(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015187
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ファン取付部付きシート
(51)【国際特許分類】
A41D 27/00 20060101AFI20240125BHJP
A41D 13/002 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A41D27/00 A
A41D13/002 105
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205000
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2022003585の分割
【原出願日】2014-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】592171005
【氏名又は名称】株式会社セフト研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】市ヶ谷 弘司
(57)【要約】
【課題】シート状部材にファン取付部を容易に作製することができるファン取付部付きシートを提供する。
【解決手段】ファン取付部付きシート1は、シート状部材10と、シート状部材10に形成された、ファンの筒状部を通すための開口孔20と、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部に固着された、筒状部の外縁の形状と略同じ形状の内縁を有する伸縮性のない扁平な環状の補強部材30とを備える。補強部材30の各面のうちシート状部材10の端部に固着された一つの面以外の面はシート状部材10で覆われることなく露出している。ファンの筒状部を補強部材30の内縁の中に挿入し、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部及び補強部材30の端部をファンの所定部位で挟み込むことにより、ファンがファン取付部に取り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部とその筒状部の側面と略垂直な方向に突出するように前記筒状部に設けられた突出部とを有するファン本体と、前記筒状部の外側に差し込んで前記突出部と対向する状態で前記ファン本体に装着される係止部材とを備えるファンを取り付けるためのファン取付部付きシートであって、
前記ファンの前記筒状部を通すための開口孔が形成されたシート状部材と、
前記ファンの前記筒状部の外縁の形状と略同じ形状の開口部を有し、表面及び裏面のうち一方の面が前記開口孔の周囲における前記シート状部材の端部に固着され、内側面が露出している伸縮性のない扁平な環状の補強手段と、
を備え、
前記筒状部を前記補強手段の前記開口部に挿入すると共に前記係止部材を前記ファン本体に装着し、前記開口孔の周囲における前記シート状部材の端部及び前記補強手段の端部のうち少なくも前記補強手段の端部を前記突出部と前記係止部材との間で挟み込むことにより、前記ファンが取り付けられることを特徴とするファン取付部付きシート。
【請求項2】
前記ファンが取り付けられたときに、前記補強手段の裏面と前記係止部材又は前記突出部とが直接接することを特徴とする請求項1記載のファン取付部付きシート。
【請求項3】
前記補強手段は、洗濯可能なものであって、プラスチック、樹脂含浸布、人工皮革、伸縮性のないゴムのいずれかの素材で作製されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のファン取付部付きシート。
【請求項4】
前記補強手段は縫合可能な素材で作製されており、前記補強手段と前記開口孔の周囲における前記シート状部材の端部とを縫合することにより前記補強手段が前記シート状部材に固着されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のファン取付部付きシート。
【請求項5】
前記補強手段と前記シート状部材とは溶着可能な素材で作製されており、前記補強手段と前記開口孔の周囲における前記シート状部材の端部とを溶着することにより前記補強手段が前記シート状部材に固着されていることを特徴とする請求項1又は2記載のファン取付部付きシート。
【請求項6】
前記シート状部材の素材と前記補強手段の素材とが同じであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のファン取付部付きシート。
【請求項7】
前記補強手段と前記シート状部材とは一体的に成型されていることを特徴とする請求項6記載のファン取付部付きシート。
【請求項8】
前記シート状部材は織布からなり、前記開口孔の周囲における前記シート状部材の端部にはほつれ留めが施され、前記補強手段と前記開口孔の周囲における前記シート部の端部とを縫合することにより前記補強手段が前記シート状部材に固着されていることを特徴とする請求項1又は2記載のファン取付部付きシート。
【請求項9】
前記開口孔の大きさは前記補強手段の前記開口部の大きさと略同じであり、前記補強手段の表面の全体が前記開口孔の周囲における前記シート状部材の端部に接していることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項記載のファン取付部付きシート。
【請求項10】
前記シート状部材は縫合可能な素材で作製されていることを特徴とする請求項1、2、3、5、6、7記載のファン取付部付きシート。
【請求項11】
前記補強手段は不透明なものであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項記載のファン取付部付きシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気を流通させることにより人体から出た汗を蒸発させる空気流通式マットや空調服等に使用されるファンを布等のシート状部材に取り付けるためのファン取付部を有するファン取付部付きシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空気を流通させることにより人体から出た汗を蒸発させる空気流通式マットや空調服等が実用化されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。例えば、空調服は空気が漏れにくい素材で縫製され、その空調服の後側部の下方にはファンを取り付けるための二つのファン取付部が設けられている。ファンをファン取付部に取り付け、ファンを作動させると、大量の外気がファンから空調服内に取り込まれる。その取り込まれた外気は、人体に平行に上方に流通し、例えば襟周りや袖口から排出される。外気が空調服内に流通する間に人体から出た汗を蒸発させ、その蒸発するときの気化熱により体表面の温度を下げることができる(例えば、特許文献3参照。)。
【0003】
次に、空調服の製造方法について説明する。ここでは、空調服が作業用空調服である場合を考える。説明に先立ち、まず、一般的な作業服の製造方法について簡単に説明する。一般的な作業服を製造するには、最初に、その製造する作業服に対応した型紙に合わせて生地を裁断し、各部位の布パーツを作製する。一般的な作業服の場合、布パーツは十数点に及ぶ。次に、所定の部位の布パーツに、ファスナーやボタン等を取り付ける。その後、布パーツ同士を縫製することにより、一般的な作業服が完成する。
【0004】
空調服の製造方法が一般的な作業服の製造方法と大きく異なる点は、空調服における後側部の下方に相当する部位の布パーツに、ファンを取り付けるためのファン取付部を設ける工程を備える点である。ここで、布や布パーツ等のシート状部材にファン取付部が設けられたものが、ファン取付部付きシートである。空調服の製造方法には、大きく分けて二つの方法がある。そのうちの一つの方法は、空調服における後側部の下方に相当する部位の布パーツそのものに、ファン取付部を直に作製する方法である。もう一つの方法は、空調服の布パーツではなく、小さな布等のシート状部材にファン取付部が設けられたファン取付部付きシートを予め作製しておき、これを、空調服における後側部の下方に相当する部位の布パーツに縫製により取り付ける方法である。以下では、便宜上、前者の方法を自シート方式による方法、後者の方法を他シート方式による方法と称する。
【0005】
自シート方式による方法では、縫製現場にてファン取付部を布パーツに作製する必要があるが、その布パーツとして、空調服そのものに使用する布を裁断したものを用いるので、外観上の違和感は少ない。一方、他シート方式による方法では、例えばファンの大きさに応じて適正な大きさの四角形の布を材料として、縫製現場とは別の場所でファン取付部付きシートを量産することができる。このため、かかる量産されたファン取付部付きシートを利用することにより、ファン取付部の加工に必要な設備や技能を所有しない一般的な縫製業者でも空調服を製造することが可能になる。ここで、経済的な観点からは、材料となる布として、空調服そのものに使用する布を使用することは合理的でなく、別の素材の布を使用することが望ましい。この場合、空調服に使用する布と、ファン取付部付きシートに使用される布とは異なる素材であるので、外観上の違和感が発生する場合もあるが、製造コストの面からは有利である。
【0006】
尚、従来、ほとんどの空調服では、ファンが後側部の二箇所に取り付けられている。しかしながら、腰が冷えすぎることや、自動車等に乗るときにファンが邪魔になることもあり、ファンを胴部分の真横の部位に取り付けることが要望される場合が多くある。
図12は一般的作業服の概略側面図である。通常、一般的作業服では、
図12に示すように、真横の位置で布パーツ200同士が縫合されている。ここで、その縫合により形成された縫い目210を破線で示している。空調服でも一般的作業服と同様に真横の位置で布パーツ200同士が縫合されているため、その縫合された部分には、自シート方式による方法でファン取付部を作製することが困難である。これに対し、他シート方式による方法では、ファン取付部付きシートを隣り合う布パーツ200にまたがって容易に取り付けることができるので、ファンを真横の位置に取り付けることが可能である。
【0007】
自シート方式、他シート方式のいずれの方法を用いて空気流通式マットや空調服等を製造することにしても、それに使用されるファンについては、空調効果を高めるため、ファン取付部から空気が漏れることがないようにファンをシート状部材にしっかりと取り付ける必要がある。一方、空気流通式マットや空調服等を洗濯する場合には、使用者がファンをシート状部材から簡単に取り外すことができるようにする必要がある。
【0008】
このため、空調服等に使用されるファンとしては、特許文献2における
図12に示された構造のものを用いることが望ましい。かかるファンは、ファン本体とこのファン本体をシート状部材に取り付けるための環状の係止部材とを備える。このファン本体は、中空状の筒状部と、筒状部の上端から筒状部の側面と略垂直な方向に突出するフランジ部とを有する。筒状部の外側に環状の係止部材を差し込んで、フランジ部の裏面と環状の係止部材におけるフランジ部に対向する端面とによってシート状部材に形成された開口孔の周囲におけるシート状部材の端部を挟み込むと共に、筒状部に設けられた係止片と環状の係止部材に設けられた突起とを係合させることにより、ファンがシート状部材に取り付けられる。
【0009】
空調服等に用いられるシート状部材は伸縮するので、ファン取付部として、単にシート状部材にファンを取り付けるための開口孔を形成しただけのものを用いたのでは、ファンに強い力が働いたときにファンがシート状部材から容易に取り外れてしまう。このため、特許文献2には、ファン取付部として、ファンを取り付けるための開口孔と、その開口孔の周囲におけるシート状部材の端部に設けられた非伸縮性素材とを備えるものを用いることが提案されている。具体的に、この非伸縮性素材を備えるファン取付部は、次のようして作製される。すなわち、まず、シート状部材の所定箇所に孔を形成した後、その孔の周囲におけるシート状部材の部分を裏側に折り返す。次に、その折り返したことにより重なっているシート状部材の間に、リング状の非伸縮性素材を挿入する。その後、非伸縮性素材が挿入されたシート状部材の部分に裏側から布地をあてがい、当該部分においてシート状部材及び布地を糸で縫う。こうして、開口孔が形成されると共にその周囲に非伸縮性素材が縫い込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4399765号公報
【特許文献2】再公表特許第WO2006/009108号公報
【特許文献3】特開2005-54299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したようなファン取付部の作製方法では、孔の周囲におけるシート状部材の部分を裏側に折り返し、その折り返したことにより重なっているシート状部材の間に非伸縮性素材を挿入する作業の際に、開口孔を正確な円形状に整えるのが難しく、その作業に手間がかかっていた。また、非伸縮性素材が挿入されたシート状部材の部分に裏側から布地をあてがい、その部分においてシート状部材及び布地を糸で縫う作業の際には、開口孔の形状を維持するように細心の注意を払う必要があり、その作業は手間がかかるだけでなく、熟練した者でなければ行うことができず、初心者にとっては難しい作業であった。
【0012】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、シート状部材にファン取付部を容易に作製することができるファン取付部付きシートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明は、筒状部とその筒状部の側面と略垂直な方向に突出するように筒状部に設けられた突出部とを有するファン本体と、筒状部の外側に差し込んで突出部と対向する状態でファン本体に装着される係止部材とを備えるファンを取り付けるためのファン取付部付きシートであって、ファンの筒状部を通すための開口孔が形成されたシート状部材と、ファンの筒状部の外縁の形状と略同じ形状の開口部を有し、表面及び裏面のうち一方の面が開口孔の周囲におけるシート状部材の端部に固着され、内側面が露出している伸縮性のない扁平な環状の補強手段と、を備え、筒状部を補強手段の開口部に挿入すると共に係止部材をファン本体に装着し、開口孔の周囲におけるシート状部材の端部及び補強手段の端部のうち少なくも補強手段の端部を突出部と係止部材との間で挟み込むことにより、ファンが取り付けられることを特徴とするものである。
【0014】
上記の構成により、本発明では、補強手段の表面及び裏面のうち一方の面を、開口孔の周囲におけるシート状部材の端部に固着している。このため、ファンを取り付けるためのファン取付部をシート状部材に作製する際に、従来のように、シート状部材を折り返し、その折り返した部分のシート状部材に補強手段を入れると共にその部分のシート状部材に裏布を当てるという作業を行う必要がないので、シート状部材にファン取付部を容易に作製することができる。また、伸縮性のない補強手段により開口孔の周囲におけるシート状部材の端部が伸び縮みしないようにして、当該端部を補強することができるので、たとえファンと補強手段との間、又はファンとシート状部材との間に強い力が加わっても、ファンがファン取付部から容易に外れてしまうことはない。更に、補強手段の内側面が露出していることにより、補強手段の表面及び裏面のうち一方の面だけをシート状部材の端部に固着することにすれば、補強手段の各面のうちシート状部材の端部に固着された一つの面以外の面はシート状部材で覆われることなく露出し、ファンを取り付けるためのファン取付部の内側面は補強手段の内側面となる。このため、補強手段の形状や大きさを精度よく作製することにより、ファン取付部の形状や大きさを高い精度で形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るファン取付部付きシートでは、シート状部材にファン取付部を容易に作製することができる。また、たとえファンと補強手段との間、又はファンとシート状部材との間に強い力が加わっても、ファンがシート取付部から容易に外れてしまうことはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は本発明の第一実施形態であるファン取付部付きシートの概略表面図、
図1(b)はそのファン取付部付きシートの概略裏面図、
図1(c)はそのファン取付部付きシートのA-A矢視方向概略部分断面図である。
【
図2】
図2(a)は空気流通式マットや空調服等に使用されるファンを第一実施形態のファン取付部付きシートの開口孔に差し込んだときの様子を示す概略側面図、
図2(b)はそのファンにおける環状の係止部材の概略側面図、
図2(c)はそのファンをファン取付部に取り付けたときの様子を示す概略側面図である。
【
図3】
図3はファンがファン取付部に取り付けられている様子を示す概略部分断面図である。
【
図4】
図4は第一実施形態のファン取付部付きシートの作製方法における第一工程及び第二工程を説明するための図である。
【
図5】
図5はそのファン取付部付きシートの作製方法における第三工程を説明するための図である。
【
図6】
図6は第一実施形態の変形例においてファンがファン取付部に取り付けられている様子を示す概略部分断面図である。
【
図7】
図7(a)は本発明の第二実施形態であるファン取付部付きシートの概略裏面図、
図7(b)はそのファン取付部付きシートのB-B矢視方向概略部分断面図である。
【
図8】
図8は第二実施形態のファン取付部付きシートの作製方法における第一工程及び第二工程を説明するための図である。
【
図9】
図9(a)は本発明の第三実施形態であるファン取付部付きシートの概略裏面図、
図9(b)はそのファン取付部付きシートを空調服の所定の布パーツに取り付けたときの状態を説明するための図である。
【
図10】
図10(a)は第三実施形態の変形例であるファン取付部付きシートの概略裏面図、
図10(b)はそのファン取付部付きシートのD-D矢視方向概略部分断面図である。
【
図11】
図11は本発明のファン取付部付きシートの代表的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は本発明の第一実施形態であるファン取付部付きシートの概略表面図、
図1(b)はそのファン取付部付きシートの概略裏面図、
図1(c)はそのファン取付部付きシートのA-A矢視方向概略部分断面図である。
図2(a)は空気流通式マットや空調服等に使用されるファンを第一実施形態のファン取付部付きシートの開口孔に差し込んだときの様子を示す概略側面図、
図2(b)はそのファンにおける環状の係止部材の概略側面図、
図2(c)はそのファンをファン取付部に取り付けたときの様子を示す概略側面図である。
図3はファンがファン取付部に取り付けられている様子を示す概略部分断面図である。
【0019】
第一実施形態のファン取付部付きシートは、空気を流通させることにより人体から出た汗を蒸発させる空気流通式マットや空調服等に使用されるファンを取り付けるためのファン取付部が所定のシート状部材に設けられたものである。このファン取付部付きシート1は、
図1に示すように、シート状部材10と、開口孔20と、伸縮性のない扁平な環状の補強部材(補強手段)30とを備える。シート状部材10はファン取付部が設けられる対象であり、ファン取付部は、開口孔20と、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部と、補強部材30とから構成される。
【0020】
第一実施形態のファン取付部付きシート1は、自シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いられるものである。このため、シート状部材10としては、空調服そのものに使用する布を裁断したものを用いている。このシート状部材10の素材は、例えば通常の織布である。尚、シート状部材10には表裏がある。すなわち、ファン取付部付きシート1を用いて製造した空調服の表側に位置する面がシート状部材10の表面であり、その空調服の裏側に位置する面がシート状部材10の裏面である。また、シート状部材10の表裏の位置関係に倣って、各部において、シート状部材10の表面と同じ位置関係にある側の面を表面、シート状部材10の裏面と同じ位置関係にある側の面を裏面とも称することにする。
【0021】
いま、空気流通式マットや空調服等に使用されるファン100について簡単に説明する。このファン100は、
図2に示すように、モータやプロペラが収納されるファン本体110と、ファン本体110に装着される環状の係止部材120とを備える。ファン本体110は、筒状部111と、この筒状部111の上端から筒状部111の側面と略垂直な方向に突出するフランジ部112とを有する。筒状部111をその中心軸に垂直な平面で切ったときの断面の外形は円形である。ここで、筒状部111の外径Fは、64.5mmである。また、係止部材120は、ファン本体110をファン取付部付きシート1のファン取付部に取り付けるための専用具である。ファン本体110の筒状部111には、二つの係止爪113が設けられている。一方、係止部材120の内面には、各係止爪113と係合して、係止部材120を筒状部111の外表面に固定するための突起部(不図示)が設けられている。このため、係止部材120を筒状部111の外側に差し込んでファン本体110と係合させることにより、係止部材120を、フランジ部112と対向する状態でファン本体110に容易に装着することができる。
【0022】
ファン取付部付きシート1における開口孔20は、ファン100の筒状部111を通すためのものであり、シート状部材10の所定箇所に形成されている。第一実施形態では、
図1(a),(b)に示すように、開口孔20の形状は円形である。この開口孔20の直径は、筒状部111の外径Fと略同じかそれよりも大きい。第一実施形態では、筒状部111の外径Fと略同じ直径を有する開口孔20をシート状部材に形成している。
【0023】
補強部材30は、ファン100の筒状部111の外縁の形状と略同じ形状の開口部を有する扁平な環状のものである。第一実施形態では、
図1(b)に示すように、補強部材30は円環状のものであり、筒状部111の外径Fと略同じ大きさの内径(開口部の直径)を有する。したがって、補強部材30の内径と開口孔20の直径とは略同じである。この補強部材30の素材としては、洗濯可能なものであって、伸縮性があまりなく、しかも、縫合可能な素材が用いられる。具体的には、プラスチック、樹脂含浸布、人工皮革、伸縮性のないゴムのいずれかの素材を用いることができる。特に、第一実施形態では、補強部材30として、ポリプロピレン製のものであって、厚さが0.5mm、内径が65mm、外径が73mm、幅が4mmであるものを用いる。実際、かかる補強部材30は、ポリプロピレン製のシートを打ち抜き加工することにより高い精度で容易に製造することができる。尚、補強部材30としては不透明なものを用いている。
【0024】
また、補強部材30は、シート状部材10の裏面であって、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部に固着される。すなわち、補強部材30の表面が開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部に固着されている。具体的には、補強部材30と開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部とを糸40で縫合することにより、補強部材30をシート状部材10に固着している。ここで、
図1(a),(b)では、この縫合作業によって形成された縫い目41を破線で示している。また、補強部材30とシート状部材10とは、補強部材30の略中央付近において円形に縫合されている。このとき、補強部材30の各面のうちシート状部材10の端部に固着された面以外の面はシート状部材10で覆われることなく露出している。したがって、
図1(c)に示すように、補強部材30の内側面31は露出している。
【0025】
ここで、補強部材30の内径・外径と開口孔20の直径との関係を説明する。一般に、開口孔20の直径は、補強部材30の内径(開口部の直径)と略同じかそれよりも大きくする。開口孔20の直径を補強部材30の内径よりも大きくする場合には、補強部材30の外径は開口孔20の直径よりも大きくしなければならない。補強部材30を開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部に取り付ける必要があるからである。上述のように、第一実施形態では、補強部材30の内径と略同じ大きさの直径を有する開口孔20をシート状部材10に形成している。これにより、補強部材30を開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部に固着すると、
図1(c)に示すように、補強部材30の下側の面(表面)の全体が開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部に接し、
図1(a)に示すように、シート状部材10の表側からは補強部材30を見ることはできない。
【0026】
ところで、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部には布の強化処理を施す必要がある。例えば、二枚の織布を縫合した場合、使用中に二枚の織布を引き剥がす方向の力がその二枚の織布に加わることもあるので、二枚の織布には、使用目的に応じた十分な縫合強度が必要である。実際、二枚の織布を単に重ね合わせて縫合しただけでは、その縫合した部分において二枚の織布を引き剥がす方向に力が加わると、その縫合した部分から端縁の側に位置する糸がほつれてしまい、二枚の織布は簡単に引き剥がれてしまう。これを防止するための一般的な方法として、例えば、二枚の織布のそれぞれについて端縁の部分を折り返して二重にする処置を施した後に、その二重にした部分を重ね合わせて二枚の織布を縫合する方法がある。また、縫合する対象の一方が布であり、他方がほつれることのない素材のものである場合でも、その布には強化処理を施す必要がある。したがって、布の強化処理とは、少なくとも一方が布製である二つの部材を縫合する場合に、縫合後の二つの部材が十分な強度を保持するようにするための処理と、布製の部材について糸のほつれを防ぐための処理との両方の処理を意味する。
【0027】
第一実施形態のファン取付部付きシート1では、
図1(c)に示すように、シート状部材10の裏面であって、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の部分Xには、アンカー効果を利用した布の強化処理が施されている。具体的には、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の部分Xに所定の樹脂を溶着することにより、シート状部材10の当該部分Xの強度を高めると共に糸のほつれを防止することにしている。そして、補強部材30の内縁と開口孔20との位置を正確に合わせた後に、
図1(a),(b)に示すように、補強部材30と開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部とを糸40で円状に縫合して一体化している。
【0028】
第一実施形態のファン取付部付きシート1にファン100を取り付けるには、まず、ファン本体110の筒状部111を補強部材30の開口部に挿入して、
図2(a)に示すように、フランジ部112の下側の面が、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の縁部と接するようにする。次に、係止部材120を筒状部111の外側に差し込むことにより、
図3に示すように、開口孔20の周囲におけるシート状部材10の端部及び補強部材30の端部を、フランジ部112の下側の面と係止部材120の上側の面との間で挟み込むと共に、その挟み込んだ状態で筒状部111に設けられた係止爪113と係止部材120に設けられた突起部とを係合させることにより、係止部材120をファン本体110に装着する。こうして、
図2(c)に示すように、ファン100がファン取付部に取り付けられる。ここで、ファン100をファン取付部に取り付けたときには、補強部材30と係止部材120とが直接接すると共に、補強部材30の内側面31が筒状部111の外側面に直接接するようになっている。
【0029】
次に、第一実施形態のファン取付部付きシート1の作製方法について説明する。
第一実施形態のファン取付部付きシート1の作製方法は、シート状部材10の所定部分に布の強化処理を施す第一工程と、シート状部材10に開口孔20を形成する第二工程と、補強部材30とシート状部材10とを縫合する第三工程とからなる。
図4は第一実施形態のファン取付部付きシート1の作製方法における第一工程及び第二工程を説明するための図、
図5はそのファン取付部付きシート1の作製方法における第三工程を説明するための図である。
【0030】
第一工程を行う際には、
図4(a)に示すような円形状の強化処理用シート60を用意しておく。この強化処理用シート60はポリプロピレン製のものであって、その直径は75mm、厚さは約0.2mmである。第一工程では、まず、
図4(b)に示すように、強化処理用シート60を、シート状部材10の下に配置する。
【0031】
次に、
図4(b)に示すように、リング状の押し面を有する超音波溶着機用のホーン70を、それ自身の中心軸と強化処理用シート60の中心軸とが一致するようにして、シート状部材10の上に押し当てる。ここで、超音波溶着機用のホーン70の内径は筒状部111の外径Fよりも小さい。一方、ホーン70の外径は強化処理用シート60の直径よりも大きいことが望ましい。その後、ホーン70を超音波振動させると、強化処理用シート60のうちホーン70に対応する部分が溶融又は軟化し、シート状部材10の裏面に食い込むようになる。こうして、シート状部材10の裏面の所定部分にはポリプロピレンの樹脂が溶着され、これにより、当該部分の強度が高められる。
図4(c)では、シート状部材10をその裏面の側から見たときにポリプロピレンの樹脂が溶着された、すなわち強化処理が施されたリング状の部分Xを斜線で示している。
【0032】
次に、第二工程では、筒状部111の外径Fと略同じ大きさの径の切断刃を有する切断機を用い、
図4(d)に示すように、強化処理が施された部分Xを切断することにより、シート状部材10に開口孔20を開ける。これにより、この部分Xの幅は狭くなる。ここで、強化処理された部分Xにはポリプロピレンの樹脂が溶着されているので、その切断面に位置する糸がほつれてしまうということはない。
【0033】
次に、第三工程では、ミシンを用いて補強部材30とシート状部材10との縫合作業を行う。この第三工程における縫合作業では、所定の縫製用ジグが用いられる。この縫製用ジグ81は、
図5(a)に示すように、略円柱状に形成されている。ここで、縫製用ジグ81の外径は補強部材30の内径と略同じである。また、縫製用ジグ81の上部には面取りが施されている。この第三工程では、まず、
図5(b)に示すように、ミシンのテーブル82上に縫製用ジグ81を載置する。次に、その縫製用ジグ81に補強部材30を差し込む。その後、第一工程においてポリプロピレンの樹脂が溶着された面を下にして、シート状部材10を縫製用ジグ81に差し込む。こうして、補強部材30とシート状部材10とが重ね合わされる。次に、
図5(b)に示すように、ミシンの押さえ金の柱部83を縫製用ジグ81の側壁に直角に当てた状態で、ミシンを用いて補強部材30とシート状部材10とを円状に縫合する。こうして、第一実施形態のファン取付部付きシート1が作製される。
【0034】
尚、上記の第一工程では、樹脂をシート状部材10に溶着することにより布の強化処理を行う場合について説明したが、例えば、市販されているほつれ留め剤をシート状部材10に塗布することにより布の強化処理を行うようにしてもよい。また、例えば、シート状部材10として、レインウエアに使用する素材のように、ラミネート加工が施され、糸のほつれがなく、しかも縫合に対して十分な強度を有するものを用いた場合等には、シート状部材10の所定部分に布の強化処理を施す第一工程は省略することができる。
【0035】
第一実施形態のファン取付部付きシートでは、補強部材を、開口孔の周囲におけるシート状部材の端部に固着していることにより、ファン取付部付きシートを作製する際に、従来のように、シート状部材を折り返し、その折り返した部分のシート状部材に補強部材を入れると共にその部分のシート状部材に裏布を当てるという作業を行う必要がないので、シート状部材にファン取付部を容易に作製することができる。また、伸縮性のない補強部材により開口孔の周囲におけるシート状部材の端部が伸び縮みしないようにして、当該端部を補強することができるので、たとえファンと補強部材との間、又はファンとシート状部材との間に強い力が加わっても、ファンがシート取付部から容易に外れてしまうことはない。更に、補強部材の各面のうちシート状部材の端部に固着された一つの面以外の面はシート状部材で覆われることなく露出していることにより、ファン取付部の内側面は補強部材の内側面であるので、補強部材の形状や大きさを精度よく作製すれば、ファン取付部の形状や大きさを高い精度で形成することができる。
【0036】
また、第一実施形態のファン取付部付きシートでは、補強部材の表面の全体がシート状部材により完全に覆われていることにより、ファンをファン取付部から取り外したときに、補強部材が外部から見ることができないので、空調服等の見栄えが悪くなることはない。更に、シート状部材の裏面であって開口孔の周囲におけるシート状部材の部分には、アンカー効果を利用した布の強化処理を施したことにより、当該部分における糸のほつれを効果的に防止することができる。また、補強部材と強化処理が施されたシート状部材の部分とを縫合したことにより、補強部材をシート状部材に強固に取り付けることができる。
【0037】
尚、上記の第一実施形態では、補強部材の内径と略同じ大きさの直径を有する開口孔をシート状部材に形成し、補強部材の表面の全体がシート状部材で覆われている場合について説明したが、開口孔の直径は補強部材の内径(開口部の直径)よりも大きくしてもよい。
図6はこの第一実施形態の変形例においてファンがファン取付部に取り付けられている様子を示す概略部分断面図である。この場合には、
図6に示すように、補強部材30の上側の面(表面)の一部だけがシート状部材10で覆われることになり、ファン100をファン取付部に取り付けたときには、開口孔20の周囲における補強部材30の端部だけが、フランジ部112の下側の面と係止部材120の上側の面との間で挟み込まれることになる。
【0038】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態であるファン取付部付きシートについて説明する。
図7(a)は本発明の第二実施形態であるファン取付部付きシートの概略裏面図、
図7(b)はそのファン取付部付きシートのB-B矢視方向概略部分断面図である。尚、第二実施形態において、第一実施形態のものと同一の機能を有するものには、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0039】
第二実施形態のファン取付部付きシート1aは、
図7に示すように、シート状部材10aと、開口孔20と、伸縮性のない扁平な環状の補強部材(補強手段)30aとを備える。このファン取付部付きシート1aは、主に自シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いられるものである。第二実施形態のファン取付部付きシート1aが第一実施形態のファン取付部付きシート1と異なる点は、シート状部材10aに対して布の強化処理として一般的な縫製作業で行われているほつれ留めを採用している点、補強部材30aとして透明なものを用いている点である。その他の構成は第一実施形態と同様である。
【0040】
具体的には、
図7(b)に示すように、開口孔20の周囲におけるシート状部材10aの端部には複数の切り込み13が入れられ、その切り込み13が入れられたシート状部材10aの部分は裏側に折り返されている。ここで、切り込み13が入れられたシート状部材10aの部分を「切込部14」とも称することにする。そして、各切込部14とそれに重なっているシート状部材10aの部分とは接着されている。このように、第二実施形態では、開口孔20の周囲におけるシート状部材10aの端部を二重にして、その強度を高めると共に糸のほつれを防止している。また、補強部材30aは、
図7(c)に示すように、シート状部材10aの裏面であって、開口孔20の周囲におけるシート状部材10aの端部(二重になっている部分)に固着される。
【0041】
次に、第二実施形態のファン取付部付きシート1aの作製方法について説明する。
第二実施形態のファン取付部付きシート1aの作製方法は、シート状部材10aに開口孔20と切り込み13を形成する第一工程と、シート状部材10aの所定部分に布の強化処理を施す第二工程と、補強部材30aとシート状部材10aとを縫合する第三工程とからなる。
図8は第二実施形態のファン取付部付きシート1aの作製方法における第一工程及び第二工程を説明するための図である。ここで、
図8(d)は
図8(c)におけるC-C矢視方向概略断面図である。
【0042】
第一工程では、専用の切断機を用い、
図8(a)に示すように、シート状部材10aの所定箇所に開口孔20を開けると共に、その開口孔20の周囲におけるシート状部材10aの端部に多数の切り込み13を入れる。ここで、第一工程では、開口孔20として、直径55mmの円形の孔が開けられる。また、多数の切り込み13は、開口孔20の端縁である直径55mmの円C1と直径65mmの円C2とで囲まれるシート状部材10のリング状部分に放射状に入れられる。このリング状部分は、切り込み13により区分された多数の切込部14からなる。
【0043】
尚、シート状部材10に入れる切り込み13の長さである上記の65mmという数値は、ファン100の筒状部111の外径64.5mmに対応する数値である。しかしながら、空調服等に使用するシート状部材10は伸縮性を有するので、上記の数値は切り込み13の厳密な長さを規定するものではない。同様に、本明細書において、シート状部材10の寸法等について記述された数値も厳密な値を規定するものではない。
【0044】
次に、第二工程による作業を行う。この第二工程による作業を行う際には、リング状の接着用シート15を用意しておく。この接着用シート15はポリプロピレン製のものであって、その内径が65mm、外径が75mm、厚さが0.2mmのものである。第二工程では、まず、シート状部材10aを、その裏面が上になるようにしてアイロン台の上に置く。そして、
図8(b)に示すように、接着用シート15を、それ自身の中心軸が開口孔20の中心軸に一致するようにして、シート状部材10aの上に配置する。その後、
図8(c)に示すように、シート状部材10aにおける切込部14を接着用シート15の上に折り返す。このとき、アイロンを使用し、そのアイロンの先端で各切込分14を折り返しながら圧すると、折り返したところに折り目を付けることができるので、各切込部14が元の状態に戻ってしまうのを確実に防止することができる。尚、切込部14を折り返す際には、アイロンに限らず、専用の装置を用いて機械的に行うようにしてもよい。
【0045】
次に、上記第一実施形態で用いた超音波溶着機用のホーン70を、折り返された切込部14に対応する部分のシート状部材10aの上に押し当てる。そして、ホーン70を超音波振動させると、接着用シート15が溶融し、
図8(d)に示すように、その溶融した接着用シート(ポリプロピレンの樹脂)により各切込部14とそれに重なっているシート状部材10aの部分とが接着される。このように、開口孔20の周囲におけるシート状部材10aの端部が二重になっていることにより、当該端部の強度を高めると共に糸のほつれも防止することができる。また、第二工程では各切込部14を折り返したため、開口孔20の直径は55mmから65mmに拡大している。
【0046】
尚、上述のように、ポリプロピレン製の接着用シート15は切込部14をそれに重なっているシート状部材10aの部分に接着させるための接着剤として用いられている。したがって、接着用シートとしては、ポリプロピレン製の接着用シート15に限らず、接着剤の効果を奏するシートであれば、各種の素材のものを使用することができる。この場合、接着方法としては、超音波溶着による方法に限らず、ヒーターによる熱溶着等、その使用する素材に応じた接着方法を用いることができる。
【0047】
次に、第三工程では、ミシンを用いて補強部材30aとシート状部材10との縫合作業を行う。この第三工程における縫合作業は、上記第一実施形態における第三工程と同様である。ここで、
図7(a)では、この縫合作業によって形成された円形状の縫い目41を破線で示している。こうして、
図7に示すようなファン取付部付きシート1aが作製される。
【0048】
第二実施形態のファン取付部付きシートは、第一実施形態のファン取付部付きシートと略同様の作用・効果を奏する。但し、第二実施形態のファン取付部付きシートを作製する際には、開口孔の周囲におけるシート状部材の端部を折り返して接着する作業を行う必要があるので、この点で、第二実施形態のファン取付部付きシートと第一実施形態のファン取付部付きシートとを比べると、後者の方が容易に作製することができるといえる。
【0049】
尚、この第二実施形態では、補強部材として透明なものを用いているが、率直に言って、補強部材としては不透明なものを用いる方が望ましい。補強部材が透明である場合には、空調服の裏側からファン取付部を見たときに、切込部が折り返しされている状態が見えてしまい、見栄えがよくないからである。
【0050】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態であるファン取付部付きシートについて説明する。
図9(a)は本発明の第三実施形態であるファン取付部付きシートの概略裏面図、
図9(b)はそのファン取付部付きシートを空調服の所定の布パーツに取り付けたときの状態を説明するための図である。ここで、
図9(b)は、空調服の裏側から見たときの状態を示している。尚、第三実施形態において、第一実施形態のものと同一の機能を有するものには、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0051】
第三実施形態のファン取付部付きシート1bは、
図9(a)に示すように、シート状部材10bと、開口孔20と、伸縮性のない扁平な環状の補強部材(補強手段)30とを備える。第三実施形態のファン取付部付きシート1bが第一実施形態のファン取付部付きシート1と異なる点は、このファン取付部付きシート1bが他シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いられる点である。具体的には、第一実施形態では、シート状部材10として例えば空調服そのものに使用する布パーツを用いるため、シート状部材10の大きさはファン取付部の大きさよりもかなり大きいのに対し、第三実施形態では、シート状部材10bとして、
図9(a)に示すように、ファン取付部の大きさよりも少し大きい四角形状に形成されたものを用いている。その他の構成は第一実施形態と同様である。
【0052】
このように、第三実施形態では、ファン取付部付きシート1bが他シート方式による方法での空調服等の製造に用いられるものであるので、縫製現場とは別の場所でファン取付部付きシート1bを量産することができる。このため、かかる量産されたファン取付部付きシート1bを利用することにより、ファン取付部の加工に必要な設備や技能を所有しない一般的な縫製業者でも空調服等を製造することができるようになる。
【0053】
具体的に、第三実施形態のファン取付部付きシート1bを用いて空調服を製造する場合には、まず、ファンの取り付け部位に対応する空調服の布パーツの所定箇所に、シート状部材10bの大きさよりも少し小さい大きさの四角形状の孔を開ける。その後、
図9(b)に示すように、その孔の周囲における布パーツ200の部分にシート状部材10bの端部を縫合することにより、布パーツ200にファン取付部付きシート1bが取り付けられる。ここで、
図9(b)では、この縫合作業によって形成された四角形状の縫い目42を破線で示している。尚、布パーツ200に第三実施形態のファン取付部付きシート1bを取り付けたものを、ファン取付部付きシートとみなし、これを自シート方式による方法で空調服等の製造に用いるようにしてもよい。
【0054】
第三実施形態のファン取付部付きシートは、第一実施形態のファン取付部付きシートと略同様の作用・効果を奏する。
【0055】
ところで、通常、空調服では、
図12に示す一般的作業服と同様に、真横の位置で布パーツ200同士が縫合されており、自シート方式による方法では、その空調服の真横の位置にファン取付部を作製することが困難である。これに対し、他シート方式による方法では、ファン取付部付きシート1bを隣り合う布パーツ200にまたがって容易に取り付けることができる。したがって、第三実施形態のファン取付部付きシートを用いると、ファンを空調服の真横の位置に設けることが可能になる。これにより、例えば、自動車等に乗るときにファンが邪魔になるのを回避することができる。
【0056】
尚、第三実施形態では、シート状部材を四角形状に形成した場合について説明したが、シート状部材の形状は、四角形状に限らす、三角形状や円形状等であってもよい。
【0057】
(第三実施形態の変形例)
次に、第三実施形態の変形例について説明する。
図10(a)は第三実施形態の変形例であるファン取付部付きシートの概略裏面図、
図10(b)はそのファン取付部付きシートのD-D矢視方向概略部分断面図である。
【0058】
第三実施形態の変形例であるファン取付部付きシート1cは、
図10に示すように、シート状部材10cと、開口孔20と、伸縮性のない扁平な環状の補強部材(補強手段)30cとを備える。この変形例では、シート状部材10cの素材と補強部材30cの素材とが同じであり、シート状部材10cと補強部材30cとは一体的に成型されている。このファン取付部付きシート1cでも、補強部材30cの表面が開口孔20の周囲におけるシート状部材10cの端部に固着されていると考えることができる。具体的には、シート状部材10cの素材と補強部材30cの素材としてプラスチックを用いることができる。この場合には、射出成型等の方法により、シート状部材10cと補強部材30cとの一体成型物を容易に作製することができる。
【0059】
尚、上記プラスチックについて、補強部材30cに要求される強度とシート状部材10cに要求される縫合性等とを両立することができる厚みの存在が確認されれば、射出成型等によらず、上記厚みのプラスチックシートを単に打ち抜き加工することにより、シート状部材10cと補強部材30cとの一体成型物を作製することが可能である。
【0060】
本変形例におけるその他の構成は上記第三実施形態と同様であり、この変形例のファン取付部付きシートは上記第三実施形態のファン取付部付きシートと略同様の作用・効果を奏する。
【0061】
[その他の実施形態]
尚、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0062】
例えば、上記の各実施形態では、ファンの筒状部をその中心軸に垂直な平面で切ったときの断面の外形が円形である場合について説明したが、筒状部をその中心軸に垂直な平面で切ったときの断面の外形は例えば四角形であってもよい。この場合、ファン取付部における開口孔の形状を、円形から筒状部の外形形状に対応する形状に変更すると共に、補強部材や縫製用ジグとしては、筒状部の外形形状に対応する形状のものを用いればよい。
【0063】
また、上記の各実施形態では、フランジ部を有するファンを本発明のファン取付部付きシートに取り付ける場合について説明したが、一般に、筒状部とその筒状部の側面と略垂直な方向に突出するように筒状部に設けられた突出部とを有するファン本体と、筒状部の外側に差し込んで突出部と対向する状態でファン本体に装着される係止部材とを備えるファンであれば、どのようなファンも、本発明のファン取付部付きシートに取り付けることができる。例えば、ファンとしては、ファンが取り付けられたときに補強部材の裏面と突出部とが直接接するように構成されたものであってもよい。
【0064】
また、上記の第一又は第二の実施形態においては、ファン取付部付きシートを、自シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いる場合について説明したが、かかるファン取付部付きシートを、他シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いるようにしてもよい。
【0065】
更に、上記の各実施形態では、補強部材とシート状部材とを、補強部材の略中央付近において円形に縫合する場合について説明したが、例えば、補強部材とシート状部材とを、補強部材の内縁に近い部位と外縁に近い部位とにおいて二重に縫合するようにしてもよい。また、ジグザグに縫合するようにしてもよい。
【0066】
また、上記の各実施形態において、着心地等の観点から、シート状部材としては可撓性を有するものを用いることが望ましい。但し、第三実施形態の変形例において、ファンとして小さいサイズのものを用いる場合等には、シート状部材として必ずしも可撓性を有するものを用いる必要はない。
【0067】
また、上記の第一又は第二の実施形態では、シート状部材の素材として通常の織布を用いる場合について説明した。空調服においては、その性格上、シート状部材が透湿性を有することは必ずしも要求されない。このため、空調服の使用目的によっては、シート状部材の素材として、安価な素材、例えばビニールシート等のプラスチックシートを使用することもできる。
【0068】
更に、上記の各実施形態では、補強部材と開口孔の周囲におけるシート状部材の端部とを縫合することにより、補強部材をシート状部材に固着する場合について説明したが、補強部材とシート状部材とが溶着可能な素材で作製されている場合には、補強部材と開口孔の周囲におけるシート状部材の端部とを溶着することにより補強部材をシート状部材に固着するようにしてもよい。
【0069】
以上、本発明のファン取付部付きシートを実施するための形態を具体的に説明した。最後に、そのまとめとして、
図11に本発明のファン取付部付きシートの代表的な構成を示す。ここで、
図11(a)~(d)は自シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いるファン取付部付きシートの構成例であり、
図11(e)~(g)は他シート方式による方法で空調服等を製造する際に用いるファン取付部付きシートの構成例である。また、
図11(e)~(g)では、ファン取付部付きシートを空調服等の布パーツに取り付けた状態を示している。
【0070】
これら各例に共通の特徴としては、補強部材の各面のうちシート状部材の端部に固着された面以外の面がシート状部材で覆われることなく露出している点を挙げることができる。但し、空調服等の見栄えをよくするため何らかの方法で補強部材の表面及び裏面のうち露出している面を覆い隠すこともある。この場合でも、補強部材の内側面が露出しており、ファンが取り付けられたときに補強部材の内側面とファンの筒状部の外側面とが直接接するようになることにかわりはない。補強部材の表面及び裏面のうち一方の面だけをシート状部材の端部に固着している通常の場合、ファンをファン取付部に取り付けたときには、補強部材と係止部材とが直接接すると共に、補強部材の内側面が筒状部の外側面に直接接するようになっている。
【0071】
図11(a)に示すファン取付部付きシートは、第一実施形態におけるものである。補強部材30の表面の全体がシート状部材10で覆われており、シート状部材10の表側からは補強部材30を見ることはできない。また、補強部材30とシート状部材10とは糸40で縫合されている。
【0072】
図11(b)に示すファン取付部付きシートでは、補強部材30とシート状部材10とを溶着可能な素材で作製している。そして、補強部材30とシート状部材10とを溶着することにより補強部材30をシート状部材10に固着している。
【0073】
図11(c)に示すファン取付部付きシートでは、補強部材30を、シート状部材10の表面であって、開口孔の周囲におけるシート状部材10の端部に固着している。すなわち、補強部材30の裏面が開口孔の周囲におけるシート状部材10の端部に固着されている。これにより、補強部材30を目立たせて、デザインの一部として利用することができる。
【0074】
図11(d)に示すファン取付部付きシートは、
図6に示したものである。補強部材30の表面の一部だけがシート状部材10で覆われており、シート状部材10の表側から補強部材30の一部を見ることができる。
【0075】
図11(e)に示すファン取付部付きシートは、第三実施形態におけるものである。このファン取付部付きシート1bは布パーツ200に糸40で縫合されている。
【0076】
図11(f)に示すファン取付部付きシートは、第三実施形態の変形例におけるものである。シート状部材10cの素材と補強部材30cの素材とが同じであり、シート状部材10cと補強部材30cとは一体的に成型されている。また、ファン取付部付きシート1cは布パーツ200に糸40で縫合されている。
【0077】
図11(g)に示すファン取付部付きシートでも、シート状部材10cの素材と補強部材30cの素材とが同じであり、シート状部材10cと補強部材30cとは一体的に成型されている。但し、その素材がある程度の強度を有するため、一体成型物の厚さを全体的に均一にしている。この11(g)に示すファン取付部付きシートは、
図11(f)に示すファン取付部付きシートにおいて補強部材の厚さをゼロに近づけたときのものであると考えることができる。
【0078】
尚、
図11に示した各構成例は代表例であり、当然、本発明のファン取付部付きシートの構成はこれらに限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明のファン取付部付きシートでは、補強手段の表面及び裏面のうち一方の面を、開口孔の周囲におけるシート状部材の端部に固着している。このため、ファンを取り付けるためのファン取付部をシート状部材に作製する際に、従来のように、シート状部材を折り返し、その折り返した部分のシート状部材に補強手段を入れると共にその部分のシート状部材に裏布を当てるという作業を行う必要がないので、シート状部材にファン取付部を容易に作製することができる。また、伸縮性のない補強手段により開口孔の周囲におけるシート状部材の端部が伸び縮みしないようにして、当該端部を補強することができるので、たとえファンと補強手段との間、又はファンとシート状部材との間に強い力が加わっても、ファンがファン取付部から容易に外れてしまうことはない。したがって、本発明は、空気流通式マットや空調服等に使用するのに好適である。
【符号の説明】
【0080】
1,1a,1b,1c ファン取付部付きシート
10,10a,10b,10c シート状部材
13 切り込み
14 切込部
15 接着用シート
20 開口孔
30,30a,30c 補強部材(補強手段)
31 内側面
40 糸
41,42 縫い目
60 強化処理用シート
70 超音波溶着機用のホーン
81 縫製用ジグ
82 ミシンのテーブル
83 ミシンの押さえ金の柱部
100 ファン
110 ファン本体
111 筒状部
112 フランジ部(突出部)
113 係止爪
120 係止部材
200 布パーツ
210 縫い目