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特開2024-151520梅の種における殻と仁の分離方法、活性炭、及び浄水カートリッジ
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  • 特開-梅の種における殻と仁の分離方法、活性炭、及び浄水カートリッジ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151520
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】梅の種における殻と仁の分離方法、活性炭、及び浄水カートリッジ
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20241018BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20241018BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20241018BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20241018BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241018BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20241018BHJP
   B03B 5/28 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B09B5/00 P
B09B3/35 ZAB
B09B3/40
B01J20/20 A
B01J20/30
C02F1/28 G
B03B5/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064933
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】外山 公也
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 祐弥
(72)【発明者】
【氏名】石川 隆久
(72)【発明者】
【氏名】掛樋 浩司
【テーマコード(参考)】
4D004
4D071
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D004AA03
4D004BA01
4D004CA04
4D004CA10
4D004CA21
4D004CA26
4D004CB31
4D004CC03
4D071AA44
4D624AA02
4D624AB11
4D624BA02
4D624BB01
4D624BC01
4D624CA04
4G066AA05B
4G066AC07A
4G066AC39A
4G066BA23
4G066CA31
4G066DA07
4G066FA05
4G066FA18
4G066FA21
4G066FA22
4G066FA38
(57)【要約】
【課題】梅の種の殻と仁を効率的に分離できる技術を提供する。
【解決手段】梅の種3における殻5と仁7の分離方法である。梅の種3における殻5と仁7を分離する方法は、仁7が殻5から出るように殻5を割り、割られた殻5と仁7との混合物9を加熱し、加熱後の混合物9を水に入れて、浮いた仁7と、沈殿した殻5とを分離する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅の種における殻と仁を分離する方法であって、
前記仁が前記殻から出るように前記殻を割り、
割られた前記殻と前記仁との混合物を加熱し、
加熱後の前記混合物を水に入れて、沈殿した前記殻と、浮いた前記仁とを分離する梅の種における殻と仁の分離方法。
【請求項2】
梅の種から仁を除去して得られた殻を炭化及び賦活させてなる活性炭。
【請求項3】
前記殻は、
前記仁が前記殻から出るように前記殻を割り、
割られた前記殻と前記仁との混合物を加熱し、
加熱後の前記混合物を水に入れて、沈殿した前記殻と、浮いた前記仁とを分離し、
分離された前記仁を除去して得られる請求項2に記載の活性炭。
【請求項4】
請求項2及び請求項3のいずれか一項に記載の活性炭を備えた浄水カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、梅の種における殻と仁の分離方法、活性炭、及び浄水カートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な社会の実現に向けて、これまでは廃棄処分されてきた物を改めて資源として活用することが望まれている。この未利用資源の1つに、梅の種がある。梅の種は硬質の殻と、殻の内部の仁で構成され、精度よく分離できればそれぞれに価値があり、有効利用が可能となる。例えば、殻は研磨材に利用でき、仁は健康食品となる。
【0003】
特許文献1は、梅の種における殻と仁の分離方法を開示している。梅の種の殻と仁の分離方法の一つとして、梅の種を半割りし、半割りした種殻の内部から仁を人為的にとりだす方法が記載されている。また、別の方法として、殻と仁の密度差を利用し、比重を調整した砂糖水に梅の種の粉砕物を投入し、仁を沈降させて、浮いた殻のみを回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-260038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、仁を人為的にとりだす方法では、手間がかかる上に選別ミスが懸念される。また、砂糖水に梅の種の粉砕物を投入し、仁を沈降させて、浮いた殻のみを回収する方法は、次のような課題がある。まず、砂糖水が高価であり、コスト面で見合わない。また、殻と仁の分離後に、用途によっては、溶質である砂糖を洗浄除去する必要があり、分離に係る工程が煩雑になる。
【0006】
本開示は、上記課題の少なくとも一部を解決するためのものであり、梅の種の殻と仁を効率的に分離できる技術の提供及びその技術の利用を解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、梅の種における殻と仁を分離する方法であって、前記仁が前記殻から出るように前記殻を割り、割られた前記殻と前記仁との混合物を加熱し、加熱後の前記混合物を水に入れて、沈殿した前記殻と、浮いた前記仁とを分離する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】殻を割る前の梅の種と、殻を割った後の梅の種を模式的に示す図である。
図2】沈殿した殻と、浮いた仁とを分離する様子を示す図である。
図3】浄水カートリッジの断面図である。
図4】活性炭の浄水性能を比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.梅の種3における殻5と仁7の分離方法
梅の種3における殻5と仁7の分離方法は、図1に示すように、仁7が殻5から出るように殻5を割り、割られた殻5と仁7との混合物9を加熱する。本方法は、図2に示すように、加熱後の混合物9を水Wに入れて、沈殿した殻5と、浮いた仁7とを分離する。
【0010】
梅の果実は、一般に果肉(梅肉)と呼ばれる中果皮の内方に、一般に種と呼ばれる核を有している。本開示において、「種」というときには「核」のことを指している。梅の種3は、仁7が殻5で包まれた形態をなしている。「殻」は、内果皮が硬化したもので、やや扁平で両端が尖った楕円球状をなしている。「仁」は、胚及び胚乳の総称である。「仁」は、種皮に包まれた状態で殻に入っている。本開示において「仁」というときには、種皮に包まれた状態であってもよく、少なくとも一部が種皮に包まれていない状態であってもよい。
【0011】
梅の種3は、特に限定されない。梅の種3は、梅干しや梅酒等の加工品に加工された梅の実の種であっても、生梅の実の種であってもよい。梅の種3は、資源の有効活用の観点から、廃棄物として排出される梅の種3が好ましい。
【0012】
本方法は、仁7が殻5から出るように殻5を割る。殻5を割る手法は、特に限定されない。例えば、殻5に外から圧力を掛けて、殻5を2以上の破片に砕く手法が挙げられる。複数の梅の種3について、殻5を一括して割る場合には、粉砕装置を用いてもよい。
【0013】
殻5を割る際に、仁7が破砕されないことが好ましい。以下、図1に示すように、破砕されていない状態の仁7を、原形の仁7とも称する。例えば、複数の梅の種3について、殻5を一括して割った場合には、半数以上の梅の種3の仁7が原形を保った状態であるとよい。このように、仁7の原形がある程度保たれていると、殻5と仁7を分離する際に、好適に仁7を水Wに浮かせることができる。
【0014】
殻5を割ると、割られた殻5と仁7との混合物9が得られる。この混合物9は、例えば、原形の仁7及び仁7の破砕物の少なくとも一方と、殻5の破片と、を含む。着色加工等されていない梅の場合において、未加熱の仁7は、乳白色から薄茶色の色味である。未加熱の混合物9を水に入れると、殻5と仁7はいずれも水に沈む。
【0015】
本方法は、割られた殻5と仁7との混合物9を加熱する。加熱は、例えば、オーブン等を用いて、1気圧、大気雰囲気下で行うことができる。仁7が水Wに浮く状態にするには、加熱前よりも色味が濃くなるまで仁7を加熱するとよい。例えば、水Wに浮く状態まで加熱後の仁7の色味は、茶色から黒色の色味である。混合物9を、仁7が水Wに浮く状態になるまで加熱すると、殻5が炭化して色味が濃くなる場合がある。
【0016】
加熱条件は、加熱後の仁7が水Wに浮きさえすれば、特に限定されない。加熱条件は、例えば、原料となる梅の種3の状態、回収された仁7の用途、殻5の用途等に応じて、実験的に求めることができる。
【0017】
加熱温度は、仁7を十分に水Wに浮かせる観点から、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、180℃以上が更に好ましく、200℃以上が特に好ましい。加熱温度は、エネルギーの無駄を省く観点から、280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。また、加熱温度300℃で、0.5時間加熱したところ、仁7がタール化して殻5に付着して、うまく分離できない場合があった。加熱温度は、上記の上限値及び下限値を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
【0018】
加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定できる。加熱時間は、仁7を十分に水Wに浮かせる観点から、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。加熱時間は、エネルギーの無駄を省く点から、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下、2.5時間以下、1時間以下が更に好ましい。加熱温度は、上記の上限値及び下限値を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
【0019】
本方法では、加熱後の混合物9を水Wに入れて、沈殿した殻5と、浮いた仁7とを分離する。なお、混合物9を水に入れる際には、混合物9は冷めていてよい。具体的には、処理する混合物9の体積よりも容量の大きい容器に水Wを入れて、水Wに混合物9を投入し、静置する。必要に応じて、水Wに投入された混合物9を静かに混ぜてもよい。すると、仁7に作用する浮力によって仁7が浮き、沈殿している殻5と分離される。本方法は、重力を利用した湿式分級法であり、水簸とも称される。分離に用いる水Wは、特に限定されない。水Wは、回収後の仁7及び殻5の用途等に応じて、イオン交換水、蒸留水、水道水、工業用水、河川の水、雨水等を用いることができる。また、水Wの温度は、室温でよい。
【0020】
水W中で浮いた仁7は、水面付近に留まる。なお、仁7は、長時間水Wに浸けておくと、水Wに沈む場合がある。このため、殻5と仁7が分離されたら、速やかに仁7を回収することが好ましい。なお、殻5と仁7は、完全に分離されることが好ましいが、一部の仁7が殻5に混入してもよく、一部の殻5が仁7に混入してもよい。分離した殻5と仁7をそれぞれ回収し、種々の素材として利用できる。
【0021】
本方法は、梅の種3の殻5と仁7を効率的に分離できる。本願発明者らは、殻5と仁7の分離方法について鋭意検討を重ねて、加熱後の仁7が水Wに浮くことを新たに見出し、本開示の技術を開発するに至った。加熱後の仁7が水Wに浮く理由は定かではないが、次のように推測される。なお、本開示はこの推測理由に限定解釈されない。
【0022】
加熱後の仁7を観察すると、表面に油分の皮膜が形成されている様子が確認される。この皮膜によって仁7が疎水的になり、水に浮くと考えられる。例えば、皮膜が仁7内部への水Wの浸透を抑制して、仁7が水Wに浮きやすい状態を維持している可能性がある。このことは、仁7を長時間水Wに浸けておくと、水Wに沈むことからも推察される。すなわち、仁7を長時間水Wに浸けておくと、仁7内部に水Wが浸透して仁7の比重が大きくなり、水Wに沈むと考えられる。皮膜による水Wの浸透抑制作用を考慮すると、仁7が細かく破砕された場合よりも、原形に近い方が、水Wに浮きやすい状態を好適に維持できると考えられる。
【0023】
2.活性炭
活性炭は、梅の種3から仁7を除去して得られた殻5を炭化及び賦活させてなる。以下、上記の活性炭を、単に梅殻活性炭とも称する。
【0024】
梅殻活性炭において、梅の種3から仁7を除去する手法は特に限定されない。効率よく仁7を除去する観点から、梅殻活性炭において、殻5は、上記の「1.梅の種3における殻5と仁7の分離方法」を行い、分離された仁7を除去して得られることが好ましい。梅殻活性炭の説明において、殻5と仁7の分離については「1.梅の種3における殻5と仁7の分離方法」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。なお、得られた殻5は、用途に応じて水洗してもよいし、あるいは酸性水やアルカリ水で洗浄してもよい。
【0025】
梅殻活性炭の炭化及び賦活の条件は特に限定されない。梅殻活性炭の炭化は、例えば、低酸素状態で、400℃以上800℃以下で行うことができる。賦活法としては、ガス賦活法、薬品賦活法等の賦活法がある。活性炭を、浄水用として使用する場合には、不純物の残留の少ないガス賦活法が好ましい。賦活ガスとしては、水蒸気、二酸化炭素などが挙げられる。賦活温度は、例えば、800℃以上1000℃以下である。賦活は、梅殻活性炭の比表面積が特定の比表面積となるまで行えばよい。
【0026】
梅殻活性炭は、粒子状及び粉末状のいずれの形態であってもよい。梅殻活性炭の積算粒度分布での中心粒子径D50は、例えば、5μm以上500μm以下であり、7μm以上250μm以下、10μm以上150μm以下であってもよい。活性炭の中心粒子径D50は、レーザ回折/散乱式の粒子径分布測定装置で測定できる。中心粒子径D50は、上記の上限値及び下限値を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
【0027】
梅殻活性炭のBET比表面積は特に限定されない。梅殻活性炭のBET比表面積は、例えば、800m/g以上3500m/g以下であり、700m/g以上3000m/g以下、600m/g以上2500m/g以下、500m/g以上2000m/g以下であってもよい。梅殻活性炭のBET比表面積は、上記の上限値及び下限値を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
【0028】
本実施形態の梅殻活性炭は、浄水性能に優れる。梅殻活性炭の浄水性能を確認するために、仁7を除去しない梅の種3をそのまま炭化及び賦活させてなる活性炭の浄水性能と比較する。以下、仁7を除去しない梅の種3をそのまま炭化及び賦活させてなる活性炭を、仁7を含む梅殻活性炭と称する。
【0029】
梅殻活性炭は、仁7を含む梅殻活性炭よりも浄水性能が高い。その理由は定かではないが、次のように推測される。仁7を含む梅殻活性炭は、炭化及び賦活の過程で、仁7の油分が殻5に融着する。仁7を含む梅殻活性炭は、このような仁7由来の成分に起因して、浄水性能が低下する可能性がある。なお、仁7を含む梅殻活性炭を洗浄して、仁7由来の成分を落とすことも試みた。しかし、仁7を含む梅殻活性炭を洗浄した場合であっても、梅殻活性炭と同程度までは浄水性能を向上できなかった。他方、梅殻活性炭は、仁7由来の成分の影響が少なく、十分な浄水性能を発揮できると考えられる。
【0030】
梅殻活性炭は、同等のBET比表面積を有するヤシ殻活性炭と同等の浄水性能を発揮し得る。ヤシ殻活性炭は、浄水カートリッジとして汎用されている材料であり、梅殻活性炭の有用性が高いことが分かる。
【0031】
殻5と仁7とを水Wに入れて分離している場合には、次のような効果が期待できる。例えば、殻5と仁7とを砂糖水に入れて分離する場合には、分離後の殻5に砂糖が残留することが懸念される。このような残留した成分は、梅殻活性炭の浄水性能を低下させる一因となり得る。他方、殻5と仁7とを水Wに入れて分離している場合には、水Wは炭化及び賦活の過程で蒸発するから、残留成分によって梅殻活性炭の浄水性能が低下しにくい。
【0032】
3.浄水カートリッジ11
浄水カートリッジ11は、上記の梅殻活性炭を備えている。
【0033】
図3の浄水カートリッジ11は、円筒状である。浄水カートリッジ11は、中芯12と、梅殻活性炭を含む成形体1と、不織布14と、封止キャップ15,16と、を備える。中芯12は、円筒状であり、浄水カートリッジ11の最も内側に配置される。中芯12には、外側から内側に水が通過するのを許容する細孔が形成され、内部に流路20が形成される。中芯12としては、任意の材料を使用可能である。中芯12の材料としては、多孔質セラミック、多孔質金属フィルター、硬質不織布等が挙げられる。
【0034】
梅殻活性炭を含む成形体1は、円筒状であり、中芯12の外周面上に配置される。梅殻活性炭を含む成形体1は、例えば、水中に分散させてスラリー化した梅殻活性炭を吸引して、成形できる。梅殻活性炭を含む成形体1は、更にフィブリル繊維やイオン交換性材料を含んでいてもよい。
【0035】
不織布14は、成形体1の外周面上に配置される。封止キャップ15は、成形体1の一端側を覆うことで、流路20の一方側を塞ぐ。封止キャップ16は、成形体1の他端側を覆う。封止キャップ16には、流路20を流通した水が排出される排出口60が形成されている。
【0036】
本実施形態の浄水カートリッジ11は、梅殻活性炭を備えているから、浄水性能が高い。また、本実施形態の浄水カートリッジ11は、梅の種3の殻5を用いているから、持続可能な社会の実現に向けて、種々の波及効果が期待できる。
【実施例0037】
以下、実施例により更に具体的に説明する。実験例1-3,1-4,2-1,2-2,2-3,3-1,3-2,3-3,4-1,4-2,4-3が実施例であり、実験例1-1,1-2は比較例である。
【0038】
1.殻と仁の分離試験
梅の種を準備した。種割り器を用いて梅の種の殻を割り、割られた殻と仁との混合物を得た。混合物5gを、加熱温度 150℃から210℃、加熱時間 0.5時間から20時間の条件で加熱した。各実験例の加熱条件は、表1の通りである。加熱には、電気炉(VERDERscientific社製、品番AAF11/3)を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
300mLのビーカーに水を150mL入れて、水に加熱後の混合物を投入し、静置した。すると、実験例1-3,1-4,2-1,2-2,2-3,3-1,3-2,3-3,4-1,4-2,4-3については、沈殿した殻と、浮いた仁とを分離できた。その後、浮いた仁を除去して、殻を回収した。
【0041】
2.活性炭の準備
(1)梅殻活性炭
実験例4-1の殻を用いて梅殻活性炭を作製した。実験例4-1は殻と仁が完全に分離しており、回収された殻には、目視にて仁の混入は確認されなかった。
【0042】
殻の炭化及び賦活には、炭化炉(VERDERscientific社製、品番AAF11/3)及び賦活炉(SKメディカル電子社製、品番VF-5000)を用いた。炭化処理は最高到達温度600℃、保持時間1時間とした。得られた炭化した殻を粉砕機(大阪ケミカル社製、品番HC-1)で粉砕した。炭化した殻の粉砕物を、10meshの篩と、35meshの篩により篩別した。梅殻活性炭の作製には、10meshの篩を通過し、35meshの篩を通過しない炭化した殻の粉砕物を用いた。賦活処理は、キルン容器に炭化粉砕した殻80gを投入し、窒素ガス1L/minを流通させながら行った。賦活処理の条件は、昇温速度5℃/min、最高到達温度900℃、保持時間3時間とした。得られた梅殻活性炭のBET比表面積は860m/g、t-プロットマイクロポア比表面積は820m/gであった。
【0043】
(2)仁を含む梅殻活性炭
比較用として、仁を含む梅殻活性炭を作製した。仁を含む梅殻活性炭は、梅の種をそのまま炭化した。その他は、上記(1)の梅殻活性炭と同様にして、仁を含む梅殻活性炭を作製した。得られた仁を含む梅殻活性炭のBET比表面積は820m/g、t-プロットマイクロポア比表面積は740m/gであった。
【0044】
(3)ヤシ殻活性炭
比較用として、ヤシ殻活性炭を作製した。ヤシ殻の炭化物を上記(1)の梅殻活性炭と同様にして、ヤシ殻活性炭を作製した。得られた、ヤシ殻活性炭のBET比表面積は830m/g、t-プロットマイクロポア比表面積は820m/gであった。
【0045】
3.評価
(1)殻と仁の分離試験
各実験例の殻と仁の分離状態を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
<殻と仁の分離評価>
「A」:殻と仁が完全に分離しており、実用上特に優れる。
「B」:殻と仁がほぼ分離しており、実用上優れる。
「C」:殻と仁が一部分離しており、実用可能である。
「D」:殻と仁が分離しておらず、実用不可である。
【0046】
(2)活性炭の浄水性能
上記の各活性炭の浄水性能を評価するために、成形吸着体を作製して、クロロホルム通水性能を測定した。測定は、JIS S 3201(2010)「家庭用浄水器試験方法」のろ過能力試験に準拠し、以下の方法により行った。
【0047】
成形吸着体は次のように作製した。活性炭(中心粒子径D50は、25μm以上35μm以下)とバインダー(東洋紡株式会社、日本エクスラン工業(株) Bi-PUL 50 TWF)の94:6のスラリーを作製した。成形機に中芯たるセラミック芯材(外径φ8.1mm、内径φ5.0mm)を取り付け、スラリー中で吸引して着肉させて、成形吸着体を成形した。成形吸着体を乾燥させて研磨し、不織布を巻いてキャップを接着して、浄水カートリッジにした。カートリッジのサイズ(成形吸着体部分)は、外径φ24.4mm、内径φ8.1mm、長さ90mmとした。
通水性能試験は以下のように実施した。クロロホルム濃度が0.060±0.012mg/Lの試料水を調製した。試料水を、20℃、SV 2400h-1でカートリッジに通水した。カートリッジから流出した試料水を採取し、クロロホルムの濃度をGC-MS((株)島津製作所社製、品番GCMS-QP2010Ultra)を用いて測定した。
【0048】
カートリッジ通過前の試料水とカートリッジを通過した試料水を比較した。流入側試料水に対する流出側試料水のクロロホルムの水中濃度が20%以上となった点をクロロホルムの破過点とした。そして、破過点に達した点の総流出水量を、クロロホルム通水性能(L)とした。クロロホルム通水性能(L)が大きい程、活性炭の浄水性能が高いといえる。
【0049】
4.結果及び考察
(1)殻と仁の分離試験
殻と仁の分離試験の評価結果を表1に併記する。
【0050】
実験例1-1,2-1,3-1,4-1は、いずれも加熱時間が0.5時間であり、加熱温度がそれぞれ150℃、165℃、180℃、210℃である。実験例1-1,2-1,3-1,4-1の評価は、それぞれ「D」、「C」、「B」、「A」であった。実験例1-1,2-1,3-1,4-1の評価は、加熱温度が上がるにつれて高くなっていた。これらの結果から、200℃以上で加熱することによって、加熱時間が0.5時間であっても、殻と仁を好適に分離できることが示唆された。
【0051】
加熱温度165℃の実験例2-2,2-3を比較する。加熱時間1時間の実験例2-2は、評価が「C」であり、加熱時間2時間の実験例2-3で評価が「B」であった。他方、加熱温度180℃の実験例3-1は、加熱時間0.5時間でも評価が「B」であった。加熱温度180℃以上であれば、短時間での加熱でも、殻と仁を十分に分離できることが示唆された。
【0052】
加熱温度150℃の実験例1-1,1-2,1-3,1-4を比較する。加熱時間0.5時間、1時間の実験例1-1,1-2は、評価が「D」であった。加熱時間2時間の実験例1-3は、評価が「C」であった。加熱時間20時間の実験例1-4は、評価が「B」であった。加熱温度が180℃未満であっても、長時間加熱すれば、ある程度、殻と仁を分離できることが示唆された。この結果は、仁を食用素材等として用いる場合等において、有効であると考えられる。
【0053】
(2)活性炭の浄水性能
活性炭の浄水性能の評価結果を図4のグラフに示す。図4は、活性炭の浄水性能を比較するためのグラフである。黒の棒グラフは、BET比表面積860m/gの梅殻活性炭の結果である。白の棒グラフは、BET比表面積820m/gの仁を含む梅殻活性炭の結果である。斜線の棒グラフは、BET比表面積830m/gのヤシ殻活性炭の結果である。縦軸は、クロロホルム通水性能(L)である。
【0054】
図4のグラフに示されるように、梅殻活性炭は、仁を含む梅殻活性炭よりも浄水性能が高いことが分かった。また、梅殻活性炭は、同等のBET比表面積を有するヤシ殻活性炭と同等の浄水性能を発揮できることが分かった。
【0055】
5.実施例の効果
本実施例は、梅の種の殻と仁を効率的に分離できた。また、本実施例は、梅の種の殻と仁を分離する技術を、活性炭及び浄水カートリッジに利用できた。
【符号の説明】
【0056】
1…成形体、3…梅の種、5…殻、7…仁、9…混合物、11…浄水カートリッジ、12…中芯、14…不織布、15…封止キャップ、16…封止キャップ、20…流路、60…排出口
図1
図2
図3
図4