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特開2024-151882デジタルPCR法にて細菌数を正確に測定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151882
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】デジタルPCR法にて細菌数を正確に測定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20241018BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20241018BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241018BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20241018BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12Q1/689 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 A
C12M1/34 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065657
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】仁井見 英樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB02
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA03
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR72
4B063QR75
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 デジタルPCR法によって、正確な菌数を測定する。
【解決手段】 ターゲット遺伝子をrpoB遺伝子とし、rpoBフォーワードプライマーあるいはrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と、rpoBリバースプライマーあるいはrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物とを含む、プライマーペア、およびrpoBプローブ混合物を用いることによって、デジタルPCR法で正確な菌数を測定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも1種のrpoBフォーワードプライマーと;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも1種のrpoBリバースプライマーと;
を含む、プライマーペア。
【請求項2】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項3】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項4】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項5】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも15種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも12種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項6】
(a)配列番号1~19からなるrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなるrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項7】
(1)請求項1~6のいずれか1項に記載のプライマーペアと;
(2)配列番号34~43からなるrpoB TaqManプローブを含むプローブ混合物と;
を含む、PCR用試薬。
【請求項8】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項9】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項10】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項11】
(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも15種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも12種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項12】
(a)配列番号1~19からなるrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなるrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
【請求項13】
(1)請求項1~6のいずれか1項に記載のプライマーペアと;
(2)配列番号34~43からなるrpoB TaqManプローブを等量ずつ含むプローブ混合物と;
を含む、PCR用試薬。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載のプライマーペアを用いてデジタルPCRを行う、検体中の菌の定量方法。
【請求項15】
請求項7に記載のPCR試薬を用いる、請求項14に記載の定量方法。
【請求項16】
上記(15)を迅速無菌検査に用いる場合、検体中の菌の増殖の有無を判定する方法であって、
(1)培養前の検体中の菌の核酸を抽出する工程、
(2)検体を培養する工程、
(3)培養後の検体中の菌の核酸を抽出する工程
(4)培養前後の核酸について、請求項7に記載のデジタルPCR試薬を用いてデジタルPCRを行う工程、
(5)培養前後で核酸が増加した場合に、検体中の菌が増殖したと判定する工程、
を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルPCR法の細菌定量検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、感染症の重症度を反映するバイオマーカーとして、プロカルシトニン、プレセプシン、体温、白血球数、CRPなどがある。これらのバイオマーカーは感染症の重症度とある程度は相関するが、必ずしもその時点での重症度を正確に反映している訳ではない。
【0003】
そこで、「患者検体中の起炎菌数(菌数/mL)」を正確に測定することが出来れば、菌数を感染症の重症度を正確に判断するための新規バイオマーカーとして使用できるようになる。本発明者は、特定のプライマーを用いたリアルタイムPCR法を用いて、菌の定量を行う方法や(特許文献1)、特定のDNAポリメラーゼを用いたPCR法を用いて、正確・高感度に菌の定量を行う方法(特許文献2)を提唱してきた。
【0004】
また、局方に記載された従来の微生物試験法では「無菌」の判定までに1週間以上(7~14日)を要する。例えば、図1に示す通り、従来法(最もスタンダードな方法)では液体培地に試料を混入後、培地の混濁の有無を目視で確認することになるが、培地の混濁には多量の菌数が必要となるため、無菌の確認には14日間の培養時間を要する。局方に記載された迅速無菌検査法であるバクテアラート法は、細菌の排出するCO2の有無を検出するが、CO2の検出にはそれなりの菌数が必要となるため、無菌の確認には7日間の培養時間を要する。つまり、従来法もバクテアラート法も検出感度が低いため、無菌を判定するために多くの培養時間が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2019/123692
【特許文献2】WO2010/082640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デジタルPCR法(digital PCR)は核酸を定量する目的で開発された方法である。この方法を用いて特に患者検体中の菌数を正確に測定することが出来れば、感染症における臨床検査の新規技術として非常に有用となる。しかし、デジタルPCR法で正確な菌数を定量しようとする場合、16SリボソームRNA(ribosomal RNA)遺伝子をターゲットとすると、1つの菌に複数の16SリボソームRNA遺伝子が含まれる(operon copy numberとして菌種毎に含まれる遺伝子数は異なる)ため、DNAが断片化した際に、真の菌数より多く算出され、正確な菌数を測定するのが困難である。特に、臨床検体中の菌数を測定する場合、正確な菌数の測定が必須となり、デジタルPCR法を使用することが困難となる。また、多くの種類の菌に関して、迅速に検体中の菌の有無を判定する方法が求められている。従って、DNAが断片化しても、デジタルPCR法で正確に菌数の測定が行える技術的工夫が強く求められている。
【0007】
ところで、無菌検査法に関して、日本薬局方に記載された従来の微生物試験法では「無菌」の判定までに1週間以上(7~14日)を要するので、その間、無菌性製品(医薬品等)の出荷前の物流コストがかかる。また、万が一、その無菌性製品に微生物感染が判明すれば、その間に製造した無菌性製品は全て破棄しなければならなくなる。さらに、再生医療等製品は作成後直ぐに使用しなければならず、現行の無菌検査では間に合わない。つまり、社会的にも医療的にも迅速な無菌検査の実現が求められている。そして無菌検査もまたデジタルPCR法で実施出来れば非常に有用となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
16SリボソームRNA遺伝子は、菌種毎に1個の細菌が保持する遺伝子数(operon copy number)が異なり、複数個を保持するため(例えばE.coliは1個の細菌中に7つの16SリボソームRNA遺伝子を保持する)、DNAが断片化するとデジタルPCRでの菌数測定は、実際より増えることになる。
【0009】
この問題を解決するため、以下のプライマー、プローブセットを設計、作成した。
・ターゲット遺伝子は、全ての細菌種において、「1個の細菌中に1つの遺伝子しか存在しない」rpoB遺伝子とした。
・rpoB遺伝子には「全ての細菌種に完全に保存された塩基配列領域」である保存配列(conserved region)は存在しない。従って、全ての細菌種をほぼ同等に検出するために、mixed primer、mixed probeのセットを設計、作成した。特に臨床検査で用いる場合、ヒト由来DNAが含まれ、インターカレーターではバックグラウンドが高くなり使用出来ないため、probeで検出することが必須である。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも1種のrpoBフォーワードプライマーと;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも1種のrpoBリバースプライマーと;
を含む、プライマーペア。
(2)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(3)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。

(4)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(5)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも15種のrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも12種のrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(6)(a)配列番号1~19からなるrpoBフォーワードプライマーを含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなるrpoBリバースプライマーを含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(7)(1)請求項1~6のいずれか1項に記載のプライマーペアと;
(2)配列番号34~43からなるrpoB TaqManプローブを含むプローブ混合物と;
を含む、PCR用試薬。
(8)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも2種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(9)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも5種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(10)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも10種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(11)(a)配列番号1~19からなる群から選択される少なくとも15種のrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなる群から選択される少なくとも12種のrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(12)(a)配列番号1~19からなるrpoBフォーワードプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
(b)配列番号20~33からなるrpoBリバースプライマーを等量ずつ含むプライマー混合物と;
を含む、プライマーペア。
(13)(i)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載のプライマーペアと;
(ii)配列番号34~43からなるrpoB TaqManプローブを等量ずつ含むプローブ混合物と;
を含む、PCR用試薬。
(14)上記(1)から(13)のいずれか1つに記載のプライマーペアを用いてデジタルPCRを行う、検体中の菌の定量方法。
(15)上記(7)または(13)に記載のPCR試薬を用いる、上記(8)または(14)に記載の定量方法。
(16)上記(15)を迅速無菌検査に用いる場合、検体中の菌の増殖の有無を判定する方法であって、
(i)培養前の検体中の菌の核酸を抽出する工程、
(ii)検体を培養する工程、
(iii)培養後の検体中の菌の核酸を抽出する工程、
(iv)培養前後の核酸について、上記(7)または(13)に記載のPCR試薬を用いてデジタルPCRを行う工程、
(v)培養前後で核酸が増加した場合に、検体中の生菌が増殖したと判定する工程、
を有する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、rpoB遺伝子をターゲットとしたデジタルPCRによる正確な菌数の測定は、特に患者検体中の菌数測定、つまり臨床検査の新規技術として有用である。また、患者検体数の菌数は「感染症の重症度判定」や「治療効果のモニタリング」のための新規バイオマーカーとして役立つことが期待できる。さらに、リアルタイムPCR法と比較すると、定量コントロールを用いて検量線を描く必要がないことが大きな利点である。更に本発明により、デジタルPCRを用いて迅速に試料中の生菌の有無を判定する方法、すなわちデジタルPCRによる迅速無菌検査法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】微生物の増殖曲線に対し、局方の従来法、局方のパクテアラート法および本発明による検査方法による菌数と検査時間を模式的に表した図である。
図2】迅速無菌検査法を実施するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明で実施した、デジタルPCRを用いた迅速無菌検査法を説明する。
【0014】
(試料由来の核酸の調製)
試料由来の核酸の調製は定法により行うことができる。
なお、試料由来の核酸の調製は、後述する実施例で用いている方法のように、細菌種による差が生じない集菌および核酸抽出方法を用いることが好ましい。
本発明を迅速無菌検査として実施する場合、試料としては、医薬品、再生医療等製品、化粧品、生活用水、血小板製剤、細胞培養液などを挙げることができる。
【0015】
(迅速無菌検査法、図2
迅速無菌検査法は、以下の通り行った。
(1)試料を好気性&嫌気性培養ボトルにそれぞれ入れる。この時、必要に応じて試料の前処理を先に行う(メンブレンフィルター法など)。
(2)培養前(培養0時間)の好気性ボトルおよび嫌気性ボトル中の試料混入後培養液をペレット化し凍結保存する。
(3)必要とする迅速性に応じて一定時間(0.5~24時間程度)好気性および嫌気性培養する。
(4)培養前(=(2)で凍結保存したもの)後の核酸(RNA and/or DNA)を抽出する。核酸はRNA(主にmessenger RNA)のみでもよいし、DNAのみでもよい。またはRNAとDNAの混合物でもよい。 或いは、Ampdirect(島津製作所)のようなPCR阻害物質の吸着剤を用いることで、核酸抽出工程((4)の工程)を経ずにPCR((5)の工程)を実施することも可能である。
(5)デジタルPCR法にて、培養前後での細菌および真菌の核酸(RNA and/or DNA)の増加の有無を確認する。
【0016】
(デジタルPCR法)
デジタルPCR法は、培養前後で絶対定量で行い、定量コントロールは不要である。デジタルPCR法は、以下の通り行った。
【0017】
(rpoB遺伝子をターゲットとしたプライマー、プローブの設計および作成)
rpoB遺伝子をターゲットとしたプライマー, プローブを設計rpoB遺伝子は全ての細菌種で1個の細菌に1つの遺伝子しか保持していないため、DNA断片化の影響を受けず、正確な菌数の測定が可能となる。また、rpoB遺伝子には“全ての細菌種に完全に保存された塩基配列領域”である保存配列(conserved region)は存在しない。従って、全ての細菌種をほぼ同等に検出するために、以下のmixed primer、mixed probeのセットを設計および作成した。
【0018】
なお、本発明には、少なくとも1種のrpoBフォーワードプライマーと少なくとも1種のrpoBリバースプライマーを含む、プライマーペアを使用してもよい。また、本発明には、少なくとも2~15種のrpoBフォーワードプライマーと少なくとも2~12種のrpoBリバースプライマーを含む、プライマーペアを使用してもよい。さらに、これらのプライマーペアにTaqManプローブを含むプローブ混合物を含む、PCR用試薬としてもよい。この試薬によって、デジタルPCRを用いた菌数の定量が可能となる。さらには、本発明の方法を使用することによって、生菌の増殖の有無を判定することができる。
【0019】
2種以上のフォーワードプライマーを用いる場合、デジタルPCRで測定できる範囲で、それらのプライマーを混合すればよいが、この混合比としては、10:1~1:10、好ましくは、5:1~1:5、より好ましくは3:1~1:3、特に好ましくは等量ずつの混合である。
【0020】
2種以上のリバースプライマーを用いる場合、デジタルPCRで測定できる範囲で、それらのプライマーを混合すればよいが、この混合比としては、10:1~1:10、好ましくは、5:1~1:5、より好ましくは3:1~1:3、特に好ましくは等量ずつの混合である。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【実施例0024】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、特に記載がない場合は、公知の試薬、公知の器具、市販のデジタルPCR装置を用い、各種の定法によりデジタルPCR及び各種の処理を行った。
【0025】
(実施例1)
デジタルPCR法にて、rpoB遺伝子をターゲットとした表1~3のmixed primer、mixed probeを使用し、「菌数」測定の臨床検査を実施した。
・使用機器:QIAcuity One (QUIAGEN社)
本機器の測定条件は、以下の通りである。
プレートタイプ:Nanoplate 26K 24-well
Primer-Probe(Qiagen):Assay3
Primer:rpoB Forward primer 1~19mix
rpoB Reverse primer 20~33mix
Probe:rpoB probe 34~43mix
材料:S.aureus(5×10 CFU/mL)
反応液組成
QIAcuity Probe PCR MM 12.5μL
rpoB Forward mixed primers 4.0μL
rpoB Reverse mixed primers 4.0μL
rpoB mixed probes 3.0μL
UCP distilled Water 21.5μL
DNA 5.0μL
Total 50.0μL
リアルタイムPCRサイクル条件
Step Time Temperature(℃)
initial heat activation 2min 95
2-step cycling(40 cycles)
Denaturation 15s 95
Annealing 1min 55
Cooling down 5min 40
【0026】
【表4】
以上の結果から、いずれの臨床検体も菌数を測定できた。
【0027】
(実施例2)
迅速検査法のフローチャートは、図2に示す。デジタルPCR法で無菌検査を実施し、その有用性を確認するために、好気性、嫌気性下培養し、DNA濃度を測定した。
・無菌検査の試料接種方法:試料(点眼液)30mLをろ過し、洗浄液A100mLで3回洗浄後、メンブランフィルターをそれぞれ培地にいれ、培養した。
・使用機器:QIAcuity One(QUIAGEN社)
本機器の測定条件は、上記の実施例1と同じである。
・プライマーおよびプローブセット:上記の実施例1と同じプライマーおよびプローブセットを使用した。
【0028】
(実験結果)
【表5】
【0029】
上記表4の好気SCD、嫌気TGC下で培養し、DNA中の濃度を示す。表4中の「好気SCD」とは、「好気性ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地」の培養ボトルで培養した場合であり、「嫌気TGC」とは、「嫌気性チオグリコレート寒天培地」の培養ボトルで培養した場合である。
【0030】
この結果から、デジタルPCR法を用いた新規の迅速無菌検査(本発明法)にて、培養24時間後もPCRチューブあたりの菌数が全く増えていない(測定誤差範囲内である(実際に生菌が存在すれば、培養24時間後の菌数は桁数が大きく異なる。))ことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のプライマー、プローブ、プライマーペア、プライマー混合物、プローブ混合物を用いれば、デジタルPCR法によって、敗血症、子宮内感染症、術後感染症、細菌性髄膜炎、細菌性心膜炎等の感染症の臨床検査における「菌数」を測定できるのみならず、医薬品の製造工程、化粧品の製造工程、手術器具の汚染、内視鏡の汚染、血小板製剤の汚染等を検査する医療品迅速無菌検査、飲料水(市販品、水道水)、プールや温泉の水質検査、細胞培養液(iPS細胞用など)、実験用超純水の汚染等を検査する水質の迅速無菌検査に用いることができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024151882000001.xml