IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪富士工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-摺動部材 図1
  • 特開-摺動部材 図2
  • 特開-摺動部材 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151680
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/14 20060101AFI20241018BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20241018BHJP
   C23C 4/08 20160101ALI20241018BHJP
【FI】
F16C33/14 Z
F16C33/24 Z
C23C4/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065227
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】松井 祥司
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭一郎
【テーマコード(参考)】
3J011
4K031
【Fターム(参考)】
3J011AA01
3J011AA20
3J011BA08
3J011CA01
3J011DA01
3J011QA03
3J011SB15
3J011SB20
4K031AA02
4K031AB03
4K031BA01
4K031CB21
4K031DA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】母材である二相ステンレス鋼の表面に肉盛層を形成する際に、肉盛層にマイクロクラックが生じ難い構造の摺動部材を提供する。
【解決手段】二相ステンレスの母材1の表面に、ニッケル合金の下層2aとコバルト合金の表層2bからなる肉盛層2を設けた摺動部材において、肉盛層を形成する母材表面を、隣り合う溝部1aが隙間なく並ぶ溝加工面とすることにより、溝部による応力分散によって肉盛層におけるマイクロクラックの発生を抑制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相ステンレスの母材の表面に、ニッケル合金の下層とコバルト合金の表層からなる肉盛層を設けた摺動部材であって、前記肉盛層を形成する母材表面が、隣り合う溝部が隙間なく並ぶ溝加工面であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記隣り合う溝部の溝深さが40μm以上300μm以下である請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記溝部の断面形状が円弧形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記溝部の断面形状がV字形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の摺動部
材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、渦巻きポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどの各種ポンプや各種バルブ、各種スクリュー等、金属同士が擦れ合う摺動面に設けることにより、摺動面のかじりの発生を抑える摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の摺動部材として、二相ステンレス鋼を母材とし、この母材表面に、ニッケル合金の下層とコバルト合金の表層からなる肉盛層を形成したものが知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-166237号公報
【特許文献2】特開2018-187647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記摺動部材の母材を構成する二相ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスを1:1の割合で二相混合したステンレス鋼であり、高い強度と優れた耐食性を有し、耐応力腐食割れにも優れているため、渦巻きポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどの各種ポンプや各種バルブ、各種スクリュー等、金属同士が擦れ合う摺動面の母材として使用されている。
【0005】
そして、この二相ステンレス鋼の母材の表面に、肉盛層としてコバルト合金を肉盛する際には、表層のコバルト合金層と二相ステンレス鋼の母材表面との間に、炭素含有比率が少ないニッケル合金の下層を肉盛することにより、表層のコバルト合金から母材の二相ステンレス鋼への炭素の侵入を抑制している。
【0006】
ところで、二相ステンレス鋼の表面への肉盛は、粉体プラズマアーク溶接、レーザークラッディングまたは溶射等によって行うため、肉盛層を形成する際に、残留応力によって肉盛層にマイクロクラックが発生し易く、強度の高い肉盛層が得られないという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は、母材である二相ステンレス鋼の表面に肉盛層を形成する際に、肉盛層にマイクロクラックが生じ難い構造の摺動部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、二相ステンレスの母材の表面に、ニッケル合金の下層とコバルト合金の表層からなる肉盛層を設けた摺動部材であって、前記肉盛層を形成する母材表面が、隣り合う溝部が隙間なく並ぶ溝加工面であることを特徴とするものである。
【0009】
前記隣り合う溝部の溝深さは、40μm以上300μm以下とする。
【0010】
前記溝部の断面形状は、円弧形状又はV字形状とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
二相ステンレス鋼の表面にレーザークラッディング等によって肉盛層を形成する場合、母材である二相ステンレス鋼の表面が平滑であると、残留応力が肉盛層の平滑部に集中しクラック発生の起点になりやすい。
【0012】
この発明では、母材である二相ステンレス鋼の表面を、隣り合う溝部が隙間なく並ぶ溝加工面にすることにより、溝部による応力分散によって肉盛層におけるマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明に係る摺動部材の一例の断面を拡大して模式的に示した断面図である。
図2】この発明に係る摺動部材の他の例の断面を拡大して模式的に示した断面図である。
図3】母材の表面に形成した溝部の深さの違いによって肉盛層に割れが発生するかどうかについて実験を行った摺動部材の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、この発明に係る摺動部材の断面を拡大して模式的に示した断面図である。
【0016】
この発明に係る摺動部材は、二相ステンレス鋼からなる母材1の表面に、ニッケル合金の下層2aとコバルト合金の表層2bからなる肉盛層2を形成したものである。
【0017】
前記ニッケル合金の下層2aの厚さは、1mm~1.5mm、コバルト合金の表層2bの厚さは、1.5mm~2.0mmで、肉盛層2の総厚さは、2.5~3.5mm程度である。
【0018】
下層2aを構成するニッケル合金としては、インコネル合金、ハステロイ合金などを用いることができる。
【0019】
また、表層2bを構成するコバルト合金としては、ステライト合金、トリバロイ合金、炭化物を含んだインコネル合金などを用いることができる。
【0020】
下層2a及び表層2bを母材1である二相ステンレス鋼の表面に設けるには、レーザークラッディング法及びプラズマアーク溶接法を用いることが好ましい。また、他の方法としては、溶射のほか、粉体プラズマ溶射、レーザークラッディング及び溶射を組み合わせて行うこともできる。
【0021】
前記肉盛層2を形成する母材1の表面は、隣り合う溝部1aが隙間なく並ぶ溝加工面に形成されている。
【0022】
溝部1aの深さdは、40μm以上とする。溝部1aの深さが40μm以下の場合、前肉盛層2を形成する母材1の表面がフラットになり、フラットな面に肉盛された肉盛層2に残留応力が集中し、肉盛層2にマイクロクラックが発生しやすく、このマイクロクラックが起点になって肉盛層2に割れが生じやすい。
【0023】
また、溝部1aの深さdは、最大300μm以下にする。その理由は、二相ステンレス鋼の母材1の表面にレーザー施工によって肉盛層2を形成する場合、二相ステンレス鋼の母材1への熱影響と希釈(溶込み)を抑えるために、低入熱、低希釈肉盛の条件とするため、母材1の表面の凹凸が大きくなると、融合不良が発生する傾向にあるためである。
【0024】
この発明の母材1の表面は、隣り合う溝部1aが隙間なく並ぶ溝加工面に形成され、隣り合う溝部1a間にフラット部が形成されないようにしている。母材1の表面を、隣り合う溝部1aが隙間なく並ぶ溝加工面にすることにより、肉盛層2を形成する際に、溝部1aが肉盛層2の応力を分散するので、マイクロクラックの発生が抑制され、肉盛層2にマイクロクラックを起点とする割れが生じ難い。
【0025】
隣り合う溝部1aが隙間なく並ぶ溝加工面は、丸チップ、三角チップを使用した旋盤加工によって行うことができる。
【0026】
丸チップを使用して母材1の表面を旋盤加工すると、図1に示すような、断面が円弧形状の溝部1aを形成することができ、三角チップを使用して母材1の表面を旋盤加工すると、図2に示すような、断面がV字形状の溝部1aを形成することができる。
【0027】
図3は、母材1である二相ステンレス鋼の表面に、深さが、10μm、20μm、30μm、40μm、100μm、200μmの溝部1aを、丸チップを使用して溝加工し、この溝加工面にレーザークラッディングにより肉盛層2を形成した場合に、肉盛層2に割れが発生するかどうかについて実験を行った顕微鏡写真である。
【0028】
図3の実験における肉盛層2の下層2aを構成するニッケル合金は、厚さ1.0mmのハステロイ合金であり、表層2bを構成するコバルト合金は、厚さ1.5mmのステライト合金である。
【0029】
図3のとおり、溝部1aの深さが10μm、20μm、30μmでは、肉盛層2に割れが発生し、溝部1aの深さが40μm、100μm、200μmでは、肉盛層2に割れが発生しなかった。
【0030】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0031】
1 :母材
1a :溝部
2 :肉盛層
2a :下層
2b :表層
図1
図2
図3