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特開2024-151598走行中の車両の状態のモニタリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151598
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】走行中の車両の状態のモニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 23/06 20060101AFI20241018BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B60C23/06 Z
B60C23/06 A
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065065
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】山下 健人
(72)【発明者】
【氏名】村上 啓一
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131LA22
(57)【要約】
【課題】タイヤの共振周波数を精度よく推定する技術を提供する。
【解決手段】モニタリング装置は、取得部と、推定部と、フィルタリング部と、補正部とを備える。取得部は、車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、車両の走行中に取得する。推定部は、時系列のデータに基づき、タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出する。フィルタリング部は、時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を時系列のデータから抽出する、または、時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を時系列のデータから除去する。補正部は、所定の周波数帯域における時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、推定共振周波数を補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車両の状態をモニタリングするモニタリング装置であって、
前記車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、前記車両の走行中に取得する取得部と、
前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出する、または、前記時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから除去する、フィルタリング部と、
前記周波数成分に基づき、前記タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出する推定部と、
前記所定の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、前記推定共振周波数を補正する補正部と
を備える、
モニタリング装置。
【請求項2】
前記フィルタリング部は、前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出し、
前記補正部は、前記可変バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数から低周波側の第1の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積と、前記中心周波数から高周波側の第2の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積との比である補正指標を算出し、前記補正指標に基づいて前記推定共振周波数を補正する、
請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記推定共振周波数と、前記補正指標との線形関係を特定する係数にさらに基づき、前記推定共振周波数を補正する、
請求項1または2に記載のモニタリング装置。
【請求項4】
前記第1の周波数帯域及び前記第2の周波数帯域の幅は、6Hz以上、12Hz以下である、
請求項2に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
前記補正部に補正された前記推定共振周波数に基づいて、前記タイヤの減圧を検出する減圧検出部
をさらに備える、
請求項1または2に記載のモニタリング装置。
【請求項6】
走行中の車両の状態をモニタリングするプログラムであって、
前記車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、前記車両の走行中に取得することと、
前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出する、または、前記時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから除去することと、
前記周波数成分に基づき、前記タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出することと、
前記所定の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、前記推定共振周波数を補正することと
を1または複数のコンピュータに実行させる、
プログラム。
【請求項7】
走行中の車両の状態をモニタリングする方法であって、
前記車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、前記車両の走行中に取得することと、
前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出する、または、前記時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから除去することと、
前記周波数成分に基づき、前記タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出することと、
前記所定の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、前記推定共振周波数を補正することと
を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両の状態のモニタリング装置、プログラム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、タイヤの空気圧が調整されていることが重要である。空気圧が適正値を下回ると、乗り心地や燃費が悪くなるという問題が生じ得るからである。このため、従来、タイヤの減圧を自動的に検出するシステム(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)が研究されている。タイヤが減圧しているという情報は、例えば、運転者への警報に用いることができる。
【0003】
タイヤの減圧を検出する方式には、タイヤに圧力センサを取り付ける等して、タイヤの空気圧を直接的に計測する方式の他、他の指標値を用いてタイヤの減圧を間接的に評価する方式がある。このような間接的な評価方式の1つとしては、共振周波数方式(Resonance
Frequency Method;RFM)が知られている。RFMは、減圧により車輪速信号に含まれ
るタイヤの共振周波数特性が変化することを利用するものである。
【0004】
タイヤの共振周波数の推定方法の1つには、例えば時系列データとして取得される車輪速信号を、K次の自己回帰(autoregressive; AR)モデルに基づいて時系列解析する方法がある。しかしながら、ARモデルを適用する帯域幅内にタイヤの共振ピークとは異なるノイズピークが存在すると、ARモデルに基づいて導出される共振周波数は、そのようなノイズピークに引っ張られて、真のタイヤの共振周波数からずれてしまう。そうかといって、ノイズピークを避けるため、ARモデルを適用する帯域幅を狭く設定すると、共振周波数の推定精度の悪化に繋がりかねない。
【0005】
特許文献1は、上記点を課題として、共振周波数の探索範囲を維持したまま、走行中の車両の振動状態に関するセンシングデータからノイズの影響をキャンセルして、共振周波数を精度よく算出することができる技術を開示する。具体的には、車輪速のセンシングデータを、固定バンドパスフィルタに通すことによりセンシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出する。第1周波数帯域は、タイヤの共振周波数付近の帯域であり、探索範囲がある程度広い。次に、抽出された第1周波数帯域の成分を、可変バンドパスフィルタに通すことにより、第1周波数帯域よりも狭い、第2周波数帯域の周波数成分を抽出する。抽出された第2周波数帯域の周波数成分に基づき、ノイズの影響を低減しつつ、タイヤの共振周波数が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-026160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可変バンドパスフィルタでは、当該フィルタを通過するセンシングデータのスペクトルの面積が最大となるよう、その通過周波数帯域が定められる。このため、ねじり共振周波数の付近に、ねじり共振ピークよりも大きい、または大きさが近い振幅のノイズが存在すると、可変バンドパスフィルタの通過周波数帯域がノイズに近い方向にずれる可能性がある。この場合、特許文献1に開示される方法により推定されるねじり共振周波数は、ノイズの影響を受けるおそれがある。
【0008】
本発明は、ノイズの影響を低減し、タイヤの共振周波数を精度よく推定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点に係るモニタリング装置は、走行中の車両の状態をモニタリングするモニタリング装置であって、取得部と、フィルタリング部と、推定部と、補正部とを備える。取得部は、前記車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、前記車両の走行中に取得する。フィルタリング部は、前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出する、または、前記時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから除去する。推定部は、前記周波数成分に基づき、前記タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出する。補正部は、前記所定の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、前記推定共振周波数を補正する。
【0010】
第2観点に係るモニタリング装置は、第1観点に係るモニタリング装置であって、前記フィルタリング部は、前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出し、前記補正部は、前記可変バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数から低周波側の第1の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積と、前記中心周波数から高周波側の第2の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積との比である補正指標を算出し、前記補正指標に基づいて前記推定共振周波数を補正する。
【0011】
第3観点に係るモニタリング装置は、第1観点または第2観点に係るモニタリング装置であって、前記補正部は、前記推定共振周波数と、前記補正指標との線形関係を特定する係数にさらに基づき、前記推定共振周波数を補正する。
【0012】
第4観点に係るモニタリング装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係るモニタリング装置であって、前記第1の周波数帯域及び前記第2の周波数帯域の幅は、6Hz以上、12Hz以下である。
【0013】
第5観点に係るモニタリング装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るモニタリング装置であって、前記補正部に補正された前記推定共振周波数に基づいて、前記タイヤの減圧を検出する減圧検出部をさらに備える。
【0014】
第6観点に係るプログラムは、走行中の車両の状態をモニタリングするプログラムであって、以下のことを1または複数のコンピュータに実行させる:
(1)前記車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、前記車両の走行中に取得すること
(2)前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出する、または、前記時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから除去すること
(3)前記周波数成分に基づき、前記タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出すること
(4)前記所定の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、前記推定共振周波数を補正すること。
【0015】
第7観点に係る方法は、走行中の車両の状態をモニタリングする方法であって、以下のことを含む:
(1)前記車両に装着されるタイヤの回転情報を表す時系列のデータを、前記車両の走行中に取得すること
(2)前記時系列のデータを可変バンドパスフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから抽出する、または、前記時系列のデータを可変バンドストップフィルタに通すことにより、前記タイヤの共振周波数付近の所定の周波数帯域の周波数成分を前記時系列のデータから除去すること
(3)前記周波数成分に基づき、前記タイヤの共振周波数を推定した推定共振周波数を導出すること
(4)前記所定の周波数帯域における前記時系列のデータのスペクトルの面積に基づいて、前記推定共振周波数を補正すること。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ノイズの影響を低減し、タイヤの共振周波数を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るモニタリング装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
図2】モニタリング装置の電気的構成を示すブロック図。
図3】減圧検出処理の流れを示すフローチャート。
図4】VBPFの中心周波数とスペクトルの面積との関係を説明する図。
図5】補正指標と推定ねじり共振周波数とのデータセットをプロットしたグラフ。
図6A】実験で行われた車両の走行時間と速度とをプロットしたグラフ。
図6B】実施例及び比較例に係る、時系列の推定ねじり共振周波数のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るモニタリング装置、プログラム及び方法について説明する。
【0019】
<1.モニタリング装置の構成>
図1は、本実施形態に係るモニタリング装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。モニタリング装置2は、車両1に搭載される制御ユニット(車載コンピュータ)として実現され、走行中の車両1の状態をモニタリングする。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。モニタリング装置2は、これらの車輪に取り付けられたタイヤTFL,TFR,TRL,TRRのうち少なくとも1輪の減圧を検出する機能を備えており、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧が検出されると、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行う。このような減圧検出処理の流れの詳細については、後述する。
【0020】
タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧状態は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRの車輪速(つまり、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度)に基づいて検出される。左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRには、各々、車輪速センサ6が取り付けられる。車輪速センサ6は、各々、自身の取り付けられた車輪の車輪速を表す車輪速信号を、所定のサンプリング周期で出力する。すなわち、車輪速信号は、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転情報を表すデータである。車輪速センサ6は、モニタリング装置2に通信線5を介して接続されており、車輪速センサ6で時々刻々出力される車輪速信号は、通信線5を介してリアルタイムにモニタリング装置2に送信される。こうしてモニタリング装置2により取得される時系列の車輪速信号は、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転情報を表す時系列のデータとなる。
【0021】
車輪速センサ6としては、走行中の車輪FL,FR,RL,RRの車輪速を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、電磁ピックアップの出力信号から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできるし、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、このときの電圧から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできる。車輪速センサ6の取り付け位置も、特に限定されず、車輪速の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0022】
図2は、モニタリング装置2の電気的構成を示すブロック図である。モニタリング装置2は、ハードウェアとしては、車両1に搭載されている制御ユニットであり、図2に示されるとおり、I/Oインタフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインタフェース11は、車輪速センサ6及び警報表示器3等の外部装置との通信を実現する通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム9が格納されている。プログラム9は、CD-ROM等の記憶媒体8からROM13へと書き込まれる。CPU12は、ROM13からプログラム9を読み出して実行することにより、仮想的に取得部20、フィルタリング部21、推定部22、補正部23、減圧検出部24及び減圧警報部25として動作する。各部20~25の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム9の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0023】
警報表示器3は、タイヤの減圧が起きている旨をユーザに伝えることができる限り特に限定されず、例えば、4輪FL,FR,RL,RRに対応するランプ、液晶表示素子、液晶モニター、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等、任意の態様で実現することができる。警報表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(モニタリング装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを警報表示器3として使用することも可能である。警報表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0024】
<2.減圧検出処理>
以下、図3を参照しつつ、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの少なくとも1つの減圧を検出するための減圧検出処理について説明する。図3に示す減圧検出処理は、例えば、車両1の走行が開始したときに開始し、車両の走行中に繰り返し実行され、走行が停止したときに終了する。本処理は、共振周波数方式(RFM)の減圧検出処理であり、RFMは、タイヤの空気圧が変化すると、タイヤのねじり共振周波数fが変化することを利用する。よって、本処理では、後述するとおり、タイヤのねじり共振周波数fが推定され、これに基づくタイヤの減圧検出が行われる。なお、以下では、簡単のため、左前輪タイヤTFLの減圧が検出される様子を説明するが、残りのタイヤTFR,TRL,TRRについても同様の処理が行われるものとする。
【0025】
まず、取得部20が、タイヤTFLの回転情報を表すデータとして、車輪FLに取り付けられた車輪速センサ6から時々刻々送信されてくる車輪速信号を取得する(ステップS1)。ここで取得されるデータは、I/Oインタフェース11を介して受信され、RAM14に一時保存される、または記憶装置15に保存される。
【0026】
次に、取得部20が、回転情報を表すデータが一定量以上溜まったか否かを判定する(ステップS2)。回転情報を表すデータが所定の量以上溜まったと判定される場合(YES)、ステップS3が実行される。回転情報を表すデータが所定の量以上溜まっていないと判定される場合(NO)、ステップS1が繰り返される。これにより、ステップS3が実行されるに先立ち、回転情報を表すデータが、時系列のデータとしてRAM14に一時保存される、または記憶装置15に保存される。
【0027】
次に、フィルタリング部21が、回転情報を表す時系列のデータを可変バンドパスフィルタ(VBPF)に通すことにより、ステップS1で溜められた時系列のデータから、所定の周波数帯域の周波数成分を動的に抽出する(ステップS3)。可変バンドパスフィルタを通過する周波数帯域(通過帯域)の幅は、予め定められており、例えば5Hz~20Hzの幅とすることができる。フィルタリング部21は、可変バンドパスフィルタに通す前の回転情報を表す時系列のデータに対し、アクティブノイズコントロール等の前処理を適宜行ってもよい。本実施形態のフィルタリング部21は、ステップS1で溜められた時系列のデータに対し、まずローパスフィルタを適用した後、1回目のデシメーション(ダウンサンプリング)を行う。続いて、デシメーション後のデータにハイパスフィルタを適用し、2回目のデシメーションを行う。本実施形態のフィルタリング部21は、これらの処理を経たデータに対し、可変バンドパスフィルタを適用する。すなわち、ステップS2で可変バンドパスフィルタに通される時系列のデータには、上記処理に限られず、車輪速センサ6の信号から取得されるデータを、適宜加工したデータが含まれる。
【0028】
上記可変バンドパスフィルタは、バンドパスフィルタの一種であり、同フィルタを通過する時系列のデータのスペクトルの面積が最大となるように、同フィルタの中心周波数fcを適応的に変化させるフィルタである。このフィルタの適応アルゴリズムとして、例えば、NLMSアルゴリズムを用いることができる。フィルタリング部21は、所定の周波数帯域内、例えば30Hz~60Hzの周波数帯域内で、可変バンドパスフィルタを移動させながら、同フィルタを通過する時系列のデータのスペクトルの面積が最大となるような中心周波数fcを決定し、こうして決定された周波数帯域の成分を抽出する。なお、ある周波数帯域におけるスペクトルの面積とは、同周波数帯域におけるスペクトルの振幅の積分値を指すものとする。
【0029】
次に、推定部22が、可変バンドパスフィルタを通過した時系列のデータの周波数成分に基づいて、タイヤのねじり共振周波数を推定した値である、推定ねじり共振周波数feを導出する(ステップS4)。推定ねじり共振周波数feの導出方法は特に限定されないが、本実施形態では、ステップS3で抽出された周波数成分を、2次の自己回帰(AR)モデルに基づいてカルマンフィルタにより時系列解析し、ピーク周波数を推定ねじり共振周波数feとする。あるいは、上記周波数成分を、高次(3次以上)の自己回帰(AR)モデルに基づいてカルマンフィルタにより時系列解析する。続いて、こうして推定されたARモデルのパラメータと推定に用いた時系列のデータとから、モデルに与えられたと仮定できる入力信号を復元する。そして、この入力信号と出力信号(時系列のデータ)にバンドパスフィルタ等の適当な信号処理を施した後に、2次の自己回帰移動平均(Autoregressive Moving Average; ARMA)モデルに基づいてカルマンフィルタによりシステムを決定する。そして、このときのピーク周波数を推定ねじり共振周波数feとして決定してもよい。なお、高次のARモデル及び高次のARMAモデルにより共振周波数を算出する方法は、公知であるため、ここでは詳細な説明を省略するが、必要であれば、特開2011-102077号公報を参照されたい。
【0030】
ところで、上記可変バンドパスフィルタの通過周波数帯域で最も大きなピークがタイヤのねじり共振周波数fであれば、最終的に決定される通過周波数帯域はねじり共振周波数fに追従し、中心周波数fc付近にねじり共振周波数fが現れる。そして、ねじり共振周波数fに対する推定ねじり共振周波数feの誤差は比較的小さい。一方、上記通過周波数帯域内に、ねじり共振ピークと、これより大きいか、近い大きさのノイズピークが存在する場合、最終的に決定される通過周波数帯域は、ノイズ周波数fnの影響を受ける。具体的には、このようなノイズピークが存在すると、上記中心周波数fcは、ねじり共振周波数fの付近からノイズ周波数fn側にずれ、ねじり共振周波数fに対する推定ねじり共振周波数feの誤差は比較的大きい。
【0031】
さらに、ねじり共振周波数f付近にノイズが存在する場合、可変バンドパスフィルタの中心周波数fcの両側の周波数帯域の上記スペクトルの面積は、ノイズ周波数fnがある側の周波数帯域でより大きくなる。図4は、このことを説明する図である。図4に示す例では、ノイズ周波数fnが中心周波数fcよりも高周波側に存在する。このとき、周波数帯域(fc-2δ)~fcにおける上記スペクトルの面積A1は、周波数帯域fc~(fc+2δ)における上記スペクトルの面積A2よりも小さくなる。反対に、ノイズ周波数fnが中心周波数fcよりも低周波側に存在するとき、面積A1は、面積A2よりも大きくなる。
【0032】
このことを利用して、A2とA1との比である補正指標B=A2/A1を定義すると、補正指標Bは、可変バンドパスフィルタの通過周波数帯域に影響を与えるノイズが発生しているか否か、またそのノイズ周波数fnが中心周波数fcの低周波側であるか高周波側であるか、を示す指標となる。例えば、補正指標Bが1に近い場合、可変バンドパスフィルタの通過周波数帯域に影響を与えるノイズが発生しておらず、中心周波数fcがねじり共振周波数f付近になると考えられる。これに対して、補正指標Bが1から所定の値以上ずれていると、ねじり共振周波数fの付近にノイズが発生していると考えられる。さらに、補正指標Bが1より大きければ、ノイズが中心周波数fcよりも高周波側に発生しており、補正指標Bが1より小さければ、ノイズが中心周波数fcよりも低周波側に発生していると考えられる。
【0033】
本発明者らは、上記バンドパスフィルタを通過した時系列データに基づいて推定される推定ねじり共振周波数feと、補正指標Bとの多数のデータセットに基づき、補正指標Bと推定ねじり共振周波数feとは、図5に示すような線形関係に回帰することを見出した。図5は、補正指標Bと推定部22により推定される推定ねじり共振周波数feとの多数のデータセットをプロットしたグラフである。図5から分かるように、補正指標Bが1である場合も、推定ねじり共振周波数feには一定の幅はあるものの、補正指標Bと推定ねじり共振周波数feとの回帰直線の傾きdは、概ね一定であると言ってよい。このため、車両1について、補正指標Bと推定ねじり共振周波数feとの線形関係を特定する傾きdが予め特定されていれば、推定ねじり共振周波数fe、補正指標B及び傾きdを用いて、推定ねじり共振周波数feを補正することができる。
【0034】
再び図3を参照して、続くステップS5では、補正部23が補正指標Bを算出する。補正部23は、まずステップS3で決定された可変バンドパスフィルタの中心周波数fcに基づき、低周波数側の第1の周波数帯域(W1)及び高周波数側の第2の周波数帯域(W2)を定める。周波数帯域W1及びW2は、予め定められた定数をδとすると、それぞれ(fc-2δ)~fc、fc~(fc+2δ)で定められる。つまり、周波数帯域W1及びW2は、それぞれ、(fc-δ)及び(fc+δ)を中心周波数とし、幅2δを有する周波数帯域である。定数δは、好ましくは3Hz以上、6Hz以下であり、周波数帯域W1及びW2は、好ましくは6Hz以上、12Hz以下の範囲である。本実施形態では、補正部23が、ステップS3で可変バンドパスフィルタを通過する前のデータ、つまりNLMSアルゴリズムが適用される前のデータを、周波数帯域W1の周波数成分を通過させる固定バンドパスフィルタに通し、抽出された周波数成分に対し、その面積A1を算出する。また、補正部23が、同じくステップS3でNLMSアルゴリズムが適用される前のデータを、周波数帯域W2の周波数成分を通過させる固定バンドパスフィルタに通し、抽出された周波数成分に対し、その面積A2を算出する。ここで、面積A1及びA2の算出は、本実施形態では、パーセバルの定理を適用して実行される。しかしながら、面積の算出方法はこれに限定されず、例えば高速フーリエ変換等の方法を適用して実行することもできる。そして、補正部23は、面積A1及びA2に基づき補正指標Bを算出する。
【0035】
次に、補正部23が、補正指標B、推定ねじり共振周波数fe及び傾きdに基づいて、推定ねじり共振周波数feを補正する(ステップS6)。傾きdは、本実施形態では車両1の出荷前に取得されたデータに基づいて予め特定され、記憶装置15またはROM13に予め保存されている。補正部23は、以下の式に基づいて、補正後の推定ねじり共振周波数fe´を算出する。
fe´=fe-(B-1)d
【0036】
次に、減圧検出部24が、補正後の推定ねじり共振周波数fe´に基づいてタイヤTFLの減圧を検出する(ステップS7)。ここで、タイヤTFLが減圧していると判定するための補正後の推定ねじり共振周波数fe´の減圧閾値は、実験またはシミュレーションにより予め定められ、記憶装置15またはROM13に予め保存されている。減圧検出部24は、補正後の推定ねじり共振周波数fe´と減圧閾値とを比較し、補正後の推定ねじり共振周波数fe´が減圧閾値以上である、または減圧閾値を超えている場合、タイヤTFLが減圧していない(NO)と判定する。そして、処理はステップS1に戻り、再びこれまでのステップが実行される。
【0037】
ステップS7で補正後の推定ねじり共振周波数fe´が減圧閾値未満である、または減圧閾値以下である場合、減圧検出部24は、タイヤTFLが減圧している(YES)と判定する。この場合、次のステップS8が実行される。
【0038】
ステップS8では、減圧警報部25が、タイヤTFLが減圧していることをドライバーに報知する減圧警報を生成し、警報表示器3等を介してこれを出力する。警報は、タイヤTFLの減圧を示す文字であってもよいし、予め定められたアイコンやグラフィックであってもよい。また、減圧警報部25は、タイヤTFLに対応する警報表示器3のランプを点灯させる等して、減圧を警報してもよい。これに加えてまたは代えて、減圧警報部25は、減圧警報を音声やブザー音等の態様で生成し、車両1のスピーカー等から出力してもよい。
【0039】
<3.特徴>
上記実施形態に係るモニタリング装置2によれば、可変バンドパスフィルタの中心周波数fcが、ノイズ周波数fnの影響を受けることを利用して、推定ねじり共振周波数feの補正が行われる。これにより、可変バンドパスフィルタの通過周波数帯域にノイズピークが存在していたとしても、ノイズの影響をキャンセルして、タイヤのねじり共振周波数fを精度よく推定することができる。そして、ひいてはRFMに基づく減圧検出の精度を向上させることができる。
【0040】
ここで、仮に、上記可変バンドパスフィルタを固定バンドパスフィルタとした場合を考える。この場合も、固定バンドパスフィルタの通過周波数帯域を通過した時系列のデータについて、仮定されるねじり共振周波数fの低周波側のスペクトルの面積、及び高周波側のスペクトルの面積に基づく補正指標を算出することで、推定ねじり共振周波数feからノイズの影響をキャンセルすることができる。しかしながら、実際のタイヤのねじり共振周波数fが、タイヤの減圧により変化していた場合は、ノイズの影響と減圧の影響とを切り分けることができず、減圧によるねじり共振周波数fの変化分まで補正してしまうおそれがある。従って、上記実施形態では、実際のタイヤのねじり共振周波数fの変化に追随して中心周波数が変化し、ノイズの影響が補正指標Bに選択的に反映される可変バンドパスフィルタが好ましく使用される。
【0041】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0042】
(1)上記実施形態では、タイヤの減圧検出を行うべく、車輪速信号を用いて、推定ねじり共振周波数fe´が導出された。しかしながら、上記アルゴリズムは、その他の場面においても適用可能である。例えば、乗心地や車両の振動(シミー、シェイク等)の状態、車両が走行する路面の状態やタイヤの故障(摩耗を含む)の状態等を判定するために、同様に、車輪速信号からピーク周波数やピークレベルを導出することが求められる場面があるが、このような場面でも、ステップS2~S6の方法を適用することができる。
【0043】
(2)上記実施形態では、タイヤの回転情報を表すデータは、車輪速のデータであった。しかしながら、タイヤの回転情報を表すデータは、車輪の回転加速度のデータあってもよい。車輪の回転加速度のデータは、車輪速を時間微分することで取得される。
【0044】
(3)上記実施形態の可変バンドパスフィルタに代えて、タイヤのねじり共振周波数f付近の所定の周波数帯域の周波数成分を除去する、可変バンドストップフィルタが用いられてもよい。可変バンドストップフィルタは、バンドストップフィルタの一種であり、同フィルタで除去される時系列のデータのスペクトルの面積が最大となるように、同フィルタの中心周波数を、NLMSアルゴリズム等を用いて、適応的に変化させるフィルタである。フィルタリング部21は、所定の周波数帯域内、例えば30Hz~60Hzの周波数帯域内で、可変バンドストップフィルタを移動させながら、同フィルタで除去される時系列のデータのスペクトルの面積が最大となるような周波数帯域を決定し、こうして決定された周波数帯域の成分を除去する。この周波数帯域の中心周波数を、上記中心周波数fcとして用いることができる。また、推定部22は、このとき決定された周波数帯域の成分を通過させる固定バンドパスフィルタを定義し、タイヤの回転情報を表す時系列のデータをこの固定バンドパスフィルタに通し、同固定バンドパスフィルタを通過した周波数成分について、ステップS4と同様の手順で推定ねじり共振周波数feを導出してもよい。
【0045】
(4)補正指標Bは、A1/A2で定義されてもよい。また、傾きdは、車両1の出荷後の適切なタイミングで取得されたデータに基づいて特定されてもよい。
【0046】
(5)モニタリング装置2は、取得部20、フィルタリング部21、推定部22、補正部23、減圧検出部24及び減圧警報部25の機能を実現する1または複数のコンピュータを備えていてもよく、ステップS1~S8の少なくとも一部のステップは、それぞれ異なるコンピュータによって実行されてもよい。モニタリング装置2が備える1または複数のコンピュータは、車載コンピュータ及び車両1の外部のコンピュータのいずれであってもよく、この両者であってもよい。すなわち、モニタリング装置2は、必ずしも車両1に搭載されていなくてもよい。車両1の外部のコンピュータとしては、例えば、車輪速センサ6に付属するコンピュータや、車輪速センサ6と通信可能に接続されるサーバーコンピュータ等が挙げられる。また、車輪速センサ6は、車載コンピュータとしてのモニタリング装置2とワイヤレスに接続されていてもよい。
【0047】
(6)上記実施形態では、周波数帯域W1及びW2は、それぞれ、(fc-δ)及び(fc+δ)を中心周波数とし、幅2δを有する周波数帯域であった。しかしながら、周波数帯域W1及びW2の幅は2δに限られず、δとは独立した値γであってもよい。つまり、周波数帯域W1及びW2は、それぞれ、(fc-δ)及び(fc+δ)を中心周波数とし、幅γを有する周波数帯域であってもよい。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0049】
<実験条件>
ガソリンエンジン式で、サイズ225/45R18のタイヤが四輪に装着されたFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両で、欧州一般道を走行した。走行速度は、時速40km~100kmとした。各タイヤは、いずれも正規内圧とした。走行中に取得されたデータに基づき、上記実施形態に係る方法を適用して補正されたタイヤ(FL輪)の推定ねじり共振周波数(実施例)と、上記実施形態に係る方法において、補正前の同タイヤの推定ねじり共振周波数(比較例)とをそれぞれ導出し、これらを比較した。
【0050】
<実験結果>
図6Aは、時系列の車両速度をプロットしたグラフであり、図6Bは、図6Aと同じ時間軸に対し、実施例及び比較例に係る方法でそれぞれ導出された推定ねじり共振周波数をプロットしたグラフである。図6A及び図6Bから、1600秒付近や2400秒付近において、比較例に係る推定ねじり共振周波数がノイズの影響を受けて変動しているが、実施例に係る推定ねじり共振周波数は、変動が少なく、ノイズの影響を低減できていることが確認できる。また、ヒストグラムにより、これらの推定ねじり共振周波数のばらつきを評価すると、以下の表1のような結果が得られた。表1から分かるように、実施例では、比較例よりも標準偏差が約35%減少し、四分位数が約32%減少した。これにより、上記実施形態に係る推定ねじり周波数の補正により、ばらつきが減少し、安定してねじり共振周波数の推定が可能なことが裏付けられた。
【表1】
【符号の説明】
【0051】
1 車両
2 モニタリング装置
20 取得部
21 フィルタリング部
22 推定部
23 補正部
f タイヤのねじり共振周波数
fc VBPFの中心周波数
fe 推定ねじり共振周波数
fe´ 補正後の推定ねじり共振周波数
B 補正指標
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B