(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151885
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ゴルフボールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065672
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 正樹
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA31
4F202AA45
4F202AH61
4F202AJ02
4F202AJ09
4F202AJ14
4F202CA13
4F202CA27
4F202CB01
4F202CB12
4F202CQ05
4F202CQ07
(57)【要約】
【課題】本発明は、サポートピンのピン収容穴の内周側面に硬質クロム等の厚めっきを施す必要がなく安価であり、且つ、ピン収容穴の耐摩耗性が良好な射出成形用金型を用いてカバー材料を成形するゴルフボールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、コア及び少なくとも1層のカバーを有し、該カバーの少なくとも1層を上下2分割型の射出成形用金型により成形する工程を含むゴルフボールの製造方法であって、上記射出成形用金型は、球状キャビティを有すると共に、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置される3本以上のサポートピンし、少なくとも該サポートピンを収納するピン穴部の内周側面が窒化処理されていることを特徴とするゴルフボールの製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及び少なくとも1層のカバーを有し、該カバーの少なくとも1層を上下2分割型の射出成形用金型により成形する工程を含むゴルフボールの製造方法であって、上記射出成形用金型は、球状キャビティを有すると共に、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置される3本以上のサポートピンを有し、少なくとも該サポートピンを収納するピン穴部の内周側面が窒化処理されていることを特徴とするゴルフボールの製造方法。
【請求項2】
上記窒化処理がプラズマ窒化処理である請求項1記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項3】
上記窒化処理されたピン穴部の内周側面には、厚さ5~20μmの拡散層(窒化層)を有し、且つ、化合物層が存在しない層構造が形成される請求項2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項4】
上記射出成形用金型は、窒化処理を行った後に、球状キャビティ内面を切削してディンプルに相応した凹凸部を形成したものである請求項1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項5】
上記プラズマ窒化処理を行った後に、めっき処理を行う請求項2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項6】
上記めっき処理は、ニッケル系マトリクス中にフッ素樹脂粒子が分散した複合めっきである請求項5記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項7】
上記射出成形用金型により成形されるカバー層がカバーの最外層である請求項1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項8】
上記最外層は、厚さ0.2~1.5mmであり、ポリウレタン樹脂を主材とする樹脂材料により形成される請求項7記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項9】
上記最外層の材料硬度がショアD硬度で30~55である請求項7記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー層の樹脂材料を射出成形用金型により成形する工程を含むゴルフボールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールのカバー各層を製造するに際し、一般的には射出成形用金型が使用されている。この射出成形用金型は、該金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置されるサポートピンとを複数本備えていることが多い。即ち、カバー層の射出成形時には、金型の球状キャビティ内にコアや中間層被覆球体等の対象球体を複数本のサポートピンにより支持した状態で、溶融した樹脂材料を球状キャビティ内に流入させることにより射出成形が行われる。サポートピンは、球状キャビティの内壁面から外側にかけて位置するピン収容穴に進退可能に配置されており、溶融した樹脂材料を球状キャビティ内に流入する過程で、自動制御により、対象球体を支持しているサポートピンが球状キャビティからピン収容穴に退出するようになる。
【0003】
しかしながら、金型のキャビティ内で複数本のサポートピンにより支持されるコアはゴム材料であり、中間層被覆球体もその内部はコアであり大部分がゴム材料である。このようなゴム材料からなるコアに対して強い射出圧がかかると、コアが金型の両極方向にラグビーボール状に大きく変形してしまい、そのためサポートピンが球状キャビティからピン収容穴に退出する際には、上記のコア変形によりサポートピンが押圧されて該サポートピンがピン収容穴の内周側面、特に外側の内周側面に当接してしまい、このため、ピン収容穴の内周側面が摩耗してしまう欠点があった。特に、金型は何回も使用されるため、その度、ピン収容穴の摩耗が繰り返し行われることにより、ピン収容穴が広がってしまい、このため、金型自体の問題だけでなく、ボール成形不良などのボール製品への悪影響を及ぼ場合があった。
【0004】
このピン収容穴の摩耗対策として、該ピン収容穴の内周側面には、硬質クロムめっきや無電解ニッケル等のめっき処理を施していた。しかしながら、このようなめっき処理を施しても、耐摩耗性やコスト等に課題が残る。例えば、アイオノマー樹脂材料のカバーを成形するのに用いられる射出成形用金型では、ピン収容穴の内周側面にやや厚めの硬質クロムめっきを施しているため、更に精度を上げるために治具研磨も行っており、その結果、加工費が高価であり、また、黒汚れも生じていた。
【0005】
なお、本件に関連する技術して、特開2000-102630号公報には、キャビティ内面とゴルフボール芯材との離型性の対策として、窒化ホウ素、窒化クロム、窒化チタンで処理した金型が開示されているが、サポートピンを収容するピン収容穴の耐摩耗性の課題については言及されていない。また、特開2011-67627号公報には、ウレタンカバー材料を射出成形するための金型にニッケル及びフッ素樹脂の共析めっきを形成することが記載されている。しかし、このような共析めっきを形成してもピン収容穴の耐摩耗性にやや課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-102630号公報
【特許文献2】特開2011-67627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、サポートピンのピン収容穴の内周側面に硬質クロム等の厚めっきを施す必要がなく安価であり、且つ、ピン収容穴の耐摩耗性が良好な射出成形用金型を用いることによりカバー材料を成形し得るゴルフボールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、射出成形用金型のサポートピンを収容するピン収容穴の内周側面に施される硬質クロムめっき等のめっき処理に代えて窒化処理、特にプラズマ窒化処理を施すことにより、カバー樹脂材料がアイオノマー樹脂材料のみならずでウレタン樹脂材料であっても、ピン収容穴の耐摩耗性を良好に維持できることを知見し、本発明をなすに至った。このような窒化処理は、硬質クロムめっきに比べて加工費が安価であり、また黒汚れ等も生じることなく、ゴルフボール用金型を使用するうえで工業的利点を有する。
【0009】
従って、本発明は、下記のゴルフボールの製造方法を提供する。
1.コア及び少なくとも1層のカバーを有し、該カバーの少なくとも1層を上下2分割型の射出成形用金型により成形する工程を含むゴルフボールの製造方法であって、上記射出成形用金型は、球状キャビティを有すると共に、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置される3本以上のサポートピンを有し、少なくとも該サポートピンを収納するピン穴部の内周側面が窒化処理されていることを特徴とするゴルフボールの製造方法。
2.上記窒化処理がプラズマ窒化処理である上記1記載のゴルフボールの製造方法。
3.上記窒化処理されたピン穴部の内周側面には、厚さ5~20μmの拡散層(窒化層)を有し、且つ、化合物層が存在しない層構造が形成される上記2記載のゴルフボールの製造方法。
4.上記射出成形用金型は、窒化処理を行った後に、球状キャビティ内面を切削してディンプルに相応した凹凸部を形成したものである上記1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
5.上記プラズマ窒化処理を行った後に、めっき処理を行う上記2記載のゴルフボールの製造方法。
6.上記めっき処理は、ニッケル系マトリクス中にフッ素樹脂粒子が分散した複合めっきである上記5記載のゴルフボールの製造方法。
7.上記射出成形用金型により成形されるカバー層がカバーの最外層である上記1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
8.上記最外層は、厚さ0.2~1.5mmであり、ポリウレタン樹脂を主材とする樹脂材料により形成される上記7記載のゴルフボールの製造方法。
9.上記最外層の材料硬度がショアD硬度で30~55である上記7記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールの製造方法は、カバー層の樹脂材料を射出成形用金型により成形する工程を含み、サポートピンのピン収容穴の内周側面に硬質クロム等の厚めっきを施す必要がなく安価であり、且つ、ピン収容穴の耐摩耗性が良好な射出成形用金型を用いてカバー材料を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に用いる射出成形用金型を示す概略図であり、(A)は射出成形前の状態、(B)は樹脂材料を金型内流入中の状態、(C)は金型内に樹脂材料を充填させた後の状態を示す。
【
図2】射出成形用金型内のゲートの配置を説明するための概略図である。
【
図3】射出成形用金型に配設されたサポートピンの位置を示す概略断面図である。
【
図4】球状キャビティの一部分であるピン収容穴及びその近傍を拡大した図である。
【
図6】
図6(A)は、金型の全表面を窒化処理する様子を示す概略図であり、
図6(B)は、金型の球状キャビティ内の窒化層を切削加工する様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明の製造方法は、コア及び少なくとも1層のカバーを有し、該カバーの少なくとも1層を上下2分割型の射出成形用金型により成形する工程を含むゴルフボールの製造方法である。
【0013】
上記カバー材料は、特に制限はなく、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂を採用することできる。特に、アイオノマー樹脂やウレタン樹脂を主材とする樹脂材料を採用することが好適である。カバー樹脂材料については、所定温度に加熱し、溶融状態で、射出成形用金型内にセットされたコアや中間層被覆球体等の対象球体物と球状キャビティ壁面との間に射出して、該対象球体の周囲にカバーを成形するものである。
【0014】
上記カバーの材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、さらに好ましく40以上であり、上限値として、好ましくは70以下、より好ましくは62以下、さらに好ましくは55以下である。また、上記カバーの厚さは、0.2mm以上であり、好ましくは0.5mm以上、より好ましく0.7mm以上であり、上限値としては、2.0mm以下であり、好ましくは1.8mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。
【0015】
本発明に用いる射出成形用金型(以下、単に「金型」を言う場合がある)は、通常、球状キャビティと、該球状キャビティ内にカバーの樹脂材料を流入されるためのゲートと、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置されるサポートピンとを有する。例えば、
図1に示すように、球状キャビティ1、所定数のゲート2及び所定数のサポートピン3を具備した射出成形用金型10を用い、球状キャビティ1内にコアや中間層被覆球体等の対象球体20を複数本のサポートピン3により支持した状態で、カバー材料である溶融樹脂材料30をゲート2から球状キャビティ内に流入させるものである。
図1(A)は射出成形前の金型内の様子を示す概略図であり、サポートピン3が対象球体20を支持している状態を示す。
図1(B)は溶融樹脂材料30を金型10内に流入させる際の金型10の内部の概略図であり、
図1(C)は溶融樹脂材料30を金型10内に充填して射出成形を完了させた後の金型10の様子を示す概略図である。金型内の球状キャビティ1内に対象球体物20を支持した所定本のサポートピン3の動作については、溶融樹脂材料30が球状キャビティ1内に充填するにつれて次第に後退していき、完全にキャビティ内への溶融樹脂材料の充填が完了する直前にサポートピンをキャビティの壁面と一致するように引き、その後樹脂材料の充填を完了させるものである。なお、特に図示していないが、金型のパーティングラインの位置には、カバー材料を供給するためのランナー部が球状キャビティを取り囲むように配置されると共に、このランナー部からキャビティに向かって放射状に開口したゲートが周上に下記に示すように配設されている。
【0016】
上記ゲートは、金型のパーティングラインに沿って複数個形成される。
図2の一例では、ゲート2がパーティングラインPLに沿って6個均等に配置されている。上記のゲートの本数が少なすぎると、球状キャビティ内に溶融樹脂材料を回り込ますことが十分ではなくなり、射出成形後、球状キャビティのポール付近のカバー厚が薄くなり、コアや中間層被覆球体等の対象球体物を完全に覆うことができずにはげた状態になる場合がある。金型のパーティングラインPLに沿って配設されるゲート2は、球状キャビティ内に溶融樹脂材料を均一に回り込ませて所望の薄厚のカバーを形成させる観点から、パーティングラインPLの周上に等間隔に配置することが好ましい。
【0017】
金型のパーティングラインPLと直交する方向に進退可能に配置される複数のサポートピン3は、通常、球状キャビティの極を中心に描いた円上に沿って所定間隔で3本以上(例えば120°の間隔で3本)配置されるものである。このサポートピンは、上下割型の断面円形の孔内を進退可能に配置されるものであり、
図1(A)に示されるように、球状キャビティ1内に進入した時に対象球体20を保持し、球状キャビティ1内に溶融樹脂材料が充填されるタイミングで、サポートピン3を球状キャビティ1内壁面の位置まで後退する。このサポートピンについては、樹脂材料が球状キャビティ内に充填される過程で、球状キャビティ内にセットされた中間層被覆球体の変形を抑え、且つ球状キャビティ内中心にコアを安定的に位置付けさせるために、該サポートピンの孔の直径(端部の直径)、本数についても最適化することが望ましい。
【0018】
上記サポートピンの本数は、上型又は下型の片側の金型に3本以上とすることが好ましく、より好ましくは4本以上、さらに好ましくは6本以上である。また、この本数の上限としては、好ましくは12本以下であり、より好ましくは10本以下である。上記の本数の範囲を逸脱すると、対象球体物を球状キャビティ中心に保持しつつ、かつ対象球体物の変形を抑制し、カバー樹脂材料を対象球体物と球状キャビティ壁面との空間に全体に均一の厚さに形成することが困難になる場合がある。
【0019】
上記サポートピンの配設位置については、
図3に示すように、金型の上下の極を結んだ軸線Xと、該軸線上の中心Oからサポートピン3が退出するキャビディ壁面1aに向けた法線との交わる角度θが15~30°となるようにサポートピン3を配置することが好適である。この角度のより好ましくは18°以上であり、さらに好ましくは20°以上であり、上限値として、好ましくは30°以下、より好ましくは28°以下、さらに好ましくは25°以下である。上記の角度の範囲を逸脱すると、対象球体物20をキャビティの中心Oに保持しつつ、かつ対象球体物20の変形を抑制し、カバー樹脂材料を対象球体物とキャビティとの間に全体に均一の厚さとして形成することが困難になる場合がある。
【0020】
ここで、本発明で用いる金型には、サポートピンを収納するピン穴部の内周側面が窒化処理されていることを特徴とする。
図4は金型の球状キャビティ1内にあるピン収容穴及びその近傍の球状キャビティを拡大した部分拡大図である。この図に示すように、サポートピンを収納するピン収容穴1aの内周側面が窒化処理により窒化層C1が形成されている。なお、図中の符号C2は、更に窒化層C1の表面を覆うめっき皮膜であり、これについては後述する。
【0021】
窒化処理とは、一般には、鉄鋼製品を加熱し、窒素原子を内部に拡散浸透させ、表面を硬化させる処理技術であり、具体的には、ガス窒化、塩浴窒化、ガス軟窒化、イオン窒化(プラズマ窒化)、真空窒化、活性粉末窒化などが例示される。この窒化処理により、一般的には、耐磨耗性、耐疲労性、耐腐食性及び耐熱性の向上が見込まれるが、本発明では主に耐摩耗性を改善する目的で用いられる。なかでも、プラズマ窒化法は、イオンの衝突エネルギーによって処理材が加熱されるため外部加熱装置が不要で,活性なプラズマ状態のラジカル,窒素原子及びイオンを利用するため、エネルギー消費量やガス消費量が少なく処理時間が短く経済的であり環境への負荷も少ない処理法である。また、イオン窒化(プラズマ窒化)は、製品材質・用途に応じて最適な窒化条件選択の自由度が高く、無酸化で硬化できるため、本発明では好ましく採用される。
【0022】
また、プラズマ窒化法は、スパッタリングにより、処理前の試料表面の活性化を目的に水素やアルゴンプラズマによる試料表面への微粒子イオン衝突により,不働態皮膜が除去され,クロム含有量の多い鋼種でも窒化が可能となる。次いで、プラズマエネルギーにより対象部品を窒化温度まで加熱する。そして、窒化プロセスにおいて、処理温度や処理時間の諸条件により、所望の化合物層の種類や層厚さを決定することができる。一般的には、窒化処理後にはスマット成分の析出、化合物層の影響により、めっき処理ができない場合があるが、プラズマ窒化の技術の中には、処理表面粗さが少なく、化合物層の出来にくい処理もあり、めっき処理を容易に行うことができるものがある。このため本発明では、前記の点から、プラズマ窒化を好ましく採用される。
【0023】
なお、金型本体の母材(基材)としては、めっき可能な金属であれば特に限定されないが、例えば、炭素鋼、ベリリウム-銅合金、ステンレス鋼、銅等の通常の金属素材で形成された金型を用いることができる。これらの中でも、予め熱処理されているプリハードン鋼を用いることが好ましい。プリハードン鋼は、加工性に優れるとともに、後から熱処理をする必要がないため複雑なディンプル形状を精度よく作ることができる。
【0024】
金型の球状キャビティには、キャビティ表面を覆うように、複合めっき皮膜が形成されている。複合めっき皮膜は、特に制限はないが、特に、ニッケル系マトリクス中にフッ素樹脂粒子が分散したものであることが好適である。
【0025】
ニッケル系マトリックスとしては、ニッケルを主材としたものであれば特に限定されないが、例えば、ニッケル-リン合金、ニッケル-銅-リン合金、ニッケル-ボロン合金、コバルト-ニッケル合金、ニッケル-モリブデン-リン合金等のニッケルと他の金属や物質との合金を用いることができる。
【0026】
ニッケル系マトリックス中に分散されるフッ素樹脂粒子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)粒子、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)粒子等を用いることができ、これらの中でも、PTFE粒子、FEP粒子が特に好ましい。フッ素樹脂粒子の粒子径は、特に限定されないが、0.05μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、フッ素樹脂粒子の粒子径は、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。
【0027】
ニッケル系マトリックス中にフッ素樹脂粒子が分散した複合めっき皮膜は、例えば、ニッケル系マトリックスのめっき液中にフッ素樹脂粒子を分散させ、これを撹拌しながら、基材表面上にめっきを行う方法によって形成することができる。めっき法は、例えば、電気めっき法又は無電解めっき法を採用することができるが、特に均一な皮膜が得られることから、無電解めっき法を採用することが好ましい。
【0028】
複合めっき皮膜の厚さは、特に制限されないが、この複合めっき皮膜は、非常に薄く形成することができるとともに、薄くても十分な耐久性、並びにウレタン材料等の樹脂材料との離型性および濡れ性を発揮することから、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。一方、複合めっき皮膜の厚さの下限は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。
【0029】
複合めっき皮膜中のフッ素樹脂粒子の配合割合は、特に制限されないが、5容積%以上が好ましく、25容積%以上がより好ましい。一方、十分な強度を有する複合めっき皮膜20を得るため、フッ素樹脂粒子22の配合割合は、50容積%以下が好ましく、40容積%以下がより好ましい。
【0030】
上述した、ニッケル系マトリックス中にフッ素樹脂粒子が分散した複合めっき皮膜としては、例えば、アルバックテクノ社製の商品名「ニフグリップ」が挙げられる。
【0031】
また、本発明で用いられる、ピン収容穴の内周側面に窒化層が形成された金型は、以下の手順により作製することが好適である。
図5の写真図のように、先ず、ピン収容穴1aやベントピン1bを有する金型本体の片側(上型または下型)10を準備する。そして、
図6(A)の概略説明図に示すように、その金型10の全表面をプラズマ窒化法等の窒化処理により、窒化層を形成させる。なお図中、太い黒色のライン部分が窒化層を示す。次いで、
図6(B)の概略説明図に示すように、金型本体の球状キャビティ1内にディンプル加工を施す。窒化処理は、元々、寸法変化の少ない加工法ではあるが、精密に設計されているディンプル加工は窒化処理後に行うことでより精度の確保ができると考える。このため、金型本体の球状キャビティ1に形成された窒化層はディンプル加工のために切削されてしまい完全に無くなってしまう。なお、
図6(B)には図示してはいないが、ディンプル加工後には、金型10の全表面に、上述しためっき処理を行うことにより、錆止めによる金型の耐久性や離型性を向上させることができる。その際も窒化層が無い表面の方がめっき処理もより優位に行うことができる。
【実施例0032】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
〔実施例1,比較例1〕
実施例1及び比較例1については、予め用意した、ポリブタジエンゴムを主材としたゴム組成物の加硫成形物であるコアに、アイオノマー樹脂を被覆した中間層被覆球体41.1mmを実施例1及び比較例1の各射出成形用金型にセットし、ポリウレタンを主材とするカバー形成用の樹脂材料(ショアD硬度「43」)により厚さ0.8mmを射出成形した。これを繰り返し行い摩耗性が生じた時点で、その繰り返し使用回数を求めた。具体的には、ピン収容穴の周側面(特にその外側部分)が、サポートピンにより押し付けられて広がらず問題なく成形できた回数を確認した。
【0034】
実施例1で用いた金型は、
図5に示すように、表面処理を施す前の金型本体を用意し、プラズマ窒化処理(化合物層なし/窒化層20μm)を行い、次いで、ディンプル加工を行い、その結果、キャビティ内面の窒化層は完全に切削される。最後に金型全体に亘り、所定のめっき処理(商品名「ニフグリップ」)を行ったものである。
【0035】
一方、比較例1で用いた金型は、
図5に示すように、表面処理を施す前の金型本体を用意し、ディンプル加工を行い、その後、金型全体に亘り、所定のめっき処理を行ったものである。
【0036】
所定のめっき処理とは、アルバックテクノ社製の商品名「ニフグリップ」を用い、金型に対して、無電解ニッケルとフッ素樹脂とを処理液中で共析させ、皮膜中にフッ素樹脂を容積比に対し30%を均一に含ませ、成膜後に熱処理を行い、無電解ニッケルとフッ素樹脂とを強固に密着させるものである。このめっき処理を使用することにより離型性が良好になる。
【0037】
その結果、実施例1及び比較例1は、ともにカバー成形時の脱型性は良好であったが、実施例1の耐摩耗性は、繰り返し使用回数が約34万回であるのに対して、比較例1の耐摩耗性は、繰り返し使用回数が約57万回となり、実施例1の方が遥かに耐摩耗性が良好であった。
【0038】
〔実施例2,比較例2〕
実施例2及び比較例2については、予め用意した、ポリブタジエンゴムを主材としたゴム組成物の加硫成形物である直径40.0mmのコアを、実施例2及び比較例2の各射出成形用金型にセットし、アイオノマー樹脂を主材とするカバー形成用の樹脂材料(ショアD硬度「62」)により厚さ1.35mmを射出成形した。これを繰り返し行い、上記実施例1と同様に、ピン収容穴の周側面(特にその外側部分)が、サポートピンにより押し付けられて広がらず問題なく成形できた回数を確認した。
【0039】
実施例2で用いた金型は、
図5に示すように、表面処理を施す前の金型本体を用意し、プラズマ窒化処理(化合物層なし/窒化層20μm)を行い、次いで、ディンプル加工を行い、その結果、キャビティ内面の窒化層は完全に切削される。最後に金型全体に亘り、めっき処理を行ったものである。これは上記実施例1と同様の窒化処理である。
【0040】
一方、比較例2で用いた金型は、
図5に示すように、表面処理を施す前の金型本体を用意し、ディンプル加工を行い、その後、ピン収容穴の内周側面に、やや厚めの厚めっき処理を行ったものである。この厚めっき処理とは、従来より行われている硬質クロムによるめっき処理であり、めっき厚さは20μmである。次いで、硬質クロムめっきは対象物の形状によってめっき厚のバラツキが発生しやすいため、ピン収容穴の精度を確保するため治具研磨を実施する必要がある(なお、治具研磨とは、ピッチ精度を出しながら、その位置にある丸穴の内径や角穴、異形状の寸法をそれぞれ1μm単位で加工することができる研削技術を意味する)。最後に金型全体に亘り、めっき処理を行ったものである。これは上記実施例2と同様めっき処理である。
【0041】
その結果、実施例2及び比較例2は、ともにカバー成形時の脱型性は良好であった。また、実施例2及び比較例2の耐摩耗性は、繰り返し使用回数が100万回使用した後でもほとんどが差がなく、ともに耐摩耗性が良好であった。しかし、比較例2は、硬質クロムめっきを使用するため、加工コスト高価となり、また、新品使用時には、ピンと厚めっき部分とが擦れて金属粉による黒汚れが生じてしまい不良品発生の原因となる場合が多かった。実施例2は、比較例2に比べて、金型のめっき処理にかかる時間、費用が大幅に減少した。また、黒汚れもでなくなった。