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特開2024-151801磁気冷凍用材料及びこれを用いた磁気冷凍装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151801
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】磁気冷凍用材料及びこれを用いた磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/01 20060101AFI20241018BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20241018BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01F1/01 170
C22C28/00 A
H01F1/01 150
F25B21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065521
(22)【出願日】2023-04-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】タン シン
(72)【発明者】
【氏名】セペリ アミン ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA20
5E040AB10
5E040CA16
5E040NN01
5E040NN02
5E040NN15
(57)【要約】
【課題】ガス液化に必要な液体窒素温度77K近傍を含む40K-170Kの温度帯域で、熱ヒステリシスを起こさない巨大なMCE|△Sm|が17[J/(kg・K)]以上を示す磁気冷凍用材料を探索すること。
【解決手段】
Gd(ガドリニウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Si(ケイ素)並びに不可避的不純物からなり、次の組成式:GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<1.3の組成を有する。磁気相転移の転移温度Ttrは80Kから170Kの温度範囲であって、転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すものである。
Gd(ガドリニウム)、Dy(ディスプロシウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)並びに不可避的不純物からなり、次の組成式:Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<1.1の組成を有する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gd(ガドリニウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Si(ケイ素)並びに不可避的不純物からなり、
次の組成式:
GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<1.3の組成を有する磁気冷凍用材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気冷凍用材料において、
磁気相転移の転移温度Ttrは80Kから170Kの温度範囲であって、
前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示すことを特徴とする磁気冷凍用材料。
【請求項3】
Gd(ガドリニウム)、Dy(ディスプロシウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)並びに不可避的不純物からなり、
次の組成式:
Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<1.1の組成を有する磁気冷凍用材料。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気冷凍用材料において、
Gd5-yDySnGe:0<y<1.1の組成を有する磁気冷凍用材料。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の磁気冷凍用材料において、
磁気相転移の転移温度Ttrは35Kから75Kの温度範囲であって、
前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示すことを特徴とする磁気冷凍用材料。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の磁気冷凍用材料において、
前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で、磁気エントロピー変化は、5T磁界の下、17[J/(kg・K)]以上が得られることを特徴とする磁気冷凍用材料。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気冷凍用材料において、
5T磁界の下で、磁気エントロピー変化は20[J/(kg・K)]以上が得られることを特徴とする磁気冷凍用材料。
【請求項8】
請求項1乃至5に記載の磁気冷凍用材料において、
前記転移温度Ttr近傍でのM-Hループを測定して得られるヒステリシス損失は1J/kg以下であることを特徴とする磁気冷凍用材料。
【請求項9】
請求項1乃至8に記載の磁気冷凍用材料を用いた磁気冷凍装置。
【請求項10】
前記磁気冷凍装置は水素液化用、又はヘリウム液化用である請求項9に記載の磁気冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍用材料及びこれを用いた磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガス、酸素、窒素、水素など、あらゆる市場分野において、ガスの消費と生産に対する需要が高まっている。しかし、気体状態のガスは体積が大きく、貯蔵や輸送には液化が必要である。従来の液化法では、極低温でのエネルギー集約的なガス圧縮プロセスが必要で、150K以下の温度では効率が非常に悪い。
磁気熱量効果(MCE)に基づく磁気冷凍(MR)技術は、理想的に高効率で環境に優しいため、従来のガス圧縮冷却技術とは根本的に異なる代替技術になり得る。そのためには、水素、窒素、酸素、天然ガスなどのガスを液化するために、20~150Kの関心温度領域で大きなMCEを持つ磁性冷媒材料が必要である。
しかし、図9に示すように、ガス液化に必要な60Kから150Kの広い温度領域で、現在知られているMR材料では、この広い温度領域でのエントロピー変化△Sは10~20[J/(kg・K)]である。そこで、ガス液化に必要な△Sが30~40[J/(kg・K)]程度の巨大なMCEを持つMR材料が知られていないことが、MR冷却システムの実用化のボトルネックになっている。
【0003】
特許文献1では、20~300Kの温度領域において、強磁性-常磁性転移のキュリー温度近傍の外部磁界による大きな磁気エントロピー変化を利用する磁気冷凍作動物質が探索されている。そして、磁気モーメントの大きい希土類元素のGd、Tb、Dy、Ho、Erの単独又は2種以上、非晶質化元素のZr、Hf、Al、Si、Geの単独又は2種以上、及び冷却体Cu、Agとの親和力を大きくする元素のCu、Ni、Agとからなる融体を、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で、室温~850Kの温度に制御したCuまたはAg冷却体で急冷して作製した非晶質合金、あるいは多相の微結晶集合合金が、広い温度範囲に亘って磁気エントロピーが大きく、磁気冷凍性能の優れた作動物質が得られるとしている。
しかし、特許文献1で開示された元素組成のうち、実施例に開示された組成の磁気冷凍作動物質では磁気エントロピー変化が小さくて、商業的に磁気冷凍を用いた水素液化装置に適用するには、実用化に耐えるものではなかった。即ち、特許文献1で開示された抽象的な元素組成から最適な元素組成の磁気冷凍作動物質を更に探索する必要があった。
【0004】
特許文献2では、熱交換器用の熱磁気材料として、
Gd(SiGe1-x、(0.2≦x≦1) (V)、
Tb(Si4-xGe)、(x=0、1、2、3、4) (VI)、
XTiGe、(X=Dy、Ho、Tm) (VII)
が提案されているが、実施例としてはMnFePGe系、MnFePGeSb系に限られている。また、特許文献2で開示された実施例の熱磁気材料では、キュリー温度は240~340Kであり、磁気冷凍を用いた水素液化装置に必要とされる15~150Kの関心温度領域で大きなMCEを持つ磁性冷媒材料は開示されていない。
【0005】
熱ヒステリシスを本質的に持たない二次磁気相転移(SOMT)材料は、可逆的なMCEとサイクル性能中の優れた機械的安定性により、この用途の良い候補となると期待されている。HoB,HoN,HoNiなどのHo系SOMT化合物では、20K以下の温度で巨大MCE(-△S>20[J/(kg・K)])が実現されているが、その巨大MCEを60Kまで維持することは不可能である。
例えば、ErAlとHoN化合物では、20K以下の温度でそれぞれ|△Sm|が37[J/(kg・K)]と29[J/(kg・K)]、60Kでは|△Sm|が18[J/(kg・K)]と11[J/(kg・K)]に減少する。さらにTbAlでは90Kで14[J/(kg・K)]、(Gd,Tb)Al化合物では140Kで11[J/(kg・K)]まで劣化する。したがって、ガス液化に必要な60~150Kの温度で熱ヒステリシスを起こさない巨大なMCE|△Sm|が20[J/(kg・K)]以上を示す冷媒材料は非常に少ない。
【0006】
また、特許文献3、4では、二次磁気相転移(SOMT)材料として、ErCo系の磁気熱量効果化合物が提案されている。即ち、特許文献3では、ErCo2-y(Fe、Mn)(0.02≦y≦0.07)が提案されている。また、特許文献4では、ErCo2-x-yAiNi(0<x≦0.1、0≦y≦0.2)、ErCo2-x-yFeNi(0.035≦x≦0.1、0≦y≦0.2)が提案されている。
これらのErCo系の磁気熱量効果化合物では、例えばErCo1.96Fe0.04では50Kにおいて|△Sm|が約0.2J/(cm-3・K)であり、ErCo系の比重を約10g/cmとすると、約20[J/(kg・K)]に相当している。しかし、ガス液化に必要な液体窒素温度77K近傍の温度帯域で、熱ヒステリシスを起こさない巨大なMCE|△Sm|が20[J/(kg・K)]以上を示す冷媒材料としては帯域不足で、液体窒素温度77K近傍の温度帯域では新たな磁気熱量効果化合物の探索が必要となっている。
【0007】
これに対して、一次磁気相転移(FOMT)物質は巨大なMCEを示し、その巨大MCEは広い温度範囲で維持できる。例えば、Gd(SiGe1-x(0<x<0.5)は20Kから290Kの広い温度範囲で巨大MCE(-△Sが20[J/(kg・K)]以上)を示す。しかし、FOMTに関わるGd(SiGe1-x化合物は、熱ヒステリシスによる不可逆的なMCEや、機械的不安定性に悩まされ、実用化の妨げになっている。
これまで、Gd(SiGe1-x化合物のヒステリシス低減には多大な努力が払われており、SOMT材料のヒステリシス低減は|△Sm|を犠牲にして達成されていることが判明している。例えば、GdSiGeの|△Sm|は、ヒステリシスを最小化した5Tの磁場変化下で、GdSiGe1.9Fe0.1の|△Sm|は7J/cmKに減少する。このため、GdSiGe系化合物については、実用化にはあまり魅力的ではないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭63-35702号公報
【特許文献2】特表2011-523771号公報 請求項1
【特許文献3】WO2022/186017A1 図3図5
【特許文献4】WO2022/209879A1 図6図8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上説明したように、ガス液化に必要な液体窒素温度77K近傍を含む40K-170Kの温度帯域で、熱ヒステリシスを起こさない巨大なMCE|△Sm|が17[J/(kg・K)]以上、更に好ましくは20[J/(kg・K)]以上を示す冷媒材料を探索して、新たな磁気冷凍用材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、GdGeは、50Kでの巨大なMCE(|△Sm|=25[J/(kg・K)])と大きな冷凍能力から、低温でのガス液化の有力候補となりうると考えた。しかし、FOMTの性質に起因する5Kまでの大きな熱ヒステリシス(図1(c))がガス液化への実用化を妨げている。
そこで、第三元素を添加したGdGe系化合物を探索することで、液体窒素温度付近である50Kでの巨大なMCEと、二次磁気相転移(SOMT)材料が両立するのではないかと考え、GdGe系化合物に添加する第三元素を探索した。更に、この第三元素としてSnを選定し、GdGe4-xSn系化合物に添加する第4元素を探索したところ、本発明を想到するに至った。
【0011】
[1]本発明の磁気冷凍用材料は、例えば表6に示すように、Gd(ガドリニウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Si(ケイ素)並びに不可避的不純物からなり、
次の組成式:
GdGe4-x-zSnSi:0.8<x<2.4、0<z<1.3の組成を有する。
〔2〕本発明の実施例において、磁気冷凍用材料〔1〕では、磁気相転移の転移温度Ttrは80Kから170Kの温度範囲内であって、前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示してもよい。
[3]本発明の磁気冷凍用材料は、Gd(ガドリニウム)、Dy(ディスプロシウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)並びに不可避的不純物からなり、
次の組成式:
Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<1.1の組成を有する。
〔4〕本発明の実施例において、磁気冷凍用材料〔3〕では、
Gd5-yDySnGe:0<y<1.1の組成を有していてもよい。
〔5〕本発明の実施例において、磁気冷凍用材料〔3〕又は〔4〕では、磁気相転移の転移温度Ttrは35Kから75Kの温度範囲内であって、前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示してもよい。
【0012】
〔6〕本発明の実施例において、磁気冷凍用材料〔1〕~〔5〕では、前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で、磁気エントロピー変化△Sは、5T磁界の下、17[J/(kg・K)]以上が得られてもよい。
〔7〕本発明の実施例において、磁気冷凍用材料〔6〕では、5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sは20[J/(kg・K)]以上が得られるものであってもよい。この場合、
GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<1.1の組成を有するとよく、また
Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<0.8の組成を有してもよい。
また、磁気冷凍用材料〔6〕では、5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sは25[J/(kg・K)]以上が得られるものであってもよい。この場合、
GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<0.9の組成を有するとよく、また
Gd5-yDySnGe4-x:1.8≦x≦2.2、0<y<0.4の組成を有してもよい。
また、磁気冷凍用材料〔6〕では、5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sは30[J/(kg・K)]以上が得られるものであってもよい。この場合、
GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z≦0.4の組成を有するとよく、またGd5-yDySnGe4-x:1.8≦x≦2.2、0<y<0.1の組成を有してもよい。
〔8〕本発明の実施例において、磁気冷凍用材料〔1〕~〔5〕では、前記転移温度Ttr近傍でのM-Hループを測定して得られるヒステリシス損失は1J/kg以下であるとよい。
〔9〕本発明の実施例において、磁気冷凍装置は、上記磁気冷凍用材料〔1〕~〔8〕を用いてもよい。
〔10〕本発明の実施例において、磁気冷凍装置〔9〕は、水素液化用、又はヘリウム液化用であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気冷凍用材料によれば、Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<1.1の組成を有する磁気冷凍用材料、及びGdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<1.3の組成を有する磁気冷凍用材料を用いることで、液体窒素温度付近である40K-170Kの温度範囲内で、5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Smが17[J/(kg・K)]以上、更に好ましくは20[J/(kg・K)]以上の巨大なMCEと、二次磁気相転移(SOMT)材料が両立するので、例えば水素ガス液化に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の比較例を示すGdGe化合物の磁気特性の説明図で、(a)は2Tで測定したM-T曲線、(b)は2Tと5Tの磁場変化における磁気エントロピー変化、(c)はGdGe化合物のアロットプロットである。
図2】本発明の比較例を示すGdGe系化合物の磁気特性の説明図で、(a)はGdGe3.50.5、(b)はGdRE0.5Ge化合物の2TでのM-T曲線の測定例である。
図3】Gd(GeSn)化合物の2TでのM-Tカーブの測定例である。
図4】本発明の比較例を示すGdGe系化合物のM-Hループを転移温度で測定したものである。
図5】本発明の比較例であるGdGeと、一実施例を示すGdGeSn化合物の2Tと5Tで測定した磁気エントロピーの変化の測定例である。
図6】本発明の一実施例を示すGdGeSn系化合物について2Tで測定したM-Tカーブである。
図7】GdGeSn系化合物のM-Hループをその転移温度で測定した図面である。
図8】本発明の一実施例を示すGdGeSn系化合物の2Tと5Tの磁場変化に対する磁気エントロピー変化を示す図である。
図9】極低温でのガス液化において、最も研究されている材料とGdGeSn化合物の5Tの磁場変化下での磁気エントロピー変化の測定例である。
図10】本発明の実施例において、磁気冷凍材料が使用される磁気冷凍サイクルの各工程を説明する概略図である。
図11】能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR)サイクルを説明する概略図である。
図12】磁気冷凍材料をカスケード配置したAMRの一例を示す概略図で、(A)は装置概略図、(B)は磁気冷凍材料の動作温度帯の説明図である。
図13】磁気冷凍装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
≪三元系の比較例≫
GdGe系化合物に添加する第三元素としては、Gdに添加する第三元素REとしてYb,Ho,及びMgを検討し、Geに添加する第三元素Mとして、Co,Si,Ni,Sn,Fe,V,Mn,及びCuを検討した。Gd、Yb、及びHoについては、日本イットリウム株式会社(福岡県大牟田市)から入手することが出来、材料の形状は塊状であり、純度は99.9%である。Mg、Ge、Si、Fe、及びMnについては、株式会社高純度化学研究所(埼玉県坂戸市)から入手することが出来、材料の形状は粒状であり、純度は99.99%であるが、Siについては99.999%、Mnについては99.9%になっている。Coについては、株式会社レアメタリック(東京都千代田区)から入手することが出来、材料の形状は粒状であり、純度は99.97%である。Ni、Sn、V、Cuについては、フルウチ化学株式会社(東京都品川区)から入手することが出来、材料の形状は粒状であり、純度は99.9%である。但し、Niについては材料の形状はシート状である。
【0016】
原料として、日本イットリウム社製の塊状Gd(純度99.9%)、高純度化学研究所製の塊状Ge(純度99.99%)、並びに第三元素として上記の試料を秤量し、GdGe4-x化合物(MはCo,Si,Ni,Sn,Fe,V,Mn,又はCuの何れか)及びGd5-yREGe化合物(REはYb,Ho,又はMgの何れか)の純粋な組成元素を日新技研社製の雰囲気制御アーク炉にてアルゴン雰囲気下で、純粋な構成元素をアーク溶解することにより作製した。Gdの蒸発を補うため、1-7wt%のGdを余分に装入した。インゴットは、アーク溶解の過程で5回裏返し、再溶解することにより均質化された。磁気特性は、SQUID-VSM(カンタムデザイン社製)を用いて測定した。
更に、GdGeSn系化合物の多結晶試料についても、同様に、日新技研社製の雰囲気制御アーク炉にてアルゴン雰囲気下で、純粋な構成元素をアーク溶解することにより作製した。Gdの蒸発を補うため、1-7wt%のGdを余分に装入した。インゴットは、アーク溶解の過程で5回裏返し、再溶解することにより均質化された。磁気特性は、SQUID-VSM(カンタムデザイン社製)を用いて測定した。
【0017】
表1と表2に第三元素を添加したGdGe系化合物の組成元素を掲げる。表1は、GdGe3.50.5化合物の組成(at.%)を示している(MはCo,Si,Ni,Sn,Fe,V,Mn,又はCuの何れか)(試料番号1-5、9-12)。但し、Snについては、GdGe4-xSn、x=0.5、1、2、3と組成比を振っている(試料番号5-8)。表2は、Gd4.5RE0.5Ge化合物の組成(at.%)を示している(REはYb,Ho,又はMgの何れか)(試料番号1、13-15)。
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
図1は本発明の比較例を示すGdGe化合物の磁気特性の説明図で、(a)は2Tで測定したM-T曲線、(b)は2Tと5Tの磁場変化における磁気エントロピー変化、(c)はGdGe化合物のアロット(Arrott)プロットである。図1(a)の縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は温度Kで、外部磁場μHとして2Tが印加されている。
図1(b)の縦軸は磁気エントロピー変化△Sm[J/(kg・K)]、横軸は温度Kで、外部磁場μHとして2Tと5Tが印加されている。2Tの場合、25-38Kの範囲で、磁気エントロピー変化の最大値として13~14[J/(kg・K)]が得られている。5Tの場合、48-44Kの範囲で、磁気エントロピー変化の最大値として24~26[J/(kg・K)]が得られている。
図1(c)の縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は外部磁場μHを磁化M(Am/kg)で割算した数値μH/M(T・kg/Am)Kで、6Kから81Kまで3K間隔でアロットプロットしたものである。
図1では、GdGe化合物の磁気特性は典型的な一次相転移を示しており、これが巨大な磁気熱量効果をもたらしている。ここで、アロットプロットとは、物性物理学において、ある物質の磁化の2乗Mを、ある一定温度(または複数の温度)における磁化に対する印加磁場の比率に対してプロットしたもので、物質中の強磁性秩序の存在を容易に判定する方法である。
【0020】
表3は、GdGe3.50.5化合物の磁気特性を示している(MはCo,Si,Ni,Sn,Fe,V,Mn,又はCuの何れか)(試料番号1-5、9-12)。但し、Snについては、GdGe4-xSn、x=0.5、1、2、3と組成比を振っている(試料番号5-8)。表4は、Gd4.5RE0.5Ge化合物の磁気特性を示している(REはYb,Ho,又はMgの何れか)(試料番号1、13-15)。
キュリー温度Tc(K)に関しては、GdGe(試料番号1)では2Tにおいて38Kとなっている。他の試料番号2-15の磁気熱量効果材料(磁気冷凍用材料)については、表3、表4の各欄に記載した通りである。
磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)は、GdGe(試料番号1)では22.1となっている。磁気熱量効果材料としては、磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)として10以上が望ましく、更に好ましくは12以上が望ましく、更に好ましくは15以上が望ましい。磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)として10以上の実施例としては、GdGe3.5Si0.5(試料番号3)の19、GdGe3.5Sn0.5(試料番号5)の12.9、GdGeSn(試料番号6)の19.6、GdGeSn(試料番号7)の14が充足している。他方、GdGe3.5Co0.5(試料番号2)の5、GdGe3.5Ni0.5(試料番号4)の4、GdGeSn(試料番号8)の1.37、GdGe3.5Fe0.5(試料番号9)の3.5、GdGe3.50.5(試料番号10)の3.37、GdGe3.5Mn0.5(試料番号11)の5、GdGe3.5Cu0.5(試料番号12)の2.54は、Gd4.5Yb0.5Ge(試料番号13)の5、Gd4.5Ho0.5Ge(試料番号14)の0.5、Gd4.5Mg0.5Ge(試料番号15)の5が充足していない。
【0021】
図2(a)、(b)はGeをM(表1参照)で、Gdを希土類元素(表2参照)で置換した、GdGe系化合物の磁気ヒステリシスを示している。図2(a)、(b)の縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は温度Kで、外部磁場μHとして2Tが印加されている。
熱ヒステリシス△Thys(K)に関しては、1次磁気相転移で現れ、2次磁気相転移では現れない傾向がある。GdGe(試料番号1)では熱ヒステリシスΔThys(K)が4Kの幅で現れている。磁気熱量効果材料としては、熱ヒステリシス△Thys(K)として5K以下が望ましく、更に好ましくは3K以下が望ましく、更に好ましくは2K以下が望ましい。
熱ヒステリシス△Thys(K)として5K以下の測定例としては、GdGe3.5Si0.5(試料番号3)の5K、GdGeSn(試料番号7)の<1、GdGeSn(試料番号8)の0K、GdGe3.50.5(試料番号10)の5K、GdGe3.5Mn0.5(試料番号11)の2K、GdGe3.5Cu0.5(試料番号12)の5K、Gd4.5Yb0.5Ge(試料番号13)の4K、Gd4.5Ho0.5Ge(試料番号14)の0K、Gd4.5Mg0.5Ge(試料番号15)の4Kが充足している。
他方、GdGe3.5Co0.5(試料番号2)の6K、GdGe3.5Ni0.5(試料番号4)の9K、GdGe3.5Sn0.5(試料番号5)の13K、GdGeSn(試料番号6)の10KGdGeSn(試料番号7)の14Kが充足していない。
【0022】
磁化M(Am/kg)は、GdGe(試料番号1)では、温度5Kで磁場2Tにおいて22.1となっている。磁気熱量効果材料としては、磁化M(Am/kg)は100以上が望ましく、更に好ましくは120以上が望ましく、更に好ましくは150以上が望ましい。
磁化M(Am/kg)として100以上の実施例としては、GdGe3.5Co0.5(試料番号2)の103、GdGe3.5Si0.5(試料番号3)の190、GdGe3.5Ni0.5(試料番号4)の151、GdGe3.5Sn0.5(試料番号5)の150、GdGeSn(試料番号6)の165、GdGeSn(試料番号7)の185、GdGe3.5Fe0.5(試料番号9)の105、GdGe3.50.5(試料番号10)の105、GdGe3.5Mn0.5(試料番号11)の130、Gd4.5Yb0.5Ge(試料番号13)の110、Gd4.5Mg0.5Ge(試料番号15)の120が充足している。
他方、Gd4.5Ho0.5Ge(試料番号14)の0.5、GdGeSn(試料番号8)の83、GdGe3.5Cu0.5(試料番号12)の83、Gd4.5Ho0.5Ge(試料番号14)の40が充足していない。
【0023】
一次磁気相転移(FOMT)物質と二次磁気相転移(SOMT)物質の峻別に関しては、GdGeSn(試料番号8)とGd4.5Ho0.5Ge(試料番号14)が二次磁気相転移(SOMT)物質であった。一次磁気相転移(FOMT)物質と二次磁気相転移(SOMT)物質の境界となる性質を示したのはGdGeSn(試料番号7)である。残りの試料番号1-6、9-13、15は一次磁気相転移(FOMT)物質であった。
【0024】
磁気エントロピーの変化△S[J/(kg・K)]は、0-5Tで測定されたもので、GdGe(試料番号1)では、25[J/(kg・K)]となっている。磁気エントロピーの変化△S[J/(kg・K)]を実測した別の試料は、GdGe3.5Si0.5(試料番号3)の40、GdGeSn(試料番号6)の28、GdGeSn(試料番号7)の32である。
即ち、表3、表4からもわかるように、GdGe系化合物に添加する第三元素を探索するについて、MCE(|△Sm|)を低下させずにヒステリシスを除去する第三元素Mを探索する場合、GdGe4-x化合物の第三元素Mの中で、最適元素はSnであることが判明した(MはCo,Si,Ni,Sn,Fe,V,Mn,又はCuの何れか)。Snを除く他の第三元素M(MはCo,Ni,Fe,V,Mn,又はCuの何れか)、及びGd5-yREGe化合物の第三元素RE(REはYb,Ho,又はMgの何れか)は、液体水素温度付近から液体窒素温度付近までの20Kから85Kの温度範囲内で、5T磁界の下で、磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)として10以上、熱ヒステリシス△Thys(K)として5K以下、又は磁化M(Am/kg)は100以上の少なくとも一方を充足した。
【0025】
【表3】
【表4】
【0026】
図3は、GdGe4-xSn系化合物(試料番号5-8)について、2Tの磁場で測定した加熱枝と冷却枝を含むM-Tカーブを示す。図3の縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は温度Kである。
xが0から1に増加すると、熱ヒステリシスは4Kから10Kに増加し、転移温度は38Kから49Kに上昇する。xが2に増加すると、熱ヒステリシスはなくなり、転移温度は78Kに上昇する。xが2.2に増加すると、熱ヒステリシスが無いと共に、転移温度は82Kに上昇する。xが2.4に増加すると、熱ヒステリシスが無いと共に、転移温度は85Kに上昇するものの、磁化はかなり減少した。さらにxが3に増加すると、転移温度は94Kに上昇し、GdGeSnの反強磁性のためか、転移が鈍化し磁化は大幅に減少した。
図3は、GeをSnにより適切な比率で置換することにより、ヒステリシスを解消できることを示している。ここでは、GdGe4-xSn:1≦x≦3の組成に注目し、遷移温度を例えば38Kから94Kまで調整できる。特に好ましくは、1.6<x<2.4であり、最も好ましくは、2.0≦x≦2.3である。xが1.6以下では転移温度が69Kとなり、熱ヒステリシスは4K程度と推定され、GdGeと同程度になり好ましくない。xが2.4以上では転移温度が85Kとなり、熱ヒステリシスはないが、磁化の減少が著しく、好ましくない。
【0027】
GdGe4-xSn:1≦x≦3の組成を有する磁気冷凍材料では、ヒステリシスのない遷移温度が38Kから94Kまで広がり、特に液体窒素が比較的安価に大量に得られることを考慮すると、液体水素温度から液体窒素温度の範囲での使用に適した磁気材料が得られることを実証した。さらに、磁気冷凍材料の転移温度付近でのヒステリシスは、その遷移温度でのM-Hループを測定することで定性的に評価される。
磁気冷凍材料の転移温度付近でのヒステリシス測定装置としては、日本カンタム・デザイン社の販売する米国カンタム・デザイン社製の磁気特性測定システム、型名:MPMSR3を使用する。2Tの外部磁化の下で、磁気冷凍材料のヒステリシスループを測定し、その後温度を2K/minで温度を変え、また別のヒステリシスループを測定している。
【0028】
図4は、本発明の比較例を示すGdGe系化合物のM-Hループを転移温度で測定したもので、(a)はGdGe、(b)はGdGeSnを示している。縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は磁束密度μH(T)である。
図4(a)では、GdGeについて、6Kから81Kまで3K間隔でM-Hループを測定している。ヒステリシス損失エネルギーは、転移温度付近のループの最大開度により評価される。例えば図4(a)に示すGdGe化合物では、45Kでの測定値が最大の斜線部分となり、ヒステリシス損失は80J/kgと測定される。
図4(b)では、GdGeSnについて、51Kから108Kまで3K間隔でM-Hループを測定している。図4(b)に示すGdGeSn化合物では、81Kでの測定値が最大の斜線部分となり、8J/kgと大幅に減少している。
即ち、GdGeSn化合物では、GdGe化合物のヒステリシス損失と比較して一桁小さいヒステリシス損失が実現する。
【0029】
図5は、GdGeおよびGdGeSn系化合物の2Tと5Tで測定した磁気エントロピーの変化を示す図である。図5の縦軸は磁気エントロピー変化△Sm[J/(kg・K)]、横軸は温度Kで、外部磁場μHとして2Tと5Tが印加されている。
GdGe(試料番号1)では、2Tで測定した場合、磁気エントロピーの変化|△Sm|は約15[J/(kg・K)]であり、磁気エントロピーの変化のピーク値を示す温度が18Kである。5Tで測定した場合、磁気エントロピーの変化|△Sm|は約28[J/(kg・K)]であり、磁気エントロピーの変化のピーク値を示す温度が38Kである。
GdGeSn化合物(試料番号7)では、2Tで測定した場合、磁気エントロピーの変化|△Sm|は約24[J/(kg・K)]であり、磁気エントロピーの変化のピーク値を示す温度が75Kである。5Tで測定した場合、磁気エントロピーの変化|△Sm|は約32[J/(kg・K)]であり、磁気エントロピーの変化のピーク値を示す温度が78~82Kである。
【0030】
≪四元系の実施例≫
次に、GdGeSn化合物を出発物質として、第4元素を添加することで、転移温度を調整できることを説明する。GdGeSn化合物に添加する第4元素としては、Gdに添加する第4元素REとしてTb,Dy,Er,Ho,及びLaを検討し(試料番号28-36)、Geに添加する第4元素としてSiを検討した(試料番号37-41)。Tb,Dy,Er,Ho,及びLaについては、日本イットリウム株式会社(福岡県大牟田市)から入手することが出来、材料の形状は塊状であり、純度は99.9%である。Siについては、株式会社高純度化学研究所(埼玉県坂戸市)から入手することが出来、材料の形状は粒状であり、純度は99.999%になっている。
【0031】
原料として、日本イットリウム社製の塊状Gd(純度99.9%)、高純度化学研究所製の塊状Ge(純度99.99%)、フルウチ化学株式会社(東京都品川区)製の粒状Sn(純度99.9%)、並びに第4元素として上記の試料を秤量し、GdSnGe2-xSi化合物及びGd5-yREGeSn化合物(REはTb,Dy,Er,Ho,又はLaの何れか)の純粋な組成元素を日新技研社製の雰囲気制御アーク炉にてアルゴン雰囲気下で、純粋な構成元素をアーク溶解することにより作製した。Gdの蒸発を補うため、1-7wt%のGdを余分に装入した。インゴットは、アーク溶解の過程で5回裏返し、再溶解することにより均質化された。磁気特性は、SQUID-VSM(カンタムデザイン社製)を用いて測定した。
また、GdGeSn系化合物の多結晶試料(試料番号21-27)についても、同様に、日新技研社製の雰囲気制御アーク炉にてアルゴン雰囲気下で、純粋な構成元素をアーク溶解することにより作製した。Gdの蒸発を補うため、1-7wt%のGdを余分に装入した。インゴットは、アーク溶解の過程で5回裏返し、再溶解することにより均質化された。磁気特性は、SQUID-VSM(カンタムデザイン社製)を用いて測定した。
【0032】
表5は、GdGe4-xSn系化合物(試料番号21-27)、Gd5-yREGeSn系化合物(REはTb,Dy,Er,Ho,又はLaの何れか)(試料番号28-36)、及びGdSnGe2-zSi系化合物(試料番号37-41)の組成(at.%)を示している。
なお、GdGe4-xSn系化合物の表記において、表5、表6でGdSnGe4-xのように、GeとSnの表記順序が逆になっているものがあるが、作表上の理由によるもので、他意はない。Gd5-yREGeSn系化合物とGdSnGe2-zSi系化合物の表記においても同様に、表5、表6でGd5-yRESnGe4-xのように、GeとSnの表記順序が逆になっているものがあるが、作表上の理由によるもので、他意はない。
【表5】
【0033】
図6は、本発明の一実施例を示すGdGeSn系化合物について2Tで測定したM-Tカーブで、縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は温度Kで、外部磁場μHとして2Tが印加されている。図6では、GdSnGe2-zSiのSi置換により、それらの遷移がヒステリシスのない状態を維持しながら、遷移温度を80Kから170Kまで高めることができ、窒素、酸素、天然ガスの液化温度をカバーしている(試料番号37-39、22(8))。さらに、Gdの希土類置換(REはDy)により、転移温度は40Kまで下げることができる(表6参照、試料番号31、32)。
即ち、GdGeSn化合物に添加する第4元素に注目し、当該第4元素の種類と添加量を適宜に調整することで、遷移温度を40Kから170Kまで調整できる。そこで、GdGeSn系化合物の大きな使用温度窓を実現し、様々な種類のガスの液化への応用に望まれる特性を有する磁気冷凍材料を提供できる。即ち、本発明の磁気冷凍材料によれば、水素、窒素、酸素、天然ガスなど様々な種類のガスの液化に応用し、ヒステリシスのない遷移温度が40Kから170Kまで、帯域温度幅が20Kから30K程度の、磁気冷凍の各段の設定温度範囲に応じて、適切な組成の磁気冷凍材料を選択できる。
【0034】
表6は、GdGe4-xSn系化合物(試料番号21-27)、Gd5-yREGeSn系化合物(REはTb,Dy,Er,Ho,又はLaの何れか)(試料番号28-36)、及びGdSnGe2-zSi系化合物(試料番号37-41)の磁気特性(at.%)を示している。
【表6】
【0035】
第4元素として、Si(ケイ素)を選択すると、次の組成式:
GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<1.3の組成を有する磁気熱量効果材料が得られる。Sn(錫)について1.6<x<2.4、Si(ケイ素)について0<z<1.3の範囲内で組成比率を選定することで、磁気相転移の転移温度Ttrは80Kから170Kの温度範囲であって、転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示す磁気熱量効果材料が得られる。磁気エントロピー変化△Sは、5T磁界の下、17[J/(kg・K)]以上が得られる。
なお、表6の測定値(試料番号24、37-41)から磁気エントロピー変化△Sの線形近似を行うと、磁気エントロピー変化△Sが、5T磁界の下、20[J/(kg・K)]以上が得られる組成は、GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<1.1である。5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sが25[J/(kg・K)]以上得られる組成は、GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z<0.9である。5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sが30[J/(kg・K)]以上得られる組成は、GdGe4-x-zSnSi:1.6<x<2.4、0<z≦0.4である。
【0036】
第4元素として、Dy(ディスプロシウム)を選択すると、次の組成式:
Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<1.1の組成を有する磁気熱量効果材料が得られる。Sn(錫)について1.6<x<2.4、Dy(ディスプロシウム)について0<y<1.1の範囲内で組成比率を選定することで、磁気相転移の転移温度Ttrは35Kから75Kの温度範囲であって、転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示す磁気熱量効果材料が得られる。好ましくは、Sn(錫)についてx=2.0とすると、次の組成式:
Gd5-yDySnGe:0<y<1.1の組成を有する磁気熱量効果材料が得られる。
なお、表6の測定値(試料番号24、31-33)から磁気エントロピー変化△Sの線形近似を行うと、磁気エントロピー変化△Sが、5T磁界の下、20[J/(kg・K)]以上が得られる組成は、Gd5-yDySnGe4-x:1.6<x<2.4、0<y<0.8である。5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sが25[J/(kg・K)]以上得られる組成は、Gd5-yDySnGe4-x:1.8≦x≦2.2、0<y<0.4である。5T磁界の下で、磁気エントロピー変化△Sが30[J/(kg・K)]以上得られる組成は、Gd5-yDySnGe4-x:1.8≦x≦2.2、0<y<0.1である。
【0037】
さらに、磁気冷凍材料のヒステリシスは、その遷移温度でのM-Hループを測定することで定性的に評価される。ここでは、ヒステリシス損失エネルギーは、転移温度付近のループの最大開度により評価される。
図7は、GdGeSn系化合物のM-Hループをその転移温度で測定した図面で、図7(a)はGdGeSn化合物、図7(b)はGdSnGe0.8Si1.2化合物、図7(c)はGdDySnGe化合物でのM-Hループを示している。図7では、縦軸は磁化M(Am/kg)、横軸は磁束密度μH(T)である。
GdGe化合物(試料番号1)では、図4(a)に示すように、ヒステリシス損失は80J/kgと測定されている。これに対して、GdGeSn化合物(試料番号7、24)では、図7(a)に示すように、8J/kgと大幅に減少している。図7(a)では、GdGeSnについて、51Kから108Kまで3K間隔でM-Hループを測定して、ヒステリシス損失ΔEhysを求めている。即ち、GdGeSn化合物では、GdGe化合物のヒステリシス損失と比較して一桁小さいヒステリシス損失が実現している。
図7(b)では、GdSnGe0.8Si1.2化合物(試料番号39)について、150Kから189Kまで3K間隔でM-Hループを測定して、ヒステリシス損失ΔEhysを求めている。図7(c)では、GdDySnGe(試料番号32)について、27Kから60Kまで3K間隔でM-Hループを測定して、ヒステリシス損失ΔEhysを求めている。GdSnGe0.8Si1.2とGdDySnGeのヒステリシス損失ΔEhysは、0J/kgとなって、ヒステリシス損失がない状態を示している。
【0038】
図8は、本発明の一実施例を示すGdGeSn系化合物の2Tと5Tの磁場変化に対する磁気エントロピー変化を示す図で、縦軸は磁気エントロピー変化△Sm[J/(kg・K)]、横軸は温度Kである。図8と表6により、GdGeSn系化合物の2Tと5Tの磁場変化における磁気エントロピーの変化をまとめている。
通常、ヒステリシスの低減は、磁気エントロピー変化を犠牲にして行われる。ここでは、GeをSnに置換することで、1桁小さいヒステリシス損失と、大きい磁気エントロピー変化を同時に達成した。具体的には、5Tの磁場変化下での|△Sm|は25[J/(kg・K)](GdGe・試料番号1)から32[J/(kg・K)](GdGeSn・試料番号24(7))に増加し、ヒステリシス損失は80J/kg(GdGe・試料番号1)から8J/kg(GdGeSn・試料番号24(7))に減少することが確認された。
【0039】
図8と表6に示すように、Gd5-yDySnGe化合物でy=1の場合(試料番号31)、41Kの転移温度が実現でき、熱ヒステリシスがないため、アクティブ磁気再生装置(AMR)システムを用いた水素液化に望ましい特性を有する。
GeをSiに置換した場合、GdSnGe0.8Si1.2化合物(試料番号39)では、170Kで|△Sm|が17.9[J/(kg・K)]となり、ヒステリシス損失は徐々にゼロになる。一方、GdをDyで置換した場合、GdDySnGe化合物(試料番号32)では、AMRを用いた水素液化用途で40Kでのヒステリシス損失がゼロで|△Sm|が17.6[J/(kg・K)]を維持しながら転移温度が78Kから40Kに減少していることがわかる。
【0040】
なお、GdGe4-xSn系化合物のうち、試料番号25-27については、磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)の値がGdGe2.4Sn1.6(試料番号23)よりも低かったので、5Tの磁場変化下での磁気エントロピー変化|△Sm|を測定していない。
Gd5-yTbGe4-xSn(試料番号28-30)については、液体水素温度付近から液体窒素温度付近までの20Kから85Kの温度範囲内で、5T磁界の下での磁気エントロピー変化|△Sm|を測定していない。
Gd5-yREGe4-xSn(REはEr,Ho,又はLaの何れか)(試料番号34-36)については、液体水素温度付近から液体窒素温度付近までの20Kから85Kの温度範囲内で、5T磁界の下で、磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)の値が1未満であったので、磁化M(Am/kg)と5Tの磁場変化下での磁気エントロピー変化|△Sm|を測定していない。
GdSnGe2-zSi系化合物(試料番号37-41)についても、キュリー温度Tが102Kから195Kの温度範囲と液体窒素温度よりも高温側なので、液体水素温度付近から液体窒素温度付近までの20Kから85Kの温度範囲内で、5T磁界の下での磁化Mを測定していない。
【0041】
続いて、Gd5-yREGeSn系化合物において、第4元素REとして、Tb,Dy,Er,Ho,又はLaの何れかを選択すると、次の組成式:
Gd5-yREGe4-xSn:1.6<x<2.4、0.0<y<1.5の組成を有する磁気冷凍用材料が得られる。
この磁気冷凍用材料は、Tbについては、キュリー温度Tは35Kから85Kの温度範囲であって、前記キュリー温度Tの前後30Kの範囲で2次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を示す。Dy,Er,Ho,又はLaの何れかについては、キュリー温度Tは35Kから85Kの温度範囲であって、前記キュリー温度Tの前後30Kの範囲で二次磁気相転移を示すか、或いは二次磁気相転移と一次磁気相転移の境界領域の特性を表す。
また、この磁気冷凍用材料は、キュリー温度Tは35Kから85Kの温度範囲内であって、5T磁界の下、以下の3つのうち少なくとも一つを充足するものである。
(i)磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am/kg・K)として17以上50以下、
(ii)熱ヒステリシス△Thys(K)として0K以上3K以下、又は
(iii)磁化M(Am/kg)は100以上200以下。
【0042】
ここで、5T磁界の下、熱ヒステリシス△Thys(K)として3K以下を充足する磁気冷凍用材料の組成式は次の通りである。
Gd5-yREGe4-xSn(REはTb,Dy,Er,Ho,又はLaの何れか):1.6<x<2.4、0.0<y<1.5
また、5T磁界の下、磁化M(Am/kg)は100以上200以下を充足する磁気冷凍用材料の組成式は次の通りである。
Gd5-yREGe4-xSn(RE=Tb,又はDyの何れか):1.6<x<2.4、0.0<y<1.5
【0043】
図9では、極低温でのガス液化応用のために、異なる種類の化合物の非ヒステリシス磁気熱量特性をまとめているもので、縦軸は磁気エントロピー変化△Sm[J/(kg・K)]、横軸は温度Kである。
30K以下の温度では磁性冷媒材料の選択肢が多く、例えばHoB,ErAl,HoN,HoNiが十分なエントロピー変化(|△Sm|が20[J/(kg・K)]以上)を示していることがわかる。しかしながら、60-150Kの温度で|△Sm|が20[J/(kg・K)]以上を示す磁性材料はほとんどない。
ここで、本発明で想到したGdGeSn系化合物は、水素、窒素、酸素、天然ガスなど、複数の種類のガスの液化のために、40K-170Kの大きな作業温度窓をカバーできる、|△Sm|が17[J/(kg・K)]以上、更に好ましくは20[J/(kg・K)]以上の巨大なMCEを示している。
【0044】
本発明の磁気冷凍材料は、既存の非ヒステリシス転移材料と比較して、著しく大きな磁気エントロピー変化をもたらす。例えば、Gd4.5Dy0.5SnGeの磁気エントロピー変化は|△Sm|が25[J/(kg・K)]を示し(試料番号31)、同じ60Kの温度でAMRを用いた水素液化においてDyAlのそれよりも140%大きな値を示している。一方、GdSnGe化合物は、窒素液化(77K)に対するDy-Fe-Si化合物のそれよりも184%大きい|△Sm|=32[J/(kg・K)]を示し、GdSnGe1.6Si0.4化合物は|△Sm|=30.9[J/(kg・K)]を示し、天然ガスの液化におけるTb-Fe-Si化合物のそれよりも177%大きい(試料番号37)。また、転移温度を140Kまで上げても、本発明で開発したGdSnGe1.2Si0.8化合物の|△Sm|は26[J/(kg・K)]であり、同じ温度での(Gd,Tb)Alのそれよりも240%大きい(試料番号38)。以上の比較から、本発明の磁気冷凍材料は、極低温での各種ガスの液化において、巨大なMCEと調整可能な転移温度の点で既存の磁気冷凍材料より著しく優れていることが明確に示された。
【0045】
要約すると、従来の一次相転移(FOMT)材料であるGdGe化合物において、適切に第3元素と第4元素の種類と組成比を選定することで、大きなMCEと小さなヒステリシスの間のトレードオフを克服できることを実証している。第3元素SnをGeと適切な比率で置換することで、MCEの向上とヒステリシスの最小化を同時に実現することができる。
さらに、第4元素としてDy又はSiを選定すると、ヒステリシスのない遷移を維持したまま、GdのDy置換により遷移温度を40Kから、GeのSi置換により遷移温度を170Kまで調整できることを実証した。
【0046】
続いて、本発明の磁気冷凍材料が使用される磁気冷凍装置について説明する。
図10は磁気冷凍サイクルの各工程を説明する概略図である。
磁気冷凍サイクルでは、定温環境下における励磁によるエントロピー変化(温度上昇)と、断熱状態における消磁による断熱温度変化(温度低下)の繰り返しサイクルにより、蒸気圧縮サイクルと類似の熱サイクルが構成される。
【0047】
図11は能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR)サイクルを説明する概略図である。なお、図11において、破線は工程動作前の温度分布、実線は工程動作後の温度分布を示している。
AMRサイクル用の磁気冷凍機は、磁気冷凍材料充填層と熱交換器を兼ねたAMRベッド、磁石、駆動装置(ディスプレーサ)、および熱移動媒体(水素・ヘリウム・空気など)により構成されている。駆動装置は磁気冷凍材料とAMRベッドとの相対的な位置を調整する制御装置である。
【0048】
AMRサイクルは、断熱的励磁、熱移動媒体の移動(低温端から高温端への移動)、断熱的消磁、熱移動媒体の移動(高温端から低温端への移動)の4工程で構成される。
(1)断熱的励磁では、磁気冷凍材料に励磁され、AMRベッド全体の温度が上昇する。
(2)低温端から高温端への熱移動では、駆動装置により熱移動媒体を高温側に移動させる。AMRベッド内にあった高温の熱移動媒体は高温側に移送される一方で、低温側からの熱移動媒体の流入により、AMRベッド内の温度分布が変化する。
(3)断熱的消磁では、磁気熱量効果によりAMRベッド内の温度が低下する。AMRベッド内の温度分布を有した状態で全体的に温度が低下する。
(4)高温端から低温端への熱移動では、駆動装置により熱移動媒体を低温側に移動させる。AMRベッド内にあった低温の熱移動媒体は低温側に移送される一方で、高温側からの熱移動媒体の流入により、AMRベッド内の温度分布が変化する。
【0049】
この一連の4工程を一サイクルとすると、一サイクル後には、AMRベッド内の温度分布は低温側はサイクル開始時よりもやや低温となり、高温側はサイクル開始時よりもやや高温となる。この蓄熱再生サイクルを繰り返すことで、温度差が拡大し、やがてAMRベッド内の温度分布はほぼ一定の状態となる。このAMRベッド内の温度分AMRベッドを構成する磁気冷凍材料の特性によって決まる。
【0050】
図12は磁気冷凍材料をカスケード配置したAMRの一例を示す概略図で、(A)は装置概略図、(B)は磁気冷凍材料の動作温度帯の説明図である。
図12に示すAMRでは、動作する温度帯を変えた磁気冷凍材料を選択的に配置することで、励磁・消磁により効率的に温度差を生じさせる階層構造を有するAMR機構を実現できる。キュリー温度Tは強磁性体が常磁性を示す温度であり、最大の磁気熱量効果を生じる温度と一致する。そこで、図12に示すAMRでは、複数の温度帯(TC1~TC4)において、大きな磁気熱量効果を示すため、磁気冷凍材料充填層に温度勾配を生じても性能低下が生じにくい。適切なキュリー温度Tを有する磁気冷凍材料を選択的に配置することで、水素液化に適したAMRを実現できる。
【0051】
図13は、磁気冷凍装置の主要部を示す模式図である。上述する実施例の材料を含む磁気冷凍材料を用いることができる。この磁気冷凍材料の1つの形態としては、50μm以上1000μm以下の範囲の粒子径を有する粒子であってもよい。例えば、球形近似で、50μm以上、100μm以上、200μm以上としてもよく、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下の径を有する粒子状であってもよい。また、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて、所定の範囲としてもよい。粒子形態を採るとAMRベッドへの充填率を高めることができ、粒子径により熱輸送冷媒との熱交換断面積や圧力損失を変化させることができる。粒子径が小さくなるほど熱交換断面積は大きくなり、この観点では冷凍性能向上に有効であるが、一方で、粒子径が小さくなるほど圧力損失が上昇して冷凍性能を低下させる。実際の圧力損失の大きさは、粒子径のみならず熱輸送冷媒の種類や運転条件にも依存する。ここで、粒径は、体積基準のメディアン径(d50)とし、体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。より具体的には、静的画像解析法及び動的画像解析法が採用され得る。前者は、多数の粒子画像(SEM像など)を撮影し、画像解析ソフトを用いて各粒子の面積から、円形に換算した粒子径を求めることができる。
【0052】
このような磁気冷凍材料を備えた磁気冷凍装置200は、超低温の生成、例えば水素の液化に用いることができる。磁気冷凍装置200は、磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220と、これに磁場を印加する磁場印加手段230と、冷温により被冷却物を冷却する冷却ステージ290と、AMRベッド220における磁気冷凍仕事により発生した温熱を排熱する熱交換器240とを更に備える。
磁場印加手段230は、AMRベッド220に磁場を印加する任意の手段を適用でき、例えば、1~10T(テスラ)程度の強度の磁場を用いることが現実的である。磁場印加手段230として、超伝導マグネット、永久磁石等を採用できる。また、図示しない駆動機構によって、磁場印加手段230とAMRベッド220との相対位置を変化させて、AMRベッド220に印加される磁場の大きさを変化させることができる。
【0053】
AMRベッド220の高温側には予冷段260が設けられ、予冷段260の低温側には80Kシールド270が、予冷段260の高温側には300Kシールド280がそれぞれ接続して具備されている。更に、AMRベッド220の低温側には、冷却ステージ290が設けられ、液化容器250が冷却ステージ290と熱的に接続して具備されている。つまり、液化容器250には被冷却物となる気体が供給され液化される。また、AMRベッド220には熱輸送冷媒の流出入口が設けられ、磁気冷凍材料210の間隙を通って熱輸送冷媒がAMRベッド220の内部を往復流動できる構造となっている。
【0054】
液化容器250には、液化させるべき気体310(例えば、水素、ヘリウム(He)等)が、図示しないタンクより供給される。磁気冷凍装置200は、以下のようにして動作してもよい。磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220に、磁場印加手段230により磁場を印加し、磁気冷凍材料210の温度を上昇させる。次いで、AMRベッド220の低温端側から高温端側に向かう方向300Aに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒はAMRベッド220の内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して温熱を受け取りながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の高温端部より流出する。AMRベッド220の高温端部より流出した熱輸送冷媒は予冷段260を介して温熱を排熱する熱交換器240に流入し、余分な熱が外部へ排熱される。次いで、磁気冷凍材料210が充填された磁場を取り除き(減少させて)、磁気冷凍材料210の温度を降下させる。
【0055】
そして、AMRベッド220の高温端側から低温端側に向かう方向300Bに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒は予冷段260を介してAMRベッド220の高温端部に流入し、内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して冷却されながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の低温端部に到達する。尚、熱輸送冷媒の流動は図示しない冷媒駆動手段によって駆動される。冷媒駆動手段は熱輸送冷媒をAMRサイクルに同期して往復流動する振動流を駆動できれば特に限定されるものではなく、ピストン、ブロアとバルブを組み合わせる方式等が挙げられる。
【0056】
AMRベッド220の低温端部の温度が液体水素の沸点(大気圧にて20K)よりも低下すると、液化容器250に供給される水素ガスは、AMRベッド220の低温端側に設けられた冷却ステージ290との熱交換により冷却され、濃縮液化する。このような工程を繰り返し、液化容器250の内部ではガスを周期的に液化ないし冷却する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上詳細に説明したように、本発明のGd5-yDySnGe4-x系化合物、及びGdGe4-x-zSnSi系化合物によれば、GdGe4-xSn系化合物に対して適切な第4元素の種類と添加量を適切に調整することで、大きな温度窓(40K-170K)において、既存の材料よりも140-240%大きい巨大かつ可逆的なMCEを実現することができ、水素、窒素、酸素、天然ガスなど様々な種類のガスの液化の応用に用いて好適である。
【符号の説明】
【0058】
200 磁気冷凍装置
220 AMRベッド
230 磁場印加手段
240 熱交換器
250 液化容器
260 予冷段
270 80Kシールド
280 300Kシールド
290 冷却ステージ
300A 熱輸送冷媒の移動方向
300B 熱輸送冷媒の移動方向

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13