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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151603
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/02 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
B66B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065073
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】523133306
【氏名又は名称】株式会社島製作所
(71)【出願人】
【識別番号】502250178
【氏名又は名称】ジャパンエレベーターサービスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】島 陽一
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA04
3F321CA11
3F321CA13
3F321CD11
3F321CD12
(57)【要約】
【課題】エスカレーターの利用者の安全性を確保すること。
【解決手段】内部に潤滑剤を収容する筐体201と、筐体201の側面を貫通するブレーキ軸用貫通孔403と、ブレーキ軸用貫通孔403を貫通するブレーキ軸206と、ブレーキ軸用貫通孔403とブレーキ軸206との間に設けられたオイルシール301と、を備えたエスカレーター減速機117において、筐体201の側面であって、ブレーキ軸206の鉛直方向における下側に溝302を設けた。これにより、漏れ出した潤滑油がブレーキ軸206を伝ってブレーキに到達することを防止でき、エスカレーターの利用者の安全性を確保することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に潤滑剤を収容する筐体と、
前記筐体の側面を貫通する貫通孔と、
前記貫通孔を貫通する回転軸と、
前記貫通孔と前記回転軸との間に設けられたオイルシールと、
前記筐体の側面であって、前記回転軸の鉛直方向における下側に設けられた溝と、
を備えたことを特徴とする減速機。
【請求項2】
前記溝よりも鉛直方向における下側に設けられたオイルパンを備えたことを特徴とする請求項1に記載の減速機。
【請求項3】
前記オイルパンは、前記筐体に対して取り外し可能に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の減速機。
【請求項4】
前記回転軸は、当該回転軸の回転を制止するブレーキに連結されるブレーキ軸であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力された動力の回転速度を減速して出力する減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターは、階段状のステップを、モーターの駆動力を用いて循環移動させることにより、当該ステップを昇降させる。エスカレーターは、モーターの回転速度を減じることによって、出力トルクを高めてからステップに伝達するエスカレーター減速機を備えている。
【0003】
エスカレーター減速機は、モーターに連結されてモーターの回転を受ける回転軸と、ステップチェーンを介してステップに連結される出力軸と、を備えている。エスカレーター減速機は、回転軸において受けたモーターの回転を、ギア列を介して出力軸に伝達するようにしている。
【0004】
このようなエスカレーター減速機には、たとえば、回転軸の軸心方向における両端部が、エスカレーター減速機の筐体からそれぞれ突出するように設けられているものがある。そして、このような構造のエスカレーター減速機の場合、筐体から突出した回転軸の両端部のうちの一方の端部をモーターの回転を受ける入力軸とし、他方の端部をブレーキ(電磁ブレーキ)が取り付けられるブレーキ軸としている。
【0005】
このようなエスカレーター減速機の筐体には、回転軸の両端を筐体からそれぞれ突出させるための貫通孔が設けられている。エスカレーター減速機の筐体内は、潤滑油で満たされていることから、エスカレーター減速機の筐体においては、回転軸が貫通している貫通孔と回転軸との隙間から潤滑油が漏れ出さないように、当該貫通孔と回転軸との間にオイルシールなどの漏油防止対策が施されている。
【0006】
関連する技術として、従来、具体的には、たとえば、エスカレータにおける減速機構を備えた駆動装置において、この減速機構のギヤケースに軸装された駆動軸に大歯車を軸着し、これに噛合する小歯車を軸装した補助軸にディスク電磁ブレーキ装置を設けるようにした技術があった(たとえば、下記特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-112390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような従来のエスカレーター減速機においては、上述したように、オイルシールによる漏油防止対策が施されているものの、オイルシールの経年劣化などに起因して漏油が発生する懸念がある。そして、仮に、エスカレーター減速機の漏油が生じて、漏れ出た潤滑油がブレーキ軸を伝わってブレーキに到達してしまった場合、ブレーキの制動力に悪影響を及ぼすなど、エスカレーターの利用者の安全性に不安があるという問題があった。
【0009】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、エスカレーターの利用者の安全性を確保することができる減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる減速機は、内部に潤滑剤を収容する筐体と、前記筐体の側面を貫通する貫通孔と、前記貫通孔を貫通する回転軸と、前記貫通孔と前記回転軸との間に設けられたオイルシールと、前記筐体の側面であって、前記回転軸の鉛直方向における下側に設けられた溝と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる減速機は、上記の発明において、前記溝よりも鉛直方向における下側に設けられたオイルパンを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる減速機は、上記の発明において、前記オイルパンは、前記筐体に対して取り外し可能に設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる減速機は、上記の発明において、前記回転軸は、当該回転軸の回転を制止するブレーキに連結されるブレーキ軸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる減速機によれば、エスカレーターの利用者の安全性を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機を備えた、エスカレーターの一例を示す説明図である。
図2】この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機の構造の一例を示す説明図(その1)である。
図3】この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機の構造の一例を示す説明図(その2)である。
図4】この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機の構造の一例を示す説明図(その1)である。
図5】この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機の一部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる減速機の好適な実施の形態を詳細に説明する。この実施の形態においては、この発明にかかる減速機を、エスカレーターに用いるエスカレーター減速機によって実現した例について説明する。
【0017】
(エスカレーターの一例)
まず、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機を備えた、エスカレーターの一例について説明する。図1は、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機を備えた、エスカレーターの一例を示す説明図である。
【0018】
図1に示すように、エスカレーター100は、図示を省略する躯体に設置された枠体101を備えている。枠体101は、鉄骨などを用いて構成される。たとえば、図1に示すような、高さの異なる階床間に設置されるエスカレーター100の場合、枠体101は、上側の階床102と下側の階床103との2つの階床(各階床102、103の床の梁)に架け渡される。
【0019】
枠体101は、上側の階床102の床下に設けられる上側部101aと、下側の階床103の床下に設けられる下側部101bと、上側部101aと下側部101bとの間に設けられる中間部101cと、からなる。中間部101cは、上側部101aと下側部101bとの間で所定の角度で傾斜した状態で設けられている。この実施の形態においては、枠体における中間部101cの傾斜に沿った方向(上側部101aと中間部101cと下側部101bとの配置方向)を「長さ方向」とし、当該長さ方向に直交する方向を「幅方向」として説明する。
【0020】
枠体101において、上側部101a、下側部101bは、それぞれ機械室とされている。上側部101aの機械室には、たとえば、エスカレーター100が備える各部を駆動制御する制御盤や、当該制御盤によって駆動制御されるモーター104やモーター104の動力が伝達される駆動スプロケット105を含む駆動機構などが配置される。下側部101bの機械室には、従動スプロケット106や、当該従動スプロケット106を支持する機構など、エスカレーター100の動作にかかる構造物が配置される。
【0021】
上側部101aの上端面すなわち上側の階床102の床面と同一面には、上側乗降板107が設けられている。上側乗降板107は、上側部101a(上側の階床102の床面下に位置する機械室)を開放可能に閉塞する。下側部101bの上端面すなわち下側の階床103の床面と同一面には、下側乗降板108が設けられている。下側乗降板108は、下側部101b(下側の階床103の床面下に位置する機械室)を開放可能に閉塞する。
【0022】
上側乗降板107および下側乗降板108は、エスカレーター100のメンテナンスに際して、取り外され、各機械室を開放する。また、上側乗降板107および下側乗降板108は、エスカレーター100の稼働時において、エスカレーター100の利用者の通路として利用される。
【0023】
枠体101の上側には、欄干109が設けられている。欄干109は、たとえば、強化ガラスやステンレスなどを用いて形成することができる。欄干109には、無端(ループ)形状のハンドレール(手すりベルト)110が設けられている。ハンドレール110は、欄干109の端面に沿った状態で、エスカレーター100の長さ方向に沿ってスライド移動可能に設けられている。
【0024】
エスカレーター100は、複数のステップ111を備えている。複数のステップ111は、それぞれ、踏板111aとライザ111bとを備えている。踏板111aは平板形状をなし、ライザ111bは緩やかに湾曲した板形状をなす。幅方向における踏板111aおよびライザ111bの寸法は等しい。踏板111aの幅方向に直交する方向の寸法(踏板111aの踏面寸法)と、ライザ111bの幅方向に直交する方向の寸法(ライザ111bの高さ寸法)とは、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。踏板111aとライザ111bとは、互いに一辺において、寸法を等しくする幅方向に沿って連結されている。
【0025】
また、複数のステップ111は、それぞれ、駆動ローラ112と従動ローラ113とを備えている。駆動ローラ112および従動ローラ113は、踏板111aとライザ111bとに架け渡されたブラケット111cに対して、回転可能に取り付けられている。ブラケット111cは、踏板111aとライザ111bとを連結し、ステップ111の強度を確保する。これにより、エスカレーター100の利用者によってかかる荷重を支え、利用者の安全性を確保することができる。
【0026】
駆動ローラ112および従動ローラ113は、ステップ11の幅方向における両端位置に設けられている。このうち、駆動ローラ112は、踏板の幅方向に直交する方向における、踏板111aとライザ111bとの連結位置とは反対側の端部に近い位置に設けられている。また、従動ローラ113は、ライザ111bの高さ方向における、踏板111aとライザ111bとの連結位置とは反対側の端部に近い位置に設けられている。
【0027】
複数のステップ111の幅方向における両側方には、それぞれ、無端形状をなす駆動ローラ用ガイドレール114が設けられている。駆動ローラ112は、それぞれ、外周面が駆動ローラ用ガイドレール114に当接するように設けられている。また、複数のステップ111の幅方向における両側方には、それぞれ、無端形状をなす従動ローラ用ガイドレール115が設けられている。従動ローラ113は、それぞれ、外周面が従動ローラ用ガイドレール115に当接するように設けられている。
【0028】
駆動ローラ用ガイドレール114および従動ローラ用ガイドレール115は、それぞれ異なる軌道を描くように配設されている。また、駆動ローラ用ガイドレール114および従動ローラ用ガイドレール115は、それぞれの軌道が交差しない状態で配設されている。
【0029】
複数のステップ111がそれぞれ備える駆動ローラ112は、それぞれ、無端形状をなすステップチェーン116に連結されている。ステップチェーン116は、駆動スプロケット105および従動スプロケット106に架け渡されている。駆動スプロケット105および従動スプロケット106は、位置が固定されており、定位置において回転する。
【0030】
駆動スプロケット105は、エスカレーター減速機117の出力軸(図2図4を参照)に連結されている。駆動スプロケット105は、モーター104からエスカレーター減速機117を介して伝達される駆動トルクを受けて回転する。ステップチェーンは、駆動スプロケット105の回転にともなって、従動スプロケット106をともに回転させながら、駆動スプロケット105と従動スプロケット106との間に架け渡された状態で回転する。
【0031】
ステップチェーン116の回転にともなって、駆動ローラ112および従動ローラ113は、それぞれ、駆動ローラ用ガイドレール114および従動ローラ用ガイドレール115に当接した状態で回転しながら、各ガイドレール114、115に沿って転動する。これにより、複数のステップ111が、ステップチェーン116の回動にともなって、鉛直方向斜め上方向あるいは鉛直方向斜め下方向に移動する。
【0032】
ステップ111の移動に際して、駆動ローラ114および従動ローラ115が、それぞれ、駆動ローラ用ガイドレール114および従動ローラ用ガイドレール115に当接した状態で転動することにより、ステップ111どうしが段差をなしたり、ステップ111(踏板111a)どうしを平らにしたり、各ステップ111の天地方向をひっくり返した状態で移動させたりすることができる。
【0033】
上述したハンドレール110は、ハンドレール駆動装置118によって、複数のステップ111の移動方向と同一方向(長さ方向)に、当該複数のステップ111の移動に同期して循環移動する。ハンドレール駆動装置118は、図示を省略するハンドレール用チェーンやギアなどの伝達機構を介して、駆動スプロケット105に連結されている。これにより、ハンドレール110は、駆動スプロケット105の回転にともない、複数のステップ111の移動に同期して循環移動する。
【0034】
ハンドレール110がステップ111の移動に同期して循環移動することにより、エスカレーター100の利用者は、ハンドレール110を把持し、ステップ111の上に立った状態で、移動することができる。エスカレーター100は、ハンドレール110を把持させた状態で利用者を移動させることができるので、当該利用者の安全性を確保することができる。
【0035】
(エスカレーター減速機117の構造)
つぎに、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117の構造の一例について説明する。図2図4は、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117の構造の一例を示す説明図である。
【0036】
図2においては、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117を、設置した状態における鉛直方向上方から見た状態を示している。図3においては、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117を一側方から見た状態を示している。図4においては、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117を、図3におけるA-A線で切断した断面を示している。
【0037】
図2図4に示すように、エスカレーター減速機117は、筐体201を備えている。筐体201は、支持プレート202に固定されている。支持プレート202は、たとえば、鋼板を用いて形成される。支持プレート202には、エスカレーター減速機117の設置場所への固定に供される減速機固定孔203が設けられている。減速機固定孔203は、支持プレート202に複数設けられている。
【0038】
減速機固定孔203は、支持プレート203を板厚方向に貫通している。エスカレーター減速機117は、エスカレーター減速機117を床面などの設置場所に載置した状態で、当該設置場所に減速機固定孔203を介して図示を省略するボルトを螺合させることで、当該設置場所に固定することができる。
【0039】
減速機固定孔203は、複数のうちの一部が、正円形状をなし、長孔形状をなす。これにより、正円形状をなす減速機固定孔203によりエスカレーター減速機117の基準位置を定め、長孔形状をなす減速機固定孔203によりエスカレーター減速機117の固定位置を調整することができる。
【0040】
すなわち、減速機固定孔203におけるボルトの位置を調整することにより、ボルトを螺合できる位置に制限がある場合にも、減速機固定孔203におけるボルトの位置を調整することで、エスカレーター減速機117の位置を動かすことなく、最適な位置にエスカレーター減速機117を設置することができる。
【0041】
また、この実施の形態の支持プレート203において、長孔形状をなす減速機固定孔203の長手方向は、正円形状をなす減速機固定孔203を中心とする半径方向とされている。これにより、正円形状をなす減速機固定孔203によりエスカレーター減速機117の基準位置を定め、長孔形状をなす減速機固定孔203によりエスカレーター減速機117の固定位置を容易かつ確実に調整することができる。
【0042】
筐体201は、内側が空洞であって、当該空洞部分に潤滑油を収容する。筐体201の側面201a、201bには、出力軸用貫通孔401、入力軸用貫通孔402、ブレーキ軸用貫通孔403が設けられている。出力軸用貫通孔401、入力軸用貫通孔402、および、ブレーキ軸用貫通孔403は、それぞれ、筐体201の側面を貫通している。筐体201において、出力軸用貫通孔401および入力軸用貫通孔402は同一の側面201aに設けられ、ブレーキ軸用貫通孔403は、出力軸用貫通孔401および入力軸用貫通孔402とは反対側の側面201bに設けられている。
【0043】
エスカレーター減速機117は、出力軸204、入力軸205、ブレーキ軸206を備えている。出力軸204、入力軸205およびブレーキ軸206は、いずれも棒(シャフト)形状をなす。出力軸204は、軸心方向における一端側が筐体201の外側に、他端側が筐体201の内側に位置するように、出力軸用貫通孔401を貫通した状態で設けられている。筐体において、出力軸用貫通孔401の部分には、オイルシール(図5を参照)が設けられている。これにより、筐体201内の潤滑油が、出力軸204と出力軸用貫通孔401との隙間から筐体201の外へ漏れ出ることを防止している。
【0044】
出力軸204における筐体201の外側に位置する部分には、図示を省略する動力出力用スプロケットが設けられる。動力出力用スプロケットは、出力軸204の軸心を中心として当該出力軸204と連動して回転する。動力出力用スプロケットには、上述したステップチェーン116が架け渡される。これにより、出力軸204の回転にともなって、ステップチェーン116を回転させることができる。
【0045】
この実施の形態において、入力軸205およびブレーキ軸206は一体とされている。この実施の形態における入力軸205およびブレーキ軸206は、一体をなすシャフトの両端部によって実現される。一体をなすシャフトは、両端部が、筐体201の両側面201a、201bに設けられた入力軸用貫通孔402およびブレーキ軸用貫通孔403をそれぞれ貫通するように配置されている。これにより、入力軸205およびブレーキ軸206は、それぞれ、軸心方向における一端側が筐体201の外側に位置するように設けられている。
【0046】
筐体201において、入力軸貫通孔402の部分には、オイルシール(図5を参照)が設けられている。これにより、筐体201内の潤滑油が、入力軸205と入力軸貫通孔402との隙間から筐体201の外へ漏れ出ることを防止している。
【0047】
入力軸205は、筐体201の外側に位置する部分に、入力軸205の軸心を中心として当該入力軸205と連動して回転する、図示を省略するプーリーを備えている。プーリーには、上述したモーター104の出力軸に巻回された無端ベルト(エンドレスベルト)206が架け渡される。これにより、入力軸205は、モーター104(モーター104の出力軸)の回転にともなって回転する。
【0048】
出力軸204は、筐体201内に設けられたギア列404を介して、筐体201内において入力軸205(一体をなすシャフト)と連結されている。これにより、入力軸205の回転は出力軸204に伝達され、出力軸204は入力軸205の回転にともなって回転する。入力軸205の回転は、ギア列404を介して回転数(回転速度)を減じトルクを高めた状態で、出力軸204に伝達される。これにより、モーター104の駆動力を用いてステップ111を循環移動させることができる。
【0049】
筐体201において、ブレーキ軸貫通孔403の部分には、オイルシール301が設けられている。これにより、筐体201内の潤滑油が、ブレーキ軸206とブレーキ軸貫通孔403との隙間から筐体201の外へ漏れ出ることを防止している。
【0050】
ブレーキ軸206は、筐体201の外側において、図示を省略するブレーキに連結される。ブレーキは、たとえば、電磁ブレーキを用いることができる。電磁ブレーキは、コイルに通電することにより発生する電磁力を用いて、ブレーキ軸206(一体をなすシャフト)の回転を制御する。電磁ブレーキは、たとえば、通電されている状態において作動する励磁作動方式の電磁ブレーキであってもよく、通電されていない状態において作動する無励磁作動方式の電磁ブレーキであってもよい。
【0051】
筐体201の側面201bであって、ブレーキ軸206の鉛直方向における下側には、溝302が設けられている。溝302は、ブレーキ軸206の鉛直方向における下側となる位置から、鉛直方向に沿って下側に延在している。溝302は、鉛直方向において上側ほど深さが深く、下側ほど深さが浅くなるように、底面(図5における符号504を参照)が傾斜して設けられていてもよい。
【0052】
溝302の底面や内壁面(図5における符号505を参照)には、筐体201の側面201bのそれ以外の部分とは異なる表面加工が施されていてもよい。表面加工は、たとえば、溝302の底面や内壁面の平滑度が、筐体201の側面201bのそれ以外の部分の平滑度よりも高くなるように加工を施すことによって実現することができる。具体的には、たとえば、溝302の底面や内壁面に、鏡面研磨や鏡面加工などを施す。
【0053】
また、表面加工は、たとえば、溝302の内壁面に潤滑油との親和性が高い薬剤からなる層を設けることによって実現してもよい。潤滑油との親和性が高い薬剤は、筐体201内に収容される潤滑油と同じ潤滑油であってもよく、当該潤滑油とは別の材料であってもよい。これによって、潤滑油が溝302内を伝わりやすくすることができる。そして、これによって、潤滑油が溝302から周囲の側面201bに漏れ出しにくくして、漏れ出した潤滑油に溝302内を伝わせて鉛直方向下方に落下しやすくすることができる。
【0054】
また、表面加工は、たとえば、溝302の内壁面に潤滑油との親和性あるいは濡れ性が低い薬剤からなる層を設けることによって実現してもよい。これによって、溝302内の潤滑油が溝302内にとどまりにくくして、溝302内の潤滑油が鉛直方向下方に落下しやすくすることができる。これらの表面加工は、溝302の底面となる部分にのみに施されていてもよい。
【0055】
エスカレーター減速機117において、溝302よりも鉛直方向における下側には、オイルパン207が設けられている。オイルパン207は、一面が開放された皿形状ないし箱形状をなし、開放された面を、鉛直方向上側に向けた状態で配置される。オイルパン207は、内側に一定量の油を溜めることができる容量を備えている。
【0056】
オイルパン207は、筐体202に対して取り外し可能に設けられている。オイルパン207は、筐体201の側面201bに沿って配置される。この実施の形態のエスカレーター減速機117の筐体201は、ブレーキ軸206が設けられている側面201bが起伏がなく平坦な形状をなしており、オイルパン207は方形の箱形状をなす。オイルパン207は、周縁部の一辺を筐体201の側面201bに当接させた状態で配置される。
【0057】
なお、オイルパン207は、筐体202に対して固定されていてもよい。あるいは、オイルパン207は、筐体202または支持プレート202に窪みを設けることにより、筐体202または支持プレート202に対して一体的に設けられていてもよい。
【0058】
(ブレーキ軸206と溝302との位置関係)
つぎに、ブレーキ軸206と溝302との位置関係について説明する。図5は、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117の一部を拡大して示す説明図である。図5においては、ブレーキ軸206およびオイルシール301を切断した断面を示している。
【0059】
図5に示すように、オイルシール301は、この発明にかかる回転軸を実現するブレーキ軸206と、この発明にかかる貫通孔を実現するブレーキ軸用貫通孔403と、の間に設けられる。オイルシール301は、金属製の環状部材(金属環)501や、ゴムなどの弾性材料によって形成された環状のリップ502を備えている。リップ502は、金属環501と一体に設けられている。また、オイルシール301は、リップ502の内周面における端部(リップ先端)がブレーキ軸206に当接する力を補助したり調整したりするためのバネ503を備えていてもよい。
【0060】
オイルシール301は、金属環501の剛性によって筐体201に固定することができる。オイルシール301は、リップ502の先端を、ブレーキ軸206の外周面に当接させてシールすることによって、筐体201とブレーキ軸206との隙間から潤滑油が漏れ出すことを防止する。リップ502の先端とブレーキ軸206の外周面との間には、ブレーキ軸206の回転によって油膜が形成される。オイルシール301は、この油膜を潤滑剤として利用しながら、筐体201とブレーキ軸206との隙間から潤滑油が漏れ出すことを防止する。
【0061】
この実施の形態においては、筐体201とブレーキ軸206との間(ブレーキ軸用貫通孔403)に設けられるオイルシール301について説明したが、出力軸用貫通孔401や入力軸用貫通孔402によって実現される貫通孔と、出力軸204や入力軸205によって実現される回転軸との間にも、同様のオイルシールが設けられる。
【0062】
(エスカレーター減速機の作用)
つぎに、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117の作用について説明する。上述した構成のエスカレーター減速機117において、ブレーキ軸用貫通孔403(ブレーキ軸用貫通孔403に設けられたオイルシール301)と、ブレーキ軸206との隙間から潤滑油が漏れ出した場合、潤滑油に作用する重力によって当該潤滑油はブレーキ軸206の外周面を伝って鉛直方向下側に移動し、ブレーキ軸206の外周面における鉛直方向下側に集まる。ブレーキ軸206の外周面における鉛直方向下側に集まった潤滑油は、自重によって鉛直方向下方に流れる。
【0063】
エスカレーター減速機117においては、ギア列404に高い荷重が加わるため、比較的粘度が高い潤滑油を用いることが多い。このため、筐体201の側面201bに溝302が設けられていない場合、筐体201から漏れ出した潤滑油は、自重によって筐体201の側面201bを伝いながら鉛直方向下方に流れる際に、筐体201の側面201bにおいて水平方向にも広がり、筐体201の側面201bに広範囲にわたってじわじわと広がることが想定される。また、比較的粘度が高い潤滑油を用いる場合、先に漏れ出した潤滑油が筐体201の側面201bを伝って落下しきる前に、後から漏れ出した潤滑油がブレーキ軸206の表面を伝ってブレーキに到達してしまうことが想定される。
【0064】
これに対し、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117においては、筐体201の側面201bであってブレーキ軸206の鉛直方向における下側に溝302が設けられているため、ブレーキ軸206の外周面における鉛直方向下側に集まった潤滑油は、筐体201の側面201bにおける溝302とは異なる部分に到達するよりも先に、溝302を伝って鉛直方向下方に流れ落ちる。
【0065】
そして、一旦、溝302を伝って流れ落ちる潤滑油のルートが確保されることにより、後から漏れ出した潤滑油は、自身の粘性あるいは表面張力により、先に漏れ出した潤滑油に続いて溝302内を流れ落ちやすくなる。これにより、筐体201から漏れ出した潤滑油を溝302に集め、溝302を伝わせて鉛直方向下方に流れやすくすることができる。
【0066】
このように、筐体201の側面201bであってブレーキ軸206の鉛直方向における下側に溝302を設けることにより、オイルシール301の経年劣化などに起因して漏油が発生した場合にも、ブレーキ軸用貫通孔403とブレーキ軸206との隙間から漏れ出した潤滑油がブレーキ軸206を伝ってブレーキに到達することを防止できる。これにより、ブレーキを確実に作動させることができるので、エスカレーター100の利用者の安全性を確保することができる。
【0067】
以上説明したように、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117は、内部に潤滑剤を収容する筐体201と、筐体201の側面201bを貫通する貫通孔を実現するブレーキ軸用貫通孔403と、ブレーキ軸用貫通孔403を貫通する回転軸を実現するブレーキ軸206と、ブレーキ軸用貫通孔403とブレーキ軸206との間に設けられたオイルシール301と、筐体201の側面201bであって、ブレーキ軸206の鉛直方向における下側に設けられた溝302と、を備えたことを特徴としている。
【0068】
この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117によれば、オイルシール301の損傷などに起因して、筐体201の内部に収容された潤滑油が、ブレーキ軸用貫通孔403から筐体201の外部に漏れ出した場合、漏れ出した潤滑油を、溝302を伝わせて鉛直方向下方に流すことができる。
【0069】
これにより、漏れ出した潤滑油がブレーキ軸206を伝ってブレーキに到達することを防止できる。そして、これによって、ブレーキを確実に作動させることができるので、非常時などにおいてステップ111を確実に停止させることができ、エスカレーター100の利用者の安全性を確保することができる。
【0070】
また、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117によれば、筐体201の側面201bに溝302を設ける簡易な構成によって、漏れ出した潤滑油がブレーキ軸206を伝ってブレーキに到達することを防止できる。これにより、エスカレーター減速機117のメンテナンスの複雑化を回避することができる。また、エスカレーター減速機117の製造コストを抑えることができる。
【0071】
また、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117によれば、大型化させることなく、漏れ出した潤滑油がブレーキに到達することを防止することができる。これにより、設置空間が狭いなどの制限があっても、エスカレーター減速機117を設置することができ、利用者の安全性を確保することができる。
【0072】
また、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117は、溝302よりも鉛直方向における下側に設けられたオイルパン207を備えたことを特徴としている。
【0073】
この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117によれば、潤滑油が漏れ出した場合にも、溝を伝って鉛直方向下方に流れ落ちた潤滑油をオイルパン207で受け止めることができる。これにより、直ちに漏油に気づかない場合にも、漏れ出した潤滑油がエスカレーター減速機117の周囲に広がることを防止できる。
【0074】
また、この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117は、オイルパン207が、筐体201に対して取り外し可能に設けられていることを特徴としている。
【0075】
この発明にかかる実施の形態のエスカレーター減速機117によれば、オイルパン207を取り外して内側に溜まった潤滑油を廃棄するだけで、オイルパン207に溜まった潤滑油を、容易に処分することができる。これにより、容易にメンテナンスすることができ、利便性の向上を図ることができる。
【0076】
なお、この発明にかかるエスカレーター減速機117においては、筐体201の側面を貫通する貫通孔(この発明にかかる貫通孔)が、出力軸用貫通孔401であってもよく、入力軸用貫通孔402であってもよい。また、この発明にかかるエスカレーター減速機においては、貫通孔を貫通する回転軸(この発明にかかる回転軸)が、出力軸204であってもよく、入力軸205であってもよい。
【0077】
たとえば、筐体201の側面を貫通する貫通孔が入力軸用貫通孔402であって、貫通孔を貫通する回転軸が入力軸205である場合、入力軸貫通孔(入力軸用貫通孔402に設けられたオイルシール)と入力軸205との隙間から漏れ出した潤滑油が、この入力軸に設けられるプーリーに到達することを確実に防止できる。プーリーは、当該プーリーに架け渡された無端ベルトとの接触面の摩擦力を利用してモーターの回転が伝達されるため、漏れ出した潤滑油がプーリーへ到達することを防止することにより、モーター104の回転を確実に入力軸に伝達することができ、エネルギーのロスをなくすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、この発明にかかる減速機は、エスカレーターに用いる減速機有用であり、特に、筐体からの漏油にともなうエスカレーターの動作不良を防止する減速機に適している。
【符号の説明】
【0079】
100 エスカレーター
101 枠体
104 モーター
105 駆動スプロケット
106 従動スプロケット
111 ステップ
116 ステップチェーン
117 エスカレーター減速機
201 筐体
201b 側面
203 出力軸
204 入力軸
205 ブレーキ軸
301 オイルシール
302 溝
303 オイルパン
401 出力軸用貫通孔
402 入力軸用貫通孔
403 ブレーキ軸用貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5