(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151690
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】制振システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241018BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20241018BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241018BHJP
F16F 3/10 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E04H9/02 351
F16F15/04 M
F16F15/02 N
F16F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065237
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】長屋 圭一
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
(72)【発明者】
【氏名】鈴井 康正
(72)【発明者】
【氏名】平田 寛
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB13
2E139AC80
2E139AD01
2E139AD03
2E139BA02
2E139BA30
2E139BD06
2E139BD16
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2E139BD32
2E139BD35
2E139BD36
2E139CA02
2E139CB03
2E139CC02
2E139CC11
3J048AD16
3J048BC09
3J048BC10
3J048DA04
3J048EA38
3J059BC03
3J059BD02
(57)【要約】
【課題】小地震から優れた制震効果を発揮し易く、かつ、メンテナンスの負担を軽減し易い制振システムを提供する。
【解決手段】架構2内に、所定方向に軸プレストレスを導入した第一線材3aと、前記所定方向の反対方向の反対軸方向に軸プレストレスを導入した第二線材3bを有し、第一線材3aと第二線材3bは、圧縮力を負担せず、履歴型かつ原点復帰型の制振装置4を備える制振システム1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構内に、所定方向に軸プレストレスを導入した第一線材と、前記所定方向の反対方向の反対軸方向に軸プレストレスを導入した第二線材を有し、前記第一線材と前記第二線材は、圧縮力を負担せず、履歴型かつ原点復帰型の制振装置を備える制振システム。
【請求項2】
前記制振装置は、前記第一線材の前記軸プレストレスの導入が前記第一線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまでは、前記第一線材の初期の前記軸プレストレスと地震後の残留張力がほぼ等しく、前記第二線材の前記軸プレストレスの導入が前記第二線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまでは、前記第二線材の初期の前記軸プレストレスと地震後の残留張力がほぼ等しい、請求項1に記載の制振システム。
【請求項3】
前記制振装置は、前記第一線材の前記軸プレストレスの導入が前記第一線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmを超えた範囲においては、地震後の前記第一線材の残留張力が前記中間点とほぼ等しく、前記第二線材の前記軸プレストレスの導入が前記第二線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmを超えた範囲においては、地震後の前記第二線材の残留張力が前記中間点Fmとほぼ等しい、請求項1に記載の制振システム。
【請求項4】
前記制振装置は、前記第一線材の前記軸プレストレスを受ける超弾性合金による第一弾塑性ダンパーと、前記第二線材の前記軸プレストレスを受ける超弾性合金による第二弾塑性ダンパーを有する、請求項1に記載の制振システム。
【請求項5】
前記第一線材の前記軸プレストレスの導入は、前記第一線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上、降伏点Fu未満の範囲であり、前記第二線材の前記軸プレストレスの導入は、前記第二線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上、降伏点Fu未満の範囲である、請求項1~4の何れか1項に記載の制振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
架構内に履歴型(変位依存型)(例えば特許文献1~2参照)又は速度依存型(例えば特許文献2~3参照)の制振装置を備える制振システムが知られている。履歴型の制振装置に軸プレストレスを導入する技術も知られている(例えば特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-6903号公報
【特許文献2】特開2002-194917号公報
【特許文献3】特開2022-107290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振システムは、小地震から優れた制震効果を発揮し易く、かつ、メンテナンスの負担を軽減し易いことが望ましい。
【0005】
本発明の目的は、小地震から優れた制震効果を発揮し易く、かつ、メンテナンスの負担を軽減し易い制振システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は以下のとおりである。
【0007】
[1]
架構内に、所定方向に軸プレストレスを導入した第一線材と、前記所定方向の反対方向の反対軸方向に軸プレストレスを導入した第二線材を有し、前記第一線材と前記第二線材は、圧縮力を負担せず、履歴型かつ原点復帰型の制振装置を備える制振システム。
【0008】
[2]
前記制振装置は、前記第一線材の前記軸プレストレスの導入が前記第一線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまでは、前記第一線材の初期の前記軸プレストレスと地震後の残留張力がほぼ等しく、前記第二線材の前記軸プレストレスの導入が前記第二線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまでは、前記第二線材の初期の前記軸プレストレスと地震後の残留張力がほぼ等しい、[1]に記載の制振システム。
【0009】
[3]
前記制振装置は、前記第一線材の前記軸プレストレスの導入が前記第一線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmを超えた範囲においては、地震後の前記第一線材の残留張力が前記中間点とほぼ等しく、前記第二線材の前記軸プレストレスの導入が前記第二線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmを超えた範囲においては、地震後の前記第二線材の残留張力が前記中間点Fmとほぼ等しい、[1]又は[2]に記載の制振システム。
【0010】
[4]
前記制振装置は、前記第一線材の前記軸プレストレスを受ける超弾性合金による第一弾塑性ダンパーと、前記第二線材の前記軸プレストレスを受ける超弾性合金による第二弾塑性ダンパーを有する、[1]~[3]の何れか1項に記載の制振システム。
【0011】
[5]
前記第一線材の前記軸プレストレスの導入は、前記第一線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上、降伏点Fu未満の範囲であり、前記第二線材の前記軸プレストレスの導入は、前記第二線材の弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上、降伏点Fu未満の範囲である、[1]~[4]の何れか1項に記載の制振システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小地震から優れた制震効果を発揮し易く、かつ、メンテナンスの負担を軽減し易い制振システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の制振システムを示す模式図である。
【
図2】本発明の他の実施形態の制振システムを示す模式図である。
【
図3】本発明の他の実施形態の制振システムを示す模式図である。
【
図4】本発明の他の実施形態の制振システムを示す模式図である。
【
図5】本発明の他の実施形態の制振システムを示す模式図である。
【
図6】第一線材の軸プレストレスを受ける第一ダンパーの荷重-変形特性図である。
【
図7】(a)は第一線材の取り付け構造の一例を示す平面図であり、(b)は第一線材の取り付け構造の他の一例を示す平面図である。
【
図8】(a)はプレストレスを導入しない場合の第一摩擦ダンパーと第二摩擦ダンパーのそれぞれのせん断力-変位特性図(解析結果)であり、(b)は(a)の場合の第一摩擦ダンパーと第二摩擦ダンパーを合わせた制震装置のせん断力-変位特性図(解析結果)である。
【
図9】(a)はプレストレスを戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm付近まで導入した場合の第一摩擦ダンパーと第二摩擦ダンパーのそれぞれのせん断力-変位特性図(解析結果)であり、(b)は(a)の場合の第一摩擦ダンパーと第二摩擦ダンパーを合わせた制震装置のせん断力-変位特性図(解析結果)である。
【
図10】(a)はプレストレスを降伏点Fu付近まで導入した場合の第一摩擦ダンパーと第二摩擦ダンパーのそれぞれのせん断力-変位特性図(解析結果)であり、(b)は(a)の場合の第一摩擦ダンパーと第二摩擦ダンパーを合わせた制震装置のせん断力-変位特性図(解析結果)である。
【
図11】主架構の剛性をゼロとした場合の導入したプレストレス(プレテンション)と残留軸力の関係(解析結果)を示すグラフである。
【
図12】主架構の剛性を第一線材の水平剛性(片効き時)の4倍の値とした場合の導入したプレストレス(プレテンション)と残留軸力の関係(解析結果)を示すグラフである。
【
図13】制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算する際の前提とした検討モデルを示す説明図である。
【
図14】(a)はプレストレスを戻り点Fdまで導入した場合の制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算するために検討した主架構のせん断力-変位特性図を示し、(b)は(a)の計算のために検討した第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力-変位特性図を示し、(c)は(a)の計算のために検討した第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力-変位特性図を示す。
【
図15】(a)はプレストレスを戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまで導入した場合の制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算するために検討した主架構のせん断力-変位特性図を示し、(b)は(a)の計算のために検討した第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力-変位特性図を示し、(c)は(a)の計算のために検討した第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力-変位特性図を示す。
【
図16】(a)は
図15の計算の対象となる除荷の一例における主架構のせん断力と変位の変化を示し、(b)は(a)の除荷の一例における第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力と変位の変化を示し、(c)は(a)の除荷の一例における第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力と変位の変化を示す。
【
図17】(a)はプレストレスを降伏点Fuまで導入した場合の制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算するために検討した主架構のせん断力-変位特性図を示し、(b)は(a)の計算のために検討した第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力-変位特性図を示し、(c)は(a)の計算のために検討した第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力-変位特性図を示す。
【
図18】(a)は
図17の計算の対象となる除荷の一例における主架構のせん断力と変位の変化を示し、(b)は(a)の除荷の一例における第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力と変位の変化を示し、(c)は(a)の除荷の一例における第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力と変位の変化を示す。
【
図19】(a)はプレストレスを降伏点Fuの100%まで導入した場合の残留軸力と応答最大層間変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフであり、(b)は(a)の場合の残留軸力とブレース方向残留変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフである。
【
図20】(a)はプレストレスを降伏点Fuの75%まで導入した場合の残留軸力と応答最大層間変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフであり、(b)は(a)の場合の残留軸力とブレース方向残留変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフである。
【
図21】(a)はプレストレスを降伏点Fuの60%まで導入した場合の残留軸力と応答最大層間変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフであり、(b)は(a)の場合の残留軸力とブレース方向残留変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフである。
【
図22】(a)はプレストレスを降伏点Fuの50%まで導入した場合の残留軸力と応答最大層間変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフであり、(b)は(a)の場合の残留軸力とブレース方向残留変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態において制振システム1は、架構2内に、所定方向に軸プレストレス(つまり軸プレテンション)を導入した第一線材3aと、前記所定方向の反対方向の反対軸方向に軸プレストレス(つまり軸プレテンション)を導入した第二線材3bを有し、第一線材3aと第二線材3bは、圧縮力を負担せず、履歴型かつ原点復帰型の制振装置4を備える。
【0016】
第一線材3aと第二線材3bは、
図1に示すように互いに平行に、免震層によって支持される免震建物などの主架構5に対して互いに反対側に設けられ、主架構5に対して互いに反対方向の引張力を与える。第一線材3aと第二線材3bはそれぞれ、例えば、ワイヤ又は鋼棒などによって構成される。
図1に示す例では、第一線材3aと第二線材3bはそれぞれ、擁壁と免震建物の間に張り渡される。
【0017】
第一線材3aと第二線材3bを適用する主架構5は、
図2に示すように間柱8aであってもよい。
図2に示す例では、第一線材3aと第二線材3bはそれぞれ、間柱8aと、間柱8aに梁7を介して連なる柱6の間に張り渡される。
【0018】
第一線材3aと第二線材3bを適用する主架構5は、
図3に示すようにY型ブレース8bであってもよい。
図3に示す例では、第一線材3aと第二線材3bはそれぞれ、Y型ブレース8bと、Y型ブレース8bに連なる柱6の間に張り渡される。
【0019】
制振システム1は、
図4、
図5に示すような連結制震にも利用できる。
図4は高剛性側の構造体8cが低剛性側の構造体8dの内側に設けられる場合の例を示し、
図5は高剛性側の構造体8cが低剛性側の構造体8dの外側に設けられる場合の例を示す。
図4、
図5に示す例では、(制振装置4を含む)第一線材3aと第二線材3bの組が各階層に設けられる。
【0020】
履歴型かつ原点復帰型の制振装置4は、
図1に示すように、第一線材3aの軸プレストレスを受ける第一ダンパー4aと、第二線材3bの軸プレストレスを受ける第二ダンパー4bを有する。
【0021】
第一ダンパー4aは、
図6に示すような荷重-変形特性を有する。すなわち、第一ダンパー4aは、引張荷重を加えると、
図6に示すように降伏点Fuまでの第一弾性領域において応力と変形が線形的に増加し、降伏点Fuを超えると見かけの降伏によって応力の変化が抑制されつつ変形だけが増加し、与えた荷重を取り除くと、第二弾性領域において応力と変形が第一弾性領域と同様の勾配で線形的に減少し、当該減少がある程度に達すると、応力の変化が抑制されつつ変形だけが減少し、第一弾性領域への戻り点Fdを経由して原点(元の形状)に復帰する。第二ダンパー4bは、第一ダンパー4aと同様の荷重-変形特性を有する。
【0022】
図7以降とそれに関連する文章による説明は、第一線材3aと第二線材3bが、互いに交差する方向に軸プレストレスを与えられる第一引張ブレースと第二引張ブレースによって構成される場合を対象とする。しかし、当該説明は、本実施形態のような、第一線材3aと第二線材3bが互いに反対方向に軸プレストレスを与えられる場合にも適用できる。
【0023】
第一ダンパー4aの具体例は、超弾性合金による第一弾塑性ダンパーである。第二ダンパー4bの具体例は、超弾性合金による第二弾塑性ダンパーである。つまり、制振装置4の具体例は、第一線材3aの軸プレストレスを受ける超弾性合金による第一弾塑性ダンパーと、第二線材3bの軸プレストレスを受ける超弾性合金による第二弾塑性ダンパーを有する。超弾性合金による弾塑性ダンパーによれば、
図6に示すような履歴型かつ原点復帰型の荷重-変形特性を得ることができる。すなわち、超弾性合金を用いることにより、第一ダンパー4aとしての第一弾塑性ダンパーを履歴型かつ原点復帰型のダンパーとして形成できる。また、超弾性合金を用いることにより、第二ダンパー4bとしての第二弾塑性ダンパーを履歴型かつ原点復帰型のダンパーとして形成できる。なお、通常の金属材料では弾性限界以下の変形は除荷すれば元に戻るが、変形が弾性限界を超えさらに降伏点を超えると、塑性変形分が残留して永久変形となる。これに対し、超弾性合金は降伏領域まで変形後、除荷すると変形が実質的にゼロの状態まで復帰する。超弾性合金のうち一般的に実用的な合金は例えば、Ti-Ni合金や、Cu系合金のうちの、Cu-Ni-Al合金、Cu-Zn-Al合金などである。
【0024】
第一線材3aを主架構5に取り付けるための取り付け構造12は適宜設定できる。例えば、当該取り付け構造12は、
図7(a)に示すように、第一線材3aに圧縮力を作用させないように第一取り付けナット12aと第二取り付けナット12bを配置する構成としてもよいし、
図7(b)に示すように、第一線材3aを弾性座屈させて圧縮力を制御するように第一取り付けナット12aと第二取り付けナット12bを配置する構成としてもよい。同様に、第二線材3bを主架構5に取り付けるための取り付け構造12は適宜設定できる。
【0025】
上記のような、第一線材3aと第二線材3bは、圧縮力を負担せず、履歴型かつ原点復帰型の制振装置4を備える構成によれば、制震材料の降伏耐力に対するプレストレス量を調整することにより、降伏点Fuを超えた変形の経験後(地震後)にも、プレストレス導入による制震効果を得易くできる。また、上記構成によれば、地震後にも制震装置に一定量の残留張力を保持させ易くできるため、安定した履歴ループによる安定したエネルギー吸収性能を得易くできる。したがって上記構成によれば、小地震から優れた制震効果を発揮し易く、かつ、メンテナンスの負担を軽減し易くできる。
【0026】
また制振装置4は、
図8、
図9、
図11及び
図12に示すように、第一線材3aの軸プレストレスの導入が第一線材3aの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまでは、第一線材3aの初期の軸プレストレスと地震後の残留張力がほぼ等しく、第二線材3bの軸プレストレスの導入が第二線材3bの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまでは、第二線材3bの初期の軸プレストレスと地震後の残留張力がほぼ等しい。なお、「ほぼ等しい」とは、20%程度までの誤差を許容することを意味する。
【0027】
更に制振装置4は、
図10~
図12に示すように、第一線材3aの軸プレストレスの導入が第一線材3aの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmを超えた範囲においては、地震後の第一線材3aの残留張力が中間点とほぼ等しく、第二線材3bの前記軸プレストレスの導入が第二線材3bの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmを超えた範囲においては、地震後の第二線材3bの残留張力が中間点Fmとほぼ等しい。
【0028】
したがって、第一線材3aの軸プレストレスの導入は、第一線材3aの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上、降伏点Fu未満の範囲であり、第二線材3bの軸プレストレスの導入は、第二線材3bの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上、降伏点Fu未満の範囲であることが好ましい。
【0029】
また、第一線材3aの軸プレストレスの導入は、第一線材3aの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上かつ前記中間点Fm付近であり、第二線材3bの軸プレストレスの導入は、第二線材3bの弾性領域への戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fm以上かつ前記中間点Fm付近であることがより好ましい。
【0030】
上記構成によれば、初期のプレストレスと地震後の残留張力をほぼ等しくし易いため、メンテナンスの負担をより一層軽減し易くできる。また上記構成によれば、前記中間点Fmを超える大きなプレストレスによりエネルギー吸収を早期に開始し易くできるため、小地震から優れた制震効果をより一層発揮し易くできる。
【0031】
本発明は前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0032】
したがって、前述した実施形態の制振システム1は、架構2内に、所定方向に軸プレストレスを導入した第一線材3aと、前記所定方向の反対方向の反対軸方向に軸プレストレスを導入した第二線材3bを有し、第一線材3aと第二線材3bは、圧縮力を負担せず、履歴型かつ原点復帰型の制振装置4を備える制振システム1である限り変更可能である。
【実施例0033】
図13に示す検討モデルを用いて、制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算した。静的な荷重の釣り合いから、除荷時に最終的に復元力が釣り合う点の集合(つまり、生じ得る残留張力の範囲)を算出した。
【0034】
図14(a)はプレストレスを戻り点Fdまで導入した場合の制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算するために検討した主架構のせん断力-変位特性図を示し、
図14(b)は
図14(a)の計算のために検討した第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力-変位特性図を示し、
図14(c)は
図14(a)の計算のために検討した第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力-変位特性図を示す。
図14(a)では、主架構の剛性(架構剛性ともいう)がある場合とない場合の両方を示すが、これ以降の図面では、架構剛性がない場合のみを示す。架構剛性がある場合は、生じ得る残留張力の範囲(残留変形、軸力減少)が小さくなる。図中の○(白丸)は地震応答が終了し、慣性力がなくなった時点を示す。図中の太線(又は黒丸)の範囲は、最終的に復元力が釣合う(Q=Q
b1+Q
b2+Q
f=0となる)点の集合を示す。
【0035】
図15(a)はプレストレスを戻り点Fdと降伏点Fuの中間点Fmまで導入した場合(Q
d’≦Q
d0≦(Q
d+Q
d’)/2の場合)の制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算するために検討した主架構のせん断力-変位特性図を示し、
図15(b)は
図15(a)の計算のために検討した第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力-変位特性図を示し、
図15(c)は
図15(a)の計算のために検討した第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力-変位特性図を示す。
図16(a)は
図15の計算の対象となる除荷の一例(白丸から太線への移行の一例)における主架構のせん断力と変位の変化を示し、
図16(b)は
図16(a)の除荷の一例における第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力と変位の変化を示し、
図16(c)は
図16(a)の除荷の一例における第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力と変位の変化を示す。
【0036】
以下の連立方程式からΔ1を求め、Qde1、Qde2を求めた。
Qde1=Qd0-Kd1Δ1
Qde1=Qd’+Kd2(2Δ1+(Qde1-Qd’)/Kd1)
Qde2=Qd0
【0037】
Δ1算出の計算式を以下に示す。
Qde1=Qd0-Kd1Δ1
Qde1=Qd’+Kd2(2Δ1+(Qde1-Qd’)/Kd1)
↓
(Kd2/Kd1+1)Qde1=Qd’+Kd2/Kd1Qd’-Kd22Δ1
↓
(Kd2/Kd1+1)(Qd0-Kd1Δ1)=(Kd2/Kd1+1)Qd’-Kd22Δ1
↓
(Kd2/Kd1+1)Qd0-(Kd2+Kd1)Δ1
=(Kd2/Kd1+1)Qd’-Kd22Δ1
↓
(Kd2/Kd1+1)(Qd0-Qd’)=(Kd1-Kd2)Δ1
↓
Δ1=(Qd0-Qd’)(Kd2/Kd1+1)/(Kd1-Kd2)
【0038】
したがって、方程式の解は次のとおりとなる。
Qde1=((2Kd2)Qd0+(Kd2+Kd1)Qd’)/(Kd1-Kd2)
Qde2=Qd0
【0039】
図17(a)はプレストレスを降伏点Fuまで導入した場合((Q
d+Q
d’)/2<Q
d0≦Q
dの場合)の制震装置の除荷時の荷重の釣り合いを計算するために検討した主架構のせん断力-変位特性図を示し、
図17(b)は
図17(a)の計算のために検討した第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力-変位特性図を示し、
図17(c)は
図17(a)の計算のために検討した第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力-変位特性図を示す。
図18(a)は
図17の計算の対象となる除荷の一例(白丸から太線への移行の一例)における主架構のせん断力と変位の変化を示し、
図18(b)は
図18(a)の除荷の一例における第二摩擦ダンパー(ブレース2)のせん断力と変位の変化を示し、
図18(c)は
図18(a)の除荷の一例における第一摩擦ダンパー(ブレース1)のせん断力と変位の変化を示す。
【0040】
以下の連立方程式からΔ1、Δ2、Qde1、Qde2を求めた。
Qde1=Qd0-Kd1Δ1
Qde1=Qd’+Kd2(2Δ1+(Qde1-Qd’)/Kd1)
Qde2=(Qd+Qd’)/2
Δ2=(Qd-Qde2)/Kd1
↓
Δ1=(Qd0-Qd’)(Kd2/Kd1+1)/(Kd1-Kd2)
【0041】
したがって、方程式の解は次のとおりとなる。
Qde1=((2Kd2)Qd0+(Kd2+Kd1)Qd’)/(Kd1-Kd2)
Qde2=(Qd+Qd’)/2
【0042】
図19(a)はプレストレスを降伏点Fuの100%まで導入した場合の残留軸力と応答最大層間変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフであり、
図19(b)は
図19(a)の場合の残留軸力とブレース方向残留変位の関係について計算値と解析値の比較結果を示すグラフである。同様に、
図20は75%の場合、
図21(a)は60%の場合、
図22は50%の場合をそれぞれ示す。
【0043】
計算と解析において、Qd、Qd’、Kd1、Kd2の値は次のとおりとした。
Qd=165(kN)×cosθ
Qd’=33(kN)×cosθ
Kd1=34.2(kN/mm)×cosθ
Kd2=1.6(kN/mm)×cosθ
【0044】