(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151542
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】固形描画材
(51)【国際特許分類】
C09D 13/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C09D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064975
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】宮原 知華
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB03
4J039AB12
4J039AD03
4J039AD15
4J039AD17
4J039BB01
4J039BE01
4J039BE23
4J039CA09
4J039DA05
4J039EA43
4J039EA48
4J039GA29
4J039GA32
(57)【要約】
【課題】描画面に対して盛り上げが可能で、かつ使用が容易である描画材を提供すること。
【解決手段】着色顔料と、ワックスと、を含み、25℃において測定する針入度(mm)が10mm以上であり、前記針入度(mm)の値xと、損失正接(tanδ)の値yとがx×y<130を満たす固形描画材である。前記ワックスは、融点が40℃以上60℃以下であり、B型粘度計で25℃において測定した粘度が5Pa・s以上20Pa・s以下であるワックス成分(A)を含み、前記ワックス成分(A)は、固形描画材に対して20質量%以上50質量%以下の割合で含有されていることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料と、ワックスと、を含み、
25℃において測定する針入度(mm)が10mm以上であり、
前記針入度(mm)の値xと、損失正接(tanδ)の値yとが
x×y<130を満たす、
固形描画材。
【請求項2】
前記損失正接(tanδ)の値yが、y≧1を満たす、
請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
JIS S 6026に規定される曲げ強度試験の方法に従い、直径11mmの円柱状に成形した前記固形描画材を測定した場合の折損強度(N)が2.9以上である、
請求項1または請求項2に記載の固形描画材。
【請求項4】
前記ワックスは、
融点が40℃以上60℃以下であり、B型粘度計で25℃において測定した粘度が5Pa・s以上20Pa・s以下であるワックス成分(A)を含み、
前記ワックス成分(A)は、固形描画材に対して20質量%以上50質量%以下の割合で含有されている、
請求項1に記載の固形描画材。
【請求項5】
さらに、増粘剤を含み、前記増粘剤は固形描画材に対して1質量%以上7質量%以下の割合で含有されている、
請求項4に記載の固形描画材。
【請求項6】
前記ワックスは、前記ワックス成分(A)に含まれないワックス成分(B)をさらに含む、
請求項4または請求項5に記載の固形描画材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
描画面に対して立体的に描画材を盛り上げる表現手法がある。油絵では一般的な表現手法であるが、油彩絵具は取り扱いが容易ではない。他方、油彩絵具よりも取り扱いやすい油性の描画材として、固形描画材であるオイルパステルが知られている。例えば特許文献1には、着色成分と4種類のワックスとを含有する固形描画材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
描画面に対して盛り上げが可能で、かつ使用が容易である固形描画材を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に従う固形描画材は、着色顔料と、ワックスと、を含み、
25℃における針入度(mm)が10mm以上であり、
前記針入度(mm)の値xと、損失正接(tanδ)の値yとが
x×y<130を満たす。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成の固形描画材は、描画面に対して盛り上げが可能で、かつ使用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示にかかる固形描画材の付着性評価方法の例を示す。
【
図2】
図2は、本開示にかかる固形描画材の付着性評価の水準の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示に従う固形描画材は、着色顔料と、ワックスと、を含み、
25℃において測定する針入度(mm)が10mm以上であり、
前記針入度(mm)の値xと、損失正接(tanδ)の値yとが
x×y<130を満たす、固形描画材である。
【0009】
従来、描画面に対して描画材を立体的に盛り上げる表現手法(以下、「盛り上げ」ということがある)が知られている。この手法は油絵においては一般的に用いられているが、油彩絵具の取り扱いは容易ではない。一方、油彩絵具よりも取り扱いやすい油性の描画材として、固形描画材であるオイルパステルが知られている。例えば特許文献1には、着色成分と4種類のワックスとを含有する固形描画材が開示されている。しかしながら、従来のオイルパステルは盛り上げに使用することが想定されていなかった。
【0010】
この状況の下、発明者は、より容易に盛り上げを実現するために固形描画材を盛り上げに使用するという着想を得た。しかしながら、従来の固形描画材を盛り上げに使用しようとすると、描画面に立体的に付着させることができずに崩れ落ちてしまう傾向があることを見出した。そこで、新規な固形描画材を構成するべく検討を重ねた結果、着色顔料とワックスとを含む固形描画材であって、針入度が特定の範囲であり、かつ、針入度と損失正接との積算値が特定の範囲であるものに想到した。この固形描画材によれば、固形描画材をパレットナイフに取って練り、描画面に立体的に盛り上げて載置することが可能で、描画面への付着性も良好である。本開示にかかる固形描画材によれば、従来は油彩絵具を用いて行われていた盛り上げを、より取り扱いが容易である固形描画材によって実現できる。
【0011】
前記固形描画材は、前記損失正接(tanδ)の値yがy≧1を満たすものとできる。損失正接の値yが1以上である場合、上述の効果が確実に得られ、特に粘性が強くなり、描画材を練った時のまとまりが良くなる。
【0012】
前記固形描画材は、JIS S 6026に規定する曲げ強度試験の方法に従い、直径11mmの円柱状に成形した前記固形描画材を測定した場合の折損強度(N)が2.9以上であるものとできる。折損強度が2.9N以上であるとき、上述の効果が確実に得られるとともに、マチエールや細部描写などさまざまな使用態様に適合し、適用範囲の広い固形描画材が得られる。
【0013】
前記固形描画材は、前記ワックスとして、融点が40℃以上60℃以下であり、B型粘度計で25℃において測定した粘度が5Pa・s以上20Pa・s以下であるワックス成分(A)を含み、前記ワックス成分(A)は、前記固形描画材に対して20質量%以上50質量%以下の割合で含有されているものとできる。この構成によれば、従来知られた製造条件や製造設備を逸脱することなく利用可能で、合理的な製造方法によって上述の効果を有する固形描画材を得ることができる。
【0014】
前記固形描画材は、さらに、増粘剤を含み、前記増粘剤は前記固形描画材に対して1質量%以上7質量%以下の割合で含有されていてもよい。この構成によれば、成形時の粘度を適切にするという効果がある。
【0015】
前記ワックスは、前記ワックス成分(A)に含まれないワックス成分(B)をさらに含んでよい。本開示にかかる固形描画材は、ワックス成分(A)とそれ以外のワックスであるワックス成分(B)とを併用することによって、上述の効果を有し、使用感の良好な固形描画材が得られる。
【0016】
以下に、本開示に係る固形描画材の実施の形態を説明する。以下に示す実施形態の固形描画材は、オイルパステルを含む油性の固形描画材である。本開示にかかる固形描画材は特定の物性を有する。また、本開示にかかる固形描画材は着色顔料とワックスとを含有し、ワックスとして、特定の物性を有するワックス成分を特定の割合で含む。
【0017】
(固形描画材)
本開示にかかる固形描画材の外形は特に限定されない。固形描画材は、円柱状であってもよく、四角柱状、六角柱状といった多角柱状であってもよいし、断面が楕円の楕円柱状であってもよい。柱状の一方側の端部がテーパー状に削られており、先端部が尖った形状とされていてもよい。また、本開示にかかる固形描画材の形状は柱状(棒状)に限られず、直方体等のブロック状や塊状であってもよい。固形描画材の寸法、長さや径、全体的な大きさは用途や求められる使い勝手等に応じて任意に定められる。一例として、固形描画材は、長さが60~100mm程度、直径7~12mm程度の円柱状であってよい。また、一辺の長さが10~30mm程度のブロック状であってよい。
【0018】
本開示にかかる固形描画材は、ユーザーに提供される際、固形描画材の胴部に紙やフィルムからなる保護シートが巻き付けられていてもよいし、保護シートを備えず、固形描画材の本体を直接手に持って使用する形態であってもよい。
【0019】
本開示にかかる固形描画材は、従来のオイルパステルと同様に手に持って使用することが可能で、線描や面描のために使用できる。また同時に、本開示にかかる固形描画材は、パレットナイフで切り取り、練ることも可能である。本開示にかかる固形描画材は、描画面に対して立体的に盛り上げることが可能で、細部描写とマチエールの表現との両方に使用できる新規な描画材である。
【0020】
(固形描画材の物性)
本開示にかかる固形描画材は、25℃において測定する針入度(mm)が10mm以上であり、また、針入度(mm)の値xと、損失正接(tanδ)の値yとの積が130未満である。つまり、x×y<130を満たす。x×yの値は100未満であることがより好ましい。特定の理論に拘束されるものではないが、針入度(mm)の値xと損失正接(tanδ)の値yとの積は、固形描画材を練った時のまとまりやすさを示す指標になると考えられている。
【0021】
針入度(mm)は、JIS K 2235に準じた方法で測定される値であり、測定装置としては例えば、公知の針入度測定装置(例えばVR-5610、株式会社上島製作所製)を用いて測定できる。本明細書における針入度(mm)は、針入度の測定条件を温度25℃、荷重50g、貫入時間10秒とした時の値である。測定方法の詳細は実施例に詳述される。本開示にかかる固形描画材の針入度は10mm以上であり、100mm以下であってよく、50mm以下であることが好ましい。針入度が10mm以上である場合、損失正接との関係が一定範囲となることで、練ることが可能な柔らかさを有しながらも、描画面への付着性にも優れた固形描画材を実現できる。
【0022】
損失正接(tanδ)は固形描画材の動的粘弾性を示す指標である。損失正接は、公知のレオメーター(例えばHAAKE MARS40、Thermo scientific社製)を用いて測定される値である。本明細書における固形描画材の損失正接は、ナイフで練った固形描画材を試料として測定される値である。測定方法の詳細は実施例に詳述される。損失正接の値は、前述の針入度の値との積が130未満となる限り制限されないが、1以上であることが好ましい。損失正接の上限値は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。損失正接が1以上であるとき、練った時にまとまり、適切な粘度となる効果が得られる。損失正接が過大になると、粘性が高くなって過剰な接着感が生じ、まとまりが悪くなるおそれがある。
【0023】
本開示にかかる固形描画材は、JIS S 6026に規定される曲げ強度試験の方法に従い、直径11mmの円柱状に成形した前記固形描画材を測定した場合の折損強度(N)が2.9以上であることが好ましい。本開示にかかる固形描画材は、従来のオイルパステルと比較して柔らかいものでありうるが、折損強度が2.9N以上であるとき、細部描写にも盛り上げにも好適で、使用範囲の広い固形描画材が得られる。
【0024】
(固形描画材の組成)
本開示にかかる固形描画材は、着色顔料と、ワックスとを含み、さらにオイル、体質顔料、増粘剤等を含むことができる。本開示にかかる固形描画材を構成する成分について以下に説明する。
【0025】
(ワックス)
ワックスは、常温で固体ないし半固体であり、加熱すると溶融する、主に炭化水素化合物からなる成分である。ワックス成分は、固形描画材を構成する種々の成分を一体にまとめるとともに、描画材に描画面への定着性を与えるために用いられる。
【0026】
本開示にかかる固形描画材は、ワックスのうちワックス成分(A)として、融点が40℃以上60℃以下であり、B型粘度計で25℃において測定した粘度が5Pa・s以上20Pa・s以下である半固体ワックスを含む。ワックス成分(A)は、固形描画材に対して20質量%以上60質量%以下の割合で含有され、25質量%以上50質量%以下であればより好ましい。ワックス成分(A)が50質量%以下であれば、べたつきが抑えられ、付着性が良好な固形描画材が得られる。ワックス成分(A)が20質量%以上であれば、描画面上での立体表現(盛り上げ)が可能となる。ワックス成分(A)は常温で半固体であり、細かい結晶を有すると考えられる。ワックス成分(A)を用いることによって固形描画材が崩れやすくなる。細かく崩れた結晶は描画面に付着しやすくなるため、しっとりした感触となり、粘着性や定着性をもたらすものと考えられている。
【0027】
ワックス成分(A)として具体的には例えば、常温で半固体のワックスであるワセリン、ペトロラタム、常温で固形のワックスとオイルとの混合物として得られるワックスであるマイクロクリスタリンワックス+オイル、オイルゲルとしてオイルゲル化剤とオイルとの混合物等が挙げられる。オイルゲル化剤として、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、(パルミチン酸/ヘキシルデカン酸)デキストリン、ステアリン酸イヌリン等が挙げられる。これらのうち、マイクロクリスタリンワックスとオイルの混合物、ペトロラタム、ワセリン、パルミチン酸デキストリンとオイルとの混合物を用いることがより好ましい。ワックス成分(A)は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いることも好ましい。
【0028】
本開示にかかる固形描画材は、ワックス成分として、前述のワックス成分(A)以外のワックス成分(B)を含んでよい。ワックス成分(B)は、固形描画材の製造に際して、加熱時、例えば、60~120℃程度に加熱したときは溶融するが、常温や50℃程度の温度では固体である成分である。典型的に、ワックス成分(B)の融点は、55℃以上であり、好ましくは60℃以上である。
【0029】
ワックス成分(B)としては、例えば、蜜ロウ、鯨ロウ、牛脂、牛脂硬化油、ラード等の動物由来のワックス、カルナバロウ、木ロウ、ヒマシ硬化油、パーム硬化油等の植物由来のワックス、パラフィンワックス、ケトンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、α-オレフィンオリゴマー、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪族ケトン等の石油由来ワックス等を用いることができる。ワックス成分(B)としては、1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちで、パラフィンワックス、牛脂硬化油、パーム硬化油、ケトンワックスであるジヘプタデシルケトン(ステアロン)等が好ましく用いられる。融点の異なる複数種類のワックス成分(B)を組み合わせて用いることも好ましい。
【0030】
ワックス成分(B)は、固形描画材に対して10~70質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは10~40質量%の範囲で含有される。より好ましくは10~30質量%である。ワックス成分(B)が70質量%以下であれば、色が薄くならず、発色性を維持できる。ワックス成分(B)が10質量%以上であれば、固形描画材の強度や成形性が維持され、描画面に対する定着性が得られる。
【0031】
ワックス成分(A)、ワックス成分(B)の融点の測定は、例えば、DSC(Differential Scanning Calorimetry)により実施することができる。具体的には、DSC曲線の融解熱に対応するピークの温度を融点とする。
【0032】
本開示にかかる固形描画材は、ワックス成分(A)とワックス成分(B)との含有割合の合計が固形描画材に対して40質量%以上80質量%以下であることが好ましく、50質量%以上75質量%以下であればより好ましい。ワックス成分(A)とワックス成分(B)との含有割合の合計が固形描画材に対して40質量%以上であるとき、本開示にかかる効果を有する固形描画材が得られる。ワックス成分(A)とワックス成分(B)との含有割合の合計が固形描画材に対して80質量%以下であるとき、本開示にかかる効果を有するとともに、発色性が維持された固形描画材が得られる。
【0033】
(オイル)
オイルは、常温で液体である、主に炭化水素化合物からなる成分である。オイルは、ワックス成分と協同して固形描画材に滑らかな描画性を与える成分である。オイルは、透明であって、ワックスに溶解するものが好ましく用いられる。オイルの具体例としては、例えば、ヤシ油、ヒマシ油等の動植物性のオイル、流動パラフィン、シリコーンオイル、長鎖脂肪酸等の石油由来のオイルを用いることができる。オイルとしては、1種、または2種以上のオイルを組み合わせて用いることができる。これらのうちで、流動パラフィンを用いることが好ましい。
【0034】
オイルは、固形描画材において、固形描画材に対して0~20質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは0~10質量%の範囲で含有される。より好ましくは1~5質量%である。オイルが10質量%以下であれば、固形描画材の強度が保持され、耐熱性、成形性の低下が少ない。また、固形描画材のべたつきが少ない。オイルが1質量%以上であれば、オイルを添加する効果が得られ、描画面に対する固形描画材の滑りが良好になり、描画性が向上する。
【0035】
(体質顔料)
体質顔料は、固形描画材を崩れやすくして取り扱い性を向上させ、描画面に対する滑り性を向上させる。また、描画面への固形描画材の接着量を多くして、描線の着色性を高める効果を有する。体質顔料の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、タルク、クレー、カオリン、ベントナイト等の粘度鉱物、リトポン(硫化亜鉛、硫酸バリウムの混合物)等の組成物の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リトポン等が好ましく用いられる。
【0036】
体質顔料は粉体であり、その粒径は例えば炭酸マグネシウムの場合、1.0~14μm程度であり、炭酸カルシウムの場合、0.14~15.0μm程度である。リトポンの粒径は0.1~5.0μm程度である。
【0037】
体質顔料は、固形描画材において、固形描画材に対して1~60質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは5~50質量%の範囲で含有される。より好ましくは10~35質量%である。体質顔料が60質量%以下であれば、着色性の低下が少ない。また、固形描画材の成形性の低下が少ない。体質顔料が1質量%以上であれば、描画面に対する固形描画材の滑りが良好になり、描画性が向上する。
【0038】
(着色顔料)
着色顔料は、固形描画材に所望の色(無彩色あるいは有彩色)を付与し、描画面で発色させるものであって、従来、クレヨンやオイルパステルにおいて着色剤として用いられているものを用いることができる。着色顔料としては、有機顔料、無機顔料、レーキ顔料、複合顔料、蛍光顔料、パール顔料、光輝性顔料等が挙げられ、これらのいずれか、または2種以上を用いることができる。着色顔料としては、酸化チタンや硫化亜鉛等の白色顔料、フタロシアニン、キナクリドン等の有色顔料、カーボンブラック等が挙げられるが、当然ながらこれらに限定されない。着色顔料は、1種類を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることも好ましい。
【0039】
着色顔料の例として、具体的には例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、鉄黒、アニリンブラック、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、タートラジンレーキ、パーマネントイエロートナー、カドミウムイエロー、ベンジジンオレンジ、クロムバーミリオン、カドミウムオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ファーストオレンジレーキ、レーキレッドC、弁柄、ワッチングレッド、ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、パーマネントレッド2B、パーマネントレッドFRLL、カーマインレーキ、キナクリドンレッド、メチルバイオレットレーキ、ファーストバイオレットB、キナクリドンバイオレット、インダスレンバイオレット、ウルトラマリンブルー、フタロシアニンブルー、ファーストスカイブルー、紺青、群青、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニングリーン、マーカライトグリーンレーキ、ピグメントグリーンB、ビリジアン、シェンナー、アンバー、アルミニウム粉末、ブロンズ粉末等の有機顔料、無機顔料および金属粉顔料が挙げられる。
【0040】
着色顔料の配合量は、所望の色彩に応じて適切な量を選択すればよい。例えば、着色顔料は、固形描画材に対して0.5~30質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは1~20質量%の範囲で含有される。より好ましくは1.5~15質量%である。着色顔料が30質量%以下であれば、固形描画材の成形性の低下が少ない。また、実用的なコストで固形描画材を製造できる。着色顔料が0.5質量%以上であれば、材料にもよるが、所望する発色を得ることができる。
【0041】
(増粘剤)
本開示にかかる固形描画材は、増粘剤を含むことができる。増粘剤を含む場合、ワックス成分(A)と協同して固形描画材の粘度を調整し、固形でありながら練ることが可能で盛り上げの表現に適した物性を有する固形描画材を得ることができる。また、増粘剤はその他の成分との親和性を有し、固形描画材からの油分の滲出を抑制する等、固形描画材の安定性を向上させうる。
【0042】
増粘剤としては例えば、二酸化ケイ素の表面をシリル化した微粉末である疎水性シリカを用いることができる。疎水性シリカとしては例えば、粒子径が0.01~0.03μm程度、比表面積が90~130m2/g程度のものを用いることができる。増粘剤として、有機ポリマーを用いることもできる。有機ポリマーとしては例えば、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体等を用いることができ、これらのうち、ジブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0043】
ジブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックとからなる、ジブロック共重合体であることが好ましい。具体的には例えば、スチレン-ブタジエン共重合体やスチレン-イソプレン共重合体が挙げられ、ポリスチレンブロックとポリ(エチレン-プロピレン)ブロックとからなるジブロック共重合体(スチレン-エチレン-プロピレンポリマー)であることが好ましい。
【0044】
増粘剤の配合量は、本開示にかかる効果を得られる限り特に制限されないが、例えば固形描画材に対し1~7質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは3~5質量%の範囲で含有される。増粘剤が7質量%以下であれば、成形時の粘度が過大にならず、流し込み成形に向いているという効果がある。増粘剤が1質量%以上であれば、粘度調整効果が得られる。増粘剤が3質量%以上であれば、粘度調整効果が得られるとともに、盛り上げに適した物性を有する固形描画材を構成しやすくなる。
【0045】
(その他の成分)
本開示にかかる固形描画材は、必要に応じて、従来の固形描画材において用いられる種々の成分や添加剤を含んでもよい。添加剤としては例えば、防腐防黴剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0046】
酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤としては例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ノルジヒドログアヤレチック酸等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
(製造方法)
本開示にかかる固形描画材の製造方法の概略を説明する。本開示にかかる固形描画材は、公知の固形描画材の製造方法を逸脱することなく、既存の設備や条件を適用ないし応用して製造できる。次に示す製造方法は一例であり、本開示の効果を有する固形描画材が得られる限りにおいて、製造方法は限定されない。
【0048】
まず、混練組成物作製工程として、着色顔料、体質顔料、ワックス成分、オイル成分を加熱攪拌し、例えば3本熱ロール等を用いて分散させる。次いで、得られた混合物にさらに体質顔料とワックス成分と増粘剤とを添加し、加熱しながら撹拌して、混練組成物を得る。その後、成形工程として、混練組成物を加熱して溶解させ、各種の成形機に溶解物を流し込む。冷却後、所望の形状の成形物、すなわち、本開示にかかる固形描画材を得る。なお、これらの工程に加えて、所望の形状に調整するための切断工程、調整工程、測定工程、検査工程等を含んでもよい。
【0049】
[実施例および比較例]
組成の異なる固形描画材である実施例1~実施例10の固形描画材を作製した。実施例1~実施例10の配合を[表1]、[表2]に示す。なお、各表中の「-」は、材料が含まれていないことを示す。各表中の数値の単位は質量%である。
【0050】
【0051】
【0052】
実施例1~実施例10の固形描画材の製造方法の詳細について説明する。
【0053】
[実施例1]
以下の手順で固形描画材を作製した。
1.練り工程
(1)Pigment Blue 29(第一化成工業株式会社製)、Pigment Blue 15(大日精化工業株式会社製)、Pigment White 6(堺化学工業株式会社製)、流動パラフィン(粘度40mm2/s)、および、ワックス成分(B)として18-ペンタトリアコンタノン、パーム硬化油、パラフィンワックスを加熱下で撹拌し、3本ロールミルを用いて分散させた。
(2)次いで、体質顔料である炭酸カルシウム、ワックス成分(A)としてマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製)+オイル(流動パラフィン)、増粘剤である疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製)をさらに添加し、加熱撹拌した。
なお、各材料は[表1]に示す配合比率となるよう投入した。
【0054】
2.成形工程
加熱溶融した混練組成物を成形機に流し込み、押出成形を行った。成形した混練組成物を冷却、固化させて、固形描画材を得た。
【0055】
[実施例2]
増粘剤として疎水性シリカに代えてスチレン-エチレン-プロピレンポリマー(クレイトンポリマージャパン株式会社製)を使用し、[表1]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0056】
[実施例3]
[表1]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0057】
[実施例4]
[表1]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0058】
[実施例5]
[表1]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0059】
[実施例6]
増粘剤およびパラフィンワックスを添加せず、さらに、ワックス成分(B)として、フィッシャー・トロプシュワックス、脂肪酸として12-ヒドロキシステアリン酸、ワックス成分(A)としてワセリン(山文油化株式会社製)を使用し、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0060】
[実施例7]
ワックス成分(A)として、マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製)+オイル(流動パラフィン)に代えてペトロラタム(日本精蝋株式会社製)を使用し、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0061】
[実施例8]
ワックス成分(A)として、マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製)+オイル(流動パラフィン)に代えてパルミチン酸デキストリン(千葉製粉株式会社製)+オイル(流動パラフィン)を使用し、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0062】
[実施例9]
ワックス成分(B)としてさらにヒマシ硬化油を使用し、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0063】
[実施例10]
さらにワックス成分(B)として12-ヒドロキシステアリン酸を使用し、[表2]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0064】
また、本開示にかかる固形描画材の範囲外である比較例1~比較例5の固形描画材を作製した。比較例1~比較例5の固形描画材の配合を[表3]に示す。
【0065】
【0066】
比較例1~比較例5の固形描画材の製造方法の詳細について説明する。
【0067】
[比較例1]
増粘剤およびワックス成分(A)を含まず、ワックス成分(B)としてさらにフィッシャー・トロプシュワックスを使用し、[表3]に示す配合比率とした以外は実施例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0068】
[比較例2]
ワックス成分(B)として、パーム硬化油に代えて牛脂硬化油を使用し、[表3]に示す配合比率とした以外は比較例1と同様に、固形描画材を作製した。
【0069】
[比較例3]
[表3]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0070】
[比較例4]
[表3]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0071】
[比較例5]
[表3]に示す配合比率とした以外は実施例2と同様に、固形描画材を作製した。
【0072】
[物性の測定および評価]
実施例1~10および比較例1~5の固形描画材について、以下の方法で物性(針入度、損失正接(tanδ)、折損強度)を測定した。また、盛り上げ特性、付着性について評価した。
【0073】
(1)針入度の測定
JIS K 2235に準じた方法に従って測定した。室温(約25℃)下で荷重50g、10秒間、固形描画材に対して針を進入させ、針が進入した長さ(mm)を測定した。針入度の測定には、針入度測定装置を用いた。
(2)損失正接(tanδ)の測定
約3gの試料(固形描画材)を、粘土のような塊状にまとまるまでしっかりとペインティングナイフで練った。練った試料を直径20mmのパラレルプレートで保持し、粘弾性測定装置(HAAKE MARS40、Thermo scientific社製)を用いて動的粘弾性を測定した。歪0.01~100%、周波数1Hz、温度25℃一定で測定した場合の損失正接(tanδ)を確認した。歪100%までの間のtanδ曲線にピークの有無を確認し、ピークが存在する場合、ピークのtanδを読み取った。
(3)折損強度の測定
JIS S 6026に従って測定した。巻紙を取り除いた直径約11mmの円柱状の試料を、37±2℃の恒温槽中に3時間放置した後、二つの支点を台はかりの上に置き、その上に試料を渡し、一定速度で荷重を加えて折損したときの値を測定した。
【0074】
(4)盛り上げ特性の評価
直径約11mm、長さ約71mmの円柱形状に成形された固形描画材を、ペインティングナイフを用いて長さ10mm程度にカットし、ペインティングナイフを用いて粘土のような塊状にまとまるようしっかりと練った。次いで、練った描画材を画用紙上にこすりつけ、画用紙に付着した描画材の状態を確認した。盛り上げ特性の評価基準は次の通りとした。
〇:練状のものができ、画用紙に付着し、その表面が滑らかである。
△:練状のものができ、画用紙に付着するが、その表面が滑らかではない。
×:練状のものができず、画用紙に付着しない。
【0075】
(5)付着性の評価
直径約11mm、長さ約71mmの円柱形状に成形された固形描画材を、ペインティングナイフを用いて長さ10mm程度にカットし、ペインティングナイフで粘土のような塊状にまとまるようしっかりと練った。次いで、練ったものを画用紙上にナイフで平らに均し([
図1](1)参照)、均した表面にペインティングナイフの刃面をトントントンと3回軽く押し当てた([
図1](2)参照)。その後、刃面に対する描画材の付着の程度を目視で評価した。
【0076】
練った描画材が刃面に付着しない場合、紙にも付着しにくく、描画面から剥がれ落ちやすいと判断された。練った描画材が適度にナイフに付着する場合、描画面に対する盛り上げが可能で、ペインティングナイフを用いてマチエールの表現ができると判断された。練った描画材が刃面に過剰に付着する場合には、べたつきがあり、ナイフでの描画表現が難しく、盛り上げのマチエールが適切に得られないと判断された。
付着性の評価基準は次のとおりとした。
図2に、各水準の例を示す。
×:ナイフ刃面の10%未満に練りが付着する(水準1)。
◎:ナイフ刃面の10~50%程度に練りが付着する(水準2)。
〇:ナイフ刃面の50~80%程度に練りが付着する(水準3)。
×:ナイフ刃面の80%超に練りが付着する(水準4)。
【0077】
実施例1~10の固形描画材の物性および評価結果を[表4]、[表5]に示す。比較例1~5の固形描画材の物性および評価結果を[表6]に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
[表4]、[表5]に示されるとおり、実施例1~実施例10の固形描画材はいずれも針入度が10mm以上、かつ、針入度の値と損失正接の値の積が130未満である。実施例1~10の固形描画材はいずれも盛り上げ特性が良好であり、ペインティングナイフを用いて練った描画材を画用紙に盛り上げることができた。また、その表面は滑らかだった。また、練った描画材のナイフ刃面への付着性も適度で、盛り上げの表現に適した描画材であった。特に、折損強度が2.9N以上である実施例1~7、9、10は、盛り上げ特性に優れるとともに、付着性にも特に優れていた。
【0082】
[表6]に示されるとおり、針入度が10mm未満でありワックス成分(A)を含まない比較例1の固形描画材は、盛り上げができなかった。また、比較例1の描画材は練っても塊状にならず、付着性の評価ができなかった。比較例2は、比較例1と比較してオイルを増量し、針入度を10mm以上としたものである。比較例2は、針入度は10mm以上であるが、損失正接(tanδ)のピークが無く、針入度の値と損失正接の値の積を得ることができなかった。比較例2の固形描画材は、盛り上げ特性の評価において、練状のものができ、画用紙に付着するが、その表面が滑らかではなかった。また、比較例2の固形描画材は付着性が低かった。比較例3は、針入度が10mm未満であり、ワックス成分(A)の含有量が10質量%である固形描画材である。比較例3の固形描画材は、盛り上げができなかった。また、練っても塊状にならず、付着性の評価ができなかった。
【0083】
針入度が10mm以上であるが、針入度の値と損失正接の値の積が130以上である比較例4は、盛り上げ特性は良好であったが、付着性が不充分であり、盛り上げの表現に適切な付着性を満たさないと考えられた。ワックス成分(A)を含むが針入度が10mm未満である比較例5の固形描画材は、盛り上げができなかった。また、練っても塊状にならず、付着性の評価ができなかった。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。