固定プレート511を有する。固定プレート511は溝連通部5を溝切機本体1aに固定する部材である。固定プレート511は水平な上面511aとこの上面511aの左右側縁および後縁が下方に90度折り曲げられた側面511bを有しており、全体として下方が開口した略箱状をなす。固定プレート511の上面511aには上下方向に貫通する取付孔511cが形成されている。
【0035】
固定プレート511の後方に面する側面511bにはベースフレーム512が固定されている。ベースフレーム512は一方の面が上向きの逆L字状をなすアングル材からなり、後方に向かって斜め下方に延び、その後端は溝切板40の後端よりもわずかに前方に位置している。ベースフレーム512の先端側上面には図示しない六角形の軸受け装着孔が形成されており、この軸受け装着孔に六角筒状の軸受513が移動不能に固定されている。軸受513は内部に円柱状の受け孔513aが形成されており、この受け孔513aは溝切機1が水平状態(
図2の状態)で軸線が鉛直方向を向いている。
【0036】
図7に示すように、ベースフレーム512の後端には、ベースフレーム512の延出方向と同方向にベースフレーム512から突出して延びる連通板支持軸514が固定されている。連通板支持軸514は一定直径の円柱棒材からなり、その前端側がベースフレーム512に溶接等により固定され、後端側がベースフレーム512から後方に突出している。連通板支持軸514の後方は雄ネジ514aが形成されている。固定フレーム51は、これを構成する固定プレート511の取付孔511cとフレーム後部3Rのブラケット39aに形成された取付孔とに挿入されたボルト60(
図3)とナット(図示しない)により溝切機本体1aと相対移動不能に固定されている。連通板支持軸514には、付勢手段であるコイルばね515と、
図6、
図7中左側に位置する左連通板52と同図中右側に位置する右連通板53が装着されており、連通板支持軸514の雄ネジ514aにナット70が螺合されて、これらを抜け止めしている。
【0037】
(左連通板52及び右連通板53(溝連通板))
図6及び
図7は、左連通板52及び右連通板53が溝切板40の側方から突出する作動位置を示している。以下は左連通板52及び右連通板53の作動位置での説明である。左連通板52及び右連通板53はそれぞれ上下方向に対して左右方向が長い略長方形をした金属板材であり、
図4に示す背面視では鉛直方向に延びる仮想線(図示しない)に対して線対称形状に形成されている。左連通板52及び右連通板53の上辺52a、53aはそれぞれ左右外方に向かうほど高さが低くなる一方、左連通板52及び右連通板53の下辺52b、53bはそれぞれ水平となっている。このため、左連通板52及び右連通板53の上下長は左右方向内側となる内辺52c、53cが長く、外辺52d、53dが短い。左連通板52及び右連通板53の下辺52b、53bを含む下端はわずかに後方に反っている。左連通板52の上辺52a及び内辺52cには板材を前方に90度折り曲げた補強部52eが一体形成されており、右連通板53の上辺53a及び内辺53cには板材を後方に90度折り曲げた補強部53eが一体形成されている。また、左連通板52の前方及び右連通板53の後方にはそれぞれ左補強板52f、右補強板53fが配置されている。
【0038】
図4に示すように、左連通板52及び右連通板53は作動位置では、対向する内辺52c、53c同士が重なった状態となっており、全体として一枚の板状と視認することができる。左連通板52及び右連通板53を一枚と見立てた左右全長は溝切板40の天端部42cの両外端間の長さの2倍程度であり、このため、左連通板52及び右連通板53は溝切板40の後方にて溝切板40から側方に突出する。また、溝切板40により形成された溝Dの両畝部Hの残土SS間の長さよりも基本的に長くなっている。
【0039】
図7に示すように、左連通板52及び右連通板53にはそれぞれ内辺52c、53c寄りの上方に連通板支持軸514に遊嵌状態で挿入可能な軸挿入孔52g、53gが形成されている。左連通板52及び右連通板53は、左連通板52が前方に右連通板53が後方に位置して一部が重なった状態で両者の軸挿入孔52g、53gが連通板支持軸514に挿入されている。このため、左連通板52及び右連通板53は連通板支持軸514の軸周りに回動可能となっている。また、左連通板52及び右連通板53には、軸挿入孔52g、53gよりも外方かつ下方にバー取付孔52h、53hがそれぞれ形成されている。なお、説明を省略するが
図7に示すように、左補強板52f、右補強板53fにもそれぞれ軸挿入孔52g、53g及びバー取付孔52h、53hに対応して同径の孔が形成されている。
【0040】
図2に示すように、左連通板52及び右連通板53は溝切板40の後端から一定距離離間した後方に位置している。左連通板52及び右連通板53の下辺52b、53bは溝切板40の底面部42bの後端より少し上方に位置し、左連通板52及び右連通板53の上辺52a、53aは最も低い外端でも溝切板40の天端部42cの後端よりも上方に位置している。
【0041】
(付勢手段515)
図7に示すように、連通板支持軸514に装着された付勢手段であるコイルばね515は、その前端は座金を介してベースフレーム512の後端に当接し、後端は座金を介して左連通板52及び右連通板53を後方に付勢している。
図2に示すように左連通板52及び右連通板53はこの付勢力を受けて連通板支持軸514及びベースフレーム512の延出方向に直交する方向である下方前方に傾斜している。一方、左連通板52及び右連通板53の軸挿入孔52g、53gは、連通板支持軸514に遊嵌されている。このため、
図2に示す側面視において下辺52b、53bが連通板支持軸514を支点としてコイルばね515の付勢力に抗して前後に一定範囲で回動可能となっている。
【0042】
(操作部54)
操作部54は、左連通板52及び右連通板53を操作する部位であり、操作レバー541と第1回動部材542と第2回動部材543と左連結バー544、右連結バー545とを有する。
【0043】
図6、
図7に示すように、操作レバー541は、全体としてT字状をなす金属部材であり、左右に延びる円筒状のレバー541aとその左右方向中央から下方に延びるレバー軸541bとを有する。レバー541aはサドル36の後方に配置されており、溝切機1に乗車した作業者が片手を後方に伸ばして届く位置にある。
【0044】
第1回動部材542は、
図2に示す側面視で凹状ないし上方が開口したコ字状をなす金属板材であり、前後にそれぞれ上方に向かう前板542a及び後板542bと、その下端同士を前後方向につなぐ下板542cとが一体形成された構成をなす。前板542aの前端縁及び後板542bの後端縁にはそれぞれ90度左方に折り曲げられた補強部542d、542eが形成されており、下板542cの下端縁にも同様に90度右方に折り曲げられた補強部542fが形成されている。
【0045】
後板542bにはレバー軸541bの下部が固定されており、操作レバー541と第1回動部材542は一体に動作する。また、第1回動部材542のうち下板542cの後端下部には下板542cの下縁と平行に下板542cから後方に突出する金属円柱の連結軸542gが固定されており、その先端に径方向に延びるピン孔が形成されている。前板542aの補強部542dの上端には更に左方に突出しており、中央に掛止孔542hが形成されている。また、第1回動部材542の前方下端には第2回動部材連結孔542iが板厚方向である左右方向に形成されている。
【0046】
第2回動部材543は
図2に示す側面視で下方に向かうほど前後長の長い扇型の金属板材からなる平面の支持板543aを有し、支持板543aには第1回動部材連結孔543bが板厚方向である左右方向に形成されている。第2回動部材543と第1回動部材542とは、第2回動部材連結孔542iと第1回動部材連結孔543bとに挿入されたボルト60とナット70とにより回動可能に連結されている。このため、第1回動部材542は第2回動部材543に対してボルト60の軸周りである支持板543aに平行な面上を回動可能となっている。第2回動部材543に対する第1回動部材542の回動方向のうち、
図2の反時計回り(図中前方)をA方向、時計回り(図中後方)をB方向という。なお、第2回動部材543は固定フレーム51に対してA方向及びB方向には回動しないため、第1回動部材542のA方向及びB方向の回動は固定フレーム51に対する回動でもある。
【0047】
第2回動部材543のうち、支持板543aの前方下端には支持板543aを延長した板材を左方向に90度折り曲げた掛止部543cが形成されており、中央に掛止孔543dが形成されている。そして、第1回動部材542の掛止孔542hと第2回動部材543の掛止孔543dとの間には引張コイルばね546が伸長状態で掛けられている。
図2に示すように、第1回動部材542の第2回動部材543に対する回動軸となるボルト60の軸線は、作動位置で引張コイルばね546よりも後方に位置している。このため、引張コイルばね546は第2回動部材543に対して第1回動部材542をA方向に付勢している。
【0048】
第2回動部材543の下端には軸部材543eが下方に突出している。軸部材543eは、ベースフレーム512に固定された軸受513の受け孔513aに挿入されており、第2回動部材543は第1回動部材542とともに固定フレーム51に対して軸部材543eの軸周りに回動可能である。この回動方向のうち
図3で反時計回りをC方向、時計回りをD方向という。
【0049】
図6、
図7に示すように、左連結バー544及び右連結バー545はそれぞれ長尺状の金属板材であり、軸方向の上端に連結軸挿入孔544a、545aが、また、軸方向の下端に連通板連結孔544b、545bが、それぞれ板厚方向に形成されている。左連結バー544及び右連結バー545は上端が前後に重ねられて連結軸挿入孔544a、545aに第1回動部材542の連結軸542gが挿入されて連結軸542gのピン孔に挿入されたピン547により回動可能に連結されている。また、
図4に示すように左連結バー544及び右連結バー545は背面視で連結軸挿入孔544a、545aを頂点としてハの字状に延びている。そして、左連結バー544及び右連結バー545の下端に形成された連通板連結孔544b、545bは、左連通板52及び右連通板53の各バー取付孔52h、53hとの間に挿入されたボルト60とナット70により締結されている。これにより、左連結バー544及び右連結バー545はそれぞれ左連通板52及び右連通板53に対して回動可能に連結されている。
【0050】
(溝連通部5の動作)
以上の構成を有する溝連通部5の動作を説明する。先に溝連通部5の作動位置にある構成を説明したため、まず、左連通板52及び右連通板53が溝切板40から側方に突出する作動位置を基準とした動作を説明する。
【0051】
(作動位置から非作動位置への変更)
図1ないし
図4、
図6に示す作動位置から操作レバー541を前方に引く。溝切機1に乗車した作業者は片手を後方に伸ばしてレバー541aを握り、そのまま前方に引けばよい。引張コイルばね546は第1回動部材542をA方向に付勢しているため、操作レバー541の前方への操作は引張コイルばね546の付勢力により補助される。操作レバー541は第1回動部材542に固定されているため、操作レバー541を前方に引くと、
図8に示すように第1回動部材542が固定フレーム51に対して前板542a側を支点としてA方向に回動し、後板542bが持ち上がる。後板542bの下部には連結軸542gが固定されており、この連結軸542gには左連結バー544、右連結バー545を介して左連通板52及び右連通板53が連結されている。このため、第1回動部材542のA方向への回動に伴い、左連結バー544及び右連結バー545が引き上げられ、左連通板52及び右連通板53もこれに追随する。
【0052】
左連通板52及び右連通板53は、固定フレーム51に固定された連通板支持軸514の軸周りに回動可能となっている。このため、左連結バー544及び右連結バー545が引き上げられると、
図9に示すように、左連通板52及び右連通板53はそれぞれの左右外方が引き上げられる形で互いに反対方向に回動してV字状となる。さらにその角度を順次狭くするように上辺52a、53a同士が近づく。そして、操作レバー541の回動端では左連通板52及び右連通板53は約90度回動した非作動位置となる。
【0053】
図10に左連通板52及び右連通板53が非作動位置となった溝切機1の側面図、
図11に同平面図、
図12に同背面図を示す。
図10に示すように、非作動位置では、左連通板52及び右連通板53の下端は溝切機1の溝切板40の後方で、天端部42cの後端よりも上方に位置する。また、
図11及び
図12に示すように、左連通板52及び右連通板53は溝切板40と左右方向で重なる位置にあり、非作動位置にある左連通板52及び右連通板53の左右長さは溝切板40の天端部42c間の左右長さよりも短くなる。このため、非作動位置では、左連通板52及び右連通板53は溝切板40の全幅の範囲内となる。このため、左連通板52及び右連通板53は溝切板40の側方から突出することもない。
【0054】
そして、操作レバー541を後方に押すと上記と逆の動作が生じて第1回動部材542は
図10の状態から固定フレーム51に対してB方向に回動し、左連結バー544及び右連結バー545を押し下げる。この押し下げに伴い左連通板52及び右連通板53は先とは逆の方向に回動して作動位置に戻る。したがって、操作レバー541の前方及び後方への操作により、溝連通部5の左連通板52及び右連通板53を非作動位置と作動位置との間で変更することができる。なお、溝連通部5は引張コイルばね546によりA方向側となる非作動位置となるように付勢されているため、操作レバー541を後方に押す操作は引張コイルばね546の付勢力に抗することとなり、前方への操作よりも強い力が必要となる。
【0055】
(非作動位置から半作動位置への変更)
図10ないし
図12に示す非作動位置から、操作レバー541を後方に押すと同時に操作レバー541を例えば右方向に回動させる。具体的には
図11に示す非作動位置にある操作レバー541を右方向(
図11上方)にねじりながら後方に押す。これまで説明したように操作レバー541の後方への操作は第1回動部材542をB方向に回動させる。そして、操作レバー541の右方向への操作は第1回動部材542と第2回動部材543とをC方向に回動させる。このため、第1回動部材542は固定フレーム51に対して後方であるB方向かつ右方であるC方向の2軸方向に回動する。
【0056】
図13(a)、
図13(b)に示すように、第1回動部材542の固定フレーム51に対するB方向かつC方向への回動により第1回動部材542は右連結バー545のみを押し下げ、右連通板53のみが回動して溝切板40から側方に突出する作動位置となる。一方、第1回動部材542のこの回動では、左連結バー544は連通板連結孔544bを中心に回動するだけとなり、左連通板52は回動することなく非作動位置のままとなる。これにより、右連通板53のみが溝切板40から側方に突出する半作動位置となる。なお、図示しないが、
図10ないし
図12に示す非作動位置から操作レバー541を後方に押すと同時に操作レバー541を左方向に回動させると、先の説明とは左右逆の動作が生じ、左連通板52のみが溝切板40から側方に突出する半作動位置となる。
【0057】
さらに、
図13(a)、
図13(b)に示す半作動位置から非作動位置に戻すには、操作レバー541を前方に引けばよい。これにより第1回動部材542はA方向に回動する。この回動は左連通板52には作用せず右連通板53のみを回動させる。右連通板53のA方向への回動に伴い右連通板53と右連結バー545との連結箇所が順次中央寄りに移動するため、第1回動部材542も自ずとD方向へ回動し、操作レバー541を含めた溝連通部5が非作動位置に復帰する。また、右連通板53のみが溝切板40から側方に突出する半作動位置から操作レバー541を更に後方に押しつつ左側に回動させると、第1回動部材542が後方であるB方向かつ左方であるD方向に回動し、左連結バー544を左下方に押す方向として作用する。このため、左連通板52が回動し、左連通板52及び右連通板53がともに溝切板40から側方に突出する作動位置となる。
【0058】
したがって、溝連通部5は、左連通板52及び右連通板53の非作動位置、左連通板52又は右連通板53のいずれかが作動した半作動位置、左連通板52及び右連通板53の作動位置の間で相互に変更可能となっている。
【0059】
(左連通板52及び右連通板53の傾動)
左連通板52及び右連通板53の各軸挿入孔52g、53gは連通板支持軸514に遊嵌されている。また、左連通板52及び右連通板53は、コイルばね515により後方へ付勢されて、連通板支持軸514に直交する方向に延びている。
図2ないし
図4に示す作動位置において、左連通板52及び右連通板53の下端に前方又は後方からの荷重が作用した場合、左連通板52及び右連通板53の下端はコイルばね515の付勢力に抗して後方又は前方に傾動する。一方、荷重が作用しなくなった場合には左連通板52及び右連通板53はコイルばね515の付勢力によりもとの姿勢に復帰する。
【0060】
(溝切作業の手順及び作用)
以上の動作を踏まえた溝切機1の溝切作業について説明する。まず基本として溝切機1の溝切作業は溝連通部5を非作動位置(
図10ないし
図12)として行う。溝切機1を作業対象となる圃場に投入し、
図14(a)に示す溝Dのない状態から、
図14(b)に示すように溝切板40で溝Dを切る。このとき、溝切板40の形状が転写されて、
図14(c)に示すように溝Dは水平な底面Bと上部に向かって拡がるような平面からなる一対の対向した法面S、Sが形成される。また、溝切板40は法面部42a、42aの上端部から水平に幅方向に延びるフランジ状の天端部42c、42cが設けられている。この天端部42c、42cは溝切りのときに側方に排除された土の頂部を一定の高さに揃えて、天端Tを形成する。天端部42cは溝切板40の柔らかい土への必要以上の沈み込みを規制する作用があり、そのため天端Tは標準的には水底WBと略同じ高さに形成される。また、
図14(c)に示すように、溝切板40により水底WBの土が左右に排除され、溝Dの両外方に押し出された残土SSが形成される。残土SSは、溝Dの天端Tの外方に沿った盛り上がりとなる。その高さは天端Tより高く水面WLより低くなる。
【0061】
溝切り作業は、
図15に示すように圃場の端部からジグザク状に行い、図示しない水口から条間に沿った溝D1を形成する。そして、
図16に示すように圃場の他の端部に到達すると溝切機1を転回させてこれまで形成した溝D1に直交する向きとし、再び溝切りを進める。
【0062】
ここで、
図16において溝切機1が溝D2を形成しつつ先に形成した溝D1との交差部Cに到達した時、具体的には、溝切機1の溝切板40の後端が先に形成した溝D1内に入ったところ(
図17のS1-S1)で溝切機1を一旦停止させる。そして作業者は操作レバー541を後方に押して左連通板52及び右連通板53が溝切板40から側方に突出する作動位置とする。そうすると、
図18(a)、
図18(b)に示すように、左連通板52及び右連通板53が回動し、交差部Cにおいて溝切板40により形成された溝D2の畝部Hに上から切り込む形で侵入する。つまり、作動位置とは、溝切機1による溝切作業において左連通板52及び右連通板53が溝切板40により形成された畝部Hに侵入する位置である。
【0063】
そして、左連通板52及び右連通板53を作動位置のままとして溝切機1を走行させると、進行方向に溝切板40により新たに交差部Cに溝D2と畝部Hが形成される。一方、
図19(a)、
図19(b)に示すように、左連通板52及び右連通板53は溝切板40の両側方から突出している。このため、交差部Cに新たに形成される畝部Hは左連通板52及び右連通板53の前方に留められて溝切機1とともに移動し、畝部Hは交差部Cから排除される。
図19(a)では左連通板52及び右連通板53により排除された畝部Hを破線で図示している。作動位置の左連通板52及び右連通板53の下辺52b、53bは、溝切板40の底面部42bよりも少し高い位置かつ水平直線状となっている。このため、交差部Cに形成された溝D2の畝部Hはほぼ排除され、交差部Cにおける溝D1、溝D2の連通が確保されることとなる。
【0064】
そして、溝切板40の後端が溝D1から出る直前のところ(
図17のS2-S2)で作業者は操作レバー541を前方に引いて左連通板52及び右連通板53を非作動位置に変更する。そうすると、左連通板52及び右連通板53は回動して溝切板40の後方かつ上方に位置し、左連通板52及び右連通板53が溝切板40により形成された畝部Hから離間する。つまり、非作動位置とは、溝切機1による溝切作業において左連通板52及び右連通板53が溝切板40により形成された畝部Hから離間する位置である。
【0065】
左連通板52及び右連通板53を非作動位置とすることにより、排除された溝D2の畝部Hの土は交差部Cの角に積み上げられる。そして、作業者は再び溝D2の溝切り作業を行い、次の溝D1との交差部Cに到達すると再び溝連通部5を非作動位置から作動位置に変更して溝D1の幅分移動させてD2の畝部Hを溝D1から排除する。この作業を繰り返すことにより、溝D1、D2の交差部Cにおける水Wの流れを自由にして、排水の効果を高めることができる。
【0066】
なお、本実施形態で説明した作用は一例であり、圃場における水面WLの高さ、土の性質や水分の含有量による粘度や流動性によりその作用は変化する。また、溝切板40の水底WBに対する進入の状態により、溝切板40と水底WBの位置関係によっても、その作用は変化する。
【0067】
(実施形態の効果)
(1)本実施形態の溝切機1によれば、溝連通部5により、溝D1と溝D2との交差部Cに形成された畝部Hをほぼ排除して、先に切った溝D1と後に切った溝D2とを連通させ水Wの流通を容易に確保することができる。
【0068】
(2)溝連通部5は、左連通板52及び右連通板53が交差部Cに形成された畝部Hから離間する非作動位置と、左連通板52及び右連通板53が交差部Cに形成された畝部Hに侵入する作動位置とに、操作部54による操作で変更可能となっている。このため、溝D1と溝D2との交差部Cでは左連通板52及び右連通板53を作動位置とし、それ以外の箇所では非作動位置とするなど任意に変更することができ、必要な場合のみ左連通板52及び右連通板53を作動位置として畝部Hを排除させることができる。
【0069】
(3)左連通板52及び右連通板53は、作動位置では溝切板40の側方から突出し、非作動位置では溝切板40の上方に位置し、これらは左連通板52及び右連通板53の回動により変更可能である。このため、作動位置と非作動位置の変更が容易である。
【0070】
(4)操作部54の操作により、左連通板52及び右連通板53を作動位置と非作動位置とに変更することができる。このため、溝連通部5として左連通板52及び右連通板53を回動させる機構を採用すればよく、構造を簡易にすることが可能となる。
【0071】
(5)作動位置では、左連通板52及び右連通板53の下辺52b、53bは溝切板40の後部下端である底面部42bの後端よりも上方に位置する。このため、左連通板52及び右連通板53は溝切板40により形成された溝Dのうち底面Bには接触しにくく、交差部Cに形成された畝部Hのみを排除しやすくなる。また、左連通板52及び右連通板53の上辺52a、53aは溝切板40の後部上端である天端部42cの後端よりも上方に位置する。このため、溝切板40により形成された畝部Hを排除する際には畝部Hの土を左連通板52及び右連通板53の上から取りこぼしにくくなる。
【0072】
(6)非作動位置では、左連通板52及び右連通板53は、溝切板40の天端部42c後端よりも上方に位置するため、溝切板40による溝Dの形成を邪魔しない。また、非作動位置では、左連通板52及び右連通板53は、溝切板40の上方で溝切板40と左右方向に重なる位置にあり、その左右長さは溝切板40の天端部42cの全幅の範囲内となる。このため、非作動位置で溝切作業をする場合でも圃場の植物等とも干渉しにくい。
【0073】
(7)また、溝連通部5は、操作部54の操作により、左連通板52及び右連通板53の作動位置又は非作動位置から、左連通板52及び右連通板53のうちいずれか一方のみを作動位置とした半作動位置に変更可能となっている。例えば、圃場のうち畦に隣接した箇所など、溝D1と溝D2とが平面視でT字状に形成するような箇所では左連通板52及び右連通板53のうち一方を溝切板40の側方から突出させればよいことがある。このような場合には半作動位置として左右片方の畝部Hを排除することができる。
【0074】
(8)左連通板52及び右連通板53の各軸挿入孔52g、53gは、連通板支持軸514を遊嵌可能な大径となっている。左連通板52及び右連通板53はコイルばね515の付勢力を受けて連通板支持軸514及び固定フレーム51の延出方向に直交する方向である下方前方に傾斜している。また、左連通板52及び右連通板53の下端は連通板支持軸514を支点としてコイルばね515の付勢力に抗して前後に一定範囲で回動可能となっている。このため、畝部Hの排除中に左連通板52及び右連通板53に石など硬いものがあたった場合でも左連通板52及び右連通板53が後方に回動して干渉を回避することができ、左連通板52及び右連通板53等に過度の負荷がかかることを防止することができる。
【0075】
(9)溝連通部5は、引張コイルばね546により非作動位置に付勢されている。このため溝切機1の走行中に振動等により左連通板52及び右連通板53が作動位置となることを防止することができる。
【0076】
(10)操作レバー541は作業者が溝切機1に乗車した状態で後方に手を伸ばして押し引き操作できるように配置されている。このため、溝切機1に乗車しながら溝連通部5を操作することができ、効率的な操作が可能となる。
【0077】
(11)また、操作レバー541の直線的な押し引き操作で溝連通部5の作動位置と非作動位置とを変更することができる。このため、直感的な操作が可能である。
(12)本実施形態の溝切機1は、溝切機本体1aのブラケット39aと溝連通部5の固定フレーム51とをボルト60、ナット70により締結して相対移動不能にしている。また、このボルト60、ナット70の締結を解除することにより溝切機1から溝連通部5の取り外しが可能である。このため、溝連通部5は溝切機本体1aと着脱可能であり、溝連通部5を溝切機本体1aから取り外して保守保管することができる。
【0078】
(13)溝切板40は、溝Dの側面に形成された法面Sに連続して天端Tを形成する天端部42cを備えている。このため、法面Sや天端Tの水分を排出して押し固めることができる。また溝切板40が水底WBに必要以上に沈み込むことを規制することができる。また、法面Sの高さが高くなり過ぎないで、法面Sの頂部が、概ね水底WBの高さとなるようにして、水Wを導入しやすい整った形状の溝Dを形成することができる。
【0079】
(本発明の別例)
上記実施形態(本実施形態)は、本発明の一例であり、当業者であれば以下のように変更して実施することもできる。
【0080】
○本実施形態では、エンジン22を前方に備えた、乗用の溝切機1を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、エンジン22をリアに備えたような溝切機でもよい。
【0081】
○また、乗用の溝切機1に限定されず、手押し型の溝切機1に適用してもよい。この手押し型の溝切機1として駆動装置2を備えず作業者の人力で移動するものでもよい。
○ハンドル30はフレーム3に回動不能に固定されており、ハンドル30の向きを変えることによって溝切機1の向きを変えるものでもよい。
【0082】
○本実施形態では、溝連通部5を1つ備えた溝切機1を例示したが、例えば
図20に示すように溝切板40を2つ備え、各溝切板40に対応してそれぞれ溝連通部5を配置してもよい。
【0083】
○本実施形態の溝連通部5では、操作レバー541を後方に押せば作動位置、前方に引けば非作動位置に変化するものとしたが、操作レバー541の操作方向はこれに限られない。たとえば、操作レバー541を後方に押せば非作動位置、前方に引けば作動位置に変更することができるものでもよい。
【0084】
○本実施形態では、溝連通部5の固定フレーム51を溝切機本体1aのブラケット39aにボルト60、ナット70により相対移動不能に固定したが、ブラケット39aのない溝切機本体1aに溝連通部5を後付で取り付け可能な構成としてもよい。
図21に示す溝切機本体1aには、本実施形態の溝切機本体1aのような溝連通部5を固定するためのブラケット39aは形成されていない。このため、溝切機本体1aが有する丸パイプからなる溝切板ステー41に後付けで取り付け可能な溝連通部5として以下に例示する構成とすることができる。なお、本変更例にいう溝切機本体1aとは溝連通部5を有しない従来の溝切機1に相当する構成である。
【0085】
図22に示すように、変更例の溝連通部5は、溝切機本体1aにおける溝切板40の底面部42bに着座する金属製の取付板516を有する。この取付板516は前方に溝切板ステー41に係止する鉤状の係止部516aを有し、後部には溝切板40の底面部42b後端を上下から挟み込む挟持部516bを有する。また、取付板516に上方に延びる金属製の円柱状の縦フレーム517を固定し、縦フレーム517の上部に後方に延びる金属製の横フレーム518を固定する。縦フレーム517の上端に本実施形態の軸受513を同軸に固定し、横フレーム518の後端に横フレーム518の延出方向と同方向に突出する本実施形態の連通板支持軸514を固定する。これらの構成により固定フレーム51を構成する。そして、
図22に示すように軸受513に第2回動部材543を装着し、連通板支持軸514に本実施形態と同様のコイルばね515、左連通板52及び右連通板53を装着する。また、操作レバー541、第1回動部材542、左連結バー544、右連結バー545の構成は本実施形態と同様であるため図示は略する。
【0086】
図23に示すように、取付板516の鉤状の係止部516aを溝切機本体1aの溝切板ステー41に係止する。そして、取付板516を溝切板40の底面部42bに着座させ、溝切板40の後端を挟持部516bで挟み込み、ボルト60とナット70で挟持部516bを固定する。これにより、溝連通部5をブラケット39aのない溝切機本体1aに取り付けることができ、溝連通部5を備えた溝切機1とすることができる。
【0087】
○左連通板52及び右連通板53に使用する材料は、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミ合金など剛性が高くさびにくい金属などかが好ましいが、樹脂を使用してもよい。また、複数の材料を組み合わせてもよく、例えば部分的にゴムを用いる等の用途に応じた変更も可能である。
【0088】
○作動位置にある左連通板52及び右連通板53を合体した大きさの1枚の連通板を採用し、操作レバー541の操作でこの連通板を上下させて作動位置と非作動位置とに変更可能としてもよい。非作動位置では溝連通板が上方に位置するが、この位置を圃場の植物の高さよりも高い位置とすることが好ましい。
【0089】
以下に、本実施形態等から導くことのできる技術思想を記載する。
(1).ハンドルと、溝切部材を有する溝切部と、を備えた溝切機本体と、
溝連通部材を有する溝連通部を、備え、
前記溝連通部は、前記溝連通部材が、前記溝切部材から側方に突出しない非作動位置と、前記溝切部材から側方に突出する作動位置とに、操作部の操作により変更可能に構成されていることを特徴とする溝切機。
【0090】
(2).ハンドルと、溝切部材を有する溝切部と、を備えた溝切機本体に適用される溝連通部であって、
前記溝連通部は、溝連通部材を有し、
前記溝連通部は、前記溝連通部材が、前記溝切部材から側方に突出しない非作動位置と、前記溝切部材から側方に突出する作動位置とに、操作部の操作により変更可能に構成されていることを特徴とする溝切機本体に適用される溝連通部。
【符号の説明】
【0091】
1…溝切機
1a…溝切機本体
2…駆動装置
21…駆動輪
22…エンジン(駆動源)
3…フレーム
3F…フレーム前部
3R…フレーム後部
30…ハンドル
31…フロントフォーク(駆動輪支持部)
32…ハンドルステム(ハンドル軸)
33…ヘッドチューブ(ハンドル軸支持部)
35…シートチューブ(サドル支持部)
36…サドル
39…溝切部取付部
4…溝切部
40…溝切板(溝切部材)
41…溝切板ステー
42…溝切面
42a…法面部
42b…底面部
42c…天端部
5…溝連通部
51…固定フレーム
512…ベースフレーム
513…軸受
514…連通板装着軸
515…コイルばね(付勢部材)
52…左連通板(溝連通部材)
53…右連通板(溝連通部材)
54…操作部
541…操作レバー
542…第1回動部材
543…第2回動部材
D…溝
B…底面
S…法面
SS…残土
T…天端
H…畝部
C…交差部
W…水
WB…水底
WL…水面