(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151517
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】熱処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/32 20060101AFI20241018BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20241018BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C23C8/32
C21D1/06 A
C21D1/76 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064905
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】安藤 友里
(72)【発明者】
【氏名】辻井 健太
【テーマコード(参考)】
4K028
【Fターム(参考)】
4K028AA03
4K028AB01
4K028AC03
(57)【要約】
【課題】減圧浸炭しその後に浸窒処理する一連の熱処理を被処理品に施した際の表面N濃度の制御を容易に行うことが可能な熱処理方法を提供する。
【解決手段】
被処理品に対し減圧浸炭処理に続いて浸窒処理を連続して行なう熱処理方法であって、減圧浸炭処理後、被処理品に対し冷却ガスを当てて被処理品を冷却する冷却工程を備え、浸窒処理時の処理室内の雰囲気圧力を50kPa~1000kPaの範囲内とし、処理室内から採取される未分解NH
3濃度を分析し、未分解NH
3濃度が一定となるように処理室内に導入されるNH
3ガスの量を調整する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理品に対し減圧浸炭処理に続いて浸窒処理を連続して行なう熱処理方法であって、
前記減圧浸炭処理後、前記被処理品に対し冷却ガスを当てて該被処理品を冷却する冷却工程を備え、
前記浸窒処理時の処理室内の雰囲気圧力を50kPa~1000kPaの範囲内とし、前記処理室内から採取される未分解NH3濃度を分析し、該未分解NH3濃度が一定となるように前記処理室内に導入されるNH3ガスの量を調整することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記冷却工程の冷却温度は、前記浸窒処理の温度よりも低く、
前記冷却工程の後、前記被処理品に対し前記浸窒処理の温度まで加熱する再加熱工程を備える請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成し、前記減圧浸炭処理の後に、前記浸炭処理室から前記被処理品を前記浸窒処理室に移動させ前記浸窒処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
前記浸窒処理時の前記雰囲気圧力を50kPa~120kPaの範囲内としたことを特徴とする請求項3に記載の熱処理方法。
【請求項5】
前記浸窒処理時に前記処理室内に導入する浸窒ガスは、NH3ガス単独、または、NH3とN2の混合ガス、または、NH3とN2とH2の混合ガスであることを特徴とする請求項3に記載の熱処理方法。
【請求項6】
前記浸窒処理温度が700℃~900℃であることを特徴とする請求項3に記載の熱処理方法。
【請求項7】
前記減圧浸炭処理時の処理室内の雰囲気圧力が0.1kPa~10kPaであることを特徴とする請求項3に記載の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は被処理品に対し減圧浸炭処理に続いて浸窒処理を連続して行なう熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等の被処理品において、表面の硬化等、特性の向上を図る表面処理として被処理品の表層部にC原子を導入する浸炭処理が実施されている。従来、浸炭処理の手法としてガス浸炭が用いられていたが、浸炭時間が長い等の問題があり、近年ではガス浸炭に比べて省エネルギー及び省人化の点で有利な減圧浸炭(真空浸炭)が広く採用されている。
【0003】
また、表層部にC原子とともにN原子を導入する浸炭窒化処理が行われる場合もある。浸炭窒化処理では、先ず表層部にC原子を導入する浸炭処理が実施され、続いて表層部にN原子を導入する浸窒処理が実施される。このような浸炭窒化処理は、耐摩耗性等の向上に有効とされている。例えば、減圧浸炭(真空浸炭)に続いて窒化を行う熱処理方法としては、下記特許文献に記載されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一度に多くの被処理品の処理を行なうことが必要となる量産処理では、減圧浸炭処理に続いて行われる浸窒処理において処理室内における被処理品の積載場所により被処理品表面のN濃度(以下、「表面N濃度」と称する場合がある)にばらつきが生じ易く、所望の表面N濃度を得ることが難しい問題があった。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、減圧浸炭しその後に浸窒処理する一連の熱処理を被処理品に施した際の表面N濃度の制御を容易に行うことが可能な熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは減圧浸炭に続いて行われる浸窒処理において表面N濃度にばらつきが生じる原因を究明するなかで、以下のような知見を得た。
(1)浸炭処理後、そのまま自然に浸窒処理温度まで温度を下げて浸窒処理をするよりも、強制的に被処理品へ冷却ガスを当てて、処理室内にてガスを循環させる方が処理室内の上記表面N濃度のばらつきを小さくすることが可能である。
(2)上記表面N濃度のばらつきは処理室内の雰囲気圧力に大きく依存しており、浸炭を真空下で行った場合でも、その後の浸窒処理を、浸炭時よりも高い所定の圧力下で行うことで、表面N濃度のばらつきを小さくすることが可能である。
(3)浸窒中の処理室内の圧力を上記所定の範囲内とした上で、処理室内の雰囲気中に含まれる未分解NH3濃度を任意の値に制御することで、所望の表面N濃度を得ることが可能である。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
而して本発明の熱処理方法は、被処理品に対し減圧浸炭処理に続いて浸窒処理を連続して行なう熱処理方法であって、前記減圧浸炭処理後、前記被処理品に対し冷却ガスを当てて該被処理品を冷却する冷却工程を備え、前記浸窒処理時の処理室内の雰囲気圧力を50kPa~1000kPaの範囲内とし、前記処理室内から採取される未分解NH3濃度を分析し、該未分解NH3濃度が一定となるように前記処理室内に導入されるNH3ガスの量を調整することを特徴とする。
【0009】
このように規定された本発明の熱処理方法によれば、減圧浸炭しその後に浸窒処理する一連の熱処理において、積載場所による表面N濃度のばらつきが抑えられるとともに、未分解NH3濃度を所定の値に制御することで、所望の表面N濃度を得ることができる。
【0010】
ここで本発明の熱処理方法では、前記冷却工程の冷却温度は、前記浸窒処理の
温度よりも低く、前記冷却工程の後、前記被処理品に対し前記浸窒処理の温度まで加熱する再加熱工程を備えることができる。
【0011】
ここで本発明の熱処理方法では、浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成し、前記減圧浸炭処理の後に、前記浸炭処理室から前記被処理品を前記浸窒処理室に移動させ前記浸窒処理を行うことができる。
【0012】
また、本発明の熱処理方法では、前記浸窒処理時の前記雰囲気圧力を50kPa~120kPaの範囲内とすることができる。
【0013】
また、本発明の熱処理方法では、前記浸窒処理時に前記処理室内に導入する浸窒ガスは、NH3ガス単独、または、NH3とN2の混合ガス、または、NH3とN2とH2の混合ガスとすることができる。
【0014】
また、本発明の熱処理方法では、浸窒処理温度を700℃~1000℃とすることができる。
【0015】
また、本発明の熱処理方法では、前記減圧浸炭処理時の処理室内の雰囲気圧力を0.1kPa~10kPaとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の熱処理方法で用いられる熱処理室の概略構成を示した図である。
【
図2】本実施形態の熱処理方法で用いられる浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成したものを示した図である。
【
図3】被処理品を治具上に積載された状態で示した図である。
【
図4】同実施形態の熱処理方法におけるヒートパターン及び圧力パターンの一例を示した図である。
【
図5】実施例の熱処理条件および表面N濃度の測定結果を示す表1および表1の測定結果に基づくグラフである。
【
図6】実施例の熱処理条件および表面N濃度の測定結果を示す表2および表2の測定結果に基づくグラフである。
【
図7】実施例の熱処理条件および表面N濃度の測定結果を示す表3および表3の測定結果に基づくグラフである。
【
図8】実施例の熱処理条件および表面N濃度の測定結果を示す表4および表4の測定結果に基づくグラフである。
【
図9】実施例の熱処理条件および表面N濃度の測定結果を示す表5である。
【
図10】実施例の熱処理条件および表面N濃度の測定結果を示す表6である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1は、本実施形態の熱処理方法に用いられる熱処理室1の概略構成を示している。熱処理室1は、図示を省略する扉を介して内部に装入された被処理品としてのワークWに対し減圧浸炭処理および浸窒処理を行う。熱処理室1の内部には、ワークWを加熱・保温するためのヒータ5と、供給された窒素ガスを撹拌させて対流させ、ワークWの昇温期においてその昇温を促進する対流加熱用のファン7が設けられている。
【0018】
また、熱処理室1には各種ガスの供給ライン及び排気ラインが接続されている。同図において、10、14、18はガス供給用のノズルで、それぞれ窒素ガスを供給するための第1供給ライン11、浸炭ガスとしてのアセチレンガスを供給するための第2供給ライン15、及び、浸窒ガスとしてのアンモニアガスを供給するための第3供給ライン19が接続されている。これら各供給ラインはガス流量を制御するマスフローコントローラ22と開閉弁23を含んで構成されている。なお、場合によっては更に水素ガスを供給するための第4供給ライン20を設けておくことも可能である。
【0019】
排出口31には熱処理室1内部のガスを排出するための排気ライン32が接続され、排気ライン32は真空ポンプ33と開閉弁34とを含んで構成されている。また、排出口35には浸窒処理中の処理室内を所定の圧力で維持するための圧力調整ライン36が接続されている。圧力調整ライン36は圧力調整弁37と開閉弁38を含んで構成されている。
【0020】
熱処理室1のガス取出口41には、処理室内の雰囲気ガスを室外に取り出すためのサンプリングライン42の一端が接続されている。サンプリングライン42はポンプ43と開閉弁44を含んで構成されている。サンプリングライン42の他端側には分析計50が設けられており、ポンプ43によって処理室内から取り出された雰囲気ガスは分析計50に供給される。
【0021】
分析計50はアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサを備え、サンプリングライン42を通じて取り出された雰囲気ガス中の未分解NH3濃度が検出される。そして検出濃度に対応した信号が制御部52へ出力される。
【0022】
制御部52は、分析計50から送られてきた未分解NH3濃度に対応した信号に基づいて、浸窒処理中の処理室内の未分解NH3濃度が設定値と同じ値で一定となるように、処理室内に供給する浸窒ガス(ここではアンモニアガス)の流量をマスフローコントローラ22を介して制御する。
【0023】
図2は、本実施形態の熱処理方法で用いられる浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成したものを示す例である。同図において、60は図中左右方向に直線状に延設された搬送軌道たるレールで、このレール60に沿って複数のバッチ式の処理室(ここでは浸炭処理室62-1,62-2、浸窒処理室63及び焼入れ処理室64)が、開口部78を同方向である図中上方に向けた状態で直線状に一列に配置されている。
【0024】
この例において、浸炭処理室62-1,62-2はワークWに対し所定の温度(例えば930℃)の下で減圧浸炭処理を行う。また浸窒処理室63は、その後においてワークWに対し所定の温度(例えば850℃)の下で窒化処理を行う。
【0025】
図2中右端側には装入テーブル66が設けられており、上流工程からのワークWが先ずこの装入テーブル66上に載置される。装入テーブル66上に載置されたワークWは、浸炭処理室62-1,62-2によって減圧浸炭処理され、その後に浸窒処理室63によって浸窒処理される。更にその後に焼入れ処理室64にて焼入れ処理される。
【0026】
この例の熱処理設備1Bは、上記の浸炭処理室62-1,62-2,浸窒処理室63,焼入れ処理室64に加えて、レール60上を走行する搬送ユニット70を有している。搬送ユニット70は、受け渡し部74及び保温部76を備え、装入テーブル66上のワークWを受け取ってレール10上を走行し、浸炭処理室62-1,62-2の何れかにワークWを装入する。或いはこれら浸炭処理室62-1,62-2において浸炭処理された後のワークWを、それら浸炭処理室62-1,62-2から受け取ってレール60上を走行し、浸窒処理室63に装入してそこで浸窒処理せしめる。このように複数個のバッチ式の浸炭処理室を設けた場合、それぞれ別の種類の部品等を処理することも可能になる。さらに、複数個のバッチ式の浸窒処理室を設けることにしてもよい。
【0027】
また、搬送ユニットは、上述した熱処理室1と同様の全体構造を有しており、ワークWを冷却するための冷却ファンと冷却用窒素供給ラインが設けられている。この冷却ファンの周波数を制御することにより冷却の強弱又は時間をコントロールすることができる。
【0028】
この例のように浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成した場合には、浸炭処理で生じた煤と反応してアンモニアが分解してしまうのを回避することができるため、浸窒処理における表面N濃度の制御をより容易なものとすることができる。
【0029】
図3は、処理室内に装入されるワークWの積載状態の一例を示した図である。同図で示すように、本例では積載用の治具55上に多数のワークWが積載され、多数のワークの集合体は積載用治具55とともに処理室内に装入される。本例ではこれら多数のワークの積載場所による表面N濃度のばらつきを抑えることを課題の一つとしている。
【0030】
図4は、本実施形態の熱処理方法におけるヒートパターン及び圧力パターンの一例を示したものである。同図で示すように、本実施形態では、対流加熱、真空加熱、減圧浸炭、中間冷却(冷却工程)、加熱(再加熱工程)、圧力変更、浸窒、焼入れの各工程を経て熱処理される。
【0031】
最初の対流加熱工程では、処理室内にワークWが装入された後、処理室内の雰囲気ガスを一旦室外に放出した後、処理室内に第1供給ライン11を通じて窒素ガスを供給し、ワークWを所定の浸炭処理温度(例えば930℃)にまで昇温して、その後均熱する。次に真空加熱工程において処理室内を所定圧力まで減圧し、その後の減圧浸炭工程において減圧下、所定の浸炭処理温度で浸炭とその後の拡散とを行う。
【0032】
減圧浸炭処理は、ワークWを浸炭ガスに接触させることによって行う。処理室に導入される浸炭ガス(本例ではアセチレンガス)は、所望の表面C濃度とC濃度分布と結晶粒径が得られるように予めシミュレーションによって決定されたガス量で、決められた時間通りに導入される。減圧浸炭処理は750~1050℃の処理温度にて行うことができる。処理時間短縮のためには、浸炭処理をより高い温度で行うことが好ましいが、高温で処理するほど、結晶粒が粗大化しやすくなるため、その点を考慮した処理時間の設定が必要である。
【0033】
また減圧浸炭処理時の処理室内の圧力は0.1kPa~10kPaの範囲であることが好ましい。圧力0.1kPa未満では導入ガス量を常時変化させる場合の圧力変動が大きくなるため、ばらつきが生じやすい。一方、圧力10kPa超では、(1)導入する浸炭ガスが炉内(処理室内)に行きわたらずC濃度がばらつく可能性がある、(2)また上記(1)を考慮して浸炭ガスを多量に導入すると煤が多量に発生し、炉を消耗させる。なお浸炭ガスとしては、炭化水素ガス、特に、アセチレン、プロパン等を用いることができる。
【0034】
減圧浸炭の後は、浸窒処理温度(例えば850℃)よりも低い冷却温度まで冷却する(冷却工程)。そして、所定の冷却温度まで達した後、被処理品を浸窒処理温度まで再加熱する。具体的には、浸炭温度930℃の場合、高温状態にある被処理品に対し、搬送ユニット内で冷却ガスのガス流を当ててガス冷却により100~650℃の低い温度まで被処理品を強制冷却する。その後、冷却された被処理品を浸窒温度(例えば、850℃)まで再加熱する。いったん浸窒処理温度よりもさらに低い温度まで下げて、その後再加熱することで処理室内の上記表面N濃度のばらつきをより小さくすることが可能となる。
【0035】
圧力変更工程では、処理室内に窒素ガスを導入して処理室内の雰囲気を所定の浸窒圧力(50kPa~1000kPa)に変更し、浸窒処理温度の下で浸窒処理を行う(浸窒工程)。
【0036】
浸窒処理は、ワークWを浸窒ガスに接触させることによって行う。浸窒処理では、雰囲気中に含まれるアンモニアが、ワーク表面において、下記式(1)のように分解して、N原子がワークの表層部に導入される。ここで、[N]は、ワークに取り込まれたN原子を意味する。
NH3→[N]+3/2H2 ・・・式(1)
【0037】
ここで浸窒処理は、700~1000℃の処理温度にて行う。700℃未満では、Nの拡散速度が遅く窒化の効果が得られ難い。また1000℃超では、ワーク表面以外の部分でのアンモニアの分解が著しく進んでしまい未分解NH3濃度の制御が困難になってしまう。未分解NH3濃度の制御をより行いやすくするためには、浸窒処理温度を750℃以上900℃以下とすることが好ましい。
【0038】
本例の熱処理方法では、浸炭処理時の減圧状態から雰囲気ガスの圧力を高めて、50kPa~1000kPaの圧力で浸窒処理を行うことを特徴の一つとしている。浸窒処理を浸炭処理と同様に10kPa以下の減圧状態で行なった場合には、NH3分圧(NH3分子の総量)が低くなってしまい、処理室内に導入された浸窒ガスが処理室の中心部分にまで行き渡らず、処理室内の積載場所による表面N濃度のばらつきが生じてしまう。このため本例の熱処理方法では、表面N濃度のばらつきを抑制すべく浸窒中の処理室内の雰囲気圧力を50kPa以上としている。一方、圧力の上限は熱処理設備の耐圧性を考慮して1000kPaとしている。ここで、好ましい雰囲気圧力は50kPa~120kPaである。この圧力範囲であれば、装置の耐圧性を過度に高める必要なく、ワークの表面N濃度のばらつきを抑えることができる。
【0039】
浸窒処理中はマスフローコントローラ22により処理室内に導入されるアンモニアガスの流量が調整され、雰囲気制御が行われる。詳しくはサンプリングライン42を通じて雰囲気ガスの一部が分析計50に送られ、分析計50内のアンモニアセンサにて雰囲気ガス中の未分解NH3濃度が検出される。そして検出された未分解NH3濃度と目標の未分解NH3濃度との差分に基づいてマスフローコントローラ22がアンモニアガスの流量を調整する。本例では未分解NH3濃度が目標値となるように処理室内に導入されるアンモニアガスの量を調整することで、熱処理室1に装入されたワークWの表面N濃度を所望の値に制御することができる。
ここで、処理室内に導入する浸窒ガスは、NH3ガス単独のほか、NH3とN2の混合ガスや、NH3とN2とH2の混合ガスを選択することができる。
【0040】
図4で示すように、浸窒処理が終了した後は、ワークWを、図示を省略する焼入室に移動させ、焼入れ温度から急冷し焼入れを行う。
【実施例0041】
次に本発明の実施例を詳述する。ここでは、量産処理を想定して、
図5~
図10の各表で示した熱処理条件で、治具上に積載させた多数のワークW(
図3参照)に対し、浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成し、減圧浸炭処理の後に、搬送ユニットにて浸炭処理室から被処理品を浸窒処理室に移動させ浸窒処理を行なった。また、
図6を除き、減圧浸炭処理後、被処理品に対し浸窒処理の温度よりも低い冷却温度まで冷却(冷却工程)し、冷却後、被処理品に対し浸窒処理の温度まで再加熱(再加熱工程)を行った。なお、冷却工程では、特に記載のない限り、搬送ユニット内の冷却ファンを10Hzに設定することで冷却を行った。
そして浸窒処理完了後、治具上に積載されたワーク集合体の中から、その隅角部に位置するワーク8個(例えば、
図2の56a,56b,56c,56d参照)と、ワーク集合体の中心部に位置するワーク2個の計10個について、表面N濃度を測定した。その際、ワークW(測定位置は所定の平面部)の表層領域(最表面から深さ50μmの位置までの領域)においてEPMA分析を行ない、その領域内でのN濃度の平均値を算出し、ワークWの表面N濃度の値とした。
各ワーク集合体について測定された10個の表面N濃度値の平均値、最小値、最大値、代表値((最大値+最小値)/2)、及び、ばらつき((最大値-最小値)/2)が、
図4~
図8に示してある。
【0042】
図5は、浸窒温度850℃で処理されたワークにおける浸窒圧力と表面N濃度との関係を示している。同図で示すように、浸窒圧力(処理室内の雰囲気圧力)が低くなるに従い、表面N濃度のばらつきが大きくなっている。浸窒圧力が低い場合は、NH3分圧も低くなるため、NH3分子の総量が少なく、外周に近いワークは多くのガスを吸いN濃度が高くなるが、中心部のワークにはNH3分子が届かず低N濃度となるからである。
図5のグラフから明らかなように、表面N濃度のばらつきを抑えるためには、浸窒圧力を50kPa~120kPaの範囲内とすることが有効である。
【0043】
図6は、
図5の例とは異なる浸窒温度800℃で処理されたワークにおける浸窒圧力と表面N濃度との関係を示している。浸窒温度800℃で処理された場合でも浸窒温度850℃で処理された場合と同様に、浸窒圧力を50kPa~120kPaの範囲内とすることが有効であることが分かる。なお、本例では、所定時間、冷却ガスを当てた後、そのまま浸窒処理を開始した。
【0044】
図7は、治具上に積載され浸窒処理されたワークの表面積合計と表面N濃度との関係を示している。同図で示すように、未分解NH3濃度が所定の値(0.2%、0.5%。1.0%)になるよう制御した場合は、浸窒処理されたワークの表面積合計が異なる場合でも略一定の表面N濃度が得られている。このため本例では、
図8に示すように、未分解NH3濃度を所望の一定値となるよう制御することで、処理されるワークの表面積の如何によらず同じ表面N濃度を得ることができる。
【0045】
図9は、浸窒温度と表面N濃度との関係を示している。同図で示すように、浸窒圧力を50kPa~120kPaの範囲内とすれば、浸窒温度を700~900℃の範囲で変化させた場合でも表面N濃度のばらつきは0.02~0.03%と抑制されていることが分かる。
【0046】
図10は、ガス冷却条件と表面N濃度との関係を示している。同図で示すように、減圧浸炭処理後、ワークに対し浸窒処理の温度よりも低い冷却温度まで冷却し、その後、ワークに対し浸窒処理の温度まで再加熱すれば、浸窒温度を750~850℃の範囲で変化させた場合でも表面N濃度のばらつきは0.02~0.03%と抑制されていることが分かる。
【0047】
以上本発明の実施形態及び実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。上記実施形態では、冷却工程の冷却温度を浸窒処理の温度よりも低くし、
冷却工程の後、被処理品に対し浸窒処理の温度まで再加熱をしたが、所定時間、冷却ガスを当てた後、そのまま浸窒処理を開始してもよい。また、上記
図2では、浸炭処理室と浸窒処理室を別室で構成し、減圧浸炭処理の後に、浸炭処理室から被処理品を浸窒処理室に移動させ浸窒処理を行う例を示したが、一つの処理室を用いて減圧浸炭処理に続いて浸窒処理を連続して行なうことも可能である。