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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151976
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20241018BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20241018BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20241018BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241018BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/442 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/08 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065835
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤川 真也
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202BB01
3D202BB11
3D202CC87
3D202DD01
3D202DD05
3D202DD07
3D202DD18
3D202DD24
3D202DD39
3D202DD40
3D202DD42
3D202FF06
3D202FF12
(57)【要約】
【課題】ドライバビリティを損なうことなく、クラッチの発熱を抑制でき、クラッチの耐久性を向上させることができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】HCUは、クラッチが半係合状態かつ高温状態の場合(ステップS1でYES)、クラッチ発熱量低減制御を開始する(ステップS2)。HCUは、クラッチ発熱量低減制御において、ドライバのドライバ要求トルクの値を、駆動輪に要求される車軸要求トルクとして設定する。HCUは、エンジンからクラッチを介して変速機構に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するようにエンジントルクを低下させ(ステップS7)、かつ、クラッチ伝達トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させる(ステップS6)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンから伝達された回転を変速して駆動輪に出力する変速機構と、前記エンジンと前記変速機構との間に設けられたクラッチと、前記変速機構と前記駆動輪との間に動力を出力するモータと、を備え、前記エンジンのエンジントルクと前記モータのモータトルクとの少なくとも何れか一方によって走行する車両において、
前記エンジン、前記モータおよび前記クラッチを制御する制御部を備える車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記クラッチが半係合状態かつ高温状態の場合、
ドライバのドライバ要求トルクの値を、前記駆動輪に要求される車軸要求トルクとして設定し、
前記エンジンから前記クラッチを介して前記変速機構に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するように前記エンジントルクを低下させ、かつ、前記クラッチ伝達トルクの低下分を補って前記車軸要求トルクを満たすように前記モータトルクを増加させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車軸要求トルクを満たすように前記モータトルクを増加させることができない場合、前記ドライバ要求トルクに対する前記モータトルクの不足分が前記クラッチ伝達トルクにより補われるように前記エンジントルクを増加させることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記クラッチを係合しても前記エンジンがエンジンストールしない車速まで加速可能なトルクの値を、前記車軸要求トルクとして設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車軸要求トルクは、アクセル操作およびブレーキ操作がされていない状況におけるクリープトルクであることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリーズ・パラレルハイブリッド車において、クラッチの滑りまたは過熱などの異常を検出した場合に、クラッチによる機械的駆動力伝達の負担を軽減するため、クラッチを切断状態にしてモータにより車輪を機械的に駆動または制動するシリーズモードの制御を実行するようにした技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-332009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、十分に大きな駆動力を出力可能な大型のモータを備えている場合に限って実現できるが、エンジンの補助を目的とした小出力のモータを備える車両においては、モータトルクによってドライバ要求トルクを満たすことができず、ドライバビリティを損なってしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、ドライバビリティを損なうことなく、クラッチの過熱を抑制でき、クラッチの耐久性を向上させることができる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、エンジンと、前記エンジンから伝達された回転を変速して駆動輪に出力する変速機構と、前記エンジンと前記変速機構との間に設けられたクラッチと、前記変速機構と前記駆動輪との間に動力を出力するモータと、を備え、前記エンジンのエンジントルクと前記モータのモータトルクとの少なくとも何れか一方によって走行する車両において、前記エンジン、前記モータおよび前記クラッチを制御する制御部を備える車両の制御装置であって、前記制御部は、前記クラッチが半係合状態かつ高温状態の場合、ドライバのドライバ要求トルクの値を、前記駆動輪に要求される車軸要求トルクとして設定し、前記エンジンから前記クラッチを介して前記変速機構に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するように前記エンジントルクを低下させ、かつ、前記クラッチ伝達トルクの低下分を補って前記車軸要求トルクを満たすように前記モータトルクを増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明によれば、ドライバビリティを損なうことなく、クラッチの過熱を抑制でき、クラッチの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置を備えるハイブリッド車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による動作の手順を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置を備えるハイブリッド車両の車両状態の推移を示すタイミングチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置によるトルク配分の手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジンと、エンジンから伝達された回転を変速して駆動輪に出力する変速機構と、エンジンと変速機構との間に設けられたクラッチと、変速機構と駆動輪との間に動力を出力するモータと、を備え、エンジンのエンジントルクとモータのモータトルクとの少なくとも何れか一方によって走行する車両において、エンジン、モータおよびクラッチを制御する制御部を備える車両の制御装置であって、制御部は、クラッチが半係合状態かつ高温状態の場合、ドライバのドライバ要求トルクの値を、駆動輪に要求される車軸要求トルクとして設定し、エンジンからクラッチを介して変速機構に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するようにエンジントルクを低下させ、かつ、クラッチ伝達トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、ドライバビリティを損なうことなく、クラッチの発熱を抑制でき、クラッチの耐久性を向上させることができる。
【実施例0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係るエンジン制御装置を搭載したハイブリッド車両について詳細に説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両1は、エンジン2と、自動変速機3と、モータジェネレータ4と、駆動輪5と、ハイブリッド車両1を総合的に制御する制御部としてのHCU(Hybrid Control Unit)10と、エンジン2を制御するECM(Engine Control Module)11と、自動変速機3を制御するTCM(Transmission Control Module)12と、ISGCM(Integrated Starter Generator Control Module)13と、INVCM(Invertor Control Module)14と、BMS(Battery Management System)16とを含んで構成される。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0013】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20と、スタータ21とが連結されている。ISG20は、ベルト22などを介してエンジン2のクランクシャフト18に連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフト18から入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0014】
本実施例では、ISG20は、ISGCM13の制御により、電動機として機能することで、エンジン2をアイドリングストップ機能による停止状態から再始動させるようになっている。ISG20は、電動機として機能することで、ハイブリッド車両1の走行をアシストすることもできる。
【0015】
スタータ21は、図示しないモータとピニオンギヤとを含んで構成されている。スタータ21は、モータを回転させることにより、クランクシャフト18を回転させて、エンジン2に始動時の回転力を与えるようになっている。このように、エンジン2は、スタータ21によって始動され、アイドリングストップ機能による停止状態からISG20によって再始動される。
【0016】
自動変速機3は、エンジン2から出力された回転を変速し、ドライブシャフト23を介して駆動輪5を駆動するようになっている。自動変速機3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の変速機構25と、乾式クラッチによって構成されるクラッチ26と、ディファレンシャル機構27と、図示しないアクチュエータとを備えている。クラッチ26は、エンジン2と変速機構25との間に設けられている。変速機構25は、クラッチ26を介してエンジン2から伝達された回転を変速してディファレンシャル機構27に出力する。
【0017】
自動変速機3は、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)として構成されており、TCM12により制御されるアクチュエータにより変速機構25におけるギヤ段の切換えとクラッチ26の係合(接続)及び解放(切断)が行なわれるようになっている。本実施例では、自動変速機3のクラッチ26は、アクチュエータが作動してないとき、またはアクチュエータが故障により作動できないときに、その時の状態(係合度)を維持するノーマリーストップタイプのクラッチからなる。ディファレンシャル機構27は、変速機構25あるいはモータジェネレータ4から入力される動力をドライブシャフト23に伝達するようになっている。
【0018】
モータジェネレータ4は、ディファレンシャル機構27に対して、チェーン28等の駆動力伝達部材を介して連結されている。モータジェネレータ4は、変速機構25と駆動輪5との間に動力を出力する。具体的には、モータジェネレータ4は、変速機構25とディファレンシャル機構27との間に動力を出力する。モータジェネレータ4は、電動機および発電機として機能する。
【0019】
このように、ハイブリッド車両1は、エンジン2とモータジェネレータ4の両方の動力を車両の駆動に用いることが可能なパラレルハイブリッドシステムを構成しており、エンジン2及びモータジェネレータ4の少なくとも一方が出力する動力により走行するようになっている。
【0020】
ハイブリッド車両1は、HEV走行と、EV走行とが可能である。HEV走行は、エンジン2を稼働(運転)し、少なくともエンジン2のエンジントルクを用いて走行する走行状態である。HEV走行には、エンジントルクのみ、またはエンジントルクとモータジェネレータ4のモータトルクとの両方により走行する状態がある。EV走行は、エンジン2を停止してモータトルクによって走行する走行状態である。
【0021】
モータジェネレータ4は、発電機としても機能し、ハイブリッド車両1の走行によって発電を行なうようになっている。なお、モータジェネレータ4は、変速機構25から駆動輪5までの動力伝達経路の何れかの箇所に動力伝達可能に連結されていればよく、必ずしもディファレンシャル機構27に連結される必要はない。つまり、モータジェネレータ4は、変速機構25を介さずに駆動輪5に動力を伝達可能に連結されている。
【0022】
ハイブリッド車両1は、第1蓄電装置30と、蓄電部としての第2蓄電装置33を含む高電圧パワーパック34と、高電圧ケーブル35と、低電圧ケーブル36とを備えている。
【0023】
第1蓄電装置30、第2蓄電装置33は、充電可能な二次電池から構成されている。第1蓄電装置30は鉛電池からなる。
【0024】
第1蓄電装置30は、約12Vの出力電圧を発生するようにセルの個数等が設定された低電圧バッテリである。第1蓄電装置30の残容量や温度、充放電電流などの状態は、HCU10によって管理される。
【0025】
第2蓄電装置33は、第1蓄電装置30より高電圧を発生するようにセルの個数等が設定された高電圧バッテリであり、例えば、100Vの出力電圧を発生させる。第2蓄電装置33は、例えば、リチウムイオン電池からなる。第2蓄電装置33の蓄電量や温度、充放電電流などの状態は、BMS16によって管理される。
【0026】
ハイブリッド車両1には、電気負荷としての一般負荷37が設けられている。一般負荷37は、スタータ21及びISG20以外の電気負荷である。
【0027】
一般負荷37は、安定した電力供給が要求されず、一時的に使用される電気負荷である。一般負荷37には、例えば、図示しないワイパー、及び、エンジン2に冷却風を送風する電動クーリングファンが含まれる。
【0028】
第1蓄電装置30は、低電圧ケーブル36を介して、スタータ21と、ISG20と、電気負荷としての一般負荷37とに電力を供給可能に接続されている。
【0029】
このように、第1蓄電装置30は、エンジン2を始動する始動装置としてのスタータ21及びISG20に少なくとも電力を供給するようになっている。
【0030】
高電圧パワーパック34は、第2蓄電装置33に加えて、インバータ45と、INVCM14と、BMS16とを有している。高電圧パワーパック34は、高電圧ケーブル35を介して、モータジェネレータ4に電力を供給可能に接続されている。
【0031】
インバータ45は、INVCM14の制御により、高電圧ケーブル35にかかる交流電力と、第2蓄電装置33にかかる直流電力とを相互に変換するようになっている。例えば、INVCM14は、モータジェネレータ4を力行させるときには、第2蓄電装置33が放電した直流電力をインバータ45により交流電力に変換させてモータジェネレータ4に供給する。
【0032】
INVCM14は、モータジェネレータ4を回生させるときには、モータジェネレータ4が発電した交流電力をインバータ45により直流電力に変換させて第2蓄電装置33に充電する。
【0033】
HCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14及びBMS16は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0034】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14及びBMS16としてそれぞれ機能させるためのプログラムが格納されている。
【0035】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14及びBMS16としてそれぞれ機能する。
【0036】
ハイブリッド車両1には、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)を形成するためのCAN通信線48、49が設けられている。
【0037】
HCU10は、INVCM14及びBMS16にCAN通信線48によって接続されている。HCU10、INVCM14及びBMS16は、CAN通信線48を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行なう。
【0038】
HCU10は、ECM11、TCM12及びISGCM13にCAN通信線49によって接続されている。HCU10、ECM11、TCM12及びISGCM13は、CAN通信線49を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行なう。
【0039】
HCU10の入力ポートには、車速センサ51、アクセル開度センサ52、シフトポジションセンサ53等の各種センサ類が接続されている。
【0040】
車速センサ51は、ドライブシャフト23の回転速度などからハイブリッド車両1の速度を検出する。アクセル開度センサ52は、図示しないアクセルペダルの操作量をアクセル開度として検出する。
【0041】
シフトポジションセンサ53は、運転者による図示しないシフトレバーの操作により選択されたシフト位置を検出する。シフト位置は、例えば、前進走行レンジ(Dレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、停車レンジ(Nレンジ)、駐車レンジ(Pレンジ)のいずれかが選択される。ここで、Dレンジ、Rレンジを走行レンジとし、Nレンジ、Pレンジを非走行レンジとする。さらに、シフトポジションセンサ53は、変速機構25のギヤ段の達成状態を検出する。
【0042】
HCU10は、運転者により選択されたシフト位置に応じて、TCM12により自動変速機3の変速機構25のギヤ段を制御する。詳しくは、HCU10は、図示しない変速用のアクチュエータを稼働させ、シフト位置がDレンジである場合、車速やドライバ要求トルク等に応じた前進用の何れかのギヤ段へ変速機構25のギヤ段を切替え、シフト位置がRレンジである場合、変速機構25を後進用のギヤ段へ切替える。また、HCU10は、シフト位置がNレンジである場合、変速機構25をニュートラルに切替え、シフト位置がPレンジである場合、変速機構25をパーキング状態に切替える。ここで、変速機構25におけるニュートラルとは、変速機構25の図示しない全ての変速用スリーブが非係合状態となって変速機構25の入力軸と出力軸の間の動力伝達が遮断された状態である。変速機構25がニュートラルのときは、連れ回る入力軸の回転が抑えられて変速機構25における摩擦が減少し、動力伝達ロスが抑制される。
【0043】
本実施例において、ECM11は、EV制御中にエンジン2を停止させるだけでなく、アイドリングストップ制御を実行するようになっている。このアイドリングストップ制御において、ECM11は、所定の一時停止条件の成立時にエンジン2を停止させ、所定の再始動条件の成立時にISGCM13を介してISG20を駆動してエンジン2を再始動させるようになっている。このため、エンジン2の不要なアイドリングが行なわれなくなり、ハイブリッド車両1の燃費を向上させることができる。
【0044】
アイドリングストップ制御におけるエンジン2の一時停止条件としては、例えば、少なくとも、アクセル踏込量が所定量未満であること、エンジン2を再始動させるための第1蓄電装置30の電力が所定量以上であること、シフト位置としてDレンジまたは非走行レンジが選択されていること、が成立していることである。
【0045】
HCU10は、車軸要求トルクをエンジントルクとモータトルクとにより満たすように、エンジン2およびモータジェネレータ4を制御する。車軸要求トルクとは、駆動輪5に要求されるトルク、つまり、駆動輪5が変速機構25から受け取って出力すべきトルクである。言い換えれば、HCU10は、エンジントルクとモータトルクとの和が車軸要求トルクと等しくなるようにトルクの配分を設定し、設定したエンジントルクをエンジン2に発生させ、設定したモータトルクをモータジェネレータ4に発生させる。また、HCU10は、通常時は、ドライバのアクセルペダルの操作量(アクセル開度)に基づくドライバ要求トルクの値を、車軸要求トルクとして設定する。
【0046】
ここで、エンジン2と変速機構25との間にクラッチ26を備えるハイブリッド車両1においては、シフト位置がDレンジで車両の速度が停車状態から微速走行状態の間でありアクセル操作およびブレーキ操作の両方がされていない場合、クラッチ26を半係合状態(いわゆる半クラッチ状態)にすることで、トルクコンバータを備える車両におけるクリープトルクに相当するトルク(本実施例でもクリープトルクという)を発生し、クリープトルクによる微速走行(以下、クリープ走行ともいう)を実現している。
【0047】
クリープ走行時は、エンジン2のエンジントルクは、半係合状態のクラッチ26を介して駆動輪5に伝達される。詳しくは、エンジン2が発生したエンジントルクのうち、半係合状態のクラッチ26の係合度に応じた値のトルクであるクラッチ伝達トルクが、クラッチ26から変速機構25に伝達される。したがって、クラッチ26の半係合時は、クラッチ26を介してエンジン2から変速機構25に伝達されドライブシャフト23に至るクラッチ伝達トルクと、ドライブシャフト23に至るモータトルクとの和が車軸要求トルクと等しくなるように、エンジン2、クラッチ26およびモータジェネレータ4が制御される。なお、アクセル操作およびブレーキ操作の両方がされていない場合におけるドライバ要求トルクとしてのクリープトルク(車軸要求トルク)の値は、ハイブリッド車両1を微速走行可能なトルクに設定される。
【0048】
クリープ走行時は、半係合状態のクラッチ26が滑りによる摩擦で発熱し、長時間に及ぶとクラッチ26が高温状態になることがあり得る。クラッチ26が過熱状態になると、クラッチ26の耐久性が低下してしまう。クラッチ26の高温状態を解消するためには、クラッチ26を解放してモータトルクのみによりハイブリッド車両1を走行させることが考えられるが、この場合、モータトルクだけでは要求トルクを満足できずにドライバビリティを維持できないことがあり得る。したがって、クリープ走行によりクラッチ26が高温状態となった場合も、モータトルクだけでなくエンジントルクも用いることが好ましい。
【0049】
そこで、本実施例では、HCU10は、クラッチ26が半係合状態かつ高温状態の場合、ドライバのドライバ要求トルクの値を、駆動輪5に要求される車軸要求トルクとして設定する。そして、HCU10は、エンジン2からクラッチ26を介して変速機構25に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するようにエンジントルクを低下させ、かつ、クラッチ伝達トルクからの車軸トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクによる車軸トルクを増加させる。
【0050】
ここで、クラッチ伝達トルクは、エンジントルクを低下させた場合だけでなく、クラッチ26の係合度を低くした場合にも低下するが、本実施例では、クラッチ26の係合度を維持し、エンジントルクを低下させることによりクラッチ伝達トルクを低下させ、その結果としてクラッチ26の発熱を抑制して高温状態を解消するようになっている。なお、エンジントルクを低下させることと併用してクラッチ26の係合度を低くすることによりクラッチ伝達トルクを低下させるようにしてもよい。
【0051】
また、モータトルクの最大値は第2蓄電装置33(高電圧バッテリ)の充電状態等により制限される。この場合もモータトルクだけでは要求トルクを満足できずにドライバビリティを維持できないことになるので、クラッチ26が高温状態となった場合にモータトルクだけでなくエンジントルクも用いるが、本実施例では、HCU10は、車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させることができない場合、ドライバ要求トルクに対するモータトルクの不足分がクラッチ伝達トルクにより補われるようにエンジントルクを増加させる。
【0052】
また、本実施例では、HCU10は、クラッチ26を係合してもエンジン2がエンジンストールしない車速まで加速可能なトルクの値を、車軸要求トルクとして設定してもよい。つまり、車軸要求トルクの値を、アクセル操作およびブレーキ操作がされていない状況におけるクリープトルクとしてのドライバ要求トルクに代わって、エンジン2がエンジンストールを回避しつつクラッチ26を係合可能な車速まで加速可能なトルクの値に設定することができる。なお、エンジン2がエンジンストールしない車速とは、エンジン2がエンジンストールしない最低の回転速度で回転し、その回転速度が入力された変速機構25が最大減速比のギヤ段で出力するときのドライブシャフト23の回転速度による車両の走行速度である。
【0053】
本実施例に係る車両の制御装置による動作について、図2を参照して説明する。なお、以下に説明する動作は、予め設定された時間間隔で繰り返し実行される。
【0054】
HCU10は、クラッチ26が高温状態か否かを判断する(ステップS1)。ここでは、HCU10は、実測したクラッチ温度、またはクラッチ26のスリップ状態から推測したクラッチ温度を所定の温度閾値と比較し、閾値以上の場合にクラッチ26が高温状態であると判断する。なお、温度閾値との比較によらず、クラッチ26のスリップ状態に直接基づいてクラッチ26が高温状態か否かをHCU10が判断するようにしてもよい。
【0055】
HCU10は、ステップS1でクラッチ26が高温状態ではないと判断した場合、今回の動作を終了する。
【0056】
HCU10は、ステップS1でクラッチ26が高温状態であると判断した場合、クラッチ発熱量低減制御を開始する(ステップS2)。このクラッチ発熱量低減制御は、以下のステップS3からステップS7の処理からなり、クラッチ温度を低下させるために実行される。なお、ステップS3からステップS6の処理は、モータ要求トルクを算出する処理であり、ステップS7の処理は、エンジン要求トルクを算出する処理である。
【0057】
HCU10は、ステップS3において、クラッチ発熱用エンジン上限トルクを算出する。ここでは、HCU10は、クラッチ発熱用エンジン上限トルクを、クラッチ26の発熱量の目標値であるクラッチ目標発熱量と、クラッチ26のスリップ量とから算出する。クラッチ26のスリップ量は、エンジン回転数とクラッチ回転数との差回転である。
【0058】
次いで、HCU10は、クラッチ発熱用エンジン要求トルクを算出する(ステップS4)。ここでは、HCU10は、ドライバ要求トルクのうちエンジン2のエンジントルクにより満たすべき値であるエンジンドライバ要求トルクと、ステップS3で算出したクラッチ発熱用エンジン上限トルクと、の何れか小さい値を、クラッチ発熱用エンジン要求トルクとして算出する。
【0059】
次いで、HCU10は、クラッチ発熱用モータ期待トルクを算出する(ステップS5)。ここでは、HCU10は、ドライバ要求トルクから、ステップS4で算出したクラッチ発熱用エンジン要求トルクを減算した値を、クラッチ発熱用モータ期待トルクとして算出する。
【0060】
次いで、HCU10は、モータ要求トルクを算出する(ステップS6)。ここでは、HCU10は、ステップS5で算出したクラッチ発熱用モータ期待トルクと、バッテリ充電状態等に応じて出力可能なモータトルクの最大値であるモータ出力可能トルクと、の何れか小さい値を、モータ要求トルクとして算出する。このステップS6で算出されたモータ要求トルクの値は、クラッチ伝達トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすように増加された値となる。ここで、クラッチ伝達トルクの低下分を補うことには、クラッチ伝達トルクの低下分を相殺することが含まれる。
【0061】
次いで、HCU10は、エンジン要求トルクを算出する(ステップS7)。ここでは、HCU10は、ドライバがハイブリッド車両1に要求する車両ドライバ要求トルクから、ステップS6で算出したモータ要求トルクを減算した値を、エンジン要求トルクとして算出する。このステップS7で算出されたエンジン要求トルクの値は、エンジン2からクラッチ26を介して変速機構25に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するように低下された値となる。
【0062】
次いで、HCU10は、クラッチ温度が低下したか否かを判断する(ステップS8)。ここでは、HCU10は、実測したクラッチ温度、またはクラッチ26のスリップ状態から推測したクラッチ温度に基づいて、クラッチ温度が低下したか否かを判断する。このステップS8で用いる閾値は、ステップS1で用いる温度閾値と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
HCU10は、ステップS8でクラッチ温度が低下していないと判断した場合、ステップS3に戻る。これにより、クラッチ発熱量低減制御を構成するステップS3からステップS7が再び実行される。
【0064】
HCU10は、ステップS8でクラッチ温度が低下していると判断した場合、クラッチ発熱量低減制御を終了し(ステップS9)、今回の動作を終了する。
【0065】
本実施例に係るハイブリッド車両1の車両状態の推移について、図3を参照して説明する。図3は、ドライバのアクセル操作およびブレーキ操作のない状態で半係合状態のクラッチ26の伝達トルク(クリープトルク)によりハイブリッド車両1が走行するときの車両状態の推移を表している。図3において、横軸は時間を表し、縦軸は、クラッチ26の温度状態、車軸要求トルク、エンジン回転数、クラッチ回転数を表している。車軸要求トルクに関しては、トルクの分配を示しており、破線で示す境界線の下側の領域はクラッチ伝達トルクが負担する車軸トルクを示し、境界線の上側の領域はモータトルクが負担する車軸トルクを示している。
【0066】
時刻t0において、ブレーキペダルが踏まれており、アクセルペダルは踏み込まれていない。このため、車軸要求トルクは0であり、アイドリングストップ制御によりエンジン回転数は0である。また、クラッチ26が解放されているため、クラッチ回転数は0である。
【0067】
その後、時刻t1において、ブレーキペダルが解放されたことで、車軸要求トルクはクリープトルクに相当するトルクまで上昇を始める。また、アイドリングストップ制御によりエンジン2が再始動してエンジン回転数が上昇し、クラッチ26が半係合にされることでトルクの伝達が始まりクラッチ回転数(変速機構25の入力軸の回転数)が上昇する。また、モータもトルクを車軸に伝え始める。
【0068】
その後、時刻t2において、車軸要求トルクが一定となり、エンジン回転数が一定となる。クラッチ伝達トルクとモータトルクにて車軸要求トルクが達成され、その後、徐々にモータトルクが負担する車軸トルクが減少しクラッチ伝達トルクが増える。時刻t3において、モータトルクが使用されなくなり、全てクラッチ伝達トルクになってクラッチ回転数が一定となる。この状態では、半係合状態のクラッチ26の滑りによってクラッチ伝達トルクが生成されている。また、クラッチ伝達トルクのみによって車軸要求トルクが満たされている。
【0069】
その後、時刻t4において、半係合状態のクラッチ26が発熱により高温状態となったため、エンジントルクの低下によりクラッチ伝達トルクが低下され始める。また、クラッチ伝達トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクが増加され始める。
【0070】
その後、時刻t5において、クラッチ発熱用のクラッチ伝達トルクとモータトルクに達し、低下後のクラッチ伝達トルクが維持されるとともに増加後のモータトルクが維持され車軸要求トルクが満たされている。
【0071】
本実施例に係るハイブリッド車両1におけるトルク配分の手法について、図4を参照して説明する。図4において、横軸は時間を表し、縦軸は、車軸要求トルク、クラッチ伝達トルク、モータトルクを表している。
【0072】
時刻t11において、ドライバによりアクセル操作が行われクラッチ伝達トルクが増加を始める。時刻t12において、半係合状態のクラッチ26が発熱により高温状態となっているため、HCU10によりエンジントルクが低下されておりクラッチ伝達トルクが制限値に達する。そして、それ以降ではクラッチ伝達トルクで足りない分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクが増加され始める。その後、時刻t13において、ドライバのアクセル操作量が一定になったことで、車軸要求トルク、モータトルクおよびクラッチ伝達トルクが一定になる。
【0073】
時刻t14において、ドライバによりアクセルの更なる踏み込み操作がなされ、車軸要求トルクの増加に応じて、モータトルクが増加され始める。しかし、時刻t15において、現在の状況下で発生できるモータトルクの上限値に達してしまう。
【0074】
このため、時刻t15において、現在行っているクラッチ26の発熱を抑制する制限状況を解除してクラッチ伝達トルクを増加させる。
【0075】
時刻t16にて、ドライバの操作によって車軸要求トルクが低下し始める。この時、モータトルクよりも先にクラッチ伝達トルクを低下させる。
【0076】
時刻t17にて、制限されたクラッチ伝達トルクとモータトルクで車軸要求トルクを満たすことができるようになり、それ以降はクラッチ伝達トルクよりも先にモータトルクが低下させられていく。時刻t18にて、制限されたクラッチ伝達トルクのみで車軸要求トルクを満たすことができるようになる。
【0077】
このように、ドライバによりアクセル操作が行われている場合、ドライバ要求トルクおよび車軸要求トルクは、図3で示したようなクリープトルクより大きくなることがある。この場合、モータジェネレータ4は、モータトルクを増加させクラッチ伝達トルクで足りない分を補って車軸要求トルクを満たすように制御される。しかし、バッテリ充電状態等の制限により、車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させることができない状況が発生する。
【0078】
そこで、HCU10は、クラッチ伝達トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させる際にモータトルクが上限値(出力可能な最大値)に達した場合、不足するトルクを補うように制限を解除してエンジントルクを増加させ、クラッチ伝達トルクを増加させる。
【0079】
以上のように、本実施例において、HCU10は、クラッチ26が半係合状態かつ高温状態の場合、ドライバのドライバ要求トルクの値を、駆動輪5に要求される車軸要求トルクとして設定する。そして、HCU10は、エンジン2からクラッチ26を介して変速機構25に伝達されるクラッチ伝達トルクが低下するようにエンジントルクを低下させ、かつ、クラッチ伝達トルクの低下分を補って車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させる。
【0080】
これにより、クリープトルクによる微速走行時等において、半係合状態のクラッチ26が滑りにより高温状態になった場合、クラッチ伝達トルクを低下させることでクラッチ26の発熱を抑制できるので、クラッチ26の温度を低下させてクラッチ26の負荷を軽減することができ、クラッチ26の耐久性を向上させることができる。また、低下したクラッチ伝達トルクを補ってドライバ要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させることで、ドライバビリティを確保することができる。
【0081】
この結果、ドライバビリティを損なうことなく、クラッチ26の発熱を抑制でき、クラッチ26の耐久性を向上させることができる。
【0082】
また、本実施例において、HCU10は、車軸要求トルクを満たすようにモータトルクを増加させることができない場合、ドライバ要求トルクに対するモータトルクの不足分がクラッチ伝達トルクにより補われるようにエンジントルクを増加させる。
【0083】
これにより、エンジントルクの増加後も、車軸要求トルクの一部がモータトルクによって満たされるので、クラッチ伝達トルクを当初より減少させることができる。このため、クラッチ26の負荷を軽減しつつ、ドライバ要求トルクを満たすことができ、ドライバビリティを確保することができる。
【0084】
また、本実施例において、HCU10は、クラッチ26を係合してもエンジン2がエンジンストールしない車速まで加速可能なトルクの値を、車軸要求トルクとして設定する。
【0085】
これにより、クラッチ26を係合してもエンジン2がエンジンストールしない車速までモータトルクによって車両を加速させることができるので、車両の加速後は、エンジンストールおよびクラッチ26の滑りが発生しない状態でクラッチ26を係合することが可能となり、エンジンストールを回避しつつ、クラッチ26の負荷を軽減することができる。
【0086】
また、本実施例において、車軸要求トルクは、アクセル操作およびブレーキ操作がされていない状況におけるクリープトルクとすることができる。
【0087】
これにより、クリープトルクによる微速走行時にクラッチ26が高温状態になった場合に、クラッチ26の発熱を抑制でき、クラッチ26の耐久性を向上させることができる。
【0088】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0089】
1 ハイブリッド車両(車両)
2 エンジン
4 モータジェネレータ(モータ)
10 HCU(制御部)
25 変速機構
26 クラッチ
図1
図2
図3
図4