(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151892
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】乗用作業車の操縦装置
(51)【国際特許分類】
B62D 7/14 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
B62D7/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065685
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003834
【氏名又は名称】弁理士法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 征典
(72)【発明者】
【氏名】池内 伸明
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩二
【テーマコード(参考)】
3D034
【Fターム(参考)】
3D034CB05
3D034CC16
3D034CD03
3D034CD18
3D034CE01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】操舵輪の切換えを可能にした乗用作業車において、操縦者が操舵輪の切換操作を必要とせず走行したい方向に顔を向けるだけで向かった側の前車輪が操舵されるようにして、前後進を繰り返すことの多い乗用作業車を違和感無く操縦できるようにすること。
【解決手段】左右前輪と後輪で走行する走行車体を操縦席の前に設けるステアリングホイールを回動して操舵操作を行う乗用作業車において、前輪を操舵して後輪を中立にするFWSモードと後輪を操舵して前輪を中立にするRWSモードに切り替える走行制御装置40を設け、操縦者が頭に付ける人方位センサ36の前方位が走行車体に設ける車方位センサ37の前方位と一致している場合は走行制御装置がFWSモードとし、人方位センサの前方位が車方位センサの前方位と逆の場合はRWSモードに自動的に切り替えることを特徴とする乗用作業車の操縦装置とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右前輪(2,2)と後輪(3,3)で走行する走行車体(1)を操縦席(10)の前に設けるステアリングホイール(11)を回動して操舵操作を行う乗用作業車において、前輪(2,2)を操舵して後輪(3,3)を中立にするFWSモードと後輪(3,3)を操舵して前輪(2,2)を中立にするRWSモードに切り替える走行制御装置(40)を設け、操縦者が頭に付ける人方位センサ(36)の前方位が走行車体(1)に設ける車方位センサ(37)の前方位と一致している場合は走行制御装置(40)がFWSモードとなり、人方位センサ(36)の前方位が車方位センサ(37)の前方位と逆の場合はRWSモードに自動的に切り替えられることを特徴とする乗用作業車の操縦装置。
【請求項2】
操縦者の視界が走行車体(1)の前後から外れると走行制御装置(40)が走行を停止することを特徴とする請求項1に記載の乗用作業車の操縦装置。
【請求項3】
人方位センサ(36)を操縦者が被るヘルメット(38)に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の乗用作業車の操縦装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者が乗車して操縦操作を行う乗用作業車の操縦装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行車体に左右一対の前後輪を設けた四輪走行の乗用作業車で、前輪で操舵される状態と、後輪が操舵される状態に変更出来る乗用作業車が特許第3271361号公報に記載されている。
【0003】
この乗用作業車は操縦者が向った前車輪が操舵されることで後へ振り返って操縦しても旋回操縦が違和感なく行えるが、前側の車輪を操舵するかは、操縦者が操舵輪の切換スイッチを操作するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記乗用作業車は、操縦者が走行車体の前方へ向かって操縦していて、振り返って後方を見ながら後退する場合には操舵輪の切換スイッチを操作しなければならないので、操縦中に行う切換操作が面倒で戸惑うことがある。
【0006】
本発明は、操舵輪の切換えを可能にした乗用作業車において、操縦者が操舵輪の切換操作を必要とせず走行したい方向に顔を向けるだけで向かった側の前車輪が操舵されるようにして、前後進を繰り返すことの多い乗用作業車を違和感無く操縦できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
【0008】
請求項1の発明は、左右前輪2,2と後輪3,3で走行する走行車体1を操縦席10の前に設けるステアリングホイール11を回動して操舵操作を行う乗用作業車において、前輪2,2を操舵して後輪3,3を中立にするFWSモードと後輪3,3を操舵して前輪2,2を中立にするRWSモードに切り替える走行制御装置40を設け、操縦者が頭に付ける人方位センサ36の前方位が走行車体1に設ける車方位センサ37の前方位と一致している場合は走行制御装置40がFWSモードとし、人方位センサ36の前方位が車方位センサ37の前方位と逆の場合はRWSモードに自動的に切り替えることを特徴とする乗用作業車の操縦装置とする。
【0009】
請求項2の発明は、操縦者の視界が走行車体1の前後から外れると走行制御装置40が走行を停止することを特徴とする請求項1に記載の乗用作業車の操縦装置とする。
【0010】
請求項3の発明は、人方位センサ36を操縦者が被るヘルメット38に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の乗用作業車の操縦装置とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明で、操縦者が操縦席10に座って走行車体1の前に向かってステアリングホイール11を操作する場合は、走行車体1に設ける車方位センサ37と搭乗者の人方位センサ36の前方位が一致しているので、走行制御装置40がFWSモードとして、前輪2,2を操舵して通常の旋回感覚で操縦が行え、操縦者が振り返って後方に向くと、車方位センサ37の前方位と人方位センサ36の前方位が逆になって走行制御装置40がRWSモードに切り換るので、操縦者は後退時にも前向きと同じ旋回感覚でステアリングホイール11を回して操縦操作を行えるので、操縦操作を戸惑うことがない。
【0012】
請求項2の発明で、操縦席10に座った作業者が走行車体1の前後から横方向を向いて視線が外れると危険であるので、走行制御装置40が走行を停止して危険を回避できる。
【0013】
請求項3の発明で、操縦者がヘルメット38を被ることで、人方位センサ36として操縦者の顔の向きを走行制御装置40に認識させて操舵モードを制御出来、操縦席10に座る作業者の安全も図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態にかかる作業車両の左側面図である。
【
図5】同作業車両において操縦者が被るヘルメットの図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施例の乗用作業車は、
図1,2に示すように、トラクタで、走行車体1の下側の前部に左右一対の前輪2,2が設けられ、後部に左右一対の後輪3,3が設けられて、四輪で走行する。また、走行車体1の上側の前部にエンジンを収納するボンネット4が設けられ、ボンネット4の後側に作業者が搭乗する操縦部5が設けられ、操縦部5の後側に作業者を保護する安全フレーム(ロプス)6が設けられ、操縦部5の下方後側には、エンジンの出力回転を伝動する前後方向に延在するPTO軸7が設けられ、作業機(図示省略)を装着する。
【0016】
操縦部5の操縦席10の前側には、ステアリングホイール11と、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を支持するステアリングコラム13が設けられて、ステアリングホイール11の回動方向と回動角度がステアリングセンサ11S(
図4)で走行制御装置(コントローラ)40に入力する。また、ステアリングコラム13の上部には、走行車体1の方位を示す車方位センサ37が設けられ、フロア15におけるステアリングコラム13の左側には、クラッチペダル16が設けられ、右側にはアクセルペダル17が設けられている。
【0017】
左右一対の前輪2の内側には、それぞれ略前後方向に延在する操舵アーム20が設けられ、左右一対の操舵アーム20の前部は、左右方向に延在するタイロッド21で連結されている。また、右側の操舵アーム20には、ステアリングホイール11の回動に応じて伸縮するロッドを有する前操舵シリンダ22のロッド先端部が連結されている。なお、前操舵シリンダ22のチューブ後端部は走行車体1に連結されている。これにより、ステアリングセンサ11Sの回動信号で前操舵シリンダ22のロッドを伸縮させて左右一対の前輪2,2の操舵を行うことができる。
【0018】
前操舵シリンダ22として油圧シリンダや電動シリンダを使用することができるが、本実施形態では、油圧シリンダを使用し、前操舵シリンダ22とオイルタンクを連結する油圧経路の中間部に流量制御弁62を設けている。これにより、流量制御弁62を駆動して前後操舵シリンダ22,27のロッドの伸縮速度を増減速することができる。
【0019】
左右一対の後輪3の内側には、それぞれ略前後方向に延在する操舵アーム25が設けられ、左右一対の操舵アーム25の後部は、左右方向に延在するタイロッド26で連結されている。また、右側の操舵アーム25の前部には、ステアリングホイール11の回動に応じて伸縮するロッドを有する後操舵シリンダ27のロッド先端部が連結されている。なお、後操舵シリンダ27のチューブ後端部は走行車体1に連結されている。これにより、ステアリングセンサ11Sの回動信号で後操舵シリンダ27のロッドを伸縮させて左右一対の後輪3,3の操舵を行うことができる。
【0020】
後操舵シリンダ27として油圧シリンダや電動シリンダを使用することができるが、本実施形態では、油圧シリンダを使用し、後操舵シリンダ27とオイルタンクを連結する油圧経路の中間部に流量制御弁63を設けている。これにより、流量制御弁63を駆動して前操舵シリンダ22,27のロッドの伸縮速度を増減速することができる。
【0021】
ボンネット4の上部には、移動局33が設けられ、安全フレーム6の上部には、移動局34が設けられている。
【0022】
移動局33は、ボンネット4の上部における前輪2にエンジンの出力回転を伝動するドライブシャフト23の前方近位部で、且つ、左右一対の前輪2の左右方向の中心に設けられている。これにより、後述する測位衛星31等から送信されてくる位置情報を効率良く受信することができ、測位衛星31等から送信されてくる位置情報に基づいて、作業車両の前部、すなわち、ドライブシャフト23の前方近位部で、且つ、左右一対の前輪2の左右方向の中心の走行位置を正確に算出することができる。
【0023】
移動局34は、安全フレーム6の上部における後輪3にエンジンの出力回転を伝動するドライブシャフト28の後方近位部で、且つ、左右一対の前輪2の左右方向の中心に設けられている。これにより、後述する測位衛星31等から送信されてくる位置情報を効率良く受信することができ、測位衛星31等から送信されてくる位置情報に基づいて、作業車両の後部部、すなわち、ドライブシャフト28の後方近位部で、且つ、左右一対の後輪3の左右方向の中心の走行位置を正確に算出することができる。
【0024】
また、本実施形態では、平面視において、移動局33とドライブシャフト23の前後方向の離間距離と、移動局34とドライブシャフト28の前後方向の離間距離を同一距離に設定している。これにより、測位衛星31等から送信されてくる位置情報に基づいて作業車両の前部と後部を算出する計算式が簡易になり後述する走行制御装置40の処理部41の負担を軽減することができる。
【0025】
作業車両の進行方向の切替えは、自動走行時に作業車両を前進させる自動走行スイッチ60や自動走行時に作業車両を後進させる自動後進スイッチ61、エンジンの出力回転を伝えるドライブシャフト23,28を連結する伝動経路の上流部に設けられたエンジンの出力回転の回転速度の増減速と回転方向の切替えを行う油圧式無段変速装置(図示省略)で行うことができる。
【0026】
作業車両の走行速度の増減速は、油圧式無段変速装置や、エンジンの出力回転の回転速度を増減速するトランスミッション(図示省略)で行うことができる。本実施形態では、油圧式無段変速装置のトラニオン軸を一側方向に回転させる前進用モータ64と他側方向に回転させる後進用モータ65で回動させて行っている。これにより、作業車両の走行速度の増減速や進行方向の切替えをスムーズに行うことができる。
【0027】
作業車両の走行停止は、トランスミッションに内装されたブレーキパッドを左右方向に移動してトランスミッションの出力回転をさせる制動用モータ66を回動させて行っている。
【0028】
図3に示すように、RTK-GPS測位方式である測位ユニット30は、測位衛星31と、既知の位置に設けられた基地局32と、作業車両のボンネット4に設けられた移動局33と、安全フレーム6に設けた移動局34で構成されている。これにより、測位衛星31から移動局33,34に送信されてくる位置情報と基地局32から移動局33,34に送信されてくる補正用の位置情報から移動局33,34の走行位置を正確に算出することができる。
【0029】
基地局32は、固定用通信機32Aと、測位衛星31からの位置情報を受信する固定用GPSアンテナ32Bと、移動局33,34に補正用の位置情報を送信する固定用データ送信アンテナ32Cから構成されている。
【0030】
移動局33は、移動用通信機33Aと、測位衛星31からの位置情報を受信する移動用GPSアンテナ33Bと、基地局32からの補正用の位置情報を受信する移動用データ送信アンテナ33Cで構成されている。
【0031】
移動局34は、移動用通信機34Aと、測位衛星31からの位置情報を受信する移動用GPSアンテナ34Bと、基地局32からの補正用の位置情報を受信する移動用データ送信アンテナ34Cで構成されている。
【0032】
図4に示すように、走行制御装置(コントローラ)40は、CPU等からなる処理部41と、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等からなる記憶部42と、外部とのデータ通信用の通信部43から形成されている。
【0033】
処理部41は、測位衛星31から送信されてくる位置情報等に基づいて移動局33,34の走行位置の算出、移動局33,34の走行位置と設定経路45とされた等高線の偏移量の算出、偏移量が所定の偏移量よりも大きい場合に前後操舵シリンダ22.27を駆動させてロッドの伸長等を行う。
【0034】
記憶部42は、傾斜地の位置、作業車両を自動走行させる等高線である設定経路45等を保存する。
【0035】
通信部43は、移動用通信機33A,34Aを介して測位衛星31から送信されてくる位置情報等の受信と、作業車両から作業車両の走行位置情報等の送信を行う。
【0036】
走行制御装置40の入力側には、測位衛星31からの位置情報を受信する移動用GPSアンテナ33Bと、基地局32からの補正用の位置情報を受信する移動用データ送信アンテナ33Cと、測位衛星31からの位置情報を受信する移動用GPSアンテナ34Bと、基地局32からの補正用の位置情報を受信する移動用データ送信アンテナ34Cと、作業者の操舵から走行制御装置40の自動操舵に切替える切替スイッチ50と、傾斜地の等高線を自動走行させる設定経路45に設定する設定経路スイッチ51と、作業車両の進行方向に直交する左右方向の傾斜角度を測定する傾斜センサ52が所定の入力インターフェース回路を介して接続され、さらに、車方位センサ37から走行車体1の前向き方位が入力し、人方位センサ36から操縦者の顔の向いている方位が入力し、ステアリングホイール11の回動方向と回動角度がステアリングセンサ11Sから入力する。
【0037】
コントローラ40の出力側には、コントローラ40が操舵して作業車両を自動走行させる自動走行スイッチ60と、コントローラ40が操舵して作業車両を自動後進させる自動後進スイッチ61と、左右一対の前輪2を操舵する前操舵シリンダ22に供給するオイルの流量を制御する前流量制御弁62と、左右一対の後輪3を操舵する後操舵シリンダ27に供給するオイルの流量を制御する後流量制御弁63と、油圧式無段変速装置のトラニオン軸を回転させて作業車両を前進させる前進用モータ64と、油圧式無段変速装置のトラニオン軸を回転させて作業車両を後進させる後進用モータ65と、トランスミッションのブレーキパッドを移動させて作業車両の走行を停止させる制動用モータ66が所定の出力インターフェース回路を介して接続されている。
【0038】
図5は、トラクタの操縦者が被るヘルメット38を示し、この後外側に顔方向信号発信器としての人方位センサ36を付けていて、これを被って顎紐38Aを絞めることで操縦者の顔の方位を知ることが出来て、その方位信号が走行制御装置40に入力する。顎紐38Aは人方位センサ36のとして装着信号発信器として機能し、外すと走行制御装置40に信号が入力してエンジンを停止させて走行できないようにする。
【0039】
走行制御装置40では、ステアリングセンサ11Sの信号で前流量制御弁62を制御して前操舵シリンダ22を作動して前輪2,2が操舵され、後流量制御弁63を制御して後操舵シリンダ27を作動して後輪3,3が操舵されるが、車方位センサ37の前方位と人方位センサ36の前方位が左右60度の範囲で一致していると前輪2,2が操舵され後輪3,3が中立前後に向かうFWSモードとなり、人方位センサ36の前方位が車方位センサ37と逆で左右60度の範囲内では後輪3,3が操舵され前輪2,2が中立前後に向かうRWSモードとなり、左右60度の範囲を超えると制動用モータ66を作動して走行を停止させる。
【0040】
このことで、ヘルメット38を被った操縦者が前を向いて操縦する場合はFWSモードで操舵され、後ろを振り向いて後退する場合はRWSモードで操舵され、前後左右60度以上顔を横に向けて視界が前後から外れると制動用モータ66が作動して減速停止する。
【0041】
なお、前進走行中に操縦者が後方へ向いたり、後進中に前方へ向いたりすると、減速して停止するようにするのも良い。
【0042】
本実施例のトラクタは、傾斜した山間地の圃場を等高線に沿って作業を行えるようにしているが、傾斜センサ52が走行車体1の左右傾きを検出すると左右前輪2,2と後輪3,3を山側に向けて傾けることで直進走行を可能にしている。その傾ける角度は傾斜度合いや耕耘や整地などの作業種類によって変更する。
【符号の説明】
【0043】
1 走行車体
2 前輪
3 後輪
10 操縦席
11 ステアリングホイール
36 人方位センサ
37 車方位センサ
38 ヘルメット
40 走行制御装置