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特開2024-151810疲労寿命に優れた回し溶接継手及び回し溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151810
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】疲労寿命に優れた回し溶接継手及び回し溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
B23K31/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065532
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼本 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】半田 恒久
(57)【要約】
【課題】実際の溶接施工を考慮し、ショートビードが生じても、疲労強度を安価に且つ安定して向上することができる回し溶接継手及び回し溶接方法を提供する。
【解決手段】ガセット2を主板1に回し溶接することによって得られる回し溶接継手であって、第1溶接ビード3と第2溶接ビード4とを有し、第1溶接ビードは、ガセットが主板に当接する矩形当接面2aの一方の長辺から短辺を経由して他方の長辺に沿って形成され、第2溶接ビードは、長辺溶接部9、重なり部5及び延伸部6を有し、長辺溶接部は、矩形当接面の長辺に沿って形成され、重なり部は、第1溶接ビードの溶接部に被せて形成され、延伸部は、重なり部から主板上へ延伸して形成され、第1溶接ビードの先端から矩形当接面の短辺までの長さLが5mm以上であることを特徴とする回し溶接継手である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガセットを主板に回し溶接して接合することによって得られる回し溶接継手であって、
該回し溶接継手は、第1溶接ビードと第2溶接ビードとを有し、
前記第1溶接ビードは、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の一方の長辺から一方の短辺を経由して他方の長辺に沿って形成され、
前記第2溶接ビードは、長辺溶接部、重なり部及び延伸部を有し、
前記長辺溶接部は、前記矩形当接面の長辺に沿って形成され、
前記重なり部は、前記第1溶接ビードの溶接部に被せて形成され、
前記延伸部は、前記重なり部から前記主板上へ延伸して形成され、
前記第1溶接ビードの溶接開始端部から前記矩形当接面の短辺までの長さL1が5mm以上で、
前記矩形当接面の短辺から前記第1溶接ビードの溶接終了端部までの長さL2が5mm以上である
ことを特徴とする回し溶接継手。
【請求項2】
前記第1溶接ビード及び前記第2溶接ビードが各々2本を有することを特徴とする請求項1に記載の回し溶接継手。
【請求項3】
前記延伸部の先端と前記第1溶接ビードの前記矩形当接面の短辺止端部との長さN(N1、N2)が5mm~50mmで、
前記延伸部の止端部の間隔Mが2mm以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回し溶接継手。
【請求項4】
前記主板の板厚Tが5mm~20mmであることを特徴とする請求項3に記載の回し溶接継手。
【請求項5】
前記矩形当接面の短辺の長さTが5mm~20mmであることを特徴とする請求項4に記載の回し溶接継手。
【請求項6】
ガセットを主板に回し溶接で接合する回し溶接方法において、
第1溶接ビードを、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の一方の長辺から一方の短辺を経由して他方の長辺に沿って形成し、
次いで、前記矩形当接面の長辺に沿って形成する長辺溶接部と、前記第1溶接ビードの溶接部に被せて形成する重なり部と、該重なり部から前記主板上へ延伸して形成する延伸部と、を有する第2溶接ビードを形成し、
前記第1溶接ビードの溶接開始端部から前記矩形当接面の短辺までの長さL1を5mm以上とし、
前記矩形当接面の短辺から前記第1溶接ビードの溶接終了端部までの長さL2を5mm以上とする
ことを特徴とする回し溶接方法。
【請求項7】
前記第1溶接ビードを前記矩形当接面の両方の短辺側に2本形成した後、前記第2溶接ビードを前記矩形当接面の両方の長辺側に2本形成することを特徴とする請求項6に記載の回し溶接方法。
【請求項8】
前記延伸部の先端と前記第1溶接ビードの前記矩形当接面の短辺止端部との長さN(N1、N2)を5mm~50mmとし、
前記延伸部の止端部の間隔Mを2mm以上とする
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の回し溶接方法。
【請求項9】
前記主板の板厚Tが5mm~20mmであることを特徴とする請求項8に記載の回し溶接方法。
【請求項10】
前記矩形当接面の短辺の長さTが5mm~20mmであることを特徴とする請求項9に記載の回し溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物を建造する際に広く採用される主板とガセットとの回し溶接の技術に関し、特に、優れた疲労特性が要求される鋼構造物(例えば鋼橋、船舶等)に好適な回し溶接継手及び回し溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼構造物では、ガセットの周囲を主板に溶接(いわゆる「回し溶接」)した回し溶接継手が多数存在する。回し溶接継手においては、溶接ビードがガセットを取り囲んでおり、その溶接ビードに欠陥(例えば割れ等)が発生して、溶接止端部の形状が円滑に形成されなかった場合に、溶接止端部における応力集中が生じ易くなる。その結果、回し溶接に起因する溶接残留応力と外力に起因する繰り返し応力とが重畳して疲労亀裂を発生させ、さらに、その疲労亀裂が伝播して疲労破壊を引き起こす原因となる。なお、外力とは、鋼構造物に外部から繰り返し作用する荷重である。例えば、鋼構造物が鋼橋である場合は、自然の気象状況(例えば、風等)や車両の通行によって繰り返し生じる荷重であり、鋼構造物が船舶である場合は、風や波によって繰り返し生じる荷重である。
【0003】
そして近年、鋼構造物の老朽化に伴って、疲労に起因する損傷に関する報告が増加している。そのような損傷を防止するためには、鋼構造物を定期的に検査して、損傷の進行状況を管理し、さらに、損傷の進行に応じて対策を講じる必要がある。とりわけ疲労に起因する損傷が鋼橋に発生した場合は、車両の通行を規制することによって鋼橋に作用する外力を軽減することは可能であるが、交通の渋滞や物流の遅延等を引き起こすので社会活動に多大な悪影響を及ぼす。そこで、鋼構造物の回し溶接継手における疲労特性を改善する技術が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ガセットが主板に当接する矩形の当接面(以下、「矩形当接面」ともいう。)の長辺を主板に隅肉溶接し、室温まで冷却した後に、矩形当接面の角部から短辺を回し溶接することで、継手疲労強度を安定して高める技術が開示されている。この技術は、矩形当接面の短辺に沿って形成される溶接ビード(以下、「短辺溶接ビード」ともいう。)が長辺に沿って形成される溶接ビード(以下、「長辺溶接ビード」ともいう。)の上に被せられ、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えて主板上に延伸する。このように、まず長辺溶接ビードを溶接し、その上に短辺溶接ビードを被せて溶接すると、溶接ビードが重なる部位に隙間(すなわち主板、長辺溶接ビード、短辺溶接ビードで囲まれた空間)が生じ易くなる。それにより、応力集中に起因する疲労亀裂が容易に発生し、その疲労亀裂の伝搬を防止するのは困難である。つまり、特許文献1に開示された技術では、回し溶接継手の疲労強度の大幅な向上は期待できない。
【0005】
これに対し、特許文献2には、回し溶接の施工コストの上昇を抑制するために通常の溶接装置、溶接材料を用いて、上記の隙間の発生を防止する技術が開示されている。この技術では、まず短辺溶接ビード(第1溶接ビード)を短辺に平行な直線状に溶接し、次いで長辺溶接ビード(第2及び第3溶接ビード)を溶接することによって、短辺溶接ビードの上に長辺溶接ビードを被せる。その際に、既に溶接されている短辺溶接ビードを超えて長辺溶接ビードが延伸するように溶接する。これにより、上記の隙間の発生を防止し、ひいては溶接止端部の形状に関わらず疲労亀裂の発生を防止している。さらに、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えない長さになるように溶接しておくことによって、上記の隙間の発生をより顕著に防止していることなどが記載されている。ここで、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えない長さになるように溶接しておく理由として、短辺溶接ビードが長すぎて、2本の長辺溶接ビードの下側から主板上に延伸した場合は、上記の隙間が生じ易くなり、疲労亀裂が発生し易くなるからとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-19860号公報
【特許文献2】特開2018-158380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際の溶接施工を考えた場合、上記の特許文献2の技術に従って短辺溶接ビードが長辺溶接ビードを超えないように施工することは、溶接施工管理の上で問題を生じることがある。つまり、実際の溶接施工では、作業者の技能や溶接機の性能の差異等により、短辺に平行な直線状に形成する短辺溶接ビードの終端位置が変動して、短辺溶接ビードの実長さが狙い長さより5mm~10mm程度短くなる現象が生じることがある。この現象を短辺溶接ビードのショートビードという。このとき、短辺溶接ビードが長辺溶接ビードと重なる部分に隙間(長辺溶接ビードのビード幅に比して10%以上の隙間)が生じると、ビード不連続による応力集中が生じ、疲労強度が低下するという課題がある。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑み、実際の溶接施工を考慮し、ショートビードが生じても、疲労強度を安価に且つ安定して向上することができる回し溶接継手及び回し溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、短辺溶接ビードが短辺に平行な直線状に形成するのではなく、長辺側からスタートし短辺側を経由して反対側の長辺側で終わるビードであれば、短辺溶接ビードのショートビードの発生有無にかかわらず、優れた疲労強度が得られるという知見を得た。さらに、この短辺溶接ビードの長辺側に被せる長辺溶接ビードと短辺溶接ビードとの重なり部の長さが5mm以上であれば、疲労強度の向上に有効であることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
〔1〕ガセットを主板に回し溶接して接合することによって得られる回し溶接継手であって、
該回し溶接継手は、第1溶接ビードと第2溶接ビードを有し、
前記第1溶接ビードは、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の一方の長辺から一方の短辺を経由して他方の長辺に沿って形成され、
前記第2溶接ビードは、長辺溶接部、重なり部及び延伸部を有し、
前記長辺溶接部は、前記矩形当接面の長辺に沿って形成され、
前記重なり部は、前記第1溶接ビードの溶接部に被せて形成され、
前記延伸部は、前記重なり部から前記主板上へ延伸して形成され、
前記第1溶接ビードの溶接開始端部から前記矩形当接面の短辺までの長さL1が5mm以上で、
前記矩形当接面の短辺から前記第1溶接ビードの溶接終了端部までの長さL2が5mm以上である
ことを特徴とする回し溶接継手。
〔2〕前記〔1〕において、前記第1溶接ビード及び前記第2溶接ビードが各々2本を有することを特徴とする回し溶接継手。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕において、
前記延伸部の先端と前記第1溶接ビードの前記矩形当接面の短辺止端部との長さN(N1、N2)が5mm~50mmで、
前記延伸部の止端部の間隔Mが2mm以上である
ことを特徴とする回し溶接継手。
〔4〕前記〔1〕ないし〔3〕のいずれか一つにおいて、前記主板の板厚Tが5mm~20mmであることを特徴とする回し溶接継手。
〔5〕前記〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つにおいて、前記矩形当接面の短辺の長さTが5mm~20mmであることを特徴とする回し溶接継手。
〔6〕ガセットを主板に回し溶接で接合する回し溶接方法において、
第1溶接ビードを、前記ガセットが前記主板に当接する矩形当接面の一方の長辺から一方の短辺を経由して他方の長辺に沿って形成し、
次いで、前記矩形当接面の長辺に沿って形成する長辺溶接部と、前記第1溶接ビードの溶接部に被せて形成する重なり部と、該重なり部から前記主板上へ延伸して形成する延伸部と、を有する第2溶接ビードを形成し、
前記第1溶接ビードの溶接開始端部から前記矩形当接面の短辺までの長さL1を5mm以上とし、
前記矩形当接面の短辺から前記第1溶接ビードの溶接終了端部までの長さL2を5mm以上とする
ことを特徴とする回し溶接方法。
〔7〕前記〔6〕において、前記第1溶接ビードを前記矩形当接面の両方の短辺側に2本形成した後、前記第2溶接ビードを前記矩形当接面の両方の長辺側に2本形成することを特徴とする回し溶接方法。
〔8〕前記〔6〕又は〔7〕において、前記延伸部の先端と前記第1溶接ビードの前記矩形当接面の短辺止端部との長さN(N1、N2)を5mm~50mmとし、
前記延伸部の止端部の間隔Mを2mm以上とする
ことを特徴とする回し溶接方法。
〔9〕前記〔6〕ないし〔8〕のいずれか一つにおいて、前記主板の板厚Tが5mm~20mmであることを特徴とする回し溶接方法。
〔10〕前記〔6〕ないし〔9〕のいずれか一つにおいて、前記矩形当接面の短辺の長さTが5mm~20mmであることを特徴とする回し溶接方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋼構造物を新たに建造する場合や老朽化した鋼構造物を補修する場合に、回し溶接の施工時に短辺溶接ビードのショートビードが生じても、回し溶接継手の疲労強度を安価に且つ安定して向上させることが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る回し溶接継手の例を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明に係る回し溶接方法の施工手順の例を模式的に示す平面図である。
図3図2(c)を拡大して模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る回し溶接継手及び回し溶接方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表わされた各部材の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0014】
図1は、本発明に係る回し溶接継手の例を模式的に示す斜視図であり、図2は、その回し溶接継手を得るための回し溶接方法の施工手順の例を模式的に示す平面図であり、図3は、図2(c)の拡大図である。なお、図2において、ガセット2が主板1に当接する矩形当接面2aは、ガセット2を主板1に投影した矩形線で囲まれた形状と一致し、長辺2bと短辺2cで構成される。図2及び図3では、矩形当接面2aの一方の短辺側での回し溶接継手及び回し溶接方法の施工手順を示している。
【0015】
[回し溶接継手]
本発明に係る回し溶接継手は、第1溶接ビード3及び第2溶接ビード4を有している。好ましくは、2本の第1溶接ビード3と3’及び2本の第2溶接ビード4aと4bを有している。
【0016】
第1溶接ビード3は、ガセット2が主板1に当接する矩形当接面2aの一方の長辺から一方の短辺を経由して他方の長辺に沿って形成されたものである。また、第1溶接ビード3’は、第1溶接ビード3と対称形となっており、上記矩形当接面2aの一方の長辺から他方の短辺を経由して他方の長辺に沿って形成されたものである。
【0017】
次に、第2溶接ビード4(4a、4b)は、矩形当接面2aの長辺に沿って形成され、且つ2本の第1溶接ビード3と3’に連続して被せ、さらに主板1上に延伸して形成されたものである。したがって、長辺溶接部9(9a、9b)と重なり部5(5a、5b)と延伸部6(6a、6b)とを有している。長辺溶接部9(9a、9b)は、矩形当接面2aの長辺2bに沿って形成されている。重なり部5(5a、5b)は、第1溶接ビード3、3’の矩形当接面2aの長辺2b部分に被せて形成されている。延伸部6(6a、6b)は、重なり部5(5a、5b)から主板1上へ延伸して形成されている。
【0018】
なお、長辺溶接部9(9a、9b)は、第1溶接ビード3と3’に連続的に形成されているのが好ましいが、途中で分断されていても良い。また、第1溶接ビード3を矩形当接面2aの一方の短辺側にのみ形成する場合は、第2溶接ビード4aは、矩形当接面2aの長辺の途中から第1溶接ビード3の溶接開始端部10aに被せるように形成する。同様に第2溶接ビード4bは、矩形当接面2aの他の長辺の途中から第1溶接ビード3の溶接終了端部10bに被せるように形成する。
【0019】
ここで、重なり部5(5a、5b)の長さL、つまり、第1溶接ビード3、3’の溶接開始端部10aから矩形当接面2aの短辺2cまでの長さL1及び矩形当接面2aの短辺2cから第1溶接ビード3、3’の溶接終了端部10bまでの長さL2は、5mm以上であれば良い。この長さL1、L2が5mm未満であると、ショートビードの発生有無にかかわらず、疲労強度が低下する場合があるからである。なお、長さLが20mmを超えると、第1溶接ビード形成に無駄な溶接工数が増加するので、5mm~20mmとするのが好ましい。より好ましくは、10mm~15mmである。
【0020】
また、第2溶接ビード4(4a、4b)の延伸部6(6a、6b)の先端7(7a、7b)と第1溶接ビード3、3’の矩形当接面2aの短辺止端部3aとの長さN(N1、N2)は、5mm~50mmの範囲であることが好ましい。5mm未満では、疲労強度改善効果がなく、50mmを超えると、施工に長時間を要するためである。より好ましくは、10mm~20mmである。
【0021】
さらに、第2溶接ビード4(4a、4b)の延伸部6の止端部の間隔M、すなわち、延伸部6aと延伸部6bに囲まれた空間の幅である間隔Mは、2mm以上であることが好ましい。2mm未満では、ビード同士は繋がる可能性が高くなり、疲労強度改善効果が発揮されないからである。より好ましくは、5mm~10mmである。
【0022】
次に、本発明における主板の板厚Tは、制限はないが、5mm~20mmであることが好ましい。
【0023】
また、本発明におけるガセットの板厚、すなわち矩形当接面の短辺の長さTは、特に限定されないが、疲労特性の改善効果の観点から好ましくは、5mm~20mmである。ガセットの板厚Tが5mm未満では、間隔Mを0mm以上とする第2溶接ビード施工が難しく、一方、20mm超では、疲労特性の改善効果の点で不利となるからである。より好ましくは、7mm~15mmである。
【0024】
[回し溶接方法(施工手順)]
続いて、本発明に係る回し溶接継手を得るための回し溶接方法の施工手順について、図2に基づいて説明する。
【0025】
最初に、図2(a)に示すように、後述する溶接方法及び溶接条件により、第1溶接ビード3を、主板1上のガセット2が当接する矩形当接面2aの一方の長辺2bの途中から一方の短辺2cを経由して他方の長辺2bに沿って形成する。この第1溶接ビード3を形成する際の溶接を開始する長辺は、任意のいずれかの長辺で良い。
【0026】
ここで、第1溶接ビード3の溶接開始点は、第1溶接ビード3の溶接開始端部10aから矩形当接面2aの短辺2cまでの長さL1が5mm以上の場所であれば良い。また、第1溶接ビード3の溶接終了点は、矩形当接面2aの短辺2cから第1溶接ビード3の溶接終了端部10bまでの長さL2が5mm以上の場所であれば良い。前述したように、長さL1及びL2が5mm未満であると、ショートビードの発生有無にかかわらず、疲労強度が低下する場合があるからである。なお、20mmを超えると、第1溶接ビード形成に無駄な溶接工数が増加するので、長さL1及びL2は、5mm~20mmとするのが好ましい。より好ましくは、10mm~15mmである。なお、L1とL2の長さを同一にとする必要はなく、各長さが5mm以上であれば同等の効果を得ることができる。
【0027】
続いて、図1に示すように、上述の第1溶接ビード3を形成した短辺側とは対称の位置にある他方の短辺側に2本目の第1溶接ビード3’を形成する場合には、1本目の第1溶接ビード3を形成した後、1本目と同様の手順で2本目を形成することが好ましい。
【0028】
次に、図2(b)に示すように、第2溶接ビード4aを、矩形当接面2aの一方の長辺2bに沿い、第1溶接ビード3の長辺2b側にある溶接ビードに被せ、さらに主板上へ延伸して形成する。この第2溶接ビード4aは、矩形当接面の一方の短辺側に形成した1本目の第1溶接ビード3と、他方の短辺側に形成した2本目の第1溶接ビード3’とを連続的に被せて形成することが好ましい。形成した第2溶接ビード4aは、矩形当接面の長辺部にかかり、第1溶接ビード3及び3’に被さっていない長辺溶接部9aと、第1溶接ビード3に被さっている重なり部5aと、主板1上に延伸した延伸部6aとを有している。
【0029】
ここで、第2溶接ビード4aの延伸部6aの先端7aと第1溶接ビード3の矩形当接面2aの短辺止端部3aとの長さN1は、5mm~50mmの範囲であることが好ましい。5mm未満では、疲労強度改善効果がなく、50mmを超えると、施工に長時間を要するためである。より好ましくは、10mm~20mmである。
【0030】
最後に、図2(c)に示すように、2本目の第2溶接ビード4bを、矩形当接面2aの他方の長辺2bに沿い、第1溶接ビード3の長辺2b側にある溶接ビードに被せ、さらに主板上へ延伸して形成する。この第2溶接ビード4bも前記の1本目の第2溶接ビード4aと同様に、長辺溶接部9b、重なり部5b及び延伸部6bを施工する。さらに、第2溶接ビード4a及び4bの延伸部6a及び6bに囲まれた空間の幅である間隔(延伸部の止端部の間隔)Mは、2mm以上であることが好ましい。2mm未満では、ビード同士は繋がる可能性が高くなり、疲労強度改善効果が発揮されないからである。より好ましくは、5mm~10mmである。
【0031】
なお、長辺溶接部9(9a、9b)は、第1溶接ビード3と3’に連続的に形成するのが好ましいが、途中で分断して形成しても良い。また、第1溶接ビード3を矩形当接面2aの一方の短辺側にのみ形成する場合は、第2溶接ビード4aは、矩形当接面2aの長辺の途中から第1溶接ビード3の溶接開始端部10aに被せるように形成する。同様に第2溶接ビード4bは、矩形当接面2aの他の長辺の途中から第1溶接ビード3の溶接終了端部10bに被せるように形成する。
【0032】
以上の説明では、第2溶接ビード4aを先に施工し、第2溶接ビード4bを後に施工したが、いずれを先あるいは後に施工するかは、特に限定されない。
【0033】
また、第2溶接ビードの施工に際し、2本の溶接ビードを施工する場合には、上記の各部の長さや形状を2本とも同一とする必要はない。
【0034】
[回し溶接手段及び溶接対象]
回し溶接を行う溶接手段は、被覆アーク溶接法、ガスメタルアーク溶接法が主であるが、それ以外の手段についても適宜用いることができ、手動溶接又は自動溶接いずれを採用しても良い。
【0035】
本発明は、鋼構造物を新たに建造する場合のみならず、老朽化した鋼構造物を増強・補修する場合にも適用できる。
【0036】
[耐疲労特性]
本発明においては、鋼構造物を構成するどのような材質の主板やガセットを用いても効果が発揮される。主板の材料としては、鋼種がSM400、SM490、SM520、SM570等で、降伏応力が、245MPa~560MPaの材料を例示することができる。
【実施例0037】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0038】
主板(板厚T:14mm、板幅:80mm、長さ:500mm)にガセット(板厚T:14mm、板幅:75mm、高さ:50mm)をフラックス入りワイヤを用いてガスメタルアーク溶接方法で回し溶接し、得られた回し溶接継手の疲労試験を行なった。その手順を以下に説明する。
【0039】
主板及びガセットは、表1に示す化学組成(質量%)を有する鋼板を使用した。また、鋼板から、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験片(平行部径6mmΦ)を採取し、引張試験を実施し、降伏応力(MPa)及び引張強さ(MPa)を測定した。
【0040】
【表1】
【0041】
フラックス入りワイヤは、JIS Z 3313に準拠した材料、神戸製鋼所製MX-Z200(ワイヤ径:1.2mmφ)を用いた。ワイヤの組成(質量%)は、次のとおりである。C:0.04%、Si:0.07%、Mn:1.22%、P:0.010%、S:0.011%、残部Fe及び不可避的不純物である。
【0042】
ガスメタルアーク溶接の溶接条件は、溶接電流:240A、溶接電圧:32V、溶接速度:30cm/minとし、脚長は、第1溶接ビード及び第2溶接ビードとも8mm程度を狙った。なお、ガセットは主板の中央に配置したので、矩形当接面は、主板の中央に位置する。
【0043】
疲労試験は、軸荷重制御、応力比0.1、周波数10Hzで室温・大気中で実施した。
【0044】
得られた回し溶接継手について、実測ビード間隔(L1、L2、N1、N2、M)、疲労試験の条件である応力範囲、さらに疲労試験の結果を表2に示す。ここで、疲労寿命は、疲労破断に至るまでの荷重繰り返し数(cycle)で表している。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から明らかなように、本発明例はいずれも、長さL1及びL2が5mm以上であり、良好な疲労寿命を有していた。一方、比較例はいずれも、長さL1及びL2のいずれか一方又は両方が5mm未満であり、疲労寿命が本発明例の半分以下となっていた。
【符号の説明】
【0047】
1 主板
2 ガセット
2a 矩形当接面、 2b 矩形当接面の長辺、 2c 矩形当接面の短辺
3、3’ 第1溶接ビード
3a 第1溶接ビードの短辺側止端部
4(4a、4b) 第2溶接ビード
5(5a、5b) 第2溶接ビードの重なり部
6(6a、6b) 第2溶接ビードの延伸部
7(7a、7b) 第2溶接ビードの延伸部の先端
9(9a、9b) 第2溶接ビードの長辺溶接部
10a 第1溶接ビードの溶接開始端部
10b 第1溶接ビードの溶接終了端部
L(L1、L2) 第1溶接ビードの先端から矩形当接面の短辺までの長さ
M 延伸部間の間隔
N(N1、N2) 第1溶接ビードの短辺止端部から延伸部の先端までの長さ
図1
図2
図3