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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151733
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】工作機械、及び、移動位置決定方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 5/18 20060101AFI20241018BHJP
   B23B 5/44 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B23B5/18
B23B5/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065366
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】加茂 正太郎
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045BA01
3C045BA11
3C045CA12
3C045DA16
3C045EA04
(57)【要約】
【課題】断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させることが可能な技術を提供する。
【解決手段】工作機械(1)の制御部U1は、移動方向D1においてワークW1に当たる刃先TOtの初期位置Po、偏心中心位置Pc、及び、偏心半径rcに基づいて、偏心中心位置Pcを中心とする真円加工がワークW1に行われるまで、主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎に、移動方向D1における移動対象の移動速度が所定の最大送り速度Fを超えない範囲で刃先TOtがワークW1に当たり続けるように、移動方向D1における途中の偏心中心位置Pi、及び、該偏心中心位置Piを中心とする途中の偏心半径riを決定し、分割回転角度E毎に偏心中心位置Piを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われるように、主軸11の回転に合わせて移動方向D1において移動対象を移動させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸中心線を中心としてワークとともに回転する主軸と、
前記ワークを切削する刃先を有する工具が取り付けられた刃物台と、
前記主軸中心線に直交する移動方向における偏心中心位置(Pc)を中心とする偏心半径(rc)の真円加工が前記主軸の回転時に行われるように、前記主軸と前記刃物台の少なくとも一方の移動対象を前記移動方向に沿って移動させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記移動方向において前記ワークに当たる前記刃先の初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークに行われるまで、前記主軸の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に、前記移動方向における前記移動対象の移動速度が所定の最大送り速度(F)を超えない範囲で前記刃先が前記ワークに当たり続けるように、前記移動方向における途中の偏心中心位置(Pi)、及び、該偏心中心位置(Pi)を中心とする途中の偏心半径(ri)を決定し、
前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークに行われるように、前記主軸の回転に合わせて前記移動方向において前記移動対象を移動させる、工作機械。
【請求項2】
前記制御部は、
前記偏心中心位置(Pc)を中心として前記初期位置(Po)から前記偏心半径(rc)に到る途中の偏心半径(rj)であって前記刃先が前記ワークに当たり続ける偏心半径(rj)の真円加工が前記ワークに行われるまで、前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークに行われるように、前記移動方向において前記移動対象を移動させ、
前記偏心半径(rj)を起点として前記偏心中心位置(Pc)を中心とする前記偏心半径(rc)の真円加工が前記ワークに行われるように、前記最大送り速度(F)を超えない範囲で前記移動方向において前記移動対象を移動させる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記制御部は、前記初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心として前記刃先が前記ワークに当たり続ける前記偏心半径(rj)を決定する、請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御部は、
前記主軸中心線を中心とした前記ワークの初期位相における前記偏心半径(rc)上の第一加工終点(Pa)の座標、前記初期位相とは180°異なる逆位相における前記偏心半径(rc)上の第二加工終点(Pb)の座標、及び、前記最大送り速度(F)を含むコマンドを受け付け、
前記初期位置(Po)、前記第一加工終点(Pa)の座標、前記第二加工終点(Pb)の座標、及び、前記最大送り速度(F)に基づいて、前記第一加工終点(Pa)と前記第二加工終点(Pb)との中点である前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークに行われるまでに必要な前記主軸の回転回数(N1)を算出し、
前記初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、前記第一加工終点(Pa)と前記第二加工終点(Pb)との間の距離の半分である前記偏心半径(rc)、及び、前記回転回数(N1)に基づいて、前記分割回転角度(E)毎に、前記主軸中心線を中心とした前記ワークの位相に応じて前記偏心中心位置(Pi)及び前記偏心半径(ri)を決定する、請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項5】
主軸中心線を中心としてワークとともに回転する主軸と、前記ワークを切削する刃先を有する工具が取り付けられた刃物台と、を備え、前記主軸中心線に直交する移動方向における偏心中心位置(Pc)を中心とする偏心半径(rc)の真円加工が前記主軸の回転時に行われるように、前記主軸と前記刃物台の少なくとも一方の移動対象を前記移動方向に沿って移動させる工作機械のための移動位置決定方法であって、
前記移動方向において前記ワークに当たる前記刃先の初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークに行われるまで、前記主軸の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に、前記移動方向における前記移動対象の移動速度が所定の最大送り速度(F)を超えない範囲で前記刃先が前記ワークに当たり続けるように、前記移動方向における途中の偏心中心位置(Pi)、及び、該偏心中心位置(Pi)を中心とする途中の偏心半径(ri)を決定する第一工程と、
前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークに行われるように、前記移動方向において前記主軸の回転に合わせた前記移動対象の位置を決定する第二工程と、を含む、移動位置決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸中心線から偏心した真円加工が可能な工作機械、及び、移動位置決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械として、主軸と刃物台を備えるNC(数値制御)旋盤が知られている。刃物台には、ワークを切削する刃先を有する工具が取り付けられる。NC旋盤は、主軸に把持されている回転状態のワークを刃物台に取り付けられている工具で加工する。
【0003】
特許文献1に開示された旋盤は、偏心軸の偏心量に等しいクランク軸偏心量とした主軸対向面内における刃物取付台のクランク運動を主軸回転と同期させ、刃物台のZ軸方向の切削送りで、偏心量で円運動するバイトにより偏心軸の加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-151501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
主軸中心線から偏心した真円加工を回転状態のワークに行う場合、主軸中心線に直交するX-Y平面において偏心中心位置を中心とする円周上の刃先経路の一部がワークよりも外側にあると、主軸の回転に伴って刃先がワークから離れたり途中からワークに接触したりする。このような断続切削が生じると、工具が破損するリスクが高くなる。そこで、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させることが求められる。
尚、上述のような課題は、旋盤に限らず、マシニングセンター等、種々の工作機械に存在する。
【0006】
本発明は、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させることが可能な技術を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の工作機械は、
主軸中心線を中心として前記ワークとともに回転する主軸と、
前記ワークを切削する刃先を有する工具が取り付けられた刃物台と、
前記主軸中心線に直交する移動方向における偏心中心位置(Pc)を中心とする偏心半径(rc)の真円加工が前記主軸の回転時に行われるように、前記主軸と前記刃物台の少なくとも一方の移動対象を前記移動方向に沿って移動させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記移動方向において前記ワークに当たる前記刃先の初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークに行われるまで、前記主軸の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に、前記移動方向における前記移動対象の移動速度が所定の最大送り速度(F)を超えない範囲で前記刃先が前記ワークに当たり続けるように、前記移動方向における途中の偏心中心位置(Pi)、及び、該偏心中心位置(Pi)を中心とする途中の偏心半径(ri)を決定し、
前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークに行われるように、前記主軸の回転に合わせて前記移動方向において前記移動対象を移動させる、態様を有する。
【0008】
また、本発明の移動位置決定方法は、
主軸中心線を中心として前記ワークとともに回転する主軸と、前記ワークを切削する刃先を有する工具が取り付けられた刃物台と、を備え、前記主軸中心線に直交する移動方向における偏心中心位置(Pc)を中心とする偏心半径(rc)の真円加工が前記主軸の回転時に行われるように、前記主軸と前記刃物台の少なくとも一方の移動対象を前記移動方向に沿って移動させる工作機械のための移動位置決定方法であって、
前記移動方向において前記ワークに当たる前記刃先の初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークに行われるまで、前記主軸の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に、前記移動方向における前記移動対象の移動速度が所定の最大送り速度(F)を超えない範囲で前記刃先が前記ワークに当たり続けるように、前記移動方向における途中の偏心中心位置(Pi)、及び、該偏心中心位置(Pi)を中心とする途中の偏心半径(ri)を決定する第一工程と、
前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークに行われるように、前記移動方向において前記主軸の回転に合わせた前記移動対象の位置を決定する第二工程と、を含む、態様を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】工作機械の構成例を模式的に示す正面図である。
図2】工作機械の電気回路の構成例を模式的に示すブロック図である。
図3】主軸中心線から偏心した真円加工の例を模式的に示す図である。
図4】X-Y平面においてワークの回転に合わせて工具が移動する例を模式的に示す図である。
図5】途中の偏心中心位置Piを変化させた刃先経路の例を模式的に示す図である。
図6】最終取り代において偏心中心位置Pcを中心とする刃先経路の例を模式的に示す図である。
図7】偏心加工処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図8】最終取り代の決定処理を含む偏心加工処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図9】加工プログラムの入力インターフェイスの例を模式的に示す図である。
図10】加工プログラムの入力インターフェイスの比較例を模式的に示す図である。
図11】刃先経路の比較例を模式的に示す図である。
図12】最終的な偏心中心位置Pcの座標Xc、及び、該偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rcの算出例を模式的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0012】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~11に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
【0013】
[態様1]
図1,2に例示するように、本技術の一態様に係る工作機械(例えば旋盤1)は、主軸11、刃物台30、及び、制御部U1を備える。前記主軸11は、主軸中心線AX0を中心としてワークW1とともに回転する。前記刃物台30には、前記ワークW1を切削する刃先TOtを有する工具TO1が取り付けられている。前記制御部U1は、前記主軸中心線AX0に直交する移動方向D1における偏心中心位置(Pc)を中心とする偏心半径(rc)の真円加工が前記主軸11の回転時に行われるように、前記主軸11と前記刃物台30の少なくとも一方の移動対象を前記移動方向D1に沿って移動させる。当該制御部U1は、前記移動方向D1において前記ワークW1に当たる前記刃先TOtの初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークW1に行われるまで、前記主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に、前記移動方向D1における前記移動対象の移動速度が所定の最大送り速度(F)を超えない範囲で前記刃先TOtが前記ワークW1に当たり続けるように、前記移動方向D1における途中の偏心中心位置(Pi)、及び、該偏心中心位置(Pi)を中心とする途中の偏心半径(ri)を決定する。さらに、当該制御部U1は、前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークW1に行われるように、前記主軸11の回転に合わせて前記移動方向D1において前記移動対象を移動させる。
【0014】
以上より、主軸中心線AX0から偏心した真円加工が行われる際に刃先TOtがワークW1に当たり続けるので、断続切削が回避される。ここで、主軸1回転の単位で切削の偏心半径が変わると、偏心半径が変わる位相で真円形状に段差が生じる。上記態様は、主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に決定される偏心中心位置(Pi)及び偏心半径(ri)の切削がワークW1に行われるので、前述の段差が抑制される。従って、上記態様1は、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させる工作機械を提供することができる。
【0015】
ここで、制御部は、移動方向において主軸を移動させないで刃物台を移動させてもよいし、移動方向において刃物台を移動させないで主軸を移動させてもよいし、移動方向において主軸と刃物台の両方を移動させてもよい。また、主軸と刃物台の少なくとも一方の移動対象の移動は、工具の刃先が偏心中心位置(Pc)に向かう切り込み時の移動でもよいし、工具の刃先が偏心中心位置(Pc)から離れる切り上げ時の移動でもよい。例えば、工具の刃先にすくい角がある場合、切り上げ時でもワークが切削される。従って、上記態様1には、切り上げ時の真円状の偏心加工も含まれる。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0016】
[態様2]
図5~7に例示するように、前記制御部U1は、前記偏心中心位置(Pc)を中心として前記初期位置(Po)から前記偏心半径(rc)に到る途中の偏心半径(rj)であって前記刃先TOtが前記ワークW1に当たり続ける偏心半径(rj)の真円加工が前記ワークW1に行われるまで、前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークW1に行われるように、前記移動方向D1において前記移動対象を移動させてもよい。当該制御部U1は、前記偏心半径(rj)を起点として前記偏心中心位置(Pc)を中心とする前記偏心半径(rc)の真円加工が前記ワークW1に行われるように、前記最大送り速度(F)を超えない範囲で前記移動方向D1において前記移動対象を移動させてもよい。
【0017】
以上の場合、途中の偏心半径(rj)から最終的な偏心半径(rc)まで主軸11の位相によらず一律の取り代となるので、偏心加工の真円度を向上させることができる。
尚、上記態様2には含まれないが、偏心中心位置(Pc)を中心とする最終的な偏心半径(rc)の真円加工がワークW1に行われるまで分割回転角度(E)毎に偏心中心位置(Pi)を中心として偏心半径(ri)の切削がワークW1に行われる場合も、本技術に含まれる。
【0018】
[態様3]
図8に例示するように、前記制御部U1は、前記初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心として前記刃先TOtが前記ワークW1に当たり続ける前記偏心半径(rj)を決定してもよい。
以上の場合、オペレーターは、途中の偏心半径(rj)を設定する必要がない。従って、上記態様3は、工作機械の利便性を向上させることができる。
【0019】
[態様4]
図7に例示するように、前記制御部U1は、前記主軸中心線AX0を中心とした前記ワークW1の初期位相における前記偏心半径(rc)上の第一加工終点(Pa)の座標、前記初期位相とは180°異なる逆位相における前記偏心半径(rc)上の第二加工終点(Pb)の座標、及び、前記最大送り速度(F)を含むコマンド(例えば偏心加工コマンドCM1)を受け付けてもよい。当該制御部U1は、前記初期位置(Po)、前記第一加工終点(Pa)の座標、前記第二加工終点(Pb)の座標、及び、前記最大送り速度(F)に基づいて、前記第一加工終点(Pa)と前記第二加工終点(Pb)との中点である前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークW1に行われるまでに必要な前記主軸11の回転回数(N1)を算出してもよい。当該制御部U1は、前記初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、前記第一加工終点(Pa)と前記第二加工終点(Pb)との間の距離の半分である前記偏心半径(rc)、及び、前記回転回数(N1)に基づいて、前記分割回転角度(E)毎に、前記主軸中心線AX0を中心とした前記ワークW1の位相に応じて前記偏心中心位置(Pi)及び前記偏心半径(ri)を決定してもよい。
上記態様4は、断続切削を回避しながら精度良く真円状の偏心加工を実行させるコマンドを受け付ける工作機械を提供することができる。尚、第一加工終点(Pa)と第二加工終点(Pb)から偏心中心位置(Pc)と偏心半径(rc)が得られるので、初期位置(Po)と偏心中心位置(Pc)と偏心半径(rc)に基づいて途中の偏心中心位置(Pi)と途中の偏心半径(ri)が決定されるといえる。従って、上記態様4は、上記態様1に含まれる。
ここで、本願における「第一」、「第二」、…は、類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0020】
[態様5]
また、本技術の一態様に係る移動位置決定方法は、主軸中心線AX0を中心としてワークW1とともに回転する主軸11と、前記ワークW1を切削する刃先TOtを有する工具TO1が取り付けられた刃物台30と、を備え、前記主軸中心線AX0に直交する移動方向D1における偏心中心位置(Pc)を中心とする偏心半径(rc)の真円加工が前記主軸11の回転時に行われるように、前記主軸11と前記刃物台30の少なくとも一方の移動対象を前記移動方向D1に沿って移動させる工作機械(1)のための移動位置決定方法であって、図7,8に例示するように、以下の工程(A1),(A2)を含む。
(A1)前記移動方向D1において前記ワークW1に当たる前記刃先TOtの初期位置(Po)、前記偏心中心位置(Pc)、及び、前記偏心半径(rc)に基づいて、前記偏心中心位置(Pc)を中心とする真円加工が前記ワークW1に行われるまで、前記主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度(E)毎に、前記移動方向D1における前記移動対象の移動速度が所定の最大送り速度(F)を超えない範囲で前記刃先TOtが前記ワークW1に当たり続けるように、前記移動方向D1における途中の偏心中心位置(Pi)、及び、該偏心中心位置(Pi)を中心とする途中の偏心半径(ri)を決定する第一工程ST1。
(A2)前記分割回転角度(E)毎に前記偏心中心位置(Pi)を中心として前記偏心半径(ri)の切削が前記ワークW1に行われるように、前記移動方向D1において前記主軸11の回転に合わせた前記移動対象の位置を決定する第二工程ST2。
【0021】
上記態様5は、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させる移動位置決定方法を提供することができる。
【0022】
(2)工作機械の構成の具体例:
図1は、工作機械の例として旋盤1の構成を模式的に例示する正面図である。図2は、旋盤1の電気回路の構成を模式的に例示している。図3は、主軸中心線AX0から偏心した真円加工を模式的に例示している。図3の上部には、工具TO1の刃先TOtが初期位置Poにある開始タイミングT1におけるワークW1及び工具TO1が示されている。図3の下部には、主軸中心線AX0から偏心した偏心軸AX3を中心とする真円状の偏心部W1pが形成された終了タイミングT2におけるワークW1及び工具TO1が示されている。図3には、右側面に向かってワークW1を見た図も示されている。
図1において、符号D81は上方向を示し、符号D82は下方向を示し、符号D83は左方向を示し、符号D84は右方向を示している。尚、これらの方向は、図1に示す旋盤1を見る方向を基準としている。図1,3に示すように、旋盤1の制御軸は、「X」で示されるX軸、「Y」で示されるY軸、「Z」で示されるZ軸、及び、「C」で示されるC軸を含んでいる。Z軸方向は、ワークW1の回転中心となる主軸中心線AX0に沿った水平方向である。X軸方向は、Z軸に直交する方向であり、上下(上方向D81及び下方向D82)に向いた方向でもよいし、左右(左方向D83及び右方向D84)に向いた方向でもよい。Y軸方向は、Z軸とX軸の両方に直交する方向である。C軸は、主軸中心線AX0を中心とする回転軸である。尚、本明細書において参照される図面は、本技術を説明するための例を示しているに過ぎず、本技術を限定するものではない。各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、左右を逆にしたり、回転方向を逆にしたり等することも、本技術に含まれる。方向や位置等の同一は、厳密な一致に限定されず、誤差により厳密な一致からずれることを含む。
【0023】
旋盤1は、把持部12を有する主軸11を設けた主軸台10、主軸台駆動部13、ガイドブッシュ14の取付穴26を有する支持台25、刃物台30、刃物台駆動部31、NC装置70、等を備えるNC旋盤である。ここで、主軸台10は、正面主軸台15と、対向主軸台とも呼ばれる背面主軸台20とを総称している。正面主軸台15には、コレット等といった把持部17を有する正面主軸16が組み込まれている。背面主軸台20には、コレット等といった把持部22を有する背面主軸21が組み込まれている。主軸11は、正面主軸16と、対向主軸とも呼ばれる背面主軸21とを総称している。把持部12は、把持部17と把持部22を総称している。主軸台駆動部13は、Z軸に沿って正面主軸台15を移動させる正面主軸台駆動部18と、少なくともZ軸に沿って背面主軸台20を移動させる背面主軸台駆動部23とを総称している。図1,2に示す旋盤1は、正面主軸16がZ軸方向へ移動する主軸移動型旋盤である。
【0024】
正面主軸16は、図2に示す給材機8により後方から挿入された棒状のワークW1を把持部17により解放可能に把持し、ワークW1とともに主軸中心線AX1を中心として回転可能である。正面主軸16の前端16aは背面主軸21に対向し、正面主軸16の後端16bは給材機8に対向している。正面主軸16は、主軸中心線AX1に沿って貫通した貫通穴16hを有している。貫通穴16hには、後方からワークW1が挿入される。尚、加工前のワークW1が短い材料である場合、正面主軸16の前端16aから把持部17にワークW1が供給されてもよい。NC装置70は、図2に示す正面主軸回転駆動部16cを駆動させることにより主軸中心線AX1を中心として正面主軸16を回転させ、図2に示す把持用アクチュエーター17aを駆動させることにより把持部17の把持状態を制御する。把持部17は、例えば、コレット等により構成することができる。正面主軸台駆動部18は、NC装置70からの指令に従って正面主軸台15をZ軸方向へ移動させる。従って、正面主軸16に把持されているワークW1は、Z軸方向へ移動する。
尚、棒状のワークW1は、長尺な円柱状材料といった中実の材料に限定されず、長尺な円筒状材料といった中空の材料でもよい。
【0025】
背面主軸21の前端21aは、正面主軸16の前端16aと対向している。背面主軸21は、正面主軸16の前端16aから前方へ出ている加工途中のワークW1を把持部22により解放可能に把持し、ワークW1とともに主軸中心線AX2を中心として回転可能である。NC装置70は、図2に示す背面主軸回転駆動部21cを駆動させることにより主軸中心線AX2を中心として背面主軸21を回転させ、図2に示す把持用アクチュエーター22aを駆動させることにより把持部22の把持状態を制御する。把持部22は、例えば、コレット等により構成することができる。背面主軸台駆動部23は、NC装置70からの指令に従って、背面主軸台20をZ軸方向へ移動させ、さらに、X軸方向又はY軸方向へ移動させる。正面主軸16と背面主軸21の両方がワークW1を把持する時、主軸中心線AX2は主軸中心線AX1に合わせられる。ここで、主軸中心線AX0は、主軸中心線AX1と主軸中心線AX2とを総称している。尚、正面主軸16についての前方は、ワークW1が正面主軸16から押し出される方向を意味し、図1に示す例では右方向D84である。背面主軸21についての前方は、背面主軸21が正面主軸16の方へ向かう方向を意味し、図1に示す例では左方向D83である。
【0026】
支持台25は、Z軸方向において正面主軸台15と背面主軸台20との間にあり、Z軸方向へ貫通した取付穴26を有している。図1に示すようなガイドブッシュ使用時、ガイドブッシュ14が取付穴26に挿入されて支持台25に取り外し可能に取り付けられる。ガイドブッシュ14は、正面主軸16の貫通穴16hから前方へ突出したワークW1をZ軸方向へ摺動可能に支持する。ワークW1のうちガイドブッシュ14から背面主軸21の方(右方向D84)へ突出した部分が工具TO1による加工される。ガイドブッシュ不使用時、正面主軸16の前部が取付穴26に挿入される。ワークW1のうち正面主軸16から前方(右方向D84)へ突出した部分が工具TO1により加工される。
【0027】
刃物台30には、正面主軸16と背面主軸21の少なくとも一方に把持されたワークW1を加工するための複数の工具TO1が取り付けられている。工具TO1は、ワークW1を切削する刃先TOtを有している。複数の工具TO1には、突っ切りバイトを含むバイト、回転ドリルやエンドミルといった回転工具、等が含まれる。詳しくは後述するが、本具体例のNC装置70は、工具TO1としてバイトを使用する場合に真円状の偏心部W1pをワークW1に形成する制御を行う。刃物台30は、くし形刃物台でもよいし、タレット刃物台等でもよい。図2に示すように、刃物台駆動部31は、NC装置70からの指令に従ってX軸に沿って刃物台30を移動させるX軸駆動部32、及び、NC装置70からの指令に従ってY軸に沿って刃物台30を移動させるY軸駆動部33を含んでいる。X軸及びY軸に沿った平面をX-Y平面とすると、刃物台30に取り付けられている工具TO1はX-Y平面上を移動する。刃物台30は、正面主軸16に把持されたワークW1の正面加工を工具TO1で行い、正面主軸16と背面主軸21の両方に把持された正面加工後のワークW1を突っ切りバイトで行い、背面主軸21に把持された突っ切り後のワークW1の背面加工を工具TO1で行う。これにより、ワークW1から製品が形成される。
図示していないが、旋盤1は、背面加工専用の刃物台等、図1に示す刃物台30以外の刃物台を備えていてもよい。
【0028】
図2に示すように、NC装置70には、給材機8、操作部80、正面主軸台駆動部18、正面主軸回転駆動部16c、把持用アクチュエーター17a、背面主軸台駆動部23、背面主軸回転駆動部21c、把持用アクチュエーター22a、X軸駆動部32、Y軸駆動部33、等が接続されている。正面主軸台駆動部18、背面主軸台駆動部23、X軸駆動部32、及び、Y軸駆動部33は、それぞれ、不図示のサーボモーター及びサーボアンプを備え、NC装置70からの指令に従って、主軸11と刃物台30との相対的な位置関係を変化させる。正面主軸回転駆動部16cと背面主軸回転駆動部21cは、それぞれ、不図示のサーボモーター(例えばビルトインモーター)及びサーボアンプを備え、NC装置70からの指令に従って、主軸中心線AX0を中心として主軸11を回転させる。NC装置70は、正面主軸回転駆動部16cや背面主軸回転駆動部21cに指令を出すことにより、ワークW1の回転角度であるC軸角度θ(図4参照)を制御することができる。把持用アクチュエーター17aは、正面主軸16の把持部17を駆動する。把持用アクチュエーター22aは、背面主軸21の把持部22を駆動する。NC装置70は、プロセッサーであるCPU(Central Processing Unit)71、半導体メモリーであるROM(Read Only Memory)72、半導体メモリーであるRAM(Random Access Memory)73、時計回路74、I/F(インターフェイス)75、等を備えている。図2では、給材機8、操作部80、正面主軸台駆動部18、正面主軸回転駆動部16c、把持用アクチュエーター17a、背面主軸台駆動部23、背面主軸回転駆動部21c、把持用アクチュエーター22a、X軸駆動部32、Y軸駆動部33、等のI/FをまとめてI/F75と示している。ROM72には、加工プログラムPR2を解釈して実行するための制御プログラムPR1が書き込まれている。ROM72は、データを書き換え可能な半導体メモリーでもよい。RAM73には、オペレーターにより作成された加工プログラムPR2が書き換え可能に記憶される。加工プログラムは、NCプログラムとも呼ばれる。CPU71は、RAM73をワークエリアとして使用し、ROM72に記録されている制御プログラムPR1を実行することにより、NC装置70の機能を実現させる。
【0029】
操作部80は、入力部81及び表示部82を備え、NC装置70のユーザーインターフェイスとして機能する。入力部81は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けるためのキーやタッチパネルから構成される。表示部82は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けた各種設定の内容や旋盤1に関する各種情報を表示するディスプレイで構成される。オペレーターは、操作部80や外部のコンピューター(不図示)を用いて加工プログラムPR2をRAM73に記憶させることが可能である。
【0030】
本具体例のNC装置70は、工具TO1としてバイトを使用する場合に、図3等に示す偏心部W1pをワークW1に形成するように駆動部(18,23,31)による主軸11と刃物台30との相対的な位置関係を制御する。本具体例において、刃物台30は移動対象の例であり、図3に示すX軸方向は主軸中心線AX0に直交する移動方向D1の例であり、NC装置70と刃物台駆動部31は移動対象を移動方向D1に沿って移動させる制御部U1を構成する。図3等において、ワークW1を把持する主軸11は、正面主軸16でもよいし、背面主軸21でもよい。従って、図3等に示す主軸中心線AX0は、正面主軸16の回転中心である主軸中心線AX1でもよいし、背面主軸21の回転中心である主軸中心線AX2でもよい。NC装置70と駆動部(18,23,31)は、移動方向D1における偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rcの真円加工が主軸11の回転時に行われるように、主軸11と刃物台30の少なくとも一方の移動対象を移動方向D1に沿って移動させる。
【0031】
図3に示す偏心部W1pは、X軸方向において主軸中心線AX0から偏心量Leの距離偏心した偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rcの真円状部位である。むろん、偏心中心位置Pcは、偏心軸AX3上にある。図3には、X軸に沿って、ワークW1に当たる刃先TOtの初期位置Po、主軸中心線AX0を中心としたワークW1の初期位相における偏心半径rc上の第一加工終点Pa、及び、初期位相とは180°異なる逆位相における偏心半径rc上の第二加工終点Pbが示されている。真円状の偏心加工の開始タイミングT1において、刃先TOtはワークW1の外周上にある。真円状の偏心加工の終了タイミングT2において、刃先TOtは偏心中心位置Pcを中心として加工終点(Pa,Pb)を通る円周上にある。
【0032】
次に、図4を参照して、偏心中心位置Pcを中心とする刃先TOtの移動位置の例を説明する。図4は、偏心中心位置Pcを含むX-Y平面においてワークW1の回転に合わせて加工途中の偏心部W1hの円周上を刃先TOtが移動する様子を模式的に例示している。尚、初期位相に対応するC軸角度θ=0°における工具TO1の刃先TOtは、X座標(X軸上の座標)が最も大きい位置にあるものとしている。また、X軸上においてX座標が大きくなる方向を+X方向とし、X軸上においてX座標が小さくなる方向を-X方向とし、Y軸上においてY座標(Y軸上の座標)が大きくなる方向を+Y方向とし、Y軸上においてY座標が小さくなる方向を-Y方向とする。
【0033】
C軸角度θ=0°において、X-Y平面上の工具TO1の刃先TOtは、X軸上において加工途中の偏心部W1hの偏心半径riに偏心量Leを加えたX座標にあればよい。また、初期位相とは180°異なる逆位相に対応するC軸角度θ=180°において、X-Y平面上の工具TO1の刃先TOtは、X軸上において加工途中の偏心部W1hの偏心半径riから偏心量Leを差し引いたX座標にあればよい。図4に示す例では、θ=180°において刃先TOtが主軸中心線AX0から+X方向にあることが示されている。むろん、θ=180°において刃先TOtは主軸中心線AX0から-X方向にあってもよい。
【0034】
ワークW1が主軸中心線AX0を中心として回転方向R1へ1回転する間に、刃先TOtは、θ=0°における0°位置とθ=180°における180°位置とを結ぶ線分を直径とする仮想円C1の円周に沿って回転方向R2へ1回転すればよい。ここで、仮想円C1の概念は仮想円弧の概念に含まれ、仮想円C1の円周の概念は仮想円弧の周の概念に含まれる。仮想円C1の中心(円弧中心Tc)のX座標Ltは、加工途中の偏心部W1hの偏心半径riとなる。また、仮想円C1の半径(円弧半径rt)は、主軸中心線AX0からの偏心中心位置Pcの偏心量Leとなる。図4に示すように、C軸角度θが0°、90°、180°、270°のように変化して0°に戻る間に刃先TOtが仮想円C1の円周に沿って移動すると、偏心中心位置Pcを含むX-Y平面において加工途中の偏心部W1hの外周が形成される。
【0035】
ところで、図11に示すように、主軸中心線AX0を中心として回転するワークW1に対して刃先TOtが最終的な偏心部W1pの偏心中心位置Pcを中心とする円周上を移動すると、真円状の偏心加工の初期において刃先TOtがワークW1に接触したりワークW1から離れたりする。図11は、主軸中心線AX0に直交するX-Y平面における刃先経路の比較例を模式的に示している。ここで、刃先経路は、実際には回転しない刃先TOtがワークW1を基準として相対的に回転するX-Y平面上の経路を意味する。図5,6に示す刃先経路も、図11に示す刃先経路と同じ意味である。移動対象としての刃物台30に取り付けられた工具TO1の刃先TOtは、移動方向D1としてのX軸方向に沿って移動するものとする。
図11に示すように、ワークW1の初期位相において偏心中心位置Pcが主軸中心線AX0と刃先TOtとの間にある場合、刃先TOtの初期位置PoはワークW1から離れている。主軸中心線AX0に直交するX-Y平面において偏心中心位置Pcを中心とする円周上の刃先経路の一部がワークW1よりも外側にあると、主軸中心線AX0を中心とするワークW1の回転に伴って刃先TOtがワークW1から離れたり途中からワークW1に接触したりする。このような断続切削が生じると、工具TO1が破損するリスクが高くなる。
また、主軸1回転の単位で刃先TOtの移動経路の偏心半径が変わると、偏心半径が変わる初期位相で真円形状に段差が生じる。
【0036】
以上より、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させることが求められる。
本具体例の旋盤1は、図5に例示するように、ワークW1の1回転すなわち主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎に途中の偏心中心位置Piを変化させることにより、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させている。
【0037】
(3)主軸中心線から偏心した真円加工の具体例:
図5は、真円状の偏心加工において途中の偏心中心位置Piを変化させた螺旋状の刃先経路を模式的に例示している。図6は、最終取り代Jにおいて偏心中心位置Pcを中心とする螺旋状の刃先経路を模式的に例示している。図5,6の下部には、開始タイミングT1から終了タイミングT2までの時間Tに対する偏心量L及び偏心半径rが例示されている。ここで、横軸は時間Tを示し、左側の縦軸は主軸中心線AX0から途中の偏心中心位置Piまでの距離である偏心量Lを示し、右側の縦軸は途中の偏心中心位置Piを中心とする偏心半径riを示している。図5,6に示す刃先TOtも、移動方向D1としてのX軸方向に沿って移動するものとする。
まず、図5に示す例を説明する。
【0038】
NC装置70は、刃先TOtがワークW1に当たる位置を初期位置Poとして受け付け、断続切削とならないように、初期位置Po、最終的な偏心中心位置Pc、及び、最終的な偏心半径rcに基づいて螺旋状の刃先経路を決定する。例えば、図5の下部に示すように、NC装置70は、刃先TOtがワークW1に当たり続けるように、開始タイミングT1からの時間に応じて、偏心量Lを増加させ、偏心半径rを減少させる。すなわち、開始タイミングT1から終了タイミングT2までの間、偏心量Lは時間Tが経過するほど大きくなり、偏心半径rは時間Tが経過するほど小さくなる。ここで、開始タイミングT1の時間TをT1で表し、終了タイミングT2の時間TをT2で表し、開始タイミングT1におけるワークW1の半径をroで表すことにする。ワークW1の回転速度(rev/min)が一定である場合、偏心量Lと偏心半径rは、例えば、以下の式により算出することができる。
L=Le×(T-T1)/(T2-T1) …(1)
r=ro-{(ro-rc)×(T-T1)/(T2-T1)} …(2)
尚、回転速度(rev/min)は、回転数とも呼ばれる。
【0039】
NC装置70は、主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎に、X軸方向における刃先TOtの移動速度が所定の最大送り速度F(図7参照)を超えない範囲で偏心量Lと偏心半径rを算出する。これにより、刃先TOtがワークW1に当たり続けるように、X軸方向における途中の偏心中心位置Pi、及び、該偏心中心位置Piを中心とする途中の偏心半径riが決定される。NC装置70は、分割回転角度E毎に偏心中心位置Piを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われるように、主軸11の回転に合わせてX軸方向に沿って刃物台30を移動させる指令を刃物台駆動部31に出す。この指令に従って刃物台駆動部31が主軸11の回転に合わせてX軸方向に沿って刃物台30を移動させると、分割回転角度E毎に偏心中心位置Piを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われる。
【0040】
以上より、図5に二点鎖線で示すように刃先TOtがワークW1に当たり続ける螺旋状の移動経路となり、断続切削が回避される。また、偏心量L及び偏心半径rが変わるのが主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎であるので、主軸1回転の単位で偏心半径rが変わる場合に生じる段差形状が抑制される。
分割回転角度Eは、主軸11の1回転よりも小さければよいが、移動方向D1に沿った刃物台30の移動が指令に追従する限り、小さいほど真円状の偏心加工の精度が向上する。例えば、分割回転角度Eは、刃物台30の移動の追従能力に応じて、180°以下、90°以下、45°以下、等とすることができる。図2に示す旋盤1の操作部80は、刃物台30の移動の追従能力を考慮した推奨範囲、例えば、15~30°の範囲から分割回転角度Eの設定を受け付けてもよい。
【0041】
図5に示す刃先TOtの移動経路では、最終的な偏心部W1pが形成される直前まで主軸11の位相に応じてワークW1の取り代が異なる。この場合、特に主軸11の回転速度が速ければ、最終的な偏心部W1pの真円度が低下することがある。そこで、図6に例示するように、途中の偏心半径rjから最終的な偏心半径rcに到るまでは主軸11の位相によらず一律の取り代となるように刃先TOtの移動経路が決定されてもよい。
【0042】
NC装置70は、最終的な偏心中心位置Pcに向かう切り込み時、偏心中心位置Pcを中心として最終的な偏心半径rcに最終取り代Jを加えた途中の偏心半径rjの真円加工が前記ワークW1に行われるまで、上述と同様にして刃先経路を決定する。途中の偏心半径rjは、最終的な偏心中心位置Pcを中心とする真円加工において刃先TOtがワークW1に当たり続ける半径である。すなわち、最終取り代Jは、最終的な偏心中心位置Pcを中心とする真円加工において刃先TOtがワークW1に当たり続ける範囲内で設定される。NC装置70は、初期位置Poから最終的な偏心半径rcに到る途中の偏心半径rjの真円加工がワークW1に行われるまで、断続切削とならないように、初期位置Po、最終的な偏心中心位置Pc、及び、途中の偏心半径rjに基づいて螺旋状の刃先経路を決定する。例えば、図6の下部に示すように、NC装置70は、刃先TOtがワークW1に当たり続けるように、開始タイミングT1からの時間に応じて、偏心量Lを増加させ、偏心半径rを減少させる。ここで、途中の偏心半径rjに到達する到達タイミングT3の時間TをT3で表すことにする。ワークW1の回転速度(rev/min)が一定である場合、開始タイミングT1から到達タイミングT3までの偏心量L及び偏心半径rは、例えば、以下の式により算出することができる。
L=Le×(T-T1)/(T3-T1) …(3)
r=ro-{(ro-rj)×(T-T1)/(T3-T1)} …(4)
【0043】
NC装置70は、主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎に、X軸方向における刃先TOtの移動速度が所定の最大送り速度Fを超えない範囲で偏心量Lと偏心半径rを算出する。これにより、刃先TOtがワークW1に当たり続けるように、X軸方向における途中の偏心中心位置Pi、及び、該偏心中心位置Piを中心とする途中の偏心半径riが決定される。NC装置70は、分割回転角度E毎に偏心中心位置Piを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われるように、主軸11の回転に合わせてX軸方向に沿って刃物台30を移動させる指令を刃物台駆動部31に出す。従って、NC装置70と刃物台駆動部31は、初期位置Poから偏心半径rjの真円加工がワークW1に行われるまで、分割回転角度E毎に偏心中心位置Piを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われるように、X軸方向に沿って刃物台30を移動させる。
【0044】
NC装置70は、最終取り代Jにおいて、最終的な偏心中心位置Pc、該偏心中心位置Pcを中心とする途中の偏心半径rj、及び、最終的な偏心半径rcに基づいて螺旋状の刃先経路を決定する。例えば、図6の下部に示すように、NC装置70は、途中の到達タイミングT3からの時間に応じて、偏心量Lを最終的な偏心量Leに維持したまま偏心半径rを減少させる。ワークW1の回転速度(rev/min)が一定である場合、到達タイミングT3から終了タイミングT2までの偏心半径rは、例えば、以下の式により算出することができる。
r=rj-{(rj-rc)×(T-T3)/(T2-T3)} …(5)
【0045】
NC装置70は、主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎に、X軸方向における刃先TOtの移動速度が所定の最大送り速度Fを超えない範囲で偏心半径rを算出する。これにより、刃先TOtがワークW1に当たり続けるように、最終的な偏心中心位置Pcを中心とする途中の偏心半径riが決定される。NC装置70は、分割回転角度E毎に偏心中心位置Pcを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われるように、主軸11の回転に合わせてX軸方向に沿って刃物台30を移動させる指令を刃物台駆動部31に出す。この指令に従って刃物台駆動部31が主軸11の回転に合わせてX軸方向に沿って刃物台30を移動させると、分割回転角度E毎に最終的な偏心中心位置Pcを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われる。従って、NC装置70と刃物台駆動部31は、偏心半径rjを起点として偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rcの真円加工がワークW1に行われるように、最大送り速度Fを超えない範囲でX軸方向に沿って刃物台30を移動させる。
【0046】
以上より、図6に二点鎖線で示すように、刃先TOtがワークW1に当たり続ける螺旋状の移動経路となる。また、偏心量L及び偏心半径rが変わるのが主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎であるので、主軸1回転の単位で偏心半径rが変わる場合に生じる段差形状が抑制される。その上で、途中の偏心半径rjから最終的な偏心半径rcまで主軸11の位相によらず一律の取り代となるので、最終的な偏心部W1pの真円度が向上する。
【0047】
(4)偏心加工処理の具体例:
図7は、最終取り代Jに到るまで偏心半径riとともに偏心中心位置Piを変化させる偏心加工処理を模式的に例示している。図2に示すNC装置70は、加工プログラムPR2から偏心加工コマンドCM1を読み込むと、偏心加工処理を開始させる。図7には、加工プログラムPR2に含まれる偏心加工コマンドCM1も示されている。尚、移動対象としての刃物台30の移動方向D1は、X軸方向であるものとする。
【0048】
図7に示す偏心加工コマンドCM1は、フォーマット「G*** A** B** (E**) (J**) F** S** P*」を有している。ワード「E**」とワード「J**」に付された括弧は、これらが省略可能であることを意味する。Gの後の引数「***」は、偏心加工コマンドCM1の番号を示している。Aの後の引数「**」は、主軸中心線AX0を中心としたワークW1の初期位相(θ=0°)における偏心半径rc上の第一加工終点Paの座標Xa(mm)を示している。Bの後の引数「**」は、初期位相とは180°異なる逆位相(θ=180°)における偏心半径rc上の第二加工終点Pbの座標Xb(-mm)を示している。すなわち、座標Xbは、X-Y平面において主軸中心線AX0の位置が第一加工終点Paと第二加工終点Pbとの間にある場合に正の値であり、X-Y平面において第二加工終点Pbが主軸中心線AX0の位置と第一加工終点Paとの間にある場合に負の値である。Eの後の引数「**」は、分割回転角度(deg)を示している。尚、分割回転角度Eには刃物台30の移動の追従能力を考慮した推奨範囲(例えば15~30°)が設定され、「E**」が省略されると分割回転角度Eはデフォルト値(例えば20°)が設定される。Jの後の引数「**」は、最終取り代(mm)を示している。最終取り代Jは、0以上、且つ、初期位置Poから第一加工終点Paまでの距離以下となるように設定される。「J**」が省略されると、最終取り代Jは0となる。Fの後の引数「**」は、X軸方向における刃物台30の最大送り速度(mm/rev)を示している。Sの後の引数「**」は、主軸11の回転速度(rev/min)を示している。Pの後の引数「*」は、例えば、2である場合に切り込みを意味し、3である場合に切り上げを意味する。
尚、刃物台30の移動方向D1がY軸方向である場合、偏心加工コマンドCM1中の各座標はY軸の座標となる。図示していないが、刃物台30の移動方向D1は、X-Y平面においてX軸方向とY軸方向の両方からずれていてもよい。
【0049】
図7に示す偏心加工処理が行われると、移動位置決定方法を含む偏心加工方法が実施される。偏心加工方法は、以下の工程(A1),(A2),(A3)を含んでいる。
(A1)刃先TOtの初期位置Po、最終的な偏心中心位置Pc、及び、最終的な偏心半径rcに基づいて、移動方向D1における刃物台30の移動速度が最大送り速度Fを超えない範囲で途中の偏心中心位置Pi、及び、途中の偏心半径riを決定する第一工程ST1(ステップS102に対応)。
(A2)分割回転角度E毎に偏心中心位置(Pi又はPc)を中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われるように、移動方向D1において主軸11の回転に合わせた刃物台30の位置を決定する第二工程ST2(ステップS104~S116に対応)。
(A3)刃先TOtの移動位置に従って刃物台30を主軸11の回転に合わせて移動させる第三工程ST3(ステップS118に対応)。
以下、「ステップ」の記載を省略する。
【0050】
偏心加工処理が開始すると、NC装置70は、X軸方向における刃先TOtの初期位置Po、及び、偏心加工コマンドCM1の引数を取得する(S102)。初期位置Poは、偏心加工コマンドCM1を実行する直前の刃先TOtの位置である。
次いで、NC装置70は、第一加工終点Paの座標Xaと第二加工終点Pbの座標Xbに基づいて、最終的な偏心中心位置Pcの座標Xc(mm)、及び、該偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rc(mm)を算出する(S104)。座標Xcと偏心半径rcは、以下の式により算出される。
Xc=(Xa-Xb)/2 …(6)
rc=(Xa+Xb)/2 …(7)
【0051】
ここで、図12を参照して、第一加工終点Paの座標Xaと第二加工終点Pbの座標Xbに基づいて偏心中心位置Pcの座標Xcと偏心半径rcを算出する一例を説明する。主軸中心線AX0のX座標は、0である。
第一加工終点PaのX座標が+3である場合、ワード「A**」の「**」に相当する座標Xaは、+3である。
第二加工終点PbのX座標が-1である場合、ワード「B**」の「**」に相当する座標Xbは、+1となる。
従って、最終的な偏心中心位置PcのX座標は、
Xc=(Xa-Xb)/2=(3-1)/2=+1
となる。
また、偏心半径rcは、
rc=(Xa+Xb)/2=(3+1)/2=2
となる。
【0052】
次いで、NC装置70は、最終的な偏心中心位置Pcを中心として初期位置Poから偏心半径rcに到る途中の偏心半径rjを算出する(S106)。偏心中心位置Pcに向かう切り込み時、偏心半径rjは、以下の式により算出される。
rj=rc+J …(8)
偏心中心位置Pcから離れる切り上げ時、偏心半径rjは、以下の式により算出される。
rj=rc-J …(9)
以下、切り込み時を例として説明する。
【0053】
次いで、NC装置70は、初期位置Po(座標をXoとする。)、第一加工終点Paの座標Xa、第二加工終点Pbの座標Xb、及び、最大送り速度Fに基づいて、第一加工終点Paと第二加工終点Pbとの中点である偏心中心位置Pcを中心とする真円加工がワークW1に行われるまでに必要な主軸11の回転回数N1(N1>0)を算出する(S108)。ここで、Xa>Xbである場合、ワークW1の取り代は、初期位相(θ=0°)よりも逆位相(θ=180°)の方が多くなる。Xa<Xbである場合、ワークW1の取り代は、初期位相(θ=0°)の方が逆位相(θ=180°)よりもが多くなる。そこで、切り込み時の回転回数N1は、以下の式により算出される。
Xa>Xbの場合、N1=(Xo-Xb-J)/F …(10)
Xa<Xbの場合、N1=(Xo-Xa-J)/F …(11)
【0054】
次いで、NC装置70は、主軸中心線AX0を中心として主軸11が開始タイミングT1から回転回数N1、回転するまでの間、分割回転角度E毎に、途中の偏心中心位置Pi、及び、途中の偏心半径riを決定する(S110)。図6に示す到達タイミングT3は、回転回数N1に到達するタイミングである。開始タイミングT1から到達タイミングT3までの間、主軸11が1回転する毎に、偏心量LはLe/N1ずつ増加し、偏心半径rは(ro-rj)/N1ずつ減少する。開始タイミングT1からの主軸11の回転回数をNで表し、主軸の位相をθ(deg)で表すと、開始タイミングT1から到達タイミングT3までの偏心量L及び偏心半径rは、例えば、以下の式により算出することができる。
L=Le×{N+(θ/360)}/N1 …(12)
r=ro-[(ro-rj)×{N+(θ/360)}/N1] …(13)
以上により、偏心中心位置Pcを中心として初期位置Poから偏心半径rcに到る途中の偏心半径rjであって刃先TOtがワークW1に当たり続ける偏心半径rjの真円加工がワークW1に行われるまで、分割回転角度E毎に偏心中心位置Piを中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われることになる。
【0055】
次いで、NC装置70は、偏心半径rjから最終的な偏心半径rcに到るまでの真円加工に必要な主軸11の回転回数N2(N2≧0)を算出する(S112)。偏心半径rjから偏心半径rcに到るまでの真円加工は、最終的な偏心中心位置Pcを中心として行われる。切り込み時の回転回数N2は、以下の式により算出される。
N2=(rj-rc)/F …(14)
【0056】
次いで、NC装置70は、主軸中心線AX0を中心として主軸11が到達タイミングT3から回転回数N2、回転するまでの間、分割回転角度E毎に途中の偏心半径riを決定する(S114)。図6に示す終了タイミングT2は、回転回数N2に到達するタイミングである。到達タイミングT3から終了タイミングT2までの間、偏心量LはLeのままであり、主軸11が1回転する毎に偏心半径rが(rj-rc)/N2ずつ減少する。開始タイミングT1からの主軸11の回転回数をNで表し、主軸の位相をθ(deg)で表すと、到達タイミングT3から終了タイミングT2までの偏心半径riは、例えば、以下の式により算出することができる。
ri=rj-{(rj-rc)×{N-N1+(θ/360)}/N2}…(15)
以上により、偏心半径rjを起点として偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rcの真円加工がワークW1に行われることになる。
【0057】
次いで、NC装置70は、分割回転角度E毎の偏心中心位置(Pi又はPc)及び偏心半径riに基づいて、X軸方向において主軸11の回転に合わせた刃先TOtの移動位置を決定する(S116)。図5,6に示す螺旋状の移動経路が実現されるように、刃先TOtの移動位置には主軸11の位相θに応じた変動が加えられる。
【0058】
最後に、NC装置70は、刃先TOtの移動位置に従って刃物台30をX軸方向に沿って移動させる指令を刃物台駆動部31に出す(S118)。この指令に従って刃物台駆動部31が主軸11の回転に合わせてX軸方向に沿って刃物台30を移動させると、分割回転角度E毎に偏心中心位置(Pi又はPc)を中心として偏心半径riの切削がワークW1に行われる。
【0059】
以上説明したように、主軸中心線AX0から偏心した真円加工が行われる際に刃先TOtがワークW1に当たり続けるので、断続切削が回避される。また、偏心量L及び偏心半径rが変わるのが主軸11の1回転よりも小さい分割回転角度E毎であるので、主軸1回転の単位で偏心半径rが変わる場合に生じる段差形状が抑制される。さらに、途中の偏心半径rjから最終的な偏心半径rcまで主軸11の位相によらず一律の取り代となるので、偏心加工の真円度が向上する。従って、本具体例は、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させる工作機械を提供することができる。
【0060】
また、図8に例示するように、NC装置70は、最終取り代Jを自動的に決定してもよい。図8は、最終取り代Jの決定処理を含む偏心加工処理を模式的に例示している。図8に示す偏心加工処理は、図7に示す偏心加工処理と比べて、S102の処理がS202の処理に置き換わり、S104とS106との間にS204の処理が追加されている。移動対象としての刃物台30の移動方向D1は、X軸方向であるものとする。
偏心加工処理が開始すると、NC装置70は、X軸方向における刃先TOtの初期位置Po、及び、偏心加工コマンドCM1の引数を取得する(S202)。取得される偏心加工コマンドCM1には、ワード「J**」が設けられていない。むろん、偏心加工コマンドCM1がワード「J**」を含んでいる場合、NC装置70は図7で示した偏心加工処理を行ってもよい。
【0061】
次いで、NC装置70は、上述した式(6),(7)に従って、最終的な偏心中心位置Pcの座標Xc(mm)、及び、該偏心中心位置Pcを中心とする偏心半径rc(mm)を算出する(S104)。
次いで、NC装置70は、初期位置Po、最終的な偏心中心位置Pc、及び、最終的な偏心半径rcに基づいて、最終取り代Jを算出する(S204)。
【0062】
例えば、切り込み時において第一加工終点Paの座標Xaが第二加工終点Pbの座標Xbよりも大きい場合、最終取り代Jの最大値(Jmaxとする。)は初期位置Poの座標Xoから第一加工終点Paの座標Xaを差し引いたXo-Xaとなる。NC装置70は、最大値Jmaxを最終取り代Jに決定してもよい。切り込み時において第一加工終点Paの座標Xaが第二加工終点Pbの座標Xbよりも小さい場合、最終取り代Jの最大値Jmaxは初期位置Poの座標Xoから第二加工終点Pbの座標Xbを差し引いたXo-Xbとなる。この場合も、NC装置70は、最大値Jmaxを最終取り代Jに決定してもよい。いずれの場合も、刃先TOtが初期位置Poから途中の偏心半径rjに到達するまで刃先TOtがワークW1に当たり続けることになる。
むろん、NC装置70は、0よりも大きく最大値Jmaxよりも小さい値を最終取り代Jに決定してもよい。例えば、NC装置70は、0よりも大きく1よりも小さい係数k(例えば0.1≦k≦0.9)を最大値Jmaxに乗じたk×Jmaxを最終取り代Jに決定してもよい。
【0063】
次いで、NC装置70は、上述した式(8),(9)に従って、最終的な偏心中心位置Pcを中心として初期位置Poから偏心半径rcに到る途中の偏心半径rjを算出する(S106)。
以上のようにして、NC装置70は、初期位置Po、偏心中心位置Pc、及び、偏心半径rcに基づいて、偏心中心位置Pcを中心として刃先TOtがワークW1に当たり続ける偏心半径rjを決定する。その後、NC装置70は、図7に示すS108~S116の処理を行い、X軸方向において主軸11の回転に合わせた刃先TOtの移動位置を決定する。最後に、NC装置70は、刃先TOtの移動位置に従って刃物台30をX軸方向に沿って移動させる指令を刃物台駆動部31に出す(S118)。
【0064】
S204の最終取り代決定処理により最終取り代Jが自動的に決定されるので、オペレーターは最終取り代Jを設定する必要がない。従って、本旋盤1は、便利である。
【0065】
(5)加工プログラムの入力インターフェイスの具体例:
図2に示す操作部80は、加工プログラムPR2のコマンドを入力させ易くする入力インターフェイスを有している。操作部80の入力部81は、0~9及び小数点の数値キー、アルファベットの数よりも少ない数の選択キー、矢印キー、ALTキー、等の複数のキーを備えている。各数値キーは、0~9及び小数点を1回の操作で入力可能である。一方、1つの選択キーは複数のアルファベットに対して割り当てられているため、所望のアルファベットを入力するためには、アルファベットを切り替える操作が必要である。
【0066】
図10は、加工プログラムの入力インターフェイスの比較例を模式的に示している。
加工プログラムは、1行につき1つのブロック200で構成される。各ブロック200は、シーケンス番号201、1以上のワード202、及び、EOB(エンドオブブロック)203を含んでいる。シーケンス番号201は、数字の連番を含み、ブロック200を識別可能であり、何番目のブロック200であるかを示している。各ワード202は、アドレスを表すアルファベットと、具体的なデータを表す数値との組合せで構成されている。EOB203は、ブロック200の最後尾を示している。
【0067】
ワード202単位で編集を行うためのワード編集モードにおいて、操作部80は、いずれかのワード202にカーソル204が合わせられている時、カーソル204の位置におけるワード202の編集を受け付ける。この時、操作部80は、アルファベット、数値、及び、ALTキーの順に操作を受け付け、受け付けた内容をカーソル204の位置のワード202に上書きする。例えば、カーソル204の位置のワード202が「Y20.0」であるものとする。オペレーターがアルファベット「Y」及び数値「30.0」を順に入力し、ALTキーを押す操作を行うと、カーソル204の位置のワード202が「Y30.0」に更新される。ただ、アルファベットを入力するためにはアルファベットを切り替える操作が必要であるので、ワード202を構成するデータ(数値)のみ変更したい場合にアドレス(アルファベット)の入力が煩わしい。
【0068】
図9は、改良された入力インターフェイスの例を模式的に示している。
図9に示す例において、操作部80は、ワード編集モードにおいてオペレーターが数値のみ入力したことを判別すると、アドレス(アルファベット)を変更しないでデータ(数値)のみ更新する。すなわち、操作部80は、数値、及び、ALTキーの順に操作を受け付けると、カーソル204の位置におけるワード202の内、アドレスを変更しないで残し、受け付けた数値でデータのみ上書きする。例えば、カーソル204の位置のワード202が「Y20.0」であるものとする。オペレーターが数値「30.0」を入力し、ALTキーを押す操作を行うと、カーソル204の位置におけるワード202のデータのみ「30.0」に更新される。むろん、オペレーターがアルファベット「Y」及び数値「30.0」を順に入力し、ALTキーを押す操作を行っても、カーソル204の位置のワード202が「Y30.0」に更新される。
【0069】
以上より、ワード編集モードにおいて、オペレーターは、煩わしいアドレス(アルファベット)を入力しなくても、データ(数値)を変更することができる。従って、図9に示す入力インターフェイスは、ワード202の編集を容易にさせることができる。
尚、入力インターフェイスを実現させる処理は、図2に示すNC装置70が行ってもよい。
【0070】
(6)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、本技術を適用可能な工作機械は、旋盤に限定されず、マシニングセンター等でもよい。
旋盤1は、Z軸方向において正面主軸16が移動しない主軸固定型旋盤でもよい。
主軸11が移動方向D1へ移動可能である場合、制御部U1は、刃物台30を移動させる代わりに主軸11を移動方向D1へ移動させてもよいし、刃物台30とともに主軸11を移動方向D1へ移動させてもよい。
偏心加工時の主軸11の回転速度は、rev/min単位で一定であることに限定されず、周速一定制御等により変化してもよい。
【0071】
図7,8に示す偏心加工処理は、順番を入れ替える等、適宜、変更可能である。例えば、S112の回転回数N2の算出処理はS108又はS110の処理の直前に行われてもよいし、S112~S114の処理がS108又はS110の処理の直前に行われてもよい。
図7,8に示すS102~S116,S202,S204の少なくとも一部の処理は、外部のコンピューター等、旋盤1以外で行われてもよい。
偏心加工コマンドCM1は、上述した例に限定されない。例えば、偏心加工コマンドCM1は、加工終点(Pa,Pb)の座標の代わりに最終的な偏心中心位置Pc及び最終的な偏心半径rcを示すワードを含んでいてもよい。また、偏心加工コマンドCM1は、刃先TOtの初期位置Poを示すワードを含んでいてもよい。
【0072】
(7)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、断続切削を回避しながら真円状の偏心加工の精度を向上させる技術等を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1…旋盤(工作機械の例)、
10…主軸台、11…主軸、12…把持部、13…主軸台駆動部、
15…正面主軸台、16…正面主軸、16c…正面主軸回転駆動部、17…把持部、
20…背面主軸台、21…背面主軸、21c…背面主軸回転駆動部、22…把持部、
30…刃物台、31…刃物台駆動部、32…X軸駆動部、33…Y軸駆動部、
70…NC装置、
AX0,AX1,AX2…主軸中心線、AX3…偏心軸、
CM1…偏心加工コマンド、
D1…移動方向、
E…分割回転角度、
J…最終取り代、
L,Le…偏心量、
Pa…第一加工終点、Pb…第二加工終点、Pc,Pi…偏心中心位置、
Po…初期位置、
N1,N2…回転回数、
r,rc,ri,rj…偏心半径、
ST1…第一工程、ST2…第二工程、ST3…第三工程、
T1…開始タイミング、T2…終了タイミング、T3…到達タイミング、
TO1…工具、TOt…刃先、
U1…制御部、
W1…ワーク、W1h…加工途中の偏心部、W1p…偏心部。
図1
図2
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図4
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図12