IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 伊勢化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 千葉大学の特許一覧

<>
  • 特開-ヨウ素の製造方法 図1
  • 特開-ヨウ素の製造方法 図2
  • 特開-ヨウ素の製造方法 図3
  • 特開-ヨウ素の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151588
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ヨウ素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/24 20210101AFI20241018BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241018BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20241018BHJP
   C25B 15/029 20210101ALI20241018BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20241018BHJP
   C25B 15/031 20210101ALI20241018BHJP
   C01B 7/14 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C25B1/24
C25B9/00 Z
C25B9/19
C25B15/029
C25B15/08 302
C25B15/031
C01B7/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065050
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】川本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝義
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA02
4K021AB11
4K021BA11
4K021BB01
4K021BB02
4K021BB03
4K021BC01
4K021BC03
4K021BC07
4K021CA08
4K021CA09
4K021CA10
4K021DB36
4K021DB50
4K021DC11
4K021DC15
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】
電解中のヨウ素の析出による不具合を生じることなく、ヨウ素を製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】
ヨウ素の製造方法であって、有機ヨウ素化合物を含む水溶液である被処理液が収容された還元槽において、前記有機ヨウ素化合物を還元することにより脱ヨウ素化する第一工程と、ハロゲン化物イオンを含む水溶液である回収液が収容された酸化槽において、酸化反応に伴って生じたヨウ素を含有するポリハロゲン化物イオンを含む水溶液を回収する第二工程と、を備える、製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素の製造方法であって、
有機ヨウ素化合物を含む水溶液である被処理液が収容された還元槽において、前記有機ヨウ素化合物を電解反応により還元することによって脱ヨウ素化する第一工程と、
ハロゲン化物イオンを含む水溶液である回収液が収容された酸化槽において、電解による酸化反応によってヨウ素を生じさせ、生じたヨウ素を当該ヨウ素と前記ハロゲン化物イオンとが結合したポリハロゲン化物イオンを含む水溶液として回収する第二工程と、を備える、製造方法。
【請求項2】
前記第二工程において回収された前記ポリハロゲン化物イオンを含む水溶液からヨウ素を生じさせる第三工程、を更に備える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第三工程が、ヨウ素気化吸収法、イオン交換樹脂吸着法、及び固液分離法から選択される少なくとも一つ以上により行われる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機ヨウ素化合物が、芳香族ヨウ素化合物を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ヨウ素化合物が、非イオン性トリヨウ素化モノマー化合物及び非イオン性トリヨウ素化ダイマー化合物から選択される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記芳香族ヨウ素化合物が、互いにメタ位の位置関係に結合した2つ以上のヨウ素原子を有するベンゼン環1つ以上含む化合物である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記還元槽及び酸化槽にそれぞれ貯槽が接続されている、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化物イオンがヨウ化物イオンを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第一工程及び前記第二工程において、前記被処理液に存在する有機物と共有結合したヨウ素原子の総モル量の50%よりも、前記還元槽内の前記被処理液、及び酸化槽内の回収液に含まれるハロゲン化物イオンの総モル量のほうが大きい、
ただし前記還元槽に貯槽が接続されている場合は前記貯槽内の水溶液に含まれるハロゲン化物イオンも前記総モル量に含め、前記酸化槽に貯槽が接続されている場合は前記貯槽内の前記水溶液に含まれるハロゲン化物イオンも前記総モル量に含める、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第二工程において、前記回収液における前記ハロゲン化物イオンの濃度を監視し、前記回収液における前記ハロゲン化物イオンの濃度が所定の下限値を下回った際に前記ハロゲン化物イオンを前記回収液に添加し、回収液における前記ハロゲン化物イオンの濃度が前記下限値を上回るよう調整し運転を行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記被処理液及び前記回収液のpHが7.0以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記被処理液における有機物と共有結合したヨウ素の元素濃度が0.2g-I/L以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヨウ素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は日本が世界二位の生産量を誇り、元素資源として世界中で利用されている(例えば、特許文献1~5、非特許文献1~3)。主な用途はX線造影剤、触媒、殺菌・防カビ剤、偏光フィルム等であり、今後も使用量が増加すると予想される。特に、X線造影剤、有機ヨウ素触媒、フッ素樹脂等の中間体に有機ヨウ素化合物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-157006
【特許文献2】特開2020-522456
【特許文献3】中国特許第103508421号明細書
【特許文献4】特開平1-294503
【特許文献5】特開2001-293472
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】GEヘルスケアファーマ株式会社:オムニパーク(登録商標)180注10mL、オムニパーク(登録商標)240注10mL、オムニパーク(登録商標)300注10mL,インタビューフォム
【非特許文献2】G. D. Moro, et al., “Iodinated contrastmedia electro-degradation: Process performance and degradation pathways”, Science of The Total Environment, 2015, 506-507, pp.631-643. DOI[10.1016/j.scitotenv.2014.10.115]
【非特許文献3】C. Zwiener, et al., “Electrochemicalreduction of the iodinated contrast medium iomeprol: iodine mass balance andidentification of transformation products”, Analyticaland Bioanalytical Chemistry, 2009, 395(6), pp.1885-1892. DOI[10.1007/s00216-009-3098-9]
【非特許文献4】Christopher A. Paddon, et al., “Electrocatalytic reduction of alkyliodides in tetrahydrofuran at silver electrodes”, Journal of Physical OrganicChemistry, 2007, 20(2), pp.115-121. DOI[10.1002/poc.1133]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、有機ヨウ素化合物の中で代表的な化合物であるヨウ素系造影剤は、X線を吸収する特性から、放射線透過性の組織間の境界を描出するのに役立っている。有機ヨウ素化合物の用途の20%を超える造影剤に関して、資源枯渇抑制や経済的な理由から、効率よくヨウ素を分離製造するリサイクル技術の確立が急務とされている。
【0006】
ヨウ素系造影剤の化学構造は、ベンゼン環等の芳香族有機化合物に複数のヨウ素原子が共有結合した芳香族ヨウ素化合物を基本構造として持つ。芳香族ヨウ素化合物は造影剤のみでなく、医薬品、農薬、工業品の原料、中間体、製品等に至るまで様々な化合物がいたるところで用いられている。これらの芳香族ヨウ素化合物から結合した有機ヨウ素を回収するには、芳香環から適切に有機ヨウ素を脱ヨウ素化し、反応残渣である有機物や夾雑物と分離精製する必要がある。
【0007】
有機ヨウ素化合物において、炭素-炭素の結合エネルギーに対して、ヨウ素-炭素の結合エネルギーが低いため、優先的にヨウ素-炭素結合が切断されることが知られている。一方で、芳香族ヨウ素化合物は、脂肪族ヨウ素化合物と比較して、化学的に求核置換を受けにくい。そのため、芳香族ヨウ素化合物はS反応によって脱ヨウ素反応が起こりにくく、脱ヨウ素反応において副反応が起こる等で反応効率が悪い。
【0008】
芳香族ヨウ素化合物からヨウ素を優先的に脱離する技術として、酸又はアルカリによる溶液反応の技術が知られている(特許文献1、2、3、及び非特許文献1)。しかしながら、これらの公知文献に記載の回収方法では、薬液、触媒、加温などの多くの準備や操作が必要であり、回収費用に見合うヨウ素の回収方法とはいえなかった。また、複数のヨウ素原子が結合した芳香族ヨウ素化合物において、一部のヨウ素原子が脱離せず、回収が出来ずにヨウ素原子が失われる。更に、設備運転中に蒸気圧の低いヨウ化水素酸の気化による作業環境上の危険が伴う。
【0009】
電解法は、穏和な環境下でも有機物からのハロゲン部位の選択還元性に優れ、有機物からの選択的な脱ヨウ素技術などの目的で一般的に知られている。ヨウ素系造影剤等に電解法を用いて還元することで、有機物の骨格に影響せず、ヨウ素原子を優先的かつ選択的に脱離できることが知られている(特許文献4、非特許文献2、3及び4)。
【0010】
しかし、これらの電解法を用いると還元槽で脱離したヨウ化物イオンがアノードに移動し、アノード酸化を起こすことで分子状のヨウ素が生じる。反応が進むことでヨウ素の溶解度を超えて固体状態のヨウ素結晶が析出してしまうという問題がある。ヨウ素の結晶は電極上に析出するため電気抵抗になる、電解装置の通液部分を閉塞する、処理液を排出する配管に目詰まりを起こす原因となるなど、多くの問題を誘発する。そのため、難溶解性であるヨウ素の溶解度を超えない濃度範囲での実施しかできず、実用に向いていなかった。
【0011】
酸化槽に入れた回収液にアルカリ水溶液、還元剤等を添加して、ヨウ素の結晶析出を抑制する技術も知られている(特許文献5)。溶解度を超える濃度で回収されたヨウ素は、以降のヨウ素精製工程で酸、酸化剤等を添加することで高純度のヨウ素へと精製する。つまり、回収液に過剰に添加した薬液は、ヨウ素の精製工程においてそれを中和するための薬品やエネルギーが必要となり、経済的観念から非効率的である。
【0012】
本開示は、上述の事情に鑑みなされたものであり、電解中のヨウ素の析出による不具合を生じることなく、ヨウ素を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
ヨウ素の製造方法であって、
有機ヨウ素化合物を含む水溶液である被処理液が収容された還元槽において、前記有機ヨウ素化合物を電解反応により還元することによって脱ヨウ素化する第一工程と、
ハロゲン化物イオンを含む水溶液である回収液が収容された酸化槽において、電解による酸化反応によってヨウ素を生じさせ、生じたヨウ素を当該ヨウ素と前記ハロゲン化物イオンとが結合したポリハロゲン化物イオンを含む水溶液として回収する第二工程と、を備える、製造方法。
[2]
前記第二工程において回収された前記ポリハロゲン化物イオンを含む水溶液からヨウ素を生じさせる第三工程、を更に備える、[1]の製造方法。
[3]
前記第三工程が、ヨウ素気化吸収法、イオン交換樹脂吸着法、及び固液分離法から選択される少なくとも一つ以上により行われる、[2]の製造方法。
[4]
前記有機ヨウ素化合物が、芳香族ヨウ素化合物を含む、[1]~[3]のいずれか一つの製造方法。
[5]
前記芳香族ヨウ素化合物が、非イオン性トリヨウ素化モノマー化合物及び非イオン性トリヨウ素化ダイマー化合物から選択される、[4]の製造方法。
[6]
前記芳香族ヨウ素化合物が、互いにメタ位の位置関係に結合した2つ以上のヨウ素原子を有するベンゼン環1つ以上含む化合物である、[4]又は[5]の製造方法。
[7]
前記第一工程及び前記第二工程が、還元槽と酸化槽に電極を設置し、隔膜により仕切られた2槽で構成され、更に酸化槽と還元槽に貯槽を有し、二つの工程を電圧印加することで同時に行われる、[1]~[6]のいずれか一つの製造方法。
[8]
前記ハロゲン化物イオンがヨウ化物イオンを含む、[1]~[7]のいずれか一つの製造方法。
[9]
前記第一工程及び前記第二工程において、前記被処理液に存在する有機物と共有結合したヨウ素原子の総モル量の50%よりも、前記被処理液及び前記回収液に含まれるハロゲン化物イオンの総モル量のほうが大きい、[1]~[8]のいずれか一つの製造方法。
[10]
前記第二工程において、前記回収液における前記ハロゲン化物イオンの濃度を監視し、前記回収液における前記ハロゲン化物イオンの濃度が所定の下限値を下回った際にハロゲン化物イオンを前記回収液に添加し、回収液における前記ハロゲン化物イオンの濃度が前記下限値を上回るよう調整し運転を行う、[1]~[9]のいずれか一つの製造方法。
[11]
前記被処理液及び前記回収液のpHが7.0以下である、[1]~[10]のいずれか一つの製造方法。
[12]
前記被処理液における有機物と共有結合したヨウ素原子換算の濃度が0.2g-I/L以上である、[1]~[11]のいずれか一つの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、電解中のヨウ素の析出による不具合を生じることなく、ヨウ素を製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の電解装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、電解槽においてアノード上、及びカソード上でそれぞれで起こる半反応式の一例を示す図である。
図3図3は本実施形態の製造方法の一例を示す概念図である。
図4図4は従来の製造方法の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態のヨウ素の製造方法は、有機ヨウ素化合物を含む水溶液である被処理液が収容された還元槽において、前記有機ヨウ素化合物を電解反応により還元することによって脱ヨウ素化する第一工程と、ハロゲン化物イオンを含む水溶液である回収液が収容された酸化槽において、電解による酸化反応によってヨウ素を生じさせ、生じたヨウ素を当該ヨウ素と前記ハロゲン化物イオンとが結合したポリハロゲン化物イオンを含む水溶液として回収する第二工程と、を備える。なお、本実施形態で製造される「ヨウ素」は分子状のヨウ素(I)である。また、被処理液は、還元槽に収容され、還元槽において電解反応に供される水溶液である。回収液は、酸化槽で電解反応に供され、その後回収される水溶液である。
【0017】
本実施形態のヨウ素の製造方法は、電解反応を利用することから電解槽内で行われる。電解槽は、カソード(陰極)が配置された還元槽と、アノード(陽極)が配置された酸化槽と還元槽と酸化槽とを仕切る隔膜とを有する。第一工程は還元槽において行われ、第二工程の酸化反応は酸化槽内で行われ、酸化槽内で生じたポリハロゲン化物イオンを含む水溶液は、ヨウ素の製造及び精製のため回収される。第一工程の還元反応及び第二工程の酸化反応は上記カソード及びアノードの間に電圧を印加することにより同時に行われる。すなわち、本実施形態のヨウ素の製造方法では、還元槽に収容された被処理液に含まれる有機ヨウ素化合物を電解反応により還元(電解還元)して脱ヨウ素化すると共に、酸化槽に収容された回収液において電解反応による酸化(電解酸化)によってヨウ素(I)を生じさせ、生じたヨウ素はハロゲン化物イオンと結合してポリハロゲン化物イオンとなる。当該ポリハロゲン化物イオンは回収液中で生じるため水溶液の形態で回収することができる。
【0018】
上記製造方法によれば、有機ヨウ素化合物を、電解法を用いて選択的に脱ヨウ素化し、穏和な運転条件で、溶液状態で回収する方法を提供することができる。また、上記製造方法では、酸化槽で回収液中のハロゲン化物イオンがアノード上で生成したヨウ素とポリハロゲン化物イオンを形成する。そのため、本発明者らはヨウ素結晶として析出せずに、有機ヨウ素化合物から脱ヨウ素化し、得られたヨウ素を、高純度ヨウ素として高い回収率で製造できる傾向にあることを見出した。
【0019】
また、アノード上で生成したヨウ素は遊離ヨウ素状態で電荷を持たないため、還元槽へ再拡散し、ヨウ素からヨウ化物イオンへの還元反応を起こすことが懸念される。本実施形態の製造方法によれば、ヨウ素をポリハロゲン化物イオンにイオン化することで電気的引力により酸化槽に保持し、ヨウ素がカソードで還元されることがないため電解効率を向上させる傾向にもあり、非常に有用である。
【0020】
<有機ヨウ素化合物>
有機ヨウ素化合物は、炭素原子又はヘテロ原子と共有結合した一つ以上のヨウ素原子を有する有機化合物である。有機ヨウ素化合物としては、脂肪族ヨウ素化合物及び芳香族ヨウ素化合物のいずれであってもよい。なお、芳香族ヨウ素化合物は、芳香環の環員である原子(炭素原子であってよく、炭素原子以外のヘテロ原子であってもよい)に共有結合した一つ以上のヨウ素原子を有する化合物を指す。また、脂肪族ヨウ素化合物は、化合物の脂肪族部分が有する炭素原子に共有結合した一つ以上のヨウ素原子を有する化合物を指す。当該脂肪族部分は直鎖、分岐鎖及び脂環式の炭化水素部分のいずれであってもよい。脂環式の炭化水素部分は、炭素環及び複素環のいずれであってもよい。また、有機ヨウ素化合物は、イオン性であってもよいが、非イオン性の化合物であってもよい。また、有機ヨウ素化合物は、ヨードニウム塩等、正の形式電荷を有するヨウ素原子を含む化合物であってもよいが、有機ヨウ素化合物が有する炭素原子と共有結合したヨウ素原子のうち、少なくとも一つは形式電荷が0であってよく、正の形式電荷を有するヨウ素原子を有しない化合物であってよい。
【0021】
有機化合物の共有結合の結合解離は、より共有結合エネルギーが低い部分から優先的に起こる。有機化合物の炭素原子との結合エネルギーは、一般的に以下の順になる。上記のとおり芳香族ヨウ素化合物及び脂肪族ヨウ素化合物のいずれについてもC-I結合の結合エネルギーは炭素原子とヨウ素原子以外の原子との共有結合の結合エネルギーよりも低い傾向にあるため、容易に電解還元による脱ヨウ素化を行うことができる。
C≡C>C=O>C=C>C≒C>C*-H>C-H>C*-Cl>C-O>C-C>C*-Br>C-Cl>C-N>C-Br>C*-I>C-I
-は一重結合、=は二重結合、≡は三重結合、≒は芳香族の共役結合であり、C*は共役結合を形成している炭素である。
【0022】
<芳香族ヨウ素化合物>
芳香族ヨウ素化合物は、ベンゼン環を有するヨウ素化合物、ナフタレンのような縮合環を有するヨウ素化合物、ピリジンなどのように複素環を有するヨウ素化合物を含み、共有結合で芳香環に結合したヨウ素の数が1以上である化合物の総称である。
【0023】
芳香族ヨウ素化合物は、一般式(1)~(14)で表される芳香族化合物、例えばベンゼン環、芳香族置換化合物(フェノール、トルエン、安息香酸、サリチル酸等を骨格とする化合物)、芳香族多環化合物(ビフェニル、フェナンスレン、フルオレン等を骨格とする化合物)、縮合環化合物(キノリン等を骨格とする化合物)等の有機ヨウ素化合物であってよい。芳香族化合物は、芳香環にヘテロ原子を含んでよく、複素環を形成する環員である原子の数には特に制限はないが、6員環、又は5員環を有する化合物であってよい。芳香族ヨウ素化合物は、非イオン性トリヨウ素化モノマー化合物及び非イオン性トリヨウ素化ダイマー化合物から選択される化合物であってよい。
【0024】
【化1】

【化2】
【0025】
式(1)中、R~Rのうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、ヨウ素以外のハロゲン原子、1~20個の炭素原子を有する1価の有機基、-OH、-SH、-CN、-SOH又はその塩(アルカリ金属塩であってよい)、-NO、-NH、-NH 等が挙げられる。1価の有機基が有する炭素原子の数は1~15個であってよく、2~10であってよく、3~6個であってよい。1価の有機基は、置換又は未置換の炭化水素基、炭化水素基の鎖内にエーテル結合、第2級アミノ基、第3級アミノ基、チオエーテル結合等を有する1価の基(炭化水素部分は置換基を有していてもよい。芳香環に直接酸素原子、窒素原子、硫黄原子等により結合する場合も含む。)、複素環を有する基等が挙げられる。1価の置換基は、アニオン性の官能基、又はアニオン性の官能基を有する有機基であってよく、当該1価の置換基は、アルカリ金属イオン等の陽イオンと塩を形成していてもよい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、又はセシウムイオンのいずれであってもよい。1価の有機基としての炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。当該脂肪族炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、及び脂環式のいずれであってもよい。なお、本明細書において、芳香族炭化水素基は芳香族炭化水素部分を有する基であり、脂肪族炭化水素部分を有していてもよいものとする。また、本明細書において、脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素部分を有する基であり、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素部分を有していてもよい。一価の基は、アミノ基(第1級、第2級又は第3級アミノ基であってよい)であってよく、第2級又は第3級アミノ基である場合、置換基により置換された炭化水素部分を有していてよい。
式(2)中、R19~R27のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。Rは2価の置換基であり、酸素原子(エーテル結合)、硫黄原子(チオエーテル結合)、第2級アミノ基、第3級アミノ基、炭素数1~20の2価の有機基等が挙げられる。2価の有機基が有する炭素原子の数は1~15個であってよく、2~10であってよく、3~6個であってよい。2価の有機基は、置換又は未置換の炭化水素基、炭化水素基の鎖内にエーテル結合、第2級アミノ基、第3級アミノ基、チオエーテル結合等を有する2価の基(炭化水素部分は置換基を有していてもよい。芳香環に直接酸素原子、窒素原子、硫黄原子等により結合する場合も含む。)、複素環を有する基等が挙げられる。2価の有機基としての炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。当該脂肪族炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、及び脂環式のいずれであってもよい。
式(3)中、R19~R27のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(4)中、R28~R39のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(5)中、R40~R49のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(6)中、R50~R54のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(7)中、R55~R58のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(8)中、R59~R65のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(9)中、R66~R79のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(10)中、R80~R87のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(11)中、R88~R97のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(12)中、R98~R105のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(13)中、R106~R109のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
式(14)中、R110~R113のうち少なくとも一つはヨウ素原子であり、ヨウ素原子以外である場合、水素原子又は1価の置換基であってよい。1価の置換基としては、式(1)において1価の置換基として例示したものが挙げられる。
【0026】
芳香族ヨウ素化合物の中のヨウ素原子は、有機化合物の炭素原子、又はヘテロ原子と直接共有結合で結合しており、炭素原子と結合していてよい。ヨウ素が結合した原子は、他の炭素、水素、ヘテロ原子等と共有結合で結合しており、共役結合を形成していても良い。特に、複素環の共鳴構造を形成する炭素とヨウ素が共有結合していてよい。2つ以上のヨウ素原子が同一の芳香環に結合している場合、当該芳香族ヨウ素化合物は、互いにメタ位の位置関係に結合した2つ以上のヨウ素原子を有するベンゼン環1つ以上含む化合物であってよい。
【0027】
有機化合物と結合したヨウ素の原子価は、I価、III価、V価のいずれでもよい。有機ヨウ素化合物の用途の多くはI価であることから、ヨウ素の原子価はI価であってよい。
【0028】
具体的な芳香族ヨウ素化合物としては、イオパミドール、イオヘキソール、イオジキサノール、イオトロラン、イオプロミド、イオメプロール、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオトロクス酸メグルミン、イオキサグレート等の造影剤、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸、5-アセトアミド-N,N’-ビス(2,3-ジヒドロキシプロピル)-2,4,6-トリヨード-イソフタルアミド等のレントゲン造影剤の製造中間体、アイオキシニル、ヨードスルフロンメチルナトリウム塩、ヨードボニル、クリオジネート等の農薬、2,2’-ジヨード-4,4’,6,6’-テトラメチルビフェニル等の超原子価ヨウ素触媒前駆体、レポチロキシン等の甲状腺ホルモン補強剤、エリスロシン、ローズベンガル等の色素、2,3,5-トリヨード安息香酸及びその誘導体等の植物成長調整剤、4,4’-ジヨードビフェニル及びその誘導体、2-ヨードフルオレン及びその誘導体、2,7-ジヨードフルオレン及びその誘導体、2,7-ジヨード-9,10-ジヒドロフェナンスレン及びその誘導体等の有機半導体や有機光導電体などの機能性有機化合物原料、(ジアセトキシヨード)ベンゼン、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼン、ジアリルヨードニウム塩及びその誘導体等のIII価及びV価ヨウ素化合物、ヨードピリジン及びその誘導体、2,5-ジヨードチオフェン及びその誘導体、ヨード安息香酸及びその誘導体、ヨードアニリン及びその誘導体、ヨードフェノール及びその誘導体、2,4,6-トリヨードフェノール及びその誘導体、ヨードベンゼン及びその誘導体、ヨードトルエン及びその誘導体、ヨードアントラニル酸及びその誘導体、ヨードサリチル酸及びその誘導体、1,4-ジヨードベンゼン及びその誘導体、2-アミノ-5-ヨード安息香酸及びその誘導体等の化学工業品原料、又はこれらの製造工程における異性体や中間反応物の廃液や、洗浄液等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0029】
≪電解装置≫
図1に、本実施形態の電解装置の一例を示す。なお、本実施形態の電解装置としては特に制限されず、公知の電気透析装置を使用することができる。以下、図1とともに、本実施形態の製造方法について説明する。
【0030】
図1における電解装置10は、陰極(カソード)4を有する槽(還元槽)1と、陽極(アノード)5を有する槽(酸化槽)2と、還元槽と酸化槽の間を仕切る隔膜3とを備える。還元槽1には被処理液6が収容され、酸化槽2には回収液7が収容されている。電解反応中又は電解反応後に被処理液は処理液として、回収液は上記ポリハロゲン化物イオンを含む水溶液(ヨウ素含有水溶液)として、系外で採取される。
【0031】
本実施形態の製造方法は、定電圧法及び定電流法のいずれでも実施可能であるが、定電圧法で行ってよい。また、回分式でも連続式でも行うことが可能である。反応時間は通電量を持って制御することが望ましい。
電解反応に必要な通電量は、有機化合物と結合したヨウ素のモル量(aI)に対して、通常2~10F/モル程度の電気量を通電すればよい。電気量が少なすぎると脱ヨウ素が十分に進まず、過剰であると電流効率が低下する。ただし、装置形状、電極の種類、夾雑物により必要な電気量は変化する。
【0032】
電解法における電圧については特に指定はないが、20V以下であってよく、10V以下であってよく、更に7V以下であってよい。電圧が低すぎると反応時間が増加してしまうが、高すぎると副反応が起こりやすくなり電流効率が低下する。
【0033】
有機ヨウ素化合物の脱ヨウ素化を起こす還元電圧は、他の官能基よりも低い。そのため、有機ヨウ素化合物、脱ヨウ素後の有機化合物、その他の有機化合物が混合した状態であっても、カソードでは脱ヨウ素化反応が優先される。その結果、非常に高い電流効率が得られる。
【0034】
アノード、及びカソードに用いる電極としては、炭素、亜鉛、ステンレス、もしくは貴金属(白金、イリジウム、オスミニウム等の白金族又はそれらの合金)電極など一般的なものを使用でき、炭素電極であってよい。また、電極形状は特に制限はないが、板状、棒状、網目状、繊維状等であってよい。
【0035】
還元槽、と酸化槽との間には、それぞれの槽内のイオンや溶解物の拡散混合を抑制するために、隔膜を設ける必要がある。これにより、アノード上での酸化反応で生じたヨウ素がカソードでヨウ化物イオンに還元される還元副反応、又は電解還元で生成した有機化合物のアノード上で反応する酸化副反応などの電気的なロスを抑えることができる。隔膜は特に制限はないが、多孔質膜や特定イオンが透過する材質である必要がある。具体的には、ガラスフリット膜、ゼオライト膜、ポーラスアルミナ膜、イオン交換膜、中空糸膜、RO膜が挙げられる。
【0036】
還元槽、酸化槽は1対、又は交互に複数の槽を設置することができる。電極面積が広がることで反応速度が向上するため、複数の槽で構成されていてよい。
【0037】
還元槽、酸化槽は、電解反応中に溶液を攪拌する機構を有していてよい。アノード、及びカソードで起こる反応に対して、電極周りが部分的に反応後の有機ヨウ素化合物の濃度が増加し、被反応物の濃度が下がるため、反応時間が増加、又は副反応が起こりやすくなる。そのため、槽内に攪拌翼を設置することもできるが、送液ポンプによる循環攪拌を行ってよい。
【0038】
還元槽及び酸化槽の一方又は両方に貯槽を接続してもよい。貯槽と電解槽との間でそれぞれの水溶液を循環させ、連続的に電解反応を行うことができる。被処理液と回収液の体積比を変えることで、ヨウ素含有水溶液のヨウ素濃度を調整することができる。
【0039】
図2は、電解槽においてアノード上、及びカソード上でそれぞれで起こる半反応式の一例を示す図である。
【0040】
≪第一工程≫
第一工程では、被処理液を還元槽に投入し、被処理液に電圧を印加する。カソード上で還元反応が起こり、ヨウ素原子がヨウ化物イオンとして優先的に脱離する。図2に示すとおり、脱ヨウ素化反応では、電子授受により電解反応が起こる。なお、有機ヨウ素化合物として、5-アセトアミド-N,N’-ビス(2,3-ジヒドロキシプロピル)-2,4,6-トリヨードイソフタルアミド(別称、イオヘキソール)を代表に記載しているが、この範囲に限定されるわけではない。
【0041】
還元槽の被処理液中の有機ヨウ素化合物の脱ヨウ素化が完了すると、被処理液中のイオン量が減少する。それに伴い、被処理液の抵抗値が変化する。それを監視することで反応の終点を精密に見極めることができる。被処理液の抵抗値は、定電圧法においてはアノードとカソード間の電流値、定電流法においては電圧値を監視することで、相対的に判断することもできる。
【0042】
本実施形態の製造方法において、還元槽の被処理液の温度は、0~60℃であってよく、10~40℃であってよい。上記温度であると、析出したヨウ素がカソードに固着することで抵抗となる、又は隔膜の閉塞を抑制できる傾向にあり、経済的でもある。
【0043】
酸化槽と還元槽とは隔膜で隔てられており、水溶液中の非イオン性化合物の移動が抑制されている。脱ヨウ素化により発生したヨウ化物イオンは、電気引力によりアノードに引き寄せられ、隔膜を通過して酸化槽へ移動すると考えられる。一方で、原料となる有機ヨウ素化合物や、カソードでヨウ素が脱離した有機化合物は、隔膜により大半が還元槽から酸化槽へ移動せず、アノードでの副反応を抑制すると考えられる。
【0044】
≪第二工程≫
第二工程では、酸化槽に移動したヨウ化物イオンがアノード上で、ヨウ化物イオンからヨウ素へ変換される酸化反応を受ける。脱ヨウ素化の半反応式は図2のように考えられる。
【0045】
ヨウ素は水に対する溶解度が低いため、反応が一定以上進むと固体のヨウ素結晶として容易に析出する。ヨウ素結晶はアノード、隔膜や壁面への析出や、固体沈降を起こす。アノードや隔壁への析出は電解反応における抵抗やイオン流動の妨げとなり、電解反応を抑制する。また、沈降したヨウ素結晶は、回収液の抜出時に配管やポンプを閉塞させる恐れがあることから、ヨウ素含有水溶液を回収する妨げとなる。
【0046】
一方で、ヨウ素は他のハロゲン化物イオンとポリハロゲン化物イオンを容易に形成し、高い溶解度で水に溶解する特性を有する。例えば、ヨウ素の水への溶解度は0.3g/L(20℃)に対して、ヨウ化物イオンを含む水溶液へのヨウ素の溶解度は9.2g/L(20℃)と大幅に向上する。つまり、ポリハロゲン化物イオンの形成によりヨウ素の溶解度を向上させることで、アノードで酸化したヨウ素結晶析出を抑制することができる。
【0047】
第二工程において生成したヨウ素は、ハロゲン化物イオンと結合して、ポリハロゲン化物イオンを形成する。ハロゲン化物イオンとしては、ヨウ化物イオン(I)、臭化物イオン(Br)、塩化物イオン(Cl)フッ化物イオン(F)が挙げられる。ヨウ素とポリハロゲン化物イオンを形成する平衡定数はフッ化物イオン<塩化物イオン<臭化物イオン<ヨウ化物イオンになることから、ヨウ化物イオンが含まれていてよい。これらのハロゲン化物イオンは、1種類、又は任意の比率で2種類以上存在してよい。また、反応中にハロゲン化物イオンの比率、総量が変わってもよい。
【0048】
ポリハロゲン化物イオンは、下記式(1)のようにハロゲン化物イオンとヨウ素で形成した多原子アニオンであり、平衡状態を保って存在している。ヨウ素濃度が上がると、式1の平衡が右方向に進み、一つのハロゲン化物イオンに複数のヨウ素が結合する。具体的なポリハロゲン化物イオンとしては、三ヨウ化物イオン(I )、五ヨウ化物イオン(I )、七ヨウ化物イオン(I )、臭化ヨウ素イオン(IBr)、塩化ヨウ素イオン(ICl)等が挙げられる。反応途中の回収液、もしくはヨウ素含有水溶液中でこれらのポリハロゲン化物イオンは、1種類、又は任意の比率で2種類以上存在してよい。
【数1】

(Xはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)
【0049】
本実施形態の製造方法において、酸化槽の回収液の温度は、0~60℃であってよく、10~40℃であってよい。温度が上記範囲であると、溶解度が低いヨウ素結晶の析出を抑制できる傾向にあると共に、気化してヨウ素ガスが発生することを抑制できる傾向にある。
【0050】
回収液中で酸化反応を受けるヨウ化物イオンは、脱ヨウ素化により生成したヨウ化物イオンである必要はない。ハロゲン化物イオンとして添加されたヨウ化物イオンや、ハロゲン化物イオンが酸化してもよく、その場合はカソードから移動したヨウ化物イオンがポリハロゲン化物イオンを形成するハロゲン化物イオンとして作用する場合もある。また、回収液に含まれるハロゲン化物イオン、カソードで脱ヨウ素化したヨウ化物イオンのどちらが酸化してもカソードでの脱ヨウ素化の反応効率に影響しない。
【0051】
≪第三工程≫
第三工程では、第二工程で得られたヨウ素含有水溶液においてヨウ素を生じさせる。第三工程では、まずヨウ素含有水溶液のヨウ素濃度、pH、酸化還元電位等を調整してもよい。次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素、塩素、塩素水、亜硝酸ナトリウム等の酸化剤と、硝酸、塩酸、硫酸、苛性ソーダ等のpH調整剤を用いることで、未反応のヨウ化物イオンとポリハロゲン化物イオンを酸化することによりヨウ素を得てよい。
ポリハロゲン化物イオンに対してヨウ素結晶はより高電位に調整するため、酸化還元電位を下げる薬品を用いることがある。還元剤として亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ギ酸、シュウ酸、没食子酸等や、ヨウ化物イオン水溶液等が挙げられる。
【0052】
第三工程の後に、第三工程で得られたヨウ素を精製する精製工程を備えていてもよい。ヨウ素の精製には、ヨウ素気化法、イオン交換樹脂吸着法、固液分離法のうち、1つ、又は複数工程を選択することができる。精製工程により高純度のヨウ素を回収できる。ヨウ素含有水溶液のヨウ化物イオン、ポリハロゲン化物イオンの濃度が1g-I/Lを超える場合は、ヨウ素結晶を析出させ、固液分離法を用いると良い。一方、1g-I/Lを下回る場合は、ヨウ素気化法、イオン交換樹脂法により濃縮・精製を行うことが望ましい。
【0053】
ヨウ素気化吸収法は、第二工程で得られたヨウ素含有水溶液のヨウ素濃度を調整し、pH調整剤、酸化剤を加えることで遊離ヨウ素を発生させる。更に、遊離ヨウ素を気化する放散塔と、気化したヨウ素を回収する吸収塔の二つを通すことで、ヨウ素含有水溶液中の不純物を分離除去することができる。ヨウ素は精製された溶液として得られる。
【0054】
イオン交換樹脂法は、第二工程から得られたヨウ素含有水溶液の濃度を調整し、pH調整剤、酸化剤を加えることでヨウ素形態をポリハロゲン化物イオンが最も多い酸化還元電位に調整する。調整後のヨウ素含有水溶液をイオン交換樹脂と接液させることで、ポリハロゲン化物イオンをイオン交換樹脂に吸着し、樹脂をアルカリ溶液、若しくは還元剤溶液に浸漬することで脱離回収を行う。ヨウ素は精製された溶液として得られる。イオン交換樹脂には陰イオン交換樹脂、特にイオン交換基に3級アミン、又は4級アミンを有する樹脂、繊維等を用いるとよい。
【0055】
固液分離法は、ヨウ素含有水溶液にpH調整剤、酸化剤を加えてヨウ素結晶を析出させ、固液分離を行うことでヨウ素のみを回収する。ヨウ素の溶解度を考慮すると、ヨウ素含有水溶液が1g-I/L以上のヨウ素濃度を有すると効率よく回収することができる。第二工程から得られたヨウ素含有水溶液を加温濃縮することで所定のヨウ素濃度に調整してもよい。
【0056】
ヨウ素気化法、イオン交換樹脂法、固液分離法は天然ガス付随かん水からのヨウ素採取、ヨウ素含有処理水からのヨウ素リサイクル等にも用いられている。ヨウ素含有水溶液とかん水や処理水を混合して、第三工程で同時にヨウ素を回収してもよい。
【0057】
第三工程で精製、回収したヨウ素溶液やヨウ素は、ヨウ素化合物を合成する原料として使用することができる。または、晶析や溶融工程での造粒や、ヨウ素の水洗浄、昇華精製など更に高度な精製を行ってもよい。
【0058】
≪被処理液及び処理液≫
被処理液は、有機ヨウ素化合物が溶解した水溶液である。有機ヨウ素化合物の濃度は特に制限はないが、有機ヨウ素化合物に結合しているヨウ素原子の質量濃度(有機ヨウ素化合物のヨウ素原子換算の濃度)として0.2g-I/L以上であってよく、1.0g-I/L以上であってよく、10g-I/L以上であってよい。また、有機ヨウ素化合物を溶解させる点から、被処理液の有機ヨウ素化合物の濃度としては、当該被処理液における飽和濃度以下であってよい。
【0059】
有機ヨウ素化合物は、1種又は複数の有機ヨウ素化合物が含まれても良い。特定の有機骨格に対してトリヨード、ジヨード、モノヨード化合物が混合してもよく、有機骨格が異なる化合物が含まれても良い。また、脂肪族ヨウ素化合物が含まれても良い。
【0060】
被処理液はpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤はpHを調整する薬品であれば特に制限はないが、酸(例えば、塩酸、硫酸等の鉱酸の水溶液や有機酸など)又はアルカリ性の水溶液(水酸化ナトリウム等の水酸化物などの水溶液)を添加することができる。
被処理液中で有機ヨウ素化合物を電解還元する過程において結合しているヨウ素がプロトンと置き換わる。pHが極端に高いとカソードへのプロトン供給が律速となり、電解反応の効率が大幅に低下する。被処理液は電解反応を行っている間はpH8.0~0.0であってよく、7.5~2.0であってよく、操作安全性の観点から7.0~3.0であってよい。pHは、還元槽又は処理液貯槽をpH電極で監視することができる。電解反応中に所定の範囲を逸脱しないように適宜調整してもよい。被処理液のpHは、7.0以下であってもよい。
【0061】
被処理液には、導電性を上げるために電解質を添加しても良い。電解質には、モル伝導率が高いイオン結合性物質が望ましい。具体的には、無機塩、有機塩、酸、アルカリが挙げられる。
【0062】
被処理液は、工場排水であってよい。工場の排水は有機ヨウ素化合物を含む製品の製造工程における製造中間体、洗浄水、廃棄製品であってよい。被処理液に含まれる有機ヨウ素化合物は単一である必要はなく、複数の有機ヨウ素化合物が含まれていてもよい。また、複数の排水を混合した水溶液であってもよい。
【0063】
有機ヨウ素化合物は、有機ヨウ素化合物を含む固体を水や工場排水、第一工程後の処理液等に溶解させ、被処理液を調製しても良い。ただし、不溶解物質は還元槽にチャージする前に固液分離等の処理で取り除くことが望ましい。
【0064】
被処理液の有機ヨウ素化合物は、第一工程の還元反応中に追加して添加することができる。還元槽及び貯槽の体積を考慮し、添加した水溶液、もしくは固体の体積分を処理液から除すことで、連続的に第一工程を行うことができる。固体の有機ヨウ素化合物を直接被処理液に添加すると、カソードに適切に有機ヨウ素化合物が供給されない場合があるため、事前に溶解した水溶液、もしくは被処理液を供給する貯槽で水溶液を調整して供給してもよい。
【0065】
被処理液は、非イオン性の水溶性有機物を含んでいてよい。有機物の多くは、脱ヨウ素化のための電解還元に影響しないため、反応効率に影響を及ぼさない。また、非イオン性であると、脱ヨウ素化後の有機化合物と同様に還元槽に大多数がとどまるため、脱ヨウ素後の有機化合物を含む被処理液と同時に無害化処理を行うことができる。非イオン性の水溶性有機物は具体的に、水と均一相を形成する有機溶媒、水溶性高分子等があげられる。
【0066】
被処理液は、無機塩や有機塩、有機化合物、無機化合物等の固体を含んでいても良い。ただし、電解装置内の配管目詰まりや閉塞などのリスクを避けるため、還元槽へチャージする前に固液分離等の処理で取り除く、又は有機ヨウ素化合物や無機ヨウ化物塩であれば希釈により完全に溶解させることが望ましい。
【0067】
被処理液には、電解反応を促進するための金属触媒を含んでいても良い。有機ヨウ素化合物からの脱ヨウ素化を促進する触媒としては、白金族元素(パラジウム、プラチナ、ロジウム、イジリウム、ルテニウム、オスミウム)などが挙げられる。触媒は反応後の処理液から分離回収を行う。例えば、フィルタープレスなどのろ過や沈降分離などの固液分離操作や、触媒を繊維などへの固体担持触媒を抜き取ることで触媒の回収を行う。
【0068】
≪回収液≫
回収液に含まれるハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、及びヨウ化物イオンのいずれであってもよく、1種類、又は任意の比率で2種類以上存在してよい。特に、回収液は、ヨウ素とポリハロゲン化物イオンを形成しやすいヨウ化物イオンを含んでいてよい。
ハロゲン化物イオンの添加の仕方は、特に制限はないが、ハロゲン化水素又はハロゲン化物塩を水に溶解し、ハロゲン水溶液として添加してよい。ハロゲン化物塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機カチオンとの塩などが挙げられる。ハロゲン化物イオンは、pH調整又は支持電解質の目的で添加したものであってもよい。
【0069】
第一工程及び第二工程において、回収液に含まれるハロゲン化物イオンのモル量(iHs)は、被処理液、及び回収液に含まれる有機物と共有結合したヨウ素原子のモル量(aIs)の比(iHs/aIs)は、0.5(50%)以上であってよく、1.0(100%)以上であってよく、1.5(150%)以上であってよく、2.0(200%)以上であってよく、2.5(250%)以上であってよく、3.0(300%)以上であってよい。上限は特にないが、溶解度以下であるとよい。なお、有機物と共有結合したヨウ素原子とは、未反応の有機ヨウ素化合物に結合しているヨウ素原子及び有機ヨウ素化合物が有する一部のヨウ素原子が還元電解反応を受けて脱離したもののまだ分子内にヨウ素が残っている有機化合物に結合しているヨウ素原子を指す。iHs/aIsが上記範囲であると被処理液の還元反応が終わる前にヨウ素結晶が析出することを抑制できる。なお、ハロゲン化物イオンのモル量は、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンのモル量の合計であってよく、ヨウ化物イオンのモル量であってもよい。iHs/aIsは、電解反応の開始時点で0.5以上であってよく、反応中にハロゲン溶液を添加して0.5以上としてもよい。
【0070】
第一工程及び第二工程において、被処理液に存在する有機物と共有結合したヨウ素原子の総モル量の50%よりも、還元槽内の被処理液、及び酸化槽内の回収液に含まれるハロゲン化物イオンの総モル量のほうが大きくてよい。ただし、還元槽に貯槽が接続されている場合は、貯槽内の水溶液(被処理液、処理液等)に含まれるハロゲン化物イオンも上記総モル量に含める。また、酸化槽に貯槽が接続されている場合は、貯槽内の水溶液(回収液等)に含まれるハロゲン化物イオンも上記総モル量に含める。ハロゲン化物イオンの奏モル量は、被処理液に存在する有機物と共有結合したヨウ素原子の総モル量の100%より大きくてよく、被処理液に存在する有機物と共有結合したヨウ素原子の総モル量の200%より大きくてよい。
【0071】
回収液におけるハロゲン化物イオンのモル量は、常にハロゲン化物イオンのモル量(iHs)と結合ヨウ素のモル量(aIs)の比(iHs/aIs)は、電解反応中に常に0.5以上である必要がある。なお、電解反応中、もしくは電解反応後のiHsは、カソードで脱離し、酸化槽に移動したヨウ化物イオンを含むものとする。
【0072】
ヨウ化物イオンは他のハロゲン化物イオンよりも優先的にヨウ素とポリハロゲン化物イオンを形成するため、アノードのヨウ化物イオン濃度を監視することでアノードにハロゲン化物イオンが十分にあることを簡便に監視できる。
【0073】
回収液にはpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤はpHを調整する薬品であれば特に制限はないが、酸(例えば、塩酸、硫酸等の鉱酸の水溶液や有機酸など)又はアルカリ性の水溶液(水酸化ナトリウム等の水酸化物などの水溶液)を添加することができる。
ヨウ素(I)はpHがアルカリ性になるとヨウ化物イオン(I)とヨウ素酸イオン(IO )に加水分解する。第二工程でヨウ素の加水分解が促進すると、第三工程及び精製工程で、ヨウ素酸イオンが多量に存在してヨウ素回収率が低下する。pH8.0以下であってよく、7.0以下であってよい。プロトンが過剰な状態であっても、第三工程及び精製工程で利用されるため支障はないが、安全性の観点からpH0.0以上であるとよい。
【0074】
回収液には、導電性を上げるために電解質を添加しても良い。電解質にはモル伝導率が高いイオン結合性物質が望ましい。ただし、回収液に含まれるハロゲン化物イオンで導電性が十分に得られることが多く、添加しなくてよいことが多い。
【0075】
≪ハロゲン水溶液≫
回収液に添加するハロゲン水溶液は、一価のハロゲン化物イオンを含む水溶液である。ハロゲン化物イオンは、例えば、ヨウ化物イオン(I)、臭化物イオン(Br)、塩化物イオン(Cl)等が挙げられる。特に、ヨウ素とポリハロゲン化物イオンを形成しやすいヨウ化物イオンを含むことが望ましい。ハロゲン化物イオンは、ハロゲン水溶液中に1種類、又は任意の比率で2種類以上存在してよい。
【0076】
ハロゲン水溶液は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属カチオンとハロゲン化物イオンで構成された無機塩、又は有機カチオンとハロゲン化物イオンで構成された有機塩等のハロゲン化物塩を水に溶かして調製することができる。例えば、ハロゲン化物塩としては、塩化リチウム、(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム、(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、メチルアミン塩酸塩、アニリン塩酸塩、臭化リチウム、(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム、(CaBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、メチルアミン臭化水素酸塩、アニリン臭化水素酸塩、ヨウ化リチウム、(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム、(CaI)、ヨウ化マグネシウム(MgI)、メチルアミンヨウ化水素酸塩、アニリンヨウ化水素酸塩等が挙げられる。ハロゲン化物塩は溶解度以下で完全に溶解していることが望ましい。
【0077】
ハロゲン水溶液は、事前にハロゲン化物イオンを含む水溶液を用いることができる。例えば、海水、かん水等の天然水溶液や、他の製品製造から排出される水溶液、第三工程でヨウ素結晶を回収した反応母液等が挙げられる。または、これらの水溶液に更にハロゲン化物塩を溶解、もしくは異なるハロゲン化物塩を溶解した水溶液を混合して用いることができる。
【0078】
ハロゲン水溶液は、酸化槽に電解反応を開始する前に添加してよく、第二工程の電解反応途中で追加して添加してもよい。回収液に追加したハロゲン水溶液の体積分を、第二工程後のヨウ素含有水溶液として回収することで、第二工程を連続的に行うことができる。第二工程において、回収液におけるハロゲン化物イオンの濃度を監視し、回収液におけるハロゲン化物イオンの濃度が所定の下限値を下回った際にハロゲン化物イオンを回収液に添加し、回収液におけるハロゲン化物イオンの濃度が上記下限値を上回るよう調整し運転を行ってもよい。この際にヨウ化物イオンの濃度を監視し、調整してもよい。
【0079】
図3は本実施形態の製造方法の一例を示す概念図である。図3に示すように、本実施形態の製造方法には処理液貯槽及び被処理液貯槽の二つの貯槽を使用してもよい。処理液貯槽は、還元槽内で還元反応を受けた被処理液を収容する貯槽であり、還元槽に接続されている。被処理液貯槽は、還元槽に供給するための被処理液を収容する貯槽であり、還元槽に接続されている。被処理液は、被処理液貯槽に置いて調製され、還元槽に供給されてよい。図3に示すように被処理液貯槽と処理液貯槽とが接続されており、処理液を被処理液貯槽に移送し、被処理液貯槽内で水、有機ヨウ素化合物(図3では、例として芳香族ヨウ素化合物(aroA-I)を用いている)、pH調整剤等を添加して、被処理液として再び還元槽に返送してもよい。回収液貯槽は、回収液を収容するための貯槽であり、酸化槽に接続されている。回収液は、回収液貯槽に置いて調製され、酸化槽に供給されてよい。図3に示されるように、回収液貯槽は、酸化槽から排出される水溶液の一部を受け入れ、受け入れた水溶液に回収貯槽内でハロゲン水溶液等を添加し、回収液として再び酸化槽に返送してもよい。酸化槽から排出される水溶液の一部は、ヨウ素含有水溶液として、酸化剤、pH調整剤、水等が添加され、ヨウ素の製造に用いられる。図3に示すようにaroA-Iがカソード上で還元され、Iを生じると共に、aroA-IはIを失った芳香族化合物等の化学種(aroAとも呼ぶ)となる。図3では、工程3においてヨウ素が析出した水溶液(I(sol)とも呼ぶ。)が生じる。
【0080】
図4は従来の製造方法の一例を示す概念図である。図4では、ハロゲン水溶液の添加(つまり酸化槽へのハロゲン化物イオンの添加)がない点を除き、図3の製造方法と同じである。この場合、酸化槽における酸化反応により発生したヨウ素が析出し、図4に示されるように隔膜を閉塞し、電解反応を阻害する。他にもアノード上に析出してアノードを覆ってしまい、酸化反応を阻害する等の不具合も起こりうる。また、酸化槽から排出されるヨウ素が析出した含有水溶液(I(sol))が移送中に配管内で目詰まりを起こし得る。
【実施例0081】
本開示を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本開示はこれによって限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
電解装置として、IKA社製の電解合成装置(商品名:ElectraSyn2.0)を使用した。一対のアノード、及びカソードとしてそれぞれカーボン電極を用い、還元槽と酸化槽の間にガラスフリットの隔膜を設置した。
イオヘキソール(以下、化合物1と呼称する)208mg(0.25mmol)を5mLの純水に溶解させて水溶液(被処理液)を得た。得られた被処理液の全量を還元槽にチャージした。その時の被処理液のpHは7.0、液温は21℃であった。
ハロゲン化物イオンを含む化合物としてのヨウ化カリウム316mg(1.90mmol)、ギ酸アンモニウム145.4mg(2.31mmol)を5mLの純水に溶解させて水溶液(回収液)を得た。得られた回収液の全量を酸化槽にチャージした。その時の回収液のpHは6.8、液温は21℃であり、透明な水溶液であった。
【0083】
被処理液及び回収液の総ヨウ素濃度をICP-AES(パーキンエルマー社製、商品名:Avio500)、ヨウ化物イオン等のイオン状態のヨウ素(溶解I)濃度をイオンクロマトグラフィー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:ICS-6000)を用いて測定し、下式(2)から芳香族ヨウ素化合物に結合したヨウ素原子の濃度(Org-I)を測定した。
(総ヨウ素原子濃度)-(溶解I濃度)=(Org-I)・・・(2)
その結果、電解反応前の被処理液はOrg-Iが19.1g-I/L、溶解Iが0g-I/Lだった。また、電解反応前の回収液はOrg-Iが0.2g-I/L、溶解Iが47.2g-I/Lであり、iH/aIは2.4だった。
【0084】
(1)第一工程、及び第二工程
電解装置を運転条件として電圧5Vで定電圧運転に設定し、7.5mF(10F/aI)の電気量を通電し電解反応を行った。電解反応前と同じく、総ヨウ素濃度と溶解Iを測定した。反応終了後の還元槽から得られた処理液はOrg-Iが3.0g-I/L、溶解Iが8.0g-I/L、pH6.2、液温22℃であった。また、酸化槽から得られたヨウ素含有水溶液はOrg-Iが0.7g-I/L、溶解Iが61.7g-I/L、pH4.0、液温22℃であった。また、iH/aIは16.6だった。
【0085】
酸化槽にセットした回収液は透明だったが、電解反応後の回収液(ヨウ素含有水溶液)は黒褐色溶液に変化した。ヨウ素含有水溶液を紫外可視近赤外分光計(アジレント社 Cary 60)で吸光度を確認したところ、三ヨウ化物イオンの吸収波長である350nmに大きなピークが確認された。回収液のヨウ化物イオンが十分に存在することで、アノードで酸化されたヨウ素が三ヨウ化物イオンを形成していることが確認された。
ヨウ素含有水溶液はフィルターろ過し、フィルター上にヨウ素結晶が析出していないことを確認した。また、アノード槽の内壁、アノード電極、隔壁を少量の純水で付着液を除去し、目視でヨウ素結晶が析出していないことを確認した。
【0086】
式(3)より、脱離率は81%だった。反応前の被処理液及び回収液の総ヨウ素濃度と、反応後の処理液(処理液貯槽内の水溶液)、酸化槽から排出されたヨウ素含有水溶液の総ヨウ素濃度の差分から、ヨウ素量(I量)を計算し、式(4)よりI比率を算出したところ1%であった。なお、分析誤差(分析前処理や分析装置の繰返し誤差)や、少量のヨウ素は遊離ヨウ素として溶解状態を取るため、I比率が数%でもヨウ素結晶が析出しなかったと推定される。
【0087】
脱離量=(被処理液Org-I+回収液Org-I)-(処理液Org-I+ヨウ素含有水溶液Org-I)
【0088】
脱離率=脱離量÷(被処理液Org-I+回収液Org-I)・・・(3)
【0089】
量=(被処理液の総ヨウ素原子濃度+回収液の総ヨウ素原子濃度)-(処理液の総ヨウ素原子濃度+ヨウ素含有水溶液の総ヨウ素原子濃度)
【0090】
率=I量÷脱離量・・・(4)
【0091】
結果を表1に示す。
【0092】
(2)第三工程
電解反応後の酸化槽からヨウ素含有水溶液をろ過し、ろ液のみを回収した。ろ液5mLを混合しながら、98質量%硫酸水溶液0.3mL、3.6質量%次亜塩素酸ソーダを2.0mL添加し、pH0.7、ORP電位530mV(Ag/AgCl電極)に調整した。析出したヨウ素結晶を吸引ろ過で回収し、純水で洗浄し、ヨウ素結晶を回収した。芳香族ヨウ素化合物から80%の回収ヨウ素を得ることができた。
【0093】
<実施例2>
化合物1を1989mg(2.42mmol)、5mL純水を用いてに溶解させ、還元槽にチャージした。その時の被処理液のpHは6.9、液温は21℃だった。
回収液としてヨウ化カリウム2915mg(17.6mmol)、ギ酸アンモニウム712mgを純水で5mLに溶解させ、酸化槽にチャージした。その時の回収液のpHは6.7、液温は21℃だった。
【0094】
(1)第一工程、第二工程
実施例1と同様の運転条件で電解反応を行い、反応前後の形態ごとのヨウ素の定量分析を行った。電解反応前の被処理液はOrg-Iが175g-I/L、溶解Iが0g-I/Lだった。また、回収液はOrg-Iが0.5g-I/L、溶解Iが435g-I/Lであり、iH/aIは2.5だった。また、反応終了後の還元槽から得られた処理液はOrg-Iが25.8g-I/L、溶解Iが96.5g-I/L、pH6.0、液温22℃であった。また、酸化槽から得られたヨウ素含有水溶液はOrg-Iが17.1g-I/L、溶解Iが467g-I/L、pH3.2、液温22℃であった。また、iH/aIは10.8だった。
【0095】
酸化槽にセットした回収液は透明だったが、ヨウ素含有水溶液は黒褐色水溶液であり、三ヨウ化物イオンの大きな吸収ピークが確認された。実施例1と同様の手順でヨウ素結晶析出を確認したところ、酸化槽、電極、隔膜にヨウ素結晶は確認されなかった。また、実施例1と同じ手順で分析・計算を行い、脱離率は76%、I率3%だった。なお、I率は分析誤差(分析前処理や分析装置の繰返し誤差)や、少量のヨウ素は遊離ヨウ素として溶解状態を取るため、I率が数%でもヨウ素結晶が析出しなかったと推定される。
結果を表1に示す。
【0096】
<実施例3>
被処理液として5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(以下、化合物2と呼称)を54.2mg(0.10mmol)、純水を用いて5mLに溶解させ、還元槽にチャージした。その時の被処理液のpHは6.5、液温は22℃だった。
回収液としてヨウ化カリウム317mg(1.91mmol)、ギ酸アンモニウム81mgを純水で5mLに溶解させ、酸化槽にチャージした。その時の回収液のpHは6.4、液温は22℃だった。
【0097】
(1)第一工程、第二工程
実施例1と同様の運転条件で電解反応を行い、反応前後の形態ごとのヨウ素の定量分析を行った。電解反応前の被処理液はOrg-Iが6.9g-I/L、溶解Iが0g-I/Lだった。また、回収液はOrg-Iが0.1g-I/L、溶解Iが48.4g-I/Lであり、iH/aIは7.0だった。また、反応終了後の還元槽から得られた処理液はOrg-Iが0.7g-I/L、溶解Iが2.3g-I/L、pH6.3、液温22℃であった。また、酸化槽から得られたヨウ素含有水溶液はOrg-Iが1.0g-I/L、溶解Iが51.2g-I/L、pH3.9、液温21℃であった。また、iH/aIは29.6だった。
【0098】
ヨウ素含有水溶液は黒褐色水溶液であり、三ヨウ化物イオンの大きな吸収ピークが確認された。実施例1と同様の手順でヨウ素結晶析出を確認したところ、酸化槽、電極、隔膜にヨウ素結晶は確認されなかった。また、実施例1と同じ手順で分析、計算を行い、脱離率は75%、I率3%だった。なお、分析誤差(分析前処理や分析装置の繰返し誤差)や、少量のヨウ素は遊離ヨウ素として溶解状態を取るため、I率が数%でもヨウ素結晶が析出しなかったと推定される。
結果を表1に示す。
【0099】
<比較例1>
実施例1と同様の電解装置を用いて試験を行った。
被処理液は、化合物1を205mg(0.25mmol)、純水を用いて5mLに溶解させ、全量を酸化槽にチャージした。その時の被処理液のpHは7.0、液温は21℃だった。回収液として被処理液としてギ酸アンモニウム144.6mgのみを純水で5mLに溶解させ、全量を酸化槽にチャージした。その時の回収液のpHは6.8、液温は21.0℃だった。実施例1と同様の被処理液を還元槽にチャージした。
【0100】
(1)第一工程、第二工程
実施例1と同様の運転条件で電解反応を行い、反応前後の形態ごとのヨウ素の定量分析を行った。電解反応前の被処理液はOrg-Iが19.0g-I/L、溶解Iが0g-I/Lだった。また、回収液はOrg-Iが0.2g-I/L、溶解Iが0g-I/Lであり、iH/aIは0だった。また、反応終了後の還元槽から得られた処理液はOrg-Iが0.9g-I/L、溶解Iが1.3g-I/L、pH6.7、液温22℃であった。また、酸化槽から得られたヨウ素含有水溶液はOrg-Iが4.1g-I/L、溶解Iが6.4g-I/L、pH4.6、液温21℃であった。また、iH/aIは1.2だった。
【0101】
実施例1と同様にして電解反応を行い、反応前後の形態ごとのヨウ素の定量分析を行った。ヨウ素含有水溶液は淡褐色水溶液であり、三ヨウ化物イオンの吸収ピークが実施例1と比べて30分の1程度確認された。カソードで脱離したヨウ化物イオンの一部が三ヨウ化物イオンを形成したが、ハロゲン化物イオンの量が不足しており、三ヨウ化物イオンの存在量が少なかったためである。実施例1と同様の手順でヨウ素結晶析出を確認したところ、酸化槽、電極、隔膜にヨウ素結晶の析出が確認された。また、実施例1と同じ手順で分析・計算を行い、脱離率は74%、I率39%だった。
結果を表1に示す。
【0102】
(2)第三工程
電解反応後の酸化槽からヨウ素含有水溶液をろ過し、ろ液のみを回収した。ろ液5mLを混合しながら、98%硫酸水溶液0.2mL、3.6%次亜塩素酸ソーダを0.2mL添加し、pH0.6、ORP電位528mV(Ag/AgCl電極)に調整した。析出したヨウ素結晶を吸引ろ過で回収し、純水で洗浄し、ヨウ素結晶を回収した。芳香族ヨウ素化合物から45%の回収ヨウ素を得ることができた。
【0103】
以上、これら実施形態及び実施例により、芳香族ヨウ素化合物から選択的にヨウ素を脱離し、回収する製造方法を提供することができる。
【0104】
【表1】
【符号の説明】
【0105】
1…還元槽、2…酸化槽、3…隔膜、4…陰極(カソード)、5…陽極(アノード)、6…被処理液、7…回収液、10…電解装置。
図1
図2
図3
図4