(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151916
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】車両の運動マネージャ、車両の制御方法、及び車両用のプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 50/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
B60W50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065736
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大橋 祐太
(72)【発明者】
【氏名】廣村 達哉
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA26
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
(57)【要約】
【課題】加速度要求値に応じた指示値の出力が停止されることを抑制する。
【解決手段】受付部11は、複数のアプリケーションからの加速度要求値、及び当該加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付ける。加速度調停部12は、受付部11が受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択する。レベル調停部13は、受付部11が受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択する。出力部14は、加速度調停部12が選択した加速度要求値に応じた指示値を車両100のアクチュエータ72,82に出力する一方で、加速度調停部12が選択した加速度要求値に応じた指示値の出力を、レベル調停部13が選択した運転支援レベルに応じた条件で停止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、
受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、
受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、
選択した加速度要求値に応じた指示値を車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、
を実行する
車両の運動マネージャ。
【請求項2】
前記指示値の出力を停止するにあたって、選択した運転支援レベルが大きいほど、前記指示値の出力を停止する条件を狭くする
請求項1に記載の車両の運動マネージャ。
【請求項3】
前記指示値の出力を停止するにあたって、選択した運転支援レベルが、前記車両の有している各アプリケーションに付されている運転支援レベルの中で最大のときには、前記車両に故障が生じた場合であっても前記指示値の出力を停止せずに継続し、選択した運転支援レベルが最大より小さい特定レベルのときには、前記車両に故障が生じたことを条件に前記指示値の出力を停止する
請求項2に記載の車両の運動マネージャ。
【請求項4】
選択した運転支援レベルに応じた条件が満たされたときに、選択した加速度要求値を予め定められた終了値に向けて時間の経過と共に近づけていくことにより、前記指示値の出力を停止する
請求項1に記載の車両の運動マネージャ。
【請求項5】
車両に搭載されるコンピュータによる車両の制御方法であって、
前記コンピュータが、
複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、
受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、
受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、
選択した加速度要求値に応じた指示値を前記車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、
を実行する
車両の制御方法。
【請求項6】
車両に搭載されるコンピュータを対象としたプログラムであって、
前記コンピュータに、
複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、
受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、
受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、
選択した加速度要求値に応じた指示値を前記車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、
を実行させる
車両用のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の運動マネージャ、車両の制御方法、及び車両用のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている車両の制御システムは、複数の実行部と、運動マネージャと、アクチュエータと、を備えている。各実行部は、それぞれ個別のアプリケーションを実行する。運動マネージャは、複数のアプリケーションからの運動要求を受け付ける。そして、運動マネージャは、それら複数の運動要求を調停する。すなわち、運動マネージャは、複数の運動要求の中から予め定められたルールに従い1つを選択する。そして、運動マネージャは、調停勝ちした運動要求に基づいて、アクチュエータに対する指示値を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の運転支援に関するアプリケーションには、それぞれ運転支援レベルが定められている。この運転支援レベルの大小に応じて、運動マネージャは、アプリケーションからの運動要求に応じた制御を継続したり停止したりする。運転支援レベルが大きい場合、運動マネージャは、車両の状態に拘わらず、そのアプリケーションによる運動要求に応じた制御を継続する。その一方で、運転支援レベルが小さい場合、運動マネージャは、車両の状態に応じて、そのアプリケーションによる運動要求に応じた制御を停止する。例えば、運転支援レベルの小さいアプリケーションから運動要求として加速度要求があったとする。この場合、運動マネージャは、車両に故障が生じたことに応じて、要求される加速度の値を予め定められた終了値へと時間の経過と共に近づけていく。そして最終的に運動マネージャは、運動要求に応じた制御を停止する。
【0005】
ここで、仮に複数のアプリケーションからの運動要求を調停した結果、運転支援レベルの小さいアプリケーションからの運動要求が調停勝ちしたとする。この場合、運動マネージャは、その時の車両状態によっては、運動要求に応じた制御を停止させることになる。しかし、運転支援レベルの小さいアプリケーションからの運動要求が調停勝ちするような状況であっても、アクチュエータに対する制御を終了せずに、アプリケーションからの運動要求に基づきアクチュエータを制御すべき状況もあり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の運動マネージャは、複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、選択した加速度要求値に応じた指示値を車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、を実行する。
【0007】
上記課題を解決するための車両の制御方法は、車両に搭載されるコンピュータによる車両の制御方法であって、前記コンピュータが、複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、選択した加速度要求値に応じた指示値を前記車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、を実行する。
【0008】
上記課題を解決するための車両用のプログラムは、車両に搭載されるコンピュータを対象としたプログラムであって、前記コンピュータに、複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、選択した加速度要求値に応じた指示値を前記車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上記の各技術思想では、加速度要求値に応じた指示値の出力が停止されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図3は、管理処理の処理手順を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両の運動マネージャ、車両の制御方法、及び車両用のプログラムの一実施形態を、図面を参照して説明する。
<車両の全体構成>
図1に示すように、車両100は、指令ECU50と、管理ECU10と、第1アクチュエータシステム70と、第2アクチュエータシステム80と、を備えている。
【0012】
第1アクチュエータシステム70は、複数の駆動ユニット71と、各駆動ユニット71を制御する第1ECU75と、を備えている。なお、
図1では、複数の駆動ユニット71のうちの1つのみを代表で示している。駆動ユニット71は、車両100の駆動源となる装置の一式である。駆動ユニット71の一例は、エンジンである。エンジンは、スロットルバルブ、燃料噴射弁、及び点火装置などのアクチュエータ72を備えている。第1ECU75は、処理回路を備えたコンピュータである。処理回路は、CPUと、不揮発性のメモリと、揮発性のメモリと、を備えている。不揮発性のメモリは、CPUが実行するべき処理が記述された各種のプログラムを予め記憶している。第1ECU75は、例えば管理ECU10といった、上位装置からの指示値に基づいて各駆動ユニット71のアクチュエータ72を制御する。第1ECU75によるアクチュエータ72の制御に応じて、車両100に駆動力が発生する。このように、第1アクチュエータシステム70は、アクチュエータ72を含んでいる。なお、各駆動ユニット71は、アクチュエータ72を含む各所の動作状態を把握するための各種センサを搭載している。第1ECU75は、これらの各種センサの検出値を随時取得する。各種センサから取得した情報などに基づいて、第1ECU75は、各駆動ユニット71に故障が生じた場合に、その故障を検出する。
【0013】
第2アクチュエータシステム80は、複数のブレーキユニット81と、各ブレーキユニット81を制御する第2ECU85と、を備えている。なお、
図1では、複数のブレーキユニット81のうちの1つのみを代表で示している。ブレーキユニット81は、車両100を制動する装置の一式である。ブレーキユニット81の一例は、油圧式のブレーキ装置である。油圧式のブレーキ装置は、油圧に応じて車輪に押し付けられるブレーキパッドと、ブレーキパッドに油圧を加えるアクチュエータ82と、を備えている。第2ECU85は、処理回路を備えたコンピュータである。処理回路は、CPUと、不揮発性のメモリと、揮発性のメモリと、を備えている。不揮発性のメモリは、CPUが実行するべき処理が記述された各種のプログラムを予め記憶している。第2ECU85は、例えば管理ECU10といった上位装置からの指示値に基づいて各ブレーキユニット81のアクチュエータ82を制御する。第2ECU85によるアクチュエータ82の制御に応じて、車両100に制動力が発生する。このように、第2アクチュエータシステム80は、アクチュエータ82を含んでいる。なお、各ブレーキユニット81は、アクチュエータ82を含む各所の動作状態を把握するための各種センサを搭載している。第2ECU85は、これらの各種センサの検出値を随時取得する。各種センサから取得した情報などに基づいて、第2ECU85は、各ブレーキユニット81に故障が生じた場合に、その故障を検出する。
【0014】
図示は省略するが、車両100は、第1アクチュエータシステム70及び第2アクチュエータシステム80の他にもアクチュエータシステムを備えている。他のアクチュエータシステムの例は、車両100の操舵輪の舵角を調整するステアリングシステムである。
【0015】
<指令ECUの概略構成>
指令ECU50は、処理回路を備えたコンピュータである。処理回路は、CPUと、不揮発性のメモリと、揮発性のメモリと、を備えている。不揮発性のメモリは、CPUが実行するべき処理が記述された各種のプログラムを予め記憶している。不揮発性のメモリが記憶しているプログラムの例は、車両100の運動を制御するための複数のアプリケーションAPである。指令ECU50は、自身が記憶しているアプリケーションAPを実行する実行装置として機能する。指令ECU50は、ある特定のアプリケーションAPを実行する場合、実行対象のアプリケーションAPの運動要求を出力する。指令ECU50は、複数のアプリケーションAPを同時に実行することもある。運動要求は、車両100に発生させる加速度の要求値である加速度要求値CYを含んでいる。加速度要求値CYは、正負の値をとる。指令ECU50は、車両100が前方に向かって加速する場合の加速度を正の値として取り扱う。なお、以下では、実際には指令ECU50が主体である内容を、実行対象のアプリケーションAPを主体として記載することがある。例えば、指令ECU50からの加速度要求値CYを、アプリケーションAPからの加速度要求値CYと記したり、指令ECU50から加速度要求値CYを受け付けることを、アプリケーションAPから加速度要求値CYを受け付けると記したりする。
【0016】
指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPは、5つの運転支援レベルLYのうちのいずれかが割り当てられている。5つの運転支援レベルLYは、最小レベルが「1」、最大レベルが「5」として定められている。なお、以下では、アプリケーションAPに割り当てられている運転支援レベルLYを、アプリケーションAPに付されている運転支援レベルLYと記すことがある。
【0017】
運転支援レベルLYが「1」のアプリケーションAPは、運転主体が人であることを前提に、車両100の加速度又は操舵の一方を制御する。運転支援レベルLYが「1」のアプリケーションAPの一例は、自動で先行車に追従するアプリケーションAP、自動で急制動をかけるアプリケーションAPなどである。運転支援レベルLYが「2」のアプリケーションAPは、限定された状況下において、人の監督下で車両100の加速度及び操舵を制御する。運転支援レベルLYが「2」のアプリケーションAPの一例は、自動駐車するアプリケーションAPである。これら運転支援レベルLYが「1」又は「2」のアプリケーションAPの制御下においては、運転主体は運転者である。したがって、運転支援レベルLYが「1」又は「2」のアプリケーションAPは運転支援を行う。
【0018】
運転支援レベルLYが「3」のアプリケーションAPは、限定された状況下において、運転者による管理をほとんど要することなく車両100の加速度及び操舵を制御する。運転支援レベルLYが「3」のアプリケーションAPによる制御中、運転者は車両100の走行状況から目を離す所謂アイズオフが可能である。運転支援レベルLYが「3」のアプリケーションAPの一例は、高速道路上において自動運転するアプリケーションAPである。運転支援レベルLYが「4」のアプリケーションAPは、限定された状況下において、運転者を要することなく車両100の加速度及び操舵を制御する。運転支援レベルLYが「5」のアプリケーションAPは、常に運転者を要することなく車両100の加速度及び操舵を制御する。これら運転支援レベルLYが「3」~「5」のアプリケーションAPの制御下においては、運転主体はアプリケーションAPである。
【0019】
指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPのうちの1つは、運転支援レベルLY「1」が付されている第1アプリケーションAP1である。指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPのうちの他の1つは、運転支援レベルLY「2」が付されている第2アプリケーションAP2である。さらに、指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPのうちの他の1つは、運転支援レベルLY「3」が付されている第3アプリケーションAP3である。その一方で、指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPのいずれに対しても、運転支援レベルLY「4」及び「5」は付されていない。指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPの運転支援レベルLYのうちの最大のレベルを最大支援レベルと呼称する。最大支援レベルは、車両100が有している各アプリケーションAPに付されている運転支援レベルLYの中で最大のレベルである。本実施形態では、最大支援レベルは「3」である。なお、指令ECU50は、例えば、第1アプリケーションAP1、第2アプリケーションAP2、及び第3アプリケーションAP3を、それぞれ複数記憶している。
【0020】
指令ECU50は、車両100に搭載されている複数の情報取得機器101からの情報を随時取得する。情報取得機器101は、車両100に関する情報を取得する各種センサ、及び運転者からの指示を取得する各種スイッチを含んでいる。なお、
図1では、複数の情報取得機器101のうちの1つのみを代表で示している。情報取得機器101の一例は、例えば車両100の走行速度といった、車両100の走行状態を検出する機器である。情報取得機器101の一例は、例えばカメラ及びレーダといった、車両100の周辺情報を検出する機器である。情報取得機器101の一例は、車両100の現在の位置座標を検出する機器である。情報取得機器101の一例は、運転者が車両100の起動を指示するためのイグニッションスイッチである。イグニッションスイッチは、スタートスイッチ又はシステム起動スイッチなどと呼称されることもある。情報取得機器101の一例は、運転者が各アプリケーションAPの実行を指示するためのスイッチである。指令ECU50は、アプリケーションAPを実行する上で、これらの情報取得機器101から取得する情報を参照する。
【0021】
<管理ECUの概略構成>
図2に示すように、管理ECU10は、処理回路20を備えたコンピュータである。処理回路20は、CPU21と、不揮発性のメモリ22と、揮発性のメモリ23と、を備えている。不揮発性のメモリ22は、CPU21が実行するべき処理が記述された各種のプログラムWを予め記憶している。管理ECU10は、図示しない内部バスを介して指令ECU50及び各アクチュエータシステムのECUと情報を授受可能である。
【0022】
管理ECU10は、車両100の各所における故障の有無についての情報を随時取得する。故障の有無の情報は、例えば第1ECU75及び第2ECU85など、車両100の各所を制御するECUから送られてくる。なお、管理ECU10は、指令ECU50と同様、車両100に搭載されている複数の情報取得機器101からの情報も随時取得する。管理ECU10は、情報取得機器101から送られてくる情報を基に、情報取得機器101の故障の有無を判断したりもする。管理ECU10は、このようにして把握した、車両100の各所の故障の有無についての情報を一まとめの車両故障情報として管理する。管理ECU10は、車両故障情報の内容を随時アップデートしつつ常に最新の車両故障情報を記憶している。なお、上述のとおり、車両故障情報における車両100の各所には、アプリケーションAPの実行上必要な情報を取得する各情報取得機器101が含まれている。また、車両故障情報における車両100の各所には、アプリケーションAPの運動要求を実現する各アクチュエータシステムが含まれている。さらに、車両故障情報における車両100の各所には、各情報取得機器101及び各アクチュエータシステム以外で車両100の走行上必要な機能を果たす各種部位も含まれている。
【0023】
管理ECU10のCPU21が不揮発性のメモリ22に記憶されているプログラムWを実行することにより、管理ECU10は、アプリケーションAPが要求する車両100の運動を管理する運動マネージャとして機能する。すなわち、管理ECU10は、車両100の制御方法の制御主体である。以下では、アプリケーションAPからの運動要求のうちの加速度要求値CYを対象に、管理ECU10が担う処理を説明する。
【0024】
管理ECU10は、アプリケーションAPからの加速度要求値CYを統括管理する管理処理を実行可能である。
図1に示すように、管理ECU10は、プログラムWを実行することにより、管理処理を実現するため受付部11、加速度調停部12、レベル調停部13、及び出力部14として機能する。受付部11は、各アプリケーションAPから加速度要求値CYを受け付ける。なお、アプリケーションAPからの加速度要求値CYには、そのアプリケーションAPに割り当てられている運転支援レベルLYを示す情報が付されている。加速度調停部12は、受付部11が受け付けた複数の加速度要求値CYの中で最も小さい値の加速度要求値CYを選択する。以下では、加速度調停部12が選択した加速度要求値CYを選択加速度CZと呼称する。レベル調停部13は、受付部11が受け付けた複数の運転支援レベルLYの中で最も大きい値の運転支援レベルLYを選択する。以下では、レベル調停部13が選択した運転支援レベルLYを選択レベルLZと呼称する。出力部14は、基本的には、選択加速度CZに応じた指示値であるアプリ指示値Kを各アクチュエータシステム70,80に出力する。ただし、出力部14は、アプリ指示値Kの出力を、選択レベルLZに応じた条件で停止することがある。
【0025】
<停止条件>
出力部14がアプリ指示値Kの出力を停止するための条件を停止条件と呼称する。この停止条件が満たされると、出力部14は、アプリ指示値Kの出力を停止することになる。停止条件は、運転支援レベルLY毎に予め定められている。
【0026】
運転支援レベルLYが「1」である第1アプリケーションAP1を対象にした停止条件は、車両100に故障が生じていることである。運転支援レベルLYが「2」である第2アプリケーションAP2を対象にした停止条件は、車両100に故障が生じており、且つ車両100の走行状態が予め定められた特定状態になっていることである。本実施形態の特定状態は、車両100の走行速度が予め定められた速度範囲内になっていることである。運転支援レベルLYが「3」である第3アプリケーションAP3を対象にした停止条件は存在しない。すなわち、出力部14は、アプリ指示値Kの出力を停止することに関して、選択レベルLZが、指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPの中での最大支援レベルである「3」のときには、車両100に故障が生じている場合であってもアプリ指示値Kの出力を停止せずに継続する。本実施形態では、指令ECU50は、運転支援レベルLYが「4」又は「5」のアプリケーションAPを記憶していないが、運転支援レベルLYが「4」又は「5」であるアプリケーションAPを対象にした停止条件も存在しない。一方、第1アプリケーションAP1又は第2アプリケーションAP2の停止条件で説明したように、選択レベルLZが「3」よりも小さい特定レベルであるときには、出力部14は、車両100に故障が生じたことを条件にアプリ指示値Kの出力を停止する。なお、第2アプリケーションAP2の停止条件は、第1アプリケーションAP1の停止条件に対して、車両100の走行状態についての要件が加わっている。その分、第2アプリケーションAP2の停止条件は、第1アプリケーションAP1の停止条件に比べて満たされにくくなっている。すなわち、出力部14は、アプリ指示値Kの出力を停止するにあたって、選択レベルLZが大きいほど、停止条件を狭く設定することになる。
【0027】
停止条件に係る車両100の故障に関して、本実施形態の出力部14は次のような取り扱いをする。出力部14は、車両故障情報において、車両100の各所のうちのどこかに故障が生じていれば、車両100に故障が生じているものとして取り扱う。一方、出力部14は、車両100の各所のどこにも故障が生じていない場合、車両100に故障が生じていないものとして取り扱う。
【0028】
<縮退値>
上述のとおり、出力部14は、選択レベルLZに応じた停止条件が満たされたときにアプリ指示値Kの出力を停止する。このとき、出力部14は、選択加速度CZを予め定められた終了値へと時間の経過と共に近づけていった縮退値を算出する。それとともに、出力部14は、選択加速度CZに応じたアプリ指示値Kに代えて、縮退値に応じた指示値をアプリ指示値Kとして出力する。そして、出力部14は、縮退値が終了値に至ると、アプリ指示値Kの出力を終了する。このように、本実施形態の出力部14は、縮退値を利用して選択加速度CZを予め定められた終了値に向けて時間の経過と共に近づけていくことにより、アプリ指示値Kの出力を停止する。ここで、選択加速度CZを出力したアプリケーションAPを選択アプリケーションと呼称する。上述のとおり、縮退値の初期値は、選択アプリケーションからの加速度要求値CYである。また、後述のとおり、縮退値の終了値は、選択アプリケーションからの指示に応じて定まる値である。つまり、縮退値は、選択アプリケーションの特性を反映した初期値と終了値との間で、予め定められたルールにしたがって管理ECU10が指令ECU50に代わって算出した選択アプリケーションからの加速度要求値CYである。こうした縮退値は、選択アプリケーションからの加速度要求値CY、つまり選択加速度CZの一種といえる。
【0029】
<管理処理>
管理処理について詳述する。なお、前提として、指令ECU50は、車両100のイグニッションスイッチがオンになってからオフになるまでの間、必要に応じて各アプリケーションAPを随時実行する。指令ECU50は、ある特定のアプリケーションAPの実行中は、実行対象のアプリケーションAPの加速度要求値CYを所定周期で管理ECU10に繰り返し出力する。上述のとおり、この加速度要求値CYには、実行対象のアプリケーションAPに割り当てられている運転支援レベルLYが付されている。さらに、加速度要求値CYには、実行対象のアプリケーションAPに関する縮退の特性についての情報が付されている。縮退の特性についての情報は、加速度要求値CYをどの程度の大きさまで縮退させるかといった情報、すなわち終了値を算出する上での基本情報である。指令ECU50は、実行対象のアプリケーションAPからの出力データとして、加速度要求値CYと、それに付されている上記の各情報と、を1セットにしたデータを管理ECU10に出力する格好になる。以下、この1セットのデータをアプリデータAXと呼称する。上述したとおり、指令ECU50は、同時に複数のアプリケーションAPを実行することがある。この場合、指令ECU50は、同時に複数のアプリデータAXを管理ECU10に出力することになる。なお、停止条件の存在しないアプリケーションAPのアプリデータAXには、縮退の特性の情報が存在しない。
【0030】
管理ECU10は、車両100のイグニッションスイッチがオンになってからオフになるまでの間において実行条件が満たされている場合、管理処理を開始する。実行条件は、指令ECU50が1つ以上のアプリケーションAPを実行中であることである。
【0031】
図3に示すように、管理ECU10は、管理処理では、先ずステップS11の処理を行う。ステップS11では、受付部11が受付工程を行う。受付部11は、受付工程では、
図1に示すように、各アプリケーションAPからのアプリデータAXを受け付ける。なお、
図1では、1つの第1アプリケーションAP1と、1つの第3アプリケーションAP3が実行されている場合を例としている。受付部11は、各アプリケーションAPからアプリデータAXを受け付けると、受け付けたアプリデータAXの中身を分別した上で、加速度調停部12とレベル調停部13とに出力する。具体的には、
図1の実線の矢印で示すように、受付部11は、アプリデータAXに含まれている情報のうち、加速度要求値CYについては、加速度調停部12に出力する。受付部11は、アプリデータAXに縮退の特性が含まれている場合、当該縮退の特性を加速度要求値CYに付した状態とする。一方、
図1の一点鎖線の矢印で示すように、受付部11は、アプリデータAXに含まれている情報のうち、運転支援レベルLYについては、レベル調停部13に出力する。受付部11は、受け付けたアプリデータAX毎に、アプリデータAXの中身を、対応する機能部に出力する。この後、
図3に示すように、管理ECU10は、処理をステップS12に進める。
【0032】
ステップS12では、加速度調停部12が加速度調停工程を行う。具体的には、加速度調停部12は、受付部11から出力された加速度要求値CY、つまり受付部11がステップS11で受け付けたアプリデータAXのうちの加速度要求値CYを調停する。加速度調停部12は、受付部11が受け付けた複数のアプリデータAXの加速度要求値CYの中で最も小さい値の加速度要求値CYを選択する。加速度調停部12は、受付部11が受け付けたアプリデータAXが1つのみの場合には、そのアプリデータAXに含まれる加速度要求値CYを選択すればよい。
図1に示すように、加速度調停部12は、加速度要求値CYを選択すると、その加速度要求値CYを選択加速度CZとして出力部14に出力する。なお、加速度調停部12は、選択した加速度要求値CYに縮退の特性の情報が付されている場合、その情報を選択加速度CZに付した状態にする。
図3に示すように、管理ECU10は、選択加速度CZを出力すると、処理をステップS13に進める。
【0033】
ステップS13では、レベル調停部13がレベル調停工程を行う。具体的には、レベル調停部13は、受付部11から出力された運転支援レベルLY、つまり受付部11がステップS11で受け付けたアプリデータAXのうちの運転支援レベルLYを調停する。レベル調停部13は、受付部11が受け付けた複数のアプリデータAXの運転支援レベルLYの中で最も大きい値の運転支援レベルLYを選択する。レベル調停部13は、受付部11が受け付けたアプリデータAXが1つのみの場合には、そのアプリデータAXに含まれる運転支援レベルLYを選択すればよい。
図1に示すように、レベル調停部13は、運転支援レベルLYを選択すると、その運転支援レベルLYを選択レベルLZとして出力部14に出力する。この後、
図3に示すように、管理ECU10は、処理をステップS14に進める。
【0034】
ステップS14では、出力部14が判定工程を行う。具体的には、出力部14は、アプリ指示値Kの出力の停止についての要否判定を行う。出力部14は、レベル調停部13から出力された選択レベルLZに基づいてこの要否判定を行う。出力部14は、レベル調停部13から出力された選択レベルLZが「1」又は「2」の場合、既に説明した停止条件が満たされているか否かを判定する。例えば、出力部14は、選択レベルLZが「1」の場合、現時点での車両故障情報を参照する。そして、出力部14は、車両100に故障が生じている場合、停止条件が満たされていることから、アプリ指示値Kの出力の停止が必要と判定する。一方、出力部14は、車両100に故障が生じていない場合、停止条件が満たされていないことから、アプリ指示値Kの出力の停止は不要と判定する。出力部14は、選択レベルLZが「2」の場合、車両100における故障の有無に加え、車両100の現時点での走行速度を参照する。そして、出力部14は、停止条件が満たされている場合にはアプリ指示値Kの出力の停止が必要と判定し、停止条件が満たされていない場合にはアプリ指示値Kの出力の停止は不要と判定する。出力部14は、選択レベルLZが「3」の場合、常に、アプリ指示値Kの出力の停止は不要と判定する。出力部14は、以上のような要否判定を行った結果、アプリ指示値Kの出力の停止が不要と判定した場合(ステップS14:NO)、処理をステップS16に進める。
【0035】
この場合、ステップS16において、出力部14は通常出力工程を行う。この通常出力工程において、先ず出力部14は、選択加速度CZに応じた指示値であるアプリ指示値Kを算出する。このとき、出力部14は、第1アクチュエータシステム70と第2アクチュエータシステム80とへの選択加速度CZの振り分け分を定める。そして、出力部14は、選択加速度CZをそれぞれに振り分けた値を力の単位に変換する。出力部14は、それによって得られた値をアプリ指示値Kとして算出する。選択加速度CZが正の値である場合、出力部14は、当該選択加速度CZが大きいほど、車両100の駆動力が大きくなるようにアプリ指示値Kを算出する。また、選択加速度CZが負の値である場合、出力部14は、当該選択加速度CZが小さいほど、車両100の制動力が大きくなるようにアプリ指示値Kを算出する。出力部14は、こういった要領で各アクチュエータシステム70,80に対するアプリ指示値Kを算出する。
図1に示すように、出力部14は、各アプリ指示値Kを算出すると、算出した各アプリ指示値Kを各アクチュエータシステム70,80に出力する。出力部14は、各アプリ指示値Kを出力すると、ステップS16の処理を終了する。そして、
図3に示すように、管理ECU10は、管理処理の一連の処理を一旦終了する。この後、管理ECU10は、実行条件が満たされている場合、再度ステップS11の処理を実行する。なお、管理ECU10は、ステップS16の処理を経て再度ステップS11の処理を実行する場合、次のようなタイミングでステップS11を実行する。すなわち、管理ECU10は、ステップS11の実行間隔が、例えば上記所定周期と同じ長さになるようにする。
【0036】
一方、ステップS14の要否判定において、出力部14は、アプリ指示値Kの出力の停止が必要と判定した場合(ステップS14:YES)、処理をステップS15に進める。この場合、ステップS15において、出力部14は終了出力工程を行う。この終了出力工程では、出力部14は、選択加速度CZから終了値へと至る縮退値を繰り返し算出する。縮退値の算出方法は、この後説明する。出力部14は、例えば上記所定周期で縮退値を算出する。出力部14は、縮退値を算出する度に、選択加速度CZに代えて、縮退値に応じた各アプリ指示値Kを算出する。そして、
図1に示すように、出力部14は、各アプリ指示値Kを算出する度に、それぞれのアプリ指示値Kを各アクチュエータシステム70,80に出力する。出力部14は、縮退値が終了値に至ると、各アクチュエータシステム70,80に対するアプリ指示値Kの出力を停止する。出力部14がアプリ指示値Kの出力を停止すると、車両100の運転操作の主体を運転者に受け渡す格好になる。この後、出力部14は、例えば運転者によってアプリケーションAPの実行が指示されるなど、再びアプリケーションAPからの運動要求を実現してもよい状況になるまで待機する。出力部14は、再びアプリケーションAPからの運動要求を実現してもよい状況になると、ステップS15の処理を終了する。この後、
図3に示すように、管理ECU10は、管理処理の一連の処理を一旦終了する。そして、管理ECU10は、実行条件が満たされている場合、再度ステップS11の処理を行う。
【0037】
縮退値の算出方法について説明する。ステップS15に処理が進むと、先ず出力部14は、縮退値を算出していく上での最終目標値となる終了値を算出する。具体的には、出力部14は、選択加速度CZに付されている縮退の特性の情報を参照する。そして、出力部14は、縮退の特性と、現時点での車両100の走行状態とに基づいて終了値を算出する。車両100の走行状態は、例えば車両100の走行速度である。出力部14は、終了値を算出し終えると、縮退値の算出を開始する。出力部14は、縮退値を算出するにあたっては、選択加速度CZを、縮退値の初期値として取り扱う。そして、出力部14は、新たな縮退値を算出するにあたり、縮退値の前回値に、予め定められた所定値を加算又は減算する。出力部14は、縮退値が、予め定めた上記の終了値になるまで縮退値の算出を繰り返す。そして、出力部14は、縮退値が終了値になると、縮退値の算出を終了する。なお、縮退値の算出にあたって、前回値に対して所定値を加算するか減算するかは、初期値となっている選択加速度CZと、終了値との大小関係に応じて決めればよい。すなわち、選択加速度CZが終了値よりも小さい場合、出力部14は、前回値に所定値を加算すればよい。一方、選択加速度CZが終了値よりも大きい場合、出力部14は、前回値から所定値を減算すればよい。
【0038】
<実施形態の作用>
いま、車両100に故障が生じているものとする。この状況下で、1つの第1アプリケーションAP1と1つの第3アプリケーションAP3とが実行されているものとする。この場合、
図1に示すように、受付部11は、第1アプリケーションAP1からのアプリデータAXと、第3アプリケーションAP3からのアプリデータAXとを受け付ける。受付部11は、これらのアプリデータAXを受け付けると、アプリデータAXの中身のうち、加速度要求値CYを加速度調停部12に出力する。これを受けて、加速度調停部12は、第1アプリケーションAP1の加速度要求値CYと、第3アプリケーションAP3の加速度要求値CYとを対象にした調停を行う。なお、ここでは、第1アプリケーションAP1からの加速度要求値CYが、第3アプリケーションAP3からの加速度要求値CYよりも小さいものとする。この場合、加速度調停部12は、第1アプリケーションAP1からの加速度要求値CYを選択加速度CZとして選択する。
【0039】
さて、受付部11は、アプリデータAXの中身のうち、運転支援レベルLYをレベル調停部13に出力する。これを受けて、レベル調停部13は、第1アプリケーションAP1の運転支援レベルLYと、第3アプリケーションAP3の運転支援レベルLYとを対象にした調停を行う。ここでは第1アプリケーションAP1と第3アプリケーションAP3が調停の対象であることから、レベル調停部13は、第3アプリケーションAP3に対応する運転支援レベルLYである「3」を選択レベルLZとして選択する。こうした加速度調停と運転支援レベルLYの調停とが終わると、出力部14は、選択加速度CZと選択レベルLZとに基づいて、各アクチュエータシステム70,80に対するアプリ指示値Kの出力の対応を定める。先ず出力部14は、選択レベルLZが「3」であることから、アプリ指示値Kの出力を停止しないと判定する。そして、出力部14は、選択加速度CZに応じたアプリ指示値Kを生成する。そして、出力部14は、アプリ指示値Kを各アクチュエータシステム70,80に出力する。
【0040】
なお、このとき車両100に生じている故障の対象物が、例えば第2アクチュエータシステム80における複数のブレーキユニット81のうちの1つであったとする。この場合、第2ECU85は、故障が生じていないブレーキユニット81を利用してアプリ指示値Kに応じた制御を実現する。このように、車両100に故障が生じているときでも、代替の車載品を利用することによってアプリケーションAPからの加速度要求値CYが実現される。
【0041】
<実施形態の効果>
(1)本実施形態では、加速度調停部12が加速度要求値CYを調停するのとは別に、レベル調停部13が運転支援レベルLYの調停を行う。そして、レベル調停部13は、加速度調停部12が選択した選択加速度CZに対応するアプリケーションAPの運転支援レベルLYに関係なく、加速度要求のあったアプリケーションAPの中で、最も大きい運転支援レベルLYを選択レベルLZとして選択する。そして、出力部14は、この選択レベルLZに基づいて、アプリ指示値Kの出力の停止の要否、つまり選択加速度CZに応じた制御の終了の要否を決定する。したがって、上記作用に記載したとおり、選択加速度CZに対応するアプリケーションAPの運転支援レベルLYが小さくても、選択加速度CZに応じた制御を終了する可能性は低くなる。
【0042】
(2)本実施形態では、運転支援レベルLYが大きいほど、アプリ指示値Kの出力の停止するための停止条件が満たされにくくなる。したがって、加速度要求のあったアプリケーションAPの中に、運転支援レベルLYの大きいアプリケーションAPが含まれている場合には、選択加速度CZに応じた制御を終了する可能性は低くなる。
【0043】
(3)(2)に加えさらに、本実施形態では、運転支援レベルLYが最大支援レベルのときには停止条件が存在しない。つまり、レベル調停部13が選択した選択レベルLZが最大支援レベルのときには、車両100に故障が生じた場合であっても、出力部14は選択加速度CZに応じた制御を停止しない。したがって、上記作用に記載したとおり、加速度要求のあったアプリケーションAPの中に、第3アプリケーションAP3が含まれている場合、車両100に故障が生じた場合であっても、加速度調停部12が選択した選択加速度CZに応じた制御を継続できる。
【0044】
(4)本実施形態では、選択加速度CZに応じた制御を終了するにあたり、選択加速度CZを終了値に向けて時間の経過とともに近づけていく。こうした態様を採用する場合、例えば終了出力工程に処理が進んだ時点で即座にアプリ指示値Kの出力を停止する場合に比べて、制御の終了段階でのアプリ指示値Kの変化が緩やかになる。したがって、選択加速度CZに応じた制御を終了することに伴ってその後運転者に運転操作を引き継ぐにしても、車両100の動作の急変は生じにくい。
【0045】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0046】
・終了出力工程に関して、縮退値の算出方法は上記実施形態の例に限定されない。例えば、1度の終了出力工程の中で、縮退値の算出に利用する所定値を徐々に大きくしたり小さくしたりしてもよい。所定値を、アプリケーションAP毎に異なる値に設定してもよい。所定値をアプリケーション毎に異なる値に設定する場合、例えば、各アプリケーションAPからのアプリデータAXに所定値の情報を含めることが考えられる。この場合、例えば、縮退の特性についての情報の1つとして所定値の情報を含めてもよい。加速度要求値CYを時間の経過と共に終了値に近づけていくことができれば、縮退値の算出手法は問わない。
【0047】
・終了出力工程に関して、選択加速度CZを時間の経過とともに終了値に近づけた上でアプリ指示値Kの出力を停止することは必須ではない。終了出力工程に処理が進んだ時点で即座にアプリ指示値Kの出力を停止してもよい。この場合、終了出力工程では、例えば次のような態様を採用することになる。すなわち、出力部14は、アプリ指示値Kを一度も出力せず、再びアプリケーションAPからの運動要求を実現してもよい状況になるまで待機し続ける。
【0048】
・アプリ指示値Kの出力を停止する態様をアプリケーションAP毎に異ならせてもよい。例えば、あるアプリケーションAPでは選択加速度CZを時間の経過とともに終了値に近づけた上でアプリ指示値Kの出力を停止する一方で、別のアプリケーションAPでは即座にアプリ指示値Kの出力を停止する。こういった態様を実現する上では、例えば次のような構成を採用することが考えられる。すなわち、アプリケーションAPからのアプリデータAXに、アプリ指示値Kの出力を停止する態様を定める情報を含めることが考えられる。そして、加速度調停で調停勝ちするアプリケーションAPを対象にした出力停止の態様を反映させるかたちで、アプリ指示値Kの出力を停止する。なお、レベル調停で調停勝ちするアプリケーションAPを対象にした出力停止の態様を反映させるかたちで、アプリ指示値Kの出力を停止してもよい。
【0049】
・停止条件の内容は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、第2アプリケーションAP2を対象にした停止条件に関して、上記速度範囲をアプリケーションAP毎に異ならせてもよい。この場合、例えば、各第2アプリケーションAP2からのアプリデータに速度範囲の情報を含めることが考えられる。
【0050】
・第2アプリケーションAP2を対象にした停止条件に関して、車両100の特定状態を規定する対象は、車両100の走行速度に限定されない。特定状態を規定する対象は、車両100の走行に関連しているものであればよい。例えば、車両100のヨーレート、又は車両100が走行している地点の路面勾配といったもので特定状態を規定してもよい。これらの態様を採用する場合、ヨーレートセンサや加速度センサを車両100に搭載しておけばよい。特定状態を規定する対象に合わせて、必要な情報取得機器を車両100に搭載しておけばよい。特定状態を規定する対象を第2アプリケーションAP2毎に異ならせてもよい。
【0051】
・第2アプリケーションAP2を対象にした停止条件に関して、車両100の走行状態についての要件を複数にしてもよい。例えば、車両100の走行速度についての要件と、それとは別の要件とを課してもよい。
【0052】
・最大支援レベルのアプリケーションAPを対象にした停止条件を設定してもよい。そして、この停止条件に、車両100に故障が生じているという内容を含めてもよい。つまり、レベル調停部13が選択した選択レベルLZが最大支援レベルであるときに、車両100の故障を含む停止条件が満たされることに応じて、アプリ指示値Kの出力を停止してもよい。最大支援レベルのアプリケーションAPについての停止条件を設定する場合、その停止条件は、他の運転支援レベルLYのアプリケーションAPを対象にした停止条件よりも狭くなるように設定することが考えられる。
【0053】
・運転支援レベルLYが大きいアプリケーションAPほど停止条件を狭くすることに関して、上記実施形態では次のような態様を採用していた。すなわち、上記実施形態の第1アプリケーションAP1と第2アプリケーションAP2との停止条件を比較してわかるように、運転支援レベルLYの大きいアプリケーションAPの停止条件は、運転支援レベルLYの小さいアプリケーションAPの停止条件に対して別の要件を加えていた。こうした態様以外にも、次のような態様で運転支援レベルLYが大きいアプリケーションAPほど停止条件を狭くすることを実現できる。すなわち、同一の事象又は同一のパラメータを対象にした要件を厳しくする。例えば、停止条件に車両100の走行速度を含める場合において、運転支援レベルLYが大きいほど上記速度範囲の幅を狭くすることが挙げられる。また、例えば、車両100の故障についての要件を利用した次のような態様も挙げられる。すなわち、車両100の各所のうち、車両100に故障が生じていると判定する上で対象とする故障箇所を運転支援レベルLY毎に定める。このとき、運転支援レベルLYが大きいほど、対象とする故障箇所を少なく設定する。そして、対象とする故障箇所のうち、少なくとも1つに故障が生じた場合に、車両100に故障が生じていると判定するようにする。このような態様によって、運転支援レベルLYが大きいほど停止条件を狭くすることもできる。
【0054】
・指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPの運転支援レベルLYは、上記実施形態の例に限定されない。複数の運転支援レベルLYのアプリケーションAPを指令ECU50が記憶していれば、それら複数の運転支援レベルLYのアプリケーションAPを指令ECU50が同時に実行したときに次のことが可能になる。すなわち、加速度調停とは別にレベル調停を行うことによる効果を享受できる。指令ECU50が記憶しているアプリケーションAPに関して、例えば、当該指令ECU50が、第1アプリケーションAP1と第2アプリケーションAP2を記憶している一方で、第3アプリケーションAP3を記憶していないこともあり得る。また、指令ECU50は、第1アプリケーションAP1、第2アプリケーションAP2、及び第3アプリケーションAP3に加え、運転支援レベルLYが「4」のアプリケーションAPを記憶していることもあり得る。それに加えさらに、指令ECU50は、運転支援レベルLYが「5」のアプリケーションAPを記憶していることもあり得る。例えば指令ECU50が運転支援レベル「1」~「5」のアプリケーションAPのそれぞれを記憶している場合において、第3アプリケーションAP3の停止条件の取り扱いは次のいずれにしてもよい。すなわち、第3アプリケーションAP3の停止条件は、上記実施形態と同様、非設定にしてもよい。また、第3アプリケーションAP3の停止条件を設定してもよい。その際、第1アプリケーションAP1の停止条件と第2アプリケーションAP2の停止条件との兼ね合いで、運転支援レベルLYが大きくなるほど停止条件が狭くなるようにしてもよい。
【0055】
・運転支援レベルLYが「4」のアプリケーションAPを対象にした停止条件を設定したり、運転支援レベルLYが「5」のアプリケーションAPを対象にした停止条件を設定したりしてもよい。その際、運転支援レベルLYが大きいアプリケーションAPほど停止条件を狭くしてもよい。
【0056】
・運転支援レベルLYが大きいアプリケーションAPほど停止条件を狭く設定することは必須ではない。例えば、運転支援レベルLYに応じて、異なる事象又はパラメータを対象として停止条件を設定してもよい。例えば、第1アプリケーションAP1を対象にした停止条件では、車両100の走行速度を対象にした要件を設定し、第2アプリケーションAP2を対象にした停止条件では、車両100の走行速度ではない別の要件を設定する、といった具合である。また、別の例として、次のように停止条件を設定することも考えられる。すなわち、車両100の故障の要件に関して、第1アプリケーションAP1を対象にした停止条件と、第2アプリケーションAP2を対象にした停止条件とで、車両100に故障が生じていると判定する上での対象箇所を異ならせる。各運転支援レベルLYでどういった状況でアプリ指示値Kの出力を停止したいかを考慮して、適切な事象又はパラメータを停止条件の対象に設定することが考えられる。
【0057】
・上記変更例のように、運転支援レベルLYに応じて異なる事象又はパラメータを対象として停止条件を設定する場合において、例えば次のような構成を採用することも考えられる。すなわち、同じ運転支援レベルLYのアプリケーションAP同士で、アプリケーションAP毎に停止条件の内容を異ならせる。このとき、同じ運転支援レベルLYのアプリケーションAP同士では、対象とする事象又はパラメータを統一したり、停止条件の満たされにくさを同程度にしたりするなどして、何かしら統一の基準を持たせておく。
【0058】
・各運転支援レベルLYの停止条件に、車両100の故障の要件を含めることは必須ではない。車両100に故障が生じていない状況下であっても、アプリ指示値Kの出力を停止すべき状況が存在するのであれば、そうした状況を捉えられるように適宜停止条件を設定してよい。
【0059】
・運転支援レベルLYの数、及び運転支援レベルLYの定め方は、上記実施形態の例に限定されない。運転支援レベルLYの数を上記実施形態のものから変更する場合において、上記実施形態のように運転支援レベルLYが大きいアプリケーションAPほど停止条件を狭くしたり、最大支援レベルのアプリケーションAPについての停止条件を非設定にしたりしてもよい。また、こうした態様とは異なるかたちで停止条件を定めてもよい。各運転支援レベルLYに合わせて適切な停止条件を設定してよい。
【0060】
・加速度要求値CYに運転支援レベルLYが付されていることに関して、上記実施形態のようにアプリケーションAPから出力されるデータそのものにおいて加速度要求値CYに運転支援レベルLYが付されていることは必須ではない。例えば、次のような態様も、加速度要求値CYに運転支援レベルLYが付されている態様に含まれる。前提として、管理ECU10は、各アプリケーションAPの識別値と、それぞれのアプリケーションAPの運転支援レベルLYとを対応付けた対応リストを記憶している。こうした管理ECU10に対して、アプリケーションAPは、加速度要求値CYと、自身の識別値とを含むアプリデータAXを出力する。管理ECU10は、アプリデータAXを受信すると、アプリケーションAPから送られた識別値と、対応リストとに基づいて、アプリケーションAPの運転支援レベルLYを判別する。そして、管理ECU10は、判別した運転支援レベルLYを加速度要求値CYに運転支援レベルLYを付す。こうした事前の処理を行った加速度要求値CYを、受付部11が受け付けるようにしてもよい。
【0061】
・指令ECU50と管理ECU10とを別々の処理装置として構成するのではなく、1つの処理装置によって指令ECU50と管理ECU10との機能を兼ねる構成としてもよい。同様に、例えば、アクチュエータシステムのECUが、管理ECU10の機能を兼ねる構成としてもよい。
【0062】
・管理ECU10の処理回路20は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。この点、例えば指令ECU50といった、他のECUの処理回路についても同様である。
【0063】
(a)処理回路20は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0064】
(b)処理回路20は、各種処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0065】
(c)処理回路20は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0066】
<付記>
上記実施形態及び変更例は、以下の付記に記載する構成を含む。
[付記1]複数のアプリケーションからの加速度要求値、及びそれぞれの加速度要求値に付されている運転支援レベルを受け付けることと、受け付けた複数の加速度要求値の中で最も小さい加速度要求値を選択することと、受け付けた複数の運転支援レベルの中で最も大きい運転支援レベルを選択することと、選択した加速度要求値に応じた指示値を車両のアクチュエータに出力する一方で、前記指示値の出力を、選択した運転支援レベルに応じた条件で停止することと、を実行する車両の運動マネージャ。
【0067】
[付記2]前記指示値の出力を停止するにあたって、選択した運転支援レベルが大きいほど、前記指示値の出力を停止する条件を狭くする[付記1]に記載の車両の運動マネージャ。
【0068】
[付記3]前記指示値の出力を停止するにあたって、選択した運転支援レベルが、前記車両の有している各アプリケーションに付されている運転支援レベルの中で最大のときには、前記車両に故障が生じた場合であっても前記指示値の出力を停止せずに継続し、選択した運転支援レベルが最大より小さい特定レベルのときには、前記車両に故障が生じたことを条件に前記指示値の出力を停止する[付記2]に記載の車両の運動マネージャ。
【0069】
[付記4]選択した運転支援レベルに応じた条件が満たされたときに、選択した加速度要求値を予め定められた終了値に向けて時間の経過と共に近づけていくことにより、前記指示値の出力を停止する[付記1]~[付記3]のいずれか1つに記載の車両の運動マネージャ。
【符号の説明】
【0070】
10…管理ECU
11…受付部
12…加速度調停部
13…レベル調停部
14…出力部
70…第1アクチュエータシステム
72…アクチュエータ
80…第2アクチュエータシステム
82…アクチュエータ
100…車両