(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151742
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】細胞培養基材、細胞培養基材の製造方法、コーティング剤、積層体、医療デバイス、積層体の製造方法、イムノクロマトグラフィ装置、及び、イムノクロマトグラフィ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241018BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20241018BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241018BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20241018BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241018BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20241018BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20241018BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241018BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241018BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20241018BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C12M1/00 A
A61L27/16
A61L27/34
A61L29/04 100
A61L31/04 110
A61L31/10
A61L33/06 200
C12M3/00 A
G01N33/543 521
G01N33/531 B
C08F8/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065381
(22)【出願日】2023-04-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、独立行政法人環境再生保全機構、環境研究総合推進費「省エネ・低環境負荷を実現する次世代船底塗膜ならびに塗工プロセスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 千晶
(72)【発明者】
【氏名】中路 正
【テーマコード(参考)】
4B029
4C081
4J100
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029CC11
4B029GB09
4C081AB13
4C081AB23
4C081AB31
4C081AC02
4C081AC06
4C081AC08
4C081AC15
4C081BB04
4C081BB09
4C081CA081
4C081CA231
4C081CA241
4C081CC01
4C081CC04
4C081DA02
4C081DB07
4C081DC04
4C081EA01
4J100AL08R
4J100AM21P
4J100AM21Q
4J100BA03Q
4J100BA12P
4J100BA28H
4J100BC43P
4J100BC66R
4J100CA05
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA33
4J100HC43
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】 優れた細胞接着性を有する細胞培養基材の提供。
【解決手段】 樹脂基材と、樹脂基材上に形成された、以下の式(1)~(3)で表される繰り返し単位を含む、第1の重合体の硬化物を含む層と、を備える細胞培養基材。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材上に形成された、以下の式(1)~(3)で表される繰り返し単位を含む、第1の重合体の硬化物を含む層と、
を備える細胞培養基材。
【化1】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(3)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、L
2は、-S-を含む2価の基、又は、-NH-を表し、PAはポリアミノ酸残基を表す。)
【請求項2】
前記樹脂基材が、ポリオルガノシロキサンを含んで構成される、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
表面に凹凸パターン構造が形成された、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【請求項4】
前記凹凸パターン構造が、凸部と凹部とが所定のピッチで略平行に繰り返して並び、前記凸部の延びる方向に略垂直な断面が鋸刃状の構造をなす、請求項3に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
線維系細胞の培養用である、請求項4に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
式(2)で表される前記繰り返し単位が、アミド構造を有する単位、ベタイン構造を有する単位、(ポリ)オキシアルキレン基を有する単位、及び、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を有する基を有する単位からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項7】
前記電荷的に中性な親水性基が、式(21)で表される基、式(22)で表される基、式(23)で表される基、式(24)で表される基、(ポリ)オキシアルキレン基、及び、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を有する基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項1に記載の細胞培養基材。
【化2】
(式(21)中、*は結合位置を表し、R
61
、R
62は、それぞれ独立に水素原子、又は、炭素数が1~10個のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であって、その水素原子の1個以上が、ヒドロキシ基、及び/又は、アルコキシ基で置換されてもよい1価の基を表し、式(22)中、*は結合位置を表し、L
21は、-NH-、又は、酸素原子を表し、L
22は炭素数が1~6個のアルキレン基、R
7、R
8はそれぞれ独立して炭素数が1~4個のアルキル基、L
23は炭素数が1~4個のアルキレン基、Z
2は-COO
-、又は、-SO
3
-を表し、式(23)中、*は結合位置を表し、L
24は、-NH-、又は、酸素原子を表し、L
25は、炭素数が1~6個のアルキレン基、L
26は炭素数が1~4個のアルキレン基を表し、R
9、R
10、R
11はそれぞれ独立して炭素数が1~4個のアルキル基を表し、式(24)中、R
63は、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を表す。)
【請求項8】
前記光照射によりラジカルを発生する基が、以下の式(g1)で表される基である、請求項1に記載の細胞培養基材。
【化3】
(式(g1)中、R
7は置換基を有していてもよい炭素数6~30個のアリーレン基を表す。また、R
8は、置換基を有していてもよい炭素数6~30個のアリール基を表す。また、*は結合位置を表す。)
【請求項9】
細胞培養基材の製造方法であって、
樹脂基材に、以下の式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含むコーティング剤を用いてコーティング層を形成することと、
前記コーティング層に光照射して、前記第3の重合体を架橋させて、硬化物を形成するとともに、前記樹脂基材を構成する第2の重合体と、前記第3の重合体との間で共有結合を形成することと、
前記硬化物とポリアミノ酸とを反応させ、アミド結合、又は、チオエーテル結合を介して、前記硬化物に前記ポリアミノ酸を固定することと、を含む、細胞培養基材の製造方法。
【化4】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(4)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、X
3は、X
3に隣接するカルボニル基の炭素原子と前記ポリアミノ酸のアミノ基との反応により脱離可能な基、又は、マレイミジル基を有する1価の基を表す。)
【請求項10】
以下の式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含む、樹脂基材用のコーティング剤であって、
樹脂基材の表面に機能性分子を固定するために用いられ、
前記機能性分子は少なくともアミノ基、又は、メルカプト基を有する、コーティング剤。
【化5】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、式(4)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、X
3は、X
3に隣接するカルボニル基の炭素原子と前記アミノ基との反応により脱離可能な基、又は、マレイミジル基を有する1価の基を表す。)
【請求項11】
アミノ基、及び/又は、メルカプト基を有する機能性分子をその表面に固定するために用いられる積層体であって、
樹脂基材と、前記樹脂基材上に形成され、前記機能性分子を固定するための前駆体層と、を有し、
前記前駆体層は、以下の式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む、第3の重合体の硬化物を含む、積層体。
【化6】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(4)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、X
3は、X
3に隣接するカルボニル基の炭素原子と前記アミノ基との反応により脱離可能な基、又は、マレイミジル基を有する1価の基を表す。)
【請求項12】
請求項11に記載の積層体を含み、細胞培養容器、細胞培養シート、細胞捕捉フィルター、バイアル、プラスチックコート、バイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、及び、包装材からなる群より選択される1種である、医療デバイス。
【請求項13】
アミノ基、及び/又は、メルカプト基を有する機能性分子をその表面に固定するために用いられる積層体を製造するための、積層体の製造方法であって、
樹脂基材に、以下の式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含むコーティング剤を用いてコーティング層を形成することと、
前記コーティング層に光照射して、前記第3の重合体を架橋させて、硬化物を形成するとともに、前記樹脂基材を構成する第2の重合体と、前記第3の重合体との間で共有結合を形成することと、を含む、積層体の製造方法。
【化7】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(4)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、X
3は、X
3に隣接するカルボニル基の炭素原子と前記機能性分子の前記アミノ基との反応により脱離可能な基、又は、マレイミジル基を有する1価の基を表す。)
【請求項14】
検出対象と標準抗体とにより複合体を形成させ、前記複合体、又は、前記標準抗体を捕捉抗体で捕捉して検出するイムノクロマトグラフィ装置であって、
樹脂基材であるメンブレンと、前記樹脂基材の主面の一部を占めるように配置された以下の式(1)、(2)、及び、(5)で表される繰り返し単位を含む、重合体の硬化物を含む層と、を備えるイムノクロマトグラフィ装置。
【化8】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、L
2は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(5)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、L
2は、-S-を含む2価の基、又は、-NH-を表し、Igは、前記捕捉抗体の残基を表す。)
【請求項15】
検出対象と標準抗体とにより複合体を形成させ、前記複合体、又は、前記標準抗体を捕捉抗体で捕捉して検出する、イムノクロマトグラフィ装置を製造する、イムノクロマトグラフィ装置の製造方法であって、
樹脂基材に、以下の式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含むコーティング剤を用いてコーティング層を形成することと、
前記コーティング層をパターン露光して、露光部において、前記第3の重合体を架橋させて、硬化物を形成するとともに、前記樹脂基材を構成する第2の重合体と、前記第3の重合体との間で共有結合を形成させることと、
前記硬化物に、前記捕捉抗体を固定することと、を含む、イムノクロマトグラフィ装置の製造方法。
【化9】
(式(1)中、L
1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X
1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X
2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R
2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(4)中、R
3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、X
3は、X
3に隣接するカルボニル基の炭素原子と前記捕捉抗体のアミノ基との反応により脱離可能な基、又は、マレイミジル基を有する1価の基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養基材、細胞培養基材の製造方法、コーティング剤、積層体、医療デバイス、積層体の製造方法、イムノクロマトグラフィ装置、及び、イムノクロマトグラフィ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディッシュ等として知られる細胞培養基材の材質としては、ガラスや樹脂等が用いられてきた。近年、その材質として、樹脂、なかでも、ポリジメチルシロキサン(以下「PDMS」ともいう。)を使用すべき要望が強まっている。PDMSは、複雑な3次元形状であっても容易に成形可能であり、また、元来、細胞に対して不活性であるため、細胞培養基材をはじめ、マイクロ流路用の基材、及び、医療器具の基材等への応用が期待されている。
【0003】
一方で、PDMSの表面は疎水性で、水をはじき易く、細胞培養基材として使用するには、細胞が吸着・接着しにくいという問題があった。そのため、PMDSの表面を改質し、細胞培養基材とする技術が提案されている。このような技術として、特許文献1には、「ポリジメチルシロキサンの基材の表面に、水または水溶液を保持する溶液保持部が形成された試験用基材であって、前記溶液保持部は、親水性の表層を有する凹状部であり、前記表層の最大厚みが1μm以上である、ことを特徴とする試験用基材。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-202352号公報
【特許文献2】特開2021-123712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PDMSの表面改質には、プラズマ照射、及び/又は、電子線等の照射が用いられてきた。プラズマ照射等によれば、PDMSの表面にヒドロキシ基、カルボキシ基等の親水性基が生じ、細胞の接着性が改善される。
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、プラズマ照射等による表面改質の効果は経時的に失われやすいことを知見している。すなわち、表面改質後に経時的に細胞が接着しにくくなったり、接着した細胞が剥離したりすることがあることを知見している。これは、PDMSのガラス転移温度が低いため、分子鎖の運動によって表面の状態が経時的に変化しやすい(表面に生成された置換基がバルク側に入ってしまう)ためであると考えられる。
従って、プラズマ照射等により親水化されたPDMS基材は、細胞培養基材としては、必ずしも十分な細胞接着性を有するとは言えなかった。
【0007】
そこで、本発明は、優れた細胞接着性を有する細胞培養基材の提供を課題とする。また、本発明は、細胞培養基材の製造方法、コーティング剤、積層体、積層体の製造方法、検査キット、及び、検査キットの製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
[1] 樹脂基材と、上記樹脂基材上に形成された、後述する式(1)~(3)で表される繰り返し単位を含む、第1の重合体の硬化物を含む層と、を備える細胞培養基材。
[2] 上記樹脂基材が、ポリオルガノシロキサンを含んで構成される、[1]に記載の細胞培養基材。
[3] 表面に凹凸パターン構造が形成された、[1]又は[2]に記載の細胞培養基材。
[4] 上記凹凸パターン構造が、凸部と凹部とが所定のピッチで略平行に繰り返して並び、上記凸部の延びる方向に略垂直な断面が鋸刃状の構造をなす、[3]に記載の細胞培養基材。
[5] 線維系細胞の培養用である、[4]に記載の細胞培養基材。
[6] 式(2)で表される上記繰り返し単位が、アミド構造を有する単位、ベタイン構造を有する単位、(ポリ)オキシアルキレン基を有する単位、及び、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を有する基を有する単位からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の細胞培養基材。
[7] 上記電荷的に中性な親水性基が、後述する式(21)で表される基、式(22)で表される基、式(23)で表される基、式(24)で表される基、(ポリ)オキシアルキレン基、及び、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を有する基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[1]に記載の細胞培養基材。
[8] 上記光照射によりラジカルを発生する基が、後述する式(g1)で表される基である、[1]に記載の細胞培養基材。
[9] 細胞培養基材の製造方法であって、樹脂基材に、後述する式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含むコーティング剤を用いてコーティング層を形成することと、上記コーティング層に光照射して、上記第3の重合体を架橋させて、硬化物を形成するとともに、上記樹脂基材を構成する第2の重合体と、上記第3の重合体との間で共有結合を形成することと、上記硬化物とポリアミノ酸とを反応させ、アミド結合、又は、チオエーテル結合を介して、上記硬化物に上記ポリアミノ酸を固定することと、を含む、細胞培養基材の製造方法。
[10] 後述する式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含む、樹脂基材用のコーティング剤であって、樹脂基材の表面に機能性分子を固定するために用いられ、上記機能性分子は少なくともアミノ基、又は、メルカプト基を有する、コーティング剤。
[11] アミノ基、及び/又は、メルカプト基を有する機能性分子をその表面に固定するために用いられる積層体であって、樹脂基材と、上記樹脂基材上に形成され、上記機能性分子を固定するための前駆体層と、を有し、上記前駆体層は、後述する式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む、第3の重合体の硬化物を含む、積層体。
[12] [11]に記載の積層体を含み、細胞培養容器、細胞培養シート、細胞捕捉フィルター、バイアル、プラスチックコート、バイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、及び、包装材からなる群より選択される1種である、医療デバイス。
[13] アミノ基、及び/又は、メルカプト基を有する機能性分子をその表面に固定するために用いられる積層体を製造するための、積層体の製造方法であって、樹脂基材に、後述する式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含むコーティング剤を用いてコーティング層を形成することと、上記コーティング層に光照射して、上記第3の重合体を架橋させて、硬化物を形成するとともに、上記樹脂基材を構成する第2の重合体と、上記第3の重合体との間で共有結合を形成することと、を含む、積層体の製造方法。
[14] 検出対象と標準抗体とにより複合体を形成させ、上記複合体、又は、上記標準抗体を捕捉抗体で捕捉して検出するイムノクロマトグラフィ装置であって、樹脂基材であるメンブレンと、上記樹脂基材の主面の一部を占めるように配置された後述する式(1)、(2)、及び、(5)で表される繰り返し単位を含む、重合体の硬化物を含む層と、を備えるイムノクロマトグラフィ装置。
[15] 検出対象と標準抗体とにより複合体を形成させ、上記複合体、又は、上記標準抗体を捕捉抗体で捕捉して検出するイムノクロマトグラフィ装置を製造する、イムノクロマトグラフィ装置の製造方法であって、樹脂基材に、後述する式(1)、(2)、及び、(4)で表される繰り返し単位を含む第3の重合体を含むコーティング剤を用いてコーティング層を形成することと、上記コーティング層をパターン露光して、露光部において、上記第3の重合体を架橋させて、硬化物を形成するとともに、上記樹脂基材を構成する第2の重合体と、上記第3の重合体との間で共有結合を形成させることと、上記硬化物に、上記捕捉抗体を固定することと、を含む、イムノクロマトグラフィ装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた細胞接着性を有する細胞培養基材が提供される。また、本発明によれば、細胞培養基材の製造方法、コーティング剤、積層体、積層体の製造方法、検査キット、及び、検査キットの製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の細胞培養基材の一実施形態の説明図である。
図1(a)は、細胞培養基材の斜視図であり、
図1(b)は、一部断面図である。
【
図3】細胞培養基材の製造方法の一実施形態のフロー図である。
【
図4】細胞培養基材の製造方法の各ステップの説明のための模式図である。
【
図6】本発明のイムノクロマトグラフィ装置の一実施形態の模式的な斜視図である。
【
図7】イムノクロマトグラフィ装置の製造方法の一実施形態のフロー図である。
【
図8】イムノクロマトグラフィ装置の製造方法の各ステップの説明のための断面模式図である。
【
図9】各基材における接着細胞数(cells/cm
2)の定量結果を表す図である。
【
図10】コラーゲン溶液に浸漬させた各基材を用いて、2週間、筋芽細胞を培養した結果を表す図である。
【
図11】細胞培養基材の断面SEM(走査型電子顕微鏡)像、及び、細胞培養基材に接着した筋芽細胞のSEM画像である。
【
図12】凹凸パターン構造有する細胞培養基材における細胞接着状態の観察および免疫染色による分化評価の結果である。
【
図13】フォトマスクによるコーティング膜のパターン化の結果である(実施例の細胞培養基材)。
【
図14】フォトマスクによるコーティング膜のパターン化の結果である(参考例のPSディッシュ)。
【
図15】P(HPAm
82-BPAm
3-NSA
15)及びP(HPAm
77-BPAm
3-NSA
20)修飾表面での細胞接着評価試験の結果を表す核染色画像である。
【
図16】P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)修飾を施したPET表面での細胞接着評価試験の結果を表す核染色画像である。
【
図17】P(HPAm
89-BPAm
1-NSA
10)による細胞接着評価試験の結果を表す核染色画像である。
【
図18】各基材における接着細胞数(cells/cm
2)の定量結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0014】
本願発明者の一人は、これまで、生物付着抑制性能を有するコーティング剤の開発を進めてきた(特許文献2:特開2021-123712号公報)。上記技術によれば、意図しない細胞等の接着を抑制できる可能性があったが、逆に、所望の細胞を吸着・接着させることはできなかった。本発明者らは、上記文献で開示されたのとは反対の機能である「細胞を接着させる」という機能の実現に向けて鋭意検討を続け、本発明を完成させた。
【0015】
[細胞培養基材]
図1は本発明の細胞培養基材(以下、「本細胞培養基材」ともいう。)の一実施形態の説明図である。
図1(a)は、細胞培養基材の斜視図であり、
図1(b)は、一部断面図である。
細胞培養基材10は、樹脂基材1と、樹脂基材1上に形成された硬化物層2と、硬化物層2上に形成された機能性分子層3とを備える。
【0016】
図1(b)は、細胞培養基材10の一部20の断面図である。
図1(b)において、硬化物層2、及び、機能性分子層3は、それぞれ、下層(樹脂基材1、及び、硬化物層2)の一方側の主面の全体を覆うように配置されている。
しかし、本発明の細胞培養基材としては上記に限定されず、上層は、それぞれの下層の少なくとも一部を覆うように配置されていればよい。
例えば、硬化物層2は、樹脂基材1の一方側の主面の面積を100%としたとき、40%以上を覆うことが好ましく、60%以上を覆うことがより好ましく、80%以上を覆うことが更に好ましい。
【0017】
また、細胞培養基材10において、樹脂基材1から順に、その一方側の主面に硬化物層2、及び、機能性分子層3が積層されている。一方、本発明の細胞培養基材としては上記に限定されず、硬化物層2、及び、機能性分子層3は、細胞培養基材10の両側の主面に配置されていてもよい。また、一形態として、側面を含む、全面に他の層が積層して配置されていてもよい。
なお、本明細書において、主面とは、シート状の部材において、他の面よりも面積が広い層を意味する。典型的には、シート状の部材においては、一対の主面(表と裏)とが存在する。
なお、本発明の細胞培養基材は、シート状でなくてもよく、曲面を有する3次元形状であってもよい。
【0018】
各層の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜調整され得る。樹脂基材1の厚みは、0.001~1000mmが好ましく、1~100mmがより好ましい。
硬化物層2の厚みは、より優れた本発明の効果が得られる観点では、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、一形態として、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。詳細は後述するが、硬化物層に含まれる第1の重合体の硬化物は、優れた柔軟性を有し、かつ、樹脂基材との優れた接着性(以下、「層間接着性」ともいう。)を有するため、硬化物層2の厚みに関わらず、樹脂基材1から剥離する等の問題は生じにくい。
【0019】
機能性分子層3の厚みは特に限定されない。例えば、単分子膜であってもよく、この場合の厚みは、一形態として、1nm以上であってよい。上限は、たとえば、50μm以下であってよく、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0020】
樹脂基材1の一方側(硬化物層2、及び、機能性分子層3が積層される側)の表面には、凹凸パターン構造が形成される。硬化物層2、及び、機能性分子層3はこの形状に追従するよう積層される。そのため、細胞培養基材10の表面は樹脂基材1が備える凹凸パターン構造が反映された形状となる。
細胞培養基材10の凹凸パターン構造は、凹部4と、凸部5とが所定のピッチ(凸部5のピーク同士の間隔、図中「pitch」)で略平行に繰り返して並び、凸部5(及び凹部4)の延びる方向に略垂直な断面は、鋸刃状をなす。
【0021】
凹凸パターン構造を有する細胞培養基材10によれば、所定の細胞の培養がより促進されたり、及び/又は、分化がより促進されたりする。細胞培養基材10のように、所定の軸方向に延びる凹部4と凸部5とが繰り返される構造である場合、線維芽細胞、筋細胞、骨芽細胞、及び、これらに分化し得る細胞(本明細書において「線維系細胞」ともいう。)の分化をより促進しやすい点で好ましい。これらの細胞は、所定の方向への配向しながら凝集すると考えられ、上記凹凸パターン構造を有する細胞培養基材10では、分化がより促進されやすいことが実験(後述する実施例)で確認されている。
言い換えれば、上記の凹凸パターン構造を有する細胞培養基材10は、細胞の配向性を必要とする組織、及び、器官等の再生に好ましく使用できる。
【0022】
凸部5のピーク位置の間隔(ピッチ、山と山との間隔)、及び、凹部4の底位置から、凸部5のピーク位置までの高さ(図中、「depth」、谷の深さ)は、特に限定されず、培養すべき細胞の種類によって適宜選択され得る。例えば、培養すべき細胞が、線維芽細胞である場合、ピッチは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下が更に好ましい。
また、深さ(デプス)は、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。
ピッチ、及び、深さが上記数値範囲内である場合、細胞の配向性を必要とする組織、及び、器官の再生等のための細胞培養により適する。
【0023】
本発明の細胞培養基材は、他の凹凸パターン構造を有していてもよい。例えば、凹凸パターン構造は、培養すべき細胞に応じて適宜選択され得る。例えば、腫瘍組織、肝細胞、及び、その他の臓器細胞等によって、オルガノイド、及び/又は、スフェロイドを形成しようとする場合、一形態として、凹凸パターン構造は、くぼみ状であってよい。
また、本発明の細胞培養基材は、凹凸パターン構造を有していなくてもよい。すなわち、平板状であってもよい。また、両側の主面に凹凸パターン構造を有していてもよいし、全面に凹凸パターン構造を有していてもよい。
【0024】
〔樹脂基材1〕
次に、細胞培養基材10の各層の材質等について詳述する。
樹脂基材1の材質は特に限定されず、合成樹脂であっても、天然樹脂であってもよく、これらの複合物(アロイ、及び、コンポジット等)であってもよい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する点で、側基(側鎖)として、飽和、又は、不飽和のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基を有する重合体(又はその硬化物)を主成分とすることが好ましい。
なお、樹脂基材1を構成する上記重合体を、以下の説明では「第2の重合体」という場合がある。
【0025】
第2の重合体が有する側鎖の炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、1~20個が好ましく、1~10個がより好ましい。一形態として、炭化水素基は、炭素数が1~20個のアルキル基、アルキニル基、及び、アルケニル基からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、炭素数1~20個のアルキル基がより好ましく、炭素数1~10個のアルキル基が更に好ましい。
【0026】
樹脂基材1の材質としては、例えば、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、スチレン樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、ビニル系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ビニルベンジルクロライド系樹脂、及び、ポリビニルアルコール等)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ビニルエーテル系樹脂、及び、これら共重合体などの熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、及び、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0027】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、樹脂基材1の材質は、ポリオルガノシロキサンを含むことが好ましい。ポリオルガノシロキサンは、モールドを使用した形状の転写が容易である等、曲面を含む3次元形状も容易に形成できる。ポリオルガノシロキサンを含む(好ましくは、ポリオルガノシロキサンからなる)樹脂基材1は、凹凸パターン構造の形成が容易である。
【0028】
樹脂基材1の全体におけるポリオルガノシロキサンの含有量としては特に限定されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、樹脂基材1の全質量を100質量%としたとき、80質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましい。上限は、100質量%以下である。
なお、ポリオルガノシロキサンは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。ポリオルガノシロキサンを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0029】
〔硬化物層2〕
硬化物層2は、所定の重合体(第1の重合体)の硬化物を含む。硬化物層2中における第1の重合体の硬化物の含有量は特に限定されないが、優れた樹脂基材1への接着性、形状追従性、及び、細胞接着性が得られる観点で、硬化物層2の全体を100質量%としたとき、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、上限は100質量%以下であり、一形態として100質量%であることが更に好ましい。
【0030】
第1の重合体は、以下の式(1)~(3)で表される繰り返し単位を有する。
【化1】
【0031】
式(1)中、L1は、-NH-、又は、酸素原子(O)を表し、X1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、式(3)中、R3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、L2は、-S-を含む2価の基、又は、-NH-を表し、PAはポリアミノ酸残基を表す。
【0032】
(式(1)で表される繰り返し単位:単位[I])
式(1)で表される繰り返し単位(「単位[I]」ともいう。)は、光照射によりラジカルを発生する基(以下「光ラジカル発生基」ともいう。)を有する。単位[I]は、分子内に固定された光ラジカル開始剤としての機能を有する。
光照射により発生したラジカルは、樹脂基材1を構成する第2の重合体が有する炭化水素基(例えばアルキル基等)からの水素引き抜きによって共有結合を形成する。
また、発生したラジカルは、第1の重合体の分子内、分子間における架橋反応にも寄与する。すなわち、第1の重合体を硬化させ、硬化物とする。
【0033】
樹脂基材1上に、第1の重合体の層を形成し、そこに光照射すると、第1の重合体の架橋反応が進行して、硬化物が得られる。また、これと共に、樹脂基材1を構成する重合体(第2の重合体)との界面において、第2の重合体が有する側基(側鎖)からの水素引き抜きにより、共有結合が形成される。
光ラジカル発生基を有する第1の重合体は、硬化(架橋)過程で、樹脂基材1を構成する第2の重合体との間で共有結合を形成する。これにより、本細胞培養基材の硬化物層2は、優れた層間接着性、優れた形状追従性(樹脂基材1が変形した場合にも追従する性能)を有する。
【0034】
また、光ラジカル発生基は、第1の重合体の硬化にも寄与する。光ラジカル発生基は第1の重合体の側基として固定されているため、発生したラジカルが、分子内、又は、分子間で結合を形成して、架橋反応が進行する。そのため、第1の重合体を硬化させる際に、光ラジカル発生剤等を使用する必要がない。この結果、硬化物層2から光ラジカル発生剤等が溶出、漏出することがなく、細胞の培養に有利となる。
【0035】
第1の重合体中における単位[I]の含有量としては特に限定されないが、第1の重合体が有する全繰り返し単位を100モル%としたとき、0.1モル%以上が好ましく、1.0モル%以上がより好ましく、2.0モル%以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
なお、第1の重合体は、単位[I]の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。第1の重合体が、2種以上の単位[I]を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0036】
単位[I]の含有量が、1.0モル%以上、好ましくは2.0モル%以上であると、優れた均一性を有する硬化物層2が得られやすい。すなわち、第1の重合体の架橋に寄与すべき光ラジカル発生基が十分となりやすく、得られる膜(硬化物層2)が十分な強度を有する結果、より均一な状態となりやすい。
一方で、単位[I]の含有量が5モル%以下であると、硬化物の疎水性がより適度な範囲に調整されやすい。硬化物の表面は、後述する、式(2)で表される繰り返し単位(単位[II])の影響で親水的である。その前提で、疎水性である単位[I]の含有量が上記数値範囲内であると、硬化物層2の表面の親水性がより適度な範囲に維持されやすい。その結果、目的とする細胞をより特異的に吸着させやすい(より優れた「吸着の特異性」が得られる)。
【0037】
吸着の特異性の発現には、後述する、式(3)で表される繰り返し単位(単位[III])に固定(担持)される機能性分子(ポリアミノ酸)が寄与する。一方で、第1の重合体における単位[I]の含有量が上記数値範囲内であると、ポリアミノ酸による特異的な吸着「以外の」吸着がより起こりにくくなる。
【0038】
上記の傾向は、樹脂基材1の表面が元来、より強く疎水的、撥水的である場合により顕著である。
例えば、樹脂基材1の材質が、ポリオレフィン、及び、ポリオルガノシロキサン等である場合、樹脂基材1の表面は元来、疎水的、撥水的であり、一般に、細胞は吸着しにくい。これに対して、硬化物層2はより親水的であり、細胞の吸着が起こりやすい。ここで、単位[I]の含有量を所定の範囲に調整し、その親水性/疎水性を調整することで、吸着の特異性をより高めることができる。
【0039】
式(1)中、L1は、-NH-、又は、酸素原子を表す。L1が-NH-であると、得られる硬化物がより分解(加水分解)しにくく、硬化物層2の耐久性がより向上しやすい。
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、水素原子、又は、炭素数1~10個の炭化水素基がより好ましい。炭化水素基としては、炭素数1~3の炭化水素基が更に好ましく、具体的には、アルキル基、アルケニル基、及び、アルキニル基等が挙げられ、アルキル基がより好ましい。
【0040】
式(1)中、X1は光(紫外線、及び、放射線等)照射によりラジカルを発生する基(光ラジカル発生基)を表す。光ラジカル発生基としては特に限定されないが、例えばカルボニルのα位が光開裂する構造を有する1価の基、及び、オキシムエステル構造を有する1価の基等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、光ラジカル発生基としては、以下の式(g1)で表される基が好ましい。
【0041】
【0042】
式(g1)中、R4は置換基を有してもよい炭素数6~30個のアリーレン基を表す。また、R5は、置換基を有してもよい炭素数6~30個のアリール基を表す。また、*は結合位置を表す。
より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、R4としては、フェニレン基が好ましく、R5としては、フェニル基が好ましい。
光ラジカル発生基は、以下の式(g2)で表される基がより好ましい。なお、式(g2)中、*は結合位置を表す。
【0043】
【0044】
単位[I]は、以下の式(1′)で表される単量体に基づく単位であることが好ましい。
【化4】
【0045】
式(1′)中、R1、L1、及び、X1は、それぞれ、式(1)中における各記号と同義であり、好適形態も同様である。
上記単量体は市販品を使用することもできるし、合成して使用してもよい。合成方法としては特に限定されないが、アミノ基を有する光重合開始剤と、(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させることでも製造できる。上記の単量体としては、例えば、N-(4-ベンゾイルフェニル)(メタ)アクリレート、及び、N-(4-ベンゾイルフェニル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
(式(2)で表される繰り返し単位:単位[II])
下記式(2)で表される繰り返し単位(「単位[II]」ともいう。)は、電荷的に中性な親水性基を有する基を有する。電荷的に中性な親水性基は、第1の重合体の硬化物の生体適合性を向上させるとともに、硬化物の表面への非特異的な細胞吸着を抑制する効果を有する。
本細胞培養基材において、樹脂基材1の材質として、疎水性の、又は、撥水性の樹脂基材1が用いられる場合でも、硬化物層2によるコーティングにより、その表面は優れた生体適合性を有する。また、この親水性基は電荷的に中性であるため、細胞を吸着させにくいという性質(バイオイナートな性質)を有する。
【0047】
後述するように、本細胞培養基材における細胞吸着の特異性は、単位[II]のバイオイナートな性質(細胞の吸着を抑制する性質)と、後述する単位[III]に固定される機能性分子(ポリアミノ酸)の性質(特定の細胞を吸着させる性質)との相乗効果により達成される。
第1の重合体における単位[II]の含有量としては特に限定されないが、第1の重合体が有する全繰り返し単位を100モル%としたとき、65モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、83モル%以上が更に好ましく、85モル%以上が特に好ましい。
上限は特に限定されないが、99モル%以下が好ましく、94モル%以下が好ましい。
なお、第1の重合体は、単位[II]の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。第1の重合体が、2種以上の単位[II]を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0048】
式(2)中、X2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表す。
式(2)中、R2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、水素原子、又は、炭素数1~10個の炭化水素基がより好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、及び、アルキニル基等が挙げられ、アルキル基がより好ましい。
【0049】
式(2)中、X
2は、「電荷的に中性な親水性基」を有する基を表す。電荷的に中性な親水性基は、具体的には、式(21)で表される基、式(22)で表される基、式(23)で表される基、式(24)で表される基、(ポリ)オキシアルキレン基、及び、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基等が挙げられる。
【化5】
【0050】
・アミド構造を有する単位
式(21)中、*は結合位置を表し、R61、及び、R62は、それぞれ独立に水素原子、又は、炭素数が1~10個のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であって、その水素原子の1個以上が、ヒドロキシ基、及び/又は、アルコキシ基で置換されてもよい1価の基を表す。但し、R61、及び、R62の少なくとも一方は、上記炭化水素基である(水素原子ではない)ことが好ましい。なお、本明細書において、式(21)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、「アミド構造を有する単位」に区分する。
【0051】
式(21)中、R61、及び、R62で表される1価の基としては、それぞれ独立に、例えば、以下の式(211)で表される基が好ましい。
【0052】
【0053】
式(211)中、L30は単結合、又は、p+q+1価の基を表し、L31は単結合、又は、2価の基を表し、Z3は、水素原子、ヒドロキシ基、又は、アルコキシ基を表し、pは1以上の整数を表し、R12は水素原子、又は、1価の炭化水素基を表し、qは0以上の整数を表し、*は結合位置を表し、L30が単結合、又は、2価の基のとき、pは1、qは0である。なお、式(211)中、複数あるL31、Z3、及び、R12はそれぞれ同一でも異なってもよい。なお、式(211)で表される基が有する炭素数の合計は、1~10個である。
【0054】
L30の2価の基としては特に限定されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR-(Rは、水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基、(炭素数1~10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、アリーレン基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられ、炭素数1~10個のアルキレン基が好ましく、炭素数1~5個のアルキレン基がより好ましい。
【0055】
L
30の3価以上の基としては特に限定されないが、以下の式(3BRC)~(6BRC)で表される基が挙げられる。
【化7】
【0056】
式(3BRC)中、L3は3価の基を表す。T3は単結合、又は、2価の基を表し、3個のT3は互いに同一でも、異なってもよい。
L3としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。
L3の具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0057】
式(4BRC)中、L4は4価の基を表す。T4は単結合、又は、2価の基を表し、4個のT4は互いに同一でも、異なってもよい。
なお、L4の好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれてもよい。
L4の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及び、ジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0058】
式(5BRC)中、L5は5価の基を表す。T5は単結合、又は、2価の基を表し、5個のT5は互いに同一でも、異なってもよい。
なお、L5の好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。
L5の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0059】
式(6BRC)中、L6は6価の基を表す。T6は単結合、又は、2価の基を表し、6個のT6は互いに同一でも、異なってもよい。
なお、L6の好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。
L6の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0060】
式(3BRC)~式(6BRC)中、T3~T6で表される2価の基の具体例、及び、好適形態は、上述の式(211)のL30の2価の基と同様であってよい。
また、L30の7価以上の基としては、式(3BRC)~式(6BRC)で表される基を組み合わせた基が挙げられる。
【0061】
なお、L30は、3価の基が好ましく、3価の基としては、炭素数1~10個の3価の炭化水素基が好ましく、炭素数1~5の炭化水素基がより好ましい。
式(211)中、L31の2価の基としては特に制限されず、L30の2価の基と同様の基が挙げられ、炭素数1~10個のアルキレン基が好ましく、炭素数1~5のアルキレン基がより好ましい。
【0062】
電荷的に中性な親水性基として式(21)で表される基を有する単位[II]は、親水性基含有基を有する単量体に基づく単位であることが好ましい。このような単量体としては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、及び、N-(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0063】
単位[II]がアミド構造を有する単位である場合、電荷的に中性な親水性基は、ヒドロキシ基、又は、アルコキシ基を有することが好ましく、ヒドロキシ基を有することがより好ましい。
【0064】
・ベタイン構造を有する単位
次に、式(22)、及び、式(23)で表される、電荷的に中性な親水性基について詳述する。
式(22)中、*は結合位置を表し、L21は、-NH-、又は、酸素原子を表し、L22は炭素数が1~6個のアルキレン基、R7、R8はそれぞれ独立して炭素数が1~4個のアルキル基、L23は炭素数が1~4個のアルキレン基、Z2は-COO-、又は、-SO3
-を表す。
式(23)中、*は結合位置を表し、L24は、-NH-、又は、酸素原子を表し、L25は、炭素数が1~6個のアルキレン基、L26は炭素数が1~4個のアルキレン基を表し、R9、R10、R11はそれぞれ独立して炭素数が1~4個のアルキル基を表す。
なお、本明細書において、式(22)、又は、式(23)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、「ベタイン構造を有する単位」に区分する。
【0065】
式(22)、又は、式(23)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、ベタイン構造を有する単位の一例である。
ベタイン構造は、正電荷と負電荷とを同一の分子のそれぞれ隣り合わない位置に有しており、正電荷を有する原子には解離し得るプロトンが結合していない電荷的に中性な構造を意味する。
ベタイン構造において、正電荷を有する置換基としては、例えば、4級アンモニウム、スルホニウム、及び、ホスホニウムからなる群より選択される少なくとも1種とすることができる。一方、負電荷を有する置換基としては、例えば、スルホン酸、カルボン酸、及び、ホスホン酸からなる群より選択される少なくとも1種とすることができる。
このようなベタイン構造としては、例えば、スルホベタイン、カルボキシベタイン、及び、ホスホベタイン等が挙げられる。
なお、ベタイン構造は、上記の正電荷を有する置換基と、上記の負電荷を有する置換基と、を種々組み合わせた構造とし得る。
【0066】
式(22)中、L21は、-NH-、又は、酸素原子を表し、-NH-が好ましい。L21が-NH-であると、硬化物がより分解(加水分解)しにくく、硬化物層2がより優れた耐久性を有する。L22のアルキレン基としては、炭素数1~4個のアルキレン基が好ましく、炭素数2~3個のアルキレン基がより好ましい。
R7、R8のアルキル基は、炭素数が1~3個のアルキル基が好ましく、炭素数1個又は2個のアルキル基(メチル基、エチル基)がより好ましく、メチル基が更に好ましい。また、R7、R8は同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。また、L23のアルキレン基としては、炭素数1~4個のアルキレン基が好ましい。
Z2は-COO-、又は、-SO3
-を表す。
【0067】
式(22)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、電荷的に中性な親水性基を有する単量体に基づく単位であることが好ましい。このような単量体としては、例えば、[3-(Methacryloylamino)propyl]dimethyl(3-sulfobutyl)ammonium hydroxide inner salt(富士フイルム和光純薬社製、「FOM-03010」)、2-[[2-(Methacryloyloxy)ethyl]dimethylammonio]acetate(東京化成工業社製、「M3185」)、3-[[2-(Methacryloyloxy)ethyl]dimethylammonio]propionate((東京化成工業社製、「M2359」)、3-[(3-Acrylamidopropyl)dimethylammonio]propanoate(東京化成工業社製、「A3279」)、3-[[2-(Methacryloyloxy)ethyl]dimethylammonio]propane-1-sulfonate(東京化成工業社製、「M1971」)、4-[[2-(Methacryloyloxy)ethyl]dimethylammonio]butane-1-sulfonate(東京化成工業社製、「M3295」)、3-[[2-(Acryloyloxy)ethyl]dimethylammonio]propane-1-sulfonate(東京化成工業社製、「A3367」)、3-[(3-Methacrylamidopropyl)dimethylammonio]propane-1-sulfonate(東京化成工業社製、「U0119」)、4-[(3-Methacrylamidopropyl)dimethylammonio]butane-1-sulfonate(東京化成工業社製、「M3296」)、及び、3-[(3-Acrylamidopropyl)dimethylammonio]propane-1-sulfonate(東京化成工業社製、「A3361」)等が挙げられる。
【0068】
次に、式(23)中、L24は、-NH-、又は、酸素原子を表し、-NH-が好ましい。L24が-NH-であると、硬化物がより分解(加水分解)しにくく、硬化物層2がより優れた耐久性を有する。
また、L25、L26のアルキレン基の炭素数は1~4個が好ましく、2~4個がより好ましい。また、R9、R10、R11のアルキル基の炭素数は、炭素数が1~3個のアルキル基が好ましく、炭素数1個又は2個のアルキル基(メチル基、エチル基)がより好ましく、メチル基が更に好ましい。また、R9、R10、R11は同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。
【0069】
式(23)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、上記電荷的に中性な親水性基を有する単量体に基づく単位であることが好ましい。このような単量体としては、例えば、2-(Methacryloyloxy)ethyl 2-(Trimethylammonio)ethyl Phosphate(東京化成工業社製、「M2005」)等が挙げられる。
【0070】
・水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を有する基を有する単位
次に、式(24)で表される、電荷的に中性な親水性基について詳述する。
式(24)中、R63は、水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を表す。1価の炭化水素基としては、直鎖状、又は、分岐鎖状の炭素数1~10個のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。
なお、本明細書において、式(24)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、「水素原子の1個以上がヒドロキシ基、又は、アルコキシ基で置換された1価の炭化水素基を有する基を有する単位」に区分する。
【0071】
式(24)で表される電荷的に中性な親水性基を有する単位[II]は、上記電荷的に中性な親水性基を有する単量体に基づく単位であることが好ましい。このような単量体としては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、及び、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。
【0072】
・(ポリ)オキシアルキレン基を有する単位
単位[II]が有する電荷的に中性な親水性基は、(ポリ)オキシアルキレン基を有する基であってもよい。オキシアルキレン基は、-ORX-(但しRXは、アルキレン基を表し、炭素数は1~10個が好ましい)で表される2価の基であり、ポリオキシアルキレン基は、オキシアルキレン基を繰り返し単位として有する-(ORX)n-(但し、nは整数を表し、2~20が好ましい)で表される2価の基である。
なお、本明細書において、電荷的に中性な親水性基として(ポリ)オキシアルキレン基を有する単位[II]は、「(ポリ)オキシアルキレン基を有する単位」に区分する。
【0073】
(ポリ)オキシアルキレン基を有する単位は、(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体に基づく単位であることが好ましい。このような単量体としては、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0074】
(式(3)で表される繰り返し単位:単位[III])
第1の重合体が有する単位の説明に戻り、式(3)で表される繰り返し単位(「単位[III]」ともいう。)は、アミド結合、又は、チオエーテル結合を介して固定(担持)されたポリアミノ酸を有する単位である。
本明細書において、「ポリアミノ酸」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合で連結した化合物を意味し、ペプチド、及び、タンパク質を含む概念である。また、「ポリアミノ酸残基」は、ポリアミノ酸から得られ、ポリアミノ酸を構成するアミノ酸が有する第1級アミノ基(-NH2)、又は、メルカプト基を除いた原子団を意味する。
【0075】
単位[III]が有するポリアミノ酸残基は、接着、培養対象となる細胞に応じて適宜選択される。言い換えれば、培養対象となる細胞に特異的に吸着し得るポリアミノ酸の残基として選択され得る。例えば、線維芽細胞、筋細胞、骨芽細胞、及び、これらに分化し得る細胞等の線維系細胞の培養用であれば、ポリアミノ酸はコラーゲンとすることが好ましい。すなわち、ポリアミノ酸残基は、コラーゲンに基づくものであることが好ましい。
上記以外にも、ポリアミノ酸は、成長因子として知られるタンパク質であってもよい。例えば、上皮細胞の培養用であれば、ポリアミノ酸は、上皮成長因子(EGF)が好ましく、神経細胞の培養用であれば、ポリアミノ酸は、神経栄養因子等が好ましい。
【0076】
本細胞培養基材のポリアミノ酸残基は、培養対象の細胞に応じて適宜選択され得る。本細胞培養基材は、硬化物層2の主成分である第1の重合体の硬化物が有する単位[I]の寄与により樹脂基材への優れた追従性、層間接着性が発揮される。更に、主に単位[II]の寄与により、優れた生体適合性が得られ、かつ、非特異的な細胞吸着が抑制される。
これに加えて、第1の重合体の硬化物が有する単位[III]は、適切なポリアミノ酸(残基)の選択により、特異的な細胞吸着を実現する。これらの3つの機能が相乗的に発現することにより、従来の細胞培養基材には見られなかった優れた効果が発揮されるものである。
【0077】
第1の重合体中における単位[III]の含有量としては特に限定されないが、第1の重合体が有する全繰り返し単位を100モル%としたとき、1.0モル%以上が好ましく、3.0モル%以上が更に好ましく、5.0モル%以上が特に好ましく、8.0モル%以上が最も好ましい。上限は特に限定されないが、30モル%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、22モル%以下が更に好ましい。非限定的かつ具体的な一形態としては、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、12モル%以下が更に好ましい。
【0078】
単位[III]の含有量が、下限値以上であると、(ポリアミノ酸が対応する)所定の細胞に対して、より優れた接着性を有する。一方、上限値以下であると、相対的に他の繰り返し単位の含有量が十分に確保できるため、樹脂基材1とのより優れた層間接着性が得られる。
なお、第1の重合体は、単位[III]の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。第1の重合体が、2種以上の単位[III]を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0079】
第1の重合体中における単位[III]の含有量は、単位[I]の含有量よりも多いことが好ましい。単量体の含有量が上記関係にある場合、樹脂基材1との層間接着性と、所定の細胞への接着性(吸着性)とがより両立されやすい。
また、第1の重合体中における、単位[III]のモル基準の含有量に対する、単位[I]のモル基準の含有量の比(単位[I]/単位[III])は、樹脂基材1との層間接着性と、細胞接着性をより両立しやすい観点で、1/10~8/10が好ましく、1.5/10~8/10がより好ましい。
【0080】
式(3)中、R3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、水素原子、又は、炭素数1~10個の炭化水素基がより好ましい。炭化水素基としては、炭素数1~3の炭化水素基が更に好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、及び、アルキニル基等が挙げられ、アルキル基がより好ましい。また、「PA」は、ポリアミノ酸残基を表す。
【0081】
第1の重合体は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、単位[I]~単位[III]以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。しかし、本発明の効果をより高めやすい観点では、単位[I]~単位[III]の含有量の合計が90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上がより好ましい。一形態として、第1の重合体は、単位[I]~単位[III]のみで構成されることが好ましい。
【0082】
第1の重合体の分子量は特に限定されないが、得られる硬化物層2が樹脂基材1へのより優れた接着性(層間接着性)を有する点で、数平均分子量(標準ポリスチレン換算)として、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、50,000以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、150,000以下が更に好ましい。
また、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は特に限定されないが、1.0以上であって、10以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。
【0083】
単位[III]におけるL2の-S-を含む2価の基としては特に限定されないが、マレイミジル基(2,5-dioxo-2,5-dihydro-1H-pyrrol-1-yl(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル基))を有する1価の基にメルカプト基(チオール基、スルフヒドリル基)が付加して形成される2価の基であることが好ましく、以下の式(32)で表される2価の基が好ましい。
【0084】
【化8】
式(32)中、**は、ポリアミノ酸残基との結合位置を表し、*は他方の結合位置を表す。また、mは、1以上の整数を表し、1~4が好ましく、2~3がより好ましい。
【0085】
また、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、単位[III]は、以下の式(31)で表される単位であることが好ましい。
【化9】
【0086】
なお、このとき、PAのポリアミノ酸残基は、アミノ基を有するポリアミノ酸残基であることが好ましい。また、式中R3は、式(3)における同記号と同義である。
【0087】
〔第1の重合体の製造方法〕
第1の重合体の製造方法は特に限定されず、それぞれの単位を構成する単量体の混合物を調製して、これを重合させればよい。なかでも、より簡便に第1の重合体を合成できる点で、以下の3つの工程を以下の順に有する製造方法が好ましい。
図2は、下記工程を含む第1の重合体の製造方法のフロー図である。
(1)第1の重合体の前駆体となる第3の重合体(構造は後述する)を合成するための熱重合性組成物を調製する。
(2)熱重合性組成物を加熱して、第3の重合体を合成する。
(3)第3の重合体とポリアミノ酸とを反応させて、第1の重合体を合成する。
【0088】
(ステップS1)
第1の重合体の製造方法は、まず、ステップS1として、第1の重合体の前駆体となる第3の重合体を合成するための熱重合性組成物を調製する工程を有する。
【0089】
第3の重合体は、第1の重合体の前駆体となる重合体である。具体的には、ポリアミノ酸と反応させてこれをアミド結合、又は、チオエーテル結合(-S-)を介して固定することにより(好ましくはアミド結合)、第1の重合体を構成し得る重合体である。
第3の重合体は、以下の式(1)、(2)、及び、(4)で表される単位[I]、単位[II]、及び、単位[IV]を有する。
【0090】
【0091】
式(1)、及び、式(2)で表される、単位[I]、及び、単位[II]は、それぞれ、第1の重合体における単位[I]、[II]と同一であり、各記号もそれぞれ同義であり、その好適形態もそれぞれ同様である。
式(4)で表される単位4は、ポリアミノ酸と反応して単位[III]となる単位である。式(4)中、R3は、式(3)中の同記号と同義であり、好適形態も同様である。
【0092】
式(4)中、X3は、X3で表される基に隣接するカルボニル基の炭素原子と、第1級アミノ基との反応により脱離可能な基(以下「脱離基」ともいう。)、又は、マレイミジル基(2,5-dioxo-2,5-dihydro-1H-pyrrol-1-yl(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル基))を有する1価の基を表す。X3の脱離基についての詳細は後述する。
【0093】
第3の重合体における単位[I]、[II]、及び、[IV]の含有量は、それぞれ、第1の重合体における単位[I]、[II]、及び、[III]の含有量とそれぞれ同様であることが好ましい。すなわち、各単位の含有量、及び、その比率等は、第1の重合体における単位[III]を、単位[IV]とすることを除いては、上述のとおりである。
【0094】
ステップS1は、この第3の重合体を合成するための熱重合性組成物を調製する工程である。
熱重合性組成物は、以下の式(1′)、式(2′)、及び、式(4′)で表される単量体(i)、単量体(ii)、及び、単量体(iv)と、熱重合開始剤と、を少なくとも含む。
【化11】
【0095】
・単量体(i)
式(1′)で表される単量体(i)は、重合して単位[I]を構成する。式(1′)中、L1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を表す。これらはいずれも、式(1)における各記号と同義であり、好適形態も同様である。
【0096】
熱重合性組成物中における単量体(i)の含有量は特に限定されないが、第1の重合体における単位[I]の含有量を所定の範囲内に調整しやすい観点で、熱重合性組成物中における、単量体(i)、並びに、後述する単量体(ii)、及び、単量体(iv)の合計含有量を100モル%としたとき、単量体(i)の含有量は0.1モル%以上が好ましく、1.0モル%以上がより好ましく、2.0モル%以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
なお、熱重合性組成物は、単量体(i)の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。熱重合性組成物が、2種以上の単量体(i)を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0097】
・単量体(ii)
式(2′)で表される単量体(ii)は、重合して単位[II]を構成する。式(2′)中、R2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、X2は、電荷的に中性な親水性基を有する基を表す。これらはいずれも、式(2)における各記号と同義であり、好適形態も同様である。
【0098】
熱重合性組成物中における単量体(ii)の含有量は特に限定されないが、第1の重合体における単位[II]の含有量を所定の範囲内に調整しやすい観点で、熱重合性組成物中における、単量体(ii)、及び、単量体(i)、並びに、後述する単量体(iv)の合計含有量を100モル%としたとき、単量体(ii)の含有量は65モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、83モル%以上が更に好ましく、85モル%以上が特に好ましい。
上限は特に限定されないが、99モル%以下が好ましく、94モル%以下が好ましい。
なお、熱重合性組成物は、単量体(ii)の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。熱重合性組成物が、2種以上の単量体(ii)を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0099】
・単量体(iv)
式(4′)で表される単量体(iv)は、重合して、単位[IV]を構成する。
式(4′)中、R3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、水素原子、又は、炭素数1~10個の炭化水素基がより好ましい。炭化水素基としては、炭素数1~3の炭化水素基が更に好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、及び、アルキニル基等が挙げられ、アルキル基がより好ましい。
【0100】
また、式(3′)中、X3は、X3で表される基に隣接するカルボニル基の炭素原子と、第1級アミノ基との反応により脱離可能な基(脱離基)、又は、マレイミジル基(2,5-dioxo-2,5-dihydro-1H-pyrrol-1-yl(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル基))を有する1価の基を表し、脱離基が好ましい。
マレイミジル基を有する1価の基としては特に限定されないが、以下の式(321)で表される1価の基が好ましい。
【0101】
【化12】
式(321)中、*は、結合位置を表す。また、mは、1以上の整数を表し、1~4が好ましく、2~3がより好ましい。
【0102】
式(321)を有する単量体(iv)の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の式で表される反応式に従って容易に合成され得る。
【化13】
【0103】
X
3の脱離基を含む以下の式(41)で表される部分構造(*は結合位置を表す)は、活性エステル基、活性アミド基、酸アジド基、酸無水物基、及び、酸ハライド基等である。
【化14】
【0104】
X3の脱離基は、活性エステル基を構成するアルコキシ基;活性アミド基を構成するアシルオキシ基、又は、アルコキシカルボニルオキシ基;酸ハライド基を構成するハロゲン原子等である。
具体的には、X3の脱離基は、具体的には2,4-ジニトロフェノキシ基、4-ニトロフェノキシ基、N-スクシンイミジルオキシ基、N-(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミジル)オキシ基等のアルコキシ基;N-イミダゾリル基等のアミノ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基等のアシルオキシ基;エトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、イソブトキシカルボニルオキシ基等のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。また、X3は、塩素原子、及び、臭素原子等であってもよい。
X3の脱離基を含む、式(41)で表される基は、ポリアミノ酸をよりマイルドな条件で反応・結合させやすい点で、活性エステル基が好ましい。
【0105】
熱重合性組成物中における単量体(iv)の含有量は特に限定されないが、第1の重合体における単位[III]の含有量を所定の範囲内に調整しやすい観点で、熱重合性組成物中における、単量体(i)、単量体(ii)、及び、単量体(iv)の合計含有量を100モル%としたとき、1.0モル%以上が好ましく、3.0モル%以上がより好ましく、5.0モル%以上が更に好ましく、8.0モル%以上が特に好ましい。上限は特に限定されないが、30モル%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、22モル%以下が更に好ましい。非限定的かつ具体的な一形態としては、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、12モル%以下が更に好ましい。
なお、熱重合性組成物は、単量体(iv)の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。熱重合性組成物が、2種以上の単量体(iv)を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0106】
熱重合性組成物は、熱重合開始剤を含む。単量体(i)は、光ラジカル発生基を有し、光ラジカル発生基からは、樹脂基材1との接着の際にラジカルを発生させる必要があるため、第3の重合体の合成は、光照射以外の方法で行われることが好ましい。なかでも、熱重合開始剤を含む熱重合性組成物は、より容易に第3の重合体が得られやすい点で好ましい。
【0107】
熱重合開始剤としては特に限定されず、公知のものが使用できる。熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系熱重合開始剤、及び、有機過酸化物系熱重合開始剤等が挙げられる。
アゾ系熱重合開始剤としては、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、及び、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)等が挙げられる。有機過酸化物系熱重合開始剤としては、ジラウロイルパーオキシド、及び、t-ヘキシルパーオキシピバレート等が挙げられる。
【0108】
熱重合性組成物中における熱重合開始剤の含有量は特に限定されないが、一形態としては、単量体の合計の100質量部に対して、0.001~10質量部が好ましい。
【0109】
熱重合性組成物は、更に、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、アセトン、及び、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類;メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、セカンダリーブタノール、及び、ターシャリーブタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、及び、エチルセロソルブ等のセロソルブ類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、及び、ジエトキシエタン等のエーテル類;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、及び、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;トルエン等が挙げられる。
これらの有機溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、また、極性を調整するために、適宜2種以上を併用してもよい。溶媒としては、非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましい。
【0110】
熱重合性組成物が溶媒を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、熱重合性組成物の固形分が、1~99質量%となるよう調整されることが好ましい。
【0111】
(ステップS2)
図2に戻り、次に、ステップS2として、熱重合性組成物が加熱され、第3の重合体が合成される。
加熱の温度は特に限定されないが、一形態として、20~100℃が好ましい。また、加熱の時間は特に限定されないが、一形態として、0.1~72時間が好ましい。なお、加熱・重合は、不活性ガス雰囲気(例えばアルゴン雰囲気)で行われることが好ましい。
得られた反応生成物(第3の重合体)は、貧溶媒に再沈して回収して、乾燥させてもよい。
【0112】
(ステップS3)
次に、ステップS3として、ポリアミノ酸と反応させて、第1の重合体が合成される。ポリアミノ酸との反応方法は、公知の方法が適宜選択され得る。
例えば、X3が脱離基である場合、第1級アミノ基と式(41)で表される基とのアミド結合の形成反応は、種々公知であり、これらの方法が適宜選択され得る。
例えば、式(41)で表される基が、酸塩化物基である場合、ジクロロメタン等の溶媒中で、トリエチルアミンの存在下で、ポリアミノ酸と接触させることによって、ポリアミノ酸が単位4に結合し、その結果として、単位[III]が得られる。
また、式(41)で表される基が、活性エステル基である場合、溶媒(水、及び、アルコール等の極性溶媒が好ましい)中で、ポリアミノ酸と接触させることにより、反応が進行する。この際、水溶性カルボジイミド等の縮合剤を添加してもよい。
【0113】
〔機能性分子層3〕
図1(b)の細胞培養基材10の各層の材質の説明に戻り、機能性分子層3は、第1の重合体の(硬化物の)単位[III]に結合したポリアミノ酸により構成される。ポリアミノ酸の選択によって、所定の細胞に特異的な接着性が得られる。機能性分子層3には、単位[III]に結合していないポリアミノ酸が含まれていてもよい。また、単位[III]にそれぞれ結合された(2種以上の)ポリアミノ酸を含んでいてもよい。ポリアミノ酸の種類とその選択については上述のとおりである。
【0114】
[細胞培養基材10の製造方法]
図3は、細胞培養基材10の製造方法の一実施形態のフロー図である。また、
図4は、細胞培養基材10の製造方法の各ステップの説明のための模式図である。
【0115】
・ステップS10
まず、ステップS10(
図4(a))として、表面に凹凸パターン構造を有するモールド30のパターンが、樹脂基材1に転写される。転写の方法は特に限定されないが、例えば、光インプリント法、及び、熱インプリント法等を採用し得る。また、樹脂基材1上の凹凸パターンの形成は、上記によらず、リソグラフィ法(フォトリソグラフィ、又は、電子線リソグラフィ)等によって形成されてもよい。また、平板状の樹脂基材1を用いる場合、本ステップは省略されてもよい。
【0116】
・ステップS11
次に、ステップS11(
図4(b))として、パターン付きとなった樹脂基材1にコーティング剤を塗布し、コーティング層31(以下、「コーティング剤層31」ともいう。)を形成する。
コーティング剤は、少なくとも第3の重合体を含み、更に溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、上述の熱重合性組成物が含有してもよい溶媒と同様の溶媒が使用され得る。コーティング剤が溶媒を含有する場合、第3の重合体の含有量は特に限定されず、固形分が0.1~99質量%となるよう、調整されればよい。
【0117】
コーティング剤の塗布方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して使用し得る。特に、樹脂基材1の表面の凹凸パターン構造に応じて、適宜選択されればよい。
塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、及び、インクジェットプリント法等が挙げられる。
【0118】
コーティング剤層31の厚みとしては、乾燥膜厚として、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、一形態として、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。
コーティング剤層31の厚みは、細胞培養基材10における硬化物層2の厚みに応じて適宜調整され得る。
【0119】
・ステップS12
次に、ステップS12(
図4(c))として、樹脂基材1と、樹脂基材1上に形成されたコーティング剤層31とを有する積層体に、光照射される。これにより、コーティング剤層31中の、第3の重合体が硬化(架橋)され、第3の重合体の硬化物を含む前駆体層32が形成される。
【0120】
第3の重合体は、光ラジカル発生基を有する単位[I]を有するため、光照射によってラジカルを発生させる。発生したラジカルによる水素引き抜き反応によって、樹脂基材1を構成する第2の重合体と、第3の重合体との間に共有結合が形成される。また、これと共に、第3の重合体の分子間、及び、分子内において架橋反応が進み、第3の重合体の硬化物が得られる。
【0121】
照射される光は、紫外線が好ましく、その波長は光ラジカル発生基に応じて、適宜選択され得る。例えば、光ラジカル発生基が、ベンゾフェノンを含む場合には、その波長は、250~390nmが好ましく、280~350nmがより好ましい。照射強度は、特に限定されないが、一形態として、1~500mW/cm2が好ましく、100~400mW/cm2がより好ましい。
【0122】
本工程によって、樹脂基材1と、樹脂基材1上に第3の重合体の硬化物を含む前駆体層32とを有する積層体が得られる。この積層体において、樹脂基材1と前駆体層32との界面には、共有結合が形成され得るため、この積層体は優れた層間接着性を有するとともに、前駆体層32は優れた均一性を有する。
【0123】
・ステップS13
次に、ステップS13(
図4(d))として、前の工程で得られた積層体の前駆体層32上に、ポリアミノ酸溶液により、ポリアミノ酸溶液層33が形成される。これにより、前駆体層32に含まれる第3の重合体の硬化物と、ポリアミノ酸とが接触する。
前駆体層32上にポリアミノ酸溶液層33を形成する方法は、特に限定されず、ステップS11において、コーティング剤層31を形成したのと同様の方法を採用し得る。なかでも、より簡便にポリアミノ酸溶液層33が形成できる点で、積層体をポリアミノ酸溶液に浸漬する方法が好ましい。
【0124】
ポリアミノ酸溶液層33の厚みは特に限定されない。例えば、単分子膜であってもよく、この場合の厚みは、一形態として、1nm以上であってよい。上限は特に限定されないが、一形態として、50μm以下であってよく、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0125】
・ステップS14
次に、ステップS14(
図4(e))として、ポリアミノ酸の第1級アミノ基、又は、メルカプト基と、第3の重合体の単位4が有するX
3の脱離基(及び隣接するカルボニル基)、又は、マレイミジル基(2,5-dioxo-2,5-dihydro-1H-pyrrol-1-yl(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル基))とを反応させて、アミド結合、又は、チオエーテル結合を形成させ、ポリアミノ酸を前駆体層32上に固定させる。この際の反応条件等については、上述のとおりである。
【0126】
本工程により、単位4とポリアミノ酸との反応により、単位[III]が形成される。従って、前駆体層32中の第3の重合体の硬化物から、第1の重合体の硬化物が得られる。また、ポリアミノ酸残基(及び、遊離のポリアミノ酸)によって、機能性分子層3が形成される。
結果として、本工程により、樹脂基材1/硬化物層2/機能性分子層3を有する細胞培養基材10が得られる。
【0127】
なお、
図3において、ステップS13と、ステップS14とは順次実施されるが、上記各ステップは同時に実施されてもよい。
【0128】
本発明の細胞培養基材は、細胞接着性に優れる。本細胞培養基材によって培養し得る細胞としては、接着性細胞(足場依存性細胞)であることが好ましい。接着性細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)等の幹細胞、線維芽細胞等が挙げられる。特に、細胞培養基材が凹凸パターン構造を有する場合、分化誘導に適した細胞凝集塊を形成させるために用いることが好ましい。
【0129】
[コーティング剤]
本発明の(樹脂基材用の)コーティング剤は、式(1)、(2)、及び、(4)で表される単位[I]、単位[II]、及び、単位[IV]を含む第3の重合体を含む。
【化15】
【0130】
式(1)、(2)、及び、(4)における各記号、及び、その好適形態は上述のとおりである。また、第3の重合体における各単位の含有量比も上述のとおりである。
コーティング剤は、第3の重合体に加えて、溶媒を含有してもよい。溶媒の種類、及び、含有量についても上述のとおりである。
【0131】
本コーティング剤は、機能性分子層を有する積層体の製造に使用できる。具体的には、樹脂基材上にコーティング剤層を形成し、硬化させたのち、アミノ基、及び/又は、メルカプト基(好ましくはアミノ基)を有する機能性分子を、コーティング剤層上に固定させる(アミド結合、又は、チオエーテル結合を介して固定させる)ことができる。
固定される機能性分子は、第1級アミノ基、及び/又は、メルカプト基を有していれば特に限定されず、第1級アミノ基を有していることが好ましい。例えば、種々の生体高分子(タンパク質、及び、ペプチド等のポリアミノ酸等を含む)が挙げられる。
【0132】
また、本コーティング剤は、樹脂基材1上に塗布して、光照射により硬化させて第3の重合体の硬化物を含む、前駆体層32を形成するのに使用できる。言い換えれば、樹脂基材1と、樹脂基材1上に形成された前駆体層32とを有する積層体の製造にも使用できる。
【0133】
上記の積層体は、種々の機能性分子を固定するのに使用できる。
例えば、プロタミン、ポリリジン、及び、リゾチーム等の抗菌(静菌)性を有するタンパク質、ペプチド等を固定(担持)させれば、抗菌性の表面を形成できる。樹脂製の筐体を有する医療機器等の表面に本コーティング剤を塗布(例えば、スプレー塗布)して、光照射した後、抗菌性を有する上記のタンパク質等を含む溶液を塗布すれば、当該医療機器等の表面に抗菌膜を形成することができる。
【0134】
[積層体]
本発明の積層体は、樹脂基材1と、樹脂基材1に配置された第3の重合体の硬化物を含む前駆体層32とを含む。
図5は、本発明の積層体110の断面模式図である。積層体110において、前駆体層32は、樹脂基材1の一方側の主面の全体を覆うように配置されている。しかし、本発明の積層体としては上記に限定されず、樹脂基材1の主面における少なくとも一部を覆うように配置されていればよい。
前駆体層32は、コーティング剤層31を硬化させて形成し得るため、樹脂基材1上にコーティング剤層31を形成してパターン露光すれば、樹脂基材1の主面上の一部に前駆体層32を配置することは容易である。
【0135】
前駆体層32は、樹脂基材1の一方側の主面の面積を100%としたとき、40%以上を覆うことが好ましく、60%以上を覆うことがより好ましく、80%以上を覆うことが更に好ましい。
一形態として、樹脂基材1の主面の全体を覆うように、前駆体層32が配置されていてもよい。
【0136】
また、積層体110において、樹脂基材1の一方側の主面に前駆体層32が積層されている。一方、本発明の積層体としては上記に限定されず、樹脂基材1の両側の主面に、前駆体層32が配置されていてもよい。また、一形態として、側面を含む、全面に前駆体層32が積層配置されていてもよい。
また、樹脂基材1は平板状以外にも、曲面を有する3次元形状であってもよい。
【0137】
各層の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜調整され得る。樹脂基材1の厚みは、0.1~1000mmが好ましく、1~100mmがより好ましい。
前駆体層32の厚みは、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、一形態として、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。
【0138】
前駆体層32は、第3の重合体の硬化物を含む。この硬化物は樹脂基材1と共有結合を形成するため、優れた層間接着性が発揮される。また、第3の重合体の硬化物は、単位4を有するため、脱離基X3(及び隣接するカルボニル基)との反応を介して、第1級アミノ基を有する機能性分子を容易に固定(担持)することができる。
例えば、積層体110は、機能性分子として、タンパク質、及び、成長因子等を固定することにより、細胞培養基材として使用することもできる。また、抗菌性ペプチド、プロタミン、ポリリジン、及び、リゾチーム等を固定することにより、抗菌膜として使用することもできる。
【0139】
積層体110は、用途に応じた機能性分子をその表面に固定することで、細胞培養容器、細胞培養シート、細胞捕捉フィルター、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、及び、包装材等の医療デバイスとして使用できる。
【0140】
[イムノクロマトグラフィ装置]
本発明のイムノクロマトグラフィ装置は、検出対象と標準抗体とにより複合体を形成させ、上記複合体、又は、上記標準抗体を捕捉抗体で捕捉して検出するイムノクロマトグラフィ装置であって、樹脂基材であるメンブレンと、上記メンブレンの主面の一部を占めるように配置された、後述する式(1)、(2)、及び、(5)で表される繰り返し単位を含む、第4の重合体の硬化物を含む層と、を備える。
【0141】
図6は、本発明のイムノクロマトグラフィ装置の一実施形態の模式的な斜視図である。イムノクロマトグラフィ装置200は、メンブレンである樹脂基材1と、メンブレンの長手方向の一方端に階段状に配置されたコンジュゲートパッド41と、サンプルパッド40を備え、他方端には、吸水紙42を備える。
【0142】
また、樹脂基材1の長手方向の中途部分の主面上には、テストライン43、及び、コントロールライン44が配置される。テストライン43には、検出対象を特異的に捕捉する第1の捕捉抗体が固定され、コントロールライン44には、標準抗体を特異的に捕捉する第2の捕捉抗体が固定される。
【0143】
検出対象(例えば抗原)を含む液体試料が、サンプルパッド40に滴下されると、これがコンジュゲートパッド41に浸潤する。コンジュゲートパッド41には予め色素等によって標識された標準抗体が含まれており、検出対象と標準抗体との複合体が形成される。この複合体が樹脂基材1(メンブレン)上に展開される。テストライン43には、検出対象を特異的に捕捉する第1の捕捉抗体が固定されている。複合体は、第1の捕捉抗体によって捕捉され、テストライン43部分に色素が集積して呈色する。
【0144】
一方、液体試料に検出対象が含まれない場合、樹脂基材1(メンブレン)上を標準抗体のみが展開される。標準抗体は、テストライン43では捕捉されず、コントロールライン44に固定された、標準抗体を特異的に捕捉する第2の捕捉抗体によって捕捉される。この場合、コントロールライン44部分に色素が集積して呈色する。
本イムノクロマトグラフィ装置200は、上記のとおり、複合体、又は、標準抗体を、捕捉抗体(第1の捕捉抗体、又は、第2の捕捉抗体)によって捕捉することで、液体試料中の検出対象を検出する。
【0145】
イムノクロマトグラフィ装置200の樹脂基材1は、液体試料を展開するメンブレンとしての機能を有する。樹脂基材1は多孔質膜であることが好ましく、材質としては特に限定されないが、例えば、ニトロセルロース、セルロース、及び、ナイロン等が挙げられる。
【0146】
サンプルパッド40の材質は特に限定されないが、例えば、多孔質ポリオレフィンシート、ろ紙、綿布、及び、不織布等が使用できる。
コンジュゲートパッド41は、標準抗体、及び、液体試料を含浸させ得るものであればよく、サンプルパッド40と同様の材質とすることができる。
吸水紙42は、展開された液体試料を吸収、保持できるものであればよく、サンプルパッド40と同様の材質とすることができる。
【0147】
テストライン43、及び、コントロールライン44には、下記の式(1)、(2)、及び、(5)で表される繰り返し単位を含む、第4の重合体の硬化物を含む層が、樹脂基材1上に配置される。
【化16】
【0148】
式(1)中、L1は、-NH-、又は、酸素原子を表し、X1は光照射によりラジカルを発生する基を表し、R1は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(2)中、X2は電荷的に中性な親水性基を有する基を表し、R2は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、式(5)中、R3は、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~10個の炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、L2は、-S-を含む2価の基、又は、-NH-を表し、Igは捕捉抗体の残基(捕捉抗体残基)を表す。
【0149】
第4の重合体は、第1の重合体におけるポリアミノ酸残基が捕捉抗体残基(第1の捕捉抗体残基、及び/又は、第2の捕捉抗体残基)とされたこと以外は、第1の重合体と同様であり、各単位の含有量比(組成)を含む好適形態も同様である。
また、第4の重合体の製造方法は、第1の重合体の製造方法と同様である。すなわち、第3の重合体のX3の脱離基(及び隣接するカルボニル基)と、捕捉抗体の第1級アミノ基とによってアミド結合を形成させるか、または、マレイミジル基を有するX3の1価の基と、捕捉抗体のメルカプト基とによって、チオエーテル結合を形成させればよい。
【0150】
図7は、イムノクロマトグラフィ装置200の製造方法の一実施形態のフロー図である。また、
図8は、イムノクロマトグラフィ装置200の製造方法の各ステップの説明のための断面模式図である。
【0151】
ステップS11として、樹脂基材1(
図8(a))にコーティング剤が塗布され、コーティング剤層31が形成される(
図8(b))。塗布方法等は、上述のとおりである。
【0152】
次に、ステップS20として、ステップS11により得られた積層体をパターン露光して、露光部において第3の重合体を硬化させる(
図8(c))。パターン露光の方法は特に限定されないが、例えば、フォトマスク50を介して光照射する方法が挙げられる。なお、光照射の条件等は、上述(ステップS12として説明されたもの)と同様であってよい。
【0153】
このとき、露光部は、テストライン43、及び、コントロールライン44に対応する位置となるよう調整される。露光部では、第3の重合体が硬化し、溶媒に対する溶解性が低下し、硬化物は樹脂基材1と結合する。一方、未露光部では、第3の重合体は硬化せず、溶媒への溶解性は維持される。
【0154】
次に、ステップS21として、未露光部を洗浄除去する(
図8(d))。洗浄方法としては特に限定されないが、コーティング剤に含まれる溶媒と同種の溶媒が使用できる。本工程により、テストライン43、及び、コントロールライン44に対応する位置に第3の重合体の硬化物が残る(前駆体層32が形成される)。この硬化物は、捕捉抗体の担体として機能する。
【0155】
次に、ステップS22として、捕捉抗体を含む組成物(捕捉抗体組成物)を積層体上に塗布する(
図8(e))。捕捉抗体組成物は、捕捉抗体(第1の捕捉抗体、又は、第2の捕捉抗体)と、これを分散させ得る溶媒とを含む、
塗布の方法としては特に限定されないが、テストライン43、及び、コントロールライン44に対応する部分に、それぞれ、第1の捕捉抗体を含む捕捉抗体組成物、及び、第2の捕捉抗体を含む捕捉抗体組成物を、より容易に塗布しやすい観点で、印刷法(スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、及び、グラビア印刷法)等を採用してもよい。
【0156】
次に、ステップS23として、捕捉抗体が硬化物に固定され(第4の重合体が形成され)、不要部分(硬化物に固定されていない部分)が洗浄除去され、テストライン43、及び、コントロールライン44が形成される。捕捉抗体を硬化物に固定する(アミド結合を形成する)方法は、上述のとおりである。
その後、他の部分が組み付けられ(ステップS24)、イムノクロマトグラフィ装置200が得られる。
【0157】
上記製造方法によれば、テストライン43、及び、コントロールライン44を形成するための担体(第3の重合体の硬化物)をフォトリソグラフィ法により簡単に形成し得るため、簡便にイムノクロマトグラフィ装置200を製造できる。更に、第3の重合体が有するX3の脱離基を含んで構成される基が活性エステル基である場合、よりマイルドな条件で捕捉抗体を固定できるため、より好ましい。
【実施例0158】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0159】
(HPAモノマーの合成)
Potassium carbonateの41.04gを60mlの水を添加し溶解させ、氷中、丸底フラスコ内で撹拌した。1-amino-2-propanolの18.58gをethyl acetateの200mlに溶解させ、丸底フラスコに加えた。そこにAcryloyl chlorideの20mlを滴下し、氷中で30分、撹拌した。その後、室温に戻し、終夜で撹拌した。反応後、ethyl acetateで目的化合物を水層から抽出した(油層)。取り出した油層を硫酸ナトリウムで脱水後、エバポレーターで濃縮した(ethyl acetateを可能な限り取り除いた)。Airバブリングを18時間行い、ethyl acetateを完全に除去した(透明液体)。
【0160】
1H NMR (D2O):δ(ppm):1.06(d,3H),3.14(m,1H),3.21(br,1H),3.84(m,1H),5.66(dd,1H),6.08(m,1H),6.17(dd,1H).
【0161】
(N-Benzophenone acrylamide (BPAモノマー)の合成)
4-aminobenzophenoneの5.0g、Triethylamineの3.097gをdichloromethaneの100mlに溶解させた。これを、氷中、Acryloyl chlorideの2.48mlに滴下した。30分攪拌後、室温に戻して、終夜で攪拌した。その後、食塩水の500mlで洗浄し、次いで蒸留水500mlで洗浄した。分離した油層を硫酸ナトリウムで脱水後、エバポレーターで濃縮した。得られた粉状の化合物を真空ポンプで終夜乾燥し、有機溶媒を取り除いた(茶白色状の粉末)。
【0162】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm):7.8(m,5H(Ar-H)),7.5(m,4H(Ar-H)),6.4(d,1H),6.2(q,1H),5.8(d,1H).
【0163】
(二元共重合体の合成)
HPAm/BPAm/AIBN(azobis(isobutyronitrile))=97/3/0.1のモル比で、アルゴン雰囲気下、DMF(N,N-dimethylformamide)中70度のオイルバスで2時間重合した。反応後、DMF系GPC(Gel Permeation Chromatography)測定により分子量、分子量分布を決定した。得られた2元共重合体はアセトンを用いた再沈回収により精製した。1H NMRにより未反応のモノマーが除去されていること、高分子鎖中のHPAm、BPAmの含有量が仕込み比とほぼ一致することを確認した。
【0164】
得られた重合体の数平均分子量(Mn)は94100、分子量分布(重量平均分子量:Mw/Mn)は3.6だった。なお、分子量は、標準ポリスチレン換算である。
【0165】
(三元共重合体の合成)
HPAm/BPAm/N-succinimidyl acrylate(NSA)/AIBN=92/3/5/0.1、又は、87/3/10/0.1のモル比で、アルゴン雰囲気下、DMF中70度のオイルバスで2時間重合した。反応後、DMF系GPC測定により分子量、分子量分布を決定した。得られた三元共重合体はアセトンを用いた再沈回収により精製した。1H NMRにより未反応のモノマーが除去されていること、高分子鎖中のHPAm、BPAm、NSAの含有量が仕込み比とほぼ一致することを確認した。
【0166】
得られた重合体のMnは78100、Mw/Mnは3.9、又は、Mnは127300、Mw/Mnは3.0だった。表1は、モノマー仕込み比と、得られた重合体の分子量、分子量分布をまとめたものである。また、下記の式は、重合体の各繰り返し単位を表している。
【表1】
【0167】
【0168】
(PDMSへのコーティング)
東レダウコーニング社製のPDMS(SILPOT184W/C)[SILPOTTM184 Silicone Elastomer Base (DuPont Toray Specialty Materials K.K., Tokyo, Japan)、及び、SILPOTTM184 Silicone Elastomer Curing Agent (DuPont Toray Specialty Materials K.K.)を、質量比10:1で混合したもの]を用い、この10gの混合溶液をポリスチレン製プレート(φ=100mm)に添加し、真空デシケーター内で完全に脱気した後、混合液を室温で2日間水平な実験台上に静置することによって架橋反応させた。
これを円形ポンチで打ち抜き、直径約1.8cm、膜厚約2mmのPDMSシートを作成した。
【0169】
次に、上記のとおり合成した共重合体を、脱水エタノール/脱水THF(tetrahydrofuran)混合溶液(5/1mass/mass)に3mass%の濃度になるように溶解した。得られた溶液は直ちにPDMSシートにスピンコートし、紫外線照射3min(170mW/cm2)(HLR100T-2)により架橋・固定し、積層体を得た。架橋膜の洗浄前後(エタノール溶液に浸漬)の乾燥膜厚をエリプソメーターにより測定し、変化しないことを確認した。なお、架橋反応が完了していなければ、未架橋のポリマーが溶解して、膜厚が減少するため、上記により、架橋の進行が確認できる。
【0170】
(X線光電子分光分析)
X線光電子分光分析装置(XPS;ESCALAB250Xi,Thermo Fisher Scientific K.K.,Waltham, USA)により、積層体の表面の光電子スペクトルを観察した。具体的には、C1s(280~300eV)、N1s(392~410eV)、Si2p(95~110eV)の各スペクトルについて評価した。測定条件は,試料角度0°、X線入射角度32.7°、検出器への反射角度90°とし、X線スポットを650μmとした。
【0171】
その結果、C1sでは,コーティング前のPDMS表面においては、C-Siに由来する283eVのピークが検出されたのに対し、コーティング後(硬化後)の表面では,C-Cに由来する284eVのピークが増大し、また、C=Oに由来する287eVのピークが検出された。
一方、N1sでは、コーティングを行ったことで硬化物に由来するC-N(398eV)のピークが検出された。Si2pでは、コーティング前のPDMS表面で検出されていたSi-C(99.8eV)、及び、Si-O(102eV)のシロキサン骨格に由来するピークがコーティングによる表面改質によって大幅に減少した。
【0172】
(凹凸パターンを備えるPDMS基材の作製とコーティング)
表面に凹凸パターン構造(凸部と凹部とが所定のピッチで略平行に繰り返して並び、側面視で鋸刃状の構造をなすもの:ストライプ形状)は、次のように作製した。
まず、ストライプ形状の微細加工(ピッチ高:12μm、又は、25μm)を施したモールドプレートをポリスチレン製プレート(φ=100mm)上にセットした。前述と同様の混合液を10g添加し、脱気および架橋反応を同様の方法で行った。得られたPDMSシートをポリスチレン製プレートから剥離させ,微細加工プレートを除去した後,円形ポンチ(φ=14mm)で切り出した。
【0173】
(機能性分子(コラーゲン)の固定)
上記のとおり得られた積層体を、70%エタノール溶液により滅菌した後、クリーンベンチ内で風乾させた。24-ウェルマルチプレートに積層体をセットした後,コラーゲン溶液(TOYOBO Co. Ltd., Osaka, Japan)を300μL添加してシートを浸漬させ,37℃,5%CO2下で一晩インキュベートすることにより、NSA側鎖のスクシンイミジル基を介してコラーゲンを修飾させた。積層体の表面にコラーゲンを結合させた。
【0174】
反応後,dulbecco’s PBS(-)(PBS)で入念に洗浄し、未反応のコラーゲンを完全に除去した。細胞培養に用いる場合は、洗浄後のシートを増殖用細胞培養液(Growth medium;Dulbecco′s Modified Eagle Medium high glucose (DMEM) supplemented with 10 % Fetal bovine serum (FBS) and 100 units/mL Penicillin - 100μg/mL Streptomycin (antibiotics))に浸漬させ、細胞播種時まで静置させた。コラーゲン修飾を行ったサンプルは、NSAの含有量が0mol%、5mol%、10mol%の順に、「PHBN0-Col」、「PHBN5-Col」、「PHBN10-Col」と示す。
【0175】
(架橋膜の長期安定性の確認)
架橋膜の長期安定性について確認するため、架橋膜を塗布したPDMSシート(積層体:機能分子を固定していないもの)をリン酸緩衝溶液(PBS)に浸漬し、室温で2週間静置した。蒸留水で洗浄後、乾燥膜厚を測定した。合成された共重合体は親水性のため、水、食塩水、アルコールに溶解する。架橋反応が完了していなければ、未架橋のポリマーはPBSに溶解し、膜厚が減少する。このため、乾燥膜厚を測定することで、安定性が確認できる。
表2は、上記の結果である。表2に記載のとおり、膜厚はほぼ減少しておらず、架橋膜はPBS中で2週間安定であることが確認された。
【0176】
【0177】
(簡便性の実証)
BPAmは紫外線照射装置(ランプ)を使用せずとも、一般的なシーリングライトの光で架橋することができる。そこで、実験台に架橋膜(を塗布したPDMS)を24時間静置し、洗浄前後の乾燥膜厚をエリプソメーターにより確認した。ここでは、BPAm/HPAm/NSA=3/97/0の組成の共重合体を使用した。コントロールとして、アルミホイルで遮光したサンプルも準備した。表3に示すように、遮光せずに実験台に静置したサンプルの膜厚はほぼ変化しておらず、シーリングランプ下に24時間静置するだけで、架橋反応が完了することが確認された。一方、アルミホイルで遮光したサンプルは、洗浄後に膜厚が大きく減少し、架橋反応が十分進行していないことが確認された。
【0178】
【0179】
(細胞の播種と培養)
マウス筋芽細胞株C2C12細胞(RIKEN BRC Cell Bank、Ibaraki、Japan)をDMEM containing 10% FBS and antibiotics(Growth medium)中で、セミコンフル状態に達するまで増殖培養を行った。
【0180】
接着細胞を0.05% Trypsin-0.53mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液により剥離し、Growth mediumに懸濁させた。その後、遠心分離(500×g、15℃、5min)により細胞ペレットとして回収した。Growth mediumに再分散後、各種PDMSシート(積層体、及び、コラーゲン固定済み積層体)上に播種し、37℃、5%CO2下で所定期間培養した。細胞の初期接着を評価する培養では,3.0×104cells/cm2の密度で播種し、24h培養した。
【0181】
次に(1)接着細胞の長期安定性を調べる試験、及び、(2)分化速度や分化の違いを調べる試験を行った。具体的には、Growth medium(増殖用培地)のみを用いて、長期安定性を調べ、DMEM containing 2% Horse Serum(HS) and antibiotics(Differentiation medium)(分化培地)を用いて分化の差を調べた。それぞれの実験手順・結果については以下のとおりである。
【0182】
(1)長期安定性を調べる試験
長期にわたる細胞接着を評価するための培養では,2.0×103cells/cm2の密度で播種し、2days毎に培地交換を行いながら2weeks培養した。
【0183】
・細胞培養基材上で培養した細胞の接着・増殖評価
細胞培養基材上で24h、又は、2weeks培養した細胞をPBSで洗浄した後、4%paraformaldehyde/PBS溶液(PFA solution)で20分間固定した。PFAを除去するためPBSで洗浄後、0.1%「Triton X-100」/PBS溶液により細胞膜透過処理(20min)を行った。
次に、PBSで洗浄し、1mass%BSA/PBS溶液によりブロッキング処理(30min)を行った後、アクチンフィラメントを染色するために、抗アクチン抗体(「Alexa Fluor」555 phalloidin、Invitrogen)を含む溶液に細胞を浸漬(1h)させ、0.05%「Tween-20」/PBS(「Tween」solution)で洗浄した後、細胞核を染色するために「ProLong」 Gold Antifade Reagent with DAPI(Invitrogen)を含む溶液でインキュベーションした。
【0184】
最後に「Tween」 solutionで入念に洗浄し、倒立型蛍光顕微鏡(DMIL-TR/EC3、Leica micro systems、Tokyo、Japan)により細胞の接着状態を観察した。
なお、上記の手順により、核は青色、細胞骨格(アクチンフィラメント)は赤色に染色される。
【0185】
・細胞接着評価結果
表面に細胞接着性コラーゲンを結合させた細胞培養基材と、コラーゲンを結合させていない積層体とを用いて細胞接着評価を行った。各基材に筋芽細胞を播種し、24時間後の接着状態を観察した。
図9は、各基材における接着細胞数(cells/cm
2)の定量結果を表す図である。また、
図10は、コラーゲン溶液に浸漬させた各基材を用いて、2週間、筋芽細胞を培養した結果を表す図である。
【0186】
図9、
図10における各基材のラベルの意義は以下のとおりである。
PDMS_PBS:PDMS基材
NSA 0_PBS:PDMS基材/Entry1の重合体の積層体
NSA 5_PBS:PDMS基材/Entry2の重合体の積層体
NSA 10_PBS:PDMS基材/Entry3の重合体の積層体
Dish_PBS:ポリスチレンディッシュ(細胞培養用)
PDMS_Col:コラーゲン溶液に浸漬したPDMS基材
NSA 0_Col:PDMS基材/Entry1の重合体/コラーゲン
NSA 5_Col:PDMS基材/Entry2の重合体/コラーゲン
NSA 10_Col:PDMS基材/Entry3の重合体/コラーゲン
Dish_Col:ポリスチレンディッシュ/コラーゲン
【0187】
PDMS表面(PDMS_PBS)には,若干の細胞が接着しており、コラーゲン溶液中にインキュベーションさせたPDMS表面(PDMS_Col)では、一般的に行われるポリスチレンディッシュ上での培養と同等の細胞接着が認められた。
これは、PDMSに由来する超疎水表面に起因して、タンパク質の非特異吸着、及び、細胞の非特異接着が起こったものと考えられる。
【0188】
しかし、
図10の結果からわかるとおり、PDMS_Colでは、培養日数が経過するとともに、細胞が剥離して消失した(例えばDay14)。これは、足場となるコラーゲンが物理吸着(化学的に結合していない)であり、剥離してしまうため、細胞も消失したものと考えられる。
よって、PDMSは,細胞培養、特に継続的な細胞培養には不向きであり、初期ではタンパク質や細胞の非特異な吸着や接着が起こることが示された。
【0189】
それに対して、NSA 0_PBS、NSA 5_PBS、及び、NSA 10_PBSでは、細胞接着が顕著に抑制できていることがわかる(
図9)。更に、NSA0_Colについても、細胞接着が抑制された(
図9)。
この結果は,単位[II]を有する重合体がタンパク質や細胞の非特異な吸着、及び、接着を抑制できることを示すものである。
NSA 5_PBS、及び、NSA 10_PBSについても、コラーゲン溶液に浸漬させない場合は、細胞接着が顕著に抑制されている。すなわち、NSA 5_PBS、及び、NSA 10_PBSも、NSA 0_PBSと同様の生体物質非応答性能(バイオイナート性能)を発現するものと考えられる。
【0190】
一方で、コラーゲン溶液に浸漬させた後のNSA 5_Col、及び、NSA 10_Colでは、顕著な細胞接着、及び、伸展が認められた(
図9、10)。これは、表面にコラーゲンを担持させることができているため、細胞接着を誘導することができたと強く示唆された。
更に、NSA 10_Colの方が、NSA 5_Colでコートしたものよりも密な細胞接着を実現できていることが分かる。これは、担持されるコラーゲンの増加に起因するものと考えられる。
2週間培養の結果(
図10)からは、NSA 5_Col、及び、NSA 10_Col共に、長期にわたって細胞が接着し続けており、PDMS(のみ)とは異なり、長期に細胞を接着培養させることが可能であることも示された。
【0191】
これらの結果から、NSA 5_Col、及び、NSA 10_Colでは、細胞接着を選択的に誘導させ、かつ、長期に安定に接着させ得ることが明らかとなった。更に、生体物質の非特異吸着抑制能も有することが明らかとなった。
なお、コラーゲンを他のマトリックスタンパク質等に変更することで、選択的に標的とする細胞を接着させることができる。
【0192】
(2)分化速度や分化の違いを調べる試験
次に、各種PDMSシート上での筋菅細胞および筋線維への分化について評価するために、上記培養細胞を、4.5×104cells/cm2の密度でPDMSシート上に播種し、37℃、5%CO2下、Growth medium中でセミコンフル状態に達するまで培養(about 2 days)した後、DMEM containing 2% Horse Serum(HS) and antibiotics(Differentiation medium)に交換した上で、2days毎に培地交換を行いながら1 weeks培養した。
【0193】
・細胞培養基材上で培養した細胞の分化評価
Differentiation medium中で1週間培養後、上記と同様の手順で細胞固定処理、細胞膜透過処理、及び、ブロッキング処理を行った。
その後、筋菅細胞、及び、筋線維において発現している分化マーカーであるMyoD(MyoD1 antibody、GeneTex.Inc、Kanagawa、Japan)、及び、筋線維に選択的に発現するマーカータンパク質であるDystrophin(Dystrophin antibody[MANDRA1]、GeneTex.Inc、Kanagawa、Japan)を含む溶液でインキュベーションした。
【0194】
その後、「Tween」solutionで入念に洗浄した後、二次抗体として、Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody、Alexa Fluor 488(Invitrogen、Waltham、MA、USA)、Goat anti-Mouse IgG1 Cross-Adsorbed Secondary Antibody、Alexa Fluor 594(Invitrogen)、及び、核染色用の色素として、Hoechst33258(Dojindo Laboratories Co., Ltd.、Kumamoto、Japan)を含む溶液でインキュベーションした。
最後に「Tween」solutionで入念に洗浄し、倒立型蛍光顕微鏡(DMIL-TR/EC3)により細胞の接着状態を観察した。
なお、上記の手順により、分化マーカー「MyoD」は緑色、「Dystrophin」は赤に染まる。また、核も青に染色される。
【0195】
・接着細胞の筋線維誘導
実験には、「NSA 10_Col」におけるPDMS基材に代えて、2種類のストライプ形状マイクロパターンのPDMS基材を用いた細胞培養基材を用いた。筋線維誘導について説明する前に、まず、このPDMS基材と、このPDMS基材に対する筋芽細胞の接着状態について説明する。
【0196】
ストライプ形状マイクロパターンは、いずれも
図1に示した断面が鋸刃状の凹凸パターン構造である。一方は、ピッチが23.8μm、デプスが12.1μm、隣り合う山の斜面のなす角が90.81degであり、「12μmPDMS」と称する。
他方は、ピッチが50.0μm、デプスが25.0μm、隣り合う山の斜面のなす角が90.08degであり、「25μmPDMS」と称する。
【0197】
図11は、細胞培養基材の断面SEM(走査型電子顕微鏡)像、及び、細胞培養基材に接着した筋芽細胞のSEM画像である。
細胞培養基材の断面像からは(図中、「Cross section」とあるのは、細胞培養基材の表面部分を意味する)、モールド金型から予想されるストライプのピッチ、及び、高さ(デプス)と一致していた。
【0198】
SEM画像から、「12μmPDMS」、及び、「25μmPDMS」に接着した細胞の多くは、溝に沿って接着し、配向し伸展したことが明らかになった。
また、「12μmPDMS」、及び、「25μmPDMS」とを比較すると前者では,溝に沿って非常に細長い形態で進展しているのに対し、後者では、類似した細胞の伸展は認められるものの、溝内で細胞同士が積層したり集積したりして伸展していたり、隣接する溝の細胞とコンタクトを取りながら溝に沿う方向に配向して進展している細胞が多数認められた。この結果は,溝の幅、及び、深さに強く起因するものであり、細胞の大きさに対して溝が狭いほど一細胞で配向して伸展するものと考えられる。
【0199】
次に、上述の手順により実施した接着細胞の筋線維誘導の結果について説明する。
「12μmPDMS」、「25μmPDMS」、フラットなPDMS基材「Flat PDMS」、及び、ポリスチレンディッシュ「Dish」上で、筋芽細胞をセミコンフルエントになるまで培養した後、筋菅~筋線維への誘導培養を7days行った細胞について、その細胞接着状態の観察および免疫染色による分化評価を行った。筋菅細胞、及び、筋線維への分化を評価するため、特異的に発現するMyoD、及び、Dystrophinを染色し、その発現度合と局在について定性的に評価した。
図12はその結果である。
【0200】
ポリスチレンディッシュ、及び、フラットなPDMS基材で分化誘導した細胞は、3日目で線維状態を呈した細胞が認められ、アットランダムな方向に伸展していた。5、7日目になると、線維状態を呈した細胞がより多く観測され、線維径の増大が認めれた。
【0201】
免疫染色画像を見るとDystropinの発現が認められ,1本の線維の中に多数の核(本来は青色、
図12中では白色のスポットとして表現される)の存在が認められた。このことから、筋分化に特徴的な細胞融合による多核細胞化と線維化が進行していることが示唆された。しかし、多核化した細胞以外にもMyoDやDystrophinの発現が多数認められることから、分化状態が未成熟な細胞が未だ多数存在するものと推察された。
【0202】
一方、「12μmPDMS」、「25μmPDMS」で分化誘導を行った細胞は、溝に沿って接着・伸展し、5日目で多くの細胞が複数で凝集し、線維形状を形成していることが確認され、7日目においては、接着しているほぼすべての細胞において、線維束の構築が認められた。
【0203】
特に、「25μmPDMS」で誘導した細胞は,線維束の形成が非常に顕著であった。これらの細胞を免疫染色により評価したところ,MyoD、及び、Distropinの発現が非常に顕著であり、かつ多核細胞化した細胞でのみ染色されていることが分かった。すなわち、ポリスチレンディッシュ、及び、PDMS基材で認められた未成熟細胞がほぼ存在しないということを示すものである。この結果は、凹凸パターン構造を有する細胞培養基材では、溝内に局所的な細胞高密度状態が形成されるとともに、一方向に配向させられ線維化を促されることに起因して、筋菅細胞分化、及び、筋線維の成熟化が加速されたものと推察される。
また,筋線維の成熟化を裏付ける証拠として、「25μmPDMS」で誘導した細胞では、自発的に拍動していることが観察され、最も筋線維成熟化が促進されたことが強く示唆された。
【0204】
(フォトマスクによるコーティング膜のパターン化)
表2のEntry3の共重合体を、脱水エタノール/脱水THF(tetrahydrofuran)混合溶液(5/1mass/mass)に3mass%の濃度になるように溶解した。得られた溶液は直ちにPDMSシートにスピンコートし、所定の間隔で並列するスリットを有するフォトマスクを載せ、紫外線照射を行った。
フォトマスクで隠れる部分は架橋反応が起こらないことから、未反応の共重合体をエタノール洗浄で除去したのち、表面にコラーゲンを固定して細胞培養基材を得た。
【0205】
この基材に、C2C12細胞を播種して、細胞の接着状態を確認した。
図13はその結果である。
図13(A)は、上記の細胞培養基材の位相差顕微鏡画像(20倍)である。(B)は、接着細胞の核染色画像、(C)は、この接着細胞のアクチンフィラメント染色画像である。
また、
図14(A)は、参考として示されるPSディッシュの位相差顕微鏡画像(20倍)である。(B)は、接着細胞の核染色画像、(C)は、この接着細胞のアクチンフィラメント染色画像である。
【0206】
上記の結果から、PSディッシュでは、基材の全体に細胞が接着しているのに対し、上記細胞培養基材では、露光部に沿って細胞が接着していることが明らかとなった。なお、
図13、14では色彩は明らかではないが、核染色像では、白色のスポット様に表示される部分は、実際には青白い色を呈する部分であり、アクチンフィラメント染色像では、白色に表示される部分は、実際には赤色を呈する部分である。
【0207】
[P(HPAm82-BPAm3-NSA15)及びP(HPAm77-BPAm3-NSA20)修飾表面での細胞接着評価]
Flat PDMS上にP(HPAm87-BPAm3-NSA10)、P(HPAm82-BPAm3-NSA15)、P(HPAm77-BPAm3-NSA20)の各種高分子をスピンコートでコーティングした。その後UV照射4分でPDMS表面と架橋させ、脱水エタノールに浸漬させ未反応の高分子を除去し修飾表面を作製した。
【0208】
その後、70%エタノールにより修飾基板を滅菌し風乾後、コラーゲン溶液を500μL添加した。37℃、5%CO2のインキュベーター内で5時間以上静置しコラーゲンと修飾表面のNSAを反応させた。コラーゲンを反応させないサンプルはPBSを添加し同様に静置させた。その後、PBSで3回以上洗浄し未反応のコラーゲン溶液を除去した。その後、C2C12細胞を3.0×104cells/cm2の播種密度で修飾基板上に播種し、24時間後の接着を観察した。また、核染色により接着細胞数をカウントし定量した。
【0209】
なお、上記において、「P(HPAm82-BPAm3-NSA15」とあるのは、架橋膜における組成が、HPAm:BPAm:NSA=82mol%:3mol%:15mol%であることを表す。
【0210】
図15は、上記試験の結果を表す核染色画像である。スケールバーはそれぞれ200μmを表す。サンプル名は、コラーゲンと反応させなかったものを、
・P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)PBS
・P(HPAm
82-BPAm
3-NSA
15)PBS
・P(HPAm
77-BPAm
3-NSA
20)PBS
コラーゲンと反応させたものを、
・P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)Col
・P(HPAm
82-BPAm
3-NSA
15)Col
・P(HPAm
77-BPAm
3-NSA
20)Col
とした。
なお、
図15の画像では、白色のスポット様に表示される部分は、実際には青白い色を呈する部分である。また、
図18は、各サンプルの接着細胞数をまとめたものである(一部、後段の実験結果を含む)。
【0211】
なお、
図18におけるサンプル名と、上記サンプル名の対比は以下のとおりである。
・
図18のサンプル名/上記サンプル名
・PDMS_NHS10_Col/P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)Col
・PDMS_NHS15_Col/P(HPAm
82-BPAm
3-NSA
15)Col
・PDMS_NHS20_Col/P(HPAm
77-BPAm
3-NSA
20)Col
・PDMS_NHS10_PBS/P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)PBS
・PDMS_NHS15 PBS/P(HPAm
82-BPAm
3-NSA
15)PBS
・PDMS_NHS20 PBS/P(HPAm
77-BPAm
3-NSA
20)PBS
【0212】
図15、
図18の結果から、NSA15~20mol%において、10mol%と同等の良好な結果(細胞接着性)が得られることがわかった。なお、
図9の細胞接着数と、
図15、
図18の結果とを比較すると、
図18の方が接着数が多い傾向があった。このことは、NSAの含有量が同一のサンプル(NSA10mol%)同士の比較によっても明確だった。
これは、
図9、及び、
図15が異なる実験日、場所で実施され、実際に使用した細胞の活性違いがあったためであると推測される。
【0213】
[P(HPAm87-BPAm3-NSA10)修飾を施したPET表面での細胞接着評価]
Flat PDMS上および超音波洗浄したPET表面上に、P(HPAm87-BPAm3-NSA10)、をスピンコートでコーティングした。その後、UV照射4分でPDMS表面と架橋させ、脱水エタノールに浸漬させ未反応の高分子を除去し修飾表面を作製した。
その後、70%エタノールにより修飾基板を滅菌し風乾後、コラーゲン溶液を500μL添加した。37℃、5%CO2のインキュベーター内で5時間以上静置し、コラーゲンと修飾表面のNSAを反応させた。コラーゲンを反応させないサンプルはPBSを添加し同様に静置させた。PBSで3回以上洗浄し未反応のコラーゲン溶液を除去した。その後C2C12細胞を3.0×104cells/cm2の播種密度で修飾基板上に播種し、24時間後の接着を観察した。また、核染色により接着細胞数をカウントし定量した。
【0214】
図16は、上記試験の結果を表す核染色画像である。スケールバーはそれぞれ200μmを表す。サンプル名は、コラーゲンと反応させなかったものを、
・P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)PBS
コラーゲンと反応させたものを、
・P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)Col
とした。
なお、
図16の画像では、白色のスポット様に表示される部分は、実際には青白い色を呈する部分である。また、
図18は、各サンプルの接着細胞数をまとめたものである(一部、前段、後段の実験結果を含む)。
【0215】
なお、
図18におけるサンプル名と、上記サンプル名の対比は以下のとおりである。
・
図18のサンプル名/上記サンプル名
・PET_NHS10_PBS/P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)PBS
・PET_NHS10_Col/P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)Col
【0216】
図16、18の結果から、基材としてPETを用いた場合も、PDMSを用いた場合と同様に、十分な細胞への接着性(吸着性)が得られることがわかった。
【0217】
[P(HPAm89-BPAm1-NSA10)による細胞接着評価]
Flat PDMS上にP(HPAm89-BPAm1-NSA10)、P(HPAm87-BPAm3-NSA10)の各種高分子をスピンコートでコーティングした。その後UV照射4分でPDMS表面と架橋させ、脱水エタノールに浸漬させ未反応の高分子を除去し修飾表面を作製した。
その後、70%エタノールにより修飾基板を滅菌し風乾後、コラーゲン溶液を500μL添加した。37℃、5%CO2のインキュベーター内で5時間以上静置しコラーゲンと修飾表面のNSAを反応させた。コラーゲンを反応させないサンプルはPBSを添加し同様に静置させた。PBSで3回以上洗浄し未反応のコラーゲン溶液を除去した。その後、C2C12細胞を3.0×104cells/cm2の播種密度で修飾基板上に播種し、24時間後の接着を観察した。また、核染色により接着細胞数をカウントし定量した。
【0218】
図17は、上記試験の結果を表す核染色画像である。スケールバーはそれぞれ200μmを表す。サンプル名は、コラーゲンと反応させなかったものを、
・P(HPAm
89-BPAm
1-NSA
10)PBS
・P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)PBS
コラーゲンと反応させたものを、
・P(HPAm
89-BPAm
1-NSA
10)Col
・P(HPAm
87-BPAm
3-NSA
10)Col
とした。
なお、
図17の画像では、白色のスポット様に表示される部分は、実際には青白い色を呈する部分である。また、
図18は、各サンプルの接着細胞数をまとめたものである(一部、前段の実験結果を含む)。
【0219】
なお、
図18におけるサンプル名と、上記サンプル名の対比は以下のとおりである。
・
図18のサンプル名/上記サンプル名
・PDMS_BPA1_PBS/P(HPAm
89-BPAm
1-NSA
10)PBS
・PDMS_BPA1_Col/P(HPAm
89-BPAm
1-NSA
10)Col
【0220】
図17、18の結果から、BPAmの含有量が1mol%であっても、実用上十分な細胞接着性(吸着性)が得られることがわかった。一方、BPAmの含有量が3mol%である場合、1mol%である場合と比較して、より優れた細胞接着性が得られることがわかった。