(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151601
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】鉄道車両用車軸軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20241018BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20241018BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20241018BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20241018BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20241018BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20241018BHJP
【FI】
F16C33/78 C
F16C33/80
F16C19/38
F16J15/447
F16J15/3232 201
F16J15/3256
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065069
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 崇平
(72)【発明者】
【氏名】堀井 庸児
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE16
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J042AA09
3J042BA05
3J042CA05
3J042CA10
3J042DA10
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA20
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB13
3J216BA01
3J216BA11
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC68
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA31
3J701GA02
(57)【要約】
【課題】信頼性向上と長寿命化と共に、メンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化を図ることができる鉄道車両用車軸軸受を提供する。
【解決手段】外輪21と、内輪23と、外輪21と内輪23との間に転動自在に配置される複数の円錐ころ22とを有し、鉄道車両の車軸50を回転自在に支持する複列円錐ころ軸受20は、外輪21の内径部21bに取付けられる外側円筒部31と、外側円筒部31の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部32とを有する外側シール部材30と、立板部32の内径端32aと隣接する内輪23の外径部25に形成された小径段差部26と、立板部32の内径端32aに固定されて小径段差部26の外周に対向する弾性体35と、を備える。小径段差部26の外周に隣接する立板部32の内径端32aは、内輪23の外径部25と小径段差部26との間における側壁面26bに対して車軸方向に対向している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受であって、
前記外輪の内径部に取付けられる外側円筒部と、前記外側円筒部の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部とを有する外側シール部材と、
前記立板部の内径端と隣接する前記内輪の外径部に形成された1段以上の小径段差部と、
前記立板部の内径端に固定されて前記小径段差部の外周に対向する弾性体と、を備え、
前記小径段差部の外周に隣接する前記立板部の内径端は、前記内輪の外径部と前記小径段差部との間における側壁面に対して車軸方向に対向している、
ことを特徴とする鉄道車両用車軸軸受。
【請求項2】
前記複数の転動体を回動自在に保持する保持器と、前記外側シール部材との軸方向相対距離が、前記内輪の外径部と前記小径段差部との間における側壁面と、前記外側シール部材との軸方向相対距離よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【請求項3】
前記小径段差部の外周には、前記弾性体が摺接可能な内側シール部材が設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【請求項4】
前記外側シール部材は、前記立板部の内径端から軸受け内方側に延びる内側円筒部を有する断面U字状に形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鉄道車両の車軸の端部には鉄道車両用軸受ユニットが取り付けられており、車軸を回転自在に支持すると共に車両の重量を支えている。
この種の鉄道車両用軸受ユニットは、一般的に、鉄道車両用車軸軸受の一例である複列円錐ころ軸受(以下、単に「軸受」ともいう。)を備えており、この軸受に鉄道車両の車軸が支持される。そして、この軸受は、単一の外輪と各列に個別に分割された2つの内輪とを備え、外輪と内輪の2列の軌道面間には、保持器に保持された複数の円錐ころが転動自在に配置される。この軸受の軸方向両端側には、密封装置(「シール」とも呼ばれる。)が配置されている。
【0003】
従来、鉄道車両の台車で使用される軸受は、重要部品であることから車両の定期検査時に軸受を分解・点検し、異常がない軸受は再度組立てて継続使用されてきた。そして、近年の社会的な生産労働人口減少の影響から、鉄道車両の定期検査周期延伸や省メンテナンスが求められている。また、CO2削減などの環境貢献の観点で、鉄道車両用車軸軸受(以下、単に「車軸軸受」ともいう。)は信頼性向上と長寿命化と共に、軽量化、省スペース化が求められている。従って、今後の車軸軸受には、高荷重に耐え、長期潤滑性を保持しながらも、軸受分解を伴うメンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化が付加価値となる。
【0004】
ところで、鉄道車両の輪軸(車輪と軸)を支える車軸軸受は、車両の重量を支えて車輪を回転させる機能を有し、走行中の振動と共に高い荷重が負荷される。そこで、車軸軸受には、軸受内部にグリースを封入し、グリースを保持する為の密封装置付きの構造が多く使用されている。
【0005】
特許文献1には、分解性を向上させるためにシールケースの外径部に分解工具を挿入する切欠きが設けられた密封装置が開示されている。この密封装置は、外輪の軸方向両端部に固定されたシール部材と、内輪の軸方向両側に配された油切りとの間で接触シールを構成しており、軸方向に幅が大きい構成となっている。
【0006】
また、特許文献2には、内輪を外輪よりも幅方向に延出させた内輪延出部分の外周面に、シール部材を落とし込むことができる段差部を設け、シール部材の分解が容易に行える鉄道車両用軸受装置が開示されている。この鉄道車両用軸受装置は、シール部材を摺接させる内輪延出部分が延出された内輪の幅が外輪の幅よりも大きく、軸方向に幅が大きい構成となっている。
【0007】
また、特許文献3には、外輪の端部内周に嵌合された芯金にシール部材が一体に接合されたシール板と、内輪の外径に嵌合されたスリンガとからなるシールが、外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着された複列円錐ころ軸受が開示されている。このシールは、組立幅がコンパクトな構造となっているが、部品点数が多い構成となっている。
【0008】
更に、特許文献4には、手または治具で引っ張られることを案内する案内部が外側シール部材の剛性部に設けられた密封装置が開示されている。この密封装置は、組立幅がコンパクトな構造となっているが、シール形状が複雑なため内輪の幅が外輪の幅よりも大きく、軸方向に幅が大きい構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-210018号公報
【特許文献2】特許第4260935号公報
【特許文献3】特許第4731508号公報
【特許文献4】国際公開第2019/74042号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1の密封装置では、コンパクト化を狙いシールケースの外径部の幅を外輪の幅以下や内輪の幅以下とすることが困難である。また、上記特許文献2の鉄道車両用軸受装置では、シール部材のシール外環の幅が内輪の幅よりも大きく、コンパクト化が考慮されていない。
【0011】
更に、上記特許文献3の複列円錐ころ軸受では、分解性について考慮されておらず、シール分解時に分解工具を挿入する箇所がなく、内輪と同時に分解することも困難である。また、上記特許文献4の密封装置では、分解工具を挿入するための案内部(凹部、突起、ネジ孔など)を設けているため、分解工具の形状が複雑、且つ、寸法制約を受けるという問題がある。
【0012】
従って、上述のような密封装置付きの車軸軸受では、従来軸受機能を有しながら、メンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化といった今後のニーズに十分対応することはできなかった。
【0013】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、信頼性向上と長寿命化と共に、メンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化を図ることができる鉄道車両用車軸軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受であって、
前記外輪の内径部に取付けられる外側円筒部と、前記外側円筒部の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部とを有する外側シール部材と、
前記立板部の内径端と隣接する前記内輪の外径部に形成された1段以上の小径段差部と、
前記立板部の内径端に固定されて前記小径段差部の外周に対向する弾性体と、を備え、
前記小径段差部の外周に隣接する前記立板部の内径端は、前記内輪の外径部と前記小径段差部との間における側壁面に対して車軸方向に対向している、
ことを特徴とする鉄道車両用車軸軸受。
【発明の効果】
【0015】
本発明の鉄道車両用車軸軸受によれば、信頼性向上と長寿命化と共に、メンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受を含む鉄道車両用軸受ユニットを示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のAの部分を拡大して示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した鉄道車両用車軸軸受の分解手順を説明する模式的断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受を含む鉄道車両用軸受ユニットを示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は、
図4のBの部分を拡大して示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受について、図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用軸受を含む鉄道車両用軸受ユニット10を示す模式的断面図である。
図2は、
図1のAの部分を拡大して示す模式的断面図である。
図1に示すように、本第1実施形態の鉄道車両用軸受ユニット10は、鉄道車両用車軸軸受として複列円錐ころ軸受20を備え、この複列円錐ころ軸受20により鉄道車両の車軸50が回転自在に支持されている。また、車軸50の外端部(すなわち、
図1において軸径が大きくなっている部分)には、鉄道車両における不図示の車輪が取り付けられている。
【0018】
そして、複列円錐ころ軸受20は、単一の外輪21と、各列に個別に分割された2つの内輪23,23と、外輪21と内輪23,23との2列の軌道面間に転動自在に配置される複数の円錐ころ(転動体)22と、複数の円錐ころ22を保持する保持器24と、内輪23,23の間に配置されて軸受すきまを調整する内輪間座28と、を備える。なお、外輪21の軸方向中央部の適所には、軸受空間内にグリース(潤滑剤)を封入するための不図示のグリース供給口が形成されている。
【0019】
内輪23,23の軸方向両端側には、前蓋11及び後蓋27が、内輪23の軸方向端面とそれぞれ当接するようにして、車軸50の回りに配置されている。そして、内輪23,23及び後蓋27は、車軸50の外周面段差部51と前蓋11との間で挟みつけられ、車軸50の軸端52側からボルト13で固定されている。
また、外輪21は、不図示のハウジングに固定されることにより、軸方向に位置決めされている。
【0020】
更に、本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20の両側には、密封装置29,29が設けられており、この密封装置29,29によって、複列円錐ころ軸受20内への異物の侵入や、軸受内部からのグリースの漏出が防止されている。
【0021】
図2に示すように、密封装置29は、外輪21に取付けられる外側シール部材30と、外側シール部材30の内径部分と隣接する内輪23の外径部(大つば)25に形成された1段の小径段差部26と、小径段差部26に固定される内側シール部材40とによって構成されている。この小径段差部26は、内輪23の外径部25における内輪軌道面23aよりも幅方向端部側(
図2中、右側)に形成されている。
【0022】
外側シール部材30は、外輪21の外輪軌道面21aよりも幅方向端部側の内径部21bに取付けられる外側円筒部31と、外側円筒部31の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部32とを有する断面L字状に、金属材料から形成されている。この立板部32の内径端32aは、内輪23の外径部25と小径段差部26との間における側壁面26bに対して車軸方向(
図2中、左右方向)に対向している。
【0023】
そこで、断面L字状に形成された外側シール部材30は、外輪21の内径部21bの内周面に取付けられた外側円筒部31の幅方向外端から径方向内方へ延びた立板部32が、外輪21の外輪端面よりはみ出さないシンプルでコンパクトな形状となっている。
【0024】
外側シール部材30の内径端32aには、内輪23の小径段差部26の外周に対向する弾性体35が一体に設けられて固定されている。この弾性体35は、立板部32の内径端32aと共に外側シール部材30の内径部分を形成している。
ゴムやエラストマーなどの弾性シール材により形成された弾性体35は、小径段差部26に固定された内側シール部材40に摺動可能に接触するリップ部としての第1リップ36及び第2リップ37と、第3リップ38及び第4リップ39とを一体に有している。
【0025】
内側シール部材40は、内輪23の小径段差部26に圧入される内側スリーブ41と、内側スリーブ41の幅方向外端から径方向外方へ延びるフランジ42と、フランジ42の内径端から軸受内方側に延びる外側スリーブ43とを有する断面U字状に形成されている。
【0026】
弾性体35の第1リップ36は、内側シール部材40における内側スリーブ41の外周面に全周に亘って摺動可能に接触し、主に軸受内部側から大気側へのグリースの漏れを防止又は低減する機能を有する。
弾性体35の第2リップ37は、内側シール部材40における内側スリーブ41の外周面に全周に亘って摺動可能に接触し、主に大気側から軸受内部側への異物の侵入を防止又は低減する機能を有する。
【0027】
なお、内輪23の小径段差部26の外周面26aに、弾性体35が摺接可能な内側シール部材40を設けることで、弾性体35が摺接することで小径段差部26の外周面26aが摩耗することが防止される。そして、シール機能の低下時に、内側シール部材40のみを交換して初期のシール性能を復帰させることができる。
【0028】
また、弾性体35の第3リップ38及び第4リップ39は、内側シール部材40における外側スリーブ43を径方向から挟むように配置され、ラビリンスシールを構成している。
【0029】
更に、
図2に示すように、本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20は、複数の円錐ころ22を回動自在に保持する保持器24の外側面24aと、外側シール部材30の立板部32との軸方向相対距離L1が、内輪23の外径部25と小径段差部26との間における側壁面26bと、外側シール部材30の立板部32との軸方向相対距離L2よりも大きくなるように構成されている。
【0030】
このように、上述した本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20によれば、密封装置29を分解する際には、外輪21に対して軸方向に移動させた内輪23の側壁面26bが外側シール部材30の内径端32aを押すことで、外輪21から外側シール部材30を分離することが可能となる。即ち、密封装置29の外側シール部材30を内輪23が直接押すような構造とすることで、密封装置29の分解性を向上させることができる。その結果、複列円錐ころ軸受20のメンテナンス性が向上する。
【0031】
ここで、複列円錐ころ軸受20を分解する方法の一例を説明する。
図3は、
図1に示した複列円錐ころ軸受20の分解手順を説明する模式的断面図である。
図3に示すように、例えば、複列円錐ころ軸受20の密封装置29を分解する際には、先ず、作業台90上に載置した治具台80に、複列円錐ころ軸受20の軸方向一端が下方となるように載せられる。治具台80は、外輪21の外径より若干大きい外径を有すると共に、外輪21の内径部21bの内径より若干大きい内径を有する円環状に形成されている。
【0032】
分解工具70は、上下に駆動される駆動軸71と、駆動軸71の下端に取付けられた円盤状の工具本体73と、工具本体73に収容されて先端が工具本体73の外周面から放射状に出没自在な複数の押圧片75とを有する。
【0033】
工具本体73は、内輪23の内径より若干小さい外径を有している。そこで、複数の押圧片75の先端が工具本体73内に全て没した状態では、工具本体73は内輪23内を挿通することができる。また、複数の押圧片75の先端が工具本体73の外周面から放射状に突出した状態では、押圧片75の先端が内輪23の軸方向端に当接して工具本体73は内輪23内を挿通することができない。
【0034】
そして、治具台80の上端縁に対して外輪21の軸方向一端が対向するようにして治具台80に複列円錐ころ軸受20が載せられる。この際、治具台80に載せる複列円錐ころ軸受20は、2つの内輪23,23の間に分解工具70の押圧片75を挿入できるように、予め2つの内輪23,23の間隔を軸方向に離しておく。
【0035】
次に、分解工具70の駆動軸71が下方に駆動され、複数の押圧片75の先端が工具本体73内に全て没した状態の工具本体73が上側の内輪23内を挿通される。上側の内輪23内を貫通した工具本体73の外周面からは、
図3に示すように、複数の押圧片75の先端が放射状に突出して2つの内輪23,23の間に配置される。そこで、分解工具70は、複数の押圧片75の先端が内輪間座28に当接し、下側の内輪23の軸方向端を下方に押すことができる。
【0036】
そして、分解工具70の駆動軸71が下方にさらに駆動されると、治具台80に支持された外輪21に対して下方に相対移動した下側の内輪23は、側壁面26bが外側シール部材30の内径端32aを下方に押すので、外輪21から外側シール部材30を分離することができる。
【0037】
この際、上述したように、保持器24と外側シール部材30との軸方向相対距離L1が、内輪23と外側シール部材30との軸方向相対距離L2よりも大きいので、外輪21に対して下側の内輪23を軸方向下方に移動させた際に、外側シール部材30が内輪23の側壁面26bよりも先に軸受内部の保持器24に接触することがない。
【0038】
即ち、外輪21に対して下側の内輪23を軸方向下方に移動させた際、外側シール部材30と保持器24とが接触してしまい、保持器24が傷ついたり、変形したりして複列円錐ころ軸受20が継続使用できなくなる懸念がない。特に、樹脂材料を採用した保持器では、外側シール部材30との接触を必ず避けなければならないので、本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20の構成が有効である。
【0039】
更に、本第1実施形態における密封装置29を構成する外側シール部材30及び内側シール部材40や、内輪23は、円周方向断面が同一のシンプルな形状で構成することができる。また、従来構造と比べ、複列円錐ころ軸受20の密封装置29はシンプルでコンパクトな形状となっており、外輪21を固定するハウジング形状を省スペース化したり、構成する部品を省略したりすることができる。そこで、鉄道車両用軸受ユニット10の軽量化が可能となる。
【0040】
以上説明したように、本第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20によれば、信頼性向上と長寿命化と共に、メンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化を図ることができる。
【0041】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用軸受を含む鉄道車両用軸受ユニット10Aを示す模式的断面図である。
図5は、
図4のBの部分を拡大して示す模式的断面図である。なお、本第2実施形態に係る鉄道車両用軸受としての複列円錐ころ軸受20Aは、上記第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20と同様の構成部材については同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
図4に示すように、本第2実施形態の鉄道車両用軸受ユニット10Aは、鉄道車両用車軸軸受として複列円錐ころ軸受20Aを備え、この複列円錐ころ軸受20Aにより鉄道車両の車軸50が回転自在に支持されている。
本第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受20Aの両側には、密封装置29A,29Aが設けられており、この密封装置29A,29Aによって、複列円錐ころ軸受20A内への異物の侵入や、軸受内部からのグリースの漏出が防止されている。
【0043】
図5に示すように、密封装置29Aは、外輪21に取付けられる外側シール部材30Aと、外側シール部材30Aの内径部分と隣接する内輪23の外径部(大つば)25に形成された1段の小径段差部26と、小径段差部26に固定される内側シール部材40とによって構成されている。この小径段差部26は、内輪23の外径部25における内輪軌道面23aよりも幅方向端部側(
図5中、右側)に形成されている。
【0044】
外側シール部材30Aは、外輪21の外輪軌道面21aよりも幅方向端部側の内径部21bに取付けられる外側円筒部31と、外側円筒部31の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部32と、立板部32の内径端32aから軸受け内方側に延びる内側円筒部33とを有する断面U字状に、金属材料から形成されている。
この立板部32の内側円筒部33は、内輪23の外径部25と小径段差部26との間における側壁面26bに対して先端が車軸方向(
図5中、左右方向)に対向している。
【0045】
そこで、断面U字状に形成された外側シール部材30Aは、外輪21の内径部21bの内周面に取付けられた外側円筒部31の幅方向外端から径方向内方へ延びた立板部32が、外輪21の外輪端面よりはみ出さないシンプルでコンパクトな形状となっている。
【0046】
外側シール部材30Aにおける立板部32の内径端32a及び内側円筒部33には、弾性体35Aが一体に設けられて固定されている。この弾性体35Aは、内側円筒部33と共に外側シール部材30Aの内径部分を形成している。
ゴムやエラストマーなどの弾性シール材により形成された弾性体35Aは、小径段差部26に固定された内側シール部材40に摺動可能に接触するリップ部としての第1リップ36及び第2リップ37と、第3リップ38及び第4リップ39とを一体に有している。
【0047】
更に、
図5に示すように、本第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受20Aは、複数の円錐ころ22を回動自在に保持する保持器24の外側面24aと、外側シール部材30Aの立板部32との軸方向相対距離L1が、内輪23の外径部25と小径段差部26との間における側壁面26bと、外側シール部材30Aの立板部32との軸方向相対距離L2よりも大きくなるように構成されている。
【0048】
このように、上述した本第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受20Aによれば、上記第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受20と同様に、密封装置29Aを分解する際には、外輪21に対して軸方向に移動させた内輪23の側壁面26bが外側シール部材30Aの内側円筒部33を押すことで、外輪21から外側シール部材30Aを分離することが可能となる。即ち、密封装置29Aの外側シール部材30Aを内輪23が直接押すような構造とすることで、密封装置29Aの分解性を向上させることができる。その結果、複列円錐ころ軸受20Aのメンテナンス性が向上する。
【0049】
更に、本第2実施形態における密封装置29Aを構成する外側シール部材30Aは、円周方向断面が同一のシンプルな形状で構成することができる。また、従来構造と比べ、複列円錐ころ軸受20Aの密封装置29Aはシンプルでコンパクトな形状となっており、外輪21を固定するハウジング形状を省スペース化したり、構成する部品を省略したりすることができる。そこで、鉄道車両用軸受ユニット10Aの軽量化が可能となる。
【0050】
また、本第2実施形態における外側シール部材30Aは、内径部分が軸受け内方側に延びる断面U字形の形状とされており、軸受内部側に向かって軸方向に広いグリース溜りの空間15を画成している。そこで、複列円錐ころ軸受20Aの潤滑性が保持され易くなり、またグリース漏れ防止への寄与が期待できる。
【0051】
ところで、鉄道車両用車軸軸受は、振動環境下で使用されることから、外側シール部材30Aと外輪21との嵌合代を十分に確保する必要がある。そのため、内輪23の側壁面26bと接触する外側シール部材30Aの円環剛性は重要となる。
上述した本第2実施形態における外側シール部材30Aは、内径部分が軸受け内方側に延びる断面U字形の形状とされており、上記第1実施形態における断面L字形の外側シール部材30に比べて円環剛性が高い。そこで、外側シール部材30Aは、内輪23の側壁面26bに押される力でも変形し難く、適切な分解作業が容易となる。
【0052】
以上説明したように、本第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受20Aによれば、信頼性向上と長寿命化と共に、メンテナンス性の向上や軽量化、省スペース化を図ることができる。
【0053】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
例えば、本実施形態では、鉄道車両用車軸軸受として、複列円錐ころ軸受20,20Aが適用されているが、これに限定されず、他の形式の転がり軸受が適用されてもよい。
更に、上記実施形態では、内輪23の小径段差部26の外周に対向する弾性体35(35A)が、内側シール部材40の内側スリーブ41に摺動可能に接触する第1リップ36及び第2リップ37を有している。本発明の弾性体はこれに限定されず、小径段差部の外周に対向するリップ部が小径段差部や内側シール部材の外周に接触しないラビリンスシールを構成する弾性体とすることもできる。
【0054】
ここで、上述した本発明に係る鉄道車両用車軸軸受の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 外輪(21)と、内輪(23)と、前記外輪(21)と前記内輪(23)との間に転動自在に配置される複数の転動体(円錐ころ22)とを有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸(50)を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)であって、
前記外輪(21)の内径部(21b)に取付けられる外側円筒部(31)と、前記外側円筒部(31)の幅方向外端から径方向内方へ延びる立板部(32)とを有する外側シール部材(30,30A)と、
前記立板部(32)の内径端(32a)と隣接する前記内輪(23)の外径部(25)に形成された1段以上の小径段差部(26)と、
前記立板部(32)の内径端(32a)に固定されて前記小径段差部(26)の外周に対向する弾性体(35,35A)と、を備え、
前記小径段差部(26)の外周に隣接する前記立板部(32)の内径端(32a)は、前記内輪(23)の外径部(25)と前記小径段差部(26)との間における側壁面(26b)に対して車軸方向に対向している、
ことを特徴とする鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)。
【0055】
上記[1]の構成によれば、外側シール部材(30,30A)を分解する際には、外輪(21)に対して軸方向に移動させた内輪(23)の側壁面(26b)が外側シール部材(30,30A)の内径端(32a)を押すことで、外輪(21)から外側シール部材(30,30A)を分離することが可能となる。即ち、外側シール部材(30,30A)を内輪(23)が直接押すような構造とすることで、密封装置の分解性を向上させることができる。その結果、鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)のメンテナンス性が向上する。
また、外側シール部材(30,30A)や、内輪(23)は、円周方向断面が同一のシンプルな形状で構成することができる。また、従来構造と比べ、密封装置はシンプルでコンパクトな形状となり、外輪(21)を固定するハウジング形状を省スペース化したり、構成する部品を省略したりすることができ、鉄道車両用軸受ユニットの軽量化が可能となる。
【0056】
[2] 前記複数の転動体(円錐ころ22)を回動自在に保持する保持器(24)と、前記外側シール部材(30,30A)との軸方向相対距離(L1)が、前記内輪(23)の外径部(25)と前記小径段差部(26)との間における側壁面(26b)と、前記外側シール部材(30,30A)との軸方向相対距離(L2)よりも大きい、
ことを特徴とする上記[1]に記載の鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)。
【0057】
上記[2]の構成によれば、外輪(21)に対して内輪(23)を軸方向に移動させた際に、外側シール部材(30,30A)が内輪(23)の側壁面(26b)よりも先に軸受内部の保持器(24)に接触することがない。そこで、保持器(24)が傷ついたり、変形したりして複列円錐ころ軸受(20,20A)が継続使用できなくなる懸念がない。
【0058】
[3] 前記小径段差部(26)の外周面(26a)には、前記弾性体(35,35A)が摺接可能な内側シール部材(40)が設けられている、
ことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20,20A)。
【0059】
上記[3]の構成によれば、弾性体(35,35A)が摺接することで小径段差部(26)の外周面(26a)が摩耗することが防止され、シール機能の低下時に、内側シール部材(40)のみを交換して初期のシール性能を復帰させることができる。
【0060】
[4] 前記外側シール部材(30A)は、前記立板部(32)の内径端(32a)から軸受け内方側に延びる内側円筒部(33)を有する断面U字状に形成されている、
ことを特徴とする上記[3]に記載の鉄道車両用車軸軸受(複列円錐ころ軸受20A)。
【0061】
上記[4]の構成によれば、外側シール部材(30A)は、円環剛性が高まり、内輪(23)の側壁面(26b)に押される力でも変形し難く、適切な分解作業が容易となる。
【符号の説明】
【0062】
10 鉄道車両用軸受ユニット
20 複列円錐ころ軸受(鉄道車両用車軸軸受)
21 外輪
21b 内径部
22 円錐ころ(転動体)
23 内輪
25 外径部
26 小径段差部
26b 側壁面
29 密封装置
30 外側シール部材
31 外側円筒部
32 立板部
32a 内径端
50 車軸