(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015191
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】機能性物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/22 20060101AFI20240125BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240125BHJP
【FI】
C12P7/22
A23L33/105
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205090
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2019176867の分割
【原出願日】2019-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 素子
(57)【要約】
【課題】嫌気性微生物による発酵を効率よく行うことができ、発酵食品の製造にも使用できる物質を用いた、機能性物質の製造技術の提供。
【解決手段】機能性物質の材料を含有する溶液において、該材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させる工程を含む、機能性物質の製造方法であって、前記機能性物質の材料を含有する溶液がL-シスチンを含有する、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼインを含有する溶液において、ダイゼインからエクオールを生成する能力を有する嫌気性微生物に、ダイゼインからエクオールを生成させる工程であって、前記ダイゼインを含有する溶液にL-シスチンを0.001g/L以上5.0g/L以下添加する工程を含む、工程、及び、
前記生成したエクオールと飲食品の原料とを配合する工程を含む、エクオールを含有する飲食品の製造方法(ただし、前記ダイゼインを含有する溶液にL-システイン塩酸塩を添加する工程を含む態様を除く。)。
【請求項2】
前記嫌気性微生物が、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)に属する微生物、及び/又はアドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)に属する微生物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
エラグ酸を含有する溶液において、エラグ酸からウロリチンAを生成する能力を有する嫌気性微生物に、エラグ酸からウロリチンAを生成させる工程であって、前記エラグ酸を含有する溶液にL-シスチンを0.001g/L以上5.0g/L以下添加する工程を含む、工程、及び、
前記生成したウロリチンAと飲食品の原料とを配合する工程を含む、ウロリチンAを含有する飲食品の製造方法(ただし、前記エラグ酸を含有する溶液にL-システイン塩酸塩を添加する工程を含む態様を除く。)。
【請求項4】
前記嫌気性微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)
に属する微生物、及び/又はクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に
属する微生物である、請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-システインは、嫌気性微生物が生育できるように、還元活性化合物(還元剤)として嫌気性微生物用培地に加えられることが知られている(特許文献1)。従来、エクオール類やウロリチン類、コリノイド、糖などの機能性物質を発酵により製造する際に使用される還元剤として、L-システイン、チオグリコール酸、アスコルビン酸、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオン、硫化ソーダ等が使用されてきた(特許文献2~4)。しかし、例えばL-システイン塩酸塩は医薬品であり、食品添加物としては使用制限があるため、嫌気性微生物を用いた発酵食品の製造に使用することを想定する場合には、L-システイン塩酸塩を使用することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5546037号明細書
【特許文献2】特許5996187号明細書
【特許文献3】特許5943326号明細書
【特許文献4】特公平6-098015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、嫌気性微生物による発酵を効率よく行うことができ、発酵食品の製造にも使用できる物質を用いた、機能性物質の製造技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、当該物質としてL-シスチンに想到し、本発明を完成させた。本発明は下記の通りである。
【0006】
〔1〕機能性物質の材料を含有する溶液において、該材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させる工程を含む、機能性物質の製造方法であって、
前記機能性物質の材料を含有する溶液がL-シスチンを含有する、製造方法。
〔2〕前記機能性物質の材料がダイゼインであり、前記機能性物質がエクオールである、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記嫌気性微生物が、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)に属する微生物、及び/又はアドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)に属する微生物である、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕ダイゼインを含有する溶液において、ダイゼインからエクオールを生成する能力を有する嫌気性微生物に、ダイゼインからエクオールを生成させる工程であって、前記ダイゼインを含有する溶液がL-シスチンを含有する工程、及び、
前記生成したエクオールと飲食品の原料とを配合する工程を含む、エクオールを含有する飲食品の製造方法。
〔5〕前記機能性物質の材料がエラグ酸であり、前記機能性物質がウロリチンAである、〔1〕に記載の製造方法。
〔6〕前記嫌気性微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、及び/又はクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発酵食品の製造にも使用できる物質としてL-シスチンを用い、嫌気性微生物による発酵を効率よく行うことを通じて、機能性物質を製造する技術を提供することができる。また、L-シスチンは食品上安全であるため、得られた機能性物質を用いて安全な発酵食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、JCMとの文言から始まる菌株の受託番号は、Japan Collection of Microorganisms(国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発
室、郵便番号:305-0074、住所:茨城県つくば市高野台3-1-1)に保存されている微生物
に付与された番号であり、同機関から入手することができる。
また、本明細書において、FERMとの文言から始まる菌株の受託番号は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
)に保存されている微生物に付与された番号であり、同機関から入手することができる。
また、本明細書において、DSMとの文言から始まる菌株の受託番号は、DSMZ (DeutscheSammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH) に保存されている微生物に付与
された番号であり、同機関から入手することができる。
また、本明細書において、KCCMとの文言から始まる菌株の受託番号は、韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms; KCCM)に保存されている微生物
に付与された番号であり、同機関から入手することができる。
【0009】
本発明は、機能性物質の材料を含有する溶液において、該材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させる工程を含む、機能性物質の製造方法であって、前記機能性物質の材料を含有する溶液がL-シスチンを含有する、製造方法である。
【0010】
(機能性物質)
本発明の機能性物質とは、その材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させることができるものであれば特に制限されない。本発明の機能性物質としては、例えば、エクオール、ウロリチンA、ジヒドロケルセチン、ナリンゲニン、プレニルナリンゲニン、ジヒドロゴシッペチン、ジヒドロケンフェロール、ジヒドロミリセチン、5-ヒドロキシエクオール、エンテロラクトン、エンテロジオール、テトラヒドロクルクミンが挙げられる。
【0011】
(機能性物質の材料)
本発明の機能性物質の材料も、該材料から前記嫌気性微生物に本発明の機能性物質を生成させることができるものであれば特に制限されず、原料であってもよく、原料から機能性物質までの間の生成物でもあってもよく、機能性物質の前駆体であってよい。
本発明の機能性物質がエクオールである場合の機能性物質の材料としては、例えば、ダイゼインが挙げられる。また、本発明の機能性物質がウロリチンAである場合の機能性物質の材料としては、例えば、エラグ酸が挙げられる。
【0012】
(機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物)
本発明における、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物は特に制限されない。
【0013】
本発明の機能性物質がエクオールである場合、例えば、コーリオバクテリウム(Coriobacterium)属に属する微生物、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物、
アトポビウム(Atopobium)属に属する微生物、コリンゼラ(Collinsella)属に属する微生物、クリプトバクテリウム(Cryptobacterium)属に属する微生物、デニトロバクテリ
ウム(Denitrobacterium)属に属する微生物、エガセラ(Eggerthella)属に属する微生
物、エンテロハブダス(Enterorhabdus)属に属する微生物、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物、オルセネラ(Olsenella)属に属する微生物、パラエガセラ
(Paraeggerthella)属、スラッキア(Slackia)属に属する微生物、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物、バクテロイデス(Bacteroides)属に属する微生物、ユーバクテリウム(Eubacterium)属に属する微生物、ルミノコッカス(Ruminococcus)属に
属する微生物、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が挙げられる。
【0014】
好ましくは、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)に属する微生物、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)に属する微生物、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.
)に属する微生物、パラエガセラ・エスピー(Paraeggerthella sp.)に属する微生物、
スラッキア・イソフラボニコンベテンス(Slackia isoflavoniconvertens)に属する微生物、スラッキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)に属する微生物、ス
ラッキア・エスピー(Slackia sp.)に属する微生物、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)に属する微生物、バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)
に属する微生物、ユーバクテリウム・エスピー(Eubacterium sp.)に属する微生物、ル
ミノコッカス・プロダクタス(Ruminococcus productus)に属する微生物、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)に属する微生物である。
【0015】
さらに好ましくは、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)DSM 19450株
、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)KCCM 10490株、スラッキア・イソフラボニコンベテンス(Slackia isoflavoniconvertens)DSM 22006株、スラッキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)DSM 24851株、スラッキア・エスピー(Slackia sp.)FERM AP-20729株、ラクトコッカス・ガル
ビエ(Lactococcus garvieae)DSM 6783株が挙げられる。
以上の微生物は、属、種、株に拘らず、単独で用いても2以上を用いてもよい。
【0016】
本発明の機能性物質がエクオールである場合の好ましい態様としては、例えば、機能性物質の材料がダイゼインであり、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物が、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株、及び/又はアドレク
ラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)DSM 19450株であることが挙げられる。
【0017】
また、本発明の機能性物質がウロリチンAである場合、例えば、コーリオバクテリウム(Coriobacterium)属に属する微生物、エガセラ(Eggerthella)属に属する微生物、ス
ラッキア(Slackia)属に属する微生物、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が挙げられる。
【0018】
好ましくは、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)に属する微生物、ゴルドニバク
ター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・
ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、ゴルドニバクター・フィーシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・ア
スパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、クロストリジウム・
シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物、クロストリジウム・エスピー
(Clostridium sp.)に属する微生物である。
【0019】
さらに好ましくは、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)DC3563 (NITE BP-02376)
株、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株
、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)DSM 15670株、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)DSM 29485株、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DSM 15981株、クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)DSM 19261株、クロストリジウム・エスピー(Clostridium sp.)DC3656株が挙げ
られる。
以上の微生物は、属、種、株に拘らず、単独で用いても2以上を用いてもよい。
【0020】
本発明の機能性物質がウロリチンAである場合の好ましい態様としては、例えば、機能性物質の材料がエラグ酸であり、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株、及び/又はクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株であることが挙げられる。
【0021】
また、本発明における、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物は、上記寄託菌株と同一の菌株に制限されず、上記寄託菌株と実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と97.5%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%の相同性を有する微生物である。さらに、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物は、本発明の効果が損なわれない限り、上記寄託菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0022】
(機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物の静止菌体)
本発明における、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物は、その静止菌体を含む。静止菌体とは、培養した微生物から遠心分離等の操作により培地成分を取り除き、水や生理食塩水等の塩溶液、あるいは緩衝液で洗浄し、洗浄液と同一の液に懸濁した菌体であって、増殖しない状態の菌体を指し、本発明においては、少なくとも、機能性物質の材料から機能性物質を生成できる代謝系を有している菌体をいう。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス-塩酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液等が好ましい。緩衝液のpHや濃度は、常法に従い適宜調製したものを使用できる。
【0023】
(機能性物質の材料を含有する溶液)
本発明における機能性物質の材料を含有する溶液とは、該溶液において、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、機能性物質の材料から機能性物質を生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは後述する「培地、及び培養による機能性物質の生成」欄に記載した培地である。また、機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物が静止菌体である場合には、前述した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。
尚、本明細書に記載されている「培地」とは、いずれも、最少培地を含む、微生物が増殖できる溶液をいい、微生物が増殖できない溶液、例えば、前述した水や塩溶液、緩衝液などを含まないものとする。
【0024】
該溶液へ機能性物質の材料を添加する場合には、機能性物質の生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中の機能性物質の含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0025】
本発明における機能性物質の材料を含有する溶液は、L-シスチンを含有する。溶液中のL-シスチンの含有量は、通常0.001g/L以上、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.1g/L以上である。一方、通常5.0g/L以下、好ましくは3.0g/L以下、より好ましくは1.0g/L以下である。
【0026】
(培地、及び培養による機能性物質の生成)
機能性物質の材料を含有する溶液において、該材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させる工程では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、例えば、機能性物質がエクオールである場合には、例えば、BHI培地(Difco社製)や実施例で用いた培地が挙げられ、機能性物質がウロリチンAである場合には、例えば、Wilkins-Chalgren Anaerobe Brothや、Brain
Heart Infusion Broth、実施例で用いた培地が挙げられる。
以下では、機能性物質の材料を含有する溶液が培地である場合の添加物や条件について説明するが、機能性物質の材料を含有する溶液が培地でない場合にも適用されるものである。
【0027】
培地には水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができる。すなわち、グルコース、アラビノース、ソルビトール、ソルボース、フラクトース、マンノース、スクロース、トレハロース、キシロースなどの糖類;メタノール、グリセロールなどのアルコール類;吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、フマル酸などの有機酸類、またはこれらの塩などを挙げることが出来る。
【0028】
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10wt/vol%の範囲から添加量を選択することができる。
【0029】
上記の炭素源に加えて、培地に窒素源が加えることができる。窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。
好ましい無機窒素源として、アンモニウム塩、硝酸塩などを、より好ましくは、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダなどを挙げることが出来る。
また、有機窒素源としては、アミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンN、大豆ペプトンなど)、肉エキス(例えばエールリッヒカツオエキス、ラブ-レムコ末、ブイヨンなど)、魚介類エキス、肝臓エキス、消化血清末、魚油などを挙げることが出来る。より好ましくは、アルギニン、システイン、シトルリン、リジン、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンNなど)である。
【0030】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、例えば、ビタミンなどの補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、脂肪酸など、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のもの
を挙げることができる。
【0031】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム ビタミンK
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
酢酸ナトリウム三水和物
硫酸マグネシウム七水和物
硫酸マンガン四水和物
【0032】
これらの無機化合物やビタミン類など、動植物由来の増殖補助因子を添加して培地を製造する方法は公知である。培地は、液体、半固体、あるいは固体とすることができる。好ましい培地の形態は、液体培地である。
【0033】
また、本発明の培地には、デキストリン類を含めることができる。デキストリン類を含む培地で嫌気性微生物を培養することで、培養後の培養液にデキストリン類が必要であっても、デキストリン類を追加することなく、機能性物質及びデキストリン類を含む溶液を取得することができる。デキストリン類の培地への添加は、微生物の培養前および培養中に行うことができる。
【0034】
本発明の嫌気性微生物は、公知の微生物の培養方法にしたがって培養することができる。工業的な製造においては、培地や基質ガスを連続的に供給することができ、かつ培養物を回収するための機構を備えた連続培養システム(continuous fermentation system)を用いることも可能である。
【0035】
本発明の機能性物質の製造においては、連続培養システム内への酸素の混入を防ぐことが必要である。培養器としては、通常用いられる培養槽がそのまま利用できる。本発明の嫌気性微生物の培養にも利用することができる培養タンクが市販されている。培養槽内に混入する酸素を、窒素などの不活性気体あるいは基質ガスなどで置換することにより、嫌気的な雰囲気を作ることもできる。
【0036】
培養槽の形状によっては、培地を十分に撹拌するため、撹拌機等を利用することもできる。培養槽内の培養物を撹拌することによって、培地成分や基質ガスを本発明の嫌気性微生物に接触させる機会を増やして、機能性物質の産生効率を最適化することができる。
【0037】
培養系としては、通気せずゴム栓で密栓したビンや試験管内等の密閉系で行ってもよいが、空気もしくは酸素を含まないことが好ましく、例えば、窒素及び/又は水素を任意の
比率で含むことや、窒素及び/又は二酸化炭素を任意の比率で含むことが挙げられ、水素を含む気相や水相であることが好ましい。
培養中の気相や水相をこのような環境にする方法は特に制限されないが、例えば、培養前に前記ガスで気相を置換する方法、これに加えて、培養中も培養器の底部から供給する及び/又は培養器の気相部に供給する方法、培養前に前記ガスで水相をバブリングするなどの方法をとることが出来る。前記水素は、水素ガスをそのまま用いてもよい。また、培地にギ酸及び/又はその塩などの水素の原料を添加し、微生物の作用により培養中に水素を生成してもよい。
【0038】
本発明の嫌気性微生物の十分な生育のため、培養物のpHは、好ましくは5.0以上、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは6.5以上であり、一方で、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.5以下である。
また、培養槽の温度は特に制限されないが、機能性物質の産生効率を増加させるため、好ましくは30℃以上、より好ましくは33℃以上であり、一方で、好ましくは40℃以下、より好ましくは38℃以下である。
培養時間は、機能性物質の産生量、機能性物質の材料の残存量等に応じて適宜設定できる。通常8時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは16時間以上であり、一方で、通常120時間以下、好ましくは72時間以下、より好ましくは60時間以下である。
また、効率よく機能性物質を産生させるために、培地を連続的に供給することもできる。
通気量としては、好ましくは0.01~2.0vvmである。また、混合ガスはナノバブルとして供給することもできる。
培養器の加圧条件は、本発明の嫌気性微生物が生育できる条件であれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.02~0.2MPaである。
【0039】
(静止菌体による機能性物質の生成)
機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物が静止菌体である場合の溶液は、前記培地の代わりに、前述した「機能性物質の材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物の静止菌体」欄に記載した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。
その他の条件については、前記「培地、及び培養による機能性物質の生成」欄の記載が援用される。
【0040】
(その他の工程)
本発明は、例えば、得られた機能性物質を定量する工程を含んでもよい。その方法は常法に従うことができる。たとえば、培養液の一部を採取して適宜希釈し、よく撹拌した後、ポリテロラフルオロエチレン(PTFE)膜などの膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィーで定量することなどが挙げられる。
また、本発明は、得られた機能性物質を回収する工程を含んでもよい。当該回収工程は、精製工程や濃縮工程等を含む。精製工程における精製処理としては、熱などによる微生物の殺菌;精密濾過(MF)、限外濾過(UF)などによる除菌;固形物、高分子物質の除去;有機溶媒やイオン性液体などによる抽出;疎水性吸着剤、イオン交換樹脂、活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮工程における濃縮処理としては、エバポレーター、逆浸透膜等による濃縮が挙げられる。
さらに、得られた機能性物質を含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することができる。粉末化において、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0041】
(本発明の他の態様)
本発明の他の態様は、機能性物質の材料を含有する溶液において、該材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させる工程であって、前記機能性物質の材料を含有する溶液がL-シスチンを含有する工程、及び、前記生成した機能性物質と飲食品の原料とを配合する工程を含む、機能性物質を含有する飲食品の製造方法である。
尚、本明細書においては、「食品」と記載した場合であっても、それは「飲料」を含む「飲食品」を表すものとする。
【0042】
機能性物質の材料を含有する溶液において、該材料から機能性物質を生成する能力を有する嫌気性微生物に、該材料から機能性物質を生成させる工程であって、前記機能性物質の材料を含有する溶液がL-シスチンを含有する工程の詳細については、前記機能性物質の製造方法についての説明を援用する。
【0043】
また、本態様の飲食品の製造方法は、前記生成した機能性物質と飲食品の原料とを配合する工程を含む。該飲食品は、常法に従い、通常用いられる飲食品の原料と前記工程で製造した機能性物質とを配合することにより製造され、その配合時期は特に制限されない。また、飲食品原料には食品添加物も含まれる。さらに、必要に応じて、瓶、袋、缶、箱、パック等の適宜の容器に封入することができる。
【0044】
飲食品は、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分とするものであってよい。
タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、及びこれらの加水分解物、バターなどが挙げられる。
糖質としては、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。
脂質としては、例えば、ラード、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。
ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラルなどが挙げられる。
有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。
これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用してもよく、合成品であってもよい。
【0045】
飲食品の全量に対する前記工程で製造した機能性物質の含有量は、特に制限されないが、該飲食品を摂取した場合に機能性物質による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。飲食品全量に対する機能性物質の含有量は、機能性物質の種類や所望の効果にもよるが、例えば10-6質量%~50質量%以下などが挙げられる。
【0046】
飲食品がサプリメントである場合、その形態は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態であってもよく、例えば、各種加工飲食品、粉末、錠剤、丸剤、カプセル、ゼリー、顆粒等の形態にすることができる。さらに、必要に応じて、瓶、袋、缶、箱、パック等の適宜の容器に封入することができる。
サプリメントには、デキストリン等の賦形剤、ビタミンC等の保存剤、バニリン等の嬌味剤、ベニバナ色素等の色素、単糖、オリゴ糖および多糖類(例、グルコース、フルクトース、スクロース、サッカロース、およびこれらを含有する糖質)、酸味料、香料、油脂、乳化剤、全脂粉乳、または寒天などの添加剤を配合していてもよい。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用してもよく、合成品であってもよい。
【実施例0047】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
表1に示した組成で、pH 6.9に調整した培地を、10 mLずつ嫌気性微生物培養用18 mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラスチックキャップをはめて115℃、15分間滅菌した。この培地に、-80℃で凍結保存していたアドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相
を2分間以上置換した後、37℃、200 spmで18時間振盪培養を行い、前培養液を調製した。
【0049】
【0050】
〔実施例2〕
表1に示した組成にダイゼイン0.5 g/Lを添加し、pH 6.9に調整した培地を5 mLずつ嫌
気性微生物培養用18 mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチ
ルゴム栓とプラスチックキャップをはめて115℃、15分間滅菌した。この培地に、実施例
1で調製した前培養液0.1 mLを接種し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分以
上置換した後、37℃、200spmで28時間振盪培養を行った。28時間後、培養液中にはエクオール0.45 g/Lが生成した。
【0051】
〔実施例3〕
実施例2で添加したL-シスチンの濃度を0.34g/Lに変更した以外は、上記実施例1~
実施例2と同様に培養、反応を行った。その結果、培養液中にはエクオール0.45 g/Lが生成した。
【0052】
〔実施例4〕
実施例2で添加したL-シスチンの濃度を0.7g/Lに変更した以外は、実施例1~実施例2と同様に培養、反応を行った。その結果、培養液中にはエクオール0.44 g/Lが生成した。
【0053】
〔実施例5〕
実施例1で植菌する菌をアドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)DSM 19450株に変更した以外は、実施例1と同様に前培養を行った。この前培養液を、実施例2と
同様に調製した培地に植菌した。その結果、29時間後、培養液中にはエクオール0.43 g/Lが生成した。
【0054】
〔比較例1〕
実施例2で添加するL-シスチンをL-システイン塩酸塩に変更した以外は、実施例1~実施例2と同様に培養、反応を行った。その結果、培養液中にはエクオール0.46 g/Lが生成した。すなわち、L-シスチンを用いた場合でも、L-システイン塩酸塩を用いた場合と同等に生成物が得られた。
【0055】
〔実施例6〕
表2に示した組成で、pH 7.3に調整した培地を、10 mLずつ嫌気性微生物培養用18 mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラスチックキャップをはめて115℃、15分間滅菌した。この培地に、-80℃で凍結保存していたゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株、及びクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株を植菌し、無菌フィルターを通した窒素ガスで気相を2分間以上置換した後、37℃、200 spmで2日間振盪培養を行い、前培養
液を調製した。
【0056】
【0057】
〔実施例7〕
表2に示した組成でエラグ酸濃度を1.0 g/Lとし、pH 7.3に調整した培地を5 mLずつ嫌
気性微生物培養用18 mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチ
ルゴム栓とプラスチックキャップをはめて115℃、15分間滅菌した。この培地に、実施例
6で調製した前培養液0.5 mLを接種し、無菌フィルターを通した窒素ガスで気相を2分以
上置換した後、37℃、200spmで5日間振盪培養を行った。5日後、培養液中にはウロリチンAが0.25 g/L生成した。
【0058】
〔比較例2〕
実施例6、実施例7で添加するL-シスチンをL-システイン塩酸塩 0.3 g/Lに変更した以外は、実施例6~実施例7と同様に培養、反応を行った。その結果、培養液中にはウ
ロリチンAが0.37 g/L生成した。すなわち、L-シスチンを用いた場合でも、L-システイン塩酸塩を用いた場合と同等に生成物が得られた。
【0059】
〔比較例3〕
実施例6、実施例7で添加するL-シスチンをチオグリコール酸ナトリウム 0.3 g/Lに変更した以外は、実施例6~実施例7と同様に培養、反応を行った。その結果、培養液中にはウロリチンAが0.33 g/L生成した。すなわち、L-シスチンを用いた場合でも、チオグリコール酸ナトリウムを用いた場合と同等に生成物が得られた。
本発明によれば、発酵食品の製造にも使用できる還元剤を用いて機能性物質を製造する方法を提供することができる。本発明の方法により得られる機能性物質は、各機能性物質の用途に応じて利用することができる。