(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151623
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】更生タイヤの製造方法及び更生タイヤ
(51)【国際特許分類】
B29D 30/56 20060101AFI20241018BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20241018BHJP
B60C 11/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B29D30/56
B60C19/00 J
B60C11/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065111
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】魚谷 良太
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
3D131BA03
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB18
3D131BC31
3D131EC26U
3D131ED06U
3D131LA20
3D131LA24
3D131LA28
4F215AH20
4F215AR11
4F215VA17
4F215VC12
4F215VC13
4F215VD05
4F215VK32
4F215VL04
4F215VL27
4F215VR01
4F215VR03
4F501TA14
4F501TB12
4F501TB13
4F501TC05
4F501TC24
4F501TD35
4F501TE04
4F501TE22
4F501TT01
4F501TT03
4F501TU11
4F501TV08
4F501TV27
(57)【要約】
【課題】良好な通信環境の形成と、RFIDタグ32を起因とする損傷リスクの低減とを考慮しながら、RFIDタグ32を内蔵していないタイヤ102にRFIDタグ32を取り付け、RFIDタグ32による情報管理を可能にした、更生タイヤ2製造方法の提供。
【解決手段】更生タイヤ2製造方法は、タイヤ102からトレッド104を削る工程と、トレッド104を削ってなる成形面BDに、タグ部材30を装着する工程と、新しいトレッド4を再建する工程とを含む。成形面BDは、タイヤ2の最大幅位置の径方向外側に位置する。タグ部材30は、ベルト14の端の径方向内側に位置する。タグ部材30の保護体34のためのゴム組成物の初期加硫時間t10は、新しいトレッド4のためのゴム組成物の初期加硫時間t10より短い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物の架橋物である保護体と、前記保護体で包み込まれたRFIDタグとで構成されたタグ部材を備える、更生タイヤを製造する方法であって、
一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側において前記カーカスに積層されるベルトと、前記カーカスの軸方向外側に位置する一対のサイドウォールとを備えるタイヤから前記トレッドを削る工程と、
前記トレッドを削ってなる成形面に、前記保護体が未加硫状態にある前記タグ部材を装着する工程と、
前記タグ部材を装着した成形面に、ゴム組成物の架橋物である新しいトレッドを再建する工程と
を含み、
前記成形面が、前記タイヤの最大幅位置の径方向外側に位置し、
前記タグ部材が、前記ベルトの端の径方向内側に位置し、
前記保護体のためのゴム組成物の初期加硫時間t10が、前記新しいトレッドのためのゴム組成物の初期加硫時間t10より短い、
更生タイヤの製造方法。
【請求項2】
前記保護体の初期加硫時間t10が、2.5分以下である、
請求項1に記載の更生タイヤの製造方法。
【請求項3】
前記保護体の複素弾性率が、前記サイドウォールの複素弾性率と同じである、又は、前記サイドウォールの複素弾性率よりも高く、
前記保護体の複素弾性率が前記新しいトレッドの複素弾性率よりも低い、
請求項1又は2に記載の更生タイヤの製造方法。
【請求項4】
タイヤのトレッドを削ってなる成形面を有する台タイヤと、前記台タイヤの成形面に再建された新しいトレッドと、前記台タイヤと前記新しいトレッドとの間に位置するタグ部材とを備え、
前記台タイヤが、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側において前記カーカスと積層されるベルトと、前記カーカスの軸方向外側に位置する一対のサイドウォールとを備え
前記タグ部材が、ゴム組成物の架橋物である保護体と、前記保護体で包み込まれたRFIDタグとで構成され、
前記タグ部材が、径方向において、前記ベルトの端と前記タイヤの最大幅位置との間に位置し、
前記新しいトレッドがゴム組成物の架橋物であり、
前記保護体の複素弾性率が、前記サイドウォールの複素弾性率と同じである、又は、前記サイドウォールの複素弾性率よりも高く、
前記保護体の複素弾性率が前記新しいトレッドの複素弾性率よりも低い、
更生タイヤ。
【請求項5】
前記保護体のためのゴム組成物の初期加硫時間t10が、前記新しいトレッドのためのゴム組成物の初期加硫時間t10より短い、
請求項4に記載の更生タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更生タイヤの製造方法及び更生タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造管理、顧客情報、走行履歴等の情報を管理するために、RFID(Radio Frequency Identification)タグをタイヤに適用することが提案されている。
下記の特許文献1では、更生タイヤの製造管理システムへのRFIDタグの適用が検討されている。特許文献1では、RFIDタグはタイヤの内部に移動自在に配置される。
【0003】
RFIDタグを内蔵していないタイヤも、RFIDタグを取り付ければ、RFIDタグを内蔵したタイヤと同じように、情報を管理できる。
RFIDタグを内蔵していないタイヤに対して、そのアフターサービスにおいて、RFIDタグを取り付ける取り組みが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しながら、RFIDタグを内蔵していないタイヤにRFIDタグを取り付け、RFIDタグによる情報管理を可能とした、更生タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る更生タイヤの製造方法は、ゴム組成物の架橋物である保護体と、前記保護体で包み込まれたRFIDタグとで構成されたタグ部材を備える、更生タイヤを製造する方法である。この製造方法は、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側において前記カーカスに積層されるベルトと、前記カーカスの軸方向外側に位置する一対のサイドウォールとを備えるタイヤから前記トレッドを削る工程と、前記トレッドを削ってなる成形面に、前記保護体が未加硫状態にある前記タグ部材を装着する工程と、前記タグ部材を装着した成形面に、ゴム組成物の架橋物である新しいトレッドを再建する工程とを含む。前記成形面は、前記タイヤの最大幅位置の径方向外側に位置する。前記タグ部材は、前記ベルトの端の径方向内側に位置する。前記保護体のためのゴム組成物の初期加硫時間t10は、前記新しいトレッドのためのゴム組成物の初期加硫時間t10より短い。
【0007】
本発明に係る更生タイヤは、タイヤのトレッドを削ってなる成形面を有する台タイヤと、前記台タイヤの成形面に再建された新しいトレッドと、前記台タイヤと前記新しいトレッドとの間に位置するタグ部材とを備える。前記台タイヤは、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側において前記カーカスと積層されるベルトと、前記カーカスの軸方向外側に位置する一対のサイドウォールとを備える。前記タグ部材は、ゴム組成物の架橋物である保護体と、前記保護体で包み込まれたRFIDタグとで構成される。前記タグ部材は、径方向において、前記ベルトの端と前記タイヤの最大幅位置との間に位置する。前記新しいトレッドはゴム組成物の架橋物である。前記保護体の複素弾性率は、前記サイドウォールの複素弾性率と同じである、又は、前記サイドウォールの複素弾性率よりも高い。前記保護体の複素弾性率は前記新しいトレッドの複素弾性率よりも低い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しつつ、RFIDタグを内蔵していないタイヤにRFIDタグが取り付けた、更生タイヤが得られる。更生タイヤにRFIDタグが固定されるので、RFIDタグが剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクが低減される。この更生タイヤは、RFIDタグに書き込まれた情報の信頼性を高めることができる。この更生タイヤによれば、RFIDタグによる情報管理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】更生タイヤの製造に用いるタイヤの一部を示す断面図である。
【
図8】更生タイヤのショルダー部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタイヤはリムに組まれる。タイヤの内側には空気が充填され、タイヤの内圧が調整される。リムに組まれたタイヤはタイヤ-リム組立体とも呼ばれる。タイヤ-リム組立体は、リムと、このリムに組まれたタイヤとを備える。
【0011】
本発明において、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0012】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離が、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するように、タイヤはセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0013】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0014】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0015】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0016】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。
トレッド部とサイドウォール部との境界部分はバットレスとも呼ばれる。
トレッド部の中央部分はクラウン部分とも呼ばれる。トレッド部の端の部分はショルダー部分とも呼ばれる。
【0017】
本発明において、ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる。ゴム組成物は、未架橋状態の基材ゴムを含む組成物である。架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られる、ゴム組成物の架橋物である。架橋ゴムは基材ゴムの架橋物を含む。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0018】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される、トレッド、サイドウォール等の各要素の仕様に応じて、適宜決められる。本発明においては、特に言及がない限り、タイヤにおいて一般的に使用されるゴム組成物が用いられる。
【0019】
本発明において、ゴム組成物の初期加硫時間t10とは、JIS K6296-2に規定のねじり振動式ディスク加硫試験機を用いて得られる、160℃の加硫速度曲線において、トルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH-ML)をMEとしたとき、前記トルクがML+0.1MEに到達する時間である。トルクの最大値MHは、試験開始してから15分後に到達したトルクで表される。
【0020】
本発明において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の複素弾性率E*は、JIS K6394の規定に準拠して測定される。測定条件は以下の通りである。
初期歪み=10%
動歪み=±1%
周波数=10Hz
モード=伸長モード
温度=70℃
この測定では、試験片(長さ20mm×幅4mm×厚さ1mm)はタイヤからサンプリングされる。試験片の長さ方向は、タイヤの周方向と一致させる。タイヤから試験片をサンプリングできない場合には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)から試験片がサンプリングされる。
本発明において架橋ゴムからなる要素の複素弾性率E*は、70℃での複素弾性率で表される。複素弾性率が高いほど架橋ゴムは硬質である。複素弾性率が低いほど架橋ゴムは軟質である。
【0021】
[本発明の基礎となった知見]
前述したように、RFIDタグを内蔵していないタイヤに対しては、そのアフターサービスにおいて、RFIDタグを取り付ける取り組みが検討されている。
RFIDタグの取り付け方法として、RFIDタグをタイヤに貼り付ける方法がある。この方法によれば、RFIDタグをタイヤに容易に取り付けることができる。しかしこの方法では、RFIDタグをタイヤに固定できないため、RFIDタグが剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクが想定される。
更生タイヤの製造では、摩耗した古いトレッドを削り、そこに新しいトレッドが再建される。新しいトレッドを再建するタイミングを利用すれば、RFIDタグをタイヤに内蔵できる。この場合、RFIDタグがタイヤに固定されるので、RFIDタグが剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクが低減される。この更生タイヤは、RFIDタグに書き込まれた情報の信頼性を高めることができる。
しかしタイヤのトレッドは、路面と接地すると変形し、路面から離れると復元する。そのため、内蔵したRFIDタグの位置によっては、RFIDタグに歪が集中し、RFIDタグが損傷する、又は、RFIDタグを起点とした損傷が発生する恐れがある。
トレッドの径方向内側にはベルトが位置する。ベルトは、スチールコードをベルトコードとして含む。スチールコードのような金属要素のそばにRFIDタグを配置すると電波に乱れが生じるという懸念がある。
そこで、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しながら、RFIDタグを内蔵した更生タイヤを製造できる技術について本発明者は鋭意検討し、以下に説明する発明を完成するに至っている。
【0022】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係る更生タイヤの製造方法は、ゴム組成物の架橋物である保護体と、前記保護体で包み込まれたRFIDタグとで構成されたタグ部材を備える、更生タイヤを製造する方法であって、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側において前記カーカスに積層されるベルトと、前記カーカスの軸方向外側に位置する一対のサイドウォールとを備えるタイヤから前記トレッドを削る工程と、前記トレッドを削ってなる成形面に、前記保護体が未加硫状態にある前記タグ部材を装着する工程と、前記タグ部材を装着した成形面に、ゴム組成物の架橋物である新しいトレッドを再建する工程とを含み、前記成形面が、前記タイヤの最大幅位置の径方向外側に位置し、前記タグ部材が、前記ベルトの端の径方向内側に位置し、前記保護体のためのゴム組成物の初期加硫時間t10が、前記新しいトレッドのためのゴム組成物の初期加硫時間t10より短い。
【0023】
この更生タイヤの製造方法によれば、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しつつ、RFIDタグを内蔵していないタイヤにRFIDタグが取り付けた、更生タイヤが得られる。更生タイヤにRFIDタグが固定されるので、RFIDタグが剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクが低減される。この更生タイヤは、RFIDタグに書き込まれた情報の信頼性を高めることができる。この更生タイヤによれば、RFIDタグによる情報管理が可能である。
【0024】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載の更生タイヤの製造方法において、前記保護体の初期加硫時間t10が、2.5分以下である。
【0025】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は「構成2」に記載の更生タイヤの製造方法において、前記保護体の複素弾性率が、前記サイドウォールの複素弾性率と同じである、又は、前記サイドウォールの複素弾性率よりも高く、前記保護体の複素弾性率が前記新しいトレッドの複素弾性率よりも低い。
【0026】
[構成4]
本発明の一態様に係る更生タイヤは、タイヤのトレッドを削ってなる成形面を有する台タイヤと、前記台タイヤの成形面に再建された新しいトレッドと、前記台タイヤと前記新しいトレッドとの間に位置するタグ部材とを備え、前記台タイヤが、一対のビードと、一対の前記ビードの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの径方向外側に位置し、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側において前記カーカスと積層されるベルトと、前記カーカスの軸方向外側に位置する一対のサイドウォールとを備え、前記タグ部材が、ゴム組成物の架橋物である保護体と、前記保護体で包み込まれたRFIDタグとで構成され、前記タグ部材が、径方向において、前記ベルトの端と前記タイヤの最大幅位置との間に位置し、前記新しいトレッドがゴム組成物の架橋物であり、前記保護体の複素弾性率が、前記サイドウォールの複素弾性率と同じである、又は、前記サイドウォールの複素弾性率よりも高く、前記保護体の複素弾性率が前記新しいトレッドの複素弾性率よりも低い。
【0027】
この更生タイヤによれば、良好な通信環境が形成されるとともに、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減が図れる。この更生タイヤは、RFIDタグが剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクを低減できる。この更生タイヤは、RFIDタグに書き込まれた情報の信頼性を高めることができる。この更生タイヤによれば、RFIDタグによる情報管理が可能である。
【0028】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成4]に記載の更生タイヤにおいて、前記保護体のためのゴム組成物の初期加硫時間t10が、前記新しいトレッドのためのゴム組成物の初期加硫時間t10より短い。
【0029】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2はトラック、バス等の車両に装着される。このタイヤ2は重荷重用タイヤである。
【0031】
図1は、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面(以下、子午線断面)の一部を示す。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
図1において径方向に延びる一点鎖線CLは、タイヤ2の赤道面を表す。
【0032】
図1において符号PCで示される位置は、タイヤ2の外面と赤道面との交点である。交点PCはタイヤ2の赤道である。赤道面上に溝が位置する場合は、溝がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて赤道PCは特定される。赤道PCはタイヤ2の径方向外端でもある。
【0033】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のチェーファー8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、一対のクッション層16及びインナーライナー18を備える。
【0034】
トレッド4はカーカス12の径方向外側に位置する。トレッド4は路面と接地する。トレッド4は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
トレッド4の複素弾性率は6MPa以上9MPa以下である。
トレッド4には溝20が刻まれる。これによりトレッドパターンが構成される。
【0035】
それぞれのサイドウォール6はトレッド4の端に連なる。サイドウォール6はカーカス12の軸方向外側に位置する。サイドウォール6は架橋ゴムからなる。サイドウォール6の複素弾性率はトレッド4のそれよりも低い。
サイドウォール6の複素弾性率は2MPa以上7MPa以下である。
【0036】
符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端(以下、外端PW)である。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。タイヤ2は外端PWにおいて最大幅を示す。
本発明においては、正規状態のタイヤ2において得られる、外端PWがタイヤ2の最大幅位置とも呼ばれる。
サイドウォール6は、最大幅位置PWにおいて最小の厚さを有する。サイドウォール6の厚さは、最大幅位置PWにおいて3mm以上7mm以下である。
【0037】
それぞれのチェーファー8はサイドウォール6の径方向内側に位置する。チェーファー8はリム(図示されず)と接触する。チェーファー8は架橋ゴムからなる。チェーファー8はサイドウォール6よりも硬質である。
【0038】
それぞれのビード10はチェーファー8の軸方向内側に位置する。ビード10はサイドウォール6の径方向内側に位置する。ビード10はコア22とエイペックス24とを備える。図示されないが、コア22は周方向に巻き回されたスチール製のワイヤを含む。エイペックス24はコア22の径方向外側に位置する。エイペックス24は先細りである。エイペックス24は硬質な架橋ゴムからなる。
【0039】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6、及び一対のチェーファー8の内側に位置する。カーカス12は、一対のビード10である第一のビード10と第二のビード10との間を架け渡す。
カーカス12は少なくとも1枚のカーカスプライ26を備える。このタイヤ2のカーカス12は1枚のカーカスプライ26からなる。カーカスプライ26は、それぞれのビード10で軸方向内側から外側に向かって折り返される。
図示されないが、カーカスプライ26は、並列した多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。このカーカス12はラジアル構造を有する。
このタイヤ2のカーカスコードはスチールコードである。有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられてもよい。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
タイヤ2が小形トラック用タイヤであれば、カーカス12に含まれるカーカスコードには、有機繊維からなるコードが用いられる。
【0040】
ベルト14はトレッド4の径方向内側に位置する。ベルト14はカーカス12に積層される。
ベルト14は、径方向に積層された複数のベルトプライ28を備える。このタイヤ2のベルト14は4枚のベルトプライ28を備える。4枚のベルトプライ28は、第一ベルトプライ28A、第二ベルトプライ28B、第三ベルトプライ28C及び第四ベルトプライ28Dであり、径方向にこの順で並ぶ。第一ベルトプライ28Aが径方向において最も内側に位置する。第二ベルトプライ28Bが最も広い幅を有し、第四ベルトプライ28Dが最も狭い幅を有する。
【0041】
図示されないが、各ベルトプライ28は並列した多数のベルトコードを含む。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードはスチールコードである。
【0042】
クッション層16はベルト14の端において、ベルト14とカーカス12との間に位置する。クッション層16は軟質な架橋ゴムからなる。クッション層16はサイドウォール6と略同程度の複素弾性率を有する。
クッション層16の複素弾性率は1MPa以上7MPa以下である。
【0043】
インナーライナー18はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー18はタイヤ2の内面を構成する。インナーライナー18は空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー18はタイヤ2の内圧を保持する。
【0044】
このタイヤ2は、
図2に示されたタイヤ102を用いて製造された更生タイヤである。
タイヤ102のトレッド104を削り、新しいトレッドとしてトレッド4を再建することで、
図1に示されたタイヤ2が得られる。
更生タイヤ2において、再建されたトレッド4以外は台タイヤBTとも呼ばれる。
【0045】
更生タイヤであるタイヤ2は、台タイヤBTとトレッド4とを備える。
タイヤ2のトレッド4以外、すなわち台タイヤBTの構成は、タイヤ102の構成と同じ構成を有する。
図2に示されたタイヤ102においてタイヤ2と共通する要素についてはタイヤ2のそれと同じ符号を付して、その説明は省略する。
図1に示されたタイヤ2のトレッド4との区別のために、
図2に示されたタイヤ102のトレッド104はオリジナルトレッドとも呼ばれる。
台タイヤBTの基であるタイヤ102(以下、原タイヤ)のオリジナルトレッド104も架橋ゴムからなる。
図2に示されるように、オリジナルトレッド104はカーカス12の外側においてベルト14に積層される。オリジナルトレッド104はベルト14全体を覆う。オリジナルトレッド104にも溝106が刻まれる。
【0046】
オリジナルトレッド104はキャップ部108とベース部110とを備える。
キャップ部108は、路面と接地する。キャップ部108は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。キャップ部108はサイドウォール6よりも硬質である。
ベース部110はキャップ部108の径方向内側に位置する。ベース部110はその全体がキャップ部108に覆われる。ベース部110は、低発熱性を考慮した架橋ゴムからなる。キャップ部108が摩耗してベース部110が露出しない限り、ベース部110は路面と接地しない。ベース部110では、キャップ部108のように耐摩耗性及びグリップ性能は考慮されない。ベース部110はキャップ部108よりも軟質である。ベース部110はサイドウォール6と略同程度の剛性を有する。
【0047】
このタイヤ2のキャップ部108の複素弾性率は3MPa以上11MPa以下である。ベース部110の複素弾性率は1MPa以上8MPa以下である。
【0048】
タイヤ2におけるトレッド4とベルト14との間の部分は、オリジナルトレッド104を削って台タイヤBTを準備した結果、台タイヤBTに残った、オリジナルトレッド104である。前述したようにオリジナルトレッド104は、キャップ部108とベース部110とを含む。
図2に示されるように、原タイヤ102においてベース部110はその全体がキャップ部108で覆われる。台タイヤBTにおけるオリジナルトレッド104の軸方向外側部分、つまりオリジナルトレッド104の端部はキャップ部108(以下、外側キャップ部108s)であり、外側キャップ部108sの軸方向内側にベース部110が位置する。
台タイヤBTのオリジナルトレッド104は、その端部を構成する外側キャップ部108sを備える。
図1に示されるように、外側キャップ部108sはベルト14の端の軸方向外側に位置する。軸方向において外側キャップ部108sは、ベース部110とサイドウォール6との間に位置する。
【0049】
図1において符号BDで示される実線は、台タイヤBTとトレッド4との境界である。境界BDは、原タイヤ102のオリジナルトレッド104を削って形成される成形面である。符号MEで示される位置は成形面BDの端である。
図1に示されるように、成形面BDの端MEは最大幅位置PWの径方向外側に位置する。成形面BDは最大幅位置PWの径方向外側に位置する。
【0050】
このタイヤ2はタグ部材30をさらに備える。
図1に示されるように、タグ部材30は台タイヤBTとトレッド4との間に位置する。タグ部材30は、台タイヤBTとトレッド4との境界、つまり成形面BD上に位置する。
【0051】
図3はタグ部材30の平面図である。
図4は
図3のIV-IV線に沿った断面図である。
タグ部材30はプレート状である。タグ部材30は長さ方向に長く、幅方向に短い。
図1に示されるように、タイヤ2においてタグ部材30は、その幅方向の第一端30sがタイヤ2の赤道PC側に、第二端30uがビード10側に位置するように配置される。タグ部材30の長さ方向がタイヤ2の周方向に沿うように、タグ部材30は配置される。
【0052】
タグ部材30はRFIDタグ32を含む。RFIDタグ32はタグ部材30の中心に位置する。
図3においてRFIDタグ32は、説明の便宜のために実線で示されるが、その全体は保護体34で覆われる。タグ部材30は、保護体34と、保護体34で包み込まれたRFIDタグ32とで構成される。
【0053】
保護体34はゴム組成物の架橋物である。保護体34はサイドウォール6の剛性と同等以上の剛性を有する。良好な通信環境の形成が考慮され、保護体34には高い電気抵抗を有する架橋ゴムが用いられる。保護体34は絶縁性の高いゴムからなる。
保護体34の複素弾性率は2MPa以上8MPa以下である。
【0054】
詳述しないが、RFIDタグ32は、送受信回路、制御回路、メモリ等をチップ化した半導体チップ36と、アンテナ38とから構成される小型軽量の電子部品である。RFIDタグ32は、質問電波を受信すると、これを電気エネルギーとして使用し、メモリ内の諸データを応答電波として発信する。このRFIDタグ32は、受動式無線周波数識別トランスポンダの一種である。
【0055】
タグ部材30は、RFIDタグ32が架橋ゴムで被覆されたプレート状の部材である。RFIDタグ32の損傷リスクの低減と、良好な通信環境の形成の観点から、タイヤ2におけるタグ部材30の厚さは好ましくは1.0mm以上2.5mm以下である。このタイヤ2におけるタグ部材30の厚さは、半導体チップ36を含む部分でのタグ部材30の最大厚さで表される。
なお、タイヤ2に埋め込む前のタグ部材30の長さTLは60mm以上80mm以下である。幅TWは10mm以上20mm以下である。
【0056】
図1において符号TSで示される位置は、RFIDタグ32(具体的には、半導体チップ36)の第一端である。符号TUで示される位置は、半導体チップ36の第二端、すなわち、RFIDタグ32の第二端である。
本発明においては、タイヤ2におけるRFIDタグ32の第二端TUが、基準とする位置(以下、基準位置)の径方向外側に位置する場合が、RFIDタグ32が基準位置に対して径方向外側に位置する場合である。タイヤ2におけるRFIDタグ32の第一端TSが基準位置の径方向内側に位置する場合が、RFIDタグ32が基準位置に対して径方向内側に位置する場合である。
RFIDタグ32の第二端TUが、基準位置の軸方向内側に位置する場合が、RFIDタグ32が基準位置に対して軸方向内側に位置する場合である。RFIDタグ32の第一端TSが基準位置の軸方向外側に位置する場合が、RFIDタグ32が基準位置に対して軸方向外側に位置する場合である。
【0057】
図1に示されるように、タグ部材30は、ベルト14の端の軸方向外側において、成形面BD上に位置する。このタグ部材30はベルト14の端の径方向内側に位置する。
【0058】
図1に示されたタイヤ2は、台タイヤBT、トレッド4及びタグ部材30を備える。台タイヤBTは、原タイヤ102のオリジナルトレッド104を削ってなる成形面BDを有する。トレッド4は、この成形面BDに再建された新しいトレッドである。タグ部材30は、台タイヤBTとトレッド4との間に位置する。
【0059】
このタイヤ2は更生タイヤであり、タグ部材30を有する。このタイヤ2のもとであるタイヤ102、すなわち原タイヤ102は、タグ部材30を有していない。つまり、タグ部材30を内蔵していないタイヤ102から、タグ部材30を内蔵する更生タイヤ2が得られる。以下に、
図5から
図7を用いて、タグ部材30を内蔵する更生タイヤ2の製造方法が説明される。
この更生タイヤ2の製造方法は、オリジナルトレッド104の研削工程と、タグ部材30の装着工程と、トレッド4の再建工程とを含む。
【0060】
研削工程では、オリジナルトレッド104に対して、例えばバフ研磨を行うことで、原タイヤ102からオリジナルトレッド104が削られる。これにより成形面BDが形成される。
この研削工程は、原タイヤ102からオリジナルトレッド104を削る工程である。この研削工程において、
図5に示される台タイヤBTが得られる。
この製造方法では、原タイヤ102からオリジナルトレッド104を削り、成形面BDを形成できるのであれば、オリジナルトレッド104を削るための装置に特に制限はない。更生タイヤの製造で一般的に用いられる研削装置が、この製造方法においても使用できる。
台タイヤBTの形成に用いられるタイヤ102は、走行によりトレッドが摩耗したタイヤであってもよく、トレッドが摩耗していない新品のタイヤであってもよい。
【0061】
台タイヤBTの準備が完了すると、装着工程が開始される。
装着工程では、
図5に示されるように、成形面BDにタグ部材30が装着される。前述したように、
図1に示されたタイヤ2における保護体34はゴム組成物の架橋物である。これに対して、この装着工程における保護体34は未加硫状態にある。
この装着工程では、オリジナルトレッド104を削ってなる成形面BDに、保護体34が未加硫状態にある、タグ部材30が装着される。
【0062】
タグ部材30の装着が完了すると、再建工程が開始される。
再建工程では、
図6に示されるように、新しいトレッド4が再建される。
タグ部材30を装着した成形面BDに、未加硫状態のトレッド4(以下、生トレッド4)が貼り付けられる。
図7に示されるように、生トレッド4を貼り付けた台タイヤBTがモールドMに投入される。所定の成形温度で所定の成形時間、生トレッド4がモールドM内で加圧及び加熱される。生トレッド4のゴム組成物が架橋し、ゴム組成物の架橋物であるトレッド4が得られる。
この再建工程では、タグ部材30を装着した成形面BDに、ゴム組成物の架橋物であるトレッド4が新しいトレッドとして再建される。これにより、
図1に示されたタイヤ2が得られる。
【0063】
この製造方法では、生トレッド4を架橋してトレッド4を有するタイヤ2が得られるのであれば、生トレッド4を架橋するために用いる装置に特に制限はない。更生タイヤの製造で一般的に用いられる加硫装置が、この製造方法においても使用できる。
【0064】
この製造方法では、加硫済みのトレッド4を用いて新しいトレッドが再建されてもよい。この場合、この再建工程において、タグ部材30を装着した成形面BDに接着剤を塗布した後、加硫済みのトレッド4が成形面BDに貼り付けられる。蒸気釜に、加硫済みのトレッド4を貼り付けた台タイヤBTを投入する等して、トレッド4及び台タイヤBTが加熱される。トレッド4が台タイヤBTに接合し、
図1に示されたタイヤ2が得られる。この場合も、ゴム組成物の架橋物であるトレッド4が新しいトレッドとして再建される。
【0065】
この製造方法では、RFIDタグ32がタイヤ2に内蔵される。RFIDタグ32がタイヤ2に固定されるので、RFIDタグ32が剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクが低減される。このタイヤ2は、RFIDタグ32に書き込まれた情報の信頼性を高めることができる。
【0066】
前述したように、タグ部材30はベルト14の端の径方向内側に位置する。RFIDタグ32は、スチールコードを含むベルト14の端から離して配置される。電波に乱れが生じにくいので、RFIDタグ32と通信機器(図示されず)との間に良好な通信環境が形成される。RFIDタグ32へのデータの書き込み及び、RFIDタグ32に記録されたデータの読み取りが、正確に行われる。
【0067】
RFIDタグ32はベルト14の端から離して配置されるので、RFIDタグ32に歪が集中し、RFIDタグ32が損傷すること、又は、RFIDタグ32を起点とした損傷が発生することが抑制される。このタイヤ2は、RFIDタグ32を設けたことによる損傷発生リスクの低減を図ることができる。
【0068】
前述したように、このタイヤ2は重荷重用タイヤである。このタイヤ2のショルダー部分は厚い。RFIDタグ32は、タイヤ2の中でも特に厚い、ショルダー部分に設けられる。そのため、再建工程において、トレッド4が加熱されるが、タグ部材30の保護体34まで熱が伝わりにくい。しかも台タイヤBTにおける過加硫及びリバージョンの発生を防止するために、未加硫状態のタイヤからタイヤを得る通常の製造方法で設定される成形温度よりも低い温度で成形温度が設定される。そのため、保護体34の加硫が不十分になる恐れがある。
【0069】
しかしこのタイヤ2では、ねじり振動式ディスク加硫試験機を用いて得られる、160℃の加硫速度曲線において、トルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH-ML)をMEとし、トルクがML+0.1MEに到達する時間を初期加硫時間t10としたとき、保護体34のためのゴム組成物の初期加硫時間t10が、新しいトレッドとしてのトレッド4のためのゴム組成物の初期加硫時間t10よりも短い。
保護体34のゴム組成物の加硫速度は、トレッド4のためのゴム組成物のそれよりも早い。台タイヤBTにおける過加硫及びリバージョンの発生防止を考慮しながら、トレッド4を十分に加硫できるように、前述の成形温度及び成形時間を設定しても、保護体34も十分に加硫される。この製造方法は、保護体34の加硫不足を防止できる。
【0070】
この製造方法は、良好な通信環境の形成、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減、そして、台タイヤBTにおける過加硫及びリバージョンの発生防止を考慮しながら、RFIDタグを内蔵した更生タイヤを製造できる。更生タイヤにRFIDタグが固定されるので、RFIDタグが剥がれる、故意に別のRFIDタグに置き換えられる等のリスクが低減される。この更生タイヤは、RFIDタグに書き込まれた情報の信頼性を高めることができる。この更生タイヤによれば、RFIDタグによる情報管理が可能である。
【0071】
前述したように、この製造方法では、保護体34のためのゴム組成物の初期加硫時間t10は、トレッド4のためのゴム組成物の初期加硫時間t10よりも短い。特に、保護体34の初期加硫時間t10は2.5分以下である。そのため、この製造方法は、台タイヤBTにおける過加硫及びリバージョンの発生を防止しながら、トレッド4及び保護体34を十分に加硫できる。この製造方法によれば、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを図りながら、RFIDタグを内蔵した、高品質な更生タイヤを製造できる。この観点から、保護体34の初期加硫時間t10は2.5分以下であるのが好ましく、2.0分以下であるのがより好ましい。
タグ部材30は、オリジナルトレッド104とトレッド4との間に位置する。モールドM内で生トレッド4の加圧及び加熱を開始してすぐにタグ部材30の保護体34が加硫し始めると、タグ部材30の保護体34を、オリジナルトレッド104及びトレッド4のそれぞれと十分に接合できない恐れがある。保護体34を、オリジナルトレッド104及びトレッド4のそれぞれと十分に接合するには、モールドM内で生トレッド4の加圧及び加熱を開始してしばらくの間、保護体34のゴム組成物は流動性を保持しているのが好ましい。この観点から、保護体34の初期加硫時間t10は1.0分以上であるのが好ましい。
【0072】
タグ部材30は、径方向において、ベルト14の端とタイヤ2の最大幅位置PWとの間に位置する。タグ部材30のRFIDタグ32はベルト14の端から離して配置される。
【0073】
図8は、
図1に示されたタイヤ2のショルダー部分を示す。
図8において両矢印Lで示される長さは、ベルト14の端からRFIDタグ32の第一端TSまでの径方向距離である。両矢印Wで示される長さは、ベルト14の端からRFIDタグ32の第一端TSまでの軸方向距離である。
【0074】
ベルト14の端からRFIDタグ32の第一端TSまでの径方向距離Lは4mm以上であるのが好ましい。これにより、RFIDタグ32がベルト14の端から適度に離して配置される。このタイヤ2は、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを効果的に図ることができる。この観点から、径方向距離Lは5mm以上であるのがより好ましい。
この径方向距離Lの好ましい上限は、RFIDタグの露出防止と、カーカス12に含まれるカーカスコードによる通信環境への影響とが考慮され、適宜決められる。
【0075】
ベルト14の端からRFIDタグ32の第一端TSまでの軸方向距離Wは4mm以上であるのが好ましい。これにより、RFIDタグ32がベルト14の端から適度に離して配置される。このタイヤ2は、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを効果的に図ることができる。この観点から、軸方向距離Wは5mm以上であるのがより好ましい。
この軸方向距離Wの好ましい上限は、RFIDタグの露出防止と、カーカス12に含まれるカーカスコードによる通信環境への影響とが考慮され、適宜決められる。
【0076】
図1に示されるように、ベルト14の端はオリジナルトレッド104のベース部110で覆われる。このベース部110の軸方向外側には、オリジナルトレッド104のキャップ部108が位置する。このキャップ部108の軸方向外側にはサイドウォール6が位置する。前述の成形面BDは、ベース部110、キャップ部108及びサイドウォール6にて構成される。前述したように、タグ部材30のRFIDタグ32はベルト14の端から離して配置される。
図1に示されたタグ部材30は、キャップ部108に積層されているが、RFIDタグ32がベルト14の端から離して配置されるのであれば、このタグ部材30がベース部110に積層されていてもよく、サイドウォール6に積層されていてもよい。
【0077】
保護体34の複素弾性率は、サイドウォール6の複素弾性率と同じである、又は、サイドウォール6の複素弾性率よりも高い。そして、保護体34の複素弾性率は新しいトレッドとしてのトレッド4の複素弾性率よりも低い。
【0078】
トレッド4及びキャップ部108は保護体34よりも硬質である。
図1に示されるタグ部材30のように、タグ部材30がトレッド4とキャップ部との間に挟まれる場合は、保護体34よりも硬質なトレッド4とキャップ部とがタグ部材30の周囲を補強する。タグ部材30のRFIDタグ32に歪みが集中しにくい。このタイヤ2は、RFIDタグ32を起因とする損傷リスクの低減を図ることができる。
【0079】
前述したように、ベース部110はサイドウォール6と同程度の剛性を有する。タグ部材30の保護体34は、サイドウォール6の複素弾性率と同等以上の複素弾性率を有するので、この保護体34の複素弾性率はベース部110の複素弾性率よりも高い。
タグ部材30がトレッド4とベース部110との間に挟まれる場合は、タグ部材30の内側には保護体34に比して軟質なベース部110が位置し、タグ部材30の外側には保護体34に比して硬質なトレッド4が位置する。ベース部110が歪の緩和に貢献するので、RFIDタグ32に歪みは集中しにくい。この場合においても、このタイヤ2は、RFIDタグ32を起因とする損傷リスクの低減を図ることができる。
【0080】
前述したように、タグ部材30の保護体34は、サイドウォール6の複素弾性率と同等以上の複素弾性率を有する。そのため、タグ部材30がトレッド4とサイドウォール6との間に挟まれる場合は、タグ部材30の内側には保護体34と同程度の剛性か、保護体34に比して軟質なサイドウォール6が位置し、タグ部材30の外側には保護体34に比して硬質なトレッド4が位置する。サイドウォール6が歪の緩和に貢献するので、RFIDタグ32に歪みは集中しにくい。この場合においても、このタイヤ2は、RFIDタグ32を起因とする損傷リスクの低減を図ることができる。
【0081】
ベース部110は、タグ部材30の積層が予定される、ベース部110、キャップ部及びサイドウォール6の中で、ベルト14の端に最も近い位置に配置される。RFIDタグ32がその機能を安定に発揮できる観点から、タグ部材30は、トレッド4とキャップ部との間に配置される、又は、トレッド4とサイドウォール6との間に配置されるのが好ましい。
前述したように、クッション層16はサイドウォール6と同程度の複素弾性率を有する。タグ部材30が、トレッド4とクッション層16との間に配置されてもよい。この場合、前述の成形面BDはクッション層16を含むように構成される。
【0082】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しながら、RFIDタグを内蔵していないタイヤにRFIDタグを取り付け、RFIDタグによる情報管理を可能とした、更生タイヤ2が得られる。
良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しながら、RFIDタグを内蔵していないタイヤにRFIDタグを取り付け、RFIDタグによる情報管理を可能とする技術は、重荷重用タイヤに限らず、小形トラック用タイヤ、乗用車用タイヤ等の種々のタイヤに適用できる。本発明は、特に、重荷重用タイヤや小型トラック用タイヤのように、ショルダー部分が厚いタイヤに適用されることで、顕著な効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明された、良好な通信環境の形成と、RFIDタグを起因とする損傷リスクの低減とを考慮しながら、RFIDタグを内蔵していないタイヤにRFIDタグを取り付け、RFIDタグによる情報管理を可能とする技術は、種々のタイヤに適用されうる。
【符号の説明】
【0084】
2・・・タイヤ(更生タイヤ)
4・・・トレッド
6 サイドウォール
10・・・ビード
12・・・カーカス
14・・・ベルト
16・・・クッション層
18・・・インナーライナー
26・・・カーカスプライ
28、28A、28B、28C、28D・・・ベルトプライ
30・・・タグ部材
32・・・RFIDタグ
34・・・保護体
36・・・半導体チップ
38・・・アンテナ
102・・・タイヤ(原タイヤ)
104・・・トレッド(オリジナルトレッド)
108・・・キャップ部
110・・・ベース部