(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151771
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】積層体布帛用シングル丸編地及び積層体布帛
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20241018BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20241018BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20241018BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
D04B1/00 A
D04B1/16
B32B5/26
B32B27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065462
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】503439558
【氏名又は名称】株式会社 松田工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100149560
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 政人
【テーマコード(参考)】
4F100
4L002
【Fターム(参考)】
4F100AK01B
4F100AK51B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG12C
4F100DG13A
4F100DG15B
4F100DJ00B
4F100GB72
4F100JA13A
4F100YY00A
4L002AA06
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC07
4L002BA01
4L002DA00
4L002EA05
4L002EA07
4L002FA01
(57)【要約】
【課題】積層体布帛のさらなる軽量化と摩耗耐久性の飛躍的な向上とを両立させることができる、積層体布帛用シングル丸編地を提供する。
【解決手段】三層積層体布帛10は、織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種の生地からなる表面層11と、樹脂フィルムと不織布の一方又は両方からなる中間層12と、天竺組織のシングル丸編地からなる裏面層14とで構成される。裏面層14を形成するシングル丸編地は、編糸の総繊度が10デシテックス以下で、天竺組織の経方向の密度(コース数C)が1インチ当たり125コース以上であり、コース数Cと天竺組織の緯方向の密度(ウエル数W)との比率を示すVh値(C/W)が1.5以上3.0以下の範囲内、という独特な編成を有することにより、目付が13g/m
2以下という軽量性を持ちながら、極めて優れた摩耗耐久性を実現している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目付が13g/m2以下のシングル丸編地であって、
編糸の総繊度が10デシテックス以下であるフィラメント生糸(ストレートヤーン)からなる天竺組織のシングル丸編地であり、
前記天竺組織の経方向の密度(コース数C)が1インチ当たり125コース以上であり、
前記コース数Cと、前記天竺組織の緯方向の密度(ウエル数W)との比率を示すVh値(C/W)が1.5以上3.0以下の範囲内であることを特徴とする積層体布帛用シングル丸編地。
【請求項2】
前記コース数Cが1インチ当たり135コース以上であることを特徴とする請求項1に記載された積層体布帛用シングル丸編地。
【請求項3】
前記天竺組織の表目(ニードルループ面)側に表われる編糸の経方向の長さが150μm以下であることを特徴とする請求項1に記載された積層体布帛用シングル丸編地。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載されたシングル丸編地に、少なくとも、樹脂フィルムと不織布の一方又は両方からなる層が積層されてなることを特徴とする積層体布帛。
【請求項5】
前記シングル丸編地のシンカーループ面が前記樹脂フィルムと不織布の一方又は両方からなる層との接合面として積層されてなることを特徴とする請求項4に記載された積層体布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨具、登山服、スポーツウェア等の防風性、防水性、透湿性、及び軽量性が要求される衣料品に用いられる積層体布帛と、かかる積層体布帛を構成するためのシングル丸編地に関する。
【背景技術】
【0002】
雨具、登山服、スポーツウェア、作業着、ユニホーム、戦闘服等の防風性、防水性、透湿性、及び軽量性が要求される衣料品用として、織物、編物、不織布等の片面にコーティング又はラミネートで樹脂フィルムや不織布を積層した透湿防水性の布帛が開発されている。この透湿防水性布帛は、織編物等の積層されている樹脂フィルムの反対側の面に裏地が積層された三層構造を有している。これによって、透湿防水性布帛における樹脂フィルムや不織布の剥離や損傷、汚れ、油汚れ、べたつき等が抑えられる。
【0003】
このような透湿防水性布帛の裏地には、三層積層体の厚さや目付を増加させず、着用時の風合いをも損なわないことが要求される。従来技術として、裏地をトリコット編地とした三層積層体が知られている。しかし、上述した雨具や登山服等の衣料品には、面ファスナー、例えばクラレファスニング(株)製の「NEWECO MAGIC(登録商標)」等が用いられる場合が多い。このような衣料品にトリコット編地の裏地を用いると、面ファスナーのフック側やボタン等がトリコット編地の凹凸構造に引っ掛かり、摩耗による劣化が起こり易くなる。
【0004】
そこで、本出願人はこのような問題を解決するために、先の特許出願において示したように、裏地として高い編密度の丸編地を使用することによって、トリコット裏地と比較して高い摩擦耐久性を示し、かつ軽量で風合いに優れた、透湿防水性の三層積層体布帛を開発した(特許文献1)。
【0005】
また、本出願人は、先の特許出願において示したように、高い編密度を有するシングル丸編地と樹脂フィルムとを積層することによって、軽量で高い伸縮性を有するとともに、抗スナッグ性が高く面ファスナーに対する摩擦耐久性に優れ、かつ透湿防水性をも備えた二層積層体布帛を開発した(特許文献2)。
【0006】
これらの二層及び三層の積層体布帛は、従来のトリコット編地を裏地とした布帛と比較して抗スナッグ性が高く、耐摩耗性が大幅に向上しており、丸編地を使用した積層体布帛としては、優れた耐久性を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-135968号公報
【特許文献2】特開2012-161924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び特許文献2に係る積層体布帛では、特に摩擦耐久性が求められる衣料品、例えば登山服やユニホーム、戦闘服等に対して、より摩擦耐久性を高めようとしてシングル丸編地の繊度や密度を上げれば、目付も厚さも増大して積層体布帛全体としても重くなり、軽量化できないという課題があった。
【0009】
また、軽量で長期間の使用に耐えることは、材料消費の削減と資源の保全につながり、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献することにもなるため、極めて軽量で、かつ、極めて耐久性に優れた積層体布帛をより強く求められるようになっていた。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、積層体布帛のさらなる軽量化と摩耗耐久性の飛躍的な向上とを両立させることができる、積層体布帛用シングル丸編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る積層体布帛用シングル丸編地は、
目付が13g/m2以下のシングル丸編地であって、
編糸の総繊度が10デシテックス以下であるフィラメント生糸(ストレートヤーン)からなる天竺組織のシングル丸編地であり、
前記天竺組織の経方向の密度(コース数C)が1インチ当たり125コース以上であり、
前記コース数Cと、前記天竺組織の緯方向の密度(ウエル数W)との比率を示すVh値(C/W)が1.5以上3.0以下の範囲内であることを特徴とする。
【0012】
前記積層体布帛用シングル丸編地においては、前記コース数Cが1インチ当たり135コース以上であることが好ましい。
【0013】
前記積層体布帛用シングル丸編地においては、前記天竺組織の表目(ニードルループ面)側に表われる編糸の経方向の長さが150μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る積層体布帛は、上述したいずれかのシングル丸編地に、少なくとも、樹脂フィルムと不織布の一方又は両方からなる層が積層されてなることを特徴とする。
【0015】
前記積層体布帛は、前記シングル丸編地のシンカーループ面が前記樹脂フィルムと不織布の一方又は両方からなる層との接合面として積層されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る積層体布帛用シングル丸編地は、編糸の総繊度、コース数C、コース数Cとウエル数Wとの比を所定範囲内とした、特殊な編成の天竺組織で構成されている。これによってシングル丸編地の目付を所定の値以下に抑えることにより、積層体布帛のさらなる軽量化と摩耗耐久性の飛躍的な向上とを両立させることができ、登山服や戦闘服等の一層の軽量性と耐久性が求められる用途にも適用できる、積層体布帛用シングル丸編地となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本実施の形態に係る三層積層体布帛を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)におけるI-I断面を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】一般的な天竺組織のシングル丸編地を表目側の面(ニードルループ面)から見て示す模式図である。
【
図3】編密度を増大させたシングル丸編地を表目側の面(ニードルループ面)から見て示す模式図である。
【
図4】本実施の形態に係るシングル丸編地の表目側の面(ニードルループ面)を示す模式図である。
【
図5】本実施の形態に係るシングル丸編地のニードルループ面側に表われる編糸の経方向の長さを算出する方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る積層体布帛を実施するための形態(本明細書では単に「本実施の形態」と略称する)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1(a)は、本実施の形態に係る積層体布帛としての三層積層体布帛を模式的に示す斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるI-I断面を模式的に示す縦断面図である。
図1(a)、(b)に示されるように、本実施の形態に係る三層積層体布帛10は、織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種の生地からなる表面層11と、樹脂フィルムと不織布の一方又は両方からなる中間層12と、天竺組織のシングル丸編地からなる裏面層14とで構成されている。
【0020】
シングル丸編地は一列針床の丸編機で編成される丸編地(よこ編地)であり、本実施の形態に係るシングル丸編地は、その中で最も基本的な天竺組織(平編地)である。シングル丸編地の編密度は、緯方向に連続した編目の列(コース)の数と、経方向に連続した編目の列(ウエル)の数によって表される。シングル丸編地の経方向の1インチ(=2.54cm)当たりに形成されているコースの数を、コース数という。また、シングル丸編地の緯方向の1インチ当たりに形成されているウエルの数を、ウエル数という。本明細書では、単に「コース数」及び「ウエル数」と呼称し、それぞれ変数「C」及び「W」で表す。
【0021】
本実施の形態に係る三層積層体布帛10は、裏面層14を形成するシングル丸編地が独特な編成を有している。すなわち、裏面層14のシングル丸編地は、目付が13g/m2以下の天竺組織のシングル丸編地からなり、編糸の総繊度が10デシテックス以下であって、天竺組織の経方向の密度を示すコース数Cが1インチ当たり125コース以上であり、コース数Cと天竺組織の緯方向の密度を示すウエル数Wとの比率を示すVh値(C/W)が1.5以上3.0以下の範囲内であることを特徴とする。
【0022】
なお、本実施の形態では、代表例としてシングル丸編地を用いた三層積層体布帛について説明するが、本発明に係る積層体布帛用シングル丸編地は、三層積層体布帛だけでなく、二層積層体布帛や、さらに多層の積層体布帛にも用いることができる。
【0023】
また、本実施の形態では、シングル丸編地からなる層を裏面層14に用いた三層積層体布帛について説明するが、シングル丸編地からなる層を表面層に用いることもできる。
【0024】
図2は、一般的な天竺組織のシングル丸編地を表目側の面(ニードルループ面)から見て示す模式図である。
図2に示されるように、一般的な天竺組織のシングル丸編地100は、緯方向(幅方向)Hに延びる編糸101を使った編目102を連続させることによって形成されている。このような編成により、シングル丸編地100は薄くて軽量であり、緯方向(幅方向)Hに伸びやすいという特性を有する。これにより軽くて柔らかい風合いが得られる反面、編目102の隙間103の間から、面ファスナー等が編糸101に引っ掛かりやすくなる。
【0025】
これに対して、
図3に示されるように、編目102を小さくして編密度を大きくすれば、隙間103が狭くなって引っ掛かりは起こりにくくなる。しかし、シングル丸編地100の目付が重くなるため、軽量化の要請に反することになる。また、丸編は針を用いて編み立てしているため、針の太さにより密度を高められる限界があり、飛躍的に引っ掛かりにくくする密度にすることはできなかった。
【0026】
そこで、従来の、丸編地の編目数を多くすると隙間103が狭くなって引っ掛かりにくくなるという考え方に縛られず研究を重ねた結果、コース数C/ウエル数Wの比を1.5以上とすることによって、編目数を増やさずに引っ掛かりを生じにくくできることが分かった。すなわち、コース数Cに対してウエル数Wを少なくすることは、編糸の長さのうち緯方向に使われる割合を大きくすることになる。その結果、経方向に使われる編糸の長さが減少するため、シングル丸編地の表面の経方向に表われる編糸の長さも短くなる。これによって、シングル丸編地の目付を上げなくても、引っ掛かりに対する耐久性を飛躍的に高めることができることを知見した。
【0027】
図4は、このような知見に基づいた本実施の形態に係るシングル丸編地24の表目側の面(ニードルループ面)を示す模式図である。シングル丸編地24はコース数C/ウエル数Wの比(Vh値)が1.5以上であることから、
図4に示されるようにコースを形成する編糸21の編目22の経方向Nの間隔が狭くなる。これによって、表目側の面(ニードルループ面)の経方向Nに表われる編糸21の長さLは短くなる。すなわち、シングル丸編地24の表面において編糸21が浮いている部分が小さくなるため、編糸21に引っ掛かりにくくなる。そのため、編目22の緯方向Hの間隔が広くなっても摩擦耐久性を大幅に向上させることができ、目付が上がることもない。
【0028】
このような、編目22の緯方向Hの間隔を広くしつつ長さLを短くすることができるという効果を大きくするという観点からは、Vh値は1.7以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましく、2.2以上とすることがさらに好ましい。
【0029】
また、シングル丸編地24を軽量にする方法としては、編糸21として細く軽い編糸を用いることが考えられるが、確実に軽量化するためには、編糸21の繊度を10デシテックス以下とすることが好ましい。編糸21の繊度が10デシテックスを超えた場合には、シングル丸編地24の目付を一定値以下に抑えることは難しくなる。編糸21の繊度は3デシテックス以上10デシテックス以下であることがより好ましく、5デシテックス以上8デシテックス以下であることがさらに好ましい。
【0030】
編糸21を構成する繊維は、長繊維からなるフィラメント糸であることが好ましい。編糸21は、単繊維のモノフィラメント糸であっても、複数本の単繊維で構成されるマルチフィラメント糸であってもよいが、マルチフィラメント糸であることがより好ましい。
【0031】
編糸21がマルチフィラメント糸である場合の単糸繊度は、0.4デシテックス以上4デシテックス以下の範囲であることが好ましい。単糸繊度は0.8デシテックス以上2デシテックス以下の範囲であることがより好ましく、1デシテックス以上1.6デシテックス以下の範囲であることがさらに好ましい。単糸繊度が4デシテックス以下であることによって、裏面層14の風合いがより柔らかい三層積層体布帛10を得ることができる。一方、単糸繊度が0.4デシテックス未満になると糸が細すぎて、引っ掛かりや摩耗に対する耐久性が低下する。
【0032】
合成繊維のマルチフィラメント糸としては、捲縮加工や嵩高加工等の高次加工がされていないストレートヤーン(以下、「生糸(なまいと)」ともいう。)、捲縮加工や嵩高加工等の高次の糸加工がされた仮撚り加工捲縮糸や空気混繊嵩高糸、撚糸等がある。裏面層14を面ファスナー等が引っ掛かりにくく、かつ滑らかな表面にするためには、単繊維がほどけにくく集束性の良い糸を使用する必要がある。このため、本実施の形態に係るシングル丸編地24の編糸21には、ストレートヤーンが使用される。これによって、引っ掛かりや摩耗に対する物性や衣料にしたときの着用のしやすさ、動きやすさをさらに向上させることができる。ストレートヤーンには、製糸段階で集束性を持たせるために圧縮空気の噴射で付与される軽い交絡程度の交絡を持つものも含まれる。
【0033】
さらに、本発明者は、軽量性を向上させるために総繊度及び単糸繊度の小さい編糸を用いながら、高い摩擦耐久性を得るための条件として、コース数Cを1インチ当たり125コース以上とすることが有効であることを知見した。コース数Cを大きくすることによって、上述したようにコースを形成する編糸21の編目22の経方向Nの間隔が狭くなり、編糸21が浮いている部分が小さくなって引っ掛かりが生じにくくなる。コース数Cは135コース/インチ以上であることがより好ましく、140コース/インチ以上であることがさらに好ましい。
【0034】
一方、ウエル数Wは少なくすることで軽量化しやすくなるため70ウエル/インチ以下であることが好ましく、65ウエル/インチ以下であることがより好ましい。また、生産のし易さからウエル数Wは37ウエル/インチ以上であることが好ましい。
【0035】
加えて、シングル丸編地24のVh値を1.5以上に仕上げることで、編糸21が全体的に直線状に張った状態となり、シングル丸編地24の単体の生地としての強度が向上する。このようにシングル丸編地24の強度が高くなることも、引っ掛かりに対する摩擦耐久性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0036】
また、引っ掛かりや摩擦に対するより一層の耐久性を求める場合は、シングル丸編地24のシンカーループ面を中間層12と接合し、シングル丸編地24のニードルループ面が表面に見えるように積層した方が好ましい。
【0037】
本実施の形態に係るシングル丸編地24は、総繊度が10デシテックス以下の編糸で編成することにより軽量化を図っているが、摩擦耐久性とのバランスをとるため、目付は13g/m2以下に設定している。軽量化の観点からは、目付を11g/m2以下とすることがより好ましく、目付を10g/m2以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
また、シングル丸編地24は、総繊度が10デシテックス以下の細い編糸で編成されていることから、軽くなるとともに薄くすることができる。シングル丸編地24の厚さは、90μm未満であることが好ましく、80μm未満であることがより好ましい。シングル丸編地24の厚さの下限は、耐久性の観点から40μm以上であることが好ましい。
【0039】
シングル丸編地24の編糸21を構成する繊維としては、天然繊維、人工繊維のいずれも用いることができる。天然繊維には、木綿、麻、羊毛、絹等がある。また人工繊維には、合成繊維、再生繊維(レーヨン、キュプラ等)、半合成繊維(アセテート、プロミックス等)、無機繊維(フッ素繊維、ガラス繊維、ステンレス繊維等)がある。本実施の形態に係るシングル丸編地24の編糸21を構成する繊維としては、耐久性、汎用性、コストの観点から、合成繊維が好ましい。
【0040】
編糸21に用いられる合成繊維は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタラート等の芳香族ポリエステル樹脂やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂等からなるポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン6,6、バイオナイロン等のポリアミド系繊維、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維等が挙げられる。また、環境負荷を減らす観点から、PETボトルやフィルムの端材等を再利用して作ったリサイクル繊維や、バイオナイロンやバイオポリエステルを始めとする植物由来の原料からなる繊維や、染色による廃水を出さないために糸の段階で顔料等を練り込んで色を付けた原着繊維等を使用することも好ましい。
【0041】
これらの合成繊維のうち、汎用性及び耐久性等の点からポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系繊維、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド系繊維、及びポリプロピレン系繊維が好ましい。特に、強度、耐久性、加工性、コストの観点から、ナイロン6やナイロン6,6、バイオナイロン等のポリアミド系繊維が好ましい。
【0042】
本実施の形態に係るシングル丸編地24は、通常の丸編地と同様に、シングル丸編機を選択し、編み条件の設定を行い、製編し、染色仕上げ加工を行って製品とする。コース数とウエル数及びそれらの比を所定の数値範囲内として、所望の特性を有するシングル丸編地24を得るためには、特に製編工程と加工工程における加工条件が重要となる。シングル丸編地24は46ゲージ以上のシングル丸編機を用いて編成することが好ましく、58ゲージ以上のシングル丸編機を用いて編成することがより好ましい。
【0043】
このようにして編成されたシングル丸編地24は、さらに染色仕上げ加工が実施されて積層体布帛用の製品となる。染色仕上げ加工としては、従来から知られている丸編の染色方法で加工することができる。
【0044】
ただし、本実施の形態に係るシングル丸編地24は、編地となった時点で、目付が13g/m2以下、コース数Cが1インチ当たり125コース以上、コース数Cと天竺組織の緯方向の密度を示すウエル数Wとの比率を示すVh値(C/W)が1.5以上3.0以下の範囲内とする必要がある。このようにして、本実施の形態に係るシングル丸編地24が作製される。
【0045】
次に、こうして作製されたシングル丸編地24を用いた積層体布帛の製造方法について説明する。積層体布帛には、上述した三層積層体布帛10だけでなく、二層積層体布帛や、さらに多層の積層体布帛もあるが、ここでは、本実施の形態に係る積層体布帛の一例として、三層積層体布帛10の製造方法を説明する。
【0046】
本実施の形態に係る三層積層体布帛10における表面層11は、織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種の生地から形成される。すなわち、表面層11は、織物、編物、不織布のいずれか一種の生地のみから形成してもよいし、これらのうち二種以上の生地を組み合わせて形成してもよい。二種以上の生地を組み合わせる方法としては、接着剤を用いて生地を積層させる、二種以上の生地を平面方向に繋ぎ合わせる、といった方法を用いることができる。
【0047】
表面層11を形成する生地の組織は特に限定されないが、織物の場合は、平織、斜文織(ツイル)、朱子織(サテン)、斜子織、梨地織、よこ二重織、たて二重織、袋織、ビロード等の組織とすることができる。編物の場合、緯編としては、平編(天竺)、鹿の子編、パイル編、リブ編(ゴム編)、パール編(リンクス編)、両面編等の組織とすることができる。また経編としては、シングルデンビ編、シングルコード編、シングルアトラス編、ハーフトリコット編、ダブルデンビ編、サテン・トリコット編、クイーンズコード編等の組織とすることができる。不織布としては、短繊維不織布、長繊維不織布、乾式不織布、湿式不織布等を使用することができる。
【0048】
表面層11に使用する生地を構成する素材は、裏面層14のシングル丸編地を形成する素材と同様に、綿、麻、絹等の天然繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリウレタン系繊維、アクリル系繊維等の合成繊維を、三層積層体布帛10が使用される用途に応じて選定することができる。表面層11に使用する生地に対しては、必要に応じて従来から知られている撥水処理加工や制電処理加工等を施してもよい。
【0049】
同様に、表面層11に使用する生地の組織も、三層積層体布帛10が使用される用途に応じて選定することができる。例えば、本実施の形態に係る三層積層体布帛10を強度、耐久性及び軽量性が重視される登山服に使用する場合は、生地としてポリエステル繊維、ポリアミド繊維等で織り上げられた織物を使用することが好ましい。また、ストレッチ性及び軽量性が重視されるスポーツウェアに使用する場合は、生地としてポリエステル繊維、ポリアミド繊維等から編み上げられた編物を使用することが好ましい。
【0050】
本実施の形態に係る三層積層体布帛10の中間層12に使用する樹脂フィルム又は不織布としては、三層積層体布帛10の用途に応じて、従来から知られている各種樹脂フィルムや不織布を採用することができる。樹脂フィルムの材料には、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等があり、使用する用途に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
例えば、三層積層体布帛10を透湿防水性の衣料に用いる場合は、中間層12を形成する樹脂フィルムとして、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、 含フッ素樹脂等からなる透湿防水性フィルムを使用することが好ましい。ここで、透湿防水性フィルムは、湿式製法により製造される多孔質樹脂薄膜と、乾式製法により製造される親水性無孔質樹脂薄膜とに分けられ、それぞれの特徴に基づいて使い分けることができる。
【0052】
また、中間層12に使用する不織布としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、アクリロニトリル、アセテート、セルロース、ポリウレタン等の短繊維不織布、長繊維不織布、フラッシュ紡糸法による不織布、メトロブロー法による不織布或いはエレクトロスピニング法による不織布等があり、これらを適宜使用することができる。また、それらの複数を積層したものを使用することもできる。
【0053】
中間層12の厚さは、1μm以上300μm以下の範囲内であることが好ましく、5μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0054】
本実施の形態に係る中間層12の樹脂フィルム又は不織布は、織物、編物、不織布から選ばれる表面層11及びシングル丸編地24からなる裏面層14に対して、従来から知られている方法を用いて積層される。具体的には、例えば、表面層11又は裏面層14に中間層12を形成する樹脂材料を直接コーティングする方法や、樹脂材料から皮膜を作製して樹脂フィルムとし、表面層11及び裏面層14に接着剤等で接着する方法(ラミネート法)等の、一般的な積層方法を適用することができる。
【0055】
直接コーティングする方法は、樹脂材料を表面層11又は裏面層14の表面に均一な薄膜状となるように塗工して、皮膜化させる方法である。樹脂材料を塗工する方法としては、従来から知られているナイフオーバーロールコーティング、ダイレクトロールコーティング、リバースロールコーティング、グラビアコーティング等を用いることができる。これらのコーティング方法を用いる際には、塗工した樹脂材料が、上述した範囲の厚さとなるように調整する。
【0056】
ラミネート法は、樹脂材料を予め皮膜化して作製した樹脂フィルム又は上述した各種方法により作製した不織布を、その樹脂フィルム又は不織布の表面に接着剤を塗工して表面層11及び裏面層14を積層する方法、又は、表面層11及び裏面層14に接着剤を塗工して中間層12を積層する方法である。中間層12を作製する工程では、形成される樹脂フィルム又は不織布が上述した範囲の厚さとなるように調整する。接着剤を塗工する方法としては、従来から知られているナイフオーバーロールコーティング、ダイレクトロールコーティング、リバースロールコーティング、グラビアコーティング等がある。
【0057】
接着剤には、熱可塑性樹脂からなる接着剤を始めとして、加熱や紫外線照射により硬化する樹脂を用いた熱硬化性接着剤や紫外線硬化性接着剤等の、従来から知られている接着剤を使用することができる。接着剤に用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂等がある。特に、本実施の形態に係る三層積層体布帛10を透湿防水性の衣類に用いる場合には、透湿性の高い接着剤を用いることが好ましい。
【0058】
接着剤の被覆率は特に限定されないが、被覆率が高い方が剥離強度は高くなる。高透湿性の接着剤であれば被覆率が100%の全面接着でも問題はないが、一般的には、透湿性と耐水性を両立させるため、20%以上で80%以下の被覆率とすることが好ましい。被覆率100%の全面接着とする場合にはナイフコーター等を用いることができ、被覆率を20%以上80%以下に制御する場合にはグラビアコーター等を用いることができる。グラビアコーターは、表面にドット状の凹部を有するロールを用いて、その凹部に充填された接着剤を樹脂フィルム等の接着面に転写する装置であり、凹部の面積、深さ、凹部間の間隔を調整することによって、接着剤の被覆率を自由に設定することができる。
【0059】
本実施の形態に係る三層積層体布帛10は、全体の目付を110g/m2以下にすることで衣類にしたときに軽量性を感じやすくなる。一方、目付が30g/m2未満になると、軽い反面、引裂強度等が弱くなり、衣類にしたときに傷みやすくなる可能性がある。
【0060】
以上、本実施の形態に係る積層体布帛の一例として、三層積層体布帛10の製造方法について説明したが、二層積層体布帛についても、表面層11に関する部分を除いて同様の製造方法を用いることができる。二層積層体布帛の製造方法においては、上述した三層積層体布帛10の製造方法における裏面層14がシングル丸編地の層に相当し、中間層12が基層に相当する。
【実施例0061】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0062】
上記本実施の形態に記載した製造方法に基づいて実施例1及び実施例2に係る三層積層体布帛を作製し、その物性値を測定して特性を評価した。また、実施例との比較のために、比較例として3種類の三層積層体布帛を作製し、同様にして物性値を測定して特性を評価した。実施例及び比較例の各物性値は下記の方法によって測定した。
【0063】
[1]コース数(C)
経方向について1インチ当たりの編目の数をカウントした。異なる5箇所で編目の数をカウントし、その平均値をコース数とした。
【0064】
[2]ウエル数(W)
緯方向について1インチ当たりの編目の数をカウントした。異なる5箇所で編目の数をカウントし、その平均値をウエル数とした。
【0065】
[3]コース数とウエル数の比率を表すVh値(C/W)
上記の方法によって算出したコース数とウエル数を用いて、次の式によって算出した。
Vh値=C÷W
【0066】
[4]表目側に表われる編糸の経方向の長さ
シングル丸編地の表目側の面(ニードルループ面)を光学顕微鏡により倍率200倍で観察して、表目側に表われている編糸の経方向の長さを読み取った。ニードルループ面の異なる場所3箇所において、それぞれ10箇所の長さを読み取り、その平均値を、シングル丸編地の表目側に表れている編糸の経方向の長さとした。表目側に表れている編糸の経方向の長さとしては、
図5の模式図に示すように、糸の重なりがない部分の長さを計測した。
【0067】
図5に示される例においては、aからjまでの10箇所の表目側に表れている編糸の重なりがない部分の読み取り長さは、それぞれ、a=0.08mm、b=0.09mm、c=0.07mm、d=0.1mm、e=0.07mm、f=0.13mm、g=0.1mm、h=0.08mm、i=0.13mm、j=0.12mmであった。したがって、
図5に示される10箇所の長さの平均値は、0.097mm(97μm)となる。実際にはニードルループ面の3箇所において各10箇所の長さを読み取り、合計30箇所の長さの平均値を算出した。
【0068】
[5]スナッグ特性(面ファスナーに対する摩擦耐久性)
ASTM D4966「繊維織物の耐摩耗性に関する標準試験法(マーチンデール摩耗試験法)」に準じて、摩擦耐久性を測定した。各実施例及び比較例の三層積層体布帛から切り出した供試体のシングル丸編地の面に、面ファスナーのフック側を押圧して所定回数回転させ、試験後の供試体表面の摩擦部位におけるスナッグの発生状態等を目視で観察した。面ファスナーとしてはクラレファスニング(株)製「A8693Y」を用いて、押圧荷重は9kPaとした。試験後の供試体の摩擦部位の表面状態を、最高の5級から1級までの各標準サンプルと比較観察して、対応する標準サンプルの級にランク付けした。なお、試験後の供試体に貫通孔が空いて測定不能状態となっていた場合は、最低の0級の評価とした。
【0069】
[6]厚さ
厚さの測定は、株式会社尾崎製作所製のダイアルシックネスゲージ(型式:H)を用いて、生地の5箇所において5μm単位で計測し、一番多く出た数値を厚さの測定値とした。具体的には、例えば、5箇所で測定した数値が75μm、75μm、70μm、75μm、70μmであった場合は、75μmが3回で一番多く出た数値であるため、厚さの測定値は75μmとなる。
【0070】
[実施例1]
実施例1に係る三層積層体布帛においては、裏面層用のシングル丸編地の編糸として、総繊度8デシテックス、5フィラメント、単糸繊度1.6デシテックス(8dtex/5f)のナイロン6,6製のマルチフィラメント生糸(ストレートヤーン)を用いた。この編糸を58ゲージの丸編機で製編し、染色仕上げ加工を行ってシングル丸編地を作製した。得られたシングル丸編地はウエル数62、コース数148で、コース数/ウエル数の比率Vh値は2.4であった。このシングル丸編地の目付は9.5g/m2、厚さは70μmであり、シングル丸編地の表目側に表われた編糸の長さは97μmであった。
【0071】
一方、三層積層体布帛の表面層としては、経糸及び緯糸ともに22デシテックス、20フィラメントのナイロンマルチフィラメント仮撚糸で構成したダブルリップ組織の織物にフッ素系撥水剤で撥水処理をした織物生地を準備した。また、中間層として、ポリウレタン系樹脂製の多孔質樹脂フィルム(厚さ35μm)を準備した。
【0072】
この多孔質樹脂フィルムの片面に表面層用の織物、もう片面に裏面層用のシングル丸編地をシンカーループ面側が接着するように貼り合わせて、実施例1に係る三層積層体布帛(総目付87g/m2)を得た。この三層積層体布帛について測定した物性値及び評価結果等を、表1及び表2に示す。
【0073】
[実施例2]
実施例2に係る三層積層体布帛においては、裏面層用のシングル丸編地の編糸として、総繊度8デシテックス、6フィラメント、単糸繊度1.3デシテックス(8dtex/6f)のナイロン6製のマルチフィラメント生糸を用いた。この編糸を58ゲージの丸編機で製編し、染色仕上げ加工を行ってシングル丸編地を作製した。得られたシングル丸編地はウエル数65、コース数130で、コース数/ウエル数の比率Vh値は2.0であった。シングル丸編地の目付は10.5g/m2、厚さは75μmであり、シングル丸編地の表目側に表われた編糸の長さは112μmであった。
【0074】
一方、表面層及び中間層としては、実施例1と同様の素材を使用し、樹脂フィルム面にシンカーループ面側が接着するように裏面層用のシングル丸編地を貼り合わせて、実施例2に係る三層積層体布帛(総目付89g/m2)を得た。この三層積層体布帛について測定した物性値及び評価結果等を、表1及び表2に示す。
【0075】
(比較例1)
比較例1の三層積層体布帛においては、裏面層用のシングル丸編地の編糸として、総繊度8デシテックス、5フィラメント、単糸繊度1.6デシテックス(8dtex/5f)のナイロン6,6製のマルチフィラメント生糸を用いた。この編糸を58ゲージの丸編機で製編し、染色仕上げ加工を行ってシングル丸編地を作製した。得られたシングル丸編地はウエル数が56、コース数が121で、コース数/ウエル数の比率Vh値は2.2であった。このように、比較例1のシングル丸編地は、コース数が125未満であり、本発明の要件を満たしていない。このシングル丸編地の目付は8.7g/m2、厚さは65μmであり、シングル丸編地の表目側に表われた編糸の長さは122μmであった。
【0076】
積層体布帛を構成する表面層及び中間層としては、実施例1と同様の素材を使用し、樹脂フィルム面にシンカーループ面が接着するように裏面層用のシングル丸編地を貼り合わせて、比較例1の三層積層体布帛(総目付87g/m2)を作製した。この三層積層体布帛について測定した物性値及び評価試験の結果を、表1及び表2に示す。
【0077】
表2に示されるように、比較例1の三層積層体布帛は、摩擦回数1000回の段階で既にスナッグ特性が1.0級と低く、摩擦回数3000回では貫通孔が空いて測定不能となっている。
【0078】
(比較例2)
比較例2の三層積層体布帛においては、裏面層用のシングル丸編地の編糸として、総繊度8デシテックス、5フィラメント、単糸繊度1.6デシテックス(8dtex/5f)のナイロン6,6製のマルチフィラメント生糸を用いた。この編糸を58ゲージの丸編機で製編し、染色仕上げ加工を行ってシングル丸編地を作製した。得られたシングル丸編地はウエル数が78、コース数が91で、コース数/ウエル数の比率Vh値は1.2であった。
【0079】
このように、比較例2のシングル丸編地はコース数が125未満で、Vh値も1.5未満であり、本発明の要件を満たしていない。このシングル丸編地の目付は9.8g/m2、厚さは70μmであり、シングル丸編地の表目側に表われた編糸の長さは167μmであった。
【0080】
積層体布帛を構成する表面層及び中間層としては、実施例1と同様の素材を使用し、樹脂フィルム面にシンカーループ面が接着するように裏面層用のシングル丸編地を貼り合わせて、比較例2の三層積層体布帛(総目付87g/m2)を作製した。この三層積層体布帛について測定した物性値及び評価試験の結果を、表1及び表2に示す。
【0081】
表2に示されるように、比較例2の三層積層体布帛は、摩擦回数500回でのスナッグ特性が0級であり、貫通孔が空いて測定不能となっている。
【0082】
(比較例3)
比較例3の三層積層体布帛においては、裏面層用のシングル丸編地の編糸として、総繊度11デシテックス、7フィラメント、単糸繊度1.6デシテックス(11dtex/7f)のナイロン6,6製のマルチフィラメント生糸を用いた。この編糸を58ゲージの丸編機で製編し、染色仕上げ加工を行ってシングル丸編地を作製した。得られたシングル丸編地はウエル数が80、コース数が93で、コース数/ウエル数の比率Vh値は1.2であった。
【0083】
このシングル丸編地の目付は14g/m2、厚さは90μmであり、シングル丸編地の表目側に表われた編糸の長さは137μmであった。このように、比較例3のシングル丸編地は、その目付が13g/m2を超えているため、下記に示されるように、三層積層体布帛とした場合の目付も実施例を上回っており、軽量性に劣っている。また、編糸の総繊度が10デシテックスを超えており、コース数が125未満で、Vh値も1.5未満であって、いずれも本発明の要件を満たしていない。
【0084】
積層体布帛を構成する表面層及び中間層としては、実施例1と同様の素材を使用し、樹脂フィルム面にシンカーループ面が接着するように裏面層用のシングル丸編地を貼り合わせて、比較例3の三層積層体布帛(総目付93g/m2)を作製した。この三層積層体布帛について測定した物性値及び評価試験の結果を、表1及び表2に示す。
【0085】
表2に示されるように、比較例3の三層積層体布帛は、摩擦回数500回の段階で既にスナッグ特性が2.0級と低く、摩擦回数1000回では0級であり、貫通孔が空いて測定不能となっている。
【0086】
以上の実施例1及び実施例2に係る三層積層体布帛、並びに比較例1から3までの三層積層体布帛について測定した物性値及び評価試験の結果を、表1及び表2にまとめて示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表1に示されるように、実施例1及び実施例2に係るシングル丸編地は、シングル丸編地の目付が13g/m2以下で、編糸の総繊度が10デシテックス以下であり、コース数Cが1インチ当たり125コース以上で、コース数Cとウエル数Wとの比率を示すVh値が1.5以上3.0以下の範囲内であるという本発明の要件を全て満たしている。これによって、実施例1及び実施例2に係るシングル丸編地を用いた三層積層体布帛は、表2に示されるように、摩擦回数500回、1000回、3000回でのスナッグ特性測定結果が全て最高の5.0級であり、極めて優れた摩擦耐久性を有している。
【0090】
これに対して、比較例1から3までのシングル丸編地は、上述したように、本発明の要件のいずれか一つ以上を満たしていない。このため、スナッグ特性試験において、比較例2のシングル丸編地を用いた三層積層体布帛は、摩擦回数500回で既に貫通孔が空いており、比較例3のシングル丸編地を用いた三層積層体布帛は、摩擦回数500回で既に2.0級と低く、摩擦回数1000回で貫通孔が空いて測定不能となっている。
【0091】
一方、比較例1のシングル丸編地を用いた三層積層体布帛は、摩擦回数500回では5.0級を保っており、摩擦回数1000回で1.0級に下がり、摩擦回数3000回で貫通孔が空いている。よって、比較例1の三層積層体布帛は、比較例2及び3の三層積層体布帛に比べると、耐摩擦性を有している。このような比較例の間での差は、比較例2のシングル丸編地が本発明の要件のうちコース数とVh値の二要件を満たさず、比較例3のシングル丸編地はこれら二要件に加えて目付及び編糸の総繊度の要件も満たしていないのに対し、比較例1のシングル丸編地はコース数の要件のみ満たしていないことによるものとも推測される。
【0092】
しかしながら、このようにコース数の要件だけが欠けている比較例1の三層積層体布帛であっても、耐摩擦性は、摩擦回数1000回及び3000回でもスナッグ特性が5.0級である実施例1及び2に係る三層積層体布帛に遠く及ばないものとなっている。以上の結果より、シングル丸編地を用いた三層積層体布帛において、極めて軽量であるとともに、極めて優れた摩擦耐久性を得るためには、シングル丸編地が本発明の要件を満たすことが必須であることが明確となった。
【0093】
なお、表2に示されるように、実施例1に係る三層積層体布帛は、摩擦回数5000回及び10000回のスナッグ特性測定試験においても最高の5.0級の評価であり、一層高い摩擦耐久性を示している。コース数Cが1インチ当たり148で、コース数Cとウエル数Wとの比(Vh値)が2.4であり、いずれも大きいことがこの結果につながっているものと推定される。また、シングル丸編地の表目側に表われた編糸の長さが97μmと短いことにより、摩擦耐久性が飛躍的に向上しているものと考えられる。
【0094】
以上説明したように、本発明においては、二層や三層の積層体布帛に用いられるシングル丸編地を特殊な編成とすることによって、より軽量であるという要請を満たすとともに、引っ掛かりや摩耗に対する耐久性が飛躍的に向上した積層体布帛を得ることができる。
本発明に係る積層体布帛は、従来技術による二層や三層の積層体布帛と比較して軽量性及び耐摩耗性が極めて優れており、また表面及び裏面の風合いも良く着心地にも優れているため、雨具、スポーツウェア、作業着、アウトドアウェア、レジャーウェア、ユニホーム、戦闘服等の各種衣料品に使用することができる。