(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151784
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化性組成物の硬化物、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/50 20060101AFI20241018BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20241018BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20241018BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20241018BHJP
C07C 13/21 20060101ALI20241018BHJP
C07C 13/20 20060101ALI20241018BHJP
C08F 4/72 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08G77/50
C07F19/00
C07F15/00 B
C07F7/08 X
C07C13/21
C07C13/20
C08F4/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065488
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知紘
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達朗
【テーマコード(参考)】
4H006
4H049
4H050
4J015
4J246
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB49
4H049VN01
4H049VP04
4H049VP05
4H049VQ79
4H049VQ87
4H049VR11
4H049VR21
4H049VR22
4H049VR41
4H049VR42
4H049VU17
4H049VW32
4H050AA03
4H050AB40
4J015DA10
4J246AA03
4J246AA11
4J246AB05
4J246AB15
4J246BA02X
4J246BB021
4J246BB02X
4J246BB122
4J246BB12X
4J246BB142
4J246BB14X
4J246CA24X
4J246FA221
4J246FA371
4J246FA471
4J246FC151
4J246GC02
4J246GC23
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れ、硬化後の波長400nmの光の透過率が高く、良好な靭性を示す硬化性組成物、硬化物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】遷移金属と、リン原子又は窒素原子を含有する2以上の配位子部位及び炭素-遷移金属結合部位を有するピンサー型配位子と、を有する遷移金属錯体(a)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する、ケイ素化合物(b)と、炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有し、前記炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合である、有機化合物(c)と、を、含有する、硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属と、リン原子又は窒素原子を含有する2以上の配位子部位及び炭素-遷移金属結合部位を有するピンサー型配位子と、を有する遷移金属錯体(a)と、
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する、ケイ素化合物(b)と、
炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有し、前記炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合である、有機化合物(c)と、
を、含有する、硬化性組成物。
【請求項2】
前記遷移金属錯体(a)が、式(a1):
【化1】
(式(a1)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素部位であり、Lは、リン原子又は窒素原子を含む配位子部位であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位である。)で表される錯体である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記遷移金属錯体(a)が、
式(a2):
【化2】
(式(a2)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)
で表される錯体、又は、
式(a3):
【化3】
(式(a3)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)で表される錯体である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記遷移金属錯体(a)におけるLが、リン原子を含む配位部位であり、31P-NMRの化学シフト値が50ppmよりも低磁場に観測される、請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記遷移金属錯体(a)の含有量が、前記硬化性組成物の全量に対して、遷移金属原子基準で、10~1000質量ppmである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記ケイ素化合物(b)が、シロキサン骨格を有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記ケイ素化合物(b)における前記SiH基が、Siと結合するアルキル基を有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記ケイ素化合物(b)が、1,3,5,7-テトラアルキルシクロテトラシロキサン、又は、テトラキス(ジアルキルシリルオキシ)シランである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記ケイ素化合物(b)の含有量が、前記硬化性組成物全量に対して、5~95質量%である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記有機化合物(c)が、単環式不飽和炭化水素部位を有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
前記有機化合物(c)が、ビニルシクロヘキセン、リモネン、ミルセン、シクロオクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、及びジシクロペンタジエンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
前記有機化合物(c)の含有量が、前記硬化性組成物全量に対して、5~95質量%である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性組成物を用いて、SiH基と炭素-炭素二重結合とを反応させる工程を有する、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化性組成物の硬化物、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素含有樹脂は、骨格内に存在するケイ素-炭素結合等の高い結合エネルギーに起因して、良好な安定性を示すため、発光ダイオード素子等の半導体素子の保護・封止用材料、又はレンズ、その他の光学部品用の材料等の幅広い用途で利用されている。中でもケイ素を含有する硬化性組成物は、発光ダイオード(LED)等の光半導体装置における光半導体素子の封止材、保護コーティング材等に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、40℃以下で保存安定性に優れ、溶剤含有もなく、非常に少ない白金触媒量で硬化物となる1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2では、反応性が良好で容易に製造でき、貯蔵安定性が良好であり、かつ低粘度で作業性に優れる硬化性組成物として、SiH基と反応性を有する二価の所定の基を1分子中に少なくとも1個含有する有機化合物(A)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物(B)とを、ヒドロシリル化触媒(C)の存在下に部分的にヒドロシリル化反応させて得られる、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合およびSiH基を含有する硬化性組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-127373号公報
【特許文献2】特開2003-321484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ヒドロシリル化付加反応を利用する硬化性組成物は、優れた特性を有するものの、硬化性組成物を調製後、室温条件下でも付加反応が進行するため保存安定性の面で改善の余地があった。特許文献1に示される組成物のように保存安定性に優れていたとしても、従来の樹脂材料は、遷移金属錯体触媒そのものの光吸収、熱劣化、副反応等の種々の要因で、得られる硬化性組成物の靭性が低下する等の課題を有していた。すなわち、硬化性組成物の保存安定性と、当該硬化性組成物から得られる硬化物の黄色味に大きく影響を与える波長400nmの光の高い透過率、及び靭性をすべて満足できる硬化性組成物は得られていない。
【0007】
そこで本発明は、保存安定性に優れ、硬化後の波長400nmの光の透過率が高く、良好な靭性を示す硬化性組成物、硬化物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、以下の解決手段により上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の実施形態を包含する。
<1>
遷移金属と、リン原子又は窒素原子を含有する2以上の配位子部位及び炭素-遷移金属結合部位を有するピンサー型配位子と、を有する遷移金属錯体(a)と、
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する、ケイ素化合物(b)と、
炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有し、前記炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合である、有機化合物(c)と、
を、含有する、硬化性組成物。
<2>
前記遷移金属錯体(a)が、式(a1):
【化1】
(式(a1)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素部位であり、Lは、リン原子又は窒素原子を含む配位子部位であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位である。)で表される錯体である、<1>に記載の硬化性組成物。
<3>
前記遷移金属錯体(a)が、
式(a2):
【化2】
(式(a2)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)
で表される錯体、又は、
式(a3):
【化3】
(式(a3)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)で表される錯体である、<1>又は<2>に記載の硬化性組成物。
<4>
前記遷移金属錯体(a)におけるLが、リン原子を含む配位部位であり、
31P-NMRの化学シフト値が50ppmよりも低磁場に観測される、<2>又は<3>に記載の硬化性組成物。
<5>
前記遷移金属錯体(a)の含有量が、前記硬化性組成物の全量に対して、遷移金属原子基準で、10~1000質量ppmである、<1>~<4>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<6>
前記ケイ素化合物(b)が、シロキサン骨格を有する、<1>~<5>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<7>
前記ケイ素化合物(b)における前記SiH基が、Siと結合するアルキル基を有する、<1>~<6>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<8>
前記ケイ素化合物(b)が、1,3,5,7-テトラアルキルシクロテトラシロキサン、又は、テトラキス(ジアルキルシリルオキシ)シランである、<1>~<7>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<9>
前記ケイ素化合物(b)の含有量が、前記硬化性組成物全量に対して、5~95質量%である、<1>~<8>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<10>
前記有機化合物(c)が、単環式不飽和炭化水素部位を有する、<1>~<9>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<11>
前記有機化合物(c)が、ビニルシクロヘキセン、リモネン、ミルセン、シクロオクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、及びジシクロペンタジエンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<10>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<12>
前記有機化合物(c)の含有量が、前記硬化性組成物全量に対して、5~95質量%である、<1>~<11>のいずれかに記載の硬化性組成物。
<13>
<1>~<12>のいずれかに記載の硬化性組成物の硬化物。
<14>
<1>~<12>のいずれかに記載の硬化性組成物を用いて、SiH基と炭素-炭素二重結合とを反応させる工程を有する、硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存安定性に優れ、硬化後の波長400nmの光の透過率が高く、良好な靭性を示す硬化性組成物、硬化物、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[硬化性組成物]
本実施形態に係る硬化性組成物は、
遷移金属と、リン原子又は窒素原子を含有する2以上の配位子部位及び炭素-遷移金属結合部位を有するピンサー型配位子と、を有する遷移金属錯体(a)と、
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する、ケイ素化合物(b)と、
炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有し、前記炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合である、有機化合物(c)と、
を、含有する。
本実施形態によれば、保存安定性に優れ、硬化後の波長400nmの光の透過率が高く、良好な靭性を示す硬化性組成物、硬化物、及びその製造方法を提供することができる。
【0012】
[遷移金属錯体(a)]
本実施形態に係る硬化性組成物は、遷移金属錯体(a)を含有する。遷移金属錯体(a)は、遷移金属とピンサー型配位子とを有する。なお、遷移金属錯体(a)は、ヒドロシリル化触媒として機能するものが好ましい。
【0013】
遷移金属としては、例えば、白金、ロジウム、イリジウム、鉄、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、チタン等が挙げられる。これらの中でもロジウムが好ましい。
【0014】
ピンサー型配位子は、リン原子又は窒素原子を含有する2以上の配位子部位及び炭素-遷移金属結合部位を有する。
【0015】
遷移金属錯体(a)は、好ましくは式(a1):
【化4】
(式(a1)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素部位であり、Lは、リン原子又は窒素原子を含む配位子部位であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位である。)で表される錯体である。
【0016】
遷移金属錯体(a)は、より好ましくは式(a2):
【化5】
(式(a2)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)で表される錯体である。
【0017】
炭素数1~18の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基が挙げられる。
【0018】
炭素数6~20の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が挙げられる。
【0019】
R1、R2、R3、及びR4における脂肪族炭化水素基は、分岐状、又は環状であることが好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~10であり、より好ましくは3~8である。R1、R2、R3、及びR4は、好ましくは、分岐状、又は環状の炭素数3~10の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはtert-ブチル基、又はシクロヘキシル基である。
【0020】
R5、R6、及びR7は、好ましくは水素原子である。
【0021】
[Rh]におけるRhは、特に限定されず、1価又は3価であってもよい。[Rh]としては、例えば、RhCl2、RhBr2、Rh(Cl)(Br)、RhH2、RhH(OH)、Rh(OH)2、RhHCl、RhHBr、RhH(Me)、RhH(OAc)、Rh(OAc)2、RhH(acac)、RhH(SPh)、RhCl(Me)、RhBr(Me)、RhI(Me)、RhCl(CH2Ph)、RhBr(CH2Ph)が挙げられる。
【0022】
式(a2)で表される錯体としては、例えば、(2,6―ビス(ジ―tert―ブチルホスフィノメチル)フェニル)アセチルアセトナートヒドリドロジウム、(2,6―ビス(ジ―tert―ブチルホスフィノメチル)フェニル)アセタトヒドリドロジウム、(2,6―ビス(ジ―シクロヘキシルホスフィノメチル)フェニル)アセチルアセトナートヒドリドロジウム、(2,6―ビス(ジ―シクロヘキシルホスフィノメチル)フェニル)アセタトヒドリドロジウム、(2,6―ビス(ジ―フェニルホスフィノメチル)フェニル)アセチルアセトナートヒドリドロジウム、(2,6―ビス(ジ―フェニルホスフィノメチル)フェニル)アセタトヒドリドロジウム等が挙げられる。
【0023】
遷移金属錯体(a)は、好ましくは式(a3):
【化6】
(式(a3)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、[Rh]は、配位子を含んでいてもよいロジウム部位であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)で表される錯体である。
【0024】
式(a3)における炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基、又は[Rh]は、式(a2)と同義である。
【0025】
式(a3)で表される錯体としては、例えば、ビス(アセタト)アクア[4,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)-m-キシレン]ロジウム、ビス(アセタト)アクア[4,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)-ベンゼン]ロジウム、ビス(アセタト)アクア[4,6-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン-2-イル)-ベンゼン]ロジウム、アセチルアセトナート(アクア)[4,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)-m-キシレン]ロジウム、アセチルアセトナート(アクア)[4,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)-ベンゼン]ロジウム、アセチルアセトナート(アクア)[4,6-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン-2-イル)-ベンゼン]ロジウム等が挙げられる。
【0026】
(遷移金属錯体(a)の製造方法)
遷移金属錯体(a)の製造方法は、例えば、遷移金属のハロゲン化とピンサー型配位子とを反応させて、ピンサー型配位子を有するハロゲン化ヒドリド遷移金属錯体を得ることができる。また、上記のハロゲン化ヒドリド錯体とナトリウムアセチルアセトナートなどのアルカリ金属化合物と反応させて遷移金属に結合する配位子を置換してもよい。
ピンサー型配位子としては、式(a2―1):
【化7】
(式(a2―1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、任意の近接する二つのR
5、R
6、及びR
7が環を形成してもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素がヘテロ原子に置換していてもよい。)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
(遷移金属錯体(a)の混合比)
遷移金属錯体(a)の使用量は、触媒としての有効量であればよく、特に制限されないが、硬化性組成物の全量に対して、遷移金属原子基準で、好ましくは0.1~10000ppmであり、着色抑制と高い反応活性の両立の観点で、より好ましくは10~1000ppmである。遷移金属錯体(a)の使用量が上記範囲内であることにより、硬化反応に要する時間が適度のものとなり、硬化物の着色がより抑制される傾向にある。
【0028】
<ケイ素化合物(b)>
ケイ素化合物(b)は、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する。ケイ素化合物(b)が2個のSiH基を有することで、後述の炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物(c)と反応し、ネットワーク状の硬化物を形成する。
【0029】
ケイ素化合物(b)は、シロキサン骨格を有することが好ましい。シロキサン骨格を有することで、硬化性組成物の硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0030】
ケイ素化合物(b)におけるSiH基は、Siと結合するアルキル基を有することが好ましい。アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~10(好ましくは炭素数1~4)のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert―ブチル基が挙げられる。
【0031】
ケイ素化合物(b)は、環状シロキサンであることが好ましい。ケイ素化合物(b)は、好ましくは4~10員環環状シロキサン構造を有し、より好ましくは6~8員環環状シロキサン構造を有し、更に好ましくは8員環環状シロキサン構造を有する。
【0032】
環状シロキサンである場合、ケイ素化合物(b)としては、1,3,5,7-テトラアルキルシクロテトラシロキサンが好ましく、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンがより好ましい。
【0033】
ケイ素化合物(b)は、分岐状シロキサンであることが好ましい。ケイ素化合物(b)は、4置換ジアルキルシリルオキシシランであることが好ましい。
【0034】
分岐状シロキサンである場合、ケイ素化合物(b)としては、テトラキス(ジアルキルシリルオキシ)シランであることが好ましく、テトラキス(ジメチルシリルオキシ)シランであることがより好ましい。
【0035】
以上の中でも、ケイ素化合物(b)は、1,3,5,7-テトラアルキルシクロテトラシロキサン、又は、テトラキス(ジアルキルシリルオキシ)シランであることが好ましく、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、又は、テトラキス(ジメチルシリルオキシ)シランであることがより好ましい。
【0036】
ケイ素化合物(b)の含有量は、硬化性組成物全量に対して、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%であり、好ましくは20~80質量%である。
【0037】
<有機化合物(c)>
有機化合物(c)は、炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有し、前記炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合である。有機化合物(c)は、炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有することで、上述のケイ素化合物(b)との反応によって、架橋構造を形成する。
【0038】
有機化合物(c)は、炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合である。「内部二重結合」とは、炭素-炭素二重結合であって、二重結合を形成する2つの炭素の双方にすくなくとも1つの炭素が結合それぞれする構造を意味する。内部二重結合は、末端二重結合と比較してヒドロシリル化に対して低い活性を示すため、有機化合物(c)は、炭素-炭素二重結合のうち少なくとも1個が内部二重結合であることで、保存安定性を高めることができる。保存安定性をより高める観点から内部二重結合を含む部位は、ノルボルネン部位でないことが好ましい。また、保存安定性をより高める観点からは、有機化合物(c)は、炭素-炭素二重結合のうち少なくとも2個が内部二重結合であることが好ましく、炭素-炭素二重結合の全てが内部二重結合であることがより好ましい。
【0039】
有機化合物(c)は、内部二重結合を含む部位として、単環式不飽和炭化水素部位を有することが好ましい。単環式不飽和炭化水素部位としては、シクロヘキセン部位、シクロヘキサジエン部位、シクロペンテン部位、シクロペタジエン部位、シクロへプテン部位、シクロオクテン部位、シクロオクタジエン部位が挙げられる。
【0040】
有機化合物(c)は、1個の末端二重結合を有することが好ましい。
【0041】
有機化合物(c)としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、リモネン、ミルセン、シクロオクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、及びジシクロペンタジエンが挙げられる。これらの中でも、ビニルシクロヘキセン、又はリモネンであることが好ましい。
【0042】
有機化合物(c)の含有量は、硬化性組成物全量に対して、硬化性組成物全量に対して、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%であり、好ましくは20~80質量%である。
【0043】
本実施形態に係る硬化性組成物においては、ケイ素化合物(b)と有機化合物(c)との組合せにより、高い保存安定性及び本実施形態の硬化性組成物から得られる硬化物の400nmの光に対する良好な透明性と良好な靭性の実現が可能になる。
【0044】
本実施形態に係る硬化性組成物におけるケイ素化合物(b)と有機化合物(c)と比率としては、ケイ素化合物(b)が有するSi-H基と、有機化合物(c)が有する炭素-炭素不飽和結合とのモル比[〔ケイ素化合物(b)中のSi-H基(mol)〕/〔有機化合物(c)中の炭素-炭素不飽和結合(mol)〕]は、より優れた靭性を得る観点から、好ましくは0.5~2.0であり、より好ましくは0.6~1.4であり、更に好ましくは0.8~1.2である。
【0045】
本実施形態の硬化性組成物は、上記成分に加えて、密着性改良剤、酸化防止剤、粘度調整剤、硬度調整剤、又は、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。
【0046】
<密着性改良剤>
本実施形態の硬化性組成物は、密着性改良剤をさらに含むことにより、基材への密着性がより向上する傾向にある。密着性改良剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ノルボルニル基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。アクリル系シランカップリング剤としては、例えば、メタクリロプロピルトリメトキシシラン、メタクリロプロピルジメトキシシラン、メタクリロプロピルトリエトキシシラン、メタクリロプロピルジエトキシシラン、アクリロプロピルトリメトキシシラン、アクリロプロピルジメトキシシラン、アクリロプロピルトリエトキシシラン、アクリロプロピルジエトキシシラン等が挙げられる。エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、グリシジルプロピルトリメトキシシラン、グリシジルプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ノルボルニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ノルボルニルエチルトリメトキシシラン、ノルボルニルエチルジメトキシシラン、ノルボルニルエチルトリエトキシシラン、ノルボルニルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
密着性改良剤の含有量は、被着体に対する密着性をより向上させる観点から、硬化性組成物の全量に対して、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは1~5質量%である。
【0048】
<酸化防止剤>
本実施形態の硬化性組成物は、酸化防止剤を含有していてもよい。酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、Irganox1010、Irganox1035、Irganox3114等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
酸化防止剤の含有量は、硬化性組成物の全量に対して、好ましくは10~10,000ppmであり、より好ましくは100~5,000ppmである。
【0050】
<粘度調整剤/硬度調整剤>
本実施形態の硬化性組成物の粘度又は本実施形態の硬化性組成物から得られる硬化物の硬度等を調整するために、ケイ素原子に結合したアルケニル基又はSiHを有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン若しくは網状オルガノポリシロキサン;非反応性の(即ち、ケイ素原子に結合したアルケニル基及びSiHを有しない)直鎖状若しくは環状ジオルガノポリシロキサン、シルフェニレン系化合物等を、粘度調整剤及び/又は硬度調整剤として配合してもよい。
【0051】
<その他の添加剤>
また、ポットライフを確保するために、1-エチニルシクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等の付加反応制御剤を配合することができる。さらに、透明性に影響を与えない範囲で、強度を向上させるためにヒュームドシリカ等の無機質充填剤を配合してもよいし、必要に応じて、染料、顔料、難燃剤等を配合してもよい。
【0052】
さらには、太陽光線、蛍光灯等の光エネルギーによる光劣化に対する抵抗性を付与するため光安定剤を用いることも可能である。この光安定剤としては、光酸化劣化で生成するラジカルを補足するヒンダードアミン系安定剤が適しており、酸化防止剤と併用することで、酸化防止効果はより向上する傾向にある。光安定剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、4-ベンゾイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。また、クラック防止のため可塑剤を添加してもよい。また、その他の付加反応条件、溶媒の使用等については、特に限定されず通常の条件を採用することができる。
【0053】
[硬化性組成物の製造]
本実施形態に係る硬化性組成物は、あらかじめ混合し、遷移金属錯体(a)と、ケイ素化合物(b)とを、有機化合物(c)の存在下に部分的にヒドロシリル化反応させることによって製造することができる。反応させる方法としては、単に混合するだけで反応させることもできるし、加熱して反応させることもできる。化合物の揮発の抑制、硬化物の気泡の発生の低減が可能であるという観点から、加熱してあらかじめ部分的に反応させる方法が好ましい。
【0054】
反応温度としては、好ましくは30~180℃であり、より好ましくは60~150℃であり、更に好ましくは80~120℃である。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなり、反応温度が高いと反応の実施が困難となりやすい。
【0055】
反応は一定の温度で行ってもよいが、必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。
【0056】
また、反応させた後に、さらに揮発分を除去してもよい。揮発分の除去は常圧あるいは減圧状態において室温下あるいは加熱下に保持することによってできる。
【0057】
[硬化物]
本実施形態に係る硬化物は、上述の実施形態に係る硬化性組成物を硬化することで得られる。硬化性組成物は、その成分であるケイ素化合物(b)が、有機化合物(c)に対してヒドロシリル化反応することで、網目構造が形成されることで硬化する。より具体的には、SiH基と炭素-炭素二重結合とを反応させることで硬化が進行する。
【0058】
本実施形態に係る硬化物の、波長400nmの光線の内部透過率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90~99%である。波長400nmの光線の内部透過率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0059】
本実施形態に係る硬化物の引張弾性率は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上であり、更に好ましくは200MPa以上である。当該引張弾性率は、その上限は特に限定されないが、例えば、1000MPa以下であってもよい。引張弾性率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0060】
本実施形態に係る硬化物の破断エネルギーは、好ましくは0.10J以上であり、より好ましくは0.15J以上であり、更に好ましくは0.20J以上である。破断エネルギーは、その上限は特に限定されないが、例えば、10J以下であってもよい。破断エネルギーの測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0061】
[硬化物の製造方法]
本実施形態に係る硬化物の製造方法は、本実施形態に係る硬化性組成物を用いて、SiH基と炭素-炭素二重結合とを反応させる工程を有する。
当該工程は、本実施形態に係る硬化性組成物を加熱することで行われる。加熱温度は、好ましくは100~300℃であり、より好ましくは150~250℃である。
【0062】
なお、本実施形態に係る硬化物の製造方法は、遷移金属錯体(a)、ケイ素化合物(b)及び有機化合物(c)、必要に応じて他の成分を、混合して硬化性組成物を調製する工程を有していてもよい。
【0063】
本発明の硬化性組成物及びその硬化物は、発光ダイオード素子等の半導体素子の保護、封止、及び接着や、発光ダイオード素子から発せられる光の波長の変更又は調整、並びに、レンズ等の用途に好適に用いることができる。さらに、本発明の硬化物は、レンズ材料、光学デバイス・光学部品用材料、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、電子デバイス・電子部品用絶縁材料、コーティング材料等の用途にも好適に用いることができる。
【実施例0064】
以下、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における物性の測定方法、評価方法は以下のとおりである。
【0065】
[1H-NMR測定、31P-NMR測定]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「ECZ400S」、プローブはTFHプローブを用いて、以下に従ってNMR測定を行った。試料0.02gに重トルエン1gを混合したサンプルを用いて、1H-NMR又は31P-NMR測定を測定した。
なお、1H-NMR測定において重溶媒の基準ピークを2.08ppmとし、積算回数は32回で測定を行った。
31P-NMR測定において85%リン酸で観測されるピークを標準(0ppm)とし、積算回数は128回で測定を行った。
【0066】
[波長400nmの光線の内部透過率]
実施例及び比較例で作製した硬化性組成物、及び硬化物について、透過率測定装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、分光光度計「U-4100」)を用いて光路長1.0mmで350~800nmの光の透過率を測定し、波長400nmの光の内部透過率(%)を抽出した。
【0067】
[保存安定性試験]
実施例及び比較例で調製したオイル状の硬化性組成物を9mLサンプル瓶に200mg入れ、40℃で10日間静置後、硬化性組成物の波長400nmの光線の内部透過率を測定し、更に性状を評価した。
上記試験前後の液状の硬化性組成物について、透過率測定装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、分光光度計「U-4100」)を用いて光路長1.0mmの350~800nmの光の透過率を測定し、波長400nmの光の内部透過率(%)を抽出した。
試験前後の波長400nmの光の内部透過率の低下の度合いΔT(%)を、下記式で算出した。
ΔT(%)=[試験前の波長400nmの光の透過率(%)]-[試験後の波長400nmの光の透過率(%)]
上記試験後の硬化性組成物の性状は、以下の基準により評価した。
<基準>
A:流動性のある液状であった
B:一部固化した
C:完全に固化した
【0068】
[引張試験(引張弾性率、破断エネルギー)]
株式会社島津製作所製精密万能試験機「AG-5000D」を用い、チャック間距離1.5cm、500kgfロードセルを用いて毎分1mmの引張速度で引張試験を25℃にて行い、引張弾性率、引張伸度、破断エネルギーを求めた。破断エネルギーは、破断点までのエネルギーとした。なお、試験サンプルは長辺5.0cm、短辺0.5cm、及び厚み1.0mmを備える短冊状のサンプルを用いた。
【0069】
[遷移金属錯体(a)の合成]
〔合成例1〕
30mLシュレンクフラスコに、磁気攪拌子、冷却管をセットした。このフラスコに塩化ロジウム(III)三水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)182mg(0.69mmol)、1,3―ビス(ジ―tert―ブチルホスフィノメチル)ベンゼン(シグマ―アルドリッチ社製)385mg(1.0mol)、イソプロパノール5.0mL、水0.25mLを加え、窒素雰囲気下25℃で攪拌した。24時間25℃で攪拌した後、オイルバス中85℃で8時間加熱、攪拌した。加熱後、反応溶液を85℃のままろ過した後、ろ液を-10℃で再結晶することにより、(2,6―ビス(ジ―tert―ブチルホスフィノメチル)フェニル)クロロヒドリドロジウムを210mg(0.39mmоl)回収した。得られた化合物について、1H-NMR(7.2~6.8ppm(Ar―H)、3.2~2.8ppm(Ar-CH2―)、1.4~1.1ppm(tBu)、―27.3~―27.7ppm(Rh-H))と31P-NMR(75.0ppm、JRh―P=117Hz)でその生成を確認した。
得られた(2,6―ビス(ジ―tert―ブチルホスフィノメチル)フェニル)クロロヒドリドロジウム53.3mg(0.10mmоl)、ナトリウムアセチルアセトナート水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)12.2mg(0.10mol)、クロロホルム1.0mLを混合し、窒素雰囲気下25℃で3時間攪拌した。反応溶液をろ過した後、ろ液を-10℃で再結晶することにより、(2,6―ビス(ジ―tert―ブチルホスフィノメチル)フェニル)アセチルアセトナートヒドリドロジウム(以下、「遷移金属錯体(a1)」とも表記する)を32.2mg回収した。得られた化合物について、1H-NMR(7.2~6.6ppm(Ar―H)、5.4~5.1ppm(C―H)、3.4~2.7ppm(Ar-CH2―)、1.8~1.6ppm(Me)、1.4~1.1ppm(tBu)、―19.1~―19.5ppm(Rh-H))と31P-NMR(78.6ppm、JRh―P=117Hz)でその生成を確認した。
【0070】
〔実施例1〕
攪拌装置、冷却管を備えたフラスコに、化合物(b)として1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(東京化成工業株式会社社製、以下「D4H」ともいう)を1.51g(6.28mmоl)、化合物(c)として4-ビニルシクロヘキセン(東京化成工業株式会社製、以下「VCH」ともいう)1.13g(10.5mmоl)、遷移金属錯体(a)として合成例1で得られた遷移金属錯体(a1)2.0mg(ロジウム原子換算で100ppm相当)を加え、窒素雰囲気下オイルバス中で100℃に加熱、攪拌した。2時間100℃で加熱した後、室温まで冷却することでオイル状の硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.3~2.7ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.5~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
得られた硬化性組成物を撹拌脱泡後、5cmΦのアルミカップ中に硬化性組成物を2.00g注入し、減圧脱気を行い脱泡した後、200℃に調整したオーブン内で1時間の予備加熱を実施した。さらに220℃に調整したオーブン内で2時間加熱することで1.0mm厚の硬化物を作製した。
【0071】
〔実施例2〕
遷移金属錯体(a)としてビス(アセタト)アクア[(S,S)-4,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)-m-キシレン]ロジウム(東京化成株式会社製、以下「遷移金属錯体(a2)」ともいう)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、硬化性組成物と硬化物を得た。詳細な結果を表1に示す。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.3~2.7ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.5~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
【0072】
〔実施例3〕
化合物(b)としてテトラキス(ジメチルシリルオキシ)シラン(東京化成工業株式会社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物から1.0mm厚の硬化物を作製したものの、引張試験が可能な強度の硬化物は得られなかった。詳細な結果を表1に示す。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.5~2.5ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.5~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
【0073】
〔実施例4〕
化合物(b)としてテトラキス(ジメチルシリルオキシ)シラン(東京化成工業株式会社製)を使用したこと以外は、実施例2と同様の操作により、硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物から1.0mm厚の硬化物を作製したものの、引張試験が可能な強度の硬化物は得られなかった。詳細な結果を表1に示す。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.5~2.5ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.5~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
【0074】
〔実施例5〕
化合物(c)として(R)-(+)-リモネン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、硬化性組成物と硬化物を得た。詳細な結果を表1に示す。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.3~2.7ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.3~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
【0075】
〔比較例1〕
触媒として白金原子3.0重量%相当カルステッド触媒キシレン溶液(ユミコアジャパン社製、以下「触媒c」ともいう)を白金原子換算で20ppm使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、硬化性組成物と硬化物を得た。詳細な結果を表1に示す。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.3~2.7ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.5~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
【0076】
〔比較例2〕
化合物(b)としてテトラキス(ジメチルシリルオキシ)シラン(東京化成工業株式会社製)を使用したこと以外は、比較例1と同様の操作により、硬化性組成物を得た。詳細な結果を表1に示す。得られた硬化性組成物について、1H-NMR測定によって原料の完全消費が確認された。また、0~0.3ppmの領域にSiに結合するメチル基のピークが、0.5~2.5ppmの領域に反応後の化合物(c)由来のピークが、4.5~6.5ppmの領域に反応後の化合物(c)で残存するビニル基由来のピークが、それぞれ観測された。
【0077】
〔比較例3〕
化合物(c)として(R)-(+)-リモネン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を使用したこと以外は、比較例1と同様の操作により、組成物を得たものの、220℃2時間の加熱後もオイル状の組成物のままであり、硬化物は得られなかった。詳細な結果を表1に示す。
【0078】
〔比較例4〕
触媒としてクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)(東京化成工業株式会社製、以下「遷移金属錯体(c1)」ともいう)をロジウム原子換算で100ppm使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、組成物を得たものの、ビニル化合物の消費は観測されなかった。詳細な結果を表1に示す。
【0079】
〔比較例5〕
触媒として(R)-(6,6′-ジメトキシビフェニル-2,2′-ジイル)ビス[ビス(3,4,5-トリメトキシフェニル)ホスフィン](シグマアルドリッチ社製)とジ-μ-クロロテトラキス(η-エチレン)二ロジウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)の2:1のモル比で混合して得られた遷移金属錯体(以下「遷移金属錯体(c2)」ともいう)をロジウム原子換算で100ppm使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、組成物を得たものの、ビニル化合物の消費は観測されなかった。詳細な結果を表1に示す。遷移金属錯体(a4)は、文献「J.Am.Chem.Soc.,2014,136,34,12064-12072」に開示されている合成方法を引用して合成した。
【0080】
【0081】
表中の略語の意味は、以下のとおりである。
D4H:1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン
TDMSS:テトラキス(ジメチルシリルオキシ)シラン
a1:遷移金属錯体(a1)
a2:遷移金属錯体(a2)
触媒c:カルステッド触媒
c1:遷移金属錯体(c1)
c2:遷移金属錯体(c1)
VCH:4-ビニルシクロヘキセン
LM:リモネン