(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151766
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】シール部材及び車両用サスペンション
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20241018BHJP
F16J 15/3284 20160101ALI20241018BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C09K3/10 C
F16J15/3284
F16J15/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065451
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 凌太
【テーマコード(参考)】
3J043
4H017
【Fターム(参考)】
3J043AA11
3J043CB13
3J043CB16
3J043CB18
4H017AA03
4H017AB17
4H017AC16
4H017AD03
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物からなるシール部材において、さらなる低摩擦化が達成できる構成を提供する。
【解決手段】シール部材18は、多孔質炭素セラミック材の粒子を、40.0質量%を超える割合で含むゴム組成物からなる。シール部材18は、車両用サスペンション10に好適であり、車両用サスペンション10に設けられるダストシール16やオイルシール17に適用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素セラミック材の粒子を、40.0質量%を超える割合で含むゴム組成物からなるシール部材。
【請求項2】
前記粒子は粒径が150μm以下である、請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記粒子は粒径が10μm以下である、請求項2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記ゴム組成物にカップリング剤が含有されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のシール部材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のシール部材からなるオイルシールを備えた、車両用サスペンション。
【請求項6】
請求項4に記載のシール部材からなるオイルシールを備えた、車両用サスペンション。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のシール部材からなるダストシールを備えた、車両用サスペンション。
【請求項8】
請求項4に記載のシール部材からなるダストシールを備えた、車両用サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物からなるシール部材及びこのシール部材を備える車両用サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物からなるシール部材は広く実用に供されている。そのうちで、多孔質炭素セラミックを含むゴム組成物からなるシール部材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1で開示されるシール部材は、他部材との摺動面を備え、少なくとも前記摺動面は、ビッカース硬さHvが400以上の多孔質炭素セラミックの粒子を3質量%以上、40質量%以下の割合で含む(請求項1)。
【0004】
多孔質炭素セラミックの割合を、40質量%以下にすることにより、シール部材の引張強さや伸び等の物性の低下を抑え、硬く脆くなることを抑えるという効果が得られる(特許文献1、段落0034)。
【0005】
また、シールトルクを縦軸にとったグラフが提示されている(特許文献1、
図2)。このグラフによれば、中央の棒グラフの高さは、左の棒グラフの高さより約25%低く、無添加に比較して、50μmの多孔質炭素セラミック粒子を加えると25%程度の低摩擦化が達成される。
【0006】
しかし、シール部材に求められる要求は多岐に亘り、ある要求では、特許文献1の技術による摩擦係数の低減が不十分であり、さらなる低摩擦化が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ゴム組成物からなるシール部材において、さらなる低摩擦化が達成できる構成を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、多孔質炭素セラミック材の粒子を、40.0質量%を超える割合で含むゴム組成物からなるシール部材を提供する。
好ましくは、前記粒子の粒径は150μm以下とし、さらに好ましくは、前記粒子の粒径は10μm以下とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、シール部材のさらなる低摩擦化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るシール部材からなるオイルシール及びダストシールを備えた、車両用サスペンションの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0013】
図1に示すように、車両用サスペンション10は、例えば、自動二輪車用フロントサスペンションである。車両用サスペンション10は、車体側のアウタチューブ11に、車軸側のインナチューブ12を摺動自在に挿入し、アウタチューブ11及びインナチューブ12の内側にスプリング13が設けられると共にダンパ14が収納され、オイル及びガスが封じ込められている緩衝器である。
【0014】
この例では、アウタチューブ11の下端にダストシール16が取付けられ、アウタチューブ11の下部で且つダストシール16より上位位置にオイルシール17が取付けられている。
オイルシール17は、インナチューブ12に摺接しつつオイルやガスを封止する。
【0015】
ダストシール16は、インナチューブ12に摺接しつつ外部のダストや泥水や泥がアウタチューブ11とインナチューブ12との間隙へ侵入することを防止し、オイルシール17を保護する役割を果たす。
【0016】
ダストシール16及びオイルシール17を、シール部材18と総称する。ただし、シール部材18にOリングなどのシール用部品を含めてもよいため、シール部材18はダストシール16やオイルシール17に限定されない。
【0017】
走行中は、インナチューブ12に対してアウタチューブ11が軸方向に相対的に移動する。相対的移動は、インナチューブ12に対してアウタチューブ11が軸方向に移動する形態と、アウタチューブ11に対してインナチューブ12が軸方向に移動する形態と、アウタチューブ11とインナチューブ12の両方が軸方向に移動する形態の全てを含む。
【0018】
路面に接する車輪に、車両用サスペンション10を介して車体が支持されており、走行中は、車体が上下に移動し、さらに前後、左右にも移動し得る。これらの移動は乗り心地や操縦性に密接に関連する。
シール部材18の摩擦係数が小さいほど、乗り心地や操縦性が良好になることが知られている。そのため、シール部材18のさらなる低摩擦化が求められる。
【0019】
上記した特許文献1の技術で25%程度の低摩擦化が得られるが、本発明者らはさらなる低摩擦化を達成するべき、種々の試みを行った。この試みを以下に列挙する。
【0020】
○摩擦係数の測定原理:
所定のストロークを往復移動するステージを準備する。また、下部に金属球を備える錘(おもり)と、この錘に加わる水平力を測定するロードセルとを準備する。
ステージにサンプルを固定し、サンプルに金属球を介して錘を載せ、サンプルと金属球との間に数滴の潤滑油を滴下する。この状態で、ステージを往復移動し、ロードセルで水平力を測定する。錘の質量と水平力とに基づいて動摩擦係数(以下、摩擦係数と記す。)が算出される。
【0021】
○摩擦係数の測定条件:
摩擦係数の測定条件は次の通りである。
・ステージの移動距離(移動ストローク):
中心から左へ2.5mmと右へ2.5mmで、合計5.0mm。
・移動速度:1mm/秒
・荷重(錘の質量):19.6N
・往復の回数:100回
【0022】
○硬さの測定法:
JIS K 6253-2(国際ゴム硬さ試験)に準じて、サンプルにプランジャを一定の力で押し付け、サンプルにできた窪みの深さを換算して国際ゴム硬さ(IRHD)を求める。
【0023】
○比較例1のサンプル作製:
NBR(JSR社製、製品名N240S)36.5質量%と、シリカ(東ソー・シリカ社製、製品名Nipsil(登録商標)ER-R)47.5質量%と、カーボンブラック(東海カーボン社製、製品名シーストSO)1.8質量%と、その他添加剤14.2質量%とを配合して、サンプルを製造した。以下、製造者名、製品名は同じであるため、これらの記載は省略する。
【0024】
○比較例1の摩擦係数及び硬さ:
比較例1のサンプルを対象に、摩擦係数及び国際ゴム硬さを、計測した。結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
○実施例:
RHSC(籾殻を焼成してなる多孔質炭素材料)等の多孔質炭素セラミック材が、炭素由来の摺動特性とセル構造に起因する補強特性を有することが知られている。そこで、本発明者らは、NBRの一部及びシリカの一部を、多孔質炭素セラミック材に置き換えることで、実施例のサンプルを作製することにした。
【0027】
○実施例1のサンプル作製:
NBR20.1質量%と、シリカ26.1質量%と、カーボンブラック1.0質量%と、その他添加剤7.8質量%とに、粒径が106μmの多孔質炭素セラミック材(三和油脂社製、製品名RHSC)45.0質量%を加えて配合して、サンプルを製造した。以下、多孔質炭素セラミック材の製造者名、製品名は同じであるため、これらの記載は省略する。
【0028】
なお、多孔質炭素セラミックは、米ぬか(Rice Bran)由来のRBC(RBセラミックス)であってもよく、RHSCに限定されるものではなく、RHSCと同等品であればよい。
【0029】
○実施例1の摩擦係数及び硬さ:
実施例1のサンプルを対象に、摩擦係数及び国際ゴム硬さを、計測した。結果を表2に示す。なお、比較のために、比較例1を併記する。
【0030】
【0031】
表2中、摩擦係数に着目し、比較例1に対する実施例1の低減率を計算した。結果を表3に示す。
【0032】
【0033】
実施例1では、45%の低減率が得られた。
従来技術(特許文献1)による低減率が25%程度であり、実施例1による低減率が45%である。45%÷25%=1.8の計算により、実施例1では、従来技術(特許文献1)の低減率の1.8倍もの低減が図れた。
【0034】
すなわち、粒径が106μmのRHSCを45.0質量%配合した本発明のシール部材により、好ましい低摩擦化が達成できた。
【0035】
次に、本発明者らは、一層の低摩擦化を図るために、RHSCの粒径を変更することを試みた。この例を実施例2として、以下説明する。
【0036】
○実施例2のサンプル作製:
多孔質炭素セラミック材(RHSC)の粒径を10μmに変更する。その他は、実施例1と同じとし、サンプルを製造した。
【0037】
○実施例2の摩擦係数及び硬さ:
実施例2のサンプルを対象に、摩擦係数及び国際ゴム硬さを、計測した。結果を表4に示す。なお、比較のために、実施例1を併記する。
【0038】
【0039】
表4中、摩擦係数に着目し、比較例1に対する実施例2の低減率を計算した。結果を表5に示す。
【0040】
【0041】
実施例2では、58%の低減率が得られた。
従来技術(特許文献1)による低減率が25%程度であり、実施例2による低減率が58%である。58%÷25%=2.3の計算により、実施例2では、従来技術(特許文献1)の低減率の2.3倍もの低減が図れた。
【0042】
すなわち、粒径が10μmのRHSCを45質量%配合した本発明のシール部材により、より好ましい低摩擦化が達成できた。
【0043】
ところで、表1に示すように比較例1の硬さ(IRHD)は87であり、表4に示すように実施例1、2の硬さ(IRHD)は97である。
シール部材の用途によっては、硬さ(IRHD)を実施例1、2よりも低減することが好ましい場合がある。
【0044】
本発明者らは、シリカが多孔質炭素セラミック材(RHSC)より硬いことから、シリカの配合を減らして多孔質炭素セラミック材(RHSC)の配合を増やすことを知見した。ただし、多孔質炭素セラミック材(RHSC)は増量すると、凝集するリスクが増す。対策として、分散作用のあるカーボンブラックカップリング剤を適量加える。
以上の知見に基づいて、実施例3のサンプルを作製した。以下、詳しく説明する。
【0045】
○実施例3のサンプル作製:
NBR24.8質量%と、シリカ8.4質量%と、粒径が10μmの多孔質炭素セラミック材(RHSC)56.0質量%と、カーボンブラック1.2質量%と、その他添加剤9.4質量%とに、カーボンブラックカップリング剤(住友化学社製、製品名スミリンク(登録商標)200)0.2質量%を加えて配合して、サンプルを製造した。
【0046】
○実施例3の摩擦係数及び硬さ:
実施例3のサンプルを対象に、摩擦係数及び国際ゴム硬さを、計測した。結果を表6に示す。なお、比較のために、実施例2を併記する。
【0047】
【0048】
実施例3は、摩擦係数が少し増加したが、硬さは小さくなった。
実施例3と比較例1とを比較する。結果を表7に示す。
【0049】
【0050】
実施例3の硬さは、比較例1と同じであった。また、実施例3では、41%の低減率が得られた。
従来技術(特許文献1)による低減率が25%程度であり、実施例3による低減率が41%である。41%÷25%=1.6の計算により、実施例3では、従来技術(特許文献1)の低減率の1.6倍の低減が図れた。
【0051】
実施例3は、多孔質炭素セラミック材(RHSC)を56.0質量%としたにも拘わらず、カーボンブラックカップリング剤を0.2質量%加えたことにより、硬さが比較例1と同等で、摩擦係数が比較例1よりも41%も低減させることができた。
【0052】
別の見方をすると、実施例3は、シリカの配合を減らすことで多孔質炭素セラミック材(RHSC)の配合比を、40.0質量%を超える56.0質量%に上げながら、硬さを比較例1と同等にすることができた。
【0053】
以上をまとめると次のようになる。
先ず、多孔質炭素セラミック材(RHSC)が無添加な比較例1に対して、45.0質量%のRHSCを添加した実施例1、2及び56.0質量%のRHSCを添加した実施例3は、41~58%もの低摩擦化が図れた。
【0054】
このことから、ゴム組成物からなるシール部材を低摩擦化する観点から、配合する多孔質炭素セラミック材の粒子は、40.0質量%を超える配合にすることが推奨され、45.0質量%以上を配合するとなおよく、さらには、45.0質量%~56.0質量%の範囲とすることが推奨される。
【0055】
次に、多孔質炭素セラミック材(RHSC)を添加する場合、粒径は106μmと10μmの何れもが低摩擦化に寄与したので、粒径は150μm以下であれば同等の低摩擦化が期待され、好ましくは106μm以下とする。
【0056】
表4によれば、粒径が106μmよりも10μmの方が低摩擦化を図れる。この傾向から粒径は小さいほど低摩擦化が期待される。粒径は、106μmよりは10μmが好ましく、さらには10μmに比べて10μmより小径が好ましい。以上から、粒径は10μm以下がより好ましい。
【0057】
摩擦係数が低いダストシールを用いると、インナチューブ12に対するアウタチューブ11の軸方向相対移動が円滑になる結果、車両の乗り心地が向上し、操縦安定性が向上する。上述のように、実施例1~3は比較例1よりも摩擦係数が低下しているので、実施例1~3を用いたダストシール16を備える車両は、乗り心地及び操縦安定性が向上すると考えられる。
【0058】
また、摩擦係数が低いオイルシールを用いると、インナチューブ12に対するアウタチューブ11の軸方向相対移動が円滑になる結果、車両の乗り心地が向上し、操縦安定性が向上する。上述のように、実施例1~3は比較例1よりも摩擦係数が低下しているので、実施例1~3を用いたオイルシール17を備える車両は、乗り心地及び操縦安定性が向上すると考えられる。
【0059】
以上、説明したように、実施例1~3を用いたダストシール16及び実施例1~3を用いたオイルシール17の一方を備えることにより、車両の乗り心地及び操縦安定性が向上すると考えられる。したがって、実施例1~3を用いたダストシール16及び実施例1~3を用いたオイルシール17の両方を備える車両は、乗り心地及び操縦安定性が向上すると考えられる。
【0060】
なお、車両用サスペンションは、実施例では自動二輪車のフロントサスペンションとしたが、自動二輪車のリヤーサスペンションであってもよい。また、車両は、自動二輪車の他、三輪車や四輪車であってもよい。よって、車両用サスペンションは、自動二輪車のフロントサスペンションに限定されない。