(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151662
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ブレーキ喚起装置及びブレーキ喚起方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241018BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20241018BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W30/09
B60T7/12 C
B60T7/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065190
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青島 英道
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA31
3D241BB02
3D241CC08
3D241CE04
3D241CE05
3D246DA01
3D246GB29
3D246GB35
3D246GC16
3D246HB12A
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3D246HB26A
3D246JA03
3D246KA13
3D246KA15
3D246KA19
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181FF04
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
5H181LL15
(57)【要約】
【課題】車両が安全に減速エリアに進入することができるブレーキ喚起装置及びブレーキ喚起方法を提供する。
【解決手段】 ブレーキ喚起装置10は、車両100に後続する後続車300の車速、及び後続車300までの車間距離を検知する後続車検知部12と、車両100の前方にある走行車線31上の減速エリア30を検知する減速エリア検知部14と、減速エリア30から所定の距離だけ手前を車両100が通過する際に後続車300との車間距離Dが所定値より短い場合、所定値以下の弱い減速度を発生させる予備制動を発動させる制動発動部17と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に後続する後続車の車速、及び前記後続車までの車間距離を検知する後続車検知部と、
前記車両の前方にある走行車線上の減速エリアを検知する減速エリア検知部と、
前記減速エリアから所定の距離だけ手前を前記車両が通過する際に前記後続車との車間距離が所定値より短い場合、所定値以下の弱い減速度を発生させる予備制動を発動させる制動発動部と、を備えることを特徴とするブレーキ喚起装置。
【請求項2】
前記車間距離の前記所定値は、衝突余裕時間で規定される請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項3】
前記車間距離の前記所定値は、前記後続車との物理的距離で規定される請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項4】
前記減速エリアにおいて前記ブレーキシステムが前記車両の運転者により発動される可能性を推定する減速可能性判定部を備え、
前記制動発動部は、前記可能性が所定値以上である場合に前記ブレーキシステムに前記予備制動を発動させる請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項5】
前記減速可能性判定部は、前記先行車が前記車両から前記所定距離内で減速したとき、前記減速エリアに設置された前記車両の前記走行車線上の信号機が赤色のとき、前記信号機の切り替わりを推定したとき、前記減速エリアの前記走行車線に平行する横断歩道上の歩行者用信号機の青点滅時、及び前記車両の方向指示器がONになったとき、の少なくともいずれかのときに前記車両の減速の可能性が所定値以上と推定する請求項4に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項6】
前記制動発動部は、前記後続車が加速していると判断した場合に定速走行していると判断した場合よりも早く前記予備制動を発動させる請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項7】
前記制動発動部は、前記後続車が加速していると判断した場合に、前記後続車が定速走行していると判断した場合よりも前記予備制動における減速度勾配を緩やかにする請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項8】
前記制動発動部は、前記後続車が減速していると判断した場合に、前記後続車が定速走行していると判断した場合よりも遅く前記予備制動を発動させる請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項9】
前記制動発動部は、同一の前記後続車の加速頻度が高いと判断した場合に、前記後続車が定速走行していると判断した場合よりも早く前記予備制動を発動する請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項10】
前記制動発動部は、前記車両に対する前記後続車の相対速度が大きいと判断した場合に、前記車両と前記後続車とが等速である場合よりも早く前記予備制動を発動する請求項1に記載のブレーキ喚起装置。
【請求項11】
車両に後続する後続車の車速、及び前記後続車までの車間距離を検知するステップと、
前記車両の前方にある走行車線上の減速エリアを検知するステップと、
前記減速エリアから所定の距離だけ手前を前記車両が通過する際に前記後続車との車間距離が所定値より短い場合、ブレーキシステムに所定値以下の弱い予備制動を自動で発動させるステップと、を含むことを特徴とするブレーキ喚起方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点の手前などの減速エリアを走行する車両のブレーキ喚起技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の道路交通法では、十字路やT字路などの交差点に進入する車両は、走行している道路が優先道路を走行する場合など所定の場合を除き、徐行することが義務付けられている。近年では、交差点の直前で後続車に後面衝突をされない又は後面衝突を軽減するための技術が開発されている。例えば、特開2018-203252号公報では、ホスト車両を真ん中に挟んで縦列になって追従走行(Adaptive Cruise Control)をする3台の車両の交差点における動作に関する技術が開示されている。この技術では、交差点において前方車両との車間を詰める代わりに衝突に備えてブレーキ・パッドをブレーキ・ディスクに当てるための最小量の制動圧でブレーキ・ラインを加圧している。この結果、ホスト車両の運転者がブレーキをかけると、ブレーキ・ラインが即時に反応して、前方車両へのホスト車両の衝突を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、ホスト車両を追従走行する後方車両との車間距離が短い場合、後方車両に追突されるおそれがある。ホスト車両のブレーキ・ラインの応答性が高くなるため、ホスト車両の僅かなブレーキが急ブレーキにつながるおそれがあるためである。よって、車両が安全に交差点などの減速エリアに進入することのできる制御が求められていた。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、車両が安全に減速エリアに進入することができるブレーキ喚起装置及びブレーキ喚起方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係るブレーキ喚起装置は、車両に後続する後続車の車速、及び前記後続車までの車間距離を検知する後続車検知部と、前記車両の前方にある走行車線上の減速エリアを検知する減速エリア検知部と、前記減速エリアから所定の距離だけ手前を前記車両が通過する際に前記後続車との車間距離が所定値より短い場合、所定値以下の弱い減速度を発生させる予備制動を発動させる制動発動部と、を備えるものである。
【0007】
本実施形態に係るブレーキ喚起方法は、車両に後続する後続車の車速、及び前記後続車までの車間距離を検知するステップと、
前記車両の前方にある走行車線上の減速エリアを検知するステップと、
前記減速エリアから所定の距離だけ手前を前記車両が通過する際に前記後続車との車間距離が所定値より短い場合、ブレーキシステムに所定値以下の弱い予備制動を自動で発動させるステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、車両が安全に減速エリアに進入することができるブレーキ喚起装置及びブレーキ喚起方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るブレーキ喚起装置を搭載した車両の構成図。
【
図3】ブレーキ喚起装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、以下の実施形態において「前方」及び「後方」は、車両の運転席に着座した運転者を基準にして、この運転者から見た向きで規定する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ喚起装置10を搭載した車両100の構成図である。ただし、
図1では車両100のうち、例えばエンジンなど、ブレーキ喚起装置10と関連性の低い構成は、図示を省略している。
【0012】
実施形態にかかるブレーキ喚起装置10は、
図1に示されるように、周辺状況検知部11及び制動発動部17を備える。これらブレーキ喚起装置10の構成のうち、制動発動部17の機能は、例えば、ブレーキシステム21を電子制御するブレーキECU(Electronic Control Unit)15の機能として発揮される。
【0013】
また、ブレーキ喚起装置10は、
図1に示されるように、ブレーキシステム21、表示部22、ウィンカー(方向指示器)23、及び車輪速センサー24に車内ネットワーク25を介して情報交換可能に接続される。車内ネットワーク25は、例えば、CAN-FD(Controller Area Network with Flexible Data Rate)のバスで構成される。
以下、ブレーキ喚起装置10の各構成11,17、及びこれらの各構成11,17と、ブレーキ喚起装置10に接続される周辺機器21~24と、の関係について、詳述する。
【0014】
周辺状況検知部11は、車両100の前方から後方までの範囲の車両外部の物体及び標示の配置情報を取得する。周辺状況検知部11は、例えば、前方カメラ、後方カメラ、GPS(Global Positioning System)、ミリ波レーダー、車車間通信機(CVSS: Connected Vehicles Support Systems)、及びソナーセンサなどから選択されるセンシング機器、又はこれらの組み合わせにより構成される。
【0015】
前方カメラ及び後方カメラのそれぞれは、例えば配置位置の僅かに異なる2つのレンズで構成されるステレオカメラである。前方カメラは、車室内からフロントガラスを通して車両100の前方を撮像して画像データを取得し解析する。後方カメラは、車室内からリアガラスを通して車両100の後方を撮像して画像データを取得し解析する。ステレオカメラにより、車両100の前方又は後方の物体を立体的に把握することができるため、物体までの車間距離を高い精度で計測することができる。なお、前方カメラ及び後方カメラの設置位置及びレンズ数は、車両100の前方又は後方を含む画像データが取得できれば、特に限定されない。前方カメラ及び後方カメラのそれぞれが、複数台ずつ設置されていてもよい。
【0016】
GPSは、人工衛星を利用して車両100の位置を測定する。ミリ波レーダーは、ミリ波帯の電波を使って対象物との距離、速度、及び配置角度を測定するものである。GPS及びミリ波レーダーのそれぞれでも、先行車200又は後続車300の移動向きを特定することが可能である。また、周辺状況検知部11を構成する各種のセンシング機器に車輪速センサー24から得られる車両100の走行速度を用いて先行車200又は後続車300の走行速度自体を算出することもできる。なお、これらのセンシング機器は、近年の車両100に標準装備されていることが多い。よって、周辺状況検知部11は、ブレーキ喚起装置10のために特別に設置せずに、既存のものを利用してもよい。周辺状況検知部11は、これらのセンシング機器により、後続車検知部12、先行車検知部13、減速エリア検知部14、衝突余裕時間判定部(TTC判定部)15、及び減速可能性判定部16の機能を発揮する。
【0017】
後続車検知部12は、車両100に後続する後続車300の車速、及び後続車300までの車間距離Dを検知する。後続車300は、たまたま車両100に後続した、車両100とは無関係な自動車であってもよいし、車両100に対して自動で追従走行(Adaptive Cruise Control)をするように制御された自動車であってもよい。後続車検知部12は、例えば、ミリ波レーダーや、後方カメラ、及び車車間通信機などで構成される。
【0018】
後続車300との車間距離Dは、後続車300とのメートル単位で表される物理的距離で規定されてもよいし、衝突余裕時間(TTC:Time-To-Collision)で規定されてもよい。TTCとは、縦列で走行する2つの自動車の相対速度でその車間距離Dを除算することで算出される、2つの自動車の衝突までの時間である。なお、以下ではTTCで後続車300との車間距離Dを算出する例で説明する。
【0019】
ただし、厳密性を期してTTCを算出しなくても、単純に物理的距離で車間距離Dを規定してもよい。一般に、交差点30aの手前を走行する車両100は高速で走行しないため、TTCを用いなくても早期作動又は作動遅れになりにくいためである。また、物理的距離で車間距離Dを規定すると、乗車者はどのようなタイミングで予備制動が発動することがあるのかということを視覚的に認識でき、分かりやすいという利点もある。
【0020】
先行車検知部13は、車両100に先行する先行車200までの車間距離M及び先行車200の車速を検知する。先行車200も後続車300と同様に、たまたま車両100に先行した、車両100とは無関係な自動車であってもよいし、車両100が自動で追従走行している自動車であってもよい。また、後続車検知部12と同様に、先行車検知部13もまた、例えば、ミリ波レーダーや、前方カメラ、車車間通信機などで構成される。
【0021】
減速エリア検知部14は、車両100の前方にある走行車線上の減速エリア30を検知する。
ここで、
図2は、車両100が進入する交差点30aの模式図である。
減速エリア30とは、例えば、
図2に示されるように、上述の交差点30aや、踏切、横断歩道30b、赤色の路面標示エリア、一時停止の路面標示の手前のエリアを指す。減速エリア30では、車両100は減速又は一時停止が求められる。
【0022】
ただし、交差点30aであっても、車両100の走行車線31が優先道路である場合減速の義務はないため、優先道路上の交差点30aは減速エリア検知部14の検知対象から除外するのが好ましい。なお、以下では、減速エリア30を、
図2に示すような交差点30aである例で説明する。なお、交差点30aの付近には、例えば信号機33などにビーコンが設置されていることがある。よって、車両100とビーコンとの通信を交差点30aの検知に利用してもよい。
【0023】
また、減速エリア検知部14は、走行車線31上に表示されたダイヤマークで横断歩道30bの存在を検知してもよい。日本国においては、ダイヤマークを交差点30aの30m手前及び50m手前の路面上にそれぞれ表示することで、前方に横断歩道30bがあること、及びこの横断歩道30bまでの距離を運転者に把握可能にしている。路面上に描画された横断歩道30bは、道路28に直立する信号機33と異なり、車室内の前方カメラからでは検知しづらい。つまり、前方カメラでは、横断歩道30bの検知距離が信号機33を検知する検知距離に比較して短くなる。そこで、減速エリア検知部14は、このダイヤマークを利用して車両100から横断歩道30bまでの距離を算出することが望ましい。
【0024】
ブレーキシステム21は、ブレーキペダル21aなど、車両100の車輪の回転を減速させる一連のシステムである。ブレーキシステム21は、エンジン自動車に搭載される機械式の制御システムであってもよいし、電気自動車に搭載される電子的な制御システムであってもよい。ブレーキシステム21は、ブレーキECU18の制御を受けて、所定値以下の弱い減速度を発生させる予備制動を自動で発動可能に構成される。
【0025】
TTC判定部15は、減速エリア30から所定の距離だけ手前(以下、この位置を「判定線G」という)を車両100が通過する際、車両100と後続車300とのTTCを算出する。そして、TTC判定部15は、車両100の運転者が交差点30aの直前で急ブレーキをかけて交差点30aに進入した場合に、後続車300からの後面衝突を回避できるか否かを判定する。TTC判定部15は、TTCが短いため車両100の運転者の急ブレーキに後続車300のブレーキが間に合わず、後続車300が車両100に後面衝突すると判定した場合に余裕を持たせた時間を加えて、予備制動が必要と判定する。なお、後続車300運転者の反応時間は一般的に車両100がブレーキをかけ始めて0.6s程度かかるとされるため、TTC判定部15は、TTCから0.6sを減算した減算値を判定に使用する。TTC判定部15が判定を開始する判定線Gの位置は、減速エリア30から例えば60m~100m程度手前である。
【0026】
減速可能性判定部16は、減速エリア30において車両100にブレーキがかかる可能性を推定する。例えば、先行車200が車両100から所定の車間距離M内で減速した場合、車両100は先行車200の減速に合わせてブレーキを求められる可能性が高い。よって、このような場合に、減速可能性判定部16は、車両100にブレーキがかかる可能性が高いと推定する。
【0027】
また、運転者は、減速エリア30に設置された車両100の走行車線31上の信号機33が赤色のとき、青色から黄色又は黄色から赤色への信号機33の切り替わりを推定したとき、及び減速エリア30内であって走行車線31に平行する横断歩道30b上の歩行者用信号機34の青点滅時にも、車両100は減速が求められる可能性が高い。歩行者用信号機34の青点滅時には、間もなく走行車線31上の信号機33が青色から黄色に切り替わるためである。さらに、運転者が交差点30aの手前で左右いずれかのウィンカー23をONにしたときも、車両100は減速が求められる可能性が高い。右折または左折の際には、車両100はまず減速が求められるためである。よって、これらの各場合には、減速可能性判定部16は、「車両100の減速の可能性が高い」と推定する。
【0028】
制動発動部17は、TTC判定部15が、後続車300との車間距離Dとして算出したTTCが短く、予備制動が必要と判定した場合であって、減速可能性判定部16が車両100の減速の可能性が高いと判断した場合に、ブレーキシステム21に予備制動を発動させる。予備制動とは、交差点30aから所定の距離、例えば交差点30aから数十m程度、だけ手前の位置(以下、「制動開始線Z」という)から車両100の走行速度を一段階減速させることである。既に運転者が僅かにブレーキをかけている場合には、制動発動部17は、足りないブレーキトルクを足すことで規定された減速度に調整する。また、既に運転者が十分に強いブレーキをかけている場合、制動発動部17は予備制動を発動しない。
【0029】
制動発動部17は、予備制動により、例えば約0.1G以下など所定の減速度まで落とすことが好ましい。この減速度は急ブレーキになった場合の減速度変動を小さくしかつ減速感を認識できるものの不要作動の際の周囲への影響が微小なものとなる値である。
【0030】
車両100の減速の可能性の高さを、予備制動を発動させるための条件に入れたのは、予備制動が必要となる可能性が高い状況に限定して予備制動を発動させるためである。予備制動を発動させる条件を厳しくすることで、不要な予備制動の発動を抑制することができる。ただし、例えば予備制動による減速が常に非常に小さいことが予想される場合、減速可能性判定部16を設けなくてもよい。
【0031】
制動発動部17により、制動開始線Zの位置で車両100に弱いブレーキをかけ始めることで、交差点30aへの進入速度を自動的に減じて、安全な速度で車両100を交差点30aに進入させることができる。また、交差点30aで急停車した場合の後続車300とのTTCに余裕を持たせることができるため、潜在的な車両100と後続車300の衝突のリスクを低減させることができる。なお、予備制動により十分に減速ができた後の予備制動の解除条件は、運転者の判断に任せるのが望ましい。また、予備制動に合わせてメータなどの表示部22にランプを点灯させて、運転者に後続車300との距離が近いため予備制動を利かせている旨を表示することを通知してもよい。
【0032】
また、制動発動部17は、後続車300が加速していると判断した場合に定速走行していると判断した場合よりも早く予備制動を発動させることが望ましい。つまり、このような場合、制動開始線Zを標準位置より手前側に設定する。後続車300が加速しているときほど、車両100が急ブレーキをかけたときの後面衝突の可能性が高くなるためである。このような場合に早めに予備制動をかけることで、車両100の急ブレーキの発生を回避することに加えて、早めに後続車300に減速を促すことができる。また、このとき、制動発動部17は、後続車300が定速走行していると判断した場合よりも予備制動における減速度勾配を緩やかにすることが望ましい。減速度の立ち上がり勾配が緩やかであるため、予備制動のタイミングを早くすることによる後続車300の運転者が受ける不快感を抑制できるためである。
【0033】
また、制動発動部17は、反対に後続車300が減速していると判断した場合に、後続車300が定速走行していると判断した場合よりも遅く予備制動を発動させることが好ましい。つまり、制動発動部17は、制動開始線Zを標準位置より交差点30a側に近づける。後続車300が減速していれば、運転者が自ら車両100にブレーキをかけたときの後面衝突されるリスクが下がるためである。
【0034】
また、後続車検知部12は、後続車300の加減速を断続的に計測するのが望ましい。そして、制動発動部17は、同一の後続車300の加速頻度が高いと判断した場合に、後続車300が定速走行していると判断した場合よりも早く予備制動を発動することが望ましい。つまり、このような場合、制動開始線Zを標準位置より手前側に設定する。後続車300が断続的に加速している場合、この後続車300の運転者は普段から荒い運転をする傾向にあり、車両100が交差点30aに進入する直前にもまた後続車300を加速させる可能性が高いためである。
【0035】
また、制動発動部17は、車両100に対する後続車300の相対速度が大きいと判断した場合に、車両100と後続車300とが等速である場合よりも早く予備制動を発動することが好ましい。後続車300が加速をしていなくても、後続車300の速度が高いと車両100の急ブレーキに後続車300が対応できない可能性があるためである。なお、これらのような後続車300の加速態様から予備制動のタイミングを判断する主体は、制動発動部17であってもTTC判定部15であってもよい。
【0036】
なお、ブレーキECU18の各構成は、CPU等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、或いはHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置、を具備するコンピュータとして構成することができる。
この場合、TTC判定部15、減速可能性判定部16、及び制動発動部17の機能は、記憶装置に記憶された所定のプログラムをプロセッサが実行することによって実現することができる。また、このようなソフトウェア処理に換えて、ASIC(Application Specific Integration Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアで実現することもできる。
【0037】
次に、
図3のフローチャートを用いて、ブレーキ喚起装置10の動作について説明する。
なお、ステップS11は、「S11」のように略記する。また、ステップS12以降も同様に略記する。
【0038】
まず、車両100の走行中に減速エリア検知部14が、交差点30aを検知する(S11)。
車両100が判定線Gに到達するまでは、予備制動及びこの予備制動のための後続車検知は行われない(S12においてNOの場合、S13へ進みEND)。不要な自動ブレーキが頻繁にかかると運転者や同乗者に不安感や不快感を与えるためである。
車両100が判定線Gに到達すると、後続車検知部12が後続車300の情報を取得する(S12においてYESの場合、S14へ進む)。
【0039】
後続車300が検知されない場合、予備制動は発動されない(S14においてNOの場合、S13へ進みEND)。
一方、後続車300を検知した場合、後続車検知部12はこの後続車300との車間距離Dを計測する(S14においてYESの場合、S15へ進む)。この車間距離Dは、TTCで算出されることが好ましい。
計測された車間距離Dが既定の安全値より長い場合(S15においてNOの場合)、交差点30aに進入する直前又は進入中に車両100の運転者が急ブレーキをかけた場合にも、後続車300が衝突してくる可能性は低い。よって、この場合、予備制動は発動されない(S13、END)。
【0040】
一方、車間距離Dが既定の安全値より短い場合(S15においてYESの場合)、車両100が急ブレーキをかけると後続車300に後面衝突されるおそれがある。そこで、減速可能性判定部16が、車両100が減速する可能性の高い状況にあるか否かを判定する(S16)。減速可能性判定部16が、車両100が減速する可能性の高い状況にないと判定した場合、予備制動は発動されない(S16においてNOの場合、S13へ進みEND)。
【0041】
一方、減速可能性判定部16が、車両100が減速する可能性の高い状況にあると判定した場合、制動発動部17が予備制動を発動させる(S16においてYESの場合、S17)。制動発動部17は、車両100が制動開始線Zを通過するときに予備制動がかかるようにブレーキシステム21を制御する。このとき、制動発動部17は、後続車検知部12からの情報で、後続車300が加速していると判断した場合、定速走行していると判断した場合よりも早く予備制動を発動させることが望ましい。また、このとき、後続車300が定速走行していると判断した場合よりも予備制動における減速度勾配を緩やかにすることが望ましい。また、制動発動部17は、反対に後続車300が減速していると判断した場合、後続車300が定速走行していると判断した場合よりも遅く予備制動を発動させるのが望ましい。
【0042】
車両100が交差点30aを通過するまでは、発動された予備制動は解除されない(S18においてNOの場合、S17へ戻る)。
一方、車両100が交差点30aを通過した後は、予備制動は例えば運転者の意思で解除される(S18においてYESの場合、S19へ進みEND)。
【0043】
以上のように、実施形態に係るブレーキ喚起装置10によれば、減速エリア30で急ブレーキをかけると後続車300に後面衝突される状況下で予備制動をかけることで、後続車300にブレーキをかさせることを促すことができる。よって、車両100は、後続車300を考慮して、安全な速度での減速エリア30を走行することができる。また、この予備制動により、車両100の運転者が急ブレーキをかけた場合の減速度変動が小さくなり後面衝突の可能性を抑制することができる。なお、予備制動は弱いブレーキであるため、ブレーキの不要な状況で予備制動が発動してしまったとしても乗車者は危険にさらされず、乗車者に不安感や不快感を与えない。また、予備制動の発動に条件を課すことで、不要な予備制動の発動を抑制することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0045】
例えば、路上に表示されたダイヤマークで交差点の有無及び距離を計測する例を説明したが、減速エリア検知部は、他の道路標識で減速エリアを検知してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…ブレーキ喚起装置、11…周辺状況検知部、12…後続車検知部、13…先行車検知部、14…減速エリア検知部、15…衝突余裕時間判定部(TTC判定部)、16…減速可能性判定部、17…制動発動部、18…ブレーキECU、19…減速エリア検知部、21(21a)…ブレーキシステム(ブレーキペダル)、22…表示部、23…ウィンカー、24…車輪速センサー、25…車内ネットワーク、28…道路、30(30a、30b)…減速エリア(交差点、横断歩道)、31…走行車線、34…歩行者用信号機、33…信号機、100…車両、200…先行車、300…後続車、D…後続車との車間距離、G…判定線、M…先行車との車間距離、Z…制動開始線。