(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151772
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】幹細胞増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20241018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
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A61Q 19/00 20060101ALI20241018BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20241018BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20241018BHJP
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A23L 33/105 20160101ALI20241018BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20241018BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20241018BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20241018BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61P43/00 107
A61K36/185
A61Q19/00
A61Q1/02
A61Q19/10
A61P17/00
A23L33/105
A23G3/34
A23L2/00 F
A23L2/52
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065463
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀場 大生
(72)【発明者】
【氏名】藤村 将大
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B065
4B117
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
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4C088ZC52
(57)【要約】 (修正有)
【課題】幹細胞増殖促進作用が優れた素材を提供することを課題とする。
【解決手段】ハス種子の抽出物は、優れた幹細胞増殖促進作用を有し、且つ安定性にも優れていた。本発明のハス種子の抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤、化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品は、再生医療や再生美容等の分野において大きく貢献できるものであり、組織恒常性維持や損傷組織の修復・再生の用途に極めて有効である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハス種子の抽出物を含有することを特徴とする幹細胞増殖促進剤。
【請求項2】
ハス種子の抽出物が水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる一種または二種以上の溶媒による抽出物であることを特徴とする請求項1記載の幹細胞増殖促進剤。
【請求項3】
請求項1または2記載のハス種子の抽出物を含有する培地で幹細胞を培養する工程を含む、幹細胞の増殖促進方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のハス種子の抽出物を幹細胞増殖の有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項1または2記載のハス種子の抽出物を幹細胞増殖の有効成分として含有することを特徴とする医薬品。
【請求項6】
請求項1または2記載のハス種子の抽出物を幹細胞増殖の有効成分として含有することを特徴とする食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハス種子の抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞の増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物(特に哺乳動物)の組織は、傷害若しくは疾患、または加齢等に伴い、細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に関わる幹細胞が大きな役割を果たしている。幹細胞は、様々な細胞・臓器に分化する多能性を有しており、この性質により細胞・臓器の損傷部を補うことで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を応用した、次世代の医療である再生医療に期待が集まっている。
【0003】
幹細胞は、骨髄、皮膚、肝臓、膵臓、脂肪等、多くの臓器・組織に存在することが明らかにされ、各臓器・組織の再生及び恒常性維持を司っていることがわかってきた(非特許文献1~4)。また、各組織に存在する幹細胞は可塑性に優れており、今まで自己複製が不可能であった臓器や組織の再生にも利用できる可能性がある。
【0004】
一方で、これらの幹細胞のうちのいくつかは、加齢とともに減少することが知られており、各組織の恒常性維持のために幹細胞の減少を防ぐ技術の研究が積極的になされている(非特許文献5)。また、近年、幹細胞の能力(多能性)を、臓器や組織の再生へ応用するため、細胞移植治療や組織工学(再生医療や再生美容)の分野において幹細胞を生体組織から分離した後に培養し増殖させる技術の開発が進められている(非特許文献6、7)。
【0005】
ハス(学名:Nelumbo nucifera)は、ハス科ハス属に属する多年生水生植物である。ハスの内果皮のついた種子を乾燥させたものが、生薬の蓮肉(レンニク)である。これまでハス種子の抽出物には、抗憂鬱活性があること(特許文献1)や、骨吸収抑制作用があり骨粗鬆症の予防及び改善剤として利用できること(特許文献2)、リパーゼ阻害活性があること(特許文献3)、発毛促進作用があり養毛剤として利用できること(特許文献4)、ヘリコバクター・ピロリに対する高い抗菌作用があること(特許文献5)等が知られている。しかしながら、ハス種子の抽出物が幹細胞の増殖促進作用を有することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007-530669号公報
【特許文献2】特開2005-281221号公報
【特許文献3】特開2005-8572号公報
【特許文献4】特開平11-60450号公報
【特許文献5】特開平8-295632号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Goodell M.A.ら, Nat. Med., 1997年, Vol. 3, pp. 1337-1345
【非特許文献2】Zulewski H.ら, Diabetes, 2001年, Vol. 50, pp. 521-533
【非特許文献3】Suzuki A.ら, Hepatology, 2000年, Vol. 32, pp. 1230-1239
【非特許文献4】Zuk P.A.ら, Tissue Engineering, 2001年, Vol. 7, pp. 211-228
【非特許文献5】長谷川 靖司,Aesthetic Dermatology, 2013年, Vol. 23, pp. 1-11
【非特許文献6】馬渕 洋 他, 日本再生医療学会誌, 2007年, Vol. 6, pp. 263-268
【非特許文献7】北川 全 他, 日本再生医療学会誌, 2008年,Vol. 7, pp. 14-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
安全で安定性に優れ、幹細胞増殖促進作用に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような事情より、本発明者らは鋭意検討した結果、ハス種子の抽出物が優れた幹細胞増殖促進作用を持ち、安定性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤または内用剤が、安全で安定であり、幹細胞増殖促進作用に優れており、多機能性美容・健康用素材、医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ハス種子の抽出物を含有することを特徴とする幹細胞増殖促進剤。
(2)ハス種子の抽出物が水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる一種または二種以上の溶媒による抽出物であることを特徴とする(1)記載の幹細胞増殖促進剤。
(3)(1)または(2)記載のハス種子の抽出物を含有する培地で幹細胞を培養する工程を含む、幹細胞の増殖促進方法。
(4)(1)または(2)記載のハス種子の抽出物を幹細胞増殖の有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(5)(1)または(2)記載のハス種子の抽出物を幹細胞増殖の有効成分として含有することを特徴とする医薬品。
(6)(1)または(2)記載のハス種子の抽出物を幹細胞増殖の有効成分として含有することを特徴とする食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、幹細胞を効率的に増殖させることができる。従って、本発明は、再生医療や再生美容等の分野において大きく貢献できるものであり、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生の用途に極めて有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に述べる。
【0013】
本発明に用いるハス(学名:Nelumbo nucifera)は、ハス科ハス属に属する多年生水生植物である。ハスは、部位によって異なった薬効を有する。例えば、ハス葉は下痢止め・止血、雄蕊は強壮、胚芽は解熱というように、異なった薬効が知られている。また、成分も部位によって異なり、葉にはロエメリン、ヌシフェリン等のアルカロイドが、胚芽にはメチルコリパリンやロツシン等の異なるアルカロイドが含まれていることが知られている。
【0014】
本発明において、ハス種子の抽出物は、ハス種子をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕等の処理を行っても良い。
【0015】
溶媒による抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出(例えば40~100℃)、常温抽出(例えば15~25℃)、低温抽出(例えば0~15℃)、撹拌抽出またはカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、水-エタノールの混合極性溶媒または水-1,3-ブチレングリコールの混合極性溶媒が挙げられる。中でも混合極性溶媒については、エタノールまたは1,3-ブチレングリコールを20~100重量%含有するのが好ましく、50~100重量%含有するのが最も好ましい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pHを調整した溶媒を使用することもできる。
【0016】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばハス種子(乾燥重量)に対し、5倍以上、好ましくは10倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力によって適宜選択できる。
【0017】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。また、カラム精製等を行って有効成分を濃縮したり、単離したりして用いても良い。
【0018】
本発明に用いるハス種子の抽出物は、幹細胞を効率的に増殖させる作用を有するため、幹細胞の増殖促進剤として使用できる。さらに、本発明の幹細胞の増殖促進剤は、幹細胞を効率的に増殖させるための細胞培養用添加剤、研究用試薬としても使用することができる。
【0019】
本発明に係るハス種子の抽出物を、ヒトを含めた哺乳動物の幹細胞に適用することで、幹細胞の増殖を促進することができる。本発明に係る幹細胞の増殖促進剤を適用する幹細胞としては、本発明の目的に沿うものであれば特に限定されず、例えば胚性の幹細胞(ES細胞);骨髄、血液、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、脂肪、毛包、脳、神経、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する体性の幹細胞;遺伝子導入等による人工的に作製された幹細胞(人工多能性幹細胞:iPS細胞)が挙げられる。好ましくは、骨髄、血液、皮膚または脂肪組織由来の幹細胞に対して、より効果を発揮する。より好ましくは、間葉系幹細胞に対して最も効果を発揮する。
【0020】
さらに、本発明に係るハス種子の抽出物の幹細胞への適用は、生体外であっても生体内であっても良く、いずれの場合もその幹細胞増殖促進作用を発揮できる。従って、本発明に係るハス種子の抽出物は、その有効量を添加した幹細胞培養用培地にて幹細胞を培養することによって、または、ヒトを含む哺乳動物に投与することによって、幹細胞の増殖を促進することができる。
【0021】
本発明に係るハス種子の抽出物を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物と共に含有した皮膚外用剤、医薬品、飲食品等の各種組成物として提供することができる。尚、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
【0022】
本発明に係るハス種子の抽出物は、優れた幹細胞の増殖促進作用を有するため、皮膚、骨髄、軟骨、筋肉、神経、脂肪、肝臓等の生体内の組織または臓器の幹細胞に作用して、当該組織または臓器の、障害または損傷を治療、改善及び予防するのにも有効である。また、幹細胞は加齢等に伴い減少または機能低下することから、本発明に係るハス種子の抽出物は、上記生体内の組織または臓器の幹細胞の減少や機能低下に関連する疾患または老化を治療、改善及び予防するのに有効である。ここで、組織または臓器の障害または損傷、幹細胞の減少や機能低下に関連する疾患または老化としては、例えば皮膚関連では、シワ、たるみ、シミ、くすみ、肌荒れ、皮膚の肥厚、毛穴の開き、ニキビ痕、創傷、褥瘡、熱傷、瘢痕、ケロイド等が挙げられ、薄毛や脱毛等の頭皮や毛髪の損傷も含まれる。また、骨関連では、骨粗鬆症、骨折(脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折等)等、軟骨疾患では、変形性関節症、関節リウマチ、椎間板ヘルニア等、神経関連では、脊髄損傷、顔面神経麻痺、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、加齢に伴う記憶低下等、血液関連では、再生不良性貧血、白血病等、心血管関連では心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症等、歯科関連では歯周病、歯槽膿漏による歯槽骨損傷等、眼科関連では、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、緑内障等、肝臓・膵臓関連では肝炎、肝硬変、糖尿病等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
本発明に係るハス種子の抽出物を含有する、皮膚外用剤の剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二相系、または水-油-粉末三相系等のいずれでも良い。また、当該皮膚外用剤は、ハス種子の抽出物と共に、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであっても良い。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0024】
皮膚外用剤の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗浄剤、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
【0025】
本発明に係るハス種子の抽出物を含有する医薬品は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基剤や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤または崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤または溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口または非経口的に全身または局所投与することができる各種製剤形態に調製すれば良い。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、例えば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0026】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤等の非経口剤等が挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしても良く、注射用製剤の場合は単位投与量アンプルまたは多投与量容器の状態で提供される。
【0027】
本発明に係るハス種子の抽出物を、前記皮膚関連の損傷や疾患の治療、改善、及び予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤等が挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0028】
本発明の医薬品は、上記疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/または、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品を前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬品として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
【0029】
本発明の皮膚外用剤、医薬品及び食品におけるハス種子の抽出物の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、ハス種子の抽出物の乾燥固形分に換算して、0.0001~30重量%が好ましく、0.001~10重量%がより好ましく、0.01~2重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では効果が低く、30重量%を超えても効果に大きな増強はみられにくい。上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果等を考慮して適宜設定・調整すれば良い。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【0030】
また、本発明において、食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品や医薬部外品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品または特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法または健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減等を表示できる、特定保健用食品、栄養機能食品及び機能性表示食品が含まれる。
【0031】
食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであっても良い。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0032】
食品の種類としては、茶飲料(緑茶、ウーロン茶、紅茶等)、清涼飲料(スポーツドリンク、ミネラルウォーター、ニアウォーター等)、炭酸飲料、乳飲料、コーヒー飲料、果汁・野菜汁入り飲料、栄養ドリンク、ゼリー飲料等の各種飲料、粉末スープ、菓子類(キャンディー、グミ、ガム、錠菓等)、麺類、パン類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0033】
本発明の食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合しても良い。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定化剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程においてハス種子の抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また、健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じれば良く、例えば、タブレット状のサプリメントでは、ハス種子の抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6等のビタミン類、カルシウム等のミネラル類、食物繊維等)を添加することもできる。
【0035】
本発明の食品におけるハス種子の抽出物の含有量は、幹細胞の増殖促進効果を発揮できる量であれば良いが、対象食品の一般的な摂取量、食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコスト等を考慮して適宜設定すれば良い。
【0036】
また本発明は、幹細胞を、ハス種子の抽出物を含有する培地で培養することで、幹細胞の増殖を促進する方法に関する。換言すれば、本発明に係る方法は、幹細胞を、ハス種子の抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法、幹細胞の増殖促進方法ということができる。
【0037】
本発明に係る方法において、幹細胞の培養には、幹細胞の増殖のために一般的に使用されている培地を用いれば良い。例えば、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、具体的には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等が挙げられる。また、培地に、増殖因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及び/または白血球遊走阻止因子(LIF)が含有されていても良い。更に、必要に応じて、培地は、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質等が含有されていても良い。
【0038】
また、上記以外には、1~20容量%の含有率で血清が培地に含まれることが好ましい。しかしながら、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0039】
市販品の培地としては、Thermo Fisher Scientific社製の間葉系幹細胞基礎培地や、タカラバイオ社製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等を用いることができる。
【0040】
幹細胞の培養に用いる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトル等が挙げられる。
【0041】
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であっても良く、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質等で処理したものを用いても良い。細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチン等が挙げられる。
【0042】
幹細胞培養に使用される培地に対するハス種子の抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る幹細胞の増殖促進剤におけるハス種子の抽出物の含有量に準じて適宜決定することができるが、固形分に換算して、例えば1~10000μg/mL、好ましくは10~1000μg/mL、最も好ましくは100~500μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、ハス種子の抽出物を、定期的に培地に添加しても良い。
【0043】
幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えば良く、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは36~37℃である。CO2ガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。尚、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0044】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いるハス種子の抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、特に指定のない場合は、実施例に示す%とは重量%を示す。
【実施例0045】
ハス種子の抽出物の製造例
ハス種子の抽出物を以下の通り製造した。
【0046】
(製造例1)ハス種子の熱水抽出物の調製
ハス種子の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してハス種子の熱水抽出物を3.6g得た。
【0047】
(製造例2)ハス種子の50%エタノール抽出物の調製
ハス種子の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してハス種子の50%エタノール抽出物を3.0g得た。
【0048】
(製造例3)ハス種子のエタノール抽出物の調製
ハス種子の乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してハス種子のエタノール抽出物0.7g得た。
【0049】
(製造例4)ハス種子の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ハス種子の乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過して、ハス種子の1,3-ブチレングリコール抽出物を192g得た。
3日間の培養後、細胞をPBS(-)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、それぞれの細胞数をカウントした。被験物質未添加時の総細胞数をコントロールとし、コントロールを100(%)とした場合の、被験物質添加時の細胞数の増減(%)を算出し、幹細胞増殖促進効果の評価を行った。これらの試験結果を以下の表1に示す。
表1に示すように、本発明のハス種子の抽出物には高い幹細胞増殖促進効果が認められた。特に、ハス種子のエタノール抽出物(製造例3)の幹細胞増殖促進効果が顕著に高かった。尚、上述のコントロールの値を100%とした場合、培養開始時のヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞数は25%であった。尚、本実験例で用いた幹細胞以外に、表皮幹細胞、真皮幹細胞及び造血幹細胞についても同様な試験を行ったところ、本発明のハス種子の抽出物には高い幹細胞増殖促進効果が認められた。