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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151565
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレースとその製作方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20241018BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241018BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241018BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E04B1/58 D
E04H9/02 311
F16F15/02 Z
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065016
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】松田 誠樹
(72)【発明者】
【氏名】高倉 恵
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AA33
2E125AB01
2E125AB08
2E125AB16
2E125AC14
2E125AC15
2E125AC16
2E125AC21
2E125AG04
2E125AG11
2E125AG31
2E125AG32
2E125AG41
2E125AG45
2E125CA05
2E125CA90
2E125EB07
2E125EB09
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA06
2E139BD14
3J048AA06
3J048AC06
3J048BC09
3J048BD07
3J048BE10
3J048EA38
3J066BA03
3J066BB01
3J066BC03
3J066BF01
3J066BG04
3J066BG05
(57)【要約】
【課題】座屈拘束ブレースを構成する芯材の広幅面と狭幅面の双方の形状や寸法への適応性が良好なアンボンド材を備え、製作性が良好な座屈拘束ブレースとその製作方法を提供すること。
【解決手段】座屈拘束ブレース100は、鋼製でプレート状の芯材10と、芯材10の広幅面10aに対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材30と、芯材10の狭幅面10bに対向し、一対の拘束材30の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材50と、芯材10の広幅面10aと拘束材30の対向面30aの少なくとも一方に取り付けられている第1アンボンド材20Aと、芯材10の狭幅面10bと補剛材50の対向面50aの少なくとも一方に取り付けられている第2アンボンド材20Bとを有し、第1アンボンド材20Aと第2アンボンド材20Bがいずれも、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の広幅面と一対の狭幅面を有する、鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の前記一対の広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材の前記一対の狭幅面に対向し、前記一対の拘束材の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材と、
前記芯材の前記広幅面と前記拘束材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第1アンボンド材と、
前記芯材の前記狭幅面と前記補剛材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第2アンボンド材とを有し、
前記第1アンボンド材と前記第2アンボンド材がいずれも、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
一対の広幅面と一対の狭幅面を有する、鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の前記一対の広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材の前記一対の狭幅面に対向し、前記一対の拘束材の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材と、
前記芯材の前記広幅面と前記拘束材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第1アンボンド材と、
前記芯材の前記狭幅面と前記補剛材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第2アンボンド材とを有し、
前記第1アンボンド材が、定型のアンボンド材により形成され、
前記第2アンボンド材が、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記アンボンド材における、前記芯材もしくは前記拘束材もしくは前記補剛材への取り付け面と反対側には、前記芯材の座屈変形用の隙間が設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記芯材の広幅面には、該芯材の長手方向に伸びて該芯材の耐力を調整する、スリットが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記スリットに、アンボンド材に含まれる第3アンボンド材が配設され、
前記第3アンボンド材が、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
座屈拘束ブレースの製作方法であって、
一対の広幅面と一対の狭幅面を有する、鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の前記一対の広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材の前記一対の狭幅面に対向し、前記一対の拘束材の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材と、を準備する、準備工程と、
前記芯材の前記広幅面と前記拘束材の対向面の少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第1アンボンド材を形成し、
前記芯材の前記狭幅面と前記補剛材の対向面の少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第2アンボンド材を形成する、アンボンド材形成工程と、
各部材を組付けて座屈拘束ブレースを製作する、組付け工程とを有することを特徴とする、座屈拘束ブレースの製作方法。
【請求項7】
前記芯材の広幅面に、該芯材の長手方向に伸びて該芯材の耐力を調整する、スリットが設けられている場合に、前記アンボンド材形成工程ではさらに、前記スリットに対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第3アンボンド材を形成することを特徴とする、請求項6に記載の座屈拘束ブレースの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースとその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、特許文献1には、芯材が一対の角形鋼管により形成される拘束材にて拘束された座屈拘束ブレースに関し、芯材から押圧力を受けた拘束材に局部破壊を生じさせない座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースである。
【0004】
この座屈拘束ブレースにおいて、板状部と拘束材との間には拘束材に接触する内挿板が設けられ、角形鋼管からなる拘束材はその各面部の交差箇所に曲面領域を有する角部を備えている。内挿板における拘束材と接触する側の面と拘束材の角部との間には、拘束材と内挿板を固定する溶接部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6445862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースによれば、既製の角形鋼管などの部材を拘束材として用いることが容易になり、高コスト化を招来することなく、芯材から押圧力を受けた拘束材の局部破壊を抑制することが可能になる。
【0007】
ところで、座屈拘束ブレースは、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられているブラケットやガセットプレート等の接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれることになる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力がブラケット等を介して座屈拘束ブレースの端部に入り、芯材の端部からその全域に外力が圧縮力等として伝達されることにより、芯材の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。より具体的には、芯材に圧縮力が作用した際にその全域でその弱軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレースの全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0008】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースでは、上記する高次モードの座屈を芯材の広幅面に生じさせるべく、ブチルゴム等の変形性能を有するアンボンド材を芯材の広幅面と拘束材の間に介在させ、アンボンド材の厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で芯材の弱軸方向の高次モードの座屈を生じさせるようにしている。ところで、芯材に圧縮力が作用した際には、広幅面である弱軸方向のみならず、狭幅面である強軸方向へも座屈が生じ得るが、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースでは、この強軸方向への座屈に対応するアンボンド材に関する記載がない。
【0009】
仮に、広幅面(弱軸方向)と同様に、ブチルゴム等からなるアンボンド材を芯材の狭幅面(強軸方向)に適用しようとした際には、市販品である定形のブチルゴムを芯材の狭幅面に合わせて切断加工し、寸法合わせをした後に当該狭幅面に対して切断加工されたブチルゴムを取り付ける一連の製作を要する。しかしながら、この切断加工や取り付け加工には多大な手間がかかるとともに、この一連の製作を精度よく行うことは極めて困難である。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、座屈拘束ブレースを構成する芯材の広幅面と狭幅面の双方の形状や寸法への適応性が良好なアンボンド材を備え、製作性が良好な座屈拘束ブレースとその製作方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
一対の広幅面と一対の狭幅面を有する、鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の前記一対の広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材の前記一対の狭幅面に対向し、前記一対の拘束材の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材と、
前記芯材の前記広幅面と前記拘束材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第1アンボンド材と、
前記芯材の前記狭幅面と前記補剛材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第2アンボンド材とを有し、
前記第1アンボンド材と前記第2アンボンド材がいずれも、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、芯材の広幅面と拘束材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている第1アンボンド材と、芯材の狭幅面と補剛材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている第2アンボンド材がいずれも、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることにより、例えば芯材の広幅面(弱軸方向)と狭幅面(強軸方向)のアンボンド材を塗布や散布等により塗工して形成されることから、アンボンド材の製作性が良好になり、芯材の形状や寸法への適応性が良好なアンボンド材を備えた座屈拘束ブレースとなる。
【0013】
ここで、「芯材の広幅面と拘束材の対向面の少なくとも一方」とは、芯材の広幅面と拘束材の対向面の双方と、芯材の広幅面と拘束板の対向面のいずれか一方を含む意味である。同様に、「芯材の狭幅面と補剛材の対向面の少なくとも一方」とは、芯材の狭幅面と補剛材の対向面の双方と、芯材の広幅面と補剛材の対向面のいずれか一方を含む意味である。
【0014】
従来のブチルゴム等からなるアンボンド材は、その厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で高次モードの座屈を生じさせることを可能としているのに対して、芯材の広幅面と拘束材の対向面の少なくとも一方と、芯材の狭幅面と補剛材の対向面の少なくとも一方のそれぞれにおいて、塗工により第1アンボンド材と第2アンボンド材が形成される本態様では、第1アンボンド材に芯材の弱軸方向の高次モードの座屈を生じさせるためのクリアランスが設けられ、第2アンボンド材に芯材の強軸方向の高次モードの座屈を生じさせるためのクリアランスが設けられることになる。
【0015】
また、例えば芯材の広幅面に取り付けられている第1アンボンド材と拘束材の間に、鋼製の内挿板が介在している形態であってもよい。この内挿板により、芯材の弱軸方向への高次モードの座屈による押圧力が拘束材に直接作用して、拘束材が局部破壊することを効果的に抑制することが可能になる。
【0016】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
一対の広幅面と一対の狭幅面を有する、鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の前記一対の広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材の前記一対の狭幅面に対向し、前記一対の拘束材の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材と、
前記芯材の前記広幅面と前記拘束材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第1アンボンド材と、
前記芯材の前記狭幅面と前記補剛材の対向面の少なくとも一方に取り付けられている、アンボンド材に含まれる第2アンボンド材とを有し、
前記第1アンボンド材が、定型のアンボンド材により形成され、
前記第2アンボンド材が、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、芯材の広幅面に対応する第1アンボンド材に定型のアンボンド材を適用し、芯材の狭幅面に対応する第2アンボンド材に潤滑剤と合成樹脂の混合材を適用することにより、切断加工性と取り付け性が特に困難な芯材の狭幅面に対応する第2アンボンド材の製作性が良好になり、芯材の形状や寸法への適応性が良好なアンボンド材を備えた座屈拘束ブレースとなる。
【0018】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記アンボンド材における、前記芯材もしくは前記拘束材もしくは前記補剛材への取り付け面と反対側には、前記芯材の座屈変形用の隙間が設けられていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、第1アンボンド材と第2アンボンド材における、芯材もしくは拘束材もしくは補剛材への取り付け面と反対側において、芯材の弱軸方向と強軸方向への座屈変形用の隙間が設けられていることにより、この隙間にて芯材の弱軸方向と強軸方向の双方の高次モードの座屈を吸収することができる。
【0020】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記芯材の広幅面には、該芯材の長手方向に伸びて該芯材の耐力を調整する、スリットが設けられていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、芯材の広幅面において当該芯材の耐力を調整するスリットが設けられていることにより、例えば芯材の全断面では、断面積が大き過ぎて耐力が高くなり過ぎる場合に芯材の断面積をスリットにて調整することができる。
【0022】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記スリットに、アンボンド材に含まれる第3アンボンド材が配設され、
前記第3アンボンド材が、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、芯材の広幅面にスリットが設けられている場合に、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されているアンボンド材がスリットに配設されていることによって、例えば、スリットに硬質なスペーサーを挿入した場合に、芯材が座屈変形した際にスペーサーとスリットの壁面との間に摩擦力が発生するといった課題は生じない。このスペーサーは、芯材にスリットを設けたことにより、芯材が内側へ変形することを抑制するための手段である。また、スリットは一般に細長の溝であるため、定型のブチルゴム等を切断加工してスリットに嵌め込む製作は実質的に不可能となるが、本態様では、スリットに潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗工することで、スリット内に第3アンボンド材を容易に配設することができる。
【0024】
また、本発明による座屈拘束ブレースの製作方法の一態様は、
座屈拘束ブレースの製作方法であって、
一対の広幅面と一対の狭幅面を有する、鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の前記一対の広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材の前記一対の狭幅面に対向し、前記一対の拘束材の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材と、を準備する、準備工程と、
前記芯材の前記広幅面と前記拘束材の対向面の少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第1アンボンド材を形成し、
前記芯材の前記狭幅面と前記補剛材の対向面の少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第2アンボンド材を形成する、アンボンド材形成工程と、
各部材を組付けて座屈拘束ブレースを製作する、組付け工程とを有することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、芯材の広幅面と拘束材の対向面の少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第1アンボンド材を形成し、芯材の狭幅面と補剛材の対向面の少なくとも一方に対して、同様に混合材を塗布もしくは散布して第2アンボンド材を形成することにより、第1アンボンド材と第2アンボンド材の双方の製作性が良好になり、芯材の形状や寸法への適応性が良好なアンボンド材を備えた座屈拘束ブレースを製作することができる。
【0026】
また、本発明による座屈拘束ブレースの製作方法の他の態様は、
前記芯材の広幅面に、該芯材の長手方向に伸びて該芯材の耐力を調整する、スリットが設けられている場合に、前記アンボンド材形成工程ではさらに、前記スリットに対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第3アンボンド材を形成することを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、芯材の広幅面に設けられているスリットに対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗工することにより、細長の溝であるスリットに対して定型のブチルゴム等を切断加工して嵌め込む製作が実質的に不可能であるのに対して、スリット内に第3アンボンド材を容易に配設することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースとその製作方法によれば、座屈拘束ブレースを構成する芯材の広幅面と狭幅面の双方の形状や寸法への適応性が良好なアンボンド材を備え、製作性が良好な座屈拘束ブレースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図である。
図2A】実施形態に係る座屈拘束ブレースの組立前状態の一例の軸直交方向の縦断面図である。
図2B】実施形態に係る座屈拘束ブレースの組立前状態の他の例の軸直交方向の縦断面図である。
図3】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図4】実施形態に係る座屈拘束ブレースの組立状態の一例の軸直交方向の縦断面図である。
図5A】芯材から拘束材と補剛材に対して、高次モードの座屈の際の補剛力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面の模式図である。
図5B】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の補剛力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面の模式図である。
図5C】芯材から補剛材に対して、高次モードの座屈の際の補剛力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面の模式図である。
図6】芯材の広幅面におけるスリットの有無に応じた芯材の断面2次モーメントを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法について添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0031】
[実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法]
図1乃至図6を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図であり、図2A図2Bはいずれも、実施形態に係る座屈拘束ブレースの組立前状態の軸直交方向の縦断面図である。また、図3は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、図4は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの組立状態の一例の軸直交方向の縦断面図である。
【0032】
座屈拘束ブレース100は、芯材10と、芯材10の有する一対の広幅面10aに対向するように配設されている一対の拘束材30と、芯材10の有する一対の狭幅面10bに対向するように配設されている一対の補剛材50と、芯材10と拘束材30の間に介在する第1アンボンド材20Aと、芯材10と補剛材50の間に介在する第2アンボンド材20Bとを有する。ここで、図示例の他に、第1アンボンド材20と拘束材30の間に、鋼製の内挿板が介在する形態であってもよい。
【0033】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、これらの材料からなる芯材10を適用することにより、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0034】
芯材10は、細長の鋼板により形成され、その長手方向の中央側において広幅面10aの幅が相対的に狭い狭幅部11を有し、その長手方向の端部側において広幅面10aの幅が相対的に広い広幅部12を有している。
【0035】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部11を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部11を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11に限定させることができる。
【0036】
芯材10の狭幅部11の中央位置において、狭幅部11の二つの広幅面10aには、鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部11の広幅面10aに対して溶接等により接合されている。
【0037】
拘束材30は、断面視矩形の角形鋼管により形成されている。拘束材30のうち、第1アンボンド材20Aが形成される対向面30aには、芯材10の突起15が嵌まり込む突起孔30bが設けられている。
【0038】
芯材10の側方において、一対の拘束材30の両側(矩形の短辺に対応する側面)を一対の鋼板からなる補剛材50が溶接等によって繋いでおり、芯材10は、一対の拘束材30と一対の補剛材50とにより包囲されている。
【0039】
芯材10の狭幅部11の突起15の両側には、芯材10の耐力調整用の細孔であるスリット14が設けられており、図1では、スリット14に対して第3アンボンド材20CがX1方向に模式的に取り付けられる態様で図示されているが、実際には、第3アンボンド材20Cは定型の部材ではなく、潤滑剤と合成樹脂の混合材がスリット14に塗布もしくは散布されることにより、スリット14の内部において第3アンボンド材20Cが形成される。
【0040】
ここで、潤滑剤には、固体潤滑剤と液体潤滑剤があり、固体潤滑剤には、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト(黒鉛)、フッ素樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)などが挙げられ、摩擦面に固体潤滑膜が形成されることにより、摩擦面材料の直接接触を抑制してかじりの発生を抑制できる。一方、液体潤滑剤には、潤滑油が挙げられる。また、合成樹脂(塗料)には、エポキシ樹脂やシリコン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、塩化ゴム樹脂、ケイ素樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0041】
芯材10の両端にある広幅部12には、その広幅面10aに直交して他部材に接合される、一対の鋼板からなる接合板13が溶接等により接合されている。
【0042】
広幅部12と接合板13にはそれぞれボルト孔12a,13aが設けられており、不図示の建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具(他部材)のボルト孔と位置合わせされ、ボルト接合されるようになっている。
【0043】
一対の接合板13に対して鋼板からなる補強板18が溶接等により接合され、芯材10の広幅部12と一対の接合板13と補強板18とにより形成される空間に、拘束材30の端部が収容されるようになっている。
【0044】
第1アンボンド材20Aと第2アンボンド材20Bは、第3アンボンド材20Cと同様に、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されている。
【0045】
図1では、拘束材30における芯材10の広幅面10aに対向する対向面30aに対して、第1アンボンド材20AがX2方向に模式的に取り付けられる態様で図示されているが、実際には、図2Aに示すように、拘束材30の対向面30aに対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を刷毛等による塗布や散布等により、薄厚で中央に突起孔20aを備えた第1アンボンド材20Aが形成される。同様に、図1では、補剛材50における芯材10の狭幅面10bに対向する対向面50aに対して、第2アンボンド材20BがX3方向に模式的に取り付けられる態様で図示されているが、実際には、図2Aに示すように、補剛材50の対向面50aに対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を刷毛等による塗布や散布等により、薄厚の第2アンボンド材20Bが形成される。
【0046】
ここで、拘束材30の対向面30aや補剛材50の対向面50aに対してアンボンド材20を形成することに代えて、図2Bに示すように、芯材10の広幅面10aに第1アンボンド材20Aを形成し、芯材10の狭幅面10bに第2アンボンド材20Bを形成してもよい。さらに、図示を省略するが、拘束材30の対向面30aと芯材10の広幅面10aの双方に第1アンボンド材20Aを形成し、補剛材50の対向面50aと芯材10の狭幅面10bの双方に第2アンボンド材20Bを形成してもよい。
【0047】
また、図示を省略するが、拘束材30と芯材10の広幅面10aの間に内挿板が介在する形態では、内挿板における芯材10の広幅面10aに対向する対向面に第1アンボンド材が形成される形態や、内挿板の対向面と芯材10の広幅面10aの双方に第1アンボンド材が形成される形態などもある。
【0048】
従来のブチルゴム等からなるアンボンド材と比べて、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されるアンボンド材20は、摩擦係数:μ=0.04と低摩擦を実現でき、300℃程度の耐熱温度を実現できる。
【0049】
また、潤滑剤と合成樹脂の混合材を拘束材30の対向面30aや芯材10の広幅面10a等に塗工することによりアンボンド材20が形成されることから、様々な形状及び寸法の拘束材30や芯材10、補剛材50への適応性が良好になり、従来のブチルゴム等からなるアンボンド材のように拘束材30等の形状及び寸法に合わせて市販品を切断加工等する手間を不要にできる。
【0050】
特に、芯材10の狭幅面10bに対応する狭幅の第2アンボンド材20Bの製作や補剛材50等への取り付けは容易でないことから、第2アンボンド材20Bを補剛材50等へ取り付ける製作性は格段に向上する。
【0051】
さらに、芯材10の備える幅が0.5mm乃至1mm程度の細長のスリット14に対して、定型のブチルゴムを切断加工してスリット14に嵌め込む製作は実質的に不可能となるが、スリット14に対して潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗工する方法により、スリット14内に第3アンボンド材20Cを容易に配設することができる。
【0052】
ここで、図示を省略するが、第2アンボンド材20Bや第3アンボンド材20Cに比べて、寸法が大きく、相対的に製作性が良好である第1アンボンド材20Aは、定型のブチルゴム等を切断加工して、拘束材30の対向面30aや補剛材50の対向面50a等に取り付け、第2アンボンド材20Bと第3アンボンド材20Cは図示例と同様に混合材の塗工により形成されている座屈拘束ブレースであってもよい。
【0053】
図4に示すように、拘束材30の対向面30aに形成される第1アンボンド材20Aと芯材10の広幅面10aとの間には、例えば1mm前後の隙間25が形成される。一方、補剛材50の対向面50aに形成される第2アンボンド材20Bと芯材10の狭幅面10bとの間にも、例えば1mm前後の隙間26が形成される。
【0054】
これらの隙間25,26の内部には、座屈拘束ブレース100が組み込まれた建物架構の変形の際に芯材10に圧縮力が作用し、狭幅部11の広幅面10aと狭幅面10bにおいて、面外方向である弱軸方向と面内方向である強軸方向の高次モードの座屈(波状の変形)がそれぞれ生じるようになっている。
【0055】
ここで、座屈拘束ブレース100の製作方法を概説する。まず、鋼製でプレート状の芯材10と、角形鋼管からなる一対の拘束材30と、芯材10の一対の狭幅面10bに対向し、一対の拘束材30の側面を繋ぐ、鋼製でプレート状の一対の補剛材50とを準備する(以上、準備工程)。
【0056】
次いで、芯材10の広幅面10aと拘束材30の対向面30aの少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第1アンボンド材20Aを形成する。また、芯材10の狭幅面10bと補剛材50の対向面50aの少なくとも一方に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第2アンボンド材20Bを形成する。さらに、芯材10の広幅面10aに設けられているスリット14に対して、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗布もしくは散布して第3アンボンド材20Cを形成する(以上、アンボンド材形成工程)。
【0057】
次いで、各部材を相互に溶接接合やボルト接合等によって組付けることにより、図3に示す座屈拘束ブレース100を製作する(組付け工程)。
【0058】
次に、図5図6を参照して、芯材10の弱軸方向と強軸方向に生じる高次モードの座屈と、座屈の際の補剛力によって生じ得る、芯材と拘束材の間の摩擦力と、芯材と補剛材の間の摩擦力に対する、アンボンド材による摩擦力低減効果について説明する。ここで、図5Aは、芯材から拘束材と補剛材に対して、高次モードの座屈の際の補剛力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面の模式図である。また、図5Bは、芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の補剛力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面の模式図である。また、図5Cは、芯材から補剛材に対して、高次モードの座屈の際の補剛力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面の模式図である。さらに、図6は、芯材の広幅面におけるスリットの有無に応じた芯材の断面2次モーメントを説明する図である。
【0059】
座屈拘束ブレース100は、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられている接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力が接続治具を介して座屈拘束ブレース100の端部に入り、図5B及び図5Cに示すように、芯材10の端部からその全域に外力が圧縮力Nとして伝達されることにより、芯材10の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。
【0060】
言い換えると、芯材10に圧縮力Nが作用した際に、図5A乃至図5Cに示すように、芯材10の全域でその弱軸方向と強軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材10の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレース100の全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0061】
図5A図5Bに示すように、芯材10が弱軸方向に座屈変形することにより、座屈変形の際の山や谷から第1アンボンド材20Aを介して拘束材30に対して補剛力Q1が作用する。一方、図5A図5Cに示すように、芯材10が強軸方向に座屈変形することにより、座屈変形の際の山や谷から第2アンボンド材20Bを介して補剛材50に対して補剛力Q2が作用する。
【0062】
ここで、芯材10の広幅面10aには、芯材10の耐力を調整するスリット14が設けられていることにより、例えば芯材10の全断面では、断面積が大き過ぎて耐力が高くなり過ぎる場合に、芯材10の断面積がスリット14にて調整されている。芯材10にスリット14が設けられることにより、芯材10の断面2次モーメントは小さくなる。具体的には、図6に示すように、芯材10の厚みがb、幅がh1である場合に、スリット14が存在しない場合の芯材10の断面2次モーメントIは、I=1/12×bh となり、スリット14が存在する場合の芯材10の断面2次モーメントIは、I=1/12×bh (×2)となり、断面2次モーメントは芯材10の幅hの3乗に比例することになる。
【0063】
芯材10の座屈荷重をmax、芯材10の高次座屈モードの波長をl、芯材の断面2次モーメントをIとした際に、l =4πmaxなる公知の関係式に基づけば、芯材10の高次座屈モードの波長lは芯材10の断面2次モーメントIの平方根に比例し、補剛力Q1,Q2(4maxs/l)は波長lに反比例する。すなわち、芯材10の断面2次モーメントが小さいほど座屈時の波長は小さくなり、補剛力Q1,Q2は大きくなる。芯材10の広幅面10aにスリット14を設けることにより、特に強軸方向の断面2次モーメントが小さくなることにより、補剛力Q1,Q2の総和は大きくなる。
【0064】
座屈拘束ブレース100に圧縮力Nが作用した際の荷重増加分は、芯材10の座屈時の補剛力Q1,Q2が拘束材30や補剛材50に摩擦力F1,F2として伝達されることになり、この摩擦力F1,F2は芯材10と拘束材30や補剛材50との間の摩擦係数μ1,μ2と補剛力Q1,Q2の積で表される。芯材10と拘束材30や補剛材50との間の摩擦力F1,F2は、拘束材30や補剛材50の破損や芯材10の変形抑制の要因となり得ることから低減されることが好ましい。
【0065】
上記するように、スリット14を備えた芯材10の断面2次モーメントは規定値であることから、摩擦力F1,F2を低減するには、摩擦係数μ1,μ2を低下させる必要があるが、芯材10の広幅面10aと狭幅面10bに対応する第1アンボンド材20Aと第2アンボンド材20Bによって、芯材10と拘束材30の間の摩擦係数μ1と、芯材10と補剛材50の間の摩擦係数μ2の双方を低下させることが可能となり、摩擦力F1,F2を効果的に低減することができる。
【0066】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0067】
10:芯材
10a:広幅面
10b:狭幅面
11:狭幅部
12:広幅部
12a:ボルト孔
13:接合板
13a:ボルト孔
14:スリット
15:突起
18:補強板
20:アンボンド材
20A:第1アンボンド材(アンボンド材)
20B:第2アンボンド材(アンボンド材)
20C:第3アンボンド材(アンボンド材)
20a:突起孔
25,26:隙間
30:拘束材(角形鋼管)
30a:対向面
30b:突起孔
50:補剛材
50a:対向面
100:座屈拘束ブレース
N:軸力(圧縮力)
Q1,Q2:補剛力(押圧力)
F1,F2:摩擦力
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6