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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151728
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】下肢着用具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/02 20060101AFI20241018BHJP
   A41D 13/06 20060101ALI20241018BHJP
   A61H 3/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A61F5/02 N
A41D13/06
A61H3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065358
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】川原 慎也
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃一
(72)【発明者】
【氏名】稲田 康二郎
(72)【発明者】
【氏名】大畑 光司
【テーマコード(参考)】
3B211
4C046
4C098
【Fターム(参考)】
3B211AA15
3B211AB08
3B211AC17
4C046AA08
4C046AA09
4C046AA25
4C046BB09
4C046CC01
4C046DD06
4C046DD39
4C046DD41
4C098AA02
4C098BB09
4C098BB11
4C098BC03
4C098BC08
4C098BC15
4C098BD13
4C098BD15
(57)【要約】
【課題】下肢の変形や機能改善に必要な内反矯正力、背屈矯正力、矯正力の安定性と、動作時に起こる矯正部位や着用具における圧迫感等に対しての緩和を両立した下肢着用具を提供することである。
【解決手段】下肢着用具であって、
膝部および/または膝下部の少なくとも一部を覆う織物A1と、
指骨および/または中足骨を覆う織物A2と、
一方の端部が前記織物A1に、他方の端部が前記織物A2に連結された織物A3と、
一方の端部が前記織物A2に連結され、前記織物A3との内角度が40°~120°となるように交差し、踵骨および/またはアキレス腱の少なくとも一部を覆い、他方の端部が足首部または甲部に位置する織編物Bとを含む下肢着用具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下肢着用具であって、
膝部および/または膝下部の少なくとも一部を覆う織物A1と、
指骨および/または中足骨を覆う織物A2と、
一方の端部が前記織物A1に、他方の端部が前記織物A2に連結された織物A3と、
一方の端部が前記織物A2に連結され、前記織物A3との内角度が40°~120°となるように交差し、踵骨および/またはアキレス腱の少なくとも一部を覆い、他方の端部が足首部または甲部に位置する織編物Bとを含む下肢着用具。
【請求項2】
前記織物A1~A3が帯状であり、少なくとも一つが、荷重100N/5cm時の伸長率が短手方向および/または長手方向で0.5%~50%である請求項1に記載の下肢着用具。
【請求項3】
前記織編物Bが帯状であり、荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で50%以上である請求項1または2に記載の下肢着用具。
【請求項4】
前記織物A1~A3、織編物Bの荷重100N/5cm時の長手方向の伸長率をそれぞれA1EX、A2EX、A3EX、BEXとするとき、BEX > A1EX ≧ A2EX ≧ A3EXである請求項1~3のいずれかに記載の下肢着用具。
【請求項5】
前記織編物Bの剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)が100mm以下である請求項1~4のいずれかに記載の下肢着用具。
【請求項6】
前記織物A1と前記織物A3との内角度が30°~90°である請求項1~5のいずれかに記載の下肢着用具。
【請求項7】
前記織物A1~A3および織編物Bを構成する繊維として1種類以上の熱可塑性エラストマー繊維を含む請求項1~6のいずかに記載の下肢着用具。
【請求項8】
内反、外反、尖足、下垂足のいずれかを矯正する用途で用いられる請求項1~7のいずれかに記載の下肢着用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢着用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脳卒中片麻痺、小児麻痺等の障害、あるいは、その他の障害で、下肢の機能低下や損失により、下肢の筋肉や関節を自力では自由に動かすことができない人のための、尖足、下垂足等の変形防止、機能改善、日常の動作向上、を目的とした下肢着用具が種々提案されている。前記下肢着用具は金属やプラスチック等の硬い固定式のものが主流であり、患部への固定力、矯正力に優れている。
【0003】
また、柔軟な素材を用いた下肢着用具も提案されており、例えば、特許文献1には、足の動きを封じることなく、足先を上方に持ち上げることのできる足の矯正用装具が開示されている。具体的には、人の足に装着される第1の装着体と、人の大腿に装着される第2の装着体と、その両者の間に掛け渡されるように取り付けられるゴムバンド等の伸縮体とからなり、この伸縮体を引き延ばすようにして装着すれば、その伸縮体の備える弾性力が、第1の装着体と第2の装着体を近づけるように作用し、その結果、足は、下腿前面側に向かって弾性的に付勢され、足先は、上方に持ち上げられるという技術である。また、付勢力は、ある程度の足の動きは可能であり、足先を下げる機能が損なわれていない場合は、付勢力に抗して自力で足先を下げることができるという技術も開示されている。
【0004】
また特許文献2には足先から膝までの任意の箇所において矯正することができる下肢着用具が開示されている。具体的には踝を含む足首部や膝部の少なくとも一部を覆う第1の織物帯と、足部を覆う第2の織物帯と、足首部や膝部にかけて位置するように配置される第3の織物帯(矯正織物帯)と、第4の織物帯の長手方向端部の一方を第1の織物帯に、もう一方の端部を第2の織物帯にそれぞれ連結される補助織物帯を有する構造であり、任意の箇所を引き上げることで矯正する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-313553号公報
【特許文献2】国際公開第2021/199648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属やプラスチック等の硬質、または半硬質の硬い素材を使用した固定式の下肢矯正具は、装着した際に肌への接触による違和感、身体を動かす際、硬い部分があたることによる痛みや見た目の悪さ、下肢矯正具を装着する足の靴のサイズを大きくする必要があり左右同じサイズの靴がはけない等、患者の身体的および精神的な苦痛を伴う。また、介助者からも着脱性の悪さが指摘されている。更に自宅内で固定式の下肢矯正具を装着して歩行すると、堅い素材の部分が床や内壁などに当たり、擦り付けられるなどして、いずれの側にも傷がつくなど、損壊してしまうことから、屋内では前記下肢矯正具を装着しない等の多くの問題点が指摘されている。
【0007】
また、上記特許文献1記載の下肢矯正用装具は、2つの装着体を伸縮体によって近付けることで作用させており、2つの装着体の着用と伸縮体の装着に手間がかかるという問題がある。また、伸縮体はゴムバンドに代表される弾性的に伸縮する素材からなるものであり、その付勢力は、足先を上方に持ち上げるのみであるため、足部を元の正常位置への誘導および保持することができず、所望な矯正効果または機能改善効果が得られないという問題がある。
【0008】
さらに、上記特許文献2記載の下肢矯正具は、任意の矯正箇所を引き上げて矯正する際に、膝から足先にかけて1本の織物帯(矯正織物帯)で矯正する場合には着用当初は十分な矯正力を発現するものの、過剰な矯正力となりやすいことと、一方向の力がかかることから矯正部位が動いてしまい長時間着用していると矯正力が弱まる可能性がある。また、膝から足先まで織物帯(矯正織物帯)を連結した上で、補助として前記織物帯の伸長率と同等以下の織物帯(補助織物帯)を連結させて矯正する場合には、前記補助織物体にかかる荷重が大きくなるため矯正力が弱まることや圧迫感が発生するといった懸念があり、更なる改善が求められていた。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点を改善し、下肢の変形や機能改善に必要な内反矯正力、背屈矯正力、矯正力の安定性と、動作時に起こる矯正部位や着用具における圧迫感等に対しての緩和を両立した下肢着用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。
(1)下肢着用具であって、
膝部および/または膝下部の少なくとも一部を覆う織物A1と、
指骨および/または中足骨を覆う織物A2と、
一方の端部が前記織物A1に、他方の端部が前記織物A2に連結された織物A3と、
一方の端部が前記織物A2に連結され、前記織物A3との内角度が40°~120°となるように交差し、踵骨および/またはアキレス腱の少なくとも一部を覆い、他方の端部が足首部または甲部に位置する織編物Bとを含む下肢着用具。
(2)前記織物A1~A3が帯状であり、少なくとも一つが、荷重100N/5cm時の伸長率が短手方向および/または長手方向で0.5%~50%である(1)に記載の下肢着用具。
(3)前記織編物Bが帯状であり、荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で50%以上である(1)または(2)に記載の下肢着用具。
(4)前記織物A1~A3、織編物Bの荷重100N/5cm時の長手方向の伸長率をそれぞれA1EX、A2EX、A3EX、BEXとするとき、BEX > A1EX ≧ A2EX ≧ A3EXである(1)~(3)のいずれかに記載の下肢着用具。
(5)前記織編物Bの剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)が100mm以下である(1)~(4)のいずれかに記載の下肢着用具。
(6)前記織物A1と前記織物A3との内角度が30°~90°である(1)~(5)のいずれかに記載の下肢着用具。
(7)前記織物A1~A3および織編物Bを構成する繊維として1種類以上の熱可塑性エラストマー繊維を含む(1)~(6)のいずかに記載の下肢着用具。
(8)内反、外反、尖足、下垂足のいずれかを矯正する用途で用いられる(1)~(7)のいずれかに記載の下肢着用具。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、下肢の変形や機能改善に必要な内反矯正力、背屈矯正力、矯正力の安定性と、動作時に起こる矯正部位や着用具における圧迫感等に対しての緩和を両立した下肢着用具を提供することができる。
【0012】
本発明による下肢矯正具は、足部の変形防止、機能改善、日常生活の動作向上を目的とした治療用、更生用の下肢装具といった装具類に好適に使用することができるが、その適用範囲がこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明において各織物、織編物、部材を連結させた一実施態様を示す概念図である。
図2図1における下腿膝部の破線円を拡大した概念図である。
図3図1における下腿足先部の破線円を拡大した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による下肢着用具は、膝部および/または膝下部の少なくとも一部を覆う織物A1と、指骨および/または中足骨を覆う織物A2と、織物A1と織物A2を連結させる織物A3と、一方の端部が前記織物A2に連結され、前記織物A3との内角度が40°~120°となるように交差し、踵骨および/またはアキレス腱の少なくとも一部を覆い、他方の端部が足首部または甲部に位置する織編物Bとを含む。
【0015】
図1は本発明において各織物を連結させた一実施態様を示す概念図であり、図2は、図1中破線の下腿膝部の破線円で示される部分の拡大図である。なお、図1は右足を例にとり説明したものであるが、左足においても同様である。また、図1では素足に織物A1~A3および織編物Bのみで構成される下肢着用具を図示しているが、レッグウェアに織物A1~A3および織編物Bを配して下肢着用具を構成するものであってもよい。また、本発明において、「織物A1」等、特段の記載をせず単に「織物A」と表記する場合には、織物A1、A2、A3の全てを示すものとする。
【0016】
前記織物A1(1)は前記織物A3(3)と連結しており、前記下肢着用具を装着時に前記織物A2(2)および織物A3(3)による所望の矯正力に対して、ズレ、破れ、過度な伸長等、矯正力を低減させることが無く、前記織物A2(2)および織物A3(3)による矯正力を維持させる支点としての機能を備える。
【0017】
前記織物A1(1)は、膝部および/または膝下部の少なくとも一部を覆うものであり、膝部および/または膝下部の少なくとも一部を周回するように包囲する。これは、装着時において前記織物A2(2)ならびに織物A3(3)による矯正力によってずり下がることに対して、織物A1を膝部および/または膝下部の少なくとも一部を周回するように包囲して引っ掛けることで防止させ、前記織物A1(1)が支点として機能し、矯正力が安定する。なお、ここでいう膝部とは、脹脛上部から膝窩、膝上までを含み、膝下部の少なくとも一部を覆うとは脛骨の少なくとも一部を覆うように周回するように包囲していればよい。前記織物A1(1)の少なくとも一つの端部は開閉可能に構成し、着用者に応じてサイズ、着圧の微調整が可能であるようにすることが好ましい。
【0018】
前記織物A2(2)は、指骨および/または中足骨を含む足部を覆うものであり、通常指骨および/または中足骨を含む足部を周回するように覆う。前記織物A2(2)は支点および作用点となるため、矯正力を安定させる上で指骨および中足骨を含む足部を覆うことが好ましい。前記織物A2(2)の少なくとも一つの端部は織物A3と連結しやすい構造に構成し、着用者に応じて矯正力、矯正位置、サイズ、着圧の微調整が可能であるようにすることが好ましい。
【0019】
前記織物A3(3)は、一方の端部が前記織物A1に、他方の端部が前記織物A2に連結され、織物A1と織物A2を連結させるように配置される。前記織物A3は、第5中足骨(5)付近で織物A2(2)と連結するようにしてもよいし、立方骨(7)から足裏側の中足骨を覆うように足裏を経由して第1中足骨(4)の方向へ延長し、その途中である足裏側の中足骨付近で前記織物A2(2)に連結してもよい。前記織物A3の一部には所望の矯正力に応じて微調整が可能な長さ調節機能をもつことが好ましい。ここでいう長さ調節機能とは以下に限定されないが、スナップボタン、面ファスナー、バックル、カン等を用いることができる。前記織物A3の数は、一つまたはそれ以上の複数であってもよい。A2と織物A3とは上記の長さ調節機能で繋げてもよく、一体物の織物により織物A2と織物A3を構成するものであってもよい。
【0020】
前記織編物B(4)は一方の端部が織物A2に連結され、織物A3との内角度(14)が40°~120°となるように交差し、踵骨および/またはアキレス腱の少なくとも一部を覆い、織編物Bの他方の端部が足首部または甲部に位置するように配置される。織編物Bの一方の端部と織物A2との連結方法は限定されないが、縫い付けや面ファスナー、スナップボタンなどを用いることができる。また、ここでいう足首部とは踵骨(8)や距骨(9)の少なくとも一部を含む足部のことをいう。
【0021】
織編物Bは、図1に示すように前記第1中足骨(5)を含む足部を覆い、当該足部から足甲にわたって外側部から踵骨および/またはアキレス腱を含む足首部を外側から内側にかけて覆うように配置してもよいし、また、当該足部から足甲にわたって外側部から踵骨および/またはアキレス腱を含む足首部を外側から内側にかけて覆ってもよい。図1において示していないが、別法として前記第1中足骨(5)を含む足部を覆い足底内側から外側にわたして踵骨(8)の外側から踵骨および/またはアキレス腱を含む足首部の内側にかけて覆うように配置してもよい。このように配置することで、前記織物A2(2)および織物A3(3)による過剰な矯正力による圧迫感を抑制することが可能である。特に後者の配置は、母指球(親指)から着地しやすくなる点でより好ましい。
【0022】
前記織編物Bにおいて、後述する織物A3との内角度の要件とともに、他方の端部が足首部または甲部に位置するように配置されることが重要である。足首部または甲部に位置することで織物A3(2)が一直線に張って着用者から浮くことを抑制し、織物A3をより強固に押さえつけられて安定した背屈矯正力、内反矯正力が発現し、靴の形への馴染みやすさを向上させる。さらに足首に巻くことで足全体への圧迫感が小さく、着用快適性に優れる。織編物Bの他方の端部を足首部または甲部に位置するように配置するにあたっては、図1のように織物A1~A3および織編物Bのみで構成される下肢着用具の場合には、織編物B自身に他方の端部を固定するのでもよい。また、レッグウェアに織物A1~A3および織編物Bを配した下肢着用具の場合には、面ファスナー等を用いてレッグウェアの足首部または甲部に織編物Bの他方の端部を固定してもよい。
【0023】
前記織編物Bは、織物A3と交差し、織物A3と織編物Bとの内角度は40°~120°となるように交差することが必要である。なお、前記織編物Bと織物A3との内角度(15)は、前記下肢矯正具を矯正が必要な片足に着用する際、前記織編物B(4)の中心線と前記織物A3(3)の中心線によりなす角度をいう。上記中心線は図3中、破線にて示した。
【0024】
内角度が40°より小さいと織物A3と織編物Bが脛付近で交わることとなり、足首部の織物A3の浮きが十分に抑えられず背屈矯正力内反矯正力および矯正力の安定性が不十分となる。内角度は60°より大きいことがより好ましい。一方、内角度が120°より大きいと織物A3と織編物Bが足先側で交わることとなり、足首部の織物A3の浮きが十分に抑えられず背屈矯正力、内反矯正力および矯正力の安定性が不十分となる。内角度は、90°より小さいことがより好ましい。よって上記範囲とすることで、足首部の織物A3の浮きを抑え、強い背屈矯正力および内反矯正力を発現することができるとともに、矯正力の安定性を高く保つことができる。また、織物A3の浮きを抑えることで足の形に沿って配置するため靴を履いたときの着用快適性が向上する。
【0025】
織物A3と織編物Bの交差部におけるそれぞれの位置関係は、織編物Bが織物A3より足の甲側、言い換えると着用者側にあってもよく、一方で前述とは反対側、言い換えると織編物Bが織物A3着用者の反対側にあってもよい。ただし、織編物Bが織物A3よりも着用者側にある場合には、後述する方法などで織編物Bと織物A3との連結を行い、織物A3の浮きを抑える必要がある。加えて、さらに着用経時での位置ズレによる矯正力低下を抑制するため、織物A3またはレッグウェアには、織編物Bを交差させる箇所に対して位置を定めるガイドを配置しておくことが好ましい。これにより適切な矯正位置が保たれることで、機能回復、日常の歩行動作向上により良い効果を発揮することができる。また、前記織編物Bは、織物A3(3)による所望の矯正力に対して微調整が可能な長さ調節機能をもつことが好ましい。ここでいう長さ調節機能とは以下に限定されないが、スナップボタン、面ファスナー、バックル、カン等を用いることができる。
【0026】
前記織編物Bの数は、一つまたはそれ以上の複数であってもよい。
【0027】
前記織物A1~3、織編物Bとの連結方法は、所望方向の矯正力を満足する限りは、適宜選定することができる。具体的には、ミシン等による縫い付け、スナップボタン、面ファスナー、バックル、カン等が用いられる。尚、織物として一体として各部位を構成している場合には上述した別途の連結部は不要である。
【0028】
前記織物A1~A3および織編物Bは帯状であることが好ましい。また、前記織物Aならびに織編物Bの幅が30mm以上200mm以下であることが好ましい。幅が30mm以上であると強度が向上し、さらには体との接触面積を一定量取ることで織物Aならびに織編物Bが体に食い込みにくくなり圧迫感をより軽減することができる。また、幅200mm以下とすることで生地のごわつきによる着用快適性の低下を防ぐことができ、さらに所望の方向に矯正力をより向上させることができる。
【0029】
前記織物A1~A3のうち少なくとも一つは、荷重100N/5cm時の伸長率が短手方向および/または長手方向で0.5%~50%であることが好ましい。伸長率が0.5%以上であることにより、矯正部位を過度に固定することなく適度に伸長することとなり、可動域を極端に制限することがなく矯正部位と矯正具との擦れが低減されることや、長時間着用時に矯正位置のズレをある程度抑えられるため矯正力の安定性があり、矯正部を動かした際に適度に伸びることで圧迫感を低減できる効果がある。伸長率は1%以上がより好ましい。一方、伸長率が50%以下であることにより、適度に伸び止まり、背屈矯正力をより向上させることができる。伸長率は20%以下がより好ましい。
【0030】
前記織編物B(4)は足首部への配置の容易さや着用者の経時での快適性の観点から適度に伸びやすく縮みやすい伸長率の織編物を選択し、安定かつ適度な矯正力を発現できる点から、前記織編物B(4)は荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で50%以上となることが好ましく、100%以上となることがより好ましい。伸長率が50%以上であることにより、織物A2を適度に押さえつけることができるため背屈矯正力がより向上することや、適度な伸長率であることで矯正部を動かした際に矯正部の稼働に追従することで圧迫感をより低減することができる。さらに伸長率が100%以上であることにより、織物Aによる背屈矯正ならびに内反矯正を阻害することなく長時間着用においても矯正力の安定性が高く保たれる。上記観点より、伸長率は大きければ大きいほどよいが、極端に高い伸長率であると織編物が弛んでしまい、十分に織物A3を抑えることができずに内反矯正力ならびに背屈矯正力が低下する恐れや、高い伸度領域での伸長に伴う強いスナップバックにより、足の締め付けひいては痛みが発生する恐れがあることから、伸長率は500%以下が好ましく、400%以下がより好ましい。
【0031】
前記織物A1~A3、織編物Bにおいて荷重100N/5cm時の長手方向の伸長率をそれぞれA1EX、A2EX、A3EX、BEXとするとき、BEX>A1EX≧A2EX≧A3EXとすることが好ましい。同様の生地で作製できる点で効率的であることから、A1EX=A2EX=A3であることがより好ましい。なお、この場合に対して“=”は厳密に同じである必要はなく、BEX>A1EXは維持するが、それぞれA1EX、A2EX、A3EXが概ね10%以内であることを示す。
【0032】
上記の範囲とすることで、本下肢着用具を装着して動作する時に、着用者の足部が加える力に対し、元の矯正位置に戻す力が適度に作用することで、適切な矯正位置が保たれ、機能回復、日常の歩行動作向上に効果があるため好ましい。加えて、本発明の下肢矯正具を着用して長期的に動作した場合においても、型崩れしにくく、初期の性能を長期持続的に発揮することができ、適度な固定力、矯正力がより長期間保持されることで、持続的に使用可能となり、機能回復、日常の動作向上に、より効果を発揮する。
【0033】
前記織編物Bの剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)は、5mm以上であり100mm以下であることが好ましい。剛軟度が5mm以上であることにより、織編物Bが身体に過剰に密着して血流を妨げることや圧迫感をより低減することができる。剛軟度は10mm以上がより好ましい。一方、剛軟度が100mm以下であることにより、矯正部の形に沿って配置することができるため強固に織物Aを押さえつけられ、背屈矯正および内反矯正が向上する。さらに剛軟度が70mm以下であることにより、矯正部の稼働時に追従することができるため擦れを低減することができる。また、足の形に沿うことで靴を履いたときの着用快適性が向上する。
【0034】
前記下肢矯正具において、装着時における前記織物A2(2)および織物A3(3)による所望の矯正力を発現させながら、かつ足関節を所望の方向へ誘導させるため、装着時における前記織物A1(1)と前記織物A3(3)の連結部分の内角度は、30°~90°が好ましく、40°~80°であることがより好ましい。上記の範囲とすることで織物A3が捩れたり変形することなく織物A2と連結させることができ、矯正力をより安定して発現することができる。
【0035】
前記織物A1と前記織物A3との内角度(14)は、前記下肢矯正具を矯正が必要な片足に着用する際、前記織物A1(1)の中心線と前記織物A3(3)の中心線によりなす角度のうち90°以下の角度をいう。上記中心線は図2中、破線にて示した。内角度が30°より大きいと、装着時における織物Bによる所望の矯正力を十分に発現させることができ、かつ、矯正が必要な足関節を所望の方向へ誘導することができる。
【0036】
上記において足関節とは、足首の関節のことで、脛骨(9)、腓骨(10)、距骨(8)が組み合わされて、関節に存在する靭帯により補強され、足首を上下にそらしたり、左右に向けたりする運動を担う関節である。
【0037】
前記下肢着用具における織物A1~A3および織編物Bを構成する繊維として1種類以上の熱可塑性エラストマー繊維を含むことが好ましい。
【0038】
前記熱可塑性エラストマー繊維としては、具体的には、ポリウレタン弾性繊維、熱可塑性ポリエステルエラストマー繊維等を使用することができるが、寸法安定性や高弾性の伸縮性が得られ易い点から、熱可塑性ポリエステルエラストマー繊維が挙げられる。
【0039】
前記織物Aならびに織編物Bに使用される糸の形態も本発明で規定する範囲を満たす限り短繊維、長繊維いずれでもよい。糸の材質においても本発明で規定する範囲を満たす限り天然繊維、合成繊維などの限定はなく、各種繊維が使用可能である。
【0040】
具体的にはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、熱可塑性エラストマー繊維等の合成繊維、レーヨン、綿等のセルロース繊維、ウール、絹等の天然繊維を適宜使用することができる。上記の糸は、これらの繊維は単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。
【0041】
織物Aに用いる繊維の繊度としては、30デシテックス~1500デシテックスであることが好ましく、50デシテックス~1000デシテックスであることがより好ましい。
【0042】
前記弾性繊維とその他の繊維(非弾性繊維)を用いる場合、弾性繊維の繊度は50デシテックス~1500デシテックスであることが好ましく、156デシテックス~1000デシテックスであることがより好ましい。その他繊維である非弾性繊維の繊度としては、30デシテックス~1000デシテックスであることが好ましく、50デシテックス~500デシテックスであることがより好ましい。
【0043】
前記のとおり使用する糸の一部に弾性繊維を使用することが好ましいが、具体的には、経糸または緯糸のいずれか一方、または両方の少なくとも一部に弾性繊維を用いた構成とすることで、織物が持つ寸法安定性と、弾性繊維が持つ伸縮性や伸長後の良好な回復性を備え、足関節を所望方向へ誘導するための固定力、矯正力や寸法安定性、動作への追従性を適宜調整することができる。
【0044】
上記の場合において、使用する弾性繊維の使用割合は所望の特性が得られる範囲で適宜決定されるが、好ましくは経糸あるいは緯糸全体として、または織物全体として、30重量%~70重量%程度である。
【0045】
また、上記織物Aにおいて、弾性繊維以外の繊維であるその他の繊維(非弾性糸)を用いる場合、そのクリンプ率を適宜調整することにより、その伸長率を調整することが可能である。経糸または緯糸のいずれか一方に非弾性繊維を用い、そのクリンプ率を5%以上30%以下とすると、所望の伸長性を得ることができる。好ましくは10%以上30%以下である。
【0046】
また、経糸または緯糸の何れか一方に弾性繊維と非弾性繊維を用いる場合、非弾性繊維のクリンプ率を5%以上30%以下とすることが好ましい。これにより、弾性繊維が伸長する際に非弾性繊維もクリンプ率に応じて追従し、かつ弾性繊維による過度な伸長を止めることができる。その場合の弾性繊維のクリンプ率も所望する特性に応じて適宜設定されるが、0%以上5%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明で用いる織物Aの織密度は経糸密度、緯糸密度において、それぞれ20本/inch(2.54cm)~150本/inch(2.54cm)であることが好ましく、30本/inch(2.54cm)~100本/inch(2.54cm)であることがより好ましい。
【0048】
前記織物Aおよび織編物Bの織組織は、本発明で規定する範囲を満たす限り特に限定されるものではないが、平織、綾織、朱子織や、これらの組織を組み合わせた二重織等の組織を、少なくとも1種以上、用途に応じて適宜選定することができる。
【0049】
前記織編物Bの編組織は、本発明で規定する範囲を満たす限り特に限定されるものではないが、丸編、経編などから選択され、形態安定性や適度な伸縮性がある観点から経編であることが好ましい。
【0050】
前記下肢着用具は内反、外反、尖足、下垂足のいずれかを矯正する用途で使用してもよい。
【0051】
内反および外反は、アキレス腱や、下腿三頭筋等下肢に存在する筋肉の拘縮により、あるいは異常な筋緊張等により、足先が内側へ向く(内反)あるいは足先が外側に向く(外反)症状である。
【0052】
尖足は、足関節の変形の一種で、つま先立ちのような態様で足首が伸びた状態となり、自由にもとに戻らず、立位時、歩行時に踵が床に着かないか、着きにくくなる症状である。また足関節それ自体の変形の有無にかかわらず、アキレス腱の拘縮や下腿三頭筋等下肢に存在する筋肉の拘縮により、足先を下に向かせる力が発生してしまい、足が正常位置へ戻らない、もしくは戻りくい症状を示す場合もある。この際、さらに足関節が内反し、いわゆる内反の状態になることも多い。これはいわゆる内反尖足と呼ばれる症状である。
【0053】
下垂足の場合は、下肢に存在する筋肉の低下によって、足を背屈させる機能がなくなり、足先が下に向いたままの症状である。下垂足の症状がそのままの状態で長期にわたると、症状が固定してしまい、尖足の症状になってしまう場合もある。
【0054】
これら尖足や下垂足の症状を呈すると、立位で踵がつかない、あるいは着きにくい、歩行時に、地面から離れた足を着地させる際、踵から着地できない、あるいは着地しにくい、つま先側もしくは足部外側から着地してしまう、あるいは歩行時につま先を擦りながら歩くことになるなど等、日常生活で不都合が生じる。
【0055】
このような症状に対し、足関節を所望の方向へ誘導させることで、内反、外反、尖足、下垂足等といった足部の変形や歩行等の機能低下の原因となっている動かしにくさに対し、できるだけ正常な動きに近づけるよう、足部の状態や動きを矯正することで前記症状を改善することができる。例えば本発明において、前記下肢着用具の装着時に前記織物A2(2)を第5中足骨または立方骨を覆うように配置し、前記第5中足骨または立方骨を含む足部から膝下部にかけわたされる前記織物A3(3)を適切に配置することにより、内反に対して足部を元の正常位置へ誘導させる矯正力を発揮する。この矯正力は内反および外反に特に有用であるが、それ以外の足首部分の不安定性に対しても有効である。
【0056】
なお本発明の下肢着用具は、着用時に開閉可能な機構を備えていることが好ましい。着用時に開閉可能な機構とは、前記下肢着用具を脱着する際に、開口部を拡げるように開閉したり、開口していない場所を開閉可能として脱着を容易にする機構である。開閉可能な機構を設ける場所としては、矯正機能を損なわず、着脱が容易になる場所であれば特に制限はなく、前記織物A1、前記織物A2、前記織物A3、前記織編物Bおよびそれらの連結部のいずれの場所に設けることも可能である。なお、開閉可能な機構を設ける場所は1以上であってもよい。
【0057】
前記着用時に開閉可能な機構を備えていることで、足部の変形が強い装着者や、高齢の装着者等が、独りで着脱可能となり、また、介助者においても着脱作業が軽減され、使用が忌避されず、持続的に使用できる。また、本発明の下肢着用具を持続的に使用できれば、機能回復、日常の動作向上に、より効果を発揮する。前記開閉可能な機構は、特に限定されるものではないが、線ファスナー、面ファスナー等のファスナー、スナップボタン、タックボタン等のボタンなど、用途に応じて適宜選定することができる。例えば、下腿部の側面において、ファスナーによる開閉口を設けることにより、よりいっそう簡単に着脱することが可能となる。
【0058】
本発明の下肢着用具は、前記織物Aにおいて、所望の矯正力、着脱性等の特性を満足する限り、少なくとも膝および/または膝下部から足部まで覆うレッグウェアと一体的に形成して使用しても良いし、織物Aおよび織編物Bとレッグウェアとが一部で連結されていても良いが、前記織物Aおよび織編物Bと前記レッグウェアが連結されて一体的に形成されていることがより好ましい。前記織物A1においては、膝頭等膝部の前部もしくは足首部の前部を覆う部分の少なくとも一部をレッグウェアと連結させることが好ましい。また、前記織物A3においては、脛骨を含む下腿部を覆う部分の少なくとも一部を、レッグウェアと連結させることが、着脱性の点で好ましい。もちろんこれらの両方をおこなってもよい。
【0059】
特に、前記織物A3は長さ調節機構を備えることが好ましい。長さ調節機構としては、前記織物A2と前記織物A3の連結部付近から、前記織物A3を上方向に引っ張るようにできる機構が好ましい。これにより、前記織物A3の長さを調整することで、着用者における内反、外反、尖足、下垂足等の症状に合わせた矯正力を設定することが可能である。また、長さを調節する機構において、前記織物A3を上方向に引っ張る機構を採用することで、片麻痺患者が片手で装着しやすくすることができる。それにより、持続的に使用可能な着用具を提供することができる。
【0060】
片麻痺患者の一般的な症状として、どちらか一方の半身において片手と片足が麻痺状態になっていること、麻痺状態ではない片手の動作の内、引っ張る動作が最もしやすいことがある。それを前提とすると、装着時に、特に内反尖足等の異常な足の位置を正常な位置に戻しながら、本発明の下肢着用具を装着する際に、前記織物A3を上方向に引っ張りながら長さを調節すれば、矯正力の調節も同時に行える点で優れている。
【0061】
具体的には以下の仕様に限定されないが、前記織物A3と前記織物A2とを連結する際、織物A2の端部にカンを配置し、それに前記織物A3を通して折り返し、引っ張って面ファスナーで止めることにより、長さを調節する機構などが挙げられる。
【0062】
前記織物Aと前記レッグウェアが連結されて一体的に形成されていることで、着用時に織物Aおよび織編物Bを所望の態様に配置しやすく、かつそのための手間がかからず、一般衣料と同じように着用することができる。これにより、装着者、介助者の負担を軽減し、本発明の下肢着用具を持続的に使用可能となる。その結果、装着者の機能回復、日常の動作向上に、より効果を発揮する。前記の連結方法としては、特に限定されるものではないが、縫製、接着など、用途に応じて適宜選定することができる。また、本発明の下肢着用具を装具として用いる場合は、持続的使用の観点から、金属や硬質樹脂のフレーム、モノコック等を含まない装具、いわゆる軟性装具とすることが好ましい。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0064】
なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0065】
(1)繊度、フィラメント数
繊度は、JIS L 1013:2010 8.3.1 正量繊度(A法)に基づき測定した。フィラメント数は、JIS L 1013:2010 8.4に基づき測定した。
【0066】
(2)荷重100N/5cm時の伸長率
織物Aならびに織編物Bに用いる織物に対して、50mm×300mmの試験片を経、緯方向にそれぞれ5枚ずつ採取した。自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を200mmとし、試験片のたるみや張力を除いてつかみに固定した。引張速度200mm/分で荷重1200Nに到達するまで伸ばし、測定を実施して得た荷重変形曲線に基づき、100Nの時の変位を測り、次の式により伸長率L(%)を求め、5枚の平均で表した。
伸長率L(%)=(L1/L0)×100
L0:つかみ間隔(mm)
L1:100Nまで伸ばした時の変位(mm)。
【0067】
(3)剛軟度
剛軟度はJIS L 1096:2010 8.3.1 剛軟度(A法)に基づき測定した。
【0068】
(4)織物A1と織物A3との内角度の測定方法
作製した下肢着用具を矯正が必要な片足に着用する際、織物A1と織物A3の長手方向の両端接線による中心線のなす角度のうち、90°以下の角度を測定した。
【0069】
(5)織物A3と織編物Bとの内角度の測定方法
作製した下肢着用具を矯正が必要な片足に着用する際、織物A3と織物Bの長手方向の両端接線による中心線のなす角度を測定した。
【0070】
(6)着用評価
作製した下肢着用具を矯正が必要な片足に着用して、1時間歩行した状態で、背屈矯正、内反矯正、矯正力、圧迫感、擦れの5項目を評価した。背屈矯正、内反矯正は着用者の歩行状態を観察することで評価し、矯正力の安定性、圧迫感、擦れの評価は着用者による官能評価で実施し、着用したサンプルについて、4、3、2、1の4段階で相対評価した。
A.背屈矯正(4:矯正力強い、1:矯正力弱い)
B.内反矯正(4:矯正力強い、1:矯正力弱い)
C.矯正力の安定性(4:安定性が高い、1:安定性が低い)
D.圧迫感(織物または織編物の圧迫による4:痛みがない、1:痛みがある)
E.擦れ(織物または織編物の擦れによる4:痛みがない、1:痛みがある)。
【0071】
[実施例1]
レッグウェアに78デシテックスのナイロン繊維と弾性繊維として310デシテックスのポリウレタン繊維の2種類の繊維を交編したトリコット編地を使用した。織物A(織物A1~A3)に用いる織物は、経糸として、弾性糸である2200デシテックスのポリエステルエラストマー“ハイトレル”(登録商標)モノフィラメント(熱可塑性エラストマー繊維)、緯糸として、非弾性糸である1670デシテックスのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維、絡糸として非弾性糸である220デシデックスのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)を用いた、2/2ツイル織物である。織物Bに用いる織物は、ナイロンとポリウレタン素材を用いた“オリタッチ”(登録商標)を使用した。
【0072】
前記織物A1においては、膝部および/または膝下部の少なくとも一部を覆う部分の一部を、前記織物A3においては、脛骨を含む下腿部の前部を覆う部分の一部を、レッグウェアとミシンによる縫い付けで連結させ、前記織物A2においては、指骨および中足骨を覆うようにしてレッグウェアにミシン縫製で連結し、前記織物A1において周方向(長手方向)端部を、前記織物A3においては、織物A1と連結していない端部を、面ファスナーで裏打ちし、レッグウェアとの接触面を面ファスナーにより接着させることで、所望の緊締力に調整できるようにした。
【0073】
レッグウェアは、片足の足部から膝部までを覆うソックス形状とし、前記織物A1は膝窩を含む膝部を、膝の周方向と前記得られた織物の経方向が揃うように覆い、前記織物A2は指骨および中足骨を含む足部を覆うように、周回させる。その際、足の幅方向と前記得られた織物の経方向が揃うようにし、第5中足骨に沿わせるように配置した。前記織物A3は、織物の経方向が長手方向となるようにして、一方の端部を織物A1との内角度が70°となるように連結させ、もう一方の端部を織物A2の端部に連結させたカンに通した後、レッグウェア部と連結させた。該ソックス部の連結部は、前記織物A3の端部に面ファスナーのフック面(A面)を配置し、レッグウェア側に面ファスナーのループ面(B面)を配置することで連結させた。
【0074】
前記下肢着用具は所望の矯正力に調整することが可能であるため、織物A3は、装着者が所望の矯正力となるように装着し、立位で踵が接地した状態で、過度な応力がかからない程度の長さに調整した。
【0075】
前記編物Bは、長手方向の一端を前記織物A2と連結した。連結箇所は前記織物A2の第1中足骨を含む足部付近とした。前記編物Bの他方の端部を足底内側から足背(足の甲)を通って外側に渡し織物A3とのなす角を75°に調整して、アキレス腱を含む足首部を外側から内側にかけて渡し、前記編物Bの末端の面ファスナーのフック面(A面)を足首に巻かれている前記編物Bの裏側に配置した面ファスナーのループ面(B面)に所望の矯正力となるように連結させ、足首部に位置させた。
【0076】
前記織物Aは荷重100N/5cm時の伸長率が、長手方向2%、短手方向8%であり、前記編物Bは荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で124%であり、荷重100N/5cm時の長手方向の伸長率をそれぞれA1EX、A2EX、A3EX、BEXとすると、BEX > A1EX = A2EX = A3EXであった。
【0077】
編物Bの剛軟度は68mmであり、柔軟性が高く、足の形に沿うように配置できた。
【0078】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は4、内反矯正は4、矯正力の安定性は4、圧迫感は4、擦れは4となった。下肢着用具として、矯正が必要な足を正常位置へ矯正し、歩行遊脚期に、足関節の内反がなかった。また、着地する際には、踵が先に着地して足先で後ろへ蹴り上げて前に進み、装着者は安定的に歩くことができた。また、足を矯正された状態を保持するための必要な矯正力、固定力と、動作時に起こる下肢と下肢着用具との摩擦、揺動、圧迫等に対しての追従性とを両立し、変形した際の回復も十分であった。そして過剰な矯正力による痛みの発生は、編物Bによって緩和されており痛みを感じなかった。本下肢着用具は、持続的に使用できるため、優れた性能を示していた。また、本下肢着用具を自宅で装着者が装着する際において、床を損害せず気楽にはくことができた。また装着者が本下肢着用具を着用して靴をはいたところ、足のサイズ通りの靴を履くことができた。更に、ソックス様であるため着脱も簡便であり、前記織物A1と前記織物A2、編物Bの位置調整も容易であった。
【0079】
[実施例2]
下肢着用具の装着時における前記織物Aの荷重100N/5cm時の伸長率が、長手方向21%、短手方向25%であること以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0080】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は3、内反矯正は4、矯正力の安定性は4、圧迫感は4、擦れは4となった。下肢着用具として、矯正が必要な足を正常位置へ矯正し、歩行遊脚期中、足が背屈し、着地際に踵と足先が同時に地面についていたが、足関節の内反はなかった。
【0081】
[実施例3]
下肢着用具の装着時における前記織物AにポリエステルにPUラミネート加工を施した織物を用い、前記織物Aの荷重100N/5cm時の伸長率が、長手方向0.3%、短手方向0.2%であること以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0082】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は3、内反矯正は4、矯正力の安定性は3、圧迫感は3、擦れは3となった。下肢着用具として、矯正された状態が強く保持され、力を入れても織物が変化せず、歩行中に織物および編物Bが覆う部分で圧迫感を感じるが、痛みはなく、歩行中に織物および編物Bの周辺で痛みは感じないが擦れたような違和感があった。
【0083】
[実施例4]
下肢着用具の装着時における前記織物Bにポリエステル織物を用い、前記織物Bの荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で55%であり、剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)が61mmである以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0084】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は4、内反矯正は4、矯正力の安定性は3、圧迫感は4、擦れは4となった。
【0085】
[実施例5]
下肢着用具の装着時における前記織物Bにポリエステル織物を用い、前記織物Bの荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で15%であり、剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)が34mmである以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0086】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は3、内反矯正は4、矯正力の安定性は3、圧迫感は3、擦れは4となった。
【0087】
[実施例6]
下肢着用具の装着時における前記編物Bにポリエステル(PET)とポリウレタン素材を用い、前記編物Bの荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で113%であり、剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)が91mmである以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0088】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は4、内反矯正は4、矯正力の安定性は4、圧迫感は4、擦れは3となった。
【0089】
[実施例7]
下肢着用具の装着時における前記編物Bにポリエステル(PET)とポリウレタン素材を用い、前記編物Bの荷重100N/5cm時の伸長率が長手方向で105%であり、剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法)が115mmである以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0090】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は3、内反矯正は3、矯正力の安定性は4、圧迫感は3、擦れは3となった。下肢着用具として、歩行中に足の内反が若干あり、着地際に足底の外縁と内縁とも地面につくように歩くことができた。
【0091】
[実施例8]
下肢着用具の装着時における前記織物A1と前記織物A3との内角度を90°に調整した以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0092】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は4、内反矯正は4、矯正力の安定性は3、圧迫感は4、擦れは4となった。
【0093】
[比較例1]
下肢着用具の装着時における前記織物A3と前記編物Bとの内角度を35°に調整した以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0094】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は2、内反矯正は2、矯正力の安定性は2、圧迫感は3、擦れは3となった。
【0095】
[比較例2]
下肢着用具の装着時における前記織物A3と前記編物Bとの内角度を130°に調整した以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0096】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は2、内反矯正は2、矯正力の安定性は2、圧迫感は3、擦れは3となった。
【0097】
[比較例3]
下肢着用具の装着時における前記編物Bを取り外し、織物A(A1~A3)のみの織物を用い、前記織物A1と前記織物A3との内角度を45°に調整した以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0098】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は2、内反矯正は2、矯正力の安定性は2、圧迫感は2、擦れは2となった。
【0099】
[比較例4]
下肢着用具の装着時における前記編物Bと前記織物A1を取り外し、織物A2、織物A3のみを用い、織物A3を膝部に面ファスナーで連結させた以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0100】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は1、内反矯正は1、矯正力の安定性は1、圧迫感は3、擦れは3となった。下肢着用具として、歩行遊脚期中、足が背屈できなく、着地際に足先が地面に引っかかってしまい、円滑に歩くことができず、歩行中には足の内反が矯正できなくなり、着地際に足底の外縁が地面につくように歩き、歩行が不安定となった。さらに矯正された状態の保持が弱く、経時で矯正力が低下した。
【0101】
以上より本下肢着用具は、持続的に使用する場合、装着者が安定的に歩くことには懸念があり、足の変形や歩行機能改善に必要な機能に改善の余地があり、不適であった。
【0102】
[比較例5]
下肢着用具の装着時における前記編物Bを、長手方向の一端を前記織物A2と連結し、連結箇所は前記織物A2の第1中足骨を含む足部付近とし、足底内側から外側にわたして織物A3とのなす角を35°に調整し、踵の外側からアキレス腱を含む足首部の内側にかけて覆い、脛骨を含む下腿部から膝部にかけて覆うように他方の一端を織物A1に連結して配置し、前記編物Bには織物Aと同素材(剛軟度(JIS L 1096 剛軟度A法):106mm)とし、前記織物A1と前記織物A3との内角度を45°に調整した以外は実施例1と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0103】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は2、内反矯正は2、矯正力の安定性は2、圧迫感は2、擦れは2となった。
【0104】
[比較例6]
下肢着用具の装着時における前記織物Aの荷重100N/5cm時の伸長率が、長手方向88%、短手方向80%であり、織物A3と織編物Bとがなす角が35°となる以外は比較例5と同様にソックスタイプの下肢着用具を用いた。
【0105】
作製した下肢着用具において、着用試験を実施したところ、背屈矯正は1、内反矯正は1、矯正力の安定性は1、圧迫感は1、擦れは2となった。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【符号の説明】
【0108】
1 織物A1
2 織物A2
3 織物A3
4 織編物B
5 第1中足骨
6 第5中足骨
7 立方骨
8 踵骨
9 距骨
10 脛骨
11 腓骨
12 下腿部
13 カン
14 織物A1と織物A3との内角度
15 織物A2と織編物Bとの内角度
図1
図2
図3