(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151942
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法及び異常判定装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20241018BHJP
B23Q 5/04 20060101ALI20241018BHJP
B23Q 5/54 20060101ALI20241018BHJP
B23Q 5/58 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
B23Q5/04 F
B23Q5/54 A
B23Q5/58 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065782
(22)【出願日】2023-04-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】中安 和正
(72)【発明者】
【氏名】眞弓 一矢
(72)【発明者】
【氏名】松本 勇毅
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029EE01
(57)【要約】
【課題】送り軸クランプ機構に過度な負担をかけることなく、かつ、工作機械を分解することなく送り軸クランプ機構の異常を判定できる異常判定方法及び異常判定装置を提供する。
【解決手段】送り軸22b、38を停止状態に保持する工作機械12の送り軸クランプ機構52、56の異常判定方法であって、クランプ機構を作動して送り軸22b、38の移動を停止状態に保持し、複数の試験用駆動力TF1、TF2を負荷したときの送り軸変位を測定して駆動力との相関関係ERを導出し、試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、判定用駆動力を負荷したときの想定変位SDを相関関係から予測し、想定変位に許容変動幅を持たせた変位許容範囲RAを算出し、送り軸22b、38に判定用駆動力を負荷したときの実送り軸変位を測定し、実送り軸変位が変位許容範囲から外れるときに送り軸クランプ機構52、56が異常と判定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の送り軸に設けられ、前記送り軸を停止状態に保持する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法であって、
前記送り軸クランプ機構によって前記送り軸の移動を停止状態に保持し、
予め設定した異なる複数の試験用駆動力を前記送り軸に負荷したときの送り軸変位を測定し、
測定した前記送り軸変位及び対応する前記試験用駆動力から前記送り軸変位と駆動力との相関関係を導出し、
複数の前記試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、前記判定用駆動力を負荷したときの前記送り軸の想定変位を前記相関関係に基づいて予測し、
予測した前記想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出し、
実際に前記送り軸に前記判定用駆動力を負荷したときの実送り軸変位を測定し、
測定した前記実送り軸変位が前記変位許容範囲から外れているときに前記送り軸クランプ機構が異常であると判定する、ことを特徴とした工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法。
【請求項2】
前記判定用駆動力が、複数の前記試験用駆動力の最大の試験用駆動力よりも大きい請求項1に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法。
【請求項3】
送り軸を駆動する送り軸駆動手段と、前記送り軸の変位測定手段と、前記送り軸の移動を停止状態に保持する送り軸クランプ機構とを有する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置であって、
前記送り軸クランプ機構によって前記送り軸の移動を停止状態に保持した状態で、予め設定した異なる複数の試験用駆動力を前記送り軸駆動手段によって前記送り軸に負荷し、前記変位測定手段で測定した送り軸変位及び対応する前記試験用駆動力から前記送り軸変位と駆動力との相関関係を導出する軸変位・駆動力相関関係導出手段と、
前記軸変位・駆動力相関関係導出手段によって導出した前記相関関係から前記試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、前記判定用駆動力を負荷したときの前記送り軸の想定変位を前記相関関係に基づいて予測する想定変位予測手段と、
前記想定変位予測手段によって予測した前記想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出する変位許容範囲算出手段と、
実際に前記送り軸に前記判定用駆動力を負荷した状態で前記変位測定手段によって測定した実送り軸変位が、前記変位許容範囲算出手段で算出した前記変位許容範囲から外れているときに前記送り軸クランプ機構が異常であると判定する判定手段と、
を具備することを特徴とした工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項4】
前記判定用駆動力が、複数の前記試験用駆動力の最大の試験用駆動力よりも大きい請求項3に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項5】
前記送り軸変位と前記駆動力との前記相関関係は、弾性域における関係である請求項4に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項6】
前記判定手段による判定結果を表示する表示手段を具備する、請求項5に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項7】
前記工作機械に配置され、前記送り軸駆動手段及び前記送り軸クランプ機構を作動させるための送り軸制御手段であって、前記送り軸制御手段は、前記判定手段が前記送り軸クランプ機構を異常であると判定した場合に、前記送り軸を停止させる請求項6に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項8】
前記送り軸は、回転送り軸又は直動送り軸である請求項3から請求項7の何れか1項に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の回転送り軸や直動送り軸を停止状態に保持する送り軸クランプ機構の異常判定方法及び異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は回転送り軸や直動送り軸に対してクランプ動作を行うことによって、これを停止状態に保持するが、工作機械を継続的に使用することによって送り軸クランプ機構が劣化し、故障する場合がある。このような故障が発生すると、通常は、工作機械を分解して点検及び修理を行うことになるため、作業効率の低下及びコストの増加によってユーザの大きな負担となる。また、クランプして加工中に送り軸がずれ、ワークの加工精度が悪化したり、電源オフ時に重力方向の直動送り軸が不用意に移動したりする問題もある。
【0003】
このため、特許文献1には、ワーク載置用テーブルを停止位置に保持するためのクランプ機構を備えた回転テーブルが開示されている。この回転テーブルは、クランプ機構によってワーク載置用テーブルをクランプしている状態において、モータに回転軸を回転させるトルクが徐々に大きくなるように回転指令を与え、回転軸の状態の変化と回転指令によるモータのトルク情報に基づきクランプトルクを測定する手段を有する。ここでいう、クランプトルクとは、ワーク載置用テーブルを停止位置に保持する送り軸クランプ機構が滑り始めるときのモータの回転トルクである。一般的には、クランプトルクは、安全率を考慮してモータの定格トルクよりも十分大きくなるように設定される。このため、クランプ装置本来の役割とは別に、クランプ力の異常の有無を検査するためのクランプトルク測定のたびに大きな回転トルクが負荷され、結果として送り軸クランプ機構には大きな負担がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、送り軸クランプ機構に過度な負担をかけることなく、かつ、工作機械を分解することなく送り軸クランプ機構の異常を判定することができる工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法及び異常判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、工作機械の送り軸に設けられ、送り軸を停止状態に保持する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法であって、送り軸クランプ機構によって送り軸の移動を停止状態に保持し、予め設定した異なる複数の試験用駆動力を送り軸に負荷したときの送り軸変位を測定し、測定した送り軸変位及び対応する試験用駆動力から送り軸変位と駆動力との相関関係を導出し、複数の試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、判定用駆動力を負荷したときの送り軸の想定変位を相関関係に基づいて予測し、予測した想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出し、実際に送り軸に判定用駆動力を負荷したときの実送り軸変位を測定し、測定した実送り軸変位が変位許容範囲から外れているときに送り軸クランプ機構が異常であると判定する、工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、送り軸を駆動する送り軸駆動手段と、送り軸の変位測定手段と、送り軸の移動を停止状態に保持する送り軸クランプ機構とを有する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置であって、送り軸クランプ機構によって送り軸の移動を停止状態に保持した状態で、予め設定した異なる複数の試験用駆動力を送り軸駆動手段によって送り軸に負荷し、変位測定手段で測定した送り軸変位及び対応する試験用駆動力から送り軸変位と駆動力との相関関係を導出する軸変位・駆動力相関関係導出手段と、軸変位・駆動力相関関係導出手段によって導出した相関関係から試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、判定用駆動力を負荷したときの送り軸の想定変位を相関関係に基づいて予測する想定変位予測手段と、想定変位予測手段によって予測した想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出する変位許容範囲算出手段と、実際に送り軸に判定用駆動力を負荷した状態で変位測定手段によって測定した実送り軸変位が、変位許容範囲算出手段で算出した変位許容範囲から外れているときに送り軸クランプ機構が異常であると判定する判定手段と、を具備する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法及び異常判定装置によれば、送り軸クランプ機構によって送り軸の移動を停止状態に保持した状態で、予め設定した異なる複数の試験用駆動力を送り軸に負荷したときの送り軸変位を測定し、測定した送り軸変位及び対応する試験用駆動力から送り軸変位と駆動力との相関関係を導出することができる。正常な機構、この場合、正常な送り軸クランプ機構では、駆動力と変位の間には線形又は弾性域において二次関数等で近似できる様な一定の関係性を有する。このため、送り軸変位と駆動力との相関関係を導出するためには、複数の試験用駆動力とこれらに対応する送り軸変位が把握できればよく、試験用駆動力には定格値よりも小さい駆動力を用いることができる。これによって、送り軸クランプ機構に過度な負担をかけることなく送り軸クランプ機構の異常を判定するための送り軸変位と駆動力との相関関係を導出することができる。
【0009】
また、本発明に係る工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法及び異常判定装置によれば、複数の試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、判定用駆動力を負荷したときの送り軸の想定変位を相関関係に基づいて予測することができる。ここでは、導出した送り軸変位と駆動力との相関関係に判定用駆動力と想定変位との関係が当てはまるかどうかを対比できればよいため、判定用駆動力には、定格値よりも小さい駆動力を用いることができる。これによって、送り軸クランプ機構の異常を判定するための判定用駆動力を送り軸クランプ機構に過度な負担をかけない大きさに設定することができる。さらに、予測した想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出することができる。このため、例えば、判定用駆動力に対する想定変位に、弾性域内での許容変動幅、並びに、工作機械の使用年数及び使用状況や使用する工場内の温度等の外的環境等に応じた想定変位の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を合理的に設定することができる。また、実際に送り軸に判定用駆動力を負荷したときの実送り軸変位を測定し、測定した実送り軸変位が変位許容範囲から外れているときに送り軸クランプ機構が異常であると判定することができる。このため、工作機械を分解することなく、実送り軸変位と変位許容範囲との対比に基づいて送り軸クランプ機構の異常の有無を迅速かつ容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る異常判定装置を備えた工作機械の斜視図を示す。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るテーブルを機械上下方向に沿って切断した断面図を示す。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る移動体の平面図を示す。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る移動体の正面図を示す。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る異常判定装置のブロック図を示す。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る異常判定のための駆動力と変位の相関関係であって、判定用駆動力が複数の試験用駆動力の中の最大の試験用駆動力よりも大きい場合の例を示す。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る異常判定のための駆動力と変位の相関関係であって、判定用駆動力を複数の試験用駆動力の中の最大の試験用駆動力と最小の試験用駆動力の間に設定する場合の例を示す。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る異常判定のための駆動力と変位の相関関係であって、判定用駆動力が複数の試験用駆動力の中の最小の試験用駆動力よりも小さい場合の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0012】
図1には、本実施形態に係る送り軸クランプ機構の異常判定装置10を備えた工作機械12の斜視図を示す。工作機械12は、基台となるベッド14と、ベッド14の上面に立設されたコラム16とを備える。ベッド14の上面には、移動体18が配置されている。移動体18には、傾斜旋回台20を介してテーブル22が配置されている。テーブル22の上方側には、ワーク(図示省略)を上面に固定するための円板状のワーク取付け面22aが形成されている。
【0013】
コラム16の前面にはサドル24が配置され、サドル24の前面には主軸ヘッド26が配置されている。主軸ヘッド26の先端側、ここでは、下方側には、回転可能に構成された主軸28が取り付けられている。主軸28は、これと共に回転しながらワークを加工するための工具(図示省略)を着脱可能に構成されている。
【0014】
本実施形態に係る工作機械12は、加工対象となるワークに対する工具の相対位置を変更するための駆動手段30(
図5参照)を備える。工作機械12には、所定の位置を原点とした機械座標が予め設定されており、互いに直交する直動送り軸として、X軸、Y軸及びZ軸を含む。また、機械座標は、回転方向を示すB軸及びC軸を含む。
【0015】
本実施形態に係る工作機械12は立形であり、Z軸は鉛直方向に沿って延在する。また、X軸及びY軸は、Z軸に垂直な平面上、ここでは、水平面上に設定する。また、本実施形態に係る工作機械12では、移動体18は、Y軸方向(機械前後方向)に沿って移動するように構成されている。また、サドル24は、X軸方向(機械左右方向)に沿って、主軸ヘッド26は、サドル24の前面をZ軸方向(機械上下方向)に沿って移動可能に構成されている。
【0016】
傾斜旋回台20は、B軸を回転方向として回動可能に構成されている。また、テーブル22は、回転中心線A1(
図2参照)周りのC軸を回転方向として回動可能に構成されている。回転中心線A1は、ワーク取付け面22aの回転送り軸としての中心軸22bの中心を通り、ワーク取付け面22aに直交する方向、ここでは鉛直方向に沿って延在する。
【0017】
駆動手段30は、工具とワークとをX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に沿って相対的に移動可能に構成されている。また、駆動手段30は、工具とワークとをB軸方向及びC軸方向に沿って相対的に回動可能に構成されている。
【0018】
駆動手段30は、工具とワークとをX軸方向に沿って相対移動させるために、コラム16の前面に形成された一対のX軸レール32a、32bを有する。サドル24は、X軸レール32a、32bに取り付けられ、これに沿った往復移動が可能となるように構成されている。また、駆動手段30は、ボールねじ機構等によりサドル24を移動させるX軸サーボモータ34を有する。このため、主軸28及び工具は、サドル24と共にX軸方向に沿って移動させることができる。
【0019】
駆動手段30は、工具とワークとをY軸方向に沿って相対移動させるために、ベッド14の上面に配置された一対のY軸レール36a、36bを有する。移動体18は、ガイドブロック(図示省略)を介してY軸レール36a、36bに支持され、これに沿った往復移動が可能となるように構成されている。コラム16には、Y軸方向に沿って移動する移動体18が通過できるように空洞部16aが形成されている。また、駆動手段30は、直動送り軸としてのボールねじ機構38(
図3及び
図4参照)により移動体18を移動させるY軸サーボモータ(図示省略)をベッド14の背面に有する。このため、傾斜旋回台20及びテーブル22は、移動体18と共にY軸方向に沿って移動させることができる。
【0020】
駆動手段30は、工具とワークとをZ軸方向に沿って相対移動させるために、サドル24の前面に形成された一対のZ軸レール40a、40bを有する。主軸ヘッド26は、Z軸レール40a、40bに取り付けられ、これに沿って往復移動が可能となるように構成されている。また、駆動手段30は、ボールねじ機構等により主軸ヘッド26を移動させるためのZ軸サーボモータ42を有する。このため、工具及び主軸28は、主軸ヘッド26と共にZ軸方向に沿って移動させることができる。さらに、主軸ヘッド26の内部には、主軸28をZ軸方向に沿った軸線周りに回転させるための駆動モータ(図示省略)が配置されている。
【0021】
駆動手段30は、工具とワークとをB軸方向に相対的に回転させるために、X軸、Y軸及びZ軸の全ての軸に対して傾斜している傾斜回転中心線を中心軸とする傾斜旋回台20を有する。移動体18の内部には、傾斜旋回台20を回転させるためのB軸サーボモータ(図示省略)が配置されており、B軸サーボモータを駆動することによって傾斜旋回台20をB軸方向に沿って回転させることができる。このため、テーブル22上に固定されたワークは、傾斜旋回台20と共にB軸方向に沿って回転させることができる。
【0022】
駆動手段30は、工具とワークとをC軸方向に相対的に回転させるために、
図2に示すようにダイレクトドライブモータ44(以下、DDモータ44と称する。)を有する。このため、DDモータ44を駆動させて、鉛直方向に沿った回転中心線A1周り、すなわちC軸方向に沿ってテーブル22のワーク取付け面22a及びこれに固定されたワークを回転させることができる。
【0023】
図2には、テーブル22の送り軸クランプ機構を説明するためにテーブル22を機械上下方向に沿って切断した断面図を模式的に示す。テーブル22は、外周形状が円筒形状に形成され、内部空間を有するハウジング22cを有しており、中心軸22bはハウジング22cの内部空間に回転可能に配置されている。ハウジング22cの内周面には、中心軸22bの外周面と対向するように転がり軸受46が配置されており、ワーク取付け面22a及び中心軸22bは、転がり軸受46を介して回転中心線A1周りに回転可能に構成されている。
【0024】
ハウジング22cの内周部における転がり軸受46の下方側には、中心軸22bを回転駆動するためのDDモータ44が配置されている。また、ハウジング22cの内周部におけるDDモータ44の下方側には、中心軸22bの回転中心線A1周りの回転位置及び変位量を読み取るためのロータリーエンコーダ等の変位測定手段としてのエンコーダ48が取付けられている。なお、以下の説明では、ハウジング22cには、DDモータ44が配置されているとして説明するが、これに限らず、例えば、周知のモータと歯車列を用いてテーブルが回転駆動されてもよい。また、ここでは、中心軸22bの変位はエンコーダ48によって計測されるとして説明するが、これに限らず、機械的に中心軸の変位を計測する他の変位測定手段が用いられてもよい。
【0025】
ハウジング22cの内周部の下方側には、ハウジング22cの内周形状に沿って中空円板状に形成されたディスクブレーキ50が配置されている。また、中心軸22bの内側は回転中心線A1を中心線とする円筒形状の空間が形成されており、その空間には、回転中心線A1を中心線とし、鉛直方向に沿って延在する円筒形状の送り軸クランプ機構としてのクランプ軸52が配置されている。ここでは、クランプ軸52は、油圧式のピストンとして構成されており、クランプ軸52の下端には、クランプ軸52の外径よりも大きな外径を有する円板状の送り軸クランプ機構としての当接部材54がクランプ軸52と一体で形成されている。クランプ軸52は、中心軸22bの内部を上下動可能に構成され、中心軸22bをクランプするために、上方側へ向けてクランプ動作CAを行う。このため、クランプ軸52は、上昇した状態で中心軸22bの内部にロック可能に構成されている。当接部材54は、上昇したクランプ軸52が中心軸22bに対してロックされたときに、上面がディスクブレーキ50の下面に当接すると共に、ディスクブレーキ50を中心軸22bの下面の間に挟み込むように構成されている。これによって、ワーク取付け面22a及び中心軸22bの回転中心線A1周りの回転をクランプし、停止状態を保持することができる。
【0026】
図3及び
図4には、移動体18のクランプ機構を説明するために、移動体18の平面図及び正面図を模式的に示す。移動体18の下方側には、ガイドブロック(図示省略)とは別個に、送り軸クランプ機構としてのクランプブレーキ56が取り付けられている。クランプブレーキ56は、正面視で下方側へ向けて開放した凹形状とされており、Y軸レール36a、36bを跨ぐように配置されている。
【0027】
クランプブレーキ56は、Y軸レール36a、36bの両側に鉛直方向に沿って延在するグリップ部材56a、56bを有する。グリップ部材56a、56bは、水平方向、ここでは、X軸方向に沿ってY軸レール36a、36bへ向けてスライド可能に構成されている。このため、グリップ部材56a、56bをY軸レール36a、36bへ向けてクランプ動作CAさせることによってY軸レール36a、36bを押圧し、これによって移動体18をクランプすることができる。また、移動体18のX軸方向の側部には、Y軸レール36a、36bに並行して移動体18の位置及び変位量を計測するための変位測定手段としての光学式リニアエンコーダ(図示省略)を構成するスケール58が配置されている。なお、ここでは、スケール58は、光学式リニアエンコーダを構成するものとして説明するが、これに限らず、例えば、画像から移動体の位置を読み取るための目盛りを刻んだスケールとされてもよい。
【0028】
図2を用いて回転送り軸である中心軸22b(C軸)のクランプ機構の構造を説明したが、テーブル22を傾斜旋回台20に、ハウジング22cを移動体18のハウジングに置き換えると、移動体18には、DDモータ44及びロータリーエンコーダ48と同等のものが設けられているため、傾斜旋回台20の回転軸(B軸)のクランプ機構も中心軸22b(C軸)のクランプ機構とほぼ同様と見なすことができる。このため、傾斜旋回台20の回転軸(B軸)のクランプ機構については、説明を省略する。また、
図3及び
図4を用いて直動送り軸であるY軸のクランプブレーキ56の構造を説明したが、
図3及び
図4における移動体18をサドル24又は主軸ヘッド26に、Y軸レール36a、36bをX軸レール32a、32b又はZ軸レール40a、40bに置き換えることによって、X軸及びZ軸のクランプブレーキも
図3及び
図4とほぼ同様と見なすことができる。このため、X軸及びZ軸のクランプブレーキについての説明を省略する。なお、直動送り軸のクランプブレーキ56はY軸レール36a、36bをグリップ部材56a、56bによって押圧するタイプのブレーキであるとして説明したが、これに限らず、ブレーキとして、例えば、ボールねじ機構のねじ軸に固定したディスクにブレーキパッドを押圧させるディスクブレーキが用いられてもよい。
【0029】
図5には、C軸(クランプ軸52)及びY軸(Y軸レール36a、36bに対するクランプブレーキ56)を代表例とする異常判定装置10のブロック図を示す。なお、上記のとおり、B軸(傾斜旋回台20の回転軸)、X軸(X軸レール32a、32b)、及び、Z軸(Z軸レール40a、40b)についても同様の取り扱いができるため、ここでは説明を省略する。異常判定装置10は、工作機械12に付属され、工作機械12を制御するためのNC装置60に組み込まれている。なお、以下の説明では、異常判定装置10は、NC装置60に組み込まれているとして説明するが、これに限らず、異常判定装置は、NC装置とは別個に構成されてもよい。
【0030】
異常判定装置10は、送り軸制御手段64と、軸変位・駆動力相関関係導出手段66と、想定変位予測手段68と、変位許容範囲算出手段70とを有して構成されている。送り軸制御手段64は、工具とワークとを相対的に移動させるために、駆動指令を送信して駆動手段30を作動させるように構成されている。また、送り軸制御手段64は、中心軸22bをクランプするために、停止指令をクランプ軸52及び当接部材54に送信してクランプ動作CAをさせるように構成されている。さらに、送り軸制御手段64は、移動体18、すなわち、Y軸レール36a、36bをクランプするために、停止指令をクランプブレーキ56に送信してクランプ動作CAをさせるように構成されている。
【0031】
送り軸制御手段64は、C軸及びY軸をクランプし、これらの移動を停止状態に保持した状態で、駆動手段30に駆動指令を送信し、予め設定された異なる複数の試験用駆動力TF1、TF2(
図6参照)をC軸及びY軸に負荷させるように構成されている。また、送り軸制御手段64は、C軸及びY軸に試験用駆動力TF1、TF2を負荷した状態で、測定指令をエンコーダ48及びスケール58(光学式リニアエンコーダ)に送信し、C軸及びY軸、すなわち、テーブル22の回転位置及び/又は移動体18の直動位置を測定させ、回転位置及び/又は直動位置の測定値を受信するように構成されている。
【0032】
軸変位・駆動力相関関係導出手段66は、送り軸制御手段64並びにエンコーダ48及びスケール58と電気的に接続されており、送り軸制御手段64が駆動手段30に指令した試験用駆動力TF1、TF2のデータを受信するとともに、エンコーダ48及びスケール58から回転位置又は直動位置の測定値を受信するように構成されている。また、軸変位・駆動力相関関係導出手段66は、受信した回転位置又は直動位置の測定値からC軸及び/又はY軸の回転変位又は直動変位を算出するように構成されている。さらに、軸変位・駆動力相関関係導出手段66は、C軸の回転変位又はY軸の直動変位並びに対応する試験用駆動力TF1、TF2から変位と駆動力との相関関係を導出するように構成されている。
【0033】
想定変位予測手段68は、送り軸制御手段64及び軸変位・駆動力相関関係導出手段66と電気的に接続されており、送り軸制御手段64において予め設定され、複数の試験用駆動力TF1、TF2とは異なる判定用駆動力JF(
図6から
図8参照)のデータを受信すると共に、軸変位・駆動力相関関係導出手段66から変位と駆動力との相関関係ER(
図6参照)のデータを受信するように構成されている。また、想定変位予測手段68は、受信したこれらのデータから判定用駆動力JFを負荷したときのC軸及びY軸の想定変位SD(
図6から
図8参照)を予測するように構成されている。
図6から
図8には、設定する判定用駆動力JFと複数の試験用駆動力TF1、TF2との関係毎の変位と駆動力との相関関係ERを示す。具体的には、
図6には、判定用駆動力JFが複数の試験用駆動力TF1、TF2の最大の試験用駆動力TF2よりも大きい場合の相関関係ERを示す。また、
図7には、判定用駆動力JFを複数の試験用駆動力TF1、TF2の中の最大の試験用駆動力TF2と最小の試験用駆動力TF1の間に設定する場合の相関関係ERを示す。さらに、
図8には、判定用駆動力JFが複数の試験用駆動力TF1、TF2の最小の試験用駆動力TF1よりも小さい場合の相関関係ERを示す。
【0034】
図5に示すように、変位許容範囲算出手段70は、想定変位予測手段68と電気的に接続されており、想定変位予測手段68から受信した想定変位SDに所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲RA(
図6から
図8参照)を算出するように構成されている。ここで、所定の許容変動幅とは、例えば、判定用駆動力JFに対する想定変位SDの弾性域内での許容変動幅、並びに、工作機械12の使用年数及び使用状況や工作機械12を使用する工場内の温度等の外的環境等に応じた想定変位SDの許容変動幅といったように、個別のC軸及びY軸に生じうる変動幅を意味する。
【0035】
異常判定装置10は、また、判定手段72を有する。判定手段72は、変位許容範囲算出手段70と電気的に接続され、これから算出した変位許容範囲RAのデータを受信するように構成されている。送り軸制御手段64は、C軸及びY軸をクランプし、これらの移動を停止状態に保持した状態で、駆動手段30に駆動指令を送信し、判定用駆動力JFをC軸及びY軸に実際に負荷させるように構成されている。また、送り軸制御手段64は、C軸及びY軸に判定用駆動力JFを負荷した状態で、測定指令をエンコーダ48及びスケール58に送信し、C軸及びY軸回転位置及び直動位置を測定させ、実際の回転位置及び直動位置の測定値を受信するように構成されている。
【0036】
判定手段72は、エンコーダ48及びスケール58から実際の回転位置又は直動位置の測定値を受信し、これらからC軸及びY軸の実際の送り軸変位、すなわち、実送り軸変位の測定値を算出するように構成されている。さらに、判定手段72は、算出した実送り軸変位が変位許容範囲RA内にあるか否かを確認し、変位許容範囲RAから外れているときにクランプ軸52及び当接部材54並びにクランプブレーキ56及びグリップ部材56a、56b、すなわち、送り軸クランプ機構52、54、56が異常であると判定するように構成されている。判定手段72は、送り軸制御手段64と電気的に接続されており、送り軸クランプ機構52、54、56が異常であると判定した場合は、送り軸制御手段64に停止指令を送信し、送り軸クランプ機構52、54、56を含む駆動手段30及び工作機械12を停止させるように構成されている。
【0037】
異常判定装置10は、また、表示手段74を有しており、判定手段72と電気的に接続されている。表示手段74は、判定手段72が送り軸クランプ機構52、54、56を異常であると判定した場合に、異常を工作機械12の外側にいるユーザ等に迅速に伝達するために、例えば、異常を知らせるアラーム音を発することや、異常を知らせる表示を工作機械12の表示パネル等に表示させることができるように構成されている。
【0038】
続いて、本実施形態に係る異常判定装置10を使用した異常判定の説明を通じて、異常判定装置10の作用及び効果を説明する。
【0039】
はじめに、中心軸22bの異常判定方法について説明する。中心軸22bは、送り軸制御手段64がクランプ軸52の当接部材54を作動してディスクブレーキ50に当接させることによってクランプされる。送り軸制御手段64は、中心軸22bがクランプされた状態で、駆動手段30、ここでは、DDモータ44に駆動指令を送信し、予め設定された異なる複数の試験用駆動力TF1、TF2(回転トルク)を中心軸22bに負荷する。
図6に示すように、複数の試験用駆動力TF1、TF2には、定格トルク(100%)よりも小さいトルクTF1、TF2が用いられる。試験用駆動力TF1、TF2を負荷することによってディスクブレーキ50を基点に中心軸22bには送り軸変位としての回転変位が生じる。回転変位(
図6中の丸印)はエンコーダ48によって測定され、回転変位のデータが送り軸制御手段64に伝達される。軸変位・駆動力相関関係導出手段66は、送り軸制御手段64から取得した中心軸22bの回転変位及び対応する試験用駆動力TF1、TF2から変位と駆動力との相関関係ERを導出する。
【0040】
発明者らは、同一の工作機械12をクランプした状態で駆動力を与えて変位を計測することを多数繰り返した実験を行っている。この結果、所定の繰り返し回数までは、
図6に示すように変位と駆動力(図中の指令トルク)の相関関係ERは線形性を有すること、及び、変位と駆動力の関係は高い繰返し性、すなわち再現性を持つことを検証している。さらに、発明者らは、所定の繰り返し回数を超えると、
図6に一例として示すように、変位と駆動力の関係PRは、例えば、塑性変形が生じることによって、線形性を持たなくなることも検証している。
【0041】
変位許容範囲算出手段70は、想定変位予測手段68から受信した想定変位SDに所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲RAを算出する。ここで、所定の許容変動幅とは、例えば、判定用駆動力JFに対する想定変位SDの弾性域内での許容変動幅並びに工作機械12の使用年数及び使用状況や工作機械12を使用する工場内の温度等の外的環境等に応じた想定変位SDの許容変動幅といったように、個別の中心軸22bに生じうる変動幅を意味する。変位許容範囲RAを算出すると、送り軸制御手段64は、DDモータ44に駆動指令を送信し、判定用駆動力JFを中心軸22bに実際に負荷する。さらに、送り軸制御手段64は、測定指令をエンコーダ48に送信し、中心軸22bの回転位置を測定させる。
【0042】
判定手段72は、エンコーダ48から受信した実際の回転位置の測定値から中心軸22bの実送り軸変位の測定値を算出し、算出した実送り軸変位が変位許容範囲RA内にあるか否かを確認し、変位許容範囲RAから外れているときにクランプ軸52及び当接部材54が異常であると判定する。判定手段72は、クランプ軸52及び当接部材54が異常であると判定した場合は、表示手段74に異常を伝達して、これに異常であることを表示させると共に、送り軸制御手段64に停止指令を送信し、中心軸22bを含む駆動手段30及び工作機械12を停止させる。
【0043】
つぎに、Y軸レール36a、36bのクランプブレーキ56の異常判定方法について説明する。Y軸は、送り軸制御手段64がクランプブレーキ56のグリップ部材56a、56bを作動してY軸レール36a、36bを押圧することによってクランプされる。送り軸制御手段64は、Y軸がクランプされた状態で、駆動手段30、ここでは、Y軸サーボモータに駆動指令を送信し、予め設定された異なる複数の試験用駆動力TF1、TF2(トルク)をボールねじ機構38に負荷する。ここで、複数の試験用駆動力TF1、TF2には、定格トルク(100%)よりも小さいトルクTF1、TF2が用いられる。試験用駆動力TF1、TF2を負荷することによってクランプブレーキ56を基点に移動体18には送り軸変位としての直動変位が生じる。直動変位(
図6中の丸印)はスケール58によって測定され、直動変位のデータが送り軸制御手段64に伝達される。軸変位・駆動力相関関係導出手段66は、送り軸制御手段64から取得した移動体18の直動変位及び対応する試験用駆動力TF1、TF2から変位と駆動力との相関関係ERを導出する。
【0044】
変位許容範囲算出手段70は、想定変位予測手段68から受信した想定変位SDに所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲RAを算出する。また、送り軸制御手段64は、Y軸サーボモータに駆動指令を送信し、判定用駆動力JFをボールねじ機構38に実際に負荷する。判定手段72は、スケール58から受信した実際の直動位置の測定値が変位許容範囲RA内にあるか否かを確認し、変位許容範囲RAから外れているときにクランプブレーキ56が異常であると判定する。判定手段72は、クランプブレーキ56が異常であると判定した場合は、表示手段74に異常を伝達して、これに異常であることを表示させると共に、送り軸制御手段64に停止指令を送信し、ボールねじ機構38を含む駆動手段30及び工作機械12を停止させる。
【0045】
本実施形態に係る異常判定方法及び異常判定装置10によれば、送り軸クランプ機構52、54、56によってC軸及びY軸の移動を停止状態に保持した状態で、予め設定した異なる複数の試験用駆動力TF1、TF2をC軸及びY軸に負荷したときの送り軸変位を測定し、測定した送り軸変位及び対応する試験用駆動力TF1、TF2から送り軸変位と駆動力との相関関係ERを導出することができる。正常な送り軸クランプ機構52、54、56では、トルクと変位の相関関係ERは一定の線形性を有する。このため、送り軸変位と駆動力との相関関係ERを導出するためには、複数の試験用駆動力TF1、TF2とこれらに対応する送り軸変位が把握できればよく、試験用駆動力TF1、TF2には定格トルクよりも小さい駆動力を用いることができる。これによって、送り軸クランプ機構52、54、56に過度な負担をかけることなく、これらの異常を判定するための送り軸変位と駆動力との相関関係ERを導出することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る異常判定方法及び異常判定装置10によれば、複数の試験用駆動力TF1、TF2とは異なる判定用駆動力JFを設定し、判定用駆動力JFを負荷したときのC軸及びY軸の想定変位SDを相関関係ERに基づいて予測することができる。ここでは、導出した送り軸変位と駆動力との相関関係ERに判定用駆動力JFと想定変位SDとの関係が当てはまるかどうかを対比できればよいため、判定用駆動力JFには、定格トルクよりも小さい駆動力を用いることができる。これによって、送り軸クランプ機構52、54、56の異常を判定するための判定用駆動力JFを送り軸クランプ機構52、54、56に過度な負担をかけない大きさに設定することができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る異常判定方法及び異常判定装置10によれば、予測した想定変位SDに所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲RAを算出することができる。このため、例えば、判定用駆動力JFに対する想定変位SDに、弾性域内での許容変動幅並びに工作機械の使用年数及び使用状況や工作機械を使用する工場内の温度等の外的環境等に応じた想定変位SDの許容変動幅を持たせた変位許容範囲RAを合理的に設定することができる。また、実際にC軸及びY軸に判定用駆動力JFを負荷したときの実送り軸変位を測定し、測定した実送り軸変位が変位許容範囲RAから外れているときに送り軸クランプ機構52、54、56が異常であると判定することができる。このため、工作機械を分解することなく、実送り軸変位と変位許容範囲RAとの対比に基づいて送り軸クランプ機構52、54、56の異常の有無を迅速、かつ、容易に判定することができる。
【0048】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る異常判定装置10は、クランプ軸52やクランプブレーキ56に過度な負担をかけることなく、かつ、工作機械12を分解することなくクランプ軸52やクランプブレーキ56の異常を判定することができる。
【0049】
なお、ここでは、送り軸クランプ機構52、54、56の異常の有無を判定用駆動力JFと変位許容範囲RAとの対比から判定するとして説明したが、これに限らず、例えば、駆動力を負荷したときに生じる変位の時系列、すなわち、変位波形の形状や傾向に基づいて判定してもよい。また、このように変位波形の形状や傾向に基づいて判定する場合に、変位波形が弾性挙動又は非弾性挙動であることを計算機等によって統計処理をすることによって判定してもよく、このような統計処理には、変位波形の画像処理やAIによるビッグデータ化などのデータ処理が活用されてもよい。
【0050】
正常な送り軸クランプ機構52、54、56によれば、トルクと変位の相関関係ERは一定の線形性を有する。このため、判定用駆動力JF及び試験用駆動力TF1、TF2の大小関係にかかわらず、トルクと変位の相関関係ERが線形性の関係にあれば正常と判断判定することができ、また、線形性を大きく逸脱する関係であれば異常と判定することができるためである。
【0051】
以上、工作機械12の異常判定装置10の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が想到する範囲において、上記の実施形態の様々な変形が本発明の実施形態に含まれる。なお、クランプ時の送り軸の変位と駆動力との関係は線形性を有するとして説明したが、発明者らは予め行った実験において、正常な変位と駆動力の関係は、弾性域において二次関数や他の関数で近似しうる関係も生じ得ることを確認している。このため、変位と駆動力の関係が、二次関数や他の関数で近似できる関係も、本発明の実施形態として含まれてもよい。すなわち、変位と駆動力の関係が予め定まっていれば、複数の試験駆動力に対応する送り軸変位を測定し、送り軸変位と駆動力との相関関係を一義的に導出することができるからである。また、ここでは、複数の試験用駆動力TF1、TF2は、2つの場合を例示したが、これに限らず、3つ以上の試験用駆動力を用いてもよい。さらに、3つ以上の試験用駆動力に対する3つ以上の送り軸変位から近似直線や近似2次曲線等を導出して相関関係を導出してもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 異常判定装置
12 工作機械
22b 中心軸(回転送り軸)
38 ボールねじ機構(直動送り軸)
48 エンコーダ(変位測定手段)
52 クランプ軸(送り軸クランプ機構)
54 当接部材(送り軸クランプ機構)
56 クランプブレーキ(送り軸クランプ機構)
58 スケール(変位測定手段)
64 送り軸制御手段
66 軸変位・駆動力相関関係導出手段
68 想定変位予測手段
70 変位許容範囲算出手段
72 判定手段
74 表示手段
ER 相関関係
JF 判定用駆動力
SD 想定変位
TF1 試験用駆動力
TF2 試験用駆動力
RA 変位許容範囲
【手続補正書】
【提出日】2024-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の送り軸に設けられ、前記送り軸を停止状態に保持する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法であって、
前記送り軸クランプ機構によって前記送り軸の移動を停止状態に保持し、
予め設定した異なる複数の試験用駆動力を前記送り軸に加えたときの送り軸変位を測定し、
測定した前記送り軸変位及び対応する前記試験用駆動力から前記送り軸変位と駆動力との線形性の相関関係を導出し、
複数の前記試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、前記判定用駆動力を加えたときの前記送り軸の想定変位を前記線形性の相関関係に基づいて予測し、
予測した前記想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出し、
実際に前記送り軸に前記判定用駆動力を加えたときの実送り軸変位を測定し、
測定した前記実送り軸変位が前記変位許容範囲から外れているときに前記送り軸クランプ機構が異常であると判定する、ことを特徴とした工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法。
【請求項2】
前記判定用駆動力が、複数の前記試験用駆動力の最大の試験用駆動力よりも大きい請求項1に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定方法。
【請求項3】
送り軸を駆動する送り軸駆動手段と、前記送り軸の変位測定手段と、前記送り軸の移動を停止状態に保持する送り軸クランプ機構とを有する工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置であって、
前記送り軸クランプ機構によって前記送り軸の移動を停止状態に保持した状態で、予め設定した異なる複数の試験用駆動力を前記送り軸駆動手段によって前記送り軸に加え、前記変位測定手段で測定した送り軸変位及び対応する前記試験用駆動力から前記送り軸変位と駆動力との線形性の相関関係を導出する軸変位・駆動力相関関係導出手段と、
前記軸変位・駆動力相関関係導出手段によって導出した前記線形性の相関関係から前記試験用駆動力とは異なる判定用駆動力を設定し、前記判定用駆動力を加えたときの前記送り軸の想定変位を前記線形性の相関関係に基づいて予測する想定変位予測手段と、
前記想定変位予測手段によって予測した前記想定変位に所定の許容変動幅を持たせた変位許容範囲を算出する変位許容範囲算出手段と、
実際に前記送り軸に前記判定用駆動力を加えた状態で前記変位測定手段によって測定した実送り軸変位が、前記変位許容範囲算出手段で算出した前記変位許容範囲から外れているときに前記送り軸クランプ機構が異常であると判定する判定手段と、
を具備することを特徴とした工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項4】
前記判定用駆動力が、複数の前記試験用駆動力の最大の試験用駆動力よりも大きい請求項3に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項5】
前記判定手段による判定結果を表示する表示手段を具備する、請求項4に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項6】
前記工作機械に配置され、前記送り軸駆動手段及び前記送り軸クランプ機構を作動させるための送り軸制御手段であって、前記送り軸制御手段は、前記判定手段が前記送り軸クランプ機構を異常であると判定した場合に、前記送り軸を停止させる請求項5に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。
【請求項7】
前記送り軸は、回転送り軸又は直動送り軸である請求項3から請求項6の何れか1項に記載の工作機械の送り軸クランプ機構の異常判定装置。