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特開2024-15156ドロー溶質、ドロー溶液及び水処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015156
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ドロー溶質、ドロー溶液及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20240125BHJP
   C08G 65/28 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B01D61/00 500
C08G65/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204255
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2022514104の分割
【原出願日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2020069834
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】518274010
【氏名又は名称】トレヴィ システムズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TREVI SYSTEMS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】的埜 旭隼
(72)【発明者】
【氏名】ウェブリー ジョン
(57)【要約】
【課題】水運搬能が向上したドロー溶質、及びこれを用いたドロー溶液及び水処理装置を提供すること。
【解決手段】1つ以上の水酸基を有する化合物に、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを含む単量体をランダム付加させてなるランダム共重合体を含む正浸透膜法用ドロー溶質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の水酸基を有する化合物に、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを含む単量体をランダム付加させてなるランダム共重合体を含む正浸透膜法用ドロー溶質。
【請求項2】
エチレンオキサイドとブチレンオキサイドとのモル比が1:1~10:1である、請求項1に記載のドロー溶質。
【請求項3】
ランダム共重合体の数平均分子量が500~10000である、請求項1又は2に記載のドロー溶質。
【請求項4】
前記ドロー溶質を水に溶解させて50質量%ドロー溶液を調製した際のドロー溶液の曇点が40~75℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載のドロー溶質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のドロー溶質を含むドロー溶液。
【請求項6】
請求項5に記載のドロー溶液を用いた水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロー溶質、並びにそれを用いたドロー溶液及び水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
正浸透膜法は、濃度の異なる2つの溶液を半透膜を介して接触させ、浸透圧の低い側から高い側へ溶媒が移動する現象を利用するものであり、溶液の成分の分離等に利用することができる。浸透圧に逆らって溶液に圧力をかけ強制的に液を膜透過させる逆浸透膜法に比べて、浸透圧を利用して膜濾過を行う正浸透膜法は省エネルギー化がしやすく、海水の淡水化、廃水処理、食品濃縮等の水処理や発電への応用が期待されている。
【0003】
正浸透膜法を用いて水処理を行う場合、処理の対象となる溶液(処理対象溶液)よりも浸透圧の高い溶液(ドロー溶液)を用いて、処理対象溶液側から半透膜を通してドロー溶液側に溶媒(水)を移動させる。その後、ドロー溶液から溶媒を回収する必要があるため、ドロー溶液は、溶媒を容易に分離できる性質を有する必要があり、このようなドロー溶液を調製するための浸透圧誘導物質(ドロー溶質)が種々検討されている。例えば、特許文献1では、エチレンオキシドやプロピレンオキシド、ブチレンオキシドを含むブロック共重合体からなるドロー溶質が提案されている。また、特許文献2ではエチレンオキシドとプロピレンオキシドを含む、直鎖または分岐型のランダム、逐次、ブロック共重合体からなるドロー溶質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/156404号
【特許文献2】国際公開第2018/045393号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ドロー溶液中のドロー溶質の量を減らした場合であっても、同量の水をドロー溶液側に引き込むことができれば、1サイクル当たりに得られる水の量(造水量)が増加し、エネルギー効率、時間短縮等の観点から望ましい。ドロー溶質のこのような性質は、単位重量当たりのドロー溶質による造水量を示す指標である水運搬能により評価することができる。
【0006】
そこで本発明は、水運搬能が向上したドロー溶質、及びこれを用いたドロー溶液及び水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]~[5]に示す発明を完成させた。
[1] 1つ以上の水酸基を有する化合物に、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを含む単量体をランダム付加させてなるランダム共重合体を含む正浸透膜法用ドロー溶質。
[2] エチレンオキサイドとブチレンオキサイドとのモル比が1:1~10:1である、[1]に記載のドロー溶質。
[3] ランダム共重合体の数平均分子量が500~10000である、[1]又は[2]に記載のドロー溶質。
[4] ドロー溶質を水に溶解させて50質量%ドロー溶液を調製した際のドロー溶液の曇点が40~75℃である、[1]~[3]のいずれかに記載のドロー溶質。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のドロー溶質を含むドロー溶液。
[6] [5]に記載のドロー溶液を用いた水処理装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水運搬能が向上したドロー溶質、及びこれを用いたドロー溶液及び水処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
<ドロー溶質>
本実施形態のドロー溶質は、1つ以上の水酸基を有する化合物(以下、「水酸基含有化合物」ともいう。)に、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを含む単量体をランダム付加させてなるランダム共重合体を含む。当該ランダム共重合体は、水酸基含有化合物の水酸基における酸素原子に、少なくとも、エチレンオキサイド由来のオキシエチレン鎖及びブチレンオキサイド由来のオキシブチレン鎖がランダムに結合した構造を有する。ドロー溶質に含まれるランダム共重合体は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。また、ランダムに結合したオキシエチレン鎖およびオキシブチレン鎖の末端に対して、オキシブチレン基を結合させて末端キャッピングを行った構造を有していてもよい。
【0011】
上記水酸基含有化合物としては、例えば水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、3-ペンタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、イソプレノール、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、フェノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ジトリメチロールプロパン、フロログルシノール、ソルビトール、ソルビタン、グルコース、フルクトース、キシリトール、及びメチルグルコシドが挙げられる。水酸基含有化合物における水酸基の数は2つ以上であると好ましく、3つ以上であるとより好ましく、3つであると更に好ましい。
【0012】
上記エチレンオキサイドとブチレンオキサイドとのモル比は、1:1~10:1であると好ましく、2.5:1~7.5:1であるとより好ましく、3:1~5:1であると更に好ましい。エチレンオキサイドとブチレンオキサイドとのモル比を上記範囲とすることによって、浸透圧及び相分離性を共に向上させることができる。
【0013】
上記単量体は、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイド以外のその他の単量体を含んでいてもよい。その他の単量体としては、例えば、プロピレンオキサイド、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。なお、単量体におけるその他の単量体の含有量は、20モル%以下であると好ましく、10モル%以下であるとより好ましく、5モル%以下であると更に好ましい。
【0014】
上記ランダム共重合体において、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイド由来の構造単位に対する水酸基含有化合物由来の構造単位の質量比(エチレンオキサイド及びブチレンオキサイド由来の構造単位の質量/水酸基含有化合物由来の構造単位の質量)は、1以上110以下であると好ましく、5以上50以下であるとより好ましく、10以上30以下であると更に好ましい。
【0015】
上記ランダム共重合体の数平均分子量の下限は、膜からの重合体の漏洩を抑制する観点から、500以上であると好ましく、1250以上であるとより好ましく、1500以上であると更に好ましい。数平均分子量の上限は、粘度の観点から10000以下であると好ましく、5000以下であるとより好ましく、3000以下であると更に好ましい。また重量平均分子量は500~10000であると好ましく、1250~7000であるとより好ましく、1500~5000であると更に好ましい。なお、数平均分子量及び重量平均分子量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
上記ランダム共重合体における数平均分子量500以下である成分の含有量は、10質量%未満であると好ましく、5質量%未満であるとより好ましい。上記ランダム共重合体における数平均分子量1000以下である成分の含有量は、25質量%未満であると好ましく、10質量%未満であるとより好ましい。上記成分の含有量がこれらの範囲にあると、正浸透膜からのドロー溶質の漏洩を抑制し易くなる。
【0017】
水酸基含有化合物に、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドをランダム付加させる際の反応条件は、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを同時に反応させること以外には特に制限されず、例えば水酸基含有化合物とエチレンオキサイド及びブチレンオキサイドをそのまま、あるいは必要に応じて溶剤により希釈して、好ましくは0~200℃、より好ましくは120~180℃、更に好ましくは120~130℃で反応させることができる。この際、触媒として、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)のようなアルカリ触媒を使用してもよい。溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。反応は、例えば、水酸基含有化合物に触媒を加え、更にエチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを反応系中にフィードすることにより行うことができる。エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドは別々のフィードラインを用いて同時にフィードしてよく、中間タンクでエチレンオキサイド及びブチレンオキサイドを混合した後に一液としてフィードしてもよい。エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドのフィードはそれぞれ複数回に分けて行ってもよく、ブチレンオキサイドのフィード時間をエチレンオキサイドのフィード時間より短くしてもよい。なお、エチレンオキサイド及びブチレンオキサイドのフィード後、十分に反応するまで1~3時間熟成することで、より反応率を高めることができる。
【0018】
反応後は、酢酸、リン酸、乳酸等の酸を加えて中和し、減圧下、0~200℃、より好ましくは120~180℃で、ランダム共重合体中に含まれるエチレングリコール等の軽質不純物の除去を行なうことが好ましい。またドロー溶質は窒素雰囲気下で保管することが好ましく、安定性向上のために酸化防止剤を添加してもよい。好適な酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0019】
ドロー溶質に酸化防止剤を添加する場合の添加量は、物性劣化防止の観点から、50質量ppm以上であると好ましく、200質量ppm以上であるとより好ましい。添加量の上限は特に限定されないが、例えば、1000質量ppm以下とすることができる。
【0020】
本実施形態のドロー溶質を水に溶解させて5質量%水溶液を調製した際の水溶液のpHは2~6であると好ましい。pHがこの範囲内にあると、酸化防止剤の劣化を抑制することが可能となり、ドロー溶質の安定性が向上する。
【0021】
本実施形態のドロー溶質の水運搬能は、52%以上であると好ましく、54%以上であるとより好ましく、56%以上であると更に好ましい。ドロー溶質の水運搬能の上限は特に限定されないが、例えば、75%以下とすることができる。
【0022】
本実施形態のドロー溶質を水に溶解させて50質量%ドロー溶液を調製した際のドロー溶液の曇点は、35~80℃であると好ましく、40~75℃であるとより好ましい。曇点がこれらの範囲であると、工場の低温排熱等を利用した水処理に正浸透膜法を適用し易くなる。曇点は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0023】
本実施形態のドロー溶質の粘度(25℃)は、550mPa・s(cPs)以下であると好ましく、500mPa・s以下であるとより好ましい。本実施形態のドロー溶質を水に溶解させて50質量%ドロー溶液を調製した際のドロー溶液の粘度(25℃)は、100mPa・s以下であると好ましく、50mPa・s以下であるとより好ましい。粘度がこれらの範囲であると、正浸透膜法におけるドロー溶液の輸送に必要なエネルギーが低くなり、コストを下げることができる。
【0024】
本実施形態のドロー溶質の純度は、輸送コスト低減の観点から、80質量%以上であると好ましく、99質量%以上であるとより好ましい。本実施形態のドロー溶質における水分量は、輸送コスト低減の観点から、1質量%未満であると好ましい。
【0025】
<ドロー溶液>
本実施形態のドロー溶液は、上記ドロー溶質を含む。ドロー溶質の含有量は、ドロー溶液全量に対して、20~100質量%であると好ましく、50~100質量%であるとより好ましく、75~100質量%であると更に好ましい。
【0026】
上記ドロー溶液は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、ドロー溶液を用いる正浸透膜法の条件等に応じて適宜選択すればよいが、水、メタノール、エタノール等から選ばれる溶媒を1種又は2種以上用いることができる。処理対象溶媒と同じ溶媒を含むことがより好ましい。溶媒の含有量は、ドロー溶液全量に対して、例えば80~0質量%とすることができる。
【0027】
上記ドロー溶液は、上記ドロー溶質以外のドロー溶質(その他のドロー溶質)を含んでいてもよいが、その含有量はドロー溶質全量に対して20質量%以下であると好ましい。ドロー溶液は、上記ドロー溶質、任意の溶媒、任意のその他のドロー溶質から構成されることが好ましく、上記ドロー溶質及び溶媒から構成されることがより好ましい。
【0028】
上記ドロー溶液は曇点(下限臨界溶液温度)を有することが好ましい。曇点とは、透明又は半透明な液体を温度変化させることにより相分離が起き、その結果不透明になる温度のことを意味する。曇点を有するドロー溶液は加熱することによりドロー溶質と溶媒とを相分離させることができる。
【0029】
上記ドロー溶液の曇点は、上記付加重合体の構成、例えばエチレンオキサイド及びブチレンオキサイドの付加モル比、付加モル数等を変更することにより、適宜調整することができ、適用する用途に合わせて適切な曇点のドロー溶液を選択することができる。
【0030】
例えば、工場の低温排熱を利用した水処理に正浸透膜法を適用する際には、正浸透膜処理を行う室温前後の温度ではドロー溶液が相分離せず、且つ工場の低温排熱程度の温度でドロー溶液が相分離することが好ましい。このような用途で用いられるドロー溶液の好適な曇点は、ドロー溶液におけるドロー溶質の濃度により変動するが、例えば、35~80℃であると好ましく、40~75℃であるとより好ましい。
【0031】
工場の低温排熱は、従来活用困難であり、多くが廃熱とされていたことから、低温排熱を用いた水処理はエネルギー効率の観点から特に好ましい。
【0032】
<正浸透膜法>
正浸透膜法では、供給液(処理対象溶液)とドロー溶液とを半透膜を介して接触させ、浸透圧の低い供給液側から浸透圧の高いドロー溶液に溶媒が移動する。溶媒の移動に伴い、ドロー溶液の濃度は徐々に低下する。このため、正浸透膜法を継続して行うためには、ドロー溶液に含まれるドロー溶質と溶媒とを分離する必要がある。
【0033】
曇点を有する上記ドロー溶液によれば、加熱によりドロー溶質と溶媒とを相分離させることができる。
【0034】
このような曇点を有するドロー溶液を用いた正浸透膜法では、例えば、以下の処理を繰り返すことにより、正浸透膜法を継続して行うことができる。
・半透膜の一方の側に供給液、他方の側にドロー溶液を、それぞれ半透膜と接触するように配置して供給液側から半透膜を通してドロー溶液側へ溶媒を移動させる。
・濃度の低下したドロー溶液を取り出して加熱し、ドロー溶質と溶媒とを相分離させる。
・相分離させたドロー溶質を再び上記他方の側に循環させる。
・相分離させた溶媒を、例えばナノろ過膜(NF膜)を用いて、更に精製して、目的の処理物(精製水等)を得る。
【0035】
上記正浸透膜処理を行う温度は特に制限されないが、通常室温前後であり、例えば5~40℃とすることができる。
【0036】
正浸透膜法に用いる半透膜(Membrane)としては、従来公知のものを用いることができるが、膜としての強度を維持するために、膜の選択透過性を決定する緻密な活性層(Active layer)と多孔質の支持層(Support layer)と組み合わせて用いることが好ましい。活性層よりも支持層の方が汚れを吸着しやすいため、膜汚れ低減の観点から、一般的には、半透膜の活性層は供給液(被処理水)側に設けることが好ましい。
【0037】
上記ドロー溶液は、正浸透膜法を利用する種々の用途に適用することができる。中でも、水処理装置や発電装置は、正浸透膜法の利用が期待される用途であり、上記ドロー溶液はこれらの用途に好適に適用可能である。
【実施例0038】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0039】
<重合体の合成>
以下に示すように、実施例1~3及び比較例1~3の重合体を合成した。各重合体について、重合体のコア、配列構造、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドとの質量比(EO/PO又はEO/BO)及び重量平均分子量、数平均分子量、粘度をまとめて表1に示す。なお、重量平均分子量、数平均分子量については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は以下のとおりである。
システム:東ソー製GPCシステムHLC-8320
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperMP-M)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperMultipore HZ-M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH2000)
展開溶媒:テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬製、特級)
展開溶媒の流量:0.35mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS-オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0040】
(実施例1)
オートクレーブに、グリセリン150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド440.0g、ブチレンオキサイド160.0gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち150.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド497.6g、ブチレンオキサイド181.0gを2時間かけて圧入し、3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を1.16g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより実施例1の重合体を得た。
【0041】
(実施例2)
オートクレーブに、グリセリン150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド402.5g、ブチレンオキサイド188.2gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち150.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド345.3g、ブチレンオキサイド161.5gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を1.74g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより実施例2の重合体を得た。
【0042】
(実施例3)
オートクレーブに、グリセリン150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド402.5g、ブチレンオキサイド205.9gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち150.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド325.2g、ブチレンオキサイド166.3gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を1.70g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより実施例3の重合体を得た。
【0043】
(実施例4)
オートクレーブに、グリセリン150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド502.3g、ブチレンオキサイド121.2gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち150.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド457.9g、ブチレンオキサイド110.4gを2時間かけて圧入し、3時間熟成を行った。その後、さらにブチレンオキサイド68.0gを1時間かけて圧入し、3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を1.16g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより実施例4の重合体を得た。
【0044】
(実施例5)
オートクレーブに、グリセリン150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド402.5g、ブチレンオキサイド188.2gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た重合体150.0gをオートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド345.3g、ブチレンオキサイド161.5gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
その後、上記工程により得た重合体150.0gをオートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド62.1g、ブチレンオキサイド38.3gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、50%乳酸を0.58g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより実施例5の重合体を得た。
【0045】
(実施例6)
オートクレーブに、エチレングリコール150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド404.6g、ブチレンオキサイド174.3gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た重合体150.0gをオートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド363.8g、ブチレンオキサイド224.7gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、50%乳酸を2.87g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより実施例6の重合体を得た。
【0046】
(比較例1)
オートクレーブに、トリメチロールプロパン150.0gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し80℃まで昇温し溶解させた。その後、50%KOH水溶液8.40gを仕込み、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド147.7g、プロピレンオキサイド177.1gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち150.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド171.2g、プロピレンオキサイド205.2gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を2.57g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより比較例1の重合体を得た。
【0047】
(比較例2)
オートクレーブに、トリメチロールプロパン150.0gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し80℃まで昇温し溶解させた。その後、50%KOH水溶液8.40gを仕込み、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド658.1gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち500.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらブチレンオキサイド175.4gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を5.19g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより比較例2の重合体を得た。
【0048】
(比較例3)
オートクレーブに、グリセリン150.0g、50%KOH水溶液8.40gを室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧した。その後、125℃まで昇温し、5時間撹拌した。0.20MPaまで昇圧した後にバブリングを停止し、エチレンオキサイド502.3gを2時間かけて圧入し、その後3時間熟成を行った。
これにより得た中間体のうち150.0gを、オートクレーブに室温にて仕込んだ後、気相部分を窒素ガスで置換し、ゲージ圧を0.20MPaとした。撹拌しながらエチレンオキサイド369.0gを2時間かけて圧入し、3時間熟成を行った。その後、さらにブチレンオキサイド226.3gを2時間かけて圧入し、3時間熟成を行った。60℃まで降温した後に解圧し、85%リン酸を1.97g投入した。窒素ガスを20mL/minでバブリングしながらゲージ圧が-0.98MPaとなるまで減圧し、125℃で3時間撹拌した。これにより比較例3の重合体を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
<評価1>
実施例及び比較例で製造した重合体について、以下の方法で、浸透圧評価、相分離性評価、粘度評価、曇点評価及び水運搬能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
(浸透圧評価)
各重合体を40質量%、50質量%又は60質量%含む水溶液をそれぞれ調製し、蒸気圧法オズモメーター(5600、WESCOR社製)を用いて浸透圧を測定した。それぞれ3回ずつ測定を行い、その平均値を浸透圧(オスモル:Osm)とした。得られた浸透圧(オスモル)を下記式により浸透圧(バール:bar)に換算した。
浸透圧(bar) = 浸透圧(Osm)×8.314×298.15/100000
【0052】
(相分離性評価)
各重合体を50質量%含む水溶液を調製し、スクリューバイアルに封入した。これを97℃のオーブンに一晩静置し、十分平衡に至らしめた後、上層(水リッチ相)約1g、下層(重合体リッチ相)約0.2gを3点ずつ採取し、それぞれアルミカップに載せた。97℃のオーブンにアルミカップを2時間静置して乾燥させ、乾燥前後の重量差から上層・下層の重合体濃度を算出した。
【0053】
(粘度評価)
B型粘度計(TVB-10、東機産業社製)を用いて25℃の粘度を測定した。
【0054】
(曇点評価)
各重合体を50質量%含む水溶液を調製し、スクリューバイアルに封入した。これを97℃のオーブンに1時間静置して分層させた後に、内温を測定しながら冷却し、目視で均一な一層となった際の温度を曇点とした。
【0055】
(水運搬能評価)
水運搬能を下記式により算出した。
水運搬能=<通水重量>/<重合体重量>×100
=(<通水後重量>-<初期重量>)/<重合体重量>×100
=(<通水後重量>-<通水後重合体濃度>/<初期重合体濃度>×<通水後重量>)/(<通水後重量>×<通水後重合体濃度>)×100
=(<初期重合体濃度>-<通水後重合体濃度>)/(<初期重合体濃度>×<通水後重合体濃度>)×100
式中、「初期重合体濃度」は、相分離性評価における下層(重合体リッチ相)の濃度を示し、「通水後重合体濃度」は、浸透圧が48バールとなる際の重合体濃度であり、浸透圧評価で測定された重合体濃度40~60質量%における浸透圧の相関式から逆算することにより算出した。
【0056】
【表2】
【0057】
<評価2>
(膜性能の評価)
正浸透モードにおける膜の流束の評価を、以下の試験手順に従って、実施例2の重合体を含む駆動溶液に関して行った。膜の流束を、Trevi Systemsによって設計及び製造されたMembrane Testing Fixture(モデルII)によって決定し、Toyobo三酢酸セルロース(CTA)中空糸FOモジュールを半透膜として利用した。脱イオン水、4.5%NaCl水溶液、7.5%NaCl水溶液を対象溶液として供給し、75%の駆動化合物(実施例2の重合体)水溶液を駆動溶液として使用した。駆動溶液の液温を、25℃、33℃、37℃、41℃、45℃の5温度に調整し、それぞれの温度で試験を行った。対象溶液及び駆動溶液の体積流量を市販の5インチ及び10インチの中空糸膜エレメントにおける流量と近くなるように選択した。駆動溶液を中空糸の活性層の方に向けた(PROモード)。対象溶液及び駆動溶液の両方を閉ループにおいて少なくとも4時間循環させた。水の流束及び逆溶質拡散を4時間の稼働時間で決定した。結果を表3にまとめる。
【0058】
【表3】
【0059】
表3から明らかであるように、実施例2の重合体を駆動化合物として用いた場合には、いずれの条件においても対象溶液側から駆動溶液側への水の移動が観測され、高い透水性を発現可能であることが確認された。