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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151536
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20241018BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20241018BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241018BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20241018BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20241018BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L23/12
C08L23/26
C08L23/16
C08L23/08
C08L53/02
C08L1/00
C08K7/02
C08J3/20 Z CES
B29B7/48
B29B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064962
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿谷 朋
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊之
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA06
4F070AA13
4F070AA16
4F070AA18
4F070AA66
4F070AB11
4F070AD02
4F070AE01
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC06
4F201AA01
4F201AA03
4F201AA09
4F201AA11
4F201AA45
4F201AB11
4F201AG14
4F201AR06
4F201BA01
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC02
4F201BC13
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
4F201BK74
4F201BL08
4F201BL25
4J002AB013
4J002BB031
4J002BB052
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB152
4J002BB214
4J002BC031
4J002BD041
4J002BE021
4J002BF021
4J002BN151
4J002BP012
4J002CB001
4J002CF191
4J002CL001
4J002FA043
4J002FD013
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】機械的物性に優れ、且つ耐低温脆化性を有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
下記成分(A)ないし(C)を含み、下記成分(A)に含まれるエラストマー成分と、下記成分(C)との合計の質量割合が0.1%以上30%以下であり、下記成分(B)の質量割合が1%以上80%以下であり、下記成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合が10%以上95%以下である、繊維強化樹脂用の樹脂組成物。
(A)エラストマーを含む熱可塑性樹脂
(B)リグノセルロース繊維
(C)酸変性エラストマー
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)ないし(C)を含み、
下記成分(A)に含まれるエラストマー成分と下記成分(C)との合計の質量割合が0.1%以上30%以下であり、
下記成分(B)の質量割合が1%以上80%以下であり、
下記成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合が10%以上95%以下である、繊維強化樹脂用の樹脂組成物。
(A)エラストマーを含む熱可塑性樹脂
(B)リグノセルロース繊維
(C)酸変性エラストマー
【請求項2】
前記成分(A)における前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、その変性樹脂及びその共重合樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)における前記エラストマーが、エチレンプロピレン共重合エラストマー、エチレンブテン共重合エラストマー、エチレンオクテン共重合エラストマー、エチレンプロピレンジエン共重合エラストマー及びスチレンブタジエンスチレンブロックエラストマーの水素添加物からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(C)が、エチレンプロピレン共重合エラストマー、エチレンブテン共重合エラストマー、エチレンオクテン共重合エラストマー、エチレンプロピレンジエン共重合エラストマー、スチレンブタジエンスチレンブロックエラストマーの水素添加物からなる群から選択される1種又は2種以上の酸変性化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
更に下記成分(D)を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
(D)酸変性ポリオレフィン樹脂
【請求項6】
脆化温度が-15℃以下であり、引張弾性率が1.5GPa以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
2本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機を用いて、請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物を製造する、樹脂組成物の製造方法であって、
前記多軸スクリュー押出機は、前記スクリューが配された混錬空間を内部に有するシリンダと、該シリンダの外周部に、該シリンダの軸方向に沿って複数配された加温部を含む加熱装置とを備えており、
前記成分(A)を、該成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融する工程と、前記加温部の設定温度を該熱可塑性樹脂の融点未満に維持しつつ、該熱可塑性樹脂が溶融した該成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)を混錬する工程とを有するか、又は
熱可塑性樹脂を、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融する工程と、前記加温部の設定温度を該熱可塑性樹脂の融点未満に維持しつつ、溶融した該熱可塑性樹脂、エラストマー、前記成分(B)及び前記成分(C)を混錬する工程とを有する、繊維強化樹脂用の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物からなるペレット。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物からなる繊維強化樹脂材料。
【請求項10】
請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材や非木材の植物に由来するリグノセルロース資源は、植物の生長過程において二酸化炭素を蓄積しており、その使用や廃棄に際しては余剰の二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラルな材料として認識されている。
木材や非木材の植物から得られるリグノセルロース資源は、リグノセルロース繊維で構成されている。リグノセルロース繊維は、リグノセルロース資源を機械的、熱機械的、化学的、化学機械的、又は化学熱機械的に処理することで、繊維を接着剤的に束ねている中間層を軟化、或いは、破壊させ、解きほぐしたり、微細化することで得られる。このようにして得られたリグノセルロース繊維は、主に紙原料としてのパルプやファイバーボード原料としての繊維として使用されている。これは、リグノセルロース繊維が、軽量で高強度、且つ、高弾性、再生可能で低コストであるためである。
【0003】
近年の地球温暖化に代表されるような環境問題を解決するために、樹脂の補強材として従来用いられてきたような、タルク、ガラス繊維、炭素繊維、合成樹脂繊維、鉱物繊維、金属繊維の代替として、リグノセルロース繊維の使用が期待されている。従来の非再生可能な材料をリグノセルロース繊維で代替することによって、材料の軽量化、LCA(Life Cycle Assessment)の改善やコストダウンといった利点が得られ、そのため輸送機器製造産業、特に自動車製造産業において、リグノセルロース繊維の利用は注目を集めている。
【0004】
樹脂材料の中でも、屋外で使用される樹脂材料は、寒冷期には0℃以下の環境に曝されるため、例えば、結晶性のポリプロピレンは低温で脆化してしまい、実用に適さない。これを改良するために、エラストマーを添加したり、樹脂の重合時に他の成分を共重合させたブロック共重合体構造(コポリマー構造)としたりしている。しかし、このようなエラストマー配合樹脂や共重合樹脂にすると、脆性は改良されるが、相反する性質である剛性が低下し、十分な機械的物性が得られなくなる。
【0005】
そのため、従来、エラストマーを含む樹脂やブロック共重合樹脂にタルクを添加し、剛性の補填を図ることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-124956号公報
【特許文献2】特開平7-18151号公報
【特許文献3】特開平11-60828号公報
【特許文献4】特開2001-172466号公報
【特許文献5】特開2002―97337号公報
【特許文献6】特開2020-158606号公報
【特許文献7】特開2016-166365号公報
【特許文献8】特開2022-156073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、樹脂の補強材として、従来用いられてきたタルク等に代えてリグノセルロース繊維を使用することが期待されているところ、本発明者らは、リグノセルロース繊維で樹脂を補強すると、タルクのような充填材で樹脂を補強したときに比べて、剛性を付与する効果には優れているものの、脆性、特に低温での脆性が発現してしまうことを知見した。つまり、本発明者らの研究により、樹脂の補強材としてリグノセルロース繊維を用いる場合、所望の脆化温度と剛性のバランスを満たすのが困難であるという問題が存在することが明らかとなった。
【0008】
上記の問題を解決しながら、リグノセルロース繊維を原料として使用し、且つ、汎用的に使用されている樹脂の加工装置を使うことを前提とした場合、リグノセルロース繊維を含みながらも、耐低温脆化性に優れ、同時に、一定以上の機械的物性も得られる樹脂組成物を開発するのが望ましい。樹脂材料の機械的物性を向上させる技術として、特許文献1~8の技術が知られている。
特許文献1には、ポリプロピレン樹脂とポリエステル長繊維からなる低温耐衝撃性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、同文献の低温耐衝撃性樹脂組成物はリグノセルロース繊維を含む樹脂組成物ではなく、また脆化温度についても触れられていない。
特許文献2には、ポリプロピレンブロック共重合樹脂、EBR(エチレンブテン共重合エラストマー)、タルクからなる低温耐衝撃性樹脂組成物が開示されているが、これはリグノセルロース繊維を含む樹脂組成物ではなく、脆化温度についても触れられていない。
特許文献3には、ポリプロピレン樹脂、ガラス長繊維、タルクからなる低温耐衝撃性樹脂組成物が開示されているが、これはリグノセルロース繊維を含む樹脂組成物ではなく、脆化温度についても触れられていない。
【0009】
特許文献4には、ポリプロピレンブロック共重合樹脂、EPR(エチレンプロピレン共重合エラストマー)、タルクからなる低温耐衝撃性樹脂組成物が開示されているが、これはリグノセルロース繊維を含む樹脂組成物ではなく、脆化温度についても触れられていない。
特許文献5には、ポリプロピレン樹脂、ポリプロピレンブロック共重合樹脂、タルクからなる、成型加工性に優れた低温耐衝撃性樹脂組成物が開示されているが、これはリグノセルロース繊維を含む樹脂組成物ではなく、脆化温度についても触れられていない。
特許文献6には、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、木粉、酸変性ポリエチレン樹脂の相溶化材からなる、機械的強度に優れた耐衝撃性樹脂組成物が開示されているが、これは低温衝撃性や脆化温度への影響については触れられておらず、変性エラストマーの使用に関する示唆もない。
【0010】
特許文献7には、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、EPR(エチレンプロピレン共重合エラストマー)変性相溶化材、からなる、機械的強度に優れた耐衝撃性樹脂組成物が開示されているが、これはポリアミドの、相対的にポリプロピレンより優れた機械的物性を活かしたポリマーアロイであり、解決手段も課題も異なる。また、低温での衝撃性や脆化温度への影響については触れられておらず、更には、リグノセルロース繊維を含む樹脂組成物でもなく、酸変性樹脂相溶化材の使用についても否定的である。
【0011】
特許文献8には、共重合ポリプロピレン樹脂にセルロースと酸変性エラストマー、高密度ポリエチレンを必須成分とする、強度と耐衝撃性に優れた樹脂組成物が開示されている。同文献の技術は、必須成分として高密度ポリエチレンを含む、セルロースに対して十分な量の酸変性エラストマーが必要となる、セルロースは高純度セルロースに限定されている、発明の目的が耐衝撃性を上げると、強度が下がってしまうのをバランスを取り直しているという点において、本願発明と異なる特徴を有する。
【0012】
本発明の目的は、機械的物性に優れ、且つ耐低温脆化性を有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
例えば、結晶性樹脂であり、脆化温度が相対的に高いポリプロピレンの脆化温度を0℃未満へ低下させるために、ポリプロピレン樹脂にエラストマーを配合したり、エラストマーを共重合したブロック共重合ポリプロピレン樹脂をマトリックス樹脂としたりすることで、脆化温度が高い課題は、一定の解決を見る。しかしながら、このようなエラストマーを含む樹脂の剛性は低下する。そこで、剛性を補填するためにリグノセルロース繊維を配合すると、脆化温度は所望の脆化温度以上に上がる傾向にあることに本発明者らは気が付いた。
【0014】
本発明者らは、本課題を解決するべく鋭意検討した結果、リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂の相溶化材として通常配合される酸変性ポリオレフィンを、変性エラストマーに変更するという簡便な手法で、脆化温度の上昇を合目的に抑制しながら、剛性を補填し、耐低温脆化性と機械物性に優れた樹脂組成物を達成できることを見出すに至った。
本発明は、上記知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0015】
本発明は、下記成分(A)ないし(C)を含み、下記成分(A)に含まれるエラストマー成分と下記成分(C)との合計の質量割合が0.1%以上30%以下であり、下記成分(B)の質量割合が1%以上80%以下であり、下記成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合が10%以上95%以下である、繊維強化樹脂用の樹脂組成物を提供するものである。
(A)エラストマーを含む熱可塑性樹脂
(B)リグノセルロース繊維
(C)酸変性エラストマー
【0016】
また本発明は、2本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機を用いて、請求項1~5の何れか一項に記載の樹脂組成物を製造する、樹脂組成物の製造方法であって、前記多軸スクリュー押出機は、前記スクリューが配された混錬空間を内部に有するシリンダと、該シリンダの外周部に、該シリンダの軸方向に沿って複数配された加温部を含む加熱装置とを備えており、エラストマーを含む熱可塑性樹脂を、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融する工程と、前記加温部の設定温度を前記熱可塑性樹脂の融点未満に維持しつつ、エラストマーを含む溶融した前記熱可塑性樹脂、リグノセルロース繊維、及び酸変性エラストマーを混錬する工程とを有するか、又は熱可塑性樹脂を、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融する工程と、前記加温部の設定温度を該熱可塑性樹脂の融点未満に維持しつつ、溶融した該熱可塑性樹脂、エラストマー、リグノセルロース繊維、及び酸変性エラストマーを混錬する工程とを有する、繊維強化樹脂用の樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機械的物性に優れ、且つ耐低温脆化性を有する樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の耐低温脆化性を有する樹脂組成物の製造に用いられる多軸スクリュー押出機の一例である2軸スクリュー押出機を示す模式図の一例である。
図2図2は、互いに平行に配された2本のスクリューを、シリンダを省略して上方から視た透視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明の繊維強化樹脂用の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、下記成分(A)ないし(C)を含むものである。
(A)エラストマーを含む熱可塑性樹脂
(B)リグノセルロース繊維
(C)酸変性エラストマー
【0020】
本発明の樹脂組成物は、前記成分(A)ないし(C)を含む組成とすることで、機械的物性と耐低温脆化性とを両立させることができるようになっている。以下、この点について詳述する。
【0021】
〔成分(A):エラストマーを含む熱可塑性樹脂〕
成分(A)である、エラストマーを含む熱可塑性樹脂としては、(i)エラストマーと熱可塑性樹脂との共重合体、(ii)エラストマーと熱可塑性樹脂との混合物、(iii)前記(i)と、エラストマー及び/又は熱可塑性樹脂との混合物等が挙げられるが、特に前記(i)又は前記(iii)であることが製造面やコスト面で好ましい。
(1)熱可塑性樹脂
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、融点が260℃以下であることが好ましい。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂は、一定の耐熱性を有する必要があり、融点が100℃以上であることが好ましい。ここでいう熱可塑性樹脂の融点は、前記(i)、(ii)又は前記(iii)における熱可塑性樹脂の融点を意味する。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリアミド類、ポリヒドロキシアルカン酸類、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、及びこれらの変性樹脂、並びに共重合樹脂、並びにポリマーアロイ等からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、汎用的に使われるポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリプロピレンが更に好ましい。
ポリプロピレン樹脂を代表例として説明すると、ポリプロピレン樹脂は、ホモポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよいし、ランダムコポリマーであってもよい。
【0022】
ホモポリマーを用いる場合は、後述するエラストマー、或いは、後述するブロック共重合体を混錬時に配合することができる。
ブロック共重合体(或いは、ブロックコポリマーとも呼ぶ)は、ポリプロピレン樹脂の重合時に各種コモノマー(主にエチレンプロピレン共重合エラストマー(EPR)等)を配合したもので、脆化温度の低下は顕著であるが、必要に応じて更に、後述するエラストマーやホモポリマーを混錬時に追加的に配合することができる。
ランダムコポリマーは、ポリプロピレン樹脂の重合時に各種コモノマー(主にエチレン等)等を配合したもので、脆化温度の低下は顕著ではなく、必要に応じて更に、後述するエラストマーやブロック共重合体を混錬時に追加的に配合することができる。
ゆえに、ホモポリマーであっても、コポリマーであっても、例えば、プロピレン単独重合部とプロピレンエチレン共重合部からなり、それらは必ずしも結合している必要はなく、混合状態、或いは、混合状態と結合状態の双方を含む状態となっているものでも良い。
近年では、従来のチグラー系触媒によるポリプロピレンだけでなく、メタロセン系触媒による柔軟性に優れた特徴的なポリプロピレンも上市されているが、本発明の目的に合致する場合、どちらの、或いは、どのようなポリプロピレンも好適に用いることができる。
【0023】
(2)エラストマー
本発明では、エラストマーは脆化温度の低下に有効に働く。
本発明に用いるエラストマーは、熱を加えると軟化して流動性を示し、冷却すればゴム状に戻る性質を持った材料のことであり、エチレン系エラストマーやスチレン系エラストマーが挙げられる。エチレン系エラストマーとしては、エチレンプロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレンブテン共重合エラストマー(EBR)、エチレンオクテン共重合エラストマー(EOR)、エチレンプロピレンジエン共重合エラストマー(EPDM)、スチレン系エラストマーとして、スチレンブタジエンスチレン共重合エラストマー(SBS)、スチレンイソプレンスチレン共重合体エラストマー(SIS)、スチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレンブタジエンスチレンブロックエラストマーの水素添加物(SEBS)等が挙げられる。これらエラストマーは、それぞれ特有の物理・化学的性状を示すために、目的の物性に応じて適宜配合できる。このようなエラストマーは、一種単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。
(3)前記(i)エラストマーと熱可塑性樹脂との共重合体
前記共重合体としては、ポリプロピレンのブロックコポリマー、典型的にはポリプロピレンとEPR等のエラストマーとの共重合体等を挙げることができる。本発明の樹脂組成物を製造する場合、成分(A)として、予めエラストマーと熱可塑性樹脂が共重合体となっているものを用いると簡便である。本発明の樹脂組成物を製造方法については後述する。
【0024】
〔成分(B):リグノセルロース繊維〕
本発明で用いるリグノセルロース繊維は、木材又は非木材の植物由来のリグノセルロース材料を、機械的、熱機械的、化学的、化学機械的、又は化学熱機械的に処理することで、繊維を接着剤的に束ねている中問層を軟化、或いは、破壊させ、解きほぐしたり、微細化したものである。なお、リグノセルロース繊維というのは総称であり、リグニンやヘミセルロース等を含まないように物理的、化学的、生物的な処理(例えば、木材のパルプ化における脱リグニン処理や、草本のRETTING処理等)を施した植物繊維質材でも、リグノセルロース繊維に含まれる。なぜなら、リグニンやヘミセルロースの存在が本発明の効果に及ぼす影響は限られており、セルロース繊維質体としての物理的、化学的性状が脆化温度に影響を及ぼすからである。
【0025】
リグノセルロース繊維としては、そのようなものを特に制限なく用いることができる。木材は、針葉樹でも広葉樹でも良い。非木材の植物由来のリグノセルロース繊維としては、ワラパルプ、バガスパルプ、ヨシパルプ、ケナフパルプ、リネンパルプ、ラミーパルプ、ヘンプパルプ、フラックスパルプ、竹パルプ等が挙げられる。さらに、繊維やパルプの意味には、木粉や微粉砕物や鋸屑、紙や古紙、不織布の裁断品や粉状のような一見して粉体のような繊維質材料も含むものとする。
本発明で用いるリグノセルロース繊維としては、例えば、リグノセルロース粉体、クラフトパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプ、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、砕木パルプ、溶解パルプ、機械パルプ、又は、ファイバーボード用繊維を好ましく用いることができる。
【0026】
ファイバーボード用繊維とは、広義にはサーモメカニカルパルプであり、狭義には、その中でも比較的粗大な繊維のことである。繊維の物理的な形態の一例として、サーモメカニカルパルプとしては、直径30μm、長さ2から3mm程度を挙げることができる。また、長さ及び幅方向をナノサイズまで細かくしたナノセルロースファイバー(ナノリグノセルロースファイバーとも呼ぶ)や長さ及び幅方向にナノサイズ或いはマイクロサイズの繊維が混交したマイクロセルロースファイバー(マイクロリグノセルロースファイバーとも呼ぶ)のようなもの、或いは、所謂木粉と呼ばれる木の微粉末であっても、その長さと幅の大きさの違いからアスペクト比を有しており、リグノセルロース繊維の一種として、例示することができる。こうしたリグノセルロース繊維は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
リグノセルロース材料をリグノセルロース繊維化する方法としては、公知の方法を特に制限なく用いることができ、例えば、パルプを製造する従来の方法やファイバーボード用繊維を製造する従来の方法、チップ等を粉状にするミル等を適宜用いることができる。
リグノセルロース材料をリグノセルロース繊維化する方法の一例としては、リグノセルロース材料をチップ状に破砕し、その後、プレヒーターやプレスチーマーで1~10Bar程度の圧力を掛けながら蒸煮することで、リグノセルロース材料の構成成分であるリグニンやヘミセルロースを軟化させた後、加圧型リファイナー内で圧力を掛けながらディスク式刃物を用いて、繊維或いは繊維束まで解繊して、所望の繊維を製造する方法を挙げることができる。
【0028】
本発明で用いるリグノセルロース繊維は、その幅が、好ましくは1μm以上100μm以下、更に好ましくは10μm以上50μm以下であり、その長さが、好ましくは0.1mm以上50mm以下、更に好ましくは1mm以上5mm以下である。このような繊維の長さや幅は、リファイナーのディスクの間隔等の運転条件を調整することで適宜所望の長さや幅に調整することができる。
リグノセルロース繊維は、繊維のアスペクト比を大きく保持したまま得ようとする場合、前記のような水熱的な工程を経て製造されることが効率が良く、得られた繊維の損傷も少ない。一方、木粉のようなアスペクト比の低下した粉体でも良い場合は、粉砕装置やミルを用いることができる。使用する電力や熱エネルギーの種類にも依り、材料のGHG評価が異なるため、目的に応じて選ぶことができる。
【0029】
ナノ或いはマイクロセルロースファイバーとしては、機械的に所望のサイズまで微細化する方法や、化学変性した後に水中或いは樹脂中で外力を加えて微細化する方法、これらを組み合わせた方法等の既知の何れの方法で微細化されたものも用いることができる。
また、多くの場合において、リグノセルロース繊維は、輸送や保存、貯蔵やハンドリングの向上の目的で乾燥される。リグノセルロース繊維の乾燥方法としては、公知の方法を特に制限なく用いることができるが、例えば、製紙・パルプ工業で行われているように、濡れた状態のリグノセルロース繊維をローラーやワイヤ上に吐出し、吸引や加圧により脱水した後に、熱乾燥させる方法や、ファイバーボード用の繊維の製造で行われているように、濡れた状態のリグノセルロース繊維を熱風を流している管の中を気流下で熱乾燥させる方法等を挙げることができる。このような、リグノセルロース繊維の乾燥は、例えば60℃以上200℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは80℃以上160℃以下であり、更に好ましくは100℃以上140℃以下である。
近年では、水熱条件を用いずに乾式条件で解繊・繊維を製造する方法も普及している。コストや品質面から水熱条件で製造した繊維でなくとも受け入れられる場合もあり、そのような場合は、乾式で製造した繊維でも良い。
【0030】
〔成分(C):酸変性エラストマー〕
本発明では、酸変性エラストマーは、リグノセルロース繊維を使用しても脆化温度ができるだけ上昇しないように抑制するとともに、相溶化材として機能するものとして用いられる。酸変性エラストマーは、極性の異なるリグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂との相溶性や親和性を向上させる目的で用いられるだけでなく、特に脆化温度の決定に影響を及ぼす。本明細書において「リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂との相溶」とは、極性の異なるリグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂とが両方の極性を持つ化合物である相溶加材により仲立ちされた分散状態を指す。酸変性エラストマーによりリグノセルロース繊維と相溶する熱可塑性樹脂としては、以下(a)~(d)が挙げられる。
(a)前記(i)の共重合体の一部である熱可塑性樹脂
(b)前記(ii)における熱可塑性樹脂
(c)前記(iii)における前記(i)の共重合体の一部である熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂
(d)本発明の樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを混合して繊維強化樹脂材料を得る場合の当該他の熱可塑性樹脂
繊維強化樹脂材料については後述する。
【0031】
通常、相溶性又は親和性を向上させる目的で用いられる相溶化材は、マトリックス樹脂と親和性の高い酸変性樹脂であり、例えば、ポリオレフィン樹脂には酸変性ポリオレフィン樹脂、特に無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が好んで用いられる。
しかしながら、本発明者らの検討の結果、エラストマーを含むことで脆化温度を下げたポリオレフィン樹脂に、リグノセルロース繊維と、相溶化材として無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂を添加した場合、リグノセルロース繊維を含まない場合に対して、剛性は向上するものの、脆化温度が所望以上に高くなり、物性と脆化温度のバランスが取り難いことが分かった。
【0032】
これはリグノセルロース繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂を併用したことによって、リグノセルロース繊維とマトリックス樹脂の界面が相対的に剛直になり、脆化温度試験時に試験体に加わる応力が樹脂に伝わり易くなる結果、樹脂へ集中的なクラックを発生させてしまうため、或いは、リグノセルロース繊維とマトリックス樹脂の界面に存在する酸変性ポリオレフィン樹脂相溶加材自体も低温で脆化する可能性があるため、と考えられる。そこで、繊維を伝播する衝撃応力が樹脂に効率良く伝播する現象を低減する目的、或いは、酸変性ポリオレフィン樹脂相溶加材の脆化の影響を抑制する目的で、酸変性ポリオレフィン樹脂の全部、或いは、一部を酸変性エラストマーに置き換えたところ、繊維からマトリックス樹脂に伝わる応力を効果的にキャンセルし、脆化温度を所望以上に上げてしまうことなく、同時に、剛性を所望の範囲に維持し、機械物性と脆化温度の相反する特性のバランスを好適に設計することが可能となると考えるに至った。
本発明によれば、エラストマーを含む熱可塑性樹脂(成分(A))及びリグノセルロース繊維(成分(B))に加えて、酸変性エラストマー(成分(C))を含むことにより、機械的物性と耐低温脆化性とを両立することができる。
【0033】
本発明に用いる酸変性エラストマーとしては、各種エラストマーの酸変性体、例えば、エチレンプロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレンブテン共重合エラストマー(EBR)、エチレンオクテン共重合エラストマー(EOR)、エチレンプロピレンジエン共重合エラストマー(EPDM)、スチレンブタジエンスチレンブロックエラストマーの水素添加物(SEBS)等の酸変性体を挙げることができる。これらは、一種単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いてもよい。酸変性エラストマーとしては、無水マレイン酸変性体を用いることが好ましい。酸変性に用いる酸は、無水マレイン酸以外であってもよく、極性基を付与できる酸化合物類を特に制限なく用いることができ、一例として、アクリル酸、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0034】
本発明の樹脂組成物では、成分(A)に含まれるエラストマー成分と、成分(C)との合計の質量割合を0.1%以上30%以下とし、成分(B)の質量割合を1%以上80%以下とし、成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合を10%以上95%以下とすることにより、機械的物性と耐低温脆化性とを両立することができるという効果が確実に奏され、所望に応じた幅広い材料の物性設計ができるようにすることができる。ここで、質量割合は、本発明の樹脂組成物の質量に対する質量割合を意味する。
【0035】
成分(A)に含まれるエラストマー成分と、成分(C)との合計の質量割合は、本発明の樹脂組成物の脆化温度を低下させる観点から、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上である。また、成分(A)に含まれるエラストマー成分と、成分(C)との合計の質量割合は、本発明の樹脂組成物の剛性が低下することを防ぐ観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは27.5%以下、更に好ましくは25%以下である。本発明において、成分(A)に含まれるエラストマー成分と、成分(C)との合計の質量割合は、換言すれば、酸変性エラストマーと、酸変性していないエラストマーとの合計の質量割合である。
【0036】
成分(A)に含まれるエラストマー成分と、成分(C)との合計の質量割合は、以下の方法により測定することができる。
<成分(A)に含まれるエラストマー成分と、成分(C)との合計の質量割合の測定方法>
上記測定方法としては、公知の方法をどれでも採用することができるが、例えば、CEF-TGIC法(成型加工、Vol.32、No.2、2020年、pp33-37、工業材料、Vol.65、No.5、2017年、pp31-36)等を一例として挙げることができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物において、成分(B)のリグノセルロース繊維は、熱可塑性樹脂に所望の剛性を付与する役割を果たす。したがって、本発明の樹脂組成物が所望の剛性を有するようするために、成分(B)の質量割合は、該樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の剛性に応じて、任意に決定することができる。このように、成分(B)の質量割合は任意のものとすることができるところ、成分(B)の質量割合の例を以下に示す。
成分(B)の質量割合は、本発明の樹脂組成物の剛性を向上させる観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上である。また成分(B)の質量割合は、本発明の樹脂組成物の脆化温度が上昇することを防ぐ観点から、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。
【0038】
成分(B)の質量割合は、以下の方法により測定することができる。
<成分(B)の質量割合の測定方法>
上記測定方法としては、公知の方法をどれでも採用することができるが、例えば、ジクロロメタンやキシレン等の熱溶媒で樹脂分を溶解させフィルタリングした残渣をリグノセルロース繊維成分とする方法、樹脂やエラストマーの比重が既知であることを利用して全体の比重から算出する方法、DSCのような熱分析的方法等を一例として挙げることができる。
【0039】
成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合は、配合時に共存する他のエラストマー成分の質量割合や種類にもよるが、所望の剛性を確保する観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。また成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合は、所望の脆化温度を確保する観点から、好ましくは95%以下、より好ましくは92.5%以下、更に好ましくは90%以下である。
【0040】
成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合は、以下の方法により測定することができる。
<成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の質量割合の測定方法>
上記測定方法としては、公知の方法をどれでも採用することができるが、例えば、ジクロロメタンやキシレン等の熱溶媒で樹脂分を溶解させフィルタリングした溶解物の質量を質量割合とする方法、さらに熱溶媒溶解法に加えてCEF-TGIC法を適用する方法、全体の比重から算出する方法、DSCのような熱分析的方法等から測定する方法等を一例として挙げることができる。
【0041】
成分(C)の質量割合は、成分Aに含まれているエラストマー成分の質量割合や種類によるが、本発明の樹脂組成物の脆化温度を低下させる観点から、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.5%以上である。また成分(C)の質量割合は、本発明の樹脂組成物の剛性が低下することを防ぐ観点から、20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0042】
成分(C)の質量割合は、以下の測定方法により測定することができる。
<成分(C)の質量割合の測定方法>
上記測定方法としては、公知の方法をどれでも採用することができるが、例えば、CEF-TGIC法等を一例として挙げることができる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、耐低温脆化性を有するところ、本発明の樹脂組成物の脆化温度は、好ましくは-15℃以下、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-25℃以下である。脆化温度の下限は特に制限されるものではないが、例えば-15℃とすることができる。脆化温度は、例えば、JIS K 7216「プラスチックのぜい化温度試験方法」に準じて測定することができる。
【0044】
また、本発明の樹脂組成物は、機械的物性に優れるところ、本発明の樹脂組成物の引張弾性率は、好ましくは1.5GPa以上、より好ましくは1.75GPa以上、更に好ましくは2.0GPa以上である。引張弾性率の下限は特に制限されるものではないが、例えば1.5GPaとすることができる。
<引張弾性率の測定方法>
上記測定方法としては、公知の方法をどれでも採用することができるが、例えば、JIS K7113「プラスチックの引張試験方法」やJIS K7161「プラスチック-引張特性の試験方法」等を使用することができる。
【0045】
また本発明の樹脂組成物は、成分(A)ないし(C)以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、ガラス繊維、タルク、炭酸カルシウム、バサルト繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。酸変性ポリオレフィン樹脂については、後述する。
本発明の樹脂組成物の比重は、成分(A)ないし(C)の配合割合や、他の成分の有無によって変化するものであり、特に制限されない。例えば、本発明の樹脂組成物の比重は、好ましくは0.7以上1.7以下、より好ましくは0.8以上1.6以下、更に好ましくは0.9以上1.5以下である。
【0046】
また本発明の樹脂組成物の嵩密度は、成分(A)ないし(C)の配合割合や、他の成分の有無によって変化するものであり、特に制限されない。例えば、本発明の樹脂組成物の嵩密度は、好ましくは100kg/m以上800kg/m以下、より好ましくは150kg/m以上700kg/m以下、更に好ましくは200kg/m以上600kg/m以下である。
【0047】
嵩密度は、以下の方法によって測定することができる。
<嵩密度の測定方法>
嵩密度の測定方法としては、公知の方法をどれでも採用することができるが、容積既知の容器に被測定物を投入し、上面をすりきった状態の質量と容器の容積から算出することができる。例えば、JIS K7365「プラスチック-規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」等を挙げることができる。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、水を含んでいてもよい。例えば、本発明の樹脂組成物の取引時の水分率は、好ましくは0%以上20%以下、より好ましくは0%以上15%以下、更に好ましくは0%以上10%以下である。ここで、取引時の水分率とは、製造工場の出荷前の検査時の状態を意味する。水分率は、以下の式(1)により算出することができる。
水分率(%)={(本発明の樹脂組成物に含まれる水の質量)/(本発明の樹脂組成物全体の質量)}×100・・・(1)
本発明の樹脂組成物に含まれる水の質量は、乾燥等による減量を水分量とする方法や市販の水分計(例えば、カールフィッシャー水分計等)等、公知の方法により測定することができる。
【0049】
〔成分(D):酸変性ポリオレフィン樹脂〕
本発明の樹脂組成物は、上述のように、成分(A)ないし(C)に加えて、更に、酸変性ポリオレフィン樹脂(成分(D))を含んでいてもよい。
酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸変性エラストマーと同様に、相溶化材として用いられるものである。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、好ましくは無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、更に好ましくは、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂や無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を挙げることができるが、酸基の量は特に制限されない。本発明では、これらの酸変性ポリオレフィン樹脂を、一種単独でも用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
上述のように、リグノセルロース繊維と熱可塑性樹脂との組成物に、相溶化材として、酸性ポリオレフィン樹脂のみを用いた場合、剛性は向上するものの、脆化温度が所望以上に高くなり、物性と脆化温度のバランスが取り難くなってしまう。
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、相溶化材として、酸変性エラストマーと酸変性ポリオレフィン樹脂とを併用することで、脆化温度が上昇することを抑制できることが分かった。つまり、本発明の樹脂組成物は、酸変性エラストマーに加えて、酸変性ポリオレフィン樹脂を含むことにより、該樹脂組成物の剛性を一層高くするとともに、脆化温度が過度に上昇すること抑制することができる。
【0051】
成分(D)の質量割合は、脆化温度が上昇することを抑制するという効果が確実に奏されるようにする観点から、好ましくは5%以下、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは1%以下である。また成分(D)の質量割合は、樹脂組成物の剛性を一層高くするという効果が確実に奏されるようにする観点から、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.2%以上である。
【0052】
〔樹脂組成物の製造方法〕
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物は、エラストマーを含む熱可塑性樹脂(成分(A))と、リグノセルロース繊維(成分(B))と、酸変性エラストマー(成分(C))とを混錬してなるものである。混錬は、例えば、多軸スクリュー押出機、高圧ニーダー機、バンバリーミキサー機、ヘンシェルミキサー機、ロールミル機等の混練装置により行うことができる。成分(A)ないし(C)は、混錬装置に投入する前に予め混合しておいてもよいし、混錬装置内で混合されることを目的として、成分(A)ないし(C)を、同じ投入口又は異なる投入口から投入してもよい。例えば、成分(A)を、混錬装置に先に投入し、成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂を溶融させた後に、混錬装置に成分(B)や成分(C)を逐次投入してもよいし、成分(A)ないし(C)を同時に混錬装置に投入し、成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂を溶融させながら、成分(A)ないし(C)を混錬してもよい。
【0053】
成分(A)が、エラストマーと熱可塑性樹脂との混合物である場合、本発明の樹脂組成物の製造方法では、混錬装置内で混合されることを目的として、エラストマー及び熱可塑性樹脂を、同じ投入口又は異なる投入口から投入してもよい。例えば、熱可塑性樹脂を、混錬装置に先に投入し、該熱可塑性樹脂を溶融させた後に、混錬装置にエラストマーや成分(B)、成分(C)を逐次投入してもよい。
【0054】
〔多軸スクリュー押出機〕
本発明の樹脂組成物を得るためには、2本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機を用いることが好ましい。本発明の樹脂組成物の製造に用いることができる多軸スクリュー押出機には、2本のスクリューを備えた2軸スクリュー押出機と、3本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機が含まれる。
【0055】
図1に、本発明の樹脂組成物の製造に用いることができる多軸スクリュー押出機の一例である2軸スクリュー押出機1を示す。2軸スクリュー押出機1は、混錬用のスクリュー3と、シリンダ2と、加熱装置8と、押出口71を有するノズル部7と、材料投入部6と、混錬時に発生するガス分を真空脱気する脱気部(図示せず)とを備えている。シリンダ2は、スクリュー3が配された混錬空間を内部に有する。2軸スクリュー押出機1は、図1及び図2に示すように、シリンダ2の混錬空間内に、2本のスクリュー3が、その回転軸であるスクリュー軸31を互いに平行にして回転自在に並設されている。スクリュー軸31のそれぞれには、図2に示すように、相互に噛み合うスクリュー羽根32が設けられている。加熱装置8は、シリンダ2の外周部に、該シリンダ2の軸方向に沿って複数配された加温部81を含む。加温部81は、材料投入部6からノズル部7まで、シリンダ2の軸方向に沿って複数設置されている。加温部81としては、例えば、電熱線を備えたヒーターや、高温の熱媒体が流通するヒーター等を用いることができる。
2軸スクリュー押出機1は、2本のスクリュー3の駆動源4として、例えば、電動モーターを備えており、2本のスクリュー3のスクリュー軸31に、駆動源4から動力が、歯車機構等の動力伝達系5を介して伝達されることで、2本のスクリュー軸31のそれぞれが回転する。
【0056】
2軸スクリュー押出機1は、加熱装置8によって加温可能な加温領域Rhを有する。加温領域Rhは、シリンダ2の軸方向に沿って延びている。図1に示す2軸スクリュー押出機1では、加温領域Rhには、加熱装置8の加温部81が配されている。加温領域Rhは、シリンダ2の軸方向に沿って複数の区画S1~S11に分けることができる。ここで、区画とは、独立して温度設定可能な領域を意味する。図1に示す2軸スクリュー押出機1は、11個の区画S1~S11に分けられており、加温領域Rhをシリンダ2の軸方向に沿って見たときに、各区画それぞれに1つの加温部81が配されている。1つの区画に配されている加温部81の数は1つに限られず、1つの区画に複数の加温部81が配されていてもよい。2軸スクリュー押出機1は、各区画ごとに加温部81が配されていることにより、材料の混錬・移送の各段階に応じた温度設定ができるようになっている。なお、区画の数は11個に限られず、1個であってもよいし、2個以上10個以下であってもよいし、12個以上であってもよい。
【0057】
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法の好ましい一実施態様について、上述した2軸スクリュー押出機1を用いて樹脂組成物を製造する方法を例に説明する。本実施態様の製造方法では、成分(A)として、エラストマーと熱可塑性樹脂との共重合体(以下、単に「共重合体」ともいう。)を用いる。共重合体の形態は、圧縮成型体状であっても構わないし、粉末や顆粒状であっても構わないし、繊維状であっても構わないが、ペレット状であることが好ましい。
本実施態様の製造方法では、共重合体、リグノセルロース繊維及び酸変性エラストマーを混錬することにより樹脂組成物を製造するので、製造に用いる共重合体、リグノセルロース繊維及び酸変性エラストマーの質量比が、そのまま、製造される樹脂組成物における共重合体、リグノセルロース繊維及び酸変性エラストマーの質量比となる。したがって、樹脂組成物の製造に用いる共重合体、リグノセルロース繊維及び酸変性エラストマーの質量割合を所定のものとすることにより、製造される樹脂組成物における、共重合体、リグノセルロース繊維及び酸変性エラストマーの質量割合を所定のものとすることができる。
【0058】
本実施態様の製造方法は、混錬工程を有する。混錬工程において、共重合体A、リグノセルロース繊維B及び酸変性エラストマーCは、スクリュー3の回転によって、ノズル部7が存在する下流側に向かって強制的に移送される。
本実施態様の混錬工程は、溶融工程と低温度混錬工程とを備える。
溶融工程は、少なくとも1つの区画において行われる。本実施態様では、溶融工程は、区画S1で行われる。溶融工程では、加温部81の設定温度を、成分(A)に含まれる熱可塑性樹脂の融点、即ち共重合体Aの融点以上に維持し、共重合体Aを溶融し、溶融した共重合体A、リグノセルロース繊維B及び酸変性エラストマーCの混合物を得る。高温度混錬工程を行う区画は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。溶融工程では、共重合体Aのみを単独で溶融した後、溶融した共重合体Aと、リグノセルロース繊維Bと、酸変性エラストマーCとを混合してもよい。また、リグノセルロース繊維Bを含む共重合体Aを溶融した後、溶融した共重合体Aと、リグノセルロース繊維Bと、酸変性エラストマーCとを混合してもよい。また、酸変性エラストマーCを含む共重合体Aを溶融した後、溶融した共重合体Aと、リグノセルロース繊維Bと、酸変性エラストマーCとを混合してもよい。リグノセルロース繊維B及び酸変性エラストマーCを含む共重合体Aを溶融した後、溶融した共重合体Aと、リグノセルロース繊維Bと、酸変性エラストマーCとを混合してもよい。
【0059】
低温度混錬工程は、溶融工程後に行う。溶融工程は、少なくとも1つの区画において行われる。本実施態様では、低温度混錬工程は、区画S2~区画S11で行われる。低温度混錬工程では、加温部81の設定温度を、共重合体Aの融点未満の温度に維持しつつ、溶融工程で得られた混合物を混錬する。また本実施態様では、低温度混錬工程後に、前記混合物が押出口71から吐出され、樹脂組成物Eが得られる。低温度混錬工程を行う区画は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0060】
本実施態様においては、混錬工程後に、前記混合物を押出口71から吐出した後、吐出された樹脂組成物Eを長さ方向に切断しペレット化するペレット化工程を備えることが好ましい。ペレット化工程を備えることにより、樹脂組成物Eを、効率的に使用することが可能となる。ペレット化工程において、樹脂組成物Eを切断する方法としては、該樹脂組成物Eを水槽で冷却せずに切断するホットカットや、該樹脂組成物Eを空冷却や水冷却した後、切断する方式、該樹脂組成物Eを水中に吐出した後、水中で該樹脂組成物Eを切断する方式等、既知の方法を用いることができる。吐出された樹脂組成物Eは、所望の長さに切断することができる。
【0061】
本実施態様の製造方法は、低温度混錬工程を有することにより、リグノセルロース繊維Bが受ける熱履歴を減らすことができる。リグノセルロース繊維Bが受ける熱履歴を減らすことにより、リグノセルロース繊維B自体の熱酸化・熱変性による脆化を抑制することができる。また、混錬装置1から吐出される樹脂組成物Eストランドを低温化することができるので、エラストマーを含む熱可塑性樹脂は軟質で切れ易くなるという現象を抑制できるとともに、熱可塑性樹脂の熱分解による低分子化とそれに伴う機械的物性の低下を抑制することが可能となる。
このように、本実施態様の製造方法によれば、機械的物性に優れ、且つ耐低温脆化性を有する樹脂組成物を効率的に製造することができる。
【0062】
本実施態様の製造方法では、溶融工程より後の工程を行う区画の数に対する低温度混錬工程を行う区画の数の割合(以下、区画率ともいう)が、好ましくは15%以上100%以下である、より好ましくは20%以上100%以下、更に好ましくは25%以上100%以下である。区画率を、上述の範囲内とすることによって、本発明の樹脂組成物を、効率的且つ容易に得ることができるという効果が一層顕著に奏されるようにすることができる。区画率は、以下の式(2)により算出することができる。
区画率(%)={(低温度混錬工程を行う区画の数)÷(溶融工程より後の工程を行う区画の数)}×100・・・(2)
【0063】
また、本実施態様の製造方法では、溶融工程より後の工程を行う区画の通過に要する時間に対する、低温度混錬工程を行う区画の通過に要する時間の割合 は、好ましくは10%以上100%以下、より好ましくは15%以上100%以下、更に好ましくは20%以上100%以下である。前記時間の割合を、上述の範囲内とすることによって、本発明の樹脂組成物を、効率的且つ容易に得ることができるという効果が一層顕著に奏されるようにすることができる。前記時間の割合は、以下の式(3)により算出することができる。
前記時間の割合(%)={(低温度混錬工程を行う区画の通過に要する時間)÷(溶融工程より後の工程を行う区画の通過に要する時間)}×100・・・(3)
【0064】
リグノセルロース材料は、高温に曝されると、官能基の酸化や変性等により、分子間相互の柔軟な親和性を失い、脆性が増すことが知られている。そこで、前記区画率や、前記時間の割合を上述の範囲内とすることにより、リグノセルロース繊維の酸化や変性による繊維の脆化を抑制することができ、その結果、所望しない脆化温度の上昇を一層効果的に抑制することができる。また、エラストマーを含む熱可塑性樹脂は熱により切れ易いため、混錬装置1からの吐出時に樹脂組成物Eが切れ易くなるが、前記区画率や、前記時間の割合を上述の範囲内とすることにより、樹脂温度の上昇を抑制することができるので、混錬作業性を高く保つことができる。
【0065】
本実施態様の製造方法では、成分(A)として、エラストマーと熱可塑性樹脂との共重合体を用いたが、成分(A)として、エラストマーと熱可塑性樹脂との混合物を用いてもよい。また溶融工程で、エラストマーと熱可塑性樹脂との混合物の状態で該熱可塑性樹脂を溶融した後、溶融した樹脂組成物と、エラストマーと、リグノセルロース繊維Bと、酸変性エラストマーCとを混合してもよい。また溶融工程で、熱可塑性樹脂のみを単独で溶融した後、溶融した熱可塑性樹脂と、エラストマーと、リグノセルロース繊維Bと、酸変性エラストマーCとを混合してもよい。
【0066】
成分(A)として、エラストマーと熱可塑性樹脂との混合物を用いる場合、熱可塑性樹脂の形態は、圧縮成型体状であってもよいし、粉末状や顆粒状であってもよいし、繊維状であってもよいが、ペレット状であることが好ましい。またエラストマーの形態は、粉体状やペレット状であってもよい。
また、成分(A)ないし(C)以外の他の成分を含む樹脂組成物を製造する場合、他の成分は、本実施態様の製造方法の混錬工程における任意のタイミングで加えることができる。例えば、溶融工程や低温度混錬工程において他の成分を加えてもよいし、成分(A)ないし(C)と、他の成分とを、混錬装置1に投入する前に予め混合しておいてもよい。
【0067】
〔繊維強化樹脂材料〕
本発明の樹脂組成物は、再生可能で軽量、高弾性、且つ、LCA評価に優れているリグノセルロース繊維を含むことによって、繊維強化樹脂材料として用いたときに、優れた軽量化効果、補強効果、LCA改善効果を発現して、高性能な繊維強化樹脂材料を得ることができる。そのため、本発明の樹脂組成物は、輸送用産業機器部門、特に、自動車産業部門において、好適に用いることができる。
また本発明の樹脂組成物は、繊維強化樹脂材料として、自動車、トラック、航空機、船舶、ドローン等の輸送・移動用産業機器部門以外の、例えば、産業用及び家庭用電機等製品、建築・土木等製品、店舗・オフィス家具・什器等製品、文房具や生活雑貨等製品などの様々な用途に用いることができる。
【0068】
最終製品を構成する繊維強化樹脂材料の全てを、本発明の樹脂組成物としてもよいし、最終製品を構成する繊維強化樹脂材料の一部を、本発明の樹脂組成物としてもよい。例えば、最終製品において、機械的物性と耐低温脆化性とを両立させるべき部分のみを、本発明の樹脂組成物により形成してもよい。また、最終製品が複数の部材からなる場合、複数の部材のうち、1つ以上の部材を本発明の樹脂組成物からなるものとしてもよい。
【0069】
本発明の樹脂組成物を含む繊維強化樹脂材料には、本発明の効果を損なわない範囲で防腐剤、防虫剤、防カビ剤、撥水剤、紫外線吸収剤、難燃剤、充填材、カップリング剤(有機シラネート系カップリング剤、有機チタネート系カップリング剤)、ゴム、エラストマー、消泡剤、発泡剤、滑剤、顔料、色素、ワックス、離型剤、流動性改良剤、ストランド強化剤、酸化防止剤、吸着剤、脱臭剤、消臭剤、VOC低減剤等の種々の添加剤を加えることができる。これらは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0070】
繊維強化樹脂材料の意には、最終的な製品だけでなく、製品を製造する原料となるもの、例えば、リグノセルロース繊維と樹脂の組成物、リグノセルロース繊維と樹脂とエラストマーと相溶化材の組成物を製造する過程の中間体やこれらの混合物等を含むことは言うまでもない。
本発明の樹脂組成物は、組成物で販売しても良いし、希釈を目的としたマスタバッチのような中間体、最終的な成型品、及び、成型品を含む集合体や組合せ体として販売しても良い。これは例えば、ブロック共重合体ポリプロピレンとホモポリプロピレンを混合して目的の物性を設計するような場合も含む。
繊維強化樹脂材料における、本発明の樹脂組成物の質量割合は、好ましくは5%以上、より好ましくは7.5%以上、更に好ましくは10%以上である。繊維強化樹脂材料における、本発明の樹脂組成物の質量割合を上述の範囲内とすることにより、繊維強化樹脂材料において、機械的特性と耐低温脆化性とを両立させるという効果が一層確実に奏されるようにすることができる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施形態を示して説明したが、各発明は、上記の実施形態に制限されず適宜に変更可能である。
【実施例0072】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。
〔エラストマーを含む樹脂とリグノセルロース繊維と酸変性エラストマーとを含む組成物の製造〕
ラジアータパインを主原料とした木材繊維(サーモメカニカルパルプ、或いは、MDF用繊維と呼ばれる)と、エラストマーと、熱可塑性樹脂と、酸変性エラストマー等を適宜配合し、上述した本実施態様の製造方法により、実施例1~11及び比較例1の樹脂組成物からなるペレットを製造した。各ペレットの製造に用いた材料の組成は、表1に示す通りである。実施例1~10及び比較例1においては、ポリプロピレンとEPRとの共重合体、リグノセルロース繊維、酸変性エラストマー、酸変性ポリオレフィン樹脂、及びその他の成分を、実施例11においては、ポリプロピレン(ホモ)とEPDM、リグノセルロース繊維、酸変性エラストマー、酸変性ポリオレフィン樹脂、及びその他の成分を、混錬した。実施例1~3、5及び7については、前記共重合体に加えて、EPDM又はSEBSも配合した。
【0073】
【表1】
【0074】
ペレット化工程において、樹脂組成物を切断する方法としては、樹脂組成物を水冷却した後、切断する方式を用いた。実施例1~11及び比較例1の組成物を製造する際の、各区画の設定温度は、表2に示すとおりである。表2において、区画S11はノズル部である。また、区画S1以前の、温度を設定していない区画の設定温度は、表2から省略している。実施例1~11及び比較例1の樹脂組成物を製造する際のスクリュー回転数は250rpmに設定した。
【0075】
【表2】
【0076】
〔試験体〕
実施例1~11及び比較例1のペレットを、ペレットを射出成型機にて、厚み2mm×縦100mm×横100mmの平板状、或いは、下記規格に対応したダンベル状に成形し、試験体を製造した。製造した試験体に対し、そのまま、或いは、それぞれの試験に用いるサイズに切断し、以下の機械物性試験及び脆化温度試験を行った。
【0077】
〔機械物性試験〕
引張試験はJIS K7161、曲げ試験はJIS K7171に準じて実施した。
〔脆化温度試験〕
脆化温度試験はJIS K7216に準じて実施した。
【0078】
〔結果〕
機械物性試験及び脆化温度試験の結果は、表3に示すとおりである。
実施例1~11において、引張弾性率が1.5GPa(1500MPa)以上、脆化温度が-15℃以下となっており、実施例1~11では、機械物性と脆化温度のバランスに優れた樹脂組成物が、木材繊維を用いて実現されている。
また、実施例7では、酸変性エラストマーに加えて、酸変性ポリプロピレン樹脂を配合しているが、実施例7においても、脆化温度を所望の温度(例えば-15℃)以下に保ちながら、曲げ強度を向上させることに成功している。
また、実施例11では、ホモポリプロピレンにエラストマーを混錬時に添加しているが、実施例1~10のブロック共重合体ポリプロピレンと同様に、機械物性と脆化温度のバランスに優れた樹脂組成物が、木材繊維を用いて実現されている。
さらに、比較例1では、酸変性ポリプロピレン樹脂を用いているものの、酸変性エラストマーを配合していないため、機械的物性には優れているものの、脆化温度は所望の温度(例えば-15℃)以上に高くなっている。
したがって、本発明の樹脂組成物は、機械的物性と脆化温度のバランスに優れることが分かる。
【0079】
【表3】
【符号の説明】
【0080】
1 2軸スクリュー押出機
2 シリンダ
3 スクリュー
31 スクリュー軸
32 スクリュー羽根
4 駆動源
5 動力伝達系
6 材料投入部
7 ノズル部
71 押出口
8 加熱装置
81 加温部
A エラストマーと熱可塑性樹脂との共重合体
B リグノセルロース繊維
C 酸変性エラストマー
E 樹脂組成物
図1
図2