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  • 特開-高分子化合物の生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151606
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】高分子化合物の生成方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/38 20060101AFI20241018BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
B29B7/38
B29K23:00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065078
(22)【出願日】2023-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】519281251
【氏名又は名称】株式会社リピープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100143100
【弁理士】
【氏名又は名称】座間 正信
(72)【発明者】
【氏名】塩野 武男
【テーマコード(参考)】
4F201
【Fターム(参考)】
4F201AA04
4F201AB19
4F201AR01
4F201AR17
4F201BA01
4F201BC01
4F201BC13
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
(57)【要約】
【課題】
架橋ポリエチレンを熱可塑化して高い引張強度と引張伸び率を有する高分子化合物を生成する方法を提供する。
【解決手段】
架橋ポリエチレン及び非架橋のポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、又はエチレンメタクリル酸エチル共重合体から選択される非架橋の高分子化合物を少なくとも1種含む添加剤を混合させ、せん断応力を10,000~15,000s-1のせん断速度で5~30秒間発生させて熱可塑化させることで、高い引張強度と引張伸び率を有する高分子化合物を得ることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機により架橋ポリエチレンを熱可塑化して高分子化合物を生成する方法であって、
前記架橋ポリエチレンと、第一非架橋ポリエチレンと、添加剤とを混合させて混合物を生成する混合工程と、
前記混合物を前記押出機の第一投入部から投入して熱とせん断応力を加えて前記架橋ポリエチレンを熱可塑化する熱可塑化工程と、
前記熱可塑化工程後の前記混合物に第二非架橋ポリエチレンを前記押出機の第二投入部から投入して混練する混練工程と、を含み、
前記混合工程における前記第一非架橋ポリエチレンの量は、前記架橋ポリエチレン100重量部に対して1~5重量部であり、
前記添加剤はエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、又はエチレンメタクリル酸エチル共重合体から選択される非架橋の高分子化合物を少なくとも1種含み、
前記添加剤の量が前記架橋ポリエチレン100重量部に対し0.1~3重量部であり、
前記熱可塑化工程における前記せん断応力を10,000~15,000s-1のせん断速度で5~30秒間発生させ、
前記混練工程において投入される前記第二非架橋ポリエチレンの量が、前記架橋ポリエチレン100重量部に対して50~150重量部であることを特徴とする高分子化合物の生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子化合物の生成方法において、
前記添加剤のメルトフローインデックスが1~30g/10分であることを特徴とする高分子化合物の生成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分子化合物の生成方法において、
前記混練工程後の前記高分子化合物の引張強度が18MPa以上であり、引張伸び率が450%超であることを特徴とする高分子化合物の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレンを熱可塑化することで引張強度と引張伸び率の高い高分子化合物を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンとは、ポリエチレンに架橋剤を添加処理して高分子の分子鎖を立体網目状構造に分子間結合を行わせ、耐熱性や耐衝撃性を向上させたポリエチレンである。架橋ポリエチレンは有機過酸化物により架橋した過酸化物架橋ポリエチレンやシラノール縮合触媒により架橋したシラン架橋ポリエチレンなどに大別される。
【0003】
架橋ポリエチレンは熱を加えても溶融しないため、マテリアルリサイクルが非常に困難であったが、近年架橋ポリエチレンを熱可塑化してマテリアルリサイクルをする方法について多くの研究がされている。熱可塑化とは、架橋ポリエチレンに適切な熱とせん断応力を与えることで架橋構造を破壊し、低分子量化することで熱可塑性となった再生材を得る技術である。しかし、架橋ポリエチレンは結合エネルギーが大きいため適切に架橋点を切断することが難しく、引張強度や引張伸び率の高い高分子化合物を得ることが難しい。
【0004】
架橋ポリエチレンを再利用するための熱可塑化の方法は色々と検討されている。例えば、バージンのポリエチレンを少量加え、架橋方法の異なる架橋ポリエチレン混在物を熱可塑化して分子量の低下が少ない良質な生成物を得ることが可能な高分子化合物の処理方法(特許文献1)や、シラン架橋ポリエチレンを含むポリエチレン樹脂に脂肪族化合物を加えた方法で熱可塑化してマテリアルリサイクルする方法(特許文献2)などが知られている。
【0005】
特許文献1の特許請求の範囲に記載の高分子化合物の処理方法では、高分子化合物と薬剤とを反応用押出機に供給し、押出機内部に設けられたせん断混練ゾーンにおいて240~380℃で反応させて処理を行なう。これら高分子化合物と薬剤とを反応用押出機内で反応させ、高分子化合物を熱可塑化させて高分子処理物を生成する。
【0006】
特許文献2に記載のマテリアルリサイクルする方法では、シラン架橋ポリエチレン樹脂と炭素数が16以上であり、かつ1つ以上の水酸基を有する沸点が300℃以上の脂肪族化合物から選択される添加剤を混合させた後にせん断応力を加えて熱可塑化させることで、マテリアルリサイクル可能な高分子化合物を得る。
【0007】
【特許文献1】特開2009-197138号公報
【特許文献2】特開2021-024904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、高分子化合物と薬剤とを反応用押出機に供給し、押出機内部に設けられたせん断混練ゾーンにおいて240~380℃で反応させて処理を行なった結果、表3のデータより、得られた高分子化合物の引張特性Tb(本願では引張強度とする)は15MPa未満であり、また引張り特性Eb(本願では引張伸び率とする)も450%以下であった。
【0009】
特許文献2に記載の方法で得られた高分子化合物の引張伸び率は、表1より、引張強度は17MPa以上あるものの、引張伸び率が最高でも320%と低い値であった。
【0010】
以上のように、架橋ポリエチレンの従来の熱可塑化方法において得られた高分子化合物の引張強度や引張伸び率の値は低く、高い引張強度と引張伸び率が必要とされる材料として適さない。そのような材料としては、例えば、ブロー成形材や発泡成形材をあげることができる。
【0011】
本発明は、前記の不都合を解消するためになされたものであって、高い引張強度と高い引張伸び率の両方を必要とする用途(例えば、ブロー成形又は発泡成形)であっても好適に用いることが可能な高分子化合物の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る高分子化合物の生成方法は、押出機により架橋ポリエチレンを熱可塑化して高分子化合物を生成する方法であって、前記架橋ポリエチレンと、第一非架橋ポリエチレンと、添加剤とを混合させて混合物を生成する混合工程と、前記混合物を前記押出機の第一投入部から投入して熱とせん断応力を加えて前記架橋ポリエチレンを熱可塑化する熱可塑化工程と、前記熱可塑化工程後の前記混合物に第二非架橋ポリエチレンを前記押出機の第二投入部から投入して混練する混練工程とを含み、前記混合工程における前記第一非架橋ポリエチレンの量は、前記架橋ポリエチレン100重量部に対して1~5重量部であり、前記添加剤はエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、又はエチレンメタクリル酸エチル共重合体から選択される非架橋の高分子化合物を少なくとも1種含み、前記添加剤の量が前記架橋ポリエチレン100重量部に対し0.1~3重量部であり、前記熱可塑化工程における前記せん断応力を10,000~15,000s-1のせん断速度で5~30秒間発生させ、前記混練工程において投入される前記第二非架橋ポリエチレンの量が、前記架橋ポリエチレン100重量部に対して50~150重量部であることを特徴とする。
【0013】
さらに、前記添加剤のメルトフローインデックスが1~30g/10分であってもよい。
【0014】
そして、前記混練工程後の前記高分子化合物の引張強度が18MPa以上であり、引張伸び率が450%超としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によればエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、又はエチレンメタクリル酸エチル共重合体から選択される非架橋の高分子化合物を少なくとも1種を含んだ添加剤を用いることで高い引張強度と引張伸び率をもつ高分子化合物が得られる。得られた高分子化合物は引張強度や引張伸び率の高い用途、例えばブロー成形や発泡成形などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る二軸押出機の内部構造を示した断面概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る二軸押出機のシリンダ内部に配置された2本のスクリューを平面視で示す部分断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る高分子化合物の生成方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
<装置の説明>
架橋ポリエチレンの熱可塑化は押出機を用いて行なうが、押出機にはスクリューが1本だけの一軸押出機とスクリューが2本ある二軸押出機とに大別できる。二軸押出機は一軸押出機に比べて、添加剤や充填剤など異なる成分の均一混合効率に優れる、摩擦熱の影響が少なく発熱を抑えられる、内部材料流れが複雑となりより大きなせん断応力を材料にかけることができる、などの利点がある。そのため、本発明においては二軸押出機を用いて試験を行なった。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る二軸押出機10の内部構造を示した断面概略図である。また、図2は、二軸押出機10のシリンダ12内部に配置された2本のスクリュー13を平面視で示す部分断面図である。
【0020】
図1に示すように二軸押出機10は、駆動部14からシリンダ12が延在しており、さらにポリエチレンなどを投入するための第一投入部16及び第二投入部24を備える。そして、シリンダ12内には順番に、第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32が設けられている。第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28、第三輸送部32のそれぞれは2本の対になるスクリュー13を有する。ここで、第一輸送部18、第二輸送部26、第三輸送部32のスクリューは輸送に適した形状のスクリューであり、第一混練部20と第二混練部28のスクリューは熱可塑化に適した形状のスクリューで構成されている。
【0021】
駆動部14には図示しないモーターが配設されており、駆動部14のモーターは、第一輸送部18のスクリューと接続され、さらに、各スクリューは、隣接するスクリューと接続している。そのため、駆動部14内のモーターが駆動すると、第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32の各スクリューが同時に回転する。さらに、シリンダ12内部を所定の温度に保つための図示しないヒーターなどの加熱手段が設けられている。
【0022】
第一輸送部18の上部には第一投入部16が設けられており、二軸押出機10の外部で混合された混合物は第一投入部16から投入され、ヒーターなどで加熱された第一輸送部18で加熱溶融されて第一混練部20へと移送される。
【0023】
第一混練部20は、高いせん断応力が生じるようにスクリューとシリンダの幅が狭く調整されている。第一混練部20の上部に第一脱気部22が設けられており、第一輸送部18から移送された混合物は第一混練部20でせん断応力と熱を加えられることで架橋ポリエチレンが熱可塑化される。そのときに発生した気体は第一脱気部22を通り二軸押出機10の外部へと排出される。その後、熱可塑化された混合物は第二輸送部26へと移送される。
【0024】
ここで、せん断応力τとは、物体内部のある面と別な面を互い違いに平行方向に変形させたときに作用する応力のことである。変形させるのにかけた力をF、変形させた面積をAとするとせん断応力はF/Aで表わされ、単位はτ(Paパスカル)=F(Nニュートン)/A(面積m)となる。
【0025】
また、せん断応力τ(Pa)はせん断速度γ(s-1)とポリエチレンの粘度μ(Pa・s)との積で表される。すなわちτ=μγとなる。なお、せん断速度γの単位は秒の逆数(1/s)で表わされる。ここでポリエチレンの粘度μはポリエチレンの種類と温度により定まるため、せん断応力τはせん断速度によりコントロールすることが一般的である。
【0026】
ここで、せん断速度γ(s-1)は押出機のシリンダとスクリューのクリアランスt(mm)およびスクリューの先端頂部の速度v(mm/s)からγ=v/tとなる。なお、このスクリューの先端頂部の速度vは、スクリューの回転をN(rpm)、径をD(mm)とすると、v=πND/60となる。すなわち、せん断速度はγ=πND/60tで表わされる。なお、πは円周率を表わす。
【0027】
第二輸送部26は、第一混練部20と第二混練部28とに接続されており、また第二輸送部26の上部には第二投入部24が設けられている。第二投入部24から投入された個体の投入物は、ヒーターなどで加熱された第二輸送部26内で溶融し、第一混練部20から移送された混合物と共に第二混練部28へと移送される。
【0028】
第二混練部28は第二輸送部26と第三輸送部32と接続しており、混合及び混練作用が生じる2本のスクリューを有する。そして第二混練部28では第二輸送部26から移送された熱可塑化された混合物と投入物とを均一に混練できる。その後、混練された高分子化合物は第三輸送部32へと移送される。
【0029】
第三輸送部32は第二混練部28と排出部34と接続している。そして、第三輸送部32の上部には第二脱気部30が設けられており、シリンダ12内部で発生した気体が外部に排出される構造となっている。第二混練部28から移送された高分子化合物は第三輸送部32を通り排出部34から外部へと排出される。
【0030】
<工程の説明>
次に、図3を用いて本発明の実施形態に係る高分子化合物の生成方法について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る高分子化合物の生成方法の工程図である。
【0031】
(準備工程:S1)
スタート時に二軸押出機10の電源が投入される。そうすると二軸押出機10の駆動部14内にあるモーターが回転し、駆動部14に接続した第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32のそれぞれのスクリューが回転する。同時に加熱機構によりシリンダ12内部が所定の温度に加熱され、装置が十分に安定するまで所定の時間が保たれる。
【0032】
上述したようにせん断速度はγ=πND/60tの式で表わされるが、第一混練部におけるせん断速度は10,000~15,000s-1、好ましくは10,000s-1となるようにスクリューの回転速度が設定される。第一混練部におけるせん断応力が10,000s-1以下のせん断速度の場合では熱可塑化が十分に進行しない。また、15,000s-1以上のせん断速度では熱可塑化が進行しすぎてしまい、得られる高分子化合物の物性値が著しく低下する。
【0033】
また、せん断応力は5~30秒間発生させることが好ましい。5秒間以下の時間では熱可塑化が十分に進行せず、30秒より長くせん断応力をかけると得られる高分子化合物の物性値が著しく低下する。
【0034】
また、第一混練部20内の温度は300~400℃、好ましくは350℃に設定される。第一混練部20におけるせん断速度が10,000s-1以下だと十分なせん断応力が得られず架橋ポリエチレンの熱可塑化が十分に進まない。また、15,000s-1以上になるとせん断応力が高くなりすぎ、熱可塑化された高分子化合物の物性値が大幅に低下する。さらに、第一混練部20内の温度が250℃以下だと熱可塑化反応が進まず、400℃以上になると高分子化合物が熱劣化して物性値が大きく低下する。
【0035】
(混合工程:S2)
次に、二軸押出機10の外部で架橋ポリエチレンと、第一非架橋ポリエチレンと、添加剤を混合して混合物を生成する。この時、架橋ポリエチレン100重量部に対して、第一非架橋ポリエチレンは1~5重量部、添加剤は0.1~3重量部の割合で混合することが好ましい。
【0036】
第一非架橋ポリエチレンは潤滑剤の役割を果たすため、1重量部よりも少ないと潤滑効果が損なわれ二軸押出機に負荷かがかかるため好ましくない。また、第一非架橋ポリエチレンの量が5重量部よりも多いと熱可塑化反応を阻害する。
【0037】
さらに、添加剤の量は0.1重量部よりも少ないと熱可塑化反応が進まず、3重量部より多いと最終的な高分子化合物の物性値が低下する。
【0038】
添加剤は、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンメタクリル酸エチル共重合体から選択される非架橋の高分子化合物を少なくとも1種含む。なかでも、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)またはエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)の少なくともどちらか一方を含むことが好ましい。
【0039】
エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)はエチレンと酢酸ビニルの共重合体で、酢酸ビニルの重量パーセントは通常10~50%で残りはエチレンである。本発明で用いられるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)の酢酸ビニルの含有量は20~40%が好ましい。20%以下だと熱可塑化の効果が低下し、40%以上だとエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)がポリエチレンとうまく混合しない。
【0040】
エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)はエチレンとアクリル酸エチルの重合によって合成される樹脂であり、本発明で用いられるエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)のアクリル酸エチル含有量は10~30%が好ましい。10%以下だと熱可塑化の効果が低下し、30%以上だとEEAがポリエチレンとうまく混合しないため好ましくない。
【0041】
さらに、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)およびエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)のメルトフローインデックスは1~30g/10分が好ましい。メルトフローインデックスが1g/10分だと架橋ポリエチレンとうまく混ざり合わず熱可塑化が進まない。また、30g/10分以上になると得られた高分子化合物の物性値が低下する。
【0042】
ここで、メルトフローインデックスとは熱可塑性樹脂の溶融時の流動性を表す指標のことである。一定の温度と圧力で小さな穴の空いた金属製の円柱から樹脂を押し出し,10分間あたりのグラム数に換算して求める。
【0043】
(第一投入工程:S3)
架橋ポリエチレン、第一非架橋ポリエチレンおよび添加剤を混合した混合物は第一投入部16から投入され、第一輸送部18で二軸のスクリュー回りを回転しながら加熱溶融され、第一混練部20へと導入される。
【0044】
(熱可塑化工程:S4)
混合物は、第一混練部20においてせん断応力と熱を加えられて、架橋ポリエチレンの架橋点が切断され熱可塑化される。熱可塑化が進行する際に発生する気体は第一混練部20の上側にある第一脱気部22からシリンダ12の外に排出される。発生した気体が排出されるため第一混練部20は大気圧に近い圧力となる。
【0045】
(第二投入工程:S5)
第二投入部24からは第二非架橋ポリエチレンが投入され、第一混練部20で熱可塑化された混合物とともに第二輸送部26から第二混練部28へと導入される。第二非架橋ポリエチレンは、第一投入部から投入された架橋ポリエチレン100重量部に対して50~150重量部であることが好ましい。なお、第一非架橋ポリエチレンと第二非架橋ポリエチレンは同一の素材であっても、異なる素材であってもよい。
【0046】
第二投入部24から投入される第二非架橋ポリエチレンの量が50重量部よりも少ないと得られる高分子化合物の物性値が低く、成型品に不良が起こりやすい。また、150重量部より多くても得られる高分子化合物の物性値が低くなり、成型品に不良が発生しやすい。
【0047】
(混練工程:S6)
そして、熱可塑化された混合物と第二投入部24から投入された第二非架橋ポリエチレンは第二混練部28において混合混練されて均一な高分子化合物が得られる。
(排出工程:S7)
その後、高分子化合物は第三輸送部を通り、排出部34より二軸押出機10の外部へと排出され、高分子化合物が得られる。
【0048】
上記のようにして得られた高分子化合物は優れた成型性をもち、引張強度が18MPa以上、引張伸び率が450%超とすることが可能となるため、物理的な強度が要求される用途、例えばブロー成形や発泡成形などに用いることができる。
【0049】
また、本発明により得られた高分子化合物はプレス成型、射出成型のいずれにも使用することが可能であり、高強度、高耐熱性、高衝撃性を有する成型品となる。
【0050】
以下、本発明を実施例および比較例により高分子化合物の結果を示すが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0051】
〔引張試験及び伸び試験〕
引張試験及び伸び試験を高分子化合物に対して行った。引張試験及び伸び試験装置は島津製作所製オートグラフAGSシステムを用いた。また引張試験はJISK6922-2に準拠して1mm厚のシート状にプレス成型した高分子化合物をダンベル3号の形状に打ち抜き、50mm/minの速度で引張試験機を用いて行った。
【0052】
〔ゲル分率〕
ゲル分率は、JIS-K6796に準拠して沸騰熱キシレン中で8時間抽出した。その後、140℃で3時間真空乾燥した後の重量を秤量し、抽出前の重量との比から下式によりゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(抽出後重量(g)/抽出前重量(g))×100
なお、原料として使用した架橋ポリエチレンのゲル分率は65~85%であった。
【0053】
次に、本実施例1~14と比較例1~8を詳しく説明する。
【0054】
【表1】
EVA:エチレン酢酸ビニル共重合体、EEA:エチレンアクリル酸エチル共重合体、
100※:過酸化物架橋ポリエチレンを使用
【0055】
以下に実施例1~5を説明する。実施例1~5はシラン架橋ポリエチレン100重量部に第一非架橋ポリエチレンを2重量部、添加剤として非架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を表1に示す割合で混合し混合物とした。その後、前述した工程により二軸押出機による熱可塑化を行なった後に高分子化合物を得て、ゲル分率、引張強度、引張伸び率を測定した。
【0056】
(実施例1)
図1の二軸押出機10を用いて第一混練部の温度350℃、最高せん断速度10,000s-1、最高せん断時間が15sとなるように設定した(図3 S1:準備工程)。そして、シラン架橋ポリエチレンを100重量部に、第一非架橋ポリエチレン(非架橋PE)2重量部、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)0.1重量部を混合した混合物を得た(図3 S2:混合工程)。その後、混合物を第一投入部16から二軸押出機10に投入した(図3 S3:投入工程)。そして、第一混練部20で15秒間混練をおこないシラン架橋ポリエチレンが熱可塑化された混合物を生成した(図3 S4:熱可塑化工程)。ついで、第二投入部24から第二非架橋ポリエチレン100重量部を投入した(図3 S5:第二投入工程)。熱可塑化された混合物と第二投入部から投入された第二非架橋ポリエチレンは第二輸送部26から第二混練部28に移送され、混練されて均一な高分子化合物となり(図3 S6:混練工程)、第三輸送部32を通って排出部34から排出され、高分子化合物を得た(図3 S7:排出工程)。得られた高分子化合物のゲル分率は19%、引張強度は20MPa、伸び率は545%であった。
【0057】
(実施例2)
添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)0.5重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は13%、引張強度は21MPa、伸び率は576%であった。
【0058】
(実施例3)
添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)1重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は18%、引張強度は22MPa、伸び率は528%であった。
【0059】
(実施例4)
添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)2重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は14%、引張強度は21MPa、伸び率は504%であった。
【0060】
(実施例5)
添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)3重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は19%、引張強度は20MPa、伸び率は556%であった。
【0061】
実施例1~5の結果から、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を0.1~3重量部混合し熱可塑化を行うことでゲル分率が13~19%、引張り強度が20~22MPa、引張り伸び率が504~576%の高分子化合物が得られた。
【0062】
以下に実施例6~10を説明する。実施例6~10は、シラン架橋ポリエチレンと第一非架橋ポリエチレン、添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)を0.1~3重量部を混合して混合物とした。その後、シラン架橋ポリエチレンの熱可塑化を行い得られた高分子化合物のゲル分率と引張強度、伸び率を測定した。
【0063】
(実施例6)
添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)0.1重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は18%、引張強度は20MPa、伸び率は534%であった。
【0064】
(実施例7)
添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)0.5重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は15%、伸び率は540%、引張強度は21MPaであった。
【0065】
(実施例8)
添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)1重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は17%、引張強度は22MPa、伸び率は536%であった。
【0066】
(実施例9)
添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)2重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は15%、引張強度は22MPa、伸び率は564%であった。
【0067】
(実施例10)
添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)3重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は19%、引張強度は21MPa、伸び率は568%であった。
【0068】
実施例6~10に示したように、高分子化合物の添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)を0.1~3重量部混合し熱可塑化を行うことでゲル分率が15~19%、引張強度は20~22MPa、伸び率が534~568%の高分子化合物が得られた。
【0069】
以下に実施例11~13を説明する。実施例11~13は、過酸化物架橋ポリエチレンと第一非架橋ポリエチレン、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を1~3重量部を混合して混合物とした。その後、過酸化物架橋ポリエチレンの熱可塑化を行い得られた高分子化合物のゲル分率と引張強度、伸び率を測定した。
【0070】
(実施例11)
過酸化物架橋ポリエチレン100重量部、第一非架橋ポリエチレン2重量部、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)1重量部を混合した混合物を得た(図3:S2)。それ以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は5%、引張強度は19MPa、伸び率は754%であった。
【0071】
(実施例12)
添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)2重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は9%、引張強度は18MPa、伸び率は530%であった。
【0072】
(実施例13)
添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)3重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は8%、引張強度は18MPa、伸び率は650%であった。
【0073】
以下に実施例14を説明する。実施例14は、シラン架橋ポリエチレン100重量部と第一非架橋ポリエチレン2重量部、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を1重量部、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)1重量部を混合して混合物とした。それ以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は15%、引張強度は20MPa、伸び率は600%であった。
【0074】
以上、実施例1~14に示したように架橋ポリエチレン100重量部に対し、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)および/またはエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)を0.1~3重量部添加して熱可塑化を行うことで引張強度が18MPa以上、伸び率が450%超の高分子化合物が得られた。またゲル分率はいずれも20%以下であった。
【0075】
以下に比較例1~8を説明する。比較例1はシラン架橋ポリエチレンに添加剤なしの条件で、比較例2および3は添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を0.05重量部、5重量部をそれぞれ用いた。また、比較例4および5は添加剤としてエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)を0.05重量部、5重量部をそれぞれ用いた。比較例6~8は過酸化物架橋ポリエチレンに添加剤なしの条件で、第一非架橋ポリエチレン(非架橋PE)をそれぞれ2、5、10重量部用いて混合物を生成し、実施例1と同様の条件で高分子化合物を生成した。
【0076】
(比較例1)
添加剤は用いず、シラン架橋ポリエチレン100重量部と第一非架橋ポリエチレン2重量部を混合して混合物を得た(図3:S2)。それ以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は45%、引張強度は15MPa、伸び率は84%であった。
【0077】
(比較例2)
添加剤としてEVA0.05重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は40%、引張強度は14MPa、伸び率は119%であった。
【0078】
(比較例3)
添加剤としてEVA5重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は35%、引張強度は16MPa、伸び率は332%であった。
【0079】
(比較例4)
添加剤としてEEA0.05重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は41%、引張強度は15MPa、伸び率は348%であった。
【0080】
(比較例5)
添加剤としてEEA5重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は34%、引張強度は15MPa、伸び率は358%であった。
【0081】
(比較例6)
添加剤は用いずに、過酸化物架橋ポリエチレン100重量部、第一非架橋ポリエチレン2重量部を混合した混合物を得た(図3:S2)。それ以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は29%、引張強度は16MPa、伸び率は350%であった。
【0082】
(比較例7)
添加剤は用いずに、過酸化物架橋ポリエチレン100重量部、第一非架橋ポリエチレン5重量部を混合した混合物を得た(図3:S2)。それ以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は35%、引張強度は13MPa、伸び率は250%であった。
【0083】
(比較例8)
添加剤は用いずに、過酸化物架橋ポリエチレン100重量部、第一非架橋ポリエチレン10重量部を混合した混合物を得た(図3:S2)。それ以外は実施例1と同様に試験を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物のゲル分率は40%、引張強度は14MPa、伸び率は220%であった。
【0084】
比較例1及び6~8に示したように、添加剤を用いずにシラン架橋ポリエチレン又は過酸化物架橋ポリエチレンと第一非架橋ポリエチレンのみで熱可塑化を行うと、引張強度は16MPa以下であり、伸び率は350%以下と実施例と比べて低い値であった。
【0085】
また、比較例2~5に示したようにエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)の添加量が0.1重量部より少ない場合や3重量部より多い場合には引張強度は16MPa以下、伸び率は358%以下と実施例と比べて低い値であった。またゲル分率はいずれも29%以上であった。
【0086】
以上の結果より、添加剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)および/またはエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)を架橋ポリエチレン100重量部に対して0.1~3重量部用いて高分子化合物を生成することにより引張強度が18MPa以上、伸び率は450%超と高い物性値を示す高分子化合物が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば二軸押出機を用いてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)などの添加剤を用いることにより物性値の高い高分子化合物を生成することができる。そして、例えば、高い引張強度や伸び率が必要とされるブロー成形や発泡成形での利用が可能となる。
【符号の説明】
【0088】
10 二軸押出機
12 シリンダ
13 スクリュー
14 駆動部
16 第一投入部
18 第一輸送部
20 第一混練部
22 第一脱気部
24 第二投入部
26 第二輸送部
28 第二混練部
30 第二脱気部
32 第三輸送部
34 排出部
図1
図2
図3