(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151722
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】保護装置及び保護方法
(51)【国際特許分類】
A42B 3/08 20060101AFI20241018BHJP
A42B 3/30 20060101ALI20241018BHJP
A41D 13/05 20060101ALI20241018BHJP
A41D 13/018 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A42B3/08
A42B3/30
A41D13/05 112
A41D13/018
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065314
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 俊志
【テーマコード(参考)】
3B107
3B211
【Fターム(参考)】
3B107CA02
3B107DA05
3B107DA17
3B107DA21
3B107EA05
3B211AB00
3B211AC04
(57)【要約】
【課題】頸部を迅速に保護することの可能な技術を提供する。
【解決手段】着用者の頸部を保護する保護装置であって、可撓性を有し、保護装置の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置可能な膨張ストラップであって、保護装置の作動時に膨張源が供給されることによって膨張可能な膨張部を含む膨張ストラップと、膨張部に膨張源を供給する膨張源供給部と、膨張源供給部を起動することによって膨張部を膨張させる起動部と、を備え、作動時に膨張部が膨張することによって着用者の頸部の動きを拘束する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の頸部を保護する保護装置であって、
可撓性を有し、前記保護装置の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置可能な膨張ストラップであって、前記保護装置の作動時に膨張源が供給されることによって膨張可能な膨張部を含む膨張ストラップと、
前記膨張部に膨張源を供給する膨張源供給部と、
前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させる起動部と、
を備え、
作動時に前記膨張部が膨張することによって着用者の頸部の動きを拘束する、
保護装置。
【請求項2】
前記膨張ストラップは、前記保護装置の作動前状態において着用者の前頸部と顎下部との境界領域に沿って配置される顎下ストラップ部を含む、
請求項1に記載の保護装置。
【請求項3】
前記膨張ストラップは、着用者の後頸部と後頭部との境界領域に沿って配置される後方ストラップ部を含む、
請求項1に記載の保護装置。
【請求項4】
前記膨張ストラップは、着用者の前頸部と顎下部との境界領域に沿って配置される顎下ストラップ部と、着用者の後頸部と後頭部との境界領域に沿って配置される後方ストラップ部と、を含み、前記顎下ストラップ部と前記後方ストラップ部が互いに接続されている、
請求項1に記載の保護装置。
【請求項5】
前記膨張ストラップは、頭部を保護するハーフ型のヘルメットを着用者に固定するための固定用ストラップの少なくとも一部によって形成されている、
請求項1から4の何れか一項に記載の保護装置。
【請求項6】
前記起動部は、所定の作動条件が成立したことを検知するための作動条件検知センサーを更に備え、
前記膨張源供給部及び前記起動部が前記ヘルメットに搭載されている、
請求項5に記載の保護装置。
【請求項7】
前記膨張源供給部及び前記起動部は、前記ヘルメットに対して着脱自在である、
請求項6に記載の保護装置。
【請求項8】
前記起動部は、前記ヘルメットが着用者の頭部に装着されているか否かを検知する装着状態検知センサーを更に備える、
請求項6に記載の保護装置。
【請求項9】
前記膨張ストラップは、前記膨張源が供給されない芯紐部を更に有し、当該芯紐部に接触した状態で前記膨張部が一体に設けられている、請求項1から4の何れか一項に記載の保護装置。
【請求項10】
前記膨張ストラップは、前記膨張部が外装材に包まれた状態で配置されており、
前記外装材は、着用者の肌に接触した態様で配置される第1外装主面部と、当該第1外装主面部に対向配置される第2外装主面部と、前記第1外装主面部及び前記第2外装主面
部を接続する一対の外装側面部と、を有し、
作動時における前記膨張部の膨張圧によって前記一対の外装側面部が破れ、或いは、前記第1外装主面部及び前記第2外装主面部のそれぞれに接続される各外装側面部の接続部が破壊されるように構成されている、
請求項1から4の何れか一項に記載の保護装置。
【請求項11】
前記膨張源供給部は、
作動時に前記膨張部を膨張させるための膨張ガスを当該膨張部に供給するガス供給装置であり、
前記ガス供給装置は、前記膨張ガスを前記膨張部に導入するための導管を有し、前記導管に開放弁が設けられている、
請求項1から4の何れか一項に記載の保護装置。
【請求項12】
着用者の頸部を保護する保護装置の作動方法であって、
前記保護装置は、
可撓性を有し、前記保護装置の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置可能な膨張ストラップであって、前記保護装置の作動時に膨張源が供給されることによって膨張可能な膨張部を含む膨張ストラップと、
前記膨張部に膨張源を供給する膨張源供給部と、
前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させる起動部と、
を備え、
前記起動部が前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させ、着用者の頸部の動きを拘束する、
保護装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頸部を保護する保護装置及び保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自転車等の乗員の頭部を保護する保護装置としてヘルメットが広く知られているが、通常のヘルメットは頸椎を保護する機能は有していない。
【0003】
これに関連して、保護対象者の頸部を保護可能なエアバッグ装置も提案されている(例えば、特許文献1、2等を参照)。
【0004】
特許文献1には、着衣する被服の襟に膨張可能なエアバッグを取り付けたエアバッグ装置が開示されており、エアバッグによって利用者の首周りを保護することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、保護対象者の頭部等を保護するエアバッグ装置であって、展開するエアバッグによって前頭部、側頭部、及び頭頂部等に加えて、首周り部も保護することの可能な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第10001346号明細書
【特許文献2】特開2017-57540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自転車の転倒時においては、その衝撃によって頸部と頭部との境界付近を中心に頭部あるいは頸部が急角度で折れ曲がり、これによって頸部がダメージを受けるケースが少なくない。したがって、転倒時における頸部を保護する保護装置としては、保護対象者における頸部と頭部との境界付近において、いち早く頭部および頸部の動きを拘束することが重要であると考えられる。しかしながら、従来のように、被服の襟に膨張可能なエアバッグを取り付けた場合、エアバッグの膨張は保護対象者における頸部と胴体との境界付近から開始される。そのため、頸部と頭部との境界付近をエアバッグが覆うまでに時間を要してしまい、迅速に頸部を保護することが難しくなる場合があると考えられる。また、エアバッグを被服の襟袖に取り付ける場合、例えば、被服のフード、あるいはリュックサックなどの荷物等によってエアバッグの展開が阻害されてしまう虞があり、実現性が低いとも考えられる。
【0008】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、保護対象者の頸部を迅速に保護することの可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本開示は、着用者の頸部を保護する保護装置であって、可撓性を有し、前記保護装置の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置可能な膨張ストラップであって、前記保護装置の作動時に膨張源が供給されることによって膨張可能な膨張部を含む膨張ストラップと、前記膨張部に膨張源を供給する膨張源供給部と、前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させる起動部と、を備え、作動時に前記膨張部が膨
張することによって着用者の頸部の動きを拘束する。
【0010】
また、前記膨張ストラップは、前記保護装置の作動前状態において着用者の前頸部と顎下部との境界領域に沿って配置される顎下ストラップ部を含んでいてもよい。
【0011】
また、前記膨張ストラップは、着用者の後頸部と後頭部との境界領域に沿って配置される後方ストラップ部を含んでいてもよい。
【0012】
また、前記膨張ストラップは、着用者の前頸部と顎下部との境界領域に沿って配置される顎下ストラップ部と、着用者の後頸部と後頭部との境界領域に沿って配置される後方ストラップ部と、を含み、前記顎下ストラップ部と前記後方ストラップ部が互いに接続されていてもよい。
【0013】
また、前記膨張ストラップは、頭部を保護するハーフ型のヘルメットを着用者に固定するための固定用ストラップの少なくとも一部によって形成されていてもよい。
【0014】
また、前記起動部は、所定の作動条件が成立したことを検知するための作動条件検知センサーを更に備え、前記膨張源供給部及び前記起動部が前記ヘルメットに搭載されていてもよい。
【0015】
また、前記膨張源供給部及び前記起動部は、前記ヘルメットに対して着脱自在であってもよい。
【0016】
また、前記起動部は、前記ヘルメットが着用者の頭部に装着されているか否かを検知する装着状態検知センサーを更に備えていてもよい。
【0017】
また、前記膨張ストラップは、前記膨張源が供給されない芯紐部を更に有し、当該芯紐部に接触した状態で前記膨張部が一体に設けられていてもよい。
【0018】
また、前記膨張ストラップは、前記膨張部が外装材に包まれた状態で配置されており、前記外装材は、着用者の肌に接触した態様で配置される第1外装主面部と、当該第1外装主面部に対向配置される第2外装主面部と、前記第1外装主面部及び前記第2外装主面部を接続する一対の外装側面部と、を有し、作動時における前記膨張部の膨張圧によって前記一対の外装側面部が破れ、或いは、前記第1外装主面部及び前記第2外装主面部のそれぞれに接続される各外装側面部の接続部が破壊されるように構成されていてもよい。
【0019】
また、前記膨張源供給部は、作動時に前記膨張部を膨張させるための膨張ガスを当該膨張部に供給するガス供給装置であり、前記ガス供給装置は、前記膨張ガスを前記膨張部に導入するための導管を有し、前記導管に開放弁が設けられていてもよい。
【0020】
また、本開示の技術は、着用者の頸部を保護する保護装置の作動方法としても特定できる。この場合、保護装置は、可撓性を有し、前記保護装置の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置可能な膨張ストラップであって、前記保護装置の作動時に膨張源が供給されることによって膨張可能な膨張部を含む膨張ストラップと、前記膨張部に膨張源を供給する膨張源供給部と、前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させる起動部と、
を備える。そして、保護装置の作動方法は、前記起動部が前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させ、着用者の頸部の動きを拘束する。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、保護対象者の頸部を迅速に保護することの可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態に係る保護装置を説明する図である。
【
図2】
図2は、頸部保護装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、膨張ストラップの断面構造を説明する図である。
【
図4】
図4は、ガス供給装置を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、頸部保護装置の制御部が実行する処理フローを示す図である。
【
図7】
図7は、膨張ストラップの膨張部が膨張した状況を説明する図である。
【
図8】
図8は、膨張ストラップの設定態様の変形例を説明する図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る頸部保護装置と従来の保護装置とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る保護装置及びその作動方法を説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0024】
本実施形態に係る保護装置は、
可撓性を有し、前記保護装置の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置可能な膨張ストラップであって、前記保護装置の作動時に膨張源が供給されることによって膨張可能な膨張部を含む膨張ストラップと、
前記膨張部に膨張源を供給する膨張源供給部と、
前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させる起動部と、
を備える。
【0025】
そして、保護装置の作動方法は、前記起動部が前記膨張源供給部を起動することによって前記膨張部を膨張させ、着用者の頸部の動きを拘束する。
【0026】
<実施形態>
図1は、実施形態に係る保護装置1を説明する図である。保護装置1は、保護対象者に装着されるウェアラブルタイプの保護装置であり、着用者(保護対象者)の頸部を保護するための装置である。保護装置1は、着用者(保護対象者)の頭部に装着されると共に頭部を保護するためのヘルメット200と、着用者(保護対象者)の頸部を保護するための頸部保護装置300と、を含んで構成されている。本明細書において、保護装置1を着用する着用者と保護対象者は同義として取り扱う。
【0027】
本実施形態における保護装置1は、一例として、頸部保護装置300がヘルメット200と一体に設けられている。但し、頸部保護装置300は、ヘルメット200と別体として独立して設けられていてもよい。なお、上段の(A)は、ヘルメット200を左側方から眺めた斜視図として図示され、(B)は、ヘルメット200を右側方から眺めた斜視図として図示されている。なお、
図1は、着用者がヘルメット200を着用(装着)した状態を示している。また、
図1は、頸部保護装置300の作動前の状態を示している。
【0028】
本実施形態におけるヘルメット200は、ハーフ型(略半球状)のヘルメット本体210、ヘルメット本体210を着用者(保護対象者)に固定するための固定用ストラップ2
20等を備えている。ヘルメット本体210は、着用者の頭部を保護する保護具である。ヘルメット本体210の内側には、転倒時などにおける衝撃を吸収するためのインナークッション(図示せず)が設けられていてもよい。インナークッションは、例えば発泡性ポリスチレンビーズ(EPS:Expanded Poly Styrene)などの発泡スチロールから構成されていてもよい。ヘルメット本体210は、例えばABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂やPC(Poly Carbonate)樹脂から形成されていてもよい。
【0029】
固定用ストラップ220は、いわゆる顎紐である。固定用ストラップ220は、着用者の顎に掛けることによりヘルメット本体210を着用者の頭部に固定するための紐状体であり、ヘルメット本体210の左右における左側縁210A及び右側縁210Bにそれぞれ取り付けられている。
【0030】
図1に示すように、固定用ストラップ220は、例えば、左側ストラップ部230A及び右側ストラップ部230B、顎下ストラップ部240、後方ストラップ部250等を含む。左側ストラップ部230Aは、ヘルメット本体210の左側縁210Aに取り付けられるストラップである。右側ストラップ部230Bは、ヘルメット本体210の右側縁210Bに取り付けられるストラップである。左側ストラップ部230A及び右側ストラップ部230Bはそれぞれ、第1上側ストラップ部260、第2上方ストラップ部270を含み、これらの下端側が連結部280A,280Bにおいて連結されている。
【0031】
勿論、
図1に示す固定用ストラップ220の態様は一例に過ぎないが、
図1に示す例では、連結部280A,280Bが着用者の耳下に配置されるようになっており、着用者がヘルメット200を装着した際に、左側ストラップ部230Aのそれぞれにおける第1上側ストラップ部260及び第2上方ストラップ部270が耳を囲むように略V字形状に配置される。また、
図1に示すように、第1上側ストラップ部260は、着用者における耳の前方位置に沿って配置され、第2上方ストラップ部270は、着用者における耳の後方位置に沿って配置される。
【0032】
なお、
図1に示すように、各連結部280A,280B間には、顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250が掛け渡されている。顎下ストラップ部240は、着用者における顎下部に沿った領域、すなわち、前頸部と顎下部との境界領域A1に沿って配置されるストラップ部であり、着用者の顎下部から耳下部にかけて配置される。顎下ストラップ部240は、例えば、中途部で2分割され、分割された顎下ストラップ部240同士がバックルなどの留め具(図示せず)を介して着脱自在に構成されていてもよい。また、後方ストラップ部は、着用者の後頸部と後頭部との境界領域A2に沿って配置されるストラップ部である。上記のように構成される固定用ストラップ220によって、ヘルメット200(ヘルメット本体210)を着用者の頭部に固定することができる。本実施形態において、顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250は各連結部280A,280Bを介して接続されている。より詳しくは、固定用ストラップ220を構成する顎下ストラップ部240、後方ストラップ部250、第1上側ストラップ部260、第2上方ストラップ部270は、それぞれ各連結部280A,280Bを介して相互に接続されている
【0033】
なお、固定用ストラップ220を構成する各ストラップ部は可撓性を有しており、着用者の肌にフィットさせることができる。つまり、固定用ストラップ220を構成する各ストラップ部(後述する膨張ストラップ340を含む)は、着用者の肌に接触するように配置可能である。なお、本明細書において、「頸部」とは、ヒトの頭部と胴体を繋ぐ細くなっている部分を指す。また、「頸部」のうち、主として後頭部側に位置する部位を「後頸部」と呼ぶ。「後頸部」は「うなじ部」とも呼ばれる場合がある。また、「頸部」のうち
、「後頸部」とは反対側の前側に位置する部位を「前頸部」と呼ぶ。「前頸部」は、「前喉部」とも呼ばれる場合がある。
【0034】
次に、頸部保護装置300について説明する。
図2は、頸部保護装置300の概略構成を示すブロック図である。頸部保護装置300は、膨張源供給部としてのガス供給装置310、起動部320、膨張ストラップ340等を備えている。また、起動部320は、制御部350、電源360、作動条件検知センサー370、装着状態検知センサー380等を含んで構成されている。
図1において、符号390は、ガス供給装置310、制御部350、電源360、作動条件検知センサー370等を収容する収容ケースである。
図1において、収容ケース390は、ヘルメット本体210の後部側に取り付けられているが、収容ケース390の配置する位置やその取り付け態様は特に限定されない。
【0035】
まず、膨張ストラップ340について説明する。本実施形態における膨張ストラップ340は、可撓性を有するストラップ(紐状体)であり、頸部保護装置300の作動前状態において、着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置される。膨張ストラップ340は、例えば、上述したヘルメット200における固定用ストラップ220の少なくとも一部によって形成されていてもよい。
【0036】
膨張ストラップ340は、頸部保護装置300の作動時に膨張源が供給されることによって膨張する。そして、膨張ストラップ340は、頸部保護装置300の作動時に膨張することによって頸部の周囲に存在する隙間を埋め、着用者における頭部および頸部の動きを拘束する。これにより、例えば、着用者が自転車走行中に転倒した際などに頭部および頸部が急な角度で曲がってしまうことを抑制するほか、ヘルメット200による保護に付加して着用者の頭部にかかる衝撃を低減し、頸部へのダメージを回避、軽減できる。なお、頸部保護装置300は、頭部および頸部の動きを完全に拘束する以外にも、多少動き代をもって拘束してもよい。即ち頸部保護装置300は、頭部および頸部の曲がる角度が着用者に影響のない範囲に収まるように拘束するものであってもよい。
【0037】
図3は、膨張ストラップ340の断面構造を説明する図である。(A)に膨張ストラップ340の第1態様を示し、(B)に膨張ストラップ340の第2態様を示し、(C)に膨張ストラップ340の第3態様を示す。
【0038】
まず、(A)に示す第1態様について説明する。第1態様において、膨張ストラップ340は、膨張源が供給されない芯紐部341と、当該芯紐部341に接触した状態で一体に設けられた膨張部342と、を有し、
図3に示す例では、芯紐部341に膨張部342が積層配置されている。芯紐部341は、可撓性を有するが、引張り方向に対してある程度の機械的強度を有する芯材であり、例えば、ポリプロピレン樹脂等によって形成されていてもよい。芯紐部341には、通常の自転車用ヘルメットの固定用ストラップを構成する材料を転用することができる。また、膨張ストラップ340の膨張部342は、例えば、膨張源が供給される前は萎んでおり、膨張源が供給されることで膨張する袋状のエアバッグである。ここで、符号341Aは、芯紐部341の外面であり、符号342Aは、膨張部342の外面である。膨張ストラップ340は、例えば、膨張部342の外面342Aが着用者の肌に面するように配置される。
【0039】
次に、(B)に示す第2態様について説明する。第2態様における膨張ストラップ340は、上述した芯紐部341の周囲を囲むように膨張部342が配置されている。符号342B,342Cは、膨張部342の第1主面、第2主面である。第2態様の膨張ストラップ340は、例えば、膨張部342の第1主面342B、第2主面342Cの何れかが着用者の肌に面するように配置される。
【0040】
次に、(C)に示す第3態様について説明する。第3態様における膨張ストラップ340は、頸部保護装置300の作動前において、膨張部342が外装材343に包まれた状態で配置されている。外装材343は、着用者の肌に接触した態様で配置される第1外装主面部344と、当該第1外装主面部344に対向配置される第2外装主面部345と、第1外装主面部344及び第2外装主面部345を接続する一対の外装側面部346A,346Bと、を有し、第1外装主面部344及び第2外装主面部345に挟まれた態様で袋状の膨張部342が折り畳まれた状態で配置されている。ここで、第1外装主面部344及び第2外装主面部345は、第1態様で説明した芯紐部341に相当する部材であってもよい。すなわち、第1外装主面部344及び第2外装主面部345は可撓性を有するが、引張り方向に対してある程度の機械的強度を有する芯材であり、例えば、ポリプロピレン樹脂等によって形成されていてもよい。
【0041】
膨張部342に膨張源が供給されて、外装材343内部の膨張部342が膨張し始めると、その膨張圧が外装材343に作用する。第3態様における膨張ストラップ340は、作動時における膨張部342の膨張圧によって一対の外装側面部346A,346Bが破れ、或いは、第1外装主面部344及び第2外装主面部345のそれぞれに接続(例えば、縫製)される各外装側面部346A,346Bの接続部が破壊される(例えば、縫製部が解ける)ように構成されている。これにより、第1外装主面部344及び第2外装主面部345が、膨張部342の膨張前の初期状態に比べて互いに離間し、継続して膨張部342が膨張する。なお、上記(A)~(C)で説明した態様は膨張ストラップ340の例示に過ぎない。
【0042】
また、膨張ストラップ340の膨張部342に供給される膨張源としては、例えば、膨張部342を膨張させるための膨張ガスが挙げられる。また、このような膨張ガスに代えて、膨張部342を膨張可能な発泡体を膨張源として採用してもよい。スプレータイプの膨張源供給部から発砲ウレタンなどの発泡体を膨張部342に供給することで、当該膨張部342を膨張させてもよい。(A)から(C)の態様例において、膨張部342が膨張したときに、着用者の頸部を過剰に圧迫することがないよう、例えば膨張部342のうち着用者の肌に接触する側の部位に比べて、それ以外の部位を膨張しやすくなるように膨張部342を構成してもよい。例えば、(A)の態様では、外面342Aと反対側の面や側面に相当する部位が外面342A側に比べて膨張しやすくなっていてもよい。(B)や(C)に示す態様においても、(A)に示す態様の側面部分に対応する部分を膨張しやすく設定できる。このような頸部保護装置300では、膨張部342が芯紐部341の幅方向に沿って広く膨張するため、首の高さ方向に沿って膨張部342が大きく展開する。そのため、着用者の頭部および頸部が大きく曲がることに対する抵抗力を発生させ易く、着用者の頸部をより適切に保護することが可能となる。
【0043】
以下では、固定用ストラップ220のうち、顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250を膨張ストラップ340として構成する態様を例に説明する。
【0044】
図4は、ガス供給装置310を模式的に示す図である。ガス供給装置310は、頸部保護装置300の作動時に膨張ストラップ340の膨張部342を膨張させるための膨張ガスを当該膨張部342に供給するための装置であり、膨張ガスを加圧した状態で貯蔵する貯蔵容器311と、貯蔵容器311のガス排出口311Aに一端側が接続された導管312を備える。導管312は、頸部保護装置300の作動時に、貯蔵容器311のガス排出口311Aから排出される膨張ガス(加圧ガス)を膨張ストラップ340の膨張部342に導く(輸送する)ための管部材である。本実施形態においては、固定用ストラップ220における顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250が膨張ストラップ340として構成されているため、導管312の先端側が二股の分岐枝部312A,312Bに
分岐されている。
図4においては、膨張ストラップ340を構成する顎下ストラップ部240の膨張部を符号3421によって示し、膨張ストラップ340を構成する後方ストラップ部250の膨張部を符号3422によって示している。膨張部3421,3422にはガス導入口3423,3424がそれぞれ設けられており、導管312における各分岐枝部312A,312Bがガス導入口3423,3424に接続されている。
【0045】
貯蔵容器311のガス排出口311Aには、当該ガス排出口311Aを閉鎖する弁体311Bが設けられており、頸部保護装置300(ガス供給装置310)の作動前においては弁体311Bによって貯蔵容器311が密閉されている。そして、頸部保護装置300の作動時には、ガス供給装置310の弁体311Bが開放されることで、貯蔵容器311の内部と導管312が連通する。これにより、貯蔵容器311から膨張ガス(加圧ガス)が導管312に排出され、膨張ガス(加圧ガス)が導管312を通じて膨張ストラップ340の膨張部342に供給される。一例として、導管312は、
図1に示すように、ヘルメット本体210の左側縁210Aにおける内側、左側ストラップ部230Aの第1上側ストラップ部260に沿って延在するように配置される。そして、例えば、膨張ストラップ340として構成される顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250が連結部280Aに接続される近傍箇所において、導管312における各分岐枝部312A,312Bが膨張部342に接続されている。なお、
図1及び
図4に示す符号330は、導管312に設けられた開放弁である。開放弁330は、頸部保護装置300(ガス供給装置310)の作動後に開放されることで、膨張ガスを外部に放出可能な弁体である。本実施形態では手動式の弁体として構成されている。
【0046】
次に、起動部320について説明する。上記のように起動部320は、制御部350、電源360、作動条件検知センサー370、装着状態検知センサー380等を含んで構成されており、膨張源供給部としてのガス供給装置310を起動することによって膨張ストラップ340の膨張部342を膨張させる装置である。制御部350は、電源360から電力の供給を受けて動作し、ガス供給装置310を起動させるためのコントロールユニットである。電源360は、例えば、リチウムイオンバッテリーや乾電池であってもよい。
【0047】
制御部350は、頸部保護装置300(ガス供給装置310)を作動させるべき作動条件が成立したときに、ガス供給装置310の弁体311Bを開放させる。例えば、制御部350は、ガス供給装置310の弁体311Bを開放可能なアクチュエータ等の作動機構(図示せず)を制御し、弁体311Bを開放させてもよい。勿論、ガス供給装置310の弁体311Bを開放する作動機構は、このような態様に限られない。例えば、弁体311Bを薄肉の金属板部材で構成し、制御部350が弁体311Bを開裂する開裂機構を作動させることによって弁体311Bを開放してもよい。
【0048】
図5は、制御部350の構成を示す図である。制御部350は、プロセッサ351、記憶部352、及び入出力部353等を備える。プロセッサ351は、制御部350における各種の演算処理を統括的に実行する。プロセッサ351は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの演算処理手段を有していてもよい。
【0049】
記憶部352は、例えば、主記憶部と、補助記憶部を備える。記憶部352の主記憶部は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)などを備え、例えプロセッサ351で演算処理に用いられるプログラムやデータ等の情報をキャッシュする。なお、記憶部352の主記憶部は、プロセッサ351と一体に形成されてもよい。記憶部352の補助記憶部は、RAM等の揮発性メモリ、ROM等の不揮発性メモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、又はリムーバブルメディアなどの記憶媒体から構成される。なお、リムーバブルメ
ディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、または、メモリカード等、外部から装着可能で、かつコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。記憶部352の補助記憶部には、頸部保護装置300の動作を実行するための、オペレーティングシステム(Operating System:OS)、各種プログラム、各種テーブルなどが記憶可能である。入出力部353は、例えば、作動条件検知センサー370、装着状態検知センサー380等の各種センサーからの情報(検出結果等)の入力、及び各種センサーや他の装置への情報(制御信号等)の出力を行うインターフェイスである。また、頸部保護装置300は、図示しない電源スイッチを有しており、電源スイッチの状態信号も入出力部353に入力される。
【0050】
作動条件検知センサー370は、所定の作動条件が成立したことを検知するためのセンサーである。所定の作動条件とは、頸部保護装置300を作動させるべき条件であり、例えば、ヘルメット200を着用する着用者が乗る自転車の転倒時や、その他、着用者が危険に晒されている条件等の例が挙げられる。作動条件検知センサー370は、例えば、加速度センサー、ジャイロセンサー(角速度センサー)等であってもよい。また、作動条件検知センサー370は、着用者の脳波を検知するバイタルセンサーであってもよい。バイタルセンサーによって、平生時の脳波と異なる脳波を検出して、着用者の危険状態を検知してもよい。バイタルセンサーは、着用者の頭部に接触する接触式センサーであってもよいし、非接触式センサーであってもよい。作動条件検知センサー370は、例えば、上述した加速度センサー、ジャイロセンサー(角速度センサー)、バイタルセンサーのうち、少なくとも1種類を含んでいる。勿論、作動条件検知センサー370として、加速度センサー、ジャイロセンサー(角速度センサー)、バイタルセンサーのうち、複数種類のセンサーを併用してもよい。また、作動条件検知センサー370は、作動条件を検知できるものであれば特に限定されず、上記例示したセンサー以外の検知装置(例えば、カメラやミリ波レーダーなど)を使用することも可能である。頸部保護装置300は、作動条件検知センサー370を備えているため、起動部320が適切なタイミングで頸部保護装置300を作動させることができる。
【0051】
また、装着状態検知センサー380は、着用者の頭部との接触状態を検知するセンサーであり、ヘルメット本体210の内側に複数配置されていてもよい。制御部350は、装着状態検知センサー380の検知信号に基づいて、ヘルメット200が着用されているかどうかを判断する。例えば、制御部350は、複数の装着状態検知センサー380が着用者の頭部との接触状態を検知しているときに、ヘルメット200が着用されていると判断してもよい。装着状態検知センサー380は、例えば感圧センサーであってもよい。
【0052】
次に、頸部保護装置300の作動方法について説明する。頸部保護装置300は、例えば、図示しない電源スイッチを有しており、当該電源スイッチがONとなっている状態では、制御部350は周期的に
図6の処理フローを繰り返し実行する。
図6は、頸部保護装置300の制御部350が実行する処理フローを示す図である。
【0053】
ステップS10において、制御部350は、装着状態検知センサー380の検知信号に基づいて、ヘルメット200が着用者に装着されているか否かを判定する。制御部350は、ヘルメット200が着用者に装着されていないと判断した場合、
図6の処理フローを一旦終了する。一方、ヘルメット200が着用者に装着されていると制御部350が判断した場合、ステップS20に進む。本実施形態における頸部保護装置300は装着状態検知センサー380を備えているため、ヘルメット200が着用されていないときに、頸部保護装置300が誤作動することを抑制できる。例えば、ヘルメット200が単体で衝撃を受けた際に、徒に頸部保護装置300が作動することを抑制できる。
【0054】
ステップS20において、制御部350は、頸部保護装置300の作動条件が成立して
いるか否かを判断する。上記のように、頸部保護装置300の作動条件は、作動条件検知センサー370の検知信号に基づいて判定される。本ステップにおいて、頸部保護装置300の作動条件が成立していると判断された場合にはステップS30に進み、当該作動条件が成立していないと判断された場合には
図6の処理フローを一旦終了する。
【0055】
ステップS30において、制御部350は、ガス供給装置310を作動させる。すなわち、貯蔵容器311の弁体311Bを開放し、貯蔵容器311内に貯蔵されていた膨張源としての膨張ガスを、導管312を通じて膨張ストラップ340の膨張部342に供給することによって、膨張部342を膨張させる。
図7は、膨張ストラップ340の膨張部342が膨張した状況を説明する図である。ここでは、ヘルメット200における顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250が膨張ストラップ340として形成されているため、これら顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250に設けられた膨張部342が膨張する。
【0056】
図7は、頸部保護装置300の作動後の状態を説明する図である。
図7に示すように、頸部保護装置300が作動することで、膨張ストラップ340として構成されている顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250における膨張部342が膨張する。これにより、ヘルメット200の着用者における頭部および頸部の動きを拘束することができる。つまり、例えば、自転車の転倒時などにおいて、転倒時の衝撃で着用者の頭部や頸部が急な角度で曲がってしまうことを抑制することができ、頸部へのダメージを回避、軽減できる。
【0057】
なお、本実施形態において、膨張ストラップ340は、頸部保護装置300の作動前状態において着用者の頸部と頭部との境界領域の少なくとも一部に沿うように且つ着用者の肌に接触するように配置されていればよい。
図8は、膨張ストラップ340の設定態様の変形例を説明する図である。(A)は、膨張ストラップ340を、着用者における後頸部と後頭部との境界領域A2のみに配置した例を示す。すなわち、この例では、ヘルメット200における固定用ストラップ220の一部である後方ストラップ部250を膨張ストラップ340として構成している。(B)は、膨張ストラップ340を、顎下ストラップ部240及び後方ストラップ部250に加えて、更に、第1上側ストラップ部260も膨張ストラップ340として構成する例を示している。勿論、
図8に示す態様も例示的なものであり、例えば、固定用ストラップ220の全体(全てのストラップ部)を膨張ストラップ340によって構成してもよい。上述の例では着用者の頸部および頭部が前後に曲がる場合の拘束について述べたが、例えば、頸部および頭部が左右方向に曲がる場合も考えられる。この場、顎下ストラップ部240あるいは後方ストラップ部250のうちの何れか、または両方における着用者の耳下領域に相当する部分を広く膨張させることで、衝撃を受けた際に着用者の頸部および頭部が左右に大きく振れることを抑制し、頸部をより適切に保護することができる。
【0058】
自転車の転倒時の際に、着用者の頸部は、頭部との境界領域を中心として折れ曲がる傾向がある。
図9は、実施形態に係る頸部保護装置300と従来の保護装置とを比較した図である。上段の(A)に実施形態に係る頸部保護装置300を示し、下段の(B)に従来の保護装置(以下、「従来型保護装置」という)を示す。従来型保護装置は、特許文献1に開示されているように、利用者が着衣する被服の襟に膨張可能なエアバッグ1000を取り付けた保護装置である。従来型保護装置においては、使用者が着衣する服の襟に取り付けられたエアバッグ1000を膨張させることによって使用者の頸部を保護することができたとしても、使用者の頸部と頭部との境界領域までエアバッグ1000が膨張するまでに時間が掛かってしまう。例えば、エアバッグ1000が完全膨張に近い状態にならないと、使用者の頸部の折れ曲がりを拘束する拘束機能が発現しにくくなる。これは、従来型保護装置のエアバッグ1000が使用者の着衣する服の襟に取り付けられており、エア
バッグ1000の取り付け位置と、使用者における頸部と頭部との境界領域までの距離が離れているからである。また、従来型保護装置においてはエアバッグ1000と使用者との固定が不十分であるため、使用者の頸部や頭部が傾いた際にエアバッグ1000も位置ずれを起こしやすく、拘束性能が不十分となりうる。
【0059】
これに対して、本実施形態における頸部保護装置300によれば、頸部保護装置300の作動前状態に着用者の頸部と頭部との境界領域に沿うように膨張ストラップ340が予め配置される。これによれば、頸部保護装置300を作動させるべき条件が成立した際に、即座に着用者の頸部の動きを拘束できる。これにより、ヘルメット200の着用者が転倒した時に、その衝撃によって着用者の頸部の曲がり角度がより小さい状態で頸部保護装置300による保護機能(すなわち、頸部の拘束機能)を発現させることができる。そのため、着用者の頸部へのダメージをより好適に抑制、軽減することが可能となる。
【0060】
更に、本実施形態における頸部保護装置300によれば、膨張ストラップ340を、保護する対象となる着用者の頸部と頭部との境界領域に直接的に配置できるため、膨張ストラップ340の膨張部342を膨張させるために供給する膨張源の量を抑えることができる。これによれば、膨張ストラップ340における膨張部342の膨張速度を確保しつつ、頸部保護装置300のコンパクト化を実現できる。
【0061】
また、人体の構造上、着用者の顔の向きが横方向に変わると、それに追従して、胴体に対して頸部を捻る動作(横方向への回転動作)が起こる。つまり、胴体に対する頸部の横方向(水平方向)の相対角度は、着用者の顔の向きに応じて変更されることとなる。その際、
図9の下段に示すような従来型保護装置のように、使用者の着衣する服の襟にエアバッグ1000が取り付けられていると、胴体に対するエアバッグ1000の相対位置関係が固定されてしまい、エアバッグ1000の向きを頸部の捻り動作に追従して変更することはできない。つまり、従来型保護装置ではエアバッグ1000が使用者の胴体に直接固定されているわけではないため、使用者の頸部あるいは頭部の動きに起因してエアバッグ1000が位置ずれを起こす可能性があり、拘束性能が充分に発現できない場合がある。
【0062】
これに対して、本実施形態における頸部保護装置300の膨張ストラップ340は、可撓性を有しており、着用者の肌に接触するように配置することができる。そのため、頸部保護装置300の作動前に着用者が頸部を横方向(水平方向)に捻っていたとしても、膨張ストラップ340を着用者の頸部と頭部との境界領域にフィットさせた状態に維持することができる。これによれば、着用者の顔が正面向き、横向きの何れにおいても、そのよう強を受けず、膨張ストラップ340を着用者の頸部と頭部との境界領域にフィットさせておくことができる。つまり、頸部保護装置300の作動条件が成立した時点における着用者の顔の向き(頸部の横方向への捻り度合い)に関わらず、常に、着用者の頸部と頭部との境界領域にフィットした状態の膨張ストラップ340を膨張させることが可能となり、頸部の適切な保護機能を発揮できる。例えば、
図3の(A)に示す第1態様の膨張ストラップ340の膨張部342側を着用者の肌に面するように配置した場合、膨張部342が頸部の肌面に向かって膨張し、頸部を拘束することとなるが、その反力は芯紐部341を外側に広げようとする方向に作用する。これに対して、膨張ストラップ340における芯紐部341は適度な剛性を有しているため、芯紐部341が上記反力に抗することができる結果、膨張部342によって頸部の拘束効果を助長することが可能となる。
【0063】
なお、頸部保護装置300の作動によって着用者の頸部を保護した後は、必要に応じて、着用者は開放弁330を操作し、導管312内のガスを大気開放する。これにより、膨張部342の膨張度合いを低減することができ、ヘルメット200を脱ぎやすくなる。
【0064】
また、本実施形態において、膨張源供給部としてのガス供給装置310と、起動部32
0は、ヘルメット200に対して着脱自在であってもよい。上記の態様においては、収容ケース390がヘルメット本体210に対して着脱自在に構成されていてもよい。このように、ガス供給装置310及び起動部320をヘルメット200に対して着脱式にすることで、例えば、ヘルメット200の買い替え時において、未作動のガス供給装置310及び起動部320を新しいヘルメット200に容易に移設できる。例えば、制御部350、電源360、各種センサー等は、スナップ式の固定具が付いた紐などによってヘルメット本体210に着脱自在に固定されてもよいし、ヘルメット本体210の内側に形成された適宜の挿入ポケットに挿入されてもよい。挿入ポケットには、例えば、開口部をファスナーなどで開閉自在とすることで、ヘルメット本体210に対して着脱自在とすることができる。また、ガス供給装置310は、衝撃を受けてもヘルメット本体210から脱落しないように、例えば、ロック付きのカートリッジ式にしておき、ヘルメット本体210における所定の収容部に挿入してもよい。
【0065】
また、本実施形態の頸部保護装置300は種々の変形例を採用できる。例えば、上記実施形態で説明した頸部保護装置300は、起動部320における作動条件検知センサー370の検出結果に基づいて制御部350がガス供給装置310を作動させる態様について説明したが、例えば、着用者が手動で操作する手動操作部(図示せず)をヘルメット本体210に設け、着用者による手動操作部の操作を受け付けることを契機として頸部保護装置300が作動するように構成されていてもよい。例えば、
図4で説明したガス供給装置310において、膨張ガス(加圧ガス)を貯蔵する貯蔵容器311のガス排出口311Aを密封する弁体311Bと手動操作部との間に適宜の機械的機構(例えば、発条やワイヤー等の機械的要素の組み合わせであってもよい)を介在させ、着用者が手動操作部を操作することによって頸部保護装置300を作動させてもよい。手動操作部の具体的な構造については特に限定されず、例えば、着用者が操作可能な手動スイッチや、ロックピン等をヘルメット本体210に設けてもよく、このような手動操作部が操作されることで貯蔵容器311のガス排出口311Aが開放される構造を採用してもよい。
【0066】
また、ガス供給装置310(膨張源供給部)は、エアバッグを膨張させる際に用いられるパイロ式のガス発生器であってもよい。この種のガス発生器は公知であり、詳しい説明を省略するが、ガス発生器は、内部にガス発生剤を収容するハウジングと、作動電流が供給されることで作動すると共にハウジング内のガス発生剤に点火するパイロ式点火器と、を備え、ガス発生剤の燃焼によって生成された膨張ガスを、導管312を通じて膨張ストラップ340の膨張部342に供給してもよい。この場合、ガス発生剤が、膨張ストラップ340における膨張部342の膨張源に相当する。
【0067】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・保護装置
200・・・ヘルメット
210・・・ヘルメット本体
220・・・固定用ストラップ
240・・・顎下ストラップ部
250・・・後方ストラップ部
300・・・頸部保護装置
310・・・ガス供給装置
320・・・起動部
330・・・開放弁
340・・・膨張ストラップ
342・・・膨張部
350・・・制御部