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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151600
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】鉄道車両用車軸軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20241018BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20241018BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20241018BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C19/38
F16C33/78 C
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065068
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 崇平
(72)【発明者】
【氏名】堀井 庸児
【テーマコード(参考)】
3J042
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA09
3J042BA05
3J042CA05
3J042CA10
3J042DA10
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB13
3J216BA01
3J216BA11
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC34
3J216CC68
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701GA02
(57)【要約】
【課題】信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化を図ることができる鉄道車両用車軸軸受を提供する。
【解決手段】外輪21と、内輪23と、外輪21と内輪23との間に転動自在に配置される複数の円錐ころ22とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する複列円錐ころ軸受20は、外輪21に取付けられて外輪21から径方向内方へ延びるシール部材30と、シール部材30の内径部分と隣接する内輪23の外径部25に形成された1段の径方向の段差部26と、を備える。シール部材30の内径部分と、段差部26が形成された内輪23の外径部25との間には、2段の径方向すきま41,42が形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受であって、
前記外輪に取付けられて前記外輪から径方向内方へ延びるシール部材と、
前記シール部材の内径部分と隣接する前記内輪の外径部に形成された1段以上の径方向の段差部と、を備え、
前記シール部材の内径部分と、前記段差部が形成された前記内輪の外径部との間には、2つ以上の径方向すきまが形成されている、
ことを特徴とする鉄道車両用車軸軸受。
【請求項2】
前記外輪の幅寸法と前記内輪の幅寸法とが同じである、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【請求項3】
前記シール部材は、前記外輪の内径部に取付けられる外側円筒部と、前記外側円筒部の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部と、前記立板部の内径端から軸受け内方側に延びる内側円筒部とを有する断面U字状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【請求項4】
前記内側円筒部には、前記外径部との間の径方向間隙を狭めるように軸受け内方へ延びる円筒状突起と、前記段差部との間の径方向間隙を狭めるように径方向内方へ延びる環状突起とを有する弾性体が一体に設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鉄道車両の車軸の端部には鉄道車両用軸受ユニットが取り付けられており、車軸を回転自在に支持すると共に車両の重量を支えている。
この種の鉄道車両用軸受ユニットは、一般的に、鉄道車両用車軸軸受の一例である複列円錐ころ軸受(以下、単に「軸受」ともいう。)を備えており、この軸受に鉄道車両の車軸が支持される。そして、この軸受は、単一の外輪と各列に個別に分割された2つの内輪とを備え、外輪と内輪の2列の軌道面間には、保持器に保持された複数の円錐ころが転動自在に配置される。この軸受の軸方向両端側には、密封装置(「シール」とも呼ばれる。)が配置されている。
【0003】
従来、鉄道車両の台車で使用される軸受は、重要部品であることから車両の定期検査時に軸受を分解・点検し、異常がない軸受は再度組立てて継続使用されてきた。そして、近年の社会的な生産労働人口減少の影響から、鉄道車両の定期検査周期延伸や省メンテナンスが求められている。また、CO2削減などの環境貢献の観点で、鉄道車両用車軸軸受(以下、単に「車軸軸受」ともいう。)は信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化が求められている。従って、今後の車軸軸受には、高荷重に耐え、長期潤滑性を保持しながらも、軸受分解を伴うメンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化が付加価値となる。
【0004】
ところで、鉄道車両の輪軸(車輪と軸)を支える車軸軸受は、車両の重量を支えて車輪を回転させる機能を有し、走行中の振動と共に高い荷重が負荷される。そこで、車軸軸受には、軸受内部にグリースを封入し、グリースを保持する為の密封装置付きの構造が多く使用されている。
【0005】
特許文献1には、分解性を向上させるために外径部に分解工具を挿入する切欠きが設けられた密封装置が開示されている。この密封装置は、外輪の軸方向両端部に固定されたシール部材と、内輪の軸方向両側に配された油切りとの間で接触シールを構成しており、軸方向に幅が大きい構成となっている。
【0006】
また、特許文献2には、内輪を外輪よりも幅方向に延出させた内輪延出部分の外周面に、シール部材を落とし込むことができる段差部を設け、シール部材の分解が容易に行える鉄道車両用軸受装置が開示されている。この鉄道車両用軸受装置は、シール部材を摺接させる内輪延出部分が延出された内輪の幅が外輪の幅よりも大きく、軸方向に幅が大きい構成となっている。
【0007】
また、特許文献3には、外輪の端部内周に嵌合された芯金にシール部材が一体に接合されたシール板と、内輪の外径に嵌合されたスリンガとからなるシールが、外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着された複列円錐ころ軸受が開示されている。このシールは、組立幅がコンパクトな構造となっているが、部品点数が多い構成となっている。
【0008】
更に、特許文献4には、手または治具で引っ張られることを案内する案内部が外側シール部材の剛性部に設けられた密封装置が開示されている。この密封装置は、組立幅がコンパクトな構造となっているが、シール形状が複雑なため内輪の幅が外輪の幅よりも大きく、軸方向に幅が大きい構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-210018号公報
【特許文献2】特許第4260935号公報
【特許文献3】特許第4731508号公報
【特許文献4】国際公開第2019/74042号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような密封装置付きの車軸軸受では、従来軸受機能を有しながら、メンテナンス性の向上や、軽量化、省スペース化といった今後のニーズに十分対応することはできなかった。
【0011】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化を図ることができる鉄道車両用車軸軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受であって、
前記外輪に取付けられて前記外輪から径方向内方へ延びるシール部材と、
前記シール部材の内径部分と隣接する前記内輪の外径部に形成された1段以上の径方向の段差部と、を備え、
前記シール部材の内径部分と、前記段差部が形成された前記内輪の外径部との間には、2つ以上の径方向すきまが形成されている、
ことを特徴とする鉄道車両用車軸軸受。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉄道車両用車軸軸受によれば、信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受を含む鉄道車両用軸受ユニットを示す模式的断面図である。
図2図2は、図1のAの部分を拡大して示す模式的断面図である。
図3図3は、本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受を含む鉄道車両用軸受ユニットを示す模式的断面図である。
図4図4は、図1のBの部分を拡大して示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受について、図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用軸受を含む鉄道車両用軸受ユニット10を示す模式的断面図である。図2は、図1のAの部分を拡大して示す模式的断面図である。
図1に示すように、本第1実施形態の鉄道車両用軸受ユニット10は、鉄道車両用車軸軸受として複列円錐ころ軸受20を備え、この複列円錐ころ軸受20により鉄道車両の車軸50が回転自在に支持されている。また、車軸50の外端部(すなわち、図1において軸径が大きくなっている部分)には、鉄道車両における不図示の車輪が取り付けられている。
【0016】
そして、複列円錐ころ軸受20は、単一の外輪21と、各列に個別に分割された2つの内輪23,23と、外輪21と内輪23,23との2列の軌道面間に転動自在に配置される複数の円錐ころ(転動体)22と、複数の円錐ころ22を保持する保持器24と、内輪23,23の間に配置されて軸受すきまを調整する内輪間座28と、を備える。なお、外輪21の軸方向中央部の適所には、軸受空間内にグリース(潤滑剤)を封入するための不図示のグリース供給口が形成されている。
【0017】
内輪23,23の軸方向両端側には、前蓋11及び後蓋27が、内輪23の軸方向端面とそれぞれ当接するようにして、車軸50の回りに配置されている。そして、内輪23,23及び後蓋27は、車軸50の外周面段差部51と前蓋11との間で挟みつけられ、車軸50の軸端52側からボルト13で固定されている。
また、外輪21は、不図示のハウジングに固定されることにより、軸方向に位置決めされている。ここで、外輪21の幅寸法W1と、2つの内輪23,23の幅寸法W2とは、同じとされている。
【0018】
更に、本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20の両側には、密封装置29,29が設けられており、この密封装置29,29によって、複列円錐ころ軸受20内への異物の侵入や、軸受内部からのグリースの漏出が防止されている。
【0019】
図2に示すように、密封装置29は、外輪21に取付けられて外輪21から径方向内方へ延びる金属製のシール部材30と、シール部材30の内径部分を形成する弾性体35と隣接する内輪23の外径部(大つば)25に形成された1段の径方向の段差部26と、によって構成されている。この段差部26は、内輪23の外径部25における内輪軌道面23aよりも幅方向端部側(図2中、右側)に形成されている。
【0020】
シール部材30は、外輪21の外輪軌道面21aよりも幅方向端部側の内径部21bに取付けられる外側円筒部31と、外側円筒部31の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部32と、立板部32の内径端から軸受け内方側に延びる内側円筒部33とを有する断面U字状に形成されている。
【0021】
内側円筒部33には、外径部25の外周面25aとの間の径方向間隙を狭めるように軸受け内方へ延びる円筒状突起36と、段差部26の外周面26aとの間の径方向間隙を狭めるように径方向内方へ延びる一対の環状突起37とを有する弾性体35が一体に設けられている。この弾性体35は、内側円筒部33と共にシール部材30の内径部分を形成している。
【0022】
そこで、シール部材30の内径部分を形成する弾性体35と、段差部26が形成された内輪23の外径部25との間には、2段(2つ以上)の径方向すきま41,42が形成されており、所謂ラビリンス構造が構成されている。
【0023】
即ち、本第1実施形態における密封装置29は、段差部26が形成された内輪23の外径部25と、外輪21の内径部21bに取付けられたシール部材30とによって、2段の径方向すきま41,42(ラビリンス構造)を構成した非接触型の密封装置である。
【0024】
このように、ラビリンス構造による軸受内部の密封機能を複列円錐ころ軸受20の内部側に持たせることによって、複列円錐ころ軸受20における外輪21の幅寸法W1と、2つの内輪23,23の幅寸法W2とを同じとすることができ、複列円錐ころ軸受20の軽量化、省スペース化が容易となる。そして、複列円錐ころ軸受20は、軸受寸法としてコンパクトでありながら少ない部品点数で軸受内部の密封性を保持することができる。
【0025】
更に、内輪23の外径部25に形成される径方向の段差部26の段数を増やし、各段差部26にシール部材30の内径部分を隣接させることで、より複雑なラビリンス構造を付与して密封性を向上させることもできる。
【0026】
また、本第1実施形態におけるシール部材30は、内径部分が軸受け内方側に延びる断面U字形の形状とされており、軸受内部側に向かって軸方向に広いグリース溜りの空間38を画成している。そこで、複列円錐ころ軸受20の潤滑性が保持され易くなり、またグリース漏れ防止への寄与が期待できる。
【0027】
更に、本第1実施形態におけるシール部材30の内側円筒部33には、円筒状突起36と、一対の環状突起37とを有する弾性体35が一体に設けられている。弾性シール材により形成された弾性体35は、円筒状突起36又は環状突起37が内輪23の外径部25又は段差部26に接触しても傷つける虞がないので、径方向すきま41,42を最小として密封性を向上させることができる。
【0028】
また、シール部材30における内側円筒部33の先端は、内輪23の外径部25と段差部26との間における側壁面26bに対して車軸方向に対向している。そこで、複列円錐ころ軸受20からシール部材30を分解する際に、内輪23の側壁面26bがシール部材30の内側円筒部33を車軸方向外方に押すことで、外輪21からシール部材30を容易に分離することができる。
【0029】
以上説明したように、本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20によれば、信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化を図ることができる。
【0030】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用軸受を含む鉄道車両用軸受ユニット10Aを示す模式的断面図である。図4は、図3のBの部分を拡大して示す模式的断面図である。なお、本第2実施形態に係る鉄道車両用軸受としての複列円錐ころ軸受20Aは、上記第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20と同様の構成部材については同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0031】
図3に示すように、本第2実施形態の鉄道車両用軸受ユニット10Aは、鉄道車両用車軸軸受として複列円錐ころ軸受20Aを備え、この複列円錐ころ軸受20Aにより鉄道車両の車軸50が回転自在に支持されている。
本第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受20Aの両側には、密封装置29A,29Aが設けられており、この密封装置29A,29Aによって、複列円錐ころ軸受20A内への異物の侵入や、軸受内部からのグリースの漏出が防止されている。
【0032】
図4に示すように、密封装置29Aは、外輪21に取付けられて外輪21から径方向内方へ延びる金属製のシール部材30Aと、シール部材30Aの内径部分と隣接する内輪23の外径部(大つば)25に形成された1段の径方向の段差部26と、によって構成されている。この段差部26は、内輪23の外径部25における内輪軌道面23aよりも幅方向端部側(図4中、右側)に形成されている。
【0033】
シール部材30Aは、外輪21の外輪軌道面21aよりも幅方向端部側の内径部21bに取付けられる外側円筒部31Aと、外側円筒部31Aの幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部32Aと、外径部25の外周面25aとの間の径方向間隙を狭めるように立板部32Aの内径端から軸受け内方側に延びる内側円筒部33Aとを有する断面U字状に形成されている。
【0034】
内側円筒部33Aには、段差部26の外周面26aとの間の径方向間隙を狭めるように径方向内方へ突出する環状突起37Aが一体に設けられている。この環状突起37Aは、内側円筒部33Aと共にシール部材30Aの内径部分を形成している。
【0035】
そこで、シール部材30の内径部分を形成する内側円筒部33A及び環状突起37Aと、段差部26が形成された内輪23の外径部25との間には、2段の径方向すきま41,42が形成されており、所謂ラビリンス構造が構成されている。
【0036】
即ち、本第2実施形態における密封装置29は、段差部26が形成された内輪23の外径部25と、外輪21の内径部21bに取付けられたシール部材30Aとによって、2段の径方向すきま41,42(ラビリンス構造)を構成した非接触型の密封装置である。
【0037】
このように、ラビリンス構造による軸受内部の密封機能を複列円錐ころ軸受20Aの内部側に持たせることによって、複列円錐ころ軸受20Aにおける外輪21の幅寸法W1と、2つの内輪23,23の幅寸法W2とを同じとすることができ、複列円錐ころ軸受20Aの軽量化、省スペース化が容易となる。そして、複列円錐ころ軸受20Aは、軸受寸法としてコンパクトでありながら少ない部品点数で軸受内部の密封性を保持することができる。
【0038】
更に、内輪23の外径部25に形成される径方向の段差部26の段数を増やし、各段差部26にシール部材30の内径部分を隣接させることで、より複雑なラビリンス構造を付与して密封性を向上させることもできる。
【0039】
また、本第2実施形態におけるシール部材30Aは、内径部分が軸受け内方側に延びる断面U字形の形状とされており、軸受内部側に向かって軸方向に広いグリース溜りの空間38を画成している。そこで、複列円錐ころ軸受20Aの潤滑性が保持され易くなり、またグリース漏れ防止への寄与が期待できる。
【0040】
更に、本第2実施形態におけるシール部材30Aは、金属材料や樹脂材料等の同一材料で一体形成することで、製造コストの低減を図ることができる。
従って、本第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受20Aによれば、上記第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20と同様に、信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化を図ることができ、更にコストダウンを図ることもできる。
【0041】
また、シール部材30Aにおける内側円筒部33Aの環状突起37Aは、内輪23の外径部25と段差部26との間における側壁面26bに対して車軸方向に対向している。そこで、複列円錐ころ軸受20Aからシール部材30Aを分解する際に、内輪23の側壁面26bがシール部材30の環状突起37Aを車軸方向外方に押すことで、外輪21からシール部材30Aを容易に分離することができる。
【0042】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
例えば、本実施形態では、鉄道車両用車軸軸受として、複列円錐ころ軸受20,20Aが適用されているが、これに限定されず、他の形式の転がり軸受が適用されてもよい。
【0043】
ここで、上述した本発明に係る鉄道車両用車軸軸受の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 外輪(21)と、内輪(23)と、前記外輪(21)と前記内輪(23)との間に転動自在に配置される複数の転動体(円錐ころ22)とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸(50)を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)であって、
前記外輪(21)に取付けられて前記外輪(21)から径方向内方へ延びるシール部材(30,30A)と、
前記シール部材(30,30A)の内径部分と隣接する前記内輪(23)の外径部(25)に形成された1段以上の径方向の段差部(26)と、を備え、
前記シール部材(30,30A)の内径部分と、前記段差部(26)が形成された前記内輪(23)の外径部(25)との間には、2つ以上の径方向すきま(41,42)が形成されている、
ことを特徴とする鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)。
【0044】
上記[1]の構成によれば、段差部(26)が形成された内輪(23)の外径部(25)と、外輪(21)の内径部(21b)に取付けられたシール部材(30)とによって、2つ以上の径方向すきま(41,42)を有するラビリンス構造が構成される。
このように、ラビリンス構造による軸受内部の密封機能を複列円錐ころ軸受(20,20A)の内部側に持たせることによって、複列円錐ころ軸受(20,20A)の軽量化、省スペース化が容易となる。また、複列円錐ころ軸受(20,20A)は、軸受寸法としてコンパクトでありながら、少ない部品点数で軸受内部の密封性を保持することができる。
【0045】
[2] 前記外輪(21)の幅寸法(W1)と、前記内輪(23)の幅寸法(W1)とが同じである、
ことを特徴とする上記[1]に記載の鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)。
【0046】
上記[2]の構成によれば、複列円錐ころ軸受(20,20A)における外輪(21)の幅寸法(W1)と、2つの内輪(23),(23)の幅寸法(W2)とを同じとすることで、複列円錐ころ軸受(20,20A)の軽量化、省スペース化が容易となる。
【0047】
[3] 前記シール部材(30,30A)は、前記外輪(21)の内径部(21b)に取付けられる外側円筒部(31,31A)と、前記外側円筒部(31,31A)の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部(32,32A)と、前記立板部(32,32A)の内径端から軸受け内方側に延びる内側円筒部(33,33A)とを有する断面U字状に形成されている、
ことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)。
【0048】
上記[3]の構成によれば、シール部材(30,30A)は、断面U字形の形状とされることで、軸受内部側に向かって軸方向に広いグリース溜りの空間(38)を画成することができる。そこで、鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)の潤滑性が保持され易くなり、またグリース漏れ防止への寄与が期待できる。
【0049】
[4] 前記内側円筒部(33)には、前記外径部(25)との間の径方向間隙を狭めるように軸受け内方へ延びる円筒状突起(36)と、前記段差部(26)との間の径方向間隙を狭めるように径方向内方へ延びる環状突起(37)とを有する弾性体(35)が一体に設けられている、
ことを特徴とする上記[3]に記載の鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20)。
【0050】
上記[4]の構成によれば、弾性シール材により形成された弾性体(35)は、円筒状突起(36)又は環状突起(37)が内輪(23)の外径部(25)又は段差部(26)に接触しても傷つける虞がないので、径方向すきま(41,42)を最小として密封性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 鉄道車両用軸受ユニット
20 複列円錐ころ軸受(鉄道車両用車軸軸受)
21 外輪
22 円錐ころ(転動体)
23 内輪
25 外径部
26 段差部
29 密封装置
41,42 径方向すきま
50 車軸
図1
図2
図3
図4