(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151531
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】磁性体回収機構
(51)【国際特許分類】
B03C 1/28 20060101AFI20241018BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B03C1/28 107
B03C1/00 A
B03C1/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064955
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】502345393
【氏名又は名称】株式会社ワイ・ジェー・エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】亀山 修司
(72)【発明者】
【氏名】米澤 育大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 靖彦
(57)【要約】
【課題】磁性体の回収作業を簡便に行うことができる磁性体回収機構を提供する。
【解決手段】内部に磁性体を含む流体が流れる本体部3と、本体部3の外部に設けられる磁石4と、磁石4が本体部3の外面に近接した吸着状態と、磁石4が本体部3の外面から離れた離脱状態との間で、本体部3に設けられた軸体5の周りに磁石4を揺動させる磁石ホルダ6と、を有し、磁石4を前記吸着状態とすることで本体部3の内面に吸着された磁性体を、磁石4を前記離脱状態とすることで前記内面から離脱させて前記磁性体を回収する構成とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に磁性体を含む流体が流れる本体部(3)と、
前記本体部(3)の外部に設けられる磁石(4)と、
前記磁石(4)が前記本体部(3)の外面に近接した吸着状態と、前記磁石(4)が前記本体部(3)の外面から離れた離脱状態との間で、前記本体部(3)に設けられた軸体(5)の周りに前記磁石(4)を揺動させる磁石ホルダ(6)と、
を有し、前記磁石(4)を前記吸着状態とすることで前記本体部(3)の内面に吸着された磁性体を、前記磁石(4)を前記離脱状態とすることで前記内面から離脱させて前記磁性体を回収するように構成された磁性体回収機構。
【請求項2】
前記軸体(5)が水平に設けられるとともに、前記磁石ホルダ(6)に前記軸体(5)が挿通される挿通孔(24)が形成されており、前記吸着状態と前記離脱状態との間で、前記磁石ホルダ(6)が揺動するように構成された請求項1に記載の磁性体回収機構。
【請求項3】
前記本体部(3)の外面に、前記吸着状態において前記磁石(4)が近接する凹部(26)が形成され、前記凹部(26)の縁が、前記磁石ホルダ(6)の揺動時に前記磁石(4)または前記磁石ホルダ(6)が接触する段差部(27)となっている請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項4】
前記本体部(3)の側面に、前記吸着状態において前記磁石ホルダ(6)と当接して当該磁石ホルダ(6)に揺動抵抗を与える抵抗部(30)が形成されている請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項5】
前記本体部(3)に、前記吸着状態において前記磁石(4)と吸着して、前記磁石ホルダ(6)に揺動抵抗を与える磁性部材(29)が設けられている請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項6】
前記本体部(3)に、前記吸着状態において前記磁石ホルダ(6)の下端部外面と当接して、前記磁石ホルダ(6)の揺動を阻止する当接部(32)が形成されており、前記挿通孔(24)が、前記磁石ホルダ(6)を前記吸着状態としたときに上下方向に延びる長孔であって、前記軸体(5)が、前記吸着状態において前記挿通孔(24)の上下方向中間部に位置し、前記磁石ホルダ(6)を上向きにスライドさせて前記当接部(32)と前記磁石ホルダ(6)との当接を解除した状態において前記挿通孔(24)の下端部に位置し、前記磁石(4)の離脱状態において前記挿通孔(24)の上端部に位置するように構成された請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項7】
前記挿通孔(24)の下端部に、前記吸着状態において前記本体部(3)に向かって延びる係止孔(31)が延設されている請求項6に記載の磁性体回収機構。
【請求項8】
前記離脱状態において前記本体部(3)の内面から離脱した磁性体を捕集するすり鉢状の捕集コーン(10)が前記本体部(3)の内部に設けられており、前記吸着状態において前記磁石(4)が近接する前記捕集コーン(10)の周方向位置に対応して、下方に向かう傾斜角を部分的に急峻にした落下促進部(33)が形成されている請求項1から7のいずれか1項に記載の磁性体回収機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体内の磁性体を除去する異物除去装置などの装置に採用される磁性体回収機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、温水などの流体を熱媒体として利用する暖房装置においては、流体が循環する暖房回路を鉄管で構成することが多く、この鉄管の内壁から鉄粉などの磁性体が流体中に混入することがある。磁性体は、流体を循環させるポンプの故障を引き起こすおそれがあるため、流体内の磁性体を除去する必要がある。
【0003】
流体中の磁性体を除去するための装置として、例えば下記特許文献1に示すものが提案されている。
【0004】
特許文献1に示す装置においては、流入口から流入した流体が、第一のチャンバ11内に設けられたフィルタカートリッジ14を通過する際に分散するとともにその流速が弱められるよう構成されている。そして、第一のチャンバ11の下側に設けられた第二のチャンバ15の外壁にC字形の保持部材21によって保持された磁石18を設け、この磁石18で流体中の磁性体を吸着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0367340号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る構成においては、保持部材ごと磁石を第二のチャンバから取り外すことによって、この磁石によって吸着された磁性体を第二のチャンバの下部に脱落させて回収している。そして、その回収作業の後に、保持部材によって保持された磁石を再び第二のチャンバに取り付ける。この際に、取り外した磁石付き保持部材を紛失するおそれがあるため、例えばこの磁石付き保持部材に紐を取り付けた上で第二のチャンバに固定するなどの紛失防止策が必要となり、作業の面で煩雑となるおそれがある。
【0007】
そこで、この発明は、磁性体の回収作業を簡便に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明においては、
内部に磁性体を含む流体が流れる本体部と、
前記本体部の外部に設けられる磁石と、
前記磁石が前記本体部の外面に近接した吸着状態と、前記磁石が前記本体部の外面から離れた離脱状態との間で、前記本体部に設けられた軸体の周りに前記磁石を揺動させる磁石ホルダと、
を有し、前記磁石を前記吸着状態とすることで前記本体部の内面に吸着された磁性体を、前記磁石を前記離脱状態とすることで前記内面から離脱させて前記磁性体を回収するように磁性体回収機構を構成した。
【0009】
このようにすると、軸体の周りの回転によって磁石ホルダを揺動させるだけで磁性体の吸着状態と離脱状態を切り替えることができるため、部材の紛失が起こるおそれがなく、磁性体の回収作業を簡便に行うことができる。
【0010】
前記構成においては、
前記軸体が水平に設けられるとともに、前記磁石ホルダに前記軸体が挿通される挿通孔が形成されており、前記吸着状態と前記離脱状態との間で、前記磁石ホルダが揺動するように構成することができる。
【0011】
このようにすると、シンプルな構成で磁石ホルダの揺動機構を構成することができ、コスト面でもメリットがある。
【0012】
前記のすべての構成においては、
前記本体部の外面に、前記吸着状態において前記磁石が近接する凹部が形成され、前記凹部の縁が、前記磁石ホルダの揺動時に前記磁石または前記磁石ホルダが接触する段差部となっている構成とすることができる。
【0013】
このようにすると、段差部と磁石または磁石ホルダとの接触によって磁石ホルダが仮固定され、吸着状態の磁石ホルダが、離脱状態に向かって不用意に揺動するのを防止することができる。
【0014】
前記のすべての構成においては、
前記本体部の側面に、前記吸着状態において前記磁石ホルダと当接して当該磁石ホルダに揺動抵抗を与える抵抗部が形成されている構成とすることができる。
【0015】
このようにすると、抵抗部と磁石ホルダとの接触によって磁石ホルダが仮固定され、吸着状態の磁石ホルダが、離脱状態に向かって不用意に揺動するのを防止することができる。
【0016】
前記のすべての構成においては、
前記本体部に、前記吸着状態において前記磁石と吸着して、前記磁石ホルダに揺動抵抗を与える磁性部材が設けられている構成とすることができる。
【0017】
このようにすると、磁石と磁性部材との間の吸着力によって磁石ホルダが仮固定され、吸着状態の磁石ホルダが、離脱方向に向かって不用意に揺動するのを防止することができる。
【0018】
前記挿通孔を形成した構成においては、
前記本体部に、前記吸着状態において前記磁石ホルダの下端部外面と当接して、前記磁石ホルダの揺動を阻止する当接部が形成されており、前記挿通孔が、前記磁石ホルダを前記吸着状態としたときに上下方向に延びる長孔であって、前記軸体が、前記吸着状態において前記挿通孔の上下方向中間部に位置し、前記磁石ホルダを上向きにスライドさせて前記当接部と前記磁石ホルダとの当接を解除した状態において前記挿通孔の下端部に位置し、前記磁石の離脱状態において前記挿通孔の上端部に位置するように構成することができる。
【0019】
このようにすると、当接部による磁石ホルダのロック状態をスムーズに解除することができるとともに、軸体を長孔の上端部に位置させることにより、磁石ホルダによって保持された磁石を極力本体部から遠ざけて本体部に作用する磁力を弱め、吸着された磁性体を速やかに離脱させることができる。
【0020】
また、前記挿通孔を長孔とした構成においては、
前記挿通孔の下端部に、前記吸着状態において前記本体部に向かって延びる係止孔が延設されている構成とすることができる。
【0021】
このようにすると、軸体を係止孔によって一時的に係止して、磁石ホルダのロック解除状態を維持することができるため、このロック解除後の磁石ホルダの揺動操作をスムーズに行うことができる。
【0022】
前記のすべての構成においては、
前記離脱状態において前記本体部の内面から離脱した磁性体を捕集するすり鉢状の捕集コーンが前記本体部の内部に設けられており、前記吸着状態において前記磁石が近接する前記捕集コーンの周方向位置に対応して、下方に向かう傾斜角を部分的に急峻にした落下促進部が形成されている構成とすることができる。
【0023】
このようにすると、離脱状態において本体部に作用する弱い磁力によって、磁性体が捕集コーンの上面に残留するのを極力防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の上記構成によると、磁性体の回収作業を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】この発明に係る磁性体回収機構(第一実施形態)を採用した異物除去装置の一例を示す断面図
【
図3】
図2に示す磁性体回収機構の磁石ホルダを示す斜視図
【
図4】
図2に示す磁性体回収機構の作用を示す正面図であって、(a)は磁石ホルダが本体部に近接している状態(吸着状態)、(b)は磁石ホルダを回動させつつある状態、(c)は磁石ホルダを本体部から完全に離間させた状態(離脱状態)
【
図5】この発明に係る磁性体回収機構(第二実施形態)を採用した異物除去装置の一例を示す斜視図
【
図6】
図5に示す磁性体回収機構の磁石ホルダを示す斜視図
【
図7】
図5に示す磁性体回収機構の作用を示す正面図であって、(a)は磁石ホルダが本体部に近接している状態(吸着状態)、(b)は磁石ホルダを回動させつつある状態、(c)は磁石ホルダを本体部から完全に離間させた状態(離脱状態)
【
図8】この発明に係る磁性体回収機構(第三実施形態)を採用した異物除去装置の一例を示す斜視図
【
図9】
図8に示す磁性体回収機構の磁石ホルダを示す斜視図
【
図10】
図8に示す磁性体回収機構の作用を示す正面図であって、(a)は磁石ホルダが本体部に近接している状態(吸着状態)、(b)は磁石ホルダを上向きにスライドさせた状態、(c)は磁石ホルダを回動させつつある状態、(d)は磁石ホルダを手前側にスライドさせた状態、(e)は磁石ホルダを本体部から完全に離間させた状態(離脱状態)
【
図11】この発明に係る磁性体回収機構を採用した異物除去装置を示す断面図であって、(a)は捕集コーンの第一変形例、(b)は捕集コーンの第二変形例
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明に係る磁性体回収機構1の第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および
図2に示すように、この磁性体回収機構1は、流体内の異物(磁性体、非磁性体)を除去する異物除去装置2に採用することができる。この磁性体回収機構1は、内部に異物を含む流体が流れる本体部3と、本体部3の外部に設けられる磁石4と、磁石4が本体部3の外面に近接した吸着状態と、磁石4が本体部3の外面から離れた離脱状態との間で、本体部3に設けられた軸体5の周りに磁石4を揺動させる磁石ホルダ6と、を主要な構成要素としている。
【0027】
本体部3は、異物除去装置2の主要構成部分であって、内部が中空の円筒状をなす樹脂製の部材である。この実施形態に係る本体部3は、上側本体部3aと下側本体部3bを上下に結合することによって構成されている。本体部3の上部には、異物を含む流体(例えば温水)が流入する流入管7と、異物を除去された流体が流出する流出管8が接続されている。また、流入管7から流入した流体の向きを下向きに偏向させる偏向部材9が、本体部3の上端から下向きに延設されている。
【0028】
本体部3の上下方向の中央部付近には、流体から異物(磁性体と非磁性体の両方)を捕集するための、すり鉢状の捕集コーン10が設けられている。捕集コーン10には、その中央に円形状の貫通孔11が、中央から径方向(上流側)に偏った位置に矩形状の貫通孔12がそれぞれ形成されている。上側本体部3aおよび下側本体部3bには上下方向に延びるリブ13、14が複数本形成されており、これらのリブ13、14によって捕集コーン10の本体部3内での高さが位置決めされる。捕集コーン10の下側には、捕集された異物を一時的に溜めておく捕集部15が設けられている。捕集部15には、コック弁16と、コック弁16の下向きの開口を塞ぐ栓17が設けられている。
【0029】
流入管7から流出管8に向かう流路の途中には、フィルタ18が設けられている。このフィルタ18によって所定以上の大きさの異物(磁性体、非磁性体の両方)が捕獲される。フィルタ18の下端部は、捕集コーン10に形成された矩形状の貫通孔12に挿入されている。
【0030】
磁石4は、平板状の略直方体形状をなし、
図3に示す磁石ホルダ6によって保持されている。磁石ホルダ6は、磁性体で構成されており、一対のフランジ19が立設された基部20と、フランジ19から基部20の延設方向と同方向に延設された延設部21と、延設部21の端部から内向きに屈曲した屈曲部22と、屈曲部22の端部から磁石4の一側面と上面に沿うように屈曲した保持片23と、を有している。各フランジ19には、本体部3に水平に設けられた軸体5が挿通される挿通孔24が形成されている。磁石4は、自らの磁力によって屈曲部22および保持片23の複数面に吸着している。なお、ここでいう軸体5の「水平」は完全な水平のみではなく、磁石ホルダ6の揺動に不具合を生じない程度の多少の傾斜(例えば最大で5度程度)を含む概念である。
【0031】
軸体5の挿通孔24への挿通部分は、断面D字形に加工されている。また、挿通孔24は軸体5の断面形状に対応するD字形となっている。この軸体5は、揺動操作を行うためのハンドル25が設けられたハンドル付き軸体である。なお、ハンドル25を持って揺動操作を行う代わりに、磁石ホルダ6の基部20を持って揺動操作を行うこともできる。
【0032】
本体部3の外面には、吸着状態において磁石4が近接する平面状の凹部26が形成されており、吸着状態において磁石4の表面と凹部26の表面が密接するようになっている。この凹部26の上縁は、磁石ホルダ6の上向きの揺動時に磁石4または磁石ホルダ6と接触して磁石ホルダ6に揺動抵抗を与える段差部27となっている。
【0033】
本体部3の外面には、上面が平板状のテーブル28が径方向外向きに延設されている。テーブル28は、磁性部材29としての留め具(以下、磁性部材29と同じ符号を付する。)によって本体部3に固定されている。吸着状態において、磁石ホルダ6および磁石4はテーブル28の上面に乗っており、磁石4と留め具29の間には吸着力が作用した状態となっている。この実施形態では、留め具29としてねじを用いたが、スプリングピンを用いることもできる。
【0034】
第一実施形態に係る磁性体回収機構1を設けた異物除去装置2の作用について説明する。この異物除去装置2の通常の使用状態において、磁性体回収機構1は、
図4(a)に示す吸着状態とされている。流入管7から本体部3に流入した異物(磁性体および非磁性体)を含む流体は、偏向部材9の作用によって下向きに偏向した上で、本体部3内に設けられたフィルタ18を通過する。このとき、所定以上の大きさの異物(磁性体、非磁性体の両方)はフィルタ18によって捕獲される。捕獲された異物は、フィルタ18の表面に留まることなくフィルタ18の表面に沿って流れる下向きの流体によって運ばれ、捕集コーン10に形成された矩形状の貫通孔12を通って捕集部15に落下する。
【0035】
その一方で、フィルタ18を通過した小サイズの異物を含む流体は、捕集コーン10近傍で上向きに偏向する。このとき、流体よりも比重が大きい異物は本体部3の内面近傍を流れ、異物中の磁性体は、磁性体回収機構1に設けられた磁石4の吸着力によって本体部3の内面に吸着される。磁性体が除去された流体は、流出管8を通って本体部3から流出する。
【0036】
異物除去装置2のメンテナンスにおいては、流体の流れを一旦停止した上で、磁性体回収機構1を吸着状態(
図4(a)を参照)から離脱状態(
図4(c)を参照)に切り替える。この異物除去装置2の通常の使用状態において、磁性体回収機構1は、
図4(a)に示すように、磁石4および磁石ホルダ6がテーブル28によって支持された吸着状態とされている。このとき、磁石4と留め具29との間には吸着力が作用し、吸着に伴うクリック感が得られるようになっている。
【0037】
ここで、軸体5に設けられたハンドル25を、磁石4と留め具29との間の吸着力、および、段差部27による揺動抵抗に抗して手前側に引き下げると、
図4(b)に示すように、磁石4または磁石ホルダ6と段差部27との間の接触が解除されて、軸体5周りに磁石ホルダ6が上向きに揺動し始める。さらに、
図4(c)に示すように、磁石ホルダ6の一部(この実施形態では基部20付近)が本体部3に突き当たって安定的に静止した状態となる位置まで揺動させ、磁石4が本体部3の外面から十分離れた離脱状態とする。磁石4を離脱状態とすると、本体部3の内面に吸着された磁性体に対する磁石4からの吸着力が弱まるため、この磁性体はその内面から離脱し、捕集コーン10の中央に形成された円形状の貫通孔11を通って捕集部15に落下する(
図1を参照)。
【0038】
捕集部15に落下した異物(磁性体および非磁性体)は、コック弁16に設けられた栓17を取り外した上でこのコック弁16を開放することによって、流体とともに異物除去装置2の外に排出される。
【0039】
第一実施形態に係る磁性体回収機構1は、本体部3に水平に設けられた軸体5の周りに、磁石ホルダ6を揺動させるだけで磁石4の吸着状態と離脱状態を切り替えることができるため、部材の紛失が起こるおそれがなく、磁性体の回収作業を簡便に行うことができる。また、シンプルな構成で磁石ホルダ6の揺動機構を構成することができるため、コスト面でもメリットがある。
【0040】
また、第一実施形態に係る磁性体回収機構1は、磁石4と留め具29との間に吸着力を作用させるとともに、凹部26の上縁に段差部27を形成して仮固定することで磁石ホルダ6に揺動抵抗を与える構成としたので、不用意に吸着状態が解除されるのを防止することができる。また、テーブル28の上に磁石ホルダ6(磁石4)が乗った状態(吸着状態)がこの磁石ホルダ6の安定状態となるため、輸送時などに振動が作用して磁石ホルダ6が浮き上がろうとしてもすぐにこの安定状態に戻ることができる。
【0041】
また、第一実施形態に係る磁性体回収機構1は、磁石4を磁石ホルダ6の延設部22および保持片23の複数面でしっかりと吸着させたので、吸着状態から離脱状態に切り替える際に、本体部3の内面に吸着された磁性体と磁石4との間の吸着力によって、磁石4が磁石ホルダ6内の所定位置からずれるのを防止することができる。
【0042】
また、第一実施形態に係る磁性体回収機構1は、軸体5の挿通孔24への挿通部分が断面D字形に加工されているとともに、挿通孔24を軸体5の断面形状に対応するD字形としたので、軸体5と磁石ホルダ6との間の揺動伝達を確実に行うことができる。
【0043】
この発明に係る磁性体回収機構1(第二実施形態)を採用した異物除去装置2を
図5に示す。第二実施形態に係る磁性体回収機構1は、第一実施形態に係る磁性体回収機構1と基本的な構成は共通するが、磁石ホルダ6などの形状や、磁石ホルダ6の揺動方向が相違している。
【0044】
この磁石ホルダ6は、
図6に示すように、一対のフランジ19が立設された基部20と、基部20の両脇から45度の屈曲角をもって延設された延設部21と、延設部21の端部からさらにやや内向きに屈曲した屈曲部22と、屈曲部22の端部から磁石4の一側面と上面に沿うように屈曲した保持片23と、を有している。各フランジ19には、本体部3に水平に設けられた軸体5が挿通される挿通孔24が形成されている。
【0045】
軸体5の挿通孔24への挿通部分は、断面D字形に加工されている。また、挿通孔24は軸体5の断面形状に対応するD字形となっている。軸体5には、揺動操作を行うためのハンドル25が設けられている。また、本体部3の外面には、吸着状態において磁石4が近接する平面状の凹部26が形成されており、吸着状態において磁石4の表面と凹部26の表面が密接するようになっている。本体部3には、吸着状態において磁石ホルダ6の基部20の下端部外面と当接して磁石ホルダ6に揺動抵抗を与える抵抗部30(スナップフィット)が形成されている。
【0046】
異物除去装置2のメンテナンスにおいては、流体の流れを一旦停止した上で、磁性体回収機構1を吸着状態(
図7(a)を参照)から離脱状態(
図7(c)を参照)に切り替える。吸着状態においては、
図7(a)に示すように、磁石ホルダ6の基部20の下端部外面は、本体部3の側面に形成された抵抗部30と当接し、磁石ホルダ6に揺動抵抗が与えられた状態となっている。
【0047】
ここで、軸体5に設けられたハンドル25を手前側に引き上げて、抵抗部30による揺動抵抗に抗して磁石ホルダ6を揺動させると、
図7(b)に示すように、磁石ホルダ6と抵抗部30との間の当接が解除されて、軸体5周りに磁石ホルダ6が揺動し始める。さらに磁石ホルダ6を揺動させ、
図7(c)に示すように、磁石ホルダ6の一部(この実施形態では基部20付近)が本体部3に突き当たるまで揺動させ、磁石4が本体部3の外面から十分離れた離脱状態とする。磁石4を離脱状態とすると、本体部3の内面に吸着された磁性体に対する磁石4からの吸着力が弱まるため、この磁性体はその内面から離脱し、捕集コーン10の中央に形成された円形状の貫通孔11を通って捕集部15に落下する(
図1を参照)。
【0048】
第二実施形態に係る磁性体回収機構1は、第一実施形態に係る磁性体回収機構1と同様に、本体部3に水平に設けられた軸体5の周りに、磁石ホルダ6を揺動させるだけで磁石4の吸着状態と離脱状態を切り替えることができるため、部材の紛失が起こるおそれがなく、磁性体の回収作業を簡便に行うことができる。また、シンプルな構成で磁石ホルダ6の揺動機構を構成することができるため、コスト面でもメリットがある。
【0049】
また、第二実施形態に係る磁性体回収機構1は、本体部3の側面に抵抗部30を形成して、磁石ホルダ6に揺動抵抗を与える構成としたので、揺動操作の際にクリック感が生じて、使用者が吸着状態と離脱状態との間の切り替えを容易に感知することができるとともに、不用意に吸着状態が解除されるのを防止することができる。
【0050】
また、第二実施形態に係る磁性体回収機構1は、軸体5の挿通孔24への挿通部分が断面D字形に加工されているとともに、挿通孔24を軸体5の断面形状に対応するD字形としたので、軸体5と磁石ホルダ6との間の揺動伝達を確実に行うことができる。
【0051】
また、第二実施形態に係る磁性体回収機構1は、磁石4の上面を保持片23に吸着させたので、吸着状態から離脱状態に切り替える際に、本体部3の内面に吸着された磁性体と磁石4との間の吸着力によって、磁石4が磁石ホルダ6から外れて吸着状態の位置に取り残されるのを防止することができる。
【0052】
また、磁石ホルダ6の延設部21の端部から磁石4の上面に沿うように保持片23を形成したので、離脱状態において磁石4と本体部3との間に保持片23が位置することとなり、磁石4の吸着力が保持片23によって遮蔽される。このため、本体部3の内面に吸着された磁性体に対する磁石4からの吸着力がさらに弱まり、磁性体の離脱をよりスムーズに行うことができる。
【0053】
この発明に係る磁性体回収機構1(第三実施形態)を採用した異物除去装置2を
図8に示す。第三実施形態に係る磁性体回収機構1は、第一実施形態などに係る磁性体回収機構1と基本的な構成は共通するが、磁石ホルダ6などの形状が相違している。
【0054】
この磁石ホルダ6は、
図9に示すように、一対のフランジ19が立設された基部20と、基部20の両脇から45度の屈曲角をもって延設された延設部21と、延設部21の端部から磁石4の一側面と上面に沿うように屈曲した保持片23と、を有している。各フランジ19には、本体部3に水平に設けられた軸体5が挿通される挿通孔24が形成されている。この挿通孔24は、磁石ホルダ6に保持された磁石4を吸着状態としたときに上下方向に延びる長孔である。挿通孔24の下端部には、この吸着状態において本体部3に向かって延びる係止孔31が延設されている。
【0055】
磁石ホルダ6の挿通孔24に挿通される軸体5は、本体部3の側面に水平に設けられている。また、本体部3の外面には、吸着状態において磁石ホルダ6の基部20の下端部外面と当接して磁石ホルダ6の揺動を阻止する当接部32が形成されている。当接部32と本体部3の外面との間には、磁石ホルダ6の基部20を挿入可能なスリットが形成されている。また、本体部3の外面には、吸着状態において磁石4が近接する平面状の凹部26が形成されており、吸着状態において磁石4の表面と凹部26の表面が密接するようになっている。
【0056】
異物除去装置2のメンテナンスにおいては、流体の流れを一旦停止した上で、磁性体回収機構1を吸着状態(
図10(a)を参照)から離脱状態(
図10(e)を参照)に切り替える。吸着状態においては、
図10(a)に示すように、磁石ホルダ6の基部20の下端部外面は、本体部3の側面に形成された当接部32と当接し、磁石ホルダ6の揺動が阻止された状態となっている。このとき、軸体5は、挿通孔24の上下方向中間部に位置している。
【0057】
ここで、
図10(b)に示すように、磁石ホルダ6を上向きにスライドさせて当接部32と磁石ホルダ6の当接を解除した状態とする。このとき、軸体5は、挿通孔24の下端部から延設された係止孔31に位置している。さらに、
図10(c)に示すように、係止孔31に軸体5が位置した状態のまま、この軸体5周りに磁石ホルダ6を揺動させる。磁石ホルダ6をある程度揺動させたら、
図10(d)に示すように、磁石ホルダ6と流出管8との接触を避けるべく、磁石ホルダ6を斜め下向きにスライドさせる。このとき、軸体5は、挿通孔24の上端部まで移動する。
【0058】
さらに、
図10(e)に示すように、挿通孔24の上端部に軸体5が位置した状態のまま、磁石4が本体部3の外面から十分離れた離脱状態とする。磁石4を離脱状態とすると、本体部3の内面に吸着された磁性体に対する磁石4からの吸着力が弱まるため、この磁性体はその内面から離脱し、捕集コーン10の中央に形成された円形状の貫通孔11を通って捕集部15に落下する。離脱状態における磁石4と本体部3との間の離間距離は、挿通孔24の長さを長くすることによってさらに大きくすることもできる。離間距離を大きくすることによって、離脱状態において本体部3の内面に吸着された磁性体に作用する磁石4の吸着力がさらに弱まり、離脱をよりスムーズに行うことができる。
【0059】
第三実施形態に係る磁性体回収機構1は、本体部3に水平に設けられた軸体5の周りに、磁石ホルダ6を揺動させるだけで磁石4の吸着状態と離脱状態を切り替えることができるため、部材の紛失が起こるおそれがなく、磁性体の回収作業を簡便に行うことができる。また、シンプルな構成で磁石ホルダ6の揺動機構を構成することができるため、コスト面でもメリットがある。
【0060】
また、第三実施形態に係る磁性体回収機構1は、挿通孔24に係止孔31を延設し、この係止孔31に軸体5が係止されるようにしたので、磁石ホルダ6を上向きにスライドさせて当接部32と磁石ホルダ6の当接を解除したときにその解除状態が維持される。このため、引き続いて行われる磁石ホルダ6の揺動操作をスムーズに行うことができる。
【0061】
また、第三実施形態に係る磁性体回収機構1は、磁石ホルダ6の延設部21の端部から磁石4の上面に沿うように屈曲した保持片23を形成したので、離脱状態において磁石4と本体部3との間に保持片23が位置することとなり、磁石4の吸着力が保持片23によって遮蔽される。このため、本体部3の内面に吸着された磁性体に対する磁石4からの吸着力がさらに弱まり、離脱をよりスムーズに行うことができる。なお、保持片23の配置は適宜変更することもできる。
【0062】
上記の各実施形態に係る異物除去装置2においては、捕集コーン10の上面の傾斜角がその内面位置によらず一定の構成としたが、
図11(a)に示すように、離脱状態としたときに離脱した磁性体が直接当たる捕集コーン10の上端部に、下方に向かう傾斜角を急峻にした落下促進部33を形成した構成とすることができる。また、
図11(b)に示すように、捕集コーン10に形成された円形状の貫通孔11を磁石ホルダ6側(磁石4側)に偏心させて、磁石ホルダ6側(磁石4側)の傾斜角を急峻にすることで落下促進部33を形成することもできる。
【0063】
このように落下促進部33を形成すると、離脱状態において本体部3の内面から離脱した磁性体が、磁石4から作用する弱い吸着力によって捕集コーン10の上面の上端部近傍に留まるのを防止し、磁性体の回収効率を向上することができる。
【0064】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。
【0065】
例えば、上記の磁性体回収機構1は、本体部3に水平に設けられた軸体5の周りに磁石ホルダ6を揺動させる構成としたが、本体部3に垂直に設けられた軸体5の周りに磁石ホルダ6を揺動させる構成とすることもできる。また、上記の各実施形態においては、異物除去装置2の流体流動をタイマなどで自動的に一時停止した上で、磁石ホルダ6の回動をモータで行うことにより、作業者による作業を必要としないメンテナンスフリー化を実現することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 磁性体回収機構
2 異物除去装置
3 本体部
3a 上側本体部
3b 下側本体部
4 磁石
5 軸体
6 磁石ホルダ
7 流入管
8 流出管
9 偏向部材
10 捕集コーン
11 (円形状の)貫通孔
12 (矩形状の)貫通孔
13、14 リブ
15 捕集部
16 コック弁
17 栓
18 フィルタ
19 フランジ
20 基部
21 延設部
22 屈曲部
23 保持片
24 挿通孔
25 ハンドル
26 凹部
27 段差部
28 テーブル
29 磁性部材(留め具)
30 抵抗部
31 係止孔
32 当接部
33 落下促進部
【手続補正書】
【提出日】2024-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に磁性体を含む流体が流れる本体部(3)と、
前記本体部(3)の外部に設けられる磁石(4)と、
前記磁石(4)が前記本体部(3)の外面に近接した吸着状態と、前記磁石(4)が前記本体部(3)の外面から離れた離脱状態との間で、前記本体部(3)に設けられた軸体(5)の周りに前記磁石(4)を揺動させる磁石ホルダ(6)と、
を有し、前記磁石(4)を前記吸着状態とすることで前記本体部(3)の内面に吸着された磁性体を、前記磁石(4)を前記離脱状態とすることで前記内面から離脱させて前記磁性体を回収するように構成されており、
前記磁石(4)を前記吸着状態から前記離脱状態に揺動する際の揺動初期段階における揺動方向が、前記本体部(3)の前記磁石(4)の吸着面に立てた垂直線に対し直交する方向である磁性体回収機構。
【請求項2】
前記軸体(5)が水平に設けられるとともに、前記磁石ホルダ(6)に前記軸体(5)が挿通される挿通孔(24)が形成されており、前記吸着状態と前記離脱状態との間で、前記磁石ホルダ(6)が揺動するように構成された請求項1に記載の磁性体回収機構。
【請求項3】
前記本体部(3)の外面に、前記吸着状態において前記磁石(4)が近接する凹部(26)が形成され、前記凹部(26)の縁が、前記磁石ホルダ(6)の揺動時に前記磁石(4)または前記磁石ホルダ(6)が接触する段差部(27)となっている請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項4】
前記本体部(3)の側面に、前記吸着状態において前記磁石ホルダ(6)と当接して当該磁石ホルダ(6)に揺動抵抗を与える抵抗部(30)が形成されている請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項5】
前記本体部(3)に、前記吸着状態において前記磁石(4)と吸着して、前記磁石ホルダ(6)に揺動抵抗を与える磁性部材(29)が設けられている請求項2に記載の磁性体回収機構。
【請求項6】
内部に磁性体を含む流体が流れる本体部(3)と、
前記本体部(3)の外部に設けられる磁石(4)と、
前記磁石(4)が前記本体部(3)の外面に近接した吸着状態と、前記磁石(4)が前記本体部(3)の外面から離れた離脱状態との間で、前記本体部(3)に設けられた軸体(5)の周りに前記磁石(4)を揺動させる磁石ホルダ(6)と、
を有し、前記磁石(4)を前記吸着状態とすることで前記本体部(3)の内面に吸着された磁性体を、前記磁石(4)を前記離脱状態とすることで前記内面から離脱させて前記磁性体を回収するように構成されており、
前記軸体(5)が水平に設けられるとともに、前記磁石ホルダ(6)に前記軸体(5)が挿通される挿通孔(24)が形成されており、前記吸着状態と前記離脱状態との間で、前記磁石ホルダ(6)が揺動するように構成されており、
前記本体部(3)に、前記吸着状態において前記磁石ホルダ(6)の下端部外面と当接して、前記磁石ホルダ(6)の揺動を阻止する当接部(32)が形成されており、前記挿通孔(24)が、前記磁石ホルダ(6)を前記吸着状態としたときに上下方向に延びる長孔であって、前記軸体(5)が、前記吸着状態において前記挿通孔(24)の上下方向中間部に位置し、前記磁石ホルダ(6)を上向きにスライドさせて前記当接部(32)と前記磁石ホルダ(6)との当接を解除した状態において前記挿通孔(24)の下端部に位置し、前記磁石(4)の離脱状態において前記挿通孔(24)の上端部に位置するように構成された磁性体回収機構。
【請求項7】
前記挿通孔(24)の下端部に、前記吸着状態において前記本体部(3)に向かって延びる係止孔(31)が延設されている請求項6に記載の磁性体回収機構。