(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151604
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】温度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01J 5/60 20060101AFI20241018BHJP
G01J 5/02 20220101ALI20241018BHJP
【FI】
G01J5/60 E
G01J5/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065074
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 勝久
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AA15
2G066AC11
2G066BA38
(57)【要約】
【課題】温度測定の安定性の低下を抑制可能な温度測定装置を提供する。
【解決手段】被加工物Sからの熱輻射光Rを入射させる光ファイバ19と、熱輻射光Rを第1光と第2光とに分岐させるダイクロイックミラー331と、第1光から第1波長範囲W1の第1成分R1を抽出する第1光学フィルタ332aと、第2光から第2波長範囲W2の第2成分R2を抽出する第2光学フィルタ333aと、第1成分R1を検出して第1信号を出力する第1光検出部34と、第2成分R2を検出して第2信号を出力する第2光検出部35と、第1信号と第2信号との比に基づいて被加工物Sの温度を算出する信号処理部38と、を備え、第1波長範囲W1は、1.8μmを第1基準波長V1として含むと共に、第1基準波長V1よりも長波長側が短波長側よりも広くなるように設定される、温度測定装置30。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体に接続され、対象物からの熱輻射光を前記筐体内に入射させる光ファイバと、
前記筐体内に配置され、前記熱輻射光を第1光と第2光とに分岐させる分岐部と、
前記筐体内に配置され、前記第1光から第1波長範囲の第1成分を抽出する第1光学フィルタと、
前記筐体内に配置され、前記第2光から第2波長範囲の第2成分を抽出する第2光学フィルタと、
前記筐体に設置され、前記第1成分を検出し、検出した前記第1成分の光量に応じた第1信号を出力する第1光検出部と、
前記筐体に設置され、前記第2成分を検出し、検出した前記第2成分の光量に応じた第2信号を出力する第2光検出部と、
前記第1光検出部から出力された前記第1信号と前記第2光検出部から出力された前記第2信号との比に基づいて、前記対象物の温度を算出する算出部と、
を備え、
前記第2波長範囲は、前記第1波長範囲の上限波長よりも長波長側を含み、
前記第1波長範囲は、1.8μmを第1基準波長として含むと共に、前記第1基準波長よりも長波長側の範囲が前記第1基準波長よりも短波長側の範囲よりも広くなるように設定されている、
温度測定装置。
【請求項2】
前記第1波長範囲は、1.6μm以上2.3μm以下である、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記第2波長範囲は、2.1μmを第2基準波長として含むと共に、前記第2基準波長よりも長波長側の範囲が前記第2基準波長よりも短波長側の範囲よりも広くなるように設定されている、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記第2波長範囲は、1.9μm以上2.5μm以下である、
請求項3に記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記第1波長範囲の幅は、前記第2波長範囲の幅よりも広い、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項6】
前記第1光学フィルタは、前記分岐部と前記第1光検出部との間に配置されており、
前記第2光学フィルタは、前記分岐部と前記第2光検出部との間に配置されている、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項7】
前記分岐部は、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタを含む、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項8】
前記第1波長範囲及び第2波長範囲は、互いに重複する重複領域を有する、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項9】
前記分岐部は、前記第1光及び前記第2光のうちの一方を透過させると共に、前記第1光及び前記第2光のうちの他方を反射することにより、前記熱輻射光を前記第1光と前記第2光とに分岐し、
前記分岐部の光透過特性は、前記重複領域に相当する波長範囲において、波長の変化に対する透過率の変化が相対的に小さくなる段差部を含む、
請求項8に記載の温度測定装置。
【請求項10】
前記分岐部の光透過特性は、当該分岐部の光透過率が40%以上60%以下の範囲において前記段差部を含む、
請求項9に記載の温度測定装置。
【請求項11】
前記第2波長範囲の下限波長は、前記第1波長範囲の下限波長よりも長波長側である、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項12】
前記光ファイのコア径は、100μm以上1000μm以下であり、
前記光ファイバのクラッド径は、105μm以上1200μm以下である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ加工装置が記載されている。この装置は、ワークにレーザ光を照射することによりワークを加工する加工用レーザと、ワークのレーザ光の照射領域から熱輻射される光を検出し、波長の異なる2つの光成分の強度を測定する波長強度測定部と、波長強度測定部からの2つの光成分の強度データに基づいて、それらの強度比データに基づいて照射領域の温度を演算する管理部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された装置では、ワークにおけるレーザ光の照射領域の温度を演算するため、波長1.8μmの第1光成分と波長2.0μmの第2光成分とを用いた2色法での温度の演算が例示されている。
【0005】
ところで、近年、レーザ加工において、例えば100℃~200℃といったような、より低温域での測定を行う要求がある。これに対して、例えば上記のワークにおけるレーザ光の照射領域といった温度測定の対象がより低温となると、熱輻射光のピーク波長がより長波長側にシフトしていく。このため、2色法での温度測定における2つの光成分のうち、例えば上記の波長1.8μmの第1光成分のような短波長側の光成分の強度が低下する。短波長側の光成分の強度が低下すると、当該光成分を検出器で検出して生成される電気信号において、不安定要素(一例として、アンプのオフセットやドリフト、それらの時間変動や、その他回路要素の揺らぎ等の回路の不安定性)の影響が相対的に大きくなる。この結果、温度測定の安定性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、温度測定の安定性の低下を抑制可能な温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る温度測定装置は、[1]「筐体と、前記筐体に接続され、対象物からの熱輻射光を前記筐体内に入射させる光ファイバと、前記筐体内に配置され、前記熱輻射光を第1光と第2光とに分岐させる分岐部と、前記筐体内に配置され、前記第1光から第1波長範囲の第1成分を抽出する第1光学フィルタと、前記筐体内に配置され、前記第2光から第2波長範囲の第2成分を抽出する第2光学フィルタと、前記筐体に設置され、前記第1成分を検出し、検出した前記第1成分の光量に応じた第1信号を出力する第1光検出部と、前記筐体に設置され、前記第2成分を検出し、検出した前記第2成分の光量に応じた第2信号を出力する第2光検出部と、前記第1光検出部から出力された前記第1信号と前記第2光検出部から出力された前記第2信号との比に基づいて、前記対象物の温度を算出する算出部と、を備え、前記第2波長範囲は、前記第1波長範囲の上限波長よりも長波長側を含み、前記第1波長範囲は、1.8μmを第1基準波長として含むと共に、前記第1基準波長よりも長波長側の範囲が前記第1基準波長よりも短波長側の範囲よりも広くなるように設定されている、温度測定装置」である。
【0008】
この装置では、対象物からの熱輻射光が分岐部により第1光と第2光とに分岐され、第1光及び第2光のそれぞれから、第1光学フィルタ及び第2光学フィルタのそれぞれによって第1波長範囲の第1成分及び第2波長範囲の第2成分が抽出される。第1成分及び第2成分は、それぞれ、第1光検出部及び第2光検出部のそれぞれによって検出され、第1成分の光量に応じた第1信号及び第2成分の光量に応じた第2信号が生成される。そして、算出部によって、第1信号と第2信号との比に基づいて、対象物の温度が算出される。このように、この装置では、互いに異なる波長範囲の2つの光成分の強度比に基づいて対象物の温度を測定する2色法が用いられる。
【0009】
ここで、第2成分の第2波長範囲は、第1成分の第1波長範囲の上限波長よりも長波長側を含む。すなわち、ここでは、第1成分が相対的に短波長側の成分となる。そして、第1成分の第1波長範囲は、1.8μmを第1基準波長として含むと共に、当該第1基準波長よりも長波長側の範囲が当該第1基準波長よりも短波長側の範囲よりも広くなるように設定されている。よって、より低温域での測定の際に熱輻射光のピーク波長が長波長側にシフトした場合であっても、第1成分の光量が確保される。よって、第1成分の光量に応じた第1信号において、不安定要素の影響が大きくなることが抑制される。この結果、温度測定の安定性の低下が抑制される。
【0010】
対象物からの熱輻射光を直接光検出部に入射させる構成(光ファイバを介さない構成)と比較して、光ファイバを介して対象物からの熱輻射光を光検出部に入射させる構成は、光検出部に入射させることができる熱輻射光の光量が制限される。そのような構成の装置を用いて低温域の測定を行うと、不安定要素の影響が大きくなる。これに対して、上記のように波長範囲を設定することで、光ファイバを介する構成においても好適に低温域の測定が可能となる。
【0011】
本開示に係る温度測定装置は、[2]「前記第1波長範囲は、1.6μm以上2.3μm以下である、上記[1]に記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、第1成分の光量が確実に確保され、低温域での測定がより確実に安定化される。
【0012】
本開示に係る温度測定装置は、[3]「前記第2波長範囲は、2.1μmを第2基準波長として含むと共に、前記第2基準波長よりも長波長側の範囲が前記第2基準波長よりも短波長側の範囲よりも広くなるように設定されている、上記[1]又は[2]に記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、長波長側の第2成分の光量が確保されることで、ダイナミックレンジが確保される。
【0013】
本開示に係る温度測定装置は、[4]「前記第2波長範囲は、1.9μm以上2.5μm以下である、上記[3]に記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、長波長側の第2成分の光量が確実に確保されることで、ダイナミックレンジがより確実に確保される。
【0014】
本開示に係る温度測定装置は、[5]「前記第1波長範囲の幅は、前記第2波長範囲の幅よりも広い、上記[1]~[4]のいずれかに記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、第1成分の光量が確実に確保され、低温域での測定がより確実に安定化される。
【0015】
本開示に係る温度測定装置は、[6]「前記第1光学フィルタは、前記分岐部と前記第1光検出部との間に配置されており、前記第2光学フィルタは、前記分岐部と前記第2光検出部との間に配置されている、上記[1]~[5]のいずれかに記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、第1波長範囲の第1成分及び第2波長範囲の第2成分のそれぞれを確実に抽出することが可能となる。
【0016】
本開示に係る温度測定装置は、[7]「前記分岐部は、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、部品点数が削減される。
【0017】
本開示に係る温度測定装置は、[8]「前記第1波長範囲及び第2波長範囲は、互いに重複する重複領域を有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、短波長側の第1波長範囲が第2波長範囲と重複する重複領域を含むことにより、第1成分の光量が確実に確保されると共に、低温域から高温域にわたってダイナミックレンジが確保しやすくなる。
【0018】
本開示に係る温度測定装置は、[9]「前記分岐部は、前記第1光及び前記第2光のうちの一方を透過させると共に、前記第1光及び前記第2光のうちの他方を反射することにより、前記熱輻射光を前記第1光と前記第2光とに分岐し、前記分岐部の光透過特性は、前記重複領域に相当する波長範囲において、波長の変化に対する透過率の変化が相対的に小さくなる段差部を含む、上記[8]に記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、第1波長範囲と第2波長範囲との重複領域の波長範囲の光を、第1光学フィルタ及び第1光検出部と、第2光学フィルタ及び第2光検出部と、の両方に好適に入射させることが可能となる。
【0019】
本開示に係る温度測定装置は、[10]「前記分岐部の光透過特性は、当該分岐部の光透過率が40%以上60%以下の範囲において前記段差部を含む、上記[9]に記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、第1波長範囲と第2波長範囲との重複領域の波長範囲の光を、第1光学フィルタ及び第1光検出部と、第2光学フィルタ及び第2光検出部と、の両方により好適に入射させることが可能となる。
【0020】
本開示に係る温度測定装置は、[11]「前記第2波長範囲の下限波長は、前記第1波長範囲の下限波長よりも長波長側である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の温度測定装置」であってもよい。
【0021】
本開示に係る温度測定装置は、[11]「前記光ファイのコア径は、100μm以上1000μm以下であり、前記光ファイバのクラッド径は、105μm以上1200μm以下である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の温度測定装置」であってもよい。この場合、筐体内へ入射させる熱輻射光の光量を確保しつつ、測定の自由度を向上することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、温度測定の安定性の低下を抑制可能な温度測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示された温度測定装置の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、光学フィルタの光透過特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図2に示されたダイクロイックミラーの光透過特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、温度の測定結果の一例を示すグラフでる。
【
図6】
図6は、温度の測定結果の別の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示に係る一実施形態について、図面を参照して説明を行う。なお、各図の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0025】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、レーザ加工ヘッド10と、レーザ光源20と、温度測定装置30と、を備えている。レーザ加工装置1は、被加工物Sにレーザ光Lを照射することで被加工物Sを加工しつつ、被加工物Sにおいてレーザ光Lが照射された領域(以下、「レーザ光照射領域Sa」という)から発せられた熱輻射光Rを検出することでレーザ光照射領域Saの温度を測定する。したがって、被加工物Sは、温度測定装置30における温度測定の対象物でもある。レーザ光Lの照射による被加工物Sの加工の一例は、切断、溶接、表面処理等である。被加工物Sにおけるレーザ光照射領域Saの温度の測定目的の一例は、レーザ光の出力制御、加工不良の検出等である。
【0026】
レーザ加工ヘッド10は、筐体11と、光入射部12と、第1光学系13と、ダイクロイックミラー14と、ビームトラップ15と、第2光学系16と、光出射部17と、を有している。レーザ加工ヘッド10は、被加工物Sに対して移動可能になるように構成されている。
【0027】
筐体11は、中心部11a、1対の側方延在部11b,11c、及び上方延在部11dによって構成されている。1対の側方延在部11b,11cは、水平方向に沿って中心部11aから互いに反対側に延在している。上方延在部は、鉛直方向に沿って中心部11aから上側に延在している。中心部11aにおける下側の壁部には、開口11eが形成されている。
【0028】
光入射部12は、側方延在部11bの先端部に取り付けられている。光入射部12には、光ファイバ18の一端部18aが接続されている。光ファイバ18の他端部18bは、レーザ光源20に接続されている。光入射部12は、レーザ光源20から出射されて、光ファイバ18によって導光されたレーザ光Lを筐体11内に入射させる。一例として、レーザ光源20は、半導体レーザによって構成されており、810nmや940nm等の中心波長を有するレーザ光Lを出射する。
【0029】
第1光学系13は、側方延在部11b内に配置されている。第1光学系13は、光入射部12側から入射したレーザ光Lを被加工物Sに集光する。一例として、第1光学系13は、2つの単レンズによって構成されており、各単レンズの表面には、レーザ光Lの反射を防止する反射防止膜が形成されている。
【0030】
ダイクロイックミラー14は、中心部11a内に配置されている。ダイクロイックミラー14は、第1光学系13によって集光されたレーザ光Lを開口11e側に反射する。ダイクロイックミラー14によって反射されたレーザ光Lは、開口11eを通過して被加工物Sに照射される。被加工物Sにおけるレーザ光照射領域Saからは、熱輻射光Rが発せられる。レーザ光照射領域Saから発せられた熱輻射光Rは、開口11eを通過してダイクロイックミラー14に入射する。ダイクロイックミラー14は、開口11e側から入射した熱輻射光Rを透過させる。
【0031】
ビームトラップ15は、側方延在部11c内に配置されている。ビームトラップ15は、レーザ光Lのうちダイクロイックミラー14を透過した僅かな光を吸収する。これにより、筐体11内でのレーザ光Lの乱反射が抑制される。
【0032】
第2光学系16は、上方延在部11d内に配置されている。第2光学系16は、ダイクロイックミラー14側から入射した熱輻射光Rを光出射部17に集光する。一例として、第2光学系16は、2つの複合レンズによって構成されている。ダイクロイックミラー14側に配置された複合レンズは、例えば、2つの単レンズによって構成されたコリメート用のアクロマティクレンズである。光出射部17側に配置された複合レンズは、例えば、3つの単レンズによって構成されたフォーカス用のアクロマティクレンズである。各複合レンズでは、熱輻射光Rに含まれる第1波長範囲の第1成分R1及び第2波長範囲の第2成分R2(
図2参照)について色収差が補正されている。
【0033】
光出射部17は、上方延在部11dの先端部に取り付けられている。光出射部17には、光ファイバ19の一端部19aが接続されている。光ファイバ19の他端部19bは、温度測定装置30に接続されている。光出射部17は、第2光学系16によって集光された熱輻射光Rを光ファイバ19内に入射させる。熱輻射光Rは、光ファイバ19によって温度測定装置30に導光される。レーザ加工装置1では、レーザ加工ヘッド10及び光ファイバ19が、レーザ光照射領域Saから発せられた熱輻射光Rを温度測定装置30に導光する導光部として機能する。
【0034】
図2は、
図1に示された温度測定装置の構成を示す概略図である。
図2に示されるように、温度測定装置30は、筐体31と、光入射部32と、光抽出部33と、第1光検出部34と、第2光検出部35と、第1温度検出部36と、第2温度検出部37と、信号処理部(算出部)38と、を有している。
【0035】
筐体31は、複数の壁部311,312,313,314,315,316を有している。1対の壁部311,312は、X軸方向おいて対向している。1対の壁部313,314は、Y軸方向おいて対向している。1対の壁部315,316は、Z軸方向おいて対向している。各壁部311,312,313,314,315,316は、角部によって互いに仕切られた平坦な壁部である。ただし、各壁部311,312,313,314,315,316は、角部によって互いに仕切られた壁部であれば、平坦な壁部に限定されず、湾曲した壁部であってもよい。なお、各壁部311,312,313,314,315,316を互いに仕切る角部は、面取りされた角部であってもよいし、面取りされていない角部であってもよい。
【0036】
光入射部32は、壁部311に設置されている。光入射部32には、光ファイバ19の他端部19bが接続されている。光入射部32は、熱輻射光Rを筐体31内に入射させる。熱輻射光Rは、レーザ光照射領域Saから発せられて、レーザ加工ヘッド10及び光ファイバ19によって導光された光である(
図1参照)。換言すれば、温度測定装置30は、光入射部32を介して筐体31に接続され、被加工物Sからの熱輻射光Rを筐体31内に入射させる光ファイバ19を備えている。光ファイバ19は、一例として、単一のコアとコアの周囲のクラッドとを含む。光ファイバ19のコア径は、一例として100μm以上1000μm以下であり、光ファイバ19のクラッド径は、一例として105μm以上1200μm以下である。一例として、光ファイバ19は、2.6μm以下の波長の光を導光する。
【0037】
光抽出部33は、筐体31内に配置されている。光抽出部33は、熱輻射光Rから第1波長範囲の第1成分R1及び第2波長範囲の第2成分R2を抽出する。第1波長範囲は、第2波長範囲と少なくとも部分的に異なる範囲であり、第2波長範囲よりも短波長側の範囲である。また、第2波長範囲の下限波長は、第1波長範囲の下限波長よりも長波長側である。換言すれば、第2波長範囲は、第1波長範囲の上限波長よりも長波長側を含む相対的に長波長側の範囲である。第1波長範囲及び第2波長範囲の詳細については後述する。
【0038】
光抽出部33は、ダイクロイックミラー331(分岐部)、第1光学系332及び第2光学系333によって構成されている。ダイクロイックミラー331は、X軸方向において光入射部32(光ファイバ19の端面)と対向している。ダイクロイックミラー331は、光入射部32側から入射した熱輻射光Rを、第1成分R1を含む第1光と第2成分R2を含む第2光とに分岐させる。
【0039】
より具体的には、ダイクロイックミラー331は、第1光及び第2光のうちの一方(ここでは第1光)を壁部312側に透過させる共に、第1光及び第2光のうちの他方(ここでは第2光)を壁部314側に反射することにより、熱輻射光Rを第1光と第2光とに分岐する。
【0040】
第1光学系332は、ダイクロイックミラー331と壁部312との間に配置されている。第1光学系332は、第1光学フィルタ332a及び第1集光レンズ332bによって構成されている。第1光学フィルタ332aは、ダイクロイックミラー331を透過した第1光から第1波長範囲の第1成分R1を抽出して第1集光レンズ332b側に透過させる。第1集光レンズ332bは、第1光学フィルタ332a側から入射した第1波長範囲の第1成分R1をX軸方向に沿って集光する。
【0041】
第2光学系333は、ダイクロイックミラー331と壁部314との間に配置されている。第2光学系333は、第2光学フィルタ333a及び第2集光レンズ333bによって構成されている。第2光学フィルタ333aは、ダイクロイックミラー331によって反射された第2光から第2波長範囲の第2成分R2を抽出して第2集光レンズ333b側に透過させる。第2集光レンズ333bは、第2光学フィルタ333a側から入射した第2波長範囲の第2成分R2をY軸方向に沿って集光する。
【0042】
第1光検出部34は、壁部312に取り付けられている。第1光検出部34は、X軸方向において第1光学系332と対向している。換言すれば、第1光学フィルタ332aは、ダイクロイックミラー331と第1光検出部34との間に配置されている。第1光検出部34は、第1光検出素子34aを有している。第1光検出素子34aは、第1集光レンズ332bによって集光された第1成分R1を検出する。第1光検出素子34aは、例えば、CANパッケージ内に配置されたフォトダイオード等の受光素子である。このように、第1光検出部34は、第1成分R1を検出し、検出した第1成分R1の光量に応じた電気信号である第1信号を出力する。
【0043】
第2光検出部35は、壁部314に取り付けられている。第1光検出部34が取り付けられた壁部312、及び第2光検出部35が取り付けられた壁部314は、異なる壁部である。第2光検出部35は、Y軸方向において第2光学系333と対向している。換言すれば、第2光学フィルタ333aは、ダイクロイックミラー331と第2光検出部35との間に配置されている。第2光検出部35は、第2光検出素子35aを有している。第2光検出素子35aは、第2集光レンズ333bによって集光された第2成分R2を検出する。第2光検出素子35aは、例えば、CANパッケージ内に配置されたフォトダイオード等の受光素子である。このように、第2光検出部35は、第2成分R2を検出し、検出した第2成分R2の光量に応じた電気信号である第1信号を出力する。
【0044】
第1温度検出部36は、第1光検出部34が取り付けられた壁部312とは異なる壁部313に取り付けられている。第1温度検出部36は、例えば、小さい熱時定数(例えば、6秒程度の熱時定数)を有するサーミスタ等の温度検出素子である。第2温度検出部37は、第2光検出部35が取り付けられた壁部314とは異なる壁部313に取り付けられている。第1温度検出部36が取り付けられた壁部313、及び第2温度検出部37が取り付けられた壁部313は、同じ壁部である。第2温度検出部37は、例えば、小さい熱時定数(例えば、6秒程度の熱時定数)を有するサーミスタ等の温度検出素子である。
【0045】
信号処理部38は、第1光検出部34から出力された第1信号及び第2光検出部35から出力された第2信号に基づいて、被加工物Sの熱輻射光Rを発した領域(すなわち、レーザ光照射領域Sa)の温度を求める。このとき、信号処理部38は、第1温度検出部36から出力された信号に基づいて、第1光検出部34から出力された信号を補正すると共に、第2温度検出部37から出力された信号に基づいて、第2光検出部35から出力された信号を補正することができる。信号処理部38は、例えば、マイクロプロセッサーが組み込まれた信号処理基板、又は中央演算処理装置が組み込まれた信号処理基板によって、構成されている。
【0046】
一例として、被加工物Sから発せられた第1成分R1の光量をMs1とし、筐体31等から発せられた第1波長範囲の光の光量をI1とし、第1光検出部34によって検出された第1波長範囲の光の光量をMm1とすると、下記式(1)が成立する。第1波長範囲の基準波長をλ1とし、第1温度検出部36によって検出された温度をT1とすると、下記式(2)が成立する(下記式(2)においてD1,β1,C1は定数)。下記式(1)及び(2)から、被加工物Sから発せられた第1成分R1の光量Ms1を算出する。これにより、筐体31等から発せられた第1波長範囲の光の光量I1の影響を排除することができる。以上の処理が、第1温度検出部36から出力された信号に基づいて、第1光検出部34から出力された信号を補正する補正処理に相当する。
Ms1=Mm1-I1…(1)
I1=D1+(β1/λ15)・exp[-C1/{λ1(T1+273.15)}]…(2)
【0047】
同様に、被加工物Sから発せられた第2成分R2の光量をMs2とし、筐体31等から発せられた第2波長範囲の光の光量をI2とし、第2光検出部35によって検出された第2波長範囲の光の光量をMm2とすると、下記式(3)が成立する。第2波長範囲の基準波長をλ2とし、第2温度検出部37によって検出された温度をT2とすると、下記式(4)が成立する(下記式(4)においてD2,β2,C2は定数)。下記式(3)及び(4)から、被加工物Sから発せられた第2成分R2の光量Ms2を算出する。これにより、筐体31等から発せられた第2波長範囲の光の光量I2の影響を排除することができる。以上の処理が、第2温度検出部37から出力された信号に基づいて、第2光検出部35から出力された信号を補正する補正処理に相当する。
Ms2=Mm2-I2…(3)
I2=D2+(β2/λ25)・exp[-C2/{λ2(T2+273.15)}]…(4)
【0048】
信号処理部38は、被加工物Sから発せられた第1波長範囲の第1成分R1の光量Ms1と、被加工物Sから発せられた第2波長範囲の第2成分R2の光量Ms2との比率から、レーザ光照射領域Saの温度を算出する。より具体的には、信号処理部38は、第1光検出部34から出力された(光量Ms1に応じた)第1信号と、第2光検出部35から出力された(光量Ms2に応じた)第2信号との比に基づいて、被加工物Sの温度を算出する。これは、二色式放射温度計(二色法)の原理である。
【0049】
温度測定装置30は、レーザ光源41と、ダイクロイックミラー42と、光学フィルタ43と、をさらに備えている。レーザ光源41は、壁部314に取り付けられている。レーザ光源41は、Y軸方向に沿って可視域のレーザ光Vを筐体31内に出射する。
【0050】
ダイクロイックミラー42は、X軸方向において光入射部32と対向し且つY軸方向においてレーザ光源41と対向するように、筐体31内に配置されている。ダイクロイックミラー42は、光入射部32側から入射した熱輻射光Rをダイクロイックミラー331側に透過させ、レーザ光源41側から入射したレーザ光Vを光入射部32側に反射する。レーザ光Vは、光ファイバ19及びレーザ加工ヘッド10によって導光されて、被加工物Sに照射される。レーザ光Vをガイド光として利用することで、被加工物Sにレーザ光Lが照射される位置を目視で確認することができる。また、レーザ光Vをガイド光として利用することで、被加工物Sにおいて加工位置と温度測定位置とが一致するようにレーザ加工装置1の各構成を調整することができる。
【0051】
光学フィルタ43は、ダイクロイックミラー42とダイクロイックミラー331との間に位置するように、筐体31内に配置されている。光学フィルタ43は、ダイクロイックミラー42側から入射した熱輻射光Rをダイクロイックミラー331側に透過させ、ダイクロイックミラー42側から入射した散乱光等(レーザ光Lに起因する散乱光等)を除去する。
【0052】
ここで、近年、レーザ加工において、例えば100℃~200℃といったような、より低温域での測定を行う要求がある。これに対して、温度測定の対象がより低温となると、熱輻射光Rのピーク波長がより長波長側にシフトしていく。このため、2色法での温度測定における2つの光成分のうち、例えば波長1.8μm付近の短波長側の光成分の光量が低下する。短波長側の光成分の光量が低下すると、当該光成分を検出器で検出して生成される電気信号において、不安定要素(一例として、アンプのオフセットやドリフト、それらの時間変動や、その他回路要素の揺らぎ等の回路の不安定性)の影響が相対的に大きくなる。この結果、温度測定の安定性が低下するおそれがある。
【0053】
そこで、本実施形態に係る温度測定装置30では、このような問題を解決するための手段の一例としての構成を備えている。引き続いて、この点について説明する。
【0054】
図3は、光学フィルタの光学特性を示すグラフである。
図3のグラフG1は、本実施形態に係る第1光学フィルタ332aの光透過特性を示し、グラフG2は、本実施形態に係る第2光学フィルタ333aの光透過特性を示している。
図3のグラフG3は、短波長側の成分を抽出するための従来の光学フィルタの光透過特性を示すグラフであり、グラフG4は、長波長側の成分を抽出するための従来の光学フィルタの光透過特性を示すグラフである。
【0055】
グラフG1,G3に示されるように、第1光学フィルタ332aが透過させる(抽出する)第1波長範囲W1は、従来の光学フィルタの透過波長範囲と比較して、長波長側に拡大されている。より具体的には、第1波長範囲W1は、1.8μm(1800nm)を第1基準波長V1として含み、第1基準波長V1よりも長波長側の範囲Wa2が、第1基準波長V1よりも短波長側の範囲Wa1よりも広くなるように設定されている。
【0056】
一例として、第1波長範囲W1は、1.6μm以上2.3μm以下であり、図示の例では1.7μm以上2.1μm以下程度である。なお、第1波長範囲W1は、下限波長L1と上限波長U1との間の範囲であり、下限波長L1及び上限波長U1は、それぞれ、透過率が、最大値の10%となる波長である。
【0057】
また、グラフG2,G4に示されるように、第2光学フィルタ333aが透過させる(抽出する)第2波長範囲W2は、従来の光学フィルタの透過波長範囲と比較して、長波長側に拡大されている。より具体的には、第2波長範囲W2は、2.1μm(2100nm)を第2基準波長V2として含み、第2基準波長V2よりも長波長側の範囲Wb2が、第2基準波長V2よりも短波長側の範囲Wb1よりも広くなるように設定されている。
【0058】
一例として、第2波長範囲W2は、1.9μm以上2.5μm以下であり、図示の例では、2.0μm以上2.4μm以下程度である。なお、第2波長範囲W2は、下限波長L2と上限波長U2との間の範囲であり、下限波長L2及び上限波長U2は、それぞれ、透過率が、最大値の10%となる波長である。
【0059】
グラフG1,G2に示されるように、第2波長範囲W2は、第1波長範囲W1の上限波長U1よりも長波長側を含む。また、第2波長範囲W2の下限波長L2は、第1波長範囲W1の下限波長L1よりも長波長側である。また、本実施形態では、第1波長範囲W1及び第2波長範囲W2は、互いに重複する重複領域Pwを有している。また、第1波長範囲W1の幅が、第2波長範囲W2の幅よりも広くされてもよい。第1光学フィルタ332a及び第2光学フィルタ333aは、少なくとも以上の光学特性を有するように構成されている。
【0060】
ここで、
図4は、
図2に示されたダイクロイックミラーの光透過特性を示すグラフである。
図4のグラフG5に示されるように、ダイクロイックミラー331の光透過特性は、波長の変化に伴い透過率が変化する(波長が大きくなるにつれて透過率が大きくなる)変遷領域Twを有している。特に、ダイクロイックミラー331の光透過特性は、上述した第1波長範囲W1と第2波長範囲W2との重複領域Pwに相当する波長範囲において、波長の変化に対する透過率の変化が相対的に小さくなる段差部Gpを有している。段差部Gpは、変遷領域Twの一部である。段差部Gpにおいて、波長の変化に対する透過率の変化が相対的に小さいとは、一例として、段差部Gpにおける波長の変化に対する透過率の変化量が、変遷領域Tw全体における波長の変化に対する透過率の変化量よりも少ないことを意味する。なお、変遷領域Tw内には、波長の変化に伴って透過率が変化しない領域や、波長が大きくなるにつれて透過率が小さくなる領域が含まれてもよい。
【0061】
本実施形態では、段差部Gpは、ダイクロイックミラー331の透過率が40%以上60%以下の範囲に位置している。ダイクロイックミラー331は、以上のような光透過特性を有するように構成されている。これにより、ダイクロイックミラー331は、熱輻射光Rのうちの重複領域Pwに相当する波長範囲の成分の一部を透過して第1光学フィルタ332aに向かわせると共に、残部を反射して第2光学フィルタ333aに向かわせることが可能となる。この結果、互いに重複する第1成分R1及び第2成分R2の光量をより十分に確保することが可能となる。
【0062】
以上説明したように、温度測定装置30では、レーザ加工装置1の被加工物Sからの熱輻射光Rがダイクロイックミラー331により第1光と第2光とに分岐され、第1光及び第2光のそれぞれから、第1光学フィルタ332a及び第2光学フィルタ333aのそれぞれによって第1波長範囲W1の第1成分R1及び第2波長範囲W2の第2成分R2が抽出される。第1成分R1及び第2成分R2は、それぞれ、第1光検出部34及び第2光検出部35のそれぞれによって検出され、第1成分R1の光量に応じた第1信号及び第2成分R2の光量に応じた第2信号が生成される。そして、信号処理部38によって、第1信号と第2信号との比に基づいて、被加工物Sの温度が算出される。このように、温度測定装置30では、互いに異なる波長範囲の2つの光成分の強度比に基づいて対象物の温度を測定する2色法が用いられる。
【0063】
ここで、第2成分R2の第2波長範囲W2は、第1成分R1の第1波長範囲W1の上限波長U1よりも長波長側を含む。すなわち、ここでは、第1成分R1が相対的に短波長側の成分となる。そして、第1成分R1の第1波長範囲W1は、1.8μmを第1基準波長V1として含むと共に、当該第1基準波長V1よりも長波長側の範囲Wa2が当該第1基準波長V1よりも短波長側の範囲Wa1よりも広くなるように設定されている。よって、より低温域での測定の際に熱輻射光Rのピーク波長が長波長側にシフトした場合であっても、第1成分R1の光量が確保される。よって、第1成分R1の光量に応じた第1信号において、不安定要素の影響が大きくなることが抑制される。この結果、温度測定の安定性の低下が抑制される。
【0064】
また、温度測定装置30では、第1波長範囲W1は、1.6μm以上2.3μm以下である。このため、第1成分R1の光量が確実に確保され、低温域での測定がより確実に安定化される。
【0065】
また、温度測定装置30では、第2波長範囲W2は、2.1μmを第2基準波長V2として含むと共に、第2基準波長V2よりも長波長側の範囲Wb2が第2基準波長V2よりも短波長側の範囲Wb1よりも広くなるように設定されている。このため、長波長側の第2成分R2の光量が確保されることで、ダイナミックレンジが確保される。
【0066】
また、温度測定装置30では、第2波長範囲W2は、1.9μm以上2.5μm以下である。このため、長波長側の第2成分R2の光量が確実に確保されることで、ダイナミックレンジがより確実に確保される。
【0067】
また、温度測定装置30は、第1波長範囲W1の幅は、第2波長範囲W2の幅よりも広くてもよい。この場合、第1成分R1の光量が確実に確保され、低温域での測定がより確実に安定化される。
【0068】
また、温度測定装置30では、第1光学フィルタ332aは、ダイクロイックミラー331と第1光検出部34との間に配置されており、第2光学フィルタ333aは、ダイクロイックミラー331と第2光検出部35との間に配置されている。このため、第1波長範囲W1の第1成分R1及び第2波長範囲W2の第2成分R2のそれぞれを確実に抽出することが可能となる。
【0069】
また、温度測定装置30では、第1波長範囲W1及び第2波長範囲W2は、互いに重複する重複領域Pwを有する。このため、第1成分R1の光量が確実に確保されると共に、低温域から高温域にわたってダイナミックレンジが確保しやすくなる。
【0070】
また、温度測定装置30では、ダイクロイックミラー331は、第1光及び第2光のうちの一方を透過させると共に、第1光及び第2光のうちの他方を反射することにより、熱輻射光Rを第1光と第2光とに分岐する。そして、ダイクロイックミラー331の光透過特性は、重複領域Pwに相当する波長範囲において、波長の変化に対する透過率の変化が相対的に小さくなる段差部Gpを含む。このため、第1波長範囲W1と第2波長範囲W2との重複領域Pwの波長範囲の光を、第1光学フィルタ332a及び第1光検出部34と、第2光学フィルタ333a及び第2光検出部35と、の両方に好適に入射させることが可能となる。
【0071】
また、温度測定装置30では、ダイクロイックミラー331の光透過特性は、当該ダイクロイックミラー331の光透過率が40%以上60%以下の範囲において段差部Gpを含む。このため、第1波長範囲W1と第2波長範囲W2との重複領域Pwの波長範囲の光を、第1光学フィルタ332a及び第1光検出部34と、第2光学フィルタ333a及び第2光検出部35と、の両方により好適に入射させることが可能となる。
【0072】
さらに、温度測定装置30では、光ファイバ19のコア径は、100μm以上1000μm以下であり、光ファイバ19のクラッド径は、105μm以上1200μm以下である。このため、筐体31内へ入射させる熱輻射光Rの光量を確保しつつ、測定の自由度を向上することができる。
【0073】
ここで、
図5は、温度の測定結果の一例を示すグラフでる。
図5のグラフG6は、温度測定装置30により2色法を用いて測定された被加工物Sの温度[℃]を示している。グラフG7は、第1成分R1の光量に応じた信号値[V]であり、グラフG8は、第2成分R2の光量に応じた信号値[V]であって、それぞれ、単色法での温度測定結果に相当する。グラフG9は、被加工物Sに照射されるレーザ光Lの出力値[W]であり、グラフG10は、レーザ光源20の駆動電流値[A]である。
【0074】
図5の例では、レーザ加工装置1によって被加工物S(ここでははんだ材)にレーザ光Lを連続照射している。この状況において、温度測定装置30によれば、150℃付近の低温域から温度観測が可能であることが理解される。特に、グラフG6,G7,G8に示されるように、温度測定装置30では、被加工物Sの溶融等の状態変化による温度上昇の停滞が、単色法での温度測定に比べて詳細に観測されることが分かる。なお、二色法は単色法と比べて、温度算出時に物体の放射率の影響をほとんど受けないため、接触式の温度計(例えば熱電対)などと同様に温度を算出することができる。その結果、グラフG6に示されるように温度測定対象物の温度上昇の停滞(加熱し続けていても融解が完了するまで温度がほぼ一定に保たれるという熱力学的な特徴)を観測することができる。したがって、二色法を用いた温度測定は、温度測定対象物の状態を単色法よりも正確に捉えることができる。本実施形態に係る第1波長範囲W1、及び、第2波長範囲W2を用いた二色法では、低温域において温度測定対象物の状態を正確に捉えることができる。
【0075】
図6は、温度の測定結果の別の一例を示すグラフである。
図6の例では、被加工物S(ここでは樹脂部材)に対してレーザ光Lを照射し、被加工物Sを20msで320℃に加熱し、その後の自然冷却の状況について温度測定を行っている。
図6のグラフG11は、温度測定装置30により2色法を用いて測定された被加工物Sの温度[℃]を示している。
図6のグラフG11によれば、高温域から低温域にわたって安定した温度測定が可であることが理解される。
【0076】
以上の実施形態は、本発明の一態様について説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、任意に変形され得る。
【0077】
例えば、温度測定装置30では、ダイクロイックミラー331が、第1光学フィルタ332a及び第2光学フィルタ333aを含んでいてもよい。この場合、部品点数が削減される。また、分岐部としては、ダイクロイックミラーに限定されず、ビームスプリッタ等から構成されてもよい。
【0078】
さらに、温度測定装置30では、第1波長範囲W1と第2波長範囲W2とが必ずしも重複領域Pwを有していなくてもよいし、ダイクロイックミラー331の光透過特性が段差部Gpを有していなくてもよい。
【0079】
なお、温度測定装置30は、筐体31の内側にさらに別の筐体(内部筐体)を備えていてもよい。この場合、一例として、ダイクロイックミラー331(分岐部)、第1光学フィルタ332a、第2光学フィルタ333a、第1集光レンズ332b、及び第2集光レンズ333bは、内部筐体内に配置され得る。また、この場合、光ファイバ19は内部筐体と光学的に接続されており、第1光検出部34及び第2光検出部35は、筐体31と内部筐体との間の空間において、筐体31内に固定(設置)された構成とされ得る。すなわち、第1光検出部34及び第2光検出部35は、筐体31と内部筐体との間の空間において、筐体31の各壁面(上面、底面、側面)や、内部筐体の各壁面に固定(設置)されてもよい。第1光検出部34及び第2光検出部35が筐体31の壁面に直接的に設置される場合に限らず、別の部材を介して筐体31に設置されてもよい。光ファイバ19は、内部筐体に接続されて筐体31により支持されることで、筐体31に機械的に接続され得る。
【符号の説明】
【0080】
19…光ファイバ、30…温度測定装置、34…第1光検出部、35…第2光検出部、331…ダイクロイックミラー(分岐部)、332a…第1光学フィルタ、333a…第2光学フィルタ、S…被加工物(対象物)、R…熱輻射光、R1…第1成分、R2…第2成分、W1…第1波長範囲、W2…第2波長範囲、Pw…重複領域、Gp…段差部。