(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151896
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】苗木保護具
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20241018BHJP
A01G 13/10 20060101ALI20241018BHJP
A01M 29/30 20110101ALI20241018BHJP
【FI】
A01G13/02 M
A01G13/10 Z
A01M29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065690
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菱川 敬太
(72)【発明者】
【氏名】大西 淳
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
【Fターム(参考)】
2B024EA16
2B024EB09
2B121AA01
2B121BB27
2B121EA24
2B121FA12
(57)【要約】
【課題】積雪による苗木保護具の倒壊を抑制する。
【解決手段】苗木Tを取り囲むように筒状のネット2を有してなる苗木保護具1であって、ネット2は、その表面に撥水コーティング層6を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗木を取り囲むように筒状のネットを有してなる苗木保護具であって、前記ネットは、その表面に撥水コーティング層を有している、苗木保護具。
【請求項2】
請求項1に記載の苗木保護具において、
前記撥水コーティング層は、撥水性粒子を含有する、苗木保護具。
【請求項3】
請求項2に記載の苗木保護具において、
前記撥水コーティング層は、前記撥水性粒子よりも平均粒子径が20倍以上大きい充填粒子を、更に含有する、苗木保護具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の苗木保護具において、
前記ネットの表面に対する水の接触角は、130°以上である、苗木保護具。
【請求項5】
請求項1に記載の苗木保護具において、
前記撥水コーティング層は、ワックスを含有する、苗木保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗木を、野生動物から保護するための苗木保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、苗木又は若木などの樹木の苗を野生動物の食害などから保護し、苗木等の成長促進を図る苗木等保護具が開示されている。当該保護具は、縦長筒状又は略円錐台状である形状を有する保護ネットと、前記保護ネットを支える支持材とを有する。特許文献1の段落0015には、前記苗木等保護具は、積雪の重みにも苗木等に負荷を掛けない保形性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、苗木等保護具(以下「保護具」という。)を積雪のある地域で使用する場合、保護具が堆積した雪の重みで倒壊するなど、雪の堆積により保護具が正常な姿勢を保てなくなる場合がある。そのような場合、苗木等を野生動物の食害から保護するという保護具の目的を達成することができなくなる。特に、豪雪地帯においては、雪の重み、雪解け時の堆雪のずれによって、保護具が折れ、倒壊することが報告されている。また、倒壊した保護具の圧力により苗木がまっすぐ成長せずに変形木になる被害が報告されている。その対策として、保護具の支柱強度の強化や、支柱にFRP素材を用いて支柱への柔軟性付与が試みられているが、積雪による保護具の倒壊を、効率的に抑制、防止できる方策は未だ発見されていない。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、積雪による保護具の倒壊を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、苗木を取り囲むように筒状のネットを有してなる苗木保護具であって、前記ネットは、その表面に撥水コーティング層を有している、苗木保護具に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、ネットが表面に撥水コーティング層を有し、撥水コーティング層が撥水性粒子を含有することにより、雪の堆積が有効に抑制され、雪による力が分散されるので、保護具の倒壊にかかる力を受け流すことができる。その結果、積雪による保護具の倒壊を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】保護具のネットの表面を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1及び比較例1の結果を示す写真である。
【
図4】実施例2及び比較例2の結果を示す写真である。
【
図5】実施例3~6及び比較例3の結果を示す写真である。
【
図6】2022年12月26日の実施例7~9及び比較例4の状態を示す写真である。
【
図7】2023年1月3日の実施例7~9及び比較例4の状態を示す写真である。
【
図8】2023年1月28日の実施例7~9及び比較例4の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0010】
―保護具―
図1は、実施形態に係る苗木保護具1(以下「保護具」という。)を示す。保護具1は、苗木Tを野生動物の食害から保護するためのものであり、
図1は、高さ30~50cm程度の苗木Tを保護する場合を示す。保護具1は、苗木Tを取り囲むように筒状に成形されたネット2と、ネット2を支持する少なくとも1本の支柱3と、ネット2を地面Gに固定する竹製の杭4とを備える。
【0011】
ネット2は、苗木Tを囲んで野生動物の食害から保護できるものであれば限定されないが、本実施形態に係るネット2は、具体的には以下のとおりである。ネット2は、筒軸方向が苗木Tの延びる方向(鉛直方向)に沿う円筒状に形成されている。ネット2の寸法は、限定されないが、筒軸方向の長さが140~200cm程度、筒の径が50cm程度である。
【0012】
ネット2は、縦方向に延びる複数の線部材と横方向に延びる複数の線部材とが交差して構成されている。ネット2の網目(孔)は、略矩形状であり、網目の大きさ(一辺の長さ)は、0.2mm以上1.0mm以下が好ましい。
【0013】
ネット2の線部材は、例えば織布、割り布、不織布等の織物により構成されていることが好ましい。また、ネット2の線部材を構成する繊維としては、例えば化学繊維、生分解性繊維等が挙げられる。化学繊維としては、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等が挙げられ、合成繊維としては、ポリプロピレン、ポリエステル等が好ましい。生分解性繊維としては、ポリ乳酸が挙げられる。
【0014】
ネット2は、もともと長方形状に形成されたものを、長辺同士を重ねるように筒状に湾曲させることにより作製してもよく、又はもともと円筒状に形成されたものを用いてもよい。なお、保護具1の設置時には、ネット2の形状は、野生動物が鼻先を入れにくくするために、下部を縮径させた、逆円錐状にしてもよい。
【0015】
支柱3は、鉛直方向に延びる棒状に形成され、下部が地面Gに突き立てられている。支柱3は、針金、クリップ等からなる固定部材5により、1か所又は複数か所でネット2と固定されている。これにより、ネット2は、支柱3に支持されており、苗木Tを囲んだ状態を維持できる。
【0016】
―撥水コーティング層―
ネット2は、
図2に示すように、表面に撥水コーティング層6を有する。このため、ネット2の表面は撥水性を有している。ネット2の雪の堆積が特に有効に抑制するという観点から、ネット2の表面に対する水の接触角は130°以上であることが好ましい。なお、この接触角は、温度25±5℃及び湿度50±10%の条件下において、実施形態に係るネット2の表面にイオン交換水の水滴を滴下して接線法により測定される。
【0017】
撥水コーティング層6は、撥水性粒子61と、その撥水性粒子61よりも平均粒子径が大きい充填粒子62とを含有する。撥水コーティング層6は、撥水性粒子61と、それよりも平均粒子径が大きい充填粒子62とを含有することにより、非常に高い撥水性能を得ることができる。これは、充填粒子62間に撥水性粒子61が入り込むとともに、充填粒子62により形成される表面凹凸によって撥水性粒子61が存在できる表面積が拡大し、その表面に沿って多くの撥水性粒子61が分布することとなり、これによって撥水性粒子61による撥水性能が高められるためであると推測される。特に、充填粒子62の平均粒子径が撥水性粒子61よりも20倍以上大きいことが好ましい。
【0018】
―撥水性粒子―
撥水性粒子61としては、例えば、ナノシリカ、未造粒カーボンブラック、フッ素ポリマー等が挙げられる。撥水性粒子61は、これらのナノシリカ及び未造粒カーボンブラックのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、非黒色の非常に高い撥水性能を得る観点から、ナノシリカを含むことがより好ましい。
【0019】
本出願における「ナノシリカ」とは、平均粒子径(一次粒子径)が1μm未満のシリカ粒子を意味する。ナノシリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。ナノシリカは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、ヒュームドシリカを含むことがより好ましい。市販のヒュームドシリカとしては、例えば日本アエロジル社製のアエロジルシリーズが挙げられる。
【0020】
ヒュームドシリカには、表面処理が施されていない親水性ヒュームドシリカと、シラノール基部分がシラン及び/又はシロキサンで化学的に表面処理された疎水性ヒュームドシリカとがある。ナノシリカは、これらの親水性ヒュームドシリカ及び疎水性ヒュームドシリカのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、疎水性ヒュームドシリカを含むことがより好ましい。
【0021】
本出願における「未造粒カーボンブラック」とは、一次粒子が凝集した造粒物を形成していないカーボンブラックを意味する。したがって、本出願における「未造粒カーボンブラック」には、造粒剤を含まない微粉末状のカーボンブラック、造粒のための表面処理がなされていない微粉末状のカーボンブラック、造粒に寄与する酸素及び/又は水素を含む官能基を有することを意図的に排除した、そのような官能基を実質的に有さない微粉末状のカーボンブラックが含まれる。
【0022】
その一方、本出願における「未造粒カーボンブラック」には、造粒剤を含む粒状のカーボンブラック、造粒のための表面処理がなされた粒状のカーボンブラック、並びに造粒に寄与する酸素及び/又は水素を含む官能基が意図的に導入された粒状のカーボンブラックは含まれない。但し、これらの粒状のカーボンブラックも、焼成処理等が施されて粒状の形態を喪失して微粉末状となったものは、本出願における「未造粒カーボンブラック」に含まれる。また、本出願の未造粒カーボンブラックには、未造粒カーボンナノチューブ及び未造粒カーボングラファイトも含まれる。
【0023】
未造粒カーボンブラックは、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS分析)により、分析温度範囲を50℃以上800℃以下としたとき、H2O(-OH)、CO(CHO、>CO)、及びCO2(-COOH)のそれぞれの強度のピークが検出されないことが好ましい。未造粒カーボンブラックは、官能基に起因する酸素含有量が、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。
【0024】
未造粒カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック;チャネルブラック;SAF、ISAF、N339、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック等が挙げられる。未造粒カーボンブラックは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。未造粒カーボンブラックは、非常に高い撥水性能を得る観点から、アセチレンブラックを含むことが好ましい。市販の未造粒のアセチレンブラックとしては、例えばデンカ社製の商品名:デンカブラックの粉状品が挙げられる。
【0025】
撥水性粒子61の平均粒子径(一次粒子径)は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは5nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上70nm以下、更に好ましくは15nm以上50nm以下である。撥水性粒子61の平均粒子径は、電子顕微鏡観察による測定に基づいて算出される。
【0026】
撥水性粒子61のBET比表面積は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは10mm2/g以上300mm2/g以下、より好ましくは20mm2/g以上200mm2/g以下、更に好ましくは35mm2/g以上130mm2/g以下である。撥水性粒子61のBET比表面積は、JIS Z8830:2013に基づいて測定される。
【0027】
―充填粒子―
充填粒子62としては、例えば、平均粒子径が1μm以上のシリカ粒子(以下「大粒径シリカ」という。)、カルシウム粒子、モンモリロナイト粒子、マイカ粒子、タルク粒子などの無機粒子;アクリル系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子などの有機粒子等が挙げられる。充填粒子62は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、大粒径シリカを含むことがより好ましい。
【0028】
大粒径シリカには、表面処理が施されていない親水性大粒径シリカと、シラノール基部分がシラン及び/又はシロキサンで化学的に表面処理された疎水性大粒径シリカとがある。大粒径シリカは、これらの親水性大粒径シリカ及び疎水性大粒径シリカのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、親水性大粒径シリカを含むことがより好ましい。
【0029】
充填粒子62の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。特に、充填粒子62の平均粒子径は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上50μm以下、更に好ましくは3μm以上5μm以下である。充填粒子62の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定される。
【0030】
充填粒子62は、撥水性粒子61よりも平均粒子径が大きい。充填粒子62の平均粒子径は、非常に高い撥水性能を得る観点から、撥水性粒子61の平均粒子径の好ましくは20倍以上250倍以下、より好ましくは30倍以上200倍以下、更に好ましくは40倍以上100倍以下、より更に好ましくは50倍以上70倍以下である。
【0031】
充填粒子62は、多孔質であることが好ましい。充填粒子62のBET比表面積は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは150mm2/g以上700mm2/g以下、より好ましくは200mm2/g以上400mm2/g以下、更に好ましくは250mm2/g以上350mm2/g以下である。充填粒子62のBET比表面積も、撥水性粒子61と同様、JIS Z8830:2013に基づいて測定される。
【0032】
充填粒子62のBET比表面積の撥水性粒子61のBET比表面積に対する比は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは2以上20以下、より好ましくは3以上15以下、更に好ましくは4以上10以下である。充填粒子62のBET比表面積は、非常に高い撥水性能を得る観点から、撥水性粒子61のBET比表面積よりも大きいことが好ましい。
【0033】
実施形態に係る撥水コーティング層6における充填粒子62の質量含有量は、非常に高い撥水性能を得る観点から、撥水性粒子61の質量含有量よりも多いことが好ましい。実施形態に係る撥水コーティング層6における充填粒子62の含有量の撥水性粒子61の含有量に対する質量比は、好ましくは1以上18以下、より好ましくは2以上15以下、更に好ましくは3以上12以下である。
【0034】
―バインダー樹脂―
撥水コーティング層6は、撥水性粒子61及び充填粒子62のみで構成されていてもよいが、それらのネット2への定着性を高める観点から、バインダー樹脂63を更に含有することが好ましい。
【0035】
バインダー樹脂63としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び光硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、アクリル酸が付加したエポキシ化合物やウレタン化合物等が挙げられる。バインダー樹脂は、これらのうち、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂の少なくとも一方を含有することが好ましく、これらを両方含有することがより好ましい。
【0036】
バインダー樹脂63は、撥水性粒子61及び充填粒子62のネット2への定着性を高め且つ高い撥水性能を得る観点から、シリコーン樹脂を含むことが好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、ポリアルコキシシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルアルコキシシロキサン、ポリアリールシロキサン、ポリアリールアルキルシロキサン、ポリエーテルシロキサン等が挙げられる。
【0037】
好ましいバインダー樹脂63としては、前記のもののほか、アクリル樹脂が挙げられる。
【0038】
撥水コーティング層6におけるバインダー樹脂63の含有量は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上25質量%以下、更に好ましくは15質量%以上20質量%以下である。
【0039】
また、バインダー樹脂63の100質量部に対する撥水性粒子61及び充填粒子62の合計含有量は、それらのネット2への定着性を高め且つ非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは10質量部以上40質量部以下、より好ましくは15質量部以上35質量部以下、更に好ましくは20質量部以上30質量部以下である。バインダー樹脂63の100質量部に対する撥水性粒子61の含有量は、同様の観点から、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下、更に好ましくは3質量部以上6質量部以下である。バインダー樹脂63の100質量部に対する充填粒子62の含有量は、同様の観点から、好ましくは5質量部以上35質量部以下、より好ましくは10質量部以上30質量部以下、更に好ましくは15質量部以上25質量部以下である。
【0040】
―ワックス―
撥水コーティング層6は、非常に高い撥水性能を得る観点から、ワックスを含有することが好ましい。ワックスとしては、ポリオレフィンワックス及び酸化ポリオレフィンワックスの少なくとも一方であることが更に含有することが好ましい。
【0041】
ポリオレフィンワックスは、一般的に分子量10000以下の低分子量のポリオレフィンである。ポリオレフィンワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型等が挙げられる。
【0042】
酸化ポリオレフィンワックスとは、ポリオレフィンワックスを酸化処理し、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の極性基を導入したワックスである。この酸化ポリオレフィンワックスは、酸化型ポリオレフィンワックス等の名称で一般に知られ、市販されている。酸化ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン-アクリル酸共重合ワックス、エチレン-酢酸ビニル共重合ワックス、酸化エチレン-酢酸ビニル共重合ワックス、エチレン-無水マレイン酸共重合ワックス、プロピレン-無水マレイン酸共重合ワックス及び高密度酸化ポリエチレンワックス等が挙げられる。酸化ポリオレフィンワックスは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0043】
―撥水コーティング層の形成方法―
以上のような実施形態に係る撥水コーティング層6の形成方法は、例えば以下のとおりである。ネット2の表面に対して、撥水性粒子61と、充填粒子62と、未硬化のバインダー樹脂63とを含有する撥水コーティング剤を塗工してネット2の表面上に撥水コーティング層6を形成することができる。
【0044】
撥水コーティング剤は、非常に高い撥水性能を発現する均一な撥水コーティング層6を形成する観点から、撥水性粒子61及び充填粒子62を分散させ且つ未硬化のバインダー樹脂63を溶解させる有機溶剤を更に含有することが好ましい。
【0045】
かかる有機溶剤としては、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、n-オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。有機溶剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を発現する均一な撥水コーティング層6を形成する観点から、芳香族炭化水素溶媒を含むことが好ましく、トルエン及び/又はヘキサンを含むことがより好ましい。
【0046】
ネット2の表面への撥水コーティング剤の塗工手段としては、例えば、スプレーコート、ローラーコート、グラビアコーターコート、ダイコーターコート、リップコーターコート、コンマコーターコート、ナイフコーターコート、リバースコ-ターコート、ディップコート、刷毛塗り等が挙げられる。塗工手段は、施工性が良好であるという観点から、これらのうちのスプレーコート又はディップコートが好ましい。また、ネット2として不織布を用いる場合には、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、ディップコートが好ましい。
【0047】
さらに、実施形態に係る撥水コーティング層6は、例えば、ネット2の表面に対して、予め接着剤をスプレーコート等しておき、その上に撥水性粒子61及び充填粒子62をスプレーコート等することによっても得ることができる。
【0048】
―作用・効果―
本実施形態によれば、ネット2は、表面に、撥水性粒子61を含有する撥水コーティング層6を有するので、雪が付着することを抑制できる。その結果、ネット2に雪が堆積するのを極めて有効に抑制し、保護具1が倒壊するのを抑制できる。特に、ネット2の表面に対する水の接触角が130°以上である場合にネット2に雪が堆積するのを抑制する効果が更に高くなる。
【0049】
撥水コーティング層6により、ネット2に雪が堆積するのを有効に抑制できる理由は、以下のように推測される。雪同士又は水及び雪は、互いに付着しやすいので、ネット2表面に少量の雪又は少量の雪等に由来する水分が付着すると、その少量の雪又は水分の上に更なる雪が付着しやすくなる。このため、一旦ネット2表面に少量の雪又は水分が付着すると、急激に雪の堆積が促進されると考えられる。すなわち、撥水コーティング層6により、ネット2表面に最初の少量の雪又は水分が付着するのを抑制できれば、更なる雪の付着も抑制でき、その結果、ネット2に雪が堆積するのを抑制できる。
【0050】
さらに、後記の実施例の結果からも示唆されるように、撥水コーティング層6が撥水性粒子61を含有すると、ネット2に雪が堆積するのを極めて有効に抑制できる。
【0051】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、撥水コーティング層6は、撥水性粒子61と、充填粒子62とを含有するが、本発明はこれに限られない。撥水コーティング層6は、撥水性を有していればよい。例えば、撥水コーティング層6は、撥水性粒子61及び充填粒子62のいずれでもない、撥水性を付与するための、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂等を含有していてもよい。
【実施例0052】
―実施例1、比較例1―
実施例1及び比較例1では、本発明に係る保護具について、雪の堆積による倒壊を抑制する効果を検証した。
【0053】
具体的には、実施例1では、岡山県苫田郡における、積雪量の多い山に植えられた20本の苗木に、本発明に係る保護具を設置し、各苗木を保護具のネットで囲んだ。ネットの撥水コーティング層は、以下のように形成した。まず、溶媒としてのトルエンと、撥水性粒子としてのナノシリカ(一次粒子径30nm)5質量%と、充填粒子としての大粒径シリカ(平均粒子径3μm)5質量%と、バインダー樹脂としてのシリコーン樹脂10質量%と、バインダー樹脂としてのフッ素樹脂0.5質量%と、ポリオレフィンワックス0.5質量%とを含有する、撥水コーティング剤を調製した。次いで、各保護具のネットを、撥水コーティング剤でディップコートして、撥水処理をした。
【0054】
比較例1は、各保護具のネットを、前記撥水コーティング剤でディップコートしていないこと、すなわち撥水処理をしていないことを除き、実施例1と同じである。なお、比較例1の各保護具の設置場所は、実施例1の各保護具の設置場所から10~20m程度離れているが、両設置場所における積雪量は互いに同じである。
【0055】
実施例1及び比較例1の保護具を設置したのは、2020年11月であった。次に、2021年6月及び2022年6月の各時点で、各苗木と保護具の状態を確認した。2022年6月において、各苗木と保護具を撮影した写真を
図3に示す。
【0056】
結果は、表1にも示すが、具体的には以下のとおりである。2021年6月の時点では、保護具を設置した20本の苗木のうち、1本の苗木のみが保護具とともに倒壊していたが、それを除く19本の苗木については、倒壊しておらず、各保護具は設置当初と同様の姿勢で各苗木を囲んでおり、野生動物の食害から保護するという各保護具の目的を達成できる状態にあった。保護具とともに倒壊した1本の苗木については、倒壊したことにより苗木の一部が保護具のネットの外に出ており、野生動物の食害から保護できない状態にあった。1本の苗木が保護具とともに倒壊していたのは、冬季に、保護具のネットに雪が堆積し、その重みによるものである。2022年6月の時点では、保護具とともに倒壊した苗木が更に1本増えていたにすぎず、
図3にも示すように18本の苗木及び保護具は倒壊していなかった。
【0057】
【0058】
比較例1についても、実施例1と同様に、各苗木及び保護具の状態を確認した。2021年6月の時点では、保護具を設置した20本の苗木のうち、6本の苗木が保護具とともに倒壊しており、2022年6月の時点では、
図3にも示すように20本すべての苗木が保護具とともに倒壊していた。各時点で、保護具とともに倒壊した苗木については、倒壊したことにより苗木の一部が保護具のネットの外に出ており、野生動物の食害から保護できない状態にあった。
【0059】
実施例1の結果から、本発明に係る保護具は、ネットが撥水処理され、ネットの表面が撥水性粒子を含有する撥水コーティング層を有していることにより、ネットが撥水処理されていない保護具に比べて、ネットへの雪の堆積を抑制できていたことが分かる。
【0060】
―実施例2、比較例2―
実施例2及び比較例2では、ネットへの雪の付着しやすさ/付着しにくさを検証した。具体的には、実施例2では、
図4に示す、網目を有する、大きさ250mm×500mmの略矩形状の、ポリプロピレンで構成されたネットに、実施例1と同様に撥水処理をした。比較例2のネットは、撥水処理をしなかったことを除き実施例2のネットと同じである。
【0061】
実施例2及び比較例2の各ネットを、水に浸漬し、次いで各ネットを雪の中に埋め、各ネットに雪が付着しやすいように雪の上方からネットを押圧した。次いで、各ネットを雪の中から取り出し、
図4に示すように各ネットを略鉛直方向に広げた。
【0062】
図4からも分かるように、実施例2のネットには雪がほとんど付着していないのに対し、比較例2のネットでは、比較的多くの雪が付着していた。このように、本発明に係る保護具は、ネットが撥水処理され、ネットの表面が撥水性粒子を含有する撥水コーティング層を有していることにより、雪が付着しにくいことが分かる。
【0063】
―実施例3~6、比較例3―
実施例3~6及び比較例3では、アクリル板に撥水コーティング層を形成した場合の、撥水コーティング層による雪の付着しやすさ/付着しにくさを検証した。実施例3~6のアクリル板は表面に撥水処理がされたことにより撥水コーティング層が形成されていた。他方、比較例3のアクリル板は撥水処理がされなかったので撥水コーティング層が形成されていなかった。
【0064】
具体的には、実施例3では、長さ30cm×幅10cm×厚さ0.3cmの矩形状のアクリル板を準備した。実施例3では、溶媒としてのトルエンと、撥水性粒子としてのナノシリカ(一次粒子径30nm)5質量%と、充填粒子としての大粒径シリカ(平均粒子径3μm)5質量%と、バインダー樹脂としてのシリコーン樹脂10質量%と、バインダー樹脂としてのフッ素樹脂0.5質量%と、ポリオレフィンワックス0.5質量%とを含有する、撥水コーティング剤を調製した。次いで、前記のアクリル板に、調製した撥水コーティング剤をスプレーコートにより塗布して乾燥させた。これによってアクリル板の表面は、撥水処理された。アクリル板の表面に対する水の接触角は、140°以上150°以下であった。なお、この接触角は、温度25±5℃及び湿度50±10%の条件下において、イオン交換水の水滴を滴下して接線法により測定される。
【0065】
次いで、兵庫県美方郡において、準備したアクリル板を、そのようにして得られた、撥水処理されたアクリル板を、幅方向を水平方向に向けるとともに長さ方向を水平方向から45°の角度で傾斜させ、降雪のある環境下(時期:12月末、気温:約10℃、雪質:湿雪(1℃以上))に設置した。アクリル板の直上から、湿雪を目開き1cmの篩にかけて、1分間アクリル板上に落とした。なお、撥水コーティング剤の成分については、表2にも示す。
【0066】
【0067】
実施例4では、バインダー樹脂として、シリコーン樹脂10質量%及びフッ素樹脂0.5質量%に加え、更にアクリル樹脂6質量%を含有していたこと、並びにポリオレフィンワックスを含有していなかったことを除き、実施例3と同様に撥水コーティング剤を調製し、調製した撥水コーティング剤をスプレーコートによりアクリル板表面に塗布して乾燥させた。これによってアクリル板の表面は撥水処理され、実施例3と同じ方法で測定される接触角は、130°以上140°以下であった。次いで、そのようにして得られた、撥水処理されたアクリル板に対して、実施例3と同じ条件で湿雪を落とした。
【0068】
実施例5では、溶媒としてのトルエンと、撥水性粒子としてのフッ素ポリマー粒子5質量%と、バインダー樹脂としてのシリコーン樹脂10質量%と、バインダー樹脂としてのフッ素樹脂0.5質量%と、ポリオレフィンワックス0.5質量%とを含有する、撥水コーティング剤を調製した。次いで、実施例3と同じ構成のアクリル板に、調製した撥水コーティング剤をスプレーコートにより塗布して乾燥させた。これによってアクリル板の表面は撥水処理され、実施例3と同じ方法で測定される接触角は、135°以上154°以下であった。次いで、そのようにして得られた、撥水処理されたアクリル板に対して、実施例3と同じ条件で湿雪を落とした。
【0069】
実施例6では、溶媒としての水70質量%と、フッ素樹脂30質量%とで構成される撥水コーティング剤を調製した。実施例6の撥水コーティング剤は、実施例3~5とは異なり、撥水性粒子を含有していなかった。実施例3と同じ構成のアクリル板に、調製した撥水コーティング剤をスプレーコートにより塗布して乾燥させた。これによってアクリル板の表面は撥水処理され、実施例3と同じ方法で測定される接触角は、120°以上130°以下であった。次いで、そのようにして得られた、撥水処理されたアクリル板に対して、実施例3と同じ条件で湿雪を落とした。
【0070】
比較例3は、撥水処理がされていないアクリル板に対して、実施例3と同じ条件で湿雪を落とした。なお、比較例3のアクリル板の表面に対する水の接触角は、90°未満であった。
【0071】
図5は、実施例3~6及び比較例3のアクリル板に対して前記のように雪を落としたあとの状態を撮影した写真である。各アクリル板について、表面に雪が堆積していなかった又は表面に堆積した雪が極めて少なかったものを〇、表面に多くの雪が堆積していたものを×とそれぞれ評価した。
図5から分かるように、実施例3~5のアクリル板には、表面にほとんど雪が付着していないのに対し(評価〇)、実施例6及び比較例3のアクリル板には、表面の大部分が覆われるほど多くの雪が堆積していた(評価×)。実施例6のアクリル板には、雪が堆積していたものの、表面において雪で覆われていない部分もあり、比較例3のアクリル板よりは堆積した雪の量は少なかった。
【0072】
実施例3~6及び比較例3の結果で注目すべきなのは、実施例3~5のように、撥水コーティング剤が撥水性粒子を含有し、接触角が130°以上である場合、アクリル板表面の雪の堆積を極めて有効に抑制できたということである。実施例6では、アクリル板表面が撥水処理されていたものの、雪の堆積を抑制する効果は、実施例3~5よりも著しく小さかった。
【0073】
―実施例7~9、比較例4―
実施例7~9及び比較例4では、本発明に係る保護具の積雪時における倒れやすさ/倒れにくさを検証した。具体的には、実施例7では、まず、実施例3と同様の撥水コーティング剤を調製した。次いで、調整した撥水コーティング剤を、保護具のネットに対してディップコートすることにより、ネットを撥水処理した。ネットの線部材はポリプロピレン製であった。
【0074】
実施例8は、実施例3と同様に調整した撥水コーティング剤を、保護具のネットに対してスプレーコートすることによりネットを撥水処理したことを除き、実施例7と同様である。
【0075】
実施例9は、実施例6と同様に調整した撥水コーティング剤を、保護具のネットに対してディップコートすることによりネットを撥水処理したことを除き、実施例7と同様である。
【0076】
比較例4は、保護具のネットに撥水処理をしなかったことを除き実施例7と同様である。
【0077】
実施例7~9及び比較例4に係る保護具のネット表面に対する水の接触角は、表3にも示すが、それぞれ137°、141°、120°及び88°未満であった。なお、この接触角は、温度25±5℃及び湿度50±10%の条件下において、イオン交換水の水滴を滴下して接線法により測定される。
【0078】
【0079】
得られた実施例7~9及び比較例4に係る保護具を、兵庫県養父市における積雪量の多い高原に、2022年12月26日に設置した。実施例7、実施例9及び比較例4に係る保護具はそれぞれ5つあり、実施例8に係る保護具は4つあった。設置した各保護具の状態を、2023年1月3日及び2023年1月28日の各時点で確認した。各時点において撮影した保護具の写真を
図6~8に示す。なお、
図6~8では、実施例7に係る5つの保護具を、「実施例7a」,「実施例7b」,…,「実施例7e」のように、アルファベットa~eを用いて区別して表示し、実施例8~9及び比較例4に係る複数の保護具も、同様にアルファベットa~eを用いて表示する。
【0080】
各保護具は、
図6に示すように、2022年12月26日の時点では、いずれも直立していた。各保護具は、
図7~8に示すように、時間の経過とともに雪が堆積した。具体的には以下のとおりである。
【0081】
まず、ネットに撥水処理をしなかった比較例4a~4eに係る保護具に着目すると、
図7に示すように、2023年1月3日の時点では、各保護具はいずれも直立していたものの、すでに多くの雪が堆積していた。
図8に示すように、2023年1月28日の時点では、比較例4a~4dに係る保護具は、雪の重みにより大きく傾いた結果、地面に堆積した雪に埋もれていた。
【0082】
次に、ネットに撥水処理をした実施例7a~7e、実施例8a~8d及び実施例9a~9eに係る保護具に着目すると、時間が経過しても、これらの保護具に堆積した雪の量は比較的少なかった。しかし、撥水コーティング層が撥水性粒子を含有していなかった実施例9a~9eに係る保護具では、撥水コーティング層が撥水性粒子を含有していた実施例7a~7e及び実施例8a~8dに係る保護具に比べて、堆積した雪の量が多かった。その結果、
図8に示すように、実施例9a、実施例9b及び実施例9cに係る保護具は雪の重みによる傾きが大きく、地面に堆積した雪に埋もれていた。
【0083】
以上のことから、ネットが撥水処理され、撥水コーティング層を有することにより、積雪による保護具の倒壊を抑制できること、及び撥水コーティング層が撥水性粒子を含有する場合に、特にその効果が高いことが分かる。