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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151825
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241018BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065551
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史宏
(72)【発明者】
【氏名】田邉 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】八木原 茂俊
(72)【発明者】
【氏名】平賀 正宏
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA02
5H770EA21
5H770HA02X
5H770LA02X
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】過電流によるインバータ部のスイッチング素子の破壊とスイッチング素子の大型化を防ぎつつ、連続回生動作が可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は交流電圧を直流に変換する整流部2、直流電圧を交流に変換しモータ9に電力を供給するインバータ部4、インバータ部4のスイッチング素子41~46の制御部7、直流電圧の低電圧側とインバータ部4の下アーム側スイッチング素子42、44、46に接続され、下アーム側スイッチング素子42、44、46の電流を検出する電流検出抵抗51、52、53、及び電流検出抵抗51、52、53の電流に基づきインバータ部4の最大電流値を演算し、第1電流レベルIth1を超過した場合に過電流検出信号を出力する過電流検出部6を備える。制御部7はインバータ部4の回生時スイッチング周波数が力行時のスイッチング周波数より高い期間にスイッチング素子を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を直流電圧に変換する整流部と、
前記直流電圧を交流電圧に変換し、モータに電力を供給するインバータ部と、
前記インバータ部のスイッチング素子を制御する制御部と、
前記直流電圧の低電圧側と前記インバータ部の下アーム側スイッチング素子に接続され、前記下アーム側スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出抵抗と、
前記電流検出抵抗に流れる電流に基づき前記インバータ部に流れる最大電流値を演算し、前記最大電流値が、少なくとも第1電流レベルを超過した場合に過電流検出信号を出力する過電流検出部と、
を備え、
前記制御部は、前記インバータ部における回生時のスイッチング周波数が力行時のスイッチング周波数より高い期間を含むように前記スイッチング素子を制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、前記過電流検出信号が入力された際に、前記インバータ部の前記スイッチング素子を全てオフ状態とすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ部は、三相ブリッジで構成され、前記電流検出抵抗は前各三相ブリッジの前記下アーム側スイッチング素子にそれぞれ接続され、
前記過電流検出部は、前記電流検出抵抗に順方向に流れる電流、逆方向に流れる電流、前記三相ブリッジの三相和の絶対値のうち、最も大きな値が前記第1電流レベルを超過した場合に前記過電流検出信号を出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ部は三相ブリッジで構成され、前記回生時に、前記三相ブリッジの上アーム側スイッチング素子の間を主回路電流が還流する動作モードを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ部は三相ブリッジで構成され、前記回生時に、前記三相ブリッジのうちいずれか一相の前記下アーム側スイッチング素子と、他方の二相の上アーム側スイッチング素子に主回路電流が流れている動作モードを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記回生時とは、停止時直流制動動作であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記回生時とは、減速停止動作であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、過電流状態が解除された後に、前記スイッチング素子のスイッチングを再開させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、前記回生時に前記第1電流レベルより低い第2電流レベルを超過した場合に、前記回生時における前記スイッチング周波数を前記力行時のスイッチング周波数より高くなるように制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、前記過電流検出信号を受信したら前記スイッチング素子が全てオフ状態となるようにスイッチング動作を停止させ、所定の時間が経過したら前記スイッチングを再開することを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部に回生指令を入力する回生指令部を備え、
前記制御部は、前記回生指令部から前記回生指令が入力された場合に、スイッチング周波数を前記力行時の前記スイッチング周波数より高く制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、前記回生時のスイッチング周波数に応じて前記第1電流レベルを変化させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記回生時の前記スイッチング周波数は、前記力行時のスイッチング周波数より0.1kHz高い値から、可聴周波数の上限までの値であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項14】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、前記力行時の動作か前記回生時の動作かを、予め定められた変調率から推定することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、モータに交流電力を供給する電力変換装置に関する。
【技術分野】
【0002】
モータ駆動用電力変換装置は一般的に、交流電圧を直流電圧に変換する整流部、直流電圧を平滑する平滑コンデンサ、直流電圧を逆変換するインバータ部で構成される。インバータ部は6個のスイッチング素子を使用した三相ブリッジで構成されたものが一般的に用いられており、これらのスイッチング素子をパルス幅変調(PWM)方式等に基づいて生成されたパターンでスイッチングさせることにより、任意の電圧及び周波数を持った三相交流電力を出力することができる。
【0003】
インバータ部において、スイッチング素子の制御や過電流からの保護を目的として、直流電圧の低電圧側とインバータ部の下アーム側スイッチング素子との間に電流検出抵抗を配置し、電流検出抵抗の両端電圧から電流値を検出する方式が知られている。本方式は、小形部品で構成可能なため実装が容易であるが、その動作原理上、上アーム側スイッチング素子に流れる電流を電流検出抵抗で直接検出することはできないため、上アーム側スイッチング素子を過電流から保護する様に過電流保護回路を構成する必要がある。
【0004】
上アーム側スイッチング素子に過電流が生じる代表例として、回生動作が挙げられる。モータから直流電圧に電力が回生する場合にモータからインバータ部に流れる電流は、モータの誘起電圧が三相ブリッジを介して短絡された場合に増加する。
【0005】
従って、インバータ部のスイッチングパターンの内、回生動作時に三相ブリッジの上アーム側を還流するモードが生じた場合でも、スイッチング素子の耐電流値まで電流が上昇しない構成とする必要がある。
【0006】
本技術分野における関連技術として特許文献1がある。特許文献1には、三相ブリッジで構成されたインバータ部において、直流電圧が所定の値に上昇した場合に、三相ブリッジの下アーム側スイッチング素子を還流させる電力変換装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-303338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の図1図2図3、段落[0010]、[0024]、[0030]には、下アーム側スイッチング素子と直流電圧の低電圧側の間に抵抗を備え、抵抗素子で過電流を検知可能な構成とした三相ブリッジに対し、モータ急減速などの理由により回生動作となり直流電圧が所定の値を超過した場合に、三相ブリッジの下アーム側スイッチング素子を還流させる電力変換装置が記載されている。これにより、回生エネルギーを抵抗素子で熱エネルギーとして吸収することができ、大型の回生抵抗や回生用スイッチが不要になる。
【0009】
しかしながら、直流電圧の上昇幅とインバータ部の耐電流特性は本来別の特性であり、一例として平滑コンデンサに大容量の電解コンデンサを搭載し、PWM方式に基づいてインバータ部がスイッチングする電力変換装置に対し、特許文献1の図2図3に記載の制御手法でモータを急減速させた場合、モータが減速を開始した直後(特許文献1の図2図3内のt1~t2の期間)では、モータの誘起電圧により上アーム側スイッチング素子に流れる電流が増加するにも関わらず、直流電圧はほぼ上昇しないモードが存在する。
【0010】
従って、特許文献1の図2図3内のt1~t2の期間に、過電流による上アーム側スイッチング素子の破壊の恐れがあった。
【0011】
本発明の目的は、過電流によるインバータ部のスイッチング素子の破壊とスイッチング素子の大型化を防ぎつつ、連続回生動作が可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、次のように構成される。
【0013】
電力変換装置は、交流電圧を直流電圧に変換する整流部と、前記直流電圧を交流電圧に変換し、モータに電力を供給するインバータ部と、前記インバータ部のスイッチング素子を制御する制御部と、前記直流電圧の低電圧側と前記インバータ部の下アーム側スイッチング素子に接続され、前記下アーム側スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出抵抗と、前記電流検出抵抗に流れる電流に基づき前記インバータ部に流れる最大電流値を演算し、前記最大電流値が、少なくとも第1電流レベルを超過した場合に過電流検出信号を出力する過電流検出部と、を備え、前記制御部は、前記インバータ部における回生時のスイッチング周波数が力行時のスイッチング周波数より高い期間を含むように前記スイッチング素子を制御する。
【発明の効果】
【0014】
過電流によるインバータ部のスイッチング素子の破壊やスイッチング素子の大型化を防ぎつつ、連続回生動作が可能な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1における電力変換装置の回路構成図である。
図2】本発明が適用されない場合の例であって、上アーム側スイッチング素子に過電流が生じる原理を説明する動作波形である。
図3】実施例1における電力変換装置の動作波形である。
図4】実施例1の動作の変形例について示す動作波形である。
図5】実施例2における上アーム側スイッチング素子に過電流が生じる原理を説明する動作波形である。
図6】実施例3における電力変換装置の動作波形である。
図7】実施例4における電力変換装置の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例0017】
(実施例1)
図1は本実施例1における電力変換装置1の構成図である。図1において、電力変換装置1は、交流電圧を入力し直流電圧を出力する整流部2と、直流電圧を平滑する平滑コンデンサ3と、直流電圧を交流電力に変換する三相ブリッジで構成されたインバータ部4と、インバータ部4の下アーム側スイッチング素子42、44、46と直流電圧の低電圧側の間に配置された電流検出部5と、電流検出部5で検出された電流値に基づいてインバータ部4に流れる電流が判定値(第1電流レベル)を超過した場合に過電流検出信号を出力する過電流検出部6と、インバータ部4のスイッチング素子に駆動信号を出力する制御部7と、を備える。
【0018】
整流部2は複数のダイオードで構成され、入力端子から入力される交流電圧を直流電圧に変換し、平滑コンデンサ3の両電極に出力する。整流部2のダイオードの整流作用によりノードP側の直流電圧配線に正電圧、ノードN側の直流電圧配線に負電圧とした直流電圧が発生する。平滑コンデンサ3はノードP、ノードNにおいて直流電圧配線に接続し、直流電圧を平滑化する。尚、図1では代表例として単相交流を全波整流する方式を示しているが、三相交流を全波整流する方式や単相交流を倍電圧整流する方式、或いは交流と直流を双方向に電力を授受できる回生コンバータで構成しても良い。
【0019】
インバータ部4は、スイッチング素子41~46で構成される。モータ9を力行運転する場合には、平滑コンデンサ3の直流電圧を交流電力に変換しモータ9に出力し、モータ9を回生運転する場合には、モータ9からの回生エネルギーを平滑コンデンサ3に充電する様にスイッチング素子41~46が動作する。
【0020】
なお、図1に示すスイッチング素子41~46は、代表例としてIGBTの回路記号を適用しているが、MOSFET等別のパワー半導体を適用することも可能である。
【0021】
電流検出部5は電流検出抵抗51~53で構成され、インバータ部4の下アーム側スイッチング素子42、44、46のエミッタ端子と直流電圧の低電圧側の間にそれぞれ配置される。電流検出抵抗51~53は、インバータ部4のスイッチングパターンの内、スイッチング素子42、44、46に電流が流れるパターンにおける電流検出抵抗51、52、53の両端電圧を検出することで、モータ9に流れる電流を部分的に検出することが可能となる。
【0022】
過電流検出部6は、電流検出部5で検出された電流値が判定値を超過した場合に、制御部7に過電流検出信号を出力する。先に述べた通り、本実施例1で述べる電流検出部5の構成では上アーム側スイッチング素子41、43、45に流れる電流は直接検出できない。従って、インバータ部4の三相ブリッジの内、二相分の下アーム側スイッチング素子42、44、46が導通している場合に、検出可能な二相分の電流情報から、上アーム側スイッチング素子41、43、45に導通している残り一相分の電流を演算する機能を備えている。
【0023】
具体的には、以下のとおりである。
【0024】
1.スイッチング素子42、44、46から直流電圧の低電圧側に向けて流れる電流の内最も電流が流れている一相分の電流値と、
2.直流電圧の低電圧側からスイッチング素子42、44、46に向けて流れる電流の内最も電流が流れている一相分の電流値と、
3.スイッチング素子42、44、46から検出された電流値の三相和の絶対値と、
の3つの信号の内、最も大きな値が判定値を超過した場合に、過電流検出状態となる様に構成される。
【0025】
この様な構成とすることで、上アーム側スイッチング素子41、43、45の全てが導通し下アーム側スイッチング素子42、44、46の全てがオフ状態の期間と、三相ブリッジの内二相分の上アーム側スイッチング素子41、43、45が導通し、一相分の下アーム側スイッチング素子42、44、46が導通する期間において、上アーム側スイッチング素子41、43、45に過電流が生じた場合以外は過電流を検出することが可能となる。
【0026】
制御部7は、インバータ部4のスイッチング素子41~46に駆動信号を出力し、過電流検出部6から過電流検出信号を受信した場合、インバータ部4のスイッチング素子41~46が全てオフ状態となるように制御する。
【0027】
図2は、本発明が適用されない場合の動作制御例であって、図1において上アーム側スイッチング素子41に過電流が生じた際の様子を示した電力変換装置1の各部の動作波形である。IU、IV、IWはそれぞれU相、V相、W相のモータに流れる電流であり、正方向がインバータ部4からモータ9に流出する方向、負方向がモータ9からインバータ部4に流入する方向である。図2において、IUを実線で示し、IVを破線で示し、IWを一点鎖線で示す。Ith1は過電流レベルであり、スイッチング素子やモータの許容電流に対しマージンを設けて設定される値である。
【0028】
VU-N、VV-N、VW-NはU相、V相、W相と直流電圧の低電圧側であるノードNとの間の電位差であり、スイッチング素子の導通電圧降下を無視すると、上アーム側スイッチング素子が導通している場合は概ね直流電圧の値に、下アーム側スイッチング素子が導通している場合は概ね0Vになる。VU-Nを実線で示し、VV-Nを破線で示し、VW-Nを一点鎖線で示す。
【0029】
過電流検出信号は、電流検出抵抗51、52、53で検出された電流値から演算された、最も電流が流れているスイッチング素子の電流値が、過電流レベルIth1を下回っていたらHを、上回っていたらLを出力する様に構成されている。
【0030】
図2は、二相変調方式により力行駆動していたモードから、時刻t1に入力された直流制動指令によりモータが急減速し、回生モードとなり、時刻t5に過電流レベルIth1を超過する電流がU相の電流検出抵抗に流れ、スイッチング素子41~46がオフ状態で停止した際の各波形を示したものである。図2において、還流アームの下と記載されている期間は、回生時に、インバータ部4の下アーム側のスイッチング素子42、44、46の間を主回路電流が還流する動作モードであることを示す。また、還流アームの上と記載されている期間は、回生時に、インバータ部4の上アーム側のスイッチング素子41、43、45の間を主回路電流が還流する動作モードであることを示す。
【0031】
ここで、二相変調方式とは、三相インバータのPWM制御において、変調波の一周期の内、特定の区間だけ一相を1若しくは0に固定し、他の二相を変調する方法である。図2では時刻t1以前において、V相の上アーム側スイッチング素子43がオン状態、下アーム側スイッチング素子44がオフ状態であることが分かる。
【0032】
また、直流制動とはモータ9に直流電圧を印加しモータを確実に停止させる動作であり、インバータ部4は概ね0Hzを出力する。従って、直流制動を開始したt1以降では、上アーム還流期間(t2~t3、t4~t5)、若しくは下アーム還流期間(t1~t2、t3~t4、t5~t6)が支配的になる。
【0033】
直流制動開始直後は、インバータ部4が概ね0Hzを出力しても慣性負荷に従ってモータ9は回転を続けるため、時刻t1以降は回生動作となる。また、上アーム還流期間、若しくは下アーム還流期間では回転速度に応じて生じるモータ9の誘起電圧が三相ブリッジを介して短絡されるため、電流が増大する。図2に示す通り、基底周波数で回るモータ9に対し直流制動させた場合、スイッチングの数パルスの間にインバータ部4の過電流レベルIth1まで電流が成長し得る。
【0034】
図3に、本実施例1における動作制御が適用された場合における電力変換装置1の各部の動作波形を示す。図3に示すように、本実施例1における電力変換装置1は、直流制動指令が入力された時刻t1において、スイッチング周波数を力行動作時よりも高くすることを特徴としている。スイッチング周波数を高くすることで、図2に示したt4~t5の上アーム還流期間に比べて、図3に示したt10~t11の上アーム還流期間の方が短くなるため、上アーム還流期間に過電流レベルIth1を超過する分が減少している。つまり、図2に示した超過電流Aに比較して、図3に示した超過電流Bの方が小となっており、過電流による上アーム側スイッチング素子の破壊を抑制することが可能になる。また、超過電流Aがスイッチング素子41~46の耐電流値を満足しない場合、耐電流値の高い大型のスイッチング素子を適用する必要があるため、超過電流の低減によりスイッチング素子の大型化を防ぐことが可能になる。
【0035】
なお、スイッチング周波数の高周波化は一例として、PWM制御において変調波と比較する搬送波の周波数(キャリア周波数)を高周波化することで実現できる。即ち、指令が入力されたタイミングでキャリア周波数を高周波化するように制御部7は処理を開始し、当該処理が完了した後、制御部7から出力される駆動信号のスイッチング周波数を高周波化する。また、指令が解除され、力行状態となったタイミングで再度キャリア周波数を低周波化するように、制御部7は処理を開始し、当該処理が完了した後、制御部7から出力される駆動信号のスイッチング周波数を低周波化する。
【0036】
なお、図2において上アーム還流期間(t4~t5)での電流超過分を考慮した形であらかじめ過電流レベルIth1を下げることでも上アームスイッチング素子41の破壊を防ぐことは可能である。しかしながら、過電流レベルIth1が低い場合回生制動力の低下、力行時の過電流トリップの増加等の課題が新たに生じる。
【0037】
また、図2図3で比較すると、時刻t1以降のスイッチング周波数に応じて、インバータ部4に流れる電流が過電流レベルIth1から超過する分が変わることが分かる。一方、スイッチング素子41~46の耐電流値は素子固有の値であり変わらない。従って、実施例1においては、スイッチング周波数に応じて、過電流レベルIth1の値を変化させることでスイッチング素子41~46の耐電流値に対するマージンを一定に管理することができ、回生制動力を最大限出力することが可能となる。
【0038】
具体的例として、図3に示す超過電流Bがスイッチング素子41~46の耐電流値を満足すると仮定し、回生動作時のスイッチング周波数を図3の時刻t1~t11に示した値よりも高く動作させた場合について述べる。
【0039】
この場合、過電流レベルIth1からの超過電流値は図3に示す超過電流Bよりも低減し、過電流レベルIth1を図3と同じ値にした場合、スイッチング素子41~46の耐電流値に対するマージンが増加する。即ち、図3に示す超過電流Bから超過電流値が低減した分過電流レベルの値を上昇させても、スイッチング素子41~46の耐電流値を満足する。この様に、回生動作中のスイッチング周波数の値に応じて過電流レベルの値を調整することで、適切な電流値と回生制動力を得ることが可能となる。
【0040】
次に、図4を用いて図3で述べた本実施例1における電力変換装置1の動作の変形例について説明する。
【0041】
図4は、図3において、過電流を検出して停止した後の動作の一例を示したものである。図4に示す通り、停止後にU相電流IU、V相電流IV、W相電流IWがいずれも過電流レベルIth1を下回り、過電流検出信号がL→Hに遷移した後であれば、インバータ部4は過電流状態ではないためスイッチングを再開することができる。
【0042】
図4の時刻t1において、過電流検出部6は過電流を検出し、過電流検出信号をH→Lに遷移させ、制御部7はスイッチング素子41~46をオフ状態で停止させる。その後、スイッチング停止に伴いインバータ部4に流れる電流は徐々に0へと向かい、図4の時刻t2でインバータ部4に流れる電流は過電流レベルIth1を下回り、過電流検出信号がH→Lに遷移する。
【0043】
そして、所定の時間の後、図4の時刻t3でスイッチングを再開し、上アーム還流期間となる。ここでは、図3に述べたように、力行時より高いスイッチング周波数で動作させ、図4の時刻t4において下アーム還流期間となり、過電流検出部6により過電流を検出し、過電流検出信号がH→Lに遷移する。
【0044】
その後、時刻t4以降は時刻t1~t4と同様に動作する。このように動作させることで、スイッチング素子41~46の過電流による破壊を抑制しつつ、連続回生動作を実現することが可能になる。
【0045】
以上述べたように、本実施例1による電力変換装置1は、三相ブリッジを備えたインバータ部4におけるスイッチング周波数を、力行時に比べて回生時に高くする期間を含む。これにより、過電流レベルを高い値に設定しても、過電流による上アーム側スイッチング素子41、43、45の破壊を抑制できる。
【0046】
制御部7は、力行動作か回生動作かを、一例として制御部7のモータ駆動制御により生成された変調率から推定でき、力行動作であれば変調率は正の値、回生動作であれば変調率は負の値になる。このように、制御部7内部の値を参照してスイッチング周波数を切り替えることで簡素な構成で本実施例に示す動作を実現することが可能である。
【0047】
実施例1によれば、過電流によるインバータ部4のスイッチング素子41~46の破壊とスイッチング素子41~46の大型化を防ぎつつ、連続回生動作が可能な電力変換装置1を提供することができる。
【0048】
実施例1においては、回生時とは、停止時直流制動動作である。
【0049】
なお、回生時におけるスイッチング周波数が力行時のスイッチング周波数より高い期間は、回生時の全期間ではなくともよく、インバータ部4における回生時のスイッチング周波数を力行時のスイッチング周波数より高く制御する期間を含んでいればよい。
【0050】
また、回生時のスイッチング周波数は、力行時のスイッチング周波数より0.1kHz高い値から、可聴周波数の上限までの値とすることができる。
【0051】
(実施例2)
次に、実施例2について述べる。本実施例2は実施例1で述べた回生動作とは別の回生動作について、力行時に比べて回生時にスイッチング周波数を高くする効果が得られる例である。
【0052】
図5は、図1において上アーム側スイッチング素子45に過電流が生じた際の様子を示した電力変換装置1の各部の動作波形である。実施例1では停止時直流制動動作について述べたが、本実施例2では力行時、回生時共に二相変調方式であり、図5の時刻t1以前はU相の下アーム側スイッチング素子42がオン状態、時刻t1以降はW相の上アーム側スイッチング素子45がオン状態である。なお、図5は回生動作に移行した後の動作波形であり、設定された減速時間に従って減速している途中の状態である。
【0053】
図5において、時刻t1~t2の期間、t3~t4の期間、t5~t6の期間、時刻t7~t8の期間はそれぞれ上アーム側スイッチング素子41、43、45全てが導通し下アーム側スイッチング素子42、44、46全てがオフ状態の期間、若しくは三相ブリッジの内二相分の上アーム側スイッチング素子が導通し、一相分の下アーム側スイッチング素子が導通する期間で構成される。
【0054】
ここで、図5の時刻t7~t8に着目すると、電流検出抵抗51、52、53での過電流保護ができない期間に、W相電流IWが成長し、過電流閾値Ith1(第1電流レベル)を超過している。その後、t8にU相の下アーム側スイッチング素子42、V相の下アーム側スイッチング素子44が導通し、W相の上アーム側スイッチング素子45の過電流を検出することで、スイッチング素子41~46がオフ状態に遷移し、時刻t8以降電流が減少している。
【0055】
このように、二相変調方式で回生動作した場合のスイッチングパターンのうち、上アーム側スイッチング素子41、43、45で生じた過電流を他の二相の電流検出情報でしか検出することができないモードが存在する。従って、二相変調方式での減速停止動作でも同様に力行時よりもスイッチング周波数を高くすることで、過電流検出が不可となる期間を短くすることが可能になり、過電流によるスイッチング素子の破壊、或いはスイッチング素子の大型化を抑制することができる。
【0056】
加えて、先に述べた通り、二相変調方式では上アーム側スイッチング素子41、43、45がオン状態となる期間に当該上アーム側スイッチング素子41、43、45での過電流検出が難しいという課題がある。そのため、回生動作中は二相変調方式から三相変調方式に切り替えることも有効である。
【0057】
以上述べたように、本実施例2では、二相変調方式でモータ9を急減速させた際にスイッチング周波数を高くする、或いは三相変調方式に切り替えることで、上アーム側スイッチング素子41、43、45の過電流を抑制することが可能になる。これにより、減速停止動作においても実施例1と同様に、過電流によるインバータ部のスイッチング素子の破壊とスイッチング素子の大型化を防ぎつつ、連続回生動作が可能な電力変換装置を提供することができる。また、本実施例2で述べた動作においても、過電流検出後に図4で述べた連続回生動作を適用することも可能である。
【0058】
(実施例3)
次に、実施例3について述べる。本実施例3の電力変換装置1は、過電流レベルIth1よりも低いスイッチング周波数切り替えレベルIth2(第2電流レベル)を設定し、電流検出抵抗51、52、53で検出した電流値に基づき演算された最大電流値がスイッチング周波数切り替えレベルIth2を超過した場合に、スイッチング周波数を高くする。
【0059】
図6は、図2図3と同様に、二相変調方式により力行駆動していたモードから、時刻t1に入力された直流制動指令によりモータ9が急減速し、時刻t7に過電流レベルIth1を超過する電流がU相の電流検出抵抗に流れ、スイッチング素子41~46がオフ状態で停止した際の、各波形を示したものである。
【0060】
ここで、本実施例3で述べる電力変換装置1は、図2図3で示した波形とは異なり、回生中に演算された最大電流値がスイッチング周波数切り替えレベルIth2を下回る場合(図6内t1~t4)、スイッチング周波数は力行時(図6内t1以前)と同等のスイッチング周波数とし、最大電流値がIth2を上回る場合(図6内t4~t7)、スイッチング周波数は力行時(図6内t1以前)より高くなるように制御する。
【0061】
実施例1、2で述べた通り、回生時にスイッチング周波数を高くすることで、過電流レベルIth1を超過する分を抑制することが可能になる。しかしながら、スイッチング周波数を高周波化することで、スイッチング素子41~46のスイッチング損失が増大する。図2図4に示す数パルス分のスイッチングではスイッチング損失の増大は微々たるものだが、秒単位の連続回生動作などではインバータ部4の冷却性能への影響が懸念される。
【0062】
そこで、本実施例3で述べた通り、過電流レベルIth1に対して所定のマージンを設けた値としてスイッチング周波数切り替えレベルIth2を設定し、演算された電流値がIth2を超過した時のみスイッチング周波数を高くすることで、インバータ部4の冷却性能の簡素化と、実施例1、実施例2で述べた過電流による上アーム側スイッチング素子41、43、45の破壊、大型化の抑制効果を両立できる。
【0063】
実施例3によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、インバータ部4の冷却性能の簡素化を図ることができる。
【0064】
(実施例4)
続いて、図7を用いて実施例4について述べる。
【0065】
図7は本実施例4における電力変換装置1の構成図である。図7に示すとおり、本実施例7における電力変換装置1では、図1に示す電力変換装置1に対し回生指令部8を追加している。実施例1では直流制動指令、実施例2では回生指令をトリガにスイッチング周波数を高くしていたが、本実施例で述べる電力変換装置では、当該指令が回生指令部8から制御部7に与えられる。
【0066】
実施例1で述べた、変調率から力行、回生を判断する方式や、先行技術文献1で記載された直流電圧の上昇幅から力行、回生を判断する方式は、内部のアナログ値を参照しているが、本実施例4では変形例を示している。
【0067】
回生指令部8は、一例として外部入力端子に接続されたPLC(プログラマブルロジックコントローラ)等のフィールドバスからの指令、或いは外部の操作パネルによる操作者からの指令が挙げられる。このように、外部から電力変換装置1に対して直流制動指令や減速停止指令が入力された際にスイッチング周波数を高くするように制御部7は制御する。
【0068】
制御部7内部のアナログ値を参照した場合、簡素な構成である一方、強電部から生じた電磁ノイズにより誤動作する懸念がある。本実施例4で示す構成では、強電部から絶縁された弱電部に印加される信号を用いて力行、回生を判断するため、実施例1で述べた構成に比べて動作の信頼性が増す。
【0069】
実施例4は、実施例1と同様な効果を得ることができる他、上述したように、電力変換装置1の動作の信頼性を向上することができる。
【0070】
実施例4における上述した動作以外は、実施例1~3のいずれかと同様な動作を行う構成とすることができる。
【0071】
なお、上述した実施例1~4において、回生時のスイッチング周波数に応じて過電流閾値(第1電流レベル)を変化させることも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・電力変換装置、2・・・整流部、3・・・平滑コンデンサ、4・・・インバータ部、5・・・電流検出部、6・・・過電流検出部、7・・・制御部、8・・・回生指令部、9・・・モータ、41、43、45・・・上アーム側スイッチング素子、42、44、46・・・下アーム側スイッチング素子、51、52、53・・・電流検出抵抗、Ith1・・・過電流閾値(第1電流レベル)、Ith2・・・スイッチング周波数切り替えレベル(第2電流レベル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7