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特開2024-151755種子被覆剤、被覆種子及び種子被覆方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151755
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】種子被覆剤、被覆種子及び種子被覆方法
(51)【国際特許分類】
   A01C 1/06 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A01C1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065400
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】佐志 一道
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 康佑
(72)【発明者】
【氏名】宇波 繁
【テーマコード(参考)】
2B051
【Fターム(参考)】
2B051AA01
2B051AB01
2B051BA16
2B051BB01
2B051BB14
(57)【要約】
【課題】金属鉄の酸化発熱に起因する種子の損傷を防ぎつつ、種子密度を高めることができる種子被膜剤、被膜種子及び種子被膜方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る種子被膜剤は、鉄系粉体を含み、種子表面を被覆するのに用いるものであって、酸化防止剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの化合物のいずれか1種又は2種以上が添加され、前記鉄系粉体の質量に対する前記酸化防止剤の添加量が0.02質量%以上、15質量%以下であることを特徴とするものである。また、本発明に係る被覆種子は、本発明に係る種子被覆剤により種子表面が被覆されたことを特徴とするものである。さらに、本発明に係る種子被膜方法は、本発明に係る種子被覆剤を用いて種子表面を被覆することを特徴とするものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系粉体を含み、種子表面を被覆するのに用いる種子被覆剤であって、
酸化防止剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの化合物のいずれか1種又は2種以上が添加され、前記鉄系粉体の質量に対する前記酸化防止剤の割合が0.02質量%以上、15質量%以下であることを特徴とする種子被覆剤。
【請求項2】
請求項1に記載の種子被覆剤により種子表面が被覆されたことを特徴とする被覆種子。
【請求項3】
請求項1に記載の種子被覆剤を用いて種子表面を被覆することを特徴とする種子被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系粉体を含み種子表面を被覆する種子被覆剤、該種子被膜剤により種子表面が被膜された被覆種子、及び前記種子被膜剤を用いて種子表面を被膜する種子被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業従事者の高齢化や農産物流通のグローバル化に伴い、農作業の省力化や農産物生産コストの低減が解決すべき課題となっている。これらの課題を解決するために、例えば水稲栽培においては、育苗と移植の手間を省くことを目的として、種子を圃場に直接播く直播法が普及しつつある。その中でも、種子の密度を高めるために、鉄粉を種子表面に被覆した被覆種子を用いる技術は、水田における種子の浮遊や流出を防止し、かつ鳥害を防止するというメリットがあることで注目されている。
上記のような鉄粉を被覆した被覆種子の例が、特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-192458号公報
【特許文献2】特開2017-153427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような被覆種子は、種子密度(比重)を高めることで播種された位置に留まることが可能となる。そして、実際の圃場では様々な水流に晒されるため、流れが強いと流失する場合があり、より種子密度の高い被覆種子が求められていた。
特許文献1、2に記載の被覆種子においては、種子単位質量あたりの鉄系粉体の割合を増加させることにより種子密度を高めることが可能である。しかしながら、種子密度を高くすることに伴って鉄系粉体に含まれる金属鉄の酸化発熱に起因して種子が損傷してしまうという危険性が高まるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、鉄系粉体に含まれる金属鉄の酸化発熱に起因する種子の損傷を防ぎつつ、鉄系粉体の質量あたりの種子密度を高めることができる種子被覆剤、被覆種子及び種子被覆方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記の問題を解決するために、種子に鉄粉を種々コーティングして調査した。その結果、酸化防止剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの化合物を添加した種子被覆剤により種子表面を被覆することにより、金属鉄の酸化発熱に起因して種子が損傷するのを防ぐとともに種子密度を高める効果があるという知見が得られた。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その構成は以下の通りである。
【0007】
(1)本発明に係る種子被覆剤は、鉄系粉体を含み、種子表面を被覆するのに用いるものであって、
酸化防止剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの化合物のいずれか1種又は2種以上が添加され、前記鉄系粉体の質量に対する前記酸化防止剤の割合が0.02質量%以上、15質量%以下であることを特徴とするものである。
【0008】
(2)本発明に係る被覆種子は、上記(1)に記載の種子被覆剤により種子表面が被覆されたことを特徴とするものである。
【0009】
(3)本発明に係る種子被覆方法は、上記(1)に記載の種子被覆剤を用いて種子表面を被覆することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄系粉体に含まれる金属鉄の酸化発熱に起因する種子の損傷を防ぎつつ、鉄系粉体の質量あたりの種子密度が高い被膜種子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る種子被覆剤、被覆種子及び種子被覆方法を説明するに先立ち、本発明で対象とする種子についてまずは説明する。なお、以下の説明において、「質量%」は単に「%」と記述する。
【0012】
<種子>
本発明に係る種子被覆剤を被覆する対象とする種子としては、イネ(稲)が好ましく適用される。イネの品種としては特に定めなく、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米のいずれでも適用できる。イネは高温多湿地域の水田で栽培されることが多いため、本発明の効果が発揮できる。
【0013】
<種子被覆剤>
次に、本発明の実施の形態に係る種子被覆剤について説明する。
本実施の形態に係る種子被覆剤は、鉄系粉体を含み、種子表面を被覆するのに用いるものである。
【0014】
≪鉄系粉体≫
鉄系粉体には、鉄粉、酸化鉄粉及び鉄粉と酸化鉄粉の混合物を使用できる。
鉄粉としては、純鉄、合金鉄等の粉体が適用でき、本発明の効果が得られるものであれば、特に限定されない。
酸化鉄粉としては、酸化鉄、部分的な酸化鉄の粉体が適用できる。酸化鉄としてはマグネタイト(Fe)、ヘマタイト(Fe)、ウスタイト(FeO)、アモルファスであるものが挙げられる。これの酸化鉄の比率は特に限定されないが、経済性の観点から、ミルスケール、鉄鉱石等の酸化鉄粉が好ましく適用できる。
【0015】
鉄粉と酸化鉄粉は混合して使用することができる。混合した鉄系粉体中の鉄粉成分が20%以上、更には40%以上とすることが錆発生の観点から好ましい。
【0016】
種子被覆剤に含まれる鉄系粉体の割合(量)は特に規定しないが、種子(乾籾)に対する質量比率として5%以上800%以下が好ましく、更に、10%以上500%以下が好ましい。
【0017】
また、鉄系粉体の粒子径は特に規定しないが、好ましくは150μm以下の鉄系粉体が全鉄系粉体の質量に対して80%以上であることが均一被覆のために好ましい。なお、鉄系粉体の粒度分布は、JIS Z2510-2004に定められた方法を用いてふるい分けすることによって評価できる。
【0018】
鉄系粉体としては、上記の鉄粉、酸化鉄粉及び鉄粉と酸化鉄粉の混合物に、他の金属粉を混合したものも適用できる。もっとも、錆発生の観点からは、鉄系粉体中の金属鉄成分は、鉄系粉体の質量に対して20%以上であることが好ましく、更に、40%以上であることがより好ましい。
【0019】
≪酸化防止剤≫
本実施の形態に係る種子被覆剤は、酸化防止剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの化合物のいずれか1種または2種以上が添加されたものである。
【0020】
酸化防止剤を添加する形態は、アスコルビン酸又はエリソルビン酸が添加されていれば限定されず、アスコルビン酸又はエリソルビン酸及びこれらの塩、あるいはこれらの無水物、水和物、異性体を使用することができ、2種類以上複合して使用することができる。
【0021】
アスコルビン酸の具体的な形態としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル等が例示できる。
また、エリソルビン酸の具体的な形態としては、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等が例示できる。
【0022】
上記の酸化防止剤は、鉄系粉体に含まれる密度の高い金属鉄の過度の酸化を抑制することや、密度の低い水酸化鉄類が生成するよりも密度の高い酸化鉄類(マグネタイト、ウスタイト等)が生成しやすいといった機能を有すると推測される。これにより、本実施の形態に係る種子被覆剤においては、上記の酸化防止剤が添加されていることにより、酸化発熱による種子の損傷を防ぎつつ、種子密度が高くなると考えられる。
【0023】
なお、酸化防止剤の量については、鉄系粉体の質量に対し、0.01%以上、15%以下とする。0.01%未満であると本発明の効果が小さくなる。15%を超えると、密度が低下し被膜が脆弱になる傾向がみられる。
【0024】
上記酸化防止剤を添加させる場合、予め鉄系粉体と混合する方法、および粉衣時に水溶液または懸濁液として鉄系粉体に噴霧する方法が挙げられ、どちらも好適に採用することができる。
【0025】
粗い鉄系粉体の粒子が種子表面に残留する場合には、篩いなどで除去することができ、除去した鉄系粉体は、種子被覆剤の原料として再使用することができる。一方で、細かい鉄系粉体を使用した場合には被覆のムラが低減し、表面がより滑らかになる効果が得られる。
【0026】
≪結合剤≫
本発明では、結合剤を用いることができる。結合剤は、硫酸塩及び/又は塩化物から構成される。
硫酸塩とは、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム及びこれらの水和物である。
また、塩化物とは、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物である。特に焼石膏(硫酸カルシウム・1/2水和物)、石膏(硫酸カルシウム・2水和物)が好ましい。焼石膏と石膏は混合物や混在した物でも構わない。
【0027】
結合剤の鉄系粉体に対する質量比率は特に定めないが、錆の進行を容易にするため、0.1%以上33%以下であることが好ましい。
【0028】
結合剤の平均粒径は特に定めないが、1~150μmが好ましい。結合剤の平均粒径が1μm未満では、被覆作業時に発生する凝集粒子が多くなり作業性が著しく低下するからである。一方、結合剤の平均粒径が150μmを超えると、鉄系粉体への付着力が低下し被膜の強度が低下する傾向にある。
【0029】
≪仕上げ剤≫
種子表面に種子被覆剤を被覆するにあたって仕上げ剤は必須ではないが、鉄系粉体の酸化による種子同士の融着を更に防止するため、仕上げ剤として、焼石膏、石膏、シリカゲル等を好ましく適用することができる。
【0030】
≪第三成分≫
本発明に係る種子被覆剤は、本発明の効果を損なわない程度の第三成分を含有したものであってもよい。
第三成分は、不可避不純物や、何らかの効果を目的として意図的に加えた添加物を含むものであり、いずれの場合にも第三成分を含有する量は、種子被覆剤の30%程度までとするのが好ましい。
【0031】
<被覆種子及び種子被覆方法>
次に、本発明の実施の形態に係る被覆種子及び種子被覆方法について、以下に説明する。
【0032】
本実施の形態に係る被覆種子は、前述した本実施の形態に係る種子被覆剤を用いて、種子表面を被覆したものである。
【0033】
また、本実施の形態に係る種子被覆方法は、本実施の形態に係る種子被覆剤を用いて、種子表面を被覆するものである。そして、本実施の形態に係る種子被覆方法は、例えば、なお、種子被覆剤を種子表面に付着(以下、「コーティング」ともいう)させる工程と、種子表面に付着した種子被覆剤を酸化させて被覆層を形成する工程と、を含むものである。
【0034】
種子被覆剤を種子表面にコーティングさせる工程に関しては、その具体的な方法に制限はない。例えば「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター編)」に示されているように、手作業でのコーティングをはじめ、従来から公知の混合機を用いる方法等いずれを使用してもよい。
【0035】
混合機としては、例えば、攪拌翼型ミキサー(たとえばヘンシェルミキサー、コンクリートミキサー等)や容器回転型ミキサー(たとえばV型ミキサー,ダブルコーンミキサー、傾斜回転型パン型混合機、回転クワ型混合機等)が使用できる。また、コンクリートミキサーの撹拌翼を取り外したものが、好ましく適用できる。
【0036】
これらの混合機を用いて種子被覆剤を付着させる際には、鉄系粉体と種子、及び必要に応じ結合剤、分離剤、添加剤を上記の混合機中に投入して、水を適宜加えるようにしてもよい。水を加える方法としては、水及び/又は水を主体とした処理液をスプレーしながら混合機を回転させるとよいし、酸化防止剤を鉄系粉体に混合せず、水溶液、懸濁液として水スプレーしてもよい。
【0037】
被覆層を形成する工程に関しても、種子被覆剤を酸化させる方法に制限はない。
例えば「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター 編)」に示されているように、種子を苗箱に拡げて散水する方法や、酸化調整機を使用した酸化方法を適用してもよい。
あるいは、混合機内において種子を流動させて、水と空気を混合機内に供給しながら酸化させる方法(以下、「混合酸化法」という)を用いてもよい。混合酸化法は二価鉄の発生をより多くできるので、より好ましい方法である。混合酸化法の要件を以下に述べる。
【0038】
空気の供給には、扇風機、フアン、各種ドライヤー、熱風機などを使用することができる。
供給する空気の温度は、本発明の効果が得られれば特に定めないが、-20~150℃が好ましく適用でき、更に好ましくは0~100℃、より好ましくは46~95℃である。もっとも、発芽性維持のため種子の温度が50℃以下、更に好ましくは40℃以下となるようにするとよい。また、種子が凍結せず発錆が進行するように、種子の温度を0℃以上、更に好ましくは10℃以上となるようにするのがよい。
【0039】
供給する空気の風速は、本発明の効果が得られれば特に定めないが、0.1~15m/秒が好ましく、更には0.5m/秒~10m/秒が好ましく適用できる。0.1m/秒未満では酸化及び冷却が進みにくく、15m/秒を超えると種子並びに被覆剤が飛散してしまう恐れがある。
【0040】
水を供給する方法は、種子に直接加える方法、空気に含ませる方法のどちらでも構わない。例えば、スプレー、霧吹き、カップなどの容器で種子や混合機の内部に加える方法、加湿空気として供給する方法が挙げられる。
【0041】
水分量は特に定めないが、鉄系粉体の質量に対して10~1000%が好ましく、更に好ましくは20~500%、よりに好ましくは50~200%である。10%未満では発錆が不十分となり被覆層が剥離する原因となり、1000%を超えると乾燥時間に要する時間が長くなる問題がある。
また、一度に多量の水を供給すると種子同士が水分で凝集してしまうので、種子が混合機内で流動できる程度に抑え、かつ、種子が濡れた状態を維持しながら複数回に分けて供給することが好ましい。
【0042】
混合酸化法による酸化処理は、種子被覆剤を種子表面にコーティングした後に行うのが好ましいが、種子被覆剤を種子にコーティングする工程において流動する種子に水と共に空気を供給し、コーティング処理と酸化処理を同時に行っても構わない。
【0043】
そして、混合機への水と空気の供給後は、混合機内でそのまま空気の供給を行い、種子がある程度乾燥した後に取り出す。その後、トレーなどに移して拡げ、種子保管のため余分な水分を除去、乾燥させる。
【0044】
以上、本実施の形態に係る種子被覆剤、被覆種子及び種子被覆方法によれば、金属鉄の酸化発熱に起因する種子の損傷を防ぎつつ、種子表面に被覆された鉄系粉体の単位質量あたりの種子密度を高めた被覆種子を得ることができる。
【0045】
なお、本発明に係る種子被覆剤を種子表面に被覆する際の被覆量は特に定めないが、乾燥種子100質量部に対し、鉄系粉体が5~800質量部となるように種子被覆剤の被覆量を設定することが好ましい。より好ましくは、被覆種子を水底に沈めるのに十分な種子密度(比重)を得るためには、鉄系粉体が10~500質量部程度となるようにするとよい。
本発明においては、鉄系粉体の割合を増加させた場合であっても、上記の範囲内であれば、金属鉄の酸化発熱に起因する種子の損傷を防ぎつつ種子密度をさらに高めた被覆種子を得ることができる。
【実施例0046】
本発明の効果を確認するために実験を行ったので、以下これについて説明する。
実験では、本発明に係る種子被覆剤をイネ種子に被覆し、その被覆種子の評価試験を行った。
【0047】
種子被覆剤の被覆は、種子被覆剤を種子表面にコーティング(粉衣)させる工程と、種子表面にコーティングした種子被覆剤を酸化させる工程と、により行った。
種子被覆剤のコーティング(粉衣)は、前述した「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010」に記載された方法に準じて行った。また、種子被覆剤の酸化は、混合酸化法とトレー酸化法の2通りを用いた。具体的には以下の通りである。
【0048】
混合酸化法に用いた場合においては、まず、イネ種子と予め混合した種子被覆剤を準備し、傾斜回転パン型混合機を用いて、適量の水(又はL-アスコルビン酸水溶液)を噴霧しながら種子100gに対して種子被覆剤を数回に分けてコーティングした。次いで、熱風機で約60℃の空気を種子に供給しながら、約40~50gの水をスプレーで種子に供給した。水は特に断りがなければ水道水を使用した。後述する表1に示す発明例14では、最後に仕上げ剤をコーティングした。その後、被覆種子をトレーに拡げ、自然乾燥した。
【0049】
トレー酸化法を用いた場合においては、まず、イネ種子と予め混合した種子被覆剤を準備し、傾斜回転型パン型混合機を用いて、適量の水を噴霧しながら種子100gに対して種子被覆剤を数回に分けてコーティングし、最後に仕上げ剤をコーティングした。その後、被覆種子をトレーに拡げ、散水を6回繰返し、十分酸化させたのち、自然乾燥した。
【0050】
実験では、表1に示すように、種子被覆剤に含まれる各原料の種類及び使用量と、種子被覆方法を変更して、イネ種子の被覆を行った。表2~5に各原料(表2:鉄粉、表3:酸化鉄、表4:結合剤、表5:酸化防止剤)を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
表1において、発明例1~21は、本発明に係る種子被覆剤を用いて種子被覆を行ったものである。また、発明例1~21は、いずれも、鉄系粉体の質量に対する酸化防止剤の割合を0.02質量%以上、15質量%以下とした。
【0057】
さらに、比較対象として、表1に示す比較例1及び2の種子被覆剤を用いて種子被覆を行った。
比較例1及び2は、酸化防止剤を含有しない従来技術によるものであり、比較例1は混合酸化法により、比較例2はトレー酸化法により、種子被膜を行った。
【0058】
上記の発明例1~21及び比較例1、2に係る種子被覆剤を用いて被覆した被覆種子を種子密度及び被覆強さの評価試験に供した。これらの評価試験は、次のように行った。なお、発明例1~21、及び比較例1、2における鉄系粉体の割合においては、酸化発熱による種子の損傷は見られなかった。
【0059】
<種子密度>
電子比重計EW-300SG(アルファーミラージュ株式会社製)を使い、各被膜種子の種子密度を測定した。
【0060】
<被膜強さ>
被膜種子100gを目開き2mmの篩いを使い、ロータップ式ふるい振とう機で1分間振とうし、重量減少率を測定した。重量減少率が、◎:1%以下、○:1%超え5%以下、△:5%超え20%以下、×:20%超え、と判定した。
【0061】
表1に示すように、比較例1、2に係る被膜種子の種子密度は1.50、1.49であった。これに対し、発明例1~21に係る被膜種子の種子密度は1.52~1.60であり、比較例1、2と比べて種子密度が向上した。
ここで、発明例1~21及び比較例1、2は、いずれも、種子100質量部に対して鉄系粉体が50質量部の割合で含有されているものであった。そのため、表1に示す種子密度の結果から、発明例1~21においては、鉄系粉体の割合を増加させなくても、被覆された鉄系粉体の単位質量あたりの種子密度が高くなったことが分かる。
【0062】
さらに、発明例1~21に係る被膜種子の被膜強さは、比較例1、2と同等であった。この結果から、酸化防止剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの化合物のいずれか1種又は2種以上の混合物が添加された本発明に係る種子被覆剤によれば、被膜強さを低下させずに種子密度が向上した被膜種子が得られることが示された。