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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151966
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20241018BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20241018BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B25B21/02 B
B25F5/00 G
B25F5/00 C
B25B21/00 520A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065820
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】322003732
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 暁斗
【テーマコード(参考)】
3C064
【Fターム(参考)】
3C064AA02
3C064AB02
3C064AC02
3C064AC03
3C064AC09
3C064AC13
3C064BA03
3C064BA08
3C064BB21
3C064BB26
3C064CA03
3C064CA06
3C064CA53
3C064CA74
3C064CA75
3C064CA78
3C064CB01
3C064CB07
3C064CB17
3C064CB33
3C064CB62
3C064CB71
3C064DA02
3C064DA28
3C064DA33
3C064DA91
(57)【要約】
【課題】動作時における音の発生の抑制を図る。
【解決手段】工具1は、モータ2と、太陽歯車41と、複数の遊星歯車42と、内歯車43と、出力軸5と、を備える。モータ2は、トルクを他の部材に伝達する伝達体を回転させる。太陽歯車41は、伝達体の回転に応じて回転する。内歯車43は、回転可能な状態で保持される。出力軸5は、複数の遊星歯車42の公転に応じて回転する。出力軸5の第1部分51には、先端工具が取り付けられる。出力軸5の第2部分52は、複数の遊星歯車42の遊星キャリアとして機能する。内歯車43は、第1係合部432を有する。出力軸5の第2部分52は、第2係合部522を有する。内歯車43の第1係合部432と、第2部分52の第2係合部522とは、伝達体の回転方向に沿って相対移動可能であり、内歯車43の回転に応じて接触する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクを他の部材に伝達する伝達体を回転させるモータと、
前記伝達体に固定され、前記伝達体の回転に応じて回転する太陽歯車と、
前記太陽歯車の周囲に配置され、前記太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車と、
前記複数の遊星歯車を囲うように配置され、前記複数の遊星歯車と噛み合い、回転可能な状態で保持される内歯車と、
前記複数の遊星歯車の公転に応じて回転する出力軸と、
を備え、
前記出力軸は、
先端工具が取り付けられる第1部分と、
前記複数の遊星歯車の遊星キャリアとして機能する第2部分と、
を有し、
前記内歯車は、第1係合部を有し、
前記出力軸の前記第2部分は、第2係合部を有し、
前記内歯車の前記第1係合部と、前記第2部分の前記第2係合部とは、前記伝達体の回転方向に沿って相対移動可能であり、前記内歯車の回転に応じて接触する、
工具。
【請求項2】
前記内歯車は、前記先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、前記内歯車の前記第1係合部と前記第2部分の前記第2係合部とが接触していないときに、前記伝達体と逆方向に回転し、
前記内歯車と、前記出力軸とは、前記先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、前記内歯車の前記第1係合部と前記第2部分の前記第2係合部とが接触しているときに、前記伝達体と一体的に回転する、
請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記モータを制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、
前記モータを制御して前記伝達体を第1方向に回転させ、
前記内歯車と前記出力軸との一体的な回転が止まった後に、前記モータを制御して前記伝達体を前記第1方向とは逆方向の第2方向に所定時間又は所定角度回転させ、
前記伝達体を前記第2方向に所定時間又は所定角度回転させた後に、前記モータを制御して前記伝達体を前記第1方向に回転させる、
請求項1に記載の工具。
【請求項4】
前記内歯車は、円環状又は円筒状に形成され内周面に複数の歯が設けられた本体部を更に有し、
前記出力軸の前記第2部分は、前記複数の遊星歯車の各々の軸と連結されたキャリア部を更に有し、
前記内歯車の前記第1係合部は、前記出力軸の回転軸に沿って、前記本体部から突出しており、
前記第2部分の前記第2係合部は、前記回転軸と直交する方向に沿って、前記キャリア部から突出している、
請求項1に記載の工具。
【請求項5】
前記太陽歯車としての第1太陽歯車とは別の第2太陽歯車と、
前記複数の遊星歯車としての複数の第1遊星歯車とは別の複数の第2遊星歯車と、
前記複数の第1遊星歯車と前記複数の第2遊星歯車との間に配置され、前記複数の第2遊星歯車の遊星キャリア及び前記伝達体として機能するキャリア部材と、
を更に備え、
前記第2太陽歯車は、前記第1太陽歯車と前記モータとの間に配置されており、前記キャリア部材とは別の伝達体に固定されており、
前記複数の第2遊星歯車は、前記複数の第1遊星歯車と前記モータとの間に配置されており、前記第2太陽歯車の周囲に配置され、前記第2太陽歯車と噛み合い、
前記内歯車は、前記複数の第1遊星歯車及び前記複数の第2遊星歯車の周囲に配置され、前記複数の第1遊星歯車及び前記複数の第2遊星歯車と噛み合う、
請求項1に記載の工具。
【請求項6】
前記モータと前記太陽歯車との間に配置され、前記伝達体と一体的に回転する慣性体を更に備える、
請求項1に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に工具に関し、より詳細には、モータを備える工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インパクト機構を備えるインパクト回転工具が開示されている。特許文献1のインパクト回転工具では、インパクト機構が出力軸に打撃衝撃を加える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-132021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているようなインパクト回転工具では、インパクト機構が出力軸に打撃衝撃を加える際に、音が発生する。
【0005】
本開示は上記事由に鑑みてなされており、動作時における音の発生の抑制を図ることができる工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る工具は、モータと、太陽歯車と、複数の遊星歯車と、内歯車と、出力軸と、を備える。前記モータは、トルクを他の部材に伝達する伝達体を回転させる。前記太陽歯車は、前記伝達体に固定され、前記伝達体の回転に応じて回転する。前記複数の遊星歯車は、前記太陽歯車の周囲に配置されている。前記複数の遊星歯車は、前記太陽歯車と噛み合う。前記内歯車は、前記複数の遊星歯車を囲うように配置されている。前記内歯車は、前記複数の遊星歯車と噛み合い、回転可能な状態で保持される。前記出力軸は、前記複数の遊星歯車の公転に応じて回転する。前記出力軸は、第1部分と、第2部分と、を有する。前記第1部分には、先端工具が取り付けられる。前記第2部分は、前記複数の遊星歯車の遊星キャリアとして機能する。前記内歯車は、第1係合部を有する。前記出力軸の前記第は、第2係合部を有する。前記内歯車の前記第1係合部と、前記第2部分の前記第2係合部とは、前記伝達体の回転方向に沿って相対移動可能であり、内歯車の回転に応じて接触する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の上記態様に係る工具によれば、動作時における音の発生の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態1に係る工具の要部を示す断面図である。
図2図2は、同上の工具の構成を示すブロック図である。
図3図3は、同上の工具の要部の分解斜視図である。
図4図4は、同上の工具の要部を別の角度から見た分解斜視図である。
図5図5は、同上の工具の動作を示すタイミングチャートである。
図6図6は、同上の工具の要部の動作を説明するための概略図である。
図7図7は、同上の工具の要部の動作を説明するための別の概略図である。
図8図8は、同上の工具の要部の動作を説明するための更に別の概略図である。
図9図9は、同上の工具の要部の動作を説明するための更に別の概略図である。
図10図10は、同上の工具の要部の動作を説明するための更に別の概略図である。
図11図11は、同上の工具の要部の動作を説明するための更に別の概略図である。
図12図12は、実施形態2に係る工具の要部を示す断面図である。
図13図13は、同上の工具の要部の分解斜視図である。
図14図14は、同上の工具の要部を別の角度から見た分解斜視図である。
図15図15は、同上の変形例に係る工具の要部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に関する好ましい実施形態について図を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する各実施形態において互いに共通する要素には同一符号を付しており、共通する要素についての重複する説明は省略する場合がある。以下の各実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。各実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、各実施形態(各変形例を含む)は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0010】
本開示において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さのそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。なお、図中の各方向を示す矢印は一例であり、工具1の使用時の方向を規定する趣旨ではない。また、図中の各方向を示す矢印は説明のために表記しているに過ぎず、実体を伴わない。
【0011】
なお、本開示でいう「直交(垂直)」は、二者間の角度が厳密に90度である状態だけでなく、二者がある程度の差の範囲内で交差する状態も含む意味である。つまり、直交する二者間の角度は、90度に対してある程度の差(一例として10度以下)の範囲内に収まる。すなわち、本開示でいう「直交」は、二者でなす角度が80度以上100度以下である場合を含む。
【0012】
(実施形態1)
(1)概要
まず、実施形態1に係る工具1の構成の概要について、図1図3を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、工具1は、例えば可搬型の電動工具である。工具1は、モータ2と、遊星歯車機構4と、を備える。
【0014】
モータ2は、トルクを他の部材に伝達する伝達体(モータ軸21)を回転させる。
【0015】
遊星歯車機構4は、太陽歯車41と、複数(図3の例では5つ)の遊星歯車42と、内歯車43と、出力軸5と、有する。
【0016】
太陽歯車41は、伝達体21に固定されている。太陽歯車41は、伝達体21の回転に応じて回転する。
【0017】
複数の遊星歯車42は、太陽歯車41の周囲に配置されている。複数の遊星歯車42の各々は、太陽歯車41と噛み合っている。
【0018】
内歯車43は、複数の遊星歯車42を囲うように配置されている。内歯車43は、複数の遊星歯車42の各々と噛み合っている。内歯車43は、回転可能な状態で保持されている。また、内歯車43は、第1係合部432を有する。
【0019】
出力軸5は、複数の遊星歯車42の公転に応じて回転する。出力軸5は、第1部分51と、第2部分52と、を有する。
【0020】
第1部分51には、例えばドライバービット等の先端工具が取り付けられる。
【0021】
第2部分52は、複数の遊星歯車42の遊星キャリアとして機能する。また、第2部分52は、第2係合部522を有する。
【0022】
内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2部分52の第2係合部522と、は、伝達体(モータ軸21)の回転方向に沿って相対移動可能であり、内歯車43の回転に応じて接触する。
【0023】
次に、実施形態1の工具1の動作の概要について、図6図8を参照して説明する。なお、出力軸5の第1部分51に先端工具が取り付けられており、先端工具が例えばネジ又はボルト等の作業対象にセットされている、つまり先端工具と作業対象とが接触していることを前提として、工具1の動作の概要について説明する。また、伝達体(モータ軸21)が図6中の第1方向DR1に回転している状態を前提として、工具1の動作の概要について説明する。
【0024】
図7に示すように、内歯車43は、先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、内歯車43の前記第1係合部432と第2部分52の第2係合部522とが接触していないときに、伝達体(モータ軸21)の回転方向(第1方向DR1)と逆方向(第2方向DR2)に回転する。ここで、内歯車43は、先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、内歯車43の前記第1係合部432と第2部分52の第2係合部522とが接触していないときに、出力軸5は回転しない。
【0025】
内歯車43が伝達体(モータ軸21)の回転方向と逆方向に回転することで、図8に示すように、内歯車43の第1係合部432と、第2部分52の第2係合部522とが接触する。
【0026】
なお、内歯車43の回転速度は、遊星歯車機構4の機能によって伝達体(モータ軸21)の回転速度から減速されている。したがって、内歯車43の第1係合部432と、第2部分52の第2係合部522とが接触する際に発生する音は、インパクト回転工具のインパクト機構が出力軸に打撃衝撃を加える際に発生する音より遥かに小さい。また、内歯車43の第1係合部432と、第2部分52の第2係合部522とが接触する際に発生する衝撃は、インパクト回転工具のインパクト機構が出力軸に打撃衝撃を加える際に発生する衝撃より遥かに小さい。つまり、本実施形態の工具1は、インパクト回転工具と比べて、出力軸5(又はアンビル)等における摩耗の発生が抑制され長寿命である。
【0027】
図8に示すように、内歯車43と、出力軸5とは、先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、内歯車43の第1係合部432と第2部分52の第2係合部522とが接触しているときに、伝達体(モータ軸21)と一体的に回転する。つまり、内歯車43と、出力軸5とは、伝達体(モータ軸21)と一体的に第1方向DR1に回転する。出力軸5が回転することで、出力軸5に取り付けられた先端工具が回転し、例えばネジ等の作業対象を締付動作等が行われる。ここで、内歯車43の第1係合部432と第2部分52の第2係合部522とが接触するまでの間に伝達体(モータ軸21)は回転しているため、先端工具には伝達体(モータ軸21)の慣性トルクが伝達される。つまり、本実施形態の工具1によれば、伝達体(モータ軸21)の慣性トルクによって、締付動作等を行うことができる。
【0028】
また、従来のインパクト回転工具では、遊星歯車機構の内歯車が、回転しないようにハウジングに固定されていることが一般的である。したがって、従来のインパクト回転工具では、作業対象の締付動作等を行う際に、反力が内歯車からハウジングに伝達されることで、作業者に反力が伝わる。一方で、本実施形態の工具1によれば、遊星歯車機構4の内歯車43は回転可能な状態で保持されているため、作業対象の締付動作等を行う際に、反力が内歯車からハウジングに伝達されない。つまり、本実施形態の工具1によれば、作業対象の締付動作等を行う際に、作業者に伝わる反力を低減することができる。
【0029】
また、インパクト回転工具では、インパクト機構のハンマ部が弾性力によってモータ軸の軸方向に沿って振動するように動くため、モータ軸の軸方向に沿って工具全体が振動する。しかし、本実施形態の工具1では、内歯車43がモータ軸21の軸方向に沿って動かないため、モータ軸21の軸方向に沿って工具全体が振動しない。
【0030】
上述のように、本実施形態の工具1によれば、動作時における音の発生を抑制することができる。
【0031】
(2)詳細
以下、実施形態1に係る工具1の詳細な構成について、図1図4、及び図6を参照して説明する。以下の説明では、モータ2のモータ軸21から出力軸5に向かう方向を前方向とし、出力軸5からモータ軸21に向かう方向を後方向とする。なお、以下の説明では、前方向と後方向とをあわせて「前後方向」と呼ぶことがある。なお、実施形態1では、出力軸5の回転軸Ax1は、前後方向に沿っている。また、以下の説明では、ハウジング10のグリップ部102からハウジング10の胴体部101に向かう方向を上方向とし、胴体部101からグリップ部102に向かう方向を下方向とする。なお、以下の説明では、上方向と下方向とをあわせて「上下方向」と呼ぶことがある。また、前後方向及び上下方向と直交する方向を「左右方向」と呼ぶことがある。
【0032】
図1に示すように、工具1は、ハウジング10と、モータ2と、慣性体3と、遊星歯車機構4と、出力軸5と、電池パック11と、トリガスイッチ12と、を備える。なお、工具1が電池パック11を備えることは必須ではない。また、図2に示すように、工具1は、記憶部6と、制御部7と、トルクセンサ14と、を更に備える。
【0033】
図1に示すように、ハウジング10は、胴体部101と、グリップ部102と、装着部23と、を有する。
【0034】
胴体部101の形状は、直方体状の箱状である。胴体部101は、モータ2、慣性体3、及び遊星歯車機構4を収容している。
【0035】
グリップ部102は、胴体部101から下に突出している。本実施形態のグリップ部102は、例えば、上底及び下底が開口の円筒状に形成されている。
【0036】
装着部103は、グリップ部102の先端部(下端部)に設けられている。言い換えれば、胴体部101と装着部103とが、グリップ部102にて連結されている。装着部103は、電池パック11が取り外し可能に装着されるように構成されている。
【0037】
電池パック11は、モータ2を駆動する電流を供給する電源である。電池パック11は、複数の二次電池(例えば、リチウムイオン電池又は全固体電池等)を直列接続して構成された組電池と、組電池を収容したケースと、を備える。
【0038】
トリガスイッチ12は、グリップ部102から突出している。トリガスイッチ12は、モータ2の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガスイッチ12を引く操作により、モータ2のオンオフを切替え可能である。また、トリガスイッチ12を引く操作の引込み量で、モータ2の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きい程、モータ2の回転速度が速くなる。
【0039】
図2に示すトルクセンサ14は、例えばねじり歪みの検出が可能な磁歪式のトルクセンサである。トルクセンサ14は、出力軸5のねじり歪みを検出可能な位置に配置されている。トルクセンサ14は、出力軸5にトルクが加わることにより発生する軸の歪みに応じた透磁率の変化を非回転部分に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を、トルク検出部71に出力する。なお、トルクセンサ14は、歪ゲージ式のトルクセンサであってもよい。
【0040】
記憶部6は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を含む。記憶部6は、制御部7が実行する制御プログラムを記憶する。また記憶部6は、締付トルクの設定値(設定トルク)等を記憶する。なお、本開示でいう「締付トルク」は、作業対象を締め付けるトルクのことであり、工具1の動作時において、先端工具、出力軸5、又はモータ軸21にかかるトルクを含む意図である。
【0041】
制御部7は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部7の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0042】
図2に示すように、制御部7は、トルク検出部71及び駆動制御部72を有する。なお、トルク検出部71及び駆動制御部72は、必ずしも実体のある構成を示しているわけではなく、制御部7によって実現される機能を示している。
【0043】
トルク検出部71は、トルクセンサ14から出力される電圧信号に基づいて、出力軸5の締付トルクを検出する。
【0044】
駆動制御部72は、モータ2を制御する。駆動制御部72は、例えばベクトル制御でモータ2を制御する。駆動制御部72は、モータ2に供給する電流であるモータ電流を、トルクを発生するトルク電流(q軸電流)と磁束を発生させる励磁電流(d軸電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御する。なお、駆動制御部72がモータ2を制御する方法は、ベクトル制御に限定されず、ベクトル制御とは異なる制御方法であってもよい。
【0045】
駆動制御部72は、トルク検出部71によって測定された締付トルクが、予め記憶部6に記憶されている設定トルクに一致するようにモータ2を制御する。駆動制御部72は、トルク検出部71によって測定された締付トルクが設定トルク以上になると、モータ2を制御してモータ軸21の回転を停止させる。
【0046】
駆動制御部72は、作業者がトリガスイッチ12を引くと、モータ2を制御してモータ軸21を例えば第1方向DR1(図6参照)に回転させる。駆動制御部72は、締付トルクが大きくなって出力軸5の回転が止まった後に、モータ2を制御してモータ軸21を第1方向DR1とは逆方向の第2方向DR2(図6参照)に、所定時間又は所定角度回転させる。駆動制御部72は、モータ軸21を第2方向DR2に所定時間又は所定角度回転させた後に、モータ2を制御してモータ軸21を第1方向DR1に再度回転させる。駆動制御部72は、一連の制御を、トルク検出部71によって測定された締付トルクが設定トルク以上になるまで繰り返す。なお、図6の例では、第1方向DR1が反時計回りであり第2方向DR2が時計回りであるが、第1方向DR1が時計回りで第2方向DR2が反時計回りであってもよい。
【0047】
モータ2は、例えばブラシレスモータである。図1に示すように、モータ2は、モータ軸21を有する。モータ2は、電池パック11から供給される電力をモータ軸21の回転駆動力(トルク)に変換する。モータ軸21は、トルクを他の部材に伝達する伝達体として機能する。モータ軸21の前端には、太陽歯車41(図4参照)の突出部412が嵌め合わされる凹部211(図3参照)が形成されている。凹部211の形状は、前後方向から見て、頂点が丸みを有する三角形状に形成されている。
【0048】
慣性体3は、モータ2と遊星歯車機構4との間に配置されている。言い換えると、慣性体3は、モータ2と太陽歯車41との間に配置されている。より具体的には、慣性体3は、モータ2の前方かつ遊星歯車機構4の後方に配置されている。慣性体3は、モータ軸21と機械的に接続されており、慣性体3は、モータ軸21と一体となって回転する。慣性体3は、いわゆるフライホイールであり、モータ2(モータ軸21)の慣性トルクを増加させる。
【0049】
図3及び図4に示すように、遊星歯車機構4は、軸受部材40と、太陽歯車41と、複数(図3の例では5つ)の遊星歯車42と、内歯車43と、を備える。
【0050】
太陽歯車41は、モータ軸21に固定され、モータ軸21の回転に応じて回転する外歯車である。太陽歯車41には、前後方向に沿って太陽歯車41を貫通する貫通孔413(図4参照)が形成されている。前後方向から見て、貫通孔413は、太陽歯車41の中心に形成されており、円形状の丸孔である。貫通孔413には、軸方向が前後方向に沿った円柱状又は円筒状の軸411が通される。太陽歯車41は、軸411を中心として、軸411の周りを回転可能である。なお、太陽歯車41の軸411は、軸受を介するように貫通孔413に通されてもよい。
【0051】
太陽歯車41は、本体部410と、突出部412(図4参照)と、を有する。
【0052】
本体部410は軸方向が前後方向に沿った円筒状に形成されており、本体部410の外周面には複数の歯が設けられている。なお、本体部410は、軸方向(厚さ方向)が前後方向に沿った円環状に形成されていてもよい。
【0053】
突出部412は、本体部410の後端(後面)から後方に突出している。突出部412の形状は、三角柱状である。前後方向から見て、突出部412は、頂点が丸みを有する三角形状に形成されている。突出部412の外形と、モータ軸21の凹部211(図3参照)の縁とは、形状及び大きさが概ね一致する。突出部412は、モータ軸21の凹部211(図3参照)に嵌め合わされる。突出部412がモータ軸21の凹部211に嵌め合わされることにより、モータ軸21と太陽歯車41とは一体的に回転する。
【0054】
複数の遊星歯車42は、太陽歯車41の周囲に配置されている。複数の遊星歯車42は、太陽歯車41の軸411を中心とした円周上において、等間隔で配置されている。遊星歯車42は、外歯車である。複数の遊星歯車42の各々は、太陽歯車41及び内歯車43と噛み合っている。遊星歯車42には、前後方向に沿って遊星歯車42を貫通する貫通孔422(図3参照)が形成されている。前後方向から見て、貫通孔422は、遊星歯車42の中心に形成されており、円形状の丸孔である。貫通孔422には、軸方向が前後方向に沿った円柱状又は円筒状の軸421が通される。遊星歯車42は、軸421を中心として、軸421の周りを回転可能である。言い換えると、遊星歯車42は、軸421を中心として、軸421の周りを自転可能である。なお、遊星歯車42の軸421は、軸受を介するように貫通孔422に通されてもよい。
【0055】
遊星歯車42の軸421は、出力軸5の第2部分52及び軸受部材40に支持される。より具体的には、遊星歯車42の軸421の第1端(前端)は、出力軸5の第2部分52に形成されている貫通孔524に挿入される。また、遊星歯車42の軸421の第2端(後端)は、軸受部材40の貫通孔401に挿入される。
【0056】
軸受部材40は、複数の遊星歯車42の軸421を支持する部材である。軸受部材40は、円環状に形成されている。軸受部材40は、前後方向から見て軸受部材40と太陽歯車41の軸411とが同心となるように配置されている。
【0057】
軸受部材40には、複数(図5の例では5つ)の貫通孔401が形成されている。複数の貫通孔401は、太陽歯車41の軸411を中心とした円周上において、等間隔で配置されている。複数の貫通孔401は、前後方向に沿って軸受部材40を貫通している。複数の貫通孔401の各々には、遊星歯車42の軸421の後端が挿入される。
【0058】
内歯車43は、複数の遊星歯車42の周囲に配置されている。内歯車43は、複数の遊星歯車42と噛み合っている。内歯車43は、回転可能な状態でハウジング10に支持されている。より具体的には、実施形態1の内歯車43は、前後方向に並ぶように配置されている複数のベアリング13を介して、ハウジング10に支持されている。ベアリング13は、例えばボールベアリングである。なお、内歯車43は、1つのベアリング13を介してハウジング10に支持されていてもよい。
【0059】
内歯車43は、本体部431と、複数(図3の例では2つ)の第1係合部432と、を有する。
【0060】
本体部431は、軸方向が前後方向に沿った円筒状に形成されており、本体部431の内周面には複数の歯が設けられている。なお、本体部431の歯数は、太陽歯車41の歯数より多い。本体部431は、前後方向から見て、本体部431と太陽歯車41の軸411とが同心となるように配置されている。なお、本体部431は、軸方向(厚さ方向)が前後方向に沿った円環状に形成されていてもよい。
【0061】
複数の第1係合部432は、本体部431の前端(前面)から前方に突出している。言い換えると、複数の第1係合部432は、出力軸5の回転軸Ax1に沿って、本体部431から突出している。第1係合部432は、本体部431の円環状の前端の一部に亘って形成されており、本体部431の前端の曲率に応じて曲がっている直方体状に形成されている。実施形態1の2つの第1係合部432は、前後方向に直交する方向において対向するように配置されている。より具体的には、2つの第1係合部432は、出力軸5の回転軸Ax1を挟むように対向している。
【0062】
出力軸5は、遊星歯車機構4の前方に配置されている。前後方向において、出力軸5と遊星歯車機構4とは、一定間隔を空けて配置されている。工具1の動作時及び非動作時において、出力軸5と遊星歯車機構4との間の間隔は、概ね一定である。上述のように、出力軸5は、複数の遊星歯車42の公転に応じて、回転軸Ax1を中心に回転する。出力軸5は、第1部分51と、第2部分52と、を有する。なお、出力軸5の回転軸Ax1は、モータ軸21、軸受部材40、太陽歯車41、及び内歯車43の回転軸でもある。また、出力軸5の回転軸Ax1は、複数の遊星歯車42の公転時における回転軸でもある。
【0063】
第2部分52は、複数の遊星歯車42の遊星キャリアとして機能する。第2部分は、キャリア部521と、複数(図3の例では2つ)の第2係合部522と、を有する。
【0064】
キャリア部521は、厚さ方向が前後方向に沿った円盤状に形成されている。キャリア部521は、凹部523を有する。凹部523は、前後方向から見て円形状の窪みである。凹部523には、太陽歯車41の軸411の前端が挿入される。凹部523は、太陽歯車41の軸411の軸受として機能する。
【0065】
キャリア部521には、複数(図4の例では5つ)の貫通孔524が形成されている。複数の貫通孔524は、出力軸5の回転軸Ax1を中心とした円周上において、等間隔で配置されている。貫通孔524は、前後方向に沿ってキャリア部521を貫通している。複数の貫通孔524の各々には、遊星歯車42の軸421の前端が挿入される。言い換えると、キャリア部521は、複数の遊星歯車42の各々の軸421と連結されている。
【0066】
複数の第2係合部522は、出力軸5の回転軸Ax1と直交する方向に沿って、キャリア部521の側面(外周面)から突出している。つまり、実施形態1の第2係合部552と、第1係合部432とは、互いに直交する方向に突出している。例えば、第1係合部432と第2係合部552とが共に前後方向に突出している場合と比べて、前後方向において工具をコンパクトにすることができる。なお、実施形態1の2つの第2係合部522は、互いに遠ざかる向きに突出している。第2係合部522は、キャリア部521の側面の一部に亘って形成されており、直方体状に形成されている。
【0067】
第1部分51は、キャリア部521の前面の中央部から前方に突出している。上述のように、第1部分51には、ドライバービット、又はソケットビット等の先端工具が取り付けられる。先端工具が例えばドライバービットである場合、工具1の作業対象は、例えばネジである。また、先端工具が例えばソケットビットである場合、工具1の作業対象は、例えばボルト又はナットである。なお、第1部分51には、アダプタを介して先端工具が取り付けられてもよい。
【0068】
(3)工具の動作
次に、図5図9を参照して工具1の動作について説明する。
【0069】
例えば図5中のタイミングT0にて、作業者は、例えば先端工具の先端をねじ等の作業対象に接触させた状態で、トリガスイッチ12を例えば最大まで引く。ここで、タイミングT0の時点では、図7に示すように内歯車43の第1係合部432と出力軸5の第2係合部522とが、内歯車43の回転方向において一定以上離間している場合を想定する。駆動制御部72は、トリガスイッチ12が引かれると、モータ軸21を第1方向DR1(図6参照)に回転させる。以下の説明では、作業者は、作業対象の締付動作が完了するまで、トリガスイッチ12を最大まで引いた状態を維持すると想定する。なお、トリガスイッチ12は、作業者によって操作されていない状態でも、最大まで引かれた状態を維持する所謂オルタネイト動作を行ってもよい。
【0070】
モータ軸21が回転すると、モータ軸21に固定された太陽歯車41もモータ軸21と一体的に回転する。つまり、図6に示すように、太陽歯車41は、モータ軸21と同じ回転速度(又は回転数[rpm])で、第1方向DR1に回転する。また、太陽歯車41と噛み合っている複数の遊星歯車42は、太陽歯車41が回転することによって、各々の軸421を中心に、第2方向DR2に回転(自転)する。
【0071】
ここで、複数の遊星歯車42の各々の軸421は、出力軸5の第2部分52のキャリア部521と連結されている。出力軸5に取り付けられた先端工具は作業対象に接触した状態であるため、出力軸5には回転を抑制する力がかかる。つまり、複数の遊星歯車42の遊星キャリアとして機能するキャリア部521の回転が抑制される。言い換えると、複数の遊星歯車42が太陽歯車41を中心として回転する公転が抑制される。したがって、複数の遊星歯車42は、太陽歯車41に対する位置が固定されたまま、軸421を中心として第2方向DR2に回転する。
【0072】
複数の遊星歯車42の周囲に配置され、複数の遊星歯車42の各々と噛み合っている内歯車43は、複数の遊星歯車42が自転することにより、第2方向DR2に回転する。ここで、内歯車43の歯数は太陽歯車41の歯数より多いため、内歯車43の回転速度の絶対値は、太陽歯車41の回転速度の絶対値よりも小さい値となる。なお、内歯車43の回転速度の絶対値は、太陽歯車41の歯数を内歯車43の歯数で除した値を、太陽歯車41の回転速度の絶対値に乗じた値である。
【0073】
図7に示すように、内歯車43が第2方向DR2に回転することで、内歯車43の第1係合部432は、回転方向の先にある第2係合部522に近付いていく。そして、例えば図5中のタイミングT1にて、図8に示すように内歯車43の第1係合部432の側面は、出力軸5の第2係合部522の側面と接触する。言い換えると、内歯車43の第1係合部432は、出力軸5の第2係合部522と係合する。なお、タイミングT0とタイミングT1との間の期間において、モータ軸21の回転速度が一定速度以上となるため、モータ軸21の慣性トルクは一定値以上に上昇する。なお、以下の説明において、第1方向DR1におけるモータ軸21の回転速度が上昇していく期間のことをチャージ期間と呼ぶ。チャージ期間は、モータ軸21の慣性トルクが上昇する期間である。
【0074】
第2方向DR2に回転する複数の第1係合部432の各々の側面が、複数の第2係合部522の各々の側面と係合すると、出力軸5は第2方向DR2に回転しようとする。複数の遊星歯車42の軸421は出力軸5のキャリア部521に連結されているため、複数の遊星歯車42は、太陽歯車41を中心として第2方向DR2に回転(公転)しようとする。複数の遊星歯車42が第2方向DR2に公転しようとした場合、複数の遊星歯車42の各々には、軸421を中心として第1方向DR1に回転(自転)しようとする力が働く。一方、複数の遊星歯車42の各々には、第1方向DR1に回転する太陽歯車41から、第2方向DR2に自転する力が働いている。第1方向DR1に自転しようとする力と第2方向DR2に自転する力とは、ともに太陽歯車41の第1方向DR1への回転によって発生する力であるため、第1方向DR1に自転しようとする力と第2方向DR2に自転する力とは拮抗する。したがって、複数の遊星歯車42の各々は、軸421を中心とした回転を停止する。これにより、内歯車43も第2方向DR2の回転を停止する。
【0075】
つまり、内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とが係合すると、内歯車43と、複数の遊星歯車42と、太陽歯車41と、が互いに対して回転を停止する。言い換えると、内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とが係合することで、内歯車43と、複数の遊星歯車42と、太陽歯車41と、軸受部材40と、出力軸5と、が互いに固定される。内歯車43と、複数の遊星歯車42と、太陽歯車41と、軸受部材40と、出力軸5と、が互いに固定されると、図8及び図9に示すように、内歯車43と、複数の遊星歯車42と、太陽歯車41と、軸受部材40と、出力軸5と、が一体となって、回転軸Ax1を中心として第1方向DR1に回転する。したがって、内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とが係合するタイミングT1にて、出力軸5の回転速度は、モータ軸21の回転速度と同じになる。出力軸5が回転することで、作業対象が締め付けられる。
【0076】
図5中のタイミングT2にて、作業対象が着座する。ここで、「着座」とは、ねじ又はボルト等の作業対象の頭部座面が相手部材と接触することを示す。また、作業対象がナットである場合には、作業対象が相手部材の頭部座面と接触することを示す。作業対象の頭部座面が相手部材と接触すると、先端工具は作業対象の頭部座面と相手部材との間に発生する摩擦力に抗って回転するため、締付トルクは急激に上昇する。
【0077】
本実施形態の駆動制御部72は、トルク検出部71が検出する締付トルクの大きさ又は上昇量に応じて、モータ2への電力供給を停止させる。例えば、駆動制御部72は、作業対象が相手部材に着座したことをトルク検出部71が検知した検出したタイミング(例えばタイミングT2)で、モータ2への電力供給を停止させる。トルク検出部71は、一例として、単位時間当たりの締付トルクの上昇量が規定値以上となった場合に、作業対象の着座を検出するように構成される。また、駆動制御部72は、トルク検出部71が検出する締付トルクの大きさが規定値以上となったタイミング(例えばタイミングT7、T9)で、モータ2への電力供給を停止させる。
【0078】
モータ2への電力供給が停止された後、出力軸5及び出力軸5に取り付けられた先端工具は、慣性体3等に蓄積された慣性トルクによって回転を続け、作業対象を締め付ける。これにより、作業対象の着座後において、作業者が工具1から受ける反力を低減することができる。詳細には、モータ2に電力が供給されていない状態においては、モータ2の回転子と固定子との間に電磁的な相互作用が発生しない。このため、出力軸5から回転子に伝達される反力が固定子に伝達されず、作業者が工具1から受ける反力を低減することができる。
【0079】
締付トルクが上昇することにより、モータ軸21の慣性トルクが消費され、タイミングT3にてモータ軸21及び出力軸5の回転が止まる。実施形態1の駆動制御部72は、内歯車43と出力軸5との一体的な回転が止まったタイミングT3の後のタイミングT4にて、モータ2を制御してモータ軸21を第2方向DR2に所定時間又は所定角度回転させる。
【0080】
モータ軸21が回転すると、太陽歯車41もモータ軸21と一体的に回転する。つまり、図10に示すように、太陽歯車41は、モータ軸21と同じ回転速度(又は回転数[rpm])で、第2方向DR2に回転する。また、太陽歯車41と噛み合っている複数の遊星歯車42は、太陽歯車41が回転することによって、各々の軸421を中心に、第1方向DR1に回転(自転)する。
【0081】
出力軸5に取り付けられた先端工具は作業対象に接触した状態であるため、出力軸5には回転を抑制する力がかかる。つまり、複数の遊星歯車42の遊星キャリアとして機能するキャリア部521の回転が抑制される。したがって、複数の遊星歯車42は、太陽歯車41に対する位置が固定されたまま、軸421を中心として第1方向DR1に回転する。
【0082】
図11に示すように、内歯車43は、複数の遊星歯車42が自転することにより、第1方向DR1に回転する。内歯車43が第1方向DR1に回転することで、接触していた内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とは、離間していく。なお、モータ軸21が第2方向DR2に回転する所定時間は、第2係合部522から離間していく第1係合部432が、所定時間内に他の第2係合部522と接触しない時間である。また、所定角度(所定回数)は、モータ軸21が所定角度(所定回数)回転するまでに、第2係合部522から離間していく第1係合部432が、他の第2係合部522と接触しない角度(回転数)である。
【0083】
駆動制御部72は、タイミングT4から所定時間が経過したタイミングT5又はモータ軸21が所定角度回転したタイミングT5にて、モータ2を制御してモータ軸21の回転を停止させる。
【0084】
駆動制御部72は、モータ2を制御してモータ軸21の回転を停止させた後のタイミングT6にて、モータ2を制御してモータ軸21を第1方向DR1に再度回転させる。モータ軸21が第1方向DR1に回転すると、タイミングT0とタイミングT1との間の期間と同様に、内歯車43が第2方向DR2に回転する。
【0085】
つまり、駆動制御部72がモータ2を制御してモータ軸21を第2方向DR2に回転させることで、再度慣性トルクを上昇させるためのチャージ期間を確保することができ、再度慣性トルクにて作業対象を締め付けることができる。
【0086】
駆動制御部72は、タイミングT6以降、締付トルクが設定トルク以上となるまで、タイミングT0からタイミングT5までに行った制御を繰り返す。なお、図5の例において、タイミングT2からタイミングT3までの第1期間は、タイミングT7からタイミングT8までの第2期間より短い。第2期間は、タイミングT9からタイミングT10までの第3期間より短い。第1期間における締付トルクのピーク値は、第2期間における締付トルクのピーク値より小さい。また、第2期間における締付トルクのピーク値は、第3期間における締付トルクのピーク値より小さい。また、第1期間における締付トルクの積算値と、第2期間における締付トルクの積算値と、第3期間における締付トルクの積算値とは等しい。
【0087】
上述のように、実施形態1の工具1では、モータ2の動作時において、第1動作状態と第2動作状態と第3動作状態との3つの動作状態がある。第1動作状態は、図5中のタイミングT0とタイミングT1との間の期間のように、モータ軸21が第1方向DR1に回転し、かつ、出力軸5が回転しない(停止した)動作状態である。第2動作状態は、図5中のタイミングT1とタイミングT2との間の期間のように、モータ軸21と、遊星歯車機構4の各構成と、出力軸5とが一体的に、第1方向DR1に回転する動作状態である。第3動作状態は、図5中のタイミングT4とタイミングT5との間の期間のように、モータ軸21が第2方向DR2に回転し、かつ、内歯車43が第1方向DR1に回転する動作状態である。実施形態1の工具1による締付動作時において、工具1の動作状態は、第1動作状態から第2動作状態に移行し、第2動作状態から第3動作状態に移行し、第3動作状態から第1動作状態に移行する。
【0088】
(4)変形例
以下、実施形態1の変形例を列挙する。
【0089】
慣性体3は、複数のフィンを有していてもよい。例えば、複数のフィンは、慣性体3の後面に設けられる。慣性体3の後面に複数のフィンが設けられることにより、慣性体3はモータ2の冷却用のファンとしても機能する。モータ軸21が回転することにより慣性体3も回転し、慣性体3の回転に伴って複数のフィンからモータ2に向かって冷却風が発生する。
【0090】
実施形態1では、作業対象が相手部材に着座したことをトルク検出部71が検出したタイミング、又は、トルク検出部71が検出する締付トルクの大きさが規定値以上となったタイミングで、駆動制御部72がモータ2への電力供給を停止させる場合を説明した。ただし、駆動制御部72は、作業対象が相手部材に着座したことをトルク検出部71が検出したタイミング、又は、トルク検出部71が検出する締付トルクの大きさが規定値以上となったタイミングから所定時間が経過したタイミングで、モータ2への電力供給を停止させてもよい。例えば駆動制御部72は、作業対象が相手部材に着座したことをトルク検出部71が検出したタイミング、又は、トルク検出部71が検出する締付トルクの大きさが規定値以上となったタイミングの後、出力軸5の回転速度がゼロになるまでの間に、モータ2への電力供給を停止させてもよい。また、駆動制御部72は、トルク検出部71が検出する締付トルクとは無関係に、モータ軸21又は出力軸5の回転速度が規定値以上となったタイミングで、モータ2への電力供給を停止させてもよい。つまり、駆動制御部72は、例えば作業対象が相手部材に着座したことをトルク検出部71が検出する前のタイミングであっても、モータ軸21又は出力軸5の回転速度が規定値以上となったタイミングで、モータ2への電力供給を停止させてもよい。
【0091】
工具1がトルクセンサ14を備えることは必須ではない。工具1がトルクセンサ14を備えない場合、トルク検出部71は、モータ軸21の回転速度(又は回転数[rpm])に基づいて、作業対象が相手部材に着座したこと、又は、締付トルクの大きさが規定値以上となったことを検出してもよい。また、トルク検出部71は、作業対象が相手部材に着座したことをトルク検出部71が検出したタイミング、又は、トルク検出部71が検出する締付トルクの大きさが規定値以上となったタイミングからモータ軸21が停止するまでのモータ軸21の回転量(回転角度)に基づいて、締付トルクを求めてもよい。また、トルク検出部71は、モータ軸21の回転速度及び慣性体3の質量等に基づいてモータ軸21の出力軸5の慣性トルクを求めることで、締付トルクを求めてもよい。
【0092】
工具1は、電池パック11を動力源とする構成に限らず、交流電源(商用電源)を動力源とする構成であってもよい。また、工具1は、電動工具に限らず、動力源としてのエアコンプレッサから供給される圧縮空気(動力)で動作するエアモータ(駆動部)を有するエア工具であってもよい。
【0093】
(実施形態2)
図12に示すように、実施形態2に係る工具1は、遊星歯車機構4Aが多段構成である点で、実施形態1に係る工具1と相違する。
【0094】
(1)構成
図13及び図14に示すように、遊星歯車機構4Aは、軸受部材40と、第1太陽歯車41Aと、複数(図13の例では5つ)の第1遊星歯車42Aと、第2太陽歯車41Bと、複数(図13の例では5つ)の第2遊星歯車42Bと、内歯車43と、キャリア部材44と、を備える。
【0095】
なお、第1太陽歯車41Aの形状及び第2太陽歯車41Bの形状は、実施形態1で説明した太陽歯車41の形状と同じであるため、第1太陽歯車41Aの形状及び第2太陽歯車41Bの形状についての説明は省略する。また、第1遊星歯車42Aの形状及び第2遊星歯車42Bの形状は、実施形態1で説明した遊星歯車42の形状と同じであるため、第1遊星歯車42Aの形状及び第2遊星歯車42Bの形状についての説明は省略する。
【0096】
第2太陽歯車41Bは、前後方向において第1太陽歯車41Aとモータ2との間に配置されている。第2太陽歯車41Bは、モータ軸21(伝達体)に固定され、モータ軸21の回転に応じて回転する外歯車である。具体的には、第2太陽歯車41Bの突出部412が、モータ軸21の凹部211に嵌め合わされることで、第2太陽歯車41Bはモータ軸21に固定される。
【0097】
複数の第2遊星歯車42Bは、第2太陽歯車41Bの周囲に配置されている。複数の第2遊星歯車42Bは、第2太陽歯車41Bを中心とした円周上において、等間隔で配置されている。第2遊星歯車42Bは、外歯車である。複数の第2遊星歯車42Bの各々は、第2太陽歯車41B及び内歯車43と噛み合っている。複数の第2遊星歯車42Bは、前後方向において複数の第1遊星歯車42Aとモータ2との間に配置されている。具体的には、複数の第2遊星歯車42Bは、複数の第1遊星歯車42Aの後方に配置されるキャリア部材44と、モータ2の前方に配置される軸受部材40との間に配置されている。より具体的には、複数の第2遊星歯車42Bは、軸受部材40の前方かつキャリア部材44の後方に配置されている。第2遊星歯車42Bの貫通孔422(図13参照)には、軸421が通される。第2遊星歯車42Bは、軸421を中心として、軸421の周りを回転可能である。言い換えると、第2遊星歯車42Bは、軸421を中心として、軸421の周りを自転可能である。なお、第2遊星歯車42Bの軸421は、軸受を介するように貫通孔422に通されてもよい。
【0098】
第2遊星歯車42Bの軸421は、キャリア部材44及び軸受部材40に支持される。より具体的には、第2遊星歯車42Bの軸421の第1端(前端)は、キャリア部材44に形成されている第1貫通孔441に挿入される。また、第2遊星歯車42Bの軸421の第2端(後端)は、軸受部材40の貫通孔401に挿入される。
【0099】
キャリア部材44は、前後方向において、複数の第1遊星歯車42Aと複数の第2遊星歯車42Bとの間に配置されている。キャリア部材44は、複数の第2遊星歯車42Bの軸421を支持する部材であり、複数の第2遊星歯車42Bの遊星キャリアとして機能する。また、キャリア部材44は、トルクを他の部材に伝達する伝達体として機能する。
【0100】
キャリア部材44は、厚さ方向が前後方向に沿った円盤状に形成されている。キャリア部材44は、前後方向から見てキャリア部材44と第2太陽歯車41Bとが同心となるように配置されている。キャリア部材44には、複数(図14の例では5つ)の第1貫通孔441が形成されている。複数の第1貫通孔441は、回転軸Ax1を中心とした円周上において、等間隔で配置されている。複数の第1貫通孔441は、前後方向に沿ってキャリア部材44を貫通している。複数の第1貫通孔441の各々には、第2遊星歯車42Bの軸421の前端が挿入される。
【0101】
キャリア部材44の中央部には、第1太陽歯車41Aの突出部412が嵌め合わされる第2貫通孔442が形成されている。第2貫通孔442は、前後方向に沿ってキャリア部材44を貫通している。第2貫通孔442の縁の形状は、前後方向から見て、頂点が丸みを有する三角形状に形成されている。なお、キャリア部材44は、モータ軸21から伝達されるトルクを第1太陽歯車41Aに伝達する伝達体として機能する。
【0102】
第1太陽歯車41Aは、キャリア部材44に固定され、キャリア部材44の回転に応じて回転する外歯車である。具体的には、第1太陽歯車41Aの突出部412が、キャリア部材44の第2貫通孔442に嵌め合わされることで、第1太陽歯車41Aはキャリア部材44に固定される。第1太陽歯車41Aの貫通孔413には、軸411が通される。第1太陽歯車41Aは、軸411を中心として、軸411の周りを回転可能である。なお、第1太陽歯車41Aの軸411は、軸受を介するように貫通孔413に通されてもよい。
【0103】
複数の第1遊星歯車42Aは、第1太陽歯車41Aの周囲に配置されている。複数の第1遊星歯車42Aは、第1太陽歯車41Aの軸411を中心とした円周上において、等間隔で配置されている。第1遊星歯車42Aは、外歯車である。複数の第1遊星歯車42Aの各々は、第1太陽歯車41A及び内歯車43と噛み合っている。また、前後方向において、複数の第1遊星歯車42Aは、出力軸5のキャリア部521とキャリア部材44との間に配置されている。具体的には、複数の第1遊星歯車42Aは、キャリア部材44の前方かつ出力軸5のキャリア部521の後方に配置されている。第1遊星歯車42Aの貫通孔422(図13参照)には、軸421が通される。第1遊星歯車42Aは、軸421を中心として、軸421の周りを回転可能である。言い換えると、第1遊星歯車42Aは、軸421を中心として、軸421の周りを自転可能である。なお、第1遊星歯車42Aの軸421は、軸受を介するように貫通孔422に通されてもよい。
【0104】
第1遊星歯車42Aの軸421は、出力軸5のキャリア部521に支持される。より具体的には、第1遊星歯車42Aの軸421の第1端(前端)は、キャリア部521に形成されている貫通孔524に挿入される。また、第1遊星歯車42Aの軸421の第2端(後端)は、キャリア部材44の前方に位置しており、キャリア部材44によって支持されていない。
【0105】
複数の第1遊星歯車42Aは、実施形態1の複数の遊星歯車42と同様に機能する。つまり、複数の第1遊星歯車42Aの公転に応じて、出力軸5が回転する。
【0106】
内歯車43は、複数の第1遊星歯車42A及び複数の第2遊星歯車42Bの周囲に配置されている。内歯車43は、複数の第1遊星歯車42A及び複数の第2遊星歯車42Bと噛み合っている。
【0107】
(2)工具の動作
次に、工具1Aの動作について説明する。
【0108】
例えば図5中のタイミングT0にて、作業者は、例えば先端工具の先端をねじ等の作業対象に接触させた状態で、トリガスイッチ12を例えば最大まで引く。ここで、タイミングT0の時点では、図7に示すように内歯車43の第1係合部432と出力軸5の第2係合部522とが、内歯車43の回転方向において一定以上離間している場合を想定する。駆動制御部72は、トリガスイッチ12が引かれると、モータ軸21を第1方向DR1(図6等参照)に回転させる。以下の説明では、作業者は、作業対象の締付動作が完了するまで、トリガスイッチ12を最大まで引いた状態を維持すると想定する。なお、トリガスイッチ12は、作業者によって操作されていない状態でも、最大まで引かれた状態を維持する所謂オルタネイト動作を行ってもよい。
【0109】
モータ軸21が回転すると、モータ軸21に固定された第2太陽歯車41Bもモータ軸21と一体的に回転する。つまり、第2太陽歯車41Bは、モータ軸21と同じ回転速度(又は回転数[rpm])で、第1方向DR1に回転する。また、第2太陽歯車41Bと噛み合っている複数の第2遊星歯車42Bは、第2太陽歯車41Bが回転することによって、各々の軸421を中心に、第2方向DR2に回転(自転)する。
【0110】
また、複数の第2遊星歯車42Bは、第2太陽歯車41Bを中心として、第1方向DR1に回転(公転)する。複数の第2遊星歯車42Bの軸421の前端が連結されているキャリア部材44は、複数の第2遊星歯車42Bが公転するのに伴って、第1方向DR1に回転する。
【0111】
キャリア部材44の回転速度は、第2太陽歯車41Bの回転速度に下記の式(1)で求まる値を乗じた値となる。
【0112】
a2/(Za2+Z) (1)
ここで、式(1)中のZa2は第2太陽歯車41Bの歯数であり、Zは内歯車43の歯数である。なお、内歯車43の歯数は第2太陽歯車41Bの歯数より多い。
【0113】
キャリア部材44に固定されている第1太陽歯車41Aは、キャリア部材44と一体的に、第1方向DR1に回転する。
【0114】
第1太陽歯車41Aと噛み合っている複数の第1遊星歯車42Aは、第1太陽歯車41Aが回転することによって、各々の軸421を中心に、第2方向DR2に回転(自転)する。
【0115】
ここで、複数の第1遊星歯車42Aの各々の軸421は、出力軸5の第2部分52のキャリア部521と連結されている。出力軸5に取り付けられた先端工具は作業対象に接触した状態であるため、出力軸5には回転を抑制する力がかかる。つまり、複数の第1遊星歯車42Aの遊星キャリアとして機能するキャリア部521の回転が抑制される。言い換えると、複数の第1遊星歯車42Aが第1太陽歯車41Aを中心として回転する公転が抑制される。したがって、複数の第1遊星歯車42Aは、第1太陽歯車41Aに対する位置が固定されたまま、軸421を中心として第2方向DR2に回転する。
【0116】
複数の第1遊星歯車42A及び複数の第2遊星歯車42Bの周囲に配置され、複数の第1遊星歯車42Aの各々及び複数の第2遊星歯車42Bの各々と噛み合っている内歯車43は、複数の第1遊星歯車42Aが自転することにより、第2方向DR2に回転する。
【0117】
内歯車43の回転速度の絶対値は、第2太陽歯車41Bの回転速度の絶対値に下記の式(2)で求まる値を乗じた値となる。
【0118】
1/{(Za2+Z)/Za2×Z/Za1+Z/Za2} (2)
ここで、式(2)中のZa2は、第1太陽歯車41Aの歯数である。
【0119】
図7に示すように、内歯車43が第2方向DR2に回転することで、内歯車43の第1係合部432は、回転方向の先にある第2係合部522に近付いていく。多段構成である実施形態2の遊星歯車機構4Aは、1段構成である実施形態1の遊星歯車機構4より減速比が大きい。つまり、実施形態2の工具1Aでは、実施形態1の工具1と比べて、第1動作状態で動作する期間が長い。したがって、実施形態2の工具1Aによれば、内歯車43の第1係合部432の側面が出力軸5の第2係合部522の側面と接触するまでのチャージ期間を長くすることができ、モータ軸21の慣性トルクをより確実に一定値以上とすることができる。
【0120】
第2方向DR2に回転する複数の第1係合部432の各々の側面が、複数の第2係合部522の各々の側面と係合すると、出力軸5は第2方向DR2に回転しようとする。複数の第1遊星歯車42Aの軸421は出力軸5のキャリア部521に連結されているため、複数の第1遊星歯車42Aは、第1太陽歯車41Aを中心として第2方向DR2に回転(公転)しようとする。複数の第1遊星歯車42Aが第2方向DR2に公転しようとした場合、複数の第1遊星歯車42Aの各々には、軸421を中心として第1方向DR1に回転(自転)しようとする力が働く。一方、複数の第1遊星歯車42Aの各々には、第1方向DR1に回転する第1太陽歯車41Aから、第2方向DR2に自転する力が働いている。第1方向DR1に自転しようとする力と第2方向DR2に自転する力とは、ともに第1太陽歯車41Aの第1方向DR1への回転によって発生する力であるため、第1方向DR1に自転しようとする力と第2方向DR2に自転する力とは拮抗する。したがって、複数の第1遊星歯車42Aの各々は、軸421を中心とした回転を停止する。これにより、内歯車43も第2方向DR2の回転を停止し、複数の第2遊星歯車42Bも自転及び公転を停止する。
【0121】
つまり、内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とが係合すると、内歯車43と、複数の第1遊星歯車42Aと、複数の第2遊星歯車42Bと、第1太陽歯車41Aと、第2太陽歯車41Bと、が互いに対して回転を停止する。言い換えると、内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とが係合することで、内歯車43と、複数の第1遊星歯車42Aと、複数の第2遊星歯車42Bと、第1太陽歯車41Aと、第2太陽歯車41Bと、軸受部材40と、キャリア部材44と、出力軸5と、が互いに固定される。そして、内歯車43と、複数の第1遊星歯車42Aと、複数の第2遊星歯車42Bと、第1太陽歯車41Aと、第2太陽歯車41Bと、軸受部材40と、キャリア部材44と、出力軸5と、が一体となって、回転軸Ax1を中心として第1方向DR1に回転する。したがって、内歯車43の第1係合部432と、出力軸5の第2係合部522とが係合するタイミングにて、出力軸5の回転速度は、モータ軸21の回転速度と同じになる。出力軸5が回転することで、作業対象が締め付けられる。
【0122】
なお、実施形態1の工具1と同様に、工具1Aの動作状態には、実施形態1で説明した第1動作状態と、第2動作状態と、第3動作状態との3つの動作状態がある。
【0123】
(3)変形例
図15に示すように、工具1Aは、内歯車43に代えて第1内歯車43A及び第2内歯車43Bを備えていてもよい。つまり、工具1Aは、複数の内歯車を備えていてもよい。
【0124】
第1内歯車43Aは、複数の第1遊星歯車42Aの周囲に配置されている。第1内歯車43Aは、複数の第1遊星歯車42Aと噛み合っている。第1内歯車43Aは、回転可能な状態でハウジング10に支持されている。例えば、第1内歯車43Aは、ボールベアリング等のベアリングを介して、ハウジング10に支持される。前後方向における第1内歯車43Aの長さは、実施形態2の内歯車43の長さより短い。
【0125】
第1内歯車43Aは、本体部431Aと、複数(図15の例では2つ)の第1係合部432と、複数(図15の例では2つ)の第3係合部433と、を有する。
【0126】
本体部431Aは、軸方向が前後方向に沿った円環状に形成されており、本体部431Aの内周面には複数の歯が設けられている。なお、本体部431Aの歯数は、第1太陽歯車41Aの歯数より多い。本体部431Aは、前後方向から見て、本体部431Aと第1太陽歯車41Aとが同心となるように配置されている。なお、本体部431Aは、軸方向(厚さ方向)が前後方向に沿った円筒状に形成されていてもよい。
【0127】
複数の第1係合部432は、本体部431Aの前端(前面)から前方に突出している。複数の第1係合部432は、第1内歯車43Aの回転に応じて、出力軸5の第2係合部522と接触(係合)する。
【0128】
複数の第3係合部433は、本体部431Aの後端(後面)から後方に突出している。複数の第3係合部433は、本体部431Aの円環状の後端の一部に亘って形成されており、本体部431Aの後端の曲率に応じて曲がっている直方体状に形成されている。変形例の2つの第3係合部433は、前後方向に直交する方向において対向するように配置されている。より具体的には、2つの第3係合部433は、出力軸5の回転軸Ax1を挟むように対向している。
【0129】
第2内歯車43Bは、複数の第2遊星歯車42Bの周囲に配置されている。第2内歯車43Bは、複数の第2遊星歯車42Bと噛み合っている。第2内歯車43Bは、回転可能な状態でハウジング10に支持されている。例えば、第2内歯車43Bは、ボールベアリング等のベアリングを介して、ハウジング10に支持される。前後方向における第2内歯車43Bの長さは、実施形態2の内歯車43の長さより短い。
【0130】
第2内歯車43Bは、本体部431Bと、複数(図15の例では2つ)の第4係合部434と、を有する。
【0131】
本体部431Bは、軸方向が前後方向に沿った円環状に形成されており、本体部431Bの内周面には複数の歯が設けられている。なお、本体部431Bの歯数は、第2太陽歯車41Bの歯数より多い。本体部431Bは、前後方向から見て、本体部431Bと第2太陽歯車41Bとが同心となるように配置されている。なお、本体部431Bは、軸方向(厚さ方向)が前後方向に沿った円筒状に形成されていてもよい。
【0132】
複数の第4係合部434は、本体部431Bの前端(前面)から前方に突出している。第4係合部434は、第1内歯車43Aの第3係合部433に対して、回転方向に沿って相対移動可能である。第4係合部434は、第2内歯車43Bの回転に応じて、第1内歯車43Aの第3係合部433と接触(係合)する。具体的には、第4係合部434の側面と第3係合部433の側面とが接触する。
【0133】
変形例の工具1Aによれば、第1内歯車43A及び第2内歯車43Bが実施形態2の内歯車43より短いため、製造が容易になるという利点がある。
【0134】
また、変形例の工具1Aの第1動作状態は、第1内歯車43Aの第1係合部432が出力軸5の第2係合部522と接触した後も、第1内歯車43Aの第3係合部433と第2内歯車43Bの第4係合部434とが係合するまで続く。したがって、変形例の工具1Aによれば、第1動作状態の期間(チャージ期間)をより長くすることができるため、モータ軸21の慣性トルクをより確実に一定値以上とすることができる。
【0135】
実施形態2及び実施形態2の変形例では、遊星歯車機構4Aが2段構成である場合を例示したが、遊星歯車機構4Aは3段構成以上の多段構成であってもよい。遊星歯車機構4Aを3段構成以上の多段構成とすることで、第1動作状態の期間(チャージ期間)をより長くすることができる。なお、遊星歯車機構4Aが有する内歯車の数は、遊星歯車機構4Aの段数に依らずに1つであってもよいし、遊星歯車機構4Aの段数と等しい数であってもよい。
【0136】
(まとめ)
以上述べた実施形態から明らかなように、第1の態様に係る工具(1)は、モータ(2)と、太陽歯車(41)と、複数の遊星歯車(42)と、内歯車(43)と、出力軸(5)と、を備える。モータ(2)は、トルクを他の部材に伝達する伝達体(モータ軸21)を回転させる。太陽歯車(41)は、伝達体に固定され、伝達体の回転に応じて回転する。複数の遊星歯車(42)は、太陽歯車(41)の周囲に配置されている。複数の遊星歯車(42)は、太陽歯車(41)と噛み合う。内歯車(43)は、複数の遊星歯車(42)を囲うように配置されている。内歯車(43)は、複数の遊星歯車(42)と噛み合い、回転可能な状態で保持される。出力軸(5)は、複数の遊星歯車(42)の公転に応じて回転する。出力軸(5)は、第1部分(51)と、第2部分(52)と、を有する。第1部分(51)には、先端工具が取り付けられる。第2部分(52)は、複数の遊星歯車(42)の遊星キャリアとして機能する。内歯車(43)は、第1係合部(432)を有する。出力軸(5)の第2部分(52)は、第2係合部(522)を有する。内歯車(43)の第1係合部(432)と、第2部分(52)の第2係合部(522)とは、伝達体の回転方向に沿って相対移動可能であり、内歯車(43)の回転に応じて接触する。
【0137】
この態様によれば、動作時における音の発生を抑制することができる。
【0138】
第2の態様に係る工具(1)では、第1の態様において、内歯車(43)は、先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、内歯車(43)の第1係合部(432)と第2部分(52)の第2係合部(522)とが接触していないときに、伝達体(モータ軸21)と逆方向に回転する。内歯車(43)と、出力軸(5)とは、先端工具が作業対象に接触しているとき、かつ、内歯車(43)の第1係合部(432)と第2部分(52)の第2係合部(522)とが接触しているときに、伝達体と一体的に回転する。
【0139】
第3の態様に係る工具(1)は、第1又は第2の態様において、制御部(駆動制御部72)を更に備える。制御部は、モータ(2)を制御する。制御部は、モータ(2)を制御して伝達体(モータ軸21)を第1方向に回転させる。制御部は、内歯車(43)と出力軸(5)との一体的な回転が止まった後に、モータ(2)を制御して伝達体を第1方向とは逆方向の第2方向に所定時間又は所定角度回転させる。制御部は、伝達体を第2方向に所定時間又は所定角度回転させた後に、モータ(2)を制御して伝達体を第1方向に回転させる。
【0140】
この態様によれば、伝達体(モータ軸21)の慣性トルクを上昇させるための期間を確保することができ、再度慣性トルクにて作業対象を締め付けることができる。
【0141】
第4の態様に係る工具(1)では、第1から第3のいずれかの態様において、内歯車(43)は本体部(431)を更に有する。本体部(431)は、円環状又は円筒状に形成されている。本体部(431)は、内周面に複数の歯が設けられている。出力軸(5)の第2部分(52)は、キャリア部(521)を更に有する。キャリア部(521)は、複数の遊星歯車(42)の各々の軸と連結されている。内歯車(43)の第1係合部(432)は、出力軸(5)の回転軸(Ax1)に沿って、本体部(431)から突出している。第2部分(52)の第2係合部(522)は、回転軸(Ax1)と直交する方向に沿って、キャリア部(521)から突出している。
【0142】
この態様によれば、第1係合部(432)及び第2係合部(522)が互いに直交する方向に突出しているため、例えば同一方向に突出している場合と比べて工具(1)をコンパクトにすることができる。
【0143】
第5の態様に係る工具(1A)は、第1から第4のいずれか1つの態様において、第2太陽歯車(41B)と、複数の第2遊星歯車(42B)と、キャリア部材(44)と、を更に備える。第2太陽歯車(41B)は、上記太陽歯車(41)としての第1太陽歯車(41A)とは別の太陽歯車である。複数の第2遊星歯車(42B)は、上記複数の遊星歯車(42)としての複数の第1遊星歯車(42A)とは別の複数の遊星歯車である。キャリア部材(44)は、複数の第1遊星歯車(42A)と複数の第2遊星歯車(42B)との間に配置される。キャリア部材(44)は、複数の第2遊星歯車(42B)の遊星キャリアとして機能する。キャリア部材(44)は、上記伝達体として機能する。第2太陽歯車(41B)は、第1太陽歯車(41A)とモータ(2)との間に配置されている。第2太陽歯車(41B)は、キャリア部材(44)とは別の伝達体(モータ軸21)に固定されている。複数の第2遊星歯車(42B)は、複数の第1遊星歯車(42A)とモータ(2)との間に配置されている。複数の第2遊星歯車(42B)は、第2太陽歯車(41B)の周囲に配置され、第2太陽歯車(41B)と噛み合う。内歯車(43)は、複数の第1遊星歯車(42A)及び複数の第2遊星歯車(42B)の周囲に配置されている。内歯車(43)は、複数の第1遊星歯車(42A)及び複数の第2遊星歯車(42B)と噛み合う。
【0144】
この態様によれば、内歯車(43)の第1係合部(432)が出力軸(5)の第2係合部(522)と接触するまでの期間を長くすることができ、伝達体(モータ軸21)の慣性トルクをより確実に一定値以上とすることができる。
【0145】
第6の態様に係る工具(1)は、第1から第5のいずれか1つの態様において、慣性体(3)を更に備える。慣性体(3)は、モータ(2)と太陽歯車(41)との間に配置されている。慣性体(3)は、伝達体(モータ軸21)と一体的に回転する。
【0146】
この態様によれば、伝達体の慣性トルクを大きくすることができる。
【0147】
第1の態様以外の構成については、工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 工具
2 モータ
3 慣性体
21 モータ軸(伝達体)
41 太陽歯車
41A 第1太陽歯車
41B 第2太陽歯車
42 遊星歯車
42A 第1遊星歯車
42B 第2遊星歯車
43 内歯車
431 本体部
432 第1係合部
44 キャリア部材(伝達体)
5 出力軸
51 第1部分
52 第2部分
521 キャリア部
522 第2係合部
72 駆動制御部(制御部)
Ax1 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15