(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151515
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電線付き圧着端子および電線付き圧着端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20241018BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R43/048 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064900
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(72)【発明者】
【氏名】黒石 亮
(72)【発明者】
【氏名】渥美 泰
(72)【発明者】
【氏名】藤木 匡
(72)【発明者】
【氏名】蔵城 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢次
(72)【発明者】
【氏名】小野 静之
【テーマコード(参考)】
5E063
5E085
【Fターム(参考)】
5E063CB02
5E063CC05
5E085BB03
5E085BB12
5E085CC03
5E085CC09
5E085DD14
5E085EE02
5E085FF01
5E085HH06
5E085JJ06
(57)【要約】
【課題】芯線に付着した酸化被膜を低コストで除去することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を可能にする電線付き圧着端子を提供する。
【解決手段】電線付き圧着端子10が、端末において内部の芯線12が絶縁被覆14から露出してなる電線16と、電線16の芯線12が圧着された芯線圧着部18を有する圧着端子20と、を備え、圧着端子20の芯線圧着部18は、芯線12が載置される底板部26と、底板部26の両側から突出して底板部26上の芯線12に対して加締め圧着された一対の加締め片28,28と、を有し、芯線圧着部18は、芯線12の延出方向の両側部分を除く中間領域αにおいて、底板部26および加締め片28の少なくとも一方における一部を芯線12に向かって押し出して形成した押出突部34を有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末において内部の芯線が絶縁被覆から露出してなる電線と、
前記電線の前記芯線が圧着された芯線圧着部を有する圧着端子と、を備え、
前記圧着端子の前記芯線圧着部は、前記芯線が載置される底板部と、前記底板部の両側から突出して前記底板部上の前記芯線に対して加締め圧着された一対の加締め片と、を有し、
前記芯線圧着部は、前記芯線の延出方向の両側部分を除く中間領域において、前記底板部および前記加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して形成した押出突部を有している、電線付き圧着端子。
【請求項2】
前記押出突部が、前記延出方向における前記中間領域の中央部分に設けられている、請求項1に記載の電線付き圧着端子。
【請求項3】
前記押出突部が、前記底板部の前記中間領域に設けられており、前記押出突部の押出方向で前記押出突部の突出端面が前記芯線の内部に差し込まれた前記一対の加締め片の先端部に対向配置されている、請求項1または請求項2に記載の電線付き圧着端子。
【請求項4】
前記押出突部が、各前記加締め片の基端側における前記中間領域に設けられており、前記押出突部の押出方向で前記押出突部の突出端面が前記芯線の内部に差し込まれた各前記加締め片の先端部に対向配置されている、請求項1または請求項2に記載の電線付き圧着端子。
【請求項5】
前記底板部および前記加締め片の内面の少なくとも一方には、凹状のセレーションが設けられており、前記内面からの前記セレーションの深さ寸法よりも、前記底板部または前記加締め片の前記内面からの前記押出突部の突出寸法の方が大きい、請求項1または請求項2に記載の電線付き圧着端子。
【請求項6】
端末において内部の芯線が絶縁被覆から露出してなる電線と、前記電線の前記芯線が圧着される芯線圧着部を有する圧着端子を準備し、
前記芯線圧着部が、前記芯線が載置される底板部と、前記底板部の両側から突出する一対の加締め片を有しており、前記電線の前記芯線を前記底板部に載置して、前記底板部上の前記芯線に対して前記一対の加締め片を加締め圧着し、
前記加締め圧着後に、前記芯線の延出方向の両側部分を除く中間領域において、前記底板部および前記加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して押出突部を形成する、電線付き圧着端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線付き圧着端子および電線付き圧着端子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧着端子の芯線圧着部に形成された一対の加締め片が、絶縁被覆を剥がされた電線の端部に露出した複数の素線からなる芯線に加締め圧着されることによって、電線に圧着端子が接続された構造の電線付き圧着端子が広く採用されている。近年では、自動車用のワイヤハーネスに使用されている電線として、軽量性やリサイクル性の良さから銅電線に換えてアルミニウム電線が用いられている。アルミニウム電線の場合、各素線の表面に、強固で電気抵抗の大きい酸化被膜が存在することから、端子を接続する上で通電性能の低下を招く。そこで、特許文献1には、アルミニウム電線の端部に露出した芯線を、加締め圧着する前に超音波接続を行うことが提案されている。これによれば、各素線の表面に形成された酸化膜等の被膜が剥がされた素線同士が互いに接触することで電気的に接続され、電線と端子との間の電気抵抗を小さくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造では、アルミニウム電線の端末に露出した芯線を超音波接続する前処理を行った後で、芯線圧着部の一対の加締め部で芯線を加締め圧着する必要があることから、製造工程の長時間化、製造費用の高コスト化が避けられなかった。
【0005】
そこで、芯線に付着した酸化被膜を低コストで除去することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を可能にする電線付き圧着端子および電線付き圧着端子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電線付き圧着端子は、端末において内部の芯線が絶縁被覆から露出してなる電線と、前記電線の前記芯線が圧着された芯線圧着部を有する圧着端子と、を備え、前記圧着端子の前記芯線圧着部は、前記芯線が載置される底板部と、前記底板部の両側から突出して前記底板部上の前記芯線に対して加締め圧着された一対の加締め片と、を有し、前記芯線圧着部は、前記芯線の延出方向の両側部分を除く中間領域において、前記底板部および前記加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して形成した押出突部を有している、ものである。
【0007】
本開示の電線付き圧着端子の製造方法は、端末において内部の芯線が絶縁被覆から露出してなる電線と、前記電線の前記芯線が圧着される芯線圧着部を有する圧着端子を準備し、前記芯線圧着部が、前記芯線が載置される底板部と、前記底板部の両側から突出する一対の加締め片を有しており、前記電線の前記芯線を前記底板部に載置して、前記底板部上の前記芯線に対して前記一対の加締め片を加締め圧着し、前記加締め圧着後に、前記芯線の延出方向での両側部分を除く中間領域において、前記底板部および前記加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して押出突部を形成する、ものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、芯線に付着した酸化被膜を低コストで除去することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を可能にする電線付き圧着端子および電線付き圧着端子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る電線付き圧着端子を構成する電線と圧着端子の圧着前の状態を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す電線と圧着端子を圧着してなる実施形態1に係る電線付き圧着端子の平面側斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す電線付き圧着端子の底面側斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示された電線付き圧着端子の縦断面図であって、
図5のIV-IV断面に相当する縦断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る電線付き圧着端子の平面側斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示された電線付き圧着端子の横断面図であって、
図5に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本開示の実施形態の説明>
最初に、本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の電線付き圧着端子は、
(1)端末において内部の芯線が絶縁被覆から露出してなる電線と、前記電線の前記芯線が圧着された芯線圧着部を有する圧着端子と、を備え、前記圧着端子の前記芯線圧着部は、前記芯線が載置される底板部と、前記底板部の両側から突出して前記底板部上の前記芯線に対して加締め圧着された一対の加締め片と、を有し、前記芯線圧着部は、前記芯線の延出方向での両側部分を除く中間領域において、前記底板部および前記加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して形成した押出突部を有している、ものである。
【0011】
本開示の電線付き圧着端子によれば、芯線が加締められた圧着端子の芯線圧着部は、芯線の延出方向の両側部分を除く中間領域において、底板部および加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して形成した押出突部を有している。これにより、芯線圧着部に加締められて配置された芯線において、押出突部が芯線に向かって押し出されて形成された部位において素線間の密着力を向上させることができる。すなわち、押出突部による部分的な素線間の高密着化は、素線間の酸化被膜を部分的に除去することができる。そして、素線同士が互いに接触することで電気的に接続され、電線と端子との間の電気抵抗を小さくできるのである。要するに、芯線が圧着された芯線圧着部の底板部および加締め片の少なくとも一部を芯線に向かって押し出して押出突部を形成するだけでよいことから、芯線に付着した酸化被膜を低コストで除去することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を可能にする電線付き圧着端子を提供できるのである。
【0012】
特に、押出突部は、芯線圧着部における芯線の延出方向での両側部分を除く中間領域に設けられていることから、一対の加締め片による芯線の圧着工程において、ベルマウスが生じ易い両側部分を外して、押出突部を設けることができる。これにより、押出突部による圧縮力がベルマウス形成部位で逃がされて芯線間を十分に密着できなくなる不具合を未然に防止でき、押出突部による素線間の部分的な高密着化を安定して実現して、電線と端子との間の電気抵抗を確実に小さくすることができる。これにより、車両での熱影響による抵抗の上昇を抑制することができる。また、押出突部は芯線圧着部の底板部および加締め片の少なくとも一方における一部を芯線に向かって押し出して形成しているので、底板部や加締め片を切り欠いたりそれらに穴を設けたりすることがない。それゆえ、それらの切り欠きや穴から押出突部によって素線間に加えられる圧縮力が逃げる不具合が発生することも未然に抑制されている。なお、押出突部は、芯線圧着部の底板部および一対の加締め片の少なくとも一方における一部に設けられていればよく、底板部のみに設けられていてもよいし、一方または両方の加締め片のみに設けられていてもよいし、底板部と加締め片の両方に設けられていてもよい。
【0013】
(2)上記(1)において、前記押出突部が、前記延出方向における前記中間領域の中央部分に配置されている、ことが好ましい。芯線圧着部の中間領域において芯線の延出方向での中央部分に押出突部が設けられていることから、押出突部による芯線圧着部内方への圧縮力が、芯線の延びなどによって芯線圧着部の外部に逃れることを有利に抑制することができる。その結果、押出突部による素線間の高密度化が実現される領域を有利かつ安定して確保することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を一層有利に可能にできる。
【0014】
(3)上記(1)または(2)において、前記押出突部が、前記底板部の前記中間領域に設けられており、前記押出突部の押出方向で前記押出突部の突出端面が前記芯線の内部に差し込まれた前記一対の加締め片の先端部に対向配置されている、ことが好ましい。底板部に押出突部を設けることで、押出突部と加締め片の間で前記芯線を確実に圧縮することができる。特に、押出突部の突出端面が前記芯線の内部に差し込まれた前記一対の加締め片の先端部に対向配置される。その結果、押出突部と加締め片の間に挟まれる芯線の圧縮率を向上させることができ、押出突部による素線間の高密度化による圧着端子と芯線との安定的な電気接続を一層有利に実現できる。
【0015】
(4)上記(1)または(2)において、前記押出突部が、各前記加締め片の基端側における前記中間領域に設けられており、前記押出突部の押出方向で前記押出突部の突出端面が前記芯線の内部に差し込まれた各前記加締め片の先端部に対向配置されている、ことが好ましい。各加締め片の基端側に押出突部を設けることで、押出方向で対向する一対の押出突部間で芯線を確実に圧縮することができる。特に、各押出突部の突出端面が芯線の内部に差し込まれた各加締め片の先端部に対向配置される。その結果、押出突部と加締め片の間に挟まれる芯線の圧縮率を向上させることができ、押出突部による素線間の高密度化による圧着端子と芯線との安定的な電気接続を一層有利に実現できる。また、一対の加締め片のそれぞれの基端側に押出突部を設けてそれぞれの先端部との間で芯線を挟持できることから、芯線を構成する素線間の圧縮状態を左右均等に実現することが容易となり、圧縮状態が不均等となる場合に比して車両での熱影響による抵抗の上昇を一層有利に抑えることができる。
【0016】
(5)上記(1)または(2)において、前記底板部および前記加締め片の内面の少なくとも一方には、凹状のセレーションが設けられており、前記内面からの前記セレーションの深さ寸法よりも、前記底板部または前記加締め片の前記内面からの前記押出突部の突出寸法の方が大きい、ことが望ましい。芯線に対する芯線加締め部からの引き抜き抵抗を付与するためのセレーションの深さ寸法よりも、押出突部の突出寸法が大きくされることにより、一層確実に押出突部による素線間の密着力向上効果を奏することができるからである。より好ましくは、押出突部の突出寸法がセレーションの深さ寸法の2倍以上、さらに好ましくは3倍以上であることが望ましい。
【0017】
本開示の電線付き圧着端子の製造方法は、
(6)端末において内部の芯線が絶縁被覆から露出してなる電線と、前記電線の前記芯線が圧着される芯線圧着部を有する圧着端子を準備し、前記芯線圧着部が、前記芯線が載置される底板部と、前記底板部の両側から突出する一対の加締め片を有しており、前記電線の前記芯線を前記底板部に載置して、前記底板部上の前記芯線に対して前記一対の加締め片を加締め圧着し、前記加締め圧着後に、前記芯線の延出方向の両側部分を除く中間領域において、前記底板部および前記加締め片の少なくとも一方における一部を前記芯線に向かって押し出して押出突部を形成する、ものである。
【0018】
本開示の電線付き圧着端子の製造方法によれば、電線の芯線を圧着端子の底板部に載置して、底板部上の芯線を間に挟んで底板部に向かって一対の加締め片を加締め圧着した後に、芯線の延出方向の両側部分を除く中間領域において、底板部および加締め片の少なくとも一方における一部を芯線に向かって押し出して押出突部を形成することを行う。これにより、芯線圧着部に加締められて配置された芯線において、押出突部が芯線に向かって押し出されて形成された部位において素線間の密着力を向上させることができる。その結果、素線間の酸化被膜を部分的に除去して素線同士を互いに接触することで電気的に接続させ、電線と端子との間の電気抵抗を小さくできるのである。芯線の加締め圧着後に、芯線圧着部の一部を内方に押し出して押出突部を形成するだけでよいことから、芯線に付着した酸化被膜を低コストで除去することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を可能にする電線付き圧着端子を提供できるのである。
【0019】
特に、押出突部は、芯線圧着部における芯線の延出方向での両側部分を除く中間領域に設けられていることから、一対の加締め片による芯線の圧着工程において、ベルマウスが生じ易い両側部分を外して、押出突部を設けることができる。これにより、ベルマウスの有無にかかわらず押出突部を形成するプレス工程を実行することができ、作業性に優れている。さらに、押出突部による圧縮力がベルマウス形成部位で逃がされて芯線間を十分に密着できなくなる不具合を未然に防止でき、押出突部による素線間の部分的な高密着化を安定して実現して、電線と端子との間の電気抵抗を確実に小さくすることができる。
【0020】
<本開示の実施形態の詳細>
本開示の電線付き圧着端子の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
<実施形態1>
以下、本開示の実施形態1の電線付き圧着端子10について、
図1から
図5を用いて説明する。電線付き圧着端子10は、端末において内部の芯線12が絶縁被覆14から露出してなる電線16と、電線16の芯線12が圧着される芯線圧着部18を有する圧着端子20と、を備えて構成されている。
【0022】
<電線16>
図1に示すように、電線16は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の複数の素線が撚り合わされて成る導体部としての芯線12を有し、この芯線12の外周は絶縁材料で形成された絶縁被覆14で覆われている。すなわち、電線16は、その端末において、所定の長さで絶縁被覆14が除去されて芯線12が露出している。この電線16に圧着接続される圧着端子20は、電線16の端末に露出した芯線12に加締め圧着されるようになっている。
【0023】
<圧着端子20>
圧着端子20は、平板状の金属平板を所定の形状にプレス加工してなる。金属平板を構成する金属としては、銅、銅合金等の電気抵抗が低い金属を適宜に選択することができる。圧着端子20には、錫もしくはニッケルメッキが施されていることが好ましい。圧着端子20は、長手方向の一端部(前端部)に接続部22が設けられ、長手方向の他端部(後端部)に芯線圧着部18が設けられている。接続部22は円形平板形状を有しており、中央部にボルト挿通孔24が貫設されている。図示しない機器に接続された接続端子に対して接続部22をボルト締結することにより、圧着端子20が機器に対して電気的に接続されるようになっている。芯線圧着部18は、前後方向に開口する円筒形状を有しており、電線16の端末に露出した芯線12が芯線圧着部18に圧着される。これにより、圧着端子20と電線16が電気的に接続された、
図2に示す電線付き圧着端子10が構成されている。
【0024】
より詳しくは、圧着端子20の芯線圧着部18は、電線16の芯線12が載置される底板部26と、この底板部26の両側に連接して両側から突出して、芯線12に加締め圧着される一対の加締め片28,28と、を有している。
図1および
図4に示すように、底板部26の一対の加締め片28,28間に位置する内面30には、複数の凹溝状のセレーション32が設けられている。これにより、一対の加締め片28が芯線12を間に挟んで底板部26に向かって加締め圧着された際に、芯線12がセレーション32に入り込んで導電性を向上させたり、芯線12の芯線圧着部18からの引き抜き抵抗が付与されるようになっている。
【0025】
<電線付き圧着端子10>
電線付き圧着端子10は、
図2に示すように、電線16の端末に露出した芯線12が、後述する製造方法における圧着工程において、圧着端子20の芯線圧着部18に圧着されることで、電線16と圧着端子20が連結された状態で構成されている。
図3から
図5に示すように、電線付き圧着端子10は、さらに、芯線12の延出方向(
図4の左右方向)における芯線圧着部18の両側部分を除く中間領域αにおいて、底板部26の一部を芯線12に向かって押し出して形成した押出突部34を有している。本実施形態では、芯線圧着部18の底板部26の中間領域α内にあって、さらに中間領域αの中央部分に押出突部34が配置されている(
図4参照)。このような押出突部34は、電線16が圧着された圧着工程後の圧着端子20の芯線圧着部18に対して、後述するプレス工程において、底板部26の所定の位置を、外方から内方、すなわち、芯線12に向かってプレス押し出しまたは打ち出しすることにより、形成することができる。なお、押出突部34が、底板部26の中間領域α内に設けられることにより、後述する製造方法において、圧着工程後のプレス工程において、圧着工程で芯線圧着部18の両側部分に設けられやすい図示しないベルマウスなどの影響により、プレス工程で芯線圧着部18を金型で保持することが困難になる問題を有利に回避することができる。なお、底板部26の外面33には、押出突部34の形成に伴って設けられた凹み部35が開口して形成されている。
【0026】
図4に示すように、押出突部34における底板部26の内面30からの突出寸法:L1は、セレーション32における底板部26の内面30からの深さ寸法:L2よりも大きくされており、好ましくは、2倍以上、より好ましくは3倍以上とされ、本実施形態では3倍以上に設定されている。
【0027】
図5に示すように、押出突部34は、底板部26の幅方向(芯線12の延出方向に直交する
図5の左右方向)の略中央部分に設けられており、押出突部34の押出方向(
図5の上方向)で押出突部34の突出端面36が、圧着工程によって芯線12の内部に差し込まれた一対の加締め片28,28の先端部38,38に対向配置されている。これにより、押出突部34と加締め片28の間で芯線12を確実に圧縮することができる。特に、押出突部34の突出端面36と一対の加締め片28,28の先端部38,38の間に挟まれる芯線12の圧縮率を確実に向上させることができる。なお、突出端面36は、一対の加締め片の先端部38,38への対向方向に直交する方向で平面上に広がっており、より広い範囲で芯線12に対して圧縮力を加えることができる。
【0028】
<電線付き圧着端子10の製造方法>
以下、電線付き圧着端子10の製造方法の具体的な一例を説明する。
【0029】
先ず、電線16の端末における絶縁被覆14を剥いで内部の芯線12を露出させることにより、
図1に示す電線16を準備する。また、金属平板をプレス加工および折り曲げ加工することにより、
図1に示す圧着端子20を準備する。続いて、電線16の芯線12を圧着端子20の芯線圧着部18の底板部26に載置する。この状態で、底板部26上の芯線12に対して芯線圧着部18の一対の加締め片28,28を加締め圧着する圧着工程を実行する。
【0030】
より詳細には、底板部26に電線16の芯線12が載置された状態の圧着端子20の芯線圧着部18を図示しない圧着用の下金型に載置し、上方から図示しない圧着用の上金型を重ねてプレス加工を施すことにより、一対の加締め片28,28が、底板部26に載置された芯線12に向かって加締め圧着される。続いて、この圧着工程で得られた相互に連結された圧着後の電線16および圧着端子20の上下を反転させる。すなわち、
図3に示すように芯線圧着部18の底板部26が上方に配置されるように配向した状態で、押出突部34をプレス押し出し(打ち出し)するプレス工程を実行する。要するに、芯線圧着部18の底板部26が上方に配置されるように配向した状態で、圧着端子20の芯線圧着部18を図示しないプレス用の下金型に載置し、上方から図示しないプレス用の上金型(押出突部34形成用の突起を有するもの)を重ねてプレス加工を施す。これにより、芯線圧着部18の底板部26の所定の部位が、芯線12に向かって押し出され、
図3から
図5に示す押出突部34が形成される。押出突部34の形成に伴って、底板部26の外面33に開口する凹み部35が設けられる。
【0031】
このようにして得られた本実施形態の電線付き圧着端子10においては、芯線圧着部18の底板部26上に載置された芯線12に対して一対の加締め片28,28を加締め圧着する圧着工程の後に、芯線圧着部18の底板部26の所定の部位を芯線12に向かって押し出して押出突部34をプレス形成するプレス工程が実行される。これにより得られた電線付き圧着端子10では、芯線12が加締められた圧着端子20の芯線圧着部18は、芯線12の延出方向の両側部分を除く中間領域αにおいて、底板部26の一部を芯線12に向かって押し出して形成した押出突部34が設けられている。それゆえ、押出突部34が芯線12に向かって押し出されて形成された部位において芯線12を構成する素線間の密着力を向上させることができる。この素線間の高密着化により、素線間の酸化被膜を部分的に除去することができ、素線同士が互いに接触することで電気的に接続され、電線16と圧着端子20との間の電気抵抗を小さくできるのである。特に、圧着工程の後に芯線圧着部18に対してプレス工程を実施して押出突部34を形成するだけでよいことから、芯線に付着した酸化被膜を低コストで除去することができ、圧着端子20と芯線12との安定的な電気接続を可能にする電線付き圧着端子10を提供できるのである。
【0032】
また、押出突部34は、芯線圧着部18の底板部26の中間領域α内にあって、さらに中間領域αの中央部分に押出突部34が配置されている(
図3参照)。これにより、押出突部34による芯線圧着部18の内方への圧縮力が、芯線12の延びなどによって芯線圧着部18の外部に逃れることを有利に抑制することができる。それゆえ、押出突部34による素線間の高密度化を有利かつ安定して実現することができ、圧着端子と芯線との安定的な電気接続を一層有利に確保できる。
【0033】
特に、実施形態1では、
図5に示すように、押出突部34の押出方向(
図5の上方向)で押出突部34の突出端面36が、圧着工程によって芯線12の内部に差し込まれた一対の加締め片28,28の先端部38,38に対向配置されている。これにより、押出突部34の突出端面36と一対の加締め片28,28の先端部38,38の間に挟まれる芯線12の圧縮率を確実に向上させて、押出突部34と加締め片28の間で素線間の高密度化を有利に実現できる。
【0034】
ここで、押出突部34は、芯線圧着部18の底板部26の一部を芯線12に向かって押し出すことで形成されているので、底板部26や加締め片28を切り欠いたりそれらに穴を設けたりすることがない。それゆえ、それらの切り欠きや穴に向かって芯線12が変形して、押出突部34によって素線間に加えられる圧縮力が逃げる不具合が発生することも未然に抑制されている。
【0035】
加えて、底板部26の内面30からの押出突部34の突出寸法:L1が、セレーション32の内面30からの深さ寸法:L2よりも大きくされていることから、一層確実に押出突部34による素線間の密着力向上効果を得ることができる。
【0036】
<実施形態2>
続いて、本開示の実施形態2の電線付き圧着端子40について、
図6および
図7に基づいて説明する。実施形態2の電線付き圧着端子40は、実施形態1の電線付き圧着端子10に対して、後述する押出突部42の形成部位が異なっている。以下の説明では、実施形態2の電線付き圧着端子40において実施形態1における電線付き圧着端子10と異なる点について説明するとともに、実施形態1と同一の部材または部位には、図中に、実施形態1と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0037】
<電線付き圧着端子40>
電線付き圧着端子40は、
図6に示すように、芯線12の延出方向(
図6の左右方向)における芯線圧着部18の両側部分を除く中間領域αにおいて、各加締め片28の一部を芯線12に向かって押し出して形成した押出突部42を有している。実施形態2では、芯線圧着部18の幅方向両側に対向配置された加締め片28,28の基端側44,44の中間領域α内にあって、さらに中間領域αの中央部分に押出突部42が配置されている(
図6参照)。なお、各押出突部42は、上述のプレス工程において、芯線圧着部18の各加締め片28が上方に配置されるように配向した状態で、圧着端子20の芯線圧着部18を図示しないプレス用の下金型に載置し、上方から図示しないプレス用の上金型(押出突部42形成用の突起を有するもの)を重ねてプレス加工を施すことにより、形成される。押出突部42の形成に伴って、各加締め片28の外面46に開口する凹み部48が設けられる。
【0038】
図7に示すように、各加締め片28の基端側44に設けられた押出突部42の押出方向(
図7中左右方向)での押出突部42の突出端面50が突出方向に直交する方向に平面状に広がっており、芯線12の内部に差し込まれた各加締め片28の先端部38に対向配置されている。なお、図示は省略するが、実施形態2においても、底板部26の内面30や各加締め片28の内面52の適所に実施形態1の如きセレーション32を設けてもよい。そして、押出突部42における加締め片28の内面52からの突出寸法:L1は、セレーション32が設けられる場合には、セレーション32における底板部26の内面30や加締め片28の内面52からの深さ寸法:L2よりも大きくされ、好ましくは、2倍以上、より好ましくは3倍以上とされることが望ましい。セレーションが設けられない場合であっても、一般的なセレーションの深さ寸法よりも押出突部42の突出寸法:L1は大きくされることが好ましい。
【0039】
実施形態2の電線付き圧着端子40においても、芯線圧着部18の底板部26上に載置された芯線12に対して一対の加締め片28,28を加締め圧着する圧着工程の後に、プレス工程において、各加締め片28の所定の部位を芯線12に向かって押し出して押出突部42が形成される。それゆえ、実施形態1と同様に、押出突部42と加締め片28の間に挟まれる芯線12の圧縮率を向上させることができ、押出突部42による素線間の高密度化による圧着端子20と芯線12との安定的な電気接続を一層有利に実現できる。特に、一対の加締め片28のそれぞれの基端側44に押出突部42を設けてそれぞれの先端部38との間で芯線12を挟持できることから、芯線12を構成する素線間の圧縮状態を左右均等に実現することが容易となり、圧縮状態が不均等となる場合に比して車両での熱影響による抵抗の上昇を一層有利に抑えることができる。その他、押出突部42が中間領域α内にあって、さらにその中央部分に配置されていることによる圧縮力の逃げ抑制効果や、押出突部42の形成において切り欠きや穴が形成されていないことによる圧縮力の逃げ抑制効果も実施形態1と同様に得ることができる。
【0040】
<変形例>
以上、本開示の具体例として、実施形態1,2について詳述したが、本開示はこの具体的な記載によって限定されない。本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。例えば次のような実施形態の変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0041】
(1)実施形態1では、底板部26の1か所に押出突部34が押出形成されていたが、底板部26の複数箇所に複数の押出突部34が設けられていてもよい。実施形態2では、各加締め片28に1つの押出突部42が設けられていたが、各加締め片28に複数の押出突部34が設けられていてもよいし、一方の加締め片28にのみ1つまたは複数の押出突部42が設けられていてもよい。
【0042】
(2)実施形態1,2では、押出突部34,42は、底板部26または加締め片28のいずれか一方に設けられていたが、それら両方に設けられていてもよい。
【0043】
(3)本実施形態では、セレーション32は、芯線12の延出方向に交差する方向に延びる凹溝状であったが、セレーション32の形状や配設状態はこれに限定されない。例えば、凹状であればよく、凹溝状に延びる必要はなく、ドット状に配置された円形または多角形状の凹部によって構成してもよい。さらに、セレーションの形成部位は、底板部に代えてまたは加えて加締め片の内面に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 電線付き圧着端子(実施形態1)
12 芯線
14 絶縁被覆
16 電線
18 芯線圧着部
20 圧着端子
22 接続部
24 ボルト挿通孔
26 底板部
28 加締め片
30 内面(底板部)
32 セレーション
33 外面(底板部)
34 押出突部
35 凹み部
36 突出端面
38 先端部(加締め片)
40 電線付き圧着端子(実施形態2)
42 押出突部
44 基端側
46 外面(加締め片)
48 凹み部
50 突出端面
52 内面(加締め片)
α 中間領域
L1 押出突部の突出寸法
L2 セレーションの深さ寸法