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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151533
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】モータのコイル冷却システム
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/197 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H02K9/197
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064959
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】涌井 隆至
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609PP02
5H609PP09
5H609QQ05
5H609QQ09
5H609QQ12
5H609RR01
5H609SS22
(57)【要約】
【課題】モータが低負荷の状況でオイルポンプの停止によりモータ内部に空気が混入することを適切に防止できるコイル冷却システムを提供する。
【解決手段】モータのコイル冷却システム1は、ステータ22と、ロータ31と、内部にコイル23を油没させて冷却する冷却油流路が形成されたハウジング21と、ハウジング21と係合してコイルエンド23aを液密に覆い、冷却油の導入口27及び冷却油の導出口28が設けられたステータカバー26A、26Bと、を有するモータ2と、冷却油を圧送する電動オイルポンプ4と、モータ回転数NMを検出する回転数検出手段と、回転数NMに応じて電動オイルポンプ4の出力を制御するポンプ出力制御手段と、を備え、ポンプ出力制御手段は、モータ2の回転が停止しているときであっても、電動オイルポンプ4の出力を停止させることなく低出力での駆動を継続することを特徴とする。
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアにコイルが装着されたステータと、前記ステータの内周側に配置されたロータと、前記ステータ及び前記ロータを収容し、内部に前記コイルを冷却油に油没させて冷却するための冷却油流路が形成されたハウジングと、前記モータの軸方向両端部にそれぞれ設けられ、前記ハウジングと係合することにより前記コイルのコイルエンドを液密に覆い、一方の端部に前記冷却油を前記ハウジング内に導入するための導入口が設けられ、他方の端部に前記冷却油を前記ハウジング外に導出するための導出口が設けられたステータカバーと、を有するモータと、
前記冷却油を圧送する電動オイルポンプと、
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記検出された回転数に応じて、前記電動オイルポンプの出力を制御するポンプ出力制御手段と、を備え、
前記ポンプ出力制御手段は、前記モータの回転が停止しているときであっても、前記電動オイルポンプの出力を停止させることなく低出力での駆動を継続する
ことを特徴とする、モータのコイル冷却システム。
【請求項2】
前記モータは、通常運転に用いられる通常モードと、前記通常モードよりも出力を向上させた高出力モードと、を切り替え可能に制御され、
前記ポンプ出力制御手段は、前記モータが前記高出力モードで制御されている場合に前記モータの回転が停止したときの前記電動オイルポンプの出力が、前記モータが前記通常モードで制御されている場合に前記モータの回転が停止したときの前記電動オイルポンプの出力よりも高くなるように制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載のモータのコイル冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのコイル冷却システムに関し、特にコイルを冷却油に油没させて冷却を行うコイル冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素社会又は脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化し、車両においてもCO排出量の削減やエネルギー効率の改善のために、電動化技術に関する研究開発が行われている。
【0003】
電動モータを駆動源として用いる電動車両やハイブリッド車両においては、作動時に発熱するモータを適切に冷却する必要がある。従来、モータの冷却方式として、モータの近傍に配置したウォータージャケットに冷却水を循環させることによる水冷方式や、コイルエンドに冷却油を滴下することによる油冷方式が多く用いられてきたが、さらなる冷却性能の向上を目的として、コイルの巻線全体を油没させるように冷却油流路を構成し、冷却油を循環させることで冷却を行う手法が開発されている。
【0004】
例えば特許文献1では、ステータとステータの内周側にエアギャップを介して配置されるロータを備えるモータにおいて、エアギャップにステータ収容室とロータ収容室とを分割する隔壁部材が設けられ、ステータ収容室に、外部からの冷媒を導入する導入口及び冷媒を外部に導出する導出口が設けられ、隔壁部材が軸方向両端部においてハウジングに液密に支持される構成が開示されており、これにより、簡易な構成でステータ収容室の冷媒がロータ収容室に漏出することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-213412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術のように、モータの内部に冷却油(冷媒)の流路を形成し、その中にコイルを油没させる構成の場合、通常、電動オイルポンプ等のオイルポンプにより冷却油を圧送して流路を循環させることにより冷却効果を生じさせる。また、モータの負荷に応じてオイルポンプの出力を変化させることにより、モータ内を通る冷却油の流量を変化させ、モータの状態に応じた過不足のない冷却効果を生じさせるように制御が行われる。
【0007】
一方、車両の一時停止の際などにモータが停止し、モータの負荷が小さくなった場合に、それに応じてオイルポンプの運転が停止すると、それにより生じた負圧により冷却油が逆流し、モータ内部に空気が混入することで油密状態を保てなくなるという課題がある。モータ内部に空気が混入した場合、コイルと冷却油の接触が損なわれることによりコイルの冷却が正常に行われなくなり、過度な温度上昇によりモータの運転に支障を来す場合がある。そのため、オイルポンプが停止するたびに冷却油の逆流による空気の混入が発生するような冷却システムにおいては、オイルポンプの再稼働の度に、冷却油流路に通常よりも高い圧力を掛けてモータ内部の空気を抜くという制御が必要となり、燃費/電費の悪化の一因となる。また、こうした冷却油の逆流を防止するために冷却油の配管中にチェックバルブ(逆止弁)等の機構を設けることも可能であるが、この場合、部品点数の増加によるコスト増やレイアウトの圧迫といった別の問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、モータの負荷が小さい状況でも、オイルポンプの運転停止によりモータ内部に空気が混入することを適切に防止することができるモータのコイル冷却システムを提供することを目的とする。そして、延いてはエネルギーの効率の改善に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に係るモータのコイル冷却システム1は、ステータコアにコイル23が装着されたステータ22と、ステータ22の内周側に配置されたロータ31と、ステータ22及びロータ31を収容し、内部にコイル23を冷却油に油没させて冷却するための冷却油流路が形成されたハウジング21と、モータ2の軸方向両端部にそれぞれ設けられ、ハウジング21と係合することによりコイル23のコイルエンド23aを液密に覆い、一方の端部に冷却油をハウジング21内に導入するための導入口27が設けられ、他方の端部に冷却油をハウジング21外に導出するための導出口28が設けられたステータカバー26A、26Bと、を有するモータ2と、冷却油を圧送する電動オイルポンプ4と、モータ2の回転数NMを検出する回転数検出手段(モータ回転数センサ8)と、検出された回転数NMに応じて、電動オイルポンプ4の出力を制御するポンプ出力制御手段(ECU7、ポンプ出力制御部72)と、を備え、ポンプ出力制御手段は、モータ2の回転が停止しているときであっても、電動オイルポンプ4の出力を停止させることなく低出力での駆動を継続することを特徴とする。
【0010】
このモータのコイル冷却システムにおいては、モータのハウジングの内部に、コイルを油没させて冷却するための冷却油流路が形成される。また、モータの軸方向両端部に、ハウジングと係合してコイルエンドを液密に覆うステータカバーが設けられており、一方のステータカバーの端部に冷却油を導入するための導入口が設けられ、他方のステータカバーの端部に冷却油を導出するための導出口が設けられる。したがって、電動オイルポンプにより圧送された冷却油は、導入口を通ってハウジング内に導入され、油没したコイルの熱を奪って冷却した後、導出口を通ってハウジング外に導出される。
【0011】
そして、電動オイルポンプは、回転数検出手段により検出されたモータ回転数に応じて出力を変化させるように制御される一方で、モータの回転が停止した場合であっても、電動オイルポンプの出力は停止されることなく、低出力での駆動を継続するように制御される。したがって、モータが回転を停止したとき、電動オイルポンプの運転停止により冷却油に負圧が掛かって逆流が生じることを防止でき、ハウジング内の冷却油流路の油密状態を維持することができる。これにより、モータの負荷が小さい状況でも、オイルポンプの運転停止によりモータ内部に空気が混入することを適切に防止することができる
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のモータのコイル冷却システムにおいて、モータ2は、通常運転に用いられる通常モードと、通常モードよりも出力を向上させた高出力モードと、を切り替え可能に制御され、ポンプ出力制御手段は、モータ2が高出力モードで制御されている場合にモータ2の回転が停止したときの電動オイルポンプ4の出力が、モータ2が通常モードで制御されている場合にモータ2の回転が停止したときの電動オイルポンプ4の出力よりも高くなるように制御を行うことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、モータは、通常運転用の通常モードと、より出力を向上させた高出力モードを切り替え可能に制御される。そして、高出力モードにおいては、モータの回転が停止したときの電動オイルポンプの出力が、通常モードにおける場合と比較して高くなるように制御される。これにより、モータに掛かる負荷が比較的小さく、求められる冷却性能も比較的低いものとなる通常モードにおいては、電動オイルポンプを最小限の出力とすることで、冷却油流路への空気の混入を防止しつつ、電費の向上を図ることができる。一方、モータに掛かる負荷が比較的大きく、求められる冷却性能も比較的高いものとなる高出力モードにおいては、電動オイルポンプの出力を通常モードよりも高いものとすることにより、冷却油流路の油密状態をより確実に維持し、高い冷却性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るモータのコイル冷却システムの構成例を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係るモータの構成を概略的に示す斜視図である。
図3】モータの冷却油流路の構成を概略的に示す断面図である。
図4】コイルとステータコアの間に形成される冷却油流路を示す図である。
図5】一実施形態に係るモータのコイル冷却システムの制御系の構成を示すブロック図である。
図6】一実施形態に係るEOP出力制御処理を示すフローチャートである。
図7】一実施形態に係るEOP出力切替え時の動作例を示すタイミングチャートである。
図8】別の実施形態に係るモータのコイル冷却システムの制御系の構成を示すブロック図である。
図9】別の実施形態に係るEOP出力制御処理を示すフローチャートである。
図10】EOPの低出力モードと高出力モードを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明のモータのコイル冷却システムの好ましい実施形態を詳細に説明する。以下に説明する構成は本発明を例示したものであり、本発明はこれに限定されない。
【0016】
図1は、本実施形態に係るモータのコイル冷却システム1の構成例を示す。本実施形態のコイル冷却システム1は、電動車両又はハイブリッド車両の駆動源として用いられるモータ2のコイル23における過度な温度上昇を防止し、適切な温度に保つための冷却システムである。
【0017】
コイル冷却システム1は、モータ2、オイルタンク3、電動オイルポンプ(以下、EOPと表す。)4、冷却器5を備えており、これらを冷却油配管6が接続することで回路を形成している。
【0018】
モータ2は、不図示のバッテリから供給される電気エネルギーを機械エネルギーに変換して車両の車輪を回転駆動するための動力を提供する。後述するように、モータ2の内部には、冷却油流路が形成されており、冷却油流路を流れる冷却油により、コイル23の冷却が行われる。モータ2の動作は、後述するECU(Electronic Control Unit)7により制御される。モータ2には、レゾルバ等のモータ回転数センサ8が設けられており、検出したモータ回転数NMを逐次、ECU7に送信する。
【0019】
モータ2の冷却油流路の下流側には、冷却油配管6を介してオイルタンク3が接続されており、モータのコイルとの熱交換により昇温した冷却油は、オイルタンク3へと戻される。オイルタンク3は、冷却油の供給源であり、オイルタンク3を介して冷却油の補充、交換等が行われる。
【0020】
オイルタンク3の下流側には、EOP4が接続されている。EOP4は、不図示のEOP駆動用モータを駆動源として作動し、冷却油を圧送して冷却油配管6で接続された回路内を循環させる。EOP駆動用モータの回転数、すなわちEOP4の出力は、後述するECU7により制御される。
【0021】
EOP4の下流側には、冷却器5が接続されている。冷却器5は、モータ2との熱交換によって昇温した冷却油を冷却可能なものであればどのような構成のものを採用してもよいが、本実施形態では、インバータを含むPDU(Power Drive Unit)を冷却するための冷却回路を流れる冷却水との熱交換により冷却油を冷却することが可能な熱交換器を用いる。このPDU冷却用の冷却回路では、電動ウォータポンプEWPによって圧送された冷却水が、ラジエータを通過する際に熱を外部に放出することで冷却され、冷却された冷却水がPDUとの熱交換によりPDUを冷却するとともに、冷却器5を通過する際に冷却油との熱交換により冷却油を冷却する。冷却された冷却油は、再びモータ2に供給されてモータ2のコイル23を冷却する。
【0022】
次に、図2~4を参照して、本実施形態におけるモータ2における冷却油流路の構成を説明する。なお、図2では、本実施形態におけるモータ2の特徴的な構成を説明するために、ロータ31及びロータ軸32を図示省略し、後述するハウジング21、ステータ22、及びステータカバー26Aの一部を切り欠いて内部構造が見えるように描いている。
【0023】
モータ2は、主にハウジング21内に収容されたステータ22及びロータ31とからなる。ステータ22は、略円盤状の電磁鋼板の積層体であるステータコアにコイル23が巻回されたものであり、ハウジング21に固設されている。ステータコアは、内径側に所定の間隔で突出する複数のティース24を有しており、隣接するティース24間の隙間の空間が、ティース24に巻回されるコイル23の巻線が配設されるスロット25となる。
【0024】
ステータ22の軸方向両端部から突出するコイルエンド23aは、ハウジング21と係合するステータカバー26A、26Bにより液密に覆われている。一方のステータカバー26Aの端部には、冷却油配管6と接続され、EOP4により圧送された冷却油をハウジング21内に導入するための導入口27が設けられている。また、他方のステータカバー26Bの端部には、冷却油配管6と接続され、冷却油をハウジング21外に導出するための導出口28が設けられている。
【0025】
ロータ31は、ロータ軸32と一体に回転可能なロータコアと、ロータコア内に周方向に等間隔に配置された不図示の永久磁石とから構成され、ステータ22の内周側に、ステータ22との間にエアギャップを介して配置される。ロータ軸32は、ハウジング21に回転自在に支持されている。
【0026】
図3は、モータ2における冷却油流路の構成を概略的に示す模式図であり、冷却油流路を矢印で示している。同図に示すように、上流側から冷却油配管6を通って流れてきた冷却油は、ステータカバー26Aの導入口27を通ってステータカバー26A内に導入され、円周方向に拡がってステータカバー26A内を満たすことでコイルエンド23aを油没させる。冷却油は、コイル23とステータコアの間に形成された流路Cを通ってステータカバー26B側に流れ、円周方向に拡がってステータカバー26B内を満たすことでコイルエンド23aを油没させ、ステータカバー26Bの導出口28を通って下流側へと流れる。
【0027】
図4は、コイル23及びステータコアの一部を軸方向に直交する面に沿った断面で示した図であり、コイル23とステータコアの間に形成される流路Cを示している。同図に示すように、コイル23の巻線は、径方向にやや膨らみを有する矩形状の断面形状を有している。また、ステータコアのスロット25内には、コイル23の外周部を周回するように発泡絶縁紙41が配置されている。この発泡絶縁紙41は、コイル23とステータコアを電気的に絶縁するためのものであり、コイル23と接する側の面が絶縁層、ステータコアと接する側の面が発泡層となるように構成された多層構造の絶縁紙である。
【0028】
以上に説明したとおり、本実施形態のモータ2では、コイルエンド23aをハウジング21と係合するステータカバー26A、26Bにより液密に覆うとともに、コイル23とステータコアの間に流路Cを形成することにより、コイル23の全体が冷却油に油没する構成をしている。これにより、コイル23を効率的に冷却することができる。
【0029】
続いて、図5~7を参照して、本実施形態のコイル冷却システム1のEOP出力制御について説明する。図5は、コイル冷却システム1の制御系の構成を示す。ECU7は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されている。ECU7には、上述したモータ2の回転数NMを検出するモータ回転数センサ8の他、車両のアクセルペダルの操作量(アクセル開度AP)を検出するアクセル開度センサ9が接続されており、その検出信号が逐次、入力される。
【0030】
ECU7は、ROM又はRAMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、モータ制御部71、ポンプ出力制御部72の機能を実現する。
【0031】
モータ制御部71は、アクセル開度センサ9が検出したアクセル開度APに基づき算出したモータ2の目標トルクと、モータ回転数センサ8が検出したモータ回転数NM、及び不図示の各種センサが取得した車両状態量に基づき車両要求出力を算出し、それに基づきモータ2の回転数やトルクの制御を実行する。
【0032】
ポンプ出力制御部72は、モータ回転数センサ8が検出したモータ回転数NM、及び不図示のモータ温度センサが検出したモータ温度等に応じてEOP4の出力を制御することにより、モータ2のコイル23に対する冷却効果を調整し、モータ2が過度な高温状態となることを防止する。
【0033】
以上のように構成されるコイル冷却システム1の特徴となるEOP出力制御について、図6を参照して説明する。図6は、本実施形態に係るEOP出力制御処理を示すフローチャートである。本処理は、モータ2の通常運転状態において、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0034】
まず、ステップ601(「S601」と図示。以下同じ)において、モータ2が駆動中であるか否かを判定する。この判定では、モータ回転数センサ8が検出したモータ回転数NMを参照し、NM>0であればモータ2は駆動中であると判定し、NM≦0であればモータ2は駆動中ではないと判定する。
【0035】
ステップ601の判定結果がYESで、モータ2が駆動中であると判定した場合、ステップ602に進み、EOP4を通常駆動で制御し、本処理を終了する。EOP4の通常駆動では、上述のように、モータ回転数NM及びモータ温度等に応じてEOP4の出力を制御することにより、モータ2の負荷が比較的大きいときには、モータ2のコイル23に対してより高い冷却効果を生じさせ、負荷が比較的小さいときには、コイル23に対してより低い冷却効果を生じさせるように制御を行うことで、モータ2の過熱を防止し、コイル23を適切な温度範囲に維持する。
【0036】
一方、ステップ601の判定結果がNOの場合、すなわちモータ2が駆動中ではないと判定した場合、ステップ603に進み、EOP4を低出力駆動で制御し、本処理を終了する。EOP4の低出力駆動では、モータ2が駆動中ではない(停止している)状態にもかかわらず、EOP4の出力を停止させずに、低出力での駆動を維持するように制御を行う。これにより、モータ2の冷却油流路における冷却油の逆流が生じることを防止することができる。
【0037】
図7は、EOP4の出力切替え時の動作例を示すタイミングチャートである。同図の時刻0から時刻t1までの間は、モータ2が駆動中であるため、EOP4は通常駆動で制御される。時刻t1でモータの駆動が停止すると、EOP4の制御が低出力駆動へと切り替えられ、低出力での駆動が維持される。その後、時刻t2においてモータ2の駆動が再開されると、EOP4の制御が通常制御へと切り替えられ、モータ回転数NM及びモータ温度等に応じてEOP4の出力を逐次変化させる制御が行われる。
【0038】
このように、本実施形態のコイル冷却システム1では、モータ停止時等のモータ2の非駆動状態において、EOP4の出力を停止させずに低出力での駆動を継続するので、EOP4の運転停止による冷却油の逆流を防止することができ、冷却油流路への空気の混入を防止して油密状態を維持することができる。したがって、モータの停止に合わせてEOPが停止し、EOPの再稼働の際に高い圧力を掛けて空気を抜くような制御を行う冷却システムと比較して、電費の悪化を抑制することができる。
【0039】
また、コイル冷却システム1では、モータ2の停止時でも、EOP4が低出力で駆動し続けることにより、ある程度の冷却性能が維持されることとなる。これにより、例えば上り坂の途中にある車両がアクセルコントロールにより静止した状態を維持する場合などのように、モータ2の回転が外力によりロックされたストール状態となり、モータ2の複数相のコイル23のうちの1相のみに電流が集中する同相通電現象が生じた場合であっても、モータ2の過熱を防止することができる。そのため、モータストール時のブレーキ協調制御のような特別な制御を不要とすることができる。
【0040】
さらに、コイル冷却システム1では、モータ2の停止時にもEOP4が低出力での駆動を維持するため、頻繁にEOPの停止と再稼働を繰り返すような冷却システムと比較して、モータ2の冷却油流路に急激な油圧の変化が生じることを抑制することができる。これにより、モータ2の冷却油流路のためのシール構造を簡素化することができるとともに、より低温の環境下でのモータの運転が可能となる。
【0041】
次に、図8~10を参照して、本発明の第2実施形態に係るモータのコイル冷却システム100について説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上述の実施形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0042】
第2実施形態に係るコイル冷却システム100では、車両のドライバの選択により、モータ2の駆動を通常モードと高出力モードとの間で切り替えることが可能に構成されており、このモータ2の駆動モードに応じてEOP4の出力が切り替えられることを特徴としている。
【0043】
図8は、コイル冷却システム100の制御系の構成を示す。モード選択スイッチ10は、例えば運転席の近傍に設けられるレバーやボタン等の物理的なスイッチ、又はコントロールパネル等のディスプレイ上で電子的に選択可能な仮想スイッチである。モード選択スイッチ10は、モータ2の駆動モードとして、主に通常運転に適した出力特性でモータ2を駆動する通常モードと、主にスポーツ走行などに適した出力特性でモータ2を駆動する高出力モードと、を選択可能に構成されている。モータ2の高出力モードでは、例えばアクセル開度APに対するモータ2の出力やトルクが通常よりも大きくなるように設定することで、加速性能を向上させるように構成されている。
【0044】
ドライバがモード選択スイッチ10を操作すると、選択された駆動モードに応じたモード信号MSがECU7に送信される。モータ制御部71は、受信したモード信号MSに応じてモータ2の出力特性を切り替えるように制御を行う。
【0045】
ポンプ出力制御部72は、モータ2の駆動モードに応じて、モータ停止時のEOP4の出力を変化させる。図9は、コイル冷却システム100におけるEOP出力制御処理を示すフローチャートである。本処理は、モータ2の通常運転状態において、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0046】
ステップ901では、上述のステップ601と同様に、モータ2が駆動中であるか否かを判定する。すなわち、モータ回転数センサ8が検出したモータ回転数NMを参照し、NM>0であればモータ2は駆動中であると判定し、NM≦0であればモータ2は駆動中ではないと判定する。
【0047】
ステップ901の判定結果がYESで、モータ2が駆動中であると判定した場合、ステップ902に進み、EOP4を通常駆動で制御し、本処理を終了する。一方、ステップ901の判定結果がNOの場合、すなわちモータ2が駆動中ではないと判定した場合、ステップ903に進む。
【0048】
ステップ903では、現在のモータ2の駆動モードが高出力モードであるか否かを判定する。この判定は、例えばモード選択スイッチ10からのモード信号MSを参照することにより行われる。
【0049】
ステップ903の判定結果がNOの場合、すなわちモータ2が通常モードで駆動されている場合は、ステップ905に進み、EOP4を低出力モードで制御し、本処理を終了する。EOP4の低出力モードでは、上述の実施形態における低出力駆動と同様の制御が実行される。すなわち、モータ2が駆動していない低負荷の状態であるにもかかわらず、EOP4の出力を停止させずに低出力での駆動を継続する。これにより、モータ2の冷却油流路における冷却油の逆流が生じることを防止することができる。
【0050】
一方、ステップ903の判定結果がYESの場合、すなわちモータ2が高出力モードで駆動されている場合は、ステップ904に進み、EOP4を高出力モードで制御し、本処理を終了する。EOP4の高出力モードでは、ステップ905の低出力モードと同様に、モータ2が駆動していないにもかかわらずEOP4の駆動を継続するが、低出力モードよりも高い出力でEOP4の駆動を継続することを特徴としている。
【0051】
図10は、EOP4の低出力モードと高出力モードを比較した図である。同図に表されるように、モータ2の駆動が停止する時刻t3から時刻t4までの期間において、モータ2の通常モードに対応する低出力モードでは、モータに掛かる負荷が比較的小さく、求められる冷却性能も比較的低いと考えられるため、モータ2の冷却油流路に負圧が生じて冷却油が逆流することを防止するために必要となる最小限の出力、又はそれに近い出力でEOP4の駆動を維持することにより、冷却油流路の油密状態を維持と、電費の向上の両立が図られる。一方、モータ2の高出力モードに対応する高出力モードでは、モータ2に掛かる負荷が比較的大きく、求められる冷却性能もより高いものとなると考えられるため、低出力モードよりも高い出力でEOP4の駆動を維持することにより、冷却油流路の油密状態をより確実に維持し、高い冷却性能を確保するようにしている。
【0052】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、上述の実施形態では、冷却器において、PDU冷却用の冷却回路を流れる冷却水との熱交換により冷却油が冷却される構成としたが、冷却器として、冷却油の熱を外部に放出可能なラジエータを採用することも可能である。
【0053】
また、実施形態では、コイルの巻線とステータコアの間に形成される流路Cを通って冷却油が流れる構成としたが、必ずしも流路Cのような構成とする必要はなく、コイルを油没させて冷却できる構成であれば、冷却油流路をどのように構成してもよい。
【0054】
また、実施形態では、モータの駆動が一時的に停止した後、再度駆動開始する状況において、EOPの低出力での駆動を維持する構成について説明したが、このようなEOPの制御を、車両のメインスイッチがオフされてモータへの給電が停止される際のEOPの制御に適用することも可能である。すなわち、モータへの給電が停止されてモータの運転が停止した際、EOPを直ちに停止させるのではなく、低出力で一定時間駆動させた後、緩やかに回転数を落として運転を停止させるように制御することにより、EOP停止時に冷却油の逆流が生じることを防止することができる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…モータのコイル冷却システム
2…モータ
4…電動オイルポンプ(EOP)
7…ECU(ポンプ出力制御手段)
8…モータ回転数センサ(回転数検出手段)
21…ハウジング
22…ステータ
23…コイル
23a…コイルエンド
26A、26B…ステータカバー
27…導入口
28…導出口
31…ロータ
72…ポンプ出力制御部(ポンプ出力制御手段)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10