(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151957
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】昇圧装置、補正値検出用情報生成装置、温度推定装置、内部抵抗推定装置、昇圧方法、補正値検出用情報生成方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065808
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 石南
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋平
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS01
5H730AS04
5H730BB14
5H730BB57
5H730BB82
5H730BB88
5H730DD03
5H730DD16
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD41
5H730FG05
5H730FG10
5H730FG12
5H730FG22
(57)【要約】
【課題】多相化された昇圧チョッパ回路において、フィードバック制御において要求される速度に追従可能な電流測定回路を用いつつ、制御性の良いフィードバック制御を行う。
【解決手段】測定インダクタ電流値を一定のサンプリング間隔でサンプリングしたサンプル電流値に対して、昇圧回路の数に応じて生じる相違であってサンプル電流値の平均値とインダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値との相違を補正する電流補正値を適用して得られる補正インダクタ電流値と、昇圧チョッパ回路の入力端子間及び出力端子間の電圧値とに基づくフィードバック制御を行うことにより、予め定められる制御目標値に近づくようにしつつ、各々が同一のスイッチング周期で駆動する前記昇圧回路の各々の駆動位相の位相差を360°を昇圧回路の数で割り算して得られる位相量に一致させるようにスイッチ素子を駆動する制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がインダクタと、スイッチ素子とを有する複数の昇圧回路と、平滑コンデンサとによって形成される多相化された昇圧チョッパ回路と、
前記インダクタの各々を流れる電流を測定して測定インダクタ電流値を取得する複数の電流測定回路と、
前記測定インダクタ電流値を一定のサンプリング間隔でサンプリングしたサンプル電流値に対して、前記昇圧回路の数に応じて生じる相違であって前記サンプル電流値の平均値と前記インダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値との相違を補正する電流補正値を適用して得られる補正インダクタ電流値と、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間及び出力端子間の電圧値とに基づくフィードバック制御を行うことにより、予め定められる制御目標値に近づくようにしつつ、各々が同一のスイッチング周期で駆動する前記昇圧回路の各々の駆動位相の位相差を360°を前記昇圧回路の数で割り算して得られる位相量に一致させるように前記スイッチ素子を駆動する制御部と、
を備える昇圧装置。
【請求項2】
少なくとも前記昇圧チョッパ回路の入力端子間の電圧値を含む前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報と、前記電流補正値との関係を示す補正値検出用情報を予め記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、
前記サンプル電流値が得られた際の前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報と、前記補正値検出用情報とに基づいて、前記電流補正値を検出し、検出した前記電流補正値を前記サンプル電流値に適用して前記補正インダクタ電流値を得る、
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項3】
多相化された昇圧チョッパ回路をインタリーブ制御する昇圧装置の前記昇圧チョッパ回路に含まれるインダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値と、前記インダクタを流れる電流を電流測定回路によって測定して一定のサンプリング間隔でサンプリングすることにより得られるサンプル電流値の平均値との相違の補正に用いられる電流補正値と、前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報との関係を示す補正値検出用情報を生成する補正値検出用情報生成装置であって、
前記インダクタの特性を示すインダクタ特性値と、前記昇圧チョッパ回路のスイッチング周期と、前記昇圧チョッパ回路をモデル化した昇圧チョッパ回路モデル式とに基づいて、前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報を組み合わせて生成される複数のパラメータの各々の推定実インダクタ電流値を算出する実電流推定部と、
前記電流測定回路の時定数と、前記電流測定回路をモデル化した電流測定回路モデル式とに基づいて、前記パラメータごとの前記推定実インダクタ電流値から、前記パラメータごとの推定測定インダクタ電流値を算出する測定電流推定部と、
前記パラメータごとの前記推定測定インダクタ電流値を、前記サンプリング間隔のサンプリングタイミングと同一のサンプリングタイミングでサンプリングして、前記パラメータごとの推定サンプル電流値を抽出するサンプル電流推定部と、
前記推定実インダクタ電流値と、前記推定サンプル電流値とから、前記パラメータごとの前記電流補正値を算出し、前記パラメータと、前記電流補正値との関係を示す前記補正値検出用情報を生成する情報生成部と、
を備える補正値検出用情報生成装置。
【請求項4】
前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報は、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間の電圧値と、前記昇圧チョッパ回路の出力端子間の電圧値とを含み、前記パラメータは、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間の電圧値と、前記昇圧チョッパ回路の出力端子間の電圧値とを組み合わせて生成される、
請求項3に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項5】
前記パラメータにおいて、前記出力端子間の電圧値が一定値に固定される、
請求項4に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項6】
前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報は、更に、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間に供給される電力値を含み、前記パラメータは、組み合わせの要素に前記昇圧チョッパ回路の入力端子間に供給される電力値が加えられて生成される、
請求項4または請求項5に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項7】
前記インダクタ特性値には、前記インダクタのインダクタンス値であって、複数の前記電力値の各々に対して予め定められるインダクタンス値が含まれる、
請求項6に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項8】
前記インダクタの全部、または、一部は、磁気結合された磁気結合インダクタであり、磁気結合されている前記インダクタ特性値には、結合係数が含まれる、
請求項3に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項9】
前記電流測定回路は、
前記インダクタを流れる電流の電流値を示すセンサインダクタ電流値を検出するセンサ回路と、
前記センサ回路が検出する前記センサインダクタ電流値をローパスフィルタリングして測定インダクタ電流値を得るフィルタ回路と、
を備えており、
前記電流測定回路の時定数には、前記センサ回路の時定数と、前記フィルタ回路の時定数とが含まれる、
請求項3に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項10】
前記情報生成部は、
前記補正値検出用情報として、前記電流補正値の離散値を要素として含むテーブル形式で示される情報を生成するか、または、前記電流補正値を算出する関数によって示される情報を生成する、
請求項3に記載の補正値検出用情報生成装置。
【請求項11】
請求項1に記載の昇圧装置の制御部に接続する温度推定装置であって、
前記昇圧チョッパ回路における測定対象箇所、または、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間に接続する機器における測定対象箇所を含む部材の外部から測定可能な箇所の温度を測定し、測定した温度と、前記制御部から取得する前記補正インダクタ電流値とに基づいて、前記測定対象箇所の温度を算出する、
温度推定装置。
【請求項12】
請求項1に記載の昇圧装置の制御部に接続する内部抵抗推定装置であって、
前記昇圧チョッパ回路の入力端子間の電圧値と、前記制御部から取得する前記補正インダクタ電流値とに基づいて、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間に接続する蓄電器の内部抵抗値を算出する、
内部抵抗推定装置。
【請求項13】
各々がインダクタと、スイッチ素子とを有する複数の昇圧回路と、平滑コンデンサとによって形成される多相化された昇圧チョッパ回路における前記インダクタの各々を流れる電流を測定して測定インダクタ電流値を取得し、
前記測定インダクタ電流値を一定のサンプリング間隔でサンプリングしたサンプル電流値に対して、前記昇圧回路の数に応じて生じる相違であって前記サンプル電流値の平均値と前記インダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値との相違を補正する電流補正値を適用して補正インダクタ電流値を算出し、
算出した前記補正インダクタ電流値と、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間及び出力端子間の電圧値とに基づくフィードバック制御を行うことにより、予め定められる制御目標値に近づくようにしつつ、各々が同一のスイッチング周期で駆動する前記昇圧回路の各々の駆動位相の位相差を360°を前記昇圧回路の数で割り算して得られる位相量に一致させるように前記スイッチ素子を駆動する、
昇圧方法。
【請求項14】
多相化された昇圧チョッパ回路をインタリーブ制御する昇圧装置の前記昇圧チョッパ回路に含まれるインダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値と、前記インダクタを流れる電流を電流測定回路によって測定して一定のサンプリング間隔でサンプリングすることにより得られるサンプル電流値の平均値との相違の補正に用いられる電流補正値と、前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報との関係を示す補正値検出用情報を生成する補正値検出用情報生成方法であって、
前記インダクタの特性を示すインダクタ特性値と、前記昇圧チョッパ回路のスイッチング周期と、前記昇圧チョッパ回路をモデル化した昇圧チョッパ回路モデル式とに基づいて、前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報を組み合わせて生成される複数のパラメータの各々の推定実インダクタ電流値を算出し、
前記電流測定回路の時定数と、前記電流測定回路をモデル化した電流測定回路モデル式とに基づいて、前記パラメータごとの前記推定実インダクタ電流値から、前記パラメータごとの推定測定インダクタ電流値を算出し、
前記パラメータごとの前記推定測定インダクタ電流値を、前記サンプリング間隔のサンプリングタイミングと同一のサンプリングタイミングでサンプリングして、前記パラメータごとの推定サンプル電流値を抽出し、
前記推定実インダクタ電流値と、前記推定サンプル電流値とから、前記パラメータごとの前記電流補正値を算出し、前記パラメータと、前記電流補正値との関係を示す前記補正値検出用情報を生成する、
補正値検出用情報生成方法。
【請求項15】
コンピュータに、
各々がインダクタと、スイッチ素子とを有する複数の昇圧回路と、平滑コンデンサとによって形成される多相化された昇圧チョッパ回路における前記インダクタの各々を流れる電流の測定値である測定インダクタ電流値が一定のサンプリング間隔でサンプリングされることにより抽出されるサンプル電流値に対して、前記昇圧回路の数に応じて生じる相違であって前記サンプル電流値の平均値と前記インダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値との相違を補正する電流補正値を適用して補正インダクタ電流値を算出する手順、
算出した前記補正インダクタ電流値と、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間及び出力端子間の電圧値とに基づくフィードバック制御を行うことにより、予め定められる制御目標値に近づくようにしつつ、各々が同一のスイッチング周期で駆動する前記昇圧回路の各々の駆動位相の位相差を360°を前記昇圧回路の数で割り算して得られる位相量に一致させるように前記スイッチ素子を駆動する手順、
を実行させるためのプログラム。
【請求項16】
多相化された昇圧チョッパ回路をインタリーブ制御する昇圧装置の前記昇圧チョッパ回路に含まれるインダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値と、前記インダクタを流れる電流を電流測定回路によって測定して一定のサンプリング間隔でサンプリングすることにより得られるサンプル電流値の平均値との相違の補正に用いられる電流補正値と、前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報との関係を示す補正値検出用情報を生成するコンピュータに、
前記インダクタの特性を示すインダクタ特性値と、前記昇圧チョッパ回路のスイッチング周期と、前記昇圧チョッパ回路をモデル化した昇圧チョッパ回路モデル式とに基づいて、前記昇圧チョッパ回路の電気入出力に関わる情報を組み合わせて生成される複数のパラメータの各々の推定実インダクタ電流値を算出する手順、
前記電流測定回路の時定数と、前記電流測定回路をモデル化した電流測定回路モデル式とに基づいて、前記パラメータごとの前記推定実インダクタ電流値から、前記パラメータごとの推定測定インダクタ電流値を算出する手順、
前記パラメータごとの前記推定測定インダクタ電流値を、前記サンプリング間隔のサンプリングタイミングと同一のサンプリングタイミングでサンプリングして、前記パラメータごとの推定サンプル電流値を抽出する手順、
前記推定実インダクタ電流値と、前記推定サンプル電流値とから、前記パラメータごとの前記電流補正値を算出し、前記パラメータと、前記電流補正値との関係を示す前記補正値検出用情報を生成する手順、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、昇圧装置、補正値検出用情報生成装置、温度推定装置、内部抵抗推定装置、昇圧方法、補正値検出用情報生成方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、いわゆる昇圧チョッパと呼ばれる昇圧装置200の一例を示すブロック図である。昇圧装置200は、例えば、入力端子201-1,201-2に、蓄電器が接続され、蓄電器から供給される電圧値V
1を昇圧した電圧値V
2を出力端子210-1,210-2から出力する。昇圧装置200による昇圧の仕組みは、以下の通りである。
【0003】
スイッチ素子203をONにすると、入力端子201-1,201-2に供給された電圧値V1によって、入力端子201-1、インダクタ202、スイッチ素子203を経て、入力端子201-2に至る経路に電流が流れる。当該経路に流れる電流が増加するにつれて、インダクタ202にエネルギーが蓄積されていく。インダクタ202にエネルギーが蓄積された後、スイッチ素子203をOFFにすると、電流の経路が、入力端子201-1、インダクタ202、ダイオード204、出力端子210-1,210-2の間に接続される負荷を経て、入力端子201-2に至る経路に切り替わる。この場合に、インダクタ202は、エネルギーを放出し、それにより、出力端子210-1,210-2の間に、入力端子201-1,201-2の間の電圧値V1よりも高い電圧値V2が生じることになる。
【0004】
このような昇圧装置200では、例えば、出力端子210-1,210-2の間の電圧値V2が、目標電圧値になるように、スイッチ素子203のONとOFFのタイミングを定めるフィードバック制御が行われる。このフィードバック制御の応答性を高めるために、例えば、インダクタ202を流れる電流の電流値をセンサ回路206によって検出することが行われる。センサ回路206が検出した電流値のアナログデータは、昇圧装置200の回路に存在するノイズを除去するために、フィルタ回路207によってローパスフィルタリングされた後、制御部220のAD(Analog-to-Digital)変換部221に供給される。
【0005】
AD変換部221は、フィルタリング後の電流値のアナログデータを、一定のサンプリング間隔でサンプリングすることにより、デジタルデータに変換して制御信号生成部222に出力する。制御信号生成部222は、デジタルの電流値のデータと、目標電圧値とに基づいて、電圧値V2を目標電圧値に近づけるようなスイッチ素子203のONとOFFのタイミングを算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表WO2018/070012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図16は、インダクタ202において観測される各種の電流値の変化を示すグラフである。
図16において、縦軸は、単位[A]で表された電流値の軸であり、横軸は、単位「μs(マイクロ秒)」で表された経過時間の軸であり、Tsは、スイッチング周期である。縦軸は、上方向に向かって電流値が大きくなり、横軸は、右方向に向かって経過時間が大きくなる。
【0008】
グラフ231は、直接測定することができない実際にインダクタ202を流れる電流値の変化を示すグラフである。グラフ232は、センサ回路206が検出する電流値の変化を示すグラフである。グラフ233は、フィルタ回路207によるフィルタリング処理後の電流値の変化を示すグラフである。グラフ234は、AD変換部221によって、グラフ233がサンプリングされた後の電流値の変化を示すグラフである。なお、
図16に示すように、AD変換部221によるサンプリングタイミングは、「サンプリングt1」、「サンプリングt2」、「サンプリングt3」、「サンプリングt4」の時刻であり、当該時刻の位置と、グラフ233との交点の位置の電流値が、グラフ234の電流値になる。「サンプリングt1」、「サンプリングt2」、「サンプリングt3」、「サンプリングt4」の時刻において、隣接する時刻の間の時間は、一定であり、この間隔が、AD変換部221のサンプリング間隔になる。
【0009】
図15に示す昇圧装置200のように、インダクタ202と、スイッチ素子203とか1組しか存在しない1相の昇圧チョッパの場合、実際にインダクタ202を流れる電流値の変化を示すグラフ231の平均値(以下、実電流平均値という)と、AD変換部221が出力する電流値の変化を示すグラフ234の平均値(以下、サンプル電流平均値という)は、共に、符号235で示される値になる。
【0010】
これに対して、例えば、特許文献1に開示されるようなインダクタと、スイッチ素子との組み合わせが複数存在する複数の相を有する昇圧チョッパが知られている。このような多相化された昇圧チョッパの場合、各相のインダクタを流れる電流の波形の形状は、複雑な形状になり、特別な場合を除いて、実電流平均値と、サンプル電流平均値とが一致しなくなる。そのため、インダクタを流れる電流値が高い精度で得られないことから、フィードバック制御の応答性や収束性などの制御性において、良好な性能が得らえないという課題がある。
【0011】
実電流平均値と、サンプル電流平均値との相違は、いわゆる運転動作点、より具体的には、インダクタを流れる電流の波形に応じて変化する。そのため、一定値を加算して補正するオフセット補正のような簡易な手法によって、この相違を補償することは、困難である。例えば、上記の課題を解決する手法として、各相に備えられる制御用の高速なセンサ回路206、フィルタ回路207に替えて、時定数が大きく、応答が遅い電流測定回路を利用して、電流値を検出するという手法がある。この手法を利用すれば、フィルタ回路207によるフィルタリング処理後の電流値の変化を示すグラフ233の変化が緩やかになり、実電流平均値と、サンプル電流平均値との差を小さくすることができる。ただし、時定数が大きく、応答が遅い電流測定回路では、フィードバック制御において要求される速度に追従することができないという別の課題が生じることになる。
【0012】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多相化された昇圧チョッパ回路において、フィードバック制御において要求される速度に追従可能な電流測定回路を用いつつ、制御性の良いフィードバック制御を行うことができる昇圧装置、補正値検出用情報生成装置、温度推定装置、内部抵抗推定装置、昇圧方法、補正値検出用情報生成方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の一態様は、各々がインダクタと、スイッチ素子とを有する複数の昇圧回路と、平滑コンデンサとによって形成される多相化された昇圧チョッパ回路と、前記インダクタの各々を流れる電流を測定して測定インダクタ電流値を取得する複数の電流測定回路と、前記測定インダクタ電流値を一定のサンプリング間隔でサンプリングしたサンプル電流値に対して、前記昇圧回路の数に応じて生じる相違であって前記サンプル電流値の平均値と前記インダクタを流れる電流の真値である実インダクタ電流値の平均値との相違を補正する電流補正値を適用して得られる補正インダクタ電流値と、前記昇圧チョッパ回路の入力端子間及び出力端子間の電圧値とに基づくフィードバック制御を行うことにより、予め定められる制御目標値に近づくようにしつつ、各々が同一のスイッチング周期で駆動する前記昇圧回路の各々の駆動位相の位相差を360°を前記昇圧回路の数で割り算して得られる位相量に一致させるように前記スイッチ素子を駆動する制御部と、を備える昇圧装置である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の各態様によれば、多相化された昇圧チョッパ回路において、フィードバック制御において要求される速度に追従可能な電流測定回路を用いつつ、制御性の良いフィードバック制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る昇圧装置の回路図及び機能部の概略ブロック図を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る昇圧装置のリアクトルにおいて観測される各種の電流値の変化を示すグラフを示す図である。
【
図3】本実施形態に係る昇圧装置の記憶部に記憶される補正テーブル群データの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図5】本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置が備える実電流推定部において定められる昇圧チョッパ回路モデル式の一例を示す図(その1)である。
【
図7】本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置が備える実電流推定部において定められる昇圧チョッパ回路モデル式の一例を示す図(その2)である。
【
図8】本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置が備える実電流推定部による推定実リアクトル電流値を算出する過程を示す図である。
【
図9】本実施形態に係る昇圧装置が備える電流測定回路の一例を示す回路図である。
【
図10】本実施形態に係る昇圧装置が備える制御信号生成部の概略ブロック図と、制御信号生成部が行うフィードバック制御を示すブロック線図とを示す図である。
【
図11】本実施形態に係る昇圧装置が備える制御信号生成部による電流補正値を用いた補正の一例を示す図である。
【
図12】本実施形態の他の構成例に係る補正値検出用情報生成装置が備える実電流推定部において定められる昇圧チョッパ回路モデル式の一例を示す図である。
【
図13】本実施形態に係る昇圧装置に接続して用いられる温度推定装置の利用形態の一例を示す図である。
【
図14】本実施形態に係る昇圧装置に接続して用いられる内部抵抗推定装置の利用形態の一例を示す図である。
【
図15】一般的な昇圧チョッパと呼ばれる昇圧装置の全体構成を示す図である。
【
図16】一般的な昇圧チョッパと呼ばれる昇圧装置のインダクタにおいて観測される各種の電流値の変化を示すグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る昇圧装置1の回路図及び機能部の概略ブロック図を示す図である。
図2は、本実施形態に係る昇圧装置1のリアクトル12Aにおいて観測される各種の電流値の変化を示すグラフ24~27を示す図である。
図3は、本実施形態に係る昇圧装置1の記憶部6に記憶される補正テーブル群データ7Aの一例を示す図である。
図4は、本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置40の構成を示す概略ブロック図である。
図5は、本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置40による処理の流れを示すフローチャートである。
図6、
図7は、本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置40が備える実電流推定部41において定められる昇圧チョッパ回路モデル式の一例を示す図である。
図8は、本実施形態に係る補正値検出用情報生成装置40が備える実電流推定部41による推定実リアクトル電流値を算出する過程を示す図である。
図9は、本実施形態に係る昇圧装置1が備える電流測定回路16A,16Bの一例を示す回路図である。
図10は、本実施形態に係る昇圧装置1が備える制御信号生成部5の概略ブロック図と、制御信号生成部5が行うフィードバック制御を示すブロック線図とを示す図である。
図11は、本実施形態に係る昇圧装置1が備える制御信号生成部5による電流補正値を用いた補正の一例を示す図である。
図12は、本実施形態の他の構成例に係る補正値検出用情報生成装置40が備える実電流推定部41において定められる昇圧チョッパ回路モデル式の一例を示す図である。
図13は、本実施形態に係る昇圧装置1に接続して用いられる温度推定装置110の利用形態の一例を示す図である。
図14は、本実施形態に係る昇圧装置1に接続して用いられる内部抵抗推定装置120の利用形態の一例を示す図である。
【0018】
(昇圧装置の全体構成)
図1に示すように、昇圧装置1は、回路の部分と、当該回路を制御する機能部の部分とを備える。昇圧装置1において、当該回路の部分は、入力端子10、コンデンサ11、昇圧回路13A,13B、電流測定回路16A,16B、平滑コンデンサ19、及び出力端子20を備える。また、昇圧装置1において、当該回路を制御する機能部の部分は、制御部3と、記憶部6とを備える。なお、
図1において、昇圧装置1の回路の部分内と、機能部の部分内の配線は、実線で示し、回路の部分と、機能部との間の配線は、点線で示している。
【0019】
入力端子10は、一対の入力端子10-1,10-2を備える。入力端子10には、例えば、蓄電器が接続される。以下、入力端子10の間の電圧値を、電圧値V1という。出力端子20は、一対の出力端子20-1,20-2を備える。出力端子20には、例えば、負荷が接続される。以下、出力端子20の間の電圧値を、電圧値V2という。
【0020】
昇圧回路13Aは、リアクトル12A、スイッチ素子14A-U,14A-L、及び還流ダイオード15A-U、15A-Lを備える。昇圧回路13Bは、リアクトル12B、スイッチ素子14B-U,14B-L、及び還流ダイオード15B-U、15B-Lを備える。
【0021】
リアクトル12Aと、リアクトル12Bは、インダクタンスの性質を実現する素子であり、インダクタの一種である。リアクトル12Aと、リアクトル12Bとは、磁気結合されており、昇圧回路13Aと、昇圧回路13Bとにまたがって存在する磁気結合リアクトル12を形成する。リアクトル12Aと、リアクトル12Bとを磁気結合させることにより、相互誘導の効果が得られるため、リアクトル12A,12Bのサイズを小さくすることができる。リアクトル12Aは、一端において、入力端子10-1に接続し、他端において、スイッチ素子14A-U,14A-Lに接続する。リアクトル12Bは、一端において、入力端子10-1に接続し、他端において、スイッチ素子14B-U,14B-Lに接続する。
【0022】
スイッチ素子14A-U,14A-L、14B-U,14B-Lは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。上アームとなるスイッチ素子14A-U,14B-Uは、コレクタ端子が出力端子20-1に接続する。下アームとなるスイッチ素子14A-L,14B-Lは、エミッタ端子が入力端子10-2と、出力端子20-2とに接続する。上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uの各々のエミッタ端子は、各々に対応する下アームのスイッチ素子14A-L,14B-Lのコレクタ端子に接続すると共に、各々に対応するリアクトル12A,12Bの他端に接続する。
【0023】
下アームのスイッチ素子14A-L,14B-Lは、入力端子10-1に接続する一端から他端の方向に向かってリアクトル12A、12Bに電流が流れて、入力端子10に接続する蓄電器が供給する電力が出力端子20に接続する負荷によって消費される力行の状態において、入力端子10の間の電圧値V1を電圧値V2に昇圧する作用をもたらすのに、主として用いられる。これに対して、上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uは、リアクトル12A,12Bを流れる電流の向きが力行の場合と逆向きになり、出力端子20に接続する負荷から戻されてくる電力が入力端子10に接続する蓄電器に充電される回生の状態において、出力端子20の間の電圧値V2を電圧値V1に降圧する作用をもたらすのに、主として用いられる。
【0024】
還流ダイオード15A-U,15A-L,15B-U,15B-Lの各々は、コレクタ端子にカソード端子が接続し、エミッタ端子にアノード端子が接続するように、各々に対応するスイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lに接続する。
【0025】
電流測定回路16Aは、センサ回路17Aと、フィルタ回路18Aとを備え、電流値を測定する。センサ回路17Aは、スイッチ素子14A-Uのエミッタ端子とスイッチ素子14A-Lのコレクタ端子が接続する接続点と、リアクトル12Aの他端との間を接続する配線上に挿入され、当該配線を流れる電流の電流値を検出する。電流測定回路16Bは、センサ回路17Bと、フィルタ回路18Bとを備え、電流値を測定する。センサ回路17Bは、スイッチ素子14B-Uのエミッタ端子とスイッチ素子14B-Lのコレクタ端子が接続する接続点と、リアクトル12Bの他端との間を接続する配線上に挿入され、当該配線を流れる電流の電流値を検出する。
【0026】
センサ回路17A,17Bの各々が検出する電流値は、連続値のアナログデータであり、ノイズが重畳している。フィルタ回路18A,18Bの各々は、例えば、ローパスフィルタであり、各々に対応するセンサ回路17A,17Bに接続する。フィルタ回路18A,18Bの各々は、各々に接続するセンサ回路17A,17Bが出力する電流値のアナログデータをフィルタリングしてアナログデータに重畳しているノイズを除去する。
【0027】
以下、センサ回路17A,17Bが検出して出力する電流値を、センサリアクトル電流値といい、フィルタ回路18A,18Bがフィルタリング後に出力する電流値を、測定リアクトル電流値という。これに対して、直接測定することができない実際にリアクトル12A,12Bに流れる電流の電流値、すなわちリアクトル12A,12Bを流れる電流の真値を実リアクトル電流値という。
【0028】
昇圧装置1において、昇圧回路13Aと、昇圧回路13Bとは、出力端子20に対して、並列に接続されている状態であり、入力端子10と、コンデンサ11と、昇圧回路13A,13Bと、平滑コンデンサ19と、出力端子20とによって、いわゆる2相の昇圧チョッパ回路2が形成される。以下、昇圧回路13Aの方をA相、昇圧回路13Bの方をB相ともいう。制御部3は、昇圧回路13Aの駆動位相と、昇圧回路13Bの駆動位相との位相差が、360°/相数になるように、インタリーブ制御を行う。昇圧装置1の場合、2相であるため、360°/2=180°の位相差になるようにインタリーブ制御が行われる。多相化することにより、負荷分散が行われ、インタリーブ制御することにより、平滑コンデンサ19を小型化することが可能になる。
【0029】
制御部3は、A相用のAD変換部4Aと、B相用のAD変換部4Bと、制御信号生成部5とを備える。AD変換部4Aは、フィルタ回路18Aに接続する。AD変換部4Bは、フィルタ回路18Bに接続する。AD変換部4A,4Bの各々は、各々に接続するフィルタ回路18A,18Bが出力する測定リアクトル電流値のアナログデータを、予め定められる一定のサンプリング間隔でサンプリングしてデジタルデータに変換する。以下、AD変換部4A,4Bによってデジタルデータに変換された測定リアクトル電流値をサンプル電流値という。
【0030】
ここで、上記した複数の相を有する昇圧チョッパ回路において生じる課題を、昇圧装置1を例として具体的に説明する。
図2は、昇圧装置1におけるA相のリアクトル12Aを流れる電流の電流値である実リアクトル電流値、センサ回路17Aが出力するセンサリアクトル電流値、フィルタ回路18Aが出力する測定リアクトル電流値、及びAD変換部4Aが出力するサンプル電流値の変化を示すグラフである。
図2において、縦軸は、単位[A]で表された電流値の軸であり、横軸は、単位「μs」で表された経過時間の軸である。
【0031】
グラフ24は、実リアクトル電流値の変化を示すグラフである。グラフ25は、センサリアクトル電流値の変化を示すグラフである。グラフ26は、測定リアクトル電流値の変化を示すグラフである。グラフ27は、サンプル電流値の変化を示すグラフである。
図2において、Tsは、スイッチング周期であり、
図2では、0~Ts[μs]の間が1つのスイッチング周期であり、Ts~2Ts[μs]の間が、次のスイッチング周期になっている。AD変換部4Aのサンプリング間隔は、スイッチング周期Tsの半分、すなわち、Ts/2であり、スイッチング周期Tsの開始時刻、中央時刻、終了時刻の各々からTsample[μs]ずれた時刻を、サンプリングタイミングとしている。ここで、中央時刻とは、開始時刻に、スイッチング周期Tsの半分の時間を加えた時刻ある。より具体的には、
図2に示す、符号31で示す0.5Ts-Tsample[μs]、符号32で示すTs-Tsample[μs]、符号33で示す1.5Ts-Tsample[μs]、符号34で示す2Ts-Tsample[μs]の4つの時刻が、サンプリングタイミングになっている。
【0032】
昇圧回路13Aの駆動位相と、昇圧回路13Bの駆動位相との位相差が180°であることから、A相と、B相とではスイッチング周期Tsが、半周期ずれる。そのため、リアクトル12Aと、リアクトル12Bとが同一であり、電流測定回路16Aと、電流測定回路16Bとが同一であり、AD変換部4Aと、AD変換部4Bとが同一である場合、B相の実リアクトル電流値、センサリアクトル電流値、測定リアクトル電流値、及びサンプル電流値の変化は、
図2に示すA相の0.5T[μs]の時刻以降の変化が、0[μs]の時刻以降の変化として表される変化になる。
【0033】
図2に示すように、1つのスイッチング周期Tsにおいて、実リアクトル電流値の変化を示すグラフ24は、前半の半周期と、後半の半周期とで、点対称になっている。そのため、グラフ24の平均値は、0Aになる。これに対して、サンプル電流値の変化を示すグラフ27の場合、電圧値V
2が、電圧値V
1の2倍の値になるケースを除いて、平均値は、符号29で示す値ように、0A以外の値になり、実リアクトル電流値の平均値と、サンプル電流値の平均値とに相違が生じることになる。
【0034】
この相違を補償するために、昇圧装置1の記憶部6は、
図1に示すように、A相用の補正テーブル群データ7Aと、B相用の補正テーブル群データ7Bとを予め記憶する。補正テーブル群データ7Aは、
図3に示す複数の補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…を含むデータである。補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…の各々は、同一の形式のテーブルであり、補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…は、異なる電圧値V
2ごとに生成される。ここでは、一例として、補正テーブル7A-1のテーブルの形式について説明する。
【0035】
図3に示すように、補正テーブル7A-1は、例えば、電圧値V
2=600V用のテーブルであり、左上の項目に、電圧値V
2に基づいて検索が可能になるようにインデックスとして電圧値V
2=600Vが書き込まれる。補正テーブル7A-1は、横方向に電力値Pの項目を有し、縦方向に電圧値V
1の項目を有する行列形式のテーブルである。横方向の電力値Pの項目は、単位[kW]で表された複数の電力値のサブ項目を有し、縦方向の電圧値V
1の項目は、単位[V]で表された複数の電圧値のサブ項目を有する。電力値のサブ項目と、電圧値のサブ項目とによって特定される行列の要素には、電流補正値が書き込まれる。例えば、横方向の電力値Pのサブ項目の電力値「30kW」と、縦方向の電圧値V
1のサブ項目の電圧値「385V」とによって特定される行列の要素には、電力値P=30kW、電圧値V
1=385V、電圧値V
2=600Vの場合における電流補正値「1.2」が書き込まれる。
【0036】
A相用の補正テーブル群データ7AとB相用の補正テーブル群データ7Bの各々において、各々に含まれる補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…のテーブル形式と、補正テーブル7B-1,7B-2,7B-3,…のテーブル形式は、同一の形式である。
【0037】
図1に戻り、昇圧装置1は、図示しない入力端子10の間の電圧値V
1を測定する第1の電圧測定回路と、出力端子20の間の電圧値V
2を測定する第2の電圧測定回路とを備える。第1の電圧測定回路と、第2の電圧測定回路とは制御信号生成部5に接続する。制御信号生成部5は、第1の電圧測定回路が測定する電圧値V
1と、第2の電圧測定回路が測定する電圧値V
2と、AD変換部4A,4Bが出力するA相とB相のサンプル電流値とを取得する。
【0038】
制御信号生成部5は、更に、外部から与えられる、電圧値V2の目標値である目標電圧値tr-V2と、入力端子10に接続する蓄電器が供給する電力値Pと、スイッチング周期Tsとを取り込む。ここで、「外部から与えられる」とは、例えば、ユーザの入力操作によってデータや情報などが供給されることであってもよいし、外部の記憶装置に記憶されているデータや情報を読み出すことであってもよい。
【0039】
目標電圧値tr-V2と、スイッチング周期Tsとは予め定められる一定値である。電力値Pは、入力端子10に接続する蓄電器の性能を示す情報として得られる既知の一定値である。制御信号生成部5は、取り込んだ電圧値V1,V2と、取り込んだ電力値Pとに基づいて、記憶部6に記憶されている補正テーブル群データ7Aと、補正テーブル群データ7Bとから、A相用の電流補正値と、B相用の電流補正値とを検出する。
【0040】
制御信号生成部5は、取り込んだA相のサンプル電流値に、検出したA相の電流補正値を加算して得られる加算値をA相の補正リアクトル電流値とする。制御信号生成部5は、取り込んだB相のサンプル電流値に、検出したB相の電流補正値を加算して得られる加算値をB相の補正リアクトル電流値とする。
【0041】
制御信号生成部5は、取り込んだ電圧値V1,V2と、A相とB相の補正リアクトル電流値と、目標電圧値tr-V2と、スイッチング周期Tsとに基づいて、スイッチング周期Tsで駆動しつつ、電圧値V2が、目標電圧値tr-V2に近づくように、スイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lの各々のON、OFFのタイミングを算出する。制御信号生成部5は、算出したスイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lの各々のON、OFFのタイミングを示す制御信号の各々を、各々に対応するスイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lのゲート端子に出力する。
【0042】
(補正値検出用情報生成装置の全体構成)
図4は、昇圧装置1の記憶部6に記憶される補正テーブル群データ7A,7B、すなわち電流補正値の検出用の情報である補正値検出用情報を生成する補正値検出用情報生成装置40の構成を示すブロック図である。補正値検出用情報生成装置40は、実電流推定部41、測定電流推定部42、サンプル電流推定部43、及び情報生成部44を備える。
【0043】
実電流推定部41は、例えば、外部から与えられる昇圧装置1のリアクトル12A、12Bのリアクトル特性値を取り込む。ここで、リアクトル特性値とは、例えば、単位μHで表されたリアクトル12A,12Bのインダクタンス値L、及び結合係数kという2種類の数値によって表される値である。リアクトル12A,12Bのインダクタンス値は、電力値Pに応じて変化する。ただし、ここでは、リアクトル12Aと、リアクトル12Bとは、同一のリアクトルであるものとする。そのため、リアクトル12Aと、リアクトル12Bとにおける電力値Pに応じたインダクタンス値の変化も同一になる。したがって、実電流推定部41は、例えば、複数の電力値Pと、電力値Pの各々に対応する複数のインダクタンス値Lであってリアクトル12Aと、リアクトル12Bに共通のインダクタンス値とが関係付けられた形式のリアクトル特性値を取り込む。
【0044】
実電流推定部41は、外部から与えられる昇圧装置1のスイッチング周期Tsを取り込む。スイッチング周期Tsは、単位[μs]で表される数値である。実電流推定部41は、外部から与えられる複数のパラメータを取り込む。パラメータは、各々が任意の数値範囲から任意の数値間隔で定められる、複数の電圧値V1、複数の電圧値V2、及び複数の電力値Pの中から、V1,V2,Pの各々に対して1つずつ選択する3つの値が組み合わされて生成される。複数のパラメータは、全てのパラメータにおいてV1,V2,Pの組み合わせが重複しないように生成されているものとする。パラメータに含まれる電圧値V1,V2の数値は、単位[V]で表された数値であり、電力値Pは、単位[kW]で表された数値である。なお、実電流推定部41が、当該パラメータを自ら生成するようにしてもよい。
【0045】
実電流推定部41は、取り込んだリアクトル特性値と、スイッチング周期Tsと、複数のパラメータと、予め定められる昇圧チョッパ回路2をモデル化した昇圧チョッパ回路モデル式とに基づいて、リアクトル12A,12Bの各々の実リアクトル電流値の推定値である推定実リアクトル電流値をパラメータごとに算出する。
【0046】
測定電流推定部42は、外部から与えられる電流測定回路時定数を取り込む。ここで、電流測定回路時定数とは、電流測定回路16A,16Bが備えるセンサ回路17A,17Bの各々の時定数と、フィルタ回路18A,18Bの各々の時定数である。時定数は、単位[s(秒)]で表される数値である。
【0047】
測定電流推定部42は、取り込んだ電流測定回路時定数と、電流測定回路16A,16Bをモデル化した電流測定回路モデル式とに基づいて、実電流推定部41が算出したA相及びB相の推定実リアクトル電流値から、A相の推定測定リアクトル電流値と、B相の推定測定リアクトル電流値とをパラメータごとに算出する。
【0048】
サンプル電流推定部43は、外部から与えられる検出タイミングと、スイッチング周期Tsとを取り込む。ここで、検出タイミングとは、例えば、単位「μs」で示される数値であり、絶対値の最大値が、スイッチング周期Tsの半分の値未満となる、正の値、または、負の値であり、0であってもよい。検出タイミングが示す数値は、サンプル電流推定部43が行うサンプリングの処理のサンプリングタイミングが、昇圧装置1のAD変換部4A,4Bの各々のサンプリングタイミングに一致するように予め定められる。ここでは、昇圧装置1のAD変換部4A,4Bのサンプリングタイミングは、同一であるとする。そのため、サンプル電流推定部43は、外部から与えられるA相とB相に共通の1つの検出タイミングを取り込む。
【0049】
サンプル電流推定部43は、取り込んだ検出タイミングと、スイッチング周期Tsとに基づいて、スイッチング周期Tsごとの開始時刻、中央時刻、終了時刻の各々に検出タイミングを加算して算出した時刻の各々をサンプリングタイミングとする。サンプル電流推定部43は、算出したサンプリングタイミングにしたがって、測定電流推定部42が算出したA相とB相の推定測定リアクトル電流値の各々をサンプリングして、リアクトル12Aに対応するサンプル電流値の推定値であるA相の推定サンプル電流値と、リアクトル12Bに対応するサンプル電流値の推定値であるB相の推定サンプル電流値とをパラメータごとに抽出する。
【0050】
情報生成部44は、実電流推定部41が算出したA相のパラメータごとの推定実リアクトル電流値と、サンプル電流推定部43が抽出したA相のパラメータごとの推定サンプル電流値とに基づいて、A相の電流補正値をパラメータごとに算出する。情報生成部44は、実電流推定部41が算出したB相のパラメータごとの推定実リアクトル電流値と、サンプル電流推定部43が抽出したB相のパラメータごとの推定サンプル電流値とに基づいて、B相の電流補正値をパラメータごとに算出する。情報生成部44は、算出したA相のパラメータごとの電流補正値から補正テーブル群データ7Aを生成し、算出したB相のパラメータごとの電流補正値から補正テーブル群データ7Bを生成する。
【0051】
(補正値検出用情報生成装置による処理)
図5は、補正値検出用情報生成装置40による処理の流れを示すフローチャートである。実電流推定部41は、外部から与えられるリアクトル特性値と、スイッチング周期Tsと、複数のパラメータとを取り込む。測定電流推定部42は、外部から与えられる電流測定回路時定数、すなわち、センサ回路17A,17Bの時定数と、フィルタ回路18A,18Bの時定数とを取り込む。サンプル電流推定部43は、外部から与えられる検出タイミングと、スイッチング周期Tsとを取り込む。サンプル電流推定部43は、取り込んだ検出タイミングと、スイッチング周期Tsとに基づいてA相とB相に共通のサンプリングタイミングを算出する。(S1)。
【0052】
(昇圧チョッパ回路モデル式)
実電流推定部41において、予め定められる昇圧チョッパ回路2をモデル化した昇圧チョッパ回路モデル式について説明する。昇圧チョッパ回路モデル式とは、具体的には、次式(1)と、
図6に示す式(2)~式(5)と、
図7のプログラム言語の形式で示される式と、以下に示す式(6)~式(10)である。
【0053】
【0054】
式(1)は、下アームのスイッチ素子14A-L,14B-Lのオンデューティ比である「duty」を算出する式である。式(1)において、V1とV2は、実電流推定部41が取り込むパラメータに含まれる電圧値V1と電圧値V2である。
【0055】
図6は、下アームのスイッチ素子14A-L,14B-LのONとOFFの状態の組み合わせごとのA相のリアクトル12Aを流れる電流の電流値I
LAの微分dI
LA/dtを算出する式(2)~式(5)を示す図である。なお、式(2)~式(5)は、リアクトル12A,12Bの各々のインダクタンス値が同一の「L」である場合の式である。式(2)~式(5)において、Mは、相互インダクタンス値であり、リアクトル特性値に含まれるインダクタンス値Lと、結合係数kとを用いて、M=k×Lとして算出される値である。
【0056】
図6に示すように、以下、下アームのスイッチ素子14A-L,14B-LのONとOFFの組み合わせた状態の各々をモードともいう。「Mode1」は、スイッチ素子14A-LがONになり、スイッチ素子14B-LがOFFになるモードである。「Mode2」は、スイッチ素子14A-LがOFFになり、スイッチ素子14B-LがONになるモードである。「Mode3」は、スイッチ素子14A-L,14B-Lの両方がOFFになるモードである。「Mode4」は、スイッチ素子14A-L,14B-Lの両方がONになるモードである。
【0057】
上記した電流値I
LAの微分であるdI
LA/dtは、電流値I
LAの増加率を示すことになる。したがって、
図6に示す式(2)~式(5)は、Mode1~Mode4の各々の場面における電流値I
LAの増加率を示す式ということになる。
図6には、B相のリアクトル12Bを流れる電流の電流値I
LBの微分dI
LB/dtを示していないが、dI
LB/dtは、Mode1とMode2の状態の式が、A相と逆になる。すなわち、Mode1の場合、dI
LB/dtは、式(3)の右辺で表され、Mode2の場合、dI
LB/dtは、式(2)の右辺で表される。Mode3とMode4については、A相と同様であり、dI
LA/dt=dI
LB/dtになる。
【0058】
1つのスイッチング周期Tsは、4つの区間に分割される。4つの区間の各々の境界の時刻が、下アームのスイッチ素子14A-L,14B-LのONとOFFの状態が切り替わるスイッチタイミングになる。
図7には、式(1)で算出した「duty」、すなわち下アームのスイッチ素子14A-L,14B-Lのオンデューティ比に基づいて、分割された4つの区間の各々の時間長を算出する手順と、4つの区間の各々に対してMode1~Mode4のいずれのモードを割り当てるのかを示す手順とが示されている。
【0059】
以下、スイッチング周期Tsを4つの区間に分割した際の各々の区間を、時系列順にArea(1),Area(2),Area(3),Area(4)という。また、Area(1),Area(2),Area(3),Area(4)の各々の時間長を、変数T(1),T(2),T(3),T(4)で表す。また、Area(1),Area(2),Area(3),Area(4)の各々に割り当てられるモードを、変数Mode(1),Mode(2),Mode(3),Mode(4)で表す。
【0060】
符号51で示されるように「duty>0.5」の場合、符号52で示す4つの式によって、Area(1),Area(2),Area(3),Area(4)の各々に対応する変数T(1),T(2),T(3),T(4)に代入される時間長が算出される。符号53で示される4つの式によって、Area(1),Area(2),Area(3),Area(4)の各々に対応する変数Mode(1),Mode(2),Mode(3),Mode(4)に、それぞれ1,4,2,4、すなわちMode1,Mode4,Mode2,Mode4が割り当てられる
【0061】
一方、符号54で示されるように「duty<0.5」の場合、符号55で示す4つの式によって、Area(1),Area(2),Area(3),Area(4)の各々に対応する変数T(1),T(2),T(3),T(4)に代入される時間長が算出される。符号56で示される4つの式によって、Area(1),Area(2),Area(3),Area(4)の各々に対応する変数Mode(1),Mode(2),Mode(3),Mode(4)に、それぞれ1,3,2,3、すなわちMode1,Mode3,Mode2,Mode3が割り当てられる。
【0062】
なお、
図7には示していないが、「duty=0.5」の場合、スイッチ素子14A-LがONの場合、スイッチ素子14B-LはOFFになり、スイッチ素子14A-LがOFFの場合、スイッチ素子14B-LはONになり、スイッチ素子14A-L,14B-Lが共にONになったり、OFFになったりすることはない。したがって、
図7の「duty>0.5」の手順を採用してもよいし、「duty<0.5」の手順を採用してもよい。いずれの手順を採用してもT(2),T(4)は、「0」になり、その結果、スイッチ素子14A-L,14B-Lは、Mode1かMode2の何れかの動作をすることになる。
【0063】
次式(6)は、リアクトル12A,12Bの各々を流れる電流の平均値である電流平均値Iaveを算出する式である。式(6)において、PとV1は、それぞれ実電流推定部41が取り込むパラメータに含まれる電力値Pと、電圧値V1である。式(6)の右辺のP/V1は、昇圧装置1の入力端子10-1から供給される電流の電流値を算出する式である。P/V1に対して0.5倍しているのは、理想的な状態では、入力端子10-1から供給される電流は、リアクトル12A.12Bの2つに均等に分配されるためである。式(6)において最後に1000倍しているのは、電力値Pが、「kW」の単位で表されていることから、算出する電流平均値Iaveを単位[A]で表される値にするためである。
【0064】
【0065】
以下に示す式(7)~式(10)は、それぞれArea(1),Area(2),Area(3),Area(4)の終了時刻におけるリアクトル12A,12Bの各々を流れる電流値Iend(1),Iend(2),Iend(3),Iend(4)を算出する式である。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
式(7)~式(10)に示されるIm(Mode(X))という演算子(ただし、X=1,2,3,4の何れかである)は、それぞれMode(X)が示すモードにおけるリアクトル12A,12Bを流れる電流の電流増加率を適用することを意味する演算子である。例えば、A相について、式(7)~式(10)の演算を行う場合に、Im(Mode(3))であって、Mode(3)=2である場合、このIm(Mode(3))は、A相のMode2の電流増加率、すなわち
図6の式(3)を示すことになる。
【0071】
次に、
図8を参照しつつ、上記した昇圧チョッパ回路モデル式を用いて、実電流推定部41が行う処理について説明する。
図8に示すグラフ60は、実電流推定部41が、式(1)によって算出した「duty」が、0.5よりも大きい値である場合に算出する推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータによって示されるグラフであるとする。なお、
図8において、横軸は、単位[μs]で表された経過時間であり、縦軸は、単位[A]で表された電流値である。縦軸は、上方向に向かって電流値が大きくなり、横軸は、右方向に向かって経過時間が大きくなる。
【0072】
実電流推定部41は、S1の処理において取り込んだ複数のパラメータの中から何れか1つのパラメータを選択する。実電流推定部41は、選択したパラメータに含まれる電圧値V1,V2に基づいて、式(1)により「duty」を算出する。ここでは、実電流推定部41は、0.5よりも大きい値のdutyを算出したとする(S2)。実電流推定部41は、取り込んだリアクトル特性値から、選択したパラメータに含まれる電力値Pに対応するインダクタンス値Lを選択する。実電流推定部41は、取り込んだリアクトル特性値から結合係数kを読み出す。実電流推定部41は、選択したインダクタンス値Lと、結合係数kとを乗算して、相互インダクタンス値Mを算出する(S3)。実電流推定部41は、選択したパラメータに含まれる電圧値V1と、電力値Pとに基づいて、式(6)より電流平均値Iaveを算出する(S4)。なお、S2,S3,S4の処理は、任意の順で行ってもよい。
【0073】
ここでは、上記したように、実電流推定部41が算出した「duty」が0.5よりも大きい値になっている。そのため、実電流推定部41は、
図7の符号52で示す4つの式によってArea(1)~Area(4)の各々の時間長を算出して、変数T(1)~T(4)に代入する。これにより、
図8に示すように、1つのスイッチング周期Tsを4つの区間に分割した各々の区間であるArea(1)~Area(4)の横軸方向の幅が決まることになる。実電流推定部41は、
図7の符号53で示す4つの式によってArea(1)~Area(4)に、それぞれMode1,Mode4,Mode2,Mode4を割り当てる(S5)。
【0074】
実電流推定部41は、Area(1)の開始時刻に、Mode1、すなわちスイッチ素子14A-LがONになり、スイッチ素子14B-LがOFFになったとして、Mode1に対応する
図6の式(2)に、選択したインダクタンス値Lと、算出した相互インダクタンス値Mと、電圧値V
1,V
2とを代入して電流増加率を算出する。実電流推定部41は、式(7)に、算出した電流平均値I
aveと、算出した電流増加率と、変数T(1)が示す時間長とを代入して、Area(1)の終了時刻におけるリアクトル12Aの電流値I
end(1)を算出する。
【0075】
実電流推定部41は、Area(2)の開始時刻に、Mode4、すなわちスイッチ素子14A-Lとスイッチ素子14B-Lの両方がONになったとして、Mode4に対応する
図6の式(5)に、選択したインダクタンス値Lと、算出した相互インダクタンス値Mと、電圧値V
1とを代入して電流増加率を算出する。実電流推定部41は、式(8)に、算出したリアクトル12Aの電流値I
end(1)と、算出した電流増加率と、変数T(2)が示す時間長とを代入して、Area(2)の終了時刻におけるリアクトル12Aの電流値I
end(2)を算出する。
【0076】
実電流推定部41は、Area(3)の開始時刻に、Mode2、すなわちスイッチ素子14A-LがOFFになり、スイッチ素子14B-LがONになったとして、Mode2に対応する
図6の式(3)に、選択したインダクタンス値Lと、算出した相互インダクタンス値Mと、電圧値V
1,V
2とを代入して電流増加率を算出する。実電流推定部41は、式(9)に、算出したリアクトル12Aの電流値I
end(2)と、算出した電流増加率と、変数T(3)が示す時間長とを代入して、Area(3)の終了時刻におけるリアクトル12Aの電流値I
end(3)を算出する。
【0077】
実電流推定部41は、Area(4)の開始時刻に、再びMode4になったとして、Mode4に対応する
図6の式(5)に、選択したインダクタンス値Lと、算出した相互インダクタンス値Mと、電圧値V
1とを代入して電流増加率を算出する。実電流推定部41は、式(10)に、算出したリアクトル12Aの電流値I
end(3)と、算出した電流増加率と、T(4)に代入されている時間長とを代入して、Area(4)の終了時刻におけるリアクトル12Aの電流値I
end(4)を算出する(S6)。
【0078】
実電流推定部41は、Area(1)の開始時刻におけるリアクトル12Aの電流値を、電流値I
end(4)とする。実電流推定部41は、Area(1)の区間の最初の値を電流値I
end(4)とし、最後の値を電流値I
end(1)として、
図8の符号61で示すように、2つの値の間を直線で補間する(以下、符号61で示される線分を、線分61という)。
【0079】
実電流推定部41は、Area(2)の区間の最初の値を電流値Iend(1)とし、最後の値を電流値Iend(2)として、符号62で示すように、2つの値の間を直線で補間する(以下、符号62で示される線分を、線分62という)。実電流推定部41は、Area(3)の区間の最初の値を電流値Iend(2)とし、最後の値を電流値Iend(3)として、符号63で示すように、2つの値の間を直線で補間する(以下、符号63で示される線分を、線分63という)。実電流推定部41は、Area(4)の区間の最初の値を電流値Iend(3)とし、最後の値を電流値Iend(4)として、符号64で示すように、2つの値の間を直線で補間する(以下、符号64で示される線分を、線分64という)。
【0080】
これにより、線分61,62,63,64によって示される変化が、1つのスイッチング周期Tsにおけるリアクトル12Aを流れる電流値の変化を示すことになり、この変化が、スイッチング周期Tsごとに繰り返されることになる。実電流推定部41は、線分61,62,63,64によって表される変化を再現することができる程度の時間間隔で、複数のスイッチング周期Tsにおいて繰り返される線分61,62,63,64から電流値を選択し、選択した電流値の各々を、A相のリアクトル12Aに対応する推定実リアクトル電流値とする。なお、実電流推定部41における線分61,62,63,64によって表される変化を再現することができる程度の時間間隔は、サンプル電流推定部43が行うサンプリングにおけるサンプリング間隔よりも十分に短い時間間隔であるものとする。
【0081】
実電流推定部41は、上記したA相のリアクトル12Aに対して推定実リアクトル電流値を算出したのと同様の手順によって、B相のリアクトル12Bに対する推定実リアクトル電流値を算出する。
【0082】
ただし、ここでは、リアクトル12Aとリアクトル12Bの両方のインダクタンス値Lが同一であることから、B相のリアクトル12Bに対応する推定実リアクトル電流値の変化は、A相のリアクトル12Bに対応する推定実リアクトル電流値の変化を示すグラフ60を、スイッチング周期Ts/2の分だけ、すらした変化になる。そのため、B相のリアクトル12Bに対応する推定実リアクトル電流値の変化は、Area(1)において線分63の変化を示し、Area(2)において線分64の変化を示し、Area(3)において線分61の変化を示し、Area(4)において線分62の変化を示す変化になる。
したがって、実電流推定部41は、式(7)~式(10)の演算を行うことなく、A相のリアクトル12Aの場合に算出したIend(3)をIend(1)とし、Iend(4)をIend(2)とし、Iend(1)をIend(3)とし、Iend(2)をIend(4)として、B相のリアクトル12Bに対する推定実リアクトル電流値を算出することができる。
【0083】
実電流推定部41は、所定の時間長のA相の推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータと、所定の時間長のB相の推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータとを、測定電流推定部42に出力する。実電流推定部41は、所定の時間長のA相の推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータと、所定の時間長のB相の推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータと、選択したパラメータとを関連付けて、情報生成部44に出力する。ここで、所定の時間長とは、例えば、スイッチング周期Tsのm倍した時間長であり、mは自然数であり、少なくともmは、m≧1の値であるとする(S7)。
【0084】
(電流測定回路モデル式)
測定電流推定部42において、予め定められる電流測定回路モデル式について説明する。電流測定回路16A,16Bが備えるセンサ回路17A,17Bの内部回路、及びフィルタ回路18A,18Bの内部回路は、それぞれ
図9に示す抵抗71と、コンデンサ72とを備えるRC(Resistor-Capacitor)回路70として近似することができる。
図9に示すRC回路70は、一次遅れ系であり、次式(11)に示す伝達関数で、入力電圧V
in(s)と、出力電圧V
out(s)との関係が示される。
【0085】
【0086】
式(11)において、Rは、抵抗71の抵抗値であり、抵抗素子Cは、コンデンサ72の静電容量であり、CRが、RC回路70の時定数になる。式(11)の伝達関数を解いて、電流値iに関する離散時刻である時刻nの式にすると、次式(12)となる。
【0087】
【0088】
式(8)において、iin[n]は、時刻nにおける入力電流値である。iout[n],iout[n-1]は、それぞれ時刻nと、時刻n-1における出力電流値である。τは、時定数、すなわちCRである。Δtは、離散時刻の時間間隔を示す時間長である。
【0089】
測定電流推定部42は、実電流推定部41が出力するA相の推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータと、B相の推定実リアクトル電流値を時系列に並べたデータとを取り込む。測定電流推定部42は、センサ回路17Aの時定数を適用した式(12)に、A相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータを代入して、センサ回路17Aが出力するセンサリアクトル電流値の推定値であるA相の推定センサリアクトル電流値が時系列に並んだデータを取得する(S8)。測定電流推定部42は、フィルタ回路18Aの時定数を適用した式(12)に、A相の推定センサリアクトル電流値が時系列に並んだデータを代入して、フィルタ回路18Aが出力する測定リアクトル電流値の推定値であるA相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータを取得する(S9)。
【0090】
測定電流推定部42は、取り込んだB相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータに対しても、センサ回路17Bの時定数を適用するS8の処理と、フィルタ回路18Bの時定数を適用するS9の処理とを行い、B相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータを取得する。測定電流推定部42は、A相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータと、B相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータとをサンプル電流推定部43に出力する。
【0091】
サンプル電流推定部43は、測定電流推定部42が出力するA相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータと、B相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータとを取り込む。サンプル電流推定部43は、取り込んだA相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータと、B相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータとを、S1の処理で算出したサンプリングタイミングにしたがってサンプリングする。サンプル電流推定部43は、当該サンプリングにより、A相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータからA相の推定サンプル電流値を時系列順に抽出し、B相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータからB相の推定サンプル電流値を時系列順に抽出する。サンプル電流推定部43は、抽出したA相の推定サンプル電流値を時系列に並べたデータと、B相の推定サンプル電流値を時系列に並べたデータとを情報生成部44に出力する(S10)。
【0092】
情報生成部44は、実電流推定部41が出力するA相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータと、B相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータと、パラメータとが関連付けられたデータを取り込む。情報生成部44は、サンプル電流推定部43が出力するA相の推定サンプル電流値が時系列に並んだデータと、B相の推定サンプル電流値が時系列に並んだデータとを取り込む。
【0093】
情報生成部44は、A相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータからA相の推定実リアクトル電流値の平均値を算出する。情報生成部44は、A相の推定サンプル電流値が時系列に並んだデータからA相の推定サンプル電流値の平均値を算出する。情報生成部44は、A相の推定実リアクトル電流値の平均値から、A相の推定サンプル電流値の平均値を減算して、減算値を、取り込んだパラメータに対応するA相の電流補正値とする。情報生成部44は、A相に対して行った処理と同様の処理を、B相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータと、B相の推定サンプル電流値が時系列に並んだデータとに対して行い、取り込んだパラメータに対応するB相の電流補正値を算出する。
【0094】
なお、ここでは、A相とB相のインダクタンス値Lが同一であるとしていることから、A相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータを、スイッチング周期Tsの半周期分ずらしたデータが、B相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータになるという関係になっている。そのため、平均値を算出する区間の時間長が、スイッチング周期Tsの自然数倍であれば、A相の推定実リアクトル電流値の平均値と、B相の推定実リアクトル電流値の平均値とは同一になる。この場合、情報生成部44は、B相の推定実リアクトル電流値の平均値を算出するのではなく、算出済みのA相の推定実リアクトル電流値の平均値を、B相の推定実リアクトル電流値の平均値とするようにしてもよい。
【0095】
情報生成部44は、パラメータに対応するA相の電流補正値と、B相の電流補正値とを関連付けて内部の領域に記録する。情報生成部44は、処理継続指示信号を実電流推定部41に出力する(S11)。
【0096】
実電流推定部41は、情報生成部44から処理継続指示信号を受けると、未選択のパラメータの何れか1つを選択して、再びS2以降の処理を開始する(ループL1s~L1e)。実電流推定部41は、情報生成部44から処理継続指示信号を受けた際に、全てのパラメータに対して、S2の処理を行っていた場合、処理終了通知信号を、情報生成部44に出力する。これにより、ループL1s~L1eの繰り返し処理が終了する。
【0097】
情報生成部44は、実電流推定部41から処理終了通知信号を受けると、内部の記憶領域に記憶されている複数のパラメータと、パラメータの各々に対応するA相の電流補正値とから、パラメータごとの補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…を生成し、生成した補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…をまとめた補正テーブル群データ7Aを生成する。同様に、情報生成部44は、内部の記憶領域に記憶されている複数のパラメータと、パラメータの各々に対応するB相の電流補正値とから補正テーブル群データ7Bを生成する(S12)。これにより、補正値検出用情報生成装置40による処理が終了する。
【0098】
(A相とB相の電流測定回路時定数が同一である場合)
上記した
図5の処理では、A相とB相のインダクタンス値Lが同一であるとしている。そのため、A相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータを、スイッチング周期Tsの半周期分ずらしたデータが、B相の推定実リアクトル電流値が時系列に並んだデータになるという関係がある。A相とB相のインダクタンス値Lが同一であるという条件に加えて、センサ回路17Aとセンサ回路17Bの時定数が同一であり、フィルタ回路18Aとフィルタ回路18Bの時定数が同一であるとする。上記した例では、A相とB相においてサンプリングタイミングが同一である。そのため、センサ回路17Aとセンサ回路17Bの時定数を同一とし、フィルタ回路18Aとフィルタ回路18Bの時定数を同一にすると、A相の推定サンプル電流値が時系列に並んだデータも、スイッチング周期Tsの半周期分ずらすことによって、B相の推定サンプル電流値が時系列に並んだデータになる。
【0099】
この場合、A相の推定実リアクトル電流値の平均値と、B相の推定実リアクトル電流値の平均値とが、同一になり、A相の推定サンプル電流値の平均値と、B相の推定サンプル電流値の平均値とが、同一になる。したがって、パラメータごとのA相の電流補正値と、B相の電流補正値とが同一になり、補正テーブル群データ7Aと、補正テーブル群データ7Bとが同一のデータになる。そのため、情報生成部44は、補正テーブル群データ7Aを生成し、生成した補正テーブル群データ7Aを複製したデータを、補正テーブル群データ7Bとして生成するようにしてもよい。また、このように補正テーブル群データ7Aと、補正テーブル群データ7Bとが同一のデータになる場合、昇圧装置1の記憶部6に情報生成部44が生成する補正テーブル群データ7Aのみを記憶させておき、制御信号生成部5が、A相の処理を行う場合も、B相の処理を行う場合も記憶部6に記憶されている補正テーブル群データ7Aを参照するようにしてもよい。
【0100】
(制御信号生成部について)
図10は、昇圧装置1の制御部3が備える制御信号生成部5の内部構成を示しつつ、制御信号生成部5が行う処理の流れをブロック線図として示す図である。記憶部6に、補正値検出用情報生成装置40が生成した補正テーブル群データ7A,7Bが記憶されていることを前提として、
図10を参照しつつ、制御信号生成部5の内部構成と処理について説明する。
【0101】
(制御信号生成部の内部構成)
制御信号生成部5は、電圧制御部81、電流制御部82、デューティ演算部83、及びパルス生成部84を備える。電圧制御部81は、例えば、AVR(Automatic Voltage Regulator)であり、加え合わせ点91、電圧PI(Proportional-Integral)ブロック92、及び乗算ブロック93を備える。電圧制御部81は、出力端子20の間の電圧値V2の目標値である目標電圧値tr-V2から磁気結合リアクトル12を流れる電流値I1の目標値である目標電流値tr-I1を算出する。
【0102】
電流制御部82は、例えば、ACR(Automatic Current Regulator)であり、0.5倍ブロック94、電流値補正ブロック95A,95B、加え合わせ点96A,96B、及び電流PIブロック97A,97Bを備える。電流制御部82は、目標電流値tr-I1から、リアクトル12Aの両端子間の電圧VLAの目標値である目標電圧値tr-VLAと、リアクトル12Bの両端子間の電圧VLBの目標値である目標電圧値tr-VLBとを算出する。
【0103】
デューティ演算部83は、除算ブロック98A,98B、及び加え合わせ点99A,99Bを備える。デューティ演算部83は、目標電圧値tr-VLA,tr-VLBから、上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uのオンデューティ比を算出する。パルス生成部84は、上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uのオンデューティ比からスイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lの各々のゲート端子に出力する制御信号を生成する。
【0104】
制御信号生成部5には、上記したように、図示しない入力端子10の間の電圧値V1を測定する第1の電圧測定回路と、出力端子20の間の電圧値V2を測定する第2の電圧測定回路とからフィードバック情報として電圧値V1と、電圧値V2とが供給される。以下、フィードバック情報としての電圧値V1と、電圧値V2とを、それぞれ電圧値fb-V1、電圧値fb-V2という。制御信号生成部5には、AD変換部4A,4Bの各々からフィードバック情報としてA相とB相のサンプル電流値が供給される。以下、フィードバック情報としてのA相とB相のサンプル電流値を、それぞれサンプル電流値fb-ILA、サンプル電流値fb-ILBという。
【0105】
制御信号生成部5は、更に、図示しない昇圧比を算出する機能部(以下、昇圧比算出部という)と、逆昇圧比を算出する機能部(以下、逆昇圧比算出部という)とを備える。昇圧比算出部は、フィードバック情報として供給される電圧値fb-V2と、電圧値fb-V1とを取り込み、取り込んだ電圧値fb-V2と電圧値fb-V1の比、すなわち昇圧比fb-V2/fb-V1を算出する。逆昇圧比算出部は、フィードバック情報として供給される電圧値fb-V1と、電圧値fb-V2とを取り込み、取り込んだ電圧値fb-V1と電圧値fb-V2の比、すなわち逆昇圧比fb-V1/fb-V2を算出する。
【0106】
(制御信号生成部の電圧制御部による処理)
電圧制御部81において、加え合わせ点91は、外部から与えられる目標電圧値tr-V2と、フィードバック情報として供給される電圧値fb-V2とを取り込む。加え合わせ点91は、目標電圧値tr-V2から電圧値fb-V2を減算して得られる減算値を出力する。電圧PIブロック92は、加え合わせ点91が出力する減算値を取り込み、取り込んだ減算値に対して、予めPI制御用のパラメータが定められている電圧に関するPI制御を行って、出力端子20の間の電流値I2の目標値である目標電流値tr-I2を算出して出力する。乗算ブロック93は、電圧PIブロック92が出力する目標電流値tr-I2と、昇圧算出部が出力する昇圧比fb-V2/fb-V1とを乗算して、磁気結合リアクトル12を流れる電流値I1の目標値である目標電流値tr-I1を算出して出力する。
【0107】
(制御信号生成部の電流制御部による処理)
電流制御部82において、0.5倍ブロック94は、A相のリアクトル12Aに供給される電流、及びB相のリアクトル12Bに供給される電流の各々の目標電流値を算出する。すなわち、0.5倍ブロック94は、乗算ブロック93が出力する目標電流値tr-I1を取り込み、取り込んだ目標電流値tr-I1を0.5倍してA相とB相の各々の目標電流値(tr-I1)/2を算出して出力する。
【0108】
電流制御部82において、A相に対して行われる処理を以下に説明する。電流値補正ブロック95Aは、フィードバック情報として供給されるサンプル電流値fb-ILAと、電圧値fb-V1と、電圧値fb-V2と、外部から与えられる電力値Pとを取り込む。電流値補正ブロック95Aは、記憶部6に記憶されている補正テーブル群データ7Aに含まれている補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…の中から電圧値fb-V2に対応する補正テーブルを選択する。電流値補正ブロック95Aは、選択した電圧値fb-V2に対応する補正テーブルにおいて、横方向の電力値が、取り込んだ電力値Pに一致し、かつ縦方向の電圧値が、電圧値fb-V1に一致する要素の値を、電流補正値として検出する。電流値補正ブロック95Aは、サンプル電流値fb-ILAに、検出した電流補正値を加算して、補正リアクトル電流値C-ILAを算出し、算出した補正リアクトル電流値C-ILAを出力する。
【0109】
加え合わせ点96Aは、0.5倍ブロック94が出力する目標電流値(tr-I1)/2と、電流値補正ブロック95Aが出力する補正リアクトル電流値C-ILAとを取り込む。加え合わせ点96Aは、目標電流値(tr-I1)/2から補正リアクトル電流値C-ILAを減算して得られる減算値を出力する。電流PIブロック97Aは、加え合わせ点96Aが出力する減算値を取り込み、取り込んだ減算値に対して、予めPI制御用のパラメータが定められている電流に関するPI制御を行って、リアクトル12Aの両端子間の電圧VLAの目標値である目標電圧値tr-VLAを算出して出力する。
【0110】
電流制御部82において、A相に対して行われる処理と同一の処理であって、電流値補正ブロック95Aを、電流値補正ブロック95Bに読み替え、サンプル電流値fb-ILAをサンプル電流値fb-ILBに読み替え、補正テーブル群データ7Aを、補正テーブル群データ7Bに読み替え、補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…を補正テーブル7B-1,7B-2,7B-3,…に読み替え、補正リアクトル電流値C-ILAを補正リアクトル電流値C-ILBに読み替え、加え合わせ点96Aを加え合わせ点96Bに読み替え、電流PIブロック97Aを電流PIブロック97Bに読み替えた処理が、B相に対する処理として行われる。これにより、B相の電流PIブロック97Bは、リアクトル12Bの両端子間の電圧VLBの目標値である目標電圧値tr-VLBを算出して出力する。
【0111】
ここで、
図11を参照して電流補正値を適用した場合の変化の一例について説明する。
図11は、
図2に対して電流補正値の適用によって生じる変化を加えた図である。サンプル電流値fb-I
LAが時系列順に、符号31,32,33,34の位置の値として電流値補正ブロック95Aに供給されたとする。この場合、電流値補正ブロック95Aが、符号31,32,33,34の各々のサンプル電流値fb-I
LAに対して検出した電流補正値が、全て正の値であったとする。この場合、電流値補正ブロック95Aによる電流補正値の適用により、符号31のサンプル電流値fb-I
LAに対応する補正リアクトル電流値C-I
LAは、符号35の位置になる。符号32のサンプル電流値fb-I
LAに対応する補正リアクトル電流値C-I
LAは、符号36の位置になる。符号33のサンプル電流値fb-I
LAに対応する補正リアクトル電流値C-I
LAは、符号37の位置になる。符号34のサンプル電流値fb-I
LAに対応する補正リアクトル電流値C-I
LAは、符号38の位置になる。これにより、符号29で示される時系列に並ぶサンプル電流値fb-I
LAの平均値が増加して、符号28で示される実リアクトル電流値I
LAの平均値に近づくことになる。
【0112】
(制御信号生成部のデューティ演算部による処理)
デューティ演算部83において、A相に対して行われる処理を以下に説明する。除算ブロック98Aは、電流PIブロック97Aが出力する目標電圧値tr-VLAと、フィードバック情報として供給される電圧値fb-V2とを取り込む。除算ブロック98Aは、目標電圧値tr-VLAを電圧値fb-V2で除算してtr-VLA/fb-V2を算出して出力する。加え合わせ点99Aは、除算ブロック98Aが出力するtr-VLA/fb-V2と、逆昇圧比算出部が出力する逆昇圧比fb-V1/fb-V2とを取り込む。加え合わせ点99Aは、fb-V1/fb-V2からtr-VLA/fb-V2を減算して、{(fb-V1)-(tr-VLA)}/fb-V2を算出する。この{(fb-V1)-(tr-VLA)}/fb-V2が、A相の上アームのスイッチ素子14A-Uのオンデューティ比(DutyA)になる。加え合わせ点99Aは、算出したA相の上アームのスイッチ素子14A-Uのオンデューティ比(DutyA)を出力する。
【0113】
デューティ演算部83において、A相に対して行われる処理と同一の処理であって、除算ブロック98Aを除算ブロック98Bに読み替え、電流PIブロック97Aを電流PIブロック97Bに読み替え、目標電圧値tr-VLAを目標電圧値tr-VLBに読み替え、加え合わせ点99Aを加え合わせ点99Bに読み替えた処理が、B相に対する処理として行われる。これにより、加え合わせ点99Bは、{(fb-V1)-(tr-VLB)}/fb-V2を算出する。この{(fb-V1)-(tr-VLB)}/fb-V2が、B相の上アームのスイッチ素子14B-Uのオンデューティ比(DutyB)になる。加え合わせ点99Bは、算出したB相の上アームのスイッチ素子14B-Uのオンデューティ比(DutyB)を出力する。
【0114】
(制御信号生成部のパルス生成部による処理)
パルス生成部84は、内部にPWM(Pulse Width Modulation)回路を備えている。パルス生成部84は、外部から与えられるスイッチング周期Tsを取り込む。パルス生成部84において、A相に対して行われる処理を以下に説明する。パルス生成部84は、加え合わせ点99Aが出力する上アームのスイッチ素子14A-Uのオンデューティ比(DutyA)を取り込む。パルス生成部84は、取り込んだDutyAに基づいて、PWM回路によって、取り込んだスイッチング周期Tsの1周期における上アームのスイッチ素子14A-U、及び下アームのスイッチ素子14A-Lの各々のONとOFFと切り替えるタイミングを示すパルス信号を生成する。パルス生成部84は、スイッチング周期Tsごとに繰り返し、上アーム用のパルス信号を制御信号としてスイッチ素子14A-Uのゲート端子に出力すると共に、下アーム用のパルス信号を制御信号としてスイッチ素子14A-Lのゲート端子に出力する。
【0115】
パルス生成部84において、A相に対して行われる処理と同一の処理であって、加え合わせ点99Aを加え合わせ点99Bに読み替え、スイッチ素子14A-Uをスイッチ素子14B-Uに読み替え、スイッチ素子14A-Lをスイッチ素子14B-Lに読み替え、DutyAをDutyBに読み替えた処理が行われる。
【0116】
(本実施形態の作用・効果)
上記した実施形態による昇圧装置1では、記憶部6に電流補正値を検出する用途で用いられる補正値検出用情報である補正テーブル群データ7A,7Bを予め記憶させている。補正テーブル群データ7A,7Bには、入力端子10の間の電圧値V1と、出力端子20の間の電圧値V2と、入力端子10に接続する蓄電器が供給する電力の電力値Pという昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報と、電流補正値との関係を示す補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…、及び補正テーブル7B-1,7B-2,7B-3,…が含まれている。
【0117】
補正テーブル群データ7A,7Bは、補正値検出用情報生成装置40によって生成されるデータである。補正値検出用情報生成装置40において、実電流推定部41は、リアクトル12A,12Bのリアクトル特性値と、昇圧チョッパ回路2のスイッチング周期Tsと、昇圧チョッパ回路2をモデル化した昇圧チョッパ回路モデル式とに基づいて、昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報を組み合わせて生成される複数のパラメータの各々に対応する推定実インダクタ電流値を算出する。
【0118】
測定電流推定部42は、電流測定回路16A,16Bの時定数である電流測定回路時定数と、電流測定回路16A,16Bをモデル化した電流測定回路モデル式とに基づいて、パラメータごとの推定実インダクタ電流値から、パラメータごとの推定測定インダクタ電流値を算出する。サンプル電流推定部43は、パラメータごとの推定測定インダクタ電流値を、AD変換部4A,4Bのサンプリングタイミングと同一のサンプリングタイミングでサンプリングして、パラメータごとの推定サンプル電流値を抽出する。情報生成部44は、実電流推定部41が算出する推定実インダクタ電流値と、サンプル電流推定部43が抽出する推定サンプル電流値とから、パラメータごとの電流補正値を算出し、パラメータと、電流補正値との関係を示す補正テーブル群データ7A,7Bを生成する。
【0119】
昇圧装置1の制御部3が備える制御信号生成部5は、AD変換部4A,4Bからサンプル電流値fb-ILA,fb-ILBを取得すると、取得した際の昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報、すなわちフィードバック情報に含まれる電圧値fb-V1,fb-V2と、外部から与えられる電力値Pとに基づいて、補正テーブル群データ7A,7BからA相とB相の各々の電流補正値を検出する。制御信号生成部5は、サンプル電流値fb-ILA,fb-ILBの各々に、各々に対応する電流補正値を適用して補正リアクトル電流値C-ILA,C-ILBを算出する。
【0120】
制御信号生成部5は、補正リアクトル電流値C-ILA,C-ILBを算出した際の昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報、すなわちフィードバック情報に含まれる電圧値fb-V1,fb-V2と、算出した補正リアクトル電流値C-ILA,C-ILBとに基づいて、制御目標値を目標電圧値tr-V2とするフィードバック制御を行う。制御信号生成部5は、当該フィードバック制御によって、出力端子20の間の電圧値V2が、目標電圧値tr-V2に近づくようにしつつ、各々が同一のスイッチング周期Tsで駆動する昇圧回路13A,13Bの駆動位相の位相差を180°に一致させるようにするスイッチング周期Tsの1周期分のスイッチタイミングを示す制御信号を生成する。制御信号生成部5は、スイッチング周期Tsごとに繰り返し、生成した制御信号をスイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lのゲート端子に出力する。
【0121】
昇圧装置1が備える電流測定回路16A,16Bのように、フィードバック制御に用いられる電流測定回路は、フィードバック制御に追随するために高い応答性が要求される。その一方で、このような高い応答性を有する電流測定回路16A,16Bを用いた場合、実リアクトル電流値ILA,ILBの各々の平均値と、各々に対応するサンプル電流値fb-ILA,fb-ILBの平均値とにおいて、相違が生じることになる。そのため、制御信号生成部5が、AD変換部4A,4Bから供給されるサンプル電流値fb-ILA,fb-ILBを、そのまま用いてフィードバック制御を行っても、良好な制御性が得られない。
【0122】
これに対して本実施形態では、補正値検出用情報生成装置40が、当該相違を補償する電流補正値を、昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報を組み合わせて生成される複数のパラメータごとに算出して補正テーブル群データ7A,7Bを生成する。制御信号生成部5は、フィードバック情報が供給されるごとに、補正値検出用情報生成装置40が生成した補正テーブル群データ7A,7Bからフィードバック情報が供給された際の昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報に対応する電流補正値を検出する。制御信号生成部5は、検出した電流補正値に基づいて、AD変換部4A,4Bから供給されるサンプル電流値fb-ILA,fb-ILBを補正して補正リアクトル電流値C-ILA,C-ILBを得る。
【0123】
すなわち、本実施形態の昇圧装置1と、補正値検出用情報生成装置40とを用いることで、多相化された昇圧チョッパ回路2において、フィードバック制御において要求される速度に追従可能な電流測定回路16A,16Bを用いつつ、実リアクトル電流値ILA,ILBの各々の平均値と、各々に対応するサンプル電流値fb-ILA,fb-ILBの平均値との相違を補正することができる。補正によって得られた補正リアクトル電流値C-ILAの平均値は、実際にリアクトル12Aを流れる電流の電流値である実リアクトル電流値ILAの平均値に近づき、また、補正によって得られた補正リアクトル電流値C-ILBの平均値は、実際にリアクトル12Bを流れる電流の電流値である実リアクトル電流値ILBの平均値に近づくことになる。したがって、制御信号生成部5が行うフィードバック制御において、良好な制御性が得られることになる。
【0124】
(本実施形態の他の構成例)
上記した実施形態では、補正値検出用情報生成装置40に与えるパラメータとして、複数の電圧値V1、複数の電圧値V2、及び複数の電力値Pの中から、V1,V2,Pの各々に対して1つずつ選択して組み合わせたものとしている。これに対して、電流値V2を、例えば、目標電圧値tr-V2に固定したパラメータとしてもよい。言い換えると、複数の電圧値V1と複数の電力値Pの中から、V1,Pの各々に対して1つずつ選択して組み合わせた組み合わせに、目標電圧値tr-V2を加えたものをパラメータとしてもよい。この場合、補正値検出用情報生成装置40が生成する補正テーブル群データ7Aは、「電圧値V2=目標電圧値tr-V2」をインデックスとする1つの補正テーブル7A-1のみを含み、補正テーブル群データ7Bも、「電圧値V2=目標電圧値tr-V2」をインデックスとする1つの補正テーブル7B-1のみを含むことになる。そのため、制御信号生成部5の電流値補正ブロック95A,95Bの各々は、補正テーブル群データ7A,7Bから補正テーブルを検索する必要がないため、電圧値fb-V2を取り込む必要がなく、電圧値fb-V1と、電力値Pとに基づいて、各々に対応する補正テーブル7A-1,7B-1から、それぞれA相とB相の電流補正値を検出することになる。なお、電圧値V2を、目標電圧値tr-V2以外の一定値に固定して、パラメータを生成するようにしてもよい。
【0125】
上記した実施形態において、リアクトル12Aのインダクタンス値と、リアクトル12Bのインダクタンス値とは、電力値Pによって同一の変化を示す値であって、同一の電力値Pに対しては、同一の値になるインダクタンス値であるとしている。これに対して、リアクトル12Aのインダクタンス値と、リアクトル12Bのインダクタンス値とが、電力値Pによって変化しない同一のインダクタンス値であるか、または、電力値Pによるインダクタンス値の変化が小さく、リアクトル12A,12Bに共通の1つのインダクタンス値を代表値として定めても支障がないとする。この場合、実電流推定部41に与えるリアクトル特性値には、リアクトル12Aと、リアクトル12Bとに共通の1つのインダクタンス値Lが含まれることになる。そのため、実電流推定部41は、
図5のS3の処理において、リアクトル特性値の中から電力値Pに対応するインダクタンス値Lを選択するのではなく、リアクトル特性値に含まれている1つのインダクタンス値Lを読み出して、それ以降の処理に、読み出したインダクタンス値Lを適用すればよいことになる。
【0126】
このように、リアクトル12A,12Bのインダクタンス値Lを、電力値Pによって変化しない一定値であり、かつ同一値であるとした場合、式(7)~式(10)における電流増加率が、電力値Pによって変わらなくなる。そのため、
図8に示す推定実リアクトル電流値の変化を示すグラフ60は、電力値Pが変化したとしても、横軸のI
end(1)~I
end(4)の値が、基準となる電流平均値I
aveの値にしたがって、縦方向の電流値の軸に対して、上下に平行に移動するだけである。言い換えると、電力値Pが変化したとしても、グラフ60の形状は変化しないことになる。そのため、電力値Pを何れの値にしたとしても、電圧値V
1と電圧値V
2の組み合わせが同一であれば、同一の電流補正値が得られることになる。
【0127】
したがって、リアクトル12A,12Bのインダクタンス値が、電力値Pによって変化しない一定値であり、かつ同一値である場合、電力値Pを用いなくても、正しい電流補正値を算出できることから、補正値検出用情報生成装置40に与えるパラメータに含まれる電力値Pを一定値、例えば、「0」に固定するようにしてもよい。言い換えると、複数の電圧値V1と複数の電圧値V2の中から、V1,V2の各々に対して1つずつ選択して組み合わせた組み合わせに、電力値Pとして予め定めた一定値を加えたものをパラメータとしてもよい。また、パラメータに電力値Pを含めないようにしてもよく、この場合、実電流推定部41は、式(6)の演算を行う際に、電力値Pとして予め定められる一定値を式(6)の「P」に適用することになる。
【0128】
電力値Pを一定値に固定して補正テーブル群データ7A,7Bを生成すると、補正テーブル群データ7A,7Bに含まれる補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…及び、補正テーブル7B-1,7B-2,7B-3,…の各々は、横方向の電力値Pのサブ項目が、当該一定値に対応する1つの数値のみとなり、1列だけのテーブルになる。この場合、制御信号生成部5に電力値Pを与える必要がなくなる。制御信号生成部5の電流値補正ブロック95A,95Bの各々は、電圧値fb-V1,fb-V2という2つの数値に基づいて、各々に対応する補正テーブル7A-1,7A-2,7A-3,…及び、補正テーブル7B-1,7B-2,7B-3,…から、それぞれA相とB相の電流補正値を検出すればよいことになる。
【0129】
電力値Pを一定値に固定する場合に、更に、上記した電圧値V2を目標電圧値tr-V2などの一定値に固定するようにしてもよい。そのようにした場合、補正テーブル群データ7A,7Bは、それぞれ1つの補正テーブル7A-1,7B-1を含むことになる。補正テーブル7A-1,7B-1の各々は、「電圧値V2=固定した一定値の電圧値V2」をインデックスとして有し、横方向の電力値Pのサブ項目において、固定した一定値の電力値Pに対応する1つの数値のみが示される1列だけのテーブルになる。この場合、制御信号生成部5の電流値補正ブロック95A,95Bの各々は、電圧値fb-V2を取り込むことなく、電圧値fb-V1のみに基づいて、各々に対応する補正テーブル7A-1,7B-1から、それぞれA相とB相の電流補正値を検出すればよいことになる。
【0130】
上記した実施形態では、補正値検出用情報生成装置40が生成する補正値検出用情報は、例えば、
図3に示す補正テーブル7A-1のようなデータ形式であるとしている。これに対して、補正値検出用情報生成装置40は、補正値検出用情報として、昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関わる情報と、電流補正値との関係を示す関数を生成するようにしてもよい。例えば、このような関数として、電圧値V
2と電力値Pと組み合わせごとの複数の関数であって、電圧値V
1と電流補正値との関係を示す関数を、補正値検出用情報生成装置40の情報生成部44が生成するようにしてもよい。電圧値V
1と電流補正値との関係を示す関数は、例えば、電圧値V
1を200V~240V、245V~300V、305V~400Vといったように区間ごとに区切って、電圧値V
1の区間ごとの電圧値V
1と電流補正値との関係を近似する関数を複数含む形式の関数であってもよい。
【0131】
上記した実施形態では、リアクトル12Aのインダクタンス値と、リアクトル12Bのインダクタンス値とが同一であるとしているが、リアクトル12Aのインダクタンス値と、リアクトル12Bのインダクタンス値とが異なっていてもよい。この場合、A相については、
図6に示す式(2),式(3),式(4),式(5)に替えて、
図12に示す式(2),式(3),式(4),式(5)が適用され、B相については、
図12に示す式(2B),(3B),(4B),(5B)が適用される。なお、
図12において、L
1は、リアクトル12Aのインダクタンス値であり、L
2は、リアクトル12Bのインダクタンス値である。また、リアクトル12Aのインダクタンス値と、リアクトル12Bのインダクタンス値とが、電力値Pによって変化する場合に、リアクトル12A,12Bとにおいて、異なる変化を示すインダクタンス値になっていてもよい。
【0132】
上記した実施形態において示すように、昇圧チョッパ回路2は、2相になっているが、3相以上の昇圧チョッパ回路であってもよい。昇圧チョッパ回路2は、入力端子10と、コンデンサ11と、昇圧回路13A,13Bと、平滑コンデンサ19と、出力端子20とを含むとしているが、
図15に示す昇圧装置200のように、入力側のコンデンサ11を含まない昇圧チョッパ回路であってもよい。昇圧チョッパ回路2の昇圧回路13A,13Bは、上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uを備えているが、
図15に示す昇圧装置200のように、上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uを備えない昇圧チョッパ回路であってもよい。昇圧チョッパ回路2の昇圧回路13A,13Bは、還流ダイオード15A-U,15A-L,15B-U,15B-Lを備えているが、還流ダイオード15A-U,15A-L,15B-U,15B-Lを備えない昇圧チョッパ回路であってもよい。ただし、昇圧チョッパ回路2を、上アームのスイッチ素子14A-U,14B-Uを備えない昇圧チョッパ回路とする場合、上アームには、
図15の昇圧装置200のようにダイオードが必要になる。
【0133】
上記した実施形態では、リアクトル12Aと、リアクトル12Bとが、磁気結合されているが、磁気結合されていなくてもよい。この場合、実電流推定部41に与えられるリアクトル特性値には、結合係数kが含まれないことになる。3相以上の昇圧チョッパ回路の場合、当該昇圧チョッパ回路を形成する複数の昇圧回路の各々に含まれるリアクトルは、全てが磁気結合されていなくてもよいし、一部が磁気結合されていてもよいし、全てが磁気結合されていてもよい。
【0134】
上記した実施形態では、AD変換部4A,4Bのサンプリングタイミングが同一であるとし、補正値検出用情報生成装置40のサンプル電流推定部43には、AD変換部4A,4Bに共通するサンプリングタイミングに対応する1つの検出タイミングを与えるようにしている。これに対して、AD変換部4Aのサンプリングタイミングと、AD変換部4Bのサンプリングタイミングとが異なる場合、サンプル電流推定部43には、AD変換部4Aのサンプリングタイミングに対応するA相用の検出タイミングと、AD変換部4Bのサンプリングタイミングに対応するB相用の検出タイミングという2つの検出タイミングが与えられることになる。この場合、サンプル電流推定部43は、
図5のS1の処理において、A相用の検出タイミングからA相用のサンプリングタイミングを算出し、B相用の検出タイミングからB相用のサンプリングタイミングを算出する。サンプル電流推定部43は、
図5のS10の処理において、A相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータを、A相用のサンプリングタイミングでサンプリングして、A相の推定サンプル電流値を時系列に並べたデータを抽出し、B相の推定測定リアクトル電流値が時系列に並んだデータを、B相用のサンプリングタイミングでサンプリングして、B相の推定サンプル電流値を時系列に並べたデータを抽出することになる。
【0135】
上記した実施形態では、スイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lが、例えば、IGBTであるとしている。これに対して、スイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lとして、バイポーラトランジスタやMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を適用してもよい。MOSFETを適用する場合、例えば、還流ダイオード15A-U,15A-L,15B-U,15B-Lを備えず、MOSFETであるスイッチ素子14A-U,14A-L,14B-U,14B-Lの寄生ダイオードを、還流ダイオード15A-U,15A-L,15B-U,15B-Lの代わりに利用するようにしてもよい。
【0136】
上記した実施形態では、電流測定回路16A,16Bは、それぞれセンサ回路17A,17Bと、フィルタ回路18A,18Bとを備えるようにしている。これに対して、電流測定回路16A,16Bは、センサ回路17A,17Bのみを備える回路であってもよいし、センサ回路17A,17Bと、フィルタ回路18A,18Bとによって構成される以外の電流を測定する回路であってもよい。
【0137】
上記した実施形態では、制御信号生成部5の制御目標を、電圧値V2の目標電圧値tr-V2としている。これに対して、例えば、制御信号生成部5の制御目標を、リアクトル12A,12Bの各々を流れる電流の電流値としてもよいし、出力端子20に接続する負荷に供給する電流の電流値としてもよいし、それ以外の昇圧チョッパ回路2の電気入出力に関係する値を制御目標としてもよい。
【0138】
(電流補正値の他の利用形態)
昇圧装置1の制御信号生成部5が、記憶部6の補正テーブル群データ7A,7Bから検出した電流補正値によって補正することにより得らえるリアクトル12Aの補正リアクトル電流値C-ILA、及びリアクトル12Bの補正リアクトル電流値C-ILBの何れか一方、または、両方を用いることにより、以下に示すような温度推定や抵抗値推定が可能になる。
【0139】
(温度推定の利用形態)
図13に示す蓄電器100は、例えば、昇圧装置1の入力端子10-1,10-2に接続される蓄電器であるとする。蓄電器100は、電極板の温度が所定の温度未満で使用しないと、寿命が短くなったりする。ただし、電解液内に存在する電極板は、直接、温度を測定することができない。このような場合に、蓄電器100において、電解液内に存在する電極板の箇所を測定対象箇所101として、当該測定対象箇所101の温度Taを監視する場面を想定する。
【0140】
図13に示す温度推定装置110を、昇圧装置1の制御信号生成部5に接続する。温度推定装置110は、制御信号生成部5から補正リアクトル電流値C-I
LAと、補正リアクトル電流値C-I
LBとを取得する。温度推定装置110は、温度センサを備えており、温度センサによって、蓄電器の外部から測定可能な箇所102(以下、測定可能箇所102という)の温度Tbを測定する。
【0141】
蓄電器100における熱抵抗103の熱抵抗値を、熱抵抗値Rthとすると、測定対象箇所101の温度Taを次式(13)によって算出することができる。
【0142】
【0143】
熱抵抗値Rthは、熱の伝わり難さを示す値であり、単位は、例えば、[℃/W]である。式(13)に示す「損失」とは、測定可能箇所102における熱量を示しており、「損失」は、例えば、蓄電器100に流れる電流の電流値Iから算出することが可能である。したがって、温度推定装置110は、制御信号生成部5から取得する補正リアクトル電流値C-ILAと補正リアクトル電流値C-ILBとを加算して蓄電器100を流れる電流の電流値Iを算出し、算出した電流値Iから式(13)の「損失」を算出する。温度推定装置110は、温度センサによって測定した測定可能箇所102の温度Tbと、算出した「損失」とを、式(13)に代入して、測定対象箇所101の温度Taを算出する。温度推定装置110が算出する温度Taの値は、リアクトル12A,12Bに実際に流れる電流の電流値を、高い精度で近似する補正リアクトル電流値C-ILAと、補正リアクトル電流値C-ILBとから算出した温度の値であるため、精度の高い温度の値になる。
【0144】
上記では、蓄電器100を対象として、蓄電器100の電極板の箇所を測定対象箇所101とする例について説明した。これに対して、例えば、蓄電器100に替えて、昇圧装置1に存在する半導体などの素子を対象としてもよい。このような素子も、特定の箇所の温度が、所定の温度を超えると、破壊されてしまうといった事情がある。この場合において、当該特定の箇所が、例えば、直接、温度を測定できない箇所や、温度センサによって測定ができない程の高温になる箇所である場合、当該特定の箇所を、測定対象箇所101とし、当該素子における測定可能な箇所を、測定可能箇所102として、上記と同様の手順で、温度推定装置110によって、測定対象箇所101の温度の値を推定することができる。
【0145】
(抵抗値推定の利用形態)
例えば、入力端子10-1,10-2に接続する蓄電器100において、内部抵抗105の抵抗値を計測したい場面を想定する。
図14に示す内部抵抗推定装置120を、昇圧装置1の制御信号生成部5に接続する。内部抵抗推定装置120は、制御信号生成部5から補正リアクトル電流値C-I
LAと、補正リアクトル電流値C-I
LBとを取得する。内部抵抗推定装置120は、昇圧装置1の入力端子10-1,10-2に接続し、入力端子10-1,10-2の間の電圧値V
1を計測する。
【0146】
内部抵抗推定装置120は、制御信号生成部5から取得する補正リアクトル電流値C-ILAと、補正リアクトル電流値C-ILBとを加算して、蓄電器100に流れる電流の電流値Iを算出する。内部抵抗推定装置120は、計測した入力端子10-1,10-2の間の電圧値V1を、算出した電流値Iで除算して、内部抵抗105の抵抗値を算出する。内部抵抗推定装置120が算出する内部抵抗105の抵抗値は、リアクトル12A,12Bに実際に流れる電流の電流値を、高い精度で近似する補正リアクトル電流値C-ILAと、補正リアクトル電流値C-ILBとを用いて算出した抵抗値であるため、精度の高い抵抗値になる。
【0147】
なお、温度推定装置110、及び内部抵抗推定装置120は、リアクトル12Aとリアクトル12Bのインダクタンス値が同一である場合、補正リアクトル電流値C-ILAと補正リアクトル電流値C-ILBとを加算するのではなく、補正リアクトル電流値C-ILA、及び補正リアクトル電流値C-ILBの何れか一方を2倍した値を電流値Iとしてもよい。この場合、温度推定装置110、及び内部抵抗推定装置120は、補正リアクトル電流値C-ILA、及び補正リアクトル電流値C-ILBの何れか一方を制御信号生成部5から取得すればよいことになる。
【0148】
上記した温度推定装置110や内部抵抗推定装置120の利用形態では、フィードバック制御において必要となる制御性が要求されないことから、例えば、時定数が大きく、応答が遅い電流測定回路を用いて、平均値に関して、実リアクトル電流値との相違が少ないサンプル電流値を取得して利用することができる。ただし、この場合、昇圧装置1に、時定数が大きく、応答が遅い電流測定回路を、電流測定回路16A,16Bとは別に備える必要がある。これに対して、
図13,
図14に示すように、制御信号生成部5が出力する補正リアクトル電流値C-I
LA,C-I
LBを利用するようにすれば、昇圧装置1の部品点数を増やさずに、温度の値を推定したり、抵抗値を推定したりすることが可能になる。
【0149】
上記した実施形態に係る制御信号生成部5、及び補正値検出用情報生成装置40は、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)等のコンピュータと、コンピュータの周辺回路や周辺装置等のハードウェアを用いて構成することができる。そして、制御信号生成部5は、ハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、電圧制御部81、電流制御部82、デューティ演算部83、及びパルス生成部84を備え、補正値検出用情報生成装置40は、ハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、実電流推定部41、測定電流推定部42、サンプル電流推定部43、及び情報生成部44を備える。
【0150】
なお、制御信号生成部5、及び補正値検出用情報生成装置40は、PLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて構成されていてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0151】
上記した実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【0152】
上記した実施形態において、リアクトル12A,12Bは、インダクタンスの性質を実現する素子であり、インダクタの一種であるとしている。すなわち、インダクタには、リアクトルという名称で呼ばれるもの以外に、様々なインダクタンスの性質を実現する素子が存在する。このような、リアクトルという名称で呼ばれるもの以外の様々なインダクタンスの性質を実現する素子を、リアクトル12A,12Bに替えて昇圧装置1に適用するようにしてもよい。このような適用を考慮する場合、リアクトル12A,12Bを包含する名称として、インダクタ12A,12Bとするのが好ましく、インダクタ12A,12Bという名称にする場合には、上記の実施形態における「リアクトル」という記載は、全て「インダクタ」という記載に読み替えられることになる。
【0153】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0154】
1…昇圧装置 2…昇圧チョッパ回路 3…制御部 4A,4B…AD変換部 5…制御信号生成部 6…記憶部 7A,7B…補正テーブル群データ 10,10-1,10-2…入力端子 11…コンデンサ 12…磁気結合リアクトル 12A,12B…リアクトル 13A,13B…昇圧回路 14A-U,14A-L,14B-U,14B-L…スイッチ素子 15A-U,15A-L,15B-U,15B-L…還流ダイオード 16A,16B…電流測定回路 17A,17B…センサ回路 18A,18B…フィルタ回路 19…平滑コンデンサ 20,20-1,20-2…出力端子 40…補正値検出用情報生成装置 41…実電流推定部 42…測定電流推定部 43…サンプル電流推定部 44…情報生成部