(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151541
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】固形描画材
(51)【国際特許分類】
C09D 13/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C09D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064974
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】宮原 知華
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB03
4J039AB12
4J039AD03
4J039AD15
4J039AD17
4J039BB01
4J039BE01
4J039DA05
4J039EA43
4J039EA47
4J039GA29
4J039GA32
(57)【要約】
【課題】油分を含有する固形描画材において、油にじみが抑制され、かつ、描画感が良好な固形描画材を提供すること。
【解決手段】顔料と、ワックスと、オイルと、ジブロック共重合体と、を含有する固形描画材であって、前記顔料は前記固形描画材に対して20質量%以上60質量%以下含有され、前記オイルは前記固形描画材に対して1質量%以上40質量%以下含有され、前記ジブロック共重合体は前記固形描画材に対して0.5質量%以上10質量%以下含有される、固形描画材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、
ワックスと、
オイルと、
ジブロック共重合体と、を含有する固形描画材であって、
前記顔料は、前記固形描画材に対して20質量%以上60質量%以下含有され、
前記オイルは、前記固形描画材に対して1質量%以上40質量%以下含有され、
前記ジブロック共重合体は、前記固形描画材に対して0.5質量%以上10質量%以下含有される、
固形描画材。
【請求項2】
前記ジブロック共重合体が、
スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、および、スチレン-ブタジエン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
前記ワックスが、少なくとも1種のケトンワックスである第1のワックス成分と、ケトンワックスではない第2のワックス成分と、を含む、
請求項1または請求項2に記載の固形描画材。
【請求項4】
オイルパステルまたはクレヨンである、請求項1または請求項2に記載の固形描画材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
油分を含有する固形描画材が知られている。例えば特許文献1には、着色顔料と、体質顔料と、油性物質とを含んでなる固形描画材であって、耐油紙が巻紙として巻かれたものが開示されている。特許文献2には、固形マーカーに用いられる固体マーキング組成物であって、着色顔料と、ブロック共重合体と、ワックスと、油分とを含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-184646号公報
【特許文献2】特表平7-507349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油分を含有する固形描画材において、油にじみが少なく、かつ、描画感が良好な固形描画材を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に従う固形描画材は、顔料と、ワックスと、オイルと、ジブロック共重合体と、を含有する。
前記顔料は前記固形描画材に対して20質量%以上60質量%以下含有され、
前記オイルは前記固形描画材に対して1質量%以上40質量%以下含有され、
前記ジブロック共重合体は、前記固形描画材に対して0.5質量%以上10質量%以下含有される。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成を有する固形描画材は、油にじみが少なく、かつ描画感が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、固形描画材の油にじみ性の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示に従う固形描画材は
顔料と、
ワックスと、
オイルと、
ジブロック共重合体と、を含有する固形描画材であって、
前記顔料は、前記固形描画材に対して20質量%以上60質量%以下含有され、
前記オイルは、前記固形描画材に対して1質量%以上40質量%以下含有され、
前記ジブロック共重合体は、前記固形描画材に対して0.5質量%以上10質量%以下含有される、
固形描画材である。
【0009】
例えばオイルパステル等、油分を含有する固形描画材が公知である。このような固形描画材を高温下で保管すると、固形描画材の表面に油分が滲出すること(以下、「油にじみ」ということがある)がある。この課題に対して、例えば特許文献1では、巻紙として特定の材質のものを採用することによって、巻紙表面への油分の滲出を抑制することが提案されている。すなわち特許文献1の発明は、固形描画材からの油分の滲み出し自体を抑制するものではなく、滲み出した油分への対処を提案している。これに対して、本開示にかかる固形描画材においては、固形描画材からの油分の滲み出しの発生を抑制するための構成が検討された。
【0010】
高温下で保存した固形描画材において生じる油分の滲出は、固形描画材に含まれるオイルが熱によって膨張し、表面に出てくる現象であると考えられている。そこで、オイルが膨張した場合でも表面への滲出を抑制できる構成が検討された。まず、オイルを保持するために固形描画材における粉体成分を増量することが検討された。しかしながら、固形描画材中の粉体成分が増加すると、固形描画材が脆くなり描画性が損なわれる傾向があることが見出された。さらに検討が重ねられ、少量の有機ポリマー成分を添加すること、特に、ブロック共重合体の中でもジブロック共重合体を添加した場合に、油分の滲み出しが抑制されるとともに、描画感も良好な固形描画材が得られることが見出された。特定の理論に拘束されるものではないが、ブロック共重合体のうちでもジブロック共重合体は、ジブロック共重合体が有する2種類のドメインの動きの自由度が高く、オイルを包み込んで滲出を抑制する効果と描画時の紙面への定着性とが両立されるものと考えられている。
【0011】
本開示に従う固形描画材は、前記ジブロック共重合体が、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、および、スチレン-ブタジエン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものであってよい。ジブロック共重合体が前述の構造を有するとき、本開示にかかる効果が確実に得られる。
【0012】
本開示にかかる固形描画材は、前記ワックスが、少なくとも1種のケトンワックスである第1のワックス成分と、ケトンワックスではない第2のワックス成分と、を含ものであってよい。ワックス成分として、ケトンワックスと、その他のワックスとが併用されている場合、固形描画材としての崩れやすさと強度とが両立され、使用感に特に優れた固形描画材が得られる。
【0013】
本開示にかかる固形描画材は、オイルパステルまたはクレヨンであってよい。オイルパステルやクレヨンは、固形描画材の中でも油分を多く含み、かつ、直接手で持って描画しうる強度が必要である。本開示にかかる固形描画材は、オイルパステルまたはクレヨンとして適切な強度を備えつつ、油にじみが抑制され、描画感が良好である。
【0014】
以下に、本開示に係る固形描画材の実施の形態をより詳しく説明する。
【0015】
(固形描画材)
本開示にかかる固形描画材の外形は特に限定されない。固形描画材の形状は、円柱状であってもよく、四角柱状、六角柱状といった多角柱状であってもよいし、断面が楕円の楕円柱状であってもよい。柱状の一方側の端部がテーパー状に削られており、先端部が尖った形状とされていてもよい。また、本開示にかかる固形描画材の形状は柱状(棒状)に限られず、直方体等のブロック状や塊状であってもよい。固形描画材の寸法、長さや径、全体的な大きさは、用途や求められる使い勝手等に応じて任意に定められる。一例として、固形描画材は、長さが60~100mm程度、直径が7~12mm程度の円柱状であってよい。また、一辺の長さが10~30mm程度のブロック状であってよい。
【0016】
本開示にかかる固形描画材は、ユーザーに提供される際、固形描画材の胴部に紙やフィルムからなる保護シートが巻き付けられていてもよいし、保護シートを備えず、固形描画材の本体を直接手に持って使用する形態であってもよい。
【0017】
本開示にかかる固形描画材は、従来のオイルパステルやクレヨンと同様に手に持って使用することが可能で、線描や面描のために使用できる。また、本開示にかかる固形描画材は、パレットナイフで切り取り、練ることが可能なものであってもよい。
【0018】
(固形描画材の組成)
以下に示す実施形態の固形描画材は、オイルパステル、クレヨンを含む油性の固形描画材である。本開示にかかる固形描画材は、顔料としての着色顔料および体質顔料と、ワックスと、オイルとを含有し、さらにジブロック共重合体を含有する。本開示にかかる固形描画材を構成する成分について以下に説明する。
【0019】
(着色顔料)
着色顔料は、固形描画材に所望の色(無彩色あるいは有彩色)を付与し、描画面で発色させるものであって、従来、クレヨンやオイルパステルにおいて着色剤として用いられているものを用いることができる。着色顔料としては、有機顔料、無機顔料、レーキ顔料、複合顔料、蛍光顔料、パール顔料、光輝性顔料等が挙げられ、これらのいずれか、または2種以上を用いることができる。着色顔料としては、酸化チタンや硫化亜鉛等の白色顔料、フタロシアニン、キナクリドン等の有色顔料、カーボンブラック等が挙げられるが、当然ながらこれらに限定されない。着色顔料は、1種類を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることも好ましい。
【0020】
着色顔料の例として、具体的には例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、鉄黒、アニリンブラック、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、タートラジンレーキ、パーマネントイエロートナー、カドミウムイエロー、ベンジジンオレンジ、クロムバーミリオン、カドミウムオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ファーストオレンジレーキ、レーキレッドC、弁柄、ワッチングレッド、ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、パーマネントレッド2B、パーマネントレッドFRLL、カーマインレーキ、キナクリドンレッド、メチルバイオレットレーキ、ファーストバイオレットB、キナクリドンバイオレット、インダスレンバイオレット、ウルトラマリンブルー、フタロシアニンブルー、ファーストスカイブルー、紺青、群青、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニングリーン、マーカライトグリーンレーキ、ピグメントグリーンB、ビリジアン、シェンナー、アンバー、アルミニウム粉末、ブロンズ粉末等の有機顔料、無機顔料および金属粉顔料が挙げられる。
【0021】
着色顔料の配合量は、所望の色彩に応じて適切な量を選択すればよい。例えば、着色顔料は、固形描画材に対して0.5~30質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは1~20質量%の範囲で含有される。着色顔料が30質量%以下であれば、固形描画材の成形性の低下が少ない。また、実用的なコストで固形描画材を製造できる。着色顔料が0.5質量%以上であれば、材料にもよるが、所望する発色を得ることができる。
【0022】
(体質顔料)
体質顔料は、固形描画材を崩れやすくして取り扱い性を向上させ、描画面に対する滑り性を向上させる。また、描画面への固形描画材の接着量を多くして、描線の着色性を高める効果を有する。体質顔料の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、タルク、クレー、カオリン、ベントナイト等の粘土鉱物、リトポン(硫化亜鉛、硫酸バリウムの混合物)等の組成物の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が好ましく用いられる。体質顔料は粉体である。体質顔料の粒径は、例えば炭酸カルシウムの場合、0.14~15.0μm程度であり、炭酸マグネシウムの場合、1.0~14μm程度である。
【0023】
体質顔料は、固形描画材において、固形描画材に対して1~60質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは5~55質量%の範囲で含有される。体質顔料が60質量%以下であれば、着色性の低下が少ない。また、固形描画材の成形性の低下、強度の低下が少ない。体質顔料が1質量%以上であれば、描画面に対する固形描画材の滑りが良好になり、描画性が向上する。また、描画面への着色性を高める効果が得られる。
【0024】
本開示にかかる固形描画材において、着色顔料と体質顔料の含有割合の合計(顔料の含有割合)は、固形描画材に対して20質量%以上60質量%以下であることが好ましい。固形描画材において、顔料の含有割合が20質量%以上であれば、発色が良くなり、着色性が向上する。固形描画材において、顔料の含有割合が60質量%以下であれば、製造の際に粘度が過大となり成型性が低下することを抑えられる。
【0025】
(ワックス)
ワックスは、常温で固体ないし半固体であり、加熱すると溶融する、主に炭化水素化合物からなる成分である。ワックスは、固形描画材を構成する種々の成分を一体にまとめるとともに、固形描画材に描画面への定着性を与えるために用いられる。本開示にかかる固形描画材に使用されるワックスの融点は特に制限されないが、例えば50℃以上であり、好ましくは55℃以上である。
【0026】
ワックスとしては、例えば、蜜ロウ、鯨ロウ、牛脂、牛脂硬化油、ラード等の動物由来のワックス、カルナバロウ、木ロウ、ヒマシ硬化油、パーム硬化油等の植物由来のワックス、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、α-オレフィンオリゴマー、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪族ケトンを含むケトンワックス等の石油由来ワックス等を用いることができる。ワックスとしては、1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちで、パラフィンワックス、ケトンワックス、牛脂硬化油、パーム硬化油、マイクロクリスタリンワックス等が好ましく用いられる。融点の異なる複数種類のワックスを組み合わせて用いることも好ましい。例えば、ケトンワックスと、ケトンワックス以外のワックスを併用することが好ましい。
【0027】
ワックスは、固形描画材に対して10~60質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは20~60質量%の範囲で含有される。ワックスが60質量%以下であれば、色が薄くならず、発色性を維持できる。ワックスが10質量%以上であれば、固形描画材の強度や成形性が維持され、描画面に対する定着性が得られる。ケトンワックスとケトンワックス以外のワックスを併用する場合、例えば、固形描画材に対してケトンワックスを7~20質量%含み、ワックス全量に対するケトンワックスの含有割合を30~40%であることも好ましい。
【0028】
(オイル)
オイルは、常温で液体である、主に炭化水素化合物からなる成分である。オイルは、ワックス成分と協同して固形描画材に滑らかな描画性を与える成分である。オイルは、透明であって、ワックスに溶解するものが好ましく用いられる。オイルの具体例としては、例えば、ヤシ油、ヒマシ油等の動植物性のオイル、流動パラフィン、シリコーンオイル、長鎖脂肪酸等の石油由来のオイルを用いることができる。オイルとしては、1種、または2種以上のオイルを組み合わせて用いることができる。これらのうちで、流動パラフィンを用いることが好ましい。
【0029】
オイルは、固形描画材において、固形描画材に対して1~40質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは5~35質量%の範囲で含有される。オイルが40質量%以下であれば、固形描画材の強度が保持され、耐熱性、成形性の低下が少ない。また、油にじみの発生、固形描画材のべたつきが少ない。オイルが1質量%以上であれば、オイルを添加する効果が得られ、描画面に対する固形描画材の滑りが良好になり、描画性が向上する。
【0030】
(ジブロック共重合体)
本開示にかかる固形描画材はジブロック共重合体を含むという特徴を有する。ジブロック共重合体は、性質の異なる2つの重合体ブロックが連結された有機高分子化合物である。ジブロック共重合体は、固形描画材において増粘剤として機能し、成形性を向上させるとともに、固形描画材を高温下で保存した場合でも油にじみの発生を抑制する。ジブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックとからなる、ジブロック共重合体であることが好ましい。例えば、変性されたスチレン-共役ジエンブロック共重合体の水素添加物であってよい。ジブロック共重合体として具体的には例えば、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体(SEP共重合体)、スチレン-ブタジエン共重合体(SB共重合体)、スチレン-イソプレン共重合体(SI共重合体)等が挙げられる。中でも、ポリスチレンブロックとポリ(エチレン-プロピレン)ブロックとからなるジブロック共重合体(スチレン-エチレン-プロピレンポリマー)であることが好ましい。
【0031】
ジブロック共重合体として市販のポリマーを用いることができ、具体的には例えば、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」のうちジブロック共重合体であるもの等が挙げられる。
【0032】
ジブロック共重合体は、固形描画材において、固形描画材に対して0.5~10質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは1~8質量%の範囲で含有される。ジブロック共重合体が10質量%以下であれば、製造の際に粘度が過大となり成形性が低下することを抑えられる。ジブロック共重合体の含有量が0.5質量%以上であれば、ジブロック共重合体を添加する効果が得られ、油にじみの発生を抑制できる。また、製造の際の粘度が適切な範囲となり良好な成形性が得られる。
【0033】
本開示にかかる固形描画材は、本開示にかかる効果が得られる限り、ジブロック共重合体に加えてトリブロック共重合体を含有してもよい。トリブロック共重合体としては、例えば、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS共重合体)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS共重合体)、及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS共重合体)等が挙げられる。
【0034】
また、本開示にかかる固形描画材は、増粘剤としてその他の成分を含んでもよい。その他の増粘剤としては例えば、二酸化ケイ素の表面をシリル化した微粉末である疎水性シリカを用いることができる。疎水性シリカとしては例えば、粒子径が0.01~0.03μm、比表面積が90~130m2/g程度のものを用いることができる。
【0035】
(その他の成分)
本開示にかかる固形描画材は、必要に応じて、従来の固形描画材において用いられる種々の成分や添加剤を含んでもよい。添加剤としては例えば、防腐防黴剤、酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤としては例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ノルジヒドログアヤレチック酸等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
(製造方法)
本開示にかかる固形描画材の製造方法の概略を説明する。本開示にかかる固形描画材は、公知の固形描画材の製造方法を逸脱することなく、既存の設備や条件を適用ないし応用して製造できる。次に示す製造方法は一例であり、本開示の効果を有する固形描画材が得られる限りにおいて、製造方法は限定されない。
【0037】
まず、混練組成物作製工程として、着色顔料、体質顔料の一部、ワックス、オイルを加熱攪拌し、例えば3本熱ロール等を用いて分散させる。次いで、得られた混合物にさらにジブロック共重合体、体質顔料の残部およびワックス成分を添加し、加熱しながら撹拌して、混練組成物を得る。その後、成形工程として、混練組成物を加熱して溶解させ、成形機の金型に溶解物を流し込む。冷却および固化後、所望の形状の成形物、すなわち、本開示にかかる固形描画材を得る。なお、これらの工程に加えて、所望の形状に調整するための切断工程、調整工程、測定工程、検査工程等を含んでもよい。
【0038】
[実施例および比較例]
組成の異なる固形描画材である実施例1~実施例7の固形描画材を作製した。実施例1~実施例7の固形描画材における配合割合を[表1]に示す。なお、表中の「-」は、材料が含まれていないことを示す。各表中の数値の単位は質量%である。
【0039】
【0040】
実施例1~実施例7の固形描画材の製造方法の詳細について説明する。
【0041】
[実施例1]
以下の手順で固形描画材を作製した。
1.練り工程
(1)Pigment Blue 29(第一化成工業株式会社製)、Pigment Blue 15(大日精化工業株式会社製)、Pigment White 6(堺化学工業株式会社製)、流動パラフィン(粘度40mm2/s)、および、18-ペンタトリアコンタノン、パーム硬化油、パラフィンワックスを加熱下で撹拌し、3本ロールミルを用いて分散させた。
(2)次いで、ジブロック共重合体であるスチレン-エチレン-プロピレン共重合体(クレイトンG1701、クレイトンポリマージャパン株式会社製)、体質顔料である炭酸カルシウム、ワックスである18-ペンタトリアコンタノン、パーム硬化油、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、および、流動パラフィンをさらに添加し、加熱撹拌した。
なお、各材料は[表1]に示す配合比率となるよう投入した。
【0042】
2.成形工程
加熱溶融した混練組成物を成形機に流し込み、押出成形を行った。成形した混錬組成物を冷却、固化させて、固形描画材を得た。
【0043】
[実施例2]
[表1]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0044】
[実施例3]
フィッシャー・トロプシュワックス(融点109℃)に代えて、ワックスとしてマイクロクリスタリンワックス(融点83℃)およびマイクロクリスタリンワックス(融点60℃)を使用し、[表1]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0045】
[実施例4]
Pigment Blue 29、Pigment Blue 15、Pigment White 6を用いず、[表1]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0046】
[実施例5]
ジブロック共重合体として、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体に代えてスチレン-ブタジエン共重合体(品名Polystyrene-block-polybutadiene、MERCK社製)を使用し、[表1]に示す配合比率とした以外は実施例4と同様に、固形描画材を作製した。
【0047】
[実施例6]
体質顔料としてさらにタルク(日本タルク株式会社製)を用い、フィッシャー・トロプシュワックス(融点109℃)に代えてワックスとしてフィッシャー・トロプシュワックス(融点95℃)およびマイクロクリスタリンワックス(融点83℃)を使用し、[表1]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0048】
[実施例7]
[表1]に示す配合比率とした以外は実施例4と同様に、固形描画材を作製した。
【0049】
また、本開示にかかる固形描画材の範囲外である比較例1~比較例5の固形描画材を作製した。比較例1~比較例5の固形描画材における配合割合を[表2]に示す。なお、表中の「-」は、材料が含まれていないことを示す。各表中の数値の単位は質量%である。
【0050】
【0051】
比較例1~比較例5の固形描画材の製造方法および評価方法の詳細について説明する。
【0052】
[比較例1]
Pigment Blue 29、Pigment Blue 15およびブロック共重合体を用いず、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0053】
[比較例2]
[表2]に示す配合比率とした以外は実施例4と同様に、固形描画材を作製した。
【0054】
[比較例3]
ジブロック共重合体であるスチレン-エチレン-プロピレン共重合体に代えてトリブロック共重合体であるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(クレイトンG1650、クレイトンポリマージャパン株式会社製)を使用し、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例4と同様に、固形描画材を作製した。
【0055】
[比較例4]
[表2]に示す配合比率とした以外は比較例3と同様に、固形描画材を作製した。
【0056】
[比較例5]
ジブロック共重合体であるスチレン-エチレン-プロピレン共重合体を用いず、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例6と同様に、固形描画材を作製した。
【0057】
[評価]
実施例1~7および比較例1~5の固形描画材について、以下の方法で、油にじみ、描画感、成形性について評価した。
【0058】
(1)油にじみの評価
直径10.5mm、高さ10mm程度にカットした固形描画材を画用紙上に立てるように載置し、50℃の恒温槽で5日間保存した。5日後、固形描画材を載置した状態で画用紙を観察した。[
図1]に油にじみの評価試験方法を模式的に示す。[
図1]を参照して、試料である固形描画材1が画用紙10の上に載置された。5日後に、画用紙10上に生じた油染み20が観察された。
【0059】
固形描画材を載置した画用紙を上方から目視にて観察した時、画用紙上に油染みが観察されなかったものは、油にじみ性が良好(〇)であると評価され、油染みの面積は測定されなかった([表3]、[表4]において「-」で示す)。固形描画材を載置した画用紙を上方から目視にて観察した時に画用紙上に油染みが観察されたものは、画用紙上から固形描画材を取り除き、油染みの生じた画用紙の写真を撮影した。撮影画像を画像解析ソフト(ImageJ)にて分析し、画用紙上の油染みの面積を算出した。
油にじみの評価基準は次のとおりとした。
〇:固形描画材を載置した状態で上から観察した時に油染みが観察されない。あるいは、油染みの面積が1000mm2以内である。
△:油染みの面積が1000mm2を超え、2000mm2未満である。
×:油染みの面積が2000mm2以上である。
【0060】
(2)描画感
固形描画材を画用紙上に描画し、描画感を評価した。描画感の評価基準は次のとおりとした。
〇:画用紙に着色する。
×:画用紙に着色しない。
【0061】
(3)成形性
固形描画材の製造工程中、2.成形工程において、加熱溶解した混練組成物を成形機の金型に流し込んで押出成形を行った後、冷却した際の状態を観察した。成形性の評価基準は次のとおりとした。
〇:混練組成物が金型に行き渡っている(混練組成物が適切な粘度であった)。
×1:混錬組成物が金型に行き渡っていない(混練組成物の粘度が過大であった)。
×2:冷却時に原料の収縮が大きく、固化した混練組成物に穴が生じている。
【0062】
実施例1~7の固形描画材の評価結果を[表3]に示す。比較例1~5の固形描画材の評価結果を[表4]に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
[表3]に示されるとおり、実施例1~実施例7の固形描画材はいずれも油にじみの評価結果が〇あるいは△であり、油にじみが少なかった。また、描画感、成形性も良好であった。
【0066】
[表4]に示されるとおり、比較例1の固形描画材は油染みの面積が大きかった。ジブロック共重合体を含有せず、オイルの滲出が抑制されないためと考えられた。比較例2の固形描画材は、成形性が不充分であった。ジブロック共重合体の含有量が過大であると、油にじみは抑制されるが粘度が過大となり、成形性が低下すると考えられた。比較例3の固形描画材は、描画感および成形性が不充分であった。ブロック共重合体の中でもトリブロック共重合体のみを用いた場合には所望の効果が得られないと考えられた。比較例4の固形描画材は、描画感および成形性が不充分であった。ブロック共重合体の中でもトリブロック共重合体では所望の効果が得られないと考えられた。比較例5の固形描画材は、油染みの面積が大きかった。比較例5の固形描画材の組成は、実施例6の固形描画材からジブロック共重合体を除いた組成に相当する。比較例5と実施例6との比較から、ジブロック共重合体によって油にじみが大幅に抑制されると考えられた。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 固形描画材、10 画用紙、20 油染み